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特許7507890繊維強化シート積層体並びに繊維強化シート積層体の製造方法及び構造体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-20
(45)【発行日】2024-06-28
(54)【発明の名称】繊維強化シート積層体並びに繊維強化シート積層体の製造方法及び構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/28 20060101AFI20240621BHJP
   B32B 38/04 20060101ALI20240621BHJP
   B29B 11/16 20060101ALI20240621BHJP
   B29K 105/10 20060101ALN20240621BHJP
【FI】
B32B5/28 A
B32B38/04
B29B11/16
B29K105:10
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022572848
(86)(22)【出願日】2020-12-28
(86)【国際出願番号】 JP2020049202
(87)【国際公開番号】W WO2022145005
(87)【国際公開日】2022-07-07
【審査請求日】2022-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】北澤 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】清水 正彦
(72)【発明者】
【氏名】田口 瑶子
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-180037(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0180260(US,A1)
【文献】特開2009-019201(JP,A)
【文献】特開2015-163660(JP,A)
【文献】特開2008-273176(JP,A)
【文献】特開平02-115236(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
C08J5/04-5/10
5/24
B29B11/16
15/08-15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層される複数の繊維強化シートを有する繊維強化シート積層体であって、
複数の前記繊維強化シートは、第1方向へ第1繊維が延在する第1繊維強化シートと、前記第1方向とは異なる第2方向へ第2繊維が延在する第2繊維強化シートと、を有し、
前記第1繊維強化シートは、切断された前記第1繊維が同じ長さとなるように前記第1繊維を切断する複数の第1切込を有し、
前記第2繊維強化シートは、切断された前記第2繊維が同じ長さとなるように前記第2繊維を切断する複数の第2切込を有し、
前記第1切込と前記第2切込とは、積層される方向から見た際に全体が重複するように配置されていて、
複数の前記第1切込は、第1段第1切込と、前記第1段第1切込に対して前記第1方向及び前記第1方向と交差する方向である所定方向にずれるように設けられる第2段第1切込と、を有し、
前記第1段第1切込と前記第2段第1切込とは、前記所定方向から見た際に、重複も離間もしないように配置されている繊維強化シート積層体。
【請求項2】
前記第1切込及び前記第2切込は、前記所定方向に延在していて、
複数の前記第1切込及び前記第2切込は、前記所定方向に複数段に亘って形成されており、
前記所定方向の第1段に形成される前記第1切込及び前記第2切込は、前記所定方向と交差する方向である前記第1方向に離間して配置されていて、
前記所定方向の第2段に形成される前記第1切込及び前記第2切込は、隣接する前記第1段に形成された前記第1切込及び前記第2切込同士の間の前記第1方向における中点に配置されていて、
前記第1段の前記第1切込及び前記第2切込の前記所定方向の一端と、前記第2段の前記第1切込及び前記第2切込の前記所定方向の他端とは、前記所定方向における同じ位置とされていて、
複数の前記第1切込及び複数の前記第2切込の配置が、以下の式(1)で定義される請求項1に記載の繊維強化シート積層体。
【数1】
ここで、nは、自然数、
θは、前記第1方向と前記第2方向とが為す角度、
lは、前記第1切込及び前記第2切込の前記所定方向の長さ、
Lは、前記第1方向に隣接する前記第1切込及び前記第2切込同士の前記第1方向の間隔である。
【請求項3】
前記第1方向及び前記第2方向は、前記第1繊維強化シート及び前記第2繊維強化シートに対して曲げ加工を施した際に、前記第1繊維強化シート及び前記第2繊維強化シートに圧縮力又は引張力が作用する方向に沿う方向である請求項1または請求項2に記載の繊維強化シート積層体。
【請求項4】
積層される複数の繊維強化シートを有する繊維強化シート積層体であって、
複数の前記繊維強化シートは、第1方向へ第1繊維が延在する第1繊維強化シートと、前記第1方向とは異なる第2方向へ第2繊維が延在する第2繊維強化シートと、を有し、
前記第1繊維強化シートは、切断された前記第1繊維が同じ長さとなるように前記第1繊維を切断する複数の第1切込を有し、
前記第2繊維強化シートは、切断された前記第2繊維が同じ長さとなるように前記第2繊維を切断する複数の第2切込を有し、
前記第1切込と前記第2切込とは、積層される方向から見た際に重複するように配置されていて、
前記第1切込及び前記第2切込は、所定方向に延在していて、
複数の前記第1切込及び前記第2切込は、前記所定方向に複数段に亘って形成されており、
前記所定方向の第1段に形成される前記第1切込及び前記第2切込は、前記所定方向と交差する方向である交差方向に離間して配置されていて、
前記所定方向の第2段に形成される前記第1切込及び前記第2切込は、隣接する前記第1段に形成された前記第1切込及び前記第2切込同士の間の前記交差方向における中点に配置されていて、
前記第1段の前記第1切込及び前記第2切込の前記所定方向の一端と、前記第2段の前記第1切込及び前記第2切込の前記所定方向の他端とは、前記所定方向における同じ位置とされていて、
複数の前記第1切込及び複数の前記第2切込の配置が、以下の式(2)で定義される繊維強化シート積層体。
【数2】
ここで、nは、自然数、
θは、前記第1方向と前記第2方向とが為す角度、
lは、前記第1切込及び前記第2切込の前記所定方向の長さ、
Lは、前記交差方向に隣接する前記第1切込及び前記第2切込同士の前記交差方向の間隔である。
【請求項5】
第1方向へ第1繊維が延在する第1繊維強化シートと、前記第1方向とは異なる第2方向へ第2繊維が延在する第2繊維強化シートとを積層する積層工程と、
積層された前記第1繊維強化シート及び前記第2繊維強化シートに対して、前記第1方向及び前記第1方向と交差する方向である所定方向にずれるように配置される第1段第1切込及び第2段第1切込を含む複数の切込を形成し、前記第1繊維及び前記第2繊維を切断する切込工程と、を備え、
前記切込工程では、切断された前記第1繊維が同じ長さとなるように前記第1繊維を切断し、切断された前記第2繊維が同じ長さとなるように前記第2繊維を切断するように前記切込を形成するとともに、前記第1段第1切込と前記第2段第1切込とは、前記所定方向から見た際に、重複も離間もしないように前記切込を形成する繊維強化シート積層体の製造方法。
【請求項6】
前記切込は、前記所定方向に延在していて、
前記切込工程では、複数の前記切込が前記所定方向に複数段に亘って形成され、前記所定方向の第1段に形成される前記切込が前記所定方向と交差する方向である前記第1方向に離間して配置され、前記所定方向の第2段に形成される前記切込が隣接する前記第1段に形成された前記切込同士の間の前記交差方向における中点に配置され、前記第1段の前記切込の前記所定方向の一端と前記第2段の前切込の前記所定方向の他端とが前記所定方向における同じ位置とされ、複数の前記切込の配置が以下の式(3)で定義されるように複数の前記切込を形成する請求項に記載の繊維強化シート積層体の製造方法。
【数3】
ここで、nは自然数、
θは、前記第1方向と前記第2方向とが為す角度、
lは、前記切込の前記所定方向の長さ、
Lは、前記第1方向に隣接する前記切込同士の前記第1方向の間隔である。
【請求項7】
請求項または請求項に記載の繊維強化シート積層体の製造方法で製造した前記繊維強化シート積層体から構造体を製造する方法であって、
前記第1繊維強化シート及び前記第2繊維強化シートに対して、前記第1方向及び前記第2方向に圧縮力又は引張力が作用するように曲げ加工を施す曲げ加工工程を備えた構造体の製造方法。
【請求項8】
第1方向へ第1繊維が延在する第1繊維強化シートと、前記第1方向とは異なる第2方向へ第2繊維が延在する第2繊維強化シートとを積層する積層工程と、
積層された前記第1繊維強化シート及び前記第2繊維強化シートに対して複数の切込を形成し、前記第1繊維及び前記第2繊維を切断する切込工程と、を備え、
前記切込工程では、切断された前記第1繊維が同じ長さとなるように前記第1繊維を切断し、切断された前記第2繊維が同じ長さとなるように前記第2繊維を切断するように前記切込を形成し、
前記切込は、所定方向に延在していて、
前記切込工程では、複数の前記切込が前記所定方向に複数段に亘って形成され、前記所定方向の第1段に形成される前記切込が前記所定方向と交差する方向である交差方向に離間して配置され、前記所定方向の第2段に形成される前記切込が隣接する前記第1段に形成された前記切込同士の間の前記交差方向における中点に配置され、前記第1段の前記切込の前記所定方向の一端と前記第2段の前切込の前記所定方向の他端とが前記所定方向における同じ位置とされ、複数の前記切込の配置が以下の式(4)で定義されるように複数の前記切込を形成する繊維強化シート積層体の製造方法。
【数4】
ここで、nは自然数、
θは、前記第1方向と前記第2方向とが為す角度、
lは、前記切込の前記所定方向の長さ、
Lは、前記交差方向に隣接する前記切込同士の前記交差方向の間隔である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、繊維強化シート積層体並びに繊維強化シート積層体の製造方法及び構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機の胴体、主翼等の航空機部品は、複合材、例えば炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が用いられるものがある。航空機部品を構成するCFRP製の構造部材(複合材構造体)は、任意の断面形状を有している。このような複合材構造体を製造する方法の1つに、複数の繊維強化シートを積層することで、平坦もしくは平坦に近い形状の積層体(チャージとも呼ばれる。)を製作し、この積層体に対して曲げ加工を施すことで、任意の断面形状を付す方法がある。
【0003】
このような方法で、断面形状変化や捩れ、曲率を有する部品を製造する場合には、曲率を有する形状となるように積層体に対して曲げ加工を施すこととなる。この時、積層体の曲率領域では、内側と外側に周長差が発生する。しかしながら、繊維強化シートは繊維が延在する方向(以下、「繊維方向」と称する)に伸縮性を有さない。したがって、曲げ加工を施した際に、繊維強化シートの繊維方向によっては、周長差を吸収できずに、積層体に皺が発生し易くなる可能性がある。積層体に皺が発生すると、強度が低減する可能性がある。
【0004】
このような問題を解決するために、強化繊維シートに対して、繊維を切断する切込を形成することが知られている(例えば、特許文献1)。
【0005】
特許文献1では、一方向に引き揃えられた強化繊維とマトリックス樹脂とからなるプリプレグ基材2a~2dに対して、繊維方向と直交する方向または所定角度を持って切り込みを入れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4779754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
積層体を製造する際に、繊維強化シートを1枚ずつ積層するのではなく、予め複数枚の繊維強化シートを積層した繊維強化シート積層体を積層することで、積層体を製造する工程を簡略化する場合がある。特許文献1では、このような繊維強化シート積層体に切込を形成することは考慮されていない。
【0008】
繊維強化シート積層体の繊維を切断するために、図12で示すように、マルチスタック材100に連続した長い切込101を形成する方法が考えられる。しかしながら、例えば、層間の粘着性が無いもしくは弱いドライ繊維強化シートで繊維強化シート積層体が構成されている場合には、図12に示すように、繊維強化シート100aが捲れてしまう不具合や、各繊維強化シート100a,100bがばらばらになってしまう不具合等が生じ易くなってしまう可能性があった。
【0009】
また、このような不具合の発生を抑制する為に、繊維強化シート積層体に対して、図13に示すように、断続的に切り込みを入れる方法が考えられる。しかしながら、例えば、積層される繊維強化シート毎に繊維方向が異なる場合には、繊維強化シート積層体に切込を形成しても、いずれかの繊維強化シートにおいて、繊維が等間隔に切断できていない場合がある。その場合、当該繊維強化シートにおいて、意図せずに繊維長が短くなり、強度低下が起きることがある。また、当該繊維強化シートにおいて、意図せずに繊維長が長くなり、切込を形成したことによる賦形性の向上効果が得られないことがある。
【0010】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであって、繊維強化シート積層体の強度の低下を抑制することができる繊維強化シート積層体並びに繊維強化シート積層体の製造方法及び構造体の製造方法を提供することを目的とする。
また、繊維強化シート積層体の賦形性を向上させることができる繊維強化シート積層体並びに繊維強化シート積層体の製造方法及び構造体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の一態様に係る繊維強化シート積層体は、積層される複数の繊維強化シートを有する繊維強化シート積層体であって、複数の前記繊維強化シートは、第1方向へ第1繊維が延在する第1繊維強化シートと、前記第1方向とは異なる第2方向へ第2繊維が延在する第2繊維強化シートと、を有し、前記第1繊維強化シートは、切断された前記第1繊維が同じ長さとなるように前記第1繊維を切断する複数の第1切込を有し、前記第2繊維強化シートは、切断された前記第2繊維が同じ長さとなるように前記第2繊維を切断する複数の第2切込を有し、前記第1切込と前記第2切込とは、積層される方向から見た際に重複するように配置されている。
【0012】
本開示の一態様に係る繊維強化シート積層体の製造方法は、第1方向へ第1繊維が延在する第1繊維強化シートと、前記第1方向とは異なる第2方向へ第2繊維が延在する第2繊維強化シートとを積層する積層工程と、積層された前記第1繊維強化シート及び前記第2繊維強化シートに対して複数の切込を形成し、前記第1繊維及び前記第2繊維を切断する切込工程と、を備え、前記切込工程では、切断された前記第1繊維が同じ長さとなるように前記第1繊維を切断し、切断された前記第2繊維が同じ長さとなるように前記第2繊維を切断するように前記切込を形成する。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、繊維強化シート積層体の強度の低下を抑制することができる。また、繊維強化シート積層体の賦形性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本開示の実施形態に係るマルチスタック材の斜視図である。
図2】本開示の第1実施形態に係るマルチスタック材に含まれる第1繊維強化シートの模式的な平面図である。
図3】本開示の第1実施形態に係るマルチスタック材に含まれる第2繊維強化シートの模式的な平面図である。
図4】本開示の第1実施形態の変形例に係るマルチスタック材に含まれる第3繊維強化シートの模式的な平面図である。
図5】本開示の実施形態に係るチャージに対して曲げ加工を施した状態を示す斜視図である。
図6】本開示の実施形態に係るチャージに対して曲げ加工を施した状態を示す斜視図である。
図7図3の変形例を示す模式的な平面図である。
図8】本開示の第2実施形態に係るマルチスタック材に含まれる第2繊維強化シートの模式的な平面図である。
図9図8の変形例を示す模式的な平面図である。
図10】本開示の第3実施形態に係るマルチスタック材に含まれる繊維強化シートの模式的な平面図である。
図11図10の変形例を示す模式的な平面図である。
図12】参考例に係るマルチスタック材の斜視図である。
図13図12に示す参考例に係るマルチスタック材の平面図である。
図14図12に示す参考例に係るマルチスタック材に含まれる第1繊維強化シートの平面図である。
図15図12に示す参考例に係るマルチスタック材に含まれる第2繊維強化シートの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本開示に係る繊維強化シート積層体並びに繊維強化シート積層体の製造方法及び構造体の製造方法の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0016】
〔第1実施形態〕
本開示の第1実施形態について、図1から図6を用いて説明する。本実施形態では、複数の繊維強化シートが積層されたマルチスタック材(繊維強化シート積層体)1を複数積層することで、平坦または平坦に近い形状のチャージ2を製作し、このチャージ2に対して曲げ加工を施すことで所望の形状の複合材構造体(構造体)3を製造する。複合材構造体3は、例えば、航空機構造体を構成する航空機部品であるストリンガ、スパー、フレーム、リブ等に用いられる。
【0017】
本実施形態に係るマルチスタック材1は、図1に示すように、積層される第1繊維強化シート10及び第2繊維強化シート20を有する。第1繊維強化シート10及び第2繊維強化シート20は、層間の粘着性が無いもしくは弱いドライ繊維強化シートとされている。第1繊維強化シート10と第2繊維強化シート20とは、ガラス繊維等で形成された糸で縫い付けられることで一体化されている。
【0018】
第1繊維強化シート10は、図2に示すように、0度方向(第1方向)に延在する複数の第1繊維11を有している。0度方向とは、チャージ2に対して曲げ加工を施す際に圧縮力が作用する方向(図5の矢印A3参照)又は引張力が作用する方向(図6の矢印A6参照)に沿う方向である。なお、図2における左右方向に延びる線は、第1繊維11を図示している。
また、図2に示すように、第1繊維強化シート10は、第1繊維11を切断する複数の第1切込12を有している。各第1切込12は、90度方向(所定方向)に延在している。90度方向とは、0度方向を基準とした角度であって、0度方向に対して90度の角度を為す方向である。
複数の第1切込12は、千鳥状に配置されている。また、複数の第1切込12は、切断された第1繊維11が同じ長さとなるように配置されている。なお、第1切込12の形状及び配置の詳細については、後述する。
【0019】
第2繊維強化シート20は、図3に示すように、45度方向(第2方向)に延在する複数の第2繊維21を有している。45度方向とは、第1繊維11が延在する方向である0度方向に対して45度の角度を為す方向である。なお、図3における斜線は、第2繊維21を図示している。
また、図3に示すように、第2繊維強化シート20は、第2繊維21を切断する複数の第2切込22を有している。各第2切込22は、90度方向に延在している。
複数の第2切込22は、千鳥状に配置されている。また、複数の第2切込22は、切断された第2繊維21が同じ長さとなるように配置されている。なお、第2切込22の形状及び配置の詳細については、後述する。
【0020】
次に、第1切込12及び第2切込22の形状及び配置の詳細について説明する。
第1切込12及び第2切込22の形状は、同形状とされている。また、第1切込12及び第2切込22は、第1繊維強化シート10と第2繊維強化シート20が積層された状態のマルチスタック材1に対して、積層方向に貫通するように切込を形成することで形成される。したがって、第1切込12と第2切込22とは、積層される方向からマルチスタック材1を見た際に重複するように配置されている。よって、以下では、複数の第1切込12の配置について説明し、複数の第2切込22の配置についての説明は省略する。
【0021】
図2に示すように、複数の第1切込12は、全て同形状となるように形成されている。各第1切込12は、90度方向の長さがlとされている。
【0022】
第1切込12は、90度方向に複数段に亘って形成されている。本実施形態では、90度方向に沿って、第1段13と第2段14とが連続するように形成されている。
【0023】
第1段13に形成される第1切込12は、90度方向と交差する方向である0度方向(交差方向)に離間して配置されている。また、第1段13に形成される第1切込12は、0度方向に等間隔(後述する間隔L)に並んで配置されている。
第2段14に形成される第1切込12も0度方向に離間して配置されている。また、第2段14に形成される第1切込12は、0度方向に等間隔(後述する間隔L)に並んで配置されている。また、第2段14に形成される第1切込12は、隣接する第1段13に形成された第1切込12同士の間の0度方向における中点に配置されている。
また、第1段13の第1切込12の90度方向の一端と、第2段14の第1切込12の90度方向の他端とは、90度方向における同じ位置とされている。すなわち、第1段13の第1切込12及び第2段14の第1切込12は、0度方向から見た際に、重複も離間もしないように配置されている。
【0024】
また、複数の第1切込12及び複数の第2切込22は、以下の式(1)を満たすように配置される。
【0025】
【数1】
ここで、nは任意の自然数である。θは、第1繊維11が延在する方向(本実施形態では0度方向)と第2繊維21が延在する方向(本実施形態では45度方向)とが為す角度である。lは、第1切込12の90度方向の長さである。Lは、0度方向に隣接する第1切込12同士の間隔である。
【0026】
本実施形態では、θは45度である。したがって、tanθは、1となる。また、本実施形態では、nは1とされている。
以上から、θ及びnの値を上記式(1)に代入すると、l=L/4となる。すなわち、第1切込12の長さlは、第1切込12同士の間隔であるLの1/4の長さとされている。
【0027】
次に、本実施形態に係るマルチスタック材1の製造方法、マルチスタック材1から製作されるチャージ2の製造方法、及び、チャージ2から製造される複合材構造体3の製造方法について説明する。
【0028】
まず、マルチスタック材1を製造する方法について説明する。
図1に示すように、第1繊維強化シート10の上に第2繊維強化シート20を積層し、第1繊維強化シート10と第2繊維強化シート20とをガラス繊維等の糸で縫い付けることで固定する。次に、固定された状態の第1繊維強化シート10及び第2繊維強化シート20に対して、回転するカッター等で複数の切込を形成する。切込は、第1繊維強化シート10及び第2繊維強化シート20を積層方向に貫通するように形成される。この切込が、第1繊維強化シート10における第1切込12となり、第2繊維強化シート20における第2切込22となる。複数の切込は、上述の説明の配置となるように形成される。このようにして、マルチスタック材1が製造される。
【0029】
次に、チャージ2を製造する方法について説明する。
製造されたマルチスタック材1を複数積層することで平坦または平坦に近い形状のチャージ2を製造する。
【0030】
次に、複合材構造体3を製造する方法について説明する。
チャージ2に対して、曲げ加工を施す。このとき、図5及び図6に示すように、曲げ線4が湾曲するように曲げ加工を施す。図5に示すチャージ2A及び複合材構造体3Aの例では、曲げ線4Aが上方に突出するように湾曲している。また、図6に示すチャージ2B及び複合材構造体3Bの例では、曲げ線4Bが下方に突出するように湾曲している。以下では、図5に示す例と図6に示す例とで区別する必要がない場合には、単にチャージ2,複合材構造体3及び曲げ線4と記載する。
【0031】
このように曲げ加工を施すと、チャージ2に周長差が生じる。具体的には、図5に示す例では、曲げ線4Aから遠い部分の周長A1が、曲げ線4Aに近い部分の周長A2よりも短くなる。これにより、周長が短い部分において、矢印A3に示す方向に、圧縮力が作用する。図5の例では、曲げ線4Aに沿う方向が、圧縮力が作用する方向である。また、本実施形態では、圧縮力が作用する方向は、マルチスタック材1における0度方向である。
また、図6に示す例では、曲げ線4Bから遠い部分の周長A4が、曲げ線4Bに近い部分の周長A5よりも長くなる。これにより、周長が長い部分において、矢印A6に示す方向に、引張力が作用する。図6の例では、曲げ線4Bに沿う方向が、引張力が作用する方向である。また、本実施形態では、引張力が作用する方向は、マルチスタック材1における0度方向である。
【0032】
チャージ2に対する曲げ加工が終了すると複合材構造体3の製造が完了する。
【0033】
なお、チャージ2を構成する全てのマルチスタック材1に切込を形成する必要はない。すなわち、一部のマルチスタック材1にのみ切込を形成してもよい。例えば、0度方向に繊維が延在する繊維強化シートを含むマルチスタック材1に切込を形成し、0度方向に繊維が延在する繊維強化シートを含まないマルチスタック材1には切込を形成しないようにしてもよい。このようにすることで、曲げ加工を施した際に皺の発生の要因になり易い0度方向に延在する繊維を切断することができるので、チャージ2の賦形性を向上させることができる。よって、皺の発生を抑制することができる。また、一部のマルチスタック材1にのみ切込を形成しているので、全てのマルチスタック材1に切込を形成する場合と比較して、チャージ2の製造工程を簡易化することができる。
【0034】
本実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
本実施形態では、積層された状態の第1繊維強化シート10及び第2繊維強化シート20に対して、積層方向に切込を入れることで、第1切込12と第2切込22とを1度に形成している。したがって、第1切込12と第2切込22とを別々に形成する場合と比較して、容易に第1切込12及び第2切込22を形成することができる。
【0035】
また、本実施形態では、第1段13の第1切込12及び第2切込22の90度方向の一端と、第2段14の第1切込12及び第2切込22の90度方向の他端とが、90度方向における同じ位置とされている。また、複数の第1切込12及び複数の第2切込22の配置が、上記の式(1)で定義される。これにより、第1繊維強化シート10において、切断された第1繊維11が同じ長さとなるように、第1切込12を形成することができる。また、第2繊維強化シート20において、切断された第2繊維21が同じ長さとなるように、第2切込22を形成することができる。
【0036】
具体的には、第1段13の第1切込12及び第2切込22の90度方向の一端と、第2段14の第1切込12及び第2切込22の90度方向の他端とが、90度方向における同じ位置とされている。これにより、図2に示すように、第1繊維強化シート10において、第1段13の第1繊維11の長さも、第2段14の第1繊維11の長さもLとなる。すなわち、第1繊維強化シート10は、すべての第1繊維11の長さが等しくなる。
【0037】
また、複数の第1切込12及び複数の第2切込22の配置が、上記の式(1)で定義される。これにより、図3に示すように、第2繊維強化シート20において、特定の第2切込22同士の間に延在する第2繊維21(図3の網掛け領域に存在する第2繊維21)の長さS1は√2(L)となる。また、他の第2切込22同士の間に延在する第2繊維21(例えば、図3の網掛け領域と隣接する領域に存在する第2繊維21)の長さS2も√2(L)となる。このように、第2繊維強化シート20は、すべての第2繊維21の長さが等しくなる。
【0038】
このように、上記構成では、第1繊維強化シート10及び第2繊維強化シート20において、各々、切断された第1繊維11及び第2繊維21の長さを等しくすることができる。よって、第1繊維11及び第2繊維21の長さを均一化することができる。また、切断された第1繊維11及び第2繊維21が、極端な長さとならないので、第1繊維11及び第2繊維21の長さを所定の長さとすることができる。したがって、第1繊維強化シート10及び第2繊維強化シート20の何れにおいても、全域に亘って強度及び賦形性を均一化することができ、所定の強度及び賦形性を確保することができる。よって、マルチスタック材1の強度の低下を抑制することができる。また、マルチスタック材1の賦形性を向上させることができる。
【0039】
なお、例えば、図13の参考例に示すように、上記式(1)を満たさないように、マルチスタック材105に複数の切込106を形成する場合がある。この場合には、たとえ第1段13の切込の90度方向の一端と、第2段14の切込の90度方向の他端とが、90度方向における同じ位置とされるように複数の切込が配置されたとしても、図14に示すように第1繊維強化シート107においては第1切込111によって切断される第1繊維109の長さが等しくなるものの、図15に示すように第2繊維強化シート108においては第2切込112によって切断される第2繊維110の長さが等しくならない。詳細には、第2繊維強化シート108においては、短い第2繊維110(矢印S5参照)と、長い第2繊維110(矢印S6参照)とが生じる。したがって、第2繊維強化シート108においては、所定の強度及び賦形性を確保することができない可能性がある。なお、図14における左右方向に延びる線は、第1繊維109を図示している。また、図15における斜線は、第2繊維110を図示している。
【0040】
また、繊維強化シートに曲げ加工を施すと、当該繊維強化シートに圧縮力又は引張力が作用する場合がある(図5及び図6参照)。繊維強化シートに含まれる繊維は、繊維の延在方向に伸縮し難い。このため、圧縮力又は引張力が作用する方向に沿って繊維が延在している場合、繊維が圧縮力又は引張力を吸収することができず、繊維強化シートに皺が発生してしまい、繊維強化シートの強度が低下する場合がある。
本実施形態では、第1繊維11が延在する方向である0度方向及び第2繊維21が延在する方向である45度方向が、チャージ2に対して曲げ加工を施した際に、第1繊維強化シート10及び第2繊維強化シート20に圧縮力又は引張力が作用する方向に沿う方向である。このため、圧縮力又は引張力が作用する方向に延在する繊維を切断することができる。したがって、第1繊維強化シート10及び第2繊維強化シート20の賦形性を向上させることができる。よって、皺の発生を抑制することができる。
なお、圧縮力又は引張力が作用する方向に沿う方向とは、圧縮力又は引張力が作用する方向と直交する方向(本実施形態では90度方向)以外の方向であってもよい。
【0041】
なお、上記説明では、マルチスタック材1が第1繊維強化シート10及び第2繊維強化シート20で構成される例について説明したが、本開示はこれに限定されない。例えば、マルチスタック材1は、第3繊維強化シート30を有していてもよい。第3繊維強化シート30は、図4に示すように、-45度方向に延在する複数の第3繊維31を有している。-45度方向とは、第1繊維11が延在する方向である0度方向に対して45度の角度を為す方向であって、かつ、第2繊維21が延在する方向である45度方向に対して90度の角度を為す方向である。なお、図4における斜線は、第3繊維31を図示している。
また、図4に示すように、第3繊維強化シート30は、第3繊維31を切断する複数の第3切込32を有している。複数の第3切込32は、千鳥状に配置されている。また、複数の第3切込32は、切断された第3繊維31が同じ長さとなるように配置されている。第3切込32は、第1切込12及び第2切込22と、積層される方向からマルチスタック材1を見た際に重複するように配置されている。第3切込32の形状及び配置は、上述の第1切込12及び第2切込22と同じであるので、詳細な説明は省略する。
第3繊維強化シート30においても、特定の第3切込32同士の間に延在する第3繊維31(図4の網掛け領域に存在する第3繊維31)の長さS3は√2(L)となる。また、他の第3切込32同士の間に延在する第3繊維31の長さS4も√2(L)となる。このように、第3繊維強化シート30は、すべての第3繊維31の長さが等しくなる。
【0042】
〔変形例1〕
なお、上記第1実施形態では、上記(1)に代入する自然数が1の場合について設目したが、上記式(1)に代入する自然数nは1以外の自然数であってもよい。図7では、nが2とされた場合の第2切込22Bの配置を示している。なお、θは、第1実施形態と同様に45度である。この場合には、l=L/8となる。すなわち、第2切込22Bの長さlは、第2切込22B同士の間隔であるLの1/8の長さとされている。
このように、変形例の場合であっても、第1繊維強化シート10において、切断された第1繊維11が同じ長さとなるように、第1切込12を形成することができる。また、第2繊維強化シート20Bにおいて、切断された第2繊維21Bが同じ長さとなるように、第2切込22Bを形成することができる。なお、図7における斜線は、第2繊維21Bを図示している。
なお、切込の長さlが長い場合には、繊維の切断がし易く、賦形性が向上するという効果を奏する。また、切込の長さlが短い場合には、形状保持性が向上するという効果を奏する。切込の長さl(換言すれば、自然数n)は、このようなメリットを考慮して、製造される複合材構造体3の形状等によって決定してもよい。
【0043】
〔第2実施形態〕
次に、本開示の第2実施形態について、図8を用いて説明する。
本実施形態に係るマルチスタック材1は、第2繊維強化シート20Cの第2繊維21Cが延在する方向が、30度方向である点で第1実施形態と異なっている。また、マルチスタック材1に形成する切込の長さlが異なっている点で第1実施形態と異なっている。その他の点については第1実施形態と同様であるので、同様の構成については同一の符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0044】
本実施形態に係る第2繊維強化シート20Cは、図8に示すように、30度方向(第2方向)に延在する複数の第2繊維21Cを有している。30度方向とは、第1繊維11が延在する方向である0度方向に対して30度の角度を為す方向である。このように、本実施形態では、θが30度となる。したがって、tanθは、1/√3となる。また、本実施形態でも、nは1とされている。
以上から、θ及びnの値を上記式(1)に代入すると、l=L/(4√3)となる。すなわち、第1切込12の長さlは、第1切込12同士の間隔であるLの1/(4√3)の長さとされている。
【0045】
これにより、図8に示すように、第2繊維強化シート20Cにおいて、特定の第2切込22C同士の間に延在する第2繊維21C(図8の網掛け領域に存在する第2繊維21C)の長さは(2/√3)Lとなる。また、他の第2切込22C同士の間に延在する第2繊維21C(例えば、図の網掛け領域と隣接する領域に存在する第2繊維21C)の長さも(2/√3)Lとなる。このように、第2繊維強化シート20Cは、すべての第2繊維21Cの長さが等しくなる。よって、本実施形態においても、上記第1実施形態と同じ効果を奏する。なお、図8における斜線は、第2繊維21Cを図示している。
【0046】
以上のように、第1繊維が延在する方向と第2繊維が延在する方向とが為す角度θが、上記第1実施形態で説明した45度以外の角度であっても、第2繊維強化シートにおいて、切断される第2繊維同士の長さを等しくすることができる。
【0047】
〔変形例2〕
なお、上記第2実施形態では、上記(1)に代入する自然数が1の場合について説明したが、上記式(1)に代入する自然数nは1以外の自然数であってもよい。図9では、nが2とされた場合の第2切込22Dの配置を示している。なお、θは、第2実施形態と同様に30度である。この場合には、l=L/(8√3)となる。すなわち、第2切込22Dの長さlは、第2切込22D同士の間隔であるLの1/(8√3)の長さとされている。
このように、変形例の場合であっても、第2繊維強化シート20Dにおいて、切断された第2繊維21Dが同じ長さとなるように、第2切込22Dを形成することができる。なお、図9における斜線は、第2繊維21Dを図示している。
【0048】
〔第3実施形態〕
次に、本開示の第3実施形態について、図10を用いて説明する。
本実施形態に係るマルチスタック材1は、第2繊維強化シート40の第2繊維41が延在する方向が、90度方向である点で第1実施形態と異なっている。また、マルチスタック材1に形成する切込の形状及び配置が異なっている点で第1実施形態と異なっている。その他の点については第1実施形態と同様であるので、同様の構成については同一の符号を付してその詳細な説明は省略する。なお、図10では、図示の関係上、平面視したマルチスタック材1に第1繊維強化シート10の第1繊維11及び第2繊維強化シート40の第2繊維41の両方を図示している。また、図10における縦方向の線は第1繊維11を図示している。また、図10の左右方向の線は第2繊維41を図示している。
【0049】
実施形態に係る第2繊維強化シート40は、図10に示すように、第2繊維41が90度方向(第2方向)に延在している。90度方向とは、第1繊維11が延在する方向である0度方向に対して90度の角度を為す方向である。
【0050】
本実施形態の切込42は、90度方向に延在する第1方向切込43と、0度方向に延在する第2方向切込44とを有している。第1方向切込43と第2方向切込44とは、十字形状となるように配置されている。
【0051】
複数の第1方向切込43は、90度方向に複数段に亘って形成されている。また、90度方向に沿って、第1段45と第2段46とが連続するように形成されている。第1段45に形成される第1方向切込43は、90度方向と交差する方向である0度方向に離間して配置されている。また、第1段45に形成される第1方向切込43は、0度方向に等間隔(間隔L3)に並んで配置されている。
第2段46に形成される第1方向切込43も0度方向に離間して配置されている。また、第2段46に形成される第1方向切込43は、0度方向に等間隔(間隔L3)に並んで配置されている。また、第2段46に形成される第1方向切込43は、隣接する第1段45に形成された第1方向切込43同士の間の0度方向における中点に配置されている。
また、第1段45の第1方向切込43の90度方向の一端と、第2段46の第1方向切込43の90度方向の他端とは、90度方向における同じ位置とされている。
【0052】
また、複数の第2方向切込44は、0度方向に複数段に亘って形成されている。また、0度方向に沿って、第1段48と第2段49とが連続するように形成されている。第1段48に形成される第2方向切込44は、0度方向と交差する方向である90度方向に離間して配置されている。また、第1段48に形成される第2方向切込44は、0度方向に等間隔(間隔L4)に並んで配置されている。
第2段49に形成される第2方向切込44も90度方向に離間して配置されている。また、第2段49に形成される第2方向切込44は、90度方向に等間隔(間隔L4)に並んで配置されている。また、第2段49に形成される第2方向切込44は、隣接する第1段48に形成された第2方向切込44同士の間の90度方向における中点に配置されている。
また、第1段48の第2方向切込44の0度方向の一端と、第2段49の第2方向切込44の0度方向の他端とは、0度方向における同じ位置とされている。
【0053】
このように切込を形成した場合であっても、第1繊維強化シート10において、切断される第1繊維11の長さを同じ長さとすることができる。また、第2繊維強化シート40において、切断される第2繊維41の長さを同じ長さとすることができる。よって、本実施形態においても、上記第1実施形態と同じ効果を奏する。
【0054】
なお、間隔L3と間隔L4とは同じ長さであってもよく、異なる長さであってもよい。
【0055】
〔変形例3〕
なお、第1方向切込43と第2方向切込44とは、図11に示すように、90度方向及び0度方向に沿って所定の間隔で並んで配置されてもよい。
【0056】
なお、本開示は、上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、適宜変形が可能である。
例えば、上記実施形態では、繊維強化シートとして、ドライ繊維強化シートを用いる例について説明したが、本開示はこれに限定されない。例えば、繊維強化シートとして、樹脂に繊維が含浸した繊維強化シート(例えば、プリプレグ等)を用いてもよい。
【0057】
各実施形態に記載の繊維強化シート積層体並びに繊維強化シート積層体の製造方法及び構造体の製造方法は、例えば以下のように把握される。
本開示の一態様に係る繊維強化シート積層体は、積層される複数の繊維強化シート(10,20)を有する繊維強化シート積層体(1)であって、複数の前記繊維強化シートは、第1方向へ第1繊維(11)が延在する第1繊維強化シート(10)と、前記第1方向とは異なる第2方向へ第2繊維(21)が延在する第2繊維強化シート(20)と、を有し、前記第1繊維強化シートは、切断された前記第1繊維が同じ長さとなるように前記第1繊維を切断する複数の第1切込(12)を有し、前記第2繊維強化シートは、切断された前記第2繊維が同じ長さとなるように前記第2繊維を切断する複数の第2切込(22)を有し、前記第1切込と前記第2切込とは、積層される方向から見た際に重複するように配置されている。
【0058】
上記構成では、第1切込と第2切込とは、積層される方向から見た際に重複するように配置されている。これにより、積層された状態の第1繊維強化シート及び第2繊維強化シートに対して、積層方向に切込を入れるだけで、第1切込と第2切込とを1度に形成することができる。したがって、第1切込と第2切込とを別々に形成する場合と比較して、容易に第1切込及び第2切込を形成することができる。また、第1切込と第2切込とが重複するように配置されているので、第1繊維強化シート及び第2繊維強化シートが積層された状態であっても、第1切込及び第2切込を形成することができる。
また、上記構成では、切断された第1繊維が同じ長さとなるよう第1切込が形成されている。また、切断された第2繊維が同じ長さとなるように第2切込が形成されている。これにより、第1繊維強化シート及び第2繊維強化シートにおいて、各々、切断された第1繊維及び第2繊維の長さを均一化することができる。また、切断された第1繊維及び第2繊維が、極端な長さとならないので、第1繊維及び第2繊維の長さを所定の長さとすることができる。したがって、第1繊維強化シート及び第2繊維強化シートの何れにおいても、全域に亘って強度及び賦形性を均一化することができ、所定の強度及び賦形性を確保することができる。よって、繊維強化シート積層体の強度の低下を抑制することができる。また、繊維強化シート積層体の賦形性を向上させることができる。
なお、賦形性とは、繊維強化シートや繊維強化シート積層体を変形させる際に、所望の形状への賦形し易さを示している。
【0059】
本開示の一態様に係る繊維強化シート積層体は、前記第1切込及び前記第2切込は、所定方向に延在していて、複数の前記第1切込及び前記第2切込は、前記所定方向に複数段に亘って形成されており、前記所定方向の第1段(13)に形成される前記第1切込及び前記第2切込は、前記所定方向と交差する方向である交差方向に離間して配置されていて、前記所定方向の第2段(14)に形成される前記第1切込及び前記第2切込は、隣接する前記第1段に形成された前記第1切込及び前記第2切込同士の間の前記交差方向における中点に配置されていて、前記第1段の前記第1切込及び前記第2切込の前記所定方向の一端と、前記第2段の前記第1切込及び前記第2切込の前記所定方向の他端とは、前記所定方向における同じ位置とされていて、複数の前記第1切込及び複数の前記第2切込の配置が、以下の式(2)で定義される。
【0060】
【数2】
ここで、nは、自然数、
θは、前記第1方向と前記第2方向とが為す角度、
lは、前記第1切込及び前記第2切込の前記所定方向の長さ、
Lは、前記交差方向に隣接する前記第1切込及び前記第2切込同士の前記交差方向の間隔である。
【0061】
上記構成では、複数の第1切込及び複数の第2切込の配置が、上記の式(2)で定義される。これにより、第1繊維強化シートにおいて、切断された第1繊維が同じ長さとなるように、第1切込を形成することができる。また、第2繊維強化シートにおいて、切断された第2繊維が同じ長さとなるように、第2切込を形成することができる。したがって、第1繊維強化シート及び第2繊維強化シートの何れにおいても、全域に亘って強度及び賦形性を均一化することができ、所定の強度及び賦形性を確保することができる。よって、繊維強化シート積層体の強度の低下を抑制することができる。また、繊維強化シート積層体の賦形性を向上させることができる。
【0062】
本開示の一態様に係る繊維強化シート積層体は、前記第1方向及び前記第2方向は、前記第1繊維強化シート及び前記第2繊維強化シートに対して曲げ加工を施した際に、前記第1繊維強化シート及び前記第2繊維強化シートに圧縮力又は引張力が作用する方向に沿う方向である。
【0063】
繊維強化シートに曲げ加工を施すと、当該繊維強化シートに圧縮力又は引張力が作用する場合がある。繊維強化シートに含まれる繊維は、繊維の延在方向に伸縮し難い。このため、圧縮力又は引張力が作用する方向に沿って繊維が延在している場合、繊維が圧縮力又は引張力を吸収することができず、繊維強化シートに皺が発生してしまい、繊維強化シートの強度が低下する場合がある。
上記構成では、第1繊維が延在する方向である第1方向及び第2繊維が延在する方向である第2方向が、第1繊維強化シート及び第2繊維強化シートに対して曲げ加工を施した際に、第1繊維強化シート及び第2繊維強化シートに圧縮力又は引張力が作用する方向に沿う方向である。このため、圧縮力又は引張力が作用する方向に延在する繊維を切断することができる。したがって、第1繊維強化シート及び第2繊維強化シートの賦形性を向上させることができる。
なお、圧縮力又は引張力が作用する方向に沿う方向とは、圧縮力又は引張力が作用する方向と直交する方向以外の方向であってもよい。
【0064】
本開示の一態様に係る繊維強化シート積層体の製造方法は、第1方向へ第1繊維(11)が延在する第1繊維強化シート(10)と、前記第1方向とは異なる第2方向へ第2繊維(21)が延在する第2繊維強化シート(20)とを積層する積層工程と、積層された前記第1繊維強化シート及び前記第2繊維強化シートに対して複数の切込を形成し、前記第1繊維及び前記第2繊維を切断する切込工程と、を備え、前記切込工程では、切断された前記第1繊維が同じ長さとなるように前記第1繊維を切断し、切断された前記第2繊維が同じ長さとなるように前記第2繊維を切断するように前記切込を形成する。
【0065】
上記構成では、切断された第1繊維及び第2繊維が同じ長さとなるよう切込が形成されている。これにより、第1繊維強化シート及び第2繊維強化シートにおいて、各々、切断された繊維の長さを均一化することができる。また、切断された繊維が、極端な長さとならないので、繊維の長さを所定の長さとすることができる。したがって、第1繊維強化シート及び第2繊維強化シートの何れにおいても、全域に亘って強度及び賦形性を均一化することができ、所定の強度及び賦形性を確保することができる。よって、繊維強化シート積層体の強度の低下を抑制することができる。また、繊維強化シート積層体の賦形性を向上させることができる。
【0066】
本開示の一態様に係る繊維強化シート積層体の製造方法は、前記切込は、所定方向に延在していて、前記切込工程では、複数の前記切込が前記所定方向に複数段に亘って形成され、前記所定方向の第1段(13)に形成される前記切込が前記所定方向と交差する方向である交差方向に離間して配置され、前記所定方向の第2段(14)に形成される前記切込が隣接する前記第1段に形成された前記切込同士の間の前記交差方向における中点に配置され、前記第1段の前記切込の前記所定方向の一端と前記第2段の前切込の前記所定方向の他端とが前記所定方向における同じ位置とされ、複数の前記切込の配置が以下の式(3)で定義されるように複数の前記切込を形成する。
【0067】
【数3】
ここで、nは自然数、
θは、前記第1方向と前記第2方向とが為す角度、
lは、前記切込の前記所定方向の長さ、
Lは、前記交差方向に隣接する前記切込同士の前記交差方向の間隔である。
【0068】
本開示の一態様に係る構造体の製造方法は、上記いずれかに記載の繊維強化シート積層体の製造方法で製造した前記繊維強化シート積層体から構造体(3)を製造する方法であって、前記第1繊維強化シート及び前記第2繊維強化シートに対して、前記第1方向及び前記第2方向に圧縮力又は引張力が作用するように曲げ加工を施す曲げ加工工程を備えている。
【0069】
上記構成では、第1繊維強化シート及び第2繊維強化シートに対して、第1方向及び第2方向に圧縮力又は引張力が作用するように曲げ加工を施している。このため、切込工程において、圧縮力又は引張力が作用する方向に延在する繊維を切断することとなる。したがって、第1繊維強化シート及び第2繊維強化シートの賦形性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0070】
1 :マルチスタック材(繊維強化シート積層体)
2 :チャージ
2A :チャージ
2B :チャージ
3 :複合材構造体(構造体)
3A :複合材構造体(構造体)
3B :複合材構造体(構造体)
4 :曲げ線
4A :曲げ線
4B :曲げ線
10 :第1繊維強化シート
11 :第1繊維
12 :第1切込
13 :第1段
14 :第2段
20 :第2繊維強化シート
20B :第2繊維強化シート
20C :第2繊維強化シート
20D :第2繊維強化シート
21 :第2繊維
21B :第2繊維
21C :第2繊維
21D :第2繊維
22 :第2切込
22B :第2切込
22C :第2切込
22D :第2切込
30 :第3繊維強化シート
31 :第3繊維
32 :第3切込
40 :第2繊維強化シート
41 :第2繊維
42 :切込
43 :第1方向切込
44 :第2方向切込
45 :第1段
46 :第2段
48 :第1段
49 :第2段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15