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特許7507982温度感応性電気パラメータに基づくオンラインデッドタイム調整を備えたパワー半導体モジュール
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-20
(45)【発行日】2024-06-28
(54)【発明の名称】温度感応性電気パラメータに基づくオンラインデッドタイム調整を備えたパワー半導体モジュール
(51)【国際特許分類】
   H02M 1/38 20070101AFI20240621BHJP
   H02M 1/08 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
H02M1/38
H02M1/08 A
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2023547944
(86)(22)【出願日】2021-06-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-02
(86)【国際出願番号】 JP2021025536
(87)【国際公開番号】W WO2022158002
(87)【国際公開日】2022-07-28
【審査請求日】2023-04-13
(31)【優先権主張番号】21305084.2
(32)【優先日】2021-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】503163527
【氏名又は名称】ミツビシ・エレクトリック・アールアンドディー・センター・ヨーロッパ・ビーヴィ
【氏名又は名称原語表記】MITSUBISHI ELECTRIC R&D CENTRE EUROPE B.V.
【住所又は居所原語表記】Capronilaan 46, 1119 NS Schiphol Rijk, The Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100147566
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100188514
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 隆裕
(72)【発明者】
【氏名】デグランヌ、ニコラ
(72)【発明者】
【氏名】ブランデレロ、ジュリオ
【審査官】安食 泰秀
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-535286(JP,A)
【文献】特開2016-146718(JP,A)
【文献】特開2003-033048(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0157970(US,A1)
【文献】特開2020-198732(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 1/08
H02M 1/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パワー半導体モジュールを制御する方法であって、
a.前記パワー半導体モジュールの少なくとも1つの動作パラメータを監視することであって、前記少なくとも1つのパラメータは、負荷電流、入力電流、周囲温度、入力電圧、又は出力電圧を含むことと、
b.前記少なくとも1つの動作パラメータが第1の時間の所定の範囲内に維持される場合にのみ、かつ前記少なくとも1つの動作パラメータの範囲がルックアップテーブル内に初期の非更新ステータスを有する場合にのみ、較正段階を少なくとも1回実行することであって、優勢デッドタイムが、以前の較正段階から生じるか、又は較正段階が以前に実行されていない場合、初期の過大評価値として設定されることとを含み、
前記較正段階は、
i.第1の温度感応性電気パラメータを測定することと、
ii.前記優勢デッドタイムを暫定デッドタイムに減少させることと、
iii.前記第1の時間に続く第2の時間中に、前記少なくとも1つの動作パラメータを監視することと、
iv.前記第2の時間の後に、第2の温度感応性電気パラメータを測定することであって、前記第2の温度感応性電気パラメータは、前記第1の温度感応性電気パラメータと同じタイプであることと、
v.前記少なくとも1つの動作パラメータが、前記第2の時間の所定の範囲内に維持されており、
かつ、
前記第2の温度感応性電気パラメータが、前記第1の温度感応性電気パラメータに対応する温度よりも低い前記パワー半導体モジュールのスイッチの温度に対応する場合にのみ、
前記暫定デッドタイムを前記優勢デッドタイムに割り当てることと、
さもなければ、
前記少なくとも1つの動作パラメータが、前記第2の時間の所定の範囲内に維持されており、
かつ、
前記第2の温度感応性電気パラメータが、前記第1の温度感応性電気パラメータに対応する温度よりも高い前記パワー半導体モジュールのスイッチの温度に対応する場合にのみ、
前記ルックアップテーブル内の前記少なくとも1つの動作パラメータの範囲のステータスを更新することと、
vi.前記少なくとも1つの動作パラメータの範囲とともに前記優勢デッドタイムを前記ルックアップテーブルに記憶することと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記aの段階及び前記bの段階は、前記動作パラメータの範囲のステータスが前記ルックアップテーブルにおいて更新されるまで反復される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記優勢デッドタイムの減少は、1nsから100nsの間で構成されるステップによって行われる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記較正段階は、前記パワー半導体モジュールの動作中に実行される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の温度感応性電気パラメータ及び前記第2の温度感応性電気パラメータは、ボディダイオードのフリーホイール状態及び誘発された導通状態の間に前記パワー半導体モジュールのスイッチの両端で測定される電圧として定義されるタイプのパラメータである、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の温度感応性電気パラメータ及び前記第2の温度感応性電気パラメータは、スイッチング周波数の増加の前後の温度感応性電気パラメータの間の差として定義されるタイプのパラメータである、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記動作パラメータは、少なくとも、周期波形を有する電流を含み、前記スイッチング周波数の増加は、前記周期波形の所定の電流範囲に対して実行される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記較正段階は、電流周期波形の異なる電流範囲に対して順次実行される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記スイッチング周波数のそれぞれの増加は、所定時間において実行され、前記所定時間は、前記第1の時間及び前記第2の時間よりも短く、前記第1の時間内及び前記第2の時間内に含まれる、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項10】
前記方法は、共通のパワー半導体モジュールの少なくとも2つの並列ダイに並列に適用され、前記パワー半導体モジュールは、個別のゲートアクセスを有する前記少なくとも2つの並列ダイで作られた少なくとも1つのスイッチを有し、前記パワー半導体モジュールのスイッチの温度は、前記並列ダイの平均温度に対応し、前記較正段階は、前記並列ダイに並列に適用され、前記較正段階は、平衡化段階を更に含み、前記平衡化段階は、
前記パワー半導体モジュールのダイの温度の最高値に対応する温度感応性電気パラメータの測定値を有する前記ダイのデッドタイムを増加させることを含み、
前記平衡化段階は、前記第1の温度感応性電気パラメータの測定の後及び/又は前記第2の温度感応性電気パラメータの測定の後に適用される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記平衡化段階は、全てのダイが同じ値の温度感応性電気パラメータを有するまで反復的に適用される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第1の温度感応性電気パラメータ及び前記第2の温度感応性電気パラメータは、ゲートの内部ゲート抵抗及び所定の電流値におけるオン状態電圧の中から選択されるタイプのパラメータである、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項に記載の方法を集積回路に実行させるための命令を含むコンピュータプログラム。
【請求項14】
請求項1から12のいずれか一項に記載の方法を実行するように設計されたパワー半導体モジュール。
【請求項15】
前記少なくとも1つの動作パラメータを監視するための少なくとも第1のセンサと、
前記第1の温度感応性電気パラメータ及び前記第2の温度感応性電気パラメータを測定するための少なくとも第2のセンサと、
前記方法を実行して前記優勢デッドタイム及び前記暫定デッドタイムを制御する集積回路と、
を備える、請求項14に記載のパワー半導体モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力変換器の分野に関し、特に、電力変換器の効率及び信頼性の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
電力変換器のチューニングパラメータは、電力変換器の効率及び信頼性を改善するために最も重要であることが知られている。特に、電力変換器の性能はデッドタイムの長さに直接相関することが知られている。デッドタイムは、直列に接続された電力変換器の2つのパワースイッチがオフ状態に制御される間の遅延時間として定義される。パワースイッチの制御は、典型的にはゲート信号を介して行われる。デッドタイムが最適である場合には、フリーホイールスイッチ、すなわち、電力変換器のモジュールのフリーホイール状態の間に導通するスイッチは、準ゼロ電圧状態に切り替えられ、スイッチング損失を生じない。しかし、デッドタイムが不十分であると、フリーホイールスイッチの交差導通又はハードターンオンスイッチングが生じる。一方、デッドタイムが過剰であると、スイッチのボディダイオードを介した導通損失及び/又はダイオードの逆回復によるスイッチング損失が生じる。
【0003】
したがって、同期整流回路において調整すべき重要なパラメータは、電力変換器のスイッチのデッドタイムである。当該技術分野では、デッドタイムは概して、ワーストケースの条件を満足する一定の過大評価値に固定されている。例えば、デッドタイムの典型的な値は1μsである。この値は、スイッチ、補助構成部品、及び動作条件を考慮していないので、最適とは言えない。一方、ボディダイオードの導通状態の検出に基づいてデッドタイムを動的に決定するか、又は、損失若しくは効率等の電力変換器の性能の計算を利用することによって、この制限を克服している他の方法もある。
【0004】
しかしながら、これらの方法は、効率的で高度に統合されたセンサを必要とし、これらのセンサは、高速であること、他のセンサと組み合わせて使用することが必要であり、動作条件に関する仮定に依存する可能性がある。したがって、これらの方法は、ほとんどの場合、効果的ではなく、費用がかかる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示はこの状況を改善する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
パワー半導体モジュールを制御する方法であって、
a.モジュールの少なくとも1つの動作パラメータを監視することであって、少なくとも1つのパラメータは、負荷電流、入力電流、周囲温度、入力電圧、又は出力電圧を含むことと、
b.少なくとも1つの動作パラメータが第1の時間の所定の範囲内に維持される場合にのみ、かつ少なくとも1つの動作パラメータの範囲がルックアップテーブル内に初期の非更新ステータスを有する場合にのみ、較正段階を少なくとも1回実行することであって、優勢デッドタイムが、以前の較正段階から生じるか、又は較正段階が以前に実行されていない場合、初期の過大評価値として設定されることとを含み、
較正段階は、
i.第1の温度感応性電気パラメータを測定することと、
ii.優勢デッドタイムを暫定デッドタイムに減少させることと、
iii.第1の時間に続く第2の時間中に、少なくとも1つの動作パラメータを監視することと、
iv.第2の時間の後に、第2の温度感応性電気パラメータを測定することであって、第2の温度感応性電気パラメータは、第1の温度感応性電気パラメータと同じタイプであることと、
v.少なくとも1つの動作パラメータが、第2の時間の所定の範囲内に維持されており、
かつ、
第2の温度感応性電気パラメータが、第1の温度感応性電気パラメータに対応する温度値よりも低いモジュールのスイッチの温度に対応する場合にのみ、
暫定デッドタイムを優勢デッドタイムに割り当てることと、
さもなければ、
少なくとも1つの動作パラメータが、第2の時間の所定の範囲内に維持されており、
かつ、
第2の温度感応性電気パラメータが、第1の温度感応性電気パラメータに対応する温度値よりも高いモジュールのスイッチの温度に対応する場合にのみ、
ルックアップテーブル内の少なくとも1つの動作パラメータの範囲のステータスを更新することと、
vi.少なくとも1つの動作パラメータの範囲とともに優勢デッドタイムをルックアップテーブルに記憶することと、
を含む、方法が提案される。
【0007】
パワー半導体モジュールは、直列に接続された少なくとも2つのスイッチを含む。この場合、スイッチの各対はモジュールの整流セルを構成する。電力変換器は、少なくとも1つのモジュールを備える。
【0008】
少なくとも1つの動作パラメータの範囲に対して、モジュールのスイッチの温度の最小値を提供するデッドタイムが得られる。したがって、このデッドタイムを導入すると、モジュールの損失が低減し、その結果、動作パラメータの範囲内でモジュールの効率及び信頼性が向上する。特に、本開示の方法によれば、温度感応性電気パラメータを絶対的に較正する必要がない。実際には、温度感応性電気パラメータは、それ自体は考慮されず、デッドタイムの変動の影響を評価するために比較される。したがって、温度感応性電気パラメータの絶対的な較正を必要としないため、モジュールの製造時間が短縮される。加えて、提案する方法は、計算量が少なく、モデルに依存しないため、本方法は、実際の条件を考慮した動作条件と並行して実行することができ、その結果、調整デッドタイムを簡単かつ正確に決定することができる。
【0009】
別の態様において、ソフトウェアがプロセッサによって実行されるときに、本明細書で規定されるような方法の少なくとも一部を実行する命令を含むコンピュータソフトウェアが提案される。別の態様において、ソフトウェアは、このソフトウェアがプロセッサによって実行されるときに、本明細書で規定されるような方法を実行するために登録される、コンピュータ可読非一時的記録媒体が提案される。別の態様において、本明細書で規定されるような方法の少なくとも一部を実行するように設計されたパワー半導体モジュールが提案される。パワー半導体モジュールは、直列に接続された少なくとも2つのスイッチを含む。
【0010】
以下の特徴は、任意選択で、別々に又は互いに組み合わせて実行することができる。
【0011】
一実施の形態によれば、段階a及びbは、動作パラメータの範囲のステータスがルックアップテーブルにおいて更新されるまで反復される。その結果、調整デッドタイムは、本明細書の方法で得られるモジュールのスイッチの温度の最低値に対応する。したがって、このデッドタイムを実行した場合、本明細書の方法を用いて得られるモジュールの損失は最低値となる。
【0012】
一実施の形態によれば、優勢デッドタイムの減少は、1nsから100nsの間で構成されるステップによって行われる。かかる値の範囲により、必要とされる精度に応じて、調整デッドタイムをチューニングすることができる。
【0013】
本明細書の一実施の形態によれば、較正段階は、パワー半導体モジュールの動作中に実行される。したがって、シミュレーション又は工場出荷時の設定が実行される場合とは異なり、実際の条件が考慮され、経年変化に伴うパラメータのドリフトを含む実際の条件に応じた調整デッドタイムが得られ、実際の条件における損失が効果的に低減される。
【0014】
一実施の形態によれば、温度感応性電気パラメータ自体は、スイッチング周波数の増加の前後の温度感応性電気パラメータの間の差として定義されるタイプのパラメータである。かかる差分アプローチでは、モジュールのスイッチの温度に対する温度感応性電気パラメータの感度が増加する。スイッチング周波数が高くなればなるほど、モジュールのスイッチの温度に対する温度感応性電気パラメータの感度が高くなる。加えて、差分アプローチにより、測定におけるバイアスを低減し、モジュールのスイッチの温度に対するデッドタイムの影響を迅速に観察することができる。
【0015】
加えて、一実施の形態によれば、動作パラメータは、少なくとも、周期波形を有する電流(Iload)を含む。スイッチング周波数の増加は、電流周期波形の所定の電流範囲に対して実行される。上記の実施の形態に加えて、温度感応性電気パラメータの感度は、電流周期波形の所定の電流範囲に対して増加する。したがって、調整デッドタイムは、電流周期波形の所定の電流範囲に固有である。加えて、変調期間中に(電流が電流周期波形の所定の電流範囲に入るときに)本方法を複数回実行することも可能である。
【0016】
さらに、一実施の形態によれば、較正段階は、電流周期波形の異なる電流範囲に対して順次実行される。その結果、電流周期波形の異なる電流範囲に対して異なるデッドタイムを調整することが可能である。したがって、異なる電流範囲に対して、それぞれ異なるデッドタイムの感度が増加する。
【0017】
加えて、一実施の形態によれば、スイッチング周波数は、所定時間においてそれぞれ増加され、この所定時間は、第1の時間及び第2の時間よりも短く、第1の時間及び第2の時間に含まれる。その結果、異なる持続時間に対してスイッチング周波数を増加させ、より短い及びより長い時間スケールでのデッドタイムの変動の影響を評価することが可能となる。
【0018】
一実施の形態によれば、本明細書で規定されるような方法の少なくとも一部は、共通のパワー半導体モジュールの少なくとも2つの並列ダイに並列に適用され、モジュールは、個別のゲートアクセスを有する少なくとも2つの並列ダイで作られた少なくとも1つのスイッチを有し、モジュールのスイッチの温度は、ダイの平均温度に対応し、較正段階は、並列ダイに並列に適用され、較正段階は、平衡化段階を更に含み、この平衡化段階は、
スイッチのダイの温度の最高値に対応する温度感応性電気パラメータの測定値を有するダイのデッドタイムを増加させることを含み、
平衡化段階は、第1の温度感応性電気パラメータの測定の後及び/又は第2の温度感応性電気パラメータの測定の後に適用される。
その結果、モジュールのスイッチのダイの温度は、全体的に低下し、より平衡化される。デッドタイムを調整して、パワー半導体モジュールのスイッチ部分を形成するダイの温度差を小さくすること、及びそれらのダイの平均温度を低下させることの両方が得られる。
【0019】
上記の実施の形態に加えて、平衡化段階は、全てのダイが同じ値の温度感応性電気パラメータを有するまで反復的に適用される。その結果、全ての並列ダイが同じ値の温度感応性電気パラメータを有する場合、調整デッドタイムは、本明細書の方法を用いて得られるモジュールのスイッチの温度の最低値に対応する。これにより、モジュールの信頼性及び効率が向上する。
【0020】
一実施の形態によれば、温度感応性電気パラメータは、ゲートの内部ゲート抵抗及び所定の電流値におけるオン状態電圧の中から選択されるタイプのパラメータである。
【0021】
一実施の形態によれば、温度感応性電気パラメータは、ボディダイオードのフリーホイール状態及び誘発された導通状態の間にモジュールのスイッチの両端で測定される電圧として定義されるタイプのパラメータである。その結果、温度感応性電気パラメータの温度に対する感度が増加し、デッドタイムがより細かく調整されるため、モジュールの損失が減少する。
【0022】
一実施の形態によれば、パワー半導体モジュールは、
-少なくとも1つの動作パラメータを監視するための少なくとも第1のセンサと、
-第1の温度感応性電気パラメータ及び第2の温度感応性電気パラメータを測定するための少なくとも第2のセンサと、
-方法を実行してデッドタイムを制御する集積回路と、
を備える。
【0023】
他の特徴、詳細及び利点について、以下の詳細な説明及び図に示す。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】電力モジュールの損失LをデッドタイムDの関数として示す図である。
図2A】動作パラメータOPの変化を表す図である。
図2B】温度感応性電気パラメータTSEPの変動を示す図である。
図2C】デッドタイムDの変化を示す図である。
図2D】動作パラメータOPの値OPの特定の範囲のステータスSTATOPiの変化を示す図である。
図3A】本開示による、デッドタイムを調整する方法100の段階を表すフローチャートである図である。
図3B】本方法の一実施形態における方法100の段階CAL1の詳細を提供する図である。
図4A】動作パラメータOPの変化を表す図である。
図4B】温度感応性電気パラメータTSEPの変動を示す図である。
図4C】電流周期波形の異なる電流範囲に対応する異なるデッドタイムの変化を示す図である。
図5】本開示の一実施形態による入力信号(PWMBOT、PWMTOP)の一例を示す図である。
図6】本開示による方法を実行するように設計された集積回路SYSの一例の図である。
図7】共通のパワー半導体モジュールの2つの並列ダイに並列に適用される方法100の段階を表すフローチャートの図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図面は、デッドタイムを調整する方法、コンピュータプログラム、及びパワー半導体モジュールにおける実施態様を示している。パワー半導体モジュールにおける方法、コンピュータプログラム及び実施態様は、デッドタイムの変更に対応した温度感応性電気パラメータTSEPの変動を利用する。これにより、シミュレーション又は工場出荷時の設定が実行される場合とは異なり、計算量が少なく、実際の条件が考慮されるように動作条件と並行して実行することができる方法が提供される。
【0026】
ここで図1を参照する。図1は、電力モジュールにおける損失LをデッドタイムDの関数として概略的に示している。デッドタイムの最適値Doptでは、フリーホイールスイッチは、準ゼロ電圧状態でオンに切り替えられ、スイッチング損失は生じない。しかし、デッドタイムが不十分(D<Dopt)であると、フリーホイールスイッチの交差導通又はハードターンオンスイッチングが生じる。一方、デッドタイムが過剰(D>Dopt)であると、フリーホイールスイッチ及び/又はアクティブスイッチのボディダイオードを介した導通損失、及び/又はダイオードの逆回復によるスイッチング損失が生じる。
【0027】
図2A図2Dは、本開示による方法を使用してパワー半導体モジュールのデッドタイムを調整した場合に取得される値の例示的な変動を示している。これら4つの図の変化は、同時に取得され、共通の時間軸(横座標)を有する。
【0028】
図2Aは、モジュールの動作パラメータOPの変化を表す図である。例えば、動作パラメータOPは、負荷電流、入力電流、周囲温度、入力電圧及び出力電圧のうちの1つであってもよく、これらは別々に又は組み合わせて取得されてもよい。正弦波の負荷電流の場合、例えば、正弦波形の振幅が動作パラメータOPとして選択される。
【0029】
動作パラメータOPは、例えば、負荷電流センサ、入力電流センサ、周囲温度センサ、入力電圧センサ、又は出力電圧センサ等のセンサによって測定することができる。かかるセンサは、他のパワーエレクトロニクス用途に使用することができる。専用のセンサをモジュールに追加することもできる。
【0030】
いくつかの代替的な実施形態において、動作パラメータOP、例えば負荷電流及び/又は入力電圧及び/又は出力電圧は、制御対象の変数である。かかる実施形態において、コントローラから出力される基準値を動作パラメータOPとして使用することができる。
【0031】
以下の実施形態において、動作パラメータOPの変動は、方法全体を通して連続的に監視される。
【0032】
図2Bは、温度感応性電気パラメータ(以下では「TSEP」と略す)の変動を表す図である。TSEPは、モジュールの温度、より具体的には、スイッチ又はスイッチの部品を形成するダイ等のモジュールの部品の温度によって値が変動する物理特性又は物理特性の組み合わせである。本技術分野において、TSEPは、例えば、ダイのすぐ近くにセンサを配置するための空間がないか、又は複雑である等の理由で、温度を直接測定できない場合に、ダイの温度を間接的に監視するために使用される。温度の変動を知ることが温度の絶対値又は正確な値と同程度に有益である場合、温度の変動に追従することが可能になる。例えば、TSEPは、ダイの内部ゲート抵抗又は所定の電流値におけるオンステージ電圧であってもよい。かかる例では、TSEPは正の温度係数を有し、温度が上昇するとTSEPは上昇し、その逆もまた同様である。ただし、本方法は、負の温度係数、例えば閾値電圧を有するTSEPに対しても有効である。正の温度係数を有するTSEPの場合、TSEPとダイの温度とは正の相関があり、温度が上昇するとTSEPが上昇し、その逆もまた同様である。負の温度係数の場合、これらの値は負の相関があり、温度が上昇するとTSEPは減少し、その逆もまた同様である。実行される方法は、TSEPを連続的に取得する必要がないことに留意されたい。いくつかの正確なイベントにおける定時の測定及び/又は周期的な測定で十分である。
【0033】
図2Cは、デッドタイムDの変化を表す図である。この変化は、動作パラメータOP及びTSEPの変化に依存する。
【0034】
パワー半導体モジュールでは、いくつかのデッドタイムを調整することができる。例えば、或るデッドタイムは、モジュールのアクティブ状態に対して調整することができ、別のデッドタイムは、モジュールのフリーホイール状態に対して調整することができる。モジュールのアクティブ状態は、負荷電流がモジュールのスイッチのドレインからソースに流れる状態として定義される。モジュールのフリーホイール状態は、負荷電流がモジュールのスイッチのソースからドレインに流れる状態として定義される。
【0035】
モジュールのアクティブ状態に対応するデッドタイムを調整するために、TSEPは、例えば、モジュールのアクティブ状態の間又はモジュールのフリーホイール状態の間に測定される。
【0036】
モジュールのフリーホイール状態に対応するデッドタイムを調整するために、TSEPは、例えば、モジュールのフリーホイール状態の間に測定される。モジュールのフリーホイール状態に対応するデッドタイムを調整する際、動作条件OPが負荷電流及び出力電圧である場合、例えば、方法100を使用して動作条件OPの第1の対に対応する1つの第1のデッドタイムを調整し、次いで、方法100を使用せずに動作条件OPの他の対に対応するデッドタイムの全ての値を埋めることが可能である。これは、例えば、それ自体が既知の電気モデルの物理方程式を利用することによって達成される。例えば、かかるモデルは次のように記述することができる。
Di(Ii,Vi)=(D1*I1/V1)*Vi/Ii
式中、D1は、第1の対の動作条件I1及びV1に対応する調整された第1のデッドタイムであり、I1は第1の負荷電流であり、V1は第1の出力電圧であり、Diは、第2の対の動作条件Ii及びViに対応する調整すべきデッドタイムであり、Iiは第2の負荷電流であり、Viは第2の出力電圧である。
【0037】
いくつかの例では、モジュールのスイッチは、パルス幅変調信号(PWM信号)によって制御される。この場合、PWM信号は、例えば、負荷電圧及び電流の符号の関数として変更される。デッドタイムは、典型的には、フリーホイール導通状態に対する状態に主に寄与する。したがって、PWMは、電流の符号に応じてこのデッドタイムを補償する必要がある。
【0038】
図2Dは、動作パラメータOPの値OPの特定の範囲のステータスSTATOPiの変化を表す図である。ステータスSTATOPiは、ルックアップテーブルに記憶され、更新される。ルックアップテーブルには、例えば、動作パラメータOPの特定の範囲について、TSEP、デッドタイムD、及びステータスSTATOPiが含まれる。いくつかの例では、ルックアップテーブルは、加えて、各ステータスSTATOPiに対して、例えば、電流周期波形の所定の電流範囲に対応するいくつかのサブステータスを含む。ルックアップテーブルは、デッドタイムの過大評価値で初期化されている。デッドタイムDの初期の過大評価値は、例えばDa,init=1000nsである。全てのステータス及びサブステータスは、初期の非更新の値に初期化されている。
【0039】
4つの図を以下で同時に分析する。
【0040】
図3Aに示すように、方法100において、パワー半導体モジュールを制御することが提案される。方法100の第1の段階101では、モジュールの少なくとも1つの動作パラメータOPが監視される。較正段階CALは、少なくとも1つの動作パラメータOPが第1の所定時間Δtの間に所定の範囲内に維持される場合にのみ、かつ少なくとも1つの動作パラメータの範囲がルックアップテーブル内に初期の非更新ステータスを有する場合にのみ、少なくとも1回開始される。換言すれば、較正段階CALは、以下の2つの開始条件が同時に満たされた場合にのみ開始される。
1.動作パラメータOPが定常状態段階に到達していること(これは、動作パラメータOPが第1の所定時間Δtの間に所定の範囲内に維持されることで制御される)。
2.動作パラメータの範囲がまだ較正されていないこと(これは、ルックアップテーブル内に初期の非更新ステータスを有する動作パラメータの範囲によって制御される)。
【0041】
較正段階CALは、TSEPの変動に基づいて優勢(prevailing)デッドタイムDを調整するものである。優勢デッドタイムDは、以前の較正段階CALから得られるか、又は較正段階が以前に実行されていない場合、初期の過大評価値として設定される。
【0042】
簡略化のために、図2A図2Dの例では、全ての動作パラメータの範囲が初期の非更新ステータスを有しており、動作パラメータの範囲のいずれについても較正段階が以前に実行されていないとみなしている。換言すれば、この例では、較正段階を開始する条件は、動作パラメータOPの安定性のみに依存する。加えて、初期のデッドタイムは全て、動作パラメータの範囲とは無関係にデフォルトで選択された初期値Da,initに等しい。
【0043】
この例の第1の過渡段階TSの間、動作パラメータOPは、図2Aに示すように連続的に監視されている。動作パラメータOPは安定していないので、デッドタイムDはその優勢値Da,initに維持される。換言すれば、現在のデッドタイムDを人為的に増加又は減少させるような動作は行われない。第1の点P0で第1の定常段階S0が検出される。第1の点P0における第1の定常状態S0の検出により、タイマが起動され、定常状態の持続時間が第1の所定時間Δtと比較される。定常状態S0の持続時間は、第1の所定時間Δtよりも短い。したがって、較正段階の追従が保留され、動作状態の監視101が継続される。
【0044】
第2の点Piで第2の定常段階Siが検出される。第2の点Piにおける第2の定常状態Siの検出により、タイマが起動され、第2の定常状態Siの持続時間が第1の所定時間Δtと比較される。この第2の定常状態Siの持続時間は、第1の所定時間Δtよりも長いので、この第1の所定時間Δtの後に開始点Pi1において較正段階が開始される。
【0045】
較正段階CALの第1の段階CAL1では、TSEPの第1の値が測定される。この例では、図2Bに示すように、開始点Pi1において、TSEPの第1の値がTSEPa,i1として測定される。この例では、TSEPは、任意の定常状態の前であっても連続的に監視される。種々の実施形態において、TSEPは、定常状態が検出された場合にのみ監視することができる。
【0046】
較正段階の第2の段階CAL2の間、優勢デッドタイムDは、暫定デッドタイムDに減少される。例えば、優勢デッドタイムDは、1ナノ秒から100ナノ秒の間で構成されるステップだけ減少される。
【0047】
この例では、優勢デッドタイムDa,initは、図2Cに示すように、暫定デッドタイムDb,i1に減少する。
【0048】
較正段階CALの第3の段階CAL3の間、動作パラメータOPは、第2の所定時間Δtの間監視される。この第2の所定時間Δtは、第1の所定時間Δtに続き、デッドタイムDの減少から始まるものとして定義される。第2の所定時間Δtの終了時に、TSEPの第2の値が、第4の段階CAL4中に測定される。前の段階CAL1~CAL4に応じて、デッドタイムDの変化には複数の可能性がある。
【0049】
動作パラメータOPが第2の所定時間Δtの間に所定の範囲内に維持されなかった場合、較正段階CALは終了する。任意選択で、暫定デッドタイムDが取り消される(優勢デッドタイムDが復元される)。換言すれば、動作条件OPが第1の所定時間Δt及び第2の所定時間Δtの間に不安定であった場合、本方法は、監視段階101及び場合によっては較正段階CALの開始に戻る。モジュールの動作状態は、リアルタイムで較正するほど十分に安定したステータスではないとみなされ、較正段階は、少なくとも一時的に中止される。
【0050】
動作パラメータOPが第2の所定時間Δtの間に所定の範囲内に維持された場合、測定された第2の温度感応性電気パラメータTSEPに応じて以下の2つの可能性CAL5及びCAL5’が存在する。
-第2のTSEP TSEPが、第1のTSEP TSEPに対応する温度値よりも低いモジュールのスイッチの温度に対応する場合、暫定デッドタイムDは、段階CAL5Dにおいて、優勢デッドタイムDに割り当てられる。換言すれば、デッドタイムを優勢値Dから暫定値Dに減少させることがモジュールのスイッチの温度の低下につながる場合、暫定値Dは、少なくとも優勢の動作条件において優勢値Dよりも適切である(良好である)とみなされる。これにより、暫定値Dが新たな優勢値Dとなり、「仮テスト」であった暫定値Dが確定して動作値となる。
-第2のTSEP TSEPが、第1のTSEP TSEPに対応する温度よりも高いモジュールのスイッチの温度に対応する場合、ルックアップテーブル内の少なくとも1つの動作パラメータの範囲のステータスが、段階CAL5’において更新される。任意選択で、暫定デッドタイムDが取り消される(優勢デッドタイムDが復元される)。
【0051】
換言すれば、デッドタイムを優勢値Dから仮定(暫定)値Dに減少させることがモジュールのスイッチの温度の上昇につながる場合、暫定値Dは優勢値Dよりも適切でないとみなされる。したがって、優勢値Dは、モジュールのスイッチの温度の低下につながる最小値とみなされ、動作パラメータの範囲OPの下で動作するモジュールの較正デッドタイムとして選択される。その結果、ルックアップテーブル内の少なくとも1つの動作パラメータの範囲のステータスが更新され、較正が実行されたことを報告し、同じ動作条件に対する将来の較正段階が(少なくとも一時的に)回避される。
【0052】
全ての場合において、更新されているかどうかにかかわらず、優勢デッドタイムDは、少なくとも1つの動作パラメータの範囲に対して既に試験された最も効率的な値を維持するために、少なくとも1つの動作パラメータの範囲とともにルックアップテーブルに記憶される。
【0053】
したがって、この例では、タイマが開始点Pi1で起動され、開始点Pi1で開始する定常状態Si1の持続時間が第2の所定時間Δtと比較される。この第2の所定時間Δtの間、動作パラメータOPは連続的に監視される。この第2の所定時間Δtの終了時に、TSEPの第2の値が中間点Pi2において測定される(TSEPb,i1)。動作パラメータOPは、第1のΔtの間及び第2の所定時間Δtの間、同じ所定の範囲OPに維持されており、第2のTSEP TSEPb,i1は、第1のTSEP TSEPa,i1に対応する温度よりも低いモジュールのスイッチの温度に対応するので、優勢デッドタイムDa,i2は、暫定デッドタイムDb,i1をとる。加えて、値OPの特定の範囲に対応するステータスSTATOPiは、将来の較正段階の反復を許可してデッドタイムを再び向上させるために、その初期の非更新の値に維持される。優勢デッドタイムDa,i2は、段階CAL6の間に少なくとも1つの動作パラメータの範囲OPとともにルックアップテーブルに記憶される。
【0054】
典型的には、第1の所定時間Δtは、数十ミリ秒から数十秒の間の値を有する。例えば、第1の所定時間Δtは、ダイの熱過渡時間に対応することができる。ダイの温度の一定値を得るために、モジュールの全ての構成部品が熱定常状態に達している必要がある。したがって、ダイ間の温度差が考慮される実施形態と比較して、ダイの温度に一定値を求める場合には、より長い所定時間Δtが必要となる。
【0055】
第1の所定時間Δtは、動的に決定することができる。換言すれば、「所定」は、必ずしも「固定」を意味しない。逆に、あらかじめ定義しておいても、モジュール動作の関数として定義することができる。例えば、第1の所定時間Δtは、TSEPの過渡状態の持続時間として選択される。これは、例えば、TSEPが定常状態に達したことを検出することによって達成される。何らかの実施態様において、定常状態の検出には、連続する試料において測定されたTSEPの2つの値を連続的に比較することが含まれる。連続した試料で測定されたTSEPが異なる限り、定常状態には達していない。連続する試料で測定されたTSEPが等しくなると、定常状態に達し、第1の所定時間Δtが終了する。
【0056】
第2の所定時間Δtは、第1の所定時間Δtと等しくなるように選択することができ、又は第1の所定時間Δtの割合として選択することができる。例えば、この割合は、1000分の1から1000分の100の間で構成することができる。
【0057】
いくつかの実施形態において、モジュールの出力電流信号は正弦波である。このため、出力電流の変調周期でダイの温度に何らかの振動が生じる場合がある。かかる場合、第2の所定時間Δtは、例えば、出力電流の変調周期の整数倍として選択される。
【0058】
いくつかの実施形態において、監視段階101及び較正段階CALは、動作パラメータの範囲のステータスがルックアップテーブル内で更新されるまで反復される。これは、図3Aにおいて破線で表されている。
【0059】
加えて、いくつかの実施形態において、監視段階101及び較正段階CALを反復させると、優勢デッドタイムDは、適応的なステップによって暫定デッドタイムDに減少させることができる。換言すれば、減分の値は、1ナノ秒から100ナノ秒の間で初期化される。監視段階101及び較正段階CALの反復中に、デッドタイムを優勢値Dから仮定(暫定)値Dに減少させることがモジュールのスイッチの温度を比較的減少させない場合、減分の値は減少される。例えば、勾配降下を実行することができる。
【0060】
例えば、図2Dでは、ステータスSTATOPiが点Pi2においてその初期の非更新の値を維持するので、較正段階の別の反復を中間点Pi2において開始することができる。開始点Pi2において、TSEPの第1の値がTSEPa,i2として測定され、優勢デッドタイムDa,i2がルックアップテーブルから検索され、暫定デッドタイムDb,i2に(再び)減少される。第1の開始点Pi2においてタイマが起動され、持続時間が第2の所定時間Δtと比較される。この第2の所定時間Δtの間、動作パラメータOPは連続的に監視される。この第2の所定時間Δtの終了時に、TSEPの第2の値がTSEPb,i2として第2の中間点Pi3において測定される。動作パラメータOPは、第1の中間点Pi2から始まる第2のΔtの所定時間中に同じ所定の範囲OP内に維持されているが、第2のTSEP TSEPb,i2は、第1の温度感応性電気パラメータTSEPa,i2に対応する温度よりも高いモジュールのスイッチの温度に対応するので、特定の範囲の値OPに対応するステータスSTATOPiが更新され、較正段階が終了する。優勢デッドタイムDa,i2は、暫定デッドタイムDb,i2をとらない。任意選択で、暫定デッドタイムDb,i2は取り消される(優勢デッドタイムDa,i2が復元される)。最終的に、値OPのこの特定の範囲に対応する調整デッドタイムDa,adjustは、優勢デッドタイムDa,i2である。
【0061】
一実施形態において、方法100は、パワー半導体モジュールの動作中に実行される。換言すれば、監視段階101は、常にバックグラウンドで動作しており、較正段階CALは、その2つの開始条件が同時に満たされるとすぐに開始される。方法100は、課された固定の動作条件OPの下で実行することもできる。例えば、パワー半導体モジュールの生産ラインの終了時に、又はパワー半導体モジュールを備える最終システムにおいて、かかる条件を課すことができる。方法100は、パワー半導体モジュールの使用中に一度だけ、又は定期的に実行することができる。
【0062】
上記の実施形態において、較正方法は、(各動作条件について)1回限り実行される。種々の実施形態において、特に、構成部品の実使用中における不可避の自然ドリフトを考慮するために、構成部品の動作使用中に、モジュールのデッドタイムを複数回、例えば、周期的に再調整することがより良好である。モジュールのデッドタイムの再帰的な再調整のために、較正段階CALは、図3Aに破線で描かれた以下の追加の段階を含むことができる。
-CAL5’中に、ルックアップテーブル内の少なくとも1つの動作パラメータの範囲のステータスを更新することで、タイマが起動され、このタイマは、較正の所定時間ΔtCALと比較される。
【0063】
較正の所定時間ΔtCALは、構成部品のドリフトに対する堅牢性及び必要とされる精度に応じて、1日から12ヶ月の間とすることができる。最も堅牢な構成部品は、その使用中に必要な再較正が少なくて済む。デッドタイムの調整において最も高い精度を必要とする構成部品は、その使用中に最も多くの再較正を必要とする。
【0064】
タイマが較正の所定時間ΔtCALを超えると、優勢デッドタイムDは、例えば、少なくとも1つの動作パラメータの範囲とともにルックアップテーブルのスタックに記憶される。優勢デッドタイムDは人為的に変更される。例えば、優勢デッドタイムDは、例えば10ナノ秒から100ナノ秒の間でだけ人為的に増加される。優勢デッドタイムDは、少なくとも1つの動作パラメータの範囲に対応するルックアップテーブルのスタックに記憶された値に基づいて計算することもできる。例えば、優勢デッドタイムDは、スタックに記憶された値の平均値又は中央値又は加重平均値又は加重中央値として計算される。いくつかの実施形態において、重みは、スタック内の順序に比例し、スタック内に追加された最後の値は、最初の値よりも高い重みを有する。優勢デッドタイムDを人為的に変更した後、ルックアップテーブル内の少なくとも1つの動作パラメータの範囲のステータスは、非更新ステータスに再初期化される。
【0065】
したがって、較正段階CALは、その2つの開始条件が同時に満たされるとすぐに開始される。
【0066】
代替的に、いくつかの例では、段階CAL1及びCAL4においてTSEPを測定し、デッドタイム減少を反復的に実行することに加えて、最適なデッドタイムをより直接的に推測することができる。損失(P1及びP2)は、以下のように表すことができる。
P1=TSEP1/Rth、P2=TSEP2/Rth(Rthは、パワーモジュールに対するスケーリングされた熱抵抗である)
損失はまた、以下のように表される。
P1=A+Tcond1*Pcond、P2=A+Tcond2*Pcond(Aは、通常の導通中の損失(すなわち、デッドタイムに関連しない)等のダイ内の他の損失を含む定数であり、Pcondは、ボディダイオード内の導通損失、典型的にはVbd*Iである)
最後に、ボディダイオードの導通時間は、以下の例示的な式を用いてデッドタイムとの関係を仮定することができる。
D1=B+Tcond1、D2=B+Tcond2(Bは定数)
上記の式を再び整理すると以下のようになる。
B=(TSEP2-TSEP1)/(Rth*Pcond)+D2
したがって、D=Bと定義することによって、ボディダイオードの導通時間は理論上ゼロとなる。
【0067】
いくつかの実施形態において、TSEP自体は、スイッチング周波数の増加の前後のTSEPの間の差として定義される。
【0068】
換言すれば、これらの例では、較正段階CALの第1の測定段階CAL1中に、第1のTSEP TSEPa,1が測定される。第1のTSEP TSEPa,1を測定した後、スイッチング周波数は、少なくとも1つの所定時間Δtswの間増加される。スイッチング周波数は、例えば、10倍から100倍の間で増加される。少なくとも1つの所定時間Δtswの終了時に、別のTSEP TSEPが測定される。次に、第1の測定段階CAL1における第1のTSEP TSEPは、以下のように定義される。
TSEP=TSEP-TSEPa,1
同じ方法が第2の測定段階CAL2中に適用され、第2のTSEP TSEPは以下のように定義される。
TSEP=TSEP-TSEPb,1
第1の測定段階CAL1のこれらの追加の段階は、図3Bに描かれており、第2の測定段階CAL2に容易に置き換えることができる。
【0069】
加えて、いくつかの例では、電流周期波形の所定の電流範囲に対してスイッチング周波数が増加される。これらの例では、動作パラメータは少なくとも電流を含み、電流は周期波形を有する。換言すれば、同じ範囲の電流周期波形の振幅に対して、異なるデッドタイムを調整することができる。これらの異なるデッドタイムは、周期波形の異なる電流範囲に対応しており、記憶段階CAL6中に、動作パラメータの範囲及び電流周期波形の所定の電流範囲とともにルックアップテーブルに記憶される。したがって、較正段階CALは、安定状態に加え、電流周期波形の振幅及びスイッチング周波数が増加される所定の電流範囲に対応するステータスが初期の非更新値を有する場合にのみ開始される。
【0070】
一実施形態において、較正段階は、電流周期波形の異なる電流範囲に対して順次実行される。
【0071】
図4A図4Cは、本開示による方法を使用してパワー半導体モジュールのデッドタイムを調整した場合に取得される例示的な値の変動と、電流周期波形の所定の電流範囲に対するスイッチング周波数の増加の前後のTSEPの間の差として定義されるTSEPとを示している。3つの図は同時に取得され、共通の時間軸(横座標)を有する。
【0072】
図4Aは、動作パラメータIloadの例を表している。この例では、動作パラメータIloadは、正弦波形を有する負荷電流である。この動作パラメータIloadは、最大振幅が時間全体を通して同じであるので、この例の持続時間全体において、同じ所定の範囲内に維持される。
【0073】
図4Bは、スイッチング周波数の増加に対するTSEP応答の変動とデッドタイムの変動とを表す図である。
【0074】
図4Cは、3つのデッドタイムDI+、D及びDI-の変化を表す図である。これら3つのデッドタイムは、電流周期波形の異なる電流範囲に対応する。DI+、D及びDI-は、それぞれ、高電流範囲、中電流範囲及び低電流範囲のデッドタイムに対応する。
【0075】
図4A図4Cの例では、スイッチング周波数は、中電流範囲に対して増加する。例えば、スイッチング周波数は、負荷電流が負荷電流の最大振幅の40パーセントから60パーセントの間で構成される値を有する場合に増加する。最大振幅は、公称電流とも称される。図4A図4Cの例では高DI+電流範囲及び低DI-電流範囲のデッドタイムは現在調整されていないが、これは、本方法が種々の実施形態においてこれらの電流範囲にも適用され得ることを意味する。
【0076】
3つの図面を以下で同時に分析する。
【0077】
この例の開始時には、図4Cに示すように、デッドタイムは優勢値D を有する。図4Aでは、第1の進入横座標Psw,a1において、負荷電流Iloadは、値Iの中間範囲に入る。並行して、図4Bに示すように、TSEP TSEPa,1が、第1の進入横座標Psw,a1において測定される。次に、スイッチング周波数は、負荷電流Iloadが値Iの中間範囲に留まる所定時間Δtswの間、増加する。スイッチング周波数の増加は、負荷電流Iloadが特定の反復回数(正弦波信号の周期)全体にわたって値Iの中間範囲に入る場合に実行される。
【0078】
図4A図4Cの例では、スイッチング周波数は、負荷電流Iloadが値Iの中間範囲に入ると、所定時間Δtswの間、4回増加する。これらの4回の反復の終了時に、第1の終了横座標Psw,a2において、TSEP TSEPの第2の値が測定される。その結果、優勢値D に対応するTSEP TSEPの第1の値は、次のように計算される。
TSEP=TSEP-TSEPa,1
【0079】
この特定の実施形態において、周波数は所定時間Δtswの間に一時的にのみ増加する。これにより、2つのTSEP(TSEP及びTSEP)の差分を迅速に求めることができる。これは、デッドタイム効果評価の差分アプローチに対応する。種々の実施形態において、周波数は、各所定時間Δt及びΔtの間、連続的に増加させることができる。
【0080】
並行して、第1の終了横座標Psw,a2において、優勢デッドタイムD は、暫定デッドタイムD に減少する。第2の所定時間Δtの後、第2の進入横座標Psw,b1において、TSEP TSEPb,1が測定される。この例では、第2の所定時間Δtは、デッドタイムの変化に応答してダイの熱過渡時間に等しくなるように動的に決定される。
【0081】
次に、スイッチング周波数は、負荷電流Iloadが同じ数の反復に対して値Iの中間範囲に入ると、同じ所定時間Δtswに対して増加される。4回の反復の終了時に、第2の終了横座標Psw,b2において、TSEP TSEPの第2の値が測定される。その結果、暫定値D に対応するTSEP TSEPの第2の値は、以下のように計算される。
TSEP=TSEP-TSEPb,1
【0082】
動作パラメータIloadは、第2の所定時間Δtの間、所定の範囲内に維持されている。第2のTSEP TSEPは、図4Bでわかるように、第1のTSEP TSEPに対応する温度よりも低いモジュールのスイッチの温度に対応する。したがって、暫定デッドタイムD が優勢デッドタイムD に割り当てられる。
【0083】
いくつかの実施形態において、TSEPは、ボディダイオードのフリーホイール状態及び誘発された導通状態の間にモジュールのスイッチの両端で測定される電圧として定義されるタイプのパラメータである。いくつかの動作条件において、スイッチのボディダイオードにおいて測定される電圧は、並列のダイ、例えばSiC MOSFET又はGaN HEMTダイにおいて測定される電圧よりも、ダイの温度に対してより高感度である。換言すれば、これらの例では、フリーホイール状態にあるモジュールのスイッチのボディダイオードの両端の電圧を測定するために、スイッチのどの部分もオンになっていない時間は人為的に増加される。
【0084】
図5は、これらの実施形態の入力信号(PWMBOT,PWMTOP)の例を示している。下部入力信号PWMBOTは、下部スイッチの入力信号である。
【0085】
この例では、下部スイッチのボディダイオードについて、誘発された導通状態又は測定段階Smeasが実行される。測定段階Smeasは、ボディダイオードにおける余分な損失に起因する温度変動を制限するために、1つのスイッチング周期だけ実行される。
【0086】
他のスイッチング段階又はデッドタイム段階Sの間、スイッチのどの部分もオンにされず、すなわち、適用されたデッドタイムDに等しい持続時間中、PWMTOP=0及びPWMBOT=0となる。適用されたデッドタイムDは、優勢デッドタイムD又は暫定デッドタイムDのうちのいずれかであり得る。
【0087】
測定段階Smeasの間、スイッチのどの部分もオンにされない期間は、適用されたデッドタイムDと測定デッドタイムDmeasとの和に等しい総持続時間まで増加される。例えば、測定デッドタイムDmeasは、電圧センサの時間応答に対応し、数百ナノ秒から数百マイクロ秒の範囲である。
【0088】
いくつかの例では、図5に示すように、増加したデッドタイムの総持続時間は、完全な導通期間が下部スイッチのボディダイオード導通の下で実行されるような持続時間である。すなわち、総持続時間は、下部スイッチの期間TBOTに等しく、これは以下の式によって要約される。
D+Dmeas=TBOT
換言すれば、下部スイッチPWMBOTは、導通期間を一時的にスキップし、非同期整流で動作することができる。
【0089】
さらに、デッドタイムの調整方法は、モジュールのフリーホイール状態に対応する負荷電流周期波形の特定の電流範囲に対して実行することもできる。この実施形態において、動作パラメータは少なくとも負荷電流を含み、負荷電流は周期波形を有する。この特定の電流範囲は、負荷電流周期波形の負の振幅から負荷電流周期波形の正の振幅までの範囲内に含まれる。TSEPは、特定の電流範囲についてフリーホイール状態にあるモジュールのスイッチの両端で測定された電圧である。TSEPは、測定段階Smeasの間に測定される。測定段階Smeasは、負荷電流が特定の電流範囲内に含まれた場合に発生する。特定の電流範囲は、典型的には、この特定の電流範囲で測定段階Smeas中に測定されるTSEPが温度に対して高い感度を有するように選択される。実際、TSEP、すなわちフリーホイール状態にあるモジュールのスイッチの両端で測定される電圧は、スイッチの温度と負荷電流との両方に依存する。特定の電流範囲についてTSEPを測定することで、スイッチの温度に対するTSEPの依存性のみを、スイッチの温度に対して高い感度で有することが可能となる。
【0090】
図6には、本開示による方法を実行するように設計された集積回路SYSの一例が描かれている。
【0091】
集積回路SYSは、メモリMEMSYS及びプロセッサPROCを備える。いくつかの実施形態において、集積回路SYSは、特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FGPA)、又はマイクロコントローラを備えることができる。
【0092】
この集積回路SYSは、入力のために、少なくとも入力信号PWMINと、少なくともTSEPの指標と、少なくとも動作パラメータOPの指標とを有する。この例では、2つのTSEP(TSEPBOT,TSEPTOP)を測定する。
【0093】
集積回路のメモリMEMSYSは、プロセッサPROCによって実行される命令、動作パラメータIload、及び2つのTSEP(TSEPBOT,TSEPTOP)を記憶する。メモリMEMSYSは、例えば、バッファである。プロセッサPROCは、本発明による方法を実行するための命令を実行する。集積回路SYSは、入力信号PWMINに関連する少なくとも2つの信号を出力する。この例では、入力信号PWMINはパルス幅変調(PWM)電圧であり、出力される信号は2つのパルス幅変調(PWM)電圧(PWMBOT,PWMTOP)である。
【0094】
この例では、ハーフブリッジHが整流器としてモジュールMOD内に実装されている。このハーフブリッジHは、上部スイッチSWTOP及び下部スイッチSWBOTを含み、負荷LOADに電圧Vmidを供給する。各スイッチは独立して制御される。例えば、プロセッサPROCは、ゲートドライバーAMPTOPを介して上部入力信号PWMTOPを上部スイッチSWTOPに供給する。ゲートドライバーAMPTOPは、入力信号PWMTOPを増幅して上部スイッチSWTOPを制御する。特に、上部スイッチSWTOPのデッドタイムは、本開示に記載される方法を用いて調整される。ゲートドライバーAMPTOPは、例えば、バッファである。下部スイッチSWBOTについても同様である。
【0095】
いくつかの実施形態において、スイッチは、SiC MOSFET又はGaN HEMT又は任意のワイドバンドギャップ半導体デバイスである。
【0096】
いくつかの実施形態において、少なくとも1つのスイッチは、個々のゲートアクセスを有する少なくとも2つの並列ダイで作られる。かかる場合、TSEPは、例えば、ダイの平均温度に関連する指標である。方法100は、並列ダイに並列に適用することができ、図7に示すような平衡化段階BALを更に含み得る。平衡化段階BALは、各測定段階(CAL1,CAL4)の後に実行することができ、モジュールのダイの温度の最高値に対応するTSEPの測定値を有するダイのデッドタイムを増加させることを含み得る。明確にするために、第1の測定段階CAL1の後の平衡化段階BALのみが図7に表されている。この平衡化段階BALは、図7の破線によって表されるように、全てのダイが同じ温度を有するまで、再帰的に実行することができる。
【0097】
いくつかの実施形態において、モジュールは、本発明による方法を実行するために、少なくとも2つのパワー半導体と、回路監視TSEPと、少なくともゲートドライバーと、電流センサとを備える。
【0098】
本開示は、本明細書で述べる、方法、モジュール、及びコンピュータプログラムに限定されず、それらは例に過ぎない。本発明は、当業者が、本文書を読むと想定することになる全ての代替物を包含する。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7