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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-20
(45)【発行日】2024-06-28
(54)【発明の名称】亜鉛電池電解質添加剤
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/26 20060101AFI20240621BHJP
   H01M 12/08 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
H01M10/26
H01M12/08 K
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022542140
(86)(22)【出願日】2020-07-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-12
(86)【国際出願番号】 US2020042557
(87)【国際公開番号】W WO2021150267
(87)【国際公開日】2021-07-29
【審査請求日】2022-08-09
(31)【優先権主張番号】16/752,170
(32)【優先日】2020-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】522273115
【氏名又は名称】ボルトン オナス
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【弁理士】
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】ボルトン オナス
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-206180(JP,A)
【文献】特開昭50-091728(JP,A)
【文献】特開2019-160669(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-50/77
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛電池セルであって、
電解質を介して亜鉛アノードと電気的に連通するカソードと、
有効量の電解質添加剤であって、
【化1】
を含み、前記式中、
N/Pは、+1の電荷を有する中心窒素原子又は中心リン原子であり、
、4-メチレン-トルエン、3-メチレン-トルエン、2-メチレン-トルエン、4-メチレン-クロロベンゼン、3-メチレン-クロロベンゼン、4-メチレン-ブロモベンゼン、3-メチレン-ブロモベンゼン、2-メチレン-ブロモベンゼン、4-メチレン-ヨードベンゼン、3-メチレン-ヨードベンゼン、2-メチレン-ヨードベンゼン、4-メチレン-シアノベンゼン、3-メチレン-シアノベンゼン、2-メチレン-シアノベンゼン、4-メチレン-アニソール、3-メチレン-アニソール、2-メチレン-アニソール、1-メチレン-2,4-ジメチルベンゼン、1-メチレン-3,4-ジメチルベンゼン、1-メチレン-2,5-ジメチルベンゼン、1-メチレン-3,5-ジメチルベンゼン、1-メチレン-2,4,6-トリメチルベンゼン,1-メチレン-3,4,5-トリメトキシベンゼン、4-メチレン-ニトロベンゼン、4-メチレン-安息香酸、3-メチレン-安息香酸、2-メチレン-安息香酸、2-メチレン-フェノール、3-メチレン-フェノール、及び4-メチレン-フェノールからなる群から選択され、
、R、及びRは、独立に、R、又はC1~C25の直鎖若しくは非直鎖のアルキル基から選択されるが、ただしR、R、及びRのうちの少なくとも1つはC1ではない電解質添加剤と
を含む亜鉛電池セル。
【請求項2】
前記電解質添加剤が、0.01重量%~25.0重量%の濃度で存在する請求項1に記載の亜鉛電池セル。
【請求項3】
前記電解質添加剤が、亜鉛デンドライト形成及び水素発生を抑制するのに有効な濃度で存在する請求項1に記載の亜鉛電池セル。
【請求項4】
対アニオンが、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、フッ化物イオン、水酸化物イオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン、硫酸イオン、亜硫酸イオン、リン酸イオン、過塩素酸イオン、又はこれらの任意の組み合わせから選択される請求項1に記載の亜鉛電池。
【請求項5】
前記カソードが炭素又は空気である請求項1に記載の亜鉛電池。
【請求項6】
、R、及びRが、独立に、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-オクチル、n-デシル、n-ドデシル、n-テトラデシル、n-ヘキサデシル、及びn-オクタデシルから選択されるが、ただしR、R、及びRのうちの少なくとも1つはメチルではない請求項1に記載の亜鉛電池。
【請求項7】
亜鉛電池セル用組成物であって、
【化2】
を含み、前記式中、
N/Pは、+1の電荷を有する中心窒素原子又は中心リン原子であり、
は、3-メチレン-トルエン、2-メチレン-トルエン、3-メチレン-クロロベンゼン、4-メチレン-ブロモベンゼン、3-メチレン-ブロモベンゼン、2-メチレン-ブロモベンゼン、4-メチレン-シアノベンゼン、3-メチレン-シアノベンゼン、2-メチレン-シアノベンゼン、1-メチレン-2,4-ジメチルベンゼン、1-メチレン-3,4-ジメチルベンゼン、1-メチレン-2,5-ジメチルベンゼン、1-メチレン-3,5-ジメチルベンゼン、4-メチレン-安息香酸、3-メチレン-安息香酸、2-メチレン-安息香酸、2-メチレン-フェノール、3-メチレン-フェノール、及び4-メチレン-フェノールからなる群から選択され、
[An]-は対アニオンである
亜鉛電池セル用組成物。
【請求項8】
前記対アニオンが、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、フッ化物イオン、水酸化物イオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン、硫酸イオン、亜硫酸イオン、リン酸イオン、過塩素酸イオン、又はこれらの任意の組み合わせから選択される請求項7に記載の亜鉛電池セル用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、National Science Foundation(米国国立科学財団)によって授与された契約番号NSF 1746210の下で政府支援により行われた。政府は本発明に一定の権利を有する。
【0002】
発明の分野
本発明は、全体として、亜鉛電池電解質のための化学添加剤に関する。
【背景技術】
【0003】
アノード材料として亜鉛を利用する電池は、それらの魅力的なコスト及び安全性にもかかわらず、この金属に固有のいくつかの問題に悩まされている。これらには、1)再充電中のデンドライト(樹枝状結晶)の形成、及び2)亜鉛表面で反応する電解質からの水素ガスの発生等の寄生副反応がある。これらの問題は、亜鉛電池の特定の市場への浸透を制限することと、そうでなければ亜鉛空気電池等の有望な亜鉛電池化学物質の出現を妨げることの両方に寄与している。デンドライト形成は、電池効率を低下させ、セル故障につながりうる。水素発生は、自己放電による貯蔵寿命の低下及び圧力上昇による機械的損傷を引き起こす可能性がある。
【0004】
デンドライト形成及び水素発生を抑制するために添加剤を使用することが公知である。しかしながら、デンドライト形成及び水素発生を抑制するために有効な公知の添加剤はほとんどない。さらに、公知の添加剤は、セル効率の低下等の特定の負の特性を示す。本発明のいくつかの実施形態は、従来技術を上回る1つ以上の利益又は利点を提供しうる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態は、亜鉛電池におけるデンドライト形成及び水素発生を部分的又は完全に抑制するための電解質添加剤に関してもよい。実施形態は、その添加剤を組み込む亜鉛電気化学電池セルを含む。実施形態はまた、第四級のアンモニウム塩又はホスホニウム塩を含む電解質添加剤化学組成物を含む。
【0006】
本明細書で使用する場合、「一実施形態」、「実施形態」、「いくつかの実施形態」、「他の実施形態」等の用語は、互いに排他的ではない。反対の明示的な記述がある場合を除いて、本明細書に開示される様々な実施形態の特徴及び要素のすべての説明は、それらのすべての動作可能な組合せで組み合わされてもよい。
【0007】
プロセス工程を説明するために本明細書で使用される語句は、動作の順序を示唆する「その後(then)」等の単語を含んでもよい。しかしながら、当業者は、そのような用語の使用がしばしば便宜の問題であり、記載されるプロセスを工程の特定の順序に必ずしも限定しないことを理解するであろう。
【0008】
接続語及び接続語の組み合わせ(例えば、「及び(並びに)/又は(若しくは)」)は、実施形態の要素及び特徴を列挙するときに本明細書で使用される。しかしながら、反対のことが具体的に述べられない限り、又は文脈によって必要とされない限り、「及び(並びに)」、「又は(若しくは)」、及び「及び(並びに)/又は(若しくは)」は交換可能であり、必ずしもリストのすべての要素を必要とするわけではないし、又はリストの1つの要素のみを、他を除外して必要とするわけでもない。
【0009】
程度の用語、近似の用語、及び/又は主観的用語が、本発明の特定の特徴又は要素を説明するために本明細書で使用されてもよい。それぞれの場合において、米国特許法第112条の記載要件及び明確性要件に従って当業者に知らせるのに充分な開示が提供される。
【0010】
本明細書では、「有効量」という用語は、記載された試験条件下で、又は条件が記載されていない場合には4M 水酸化カリウム、0.1M 酸化亜鉛、及び水の中で、Hg/HgO参照電極に対して-1.6Vで1500秒間のもとで、測定可能及び/又は視覚的に知覚可能な量だけデンドライト形成及び水素発生を低減する、液体電解質中に溶解した電解質添加剤の量を示すために使用される。しかしながら、これは、本発明を記載された試験条件に限定することを意図するものではない。当業者であれば、例えば、多種多様な電解質及び電解質の濃度が、所与の用途に適切である又は望ましい場合があることを容易に理解するであろう。公知の電解質から選択することは、充分に当該技術分野の技術の範囲内である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
本発明は、特定の部分及び部分の配置において物理的形態をとってもよく、その実施形態は、本明細書において詳細に説明され、本明細書の一部を形成する添付の図面に示される。図面では、同様の参照番号は同様の構造を示す。
【0012】
図1図1は、1500秒間セルを動作させた後の、添加剤を含有しない対照セルにおける電着亜鉛の写真である。
図2図2は、1500秒間セルを動作させた後の、1.0重量%の水酸化ベンジルトリメチルアンモニウムを含有するセルにおける電着亜鉛の写真である。
図3図3は、1500秒間セルを動作させた後の、1.0重量%の塩化ベンジルトリブチルアンモニウムを含有するセルにおける電着亜鉛の写真である。
図4図4は、1500秒間セルを動作させた後の、1.0重量%の塩化ジベンジルジメチルアンモニウムを含有するセルにおける電着亜鉛の写真である。
図5図5は、1500秒間セルを動作させた後の、0.01重量%の塩化ジベンジルジメチルアンモニウムを含有するセルにおける電着亜鉛の写真である。
図6図6は、1500秒間セルを動作させた後の、0.1重量%の塩化ジベンジルジメチルアンモニウムを含有するセルにおける電着亜鉛の写真である。
図7図7は、DO中の塩化1-(トリメチルアンモニウムメチル)ナフタレンについてのH NMRデータであり、1500秒間セルを動作させた後の、1.0重量%の塩化1-(トリメチルアンモニウムメチル)ナフタレンを含有するセルにおける電着亜鉛の挿入写真を伴っている。
図8図8は、DO中の塩化4-(トリメチルアンモニウムメチル)ベンゾニトリルについてのH NMRデータであり、1500秒間セルを動作させた後の、1.0重量%の塩化4-(トリメチルアンモニウムメチル)ベンゾニトリルを含有するセルにおける電着亜鉛の挿入写真を伴っている。
図9図9は、1500秒間セルを動作させた後の、1.0重量%の塩化4-(トリメチルアンモニウムメチル)アニソールを含有するセルにおける電着亜鉛の写真である。
図10図10は、1500秒間セルを動作させた後の、0.5重量%の塩化4-(トリメチルアンモニウムメチル)アニソールを含有するセルにおける電着亜鉛の写真である。
図11図11は、1500秒間セルを動作させた後の0.1重量%の塩化4-(トリメチルアンモニウムメチル)アニソールを含有するセルにおける電着亜鉛の写真である。
図12図12は、1500秒間セルを動作させた後の、1.0重量%の4-(トリメチルアンモニウムメチル)-1,2,6-トリメトキシベンゼンを含有するセルにおける電着亜鉛の写真である。
図13図13は、1500秒間セルを動作させた後の、1.0重量%の塩化(4-メチルベンジル)トリメチルアンモニウムを含有するセルにおける電着亜鉛の写真である。
図14図14は、DO中の塩化(2-メチルベンジル)トリメチルアンモニウムについてのH NMRデータであり、1500秒間セルを動作させた後の、1.0重量%の塩化(2-メチルベンジル)トリメチルアンモニウムを含有するセルにおける電着亜鉛の挿入写真を伴っている。
図15図15は、1500秒間セルを動作させた後の、1.0重量%の塩化(4-クロロベンジル)トリメチルアンモニウムを含有するセルにおける電着亜鉛の写真である。
図16図16は、DO中の塩化(2-クロロベンジル)トリメチルアンモニウムについてのH NMRデータであり、1500秒間セルを動作させた後の、1.0重量%の塩化(2-クロロベンジル)トリメチルアンモニウムを含有するセルにおける電着亜鉛の挿入写真を伴っている。
図17図17は、DO中の臭化(4-ブロモベンジル)トリメチルアンモニウムについてのH NMRデータであり、1500秒間セルを動作させた後の、1.0重量%の臭化(4-ブロモベンジル)トリメチルアンモニウムを含有するセルにおける電着亜鉛の挿入写真を伴っている。
図18図18は、DO中の塩化ベンジルトリメチルホスホニウムについてのH NMRデータであり、1500秒間セルを動作させた後の、1.0重量%の塩化ベンジルトリメチルホスホニウムを含有するセルにおける電着亜鉛の挿入写真を伴っている。
図19図19は、1500秒間セルを動作させた後の、1.0重量%のヨウ化(2-ヒドロキシベンジル)トリメチルアンモニウムを含有するセルにおける電着亜鉛の写真である。
図20図20は、DO中の塩化(3-メチルベンジル)トリメチルアンモニウムについてのH NMRデータであり、1500秒間セルを動作させた後の、1.0重量%の塩化(3-メチルベンジル)トリメチルアンモニウムを含有するセルにおける電着亜鉛の挿入写真を伴っている。
図21図21は、DO中の臭化4-(トリメチルアンモニウム)安息香酸についてのH NMRデータであり、1500秒間セルを動作させた後の、1.0重量%の臭化4-(トリメチルアンモニウムメチル)安息香酸を含有するセルにおける電着亜鉛の挿入写真を伴っている。
図22図22は、1500秒間セルを動作させた後の、1.0重量%の塩化3-(トリメチルアンモニウムメチル)アニソールを含有するセルにおける電着亜鉛の写真である。
図23図23は、1500秒間セルを動作させた後の、1.0重量%の塩化ベンザルコニウムを含有するセルにおける電着亜鉛の写真である。
図24図24は、DO中の塩化(2,6-ジメチルベンジル)トリメチルアンモニウムについてのH NMRデータであり、1.0重量%の(2,6-ジメチルベンジル)トリメチルアンモニウムを含有するセルにおける電着亜鉛の挿入写真を伴っている。
図25図25は、1500秒間セルを動作させた後の、25重量%の塩化ベンジルトリメチルアンモニウムを含有するセルにおける電着亜鉛の写真である。
図26図26は、DO中の塩化(2,6-ジクロロベンジル)トリメチルアンモニウムについてのH NMRデータである。
図27図27は、DO中の塩化(3,4-ジメチルベンジル)トリメチルアンモニウムについてのH NMRデータであり、1500秒間セルを動作させた後の、1.0重量%の塩化(3,4-ジメチルベンジル)トリメチルアンモニウムを含有するセルにおける電着亜鉛の挿入写真を伴っている。
図28図28は、DO中のヨウ化(4-ヒドロキシベンジル)トリメチルアンモニウムについてのH NMRデータである。
図29図29は、1500秒間セルを動作させた後の、15重量%の塩化4-(トリメチルアンモニウムメチル)アニソールを含有するセルにおける電着亜鉛の写真である。
図30図30は、1500秒間セルを動作させた後の、15重量%の塩化(4-メチルベンジル)トリメチルアンモニウムを含有するセルにおける電着亜鉛の写真である。
図31図31は、1500秒間セルを動作させた後の、0.1重量%の塩化(4-メチルベンジル)トリメチルアンモニウムを含有するセルにおける電着亜鉛の写真である。
図32図32は、本発明の1つ以上の実施形態に係る一般的な亜鉛系電池の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態は、セル効率を妨げることなく、デンドライト形成を選択的に防止することと水素発生副反応を防止することの両方によって亜鉛電池性能を改善する有機電解質添加剤を含む。実施形態は、種々の直鎖状及び/又は環状の有機基で置換された第四級窒素化合物及び/又は第四級リン化合物を含んでもよい。
【0014】
式Iは、本明細書において「N/P」又は「N/P中心」として表される、+1の電荷を有する中心窒素原子又は中心リン原子を含む本発明の実施形態を示す。このN/P中心は、4つのR基R、R、R、及びRに結合している。式Iに示される構造は、異性体又は立体化学構造を図示することを意図しておらず、むしろ、同じ原子間連結性を有するすべての異性体を包含することを意図している。
【化1】
【0015】
は、以下の基から選択され、以下の基において、「イル(…チル)」又は「メチレン」は、N/P中心との結合に利用可能なラジカル電子の位置を指す:メチルベンゼン、4-メチレン-トルエン、3-メチレン-トルエン、2-メチレン-トルエン、4-メチレン-クロロベンゼン、3-メチレン-クロロベンゼン、2-メチレン-クロロベンゼン、4-メチレン-ブロモベンゼン、3-メチレン-ブロモベンゼン、2-メチレン-ブロモベンゼン、4-メチレン-ヨードベンゼン、3-メチレン-ヨードベンゼン、2-メチレン-ヨードベンゼン、4-メチレン-シアノベンゼン、3-メチレン-シアノベンゼン、2-メチレン-シアノベンゼン、4-メチレン-アニソール、3-メチレン-アニソール、2-メチレン-アニソール、1-メチルナフタレン、1-メチレン-2,6-ジメチルベンゼン、1-メチレン-2,4-ジメチルベンゼン、1-メチレン-3,4-ジメチルベンゼン、1-メチレン-2,5-ジメチルベンゼン、1-メチレン-3,5-ジメチルベンゼン、1-メチレン-2,4,6-トリメチルベンゼン,1-メチレン-3,4,5-トリメトキシベンゼン、1-メチレン-2,6-ジクロロベンゼン、4-メチレン-ニトロベンゼン、4-メチレン-安息香酸、3-メチレン-安息香酸、2-メチレン-安息香酸、2-メチレン-フェノール、3-メチレン-フェノール、及び4-メチレン-フェノール。
【0016】
引き続き式Iを参照すると、基R、R、及びRは、独立に、R、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-オクチル、n-デシル、n-ドデシル、n-テトラデシル、n-ヘキサデシル、又はn-オクタデシルから選択されてもよい。基R、R、及びRは、独立に、C1~C25の直鎖及び非直鎖のアルキルから選択されてもよい。
【0017】
式Iに従う実施形態は、中性種を生成するのに充分な量の対アニオン[An]を含んでもよい。アニオン[An]は、例えば、限定されないが、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、フッ化物イオン、水酸化物イオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン、硫酸イオン、亜硫酸イオン、リン酸イオン、過塩素酸イオン、又はこれらの任意の組み合わせであってもよい。当業者は、このアニオンが本発明の電解質添加剤の性能にほとんど又は全く影響を及ぼさないことを容易に理解するであろう。従って、多種多様なアニオンが本発明の範囲内にあり、上述のリストは単なる例示を意味する。
【0018】
ここで図面を参照すると、これらの図は、本発明の実施形態を説明するためだけのものであり、本発明を限定するものではないが、図1は、4M KOH、0.1M ZnO、及び水を使用し、デンドライト成長を抑制する添加剤を含まない場合のデンドライト成長を示す写真である。めっきは、Hg/HgO参照電極に対して-1.6Vで1500秒間行った。図1は、1500秒後のデンドライト成長を示す。これは、この後の試験においてデンドライト抑制添加剤が比較される対照としての役割を果たす。各実験運転は、対照運転と同じ条件下で、すなわち、4M KOH電解質、0.1M ZnO、及び水の中で、Hg/HgO参照電極に対して-1.6Vで1500秒間実施される。結果を表Iに要約する。
【0019】
図1に示される対照結果に関しては、顕著なデンドライトの成長が明らかに見られる。対照は急速に水素を発生するが、気泡は表面全体にわたって非常に急速に生成し、デンドライトに付着しない。従って、図1では、水素気泡が見えてもごくわずかである。対照的に、図2~18はすべてある程度の水素発生の抑制を示し、場合によっては、完全な水素抑制又は部分的な水素抑制である。水素抑制が完全である場合、めっき亜鉛表面上に気泡は生成せず、従って、関連する図は水素気泡を示さない。しかしながら、水素発生が部分的に抑制される場合は、めっきされた亜鉛に付着している、ゆっくりと生成する大きい水素気泡が関連する図において見られる。
【0020】
【表1(1)】
【表1(2)】
【表1(3)】
【表1(4)】
【表1(5)】
【表1(6)】
【実施例
【0021】
塩化ジベンジルジメチルアンモニウム(DBDMAC)の調製及び性能
N,N-ジメチルベンジルアミン(2g、14.8mmol)を10mLのアセトニトリルに希釈し、空気下で撹拌する。塩化ベンジル(2.06g、1.87mL、16.3mmol)を一度に加え、反応物を78℃に加熱して3時間還流する。この溶液を減圧下で濃縮して、無色の高粘性油状物を得る。所望の生成物をアセトンから再結晶させる。白色/無色の結晶固体3.50gを回収し(収率90.4%)、その構造をH NMRによって確認する。この添加剤のデンドライト抑制効果を図4~6に示す。完全なデンドライト抑制は1重量%及び0.1重量%で起こり、部分的な抑制は0.01重量%で観察される。水素発生は、1重量%及び0.1重量%で部分的に抑制される。0.01重量%では水素抑制は観察されない。
【0022】
塩化1-(トリメチルアンモニウムメチル)ナフタレンの調製及び性能
100mLフラスコに、テトラヒドロフラン中のトリメチルアミンの13%溶液10mL(1.16g、19.7mmol)を加える。この溶液を空気下、室温で撹拌する。1-(クロロメチル)ナフタレン(3.80g、3.22mL、21.5mmol)を4回に分けて素早く添加し、反応物を60℃に3時間加熱する。次いで、反応物を室温まで冷却し、白色沈殿物を吸引濾過によって回収し、追加のテトラヒドロフランで洗浄する。約3.10gの白色綿毛状粉末を回収し(収率67%)、所望の生成物構造をH NMRによって確認する。この添加剤の部分デンドライト抑制効果を図7に示す。塩化1-(トリメチルアンモニウムメチル)ナフタレンは、水素発生を抑制するのではなく、促進する。
【0023】
塩化4-(トリメチルアンモニウムメチル)ベンゾニトリルの調製及び性能
100mLフラスコに、テトラヒドロフラン中のトリメチルアミンの13%溶液10mL(1.16g、19.7mmol)を加える。この溶液を空気下、室温で撹拌する。4-(クロロメチル)ベンゾニトリル(2.70g、17.8mmol)を少しずつ素早く加え、反応物を60℃に2時間加熱する。次いで、反応物を室温まで冷却し、白色沈殿物を吸引濾過によって回収し、追加のテトラヒドロフランで洗浄する。約2.80gの白色綿毛状粉末を回収し(収率75%)、所望の生成物構造をH NMRによって確認する。この添加剤の部分的なデンドライト抑制効果を図8に示す。この添加剤は水素発生を強く抑制する。
【0024】
塩化4-(トリメチルアンモニウムメチル)アニソールの調製及び性能
100mLフラスコに、テトラヒドロフラン中のトリメチルアミンの13%溶液20mL(2.32g、39.4mmol)を添加し、これを空気下、室温で撹拌する。塩化(4-メトキシベンジル)(5.59g、4.84mL、35.7mmol)を少しずつ素早く加え、反応物を60℃に3時間加熱する。次いで、反応物を室温まで冷却し、白色沈殿物を吸引濾過によって回収し、追加のテトラヒドロフランで洗浄する。約7.08gの白色綿毛状粉末を回収し(収率92%)、所望の生成物構造をH NMRによって確認する。この添加剤のデンドライト抑制効果を図9~11に示す。デンドライト抑制は、1重量%及び0.5重量%において試験条件下で完全であり、0.1重量%で部分的である。水素発生は、1.0重量%で完全に抑制され、0.5重量%及び0.01重量%で部分的に抑制される。
【0025】
類似の方法を用いて、塩化3-(トリメチルアンモニウムメチル)アニソール及び類似の4-(トリメチルアンモニウムメチル)-1,2,6-トリメトキシベンゼンを合成する。図12は、4-(トリメチルアンモニウムメチル)-1,2,6-トリメトキシベンゼンが1.0重量%の試験条件下でデンドライト形成を完全に抑制し、水素発生を部分的に抑制することを示す。図22は、塩化3-(トリメチルアンモニウムメチル)アニソールが水素発生及びデンドライト形成を完全に抑制することを示す。
【0026】
塩化(4-メチルベンジル)トリメチルアンモニウムの調製及び性能
100mLフラスコに、テトラヒドロフラン中のトリメチルアミンの13%溶液10mL(1.16g、19.7mmol)を加える。この溶液を空気下、室温で撹拌する。塩化4-メチルベンジル(2.75g、2.6ml、19.5mmol)を少しずつ素早く加え、反応物を60℃に3時間加熱する。次いで、反応物を室温まで冷却し、白色沈殿物を吸引濾過によって回収し、追加のテトラヒドロフランで洗浄する。約2.92gの白色綿毛状粉末を回収し(収率75%)、所望の生成物構造をH NMRによって確認する。図13は、1重量%の塩化(4-メチルベンジル)トリメチルアンモニウムが試験条件下でデンドライト形成を完全に抑制し、水素発生を部分的に抑制することを示す。図30は、15重量%の塩化(4-メチルベンジル)トリメチルアンモニウムが、試験条件下でデンドライト形成及び水素発生を完全に抑制することを示す。図31は、0.1重量%の塩化(4-メチルベンジル)トリメチルアンモニウムがデンドライト形成を部分的に抑制し、この添加剤のより高い試験濃度よりも水素発生を抑制する効果が低いことを示す。
【0027】
塩化(3,4-ジメチルベンジル)トリメチルアンモニウムの調製及び性能
100mLフラスコに、テトラヒドロフラン中のトリメチルアミンの13%溶液10.0mL(1.16g、19.6mmol)を加える。この溶液を空気下、室温で撹拌する。塩化3,4-ジメチルベンジル(2.75g、17.8mmol)を少しずつ素早く加え、反応物を60℃に4時間加熱する。次いで、反応物を室温まで冷却し、白色沈殿物を吸引濾過によって回収し、追加のテトラヒドロフランで洗浄する。約2.75gの白色綿毛状粉末を回収し(収率73%)、図27に示すように、所望の生成物構造をH NMRによって確認する。図27には、1.0重量%の塩化(3,4-ジメチルベンジル)トリメチルアンモニウムが、試験条件下で、デンドライト形成を完全に抑制し、水素発生を完全に抑制することを示す挿入写真も示されている。
【0028】
類似の方法を用いて、この生成物の他の異性体、すなわち塩化(2-メチルベンジル)トリメチルアンモニウム及び塩化(3-メチルベンジル)トリメチルアンモニウム、並びに塩化(2,4-ジメチルベンジル)トリメチルアンモニウム、塩化(2,5-ジメチルベンジル)トリメチルアンモニウム、塩化(2,6-ジメチルベンジル)トリメチルアンモニウム、塩化(3,5-ジメチルベンジル)トリメチルアンモニウム及び塩化(2,4,6-トリメチルベンジル)トリメチルアンモニウムを合成する。図14は、1重量%の塩化(2-メチルベンジル)トリメチルアンモニウムがデンドライト形成を完全に抑制し、水素発生を部分的に抑制することを示す。図20は、1重量%の塩化(3-メチルベンジル)トリメチルアンモニウムが、試験条件下で、デンドライト形成を部分的に抑制し、水素発生を部分的に抑制することを示す。
【0029】
塩化(4-クロロベンジル)トリメチルアンモニウムの調製及び性能
100mLフラスコに、テトラヒドロフラン中のトリメチルアミンの13%溶液10mL(1.16g、19.7mmol)を加える。この溶液を空気下、室温で撹拌する。塩化4-クロロベンジル(2.86g、17.8mmol)を少しずつ素早く加え、反応物を60℃に3時間加熱する。次いで、反応物を室温まで冷却し、白色沈殿物を吸引濾過によって回収し、追加のテトラヒドロフランで洗浄する。約3.17gの白色綿毛状粉末を回収し(収率82%)、所望の生成物構造をH NMRによって確認する。図15は、1重量%の塩化(4-クロロベンジル)トリメチルアンモニウムが、試験条件下で、デンドライト形成及び水素発生を部分的に抑制することを示す。
【0030】
類似の方法を用いて、塩化(2-クロロベンジル)トリメチルアンモニウム、塩化(3-クロロベンジル)トリメチルアンモニウム、臭化(2-ブロモベンジル)トリメチルアンモニウム、臭化(3-ブロモベンジル)トリメチルアンモニウム及び臭化(4-ブロモベンジル)トリメチルアンモニウムを合成し、後者の3つは塩化クロロベンジルの代わりに試薬臭化ブロモベンジルを使用する。同様に、塩化ヨードベンジルを類似の方法で使用して、塩化(2-ヨードベンジル)トリメチルアンモニウム、塩化(3-ブロモベンジル)トリメチルアンモニウム及び塩化(4-ヨードベンジル)トリメチルアンモニウムを生成する。図16は、塩化(2-クロロベンジル)トリメチルアンモニウムは試験条件下でデンドライト形成を抑制しないが、水素発生を部分的に抑制することを示す。図17は、1重量%の臭化(4-ブロモベンジル)トリメチルアンモニウムが試験条件下でデンドライト形成を完全に抑制し、水素発生を部分的に抑制することを示す。
【0031】
塩化ベンジルトリメチルホスホニウムの調製及び性能
100mLフラスコに、テトラヒドロフラン中のトリメチルホスフィンの1M溶液10mL(1.52g、20mL、20mmol)を加える。この溶液を窒素下、室温で撹拌する。塩化ベンジル(2.52g、2.3ml、20.0mmol)を少しずつ素早く加え、反応物を60℃に3時間加熱する。次いで、反応物を室温まで冷却し、白色沈殿物を短時間の吸引濾過によって回収する。約1.80gの白色綿毛状粉末を回収し(収率44%)、所望の生成物構造をH NMRによって確認する。図18は、1重量%の塩化ベンジルトリメチルホスホニウムが、試験条件下で、デンドライト形成を部分的に抑制するが、水素発生を抑制しないことを示す。
【0032】
ヨウ化(2-ヒドロキシベンジル)トリメチルアンモニウムの調製及び性能
100mLフラスコに、2-[(ジメチルアミノ)メチル]フェノール(2.45g、16.2mmol)及びテトラヒドロフラン(25mL)を加える。この透明な溶液を、空気下、磁気撹拌しながら氷浴により0℃に冷却する。この溶液に、ヨードメタン(3.45g、24.3mmol)を滴下する。20分間撹拌した後、氷浴を取り除き、反応を室温で3時間進行させると、高粘性油状物がフラスコの底に生成する。溶媒を減圧(Rotavap)により反応物から除去して、4.6g(収率94%)の橙色/褐色の非晶質固体の塊を得る。所望の生成物構造をH NMRによって確認する。図19は、1重量%のヨウ化(2-ヒドロキシベンジル)トリメチルアンモニウムが、試験条件下で、デンドライト形成を部分的に抑制し、水素発生を部分的に抑制することを示す。
【0033】
臭化4-(トリメチルアンモニウムメチル)安息香酸の調製
100mLフラスコに、テトラヒドロフラン中のトリメチルアミンの13%溶液8.0mL(0.92g、15.6mmol)を加え、30mLのアセトニトリルで希釈する。この溶液を空気下、室温で撹拌する。次いで、4-(ブロモメチル)安息香酸(3.36g、15.6mmol)を少しずつ素早く加え、反応物を80℃に3時間加熱する。次いで、反応物を室温まで冷却し、白色沈殿物を吸引濾過によって回収し、追加のテトラヒドロフランで洗浄する。約4.10gの白色固体を回収し(収率95.6%)、所望の生成物構造をH NMRによって確認する。図21は、1重量%の臭化4-(トリメチルアンモニウムメチル)安息香酸が、試験条件下で、デンドライト形成を部分的に抑制し、水素発生を部分的に抑制することを示す。
【0034】
塩化(2,6-ジメチルベンジル)トリメチルアンモニウムの調製
100mLフラスコに、テトラヒドロフラン中のトリメチルアミンの13%溶液9.1mL(1.05g、17.8mmol)を加える。この溶液を空気下、室温で撹拌する。塩化2,6-ジメチルベンジル(2.5g、16.2mmol)を少しずつ素早く加え、反応物を60℃に3時間加熱する。次いで、反応物を室温まで冷却し、白色沈殿物を吸引濾過によって回収し、追加のテトラヒドロフランで洗浄する。約3.05gの白色綿毛状粉末を回収し(収率88%)、所望の生成物構造をH NMRによって確認する。図24は、1.0重量%の塩化(2,6-ジメチルベンジル)トリメチルアンモニウムが、試験条件下で、デンドライト形成を部分的に抑制するが、水素発生を抑制しないことを示す。
【0035】
図23は、1.0重量%塩化ベンザルコニウムが、試験条件下でデンドライト形成及び水素発生を完全に抑制するのに有効であることを示す。試験した添加剤は、以下の式を有する混合物であり、式中、R=C2n+1であり、8≦n≦18である。
【化2】
【0036】
図32は、亜鉛電池セル100の模式図を示す。このセルは、電解質104を介してカソード108と連通する亜鉛アノード102を含む。カソード108と電解質104との間には、膜等の多孔質セパレータ110が介在していてもよい。当業者は、カソードが、限定はされないが、空気及び炭素等の多種多様な公知の材料を含んでもよいことを容易に理解するであろう。
【0037】
上記の方法及び装置は、本発明の全般的な範囲から逸脱することなく変更又は改変されてもよいことが当業者には明らかであろう。本発明は、添付の特許請求の範囲又はその均等物の範囲内に入る限り、すべてのそのような改変例及び変形例を含むことが意図されている。
【0038】
以上、本発明を説明してきたが、特許請求の範囲は別掲のとおりである。
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