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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-20
(45)【発行日】2024-06-28
(54)【発明の名称】振動数調整構造付動吸振器
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/02 20060101AFI20240621BHJP
   F16F 7/104 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
F16F15/02 C
F16F7/104
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023192143
(22)【出願日】2023-11-10
【審査請求日】2023-12-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】508036743
【氏名又は名称】株式会社横河ブリッジ
(74)【代理人】
【識別番号】100076406
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 勝徳
(74)【代理人】
【識別番号】100171941
【弁理士】
【氏名又は名称】辻 忠行
(72)【発明者】
【氏名】小山 明久
(72)【発明者】
【氏名】高島 嗣政
(72)【発明者】
【氏名】竹田 喜彦
(72)【発明者】
【氏名】辰巳 慎治
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-317505(JP,A)
【文献】特開2013-227739(JP,A)
【文献】特開2019-108902(JP,A)
【文献】特開2001-021002(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/02
E04H 9/00- 9/16
F16F 7/104
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量体の振動数を調整可能な振動数調整構造付動吸振器であって、
質量体と、
前記質量体が載置される支持台と、
前記質量体の振動数を調整する振動数調整構造と
を備え、
前記振動数調整構造は、
前記質量体に当接する第1緩衝材と、
前記第1緩衝材を前記質量体に対し押圧力可変に押圧する押圧力可変手段と
を有し、
前記第1緩衝材は、シート状をなし、表面に板材からなる押圧プレートが貼設されるともに裏面が前記質量体に当接するよう構成されており、
前記押圧力可変手段は、前記押圧プレートの表面を押圧することにより前記第1緩衝材を加圧することを特徴とする振動数調整構造付動吸振器。
【請求項2】
前記押圧力可変手段により前記第1緩衝材を前記質量体に対し押圧する位置を変更可能に構成されている請求項1に記載の振動数調整構造付動吸振器。
【請求項3】
前記質量体を挟んで前記第1緩衝材の反対側において、前記質量体と前記支持台に挟持される第2緩衝材を有する請求項1に記載の振動数調整構造付動吸振器。
【請求項4】
前記質量体が棒状をなし、
前記押圧プレートは、前記質量体の周面に押圧されるとともに、前記質量体の長手方向に沿って複数設けられ、各押圧プレートに第1緩衝材が貼着されている請求項1に記載の振動数調整構造付動吸振器。
【請求項5】
質量体の振動数を調整可能な振動数調整構造付動吸振器であって、
質量体と、
前記質量体が載置される支持台と、
前記質量体の振動数を調整する振動数調整構造と
を備え、
前記振動数調整構造は、
前記質量体に当接する第1緩衝材と、
前記第1緩衝材を前記質量体に対し押圧力可変に押圧する押圧力可変手段と
を有し、
前記質量体は、棒状をなし、長手方向の一端のみが前記支持台に固定され、片持ち支持されている振動数調整構造付動吸振器。
【請求項6】
前記質量体が棒状をなし、
前記押圧プレート、前記第1緩衝材が前記質量体の長手方向に沿って延在し、
前記押圧力可変手段は、前記押圧プレートの表面を前記長手方向の異なる位置で押圧可能に構成されている請求項1に記載の振動数調整構造付動吸振器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、精密製造装置等の制振対象物に取り付けて、当該制振対象物の振動を抑制する動吸振器に関し、特に制振対象物の振動を吸収する質量体の振動数を調整可能な動吸振器に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者らは、これまでに、制振対象物に取り付けて制振対象物の振動を抑制する動吸振器を開発し開示している(例えば特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
図17に、この従来の動吸振器900の概略図を示す。従来の動吸振器900は、長手方向における複数個所(図17では、端部の1か所のみを示す。)に樹脂製ゴムからなる短冊状の緩衝材5を巻回した金属製の棒材からなる質量体1を、支持台2に設けた溝を蓋6で閉じて形成した質量体収容室21に収容して構成される。この従来の動吸振器900は、緩衝材5の幅や厚さ、巻回位置、緩衝材5が質量体収容室21の壁や蓋6により圧縮される圧縮量を予めチューニングすることにより、質量体1の振動数を制振対象物の振動数と同調させて制振対象物の振動を減衰させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-187096
【文献】特開2019-108902
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、制振対象物の振動は、設計値(解析値)と実測値で異なる場合が有り、特許文献1や特許文献2の動吸振器900では、設計値を基に質量体の振動数を予めチューニングしても、実際に動吸振器を取り付けた時に十分に制振対象物の振動を減衰させる効果が得られない懸念があった。
また、緩衝材の経年変化や、制振対象物自体の経年変化により、徐々に質量体の振動数と制振対象物の振動数が外れ、制振対象物の振動減衰効果が低下していく懸念もあった。
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、制振対象物に動吸振器を取り付けた後でも、動吸振器を取り外さずに動吸振器の質量体の振動数をチューニング可能な動吸振器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためになされた発明は、質量体の振動数を調整可能な振動数調整構造付動吸振器であって、質量体と、前記質量体が載置される支持台と、前記質量体の振動数を調整する振動数調整構造とを備え、前記振動数調整構造は、前記質量体に当接する第1緩衝材と、前記第1緩衝材を前記質量体に対し押圧力可変に押圧する押圧力可変手段とを有している。
【0007】
本発明に係る振動数調整構造付動吸振器では、このように押圧力可変手段により第1緩衝材を質量体に対し押圧力可変に押圧できるよう設けたので、緩衝材に加わる押圧力を調節することにより緩衝材の圧縮量を調節し、これにより、動吸振器のばね定数Kや減衰係数Cを同時に調節できるので、容易に動吸振器の質量体の振動数を調整できる。
【0008】
(旧0009です。特許請求の範囲で旧請求項2と旧請求項3の構成の順序が逆になったので、段落0008と0009を入れ替えてます。)
そして、本発明の振動数調整構造付動吸振器は、前記第1緩衝材が、シート状をなし、表面に板材からなる押圧プレートが貼設されるともに裏面が前記質量体に当接するよう構成されており、前記押圧力可変手段は、前記押圧プレートの表面を押圧することにより前記緩衝材を加圧することを特徴とする。このように緩衝材をシート状とし、これを板材からなる押圧プレートを介して押圧することで、緩衝材に対し均一に押圧力を加えることができる。
【0009】
本発明の振動数調整構造付動吸振器では、前記押圧力可変手段により前記第1緩衝材を前記質量体に対し押圧する位置を変更可能に構成されていることが好ましい。こうすることで、前記第1緩衝材を前記質量体に対し押圧する位置を変更することによっても、動吸振器の振動数を調整できる。
【0010】
本発明の振動数調整構造付動吸振器は、前記質量体を挟んで前記第1緩衝材の反対側において、前記質量体と前記支持台に挟持される第2緩衝材を有することが好ましい。こうすることで、緩衝材(第1緩衝材、及び第2緩衝材)の圧縮量を変化させるのみで、動吸振器におけるばね定数Kと減衰係数Cを調整できる。つまり、容易に質量体1の振動数を調節できる。
【0011】
前記質量体が棒状をなし、前記押圧プレートは、前記質量体の周面に押圧されるとともに、前記質量体の長手方向に沿って複数設けられ、各押圧プレートに第1緩衝材が貼着されていることが好ましい。こうすることで、複数の押圧プレートのうち、加圧する押圧プレートを変更することによっても、質量体の振動数を変化させることができる。
ここで、「棒状」とは一部、又は全部が中空管状のものも含み、断面が円形のものに限らず、正方形や長方形その他の多角形であるものも含むものとする。
【0012】
本発明は、質量体の振動数を調整可能な振動数調整構造付動吸振器であって、質量体と、前記質量体が載置される支持台と、前記質量体の振動数を調整する振動数調整構造とを備え、前記振動数調整構造は、前記質量体に当接する第1緩衝材と、前記第1緩衝材を前記質量体に対し押圧力可変に押圧する押圧力可変手段とを有し、前記質量体は、棒状をなし、長手方向の一端のみが前記支持台に固定され、片持ち支持されている振動数調整構造付動吸振器を含む。このように、質量体が、棒状をなし、長手方向の一端のみが前記支持台に固定され、片持ち支持されていることで、第1緩衝材の圧縮量を変化させることによっても、質量体の基端部(支持台に固定される側の端部)の形状を変化させることによっても、質量体の振動数を変化させることができる。
【0013】
前記質量体が棒状をなし、前記押圧プレート、前記第1緩衝材が前記質量体の長手方向に沿って延在し、前記押圧力可変手段は、前記押圧プレートの表面を前記長手方向の異なる位置で押圧可能に構成されていることが好ましい。こうすることで、押圧プレートを押圧する位置を変更することによっても動吸振器の固有振動数を変化させられるため、固有振動数を変化可能な範囲を拡大できる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明の振動数調整構造付動吸振器によれば、制振対象物に動吸振器を取り付けた後でも、動吸振器のばね定数Kや減衰係数Cを同時に調節できるので、動吸振器を取り外さずに動吸振器の質量体の振動数をチューニングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1実施形態に係る振動数調整構造付動吸振器を示した斜視図である。
図2図1に示した振動数調整構造付動吸振器において、押圧プレートと第2緩衝材が巻回された質量体の端部近傍を透過して示した部分透過斜視図である。
図3図1に示した振動数調整構造付動吸振器の正面図である。
図4】実施例1に係る振動数調整構造付動吸振器を用いて行った試験例1の試験方法を示す説明図である。
図5】実施例1に係る振動数調整構造付動吸振器を用いて行った試験例1について測定方法とともに示した試験結果のグラフである。
図6】実施例1に係る振動数調整構造付動吸振器を用いて行った試験例2の試験方法を示す説明図である。
図7】実施例1の振動数調整構造付動吸振器を用いて、(a)ハンマリングにより質量体の加振を行った試験例2-1から2-3の試験結果、(b)モーターによる加振を行った試験例3-1から3-3の試験結果を示すグラフである。
図8】本発明の第2実施形態に係る振動数調整構造付動吸振器を示す斜視図である。
図9図8に示した振動数調整構造付動吸振器において、質量体、押圧プレート、及び支持台を側面視で示した部分透過図である。
図10図8に示した振動数調整構造付動吸振器の正面図である。
図11】実施例2に係る振動数調整構造付動吸振器を用いて行った試験例3の試験方法を示す説明図である。
図12】試験例4-1の試験結果を示すグラフである。
図13】試験例4-2の試験結果を示すグラフである。
図14】試験例4-3の試験結果を示すグラフである。
図15】実施例2に係る振動数調整構造付動吸振器を用いて行った試験例5の試験方法を示す説明図である。
図16】実施例2の振動数調整構造付動吸振器を用いて、(a)ハンマリングにより質量体の加振を行った試験例5-1から5-3の試験結果、(b)モーターによる加振を行った試験例6-1から6-3の試験結果を示すグラフである。
図17】従来の動吸振器の(a)部分透過斜視図、(b)端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、適宜図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳述する。ただし、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る振動数調整構造付動吸振器(以下、単に「動吸振器」ともいう。)100を示している。動吸振器100は、棒状の質量体1と、質量体1が載置される支持台2と、質量体1の振動数を調整する振動数調整構造3とを備えている。
【0017】
動吸振器100には、1又は複数(図示の例では2つ)の質量体1を備えている。質量体1は、鉄やステンレス等の金属製の棒材、又は管材(図1の例では棒材)からなる。
【0018】
支持台2は、アルミニウム等の金属から矩形の筐体状に形成され、1又は複数(図示の例では2つ)の質量体収容室21を備えている。質量体収容室21は、左右の側壁22,22、中壁23、及び底壁24によって、上方(図1の上方)が開口した溝状に形成されている。質量体収容室21は、図示の例では横断面が矩形をなしているが、当該横断面は、多角以上であっても、円弧状であってもよい。
【0019】
振動数調整構造3は、質量体1の周面に当接する第1緩衝材31と、質量体1を支持する第2緩衝材32と、第1緩衝材31を質量体1に対し押圧力可変に押圧する調整ボルト(押圧力可変手段)33を主に備える他、これらと協働する部材により構成される。振動数調整構造3は、動吸振器100を長手方向の両端に設けられている。本実施形態の調整ボルト33は、雄ねじボルトからなるが、押圧力可変手段は、これに限られるものではなく、ねじ機構に限らずラック・ピニオン機構や、油圧や空気圧その他の機構により、第1緩衝材を押圧力可変に押圧可能であれば、公知の機構を適宜に採用可能である。
【0020】
第1緩衝材31、及び第2緩衝材32は、ともにスチレン系熱可塑性エラストマー等の樹脂からなり、矩形のシート状に設けられている。第1緩衝材31は、表面31aにステンレス等の薄板からなる矩形の押圧プレート34が貼設されて、平板状に保持されている。
【0021】
第2緩衝材32は、質量体1の両端部周面に、その上方(図3の上方)を除いた三方(図3の左右と下方)を包むように巻回され、質量体1と質量体収容室21の側面21a及び底面21bと間に挟持されている。
【0022】
振動数調整構造3は、調整ボルト33と協働して質量体1の振動数を調整するための部材として、調整ボルト33と螺合する雌ねじ孔35a、及びこれが貫設された蓋板35と、押圧プレート34が上下するためのスペースを設けるべく支持台2の側壁22,22、中壁23の上に立設されて蓋板35を支持する角プレート36,36,36とを備えている。調整ボルト33は、外周面に雄ねじ(不図示)が刻設されたボルト本体33aとボルト本体33aの先端に連結されたヘッド33bとを有している。ヘッド33bは、ボルト本体33aに対しボール継手(不図示)によりボルト本体33aの軸周りに回動可能に設けられている。押圧プレート34は、ヘッド33bに当接されている。
【0023】
押圧プレート34は、質量体1の長手方向に沿って、1つ又は複数を設けることが出来る。本実施形態にかかる動吸振器100では、長手方向に4枚の押圧プレート34が設けられ、押圧プレート34ごとに第1緩衝材31が貼設されている。4枚の押圧プレート34それぞれに調整ボルト33が設けられて、個別に質量体を押圧する押圧力を調節可能に構成されている。
【0024】
(振動数の調整方法)
質量体1の振動数を調節する際には、予め制振対象物となる精密機器等の固有振動数を予め測定または解析しておき、これに質量体1の振動数を合わせるように調節を行う。質量体1の振動数の調節は、調整ボルト33を回動させて押圧プレート34を質量体1に当接させて第1緩衝材31、及び第2緩衝材32を圧縮する量を可変することにより行う。質量体1の振動数の調節は、一部の調整ボルト33を用いて行ってもよいし、全部の調整ボルトを用いて行ってもよい。質量体1の振動数の調節は、加速度センサー等により、質量体1の振動数を測定しながら行ってもよいし、調整ボルトに設けた目盛り等により調節してもよい。
【0025】
(実施例1を用いた試験例1)
次に第1実施形態に係る実施例1を用いて、質量体1の振動数を測定した試験例1について説明する。ただし、本発明は、本実施例、及び本試験例に限定されるものではない。
【0026】
(実施例1)
実施例1に係る動吸振器として、図1に示した動吸振器100を用いた。各部材の材質寸法は以下のとおりである。
・質量体:ステンレス(SUS304)製丸棒 φ25mm×400mm 2本
・支持体:アルミニウム(A5052)幅100mm×長さ400mm×厚み40mm
・質量体収容室:2本
・第1緩衝材:スチレン系熱可塑性エラストマー 厚み3mm
・第2緩衝材:第1緩衝材に同じ、質量体1の両端に貼付、質量体1の長手方向の長さ60mm
・調整ボルト:SUS304相当、M6×長さ50mm(ハイロックスクリュー、株式会社ミスミ製)
・押圧プレート:SUS304製薄板 幅25mm×長さ75mm×厚み0.1mm
・蓋板:A5052板 幅100mm×150mm×厚み6mm
・角プレート:A5052板 幅10mm×長さ150mm×厚み15mm
【0027】
(試験例1)
次に実施例1に係る動吸振器を用いて行った試験例1について説明する。
実施例1の動吸振器を図4に示すように3本の直方体のアルミニウム製の架台4を介して鉄の定盤(不図示)上に載置し、質量体の中央におけるQ1と端面のQ2の位置に加速度計(PCB製356A17)を設置した。図5の測定方法に示すように、加圧(押し込み)を行う押圧プレート、及び加圧の大きさを変更しながら、Q1に隣接するP1の位置で質量体をインパクトハンマー(PCB製:086C03、白チップ)で叩いて加振し、加速度計により質量体の加速度を計測した。こうして加速度計にて得られたデータからOROS社製FFTアナライザ(型式OR35-4)、及びデータ分析用のソフトウエア(NVGate Mescope VES)を用いて、質量体の振動数(Hz)と、インパクトハンマーによる伝達関数(g/N)の関係を求めた。ここで、伝達関数(g/N)は、インパクトハンマーにより入力された力に対する加速度計により計測された加速度の比からなるアクセレランスをいい、「g」は、重力加速度9.8m/sを、「N」は、ニュートンを示す。
【0028】
(試験例1の結果)
試験例1の結果を図5に示す。これから、加圧する第1緩衝材の範囲を広げるほど、第1緩衝材に対する加圧の大きさが大きいほど、質量体の振動数が高くなることがわかった。これから、第1緩衝材を質量体に押し当てる範囲やその加圧力の大きさを調節することにより、質量体の振動数を制振対象物の振動数に合わせられることが分かった。
【0029】
(実施例1を用いた試験例2、試験例3)
実施例1の動吸振器を用いて、制振対象物に対する制振効果を調べるために、図6に示した鉄製のガントリー型の試験体Aを制振対象物として、試験体Aの加振方法がハンマー加振(試験例2)とモーター加振(試験例3)の2通りについて、試験体Aに実施例1の動吸振器を載置しない場合(試験例2-1、3-1)、試験体Aにチューニングしない実施例1の動吸振器を載置した場合(試験例2-2、3-2)、試験体Aにチューニングした実施例1の動吸振器を載置した場合(試験例2-3、3-3)を比較すべく、試験体Aの振動試験を行った。試験体Aは、上面A1に一の長辺A3に沿って長板A2が溶接により固定され、固有振動数が90Hzに設けられている。
【0030】
(試験例2:ハンマー加振試験)
(試験例2-1)
図6に示した試験体Aを、動吸振器を置かずに上面A1の一の長辺A3側の角部P2をインパクトハンマーで叩いて鉛直方向に加振し、試験体Aの上面A1の他の長辺A4側の角部Q3、及び他の長辺A4の中央部Q4に設置した加速度計により試験体Aの加速度データを取得し、OROS社製FFTアナライザ(型式OR35-4)とデータ分析用のソフトウエア(NVGate Me‘scope VES)を用いて、試験体Aにおける加振開始からの時間(s)と加速度(m/S)の関係を求めた。
【0031】
(試験例2-2)
図6に示したように試験体Aの上面A1の中央に実施例1に係る動吸振器を、質量体の振動数を90Hzに調節することなく載置した他は、試験例2-1と同様に加振と計測を行って、試験体Aにおける加振開始からの時間(s)と加速度(m/S)の関係を求めた。
【0032】
(試験例2-3)
実施例1に係る動吸振器における質量体の振動数を予め90Hzに調節した他は、試験例2-2と同様に試験体Aに動吸振器を載置し、加振と計測を行って試験体Aにおける加振開始からの時間(s)と加速度(m/S)の関係を求めた。
【0033】
(試験例2の結果)
試験例2の結果を図7(a)に示す。図7(a)の結果より、試験体A(制振対象物)に瞬間的な振動が加わった場合に、動吸振器を載置することで、試験体A単独の場合よりも振動の減衰が速くなり、制振効果が得られること、動吸振器を載置する場合は、質量体の振動数を、試験体Aの固有振動数に合わせるよう調整した方が、試験体Aの固有振動数に合わせる調整をしない場合に比べて、振動の減衰が速く、制振効果が高いことが分かった。
【0034】
(試験例3:モーター加振試験)
(試験例3-1)
試験体Aを、インパクトハンマーで加振する代わりに、試験体Aの長板A2の長手方向の中央部P3に振動モーター(12V)を配置して加振した他は、試験例2-1と同様にして、試験体Aにおける加振開始からの時間(s)と加速度(m/S)の関係を求めた。振動モーターによる加振は、振動モーターを駆動させ、振動モーターと固有振動数が90Hzの試験体Aとを共振させるように調節しながら行った。
【0035】
(試験例3-2)
実施例1に係る動吸振器の質量体の振動数をチューニングしない状態で図6に示すように試験体Aに載置した他は、試験例3-1と同様にして試験体Aにおける加振開始からの時間(s)と加速度(m/S)の関係を求めた。
【0036】
(試験例3-3)
実施例1に係る動吸振器における質量体の振動数を予め90Hzに調節した他は、3-2と同様に、試験体Aに動吸振器を載置し、振動モーターで加振を行って、試験体Aにおける加振開始からの時間(s)と加速度(m/S)の関係を求めた。
【0037】
(試験例3の結果)
試験例3の結果を図7(b)に示す。図7(b)の結果より、試験体A(制振対象物)に連続的な振動が加わった場合に、動吸振器を載置することで、試験体A単独の場合よりも制振効果が高いこと、動吸振器を載置する場合は、質量体の振動数を、試験体Aの固有振動数に合わせるよう調整した方が、試験体Aの固有振動数に合わせる調整をしない場合に比べて、制振効果が高いことが分かった。
【0038】
(第2実施形態)
図8図9は、本発明の第2実施形態に係る振動数調整構造付動吸振器200を示している。動吸振器200は、角棒状の質量体201と、質量体201が載置される支持台202と、質量体201の振動数を調整する振動数調整構造203とを備えている。
【0039】
質量体201は、SUS304ステンレス等の金属材料から切断、切削加工して形成され、直方体状の質量体本体211と、質量体本体211の基端面211a下端から鍔状に延出する基部212とを備えている。基部212は、質量体本体211よりも上下の厚みが薄い薄板状をなし、図9に示すように、下面が質量体本体211の下面と面一に設けられている。
【0040】
支持台202は、質量体201の幅方向の左右の外側に立設される側壁222,222、及び底壁224から樋状に形成され、断面が矩形の溝状をなす質量体収容室221を有している。側壁222は、底壁224の幅方向の両端の底壁224と一体に設けられた鍔部224aに載置されて、六角穴ボルトにより底壁224に連結されている。底壁224は、長手方向の基端側(図9の右側)を、質量体201の基部212を支持する支持部224bを肉厚に設け、支持部224bよりも先端側(図9の左側)の部分224cが支持部224bよりも上面側の低い肉薄に形成することで、質量体本体211と、底壁224の間に隙間225を設けて、質量体201を片持ち支持するように構成されている。
【0041】
振動数調整構造203は、質量体201の上面(周面)に当接する第1緩衝材231と、第1緩衝材の表面に貼設される押圧プレート234と、押圧プレート234を介して第1緩衝材231を質量体201に対し押圧力可変に押圧するマイクロメーターヘッド(押圧力可変手段)233とを主に備える他、これらと協働する部材により構成される。ただし、押圧力可変手段は、第1緩衝材を押圧力可変に押圧可能であれば、マイクロメーターヘッドに限らず、公知の機構を適宜に選択できる。
【0042】
第1緩衝材231は、スチレン系熱可塑性エラストマー等の弾力性のある樹脂製シートからなり、長方形の板状をなしている。押圧プレート234は、金属製の薄板からなり、第1緩衝材231の表面231aに貼設されている。第1緩衝材231及び押圧プレート234は、質量体201の幅方向の中央に長手方向を質量体201の長手方向に合わせて載置されている。
【0043】
振動数調整構造203は、第1緩衝材231やマイクロメーターヘッド233、押圧プレート234と協働する部材として、鉛直姿勢のマイクロメーターヘッド233を挟持する挟持腕235と、挟持腕235の基端側を支持する腕支持部236と、腕支持部236を載置して支持するとともに一対の側壁222,222の上端同士に架け渡される可動架台237と、を備えている。
【0044】
マイクロメーターヘッド233は、スピンドル233aを下側にしてステム233bを挟持腕235に挟持される。この状態で、マイクロメーターヘッド233の定圧つまみ233cを回動させると、スピンドル233aの先端が下がって押圧プレート234に当接して空回りし、スピンドル233aが押圧プレート234を押圧することなく当接する初期状態に設定される。この初期状態からシンブル233dを回動させると、スピンドル233aが初期状態から下方に伸長して押圧プレート234、及び第1緩衝材231を押圧する。
【0045】
挟持腕235は、六角穴ビス235aにより開閉する2つ割の先端部235b間にマイクロメーターヘッド233のステム233bを挟持する。
【0046】
腕支持部236は、直方体のブロック状をなし、挟持腕235の基端部を固定するビスを通すビス穴236aを備えている。
【0047】
可動架台237は、図8に示すように、長方形の板状をなし、長手方向の両端に設けられたビス穴が設けられている。側壁222,222の上端面222aには、長手方向に等間隔で並ぶ多数(複数の意)の雌ねじ孔222b,222b,…が設けられており、可動架台237は、ビスにより一対の側壁222,222に両端が固定される。マイクロメーターヘッド233は、可動架台237を連結する雌ねじ孔222b,222bを変更することで、質量体201の長手方向について位置を変更することができる。
【0048】
(実施例2を用いた試験例4)
次に実施形態2に係る実施例2の動吸振器を用いて行った振動試験(試験例4)について説明する。
【0049】
(実施例2)
実施例2に係る動吸振器として、図8に示した動吸振器200を用いた。各部材の材質寸法は以下のとおりである。
・質量体:SUS304製板材 本体部分幅70mm×長さ220mm×厚み24mm
・底板:A5052製板材 幅82mm×長さ265mm×厚み20mm
・側壁:A5052製板材 幅47mm×長さ265mm×厚み10mm
・質量体収容室:1本
・第1緩衝材:スチレン系熱可塑性エラストマー 幅25mm×長さ150mm×厚み3mm
・押圧プレート:A5052製板材 25mm×長さ150mm×厚み3mm
・マイクロメーターヘッド:株式会社ミツトヨ製、MHN2-25
【0050】
(試験例4-1)
実施例2の動吸振器200を図11に示すように1本の直方体のアルミニウム製の架台4を介して鉄の定盤(不図示)上に載置し、質量体本体211の先端側(図11の右側)の角部Q5、及び角部Q5と対角に位置する角部Q6の位置に加速度計(PCB製356A17)を設置した。
【0051】
図12に示したように、第1緩衝材231、及び押圧プレート234を質量体201の基端側に貼着し、マイクロメーターヘッド233のスピンドル233aの先端を質量体本体211の基端から11.5mmの位置に押し当てて、マイクロメーターヘッド233による押し込み量を、0.00mmから0.50mmまで、0.05mm刻みの9種類に変化させながら、質量体本体211先端のQ5に隣接する角部P4の位置で質量体本体211をインパクトハンマー(PCB製:086C03、白チップ)で叩いて加振し、加速度計により質量体本体211の加速度を計測した。こうして加速度計にて得られたデータからOROS社製FFTアナライザ(型式OR35-4)、及びデータ分析用のソフトウエア(NVGate Me‘scope VES)を用いて、質量体の振動数(Hz)と、インパクトハンマーによる伝達関数(g/N)の関係を求めた。
【0052】
(試験例4-2)
図13に示したように、マイクロメーターヘッド233のスピンドル233aの先端を質量体本体211の基端面211aから111.5(11.5+100)mmの位置に押し当てた他は、試験例4-1と同様にして、質量体の振動数(Hz)と、インパクトハンマーによる伝達関数(g/N)の関係を求めた。
【0053】
(試験例4-3)
図14に示したように、マイクロメーターヘッド233のスピンドル233aの先端を質量体本体211の先端から8.5mmの位置に押し当てた他は、試験例4-1、試験例4-2と同様にして、質量体の振動数(Hz)と、インパクトハンマーによる伝達関数(g/N)の関係を求めた。
【0054】
(試験例4の結果)
試験例4の結果得られた、質量体の振動数(Hz)と、インパクトハンマーによる伝達関数(g/N)の関係を図12から図14のグラフに示す。これらのグラフから、いずれの押し込み位置でも、マイクロメーターヘッド233の第1緩衝材231に対する押し込み量が大きいほど質量体201の振動数が高くなることが分かった。また、マイクロメーターヘッド233で第1緩衝材231を押し込む位置が、質量体本体211の先端側に近いほど、質量体201の振動数が高くなることが分かった。
【0055】
(実施例2を用いた試験例5、試験例6)
実施例2の動吸振器を用いて、制振対象物に対する制振効果を調べるために、図15に示したようにガントリー型の試験体Aを制振対象物として、試験体Aの加振方法がハンマー加振(試験例5)とモーター加振(試験例6)の2通りについて、試験体Aに実施例2の動吸振器を載置しない場合(試験例5-1、6-1)、試験体Aにチューニングしない実施例2の動吸振器を載置した場合(試験例5-2、6-2)、試験体Aにチューニングした実施例2の動吸振器を載置した場合(試験例5-3、6-3)を比較すべく、試験体Aの振動試験を行った。試験体Aは、固有振動数が90Hzに設けられている。
【0056】
(試験例5:ハンマー加振試験)
(試験例5-1)
図15に示した試験体Aを、動吸振器を置かずにインパクトハンマーで叩いて加振した場合の、試験体Aにおける加振開始からの時間(s)と加速度(m/s)の関係については、試験例2-1の結果を援用した。
【0057】
(試験例5-2)
図15に示したように試験体Aの上面A1の中央に実施例2に係る動吸振器を、質量体の振動数を90Hzに調節することなく載置した他は、試験例2-2と同様に加振と計測を行って、試験体Aにおける加振開始からの時間(s)と加速度(m/s)の関係を求めた。
【0058】
(試験例5-3)
質量体の振動数を予め90Hzに調節した他は、試験例5-2と同様に加振と計測を行って、試験体Aにおける加振開始からの時間(s)と加速度(m/s)の関係を求めた。
【0059】
(試験例5の結果)
試験例5の結果を図16(a)に示す。図中「試5-1」が試験例5-1の結果である。図16(a)の結果より、試験体A(制振対象物)に瞬間的な振動が加わった場合に、質量体が片持ち式の動吸振器であっても、動吸振器を載置した方が、試験体A単独の場合よりも振動の減衰が速く制振効果が得られること、動吸振器を載置する場合は、質量体の振動数を、試験体Aの固有振動数に合わせるよう調整し方が、試験体Aの固有振動数に合わせる調整をしない場合に比べて、振動の減衰が速く、制振効果が高いことが分かった。
【0060】
(試験例6:モーター加振試験)
(試験例6-1)
図15に示した試験体Aを、動吸振器を置かずに振動モーター(12V)で加振した場合の、試験体Aにおける加振開始からの時間(s)と加速度(m/s)の関係を求めた。
【0061】
(試験例6-2)
実施例2に係る動吸振器の質量体の振動数をチューニングしない状態で図15に示すように試験体Aに載置した他は、試験例6-1と同様にして試験体Aにおける加振開始からの時間(s)と加速度(m/s)の関係を求めた。
【0062】
(試験例6-3)
実施例2に係る動吸振器における質量体の振動数を予め90Hzに調節した他は、試験例6-1,6-2と同様に振動モーターで加振を行って、試験体Aにおける加振開始からの時間(s)と加速度(m/s)の関係を求めた。
【0063】
(試験例6の結果)
試験例6の結果を図16(b)に示す。図16(b)の結果より、試験体A(制振対象物)に連続的な振動が加わった場合に、質量体が片持ちの動吸振器であっても、動吸振器を載置することで、試験体Aの制振効果が得られること、動吸振器を載置する場合は、質量体の振動数を、試験体Aの固有振動数に合わせるよう調整した方が、試験体Aの固有振動数に合わせる調整をしない場合に比べて、試験体Aの制振効果が高いことが分かった。
【0064】
本発明の振動数調整構造付動吸振器は、上述した実施形態に限られず、例えば、第1緩衝材はシート状でなくてもよいし、押圧プレートはなくてもよい。質量体を3つ以上設けてもよい。質量体が片持ち式の動吸振器に第2緩衝材を設けてもよいし、質量体が片持ち式の動吸振器に、複数の押圧力可変手段を設けることもできる。第1実施形態と第2実施形態において、振動数調整構造を入れ替えてもよい。
【符号の説明】
【0065】
100,200 振動数調整構造付動吸振器
1,201 質量体
2,202 支持台
3,203 振動数調整構造
31,231 第1緩衝材
32 第2緩衝材
33,233 押圧力可変手段
34,234 押圧プレート
【要約】      (修正有)
【課題】動吸振器を制振対象物に取り付けた後も質量体の振動数を調整できるようにする。
【解決手段】本発明の振動数調整構造付動吸振器100は、棒状の質量体1と、質量体1が載置される支持台2と、質量体1の振動数を調整する振動数調整構造3とを備える。振動数調整構造3は、質量体1の周面に当接する第1緩衝材31と、第1緩衝材31を質量体1に対し押圧力可変に押圧する押圧力可変手段33とを有する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
図16
図17