(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】蓄電池のデータ抽出装置及び蓄電池のデータ抽出方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/392 20190101AFI20240624BHJP
G01R 31/389 20190101ALI20240624BHJP
G01R 31/385 20190101ALI20240624BHJP
G01R 31/382 20190101ALI20240624BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20240624BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
G01R31/392
G01R31/389
G01R31/385
G01R31/382
H01M10/48 P
H02J7/00 Y
(21)【出願番号】P 2022538516
(86)(22)【出願日】2020-07-20
(86)【国際出願番号】 JP2020028161
(87)【国際公開番号】W WO2022018810
(87)【国際公開日】2022-01-27
【審査請求日】2023-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000003942
【氏名又は名称】日新電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】吉田 翔治
(72)【発明者】
【氏名】西川 裕二
(72)【発明者】
【氏名】大嶋 涼
(72)【発明者】
【氏名】沖田 優斗
(72)【発明者】
【氏名】長岡 直人
【審査官】永井 皓喜
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-138884(JP,A)
【文献】特開2016-48617(JP,A)
【文献】特開2019-204712(JP,A)
【文献】国際公開第2017/002953(WO,A1)
【文献】特開2016-225154(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/36
G01R 19/00
H01M 10/48
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電池の劣化診断が可能な検出値データを所定サンプリング間隔で格納する記憶部と、
前記記憶部に格納された検出値データから前記蓄電池の過渡応答時に係るデータを抽出するデータ抽出部とを備えた蓄電池のデータ抽出装置であって、
前記データ抽出部は、
前記蓄電池の検出値に基づくCレート値又は電流値若しくは電力値が急変する変動区間、前記変動区間の前区間及び前記変動区間の後区間の少なくとも3区間に分け、
前記前区間では、前記Cレート値又は電流値若しくは電力値の変動が第1閾値以下で第1時間以上継続する前区間の安定推移の判定と、
前記変動区間では、前記Cレート値又は電流値若しくは電力値が第2時間以内で第2閾値以上変動する変動区間の急変推移の判定と、
前記後区間では、前記Cレート値又は電流値若しくは電力値の変動が第3閾値以下で第3時間以上継続する後区間の安定推移の判定とを実施し、
前記各判定に基づくデータ抽出条件を満たした場合に前記記憶部から該当の過渡応答時に係るデータを抽出するように構成され、
前記データ抽出部は、
前記前区間において更に、前記Cレート値又は電流値若しくは電力値の大きさが第4閾値以下かを判定するように構成された、
蓄電池のデータ抽出装置。
【請求項2】
前記前区間において更に、前記蓄電池の検出値に基づく電圧値の変動が第5閾値以下かを判定するように構成された、
請求項1に記載の蓄電池のデータ抽出装置。
【請求項3】
前記データ抽出部は、
前記変動区間において更に、前記Cレート値又は電流値若しくは電力値の急変推移が第4時間以内に収束したかを判定するように構成された、
請求項1又は請求項2に記載の蓄電池のデータ抽出装置。
【請求項4】
前記データ抽出部は、
前記変動区間における前記Cレート値又は電流値若しくは電力値の変化点付近に生じ得る局所的な近似推移が前記後区間における安定推移と誤判定しないように構成された、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の蓄電池のデータ抽出装置。
【請求項5】
前記データ抽出部は、
前記前区間において更に、前記Cレート値又は電流値若しくは電力値の変動が第5時間以内かを判定し、前記第5時間を超えた場合、前記記憶部の格納したデータの前記第1時間を超えた分を削除するように構成された、
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の蓄電池のデータ抽出装置。
【請求項6】
前記データ抽出部は、
前記Cレート値に基づいて前記各判定を行うように構成された、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の蓄電池のデータ抽出装置。
【請求項7】
蓄電池の劣化診断が可能な検出値データを所定サンプリング間隔で記憶部に格納し、前記記憶部に格納された検出値データから前記蓄電池の過渡応答時に係るデータを抽出する蓄電池のデータ抽出方法であって、
前記蓄電池の検出値に基づくCレート値又は電流値若しくは電力値が急変する変動区間、前記変動区間の前区間及び前記変動区間の後区間の少なくとも3区間に分け、
前記前区間では、前記Cレート値又は電流値若しくは電力値の変動が第1閾値以下で第1時間以上継続する前区間の安定推移を判定し、
前記変動区間では、前記Cレート値又は電流値若しくは電力値が第2時間以内で第2閾値以上変動する変動区間の急変推移を判定し、
前記後区間では、前記Cレート値又は電流値若しくは電力値の変動が第3閾値以下で第3時間以上継続する後区間の安定推移を判定し、
前記各判定に基づくデータ抽出条件を満たした場合に前記記憶部から該当の過渡応答時に係るデータを抽出し
、
前記前区間において更に、前記Cレート値又は電流値若しくは電力値の大きさが第4閾値以下かを判定する、
蓄電池のデータ抽出方法。
【請求項8】
前記前区間において更に、前記蓄電池の検出値に基づく電圧値の変動が第5閾値以下かを判
定する、
請求項7に記載の蓄電池のデータ抽出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電池の過渡応答解析による劣化診断を行うための蓄電池のデータ抽出装置及び蓄電池のデータ抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
再生可能エネルギーの有効利用や災害時の電力供給を目的として、リチウムイオン電池を適用した定置用蓄電池システムの導入が拡大しつつある。充放電や経年に伴い劣化していく蓄電池の健全性や特性を把握することはシステムを運用していく上で非常に重要であり、蓄電池の劣化状態を把握・診断することが行われる。
【0003】
蓄電池の劣化診断技術としては、稼動中の蓄電池の過渡応答特性を用いる例えば特許文献1に開示の技術がある。特許文献1に開示の技術は、蓄電池の過渡応答時の電流値データを抽出し、抽出した過渡応答時の電流値データの解析に基づいて蓄電池の劣化診断を行うというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、上記手法による蓄電池の劣化診断の精度向上を図るために、蓄電池からより有用な過渡応答時の電流値等のデータを抽出することが有効な手段の一つであると考えている。即ち、蓄電池の劣化診断の精度を高める過渡応答特性を厳選すべく狙いの過渡応答特性を適切に捉え、より有用な過渡応答時の電流値等のデータを抽出することが蓄電池の劣化診断の精度向上に繋がると考えている。
【0006】
本発明の目的は、蓄電池の劣化診断の精度向上を可能とした蓄電池のデータ抽出装置及び蓄電池のデータ抽出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する蓄電池のデータ抽出装置は、蓄電池の劣化診断が可能な検出値データを所定サンプリング間隔で格納する記憶部と、前記記憶部に格納された検出値データから前記蓄電池の過渡応答時に係るデータを抽出するデータ抽出部とを備えた蓄電池のデータ抽出装置であって、前記データ抽出部は、前記蓄電池の検出値に基づくCレート値又は電流値若しくは電力値が急変する変動区間、前記変動区間の前区間及び前記変動区間の後区間の少なくとも3区間に分け、前記前区間では、前記Cレート値又は電流値若しくは電力値の変動が第1閾値以下で第1時間以上継続する前区間の安定推移の判定と、前記変動区間では、前記Cレート値又は電流値若しくは電力値が第2時間以内で第2閾値以上変動する変動区間の急変推移の判定と、前記後区間では、前記Cレート値又は電流値若しくは電力値の変動が第3閾値以下で第3時間以上継続する後区間の安定推移の判定とを実施し、前記各判定に基づくデータ抽出条件を満たした場合に前記記憶部から該当の過渡応答時に係るデータを抽出するように構成される。
【0008】
上記抽出装置によれば、データ抽出部は、蓄電池のCレート値又は電流値若しくは電力値に基づき、急変前の前区間では第1閾値以下の変動で第1時間以上継続したかによる前区間の安定推移を判定し、変動区間では第2時間以内で第2閾値以上の変動したかによる変動区間の急変推移を判定し、後区間では第3閾値以下の変動で第3時間以上継続したかによる後区間の安定推移を判定する。そして、各判定に基づくデータ抽出条件を満たした場合に、データ抽出部は、記憶部から該当の過渡応答時に係るデータを抽出する。つまり、過渡応答時の前区間、変動区間及び後区間それぞれにおいて条件を満たした望ましい過渡応答特性を示した場合に、記憶部から該当のデータの抽出が行われる。また、過渡応答時に係るデータ抽出となると変動区間の急変推移に着目しがちであるが、本発明者の検討において前区間及び後区間において所定時間以上の安定推移も重要と考え、それを判定に盛り込んでいるため、より望ましい過渡応答特性を示すデータの抽出が可能である。従って、こうして抽出したデータに基づく蓄電池の劣化診断は、より高精度に行うことが十分期待できる。
【0009】
上記蓄電池のデータ抽出装置において、前記データ抽出部は、前記前区間において更に、前記Cレート値又は電流値若しくは電力値の大きさが第4閾値以下かを判定、又は、前記前区間において更に、前記蓄電池の検出値に基づく電圧値の変動が第5閾値以下かを判定、若しくは、その両方を判定するように構成されることが好ましい。
【0010】
上記態様によれば、データ抽出部は、前区間におけるCレート値又は電流値若しくは電力値の大きさが第4閾値以下かを判定、又は、前区間における蓄電池の電圧値の変動が第5閾値以下かを判定、若しくは、その両方を判定する。つまり、データ抽出部は、前区間の安定推移をより望ましく規定するため、より望ましい過渡応答特性を示すデータ抽出が可能となり、蓄電池の劣化診断の一層の精度向上が期待できる。
【0011】
上記蓄電池のデータ抽出装置において、前記データ抽出部は、前記変動区間において更に、前記Cレート値又は電流値若しくは電力値の急変推移が第4時間以内に収束したかを判定するように構成されることが好ましい。
【0012】
上記態様によれば、データ抽出部は、変動区間におけるCレート値又は電流値若しくは電力値の急変推移が第4時間以内に収束したかを更に判定する。つまり、データ抽出部は、変動区間の急変推移をより望ましく規定するため、より望ましい過渡応答特性を示すデータ抽出が可能となり、蓄電池の劣化診断の一層の精度向上が期待できる。
【0013】
上記蓄電池のデータ抽出装置において、前記データ抽出部は、前記変動区間における前記Cレート値又は電流値若しくは電力値の変化点付近に生じ得る局所的な近似推移が前記後区間における安定推移と誤判定しないように構成されることが好ましい。
【0014】
ここで、変動区間におけるCレート値又は電流値若しくは電力値の変化点付近では局所的な近似推移が生じ得るため、後区間における安定推移と誤判定し易い。するとこの場合、望ましい過渡応答特性を示すデータがあっても、後区間の安定推移と誤判定すると、データ抽出が行われない虞がある。上記態様によれば、データ抽出部は、変動区間においてCレート値等の変化点付近に生じ得る局所的な近似推移を後区間の安定推移と誤判定しない構成のため、望ましい過渡応答特性を示すデータを少しでも多く抽出することが可能となる。
【0015】
上記蓄電池のデータ抽出装置において、前記データ抽出部は、前記前区間において更に、前記Cレート値又は電流値若しくは電力値の変動が第5時間以内かを判定し、前記第5時間を超えた場合、前記記憶部の格納したデータの前記第1時間を超えた分を削除するように構成されることが好ましい。
【0016】
上記態様によれば、データ抽出部は、前区間におけるCレート値又は電流値若しくは電力値の変動が第5時間以内かを更に判定する。そして、第5時間を超えた場合、データ抽出部は、記憶部の格納したデータの第1時間を超えた分を削除する。つまり、記憶部にて格納するデータ数が抑制され、記憶容量の小さい安価な記憶装置を用いることも可能となる。
【0017】
上記蓄電池のデータ抽出装置において、前記データ抽出部は、前記Cレート値に基づいて前記各判定を行うように構成されることが好ましい。
【0018】
上記態様によれば、データ抽出部は、Cレート値に基づいて各判定が行われる。つまり、Cレート値は、蓄電池の充放電スピードを示す指標であるため、種々の電池容量の蓄電池を対象に共通で用いることができ、データ抽出装置の汎用性向上が期待できる。
【0019】
上記課題を解決する蓄電池のデータ抽出方法は、蓄電池の劣化診断が可能な検出値データを所定サンプリング間隔で記憶部に格納し、前記記憶部に格納された検出値データから前記蓄電池の過渡応答時に係るデータを抽出する蓄電池のデータ抽出方法であって、前記蓄電池の検出値に基づくCレート値又は電流値若しくは電力値が急変する変動区間、前記変動区間の前区間及び前記変動区間の後区間の少なくとも3区間に分け、前記前区間では、前記Cレート値又は電流値若しくは電力値の変動が第1閾値以下で第1時間以上継続する前区間の安定推移を判定し、前記変動区間では、前記Cレート値又は電流値若しくは電力値が第2時間以内で第2閾値以上変動する変動区間の急変推移を判定し、前記後区間では、前記Cレート値又は電流値若しくは電力値の変動が第3閾値以下で第3時間以上継続する後区間の安定推移を判定し、前記各判定に基づくデータ抽出条件を満たした場合に前記記憶部から該当の過渡応答時に係るデータを抽出する。
【0020】
上記抽出方法によれば、上記抽出装置と同様に、より望ましい過渡応答特性を示すデータの抽出が可能となるため、蓄電池の劣化診断をより高精度に行うことが十分期待できる。
【0021】
上記蓄電池のデータ抽出方法において、前記前区間において更に、前記Cレート値又は電流値若しくは電力値の大きさが第4閾値以下かを判定、又は、前記前区間において更に、前記蓄電池の検出値に基づく電圧値の変動が第5閾値以下かを判定、若しくは、その両方を判定することが好ましい。
【0022】
上記態様によれば、上記抽出装置と同様に、一層望ましい過渡応答特性を示すデータの抽出が可能となるため、蓄電池の劣化診断を一層高精度に行うことが十分期待できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の蓄電池のデータ抽出装置及び蓄電池のデータ抽出方法によれば、蓄電池の劣化診断の精度向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】蓄電池の劣化診断を説明するためのシステム全体の構成図。
【
図2】第1実施形態の蓄電池のデータ抽出処理のフロー図。
【
図3】第1実施形態の蓄電池のデータ抽出処理に係る説明図。
【
図4】蓄電池のデータ抽出処理の一部変更例を示すフロー図。
【
図5】蓄電池のデータ抽出処理の一部変更例に係る説明図。
【
図6】第1実施形態の蓄電池の実測定パターン1を示す波形図。
【
図7】第1実施形態の蓄電池の実測定パターン2を示す波形図。
【
図8】第1実施形態の蓄電池の実測定パターン3を示す波形図。
【
図9】比較例の蓄電池の実測定パターン4を示す波形図。
【
図10】比較例の蓄電池の実測定パターン5を示す波形図。
【
図11】過渡応答解析で用いる蓄電池の等価回路を示す回路図。
【
図12】第1実施形態及び比較例の過渡応答解析の結果図。
【
図13】第2実施形態の蓄電池のデータ抽出処理のフロー図。
【
図14】第2実施形態の蓄電池のデータ抽出処理に係る説明図。
【
図15】第2実施形態の対比に用いる第1実施形態の過渡応答解析の結果図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(第1実施形態)
以下、蓄電池のデータ抽出装置及びその抽出方法の第1実施形態について説明する。
【0026】
図1に示すように、再生可能エネルギーを用いる分散型電源としての太陽光発電システム11は、太陽光パネル12と太陽光発電用パワーコンディショナ13とを備える。太陽光発電システム11は、太陽光パネル12で発電された直流電力を太陽光発電用パワーコンディショナ13にて商用交流電力に変換し、変換した交流電力を系統連系設備10を介して電力系統に供給可能に構成されている。蓄電池システム14は、定置用リチウムイオン電池等よりなる蓄電池15と蓄電池用パワーコンディショナ16とを備え、太陽光発電システム11に併設されている。蓄電池システム14は、発電電力が大きく変動し得る太陽光発電システム11の出力電力の変化率が所定値以下となるように出力平滑化用の蓄電池15を充放電させ、蓄電池用パワーコンディショナ16の電力変換を通じて電力系統に対する出力変動を抑制するものである。
【0027】
蓄電池システム14には、計測器17が設置されている。計測器17は、電流計18、電圧計19及び温度計20等である。電流計18は、蓄電池15の充放電電流を検出しその検出信号をデータ抽出装置21に出力する。電圧計19は、蓄電池15の入出力電圧を検出しその検出信号をデータ抽出装置21に出力する。温度計20は、蓄電池15の温度や周囲温度等を検出しその検出信号をデータ抽出装置21に出力する。
【0028】
データ抽出装置21は、記憶部22とデータ抽出部23とを備える。記憶部22は、所定サンプリング間隔で、電流計18からの検出信号に基づく電流値データ、電圧計19からの検出信号に基づく電圧値データ、温度計20からの検出信号に基づく温度データがそれぞれ格納可能である。データ抽出部23は、本実施形態では電流値データに基づいて算出可能な蓄電池15のCレート値の変化態様が所定の充放電特性(過渡応答特性)を示したことをデータ抽出条件として、記憶部22から電流値データ、電圧値データ及び温度データを時刻データとともに電池劣化診断装置24に出力する。蓄電池15のCレート値は、蓄電池15の充放電スピードを示す指標であり、種々の電池容量の蓄電池15を対象に共通で用いることが可能な有用パラメータである。データ抽出部23のデータ抽出条件(データ抽出処理)の詳細については後述する。
【0029】
電池劣化診断装置24は、データ抽出部23から抽出された蓄電池15の抽出データに基づいて、
図11に示す蓄電池15の等価回路25を用いて過渡応答解析を行う。即ち、電池劣化診断装置24は、時刻と紐付けされた蓄電池15の電流値、電圧値及び温度に基づく過渡応答解析値と、予め格納された過渡応答解析の判定基準値とを比較し、蓄電池15の劣化診断を行う。
【0030】
次に、データ抽出部23における本実施形態のデータ抽出処理について、
図2及び
図3等を用いて説明する。
【0031】
本実施形態のデータ抽出処理では、Cレート値の過渡応答時の前区間、変動区間、後区間のいずれにおいても望ましい変化をしている場合に限り、蓄電池15の電流値、電圧値及び温度のデータの抽出が行われる。
【0032】
データ抽出処理のステップS1では、抽出処理開始直後又は前回処理時に設定される時刻t0での蓄電池15のCレート値を基準のC0値と設定し、以降のサンプリング周期の時刻tn毎のCn値との差分|C0-Cn|を算出する。この時刻t0は、過渡応答前の前区間の基準となる時刻となる。
【0033】
ステップS2では、差分|C0-Cn|の閾値α以下となる時間が時刻t0から時間T1以上継続したかを判定する。なお、閾値αは、例えば0.005~0.1[C]である。時間T1は、例えば10~5000[s]であり、本実施形態では変動区間の後述の時間T4を基準とした場合にその時間T4の0.1~10倍程度の時間長さに設定される。基準の時間T4は、例えば1~500[s]である。即ち、このステップS2では、過渡応答前の前区間において、Cレート値が閾値α以下の小さな変動で時間T1以上安定して推移したかを判定する。差分|C0-Cn|が閾値α以下で時間T1以上継続していない場合(判定NO)、ステップS3に進み、時刻tnを改めて時刻t0に更新し、処理をステップS1に戻す。
【0034】
一方、上記ステップS2において、差分|C0-Cn|が閾値α以下で時間T1以上継続したと判定すると(判定YES)、ステップS4に進む。
【0035】
ステップS4では、差分|C0-Cn|の閾値α以下となった時間が時刻t0から時間T2以内かを判定する。なお、時間T2は、例えば200~50000[s]であり、本実施形態では時間T1の2~100倍程度の時間長さに設定される。差分|C0-Cn|の閾値α以下の時間が時刻t0から時間T2を超えたと判定すると(判定NO)、ステップS5に進み、記憶部22にて時刻と紐付けされて格納された電流値、電圧値及び温度の各種データの時間(T2-T1)分を削除し、記憶部22に残した時間T1分のデータの先頭の時刻を時刻t0に更新する。つまり、記憶部22にて格納するデータ数の抑制を図ることで、記憶容量の小さい安価な記憶装置を用いることも可能である。
【0036】
一方、上記ステップS4において、差分|C0-Cn|の閾値α以下の時間が時刻t0から時間T2以内であると判定すると(判定YES)、ステップS6に進む。即ち、ステップS6に進むには、差分|C0-Cn|の閾値α以下となる時間が時刻t0から時間T1以上継続しかつ時間T2以内である場合である。
【0037】
ステップS6では、所定の時刻taから時間T3以内に差分|C0-Cn|の閾値β以上となるデータが存在するかを判定する。なお、閾値βは、例えば0.1~10[C]であり、本実施形態では閾値αの5~1000倍程度の値に設定される。時間T3は、例えば1~200[s]であり、本実施形態では時間T4の0.1~0.8倍程度の時間長さに設定される。即ち、このステップS6では、Cレート値が時間T3以内の短時間で閾値β以上の大きな変動が生じたかを判定する。時刻taは、過渡応答の変動区間の基準となる時刻となる。時刻taから時間T3以内に差分|C0-Cn|の閾値β以上のデータが存在していない場合(判定NO)、上記ステップS3に進み、時刻tnを改めて時刻t0に更新し、処理をステップS1に戻す。
【0038】
一方、ステップS6において、時刻taから時間T3以内に差分|C0-Cn|が閾値β以上のデータが存在すると判定すると(判定YES)、ステップS7に進む。
【0039】
ステップS7では、差分|C0-Cn|が閾値β以上となる時刻tbから時刻的に並ぶ2つのCレート値の差分|Cn-Cn+1|を算出する。
【0040】
ステップS8では、差分|Cn-Cn+1|の閾値γ以下となるデータが上記時刻taから時間T4以内に存在するかを判定する。閾値γは、例えば0.005~0.1[C]であり、本実施形態では閾値αと同じ値に設定される。即ち、このステップS8では、Cレート値の上記急変を含め、時間T4以内に再び閾値γの小さな変動に安定したかを判定する。差分|Cn-Cn+1|の閾値γ以下のデータが時刻taから時間T4以内に存在していない場合(判定NO)、上記ステップS3に進み、時刻tnを改めて時刻t0に更新し、処理をステップS1に戻す。
【0041】
一方、ステップS8において、差分|Cn-Cn+1|の閾値γ以下のデータが時刻taから時間T4以内に存在すると判定すると(判定YES)、ステップS9に進む。
【0042】
ステップS9では、差分|Cn-Cn+1|が閾値γ以下となる時刻tdでのCレート値を基準のCd値と設定し、以降のサンプリング周期の時刻tn毎のCn値との差分|Cd-Cn|を算出する。この時刻tdは、過渡応答後の後区間の基準となる時刻となる。
【0043】
ステップS10では、差分|Cd-Cn|の閾値γ以下となる時間が時刻tdから時間T5以上継続したかを判定する。即ち、このステップS10では、過渡応答後の後区間において、Cレート値が閾値γ以下の小さな変動で時間T5以上安定して推移したかを判定する。なお、時間T5は、例えば10~5000[s]であり、本実施形態では時間T1の0.1~10倍程度の時間長さに設定される。差分|Cd-Cn|が閾値γ以下で時間T5以上継続していない場合(判定NO)、ステップS11に進む。
【0044】
ステップS11では、上記ステップS10で判定NOとなった時刻以降のCレート値の差分|Cn-Cn+1|を算出する。
【0045】
ステップS12では、上記ステップS10で判定NOとなったデータを除き、時刻taから時間T4以内に差分|Cn-Cn+1|の閾値γ以下となるデータが存在するかを判定する。時間T4以内に差分|Cn-Cn+1|の閾値γ以下のデータが存在していない場合(判定NO)、上記ステップS3に進み、時刻tnを改めて時刻t0に更新し、処理をステップS1に戻す。
【0046】
一方、ステップS12において、上記ステップS10で判定NOとなったデータを除き、時間T4以内に差分|Cn-Cn+1|の閾値γ以下のデータが存在すると判定すると(判定YES)、上記ステップS9に進む。
【0047】
ここで、途中までCレート値に望ましい過渡応答が生じている場合であっても、変化点付近(
図3の時刻t
b付近)では時刻的に並ぶ2つのCレート値が近似する場合があり、差分|C
n-C
n+1|が閾値γ以内となり得る。しかしながら、時間T
5以上の継続は難いため、上記ステップS10で判定NOの後、仮にステップS3を経てステップS1に戻す処理フローを構成したとすると、望ましい過渡応答のデータ抽出機会を1つ失うことになり兼ねない。そのため本実施形態では、処理フローをステップS11,S12のように構成し、上記ステップS10で判定NOとなってもステップS12にて判定YESとなる場合は上記ステップS9に戻し、処理を継続させて、望ましい過渡応答のデータ抽出機会が極力多く得られるようにしている。
【0048】
そして、上記ステップS10において、差分|Cd-Cn|の閾値γ以下の時間が時刻tdから時間T5以上継続したと判定すると(判定YES)、Cレート値が所望の過渡応答特性を示したものであるとして、ステップS13に進む。ステップS13では、蓄電池15の一連の電流値、電圧値及び温度を時刻とともに記憶部22から抽出し、電池劣化診断装置24に出力する。
【0049】
なお、データ抽出処理の変更例としては、Cレート値の過渡応答が始まる直前の時刻t
aから時間T
4の計時を開始したが、
図4及び
図5に示すように、Cレート値の過渡応答が閾値β以上となった直後の時刻t
bから時間T
4の計時を開始し、この時間T
4を
図4に示したステップS8aでの判定に用いてもよい。また、図示しないが、
図2に示したステップS12で用いる時間T
4の計時開始は時刻t
bに変更となる。なお、
図5に示す時間T
4は、例えば時間T
3と同じ時間長さに設定される。
【0050】
このようにして、上記ステップS1,S2を経ることでCレート値の前区間の変化態様が厳選され、次いで上記ステップS6~S8を経ることで変動区間の変化態様が厳選され、更に上記ステップS9,S10を経ることで後区間の変化態様が厳選される。そして、これらを経ることで得られる蓄電池15の電流値、電圧値及び温度は、厳選した望ましい過渡応答特性を示したものであるから、電池劣化診断装置24での劣化診断の精度はより高いものとなることが十分に期待できる。
【0051】
因みに、
図6に示すCレート値の変化態様(パターン1)、
図7に示すCレート値の変化態様(パターン2)、
図8に示すCレート値の変化態様(パターン3)は、いずれも本実施形態の上記処理フローを経て得られる望ましい過渡応答特性を示すものである。一方、
図9に示すCレート値の変化態様(パターン4)は、時間T
1が条件を逸脱する比較例の態様、
図10に示すCレート値の変化態様(パターン5)は、時間T
3と時間T
4とが条件を逸脱する比較例の態様である。これら各パターン1~5の過渡応答解析結果は、
図11に示す蓄電池15の等価回路25のRi値として表され、
図12に示す通りである。図中の破線は、Ri値の真値である。
【0052】
パターン4,5の過渡応答特性を示す比較例の抽出データに基づく蓄電池15の劣化診断は、
図12の破線にて示した真値からのずれは比較的大きく、診断精度が高いとまでは言えない。これに対し、パターン1~3の過渡応答特性を示す本実施形態の抽出データに基づく蓄電池15の劣化診断は、
図12の破線にて示した真値からのずれは非常に小さく、精度高く診断が行われていることがわかる。こうして、本実施形態のように過渡応答特性を厳選しその厳選した蓄電池15のデータのみを抽出して劣化診断に用いることで、蓄電池15の劣化診断の精度向上を図ることが可能である。
【0053】
本実施形態の効果について説明する。
【0054】
(1-1)データ抽出部23は、蓄電池15のCレート値に基づき、急変前の前区間では閾値α(第1閾値)以下の変動で時間T1(第1時間)以上継続したかによる前区間の安定推移を判定する。次いで、変動区間では時間T3(第2時間)以内で閾値β(第2閾値)以上の変動したかによる変動区間の急変推移を判定する。次いで、後区間では閾値γ(第3閾値)以下の変動で時間T5(第3時間)以上継続したかによる後区間の安定推移を判定する。そして、各判定を含むデータ抽出条件を満たした場合に、データ抽出部23は、記憶部22から該当の過渡応答時に係るデータを抽出する。つまり、過渡応答時の前区間、変動区間及び後区間それぞれにおいて条件を満たした望ましい過渡応答特性を示した場合に、記憶部22から該当のデータの抽出が行われる。また、過渡応答時に係るデータ抽出となると変動区間の急変推移に着目しがちであるが、本発明者の検討において前区間及び後区間において所定時間(時間T1及び時間T5)以上の安定推移も重要と考え、それを判定に盛り込んでいるため、より望ましい過渡応答特性を示すデータの抽出が行われている。従って、こうしてデータ抽出装置21にて抽出したデータに基づく電池劣化診断装置24による蓄電池15の劣化診断は、より高精度に行うことを十分期待することができる。
【0055】
(1-2)データ抽出部23は、変動区間におけるCレート値の急変推移が時間T4(第4時間)以内に収束したかを更に判定する。つまり、データ抽出部23は、変動区間の急変推移をより望ましく規定するため、より望ましい過渡応答特性を示すデータ抽出が可能となり、蓄電池15の劣化診断の一層の精度向上が期待できる。
【0056】
(1-3)データ抽出部23は、変動区間においてCレート値の変化点付近(
図3の時刻t
b付近)に生じ得る局所的な近似推移を後区間の安定推移と誤判定しない構成(ステップS11,S12の処理含む)のため、望ましい過渡応答特性を示すデータを少しでも多く抽出することができる。
【0057】
(1-4)データ抽出部23は、前区間におけるCレート値の変動が時間T2(第5時間)以内かを更に判定する。時間T2(第5時間)を超えた場合、データ抽出部23は、記憶部22の格納したデータの時間T1(第1時間)を超えた分(時間T2-T1分)を削除する。つまり、記憶部22にて格納するデータ数を抑制でき、記憶容量の小さい安価な記憶装置を用いることも可能である。
【0058】
(1-5)データ抽出部23は、本実施形態ではCレート値に基づく各判定を行う構成である。Cレート値は、蓄電池15の充放電スピードを示す指標であるため、種々の電池容量の蓄電池15を対象に共通で用いることができ、データ抽出装置21の汎用性向上が期待できる。
【0059】
(第2実施形態)
以下、蓄電池のデータ抽出装置及びその抽出方法の第2実施形態について説明する。
【0060】
本実施形態におけるデータ抽出部23のデータ抽出処理は、上記第1実施形態のデータ抽出処理(
図2参照)の一部を変更している。以下では、その変更点を中心に
図13及び
図14等を用いて説明する。
【0061】
本実施形態のデータ抽出処理では、上記第1実施形態のデータ抽出処理のステップS4とステップS6との間に新たにステップSaが挿入されている。ステップS4までにおいては、過渡応答前の前区間において、Cレート値の差分|C0-Cn|が閾値α以下の小さな変動でそのCレート値が安定して推移したかが判定されている。Cレート値が所望の安定推移と判定されると、ステップSaに進む。
【0062】
ステップSaでは、前区間の時間T1における蓄電池15のCレート値の大きさ|Cmax|が閾値α2以下かを判定する(第1態様とする)。Cレート値の大きさ|Cmax|は、本実施形態では例えばピーク値とする。なお、閾値α2としては、例えば0.005~0.1[C]である。又は、その判定に替えて、前区間の時間T1における蓄電池15の電圧値の変動分Vmax-Vminが閾値αv以下かの判定を行うようにしてもよい(第2態様とする)。電圧値の変動分Vmax-Vminは、本実施形態では例えば最大値と最小値との差分とする。なお、閾値αvとしては、例えば0.5~50[mV]である。また更に、それらの判定に替えて、前区間の時間T1における蓄電池15のCレート値の大きさ|Cmax|が閾値α2以下かの判定、及び蓄電池15の電圧値の変動分Vmax-Vminが閾値αv以下かの判定の両者の判定をともに行うようにしてもよい(第3態様とする)。
【0063】
これは、後の過渡応答特性を示すデータの抽出において、前区間におけるCレート値の安定推移が閾値α2以下のゼロ[C]付近で推移しているものに厳選することで、蓄電池15の劣化診断が一層高精度に行えるためである(詳細は後述)。また、Cレート値がゼロ[C]からオフセットするとこれと相関のある電圧値が変動するため、電圧値の変動分Vmax-Vminが閾値αv以下の小さい推移のものに厳選することで、蓄電池15の劣化診断を一層高精度に行えることに繋げられるためである。更に、これら両者を考慮することで、蓄電池15の劣化診断をより一層高精度に行えることに繋げられる。
【0064】
従って、ステップSaにおいて、Cレート値の大きさ|Cmax|が閾値α2を超える、又は電圧値の変動分Vmax-Vminが閾値αvを超える、更にはその両者がともに閾値α2,αvを超える場合(判定NO)、処理をステップS1に戻す。
【0065】
一方、ステップSaにおいて、Cレート値の大きさ|Cmax|が閾値α2以下、又は電圧値の変動分Vmax-Vminが閾値αv以下、更にはその両者がともに閾値α2,αv以下と判定すると(判定YES)、ステップS6に進み、上記第1実施形態と同様のデータ抽出処理となる。つまり、ステップSaを追加することで得られる過渡応答特性を示す抽出データは、第1実施形態後よりも一層厳選した望ましいものとなることが期待できる。
【0066】
図15は、蓄電池の健全性(劣化度)を示すSOHの異なる3つの蓄電池15のサンプルに対し、上記第1実施形態のデータ抽出処理にて得た抽出データに基づく過渡応答解析結果が示されている。劣化度小の蓄電池15のサンプル1は真値を含むばらつきx0、劣化度中の蓄電池15のサンプル2は真値を含むばらつきy0、劣化度大の蓄電池15のサンプル3は真値を含むばらつきz0であり、上記第1実施形態のデータ抽出処理にて得られる抽出データもばらつきが十分に小さいものとなっている。
【0067】
これに対し、
図16は、本実施形態の第1態様、即ちCレート値の大きさ|C
max|が閾値α
2以下としたデータ抽出処理にて得た抽出データに基づく過渡応答解析結果が示されている。劣化度小の蓄電池15のサンプル1は真値を含むばらつきx1、劣化度中の蓄電池15のサンプル2は真値を含むばらつきy1、劣化度大の蓄電池15のサンプル3は真値を含むばらつきz1であり、本実施形態の第1形態のデータ抽出処理にて得られる抽出データは、十分にばらつきの小さい上記第1実施形態を基準とすると、一層ばらつきが小さいものとなっている。
【0068】
また、
図17は、本実施形態の第2態様、即ち電圧値の変動分V
max-V
minが閾値α
v以下としたデータ抽出処理にて得た抽出データに基づく過渡応答解析結果が示されている。劣化度小の蓄電池15のサンプル1は真値を含むばらつきx2、劣化度中の蓄電池15のサンプル2は真値を含むばらつきy2、劣化度大の蓄電池15のサンプル3は真値を含むばらつきz2であり、本実施形態の第2形態のデータ抽出処理にて得られる抽出データは、十分にばらつきの小さい上記第1実施形態を基準とすると、ばらつきが若干ながらも一層小さいものとなっている。
【0069】
更に、
図18は、本実施形態の第3態様、即ち第1及び第2態様の両判定を経て得た抽出データに基づく過渡応答解析結果が示されている。劣化度小の蓄電池15のサンプル1は真値を含むばらつきx3、劣化度中の蓄電池15のサンプル2は真値を含むばらつきy3、劣化度大の蓄電池15のサンプル3は真値を含むばらつきz3であり、本実施形態の第3形態のデータ抽出処理にて得られる抽出データは、十分にばらつきの小さい上記第1実施形態を基準とすると、より一層ばらつきが小さいものとなっている。
【0070】
本実施形態の特有の効果について説明する。なお、上記第1実施形態と同様の効果については省略する。
【0071】
(2-1)本実施形態のデータ抽出処理の第1~第3態様にて得られる抽出データは、前区間の安定推移をより望ましく規定し、上記第1実施形態の抽出データからより望ましいものを厳選するものである。従って、こうした抽出データに基づく蓄電池15の劣化診断は、一層高精度に行うことを十分期待することができる。
【0072】
上記各実施形態は、以下のように変更して実施することができる。
【0073】
・各実施形態の時間T1~T5の各時間長さや閾値α,β,γ,α2,αvの値は一例であり、適宜変更してもよい。
【0074】
・各実施形態のデータ抽出処理(処理フロー)は一例であり、適宜変更してもよい。例えばステップS4等の時間T2に関する処理を省略してもよい。また、ステップS8等の時間T4に関する処理を省略してもよい。また、ステップS10の判定NOの場合、ステップS3に進む構成とし、ステップS11,S12を省略してもよい。また、各実施形態では、前区間、変動区間、後区間の順に処理を実施する構成であったが、処理する順序はこれに限らず、例えば変動区間の処理を先に実施する構成としてもよい。また、時間T1~T5は、タイマによる計時の他、サンプリング数のカウントによる計時等も含む。
【0075】
・蓄電池15のCレート値に基づいたデータ抽出処理を行う構成としたが、蓄電池15の電流値や電力値等を用いても各実施形態のデータ抽出処理と同様に構成することが可能である。
【0076】
・太陽光発電システム11に併設された蓄電池15の劣化診断に適用したが、太陽光以外の再生可能エネルギーを用いる分散型電源に併設の蓄電池の劣化診断や、ピークカット・ピークシフト、自家消費等に用いる蓄電池の劣化診断に適用してもよい。
【0077】
本発明がその技術的思想から逸脱しない範囲で他の特有の形態で具体化されてもよいということは当業者にとって明らかであろう。例えば、実施形態(あるいはその1つ又は複数の態様)において説明した構成のうちの一部を省略したり、いくつかの構成を組み合わせてもよい。本発明の範囲は、添付の請求の範囲を参照して、請求の範囲が権利を与えられる均等物の全範囲と共に確定されるべきである。
【符号の説明】
【0078】
11…太陽光発電システム
12…太陽光パネル
13…太陽光発電用パワーコンディショナ
14…蓄電池システム
15…蓄電池
16…蓄電池用パワーコンディショナ
17…計測器
18…電流計
19…電圧計
20…温度計
21…データ抽出装置
22…記憶部
23…データ抽出部
24…電池劣化診断装置
25…等価回路
α…閾値(第1閾値)
α2…閾値(第4閾値)
αv…閾値(第5閾値)
β…閾値(第2閾値)
γ…閾値(第3閾値)
T1…時間(第1時間)
T2…時間(第5時間)
T3…時間(第2時間)
T4…時間(第4時間)
T5…時間(第3時間)