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特許7507869マグネシウム合金の力学特性及び生物学的安定性を向上させる方法並びに材料を製造する方法及び使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-20
(45)【発行日】2024-06-28
(54)【発明の名称】マグネシウム合金の力学特性及び生物学的安定性を向上させる方法並びに材料を製造する方法及び使用
(51)【国際特許分類】
   C22F 1/06 20060101AFI20240621BHJP
   A61L 27/04 20060101ALI20240621BHJP
   A61L 27/34 20060101ALI20240621BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20240621BHJP
【FI】
C22F1/06
A61L27/04
A61L27/34
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 691Z
C22F1/00 675
C22F1/00 640Z
C22F1/00 671
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022552864
(86)(22)【出願日】2021-02-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-20
(86)【国際出願番号】 CN2021000030
(87)【国際公開番号】W WO2021174998
(87)【国際公開日】2021-09-10
【審査請求日】2022-10-31
(31)【優先権主張番号】202010140864.9
(32)【優先日】2020-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202010291833.3
(32)【優先日】2020-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】522348985
【氏名又は名称】李賀傑
【氏名又は名称原語表記】LI,Hejie
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100170900
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 渉
(72)【発明者】
【氏名】李賀傑
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ティアンファン
(72)【発明者】
【氏名】リュウ,ジャオソン
(72)【発明者】
【氏名】ニ,グォイン
【審査官】河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-517415(JP,A)
【文献】国際公開第2015/147184(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第109868435(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22F 1/06
A61L 15/00-15/64
A61L 17/00-33/18
C22F 1/00
C22C 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム合金の力学特性及び生物学的機能の安定性を向上させる熱処理方法であって、
オリジナルの冷間引抜きマグネシウム合金AZ31を、不活性ガス又は真空により生成された無干渉の雰囲気で完全にアニール処理する工程(1)と、
工程(1)で得られたマグネシウム合金AZ31の表面を耐水サンドペーパーで研磨し、そのオリジナルの酸化層を除去し、表面仕上げを向上させる工程(2)と、
工程(2)で得られたマグネシウム合金AZ31を不活性ガス又は真空による無干渉の雰囲気で加熱し、マグネシウム合金AZ31を前記無干渉の雰囲気で300~350℃に加熱した後、3~4時間保温することにより、工程(2)で得られたマグネシウム合金AZ31を完全にアニール処理する工程(3)と、
工程(3)で得られたマグネシウム合金AZ31を炉において室温まで冷却して均一な組織及び等方性を有する等軸結晶構造を得る工程(4)と、を含む、ことを特徴とする熱処理方法。
【請求項2】
前記マグネシウム合金AZ31の表面を耐水サンドペーパーで研磨することは、
400メッシュの耐水サンドペーパーで1~3分間研磨してオリジナルの酸化層を除去する初期研磨と、
初期研磨の直後に、1200~2400メッシュの耐水サンドペーパーで2~5分間研磨してマグネシウム合金AZ31の表面仕上げを向上するポリッシュと、を含む、ことを特徴とする請求項1に記載の熱処理方法。
【請求項3】
前記初期研磨は、マグネシウム合金AZ31の表面における暗色の酸化層が完全に除去されて銀白色のマグネシウム金属自体が現れるまで、酸化層を効果的に除去可能な強度で、一方向に行われ、
前記ポリッシュは、マグネシウム合金AZ31の表面に明らかなスクラッチがなくなるまで、初期研磨の強度よりも低い強度で、初期研磨の方向に垂直な研磨方向に行われる、ことを特徴とする請求項2に記載の熱処理方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の熱処理方法に用いられた冷間引抜きマグネシウム合金AZ31、又は請求項1~3のいずれか1項に記載の熱処理方法により得られたマグネシウム合金によって小ペプチドコーティング層生物材料を製造する方法であって、
マグネシウム合金AZ31を超音波洗浄することによりマグネシウム合金AZ31表面の不純物を除去し、処理されたマグネシウム合金AZ31をポリウレタンが溶解したクロロホルム溶液に投入し、マグネシウム合金AZ31が完全に溶液に覆われるようにし、マグネシウム合金AZ31を取り出してその表面の溶液が固化するまで静置した後、プラズマ反応器においてクリック反応によりマグネシウム合金AZ31の表面にコーティングされたポリウレタンを活性化させ、最後に、表面が活性化したポリウレタンでコーティングされたマグネシウム合金AZ31を、ポリペプチドが溶解したリン酸ナトリウム溶液に投入して振盪することにより、両者を完全に反応させて対応するポリペプチドコーティング層を形成する工程を含む、ことを特徴とする方法。
【請求項5】
前記超音波洗浄では、純水又は80%アルコールである洗浄液で3~5分間洗浄することによりマグネシウム系合金AZ31の表面における不純物を除去し、その表面の清潔を維持する、ことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ポリウレタンが溶解したクロロホルム溶液は、白色固体ポリウレタンと純度≧99.5%の無色透明クロロホルム溶液とを3g:100mlの比例で混合した後、常温で振盪、撹拌を行うことにより形成された均一、無色透明、粘稠な溶液である、ことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記マグネシウム合金AZ31は、ポリウレタンが溶解したクロロホルム溶液に投入され、60分間完全に浸漬しながら間欠的に振盪、撹拌される、ことを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記マグネシウム合金AZ31の表面における溶液が固化するときに、クロロホルムを急速に揮発させるにより、金属表面に均一、緻密でかつ安定したポリウレタンコーティング層を形成する、ことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記マグネシウム合金AZ31の表面における溶液が固化した後、プラズマ反応器において2.45GHzの酸素プラズマで1分間表面処理し、その後、大気雰囲気中で15分間静置して表面における過酸化基及びヒドロキシル基の形成をさらに促進する、ことを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記マグネシウム合金AZ31の表面における過酸化基及びヒドロキシル基の形成がさらに促進された後、マグネシウム系合金AZ31をプラズマ反応器に取り戻し、26.7に調整した真空度で、アクリル酸スチームを66.7パスカルになるまで徐々にフローさせ、1分間反応した後、マグネシウム系合金AZ31を取り出して超音波洗浄機で10分間洗浄し、その後、1.25mg/mlのN-ヒドロキシスクシンイミドと5mg/mlの1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドとのpH5.0混合水溶液に移し、4℃で20時間振盪、撹拌してから取り出し、最終的に、前記マグネシウム系合金AZ31の表面にコーティングされたポリウレタンを活性化させる、ことを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記ポリペプチドが溶解したリン酸ナトリウム溶液は、純度が95%を超えるポリペプチドF3を0.1Mのリン酸ナトリウム溶液に溶解して5mMに調製された均一な溶液である、ことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
表面が活性化したポリウレタンでコーティングされたマグネシウム系合金AZ31を、前記ポリペプチドが溶解したリン酸ナトリウム溶液に投入して20時間振盪した後に取り出し、超純水で10分間の超音波洗浄を2回行い、乾燥してから製造を完了する、ことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
請求項4~12のいずれか1項に記載の方法で製造された小ペプチドコーティング層生物材料の使用であって、
前記小ペプチドコーティング層生物材料は、硬組織欠損修復材料の製造に使用される、ことを特徴とする使用。
【請求項14】
前記小ペプチドコーティング層生物材料は、骨骼固定材料の製造に使用される、ことを特徴とする請求項13に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属処理方法及び使用に関し、特に、マグネシウム合金の力学特性及び生物学的安定性を改善する方法並びに材料を製造する方法及び使用に関する。
【背景技術】
【0002】
人間社会の発展及び人間活動の増加に伴い、人間の骨組織及び硬組織の損傷の発生がますます頻発になっているため、対応する骨組織の固定、修復及び代替のための生物材料に対する需要及び要求がますます高まっている。
【0003】
従来の骨固定及び代替材料、例えば、チタン合金及びステンレスなどの金属材料は、人体の骨組織の弾性率などの力学特性と大きく異なため、体内に移植されると、ストレスシールディング、金属イオンの放出による局所pH値の変化によって引き起こされた中枢性感染症や炎症反応などの多くの問題が発生しやすくなる。そのため、生体適合性が悪く、骨治癒の過程に適応しにくい。高分子材料は、力学特性が悪く、特に、可塑性、靭性、及び径方向の力学特性が悪いため、骨代替材料として広く使用できない。
【0004】
代表的な軽合金であるマグネシウム合金AZ31は、人骨とほぼ同じ弾性率を有するため、力学特性が人骨に近く、理想的な人骨代替材料である。また、マグネシウムは、人体の新陳代謝及び生物学的反応の必須成分であり、骨芽細胞と結合することにより、骨の成長及び強化に対して良い促進効果を有する。マグネシウムは、骨代替材料として優れた生体適合性を有する。
【0005】
しかしながら、マグネシウムの化学的性質が活発であり、人体内の環境において様々なイオンが存在するため、マグネシウム及びマグネシウム合金AZ31である移植材料の分解速度が速く、さらに局所の体液環境のpH値が大幅に高くなり、このように、アルカローシスを引き起こし、ひいては局所の炎症反応や細胞死を引き起こす可能性がある。したがって、体内におけるマグネシウム合金AZ31の分解速度コントロールは、マグネシウム合金AZ31を骨移植材料として使用するときの重要な問題となっている
【0006】
方、マグネシウム系合金は、体内及び体外の代替材料として使用される場合、明らかな静菌作用、消炎作用を有さないため、体内、体外で細菌の増殖を引き起しやすくなり、予想外の炎症反応を引き起こすことがある。これにより、マグネシウム系合金の幅広い用途がさらに制限される。
【0007】
マグネシウム系合金が体内で急速に分解するという問題を解決するために、マグネシウムの耐食性を改善するように多くの方法が採用され、そのうち、一般的な方法として様々な物理的及び化学的方法により表面を強化する方法が含まれる。現在、材料に生物活性、生体適合性をさらに付与するために、生物機能性を有する様々なコーティング層が形成されている。しかしながら、マグネシウム系合金は、材料自体の欠陥により、材料表面のコーティング層の機能性が低下し、材料の活性が低下し、材料の使用に影響を与える。また、従来の生物機能性コーティング層は、材料の耐食性を向上させると同時に、静菌作用と抗炎作用を両立しにくい。したがって、現在、マグネシウム系合金の耐食性を向上させるとともに抗炎・静菌作用を有する生物機能性コーティング層の製造が差し迫って必要である。
【発明の概要】
【0008】
本発明が解決しようとする技術的課題は、マグネシウム合金の力学特性及び生物学的機能の安定性を向上させる熱処理方法を提供することにある。この方法で得られたマグネシウム合金は、良好な組織構造を有し、対応するポリペプチドとの良好な結合性能を有し、抗菌性などのコーティング層の良好な生物機能性を維持することができる。
【0009】
上記した技術的課題を解決するために、本発明は以下の技術的手段を採用する。
マグネシウム合金の力学特性及び生物学的機能の安定性を向上させる熱処理方法は、
オリジナルの冷間引抜きマグネシウム合金AZ31を、その初期加工応力及び特別な組織構造が排除された無干渉の雰囲気で完全にアニール処理する工程(1)と、
工程(1)で得られたマグネシウム合金AZ31の表面を耐水サンドペーパーで研磨し、表面におけるオリジナルの酸化層を除去し、表面仕上げを維持するか又は向上させる工程(2)と、
工程(2)で得られたマグネシウム合金AZ31を不活性ガス又は真空による無干渉の雰囲気で加熱し、マグネシウム合金AZ31を前記無干渉の雰囲気で330~350℃に加熱した後、3~4時間保温することにより、工程(2)で得られたマグネシウム合金AZ31を完全にアニール処理する工程(3)と、
工程(3)で得られたマグネシウム合金AZ31を前記無干渉の雰囲気で完全にアニール処理を完了し、炉において室温まで冷却して均一な組織及び等方性を有する等軸結晶構造を得る工程(4)と、を含む。
【0010】
本発明の方法で製造されたマグネシウム合金AZ31は、結晶粒径が約16μmであり、硬度が約73HVであり、対応するポリペプチドとの結合性能が良好で、抗菌性のようなコーティング層の良好な生物機能性を維持可能である良好な組織構造を有する。
【0011】
さらに好ましい技術案は以下の通りである。
前記マグネシウム合金AZ31の表面を耐水サンドペーパーで研磨することは、
400メッシュの耐水サンドペーパーで1~3分間研磨してオリジナルの酸化層を除去する初期研磨と、
初期研磨の直後に、1200~2400メッシュの耐水サンドペーパーで2~5分間研磨してマグネシウム合金AZ31の表面仕上げを維持するポリッシュと、を含む。
【0012】
前記研磨方法は、マグネシウム合金AZ31表面の酸化層を除去し、清潔で高仕上がりの表面を得るのに役立つ。
【0013】
前記初期研磨は、マグネシウム合金AZ31の表面における暗色の酸化層が完全に除去されて銀白色のマグネシウム金属自体が現れるまで、酸化層を効果的に除去可能な強度で、一方向に行われ、
前記ポリッシュは、マグネシウム合金AZ31の表面に明らかなスクラッチがなくなるまで、初期研磨の強度よりも低い強度で、初期研磨の方向に垂直な研磨方向に行われる。
【0014】
前記研磨方法は、マグネシウム合金AZ31の表面における酸化層を除去し、清潔で高仕上がりの表面を得るのに役立つ。
【0015】
本発明が解決しようとする別の技術的課題は、小ペプチド(small peptide)コーティング層のマグネシウム合金生物材料を製造する方法及び小ペプチドコーティング層のマグネシウム合金生物材料の使用を提供することにある。この方法で製造されたマグネシウム合金生物材料は、抗炎・静菌性のある生物機能コーティング層を備え、マグネシウム合金の耐食性を向上でき、良好な生物活性及び人体適合性を有し、硬組織欠損修復材料の製造に適用される。
【0016】
上記した技術的課題を解決するために、本発明は以下の技術的手段を採用する。
小ペプチドコーティング層のマグネシウム系合金生物材料を製造する方法では、マグネシウム系合金AZ31を超音波洗浄することによりマグネシウム系合金AZ31表面の不純物を除去し、処理されたマグネシウム系合金AZ31をプラズマ反応器においてポリウレタンが溶解したクロロホルム溶液に投入し、マグネシウム系合金AZ31が完全に溶液に覆われるようにし、マグネシウム系合金AZ31を取り出してその表面の溶液が固化するまで静置した後、プラズマ反応器においてクリック反応によりマグネシウム系合金AZ31の表面にコーティングされたポリウレタンを活性化させ、最後に、表面活性化したポリウレタンでコーティングされたマグネシウム系合金AZ31を、ポリペプチドが溶解したリン酸ナトリウム溶液に投入して振盪することにより、両者を完全に反応させて対応するポリペプチドコーティング層を形成する。
【0017】
本発明のマグネシウム系合金生物材料は、安定したバイオコーティング層を形成することにより、マグネシウム合金の静菌性能及び耐食性を改善する。
【0018】
さらに好ましい技術案は以下の通りである。
前記マグネシウム系合金AZ31は、冷間引抜きマグネシウム系合金AZ31又は無干渉の雰囲気で完全にアニールされたマグネシウム系合金AZ31である。
【0019】
前記超音波洗浄では、純水又は80%アルコールである洗浄液で3~5分間洗浄することによりマグネシウム系合金AZ31の表面における不純物を除去し、その表面の清潔を維持する。
【0020】
前記ポリウレタンが溶解したクロロホルム溶液は、白色固体ポリウレタンと純度≧99.5%の無色透明クロロホルム溶液とを3g:100mlの比例で混合した後、常温で振盪、撹拌を行うことにより形成された均一、無色透明、粘稠な溶液である。
【0021】
前記マグネシウム系合金AZ31は、ポリウレタンが溶解したクロロホルム溶液に投入され、60分間完全に浸漬しながら間欠的に振盪、撹拌される。
【0022】
前記マグネシウム系合金AZ31の表面における溶液が固化するときに、クロロホルムを急速に揮発させるにより、金属表面に均一、緻密でかつ安定したポリウレタンコーティング層を形成する。
【0023】
前記マグネシウム系合金AZ31の表面における溶液が固化した後、プラズマ反応器において2.45GHzの酸素プラズマで1分間表面処理し、その後、大気雰囲気中で15分間静置して表面における過酸化基及びヒドロキシル基の形成をさらに促進する。
【0024】
前記マグネシウム系合金AZ31の表面における過酸化基及びヒドロキシル基の形成がさらに促進された後、マグネシウム系合金AZ31をプラズマ反応器に取り戻して、26.7に調整した真空度で、アクリル酸スチームを66.7パスカルになるまで徐々にフローさせ、1分間反応した後、マグネシウム系合金AZ31を取り出して超音波洗浄機で10分間洗浄し、その後、1.25mg/mlのN-ヒドロキシスクシンイミドと5mg/mlの1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドとのpH5.0混合水溶液に移し、4℃で20時間振盪、撹拌してから取り出し、最終的に、前記マグネシウム系合金AZ31の表面にコーティングされたポリウレタンを活性化させる。
【0025】
前記ポリペプチドが溶解したリン酸ナトリウム溶液は、純度が95%を超えるポリペプチドF3を0.1Mのリン酸ナトリウム溶液に溶解して5mMに調製された均一な溶液である。
【0026】
前記ポリペプチド含有のリン酸ナトリウム溶液でコーティングされたマグネシウム系合金AZ31を、20時間振盪した後に取り出し、超純水で10分間の超音波洗浄を2回行い、乾燥してから製造を完了する。
【0027】
前記小ペプチドコーティング層のマグネシウム系合金生物材料好な生物活性及び人体適合性を有し、硬組織欠損修復材料の製造に使用することができる
【0028】
前記小ペプチドコーティング層のマグネシウム系合金生物材料は、骨骼固定材料の製造に使用される。
【0029】
その良好な生物活性及び人体適合性に基づいて、前記小ペプチドコーティング層のマグネシウム系合金生物材料は、人工補綴物、移植可能な代替材料による開放性外傷の人体組織修復、口腔歯科インプラント及び体内組織損傷の修復、生物導管、関節窩、関節ピンなどの人体生物材料の製造に広く使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1は、無干渉の雰囲気で完全にアニールする材料の概略図である。
図2図2は、ニールされたグネシウム合金AZ31の組織とオリジナルの冷間引抜きグネシウム合金AZ31の組織と比較図であり、ここで、(a)は、未処理の冷間引抜きグネシウム合金AZ31の組織構造を示し、(b)は、無干渉の雰囲気で完全にアニールされたグネシウム合金AZ31の組織構造を示す。
図3図3は、マグネシウム合金によって作られた骨釘の構造概略図である。
図4図4は、アニールされたグネシウム合金AZ31及びオリジナルの冷間引抜きマグネシウム合金AZ31と低分子ポリペプチドとを結合した後の静菌効果の比較図であり、ここで、図Aは、本発明のマグネシウム合金AZ31とキレートされた低分子ペプチドF3試料の24時間静菌効果を示す図であり、図Bは、本発明のマグネシウム合金AZ31とキレートされた低分子ペプチドF3試料の48時間静菌効果を示す図であり、図Cは、オリジナルの冷間引抜きペプチドAZ31とキレートされた低分子ペプチドF3試料の24時間静菌効果を示す図であり、図Dは、オリジナルの冷間引抜きペプチドAZ31とキレートされた低分子ペプチドF3試料の48時間静菌効果を示す図である。
図5図5は、マグネシウム合金で作製したin vitro腐食実験による試料の構造概略図である。
図6図6は、アニールされたAZ31マグネシウム合金、冷間押出し状態のマグネシウム合金、及び純マグネシウム合金試料の5日間in vitro腐食実験によるpH値変化を示す図である。
図7図7は、アニールされたAZ31マグネシウム合金、冷間押出し状態のマグネシウム合金、及び純マグネシウム合金試料の5日間in vitro腐食実験による試料の重量変化を示す図である。
図8図8は、試料の5日間in vitro腐食実験後の表面形態を示す図であり、ここで、Aは、冷間引抜きAZ31試料のin vitro腐食前の表面形態を示す図であり、Bは、アニールされたAZ31試料のin vitro腐食前の表面形態を示す図であり、Cは、冷間引抜きAZ31試料のin vitro腐食120時間後の表面形態を示す図であり、Dは、アニールされたAZ31試料のin vitro腐食120時間後の表面形態を示す図である。
図9図9は、マグネシウム合金とポリウレタン及びポリペプチドとの結合を示す図である。
図10図10は、薬剤耐性黄色ブドウ球菌の静菌試験を示す図である。
図11図11は、静菌試験結果の分析比較図である。
図12図12は、腐食試験前の試料表面のSEM図であり、ここで、Aは、金属AZ31のオリジナルの表面形態を示す図であり、Bは、ポリペプチドコーティング層でコーティングされたマグネシウム合金AZ31の表面形態を示す図である。
図13図13は、120時間in vitro腐食試験後の表面形態のSEM図であり、ここで、Aは、ポリペプチドコーティング層でコーティングされない金属の120時間腐食後の表面を示す図であり、Bは、ポリペプチドF1コーティング層でコーティングされたアニールマグネシウム合金AZ31の120時間in vitro腐食後の表面形態を示す図であり、Cは、ポリペプチドF3コーティング層でコーティングされたアニールAZ31の120時間in vitro腐食後の表面形態を示す図である。
図14図14は、in vitro腐食試験プロセスにおけるpH値変化の分析図である。
図15図15は、in vitro腐食実験プロセスにおける試料重量変化の分析図である。
図16図16は、EDS分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0031】
図1図4に示すように、本発明のマグネシウム合金の力学特性及び生物学的機能の安定性を向上させる熱処理方法は、以下の工程(1)~(4)を含む。
【0032】
(1)オリジナルの冷間引抜きマグネシウム合金AZ31を、その初期加工応力及び特別な組織構造が排除された無干渉の雰囲気で完全にアニール処理する。
【0033】
(2)工程(1)で得られたマグネシウム合金AZ31の表面を耐水サンドペーパーで研磨し、表面におけるオリジナルの酸化層を除去し、表面仕上げを維持するか又は向上させる。ここで、前記マグネシウム合金AZ31の表面を耐水サンドペーパーで研磨することは、400メッシュの耐水サンドペーパーで1~3分間研磨してオリジナルの酸化層を除去する初期研磨と、初期研磨の直後に、1200~2400メッシュの耐水サンドペーパーで2~5分間研磨してマグネシウム合金AZ31の表面仕上げを維持するポリッシュと、を含む。前記初期研磨は、マグネシウム合金AZ31の表面における暗色の酸化層が完全に除去されて銀白色のマグネシウム金属自体が現れるまで、酸化層を効果的に除去可能な強度で、一方向に行われる。前記ポリッシュは、マグネシウム合金AZ31の表面に明らかなスクラッチがなくなるまで、初期研磨の強度よりも低い強度で、初期研磨の方向に垂直な研磨方向に行われる。
【0034】
(3)工程(2)で得られたマグネシウム合金AZ31を不活性ガス又は真空による無干渉の雰囲気で加熱し、マグネシウム合金AZ31を前記無干渉の雰囲気で330~350℃に加熱した後、3~5時間保温することにより、工程(2)で得られたマグネシウム合金AZ31を完全にアニール処理する。ここで、3~5時間は、図1におけるt1~t2時間である。
【0035】
(4)工程(3)で得られたマグネシウム合金AZ31を前記無干渉の雰囲気で完全にアニール処理を完了し、炉において室温まで冷却して均一な組織及び等方性を有する等軸結晶構造を得る。
【0036】
電界放射型走査電子顕微鏡で金属組織を観察し、熱処理前後のAZ31の組織構造を比較した。アニールされたAZ31マグネシウム合金AZ31の結晶粒径が15.8μmである一方、オリジナルの冷間引抜きマグネシウム合金AZ31の結晶粒径は9.2μmである。マイクロビッカーズ硬度計でAZ31の硬度を測定し、熱処理前後のビッカーズ硬度の変化を比較した。未処理のAZ31のビッカーズ硬度は83.9HVである一方、無干渉の雰囲気で完全にアニール処理されたAZ31のビッカーズ硬度は72.8HVである。
【0037】
1.静菌性の比較実験
(1)オリジナルの冷間引抜きマグネシウム合金AZ31及び本発明の方法のAZ31を、直径0.5mm、長さ2mm、寸法公差±0.005mmの小型骨釘に作製した。
【0038】
(2)2つの合金から加工された2つの小型骨釘を、キレート化反応により低分子ポリペプチドF3と結合し、骨釘の表面に小ペプチドF3コーティング層をそれぞれ形成した。
【0039】
(3)キレート反応後の2つのマグネシウム合金AZ31試料について、薬剤耐性黄色ブドウ球菌の48時間的静菌試験を行うことにより、2つの材料の抗菌特性を観察した。その結果は以下の表1に示される。
【0040】
表1:静菌効果の比較図
【表1】
【0041】
(4)実験結論の分析
実験結果を比較すると、冷間引抜き状態のマグネシウム合金AZ31とキレートされた小ペプチドF3と比較して、無干渉の雰囲気で完全にアニール処理されたマグネシウム合金AZ31試料は、ポリペプチドF3とキレートされた後に、より安定した長期にわたる抗菌性能を有し、48時間以内で薬剤耐性黄色ブドウ球菌に対する良好な抗菌性能を維持できる一方、冷間引抜きAZ31は、ポリペプチドF3とキレートされた後に、薬剤耐性黄色ブドウ球菌に対する抗菌性能が48時間後に完全に失われることが分かった。
【0042】
2.in vitro腐食の比較実験
(1)オリジナルの冷間引抜きマグネシウム合金AZ31及び本発明の方法のAZ31を、直径4.4mm、厚み2mm、寸法公差±0.002mmの小型マグネシウム錠に作製した。
【0043】
(2)2つの試料をDMEM(Dulbecco's Modified Eagle Medium)の高グルコース培地に入れ、37℃の恒温インキュベータにおいてin vitro耐食性試験を120時間行なった。
【0044】
(3)in vitro腐食プロセスにおいて、試料の重量及びDMEM培地のpH値を定期的に検出した。具体的な観測内容、工程及び観察結果は以下の通りである。
【0045】
表2:in vitro腐食実験の結果比較
【表2】
【0046】
(4)in vitro腐食試験が完成した後、SEMで2つの試料の表面形態を観察した。
【0047】
(5)実験結論の分析
実験結果を比較すると、無干渉の雰囲気で完全にアニール処理されたマグネシウム合金AZ31試料は、冷間引抜き状態のマグネシウム合金AZ31よりも安定した長期にわたる耐食性を有し、120時間以内でDMEM保留し得るが、冷間引抜きAZ31は、48時間後に腐食が加速し、試料の減量が加速し、DMEMに対する耐食性をまったく有しないことが分かった。表面形態の観察によると、腐食120時間後、冷間引抜き状態のマグネシウム合金AZ31は、表面に多数の目立った層状又は鱗状の剥離物が形成され、表面腐食が顕著であるが、無干渉の雰囲気で完全にアニール処理されたAZ31は、表面に目立った層状又は鱗状の剥離物が見られず、表面が比較的完全である。
【0048】
本実施例1の方法は、プロセスが簡単で、操作が便利で、実用性が高く、形成された新規材料が安定し、他の材料と結合して安定した構造を形成することができ、結合生成物の活性を維持して強化することができ、エネルギー消費が少なく、生産が容易であり、サイクルが短く、工業化が容易であり、環境に優しい。
【実施例2】
【0049】
以下、実施例2を参照して本発明をさらに説明する。
【0050】
本実施例は、マグネシウム合金の静菌性能及び耐食性能を向上できるポリペプチドバイオコーティング層の化学クリック反応による製造方法(図9を参照する)を提供する。当該製造方法は、冷間引抜き状態のマグネシウム合金AZ31及び無干渉の雰囲気で完全にアニールされたマグネシウム合金AZ31を、直径4.4mm、厚み2mmのパンケーキ状に加工する工程を含む。
【0051】
パンケーキ状に加工された2つのマグネシウム合金試料の表面を純水(又は80%アルコール)である洗浄液で3~5分間超音波洗浄することにより、表面における不純物や付着物を除去し、2つの試料表面の清潔度を維持した。
【0052】
Selectophore(商標)ポリウレタン(MQ100グレード)を金属表面のコーティング剤として選用する。まず、白色固体状のポリウレタン粒子を無色透明のクロロホルム溶液(純度≧99.5%)と3g:100ml(W/V)の比例で混合し、ポリウレタンが完全に溶解するまで室温で振盪、撹拌して均一、無色透明で、かつ一定の粘度を有する溶液を形成した。
【0053】
超音波で表面処理された2つのマグネシウム系合金AZ31(パンケーキ状、直径4.4mm、厚み2mm)をポリウレタンのクロロホルム溶液に入れ、60分間完全に浸漬しながら間欠的に振盪、撹拌した。
【0054】
ポリウレタンで均一にコーティングされた2つのマグネシウム合金材料を溶液から取り出して時計皿に入れ、ヒュームフードにおいて16時間放置してクロロホルムを速やかに揮発させることにより、金属表面に均一、緻密で、安定したポリウレタンコーティング層を形成した。
【0055】
コーティングされた金属薄片をプラズマ反応器(MiniFlecto(商標)、Plasma Technology GmbH製)において2.45GHzの酸素プラズマで1分間表面処理した後、大気雰囲気中で15分間静置して、表面における過酸化基及びヒドロキシ基の形成をさらに促進した。
【0056】
金属をプラズマ反応器に取り戻し、26.7に調整した真空度で、アクリル酸スチームを66.7パスカルになるまで徐々にフローさせ、1分間反応した後に取り出して超音波洗浄機で10分間洗浄し、その後、1.25mg/mlのN-ヒドロキシスクシンイミドと5mg/mlの1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドとの混合水溶液(pH5.0)に移し、4℃で20時間振盪、撹拌してから取り出し、最終的に、前記マグネシウム系合金AZ31の表面にコーティングされたポリウレタンを活性化させた。
【0057】
合成の高純度(>95%)ポリペプチドF1及びF3(オーストラリアのアマガエルの背腺に発見される)を0.1Mのリン酸ナトリウム溶液にそれぞれ溶解して、5mMの均一な溶液を調製した。表面活性化ポリウレタンでコーティングされた金属薄片を4℃でポリペプチドのリン酸ナトリウム溶液に浸漬し、20時間振盪した後に取り出して超純水中で10分間の超音波洗浄を2回行った後、ヒュームフードで乾燥させて製造を完了した。
【0058】
1.静菌性の比較実験
(1)静菌試験用の試料を直径4.4mm、厚み2mm、寸法公差±0.002mmの小型マグネシウム錠に作製した。
【0059】
(2)2つの異なる処理が施されたオリジナルのマグネシウム合金AZ31と、クリック反応によってそれぞれF1、F3ポリペプチドでコーティング層が形成された2つのマグネシウム合金試料とを表面洗浄した。ここで、表面洗浄では、純水で超音波洗浄器において3~5分間洗浄することにより表面における不純物や付着物を除去した。
【0060】
(3)洗浄した各試料を静菌実験用シャーレに入れ、37℃の恒温培養器において薬剤耐性黄色ブドウ球菌の100時間静菌試験を行なった。
【0061】
(4)対数増殖期のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA、GDM1.1263)を採集し、MH培地で菌懸濁液濃度を2.0×10 CFU/mlに調整した。菌液で湿らせた滅菌綿棒をチューブの壁において数回回転させて絞り、余分な菌液を除去した後に、綿棒でM-H薬物感受性寒天プレート(Guangzhou Yuanming Biological製)全体に均一に塗布した。薬剤感受性紙ディスク(OXOID、英国)に30μgのF1、F3ポリペプチドをそれぞれ添加し、紙ディスクをM-H寒天プレートに貼り付け、プレートを逆さまに置き、37℃で一晩インキュベートした。30μgTazocinピペラシリンナトリウム・タゾバクタムナトリウム)、ブランクの薬剤感受性ディスク(BASD)、及びオリジナルの2つの状態のAZ31マグネシウム合金をコントロールとして使用した。静菌試験図は図10に示される。ノギスで阻止円(inhibition ring)の大きさを測定した。その結果は以下の表3に示される。
【0062】
表3:静菌効果の比較表
【表3】
【0063】
(5)実験結論の分析
実験結果を比較すると、以下の結論を分かった。
(i)2つの純金属試料(冷間引抜きAZ31及びアニールされたAZ31)はいずれも、静菌効果を示さない。
【0064】
(ii)ブランクの薬剤感受性ディスクは、静菌効果を示さない。
【0065】
(iii)従来の臨床薬物Tazocinは、24時間以内の静菌効果が最も高く、24時間後に静菌効果が失われる。
【0066】
(iv)単純なポリペプチドF1、F3は、24時間以内に明らかな静菌効果を示すが、Tazocinと同様に、静菌効果が24時間後に失われる。ポリペプチドF3の静菌効果は、F1ポリペプチドの静菌効果よりも著しく優れている。
【0067】
(v)F1ポリペプチドコーティング層でコーティングされた2つのマグネシウム合金AZ31試料は、24時間以内に明らかな静菌効果を示すが、静菌効果が24時間後に失われる。F1ポリペプチドコーティング層でコーティングされたアニールAZ31の静菌効果は、F1ポリペプチドコーティング層でコーティングされた冷間引抜きAZ31の静菌効果よりも著しく優れている。
【0068】
(vi)F3ポリペプチドコーティング層でコーティングされた2つのマグネシウム合金AZ31試料は、100時間以内に明らかで持続的な静菌効果を示すが、その静菌効果が減少傾向を示す。また、F3ポリペプチドコーティング層でコーティングされたアニールAZ31の静菌効果は、F3ポリペプチドコーティング層でコーティングされた冷間引抜きAZ31の静菌効果よりも著しく優れている。
【0069】
(vii)ポリペプチドコーティング層でコーティングされたマグネシウム合金の直径は、Tazocinで塗布された薬剤感受性ディスクの直径と大きく異なり、Tazocinの静菌効果と直接比較できないので、有効な阻止円の面積で比較する。図11に示すように、F3ポリペプチドコーティング層でコーティングされたアニールAZ31試料は、24時間の静菌効果が従来の臨床薬であるTazocinよりも著しく高く、100時間持続した後の効果も明らかである。また、F3でコーティングされた冷間引抜きAZ31金属シートは、100時間以内に長続きかつ顕著な静菌効果を示す。
【0070】
2.in vitro耐食試験結果の比較
(1)腐食試料(2つの異なる処理が施されたオリジナルのマグネシウム合金AZ31及びそれぞれF1、F3でコーティングされた2つのマグネシウム合金)を、直径4.4mm、厚み2mm、寸法公差±0.002mmの小型マグネシウム錠に作製した。
【0071】
(2)2つの異なる処理が施されたオリジナルのマグネシウム合金AZ31と、クリック反応によってそれぞれF1、F3ポリペプチドでコーティング層が形成された2つのマグネシウム合金試料とを表面洗浄した。ここで、表面洗浄では、純水で超音波洗浄器において3~5分間洗浄することにより表面における不純物や付着物を除去した。
【0072】
(3)調製された腐食試料をそれぞれDMEM(Dulbecco's Modified Eagle Medium)の高グルコース培地に入れ、37℃の恒温インキュベータにおいてin vitro耐食試験を120時間行なった。
【0073】
(4)in vitro腐食プロセス中に試料の重量及びDMEM培地のpH値を定期的に検出した。具体的な観測内容及び工程は以下の通りである。
【0074】
(i)一定期間の腐食が完了した試料を取り出して洗浄した後、バイオセーフティヒュームフードに入れて乾燥させ、その後、電子天秤(島津製作所製、電子天秤AUW220D)で重量を測定した。
【0075】
(ii)工程(1)が完了した後、試料が取り出されたDEEM培地を、pH測定器(CyberScan pH510-卓上型pH計)でpH値を測定した。
【0076】
実験結果は表4に示される。
表4:in vitro腐食実験の結果比較
【表4】
【0077】
表4における実験結果を参照して、具体的なpH値の観察結果は以下の通りである。
【0078】
図14に示すように、120時間のin vitro腐食プロセス中に一組のアニールAZ31試料を例として説明する。純金属AZ31は、120時間のin vitro腐食プロセス中に、それを入れたDMEM溶液のpH値が最初の7.2から8.91に急上昇した。また、そのpH値が腐食プロセス全体においてこの組の試料で最も高いので、その腐食速度が最も速いことが明らかになった。F1ポリペプチドコーティング層でコーティングされたアニールAZ31試料のpH値は、最初の48時間以内に、F3ポリペプチドコーティング層でコーティングされたAZ31試料のpH値よりも著しくに高かった。これは、このプロセス中に腐食速度が常にF3コーティング層でコーティングされたAZ31試料よりも速いことを示している。48時間後、軽微な細菌汚染により、そのpH値がかえってF3コーティング層でコーティングされたAZ31試料のpH値よりも低くなる可能性があるが、これは後期での腐食速度が後者よりも遅いことを示すわけではない。したがって、F3コーティング層でコーティングされたアニールAZ31試料は、腐食速度がプロセス全体において最も遅い一方、F1ポリペプチドコーティング層でコーティングされたアニールAZ31試料は、腐食速度が地金(bare metal)アニールAZ31試料の腐食速度よりもはるかに低いことが明らかになった。したがって、2つのポリペプチドコーティング層は、DMEM溶液への金属イオンの放出を明らかに抑制することにより、腐食の進展を抑制し、材料の耐食性を大幅に向上させる。
【0079】
表4及び試料質量を参照した観察結果は、以下の通りである。
【0080】
図15に示すように、腐食プロセス中の試料質量分析によると、最初の12時間以内に3つの試料はいずれも明らかな質量低下のプロセスがあるが、12時間以後に地金アニールAZ31試料の質量が大幅に低下することを示している。これは、pH値の変化と一致しており、腐食速度が加速され、試料の質量損失が激化する。一方、2つのポリペプチドコーティング層でコーティングされたアニールAZ31試料の質量は、100時間以内に著しく変化することなく、特に、F3ポリペプチドでコーティングされたアニールAZ31試料は、120時間での質量変化が依然として顕著ではない。したがって、試料の質量変化の観察結果は、pH値の変化と一致している。これは、2つのポリペプチドコーティング層でコーティングされた材料が材料の腐食を効果的に抑制できることを示している。
【0081】
3.腐食試料の表面形態及びEDS分析
(1)120時間のin vitro腐食試験が完了した後、試料をリン酸緩衝食塩水(PBS溶液、Phosphate buffer saline)で3~5分間洗浄し、バイオセーフティヒュームフードにおいて乾燥させた。
【0082】
(2)ポリペプチドでコーティングされない2つの金属試料(アニールAZ31及び冷間引抜きAZ31)を、電子顕微鏡専用の2層導電性テープであるcarbon tapeで試料ホルダに固定した。表面にポリペプチドコーティング層でコーティングされた試料は、導電性が悪いため、電子顕微鏡観察前に試料表面に対して炭素注入処理を行なった後に2層導電性テープで試料ホルダに固定した。
【0083】
(3)走査型電子顕微鏡JEOL 6010 SEMで試料表面のEDS分析及び形態観察を行なった。炭素元素C成分及び酸化マグネシウムMgO成分を選択して分析を行なった。炭素元素C成分の分析により表面におけるポリペプチドコーティング層の変化を知ることができる一方、酸化マグネシウムMgO成分の分析によりマグネシウム合金の腐食状況を知ることができる。
【0084】
表5:腐食試料の表面のEDS分析
【表5】
【0085】
SEM表面形態の分析:
120時間的in vitro腐食を経たアニールAZ31試料は、表面に大きな亀裂が現れる(図13)が、2つのポリペプチドコーティング層でコーティングされたAZ31は、このような現象を示さず、腐食前の表面形態と大差はない(図12、13)ことを示している。これは、これら2つのコーティング層でコーティングされた材料の腐食プロセスがあまり顕著ではないことを示し得ている。
【0086】
EDS分析の結果:
炭素及び酸化マグネシウムの2つの成分が選択された。これは、ポリペプチドに炭素元素を含有するので、炭素元素の変化を測定することにより、ポリペプチドコーティング層の状況を判断することができるためである。マグネシウム合金の腐食生成物は酸化マグネシウムであるため、酸化マグネシウム成分の変化を分析することにより、別の側面から材料の腐食状況を判断することができる。図16から分かるように、120時間のin vitro腐食後、F3コーティングでコーティングされたアニールAZ31試料による酸化マグネシウムの生成量が最も少なく、F1ポリペプチドコーティング層でコーティングされたアニールAZ31試料が二番目に生成量の少ない試料であり、地金アニールAZ31による酸化マグネシウムの生成量が最も多い。したがって、地金アニールAZ31の腐食が最も速く、F1コーティング層でコーティングされたアニールAZ31の腐食が二番目に速く、F3ポリペプチドコーティング層でコーティングされたアニールAZ31試料の腐食が最も遅いことが明らかであった。これは、これら2つのコーティング層がマグネシウム合金の腐食速度を効果的に低減できることを示している。
【0087】
同時に、F1ポリペプチドコーティング層でコーティングされたAZ31の炭素含有量は、F3コーティング層でコーティングされたAZ31の炭素含有量よりもはるかに高いことが分かった。これは、金属表面にコーティングされた場合、F1ポリペプチドコーティング層の量がF3ポリペプチドコーティング層の量よりも多いことを示している。これも別の側面から、金属表面にF3ポリペプチドコーティング層でコーティングされた場合は、F1ポリペプチドコーティング層でコーティングされた場合よりも効果的に金属材料の腐食を抑制することを示している。
【0088】
本実施例2の方法は、プロセスが簡単で、操作が便利で、実用性が高く、形成された新規材料が安定し、他の材料と結合して安定した構造を形成することができ、結合生成物の活性を維持して強化することができ、エネルギー消費が少なく、生産が容易であり、サイクルが短く、工業化が容易であり、環境に優しい。
【0089】
本実施例2で製造された小ペプチドコーティング層のマグネシウム系合金生物材料は、良好な生物活性及び人体適合性を有し、硬組織欠損修復材料の製造に適用され、人工補綴物、移植可能な代替材料による開放性外傷の人体組織修復、口腔歯科インプラント及び体内組織損傷の修復、生物導管、関節窩、関節ピンなどの人体生物材料の製造に広く使用できる。
【0090】
上述したのは本発明の好適な実施例に過ぎず、本発明の保護範囲を限定するものではない。本発明の明細書及び図面の記載によってなされたいかなる均等な構成変更は、本発明の保護範囲内に含まれる。
図1
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