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特許7507979微細構造化された光ファイバ及びそのプリフォーム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-20
(45)【発行日】2024-06-28
(54)【発明の名称】微細構造化された光ファイバ及びそのプリフォーム
(51)【国際特許分類】
   C03B 37/012 20060101AFI20240621BHJP
   G02B 6/02 20060101ALI20240621BHJP
   G02B 6/032 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
C03B37/012 B
G02B6/02 451
G02B6/032 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023539079
(86)(22)【出願日】2021-12-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-22
(86)【国際出願番号】 EP2021084952
(87)【国際公開番号】W WO2022156956
(87)【国際公開日】2022-07-28
【審査請求日】2023-06-23
(31)【優先権主張番号】21152296.6
(32)【優先日】2021-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507332918
【氏名又は名称】ヘレーウス クヴァルツグラース ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Heraeus Quarzglas GmbH & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Heraeusstr.12-14, 63450 Hanau, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ノイマン、クリスチアン
(72)【発明者】
【氏名】ローゼンベルガー、マヌエル
(72)【発明者】
【氏名】シュスター、カイ
(72)【発明者】
【氏名】プラス、ジャクリーヌ
【審査官】三村 潤一郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0266251(US,A1)
【文献】国際公開第2004/050570(WO,A1)
【文献】特開2018-138500(JP,A)
【文献】特表2011-528651(JP,A)
【文献】特開2001-114529(JP,A)
【文献】特表2015-505809(JP,A)
【文献】特表2020-533264(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 37/00 - 37/16
G02B 6/00 - 6/54
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細構造化された光ファイバであって、前記ファイバの長手方向軸に沿って延びるコア領域と、前記コア領域を取り囲み、中空チャネルが貫通する内側クラッド領域とを有し、前記中空チャネルの少なくともいくつかが、塩素濃度が300重量ppm未満の合成石英ガラスから作製された壁材料によって境界付けられており、前記壁材料の前記合成石英ガラスが少なくとも2×1015cm-3の濃度で酸素欠乏中心を有することを特徴とする、光ファイバ。
【請求項2】
前記石英ガラスが、少なくとも5×1015cm-3、より良好には1×1016cm-3、好ましくは少なくとも5×1016cm-3の濃度の酸素欠乏中心を有することを特徴とする、請求項1に記載の光ファイバ。
【請求項3】
前記石英ガラスが、最大で2×1020cm-3、好ましくは最大で5×1019cm-3、最大で1×1019cm-3、最大で5×1018cm-3、最大で2×1018cm-3、最大で1×1018cm-3、最大で5×1017cm-3、最大で2×1017cm-3、特に好ましくは最大で1×1017cm-3の濃度で酸素欠乏中心を含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の光ファイバ。
【請求項4】
前記石英ガラスが、10重量ppm未満、好ましくは1重量ppm未満のヒドロキシル基含有量を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の光ファイバ。
【請求項5】
前記石英ガラスが、20重量ppm未満、好ましくは10重量ppm未満のハロゲン含有量を有することを特徴とする、請求項4に記載の光ファイバ。
【請求項6】
前記石英ガラスが、炭素及び窒素を除く異物を、30重量ppm未満、好ましくは3重量ppm未満の総濃度で含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の光ファイバ。
【請求項7】
前記石英ガラスが、1200℃の温度で少なくとも1013dPa sの粘度を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の光ファイバ。
【請求項8】
前記コア領域が、少なくとも1つの中空コアを有し、前記内側クラッド領域が、前記長手方向に延びる中空チャネルの微細構造化された規則的配置を含み、前記内側クラッド領域が、前記壁材料から作製されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の光ファイバ。
【請求項9】
前記コア領域が、少なくとも1つの中空コアを有し、前記内側クラッド領域が、前記ファイバの前記長手方向軸の方向に延びる中空構造要素を備え、前記中空構造要素が、内側クラッドの内側側面上に環状に配置され、前記中空コアに沿って反共振効果によって光を誘導することを特徴とする、請求項1又は2に記載の光ファイバ。
【請求項10】
前記中空構造要素が各々、ARE外側キャピラリと、前記ARE外側キャピラリの内側側面に接続された少なくとも1つの入れ子式NE内側キャピラリとを備え、前記内側クラッド、前記ARE外側キャピラリ、及び/又は前記NE内側キャピラリが、前記壁材料から作製されていることを特徴とする、請求項9に記載の光ファイバ。
【請求項11】
前記内側クラッド領域を取り囲む外側クラッド領域を備え、前記外側クラッド領域が前記壁材料から作製されていることを特徴とする、請求項9に記載の光ファイバ。
【請求項12】
請求項1又は2に記載の微小構造光ファイバを製造するためのプリフォームであって、前記プリフォームが、プリフォーム長手方向軸に沿って延びるコア領域と、前記コア領域を取り囲み、中空チャネルが貫通する内側クラッド領域とを有し、前記中空チャネルの少なくともいくつかが、塩素濃度が300重量ppm未満であり、酸素欠乏中心が少なくとも2×1015cm-3の濃度である合成製造石英ガラスから作製された壁材料によって境界付けられている、プリフォーム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細構造化された光ファイバの分野、特に中空コアファイバの分野のものである。
【0002】
加えて、本発明は、微細構造化された光ファイバを製造するためのプリフォームに関する。
【0003】
微細構造化された光ファイバは、ファイバの長手方向軸に沿って延びる中実又は中空コア領域と、コア領域を取り囲み、中空チャネルが貫通して延びる内側クラッド領域とを有する。これらのファイバは、フォトニック結晶ファイバ(photonic crystal fiber、PCF)とも呼ばれる。これらは、例えば、「フォトニックバンドギャップファイバ」及び「反共振反射ファイバ」を含む。
【0004】
「フォトニックバンドギャップファイバ」の場合、コア領域は、小さな中空チャネルが周期的に配置されているクラッドによって取り囲まれている。ガラス/空気境界面でのブラッグ反射に起因して、クラッド内の中空チャネルの周期構造は、反射された放射成分の強め合う干渉と、透過された(横断)成分の弱め合う干渉とを引き起こす。それによって生成されたコア内の定常波は、横方向のエネルギーの輸送を減少させ、その結果、波は、ファイバ長手方向軸の方向に誘導される。しかしながら、これらの干渉効果は、半導体技術から借用して、「フォトニックバンドギャップ」と呼ばれる限られた波長範囲内でのみ正の伝導特性をもたらす。
【0005】
「反共振中空コアファイバ」(anti-resonant hollow-core fiber、ARHCF)と呼ばれる中空コアファイバの実施形態では、中空コア領域は、いわゆる「反共振要素(anti-resonant element)」(又は「反共振要素(anti-resonance element)」、略して「ARE」)が配置されている内側クラッド領域によって取り囲まれている。中空コアの周りに均等に分布している反共振要素の壁は、反共振で動作するファブリ・ペロー空洞として作用することができ、入射光を反射し、それを、中空ファイバコアを通して誘導する。
【0006】
微細構造化された光ファイバの潜在的な用途は、データ伝送、例えば材料加工のための高出力ビーム誘導、モーダルフィルタリング、特に紫外線波長範囲から赤外線波長範囲までのスーパーコンティニューム生成のための非線形光学の分野にある。
【0007】
中空コアファイバはまた、中空コア内に位置する媒体(気体又は液体)の精密な分光調査を可能にする。コア内で誘導された光は、検査されるべき媒体と大きく重なり合うので、ppm範囲の濃度も検出することができる。加えて、光原子時計、量子コンピュータ、及び蛍光顕微鏡での使用も可能である。
【背景技術】
【0008】
微細構造化された光ファイバは、少なくとも部分的に合成石英ガラスからなることが多い。製造上の理由から、これは、特に約800nm~3000nmの波長範囲において光学減衰に影響を及ぼすヒドロキシル基(略してOH基)を含有し得る。
【0009】
できるだけ少ないヒドロキシル基(1重量ppm以下)を含有する低損失石英ガラスを製造するために、製造プロセスは、ハロゲン、特に塩素を使用する脱水処理を含むことが多い。更に、フッ素及び塩素は、石英ガラスの屈折率及び粘度に影響を与えるための一般的なドーパントである。したがって、典型的には、低いOH含有量を有する合成製造石英ガラスは、比較的高いハロゲン含有量を有する。
【0010】
製造経路に応じて、ハロゲンは、石英ガラスのネットワーク構造に化学的に結合され得るか、又は物理的に溶解され得る。組み込みのタイプは、いわゆる廃ガスプロセスに影響を及ぼす。ハロゲン担持及びガス放出は、ファイバ挿入に関する問題、例えば、破壊的な吸収帯の形成、熱間加工中のガラス中の気泡形成、及びファイバと接触している調査対象の媒体の堆積又はpHの変化を引き起こすことがある。
【0011】
例えば、米国特許出願公開第2010/266251(A1)号には、塩素含有石英ガラスのプリフォームから線引きされた微細構造化された光ファイバにおいて、ファイバ端面の劣化が起こり得ることが記載されている。劣化は、石英ガラスから拡散する塩素が中空チャネルを通ってファイバ端面に達し、そこで環境からの水又はアンモニアとの反応によって堆積物又は腐食性物質を形成するという事実に起因する。300ppm未満の塩素濃度を有する石英ガラスのプリフォームの少なくとも一部を形成することによって、塩素の外方拡散を低減することが推奨される。塩素含有量は、例えば、プリフォームを加熱することによって減少させることができる。あるいは、中空チャネルに隣接し、中空チャネル内への塩素の拡散を低減する石英ガラスから作製された拡散バリアが設けられる。
【0012】
更に、製造時及びファイバの使用時に、不純物(ガス、水分など)がガス放出によって中空チャネル内に侵入することがあるだけでなく、開放ファイバ端部を介して侵入することによって、ファイバ特性に好ましくない影響を及ぼすこともある。各微量の水分は、1380nm付近の波長範囲における減衰の増加をもたらすだけでなく、ファイバの内面及び外面上の表面腐食をもたらすこともある。例えば、水はネットワーク構造のSi-O-Si又はSi-Cl結合を破断することがあり、表面結合Si-OH種及びHClが生じ得る。
【0013】
したがって、腐食に対する保護のために、ファイバ外側クラッドには概してポリマーコーティングが施される。国際公開第2020/070488(A1)号には、診断目的のための微細構造化された光ファイバが記載されており、コーティングに入る水に対する保護に加えて、ファイバが、水遮断充填材料で充填された管内に配置されている。
【0014】
国際公開第2018/237048(A1)号から、反射損失を低減するためにナノ構造化された表面を有する窓を有する、水が入るのを防ぐための保護キャップで開放ファイバ端部が覆われた反共振中空コアファイバを有する高出力ケーブルが既知である。
【0015】
光ファイバのクラッド材料として使用される酸素欠陥中心(oxygen defect center)を含有する合成石英ガラスは、ドイツ特許第1021011121153(B1)号から既知である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
米国特許出願公開第2010/266251(A1)号から既知の包括的な微細構造化された光ファイバでは、市販の石英ガラスグレードが拡散バリア用の材料として指定されており(Heraeus Quarzglas GmbH&Co.KG製の商品名F100又はF110)、これらは300重量ppm未満の適度な塩素含有量を有する。しかしながら、これらの石英ガラスグレードのヒドロキシル基含有量は、少なくとも400重量ppmである。この点に関して、より高いヒドロキシル基含有量及び関連する減衰損失は、低ハロゲン石英ガラスと引き換えに受け入れられる。
【0017】
ファイバ外側クラッド上の腐食から保護するために適用することができる薬剤は、中空ファイバチャネルの内面上で使用することができない。中空コアファイバでは、腐食によって減衰が徐々に増加する。水の侵入から保護するための端部キャップは、透過損失をもたらす。
【0018】
したがって、本発明の目的は、微細構造化された光ファイバ、特に中空コアファイバにおける、腐食に関連する減衰の増加と塩素のガス放出と、を低減することである。
【0019】
更に、本発明の目的は、そのような微細構造化された光ファイバを製造するのに好適なプリフォームを提供することである。
【0020】
課題を解決するための手段
微細構造化された光ファイバに関して、この目的は、中空チャネルの少なくともいくつかが、塩素濃度が300重量ppm未満であり、酸素欠乏中心(oxygen deficiency center)が少なくとも2×1015cm-3の濃度である合成石英ガラスの壁材料によって画定されている、冒頭で述べた特徴を有するファイバから始まる本発明によって達成される。
【0021】
微細構造化された光ファイバの中空チャネルの少なくともいくつかを境界付ける、好ましくはファイバの全ての中空チャネルを境界付ける壁材料は、合成石英ガラスからなる。これは塩素を含まないか、又は300重量ppm未満、好ましくは30重量ppm未満、より好ましくは3重量ppm未満の低い塩素濃度を有する。したがって、塩素のガス放出及び化学反応に付随し得る冒頭に記載した技術的問題は防止されるか又は最小限に抑えられる。
【0022】
更に、合成石英ガラスは、化学量論以下の酸素含有量を有する。これは、ネットワーク構造が、ネットワークの酸素点が占有されていないか又は他の原子によって占有されている酸素欠乏中心を有するという事実によって反映される。既知のタイプの酸素欠乏中心は以下の通りである。
【0023】
(1)210nmの波長に吸収極大を有する常磁性電子(E’中心)を有する三配位ケイ素原子であって、1個又は2個の電子がネットワーク構造の不飽和結合に結合していてもよい、ケイ素原子。
【0024】
(2)文献ではODC I及びODC IIと呼ばれる、互いに平衡状態にある2つのタイプが区別される酸素欠乏中心(ODC)。
【0025】
ODC I:163nm(7.6eV)の波長に吸収極大を有する直接Si-Si結合。
【0026】
ODC II:247nm(5.0eV)の波長に吸収極大を有する二配位ケイ素原子。
【0027】
石英ガラス中のこれらの酸素欠乏中心の濃度は、210nmにおけるE’中心、又は247nmにおけるODC中心の吸収を使用する分光法によって決定することができる。この場合、石英ガラス全体の化学量論以下の程度が十分となる尺度は、2×1015cm-3以上となる場合の、247nmの波長での吸収によって決定されるODC酸素欠乏中心の分光濃度である。
【0028】
化学量論的組成からかけ離れた石英ガラスは、特定の欠陥タイプに特に割り当てられることなく、それらの特定のフォトルミネッセンスに基づいて決定され得る、2つの特定されたもの以外の酸素欠乏中心を有すると考えられる。
【0029】
合成石英ガラス中の酸素欠乏中心は、通常、光学特性を損なうことがある、可能であれば回避すべき不利な構造欠陥と見なされる。しかしながら、本発明では、そのような酸素欠乏中心を壁材料中に意図的に多量に生じさせ、壁材料が水分と活発に反応して水分を除去できるようにしている。ファイバ製造中又はファイバが使用されるときに残留しているか又は形成される水分は、例えば、中空チャネル又は任意の中空コア内にあり、例えば、プリフォーム又はファイバの表面上に吸着される。それは、周囲ガスに溶解した水分子及び物理的に吸着された水分子の両方を含む。両方とも、例えば、以下の反応式に従って、高温で石英ガラス壁の酸素欠乏中心と反応することができる。
【化1】
【0030】
したがって、存在する水分は、石英ガラスのネットワーク構造中に化学的に結合して固定化される。酸素欠乏中心のこの「乾燥効果」の結果として、ファイバの透過挙動に対する水分の影響は、可能な限り低く保たれる。これは、中空コア内に生じる光の伝導の領域を示すいわゆる「高電界領域」に対して特に好ましい効果を有する。そこでは、水分は、水を吸収する酸素欠乏欠陥との反応によって結合されるので、存在する水分はより少なくなる。更に、開放ファイバ端部を介した水分の拡散も動力学的に抑制される。
【0031】
これらの効果に関して、石英ガラス中の酸素欠乏中心の濃度は、原則として可能な限り高く、特に少なくとも5×1015cm-3、より良好には1×1016cm-3、好ましくは少なくとも5×1016cm-3である。
【0032】
一方、酸素欠乏中心は、光、特にUV波長範囲の光を吸収する。それらはガラスの粘度を増加させ、その加工、特に均質化をより困難にする。したがって、光導波路の特定の使用は、許容可能な最大濃度を決定する。これは、例えば、動作波長、透過経路の長さ(ファイバ長、ロッド長)、光導波路内で誘導された光モードプロファイル、光導波路のプロファイル、及び光導波路端部における最小出力又はガラスの均質性に対する要件に依存し、その溶融及び延伸挙動にも依存する。長波長の動作波長、メートル又はセンチメートル範囲などの短い透過経路、並びに光導波路端部における最小光出力及びガラスの均質性に対する要求が低い場合、2×1020cm-3を超える高濃度の酸素欠乏中心が技術的に実現可能である。しかしながら、上述のタイプのより高い要件は、上限濃度を最大で2×1020cm-3、好ましくは最大で5×1019cm-3、最大で1×1019cm-3、最大で5×1018cm-3、最大で2×1018cm-3、最大で1×1018cm-3、最大で5×1017cm-3、最大で2×1017cm-3に制限し、特に高い要件の場合、好ましくは最大で1×1017cm-3に制限する。
【0033】
酸素欠乏中心は、その後の還元雰囲気中での温度処理によって合成石英ガラス中に導入することができる。これは、境界壁の体積にわたる欠陥中心分布の勾配をもたらし、壁表面の領域、すなわち、水分との反応が主に起こるべき場所において最大となる。あるいは、高濃度の欠陥中心の生成及び同時の均一な分布は、合成石英ガラスの製造中に直接達成することができる。
【0034】
合成石英ガラスを製造するために、ケイ素含有供給材料を、反応ゾーンにおいて加水分解又は酸化によってSiO粒子に変換し、キャリア上に堆積する。例としては、いわゆるOVD法(外付け気相堆積(outside vapor phase deposition))、VAD法(気相軸付け堆積(vapor phase axial deposition))、又はPOD法(プラズマ外付け堆積(plasma outside deposition))が挙げられる。支持体表面の領域における十分に高い温度で、SiO粒子は即時にガラス化し、これは「直接ガラス化」としても既知である。対照的に、いわゆる「スートプロセス」では、SiO粒子の堆積中の温度は低いので、多孔質SiOスート層が得られ、これは別個のプロセスステップで焼結されて透明石英ガラスを形成する。直接ガラス化法及びスート法は両方とも最終的には、緻密で透明な高純度の合成石英ガラスをもたらす。
【0035】
どちらの方法も、堆積プロセス中に還元効果を有する条件を確立することによって酸素欠乏中心を生成するのに好適である。条件は、反応ゾーンにおけるSiO粒子の形成及びそれらの堆積中、以下のいずれかの場合に、この意味で「還元効果を有する」。
(1)反応ゾーンにおけるケイ素化合物の完全燃焼が化学量論的な理由から既に排除されているように、化学量論以下の酸素分率が提供される場合、又は
(2)反応ゾーンにおけるケイ素化合物の滞留時間が、供給材料の完全な反応に必要な時間よりも短く設定される場合。
【0036】
前者は、所与の反応条件下で、反応ゾーンにおけるケイ素化合物の完全燃焼が化学量論的な理由から既に排除されているような低い酸素供給で堆積プロセスを誘導することによって行われる。
【0037】
後者は、例えば、供給材料の流れと酸素流との間に不活性ガスの分離ガス流を提供することによって、又は過度に短い反応ゾーンを設定することによって、及び/若しくは反応ゾーン内に供給材料の過度に高い流量を生成することなどによって、反応ゾーンにおける供給材料が酸素から遮蔽されるために生じる。
【0038】
いずれの場合においても、酸素含有量に関して化学量論以下である合成石英ガラスが得られる。堆積プロセスにおける還元条件に起因する所望の酸素欠乏中心を調整するための手段は、いくつかの実験においてそれらの適合性について確認することができる。
【0039】
スート法はまた、均一に分布した酸素欠乏中心を生成するために、還元雰囲気中でスート体を引き続き処理することを可能にする。ケイ素又はSiOに対する電子供与体として機能する物質、例えば、水素又は炭化水素が存在する場合、雰囲気はこの意味で「還元効果を有する」。
【0040】
多量の酸素欠乏中心に加えて、合成石英クラスは、10重量ppm未満、好ましくは1重量ppm未満の低いヒドロキシル基含有量によって特徴付けられる。
【0041】
ヒドロキシル基は、存在する酸素欠乏欠陥を飽和させ、それによってそれらの乾燥効果を低減するのに好適である。
【0042】
これはハロゲンにも等しく当てはまる。したがって、合成石英ガラスは、有利には、20重量ppm未満、好ましくは10重量ppm未満の最小ハロゲン含有量を有する。
【0043】
理想的な場合、合成石英ガラスはケイ素及び酸素のみからなり、異物を全く含有しない。しかしながら、実際には、異物は避けられない。合成石英ガラス中の異物は、酸素欠乏中心の乾燥効果に影響を及ぼし得る。例えば、有機ケイ素含有供給材料の使用から堆積プロセス中の還元条件の結果として形成され得るか、又はSiOスート体の還元後処理から形成され得る炭素は、この悪影響を有さず、窒素もまた有さないので、これらの物質は、上記の意味での「異物」に包含されない。
【0044】
金属異物は、特にアルカリ金属及びアルカリ土類金属、並びに周期表の内部遷移金属及びランタニドである。石英ガラスにおいて、これらの物質は、典型的には、イオン形態で存在する。しかしながら、化学量論以下の酸素含有量を考慮すると、低減された金属不純物を達成することも可能である。金属異物は、透過を損なう顕著な吸収を引き起こすことがある。
【0045】
これを考慮して、壁材料の石英ガラスが、炭素及び窒素を除いて、30重量ppm未満、好ましくは3重量ppm未満の総濃度で異物を含有する場合、並びに石英ガラス中の金属異物の総濃度が1重量ppm未満、特に好ましくは100重量ppb未満である場合、価値があることが証明された。
【0046】
合成石英ガラスが1200℃の温度で少なくとも1013dPa sの粘度を有する場合も有利であることが証明された。
【0047】
より少ない欠陥を有する合成石英ガラスと比較して、酸素欠損中心を有する壁材料のより高い粘度は、ファイバ線引きプロセス中に微細構造化された内側クラッド領域内に構造を得ることに対して、ひいてはファイバの減衰特性に対して有利な効果を有する。これは、微細構造化された反共振ファイバの内側クラッド領域には繊細な構造が生じるため、繊細な構造に特に当てはまる。
【0048】
微細構造化された光ファイバ(「バンドギャップファイバ」)の特に好ましい実施形態では、コア領域は、少なくとも1つの中空コアを有し、内側クラッド領域は、長手方向に延びる中空チャネルの微細構造化された規則的配置を含み、内側クラッド領域は、壁材料から作製されている。
【0049】
微細構造化された光ファイバ(「反共振中空コアファイバ」)の別の好ましい実施形態では、コア領域は、少なくとも1つの中空コアを有し、内側クラッド領域は、ファイバの長手方向軸の方向に延びる中空構造要素を備え、中空構造要素は、内側クラッドの内側側面上に環状に配置され、中空コアに沿って反共振効果によって光を誘導する。
【0050】
この場合、中空構造要素は、例えば、ARE外側キャピラリと、ARE外側キャピラリの内側側面に接続された少なくとも1つの入れ子式内側キャピラリ(NE、入れ子式要素(nested element))とを備え、内側クラッド、ARE外側キャピラリ、及び/又はNE内側キャピラリが壁材料から作製されている場合、有用であることが証明された。好ましくは、内側クラッドとARE外側キャピラリ、又は内側クラッドとNEキャピラリ、又はARE外側キャピラリとNEキャピラリとが、特に好ましくは、内側クラッドとARE外側キャピラリ及びNE内側キャピラリとの両方が、酸素欠乏中心を含む壁材料から作製されている。反共振中空コアファイバの製造において、言及された構成要素(可能な他の構成要素に加えて)は、構成要素集合体に組み合わされることが多く、それらは、コラップス及び/又は伸長プロセスにおいて、外側クラッド(又は「バッファ管」)で緩衝される。
【0051】
適切な場合には、反共振中空コアファイバの形態の光ファイバは、内側クラッド領域を取り囲み、バッファ管に由来する外側クラッド領域も備える。有利な実施形態では、バッファ管もまた、酸素欠乏中心を含有する壁材料から、すなわち、塩素濃度が300重量ppm未満であり、酸素欠乏中心が少なくとも2×1015cm-3の濃度である合成石英ガラスから作製されている。
【0052】
外側クラッド領域は、概して、内側クラッド領域よりもファイバの中空チャネルから遠くに離れている。しかしながら、特にクラッドガラスの質量が比較的大きい結果として、それは中空チャネルの領域における乾燥に依然として寄与し得る。
【0053】
塩素濃度が300重量ppm未満であり、酸素欠乏中心が少なくとも2×1015cm-3の濃度である合成石英ガラスの壁材料は比較的高価である。別の実施形態では、この壁材料からなるのではなく、塩素濃度が300重量ppm超であり、酸素欠乏中心が2×1015cm-3未満の濃度である石英ガラスからなるバッファ管が使用される。
【0054】
プリフォームに関して、前述の技術的目的は、本発明によって、プリフォームが、プリフォーム長手方向軸に沿って延びるコア領域と、コア領域を取り囲み、中空チャネルが貫通する内側クラッド領域とを有し、中空チャネルの少なくともいくつかが、塩素濃度が300重量ppm未満であり、酸素欠乏中心が少なくとも2×1015cm-3の濃度である合成製造石英ガラスから作製された壁材料によって境界付けられていることにおいて達成される。
【0055】
プリフォームの中空チャネルの少なくともいくつかを境界付ける、好ましくはプリフォームの全ての中空チャネルを境界付ける壁材料は、合成石英ガラスからなる。これは塩素を含まないか、又は300重量ppm未満、好ましくは30重量ppm未満、より好ましくは3重量ppm未満の低い塩素濃度を有する。したがって、塩素のガス放出及び化学反応に関連する問題を防止するか又は最小限に抑えることができる。
【0056】
更に、合成石英ガラスは、化学量論以下の酸素含有量を有する。これは、ネットワーク構造が、ネットワークの酸素点が占有されていないか又は他の原子によって占有されている酸素欠乏中心を有するという事実によって反映される。既知のタイプの酸素欠乏中心は、微細構造化された光ファイバに関連して上でより詳細に説明されたように、いわゆるE’中心及びODC中心(ODC I、ODC II)である。
【0057】
石英ガラス中のこれらの酸素欠乏中心の濃度は、210nmにおけるE’中心、又は247nmにおけるODC中心の吸収を使用する分光法によって決定することができる。この場合、石英ガラス全体の化学量論以下の程度が十分となる尺度は、247nmの波長での吸収によって決定される、2×1015cm-以上となる場合のODC酸素欠乏中心の分光濃度である。
【0058】
本発明では、酸素欠乏中心を壁材料中に意図的に多量に生じさせ、壁材料が水分と活発に反応して水分を除去できるようにしている。プリフォーム又はファイバの製造中に生成される水分は、例えば、中空チャネル又は任意の中空コア内に位置し、例えば、プリフォーム又はファイバの表面上に吸着される。水分は、例えば、以下の反応式に従って、石英ガラス壁の酸素欠乏中心と反応することができ、
【化2】
それによって、石英ガラスのネットワーク構造中に化学的に結合して固定化される。酸素欠乏中心のこの「乾燥効果」の結果として、ファイバの透過挙動に対する水分の影響は、可能な限り低く保たれる。更に、開放プリフォーム端部を介した水分の拡散も動力学的に抑制される。
【0059】
微細構造化された光ファイバに関連する上記の説明は、プリフォームにも当てはまり、本明細書に組み込まれる。
【0060】
測定方法及び定義
上記の説明の個々の方法ステップ及び用語は、以下で更に定義される。定義は、本発明の説明の一部を形成する。以下の定義のうちの1つと残りの説明との間に大きな矛盾がある場合には、残りの説明においてなされた記述が優先する。
【0061】
酸素欠乏中心の測定
SiO中の酸素欠乏中心は、吸収測定によって分光学的に検出され、酸素欠乏中心の濃度は、単純化されたSmakula方程式を使用して、そこから計算される。
【0062】
計算方法はPacchioni,G.;Skuja,L.;Griscom,D.L.(2000).Defects in SiO and Related Dielectrics:Science and Technology || OPTICAL PROPERTIES OF DEFECTS IN SILICA.,10.1007/978-94-010-0944-7(Chapter 3),73-116.doi:10.1007/978-94-010-0944-7_3に記載されている。
【0063】
反共振要素
反共振要素は、中空コアファイバの単純な構造要素であっても、入れ子式構造要素であってもよい。反共振要素は、中空コアの方向から見たときに負の曲率を有する(凸状である)か又は曲率を有さない(平面状、直線状である)、少なくとも1つの壁を有する。反共振要素は、概して、例えば、ガラス、特にドープされたか又はドープされていないSiOから作製された、動作光に対して透明な材料からなる。
【0064】
反共振要素プリフォーム
反共振要素プリフォームと呼ばれるものは、ファイバ線引きプロセス中の単純な伸長によって、中空コアファイバ内で本質的に反共振要素になるプリフォームの構成要素又は構成成分である。入れ子式反共振要素プリフォームは、中空コアファイバ内で入れ子式反共振要素を形成する。入れ子式反共振要素は、ARE外管と、ARE外管の内側ボア内に配置されている少なくとも1つの更なる構造要素とで構成される。更なる構造要素は、外管の内面に接している更なる管とすることができる。追加の管は、「入れ子式要素」若しくは略して「NE内管」と呼ばれるか、又は「入れ子式NE内管」とも呼ばれる。
【0065】
多重入れ子式反共振要素プリフォームの場合、少なくとも1つの更なる構造要素、例えば、入れ子式NE内管の内面に当接している第3の管を、NE内管の内側ボア内に配置することができる。多重入れ子式反共振要素プリフォームが存在する場合、ARE外管内に配置される複数の管を区別するために、任意選択で、「外側NE内管」と「内側NE内管」とが区別され得る。
【0066】
円筒形の反共振要素プリフォーム、それらの円筒形の構造要素及びキャピラリ半製品に関連する「断面」という用語は、常に、円筒のそれぞれの長手方向軸線に対して垂直な断面、すなわち、別段の指示がない限り、管状の構成要素の外側輪郭の断面(内側輪郭の断面ではない)を指す。
【0067】
一次プリフォームの更なる加工、特に熱間成形ステップによる更なる加工は、中間製品をもたらすことができ、中間製品では、元の反共振要素プリフォームは、元の形状と比較して変化した形状で存在する。本明細書では、変化した形状は、反共振要素プリフォームとも呼ばれる。
【0068】
プリフォーム/一次プリフォーム/二次プリフォーム/コアプリフォーム(ケーン)
プリフォームは、反共振中空コアファイバがそこから線引きされる構成要素である。プリフォームは、一次プリフォーム、又は一次プリフォームの更なる加工によって製造される二次プリフォームである。一次プリフォームは、少なくとも1つのクラッド管と、その内部に緩く収容されているか又はしっかりと固定されている、反共振要素のためのプリフォーム又は前駆体とからなる集合体として存在することができる。中空コアファイバがそこから線引きされる二次プリフォームへの一次プリフォームの更なる加工は、以下の熱間成形プロセス、すなわち、
(i)伸長、
(ii)コラップス、
(iii)コラップス及び同時伸長、
(iv)追加のシース材料のコラップス、
(v)追加のシース材料のコラップス及びその後の伸長、
(vi)追加のシース材料のコラップス及び同時伸長
のうちの1つ以上の1回の実行又は反復実行を含むことができる。
【0069】
一次プリフォームをコラップス及び/又は伸長することによって得られるプリフォームは、文献ではケーンと呼ばれ、したがってケーンは二次プリフォームの定義に含まれる。典型的には、ケーンは、中空コアファイバの線引き前又は線引き中、追加のシース材料で被覆される。
【0070】
伸長/コラップス
伸長中、一次プリフォームは軟化され、それによって延伸される。延伸は、同時にコラップスすることなく行うことができる。縮尺通りに伸長を行うことができ、それにより、例えば、一次プリフォームの構成要素又は構成成分の形状及び配置が、延伸され伸長された最終製品に反映される。しかしながら、伸長中、一次プリフォームは、縮尺通りに線引きされないこともあり、その幾何学形状が変化することがある。
【0071】
コラップス中、内側ボアは狭くなるか、又は、管状の構成要素の間の環状間隙が閉じるか若しくは狭くなる。コラップスは、伸長を伴い得る。
【0072】
中空コア/内側シース領域/外側シース領域
本明細書では、少なくとも1つのクラッド管と、その内部に緩く収容されているか又はしっかりと固定されているAREプリフォームとを備える集合体は、「一次プリフォーム」とも呼ばれる。一次プリフォームは、中空コアとシース領域とを備える。このシース領域は、例えば集合体上にコラップスすることによって製造された「外側シース領域」も存在する場合、及び当該シース領域を区別すべき場合、「内側シース領域」とも呼ばれる。「内側シース領域」及び「外側シース領域」という用語は、中空コアファイバにおける対応する領域、又は一次プリフォームの更なる加工によって得られる中間製品における対応する領域についても使用される。
【0073】
「管の内側」という表記は、「管の内面」の同義語としても使用され、「管の外側」という表記は、「管の外面」の同義語としても使用される。管に関連する「内側ボア」という用語は、内側ボアがドリル加工プロセスによって製造されたことを意味するものではない。
【0074】
例示的な実施形態
例示的な実施形態及び図面を参照して本発明を以下でより詳細に説明する。以下のものを詳細に示す。
【図面の簡単な説明】
【0075】
図1図1は、種々の石英ガラスグレードの透過スペクトルを示す図である。
図2図2は、中空コアファイバ用のプリフォームを製造するための、クラッド管と、その中に配置され固定された反共振要素プリフォームとを有する一次プリフォームの半径方向断面図である。
図3図3は、垂直線引きプロセスによるARE外管及びARE内管の工具不要製造に使用するためのデバイスである。
【発明を実施するための形態】
【0076】
酸素欠乏中心を有する合成石英ガラスの製造
酸素欠乏欠陥を有する石英ガラスを、欧州特許出願公開第1580170(A1)号に記載された方法に従って製造する。この方法では、まず、100mmの外径及び1kgの重量を有する多孔質SiOスート体を、通常の方法でSiClの火炎加水分解によって調製する。これを処理炉に導入し、炉室を排気して500℃の温度に加熱する。60分の保持時間の後、ヘキサメチルジシラザンをキャリアガスとしての窒素と共に1モル/時の速度で炉室に導入し、スート体をこの雰囲気中で3時間処理する。
【0077】
続いて、このように処理されたスート体を真空炉に導入し、その中でまず真空(0.001mmHg)下800℃に加熱し、1時間後に1600℃の温度に加熱し、焼結して石英ガラスを形成する。温度処理の過程で、製造プロセスに起因してSiO固体に予め導入された水素の大部分が逃げる。
【0078】
ヒドロキシル基含有量が1重量ppm未満、塩素含有量が30重量ppm未満、炭素含有量が100重量ppm、窒素含有量が80重量ppm、及び水素分子含有量が5×1016個/cm未満である高純度の透明な合成石英ガラスを得る。各々の場合において、Liの濃度は2重量ppb未満であり、以下の金属不純物:Na、K、Mg、Al、K、Ca、Ti、Cr、Fe、Ni、Cu、Mo、W、V、及びZnの濃度はいずれの場合も5重量ppb未満である。金属不純物の総濃度は、100重量ppb未満である。1,280℃の温度で、石英ガラスは、12.4(logη)の粘度を有する。
【0079】
多孔質SiOスート体の還元雰囲気中での処理は、有機ケイ素含有化合物ヘキサメチルジシラザンの作用により、合成石英ガラス中に異なる酸素欠乏中心をもたらす。このことは、このように処理された石英ガラスがおよそ247nmの波長で高い吸収を有するという事実によって示される(図1参照)。
【0080】
この波長で吸収するODC酸素欠乏中心の濃度は、分光法によって決定され、9.14×1016cm-3である。
【0081】
石英ガラスのODC酸素欠乏中心は、図1の透過スペクトルなどのUV波長範囲における吸収を引き起こす。y軸に、測定された透過率T(%)を、150~およそ400nmの波長範囲にわたる波長λ(nm)に対してプロットする。「測定された透過率」Tは、表面上の反射損失を含み、この点で、1cmの試料厚さでのいわゆる「内部透過率」(又は「純透過率」)とは異なる。
【0082】
この図は、石英ガラス(名称:L570)の透過プロファイルを含み、その製造は上で説明されている。比較のために、他の市販の石英ガラスグレードの追加の透過プロファイルを記録する。「HLQ270」及び「Hlx-LA」という表記は、天然に存在する石英結晶から溶融された石英タイプである。「F310」は、低塩素含有量(<0.2重量ppm)及び200重量ppmのヒドロキシル基含有量を有する合成製造石英ガラスである。「F300」は、低ヒドロキシル基含有量(<0.2重量ppm)及び800~2000重量ppmの範囲内の塩素含有量を有する別の合成製造石英ガラスである。試料L570の酸素欠乏中心は、およそ245~255nmの波長範囲内の顕著な透過率最小値によって示される。合成石英ガラスの2つの石英ガラスグレードは、この波長範囲内で吸収を示さず、したがって、本発明の意味における酸素欠乏中心を含む「壁材料」としての使用には好適ではない。天然原料から溶融された石英ガラス試料の相対透過率最小値は、一定量の酸素欠乏中心を示すが、これらの石英ガラスグレードもまた同様に、固有の不純物のために、この使用には好適ではない。
【0083】
このようにして製造され、酸素欠乏中心が担持された石英ガラスグレードは、反共振中空ファイバ用のプリフォームを製造するために使用される。以下に、プリフォームの製造を、例を参照して説明する。
【0084】
図2は、クラッド管壁22を有するクラッド管21を備えた一次プリフォーム23を概略的に示しており、その内面には、予め定められた方位角位置において等距離間隔で反共振要素プリフォーム24が固定されている。例示的な実施形態では、6つのプリフォーム24がある。別の好ましい実施形態(図示せず)では、奇数のプリフォームがある。
【0085】
内側クラッド管21は、酸素欠乏中心が担持された石英ガラスからなり、長さ1000mm、外径27mm、内径20mmである。反共振要素プリフォーム24は、ARE外管24aとARE内管24bとからなる入れ子式構造要素の集合体として存在する。ARE外管24aは外径6.2mmであり、ARE内管24bは外径2.5mmである。両方の構造要素(24a、24b)の壁厚は同じであり、0.3mmである。したがって、ARE外管24aの内外径比は1.107であり、ARE内管の内外径比は1.315である。ARE外管24a及びARE内管24bの長さは、クラッド管の長さに対応する。ARE内管24b及びARE外管24aも、酸素欠乏中心が担持された石英ガラスからなる。
【0086】
反共振要素プリフォーム24は、トーチを用いた熱スポット接合によってクラッド管21の内壁に固定される。接続点は参照番号25で示されている。
【0087】
反共振要素プリフォーム24は、個々の反共振要素プリフォーム24のための保持アームの構造的に予め定められた星形配置を有する位置決めテンプレートを用いて配置される。この場合、位置決めテンプレートは、クラッド管の2つの端面端部の周りの領域に制限される。
【0088】
この方法は、クラッド管21と反共振要素プリフォーム24との間の正確で再現可能な接続を形成する。
【0089】
一次プリフォーム23は、石英ガラスから作製されたバッファ管で覆われ、バッファ管は、クラッド管21上にコラップスし、それと同時に、管集合体が伸長されて、二次プリフォームが形成される。バッファ管は、外径63.4mm及び壁厚17mmである。バッファ管は、商品名「F300」で一般的に使用される合成石英ガラスの例示的な実施形態のように、測定可能な濃度の酸素欠乏中心を有さない市販の合成石英ガラスからなり得る。
【0090】
コラップス及び伸長プロセスにおいて、垂直に配向された長手方向軸線において下から延びるクラッド管21とバッファ管との同軸配置体は、温度制御された加熱ゾーンに供給され、その中で配置体の上端からゾーンごとに軟化する。
【0091】
加熱ゾーンは、+/-0.1℃の制御精度で1600℃の所望の温度に保たれる。それによって、熱間成形プロセスにおける温度変動を+/-0.5℃未満に制限することができる。
【0092】
コラップス及び伸長プロセスにおいて形成された二次プリフォームの外径はおよそ50mmであり、外側シースと内側シースとで構成されるシース壁厚は16.6mmである。反共振要素プリフォームの最大壁厚変動(最大値-最小値)は4μm未満である。
【0093】
以下の表は、成形プロセス(コラップス及び伸長)の前(BEFORE)及び後(AFTER)の異なる外径についての線引きパラメータを記載する。
【表1】
【0094】
加熱ゾーンは100mmの長さを有する。プリフォームにおける反共振要素プリフォームの壁厚の最大逸脱は、全ての例示的な実施形態において約4μmである。このようにして形成された二次プリフォームから、コラップス及び伸長プロセスにおいて、外径がそれぞれ200μm又は230mmの反共振中空コアファイバを線引きし、反共振要素の壁厚を決定した。
【0095】
ファイバ線引きプロセスにおいて、二次プリフォームは、垂直に配向された長手方向軸線の場合に、温度制御された加熱ゾーンに上から供給され、その中で下端からゾーンごとに軟化する。加熱ゾーンは、+/-0.1℃の制御精度でおよそ2100℃の所望の温度に保たれる。それによって、熱間成形プロセスにおける温度変動を+/-0.5℃未満に制限することができる。同時に、コア領域(中空コア)内に4mbarの内圧が確立されるように、コア領域にガスを供給する。
【0096】
このように誘導されたファイバ線引きプロセスによって、反共振要素が埋め込まれた反共振中空コアファイバを得る。ファイバ線引きプロセスの後、ファイバ端部は清浄であり、堆積物がない。これは、酸素欠乏中心が担持された石英ガラスグレードを使用したことに起因する。
【0097】
図3に示すデバイスは、酸素欠乏中心が担持されたドープされていない石英ガラスの出発シリンダ4を工具なしで伸長して中間シリンダを形成するのに役立つ。
【0098】
出発シリンダ4の外壁を、#80の砥石を備えた外周研削機によって粗研削し、それによって、所定の所望の外径を本質的に得る。次に、外面をNC外周研削機で細かく研削する。このようにして得られた管の内面を、#80のホーニング砥石を備えたホーニング盤によって全体的にホーニング加工し、平滑度を連続的に改良し、最終処理は#800のホーニング砥石で行う。次に、出発シリンダ4を30%フッ化水素酸エッチング溶液中で短時間エッチングする。このようにして、外径200mm及び内径70mmの出発シリンダ4を製造する。次に、これを図2によるデバイスで伸長して中間シリンダ12を形成する。
【0099】
このデバイスは、断面が円形の加熱チャンバ3を囲む、グラファイト製の垂直に配向された抵抗加熱管1を備える。加熱管1は、内径240mm、外径260mm、及び長さ200mmの環状要素からなる。加熱管1は、実際の加熱ゾーンを取り囲んでいる。各端部において、加熱管1は、内径250mm及び外径280mmのグラファイト管から作製された55mm幅の延長部品5によって延長される。加熱ゾーンVcの内容積はおよそ8140mmである。
【0100】
出発シリンダ1の表面温度を検出するパイロメータ6は、上部検出面E1の高さに(上部延長部品5の上縁部に)配置される。伸長線引き管12の表面温度を検出する更なるパイロメータ7は、下部検出面E2の高さに(下部延長部品5の下縁部に)配置される。パイロメータ6及び7の温度測定値並びにパイロメータ16によって測定された加熱管1の温度は、各々コンピュータ8に供給される。
【0101】
出発シリンダ4の上端は、溶接接続部9を介して石英ガラス保持管10に接続されており、石英ガラス保持管10によって出発シリンダ4は水平方向及び垂直方向に移動することができる。
【0102】
垂直に配向された加熱管1において、外径200mm及び内径75mmの石英ガラス出発シリンダ4は、その長手方向軸が加熱管1の中心軸2と同軸に延びるように調整される。出発シリンダ4は、加熱ゾーン3において2200℃を超える温度に加熱され、所定の前進速度で排出される。成形線引きコーン11から、石英ガラス線引き管12が、既定の線引き速度で、中間シリンダとして公称外径27mm及び内径20mm(壁厚:3.5mm)に線引きされる。出発シリンダ4及び中間シリンダ線引き管12の連続した内側ボアは、参照番号13を有する。管線引き速度は、放電15によって検出され、コンピュータ8を介して調整される。中間シリンダ線引き管の半径方向寸法は、図2のクラッド管21の半径方向寸法に対応する。
【0103】
中間シリンダ線引き管12は、平滑な溶融した粒子のない表面を示す。この中間シリンダ線引き管からクラッド管21を所定長さに切断し、更に、ARE外管24aに更に加工する。ARE内管24bを所定長さに切断する線引き管も同様に線引きする。
【0104】
これを達成するために、第2の伸長ステップにおいて、線引き管を、ARE外管又はARE内管の製造のための出発シリンダとして第2の線引きシステムにおいて使用する。この目的のために使用される第2の線引きシステムは、図3のものと同じであり、加熱ゾーンの長さ及び内径が本質的に異なる。加熱ゾーン(加熱管)は、内径120mm、外径140mm、及び長さ100mmである。
図1
図2
図3