(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】ミシン
(51)【国際特許分類】
D05B 65/02 20060101AFI20240624BHJP
【FI】
D05B65/02 B
(21)【出願番号】P 2020012175
(22)【出願日】2020-01-29
【審査請求日】2023-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000002244
【氏名又は名称】株式会社ジャノメ
(74)【代理人】
【識別番号】100122426
【氏名又は名称】加藤 清志
(72)【発明者】
【氏名】白土 宏樹
【審査官】横山 綾子
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-024360(JP,A)
【文献】特開2001-347090(JP,A)
【文献】特開昭59-144483(JP,A)
【文献】特開平11-333175(JP,A)
【文献】特開平07-039669(JP,A)
【文献】特開昭52-074451(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D05B 65/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
針板の孔と回転釜との間における上糸及び下糸を切断する切断部材と、
前記針板の孔から前記切断部材までの前記上糸及び前記下糸の長さを調整する糸長さ調整機構と、を備え、
前記糸長さ調整機構は、
前記針板の孔と前記切断部材との間に配設され、前記上糸及び前記下糸を捕捉して移動可能とする調整メス部を含んで構成されてい
るミシン。
【請求項2】
前記針板の孔と前記調整メス部との間に配設され、前記調整メス部が移動する際に、前記上糸及び前記下糸をガイドするガイド部を備えている
請求項
1に記載のミシン。
【請求項3】
前記糸長さ調整機構は、
前記針板の孔に対して前記切断部材を相対移動させる移動機構を含んで構成されている
請求項1に記載のミシン。
【請求項4】
前記針板の孔と前記回転釜との間における前記上糸及び前記下糸を捕捉し、前記切断部材に対して相対移動する糸捕捉体を更に備えている
請求項1~請求項
3のいずれか1項に記載のミシン。
【請求項5】
前記糸長さ調整機構における前記上糸及び前記下糸の糸残量を設定する操作部と、
前記糸長さ調整機構を駆動する駆動源と、
前記操作部において設定された糸残量に基づいて、前記駆動源を駆動させる制御部と、
を更に備えている請求項1~請求項
4のいずれか1項に記載のミシン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、ミシンの糸切り装置が開示されている。この糸切り装置は、第1糸捕捉体と、切断刃と、第2糸捕捉体とを備えている。
第1糸捕捉体は、往復移動可能に支持され、上糸及び下糸を捕捉する。切断刃は、第1糸捕捉体が移動する軌跡よりも針孔側に外れた位置に配置されて固定されている。第2糸捕捉体は、第1糸捕捉体の復動途中において、第1糸捕捉体により捕捉された上糸及び下糸を切断刃と協働して切断する。
このように構成される糸切り装置では、針孔と切断刃との位置関係が固定され、加工布側に残る上糸及び下糸の糸残量を一定とし、かつ、短くすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば加工布としてキルト(quilt)を用いた縫製では、表地、裏地が共に作品であることから、糸端をそのままにせず、あえて縫製者が糸端に結び目を作り、この糸端をキルト地に入れ込む技法が知られている。このため、糸端に結び目が作れる程度に加工布側に長い糸残量が必要とされる。
しかしながら、上記糸切り装置では、糸残量が短く設定されているので、前例のキルトを用いた縫製には採用することが難しい。このため、加工布の種類や縫製方法に制約を受け難い糸切り装置を備えたミシンの開発が望まれていた。
本発明は、上記事実に鑑みてなされたものであり、加工布側の糸残量を任意量に調整することができるミシンを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1実施態様に係るミシンは、針板の孔と回転釜との間における上糸及び下糸を切断する切断部材と、針板の孔から切断部材までの上糸及び下糸の長さを調整する糸長さ調整機構と、を備え、糸長さ調整機構は、針板の孔と切断部材との間に配設され、上糸及び下糸を捕捉して移動可能とする調整メス部を含んで構成されている。
【0007】
本発明の第2実施態様に係るミシンは、第1実施態様に係るミシンにおいて、針板の孔と調整メス部との間に配設され、調整メス部が移動する際に、上糸及び下糸をガイドするガイド部を備えている。
【0008】
本発明の第3実施態様に係るミシンでは、第1実施態様に係るミシンにおいて、糸長さ調整機構は、針板の孔に対して切断部材を相対移動させる移動機構を含んで構成されている。
【0009】
本発明の第4実施態様に係るミシンは、第1実施態様~第3実施態様のいずれか1つに係るミシンにおいて、針板の孔と回転釜との間における上糸及び下糸を捕捉し、切断部材に対して相対移動する糸捕捉体を更に備えている。
【0010】
本発明の第5実施態様に係るミシンは、第1実施態様~第4実施態様のいずれか1つに係るミシンにおいて、糸長さ調整機構における上糸及び下糸の加工布側糸残量を設定する操作部と、糸長さ調整機構を駆動する駆動源と、操作部において設定された糸残量に基づいて、駆動源を駆動させる制御部と、を更に備えている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、加工布側の糸残量を任意量に調整することができるミシンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の第1実施の形態に係るミシンの外観を示す斜視図である。
【
図2】第1実施の形態に係るミシンの糸切り装置の斜視図である。
【
図3】(A)は
図2に示される糸切り装置を上方から見た平面図、(B)は
図2に示される糸切り装置をX軸方向から見た側面図、(C)は
図2に示される糸切り装置をY軸方向に見た正面図である。
【
図4】
図1に示されるミシンの一部の構成要素を含む、
図2及び
図3に示される糸切り装置の分解斜視図である。
【
図5】第1実施の形態に係るミシンの糸切り方法を説明する、第1工程における糸切り装置及びミシンの一部の構成要素を示す平面図である。
【
図6】糸切り方法の第2工程における糸切り装置及びミシンの一部を示す、
図5に対応する平面図である。
【
図7】糸切り方法の第3工程における糸切り装置及びミシンの一部を示す、
図5に対応する平面図である。
【
図8】糸切り方法の第4工程における糸切り装置及びミシンの一部を示す、
図5に対応する平面図である。
【
図9】糸切り方法の第5工程における糸切り装置及びミシンの一部を示す、
図5に対応する平面図である。
【
図10】糸切り方法の第6工程における糸切り装置及びミシンの一部を示す、
図5に対応する平面図である。
【
図11】糸切り方法の第7工程における糸切り装置及びミシンの一部を示す、
図5に対応する平面図である。
【
図12】上記第7工程における糸切り装置及びミシンの一部の構成要素を示す斜視図である。
【
図13】上記第7工程における糸切り装置及びミシンの一部の構成要素を
図12とは別角度から見た斜視図である。
【
図14】(A)は
図12及び
図13に示される糸切り装置のガイド部を示す拡大斜視図、(B)は
図14(A)に示されるガイド部をY軸方向に見た拡大正面図、(C)は
図14(A)に示されるガイド部をX軸方向に見た拡大側面図、(D)は
図14(A)に符号Dを付して示されるガイド部を更に拡大して示す要部拡大斜視図である。
【
図15】(A)は第1実施の形態の第1変形例に係るミシンの糸切り装置のガイド部を示す拡大斜視図、(B)は
図15(A)に示されるガイド部をY軸方向に見た拡大正面図、(C)は
図15(A)に示されるガイド部をX軸方向に見た拡大側面図、(D)は
図15(A)に符号Eを付して示されるガイド部を更に拡大して示す要部拡大斜視図である。
【
図16】(A)は第1実施の形態の第2変形例に係るミシンの糸切り装置のガイド部を示す拡大斜視図、(B)は
図16(A)に示されるガイド部をY軸方向に見た拡大正面図、(C)は
図16(A)に示されるガイド部をX軸方向に見た拡大側面図、(D)は
図16(A)に符号Fを付して示されるガイド部を更に拡大して示す要部拡大斜視図である。
【
図17】本発明の第2実施の形態に係るミシンの一部の構成要素及び糸切り装置を示す
図5に対応する平面図である。
【
図18】第2実施の形態に係るミシンの一部の構成要素及び糸切り装置の、糸捕捉状態を示す
図17に対応する平面図である。
【
図19】本発明の第3実施の形態に係るミシンに組み込まれた糸切り装置6の要部を拡大して示す要部拡大斜視図である。
【
図20】第3実施の形態に係るミシンの一部の構成要素及び糸切り装置の第1糸切断開始前(ホームポジション)の状態を示す
図5に対応する平面図である。
【
図21】
図20に示されるミシンの一部の構成要素及び糸切り装置の第1糸切断状態を示す平面図である。
【
図22】第3実施の形態に係るミシンの一部の構成要素及び糸切り装置の第2糸切り開始前(ホームポジション)の状態を示す
図20に対応する平面図である。
【
図23】
図22に示されるミシンの一部の構成要素及び糸切り装置の第2糸切断状態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態に係るミシンついて、図面を用いて説明する。
なお、図中、適宜示されている矢印Xは三次元座標系のX軸方向を示し、矢印YはY軸方向を示し、そして矢印ZはZ軸方向を示している。Y軸方向は水平面上においてX軸方向に対して直交し、Z軸方向はX軸方向及びY軸方向に対して直交している。これらの方向は、本実施の形態の説明を理解し易くするために便宜的に付された方向であって、本発明における方向を限定するものではない。
【0014】
[第1実施の形態]
図1~
図16を用いて、本発明の第1実施の形態に係るミシン、このミシンに組み込まれた糸切り装置、及び加工布側の糸長さを調整する糸長さ調整方法を含む糸切り方法ついて説明する。
【0015】
(ミシン1の全体構成)
図1に示されるように、ミシン1はミシン本体2を備えている。ミシン本体2は、ベッド21と、脚柱部22と、アーム部23とを含んで構成されている。
ベッド21は、縫製者から見て、矢印X方向である左右方向を長手方向とし、矢印Y方向である前後方向を短手方向とし、矢印Z方向である高さ方向を厚さ方向とする直方体形状に形成されている。ベッド21の上面は水平なベッド面(又は縫製作業面)21Aとされ、ベッド面21Aの左右方向中間部であって前後方向中間部には針板3が配設されている。
【0016】
脚柱部22は、ベッド21の右側端部から上方へ立設され、ベッド21と一体又は一体的に構成されている。
脚柱部22の前面には表示部25が配設されている。表示部25は例えば液晶ディスプレイにより構成され、ここでは液晶ディスプレイにはタッチパネルが組み込まれている。表示部25では、各種のメッセージが表示され、又縫製者により縫製に関する各種設定等の操作を行うことができる。つまり、本実施の形態では、表示部25は操作部としても使用可能な構成とされている。
【0017】
アーム部23は、脚柱部22の上部から左方向へ向かってベッド21に対向して延設され、脚柱部22に一体又は一体的に構成されている。
アーム部23の左右方向中間部であって縫製者側の前面には操作部24が配設されている。操作部24には、縫製開始停止ボタン、返し縫いボタン、止め縫いボタン、上下停針ボタン、糸切りボタン、押さえ上下移動ボタン、縫製速度調整ボタン等の各種の操作ボタン(又はスイッチ)が配置されている。
また、アーム部23の左側端部であって下部には縫製部26が配設されている。詳細な構成並びにその説明は省略するが、縫製部26は、ミシン針(縫い針)と、このミシン針が装着される針棒とを含んで構成されている。さらに、縫製部26には、縫製時に縫製対象物としての例えば加工布を針板3及びベッド面21Aに押さえ付ける押え板と、この押え板を支持する押え棒とが含まれている。
【0018】
図5には針板3の右側半分が平面視において示されている。針板3は、左側半分を図示していないが、上下方向を板厚方向とし、平面視において前面側が開口された逆U字形状に形成された金属製板材により構成されている。針板3の左右方向中間部及び前後方向中間部には、針板3を貫通する針孔(又は針穴)としての孔31が配設されている。
孔31の両側並びに前後には送り歯4が配設されている。送り歯4は、図示省略の送り機構に連動し、ミシン針の上下動に対応して前後方向及び上下方向に駆動して加工布を送る構成とされている。
【0019】
針板3の前面側の下部であって、ベッド21の内部には回転釜5が配設されている。回転釜5は、内釜51と図示省略の外釜とを含んで構成されている。内釜51には下糸S1が巻き回されたボビン52が収納されている。ボビン52は、内釜51の内部に回転自在に収納され、又内釜51の内部に着脱自在に収納されている。
【0020】
(糸切り装置6の構成)
図5に示されるように、針板3の下部であって、孔31及び送り歯4よりも左右方向左側には糸切り装置6が配設されている。つまり、糸切り装置6は、ベッド21の内部に配設され、縫製者から見て回転釜5の左側にこの回転釜5に隣接して配設されている。
図2、
図3(A)~
図3(C)、
図4及び
図5に示されるように、糸切り装置6は、第1糸捕捉体61と、第2糸捕捉体62と、切断部材63と、糸長さ調整機構64とを主要な構成要素として備えている。以下、糸切り装置6の各構成要素について、詳細に説明する。
【0021】
(1)糸切り装置6の支持筐体600の構成
糸切り装置6は第1糸捕捉体61等の主要な構成要素を支持する支持筐体600を備えている。支持筐体600は第1フレーム601及び第2フレーム602を含んで構成されている。
第1フレーム601は、上下方向を板厚方向とし、平面視において前面右側の角部が欠けた多角形状に形成された金属製又は樹脂製の板材により形成されている。第2フレーム602は、第1フレーム601と同様に、上下方向を板厚方向とし、平面視において、前面右側の角部が欠けた多角形状に形成された金属製又は樹脂製の板材により形成されている。
【0022】
第2フレーム602は、第1フレーム601の左側下面に上下方向を管軸方向とする管形状のスペーサ603を介して離間され、第1フレーム601に対して平行に配置されている。スペーサ603は、前後方向前側及び前後方向後側にそれぞれ配置され、合計2個配設されている。そして、第1フレーム601、第2フレーム602のそれぞれは、スペーサ603の内部を貫通する締結部材604を用いて締結されている。この締結部材604には例えば雄ねじを有するビス(又はねじ若しくはボルト)が使用されている。第2フレーム602の締結部材604に対応する位置には、符号省略の雌ねじを有する孔が形成されている。
【0023】
(2)第1糸捕捉体61、第1駆動機構65及び第1駆動源66の構成
第1糸捕捉体61は、左右方向を長手方向として延設される糸捕捉体本体610を備えている。糸捕捉体本体610では、Y軸-Z軸平面に対して平行な平面により仮に切断されたときの断面形状が、下方が開放された逆U字形状に形成されている。糸捕捉体本体610の左側端部には、背面側に突出され、上下方向を板厚方向とする板状のスライド部612が一体又は一体的に構成されている。スライド部612には、左側に第1ピン613Aが貫通して設けられ、第1ピン613Aよりも右側に第2ピン613Bが貫通して設けられている。
【0024】
図2及び
図4に示されるように、糸捕捉体本体610の右側端部には糸捕捉部611が糸捕捉体本体610に一体又は一体的に構成されている。糸捕捉部611は、縫製者から見て、糸捕捉体本体610の右側端部が下方側及び左側へ折れ曲がった鉤形状に形成されている。
この糸捕捉部611は、
図5に示される針板3の孔31と回転釜5との間において、左右方向であって矢印A方向(
図4参照)へ往復移動し、
図8に示されるように上糸S2及び下糸S1を引っ掛けて左側へ引き寄せる構成とされている。つまり、糸捕捉部611は上糸S2及び下糸S1を捕捉する構成とされている。
【0025】
図4に示されるように、第1糸捕捉体61は、第1駆動機構65に連結され、この第1駆動機構65を用いて往復移動する構成とされている。第1駆動機構65には第1駆動源66が連結され、第1駆動源66の駆動力が第1駆動機構65を介して第1糸捕捉体61を往復移動させる。第1駆動機構65は、第1スライドガイド651と、第1駆動レバー654と、第1従動歯車655と、駆動ピン656と、弾性体657とを主要な構成要素として備えている。
【0026】
第1スライドガイド651は、上下方向を板厚方向とし、左右方向を長手方向とし、前後方向を短手方向とする板状に形成されている。第1スライドガイド651は、第1フレーム601上に重ねて配置され、符号省略の締結手段を用いて第1フレーム601に組み付けられている。締結手段には例えばビスが使用されている。
第1スライドガイド651には、この第1スライドガイド651を上下方向に貫通し、左右方向に延設されるガイド溝652が配設されている。ガイド溝652は、縫製者から見て、左端から右側へ延設された基端溝652Aと、基端溝652Aの右端から右側及び背面側へ斜めに延設された揺動溝652Bと、揺動溝652Bの右端から右側へ延設された捕捉溝652Cとを連結して構成されている。捕捉溝652Cは基端溝652Aに対して平行に延設されている。
平面視において、ガイド溝652に対応する位置において、第1フレーム601には、ガイド溝652と同一の形状に形成されたガイド溝653が配設されている。すなわち、ガイド溝653は、基端溝653Aと、揺動溝653Bと、捕捉溝653Cとを連結して構成されている。基端溝653Aは、基端溝652Aに対応する位置に配設され、基端溝652Aと同一の形状に形成されている。揺動溝653Bは、揺動溝652Bに対応する位置に配設され、揺動溝652Bと同一の形状に形成されている。捕捉溝653Cは、捕捉溝652Cに対応する位置に配設され、捕捉溝652Cと同一の形状に形成されている。ガイド溝653は第1駆動機構65を構築する構成要素とされている。
【0027】
第1スライドガイド651のガイド溝652及び第1フレーム601のガイド溝653には、第1糸捕捉体61の第1ピン613A及び第2ピン613Bが貫通して取り付けられる構成とされている。つまり、第1ピン613A及び第2ピン613Bはガイド溝652及びガイド溝653に沿って移動可能とされ、第1糸捕捉体61はガイド溝652及びガイド溝653の形状に沿って左右方向へ往復移動する構成とされている。
【0028】
第1駆動レバー654は、前面側に配設された回転部654Aと、回転部654Aに一体に構成され、背面側へ延設されたレバー部654Bとを含んで構成されている。回転部654Aは、上下方向を厚さ方向とする上板と、上板の下方に平行に配設された下板と、上板の左端と下板の左端とを繋ぐ側板とを備え、縫製者から見て、右側が開放されたC字形状に形成されている。回転部654Aの上板、下板のそれぞれには、上下方向に貫通された回転軸穴654Cが配設されている。
回転軸穴654Cには上下方向を軸方向とする回転軸602Aが挿入されている。回転軸602Aの下端は第2フレーム602の上面に取り付けられて固定されている。回転部654Aは、回転軸602Aに回転自在に取り付けられている。
【0029】
レバー部654Bは回転部654Aの上板に一体に構成された板状とされている。このレバー部654Bには、上下方向へ貫通して前面側に配設された駆動溝654Dと、ここでは駆動溝654Dに連結され、上下方向へ貫通して背面側に配設された従動溝654Eとが配設されている。駆動溝654Dには、第1従動歯車655の中心から径方向外側へずれた位置に取り付けられた駆動ピン656が挿入されている。一方、従動溝654Eには、第1糸捕捉体61の第1ピン613Aが挿入されている。
第1従動歯車655が仮に平面視において時計回りに回転すると、駆動ピン656が同一の方向へ回転する。駆動ピン656の回転により、第1駆動レバー654が時計回りに回転するので、従動溝654Eに沿って第1ピン613Aが左側から右方向へ移動する。これにより、第1糸捕捉体61は左側から右方向へ移動(往移動。
図6参照)する。
一方、第1従動歯車655が逆に反時計回りに回転すると、駆動ピン656が同一の方向へ逆回転する。駆動ピン656の逆回転により、第1駆動レバー654が反時計回りに回転するので、従動溝654Eに沿って第1ピン613Aが右側から左方向へ移動する。これにより、第1糸捕捉体61は右側から左方向へ移動(復移動。
図5参照)する。
【0030】
第1従動歯車655の符号省略の回転軸穴には上下方向を軸方向とする回転軸602Bが挿入されている。回転軸602Bの下端は第2フレーム602の上面に取り付けられて固定されている。つまり、第1従動歯車655は回転軸602Bに回転自在に取り付けられている。
【0031】
第2フレーム602の下面には第1駆動源66が配設されている。第1駆動源66は、本実施の形態において、ステッピングモータ661を含んで構成されている。ステッピングモータ661は、その回転軸662の軸方向を上下方向として第2フレーム602に取り付けられて固定されている。回転軸662には駆動歯車663が取り付けられている。回転軸662及び駆動歯車663は第2フレーム602に貫通して配設された連結穴602Dを通して第2フレーム602の上面側へ突出され、駆動歯車663は第1従動歯車655に歯合する構成とされている。
ステッピングモータ661は、
図1に示されるミシン1の全体の動作制御を司る制御部27、又は図示省略のモータドライバを介して制御部27に接続されている。ステッピングモータ661の回転は制御部27からの指令に基づいて制御されている。また、制御部27は、前述の操作部24、表示部25等に共通バスを介して相互に接続されている。
【0032】
第1駆動レバー654の回軸中心となる回転軸602Aの軸方向中間部には、回転部654Aの上板と下板との間に挟まれて、弾性体657が配設されている。弾性体657として、ここではねじりコイルばねが使用されている。弾性体657の一端部は第2フレーム602に係止され、他端部は第1駆動レバー654に係止され、弾性体657は、常時、第1駆動レバー654を反時計回りに回転させる方向に付勢している。
【0033】
(3)第2糸捕捉体62及び第2駆動機構67の構成
図4及び
図5に示されるように、第2糸捕捉体62は前後方向を長手方向として延設される糸捕捉体本体620を備えている。ここで、長手方向に延設される糸捕捉体本体620は、
図6に示されるX軸に一致して長手方向に延設される第1糸捕捉体61の糸捕捉体本体610に対して、平面視における時計回りにおいて、60度~90度の角度を持って配設されている。ここでは、糸捕捉体本体620は、糸捕捉体本体610に対して、65度~68度の角度を持って配設されている。糸捕捉体本体610と同様に、糸捕捉体本体620では、X軸-Z軸平面に対して平行な平面により仮に切断されたときの断面形状が、下方に開放された逆U字形状に形成されている。
図4~
図6に示されるように、糸捕捉体本体620の背面側端部には、左側に突出され、上下方向を板厚方向とする板状のスライド部622が一体又は一体的に構成されている。スライド部622には、背面側に第1ピン623Aが貫通して設けられ、第1ピン623Aよりも前面側に第2ピン623Bが貫通して設けられている。
【0034】
糸捕捉体本体620の前面側端部には糸捕捉部621が糸捕捉体本体620に一体又は一体的に構成されている。糸捕捉部621は、糸捕捉部611と同様に、糸捕捉体本体620の前面側端部が下方側及び背面側へ折れ曲がった鉤形状に形成されている。
この糸捕捉部621は、
図5に示される針板3の孔31と回転釜5との間において、前後方向であって矢印B方向(
図4参照)へ往復移動し、
図7に示されるように上糸S2及び下糸S1を引っ掛けて背面側へ引き寄せ捕捉する構成とされている。
さらに、第2糸捕捉体62は、糸捕捉部621を用いて上糸S2及び下糸S1を捕捉した後、復移動のときに切断部材63と協働して上糸S2及び下糸S1を切断する構成とされている。
【0035】
図4に示されるように、第2糸捕捉体62は、第2駆動機構67に連結され、この第2駆動機構67を用いて往復移動する構成とされている。第2駆動機構67には第1駆動源66が連結され、第1駆動源66の駆動力が第2駆動機構67を介して第2糸捕捉体62を往復移動させる。本実施の形態に係るミシン1では、糸切り装置6は、1つの第1駆動源66を用いて、2つの第1駆動機構65及び第2駆動機構67を駆動し、2つの第1糸捕捉体61及び第2糸捕捉体62を移動させる構成とされている。第2駆動機構67は、第1駆動機構65と同一の第1スライドガイド651と、第2駆動レバー674と、第2従動歯車675と、従動ピン676と、弾性体677とを主要な構成要素として備えている。
【0036】
第1スライドガイド651には、ガイド溝652が配設された位置よりも右側の位置に、ガイド溝652とは別の構成要素として、ガイド溝672が配設されている。ガイド溝672は、第1スライドガイド651を上下方向に貫通し、左右方向を幅方向とし、一定の幅寸法を持って前後方向に延設されている。つまり、ガイド溝672の延設方向は、ガイド溝652の延設方向に対して交差し、ここでは前述の通り60度~90度の角度を持って交差している。
平面視において、ガイド溝672に対応する位置において、第1フレーム601には、ガイド溝672と同一の形状に形成されたガイド溝673が配設されている。ガイド溝673は、第1フレーム601を上下方向に貫通し、一定の幅寸法を持って前後方向に延設されている。ガイド溝673は第2駆動機構67を構成する構成要素とされている。
【0037】
第1スライドガイド651のガイド溝672及び第1フレーム601のガイド溝673には、第2糸捕捉体62の第1ピン623A及び第2ピン623Bが貫通して取り付けられる構成とされている。つまり、第1ピン623A及び第2ピン623Bはガイド溝672及びガイド溝673に沿って移動可能とされ、第2糸捕捉体62はガイド溝672及びガイド溝673の形状に沿って前後方向へ往復移動する構成とされている。
【0038】
第2駆動レバー674は、回転部674Aと、回転部674Aに一体に構成されて左右方向右側へ延設されたレバー部674Bと、回転部674Aに一体に構成されて左右方向左側へ延設された延設部674Dとを含んで構成されている。回転部674Aは、上下方向を厚さ方向とする上板と、上板の下方に平行に配設された下板と、上板の前面と下板の前面とを繋ぐ側板とを備え、X軸方向(側面方向)から見て、背面側が開放されたC字形状に形成されている。回転部674Aの上板、下板のそれぞれには、上下方向に貫通された回転軸穴674Cが配設されている。
回転軸穴674Cには上下方向を軸方向とする回転軸601A(
図3(C)及び
図4参照)が挿入されている。回転軸601Aの上端は第1フレーム601の下面に取り付けられて固定されている。つまり、回転部674Aは回転軸601Aに回転自在に取り付けられている。
【0039】
レバー部674Bは、回転部674Aの上板に一体に構成され、回転部674Aから右側へ延設された板状に形成されている。レバー部674Bには、上下方向に貫通して左右方向へ延設された駆動溝674Eが配設されている。駆動溝674Eには、第2糸捕捉体62の第1ピン623Aがガイド溝672及びガイド溝673を通して挿入されている。
延設部674Dは、回転部674Aの下板に一体に構成され、上下方向を板厚方向とする板状に形成されている。延設部674Dの延設方向先端部の下面には、下方向へ突出された従動ピン676が配設されている。
【0040】
従動ピン676は第2従動歯車675に配設されたガイド部675Aに挿入されている。ガイド部675Aは、第2従動歯車675の周縁に沿って平面視において時計回りに一定の幅寸法を持って形成された部位と、この部位の端部において径方向中心側へ一定の幅寸法を持って折れ曲がる部位とを有する。平面視において、ガイド部675Aは、第2従動歯車675の回転中心側が解放された略V字形状に形成されている。従動ピン676はガイド部675Aに沿って移動する構成とされている。
【0041】
第2従動歯車675が仮に平面視において時計回りに回転すると、ガイド部675Aに沿って従動ピン676は第2従動歯車675の径方向周辺側へ移動する。従動ピン676が径方向周辺側へ移動すると、第2駆動レバー674のレバー部674Bは回転軸601Aを中心として時計回りに回転し、ガイド溝672及びガイド溝673に沿って第1ピン623Aが前面側へ移動する。これにより、第2糸捕捉体62の糸捕捉部621は背面側から前面側へ移動(往移動。
図6参照。)する。
第2従動歯車675が仮に平面視において反時計回りに回転すると、ガイド部675Aに沿って従動ピン676は第2従動歯車675の径方向中心側へ移動する。従動ピン676が径方向中心側へ移動すると、第2駆動レバー674のレバー部674Bは回転軸601Aを中心として反時計回りに回転し、ガイド溝672及びガイド溝673に沿って第1ピン623Aが背面側へ移動する。これにより、第2糸捕捉体62は前面側から背面側へ移動(復移動。
図5参照)する。
【0042】
第2従動歯車675の符号省略の回転軸穴には上下方向を軸方向とする回転軸602Cが挿入されている。回転軸602Cの下端は第2フレーム602の上面に取り付けられて固定されている。第2従動歯車675は回転軸602Cに回転自在に取り付けられている。
そして、第2従動歯車675は、第1駆動源66の駆動歯車663に歯合される構成とされている。
【0043】
第2駆動レバー674の回軸中心となる回転軸601Aの軸方向中間部には、回転部674Aの上板と下板との間に挟まれて、弾性体677が配設されている。弾性体677には、弾性体657と同様に、ここではねじりコイルばねが使用されている。弾性体677の一端部は第1フレーム601に係止され、他端部は第2駆動レバー674に係止され、弾性体677は、常時、第2駆動レバー674を反時計回りに回転させる方向に付勢している。
【0044】
(4)第2スライドガイド630の構成
図2、
図3(A)~
図3(C)、
図4及び
図5に示されるように、第1スライドガイド651の右側端部には、第2スライドガイド630が配設されている。第2スライドガイド630は、背面側に位置する第2糸捕捉体62の糸捕捉体本体620及び切断部材63を覆う位置に配置されている。第2スライドガイド630は、符号を省略するが、上板と2枚の縦板とを含んで構成されている。上板は、上下方向を板厚方向とし、平面視において略矩形状に形成されている。2枚の縦板は、上板に一体又は一体的に構成され、上板の下面から下方に向かって突出されると共に、第2糸捕捉体62の糸捕捉体本体620の左右両側に沿ってそれぞれ前後方向に延設されている。
第2スライドガイド630では上板の左側端部に上下方向を板厚方向とする板状の取付部630Aが一体に構成され、この取付部630Aには上下方向に貫通する取付穴(符号省略)が設けられている。第2スライドガイド630は、取付部630Aの取付穴に締結部材631を通し、締結部材631を用いて第1スライドガイド651に締結されている。締結部材631には、例えばビス、ねじ又はボルトが使用されている。
【0045】
第2スライドガイド630は、第2糸捕捉体62の前後方向の往復移動をガイドする構成とされている。また、第2スライドガイド630は、切断部材63を覆う構成とされ、例えば縫製者に対する縫製作業上の安全性を向上している。
なお、第2スライドガイド630は、後述する糸長さ調整機構64の第3糸捕捉体640の糸捕捉体本体641も覆う構成とされ、第3糸捕捉体640の前後方向の往復移動をガイドする構成ともされている。
【0046】
(5)切断部材63の構成
図4に示されるように、切断部材63は、第1スライドガイド651の右側端とガイド溝672との中間部に、ガイド溝672の延設方向に沿って取り付けられている。切断部材63の高さ方向における取付位置は、
図5に示される針板3の孔31と回転釜5との間に設定されている。
【0047】
さらに、切断部材63は、第2糸捕捉体62の復移動の経路中において、糸捕捉体本体620の逆U字形状に形成された断面の内側に位置する構成とされている。これにより、切断部材63では、第2糸捕捉体62の復移動中に、第2糸捕捉体62の糸捕捉部621を用いて捕捉された下糸S1及び上糸S2を第2糸捕捉体62と協働して切断することができる。なお、切断部材63は着脱可能とされている。
【0048】
(6)糸長さ調整機構64の構成
図2、
図3(A)~
図3(C)、
図4及び
図5に示されるように、糸長さ調整機構64は、第3糸捕捉体640と、第3駆動機構68と、第2駆動源69とを主要な構成要素として備えている。
【0049】
第3糸捕捉体640は、前後方向を長手方向として延設される糸捕捉体本体641を備えている。糸捕捉体本体641は、縫製者から見て、第2糸捕捉体62の糸捕捉体本体620の左右方向右側であって、糸捕捉体本体620又は切断部材63と針板3の孔31との間に配設されている。本実施の形態では、糸捕捉体本体641は糸捕捉体本体620に対して適度なクリアランスを持って平行に配置され、糸捕捉体本体641の往復移動の軌跡は糸捕捉体本体620の往復移動の軌跡に対して平行に設定されている。糸捕捉体本体641では、特に断面形状が限定されるものではないが、X軸-Z軸平面に対して平行な平面により仮に切断されたときの断面形状が、中空の矩形状に形成されている。糸捕捉体本体641の背面側上面には上方向へ突出するピン643が配設されている。
【0050】
図4及び
図5に示されるように、糸捕捉体本体641の前面側端部には糸捕捉部としての調整メス部642が糸捕捉体本体641に一体又は一体的に構成されている。調整メス部642は、針板3の孔31と切断部材63との間に配設され、糸捕捉体本体641から突出する前面側端部が下方側及び背面側へ折れ曲がった鉤形状に形成されている。
調整メス部642は、
図5に示される針板3の孔31と回転釜5との間において、前後方向であって矢印C方向(
図4参照)へ往復移動し、
図10に示されるように、上糸S2及び下糸S1を引っ掛けて上糸S2及び下糸S1を捕捉する。そして、調整メス部642は、
図11に示されるように、上糸S2及び下糸S1を前面側から背面側へ引き寄せる構成とされている。
【0051】
詳しく説明すると、調整メス部642は、針板3の孔31と切断部材63とを結ぶ仮想線L(
図11~
図13参照)に対して交差する方向、ここでは空きスペースとなる背面側へ水平方向に切断前の上糸S2及び下糸S1を捕捉して引き寄せる。空きスペースがあれば、上糸S2及び下糸S1は、下側方向、下前面側斜め方向、下背面側斜め方向のいずれかの方向へ捕捉して引き寄せてもよい。上糸S2及び下糸S1の引き寄せにより、針板3の孔31から切断部材63までの、図示省略の加工布側の上糸S2及び下糸S1の糸残量を任意量に調整することができる。つまり、調整メス部642の移動量に応じて、加工布側に残す上糸S2及び下糸S1の長さが、1つの固定値の長さだけでなく、2以上の複数種類の長さに調整可能とされている。
例えば、糸長さ調整機構64では、10mm、15mm、20mm、…といった一定の単位長さ(この例示における単位長さは5mmである。)毎に上糸S2及び下糸S1の糸残量を調整することができる。
また、糸長さ調整機構64は、例えば10mm~30mmの範囲内において任意の長さに糸残量を調整する構成としてもよい。例えば、糸残量は、12mm、15mm、17mm等の任意の長さに調整可能である。
【0052】
図4に示されるように、第3糸捕捉体640の糸捕捉体本体641は、第3駆動機構68に連結され、この第3駆動機構68を用いて往復移動する構成とされている。第3駆動機構68には第2駆動源69が連結され、第2駆動源69の駆動力が第3駆動機構68を介して第3糸捕捉体640を往復移動させる。第3駆動機構68は、第3駆動レバー684を主要な構成要素として備えている。
【0053】
第3駆動レバー684は、
図2、
図3(A)、
図4及び
図5に示されるように、回転部684Aと、レバー部684Bと、延設部684Dとを含んで構成されている。
回転部684Aには上下方向へ貫通する符号省略の回転軸穴が配設されている。この回転軸穴には、第1フレーム601の上面に配設され、上下方向を軸方向とする回転軸601Bが挿入されている。回転部684Aは回転軸601Bに回転自在に組み付けられている。
レバー部684Bは、回転部684Aに一体又は一体的に構成されて左右方向右側、かつ、背面側へ延設され、上下方向を厚さ方向とする板状に形成されている。レバー部684Bの延設方向中間部は上方側へ段差を持つ形状に形成され、レバー部684Bの延設方向先端部が第3糸捕捉体640の糸捕捉体本体641の上面に重複してスライドする構成とされている。レバー部684Bの延設方向先端部には、上下方向に貫通し、延設方向を溝長方向とするガイド溝684Cが配設されている。このガイド溝684Cには、糸捕捉体本体641の背面側に突出して設けられたピン643が挿入されている。
延設部684Dは、回転部684Aに一体又は一体的に構成されて左右方向左側へ延設されている。延設部684Dは、上下方向を厚さ方向とし、回転部684Aから左側へ延設されるに従って末広がりとなる、平面視において扇形状に形成されている。延設部684Dの扇形状の円弧に相当する部位には歯684Eが刻まれている。
【0054】
第2駆動源69は第1フレーム601の下面に配設されている。第2駆動源69は、第1駆動源66に対して別の駆動源として組み付けられ、例えば第1駆動源66と同様にステッピングモータ691を含んで構成されている。
ステッピングモータ691は、その回転軸692の軸方向を上下方向として第1フレーム601に取り付けられて固定されている。回転軸692には駆動歯車693が取り付けられている。回転軸692及び駆動歯車693は第1フレーム601に貫通して配設された連結穴601Cを通して第1フレーム601の表面側へ突出され、駆動歯車693は第3駆動レバー684の延設部684Dに形成された歯684Eに歯合する構成とされている。
ステッピングモータ691は、ステッピングモータ661と同様に、制御部27、又は図示省略のモータドライバを介して制御部27に接続されている。ステッピングモータ691の回転は制御部27からの指令に基づいて制御されている。また、制御部27は、前述の操作部24、表示部25等に共通バスを介して相互に接続されている。
【0055】
(7)ガイド部43の構成
本実施の形態に係るミシン1では、
図12及び
図13に示されるように、糸長さ調整機構64による上糸S2及び下糸S1の長さの調整の際に、上糸S2及び下糸S1をガイドするガイド部43が配設されている。詳しく説明する。
【0056】
ガイド部43は、針板3の孔31と糸長さ調整機構64の調整メス部642との間において、
図14(A)~
図14(D)に示されるように、本実施の形態では送り歯4に配設されている。送り歯4は、送り歯本体41と、この送り歯本体41の上面に配設された歯部42とを含んで構成されている。ガイド部43は、送り歯本体41の下部であって、前後方向中間部の左側に形成された段差部位により構成されている。段差部位は、送り歯本体41の下面の前面側に比し、送り歯本体41の下面の背面側を下方側に低くした、前面側と背面側との境界位置に形成されている。段差部位の面はここでは垂直に設定されている。
図12及び
図13に示されるように、ガイド部43では、調整メス部642により上糸S2及び下糸S1を捕捉して復移動する際に、上糸S2及び下糸S1を引っ掛けてガイドすることができる。
【0057】
(糸長さ調整方法を含む糸切り方法)
図2~
図4を参照しつつ、
図5~
図12を用いて、本実施の形態に係るミシン1の糸切り装置6による糸切り方法及び糸長さ調整方法について説明する。
【0058】
(1)糸長さ調整機構64を用いない糸切り方法
最初に、糸長さ調整機構64を用いない、糸切り装置6の通常の糸切り方法について説明する。
図5に示されるように、糸切り装置6では、上糸S2及び下糸S1を切断する前であって、第1糸捕捉体61、第2糸捕捉体62、更に糸長さ調整機構64の第3糸捕捉体640が、ホームポジションに位置する状態にある。
【0059】
つまり、第1糸捕捉体61では、
図4に示されるスライド部612の第1ピン613Aが、ガイド溝652の左右方向左側に形成された基端溝652A及びガイド溝653の基端溝653Aに位置している。この状態において、第2ピン613Bは捕捉溝652C及び捕捉溝653Cの最も左側に位置している。これにより、スライド部612はガイド溝652及びガイド溝653の左端に位置しているので、第1糸捕捉体61の糸捕捉体本体610及び糸捕捉部611は左側に位置している。
第2糸捕捉体62では、スライド部622の第1ピン623Aがガイド溝672及びガイド溝673の背面側に位置し、第2ピン623Bはガイド溝672及びガイド溝673の背面側に位置している。これにより、スライド部622はガイド溝672及びガイド溝673の背面端に位置しているので、第2糸捕捉体62の糸捕捉体本体620及び糸捕捉部621は背面側に位置している。
第3糸捕捉体640では、第3駆動機構68の第3駆動レバー684のレバー部684Bが背面端に位置している。レバー部684Bのガイド溝684Cは第3糸捕捉体640の糸捕捉体本体641の背面側に配設されたピン643に連結されているので、糸捕捉体本体641及び調整メス部642は背面側に位置している。
【0060】
図6に示されるように、第1糸捕捉体61が最も右端まで往移動し、第1糸捕捉体61の糸捕捉部611が最も右端まで移動して、上糸S2(図示省略)及び下糸S1の捕捉が開始される。このとき、第2糸捕捉体62は、上糸S2及び下糸S1を捕捉できる位置まで往移動している。
【0061】
図4に示されるように、第1糸捕捉体61は第1駆動機構65を介して第1駆動源66により移動する。詳しく説明すると、第1糸捕捉体61のスライド部612に配設された第1ピン613A及び第2ピン613Bは、第1スライドガイド651のガイド溝652及び第1フレーム601のガイド溝653に沿って左右方向へ移動する。第1ピン613Aは第1駆動レバー654の従動溝654Eに連結され、回転部654Aを中心とする第1駆動レバー654の回転により第1糸捕捉体61に駆動力が伝達される。第1駆動レバー654の駆動溝654Dには第1従動歯車655に組み付けられた駆動ピン656が挿入され、第1従動歯車655の回転により駆動ピン656を介して第1駆動レバー654に駆動力が伝達される。第1従動歯車655は第1駆動源66のステッピングモータ661の回転軸662に取り付けられた駆動歯車663に歯合され、第1駆動源66の回転力が第1従動歯車655に伝達される。第1駆動源66は、操作部24において糸切り操作がなされたときに、制御部27を介して制御される。
【0062】
一方、第2糸捕捉体62は、第2駆動機構67を介して第1駆動源66により、第1糸捕捉体61と連動(同期)して移動する。詳しく説明すると、第2糸捕捉体62のスライド部622に配設された第1ピン623A及び第2ピン623Bは、第1スライドガイド651のガイド溝672及び第1フレーム601のガイド溝673に沿って前後方向へ移動する。第1ピン623Aは第2駆動レバー674の駆動溝674Eに連結され、回転部674Aを中心とする第2駆動レバー674の回転により第2糸捕捉体62に駆動力が伝達される。第2駆動レバー674の延設部674Dには従動ピン676が組み付けられ、従動ピン676は第2従動歯車675のガイド部675Aに挿入されている。つまり、第2従動歯車675が回転すると、ガイド部675Aに沿ってガイドされる従動ピン676の移動により第2駆動レバー674に駆動力が伝達される。第2従動歯車675は第1駆動源66の駆動歯車663に歯合され、第1駆動源66の回転力が第2従動歯車675に伝達される。
【0063】
図7に示されるように、第1糸捕捉体61の糸捕捉部611が最も右側から左側の捕捉位置へ復移動し、糸捕捉部611が回転釜5の内釜51を巡る途中において上糸S2を捕捉する。このとき、糸捕捉部611は下糸S1も捕捉する。
【0064】
図8に示されるように、第1糸捕捉体61の糸捕捉部611が捕捉位置から更に左側へ復移動する。この復移動により、
図4に示される第1ピン613Aがガイド溝652の捕捉溝652C、揺動溝652B、基端溝652Aのそれぞれに沿って、更にガイド溝653の捕捉溝653C、揺動溝653B、基端溝653Aのそれぞれに沿って右側から左側へ移動する。一方、第2ピン613Bはガイド溝652の捕捉溝652C、ガイド溝653の捕捉溝653Cに沿って右側から左側へ移動する。
これにより、スライド部612では第2ピン613Bを中心として第1ピン613Aが前面側へ移動するので、糸捕捉体本体610が反時計回りに回転し、糸捕捉部611は第2糸捕捉体62側へ揺動する。この揺動によって、糸捕捉部611は第2糸捕捉体62の糸捕捉部621に上糸S2及び下糸S1を捕捉させる。
【0065】
図9に示されるように、第1糸捕捉体61の糸捕捉部611及び第2糸捕捉体62の糸捕捉部621が上糸S2及び下糸S1を捕捉した状態において、第2糸捕捉体62が復移動を開始する。この復移動により、第2糸捕捉体62の糸捕捉体本体620及び糸捕捉部621が前面側から背面側へ移動し、このとき切断部材63と協働して上糸S2及び下糸S1が切断される。つまり、糸捕捉部621により捕捉された上糸S2及び下糸S1は、切断部材63の刃先に至るまで運ばれ、この刃先を横切るときに切断される。
【0066】
この後、前述の
図5に示されるホームポジションに第1糸捕捉体61及び第2糸捕捉体62が戻り、糸切り装置6における糸切り方法が終了する。
図5~
図9に示される糸切り方法では、針板3の孔31と切断部材63との間の長さが固定されているので、図示省略の加工布側の上糸S2及び下糸S1の糸残量(長さ)は最も短い長さ、例えば10mmに設定される。
【0067】
(2)糸長さ調整機構64を用いる糸長さ調整方法
次に、糸切り装置6に備える糸長さ調整機構64を用いた糸長さ調整方法について説明する。まず、糸切り装置6の作動前に、
図1及び
図4に示される操作部24において、加工布側の糸残量が任意量に設定される。ここでは、例えば30mmに設定される。設定された糸残量の任意量は、例えば数値として表示部25に表示される。
【0068】
図4に示される制御部27を介して糸切り装置6が作動されると、前述の
図5~
図8に示される糸切り方法と同様に、第1糸捕捉体61の糸捕捉部611及び第2糸捕捉体62の糸捕捉部621に上糸S2及び下糸S1が捕捉される。
【0069】
操作部24において設定された糸残量に基づいて、制御部27により第2駆動源69が駆動され、第2駆動源69から第3駆動機構68を介して糸長さ調整機構64が作動される(
図4参照)。詳しく説明すると、
図2、
図3(A)、
図4及び
図10に示される第2駆動源69の駆動歯車693が平面視において反時計回りに回転し、第3駆動機構68の第3駆動レバー684が回転部684Aを中心として時計回りに回転する。この回転により、
図10に示されるように、レバー部684Bは第3糸捕捉体640の糸捕捉体本体641及び調整メス部642を背面側から最も前面側の捕捉位置まで往移動させる。
なお、調整メス部642は第2糸捕捉体62の糸捕捉部621の往移動と同一のタイミングにおいて往移動を開始し、第1糸捕捉体61の糸捕捉部611の復移動が開始される前に調整メス部642の往移動が終了している。
【0070】
図11~
図13に示されるように、第1糸捕捉体61及び第2糸捕捉体62の移動が停止されている状態において、予め設定された糸残量に到達するまで第3糸捕捉体640の調整メス部642を復移動させる。復移動の開始直後に調整メス部642は、糸捕捉部611及び糸捕捉部621に捕捉された状態にある上糸S2及び下糸S1を捕捉する。そして、捕捉状態にある上糸S2及び下糸S1は、調整メス部642の復移動により、針板3の孔31と切断部材63との間において、予め設定された糸残量に到達するまで、捕捉位置から背面側へ引き寄せられる。
【0071】
図12及び
図13では、上糸S2の図示を省略し、下糸S1だけを図示し、調整メス部642の復移動に伴う糸の長さの調整量をわかり易く示している。また、
図13では、糸長さ調整機構64を作動させる前の下糸S1に符号S11が付され、糸長さ調整機構64を作動させた後の下糸S1に符号S12が付されている。
【0072】
図12、
図13及び
図14(A)~
図14(D)に示されるように、糸長さ調整機構64を用いた糸残量の調整には、針板3の孔31と調整メス部642との間において送り歯4の下部に配設されたガイド部43が使用されている。ガイド部43は、調整メス部642が上糸S2及び下糸S1を捕捉し背面側へ復移動するときに、前後方向において針板3の孔31と同等の位置に上糸S2及び下糸S1を止めつつガイドする。このため、孔31、ガイド部43及び調整メス部642を結ぶ糸送り経路が、孔31と調整メス部642とを直接結ぶ糸送り経路に比し長くなる。つまり、糸残量を同一長さとする場合、ガイド部43を備えることにより、調整メス部642の移動量を小さくすることができる。
【0073】
引き続き、第2糸捕捉体62が復移動を開始する(
図9参照)。このとき、第1糸捕捉体61の糸捕捉部611及び第2糸捕捉体62の糸捕捉部621は上糸S2及び下糸S1を捕捉した状態であって、更に糸長さ調整機構64の調整メス部642が糸残量を調整して上糸S2及び下糸S1を捕捉した状態にある。第2糸捕捉体62の復移動により、第2糸捕捉体62の糸捕捉体本体620及び糸捕捉部621が前面側から背面側へ移動し、このとき切断部材63と協働して上糸S2及び下糸S1が切断される。つまり、加工布側の上糸S2及び下糸S1の糸残量が、糸長さ調整機構64によって調整される。
【0074】
この後、前述の
図5に示されるホームポジションに第1糸捕捉体61、第2糸捕捉体62及び糸長さ調整機構64の第3糸捕捉体640が戻り、糸切り装置6における糸長さ調整方法が終了する。
上記の通り、糸切り装置6の糸長さ調整機構64を用いた糸長さ調整方法では、調整メス部642の復移動により針板3の孔31と切断部材63との間の上糸S2及び下糸S1の糸残量が任意量に調整された。具体的には、予め操作部24により設定された例えば30mmの長さに加工布側の上糸S2及び下糸S1の糸残量が調整された。
【0075】
(作用効果)
図1に示される本実施の形態に係るミシン1は、
図2、
図3(A)~
図3(C)、
図4及び
図5に示されるように、糸切り装置6を備える。この糸切り装置6は、切断部材63と、糸長さ調整機構64とを含んで構成される。切断部材63は針板3の孔31と回転釜5との間における上糸S2及び下糸S1を切断する。糸長さ調整機構64は針板3の孔31から切断部材63までの上糸S2及び下糸S1の長さを調整する。
このため、糸長さ調整機構64により、針板3の孔31から切断部材63までの、加工布側の上糸S2及び下糸S1の長さを調整することができるので、加工布側の糸残量を任意量に調整することができる。
【0076】
また、本実施の形態に係るミシン1では、特に
図4及び
図10~
図13に示されるように、糸長さ調整機構64は調整メス部642を備える。調整メス部642は、針板3の孔31と切断部材63との間に配設され、上糸S2及び下糸S1を捕捉して移動可能とされる。
このため、調整メス部642により上糸S2及び下糸S1が捕捉され、この状態において調整メス部642を移動させることにより、糸残量の任意量の調整を簡易に実現することができる。
【0077】
さらに、本実施の形態に係るミシン1は、
図12、
図13及び
図14(A)~
図14(D)に示されるように、ガイド部43を備える。ガイド部43は、針板3の孔31と調整メス部642との間に配設され、調整メス部642が移動する際に、上糸S2及び下糸S1をガイドする。
このため、針板3の孔31と調整メス部642とを直接結ぶ糸送り経路に対して、針板3の孔31、ガイド部43及び調整メス部642を結ぶ糸送り経路の長さを変えることができる。後者の糸送り経路の長さは前者の糸送り経路に比し長く設定されるので、前者の糸送り経路により得られる糸残量と同一の糸残量が調整メス部642の少ない移動量により得られる。表現を代えれば、調整メス部642の移動量を少なくして、糸長さ調整機構64のサイズを小さくし、糸長さ調整機構64を含む糸切り装置6を小型化することができる。
【0078】
また、本実施の形態に係るミシン1では、特に
図4、
図12及び
図13に示されるように、糸切り装置6は第1糸捕捉体61及び第2糸捕捉体62を備える。第1糸捕捉体61は、針板3の孔31と回転釜5との間における上糸S2及び下糸S1を捕捉し、切断部材63に対して相対移動する。第2糸捕捉体62は、同様に、針板3の孔31と回転釜5との間における上糸S2及び下糸S1を捕捉し、切断部材63に対して相対移動する。
第1糸捕捉体61は、上糸S2及び下糸S1を確実に捕捉し、切断部材63に対して相対移動させて第2糸捕捉体62へ上糸S2及び下糸S1を確実に受け渡せる。一方、第2糸捕捉体62は、受け渡された上糸S2及び下糸S1を確実に捕捉し、切断部材63に対して相対移動させることにより、切断部材63と協働して上糸S2及び下糸S1を切断する。このため、糸切り装置6における糸切り作業を確実に行うことができる。
なお、本実施の形態に係るミシン1では、少なくとも第2糸捕捉体62が備えられていれば、上糸S2及び下糸S1の捕捉と、切断部材63との協働による上糸S2及び下糸S1の切断とを実現することができる。
【0079】
さらに、本実施の形態に係るミシン1は、
図4に示されるように、操作部24と、第2駆動源69と、制御部27とを備える。操作部24は糸長さ調整機構64における上糸S2及び下糸S1の糸残量を設定する。第2駆動源69は糸長さ調整機構64を駆動する。制御部27は、操作部24において設定された糸残量に基づいて、第2駆動源69を駆動する。
このため、操作部24において設定された糸残量に基づいて、制御部27は第2駆動源69を駆動し、糸長さ調整機構64を作動させることができるので、加工布側の糸残量を任意量に自動的に調整することができる。
【0080】
(第1変形例)
図15(A)~
図15(D)を用いて、本発明の第1実施の形態の第1変形例に係るミシン1について説明する。第1変形例に係るミシン1は、送り歯4に配設されたガイド部43の構成を変えた例を説明するものである。
なお、第1変形例、この後に説明する第2変形例、第2実施の形態並びに第3実施の形態において、第1実施の形態に係るミシン1の構成要素と同一の構成要素、又は実質的に同一の構成要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0081】
図15(A)~
図15(D)に示されるように、第1変形例に係るミシン1では、第1実施の形態に係るミシン1と同様に、送り歯4の送り歯本体41の下部に、段差部位により形成されたガイド部43が配設されている。このガイド部43は、段差部位の垂直な面に形成された複数の溝43Aを含んで構成されている。溝43Aは、左右方向を溝長として延設され、上下方向を溝幅として一定の間隔において複数配列されている。X軸方向に見て、溝43Aは、前側が解放されたV字形状若しくはU字形状に形成されている。
上記ガイド部43以外の構成要素は、第1実施の形態に係るミシン1の構成要素と同一である。
【0082】
第1変形例に係るミシン1では、第1実施の形態に係るミシン1により得られる作用効果と同様の作用効果を得ることができる。
【0083】
また、第1変形例に係るミシン1では、ガイド部43は複数の溝43Aを備える。糸長さ調整機構64による加工布側の糸残量を任意量に調整する際に、詳しく説明すると、調整メス部642が上糸S2及び下糸S1を捕捉して前面側から背面側へ引き寄せる際に、上糸S2、下糸S1のそれぞれが溝43Aに嵌まり合う。
このため、ガイド部43からその下方への上糸S2、下糸S1のそれぞれの外れを効果的に抑制又は防止することができる。
【0084】
(第2変形例)
図16(A)~
図16(D)を用いて、本発明の第1実施の形態の第2変形例に係るミシン1について説明する。第2変形例に係るミシン1は、送り歯4に配設されたガイド部43の構成を変えた例を説明するものである。
【0085】
図16(A)~
図16(D)に示されるように、第2変形例に係るミシン1では、第1実施の形態に係るミシン1と同様に、送り歯4の送り歯本体41の下部に、段差部位により形成されたガイド部43が配設されている。このガイド部43では、段差部位の面が、送り歯本体41の下面の前面側に対して90度未満の鋭角αに設定されている。表現を代えれば、ガイド部43の段差部位の面が、調整メス部642に捕捉され引き寄せられる上糸S2及び下糸S1を上方向へ移動させる傾斜面に設定されている。
上記ガイド部43以外の構成要素は、第1実施の形態に係るミシン1の構成要素と同一である。
【0086】
第2変形例に係るミシン1では、第1実施の形態に係るミシン1により得られる作用効果と同様の作用効果を得ることができる。
【0087】
また、第2変形例に係るミシン1では、ガイド部43の段差部位の面が鋭角αに設定される。糸長さ調整機構64による加工布側の糸残量を任意量に調整する際に、上糸S2及び下糸S1が、ガイド部43の段差部位の面に沿って上方へ移動する。
このため、ガイド部43からその下方への上糸S2、下糸S1のそれぞれの外れを効果的に抑制又は防止することができる。
【0088】
[第2実施の形態]
図17及び
図18を用いて、本発明の第2実施の形態に係るミシン1、このミシン1に組み込まれた糸切り装置6及び糸長さ調整方法を含む糸切り方法ついて説明する。
【0089】
(糸切り装置6及び糸長さ調整機構64の構成)
本実施の形態に係るミシン1は、第1実施の形態に係るミシン1の糸切り装置6において、糸長さ調整機構64の第3駆動機構68の構成及び第2駆動源69の構成を代えている。詳しく説明すると、
図17に示されるように、糸長さ調整機構64は、第3糸捕捉体640と、第3駆動機構68と、第2駆動源70とを備えている。
【0090】
糸長さ調整機構64の第3糸捕捉体640は、第1実施の形態に係るミシン1の糸長さ調整機構64の第3糸捕捉体640と同一の構成とされ、調整メス部642を含んで構成されている。
第3駆動機構68は、第3駆動レバー684を主要な構成要素として備えている。第3駆動レバー684は、回転部684Aと、レバー部684Bと、連結部684Fとを含んで構成されている。
【0091】
回転部684Aは前述の
図4に示される第1実施の形態における回転部684Aと同一の構成とされ、回転部684Aには回転軸601Bが挿入されている。レバー部684Bは第1実施の形態におけるレバー部684Bと同一の構成とされ、レバー部684Bのガイド溝684Cには第3糸捕捉体640の糸捕捉体本体641に設けられたピン643が挿入されている。
連結部684Fは、回転部684Aに一体又は一体的に構成されて左右方向左側に突出されている。
【0092】
第2駆動源70は、本実施の形態において、電磁ソレノイド71を含んで構成されている。電磁ソレノイド71は前後方向に移動可能な丸棒状の可動部72を有し、可動部72の前端部は連結部684Fに符号省略のピンを介して連結されている。電磁ソレノイド71では、解放状態において可動部72の前端部は前面側へ移動し、
図18に示される吸引状態においては可動部72の前端部は背面側へ移動する。
また、可動部72には、可動部72を、常時、解放状態に付勢する弾性体73が装着されている。弾性体73には例えばコイルスプリングが使用されている。
【0093】
(糸長さ調整方法を含む糸切り方法)
本実施の形態に係るミシン1の糸切り装置6による糸長さ調整方法を含む糸切り方法について説明する。糸長さ調整機構64を用いない、糸切り装置6の通常の糸切り方法は第1実施の形態に係るミシン1における通常の糸切り方法と同様であるので、ここでの説明は省略する。
糸切り装置6の糸長さ調整機構64を用いた糸長さ調整方法は、基本的には第1実施の形態に係るミシン1における糸長さ調整方法と同様であるが、第3駆動機構68及び第2駆動源70により第3糸捕捉体640の調整メス部642を往復移動させる点に違いを有する。
すなわち、
図17に示されるように、第2駆動源70の電磁ソレノイド71が解放状態にあるとき、第3駆動レバー684のレバー部684Bは背面側へ移動し、調整メス部642は背面側のホームポジションに位置している。このとき、弾性体73は電磁ソレノイド71の解放状態をアシストしている。
【0094】
前述の
図4に示される操作部24において、加工布側の糸残量が任意量に設定されると、制御部27により第2駆動源70の電磁ソレノイド71が通電され、この電磁ソレノイド71が吸引状態に移行する。これにより、
図18に示されるように、平面視において、第3駆動レバー684が回転部684Aを中心として時計回りに回転し、第3糸捕捉体640の調整メス部642を前面側へ往移動させる。
引き続き、電磁ソレノイド71が解放状態に移行すると、第3駆動レバー684が回転部684Aを中心として反時計回りに回転し、調整メス部642が背面側へ復移動する。この復移動の途中において、第1糸捕捉体61の糸捕捉部611及び第2糸捕捉体62の糸捕捉部621により捕捉された上糸S2及び下糸S1が捕捉され、かつ、背面側へ引き寄せられる(
図11~
図13参照)。これにより、加工布側の上糸S2及び下糸S1の糸残量が任意量に調整される。
そして、前述の
図9に示されるように、第1糸捕捉体61の糸捕捉部611、第2糸捕捉体62の糸捕捉部621及び調整メス部642が上糸S2及び下糸S1を捕捉している状態において、第2糸捕捉体62が復移動する。これにより、第2糸捕捉体62は切断部材63と協働して上糸S2及び下糸S1を切断する。
これらの一連の工程により、本実施の形態に係る糸長さ調整方法を含む糸切り方法が終了する。
【0095】
(作用効果)
本実施の形態に係るミシン1及び糸長さ調整方法によれば、前述の第1実施の形態に係るミシン1及び糸長さ調整方法により得られる作用効果と同様の作用効果を得ることができる。
【0096】
また、
図17に示されるように、本実施の形態に係るミシン1は糸切り装置6の糸長さ調整機構64に第2駆動源70を備え、第2駆動源70は電磁ソレノイド71を含んで構成される。電磁ソレノイド71の解放状態、吸引状態のそれぞれによる調整メス部642の往復移動により、糸長さ調整機構64での糸残量を任意量に調整することができる。糸長さ調整機構64では、糸残量を例えば10mmと30mmとの2つの固定値の長さに調整することができる。
さらに、第2駆動源70は電磁ソレノイド71を含んで構成され、電磁ソレノイド71は第1実施の形態における第2駆動源69(
図5等参照)のステッピングモータ691に比し小さい部品とされる。このため、糸長さ調整機構64の構造を小型化することができるので、糸切り装置6の小型化を実現することができる。
【0097】
[第3実施の形態]
図19~
図23を用いて、本発明の第3実施の形態に係るミシン1、このミシン1に組み込まれた糸切り装置6及び糸長さ調整方法を含む糸切り方法ついて説明する。本実施の形態に係るミシン1は、
図2~
図5に示される第1実施の形態に係るミシン1の糸切り装置6において糸長さ調整機構64の第3糸捕捉体640及び調整メス部642の構成要素を無くしている。代わりに、
図19及び
図20に示されるように、糸長さ調整機構64では、切断部材63を往復移動させる移動機構80が配設されている。以下、詳細に説明する。
【0098】
(糸切り装置6の構成)
本実施の形態に係るミシン1において、糸切り装置6は、第1糸捕捉体61と、第2糸捕捉体62と、切断部材63と、糸長さ調整機構64とを主要な構成要素として備えている。第1糸捕捉体61、第2糸捕捉体62、切断部材63のそれぞれの構成要素は、第1実施の形態に係るミシン1の第1糸捕捉体61、第2糸捕捉体62、切断部材63のそれぞれの構成要素と実質的に同一であるので、説明を省略する。
【0099】
(糸長さ調整機構64の構成)
図19及び
図20に示されるように、糸長さ調整機構64は、移動機構80と、第2駆動源69とを主要な構成要素として備えている。
移動機構80は、第1実施の形態に係る糸長さ調整機構64の第3駆動機構68(
図2~
図5参照)と実質的に同一の構成要素の第3駆動機構68を含んで構成されている。つまり、移動機構80は、第3駆動機構68と、スライド部81と、スライドピン82と、延設ベース部83と、ガイド溝84とを含んで構成されている。
【0100】
移動機構80の第3駆動機構68は、第3駆動レバー684を主要な構成要素として備えている。すなわち、第3駆動レバー684は、回転部684Aと、レバー部684Bと、延設部684Dとを含んで構成されている。前述の第1実施の形態において、第3駆動機構68の構成要素については既に説明してあるので、第3駆動機構68の詳細な説明は省略する。なお、第3駆動レバー684の延設部684Dは第2駆動源69に接続されている。この第2駆動源69の駆動力に基づき、回転部684Aを中心としてレバー部684Bが回転(揺動)する構成とされている。
【0101】
延設ベース部83は、第1フレーム601の右側端部を更に右側へ延設して形成され、第1フレーム601に一体に構成されている。ガイド溝84は、切断部材63の下方に対応する位置において、延設ベース部83を上下方向に貫通して形成されている。ガイド溝84は、前後方向を溝長方向とし、左右方向を溝幅方向として形成されている。
スライド部81は、平面視において前後方向を長手方向とする矩形状に形成され、縫製者から見て左右方向中間部が下方へ突出したT字形状に形成されたブロックとして構成されている。スライド部81の上部には切断部材63が着脱自在に装着されている。スライド部81の下部の突出した部位はガイド溝84に挿入され、スライド部81はガイド溝84に沿って前後方向にスライドする構成とされている。
ここで、第2糸捕捉体62の糸捕捉体本体620及び糸捕捉部621は切断部材63の上方に対応する位置に配設され、糸捕捉体本体620及び糸捕捉部621の往復移動の方向はスライド部81のガイド溝84に沿う往復移動の方向と同一に設定されている。
【0102】
スライドピン82は、スライド部81の上部背面側に上方に突出して配設されている。さらに詳しく説明すると、スライドピン82は、縫製者から見て、糸捕捉体本体620及び糸捕捉部621に対して右側にオフセットされた位置に配設され、糸捕捉体本体620及び糸捕捉部621の往復移動に際して干渉しない位置に配設されている。スライドピン82は、第3駆動レバー684のレバー部684Bに貫通して配設されたガイド溝684Cに挿入されている。
【0103】
このように構成される糸切り調整機構64では、移動機構80を備えているので、針板3の孔31に対して切断部材63を相対移動させることができる。本実施の形態において、糸切り調整機構64では、第2糸捕捉体62の糸捕捉体本体620及び糸捕捉部621の往復移動の方向と一致させて、前後方向に切断部材63を往復移動させることができる。
【0104】
(糸長さ調整方法を含む糸切り方法)
図19を参照しつつ、
図20~
図23を用いて、本実施の形態に係るミシン1の糸切り装置6による糸長さ調整方法を含む糸切り方法について説明する。ここでは、加工布側の糸残量が最も短い設定のときと、糸残量が最も長い設定のときの2値の糸長さ調整方法について説明する。
【0105】
(1)加工布側の糸残量が最も短いときの糸長さ調整方法
まず、糸切り装置6の作動前に、前述の
図1及び
図4に示される操作部24において、加工布側の糸残量が最も短い任意量に設定される。ここでは、例えば10mmに設定される。設定された糸残量の任意量は、例えば数値として表示部25に表示される。
操作部24において設定された糸残量に基づいて、制御部27により第2駆動源69が駆動され、第2駆動源69から移動機構80を介して糸長さ調整機構64が作動される。詳しく説明すると、
図20に示される第2駆動源69の駆動歯車693が平面視において反時計回りに回転し、移動機構80の第3駆動機構68の第3駆動レバー684が回転部684Aを中心として時計回りに回転する(
図19参照)。
この回転により、レバー部684Bはスライドピン82を介してスライド部81を背面側から前面側へ往移動させ、スライド部81に装着された切断部材63は最も前面側の切断位置へ移動する。切断部材63が最も前面側の切断位置に往移動したとき、糸長さ調整機構64では、加工布側の糸残量が最も短い設定とされたホームポジションに切断部材63が配置されている。
【0106】
前述の
図4に示される制御部27を介して糸切り装置6が作動されると、前述の
図5~
図8に示される糸切り方法と同様に、第1糸捕捉体61の糸捕捉部611及び第2糸捕捉体62の糸捕捉部621に上糸S2及び下糸S1が捕捉される。
【0107】
図21に示されるように、第2糸捕捉体62が復移動を開始する。このとき、第1糸捕捉体61の糸捕捉部611及び第2糸捕捉体62の糸捕捉部621は上糸S2及び下糸S1を捕捉した状態である。第2糸捕捉体62の復移動により、第2糸捕捉体62の糸捕捉体本体620及び糸捕捉部621が前面側から背面側へ移動し、このとき切断部材63と協働して上糸S2及び下糸S1が切断される。つまり、切断部材63が最も前面側の切断位置にあるので、加工布側の上糸S2及び下糸S1の糸残量が、糸長さ調整機構64によって最も短い任意量に調整される。
【0108】
この後、前述の
図20に示されるホームポジションに第1糸捕捉体61及び第2糸捕捉体62が戻り、糸切り装置6における糸長さ調整方法を含む糸切り方法が終了する。
【0109】
(2)加工布側の糸残量が最も長いときの糸長さ調整方法
まず、糸切り装置6の作動前に、操作部24(
図1及び
図4参照)において、加工布側の糸残量が最も長い任意量に設定される。ここでは、例えば30mmに設定される。設定された糸残量の任意量は、例えば数値として表示部25に表示される。
操作部24において設定された糸残量に基づいて、制御部27により第2駆動源69が駆動され、第2駆動源69から移動機構80を介して糸長さ調整機構64が作動される。詳しく説明すると、
図22に示される第2駆動源69の駆動歯車693が平面視において時計回りに回転し、移動機構80の第3駆動機構68の第3駆動レバー684が回転部684Aを中心として反時計回りに回転する。
この回転により、レバー部684Bはスライドピン82を介してスライド部81を前面側から背面側へ復移動させ、スライド部81に装着された切断部材63は最も背面側の切断位置へ移動する。切断部材63が最も背面側の切断位置に復移動したとき、糸長さ調整機構64では、加工布側の糸残量が最も長い設定とされたホームポジションに切断部材63が配置されている。
【0110】
制御部27(
図4参照)を介して糸切り装置6が作動されると、前述の
図5~
図8に示される糸切り方法と同様に、第1糸捕捉体61の糸捕捉部611及び第2糸捕捉体62の糸捕捉部621に上糸S2及び下糸S1が捕捉される。
【0111】
図23に示されるように、第2糸捕捉体62が復移動を開始する。このとき、第1糸捕捉体61の糸捕捉部611及び第2糸捕捉体62の糸捕捉部621は上糸S2及び下糸S1を捕捉した状態である。第2糸捕捉体62の復移動により、第2糸捕捉体62の糸捕捉体本体620及び糸捕捉部621が前面側から背面側へ移動し、このとき切断部材63と協働して上糸S2及び下糸S1が切断される。つまり、切断部材63が最も背面側の切断位置にあるので、加工布側の上糸S2及び下糸S1の糸残量が、糸長さ調整機構64によって最も長い任意量に調整される。
【0112】
この後、前述の
図22に示されるホームポジションに第1糸捕捉体61及び第2糸捕捉体62が戻り、糸切り装置6における糸長さ調整方法を含む糸切り方法が終了する。
なお、本実施の形態に係るミシン1では、糸長さ調整機構64により、最も前面側と最も背面側との中間位置を切断部材63の切断位置とすることができる。これにより、糸長さ調整機構64は、加工布側の糸残量を、例えば15mm、20mm、25mmのいずれかの任意量に調整可能である。
また、糸長さ調整機構64では、加工布側の糸残量を最も短い例えば10mm~最も長い例えば30mmの範囲内において任意量、例えば16mmに設定することができる。
【0113】
(作用効果)
本実施の形態に係るミシン1及び糸長さ調整方法によれば、前述の第1実施の形態に係るミシン1及び糸長さ調整方法により得られる作用効果と同様の作用効果を得ることができる。
【0114】
また、
図1に示される本実施の形態に係るミシン1では、
図19及び
図20に示されるように、糸長さ調整機構64が移動機構80を含んで構成される。移動機構80は、針板3の孔31に対して切断部材63を相対移動させる。
このため、第1実施の形態に係るミシン1に比し、調整メス部642を含む第3糸捕捉体640の構成要素を無くすことができるので、糸長さ調整機構64の構造を簡素化することができる。
【0115】
[その他の実施の形態]
本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能である。
例えば、本発明は、第2実施の形態に係るミシン1と第3実施の形態に係るミシン1とを組み合わせてもよい。具体的には、第3実施の形態に係るミシン1の糸長さ調整機構64において、第2駆動源69から電磁ソレノイド71を含む第2駆動源70に代え、この第2駆動源70の駆動力を切断部材63の往復移動に用いてもよい。
また、第1実施の形態に係るミシン1では、送り歯4にガイド部43が配設されていたが、本発明は、第1フレーム601や第1スライドガイド651にガイド部43を配設してもよい。
【符号の説明】
【0116】
1 ミシン
2 ミシン本体
21 ベッド
24 操作部
25 表示部
27 制御部
3 針板
31 孔(針孔)
4 送り歯
43 ガイド部
5 回転釜
6 糸切り装置
61 第1糸捕捉体
610、620、641 糸捕捉体本体
611、621 糸捕捉部
62 第2糸捕捉体
63 切断部材
64 糸長さ調整機構
640 第3糸捕捉体
642 調整メス部(糸捕捉部)
65 第1駆動機構
66 第1駆動源
67 第2駆動機構
68 第3駆動機構
69、70 第2駆動源
71 電磁ソレノイド
80 移動機構