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  • 特許-ハロゲン化カルボニルの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】ハロゲン化カルボニルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/80 20170101AFI20240624BHJP
   C07C 69/96 20060101ALN20240624BHJP
【FI】
C01B32/80
C07C69/96 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021544007
(86)(22)【出願日】2020-09-02
(86)【国際出願番号】 JP2020033284
(87)【国際公開番号】W WO2021045115
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2023-06-09
(31)【優先権主張番号】P 2019162196
(32)【優先日】2019-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業「含フッ素カーボネートを鍵中間体とする安全な製造プロセスによる高機能・高付加価値ポリウレタン・ポリカーボネート材料の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】津田 明彦
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-181028(JP,A)
【文献】国際公開第2015/122476(WO,A1)
【文献】Ultrasonics Sonochemistry,1997年,4,99-107
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00 - 32/991
C07C 69/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン化カルボニルを製造するための方法であって、
クロロ、ブロモおよびヨードからなる群から選択される1種以上のハロゲノ基を有するC1-4ハロゲン化炭化水素を含む組成物に、酸素の存在下、超音波を照射することによりC1-4ハロゲン化炭化水素を分解する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記組成物に更に光を照射する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記超音波の周波数が20kHz以上、100kHz以下である請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記超音波が付与される反応液の表面積あたりの前記超音波の仕事率が0.05W/cm2以上、10W/cm2以下である請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記光のピーク波長が180nm以上、280nm以下の範囲に含まれる請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記C1-4ハロゲン化炭化水素としてC1-2ポリハロゲン化炭化水素を用いる請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記C1-4ハロゲン化炭化水素としてジクロロメタンとテトラクロロメタンの混合物を用いる請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン化カルボニルを安全かつ効率的に製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ホスゲン等のハロゲン化カルボニルは、様々な化合物の合成中間体として非常に重要である。例えばカーボネート誘導体は、一般的に、ホスゲンと求核性官能基含有化合物から製造される。
【0003】
しかしホスゲンは水と容易に反応して塩化水素を発生させたり、毒ガスとして利用された歴史があるなど、非常に有毒なものである。ホスゲンは主として、活性炭触媒の存在下、無水塩素ガスと高純度一酸化炭素との高発熱気相反応によって製造される。ここで用いる一酸化炭素も有毒である。ホスゲンの基本的な製造プロセスは、1920年代から大きく変わっていない。そのようなプロセスによるホスゲンの製造には、高価で巨大な設備が必要である。しかし、ホスゲンの高い毒性のために、幅広い安全性の確保がプラント設計に不可欠であり、それが製造コストの増大につながる。また、ホスゲンの大規模製造プロセスは、多くの環境問題を引き起こすおそれがある。その他、ホスゲンはトリホスゲンをトリエチルアミン等の塩基により分解して製造される。しかし、トリホスゲンは高価な試薬であるし、何らかの物理刺激もしくは化学刺激でホスゲンに分解する潜在的危険性を持ち、また自身も高い毒性を有することが知られている。
【0004】
そこで本発明者は、ハロゲン化炭化水素に酸素存在下で光照射してハロゲンおよび/またはハロゲン化カルボニルを生成させる技術を開発している(特許文献1)。かかる技術によれば、アミン化合物やアルコール化合物などの反応基質化合物を共存させておくことにより、生成したハロゲン化カルボニルを即座に反応させることができるため、安全であるといえる。また、反応に用いられなかったハロゲン化カルボニルは、トラップにより回収して外部に漏出させないことも可能である。例えば本発明者は、ハロゲン化炭化水素とアルコールを含む混合物に酸素存在下で光照射することによりハロゲン化カルボン酸エステルを製造する技術も開発している(特許文献2)。また、本発明者は、ハロゲン化炭化水素、求核性官能基含有化合物、および塩基を含む組成物に酸素存在下で光照射することによりカーボネート誘導体を製造する技術も開発している(特許文献3および特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-181028号公報
【文献】国際公開第2015/156245号パンフレット
【文献】国際公開第2018/211952号パンフレット
【文献】国際公開第2018/211953号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、本発明者は、ハロゲン化炭化水素に酸素存在下で光照射してハロゲン化カルボニルを生成させる技術を開発している。
しかし、ホスゲン等のハロゲン化カルボニルは工業的に非常に重要な化合物であり、より効率的な製造方法が求められている。特にクロロホルム製品には1%未満のエタノールが含まれるなど、アルコールはクロロホルムの安定化剤として用いられており、アルコール、アミン、水などが共存する場合にはハロゲン化炭化水素の分解効率が低下してしまうという問題があった。
そこで本発明は、ハロゲン化カルボニルを安全かつ効率的に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、ハロゲン化炭化水素に酸素存在下で超音波を照射することによりハロゲン化カルボニルを効率的に製造できることを見出して、本発明を完成した。
以下、本発明を示す。
【0008】
[1] ハロゲン化カルボニルを製造するための方法であって、
クロロ、ブロモおよびヨードからなる群から選択される1種以上のハロゲノ基を有するC1-4ハロゲン化炭化水素を含む組成物に、酸素の存在下、超音波を照射することによりC1-4ハロゲン化炭化水素を分解する工程を含むことを特徴とする方法。
[2] 前記組成物に更に光を照射する上記[1]に記載の方法。
[3] 前記超音波の周波数が20kHz以上、100kHz以下である上記[1]または[2]に記載の方法。
[4] 前記超音波が付与される反応液の表面積あたりの前記超音波の仕事率が0.05W/cm2以上、10W/cm2以下である上記[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5] 前記光のピーク波長が180nm以上、280nm以下の範囲に含まれる上記[2]に記載の方法。
[6] 前記C1-4ハロゲン化炭化水素としてC1-2ポリハロゲン化炭化水素を用いる上記[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7] 前記C1-4ハロゲン化炭化水素としてジクロロメタンとテトラクロロメタンの混合物を用いる上記[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明方法によれば、特に超音波照射により、ハロゲン化炭化水素の分解速度が高まり、ハロゲン化カルボニルへの変換速度が改善される。また、例えばアルコールなど、ハロゲン化炭化水素の分解を阻害する物質が共存していても、ハロゲン化炭化水素の分解反応は進行する。よって本発明は、ハロゲン化炭化水素からホスゲン等のハロゲン化カルボニルをより安全かつ効率的に製造することができ、延いてはカーボネート誘導体などハロゲン化カルボニルを用いて製造される化合物を安全かつ効率的に製造できるものとして、産業上有用である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に用いられる反応装置の構成の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明方法では、クロロ、ブロモおよびヨードからなる群から選択される1種以上のハロゲノ基を有するC1-4ハロゲン化炭化水素を含む組成物に、酸素の存在下、超音波を照射してC1-4ハロゲン化炭化水素を分解することにより、ハロゲン化カルボニルを生成させる。
【0012】
本発明で用いるC1-4ハロゲン化炭化水素は、炭素数が1以上4以下の炭化水素であり、クロロ、ブロモおよびヨードから必須的になる群から選択される1種以上のハロゲノ基を有する。かかるC1-4ハロゲン化炭化水素は、おそらく超音波と酸素により分解されてハロゲン化カルボニルに変換される。
【0013】
1-4ハロゲン化炭化水素は、クロロ、ブロモおよびヨードから必須的になる群から選択される1種以上のハロゲノ基で置換された、炭素数1以上4以下のアルカン、アルケンまたはアルキンである。上述した通り、本発明においてC1-4ハロゲン化炭化水素は超音波と酸素により分解され、ハロゲン化カルボニルと同等の働きをすると考えられる。よってC1-2ハロゲン化炭化水素が好ましく、ハロゲノメタンがより好ましい。炭素数が2以上4以下である場合には、分解がより容易に進行するよう、1以上の不飽和結合を有するアルケンまたはアルキンが好ましい。また、2以上のハロゲノ基を有するC1-4ポリハロゲン化炭化水素が好ましく、C1-2ポリハロゲン化炭化水素がより好ましい。さらに、分解に伴ってハロゲノ基が転移する可能性もあるが、同一炭素に2以上のハロゲノ基を有するC1-4ハロゲン化炭化水素が好ましい。
【0014】
具体的なC1-4ハロゲン化炭化水素としては、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、ジブロモメタン、ブロモホルム、ヨードメタン、ジヨードメタン等のハロメタン;1,1,2-トリクロロエタン、1,1,1-トリクロロエタン、1,1,2,2-テトラクロロエタン、1,1,1,2-テトラクロロエタン等のハロエタン;1,1,1,3-テトラクロロプロパン等のハロプロパン;テトラクロロメタン、テトラブロモメタン、テトラヨードメタン、ヘキサクロロエタン、ヘキサブロモエタン等のペルハロアルカン;1,1,2,2-テトラクロロエテン、1,1,2,2-テトラブロモエテン等のペルハロエテン等を挙げることができる。
【0015】
1-4ハロゲン化炭化水素は目的とする化学反応や所期の生成物に応じて適宜選択すればよく、また、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、好適には、製造目的化合物に応じて、C1-4ハロゲン化炭化水素は1種のみ用いる。常圧で常温または反応温度において液状のC1-4ハロゲン化炭化水素であれば、溶媒としての役割も果たすことができる。C1-4ハロゲン化炭化水素の中でもクロロ基を有する化合物が好ましい。
【0016】
2種以上のC1-4ハロゲン化炭化水素の組み合わせとしては、例えば、ジクロロメタンとテトラクロロメタンとの混合物が挙げられる。テトラクロロメタンは、ジクロロメタンやクロロホルムの製造時に副生する一方で、日本では試験、研究、分析以外の用途での使用は原則として禁止されている。それに対して本発明においてジクロロメタンと組み合わせることにより、テトラクロロメタンを有益に処理することが可能になる。ジクロロメタンとテトラクロロメタンとを組み合わせる場合、これらの割合は適宜調整すればよいが、例えば、ジクロロメタンとテトラクロロメタンの合計モル数に対するテトラクロロメタンのモル数の割合を0.1以上、0.6以下にすることができる。
【0017】
本発明方法で用いるC1-4ハロゲン化炭化水素としては、汎用溶媒としても用いられる安価なクロロホルムが最も好ましい。例えば溶媒としていったん使用したC1-4ハロゲン化炭化水素を回収し、再利用してもよい。その際、多量の不純物や水が含まれていると反応が阻害されるおそれがあり得るので、ある程度は精製することが好ましい。例えば、水洗により水や水溶性不純物を除去した後、無水硫酸ナトリウムや無水硫酸マグネシウムなどで脱水することが好ましい。但し、1容量%程度の水が含まれていても反応は進行すると考えられるので、生産性を低下させるような過剰な精製は必要ない。かかる水含量としては、0.5容量%以下がより好ましく、0.2容量%以下がさらに好ましく、0.1容量%以下がよりさらに好ましい。また、上記再利用C1-4ハロゲン化炭化水素には、C1-4ハロゲン化炭化水素の分解物などが含まれていてもよい。
【0018】
1-4ハロゲン化炭化水素の使用量は、十分量のハロゲン化カルボニルが得られる範囲で適宜調整すればよいが、例えば、生成したハロゲン化カルボニルと反応させるべき反応基質化合物に対して0.1倍モル以上用いればよい。C1-4ハロゲン化炭化水素の使用量の上限は特に制限されないが、例えば、反応基質化合物に対して200倍モル以下とすることができる。上記使用量としては、1倍モル以上、5倍モル以上または10倍モル以上が好ましく、20倍以上がより好ましく、25倍以上がより更に好ましい。また、C1-4ハロゲン化炭化水素を溶媒として使用できる場合などには、50倍モル以上用いることもできる。上記使用量としては、150倍モル以下または100倍モル以下が好ましい。C1-4ハロゲン化炭化水素の具体的な使用量は、予備実験などで決定すればよい。
【0019】
1-4ハロゲン化炭化水素を含む組成物には、溶媒を配合してもよい。特にC1-4ハロゲン化炭化水素が常温常圧で液体でない場合には、C1-4ハロゲン化炭化水素を適度に溶解でき、且つC1-4ハロゲン化炭化水素の分解を阻害しない溶媒が好ましい。かかる溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒;n-ヘキサンなどの脂肪族炭化水素溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、ベンゾニトリルなどの芳香族炭化水素溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶媒;アセトニトリルなどのニトリル系溶媒を挙げることができる。
【0020】
酸素源としては、酸素を含む気体であればよく、例えば、空気や、精製された酸素を用いることができる。精製された酸素は、窒素やアルゴン等の不活性ガスと混合して使用してもよい。コストや容易さの点からは空気を用いることもできる。超音波照射によるC1-4ハロゲン化炭化水素の分解効率を高める観点からは、酸素源として用いられる気体中の酸素含有率は約15体積%以上100体積%以下であることが好ましい。また、不可避的不純物以外、実質的に酸素のみを用いることも好ましい。酸素含有率は上記C1-4ハロゲン化炭化水素などの種類によって適宜決定すればよい。例えば、上記C1-4ハロゲン化炭化水素としてジクロロメタン、クロロホルム、テトラクロロエチレン等のクロロC1-4炭化水素を用いる場合は、酸素含有率は15体積%以上100体積%以下であるのが好ましく、ジブロモメタンやブロモホルムなどのブロモC1-4炭化水素化合物を用いる場合は、酸素含有率は90体積%以上100体積%以下であるのが好ましい。なお、酸素(酸素含有率100体積%)を用いる場合であっても、反応系内への酸素流量の調節により酸素含有率を上記範囲内に制御することができる。酸素を含む気体の供給方法は特に限定されず、流量調整器を取り付けた酸素ボンベから反応系内に供給してもよく、また、酸素発生装置から反応系内に供給してもよい。
【0021】
なお、「酸素存在下」とは、C1-4ハロゲン化炭化水素が酸素と接している状態か、上記組成物中に酸素が存在する状態のいずれであってもよい。従って、本発明に係る反応は、酸素を含む気体の気流下や、酸素を連続的に供給せずに酸素を含む気相とC1-4ハロゲン化炭化水素を含む液相との二相系で行ってもよいが、生成物の収率を高める観点からは、酸素を含む気体はバブリングにより上記組成物中へ供給することが好ましい。
【0022】
酸素を含む気体の量は、上記C1-4ハロゲン化炭化水素の量や、反応容器の形状などに応じて適宜決定すればよい。例えば、反応容器中に存在する上記C1-4ハロゲン化炭化水素に対する、反応容器へ供給する1分あたりの気体の量を、5容量倍以上とすることが好ましい。当該割合としては、25容量倍以上がより好ましく、50容量倍以上がよりさらに好ましい。当該割合の上限は特に制限されないが、500容量倍以下が好ましく、250容量倍以下がより好ましく、150容量倍以下がよりさらに好ましい。また、反応容器中に存在する上記C1-4ハロゲン化炭化水素に対する、反応容器へ供給する1分あたりの酸素の量としては、5容量倍以上25容量倍以下とすることができる。気体の流量が多過ぎる場合には、上記C1-4ハロゲン化炭化水素が揮発してしまう虞があり得る一方で、少な過ぎると反応が進行し難くなる虞があり得る。
【0023】
本発明方法では、C1-4ハロゲン化炭化水素を含む組成物に、酸素の存在下、超音波を照射する。ハロゲン化カルボニルは、C1-4ハロゲン化炭化水素の分解で生じたラジカルと酸素が反応して生成すると考えられるが、超音波により酸素が微細化したり、また超音波によるキャビテーション効果により、ラジカル反応が促進されると考えられる。
【0024】
超音波は、一般的には周波数が20kHz以上の音波をいい、本発明でもこの範囲で適切な周波数の超音波を選択すればよいが、本発明で用いる超音波の周波数としては20kHz以上、1500kHz以下が好ましい。周波数が20kHz以上であれば、ハロゲン化カルボニルの製造効率がより確実に改善されるといえる。当該周波数としては、30kHz以上が好ましく、また、1000kHz以下または500kHz以下が好ましく、200kHz以下または150kHz以下がより好ましく、100kHz以下がより更に好ましい。超音波は継続的に照射してもよいし、断続的に照射してもよい。
【0025】
1-4ハロゲン化炭化水素を含む組成物に超音波を照射する方法は特に制限されないが、例えば、超音波洗浄機の水浴中や、超音波発生装置の振動子を浸漬した水浴中に、組成物を含む反応容器を浸漬したり、また組成物中に超音波発生装置の振動子を浸漬してもよい。かかる態様により、超音波を組成物に直接または略直接に照射することができる。
【0026】
照射する超音波の強度は適宜調整すればよく、上記の通り組成物には超音波を直接または略直接照射することが可能であるため、使用する超音波発生装置の仕事率で調整することができる。例えば、超音波が付与される組成物の表面積あたりの超音波発生装置の仕事率としては、0.05W/cm2以上、10W/cm2以下が好ましい。当該仕事率が0.05W/cm2以上であれば、ハロゲン化カルボニルの製造効率がより確実に改善されるといえる。一方、当該仕事率が10W/cm2以下であれば、組成物から酸素の脱気をより確実に抑制することができる。当該仕事率としては、0.1W/cm2以上がより好ましく、0.5W/cm2以上がより更に好ましく、また、5W/cm2以下がより好ましく、1W/cm2以下または0.5W/cm2以下がより更に好ましい。
【0027】
組成物に超音波を照射する際の温度は適宜調整すればよいが、例えば、-20℃以上、60℃以下とすることができる。当該温度が-20℃以上であれば、C1-4ハロゲン化炭化水素がより確実に分解されてハロゲン化カルボニルが効率的に生成し得る。一方、当該温度が60℃以下であれば、組成物中における酸素濃度や生成したハロゲン化カルボニルの濃度をより確実に維持することができる。当該温度としては、-10℃以上が好ましく、0℃以上または10℃以上がより好ましく、また、50℃以下または40℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましい。
【0028】
組成物に超音波を照射する時間は、C1-4ハロゲン化炭化水素が分解されて十分量のハロゲン化カルボニルが生成するまでや、或いは組成物中にハロゲン化カルボニルと反応する反応基質化合物が含まれる場合には、反応が十分に進行するまで、例えば反応基質化合物が実質的に全て消費されるまでとすることができる。具体的な照射時間は予備実験などで決定すればよいが、例えば、10分間以上、10時間以下とすることができる。当該時間としては、20分間以上が好ましく、30分間以上がより好ましく、また、5時間以下が好ましく、3時間以下または2時間以下がより好ましい。
【0029】
本発明方法では、C1-4ハロゲン化炭化水素を含む組成物に、超音波に加えて光を照射することにより、C1-4ハロゲン化炭化水素の分解をより一層促進し、ハロゲン化カルボニルの生成効率をより一層高めることも可能である。
【0030】
上記組成物に照射する光としては、エネルギーの高い短波長光を含む光が好ましく、紫外線を含む光がより好ましく、より詳細にはピーク波長が180nm以上、500nm以下の範囲に含まれる光が好ましい。なお、高エネルギー光のピーク波長は上記C1-4ハロゲン化炭化水素の種類に応じて適宜決定すればよいが、400nm以下がより好ましく、300nm以下がよりさらに好ましい。照射光のピーク波長が上記範囲の光が含まれている場合には、C1-4ハロゲン化炭化水素を効率良く酸化的光分解できる。例えば、ピーク波長が280nm以上、315nm以下のUV-B波長域に含まれる光、および/または、ピーク波長が180nm以上、280nm以下のUV-C波長域に含まれる光を用いることができ、ピーク波長が180nm以上、280nm以下のUV-C波長域に含まれる光を用いることが好ましい。
【0031】
光照射の手段は、上記波長の光を照射できるものである限り特に限定されないが、このような波長範囲の光を波長域に含む光源としては、例えば、太陽光、低圧水銀ランプ、中圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、メタルハライドランプ、LEDランプ等が挙げられる。反応効率やコストの点から、低圧水銀ランプが好ましく用いられる。
【0032】
照射光の強度や照射時間などの条件は、C1-4ハロゲン化炭化水素の種類や使用量によって適宜設定すればよいが、例えば、光源から上記組成物の最短距離位置における所望の光の強度としては、1mW/cm2以上、50mW/cm2以下が好ましい。光照射の態様も特に限定されず、反応開始から終了まで連続して光を照射する態様、光照射と光非照射とを交互に繰り返す態様、反応開始から所定の時間のみ光を照射する態様など、いずれの態様も採用できる。また、光源と組成物の最短距離としては、1m以下が好ましく、50cm以下がより好ましく、10cm以下または5cm以下がより更に好ましい。当該最短距離の下限は特に制限されないが、0cm、即ち、光源を組成物中に浸漬してもよい。反応容器の側面から光照射する場合には、上記最短距離を1cm以上または2cm以上とすることもできる。
【0033】
上記工程により、C1-4ハロゲン化炭化水素が酸化的分解されてハロゲン化カルボニルが生成すると考えられる。また、反応系内に反応基質化合物が存在する場合には、生成したハロゲン化カルボニル[X-C(=O)-X(Xは、クロロ、ブロモおよびヨードからなる群から選択される1種以上のハロゲノ基)]のみならず、ハロゲン化カルボニルと同様の働きをするハロゲン化カルボニル様化合物が反応基質化合物と反応することも考えられる。本発明に係るハロゲン化カルボニルには、かかるハロゲン化カルボニル様化合物も含まれるものとする。
【0034】
ハロゲン化カルボニルは有毒なものであることから、生成したハロゲン化カルボニルは単離せずに反応系内で反応基質化合物と反応させてもよい。例えば、C1-4ハロゲン化炭化水素を含む組成物にアルコール化合物を添加しておけば、C1-4ハロゲン化炭化水素の酸化的分解により生じたハロゲン化カルボニルと直ぐに反応して、ハロゲン化ギ酸エステルが生成する。また、アルコール化合物および/またはアミン化合物に加えて塩基を添加しておけば、カーボネート化合物、ウレア化合物、またはウレタン化合物が生成する。特にジアルコール化合物および/またはジアミン化合物と塩基を添加しておけば、ポリカーボネート化合物、ポリウレア化合物、またはポリウレタン化合物が生成する。
【0035】
本発明方法に使用できる反応装置としては、反応容器に超音波照射手段を備えたものが挙げられる。図1に、本発明の製造方法に使用できる反応装置の一態様を示す。図1に示す反応装置は、反応容器1内に光照射手段2を有し、反応容器1が超音波発生装置の水浴3に浸漬されているものである。反応容器1内に、少なくともC1-4ハロゲン化炭化水素を添加し、当該反応容器1内に少なくとも酸素を含有する気体を供給または上記混合物に酸素を含有する気体を反応液中にバブリングする。超音波発生装置により水浴3を介して反応液に超音波を照射することにより反応を行う。反応液には、光照射手段2より反応液に更に光を照射してもよい。光照射手段2は、C1-4ハロゲン化炭化水素が分解されて発生する酸などによる腐食を防ぐため、ガラス製などのジャケット4で被覆することが好ましい。反応液の温度は、水浴3により一定または略一定に制御することが好ましい。また、反応液は超音波照射により均一化されるため、攪拌しなくてもよい。反応は発熱を伴うことが多いので、反応容器1に冷却管5を備え付けることが好ましい。生成したハロゲン化カルボニルが熱により気化しても、冷却管5で液化して反応液に再循環することが可能になる。更に、過剰なハロゲン化カルボニルが反応系外へ漏出することを抑制するために、反応容器1から排出される気体はハロゲン化カルボニルを捕捉するためのトラップへ導入することが好ましい。
【0036】
本願は、2019年9月5日に出願された日本国特許出願第2019-162196号に基づく優先権の利益を主張するものである。2019年9月5日に出願された日本国特許出願第2019-162196号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。
【実施例
【0037】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0038】
実施例1: 超音波と高エネルギー光によるホスゲン生成の加速効果
【化1】
中央に直径30mmの石英ガラスジャケットを装着した筒状反応容器(直径42mm)を用意し、石英ガラスジャケットに低圧水銀ランプ(「UVL20PH-6」SEN Light社製,20W,φ24×120mm,波長:185~600nm,ピーク波長:254nm)を入れ、反応容器内に精製クロロホルム(20mL,250mmol)を加えた。反応容器を超音波洗浄機(「1510J-MT」BRANSONIC社製)の水浴中に浸漬し、クロロホルム中に酸素ガスを0.5L/分でバブリングさせ、70W,42kHzの超音波と、前記低圧水銀ランプから高エネルギー光を照射しつつ、20℃で1時間反応させた。次いで、生じたホスゲンを定量するために、1-ヘキサノール(12.5mL,100mmol)を添加した。反応中、反応容器から排出されるガスは、ヘキサノールトラップに導入し、ガス中に含まれるホスゲンを捕捉した。
反応後、反応液を1H-NMRで分析し、生成したクロロギ酸エステルとカーボネートの生成量を求めた。また、ヘキサノールトラップ溶液も1H-NMRで分析し、生成したクロロギ酸エステルとカーボネートの生成量を求めた。生成したホスゲンが全て1-ヘキサノールと反応してクロロギ酸エステルまたはカーボネートに変換されたと仮定して、生成ホスゲン量を求め、使用したクロロホルムに対するホスゲンの収率を算出した。
また、比較のために、超音波を照射しなかった以外は同様にして、生成ホスゲン量を求めた。結果を表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
表1に示される結果の通り、高エネルギー光の照射のみでもクロロホルムが分解してホスゲンが生成するが、高エネルギー光の照射に加えて超音波を照射することにより、クロロホルムからのホスゲンの生成量が2倍以上に増大することが示された。
【0041】
実施例2: 超音波と高エネルギー光によるホスゲン生成の加速効果
実施例1で用いた反応システムの反応容器内に精製クロロホルム(20mL,250mmol)と1-ヘキサノール(1.25mL,10mmol)を加えた。反応容器を超音波洗浄機(「1510J-MT」BRANSONIC社製)の水浴中に浸漬し、酸素ガスを0.5L/分でバブリングさせ、70W,42kHzの超音波と、前記低圧水銀ランプから高エネルギー光を照射しつつ20℃で30分間反応させた後、光照射を30分間停止させるサイクルを2回繰り返した以外は同様にして反応させた。次いで、温度を50℃に上げて反応液からホスゲンを留去した後、反応液を減圧濃縮した。得られた残渣に塩化メチレンを内部標準として添加し、1H-NMRで分析し、クロロギ酸エステルの生成量を求めた。
また、比較のために、20℃または30℃で、超音波を照射せずに高エネルギー光の照射とその停止のサイクルを2回繰り返した以外は同様にして、生成ホスゲン量を求めた。結果を表2に示す。
【0042】
【表2】
【0043】
表2に示される結果の通り、高エネルギー光の照射に加えて超音波を照射することによりクロロホルムからのホスゲンの生成量は明らかに増大した。超音波を照射することなく反応温度を上げることによりホスゲン生成量の増大が認められたが、超音波照射の場合に比べてその効果は限定的であった。
【0044】
実施例3: 超音波と高エネルギー光によるホスゲン生成の加速効果
【化2】
実施例1で用いた反応システムの反応容器内に精製クロロホルム(20mL,250mmol)、フェノール(0.94g,10mmol)、および5M水酸化ナトリウム水溶液(20mL,100mmol)を加えた。反応容器を超音波洗浄機(「1510J-MT」BRANSONIC社製)の水浴中に浸漬し、酸素ガスを0.5L/分でバブリングさせ、70W,42kHzの超音波と、前記低圧水銀ランプから高エネルギー光を照射しつつ、20℃で2時間反応させた。反応後、超音波照射と高エネルギー光照射を停止し、クロロホルムで抽出し、抽出液を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。無水硫酸ナトリウムを濾別し、濾液を減圧濃縮し、残渣を60℃で1時間真空乾燥することにより、目的化合物であるジフェニルカーボネートを得、原料化合物であるフェノールに対する収率を算出した。
また、比較のために、表3に示す条件でジフェニルカーボネートを合成した。結果を表3に示す。
【0045】
【表3】
【0046】
表3に示される結果の通り、高エネルギー光の照射に加えて超音波を照射することによりクロロホルムからのホスゲンの生成量は明らかに増大した。
但し、クロロホルムに対するフェノールの相対量が高くなると、収率が低下する傾向があり、原料化合物であるフェノールの使用量の増加量に比べて、反応液中におけるジフェニルカーボネートの生成量の増加量は小さかった。その理由としては、アルコールはクロロホルムの安定化剤として使用されていることから、フェノールの相対量が高くなるにつれてクロロホルムの分解が多少阻害されたことが考えられる。
【0047】
実施例4: ビス(ペンタフルオロフェニル)カーボネートの合成
【化3】
実施例1で用いた反応システムの反応容器内に精製クロロホルム(40mL,500mmol)、ペンタフルオロフェノール(10mmol)、およびピリジン(50mmol)を加えた。反応容器を超音波洗浄機(「1510J-MT」BRANSONIC社製)の水浴中に浸漬し、酸素ガスを0.5L/分でバブリングさせ、70W,42kHzの超音波と、前記低圧水銀ランプから高エネルギー光を照射しつつ、30℃で30分間または1時間反応させた。
次いで、反応後溶液の温度を50℃に上げて反応液からホスゲンを留去した後、反応液を減圧濃縮した。得られた残渣に塩化メチレンを内部標準として添加し、1H-NMRで分析し、カーボネートの生成量を求めた。
また、比較のために、超音波を照射する代わりに攪拌した以外は同様にして実験を行った。結果を表4に示す。
【0048】
【表4】
【0049】
表4に示される結果の通り、高エネルギー光の照射に加えて超音波を照射することによりクロロホルムからのホスゲンの生成量は増大し、カーボネートが高収率で得られた。
【0050】
実施例5: ビス(ヘキサフルオロイソプロピル)カーボネートの合成
【化4】
実施例1で用いた反応システムの反応容器内に精製クロロホルム(20mL,250mmol)、ヘキサフルオロイソプロパノール(20mmol)、およびピリジン(24mmol)を加えた。反応容器を超音波洗浄機(「1510J-MT」BRANSONIC社製)の水浴中に浸漬し、酸素ガスを0.5L/分でバブリングさせ、70W,42kHzの超音波と、前記低圧水銀ランプから高エネルギー光を照射しつつ、30℃で1時間または1.5時間反応させた。次いで、反応後溶液の温度を50℃に上げて反応液からホスゲンを留去し、室温に戻した後、塩化メチレンを内部標準として添加し、1H-NMRで分析し、カーボネートの生成量を求めた。結果を表5に示す。
【0051】
【表5】
【0052】
表5に示される結果の通り、高エネルギー光の照射に加えて超音波を照射することよりクロロホルムからのホスゲンの生成量は増大し、カーボネートが高収率で得られた。
【0053】
実施例6: 超音波によるホスゲン生成の加速効果
【化5】
二口ナスフラスコに精製クロロホルム(20mL,250mmol)とシクロヘキシルアミン(1mL,8.7mmol)を加えた。反応容器を超音波洗浄機(「1510J-MT」BRANSONIC社製)の水浴中に浸漬し、酸素ガスを0.5L/分でバブリングさせ、70W,42kHzの超音波を照射しつつ、通常の室内光下、表6に示す温度で16時間反応させた。
反応後、反応液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液とクロロホルムを加えて分液した。得られた有機相を乾燥し、減圧濃縮した。得られた残渣をアセトンに分散させて脱色し、濾取することにより、灰白色固体であるジシクロヘキシルウレアを得た。収量と収率を表6に示す。
【0054】
【表6】
【0055】
表6に示される結果の通り、超音波を照射することにより、高エネルギー光を照射しなくても通常の室内光下でクロロホルムを分解することができ、ホスゲンが得られた。但し、温度が低過ぎると分解反応が進行し難く、また、温度が高過ぎるとホスゲンが揮発してしまいアミン化合物と反応できないようであった。
【0056】
実施例7: 超音波によるホスゲン生成の加速効果
ハロゲン化炭化水素をクロロホルムから四塩化炭素またはテトラクロロエタンに変更した以外は実施例6と同様にして実験を行った。また、比較のために、超音波を照射しない以外は同様にして実験を行った。結果を表7に示す。
【0057】
【表7】
【0058】
表7に示される結果の通り、通常の室内光下、クロロホルムではないハロゲン化炭化水素を用いた場合であっても、超音波の照射により、ハロゲン化炭化水素が分解されてホスゲンが生成することが示された。
【0059】
実施例8: 超音波によるホスゲン生成の加速効果
二口ナスフラスコにブロモホルム(20mL,230mmol)とシクロヘキシルアミン(1mL,8.7mmol)を加えた。反応容器を超音波洗浄機(「1510J-MT」BRANSONIC社製)の水浴中に浸漬し、酸素ガスを0.5L/分でバブリングさせ、70W,42kHzの超音波を照射しつつ、通常の室内光下、50℃で16時間反応させた。
反応後、反応液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液とクロロホルムを加えて分液した。得られた有機相を乾燥し、減圧濃縮した。得られた残渣をアセトンに分散させて脱色し、濾取することにより、灰白色固体であるジシクロヘキシルウレアを得、シクロヘキシルアミンに対する収率を算出した。
また、比較のために、表8に示す条件で同様の実験を行った。なお、強力超音波を照射した場合には、超音波洗浄機を「US-303」エスエヌディ社製,300W,38kHzに変更した。収量と収率を表8に示す。
【0060】
【表8】
【0061】
表8に示される結果の通り、酸素ガスを用いない場合には、超音波を照射してもブロモホルムは分解できず、ブロモホスゲンは生成していないようであった。それに対して、酸素ガスを導入しつつ超音波を照射すれば、通常の室内光下であっても、ブロモホルムを分解することができ、ブロモホスゲンが生成して反応が進行した。
また、通常の室内光下で超音波を照射してクロロホルムを分解した例に比べて、ブロモホルムを用いた方が収率は高い傾向が認められた。その理由としては、クロロホルムのC-Cl結合の結合エネルギーとブロモホルムのC-Br結合の結合エネルギーとの差が考えられる。
但し、強力な超音波を照射した場合には、収率が低下する傾向が認められた。その理由としては、超音波により反応液中の酸素が脱気されてしまったことが考えられる。
【0062】
実施例9: 超音波によるホスゲン生成の加速効果
【化6】
実施例1で用いた反応システムの反応容器内に精製クロロホルム(20mL,250mmol)と1-ヘキサノール(1.25mL,10mmol)を加えた。反応容器を超音波洗浄機(「1510J-MT」BRANSONIC社製)の水浴中に浸漬し、2Lの酸素ガスバックを光反応容器に取り付け、70W,42kHzの超音波と、前記低圧水銀ランプから高エネルギー光を照射しつつ0℃で3時間反応させた。次いで、温度を50℃に上げて反応液からホスゲンを留去した後、反応液を減圧濃縮した。得られた残渣に塩化メチレンを内部標準として添加し、1H-NMRで分析し、クロロギ酸エステルの生成量を求めた。
また、比較のために、超音波を照射しなかった以外は同様にして、生成クロロギ酸エステル量を求めた。結果を表9に示す。
【0063】
【表9】
【0064】
表9に示される結果の通り、反応液中に酸素ガスを吹き込まない場合であっても、気相中に十分量の酸素が存在した状態で超音波を照射することにより、ハロゲン化炭化水素が効率的に分解されてホスゲンが生成することが示された。
【0065】
実施例10: 超音波によるホスゲン生成の加速効果
【化7】
中央に直径30mmの石英ガラスジャケットを装着した筒状反応容器(直径70mm)を用意し、石英ガラスジャケットに低圧水銀ランプ(「UVL20PH-6」SEN Light社製,20W,φ24×120mm,波長:185~600nm,ピーク波長:254nm)を入れ、反応容器内にジクロロメタン(40mL,625mmol)とテトラクロロメタン(40mL,412mmol)を加えた。反応容器を超音波洗浄機(「1510J-MT」BRANSONIC社製)の水浴中に浸漬し、ジクロロメタンとテトラクロロメタンの混合溶液中に酸素ガスをPTFEチューブから0.2L/分でバブリングさせ、70W,42kHzの超音波と、前記低圧水銀ランプから高エネルギー光を照射しつつ、25℃で4時間反応させた。次いで、生じたホスゲンを定量するために、1-ブタノール(1.3mL,10mmol)を添加した。反応中、反応容器から排出されるガスは、ブタノールトラップ(25mL,273mmol)に導入し、ガス中に含まれるホスゲンを捕捉した。
反応後、反応液を1H-NMRで分析し、生成したクロロギ酸エステルとカーボネートの生成量を求めた。また、ブタノールトラップ溶液も1H-NMRで分析し、生成したクロロギ酸エステルとカーボネートの生成量を求めた。生成したホスゲンが全て1-ブタノールトラップと反応してクロロギ酸エステルまたはカーボネートに変換されたと仮定して、生成ホスゲン量を求め、使用したジクロロメタンとテトラクロロメタンに対するホスゲンの収率を算出した。
また、比較のために、超音波を照射しなかった以外は同様にして、生成ホスゲン量を求めた。結果を表10に示す。
【0066】
【表10】
【0067】
表10に示される結果の通り、2種のハロゲン化炭化水素を用いる場合であっても、超音波を照射することにより、ハロゲン化炭化水素が分解とホスゲンの生成を促進できることが示された。
【符号の説明】
【0068】
1:反応容器, 2:光照射手段, 3:超音波発生装置の水浴,
4:ジャケット, 5:冷却管
図1