(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-20
(45)【発行日】2024-06-28
(54)【発明の名称】無線周波数システムの干渉体を推定するコンピュータ実施方法、コンピュータプログラム、及びデバイス
(51)【国際特許分類】
H04W 4/029 20180101AFI20240621BHJP
G01S 5/02 20100101ALI20240621BHJP
H04W 4/40 20180101ALI20240621BHJP
H04W 24/08 20090101ALI20240621BHJP
【FI】
H04W4/029
G01S5/02 Z
H04W4/40
H04W24/08
(21)【出願番号】P 2023562106
(86)(22)【出願日】2021-12-03
(86)【国際出願番号】 JP2021045432
(87)【国際公開番号】W WO2022209030
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-06-16
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】503163527
【氏名又は名称】ミツビシ・エレクトリック・アールアンドディー・センター・ヨーロッパ・ビーヴィ
【氏名又は名称原語表記】MITSUBISHI ELECTRIC R&D CENTRE EUROPE B.V.
【住所又は居所原語表記】Capronilaan 46, 1119 NS Schiphol Rijk, The Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100147566
【氏名又は名称】上田 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100188514
【氏名又は名称】松岡 隆裕
(72)【発明者】
【氏名】グエン、ヴィエト・ホア
(72)【発明者】
【氏名】グレッセ、ニコラ
【審査官】松▲崎▼ 祐季
(56)【参考文献】
【文献】特表2021-505026(JP,A)
【文献】特開2020-041845(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0205417(US,A1)
【文献】Viet-Hoa Nguyen, Nicolas Gresset,Joint interference sources separation and geolocation for vehicular systems using Bayesian inference,2022 IEEE 33rd Annual International Symposium on Personal, Indoor and Mobile Radio Communications (PIMRC),2022年09月,pp. 933-938,Internet<https://ieeexplore.ieee.org/stamp/stamp.jsp?tp=&arnumber=9977825>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 5/00- 5/14
19/00-19/55
H04B 7/24- 7/26
H04W 4/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
各時点nにおいて既知の軌道を有する移動車両に搭載される無線周波数システムの干渉体を推定するコンピュータ実施方法であって、前記干渉体の間の非重複条件は、それぞれの位置θ=[θ
1,..,θ
k,..,θ
K]を有するK個の独立したアクティブな干渉体とみなすことであり、前記方法は、
時点1からNまでの干渉測定値に対応する観測値Z
nを取得し、観測値ベクトルZ=[Z
1,..,Z
n,..,Z
N]を構築することと、
瞬間nにおいていずれの干渉体がアクティブ化されているかを示す潜在変数V
nを定義し、潜在変数のベクトルV=[V
1,..,V
n,..,V
N]を構築することと、
前記ベクトルV=[V
1,..,V
n,..,V
N]によって定義されるマルコフ連鎖を用いたギブスサンプリングを伴うディリクレ過程を実施することであって、前記ギブスサンプリングは、収束するまで以下のアルゴリズムを繰り返すことと、
n=1,...,Nについて、
前記観測値Z
nが既に干渉体に関連付けられている場合、前記潜在変数V
nに対応する現在の関連干渉体から観測値Z
nを除去し、前記観測値Z
nがもはやこの干渉体に属さない場合、この干渉体の位置事後確率を取り出し、
干渉体kが事前に存在したか否かに依存する条件付き確率P(V
n=k│V
-n,Z
-n,Z
n)に基づいて、潜在変数V
nの新しい値を抽出し、
前記観測値Z
nを前記潜在変数V
nに対応する干渉体に関連付け、前記潜在変数V
nに対応する干渉体の位置の事後分布を更新することであり、
前記アルゴリズムが収束すると、
前記干渉体を、K個の前記干渉体にそれぞれ関連する、K個の独立した測定値の集合へと分離することと、
前記干渉体が分離された状態で各前記干渉体の位置を推定することと、
を動作させることと、
を含む、方法。
【請求項2】
いずれの干渉体に観測値Z
nが属するかを識別するために確率が評価され、前記確率は、次式によって与えられ、
【数1】
式中、
()
-nは、n以外のインデックスを指し、前記確率
【数2】
は、前記干渉体に既に関連付けられた他の測定値Z
-nを所与として、前記潜在変数V
nに対応する前記干渉体に関連付けられる観測値Z
nの条件付き確率である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記位置の事後分布は、次式を実施することによって、漸進的に更新され、前記干渉体の位置を推定し、
【数3】
式中、()
-nは、n以外のインデックスを指す、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記確率
【数4】
は、
【数5】
として表される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
項
【数6】
及び
【数7】
は、次のように計算され、
【数8】
式中、
【数9】
は、前記観測値Z
nのガウス分布における平均を示すとともに、
【数10】
として表され、
【数11】
は、干渉体V
nのnの観測値とn以外の観測値との間の相関行列を示し、
【数12】
は、干渉体V
nのn以外の観測値の自己相関行列を示し、
【数13】
は、干渉体V
nのn以外の観測値における平均を示し、
【数14】
は、干渉体V
nのn以外の観測値とnの観測値との間の相関行列を示す、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記条件付き確率p(V
n=k│V
-n)は、次式によって与えられ、
【数15】
式中、N
kは、V
nに対応する干渉体に関連付けられる観測値の数であり、Nは、観測値の総数であり、αは濃度パラメータである、請求項2~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
干渉体の数Kは未知であり、
観測値が既存の干渉体kに属する条件付き確率は、次式によって与えられ、
【数16】
観測値が新しい干渉体k’に属する条件付き確率は、次式によって与えられる、
【数17】
請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記条件付き確率は、
既存の干渉体kについては、
【数18】
に等しく、新しい干渉体については、
【数19】
に等しく、
式中、bは、上記の所与の確率の合計を1にする適切な正規化定数である、請求項2~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記ディリクレ過程は、次式のように定義されるディリクレ混合モデルを伴い、
【数20】
式中、G
0は、干渉体の位置の基底分布である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
尤度
【数21】
を、次式によって与えられる、移動車両位置T
nの関数としてを推定することを更に含む、
【数22】
請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
位置θは離散化されて、離散空間Ω
θ内の離散値となり、前記離散空間内の位置θの各値は、確率に関連付けられる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
連続的な位置決定は、前記移動車両位置の周りの空間を分割して下位分割s=1,...,Sにすることによって行われ、各下位分割は、中心C
sによって表され、前記移動車両位置T
nは、下位分割s内にあり、前記尤度は、次式によって与えられ、
【数23】
式中、
【数24】
は、
【数25】
によって求められ、
基底分布G
0は、次式によって与えられる、
【数26】
請求項10に記載の方法。
【請求項13】
処理回路によって実行されると、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法を行う命令を含むコンピュータプログラム。
【請求項14】
請求項1~12のいずれか一項に記載の方法を実施するように構成される処理回路を備えるデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線周波数システムにおける干渉分類に関する。
【背景技術】
【0002】
或るアプリケーションでは、無線周波数システムは、移動体の軌道を決定するためにその位置情報を利用することができる移動体(例えば、高速列車の周り)の環境に関与している。
【0003】
より詳細には、無線周波数システムは、例えば特許文献1において開示されているもの等、CBTC(通信ベース列車制御)無線システムである。さらに、列車に搭載されるこのタイプのシステムは、干渉体を空間的に識別することによって環境を特徴付けることが望ましい。より詳細には、CBTC無線モジュールの電力測定値のみを使用することによって、CBTC無線ハードウェアの複雑さを増すことなく、干渉体の位置を識別することが求められる。干渉強度が列車と干渉体との距離に依存し、移動列車が異なる場所における干渉の信号強度を幾何学的にサンプリングすることができるので、干渉体の位置を推定することは可能であるべきである。
【0004】
干渉位置特定問題は、CBTCシステムだけでなく、あらゆる通信ベース輸送システム(車、船等)にも存在し、以下の内容は、移動して干渉強度をサンプリングする能力を有するあらゆるシステムに適用することができる。しかしながら、いずれの場合にも、問題を解決できるようにするには、既知の軌道に関する条件を満たさなければならない(典型的には鉄道列車の場合等)。
【0005】
これ以降、列車環境の事例を一例として提示する。システムは、以下のように記述することができる。
-列車は、速度v(m/s)で移動している、
-列車の無線は、レートR(回/s)で測定することができる、
-列車の位置は、あらゆる測定について既知である、
-K個の干渉体は、それぞれ異なる固定された位置にあり、列車の無線にランダムに干渉する。ある測定から別の測定まで、干渉体はランダムにアクティブ化される又はされないことを考慮する。
-dB単位での経路損失は、a+b・log(d)として与えることができ、式中、dはTx-Rx距離であり、a及びbは経路損失係数を示す。
-2つの異なる位置の間のシャドウイングは、次のような係数で相関する。
【数1】
式中、Δxは列車位置の差であり、p
0及びd
cはシャドウイングモデルの係数である。
-例えば、CSMAプロトコル(搬送波感知多重アクセス/CA又はCD)が、互いに近い干渉体の間で行われるため、非競合条件を満たすことができる。
【0006】
換言すれば、測定値は、1つの瞬間において1つの干渉体にしか属さない。しかしながら、干渉体は、次々にランダムに切り替わるため、観測値は混合信号になる。加えて、データトラフィックモデルにより、干渉の出現もランダムである。
【0007】
そのため、この問題は、2つの主な下位問題に分けることができる:
-干渉体の分離:観測値がK個の干渉体のうちの1つにランダムに属する可能性があることから、いずれの干渉体かを識別する必要がある。
-位置の推定:観測値が分類されると、干渉体の位置を推定することができる。
【0008】
これらの2つの問題は相互に依存し、一方の解が他方に影響を与える。
【0009】
本発明は、上記の状況を改善することを目的とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【0011】
各時点nにおいて既知の軌道を有する移動車両に搭載される無線周波数システムの干渉体を推定するコンピュータ実施方法であって、干渉体の間の非重複条件は、それぞれの位置θ=[θ1,..,θk,..,θK]を有するK個の独立したアクティブな干渉体とみなすことであり、方法は、
-時点1からNまでの干渉測定値に対応する観測値Znを取得し、観測値ベクトルZ=[Z1,..,Zn,..,ZN]を構築することと、
-瞬間nにおいていずれの干渉体がアクティブ化されているかを示す潜在変数Vnを定義し、潜在変数のベクトルV=[V1,..,Vn,..,VN]を構築することと、
-ベクトルV=[V1,..,Vn,..,VN]によって定義されるマルコフ連鎖を用いたギブスサンプリングを伴うディリクレ過程を実施することであって、サンプリングは、収束するまで以下が繰り返され、
○n=1,...,Nについて、
-観測値Znが既に干渉体に関連付けられている場合、潜在変数Vnに対応するその現在の関連干渉体から観測値Znを除去し、観測値Znがもはやこの干渉体に属さないときの、この干渉体の位置事後確率を取り出し、
-干渉体kが事前に存在したか否かに依存する条件付き確率P(Vn=k│V-n,Z-n,Zn)に基づいて、潜在変数Vnの新しい値を抽出し、
-観測値Znを潜在変数Vnに対応する干渉体に関連付け、潜在変数Vnに対応する干渉体の位置の事後分布を更新することと、
-アルゴリズムが収束すると、
*干渉体を、K個の干渉体にそれぞれ関連する、K個の独立した測定値集合に分離することと、
*干渉体がそのように分離された状態で各干渉体位置を推定することと、
を動作させることと、
を含む、方法を提案する。
【0012】
既知の軌道を有する上述の「移動車両」は、例えば、鉄道車両(固定かつ既定の軌道を有する)とすることもできるし、代替的に、リアルタイムで連続した位置を推定するGPSを備える他の車両とすることもできる。
【0013】
上述の「非重複条件」は、(多重アクセスプロトコル、例えば、CSMA/CAプロトコル又はCSMA/CDにおけるように)1つの瞬間において1つの干渉体のみが信号を発信するように、干渉体の間に衝突が生じ得ないことを意味する。
【0014】
上述の干渉測定値は、無線周波数電力又はエネルギー又は振幅レベルの形式である。
【0015】
本発明は、いずれの観測値がいずれの干渉体に属するかを求めようとするときは常に、事前知識を提供するために潜在変数Vnの使用を提案する。干渉体分離を行うと同時に、何らかの決断を行うことは、計算される確率に基づいてサンプルを抽出することに置き換えられる。モンテカルロメカニズムに基づいて推定値が収束するまで、このプロセスは繰り返し実行される。
【0016】
したがって、一実施の形態において、いずれの干渉体に観測値Z
nが属するかを識別するために確率を評価することができ、上記確率は、次式によって与えられる。
【数2】
式中、
()
-nは、n以外のインデックスを指す。確率
【数3】
は、この干渉体に既に関連付けられた他の測定値Z
-nを所与として、潜在変数V
nに対応する干渉体に関連付けられる観測値Z
nの条件付き確率である。
【0017】
また、干渉体の位置の事後分布は、次式を実施することによって、漸進的に更新して、干渉体の位置を推定することができる。
【数4】
式中、()
-nは、n以外のインデックスを指す。
【0018】
分布は、ガウス分布とすることができ、そのため、確率
【数5】
は、次式のように表すことができる。
【数6】
【0019】
この式において、項
【数7】
及び
【数8】
は、次のように計算することができる。
【数9】
ここで、
【数10】
は、観測値Z
nのガウス分布における平均を示すとともに、
【数11】
として表される。
【数12】
は、干渉体V
nのnの観測値とn以外の観測値との間の相関行列を示す。
【数13】
は、干渉体V
nのn以外の観測値の自己相関行列を示す。
【数14】
は、干渉体V
nのn以外の観測値における平均を示す。
【数15】
は、干渉体V
nのn以外の観測値とnの観測値との間の相関行列を示す。
【0020】
2つの観測値n
1、n
2の間の相関は、
【数16】
として表すことができる。式中、p
0及びd
cは、典型的にはシャドウイングモデルの2つのパラメータである。
【0021】
条件付き確率p(V
n=k│V
-n)は、次式によって与えることができる。
【数17】
式中、N
kは、V
nに対応する干渉体に関連付けられる観測値の数であり、Nは、観測値の総数であり、αは濃度パラメータである。
【0022】
可能な干渉体の数Kが未知である(そのため、K=∞とみなすこととなる)場合、
-観測値が既存の干渉体kに属する条件付き確率は、したがって、次式によって与えられる。
【数18】
-および、観測値が新しい干渉体k’に属する条件付き確率は、次式によって与えられる。
【数19】
【0023】
干渉体kが事前に存在したか否かに依存する上述の条件付き確率P(V
n=k│V
-n,Z
-n,Z
n)は、一実施の形態において、既存の干渉体kについては、
【数20】
によって与えることができ、新しい干渉体については、
【数21】
によって、与えることができる。
式中、bは、上記の所与の確率の合計を1にする適切な正規化定数である。
【0024】
一実施の形態において、ディリクレ過程は、次式のように定義されるディリクレ混合モデルを伴う。
【数22】
式中、G
0は、干渉体の位置の基底分布である。
【0025】
一実施の形態において、本方法は、尤度
【数23】
を推定することを更に含み、尤度は移動車両位置T
nの関数として、次式によって与えられる。
【数24】
【0026】
第1の実施の形態では、位置θを離散化して、離散空間Ωθ内の離散値とすることができ、上記離散空間内の位置θの各値は、確率に関連付けられる。
【0027】
第2の代替的な実施の形態では、連続的な位置決定は、移動車両位置の周りの空間を分割して下位分割s=1,...,Sにすることによって行うことができ、各下位分割は、中心C
sによって表され、車両位置T
nは、下位分割s内にあり、尤度は、次式によって与えられる。
【数25】
式中、
【数26】
は、
【数27】
によって求められ、
基底分布G
0は、次式によって与えられる。
【数28】
【0028】
本発明は、デバイス(
図10に提示するもの等)の処理回路によって実行されると、上記に提示した方法を行う命令を含むコンピュータプログラムも対象とする。本発明は、そのような命令を記憶する非一時的コンピュータ可読媒体(
図10に提示するメモリMEM等)も対象とする。
【0029】
本発明は、上記に提示した方法を実施するように構成される(及び
図10を参照して後述する)処理回路を備えるデバイスも対象とする。
【0030】
本発明のより詳細な内容及び利点は、例として以下に与えられる実施形態の説明を読むことで理解され、関連する図面から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】その軌道上の各位置において干渉を測定するCBTC無線周波数システムを示す図である。
【
図2】測定干渉電力及び干渉体の真の位置を示す図である。
【
図3】検出されている2つの第1の干渉体を示す図である。
【
図6】第1の反復の終了時の推定値を示す図である。
【
図8】実施形態による、上記に提示した方法のステップを有するアルゴリズムを示す図である。
【
図10】上記に提示した方法を行うデバイスの実施形態の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
次に、
図1を参照して、列車内で行われる測定から、いくつかの路傍干渉体の位置特定の主な概念を説明する。いくつかの位置により、問題間にさまざまな幾何学ビューを有することができるので、1つの干渉体の位置を推定することが可能になる。いくつかの干渉体がシステム内に存在する場合、各観測値を各干渉体に関連付けるために干渉体分離が行われ、その後、いくつかの位置における観測値からの前述の位置特定技術を使用する。しかしながら、通常、干渉体の数は未知である。
【0033】
ここで、ディリクレ過程及びギブスサンプリングに基づく機械学習手法を使用することによって、干渉体分離及び干渉体位置特定という2つの上述の問題を解決することを提案する。特に、位置特定問題は、従来のギブスサンプリングが可能な形式で表すことができない。そのため、この問題に対処する以下の2つのアプローチを提案する。
-干渉体位置のグリッド。特に、観測値を(それぞれ)追加及び削除する際の確率の更新及び取出しを行うメカニズムに注目する。これらの特徴(観測値の追加及び削除)により、ギブスサンプリングが可能になる。
-位置特定問題の近似。厳密な問題を閉形式によって近似し、この閉形式のいくつかのパラメータを調整することによって、更新及び取出しがより簡単な方法で可能になる。
【0034】
T=[T
1,..,T
n,..,T
N]とする列車の位置に従って列車上の干渉電力測定値をZ=[Z
1,..,Z
n,..,Z
N]として取得する例を挙げると、プロット(T,Z)は、
図2の上側の図で与えられる。目的は、
図2の下側の図にプロットされた干渉体の真の位置を発見することである。
【0035】
測定値が干渉体の間で混合されることを知った状態で、干渉体の位置を効率的に特定するためには、まず、干渉体を独立した干渉体に分離することが必要である。ここで、瞬間nにおいていずれの干渉体がアクティブ化されているかを示す、以下の潜在変数を導入する。
V=[V1,..,Vn,..,VN]
【0036】
さらに、以下において、θ=(θ
1,θ
2,..,θ
K)は、K個の干渉体の位置のベクトルを示すものとする。解決すべき問題に従って、ディリクレ混合モデルは以下のように述べることができる。
【数29】
式中、
【数30】
は正規分布を示し、αは濃度パラメータであり、Kは干渉体の数であり、G
0は干渉体の位置の基底分布である(θ
kは、干渉体位置パラメータを示す)。干渉体の数は、未知であるため、K=∞である。
【0037】
アルゴリズムは、主に以下のように構築することができる。
-第1の観測値Z
1について、第1の干渉体を作成し、Z
1をこの干渉体(V
1=1)に関連付け、その後、ベイズ規則によってその位置の事後分布を以下のように更新する。
【数31】
-第2の観測値から、任意のnについて、
○以下のように(ギブスサンプリング)、条件付き確率に基づいて、V
nの新しい値のサンプルを抽出する。
■既存の干渉体kについては、
【数32】
■新しい干渉体については、
【数33】
ここで、bは、上記の確率の合計を1にする適切な正規化定数であり、N
kは、干渉体kにおける観測値の数である。
○Z
nを干渉体V
nに関連付け、ベイズ規則によってその位置の事後分布を更新する。
【0038】
この例では、
図3に、3回の第1の観測の後の結果のプロットが示されている。この図から明らかなように、2つの第1の観測値が第1の干渉体に関連付けられ、第3の観測値が第2の干渉体に関連付けられている。これらの干渉体の位置の事後分布は、下側の部分図において輪郭としてプロットされる。第1の干渉体は2つの観測値を有するため、その位置の分布は、1つの観測値のみが関連付けられた第2の干渉体と比べて密である。
【0039】
図4は、上側の図においてBとプロットされる第3の干渉体の出現を示す。
【0040】
図8を参照して後述するアルゴリズムにより観測の終了まで推定を継続し、別の干渉体が存在するか否かを判断する。その推定値を
図5に示す。ここでは3つの干渉体のみが存在することを念頭に置くと、この推定は依然として正確でない。
【0041】
推定は、観測の終了、つまりn=Nまで継続することができる。
図6にこの瞬間における推定値を示す。アルゴリズムは、少なくとも4つの干渉体が存在すると推定し、それらの位置の確率は、
図6の下側の図にあるようなものとなる。
【0042】
アルゴリズムは、ここで停止せず第1の観測値に戻り、
-観測値を現在の関連干渉体から切り離し、
-観測値がもはやこの干渉体内にないため、関連干渉体の事後分布を取り出し、
-以下のように(ギブスサンプリング)、条件付き確率に基づいて、V
nの新しい値のサンプルを抽出する。
■既存の干渉体kについては、
【数34】
■新しい干渉体については、
【数35】
【0043】
このプロセスは推定値が収束するまで反復的に繰り返され、最終的には、
図7に示すように、空間的に十分に定義される3つの干渉体のみが示される。
【0044】
ギブスサンプリングを実現可能にするためには、観測値が干渉体に関連付けられる又は干渉体から切り離されるとみなされるときは常に、事後分布の更新又は取出しを行うことが可能であるべきである。特定の問題に関して、分布の更新又は取出しを行い、上記の問題に対処するための閉形式は存在しない。したがって、ここで2つの手法を提案する。
-離散化:問題を単純化するために、パラメータ位置θは離散化され、離散空間Ωθを定義する離散値になる。例えば、干渉体の位置の2D空間を考慮すると、θは、X軸及びY軸の両方において均一に離散化される。このグリッド内のθの各値は、確率に関連付けられる。各干渉体についての更新又は取出しは、Ωθ内のθのあらゆる値について確率を調整することによって行われる。
-近似:いくつかの形式に分割することによって、厳密な問題が近似され、これにより、この下位形式のいくつかのパラメータを調整することによって、更新及び取出しがより簡単な方法で可能になる。
【0045】
図8に、アルゴリズムを反映した対応するフローチャートを示す。アルゴリズムは、以下に与えられる定義及び条件を用いて提示されている。
-非重複条件:或る瞬間において1つの干渉体のみが信号を発信するように、干渉体の間に衝突が生じないものとする。この条件は、例えばCSMA/CAプロトコル又はCSMA/CDを使用することによって満たすことができる。
-既知の列車軌道(ステップS1):列車位置T
1,T
2,...,T
n,...,T
Nのデータが連続的に受信され、アルゴリズムは、任意の瞬間におけるその位置並びにその速度及び方向を知ることができる。
-局所座標系の表記は、
図9に示すように与えられる。
-時点nにおける列車と干渉体kとの距離は、次式によって与えられる。
d
n
(k)=||T
n-θ
k|| (1)
-干渉体kがアクティブである場合、列車上の干渉受信電力Z
nは、ステップS1において時点nに測定される(経路損失モデルは既知とみなされる)。
Z
n=a+b・log(d
n
(k))+w
n
(k) (2)
式中、a及びbは、経路損失モデルの2つの係数であり、w
n
(k)は、時点nにおける干渉体kに対する列車へのシャドウフェージングを示す。
-シャドウフェージングは、次式のように表される、2つの列車位置T
nとT
mとの間の相関を有する多変量ガウス分布に従う。
【数36】
式中、p
0、d
cは、シャドウイングモデルの係数(同じく既知)である。
-経路損失及びシャドウイングモデルは既知である。
-K個の干渉体が存在すると想定すると、したがって、推定されるべきパラメータは、干渉体の位置である。
θ=[θ
1,..,θ
k,..,θ
K] (4)
-列車上では、無線モジュールは、時点1からNまでの干渉電力レベルを測定し、観測値ベクトルは、
図8のステップS1に述べるように記述することができる。
Z=[Z
1,..,Z
n,..,Z
N] (5)
しかしながら、任意の時点においてK個の干渉体のうちのいずれがアクティブであるかという情報は未知である。この意味で、観測値は、干渉体の間で混合される。非重複条件と組み合わせると、或る時点において、1つの発信源のみが存在する。
【0046】
さらに、瞬間nにおいていずれの干渉体がアクティブ化されているかを示す潜在変数が導入される。
V=[V1,..,Vn,..,VN] (6)
【0047】
干渉体の位置を特定するために、2つの問題を解決する必要である。
-干渉体分離:列車上の電力測定値は混合信号であり、測定値を、K個の干渉体に関連するK個の独立集合へと分離する必要がある。
-干渉体位置特定:干渉体が分離されると、それらの位置を推定することができる。
【0048】
上述の2つの下位問題は相関する。一方の実行は他方に影響を与える。ディリクレ混合モデル(例えば、参考文献:Neal, Radford M. "Markov chain sampling methods for Dirichlet process mixture models." Journal of computational and graphical statistics 9.2 (2000) 249-265 に記載されており、その詳細は以下に説明する)を、解決するべき主な問題に従って、以下のように述べることができる。
【数37】
【0049】
このモデルに基づいて、マルコフ連鎖モンテカルロアルゴリズムは、ギブスサンプリングを伴って実行される。その原理は、測定値を独立した干渉体へと分離し、その後、干渉体をジオロケートすることができるように、干渉体の位置の分布を更新することである。
【0050】
マルコフ連鎖モンテカルロシミュレーションは、以下の動作を収束まで繰り返すことによって行われる。
【0051】
ステップS1において、無線周波数電力測定値Z
nと列車位置T
nとの組(Z
n,T
n)によって与えられる観測値のグローバル集合Rを構築した後、
n=1,...Nについて(ひいては、
図8のステップS21に述べるように、一組(Z
n,T
n)によって与えられる、時点nにおける観測値について)、
-ステップS2において、観測値(Z
n,T
n)は、観測値のグローバル集合Rから除去される。
-観測値(Z
n,T
n)が干渉体V
nに既に関連付けられている(検定S3におけるYESである)場合、(ステップS4において)観測値(Z
n,T
n)をその現在の関連干渉体V
nから切り離し、時点nにおける観測値がもはやこの干渉体に属さないときの、この干渉体の位置事後確率を取り出す。
-ステップS5において、ギブスサンプリング実施について、以下のような確率を所与としたV
nの新しい値のサンプルを抽出する。
○既に検出された既存の干渉体kについては、
【数38】
であり、
○新しい干渉体については、
【数39】
であり、
式中、bは、上記の所与の確率の合計を1にする適切な正規化定数である。
-V
nが新しい場合(検定S6)、新しい干渉体を作成する(S7)。
-観測値(Z
n,T
n)を干渉体V
nに関連付け、その事後確率を更新する(S8)。
【0052】
反復ごとに、全ての測定値が考慮された後(検定S9及びS11のループ)、条件(検定S10)が追加され、収束が満たされているか否かを確認する。収束条件は、多様なものとすることができ、干渉体位置の収束、又は測定値の再分割に関する収束、又は反復の最大数等がある。
【0053】
図8のステップS5において、ギブスサンプリングは、より詳細には、観測値nがいずれの干渉体に属するかを識別するために、以下の確率を評価することによって行われる。
【数40】
式中、()
-nは「n以外」を示す。確率
【数41】
は、この干渉体に既に関連付けられている他の観測値を所与として、干渉体(V
n)における観測値nの条件付き確率である。この条件付き確率は、以下の平均及び分散を伴うガウス分布である。
【数42】
式中、
【数43】
は、時点nにおける干渉体V
nの平均を示し、
【数44】
は、干渉体V
nのnの観測値とn以外の観測値との間の相関行列を示し、
【数45】
は、干渉体V
nのn以外の観測値の自己相関行列を示し、
【数46】
は、干渉体V
nのn以外の観測値における平均を示し、
【数47】
は、干渉体V
nのn以外の観測値とnの観測値との間の相関行列を示す。
【0054】
したがって、確率
【数48】
は、以下のように表される。
【数49】
【0055】
【数50】
であるため、
【数51】
は、
【数52】
と書き換えることができる。
【0056】
条件付き確率p(V
n=k│V
-n)は、以下のように表すことができる。
【数53】
式中、N
kは、干渉体V
nに関連付けられる観測値の数であり、Nは観測値の総数である。
【0057】
数Kは、ノンパラメトリックモデルを定義するためにK=∞となるようにすることができる。そのため、
・観測値が既存の干渉体kに属する条件付き確率は、
【数54】
であり、
・観測値が新しい干渉体k’に属する条件付き確率は、
【数55】
であり、
事後確率は漸進的に更新され、干渉体の位置を推定する。
【数56】
【0058】
上述のアルゴリズムを実施するために、適切な基底分布G
0が、ギブスサンプリングの各ステップにおいて、事後確率の更新及び取出しを行うことができる必要がある。尤度
【数57】
に関して、これは列車位置T
nの関数である。尤度はこの形式
【数58】
で存在する。
【0059】
上記の尤度を用いて事後確率の更新又は取出しを理論的に行うために、G0を上記の尤度と共役させる提案は単純でない。
【0060】
問題を単純化するために、第1の実施形態は、位置θを離散値へと離散化し、この離散空間をΩθと呼ぶことができる。例えば、干渉体の位置の2D空間を考慮すると、θは、X軸及びY軸の両方において均一に離散化される。このグリッド内のθの各値は、確率に関連付けられる。
【0061】
各干渉体についての更新又は取出しは、Ω
θ内のθのあらゆる値について確率を以下のように調整することによって行われる。
-観測値を追加する場合は事後確率を更新する。
【数59】
-観測値を除去する場合は事後確率を取り出す。
【数60】
式中、qは、事後確率の合計を1にする正規化定数である。
【0062】
離散的な位置決定ではなく連続的な位置決定を考慮する第2の実施形態において、列車の位置の空間を分割して下位分割s=1,...,Sにすることが可能である。各下位分割は、中心C
sによって表される。事後確率の更新及び取出しを可能にするために、列車位置T
nが下位分割sにある場合、尤度
【数61】
は、T
nをC
sに置き換えることによって近似することができると述べることができる。その後、尤度は
【数62】
になり、C
s
iは、
【数63】
によって求められる。
【0063】
下位分割の中心が決定論的であるため、近似された尤度は、次式のように表すことができる。
【数64】
【0064】
基底分布G
0は、この場合、次式の形式で提案することができる。
【数65】
【0065】
最も単純な事例では、G
0は均一とすることができるため、任意のsについてw
s
0=0、h’
0=0、∀B
0であり、A
0は、G
0の合計を1にする正規化定数である。項
【数66】
は、次式のように展開することができる。
【数67】
式中、d=(log||θ-C
1||,...,log||θ-C
S||)、W
1=(w
1,...,w
S)
T*(w
1,...,w
S)、w
2=2*(w
1,...,w
S)*h’である。
【0066】
この論理では、事後確率は、近似された
【数68】
と同じ形式をとる。事後確率の更新及び取出しは、以下のように行うことができる。
更新:W
1
new=W
1
old+W
1、w
2
new=w
2
old+w
2、h’
(new)=h’
(old)+h’
取出し:W
1
new=W
1
old-W
1、w
2
new=w
2
old-w
2、h’
(new)=h’
(old)-h’
【0067】
図10は、上記に提示した方法を実施するデバイスを示す。本デバイスは、典型的には、プロセッサによって実行されると、上記に提示した方法を行うコンピュータプログラム命令のデータを含むデータを記憶するメモリMEMと、そのようなプロセッサPROCと、特に無線周波数測定値を受信するためのインターフェース通信COMとを含む処理回路を備える。
【0068】
本デバイスは、列車内に搭載することができ、干渉体を識別し、情報を遠方のサーバにフィードバックすることを担当することができる。他にも、無線周波数測定は、列車内に搭載されたモジュールによって行うことができ、そのような測定データは、例えば
図8の実施形態に提示した方法のステップを動作させる遠方のサーバに列車位置特定データとともに送信される。したがって、そのような方法を行うデバイスは、列車内に搭載することもできるし、代替的に、リモートサーバとすることもできる。
【0069】
本デバイスは、アルゴリズムのあらゆるステップについて、すなわち干渉体のデータが変化するたびに、情報をフィードバックする必要はない。代わりに、本デバイスが干渉体の任意のフィードバックを行うときを決定するように、メトリックを定義することができる。実際、各干渉体の位置の事後確率は、アルゴリズム中に漸進的に更新される。フィードバックを行う決定は、事後確率の進展を伴うべきである。事後確率が安定を維持すると、フィードバックを進めることができると述べることができる。フィードバック決定は、十分に小さい値に進展が至ると行われる。すなわち、
-考慮される干渉体の推定値が収束すると(ステップS10)、とるべきアクションは、
○事後確率をサーバにフィードバックすること、
○干渉体を干渉体分離のために考慮すること、
とすることができ、
-干渉体が列車の視界から外れたとき、干渉体に追加するべき観測値はもはや存在せず、とるべきアクションは、
○事後確率をサーバにフィードバックすること、
○干渉体を干渉体分離の考慮から外すこと、
とすることができる。
【0070】
離散化の事例では、事後確率は、実際、離散的な確率のグリッドとすることができる。Ωk
new及びΩk
oldをそれぞれ各更新(行う場合)の後及び前のこの確率のグリッドとして定義することによって、事後確率の進展は、その後、次式のように定義される。
ξ=||Ωk
new-Ωk
old||
【0071】
「連続的」な事例では、事後確率は連続関数によって近似される。Hk
new及びHk
oldを、それぞれ各更新(行う場合)の後及び前の干渉体kの近似事後確率として定義することによって、事後確率の進展は次式のように定義することができる。
ξ=∫|Hk
new(θk)-Hk
old(θk)|dθk