(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-20
(45)【発行日】2024-06-28
(54)【発明の名称】低CO2排出量の複合材を生成するために低カーボンフットプリントで生成されるカーボンナノ材料の使用
(51)【国際特許分類】
C01B 32/15 20170101AFI20240621BHJP
C01B 32/174 20170101ALI20240621BHJP
C01B 32/18 20170101ALI20240621BHJP
C01B 32/182 20170101ALI20240621BHJP
C04B 14/38 20060101ALI20240621BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20240621BHJP
C22C 1/10 20230101ALI20240621BHJP
C25B 1/135 20210101ALI20240621BHJP
【FI】
C01B32/15
C01B32/174
C01B32/18
C01B32/182
C04B14/38 A
C04B28/02
C22C1/10 G
C25B1/135
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023095474
(22)【出願日】2023-06-09
(62)【分割の表示】P 2021518604の分割
【原出願日】2019-10-29
【審査請求日】2023-06-27
(32)【優先日】2018-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521134086
【氏名又は名称】シー2シーエヌティー,エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】リヒト,ステュアート
(72)【発明者】
【氏名】リヒト,ガッド
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/138469(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/193974(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第107988507(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0229494(US,A1)
【文献】S. LICHT,Co-production of cement and carbon nanotubes with a carbon negative footprint,Journal of CO2 Utilization,2017年,Vol.18,p.378-389
【文献】SAKDIRAT KAEWUNRUEN; ET AL,SUSTAINABLE AND SELF-SENSING CONCRETE,ANNUAL CONCRETE CONFERENCE,UNIVERSITY OF BIRMINGHAM,2017年02月16日,PAGE(S):1-11,http://pure-oai.bham.ac.uk/ws/files/39656760/Fullpaper_acc12_Eng_Sakdirat_Kaewunruen.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/15
C01B 32/174
C01B 32/18
C01B 32/182
C04B 14/38
C04B 28/02
C22C 1/10
C25B 1/135
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合材料を形成する方法であって、
高カーボンフットプリント物質を提供するステップと、
電気分解によって溶融炭酸塩から形成されるカーボンナノ材料を形成するステップであって、前記カーボンナノ材料は、1単位重量のカーボンナノ材料の生成中に10単位重量未満の二酸化炭素(CO
2)排出量のカーボンフットプリントを有するステップと、
分散液中のいかなる添加剤も溶解することなく、液体中のカーボンナノ材料に超音波処理、撹拌又はこれらの組み合わせを行うことでカーボンナノ材料の分散液を形成するステップと、
前記高カーボンフットプリント物質と、0.001重量%~25重量%の前記カーボンナノ材料とを含む複合材
料を形成するために前記分散液を前記高カーボンフットプリント物質に添加するステップであって、前記カーボンナノ材料は、前記カーボンナノ材料が前記複合材料中に分散され、前記高カーボンフットプリント物質と比較して前記複合材料を生成するための二酸化炭素排出量を低減し、かつ、前記複合材料の所望の特性を高めるステップと、を含む、方法。
【請求項2】
前記カーボンフットプリントは負であり、前記カーボンナノ材料の生成中の二酸化炭素の正味消費量を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記カーボンナノ材料は、10~1000の平均アスペクト比を有するカーボンナノファイバーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記カーボンナノ材料は、カーボンナノチューブ、らせん状カーボンナノチューブ、絡み合っていないカーボンナノファイバー、カーボンナノオニオン、カーボンナノ足場、ナノプレートレット及びグラフェンの1つ以上を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記
添加するステップは、前記高カーボンフットプリント物質の固相又は液相又は気相に前記カーボンナノ材料を添加することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記
添加するステップは、前記
分散液を前記高カーボンフットプリント物質と混合
することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記溶融炭酸塩は、溶融電解質中で二酸化炭素と金属酸化物との反応によって生成される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記金属酸化物は酸化リチウムである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記溶融炭酸塩は、リチウム化炭酸塩を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記高カーボンフットプリント物質は、セメント、コンクリート、モルタル、及びグラウトの1つ以上を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記高カーボンフットプリント物質は金属を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記高カーボンフットプリント物質は、プラスチック材料、樹脂、セラミック、ガラス、絶縁体、導電体、ポリマー、木材、ラミネート、段ボール及び乾式壁の1つ以上を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記所望の特性は、前記カーボンナノ材料なしの前記高カーボンフットプリント物質と比較して、改善された機械的強度特性である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記所望の特性は、前記カーボンナノ材料なしの前記高カーボンフットプリント物質と比較して、改善された曲げ強度特性である、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記所望の特性は、前記カーボンナノ材料なしの前記高カーボンフットプリント物質と比較して、改善された導電性特性である、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年10月29日に出願された米国仮特許出願第62/752,124号、表題「Massively amplified carbon cycle GHG CO2 removal with C2CNT carbon nanotube-composites」および2019年8月23日に出願された米国仮特許出願第62/890,719号、表題「Massively amplified carbon cycle GHG CO2 removal with C2CNT carbon nanotube-composites」の優先権および利点を主張し、各々の内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、低CO2排出量の複合材を生成するために低カーボンフットプリントで生成されるカーボンナノ材料の使用、および関連する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
セメント、金属等の構造材料は、様々な用途および産業において有用である。例えば、セメントおよび金属は、建物、橋、道路の建設に有用であり、金属は、自動車ならびに産業機器および家電製品の製造に有用である。特定の用途に適した構造材料は、特定の機械的強度および他の物理的特性を必要とする場合があり、それが所与の建設プロジェクトまたは製品の設計およびコストに制限を課す可能性がある。構造材料の広範囲の使用は、世界的な二酸化炭素排出量および気候変動に大きく寄与している。構造材料への添加剤は、改善された望ましい特性を備えた複合材、合金、または混合物を形成することができ、ラミネート、絶縁体、または乾式壁は、改善された望ましい特性を備えた複合材、合金、または混合物を形成することができる。
【0004】
改善された望ましい特性を備えた複合材、合金、または混合物を形成するために、添加剤によって構造材料の特性を増強することがしばしば望ましい。望ましい特性の例として、引張強度、圧縮強度、および曲げ強度、ならびに耐久性が挙げられる。同様に、導電体、ガラス、セラミック、紙、樹脂、ポリマー、またはプラスチック、積層段ボール、絶縁体、または乾式壁等の他の材料への添加剤は、改善された望ましい特性を備えた複合材、合金、または混合物を形成することができる。望ましい特性の例として、導電性または絶縁性、熱伝導性または絶縁性、小さな体積または重量、耐破壊性、柔軟性および強度が挙げられる。
【0005】
増強された望ましい特性を備えた複合材を形成するための添加剤には欠点もあり、例えば、技術的な複雑さ、例えば、複合材の形成の複雑さ、添加剤の所望の特性の欠如、もしくは添加剤の不均一性、もしくはスケールアップの複雑さ、または添加剤の不足により複合材のコストが法外に高くなること、ならびに製造における二酸化炭素排出量が増加し、世界的な二酸化炭素排出量および気候変動に寄与する等である。さらに、バージン構造材料、または導電体、ガラス、セラミック、紙、ポリマー、樹脂プラスチック、積層段ボール、絶縁体、または乾式壁の製造は、多くの場合、大きなカーボンフットプリントに関連している。例えば、典型的なステンレス鋼の製造は、製造される1トンの鋼当たり6.15トンの排出CO2のカーボンフットプリントを有する。アルミニウムの製造は、典型的には、製品1トン当たり11.9トンのCO2を排出する。チタンの製造は、典型的には、製品1トン当たり8.1のCO2を排出する。マグネシウムの製造は、典型的には、製品1トン当たり14トンのCO2を排出し、銅の製造は、典型的には、製品1トン当たり5トンのCO2を排出する。低減されたカーボンフットプリントを有する材料を形成することが望ましいことが多い。カーボンフットプリントが低減されると、温室効果ガスの二酸化炭素排出量が減少する。二酸化炭素は気候変動の一因となり、地球温暖化、海面上昇、干ばつ、洪水、厳しい気象事象、経済的損失、健康への悪影響、生息地の喪失、および種の絶滅を含む悪影響を及ぼす。
【発明の概要】
【0006】
本開示は、低カーボンフットプリントの、容易に混合できる、工業的にスケーラブルな、費用効果の高いカーボンナノ材料を含む複合材を形成し、高カーボンフットプリント物質と比較して複合材料を生成するための二酸化炭素排出量を低減するために、セメント、金属、木材などの構造材料、または導電体、ガラス、セラミック、紙、ポリマーまたはプラスチック、積層段ボール、絶縁体、または乾式壁等の高カーボンフットプリント物質を組み合わせる方法に関する。
【0007】
一態様では、低減カーボンフットプリント材料を形成する方法であって、改善された1つまたは複数の特性を有する複合材に変換される第1の高カーボンフットプリント物質を提供することと、1単位重量のカーボンナノ材料の生成に10単位重量未満の二酸化炭素(CO2)排出量のカーボンフットプリントで生成されるカーボンナノ材料を含む材料を提供することと、第1の構造材料と、0.001重量%~25重量%のカーボンナノ材料とを含む複合材を形成することと、を含み、カーボンナノ材料が複合材中に均一に分散される、方法が提供される。
【0008】
前項の方法では、カーボンフットプリントは1~10、または0~1であり得る。カーボンフットプリントは負であってもよく、これはカーボンナノ材料の生成中の二酸化炭素の正味消費量を示し得る。カーボンナノ材料は、複合材中に容易に分散するように、絡み合わない真っ直ぐなカーボンナノチューブを含み得る。カーボンナノ材料は、カーボンナノファイバーを含み得る。カーボンナノファイバーは、10~1000の平均アスペクト比、および3nm~999nmの厚さを有し得る。ナノファイバーは、カーボンナノチューブを含み得る。ナノファイバーは、らせん状カーボンナノチューブを含み得る。カーボンナノファイバーは、絡み合っていないカーボンナノファイバーを含み得る。カーボンナノ材料は、カーボンナノオニオンを含み得る。カーボンナノ材料は、カーボンナノ足場を含み得る。カーボンナノ材料は、ナノプレートレットを含み得る。カーボンナノ材料は、グラフェンを含み得る。この方法は、複合材を形成するために、構造材料の固相、液相、または気相に補強材を添加することを含み得る。この方法は、カーボンナノ材料を液体に分散させて第1の混合物を形成することと、第1の混合物を構造材料と混合して第2の混合物を形成することと、第2の混合物から複合材を形成することと、を含み得る。液体は水を含み得る。カーボンナノ材料は、電気分解によって溶融炭酸塩から形成され得る。溶融炭酸塩は、溶融電解質中で二酸化炭素と金属酸化物との反応によって生成され得る。金属酸化物は、酸化リチウムであり得る。溶融炭酸塩は、炭酸リチウム、リチウム化炭酸塩、またはアルカリおよび/もしくはアルカリ土類炭酸塩混合物を含み得る。構造材料は、セメント、コンクリート、モルタル、またはグラウトを含み得る。構造材料は、アルミニウム、鋼、マグネシウム、およびチタンのうちの1つまたは複数等の金属を含み得る。構造材料は、プラスチック材料を含み得る。構造材料は、ポリマーを含み得る。構造材料は、木材を含み得る。構造材料は、段ボールを含み得る。構造材料は、ラミネートを含み得る。構造材料は、乾式壁を含み得る。他の高カーボンフットプリント物質は、樹脂、セラミック、ガラス、および絶縁体または導電体を含み得る。カーボンナノ材料は、複合材において1,000μm未満のドメインサイズを有し得る。複合材は、0.01重量%~1重量%、または0.01重量%~0.5重量%、または0.01重量%~0.3重量%、または0.01重量%~0.1重量%のカーボンナノ材料を含み得る。
【0009】
別の態様では、本明細書に記載の方法に従って生成される複合材が提供される。
【0010】
さらなる態様では、構造材料を補強するための、1単位重量のカーボンナノ材料の生成中に10単位重量未満の二酸化炭素(CO2)排出量のカーボンフットプリントで生成されるカーボンナノ材料の使用が提供される。
【0011】
さらなる態様では、構造材料を補強するための構造材料を含む複合材におけるカーボンナノ材料の使用が提供され、カーボンナノ材料は、1単位重量のカーボンナノ材料の生成中に10単位重量未満の二酸化炭素(CO2)排出量のカーボンフットプリントで生成される。
【0012】
さらなる態様では、複合材の製造中の二酸化炭素(CO2)の全体的な排出量を低減するために、構造材料およびカーボンナノ材料を含む複合材において低カーボンフットプリントで生成されるカーボンナノ材料の使用が提供され、低カーボンフットプリントは、1単位重量のカーボンナノ材料の生成中の10単位重量未満のCO2排出量のカーボンフットプリントである。カーボンナノ材料は、電気分解によって溶融炭酸塩から生成することができる。複合材は、本明細書に記載の複合材であり得る。
【0013】
本発明の他の態様および特徴は、添付の図と併せて本発明の特定の実施形態の以下の説明を検討することにより、当業者に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図は、例としてのみ、本発明の実施形態を示す。
【0015】
【
図1A】電気分解によって溶融炭酸塩から生成されたサンプルカーボンナノチューブの走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
【
図1B】水に均質に分散した水とカーボンナノチューブの混合物を含むガラス容器の写真画像である
。図1C
は、図1Bの混合物から形成された複合材料の写真画像である。
【
図2】本開示の一実施形態による、構造材料とカーボンナノ材料との複合材を生成するための例示的な生成プロセスを示す概略ブロック図である。
【
図3】より低いカーボンフットプリントの構造材料への構造材料-カーボンナノ材料複合材経路の課題と、より環境に優しい構造材料へのハードルの除去を示すブロック図である。
【
図4】溶融炭酸塩および二酸化炭素からカーボンナノ材料を生成する電解システムのブロック図である。
【
図5】1日CO2変換量2トンのC2CNTプラントの建築の写真を含む。
【
図6】サンプルカーボンナノチューブのラマンスペクトルを示す。
【
図7】サンプルカーボンナノオニオンのラマンスペクトルを示す。
【
図8】グラフェンおよびカーボンプレートレットのラマンスペクトルサンプルを示す。
【
図10】らせん状カーボンナノチューブのサンプルを示す。
【
図11】ラミネートカーボンナノ材料コンポーネントのサンプルを示す。
【
図12】カーボンナノチューブの添加によるCO2低減のセメントおよびアルミニウムの例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
カーボンナノ材料を使用して、増強された特性を有する複合材を形成できることが認識されている。しかしながら、従来のカーボンナノ材料は、大きなカーボンフットプリントで製造され、高コストで形成され、一般に、高品質の複合材に必要とされる均質な分散の妨げとなる、ねじれて絡み合った材料を形成する。今日まで、カーボンナノ材料の大規模な(商業的)製造は、化学蒸着(CVD)合成の変形例によって達成されてきた。例えば、カーボンナノチューブ(CNT)を製造するための典型的な従来の技術はCVD合成を利用する。CNTのCVD合成は、一般に、単純混合の妨げとなる、ねじれて絡み合ったCNTを生じさせる。絡み合ってねじれたCNTは、水性混合物中で凝集する傾向があるため、セメントまたはコンクリート等の水混合物に基づく複合材に均質に分散させることが困難である。セメントまたはコンクリート内のCNTの不均一な分布によって、製品の完全性が損なわれ、補強材の効率的な利用が低下する。CVD合成は、高価な有機金属(または金属と有機物の混合物)を希薄な濃度および非常に高いエネルギーで利用する。これには高い準備費用が必要であり、高い市場コスト(例えば、CNTの場合は1トン当たり100,000ドル超、グラフェンの場合は1トン当たり1,000,000ドル超)をもたらす。したがって、複合材を製造するためにCVDによって製造されたカーボンナノチューブを使用することは実用的かつ経済的ではない。さらに、CVDプロセスは大きなカーボンフットプリントを有し、例えば、1トンのカーボンナノ材料を製造するために最大600トンのCO2を排出する(V.Khanna、B.R.Bakshi、L.J.Lee、J.Ind.Ecology、12(2008)394-410.)。本明細書で使用される場合、特定の生成物の「カーボンフットプリント」という用語は、一般に、その特定の生成物の製造中に排出される二酸化炭素(CO2)の量を指す。Fcと示される「カーボンフットプリント」という表現は、カーボンフットプリントの特定の測定基準を表すために本明細書で使用され、Fc=1単位重量の生成物の製造中に排出されるCO2の単位重量数である。Fcは、製造中に排出される総CO2と、製造中に生成される特定の生成物との重量比として算出される。Fc=(製造中に排出されるCO2の重量)/(生成される生成物の重量)。したがって、CVDは、約FC=600のカーボンフットプリントを有する。セメントと、カーボンナノチューブ(CNT)等のカーボンナノファイバーとの複合材を生成する際のさらなる技術的課題は、CVDによって生成されるCNTが非常に絡み合っており、水性混合物中で凝集する傾向があるため、コンクリートに均質に分散させるのが困難であるということである。コンクリート内のCNTの不均一な分布により、製品の完全性が損なわれ、補強材の効率的な利用が低下する。
【0017】
低カーボンフットプリントのカーボンナノ材料は、低コストで、反応物としてCO2を使用して、例えばC2CNT(CO2 to Carbon Nanotube)合成として、電気分解によって溶融炭酸塩から生成することができる。しかしながら、技術的課題によりプロセスのスケールアップが妨げられ、材料は依然として不足している。C2CNT CNTの例は「真っ直ぐ」と称されてきたが、合成され、グループ化された、示されるCNTの各例は、「絡み合った」と呼ばれるCNTよりもねじれが少ないものの、目に見えて絡み合っており、かつねじれているかまたはかぎ状である。絡み合ってねじれたCNTは凝集する傾向があるため、複合材に均質に分散させることが困難である。C2CNTの例において、真っ直ぐとは、炭素の欠陥の中でもより少ないsp3結合を含むCNTを特に指し、絡み合ったCNTは、より多くのsp3欠陥を含む。電気分解によって溶融炭酸塩からカーボンナノ材料を生成するための例示的なプロセスは、例えば、Licht et al.,“Transformation of the greenhouse gas CO2 by molten electrolysis into a wide controlled selection of carbon nanotubes,” J.CO2 Utilization,2017,vol.18,pp.335-344;Ren et al.,“One-pot synthesis of carbon nanofibers from CO2,” Nano Lett.,2015,vol.15,pp.6142-6148;Johnson et al.,“Carbon nanotube wools made directly from CO2 by molten electrolysis:Value driven pathways to carbon dioxide greenhouse gas mitigation,” Materials Today Energy,2017,pp.230-236;Johnson et al.,“Data on SEM, TEM and Raman Spectra of doped,and wool carbon nanotubes made directly from CO2 by molten electrolysis,” Data in Brief,2017,vol.14,pp.592-606;Ren et.al.,“Tracking airborne CO2 mitigation and low cost transformation into valuable carbon nanotubes,” Scientific Reports,Nature,2016,vol.6,pp.1-10;Licht et al.,“Carbon nanotubes produced from ambient carbon dioxide for environmentally sustainable lithium-ion and sodium-ion battery anodes,” ACS Cent.Sci.,2015,vol.2,pp.162-168;Dey et al.,“How does amalgamated Ni cathode affect carbon nanotube growth?A density functional theory study,” RSC Adv.,2016,vol.6,pp.27191-27196;Wu et al., “One-pot synthesis of nanostructured carbon material from carbon dioxide via electrolysis in molten carbonate salts,” Carbon,2016,vol.106,pp.208-217;Lau et. al., “Thermodynamic assessment of CO2 to carbon nanofiber transformation for carbon sequestration in a combined cycle gas or a coal power plant,” Energy Convers.Manag.,2016,vol.122,pp.400-410;Licht, “Co-production of cement and carbon nanotubes with a carbon negative footprint,”J.CO2 Utilization,2017,vol.18,pp.378-389;Ren et al.,“Transformation of the greenhouse gas CO2 by molten electrolysis into a wide controlled selection of carbon nanotubes,” J.CO2 Utilization,2017,vol.18,pp.335-344;Licht et al.,“A new solar carbon capture process:solar thermal electrochemical photo(STEP)carbon capture,” J.Phys.Chem.Lett.,2010,vol.1,pp.2363-2368;Licht,“STEP(Solar Thermal Electrochemical Photo)Generation of Energetic Molecules:A Solar Chemical Process to End Anthropogenic Global Warming,” J.Phys.Chem.C,2009,vol.113,pp.16283-16292;Wang et al., “Exploration of alkali cation variation on the synthesis of carbon nanotubes by electrolysis of CO2 in molten electrolytes,”J.CO2 Utilization,2019,vol.34,pp.303-312;Liu et al.,“Carbon nano-onions made directly from CO2 by molten electrolysis for greenhouse gas mitigation,” Adv.Sustainable Syst.,2019,vol.3,1900056;Licht et al.,“Amplified CO2 reduction of greenhouse gas emissions with C2CNT carbon nanotube composites,” Mater.Today Sustainability, 2019,vol.6,100023;Lichtに対するUS9,758,881、表題“Process for electrosynthesis of energetic molecule;”、Lichtに対するUS9,683,297、表題“Apparatus for molten salt electrolysis with solar photovoltaic electricity supply and solar thermal and heating of molten salt electrolysis”、Lichtに対するUS2019/0039040、表題“Methods and systems for carbon nanofiber production”、Lichtに対するWO2016/138469、表題“Methods and systems for carbon nanofiber production”、Lichtに対するWO2018/093942、表題“Methods and systems for production of elongated carbon nanofibers”、およびLichtに対するWO2018/156642、表題“Methods and systems for production of doped carbon nanomaterials.”に開示されている。
【0018】
簡単に概説すると、本開示の一態様は、低減された二酸化炭素排出量で複合材を生成するプロセスであって、複合高カーボンフットプリント物質が、低フットプリントの、容易に分散可能なカーボンナノ材料(CNM)とともに形成されるプロセスに関する。本明細書に記載される研究の前は、CNMは、高コストで、かつ絡み合った状態で、高カーボンフットプリントで大量生産されるのみであると考えられていた。低カーボンフットプリントのCNMは、製造することはできたが、同じく絡み合っており、複合材に均一に分散することができず、大量生産されなかった。驚くべきことに、低カーボンフットプリントのCNMを、絡み合っていない様式で、低コストで、大量生産することができ、低カーボンフットプリントの複合材を形成する高フットプリント物質内に容易に分散させることができると分かった。
【0019】
好都合なことに、電気分解によって溶融炭酸塩から生成されるカーボンナノ材料は、化学蒸着(CVD)合成、火炎合成、またはプラズマ合成等の他の従来の技術によって生成されるカーボンナノ材料と比較して、比画的低カーボンフットプリントかつ比較的低コストで生成することができる。この場合、低コストとは、(i)1トン当たり2,000ドル未満が掛かる相対的なアルミニウム製造コスト、および(ii)CNM添加剤のコストだけで、複合材に使用されるバージンの高カーボンフットプリント物質のみのコストを超えないコストを指す。この場合、高コストとは、化学蒸着によるCNMの商業生産に典型的な、1トン当たり100,000ドル超または1,000,000ドル超等のコストを指す。
【0020】
しかしながら、以前の溶融炭酸塩型CNMは、工業用寸法電極へのスケールアップ、高温溶融炭酸塩と互換性のある大電流相互接続、および工業条件でのCO2ガス反応物の管理等、スケールアップに技術的課題をもたらした。さらに、以前のすべての溶融合成は、絡み合った、ねじれた、または重なり合ったCNMを生じていた。このような絡み合い、ねじれ、または重なり合いは、均質な複合材に必要とされるCNMの容易な分離および均一で均質な分散に対する技術的障害である。
【0021】
図1Aに示されるように、溶融炭酸塩電解の新しい条件は、絡み合わない、ねじれない、または重なり合わないCNMを生成する。溶融炭酸塩電解によるCNMの生成は、電極材料の選択、電解質組成、および温度等の電解条件を制御することにより、CNM製品を実質的に制御できる。
図1Aに示されるように、Muntz真鍮カソードおよびInconelアノードを用いる、73% Li
2CO
3、17% Na
2CO
3、および10% LiBO
2からなる(重量%)740℃の電解質の新しい条件は、真っ直ぐなカーボンナノチューブを生じさせる。CNT生成物の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。CNT生成物は97.5%の高いクーロン効率で生成される(97.5%の印加電荷は、CO
2の4電子還元と一致するCNT質量をもたらす)。
【0022】
図1Aの絡み合っていないCNTは疎水性であったが、短時間の超音波処理により促進された水中に、容易に、均一に分散された。均質に分散したCNTの水性懸濁液をポルトランドセメントと混合し、得られた混合物をCNT-セメント複合材に容易に流し込み、生成されたCNTの0.048重量%をポルトランドセメントに加えてCNT-セメント複合材を形成した。複合材の0.75単位重量未満は、1単位重量の純粋なセメントと同じ機械的強度を提供し、質量を少なくとも25%低減できることが観察された。同じ強度の低フットプリントCNMを含む複合材によって形成される高フットプリント物質であるセメントの質量低減により、生成に必要なセメントが少なくなり、高カーボンフットプリント物質と比較して複合材料を生成するための二酸化炭素排出量が低減される。
【0023】
好ましい実施形態では、高カーボンフットプリント物質は、低カーボンフットプリントのカーボンナノ材料と組み合わされ、高カーボンフットプリント物質と比較して二酸化炭素排出量が低減された複合材を形成する。好ましい実施形態では、低カーボンフットプリントのカーボンナノ材料は工業的にスケーラブルであり、絡み合わないカーボンナノ材料を生成する。さらに好ましい実施形態では、高カーボンフットプリント物質は、セメント、金属、木材等の構造材料である。さらに好ましい実施形態では、高カーボンフットプリント物質は、導電体、ガラス、セラミック、紙、ポリマーまたはプラスチック、積層段ボール、絶縁体、または乾式壁である。
【0024】
本明細書における「低カーボンフットプリント」は、Fc≦10のカーボンフットプリントを指す。CO2を排出せずに、または正味消費量のCO2で生成されるプロセスまたは生成物は、低カーボンフットプリントであるとみなされ、FC≦0である。
【0025】
電気分解によって溶融炭酸塩からCNMを生成すると、反応物としてCO2が消費されるため、負のカーボンフットプリントを有する。
【0026】
高コスト、負の環境影響、および技術的な問題といった上記の欠点は全て、商業的および工業的用途におけるCVDおよび他の同様の従来の技術によって製造されるカーボンナノ材料の限定された利用に寄与する可能性が高いことが本発明者らによって認識された。
【0027】
カーボンナノ材料をコンクリートまたは金属構造などの構造材料に追加すると、得られる複合材料は、引張強度、圧縮強度、および曲げ強度等の改善された機械的特性を有することができる。例えば、カーボンナノチューブ(CNT)は、最大約93,900Mpaの引張強度を有し、0.05重量%未満、0.8重量%未満、または1重量%未満等の少量のCNTをセメントに添加することにより、大幅に改善された機械的特性を有するカーボンナノチューブ-セメント(CNT-セメント)複合材を生成できることが証明されている。例えば、複合材の引張強度、圧縮強度、および曲げ強度は、通常の場合は45%等、バージンセメントの強度よりも高くなり得る。
【0028】
図2は、本開示の一実施形態による例示的なプロセスS10を示している。
【0029】
示されるように、S12で高カーボンフットプリント物質が提供される。物質は、例として、電気的、磁気的、電磁的、または化学的特性等の他の特性とは対照的に、材料の機械的特性の観点から、主に物理的構造を提供するか、または物理的構造を支持するために使用される構造材料であり得る。一般的な構造材料は、コンクリート、セメント、モルタル、グラウト、鋼、アルミニウム、鉄、マグネシウム、チタン等の金属、または合金、木材、板紙または段ボール、プラスチック材料、複合材等を含む。いくつかの用途において、構造材料は、その機械的特性に加えて、他の特性を考慮して選択され得ることに留意されたい。
【0030】
S12で提供される構造材料は、当業者に既知の従来の技術を含む任意の技術によって取得、生成、または調製することができる。
【0031】
例えば、セメントは、乾式または湿式プロセスを使用して生成することができる。いくつかの実施形態では、セメントは、カルシウム、ケイ素、アルミニウム、鉄、および当業者に既知の他の成分の制御された化学的組み合わせによって生成することができる。セメントを製造するために使用される成分は、石灰岩、貝殻、ならびに頁岩、粘土、粘板岩、高炉スラグ、珪砂、および鉄鉱石と組み合わせたチョークまたは泥灰土を含む。これらの成分を高温で加熱して岩のような物質を形成し、それを微粉末に粉砕してセメントを形成することができる。コンクリートは、砂、フライアッシュ、または粉砕した岩等を含む凝集物の添加を含む。
【0032】
典型的なセメントおよび/またはコンクリートの製造プロセスでは、細かく粉砕された原材料、または水と混合された原材料のスラリーが、窯の上部で窯に供給され得る。窯の下端には炎があり、これは、強制ドラフト下での粉末石炭、油、または他の燃料もしくはガスの正確に制御された燃焼によって生成され得る。材料が窯の中を移動すると、特定の元素が気体の形態で追い出され、残りの元素が結合してクリンカーを形成し、それが窯から抽出または排出されて、冷却される。冷却されたクリンカーは粉砕され、少量の石膏および石灰石と混合され得る。乾式工程では、原料を水と混合せずに粉砕する。湿式プロセスでは、原料は窯に供給される前に水で粉砕される。加熱された石灰石は二酸化炭素を放出し、石灰石のか焼、処理および燃料の燃焼は、セメントおよびコンクリートの製造において温室効果ガスの二酸化炭素を排出する。
【0033】
金属または合金の構造材料も、既知の技術に従って生成することができる。セメントまたはコンクリートと同様に、金属または合金の構造材料は、建築、輸送、ならびに商品の支持および梱包におけるそれらの広範囲の使用によって広く明らかであるが、これらの製品カーボンフットプリントの物質のイオンは高いカーボンフットプリントを有し、地球温暖化および気候変動に寄与する。
【0034】
カーボンナノ材料はS14で提供される。カーボンナノ材料は、高カーボンフットプリントを有するCVD、アーク放電、またはレーザーアブレーション等の従来の技術を用いて生成されるのではなく、Fc≦5、Fc≦3、Fc≦1、またはFc≦0等のFc≦10の低カーボンフットプリントのプロセスによって生成される。いくつかの実施形態では、Fc<0であり、カーボンナノ材料は正味のCO2消費量で生成される。いくつかの実施形態では、Fcは0~1である。
【0035】
S16は、高カーボンフットプリント物質S12と低カーボンフットプリントカーボンナノ材料S14とを組み合わせて、元の高カーボンフットプリント物質をあまり必要としない、より強力な複合材を生成する。
【0036】
比較の目的で、
図3は、複合材を形成するための異なる可能な経路21、31、41、51、61、および71を有する可能なプロセス20と、より低いカーボンフットプリント材料への既存の材料-カーボンナノ材料複合経路21、31、41の課題と、経路51、61、および71を介する等、本開示の実施形態に従って生成され得る、より環境に優しいカーボンフットプリント物質へのハードルの除去とを示す。
【0037】
特に、可能な経路21では、高カーボンフットプリント物質は、22において低カーボンフットプリントカーボンナノ材料と組み合わせることができる。しかしながら、経路21は、23のバツ印(×)によって示されるように、より高いカーボンフットプリントの物質およびカーボンナノ材料の両方の高いカーボンフットプリントのために、より低いカーボンフットプリントの複合材24の形成を阻害する。したがって、当業者は、低カーボンフットプリントの複合材料24を生成するために経路21を取るに至らなかった。
【0038】
可能な経路31では、カーボンフットプリント物質を32で高価なカーボンナノ材料と組み合わせることができる。しかしながら、高コストは、当業者が経路31を取る意欲をそぐものであり、当業者は、33のバツ印(×)によって示されるように、より低いカーボンフットプリントの複合材料34を生成するために経路31を取るに至らなかった。
【0039】
可能な経路41に示されるように、42で従来の技術によって生成されるカーボンナノ材料は、絡み合う傾向があり、高カーボンフットプリント物質に分散できないため、バツ印(×)43によって示されるように、より低いカーボンフットプリントの高カーボンフットプリント物質44の生成には適していない。均一なカーボンナノ材料の分散は、CNM複合材の改善された特性を提供できることを理解されたい。しかしながら、既存の従来の技術によって大量に生産されたCNMは、一般に、凝集するかまたは絡み合っており、したがって、それらを分散に適さないものにしている。
【0040】
比較すると、本開示のいくつかの実施形態では、経路51、61、71のうちの1つまたは複数を取って、製品カーボンフットプリントを低減することができる。
【0041】
本明細書に開示されるいくつかの実施形態によれば、経路51を取ることによって、安価で低カーボンフットプリントの複合材料を生成することができる。経路51によれば、57で、カーボンフットプリント物質を52で生成された低カーボンフットプリントのカーボンナノ材料と組み合わせて、同じ強度を達成するために使用される高カーボンフットプリント物質の量を減少させるより強力な複合材料を57で提供することができる。使用される高カーボンフットプリント物質の量を減少させると、高カーボンフットプリント物質生成の二酸化炭素排出量を低減し、元の高カーボンフットプリント物質と比較して複合材料57のカーボンフットプリントを低減する。52のカーボンナノ材料の生成における異なる要因または処理ステップは、製品カーボンフットプリントの低減に寄与し得る。例えば、53に示されるように、カーボンナノ材料の生成におけるより低いカーボンフットプリントは、反応物としてCO2を使用してカーボンナノ材料を生成することで達成することができる。54に示されるように、より容易な反応性は、製品カーボンフットプリントの低減に寄与し得る。55に示されるように、より低いエネルギーおよび/またはより少ない二酸化炭素排出エネルギーを必要とする処理ステップは製品カーボンフットプリントの低減に寄与し得る。
【0042】
経路61において、低カーボンフットプリントを有する複合材64を形成するために、高カーボンフットプリント物質が、62において低生成コストで生成される低コストカーボンナノ材料と組み合わされる。経路61は、強度が増加したより安価な複合材料64を提供することができ、これはまた、同じ強度を達成するために使用される高カーボンフットプリント物質の量を減少させ、元の高カーボンフットプリント物質と比較して複合材料のカーボンフットプリントを低減する。
【0043】
経路71では、高カーボンフットプリント物質が、72で生成され、かつ特定のCNM複合特性の増強に合わせて調整されたカーボンナノ材料と組み合わされて、複合材74を形成する。調整されたCNMの例には、CNM複合材の電気伝導率だけでなく強度も改善するためのホウ素ドープCNM、CNT複合材の圧縮強度を改善するための厚壁CNT、またはCNT複合材の曲げ強度を改善するための長いCNTが含まれ得る。高カーボンフットプリント物質と組み合わされた調整されたCNMを組み合わせて、74で所望のより低いカーボンフットプリントの複合材料を形成することができる。
【0044】
カーボンナノ材料は、閉鎖繊維または固体で充填された固体ナノフィラメントのカーボンナノチューブ(CNT)等のカーボンナノファイバーの形態で提供され得る。カーボンナノチューブ(CNT)は、単層CNT(SWCNT)または多層CNT(MWCNT)であり得る。カーボンナノファイバーは、以下で説明する理由により、好都合に絡み合っていない、すなわち、絡み合いがないか、または絡み合いの程度が低くなり得る。
【0045】
いくつかの実施形態では、カーボンナノ材料は、10~1000の平均アスペクト比を有するカーボンナノファイバーであり得る。カーボンナノファイバーは、3nm~999nmの厚さを有し得る。
【0046】
いくつかの実施形態では、カーボンナノ材料は、カーボンナノオニオン、カーボンナノ足場、カーボンナノプレートレット、またはグラフェンを含み得る。
【0047】
いくつかの実施形態では、S14で提供されるカーボンナノ材料は、上記のものを含む、異なる形態の組み合わせを含み得る。
【0048】
図4は、電気分解によって溶融炭酸塩からカーボンナノチューブを生成するための例示的なシステム100を示している。WO2017/066295およびWO2016/138469により詳細に記載される同様のシステムも参照されたい。
【0049】
溶融炭酸塩は、炭酸リチウムまたはリチウム化炭酸塩であり得る。723℃の融点を有する炭酸リチウムLi2CO3等の溶融炭酸塩、または620℃の融点を有するLiBaCaCO3等のより低い融点の炭酸塩が、高度に可溶性の酸化物と混合されると、そのようなLi2OおよびBaOは、大気排出CO2からの急速なCO2の吸収を維持する。好適な炭酸塩は、アルカリおよびアルカリ土類炭酸塩を含み得る。アルカリ炭酸塩は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、もしくはフランシウム炭酸塩、またはそれらの混合物を含み得る。アルカリ土類炭酸塩は、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、もしくはラジウム炭酸塩、またはそれらの混合物を含み得る。
【0050】
カソードの活性還元部位に隣接する炭酸塩の高濃度の活性で還元可能な四価炭素部位は、エネルギーを減少させ、電荷移動を促進し、低い電解電位で高い割合の炭酸塩還元をもたらす。CO2は、炭素に転換された炭酸塩を補充する溶融炭酸塩にバブリングすることができ、電気分解中に、アノードで酸素が発生し、カソードで厚い固体炭素が形成する。得られた固体炭素は、カーボンナノファイバーまたはカーボンナノチューブ等のカーボンナノ材料であり得る。
【0051】
遷移金属核形成剤は、溶融炭酸塩の電気分解中に添加することができる。遷移金属は、カーボンナノ材料の成長を可能にする核形成部位を作り出す。遷移金属核形成剤の例として、ニッケル、鉄、コバルト、銅、チタン、クロム、マンガン、ジルコニウム、モリブデン、銀、カドミウム、バナジウム、スズ、ルテニウム、またはそれらの混合物が挙げられる。
【0052】
システム100は、溶融炭酸塩材料および注入されたCO
2からカーボンナノ材料を生成する。システム100は、炭酸塩炉102、電解室104、および収集器106を含む。炉102、電解室104、および収集器106は、
図2では別個の構成要素として示されているが、それらは、同じ物理的構造内に提供され、統合されてもよい。電解室104は、炉102内で炭酸塩を加熱することによって生成される溶融炭酸塩を保持するチャンバ110を含む。アノード112およびカソード114は、電源116に連結される。アノード112およびカソード114は、チャンバ110に挿入される。CO
2は、CO
2源118から溶融炭酸塩に注入される。CO
2がアノード112でO
2に変換され、カソード114でカーボンナノ材料に変換されるため、電解反応全体のために、CO
2ガスが溶融炭酸塩に注入されて酸化物と反応し、炭酸塩を消費するのではなく再生する。
【0053】
任意のCO2源をCO2源118として使用することができる。例えば、環境空気がCO2源を提供してもよい。種々の植物または化学反応器からの排出ガスが、CO2源を提供してもよい。例えば、発電プラント、蒸気発生設備、または熱分解反応器が、CO2を排出することができる。システム100から、または高カーボンフットプリント物質の生成において排出されるCO2も、CO2源として使用され得る。
【0054】
いくつかの実施形態では、運転中に、炭酸塩炉102は、純粋なLi2CO3等の炭酸塩をその融点まで加熱して溶融炭酸塩を生成する。遷移金属は、アノードであり得る分散機を介して添加され、核形成剤として機能する。溶融炭酸塩は、電解室104でアノード112とカソード114との間に挿入されることによって電気分解に供される。結果として生じる反応は、炭酸塩から炭素を分離し、核形成部位からカソード114上に炭素生成物を残す。得られた炭素生成物が収集器106に収集され、酸素がアノード112上で生成される。
【0055】
いくつかの実施形態では、溶融炭酸塩は、炭酸リチウム、Li2CO3であり得、金属酸化物は、酸化リチウム、Li2Oであり得る。カーボンナノチューブ等のカーボンナノ材料は、次のような反応で生成され得る。
Li2CO3→CCNM+O2+Li2O (1)
【0056】
大気中のCO2は、電解質中に急速かつ発熱的に溶解し、リチウム酸化物と化学的に反応してLi2CO3を再生および改質する。
CO2+Li2O→Li2CO3 (2)
【0057】
式(1)による電気分解は、Li2Oを放出し、式(2)によるCO2の連続的な吸収を可能にする。式(1)および(2)の正味の反応を考慮すると、CO2は電気分解によって分解され、正味の反応の下でカーボンナノ材料と酸素を形成する。
CO2→CCNM+O2 (3)
【0058】
式(3)によって示されるように、CO2が分解され、酸素が放出される一方で、カソード114で固体炭素が形成される。
【0059】
他の実施形態では、異なる炭酸塩、または炭酸塩混合物が、炭酸リチウムに取って代わるために使用されてもよい。そのような場合、当業者によって理解され得るように、式(1)および(2)はそれに応じて修正され得るが、式(3)は同じままであり得る。
【0060】
NiまたはCr等の遷移金属を添加してCNM形成を核形成することができる。添加される遷移金属は、生成物の0.1重量%未満であり得る。遷移金属または核形成剤は、電解質またはカソード114に添加することができるか、またはアノード112からの浸出によって添加されてもよい。
【0061】
システム100内の炉および電解室は、任意の電源、または電源および太陽光電源を含む組み合わせ電源によって電力供給され得る。加熱は、二酸化炭素の吸収および炭酸塩への変換の発熱反応によって提供される。
【0062】
生成されるカーボンナノ材料は、ナノチューブ構造等のナノファイバーを有し得る。例えば、アノード112がニッケルアノードであり、Li1-6Ba0.3 Ca0.1 CO3電解質を用いて630℃の腐食しないさらに低温で電気分解が行われる場合、カーボンナノファイバーがカソード114で生成され得る。
【0063】
生成されるカーボンナノ材料はまた、アモルファスおよびプレートレット構造を有し得る。例えば、アノード112が白金アノードであり(かつニッケルまたはニッケルコーティングを含まない)、Li3CO2炭酸塩が約730℃の温度に加熱されると、部分的に形成された多層グラフェン/グラファイトを有し、99重量%を超える炭素を含み得るカーボンプレートレットが形成され得る。
【0064】
前述の文献に記載されるように、システム100を使用して生成されるカーボンナノ材料の種類および特性は、電流レベル、電解質の組成、反応温度、電解質の粘度、存在する遷移材料の量、ならびにカソードおよびアノードの材料に依存し、したがってそれらを調整することによって制御することができる。
【0065】
例えば、アノード112は、白金、イリジウム、およびニッケルを含み得る。炭酸リチウム電解質では、アノード112におけるニッケル腐食が遅く、アノード電流密度、電解時間、温度、粘度、および酸化リチウム濃度の関数である。
【0066】
好都合なことに、電気分解によって溶融炭酸塩およびCO2からカーボンナノファイバーを生成することにより、均質なカーボンナノファイバーを形成することができ、これは、さらに説明するように、構造材料に均質に都合よく分散させることができる。特に、アノード112におけるニッケルの存在は、ニッケルが均質なカーボンナノファイバーの形成を促進する核形成剤として作用することができるように制御され得ることが文献に示されている。
【0067】
また、Li2Oを添加せずに、純粋な溶融Li2CO3中での電気分解によって生成されるカーボンナノファイバーは、一貫して絡み合っておらず、均一で、長くなり得ることも示されている。得られるカーボンナノファイバーは、0.3~1μmの幅、20~200μmの長さを有し、アスペクト比約20~約600の均一なナノチューブであり得る。
【0068】
添加剤を溶融電解質に添加して、生成されるカーボンナノ材料の特性を制御することができる。ニッケル等の一部の添加剤は、核形成部位としてだけでなく、形成される中空ナノチューブの充填剤としても作用し得る。酸化物または遷移金属塩以外の添加剤も、カーボンナノ材料の充填剤もしくはコーティング剤として作用し得るか、または電解質の粘度に影響を与えるために使用することができる。例えば、無機アルミン酸塩とケイ酸塩はどちらも溶融炭酸リチウム中で高度に溶解性である。高濃度のいずれかの無機アルミン酸塩またはケイ酸塩は、電解質の粘度を増加させ得る。
【0069】
前述のように、一般に電気分解中に約3Vを超える高い電解電圧を印加すると、カーボンナノ材料とともに、その上に、またはその中にリチウム金属、アルミニウム金属、またはケイ素を生じさせることができる。
【0070】
電解プロセス、条件、ならびに電解質およびアノードに存在する材料を制御することにより、異なる種類のナノ材料を作り出すことができる。例えば、文献に記載されるように、電気分解中にLi2Oを添加しない場合、溶融炭酸塩電解質から真っ直ぐで絡み合っていないカーボンナノチューブを生成することができる。対照的に、生成中に溶融炭酸塩電解質にLi2Oを添加すると、絡み合ったカーボンナノチューブが形成される場合がある。溶融炭酸リチウム中のCO2の電解による分解中の拡散条件は、形成されるカーボンナノファイバーが固体繊維(充填されたナノファイバー)または中空カーボンナノチューブであるかを制御するように調整することができる。酸化物および遷移金属の濃度を調整して、絡み合った繊維またはまっすぐな(絡み合っていない)繊維の形成をさらに制御することができる。構造材料中にカーボンナノ材料を都合よく均質に分散させる目的で、より均一なサイズの、均質で絡み合っていないナノファイバーがより望ましく、システム100を使用して生成することができる。
【0071】
システム100の電源は、石炭、天然ガス、太陽光、風力、熱水、または原子力発電所によって発生する電力の源等の電源であり得る。従来の方法で発生する電源の代わりに、太陽電池によって発生する電流を使用してカーボンナノ材料を生成することができる。
【0072】
代替的なCO2源が用いられてもよく、それらは炭素の12C、13Cもしくは14C同位体の酸化物、またはそれらの混合物を含み得る。例えば、12CO2は、特定の条件下で中空カーボンナノチューブを形成するのに適している場合がある。同様の条件下で、溶融炭酸塩により重い13CO2を添加すると、固体コアカーボンナノファイバーの形成が促進され得る。
【0073】
大気中のCO2は、本明細書に記載のプロセスに従って多層カーボンナノチューブを形成するために使用されてきた。
【0074】
電解条件を制御することにより、生成される生成物は、代替としてアモルファスグラファイトまたはグラフェンを含み得る。
【0075】
いくつかの実施形態では、
図2のシステム100を使用して、ニッケルアノードおよび亜鉛メッキ鋼カソードでの電気分解によって溶融炭酸塩電解質に溶解したCO
2ガスを転換することができる。アノード112では、生成物はO
2であり、カソード114では、生成物は、カーボンナノチューブであり得る均一なカーボンナノファイバーを含む。Li
2O電解質を添加せずに、溶融炭酸塩のより低い電流密度で電気分解が行われる場合、カーボンナノチューブが好ましい場合がある。
【0076】
アモルファスカーボンは、遷移金属アノードを使用せずに鋼カソードで生成することができる。電気分解で亜鉛被覆(亜鉛メッキ)鋼カソードおよび非遷移金属アノードを使用すると、球状のカーボンナノ材料を生成することができる。電気分解で亜鉛被覆(亜鉛メッキ)鋼カソードおよび非遷移金属アノードを使用するが、電解質に溶解した酸化鉄からの鉄含有量が高いと、カソード上にアモルファスカーボンおよび多種多様なカーボンナノ構造を生成することができる。
【0077】
カソード上の亜鉛金属は、炭素を形成するためのエネルギーを低下させ、カーボンナノチューブまたはカーボンナノファイバーの形成プロセスの開始を助けることができる。亜鉛金属の存在は、(i)炭酸塩からの固体炭素の自発的形成、および(ii)核形成部位におけるカーボンナノ材料の制御された構造成長の開始を助ける金属触媒核の自発的形成の両方を活性化するのにエネルギー的に十分であるため、有益な助剤として作用し得る。それによって亜鉛は、その後に続く溶融炭酸塩に溶解されたCO2からの高収率のカーボンナノ材料の成長を促進する。
【0078】
カソード114およびアノード112は、任意の数の形状を有し得る。例えば、アノード112およびカソード114は、コイル状ワイヤ、スクリーン、多孔質材料、導電板、または平坦もしくは折り畳まれたシムであってもよい。それらはまた、電解室104の内側を形成することもできる。
【0079】
また、いくつかの実施形態では、比較的高い電流密度が電気分解に適用される場合、アモルファスカーボンおよび様々なカーボンナノ構造が生成される可能性が高いことにも留意されたい。溶融炭酸塩電解質中に、初期の低電流密度およびその後の高電流密度がLi2Oと組み合わせて適用される場合、高収率で均一ではあるがねじれたカーボンナノファイバーがカソード114で生成される可能性が高い。初期の低電流密度およびその後の高電流密度が、Li2Oを含まない溶融炭酸塩電解質と組み合わせて適用される場合、高収率で均一な真っ直ぐなカーボンナノファイバーまたはカーボンナノチューブがカソード114で生成される。
【0080】
簡単に要約すると、カーボンナノ材料を生成するためのCO2の電気分解中に、遷移金属の析出により、カーボンナノ構造の核形成および形態を制御することができる。拡散は、天然に豊富に存在するCO2から成長したカーボンナノチューブまたは13C同位体形態からのカーボンナノファイバーのいずれかの形成を制御することができる。電解質酸化物は、高Li2O溶融炭酸塩からの絡み合ったナノチューブ、または溶融炭酸塩電解質にLi2Oを添加しない場合には真っ直ぐなナノチューブの形成を制御する。
【0081】
ニッケル等の遷移金属をアノード112に添加してもよく、これをアノード112から溶解して、電解質を通ってカソード114上に移動させることができる。添加された遷移金属は、ニッケル、鉄、コバルト、銅、チタン、クロム、マンガン、ジルコニウム、モリブデン、銀、カドミウム、スズ、ルテニウム、またはそれらの混合物から選択され得る核形成剤として機能することができる。遷移金属はまた、溶解した遷移金属塩として電解質に直接導入されて、カソード114上に移動し得る。遷移金属核形成剤を直接カソード114上に添加することも可能である。
【0082】
低カーボンフットプリントのCNTは、スケールアップするための技術的課題のために以前は不足しており、大量生産の可能性は証明されていなかった。以前の溶融炭酸塩型CNMは、工業用寸法の電極へのスケールアップ、高温溶融炭酸塩と互換性のある大電流相互接続、および工業条件でのCO
2ガス反応物の管理等の、スケールアップするための技術的課題をもたらした。
図5は、1日CO
2変換量2トンの工業用C2CNTプラントの建築の写真を含む。ガス管理プラントの技術的課題は、CO
2源としての入射煙道ガスとCO
2を除去した排気ガスとの熱交換によって克服される。工業用寸法の電極および高温相互接続を稼働させる。このシステムは、隣接する860 MW Shepard Energy Centre(Calgary,CANADA)の天然ガス発電所からの煙道ガスを変換する。
【0083】
費用、エネルギー強度、および合成の複雑さのために、化学蒸着プロセスの変形例によって一般的に製造される工業用CNTは、現在、1トン範囲当たり10万ドルの範囲(8万5千~45万ドル)の製造コストが掛かり、CO2を反応物として使用しない。この高コストは、構造材料のCO2排出量を低減するための添加剤としてのそれらの使用を妨げ、本発明のいかなる概念化からも先行技術の方法をもたらす。CO2からグラフェンへの溶融炭酸塩電解転換の全ての成分は安価である。この転換は、アルミニウムの製造と多くの類似点があり、この後者の成熟した産業の確立されたコストと比較することができる。19世紀には、アルミニウムは市場が小さく、金よりも高価であった。しかしながら、今日の化学技術の変化により、アルミニウムは大量販売市場で安価である。どちらのプロセスも、酸化物の単純で高電流密度の溶融電解電気化学還元を伴い、貴重なまたは珍しい材料は使用しない。カーボンナノ材料の溶融炭酸塩生成におけるCO2電気分解は、電解用電極の面積に対して直線的に容易にスケールアップされ、類似のより大規模なグラフェン合成を容易にする。アルミニウムの電気分解は二酸化炭素を排出するカーボンアノードを使用および消費するのに対し、溶融炭酸塩カーボンナノ材料の電解アノードは、消費されずに酸素を排出する。アルミニウム製造の1トン当たりのコストである1,880ドルの52%は、ボーキサイトおよび炭素で構成されている。一方、この溶融炭酸塩電解は、反応物として炭素を消費せず、還元される反応物としてコストの掛からない酸化物を使用する(採掘されたボーキサイトではなく、CO2)。窯、電極、および電解質等の溶融炭酸塩CO2の電解コストは、同様ではあるが、アルミニウムの工業生産よりも安価である。
【0084】
より高いカーボンフットプリントに加えて、アルミニウムプロセスはより大きな物理的フットプリントを必要とする。アルミニウムの製造では、水平電極からアルミニウム生成物を収集するために、フッ化物電解質の密度と比較して高密度の液体アルミニウムを使用する。一方、ナノカーボン生成物はカソード上に存在するため、少ない物理的フットプリント構成で垂直に積み重ねることができる。カーボンナノ材料の溶融炭酸塩電解プロセスは、それほど珍しくはない、同様の出力速度の溶融炭酸塩電解質中、約700~800℃のやや穏やかな条件下で動作するが、アルミニウムの4Vを超える電解電位と比較して0.8V~2Vの電解電位で動作する。
【0085】
したがって、1,000ドルは、溶融炭酸塩における、アノードと剥離のコストを除いた、二酸化炭素電解による工業用カーボングラフェン生産の妥当な上限見積もりである。このコストは、グラフェンの現在の価格よりも大幅に低く、炭素グラフェンを製造するために温室効果ガスの二酸化炭素を反応物として使用する大きなインセンティブを提供し得る。これは、気候変動を緩和するために人為的炭素循環を断ち切るのに役立つ、今後の有益な方針を提供することができる。
【0086】
カーボンナノ材料の上記生成プロセスには、異なるCO2源を使用することができる。例えば、CO2源は、空気または加圧されたCO2源であってもよい。CO2源は、煙突を含む大煙突または煙道、ならびに鉄鋼、アルミニウム、セメント、アンモニアの消費材および建築材等の産業スタック、ならびに輸送産業等に見られるような濃縮CO2であり得る。
【0087】
CO2の別の供給源は、化石燃料発電所における燃料の燃焼時に発生する高温のCO2からであってもよい。そのようなシステムでは、電気およびカーボンナノ材料が、CO2を排出せずに生成され得る。化石燃料発電所の一部は、電解プロセスのために電力を出力する。O2電解生成物は、化石燃料発電所に再注入して戻すことができる。
【0088】
代替として、再生可能なまたは原子力発電による電気等の非CO2排出電力の第2の供給源を使用して電解プロセスに電力を供給し、O2電解生成物を化石燃料発電所に注入して戻すことができる。
【0089】
したがって、本開示のいくつかの実施形態は、低カーボンフットプリントの構造材料を形成する方法に関する。この方法は、構造材料を提供することと、10未満のカーボンフットプリントで形成された低カーボンフットプリントのカーボンナノ材料(CNM)を含む補強材料を提供することと、構造材料および0.001重量%~25重量%のカーボンナノ材料を含む複合材を形成することとを含む。カーボンナノ材料は、複合材に均質に分散する。いくつかの実施形態では、カーボンナノ材料は、以下にさらに説明するように、酸素および溶解金属酸化物とともに、電気分解によって溶融炭酸塩から形成される。
【0090】
いくつかの実施形態では、発電所は、電解槽に供給される煙道スタックからCO2源を提供することができる。電解槽は、銅、ステンレス鋼、またはモネルカソードであり得る金属カソードとともに、炭酸リチウム等の溶融電解質を含み得る。上記のように、遷移金属の核形成を伴う電解は、酸素とともにカーボンナノ材料の生成物を生じる。カーボンナノ材料を生成するための従来の方法と比較して、上記の方法は、温室効果ガスの全体的な排出量が著しく低い。次に、カーボンナノ材料を構造材料と組み合わせて、カーボンナノ材料複合材を作製することができる。
【0091】
電解反応の高温酸素生成物は、回収されると、様々なプロセスにおいて有用である。回収された酸素は、次いで、様々な酸素含有生成物を製造するための原料として使用することができる。例えば、TiO2、エチレンおよびプロピレンオキシド、アセトアルデヒド、塩化ビニルまたはアセテートおよびカプロラクタム等の様々な工業用化学物質およびモノマーを調製することができる。さらに、燃焼中の空気の代わりに高温酸素源を使用することができ、結果として消費される燃料がより少なくなるか、またはより高い燃焼温度を発生する。
【0092】
カーボンナノ材料は、CO2の電気分解から合成され、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノオニオン、カーボンナノプレートレット、カーボンナノ足場、またはグラフェンを含み得る。いずれの場合も、生成物は、95%を超える高いクーロン効率で合成することができ、場合によっては、純度が95%を超えることがある。
【0093】
カーボンナノファイバーを使用する場合、それらは10~1000のアスペクト比、3~999nmの平均厚さを有し得る。アスペクト比の高い、絡み合っていないCNTは、超音波処理により水に容易に分散させることができ、均質な分散液を形成する。
【0094】
電解条件を制御して、ねじれたもしくは真っ直ぐな縦方向の形状を有する、選択された均一な厚さのCNTSを生成することができるか、または厚い真っ直ぐなCNTを生成することができる。
【0095】
いくつかの実施形態では、絡み合った5~8μmの長さのCNTを、電解質に添加されたNi粉末で核形成された銅カソード上で成長させて、CNT成長のための核形成点を提供することができる。薄い(約20nm)、中程度の(約47nm)、または厚い(約116nm)壁のCNT等の異なる厚さのカーボンナノファイバーを得るために、15、30、または90分等の異なる時間長にわたって電気分解を行うことができる。多層CNTは、同心円筒状の壁の間に独特のグラフェン層状の特徴的な0.335nmの分離を示す場合がある。電気分解の前に銅カソードにニッケル粉末を直接貼付することにより、ニッケル核形成点に長さ5~10μmの真っ直ぐなCNTが形成され得る。
【0096】
いくつかの実施形態では、拡張電荷、モネルカソード、ならびにニッケルおよびクロムによって誘発される核形成電解が代わりに適用される場合、200~2000μmの長さの非常に長いCNTを生成することができる。
【0097】
いくつかの実施形態では、様々な制御された条件下で真鍮カソードを使用して5時間合成した後、束ねられた、真っ直ぐな、またはより厚いCNTを含むカーボンナノチューブ生成物を生成することができる。
【0098】
いくつかの実施形態では、セメントおよびカーボンナノチューブは、例えば、Lichtの“Co-production of cement and carbon nanotubes with a carbon negative footprint,”J.CO2 Utilization,2017,vol.18,pp.378-389に開示されるように、負のカーボンフットプリント(Fc<0)を有するプラントで共同生産され得る。
【0099】
本明細書に記載のプロセスは、商業的に価値のある生成物および副生成物を大量に生産するようにスケーリングすることができる。
【0100】
図1に戻ると、S106において、構造材料とカーボンナノ材料が混合または組み合わされて複合材を形成する。
【0101】
多種多様な方法を利用して、上記のCNMを所望の構造材料に組み込むことができる。構造材料内にCNMが均一に分散していると、得られる複合材料の機械的特性を改善することができる。
【0102】
本明細書で使用される場合、複合材中のカーボンナノ材料の均質な分散は、複合材全体にわたるカーボンナノファイバー等のカーボンナノ材料の実質的に均一な分布を指し、その結果、複合材は、複合材の異なる領域において実質的に均一な機械的特性を有する。ナノファイバーが分散している場合、ナノ材料は分子レベルまたは個々の繊維レベルで分散している必要はない。一部の用途では、ドメインサイズが約1,000μm未満のドメイン等の小さなドメイン内で繊維の限定的な凝集または絡み合いが許容される場合がある。しかしながら、複合材に不均一に分布した濃縮カーボンナノ材料のより大きなドメインは、材料の欠陥もしくは脆弱性の原因となり得るか、または強化材料の効率的な利用を低下させ得る。
【0103】
いくつかの実施形態では、構造材料はセメントである。CNMをセメントに組み込むために、水等の水性液体中のCNMの分散液は、CNMを水に添加し、続いて浴超音波処理を使用して混合し、CNMを液体混合物に均一かつ一様に分散させることによって形成することができる。いくつかの実施形態では、界面活性剤を添加してCNMの凝集を防ぐことができる。次に、CNM分散液を、必要に応じて追加の水とともに乾燥セメント粉末に添加することができる。機械的混合を使用して、水性セメント混合物にCNMを完全に分散させることができるので、CNMは混合物中に均質に分散され、得られる複合材は均質に分散されたCNMを含む。
【0104】
いくつかの実施形態において、混合物中のCNMの均質な分散は、超音波処理、界面活性剤の添加、もしくは撹拌、またはそれらの任意の組み合わせによって促進され得る。好都合なことに、超音波処理は大きなカーボンフットプリントを必要としない。
【0105】
いくつかの実施形態では、上記のプロセスを使用して、セメントおよび均質に分散されたCNMを含むコンクリート、モルタル、またはグラウトを形成することができる。
【0106】
0.048重量%のCNTを添加すると、セメント、コンクリート、モルタル、またはグラウトの引張強度を45%向上させることができる。したがって、同じ荷重に耐えるより薄いCNT-セメント複合材等の単純な(1次元の力が加えられる)使用例では、1トンのCNTが938トンのアルミニウムに取って代わることができる。セメントに取って代わる1トンのCNTを含むCNT-セメント複合材を使用することにより、セメント、または同様に、コンクリート、モルタルまたはグラウトの製造中に排出されるCO
2を844トン低減することができる。低コストまたは低F
Cのカーボンナノチューブを追加することによりセメントの製造におけるCO
2排出量を減少させるこのプロセスは、
図12(A)に示される。この図は、CO
2から合成されたカーボンナノチューブをCNT-セメントを含むCNT複合材に添加することによる、大量の二酸化炭素の回避を示している。B:CNT-Alによる炭素の軽減。後者(B)は、より大きなCO
2排出量の除去をもたらすバージンアルミニウムの大きいカーボンフットプリントによるカスケード効果を含む。
【0107】
いくつかの実施形態では、構造材料はアルミニウムであり得る。空気誘導加熱器等の加熱装置を使用して、固体アルミニウムを溶融するまで加熱し、その後、CNMを加えることができる。強い対流により、CNMが溶融アルミニウム内に十分に分散され、その後、インゴットに鋳造されるか、または最終製品に加工される。高温によるCNMの酸化を防ぐために、この方法から酸素を除外することができる。代替として、アルミニウム粉末にCNMを添加することによって同様の複合材が最終的に形成され得る。2つの材料の混合は、ボールミル粉砕とそれに続く熱間押出し等のプロセスの影響を受ける可能性がある。
【0108】
0.1重量%のCNTを添加すると、アルミニウムの引張強度を37%向上させることができる。したがって、同じ荷重に耐えるより薄いCNT-Al複合フォイル等の単純な(1次元の力が加えられる)使用例では、1トンのCNTが370トンのアルミニウに取って代わることができる。バージンアルミニウムに取って代わる1トンのCNTを含むCNT-Al複合材を使用することにより、アルミニウム製造中に排出されるCO
2を4,403トン低減することができる。低コストまたは低FCのカーボンナノチューブを追加することによりアルミニウムの製造におけるCO
2排出量を減少させるこのプロセスは、
図12(B)に示される。この図は、CO
2から合成されたカーボンナノチューブをCNT-アルミニウムを含むCNT複合材に添加することによる、大量の二酸化炭素の回避を示しており、より大きなCO
2排出量の除去をもたらすバージンアルミニウムの大きいカーボンフットプリントによるカスケード効果を含む。
【0109】
いくつかの実施形態では、低カーボンフットプリントの複合材は、マグネシウムおよびCNMを使用して調製され得る。CNMの凝集によりCNM-金属の相互作用が低下するため、効果的なマグネシウム-CNM複合材の形成が妨げられることが予想される。この問題は、CNMとマグネシウムとの間に効果的なMg2Niインタフェースを提供するように、CNMSをニッケルでコーティングすることによって対応することができる。0.3重量%のニッケルコーティングされたCNTを加えることにより、CNT-マグネシウム複合材は、純粋なマグネシウムと比較して、39%等の増加した引張強度を示すことができる。同等の強度のCNT-Mg複合材でマグネシウムを置き換えることにより、1トンのCNT当たり1,820トンのCO2排出量を低減することができる。
【0110】
チタン、銅、および鋼等のより高い融点の金属を使用した低カーボンフットプリントの複合材の製造は、CNMの均一な分散を実現する際の困難のためにさらに課題が多い場合がある。使用する金属がチタンの場合、チタン元素粉末のプレミックスを形成してから、スパークプラズマ焼結を行うことができる。
【0111】
いくつかの実施形態では、複合材を形成するための金属は銅であり得る。溶媒中のCNMの懸濁液を形成することができ、銅粉末をCNM懸濁液に加えて混合物を形成することができる。混合物をか焼および還元に供して、粉末内に均質に分散されたCNMを有する銅-CNT複合粉末を生成することができる。いくつかの実施形態では、混合物をスパークプラズマ焼結またはマイクロ波焼結等によって焼結して、複合材料を形成することができる。
【0112】
得られたCNT-Cu複合材中の銅に1重量%のCNTが均一に分散すると、CNT-Cu複合材の強度が207%増加することが観察されている。このような複合材は、67トンの銅を1トンのCNTで比例的に置き換えることができ、それでもなお、銅と同じ機械的強度を提供する。銅製品のカーボンフットプリントは、地域によって大きく異なるが、世界的に1トンのCu当たり約5トンのCO2という複合平均を有する。銅製品を同等のCNT-Cu複合材の製品で置き換えることによって、製造中のCO2の排出量を大幅に低減することができる。例えば、67トンの銅がCNTの1トンで置き換えられ、各1トンの銅製品が5トンのCO2を排出する場合、337トンのCO2の排出を回避することができる。
【0113】
いくつかの実施形態では、構造材料はステンレス鋼であり得る。CNMを固体形態で鋼粉末に添加し、得られた混合物をボールミルに入れて成分を一緒に粉砕および混合し(ボールミル粉砕により)、続いてスパークプラズマ焼結して複合材料を形成することができる。ステンレス鋼の膨大な世界的年間製造量を高カーボンフットプリントと併せるとFC=6.15であり、これには1トンの鋼を製造するために必要なエネルギーを生成するための5.3トンのCO2排出量が含まれる。
【0114】
0.75重量%のCNTを含むCNT-ステンレス鋼複合材は、37%高い強度を示すことができる。したがって、ステンレス鋼に取って代わるCNT-ステンレス鋼複合材を使用すると、1トンのCNT当たり302トンのCO2だけCO2排出量を低減することができると予想される。
【0115】
CO2をCNTに転換することによって必要とされる正味エネルギーは、CNTと反応する1トンのCO2当たり2.0MWh(0.8Vで1.6MWh)である。
【0116】
セメント、アルミニウム、マグネシウム、チタン、またはステンレス鋼を含むCNMの異なる複合材の使用に関連するCO2排出量の低減、および対応する機械的強度の改善を表Iに要約する。
【0117】
表I中、最後の列は、溶融炭酸塩中の電気分解によりCO
2をCNTに転換することによって消費される正味エネルギーを記載している。
【表1】
【0118】
いくつかの実施形態では、構造材料は、ポリマープラスチック等のポリマーであり得る。溶融プラスチックにCNMを添加した後、機械的に混合してCNMを分散させることができる。次に、射出成形、ブロー成形、または押出成形等のプロセスを介して、複合材を最終製品に成形することができる。
【0119】
いくつかの実施形態では、構造材料は木質材料であり得る。一例では、CNMは、中密度繊維板(MDF)の製造中に固体形態で添加され得る。尿素-ホルムアルデヒド樹脂を添加する前に木質繊維に固体CNMを添加した後、シートにプレスすると複合材料が得られる。
【0120】
いくつかの実施形態では、構造材料は段ボールであり得る。固体CNMは、松のチップから形成された木材パルプ繊維のスラリーに添加することができる。次に、このスラリーを製紙機にポンプで送り、クラフト紙を形成することができる。クラフト紙を波形にしてCNM段ボール複合材料にする。
【0121】
いくつかの実施形態では、構造材料は、ラミネートまたは乾式壁であり得る。石膏プラスター層の形成中に、2枚の厚紙またはグラスファイバーの間に挟まれた石膏プラスター、繊維、可塑剤、発泡剤、およびキレート剤の混合物にCNMを添加することができる。CNMは、固体形態で、または水等の溶媒中の懸濁液として湿式混合物に添加して、乾式壁に追加の強度を提供することができる。ラミネートは、平坦な材料を形成するように層から形成される。ラミネート層は、
図9に示されるように、樹脂、プラスチック、木質繊維、紙、または単に電解質を含むCNMの硬い層とのCNM複合材から形成され得る。これは、カソードからの単純な剥離によって成長した状態の膜が除去される容易さを呈する。膜は、770℃の溶融Li
2CO
3中、0.1A cm
-2で18時間の電気分解により12.5cm×20cmの電極上に成長させる。Inconelアノードおよび304鋼電解ケースは、繰り返し電解の影響を受けない。膜の厚さは電解時間に正比例し、この目的の0.0004インチ(またはそれ以下)の膜を検討することを可能にする。この膜は、カソード表面の正反射である。この場合、カソード材料が成長した膜に転写されていないこと、カソードが再利用の準備ができていること(フィルムの剥離後)、および除去された膜がわずかに変形したカソード表面を反映していることを強調するために、金色のMuntz真鍮が使用される。Muntz真鍮は、検討されたカソードの中で最も低い融点である899℃を有する。770℃での電気分解中に発生する変形は、アノードから隠れた電極側の鋼ブレースによって制御され、わずかな変形は、剥離した膜の平坦さがカソード表面を反映していることを強調している。
【0122】
いくつかの実施形態において、CNMは、固体形態でセメント粉末に添加され得、得られた混合物は、水を添加する前に成分を粉砕および混合するためにボールミルに入れられる。
【0123】
複合材中のCNMの均質な分散は、より強力な複合材を提供できることに留意されたい。したがって、局所的濃縮等の、複合材中のCNMの不均一な分布を回避するための対策を講じる必要がある。例えば、絡み合ったCNTは凝集する傾向があり、水性混合物中に容易に混和しない。したがって、電気分解によって溶融炭酸塩から生成される、絡み合っていないCNTは、本開示の実施形態において特に好適である。CNTの生成では、電解条件を制御する必要があり、カーボンナノチューブ生成物の形態を正確に制御するように変更することができる。
【0124】
異なる実施形態では、CNM製品は、純粋なLi2CO3溶融炭酸塩、または混合された二成分もしくは三成分のリチウム化溶融炭酸塩、またはリチウムを含まない溶融炭酸塩のいずれかにおいて750℃で形成することができる。
【0125】
アルカイ(リチウム、ナトリウム、またはカリウム)炭酸塩の混合物は、純粋な溶融炭酸塩よりも粘度が低いことに留意されたい。
【0126】
電気分解中のアノード腐食は、電解質から炭酸カリウムを排除することにより回避または軽減され得る。
【0127】
セメントへのわずか0.048重量%(C)のCNTの添加により、純粋なセメントの引張強度と比較して、45%等の増加した引張強度(S)を有する複合材を形成できることが示されている。したがって、場合によっては、セメントとCNTを含む複合材のより薄い層は、純粋なセメントのより厚い層と同じ強度を提供することができる。その結果、セメントの使用量が低減され得る。他の場合には、鋼等の高いカーボンフットプリントを有する他の補強材を置き換えるために、CNTがコンクリート中の補強材として使用されてもよい。このような場合、セメントの使用量を低減することはできないが、それでもコンクリートの全体的なカーボンフットプリントは低減される。
【0128】
同じ荷重に耐えるより薄い床(1/1.45の厚さ、ただし45%より強力である)等の単純な使用の場合、CNT-セメント複合材は、CNTを含まないセメントと同じ強度を有することができる。すなわち、2082トンのセメントに1トンのCNT(0.048重量%)が含まれている複合材は、3021トンのセメントと同じ強度を有する。したがって、1トンのCNTを含むCNT-セメント複合材を使用すると、必要なセメントを938トン低減することができる。その結果、純粋なセメントをCNT-セメント複合材で置き換えることにより、必要なカーボンフットプリントが大幅に小さくなる。
【0129】
1単位重量のカーボンナノ材料の生成中に10単位重量未満の二酸化炭素(CO2)排出量のカーボンフットプリントで生成されるカーボンナノ材料を、構造材料を補強するために使用できることが今や理解され得る。いくつかの実施形態では、カーボンナノ材料は、電気分解によって溶融炭酸塩から生成することができる。複合材は、本明細書に開示される複合材であり得る。
【0130】
いくつかの実施形態では、カーボンナノ材料は、構造材料を補強するための構造材料を含む複合材中に使用することができ、カーボンナノ材料は、1単位重量のカーボンナノ材料の生成中に10単位重量未満の二酸化炭素(CO2)排出量のカーボンフットプリントで生成される。いくつかの実施形態では、カーボンナノ材料は、電気分解によって溶融炭酸塩から生成することができる。複合材は、本明細書に開示される複合材であり得る。
【0131】
いくつかの実施形態では、複合材の製造中の二酸化炭素(CO2)の全体的な排出を低減するために、低カーボンフットプリントで生成されるカーボンナノ材料が構造材料およびカーボンナノ材料を含む複合材中に使用され、低カーボンフットプリントは、1単位重量のカーボンナノ材料の生成中の10単位重量未満のCO2排出量のカーボンフットプリントである。いくつかの実施形態では、カーボンナノ材料は、電気分解によって溶融炭酸塩から生成することができる。複合材は、本明細書に開示される複合材であり得る。
【0132】
「W」が構造材料およびCNMの複合材の重量を表し、「N」がCNMを追加していない純粋な構造材料を表し、「C」が複合材中のCNT重量濃度を表し、「S」がパーセンテージで強度増加を表すと仮定すると、1単位重量のCNTを含む複合材の重量は次のとおりである。
W=100%/C(4)
【0133】
Nは、以下によって決定され得る。
N=Wx(100%+S)/100%, (5)
【0134】
純粋な構造材料からの複合材中の構造材料の軽量化(N-W)は次のとおりである。
N-W=W(100%+S)/100%-W=Wx(S/100%) (6)
【実施例】
【0135】
実施例I
アスペクト比の高い、絡み合っていないCNTは、界面活性剤を使用せずに超音波処理によって水に容易に分散することが試験によって実証された。水に分散したCNTをポルトランドセメントと混合して、CNT-セメント複合材を形成した。
図3A、
図3Bおよび
図3Cを参照されたい。
【0136】
この例では、
図3Aに示されるサンプルCNTを、低粘度の炭酸リチウムナトリウム二成分電解質中での電気分解によって形成した。絡み合っていないCNTは、
図2に示すシステムを用いて、真鍮カソードおよびInconelカソードを使用した電気分解により、73重量%のLi2CO3、17重量%のNa2CO3、および10重量%のLiBO2を含む溶融電解質中、740℃で合成した。 電解質にメタホウ酸塩を加えると、CNTのアスペクト比が改善されることも観察された。
【0137】
図3Aに示されるCNT生成物の走査型電子顕微鏡(SEM)画像は、約90重量%のCNTを含んでいた。電解プロセスは、97.5%のクーロン効率で行われ、CNT生成物のモル数を積分電解電流と比較する式(3)で決定した。
【0138】
CNTを水に分散させ、得られた水性混合物を超音波処理した。
図3Bに見られるように、超音波処理は、水中でCNTの均質な分散を引き起こした。超音波処理を行わないと、CNTは水中で凝集し、CNTは水中に均質に分散しないことが観察された。
【0139】
均質に分散されたCNTの水性懸濁液をポルトランドセメントと混合すると、得られた混合物は、
図3Cに示されるように、CNT-セメント複合材に容易に流し込まれた。生成されたCNTの0.8重量%未満、例えば0.048重量%がポルトランドセメントに添加されてCNT-セメント複合材を形成した。
【0140】
0.75単位重量未満の複合材は、1単位重量の純粋なセメントと同じ機械的強度を提供し、質量を少なくとも25%低減できることが観察された。
【0141】
実施例II
この実施例では、強力なCNT-セメント複合材を提供するために、次の目的でサンプル材料を生成した:(i)生成されたカーボンナノチューブをほどいて、セメント全体にCNTを一様かつ均一に分散させる、および(ii)より長いCNTを生成して複合材中にセメント粒子を架橋させる。
【0142】
C2CNT技術と称されるCNT合成技術が、CNTを生成するために使用された。C2CNT技術は、電気分解による炭酸塩CO2分解技術を含み、CNTの形態制御を提供することが示されており、水およびセメントとの混合中にCNTが束になるのを防ぐために、長く均一な、絡み合っていないCNTを生成することができ、水混合物中におけるCNTの都合の良い分散を可能にする。
【0143】
添加されるCNMのあらゆる酸化を回避するために、構造材料へのCNMの添加中に酸素が排除された。
【0144】
実施例II(1)
CNM-セメント複合材は、超音波処理または界面活性剤添加により、CNMを水に容易に分散させ、次に凝集物を用いてまたは用いずにセメント粉末に添加して、CNM-セメント複合材およびCNM-コンクリート複合材を形成することによって作製した。
【0145】
実施例II(2)
CNM-アルミニウム複合材は、CNMを溶融アルミニウム(融点660℃)に添加することによって作製した。CNMは溶融アルミニウムに容易に分散した。アルミニウムを溶解するために誘導加熱を使用した。
【0146】
実施例II(3)
C2CNT技術によって作製されたCNTは、生成された1トンのCNT当たり少なくとも800トンのCO2が回避される負のカーボンフットプリントを有することが分かった(表Iを参照)。
【0147】
CNT-セメント複合材にC2CNT技術によって生成された0.048重量%のCNTを含めると、CNTを含まない純粋なセメントと比較して、引張強度(ヤング率)が60.8%増加し(26日間の硬化後)、圧縮強度が80.4%増加すること(20日間の硬化後)が観察された。
【0148】
これらの強度の増加は、表Iに記載されたものよりも高く、発明者らに既知の文献に報告される強度の増加よりも高かった。強度の増加は、C2CNT技術によって調製されたカーボンナノチューブのより高い均一性と束になりにくい性質によるものであると予想された。
【0149】
いずれか特定の理論に限定されることなく、より強力なCNM-セメント複合材を形成するためには、CNM自体の強度を高くして、引張強度、圧縮強度、および曲げ強度を増強するだけでなく、添加されるCNMもセメントの粒子を架橋させることが可能であるべきであると予想された。これらの架橋は、バルク複合材全体に強度を伝播するマトリックスを提供することが予想された。
【0150】
C2CNT技術は、生成されるCNTの均一な長さおよび直径を制御できることが観察された。均一な厚さおよび長さのCNTがC2CNT技術で生成されたが、それには200nmの直径および80μmの長さを有するCNTが含まれていた。これらのCNTは、サンプルCNT-セメント複合材を形成するために使用され、上記の改善された強度を示した。
【0151】
複合材を形成するために、ポルトランドセメント粉末と混合する前に、CNTを水に分散させ、超音波処理した。超音波処理の前に、CNTの大部分は混合容器の底に沈んだが、一部は水の上に浮かんだ。90分の超音波処理後、均一に色づいた褐色/黒色の溶液が得られた(
図3Bに示される代表的な写真を参照)。水に一様に分散したCNTをポルトランドセメント粉末と混合した。混合物を様々な形状の鋳型に入れ、試験の前に硬化した。
【0152】
圧縮および引張強度試験には、円筒形および数字の「8」の形をした鋳型を使用した。代表的な試験強度の結果を表Iに示す。
【0153】
実施例III
また、C2CNT技術を変更し、グラフェン、ナノオニオン、ナノプレートレット、ナノ足場、およびらせん状カーボンナノチューブを含む他のカーボンナノ材料の生成に用いた。これらのCNMの各々は、構造材料に追加する前に、潤滑(ナノオニオン)、バッテリー(グラフェン)、および環境吸着剤(ナノカーボンエアロゲル)等の珍しく貴重な物理化学的特性を示し、CNM-構造材料複合材について導電性の向上および検出能力を含む特殊な特性を示すことが観察された。
【0154】
これらの材料は、改善された構造材料を提供できることが予想される。
【0155】
いずれの場合も、生成物は95%を超える高いクーロン効率で合成され、ほとんどの場合、生成物は95%を超える純度を有していた。
【0156】
強度に相関する重要な測定可能な特徴は、ラマンスペクトルにおける不規則性(Dピーク、炭素間の面外sp
3四面体結合を反映)と比較した規則性(Gピーク、炭素間の円筒形平面sp
2結合を反映)の比によって測定される低欠陥率であることが観察された。C2CNT技術によって生成されたサンプル多層カーボンナノチューブは、
図6に示すように、ラマンスペクトルで高い(強度)G:D比を示した。
【0157】
C2CNT技術で生成されたサンプルカーボンナノオニオンの同様のラマンスペクトルを
図6に示す。C2CNT技術で生成されたサンプルカーボンナノプレートレットのラマンスペクトルを
図8の上部に示し、C2CNT技術で生成されたサンプルグラフェンのラマンスペクトルを
図8の下部に示す。D’-バンドの存在は、層状の単一および複数(プレートレット)のグラフェン層を示し、2Dバンドの左シフトは薄いグラフェン層を示す。
【0158】
図9は、真鍮カソードおよびInconelアノードを用いて、0.1Acm
-2の電流密度で50% Na
2CO
3および50% Li
2CO
3電解液中670℃で成長させたカーボンナノ足場のSEMを表す。電気分解は、均一な形態を促進する追加の10重量%のH
3BO
3を含む。Li
2BOではなく、H
3BO
3を、コスト節約対策として添加した。H
3BO
3は、加熱すると水を放出し、溶融電解質にLi
2BOと同じ酸化ホウ素の原子価状態を与える。
【0159】
図10は、クロメルC(ニクロム)アノードを使用して真鍮/モネルカソードで2時間、高電流密度(0.5Acm
-2)で100% Li
2CO
3電解質中750℃で成長させた生成物を洗浄した後のらせん状カーボンナノチューブのSEMを表す。
【0160】
これらの実施例で検討した複合材は、CNT-アルミニウム、CNT-鋼、CNT-マグネシウム、CNT-チタン、およびCNT-セメントを含んでいた。
【0161】
結語
本明細書に記載の任意の範囲の値は、所与の範囲内の任意の中間値またはサブ範囲を具体的に含むことを意図し、そのような全ての中間値およびサブ範囲は、個別にかつ具体的に開示されることが理解されよう。
【0162】
「a」または「an」という語は、「1つまたは複数」または「少なくとも1つ」を意味することを意図し、任意の単数形は、本明細書において複数形を含むことを意図することも理解されよう。
【0163】
さらに、「含む」という用語は、その変形を含めて、自由形式であることが意図され、特にそうではないと具体的に示されない限り、「~を含むが、それに限定されない」を意味することが理解されよう。
【0164】
本明細書において、最後の項目の前に「または」を付けて項目のリストが与えられる場合、列挙された項目のいずれか1つ、または列挙された項目の2つ以上の任意の好適な組み合わせを選択して使用することができる。
【0165】
当然、上記の実施形態は、例示のみを目的としており、決して限定するものではない。記載される実施形態は、形態、部品の配置、詳細、および操作の順序の多くの変更の影響を受けやすい。むしろ、本発明は、特許請求の範囲によって定義されるように、その範囲内のそのような全ての変更を包含することを意図している。