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特許7508061フルオレン化合物およびその製造方法ならびにその前駆体および重合体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】フルオレン化合物およびその製造方法ならびにその前駆体および重合体
(51)【国際特許分類】
   C07C 49/798 20060101AFI20240624BHJP
   C07C 45/65 20060101ALI20240624BHJP
   C08G 75/02 20160101ALI20240624BHJP
【FI】
C07C49/798 CSP
C07C45/65
C08G75/02
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020022593
(22)【出願日】2020-02-13
(65)【公開番号】P2021127317
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2023-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】591147694
【氏名又は名称】大阪ガスケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼坂 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】大山 真賢
(72)【発明者】
【氏名】安田 理恵
(72)【発明者】
【氏名】宮内 信輔
【審査官】高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-133888(JP,A)
【文献】特開2004-189715(JP,A)
【文献】国際公開第2014/050690(WO,A1)
【文献】特開2011-236415(JP,A)
【文献】特開2012-197259(JP,A)
【文献】BONDARENKO, V. E. et.al.,Unsaturated mono- and di-ketones,Zhurnal Obshchei Khimii,1966年,Vol.2, No.6,pp.1060-1063
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるフルオレン化合物。
【化1】
(式中、Rアルキル基、シクロアルキル基、またはこれらを2種以上組み合わせた基を示し、kは0~2の整数を示し
2aおよびR2bはそれぞれ独立してアルキル基を示し、m1およびm2はそれぞれ独立して0~3の整数を示し、
3aおよびR3bはそれぞれ独立して水素原子またはアルキル基を示し、R4aおよびR4bはそれぞれ独立して水素原子、アルキル基またはハロゲン原子を示す。)
【請求項2】
式(1)において、R3aおよびR3bが水素原子またはメチル基であり、R4aおよびR4bが水素原子である請求項1記載のフルオレン化合物。
【請求項3】
下記式(2)
【化2】
(式中、X1aおよびX1bはそれぞれ独立してハロゲン原子、ヒドロキシル基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、カーボネート基[-O-C(=O)-O-R X1 ](式中、R X1 は水素原子または炭化水素基を示す。)、カルバメート基[-O-C(=O)-N(R X1 ](式中、R X1 はそれぞれ独立して水素原子または炭化水素基を示す。)、およびスルホ基[-SO H]から選択された脱離基を示し、
、k、R2aおよびR2b、m1およびm2、R3aおよびR3b ならびに4aおよびR それぞれ式(1)に同じ。)
で表される化合物を脱離反応させて、請求項1または2に記載のフルオレン化合物を製造する方法。
【請求項4】
請求項3記載の式(2)で表される化合物。
【請求項5】
請求項1または2に記載のフルオレン化合物を重合成分として含む樹脂。
【請求項6】
さらに、ジチオール成分を重合成分として含む請求項5記載の樹脂。
【請求項7】
ジチオール成分が、脂肪族ジチオール成分または芳香族ジチオール成分を含む請求項6記載の樹脂。
【請求項8】
ジチオール成分が、アルカンジチオールおよびビス(メルカプトアリール)スルフィドから選択された少なくとも一種のジチオール成分を含む請求項6または7に記載の樹脂。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(メタ)アクリロイル基などのアクリロイル骨格(または置換されていてもよいアクリロイル基)を有する新規なフルオレン化合物、前記化合物を重合成分として含む重合体(または樹脂)、および前記化合物の前駆体、ならびにこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コールタールから産出されるフルオレンは、π共役系を有する芳香族化合物であり、剛直で対称性に優れた化学構造を有するとともに、反応性に富むユニークな炭化水素である。このような構造的または化学的特徴から、フルオレンは様々なファインケミカル材料の出発物質として利用されている。例えば、フルオレン骨格を形成するベンゼン環を化学修飾した誘導体は、液晶材料や光機能材料、有機EL色素などとして利用されている。また、9位に2つの芳香環を置換したフルオレン化合物は、高耐熱性、高屈折率、高透明性などの優れた特性を示すポリマーを調製可能な機能性モノマーなどとして有効に利用でき、工業的に生産されている。
【0003】
一方、フルオレン骨格を利用した新たなファインケミカル材料の開発に注目が集まっている。例えば、特開2011-236415号公報(特許文献1)には、芳香族骨格および2つのエチレン性不飽和結合を有する不飽和化合物と、ジチオール化合物とのエンチオール反応(チオール-エン反応)により得られる熱可塑性樹脂について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-236415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の実施例では、9,9-ビスフェニルフルオレン骨格を有する不飽和化合物を用いて熱可塑性樹脂が調製されており、フルオレン骨格の1~8位にアクリロイル骨格を有する化合物については何ら記載されていない。
【0006】
従って、本発明の目的は、高い耐熱性を示す樹脂を形成可能な新規な化合物、前記化合物を重合成分として含む樹脂、および前記化合物の前駆体、ならびにこれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、特定の化学構造を有するフルオレン化合物が、高い耐熱性を示す樹脂を形成可能であることを見いだし、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明のフルオレン化合物は、下記式(1)で表される。
【0009】
【化1】
【0010】
(式中、Rは置換基を示し、kは0~2の整数を示し、実線と破線との二重線(または結合)は単結合または二重結合を示し、
2aおよびR2bはそれぞれ独立して置換基を示し、m1およびm2はそれぞれ独立して0~3の整数を示し、
3aおよびR3bはそれぞれ独立して水素原子またはアルキル基を示し、R4aおよびR4bはそれぞれ独立して水素原子、アルキル基またはハロゲン原子を示す)。
【0011】
前記式(1)において、R3aおよびR3bが水素原子またはメチル基であり、R4aおよびR4bが水素原子であってもよい。
【0012】
本発明は、下記式(2)で表される化合物を脱離反応させて、前記式(1)で表されるフルオレン化合物を製造する方法、および下記式(2)で表される化合物を包含する。
【0013】
【化2】
【0014】
(式中、X1aおよびX1bはそれぞれ独立してハロゲン原子などの脱離基を示し、
、k、R2aおよびR2b、m1およびm2、R3aおよびR3b、R4aおよびR4bならびに実線と破線との二重線はそれぞれ前記式(1)に同じ)。
【0015】
また、本発明は、前記式(1)で表されるフルオレン化合物を重合成分として含む樹脂も包含する。前記樹脂は、さらに、ジチオール成分を重合成分として含んでいてもよい。前記ジチオール成分は、脂肪族ジチオール成分または芳香族ジチオール成分を含んでいてもよい。前記ジチオール成分は、アルカンジチオールおよびビス(メルカプトアリール)スルフィドから選択された少なくとも一種のジチオール成分を含んでいてもよい。
【0016】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、置換基の炭素原子の数をC、C、C10などで示すことがある。例えば、「Cアルキル基」は炭素数が1のアルキル基を意味し、「C6-10アリール基」は炭素数が6~10のアリール基を意味する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の新規なフルオレン化合物は、特定の化学構造を有しているため、高い耐熱性を示す樹脂を形成できる。また、耐溶剤性にも優れた樹脂を形成することもできる。さらに、高い屈折率や透明性などの光学特性に優れた樹脂を形成することもできる。また、前記フルオレン化合物はビニルケトン型のアクリル化合物であるため、求電子性(求核剤との反応性)またはモノマーとしての反応性(重合性)に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、実施例1で得られた化合物(2,7-ビス(3-クロロプロパノイル)フルオレン)のH NMRスペクトルである。
図2図2は、実施例2で得られたフルオレン化合物(2,7-ビス(アクリロイル)フルオレン)のH NMRスペクトルである。
図3図3は、実施例3で得られた化合物(2,7-ビス(アクリロイル)フルオレンと1,10-デカンジチオールとの重合体)のH NMRスペクトルである。
図4図4は、実施例4で得られた化合物(2,7-ビス(アクリロイル)フルオレンと3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオールとの重合体)のH NMRスペクトルである。
図5図5は、実施例6で得られた化合物(2,7-ビス(アクリロイル)フルオレンとエチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオナート))のH NMRスペクトルである。
図6図6は、実施例7で得られた化合物(2,7-ビス(3-クロロプロパノイル)-9,9-ジメチルフルオレン)のH NMRスペクトルである。
図7図7は、実施例8で得られた化合物(2,7-ジアクリロイル-9,9-ジメチルフルオレン)のH NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の(メタ)アクリロイル基などのアクリロイル骨格を有する新規なフルオレン化合物は、下記式(1)で表される。
【0020】
[式(1)で表されるフルオレン化合物]
【0021】
【化3】
【0022】
(式中、Rは置換基を示し、kは0~2の整数を示し、
【0023】
【化4】
【0024】
で表される結合(すなわち、実線と破線との二重線で表される結合)は単結合または二重結合を示し、
2aおよびR2bはそれぞれ独立して置換基を示し、m1およびm2はそれぞれ独立して0~3の整数を示し、
3aおよびR3bはそれぞれ独立して水素原子またはアルキル基を示し、R4aおよびR4bはそれぞれ独立して水素原子、アルキル基またはハロゲン原子を示す)。
【0025】
前記式(1)において、Rで表される置換基としては、例えば、炭化水素基、ヒドロキシル基、ヒドロキシアリール基、ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、置換アミノ基、ハロゲン原子などの1価の基、酸素原子(またはオキソ基[=O])などの2価の基などが挙げられる。
【0026】
炭化水素基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、およびこれらの炭化水素基を2種以上組み合わせた(結合した)基などが挙げられる。
【0027】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、n-デシル基、n-ドデシル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-20アルキル基などが挙げられ、好ましくは直鎖状または分岐鎖状C1-12アルキル基、さらに好ましくは直鎖状または分岐鎖状C1-6アルキル基が挙げられる。
【0028】
シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのC5-10シクロアルキル基などが挙げられ、好ましくはC5-8シクロアルキル基が挙げられる。
【0029】
アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基(1-ナフチル基、2-ナフチル基)、ビフェニリル基、アントリル基、フェナントリル基などのC6-14アリール基、好ましくはC6-10アリール基が挙げられる。
【0030】
炭化水素基を2種以上組み合わせた(結合した)基としては、例えば、アルキルアリール基、アラルキル基などが挙げられる。アルキルアリール基としては、例えば、メチルフェニル基(トリル基)、ジメチルフェニル基(キシリル基)などのモノまたはジC1-6アルキルC6-10アリール基などが挙げられる。アラルキル基としては、例えば、フェニルメチル基(ベンジル基)、2-フェニルエチル基(フェネチル基)などのC6-10アリールC1-6アルキル基などが挙げられる。
【0031】
ヒドロキシアリール基としては、例えば、ヒドロキシフェニル基、アルキルヒドロキシフェニル基、アリールヒドロキシフェニル基、ヒドロキシナフチル基などの置換されていてもよいヒドロキシC6-12アリール基などが挙げられ、置換基としては、例えば、アルキル基、アリール基などの炭化水素基などが挙げられる。
【0032】
ヒドロキシフェニル基としては、例えば、4-ヒドロキシフェニル基などが挙げられる。
【0033】
アルキルヒドロキシフェニル基としては、例えば、4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル基、4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル基などの(モノまたはジ)C1-4アルキルヒドロキシフェニル基などが挙げられる。
【0034】
アリールヒドロキシフェニル基としては、例えば、4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル基(または6-ヒドロキシ-3-ビフェニリル基)などのフェニルヒドロキシフェニル基(またはヒドロキシビフェニリル基)が挙げられる。
【0035】
ヒドロキシナフチル基としては、例えば、6-ヒドロキシ-2-ナフチル基、5-ヒドロキシ-1-ナフチル基などが挙げられる。
【0036】
ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール基としては、例えば、上記ヒドロキシアリール基で例示した具体的な基に対応して、ヒドロキシル基をヒドロキシ(ポリ)アルコキシ基に置き換えた基、すなわち、ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル基、アルキルヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル基、アリールヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル基、ヒドロキシ(ポリ)アルコキシナフチル基などの置換されていてもよいヒドロキシ(ポリ)C2-4アルコキシC6-12アリール基などが挙げられる。置換基としては、例えば、アルキル基、アリール基などの炭化水素基などが挙げられる。
【0037】
ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル基としては、例えば、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル基、4-(2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル基、4-(2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ)フェニル基などのヒドロキシ(モノないしデカ)C2-3アルコキシ-フェニル基などが挙げられる。
【0038】
アルキルヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル基としては、例えば、4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メチルフェニル基、4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3,5-ジメチルフェニル基などの(モノまたはジ)C1-4アルキル-ヒドロキシ(モノないしデカ)C2-3アルコキシ-フェニル基などが挙げられる。
【0039】
アリールヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル基としては、例えば、4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル基[または6-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-ビフェニリル基]などのフェニル-ヒドロキシ(モノないしデカ)C2-3アルコキシ-フェニル基[またはヒドロキシ(モノないしデカ)C2-3アルコキシ-ビフェニリル基]などが挙げられる。
【0040】
ヒドロキシ(ポリ)アルコキシナフチル基としては、例えば、6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル基、5-(2-ヒドロキシエトキシ)-1-ナフチル基などのヒドロキシ(モノないしデカ)C2-3アルコキシ-ナフチル基などが挙げられる。
【0041】
アルコキシカルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル基などのC2-6アルコキシ-カルボニル基などが挙げられる。
【0042】
置換アミノ基としては、例えば、アルキルアミノ基、アシルアミノ基などが挙げられる。アルキルアミノ基としては、例えば、ジメチルアミノ基などのモノまたはジアルキルアミノ基が挙げられ、アシルアミノ基としては、例えば、ジアセチルアミノ基などのモノまたはジアシルアミノ基などが挙げられる。
【0043】
ハロゲン原子としては、例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。
【0044】
好ましいRとしては、アルキル基などの炭化水素基であり、より好ましくはメチル基、ヘキシル基、デシル基などのC1-12アルキル基、さらに好ましくは以下段階的に、C1-10アルキル基、C1-8アルキル基、C1-6アルキル基、C1-4アルキル基、C1-3アルキル基、C1-2アルキル基、メチル基である。
【0045】
なお、Rが前記2価の基である場合、Rはフルオレン環の9位に二重結合で結合し、kは1であり;Rが1価の基である場合、Rはフルオレン環の9位に単結合で結合し、kは1または2であり;kが0(無置換)である場合、フルオレン環の9位には水素原子が結合する。また、kが2である場合、2つのR(1価の基)の種類は、互いに異なっていてもよいが、同一であるのが好ましい。
【0046】
の係数kは、0~2のいずれの整数であってもよく、0または2が好ましい。
【0047】
2aおよびR2bで表される置換基としては、例えば、アルキル基、アリール基などの炭化水素基、シアノ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子などが挙げられる。前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-6アルキル基などが挙げられ、アリール基としては、例えば、フェニル基などのC6-10アリール基などが挙げられる。
【0048】
m1、m2が1以上である場合、好ましいR2a、R2bは直鎖状または分岐鎖状C1-4アルキル基などのアルキル基、シアノ基、ハロゲン原子が好ましく、さらに好ましくはアルキル基、特にメチル基などのC1-3アルキル基が好ましい。
【0049】
2a、R2bの置換数m1、m2は、例えば0~2程度の整数、好ましくは0または1、さらに好ましくは0である。m1およびm2は互いに異なっていてもよいが、同一が好ましい。また、m1およびm2が1以上である場合、フルオレン骨格を構成する異なるベンゼン環に置換するR2aおよびR2bの種類は、互いに同一または異なっていてもよく、m1、m2が2以上である場合、同一のベンゼン環に置換する2以上のR2a、R2bの種類は、互いに同一または異なっていてもよい。また、R2a、R2bの置換位置は、特に制限されず、基[-C(=O)-CR3a=CHR4a]、[-C(=O)-CR3b=CHR4b](以下、アクリロイル骨格含有基ともいう)の置換位置以外の位置に置換していればよい。
【0050】
3aおよびR3bで表されるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-10アルキル基などが挙げられ、好ましくは直鎖状または分岐鎖状C1-6アルキル基、さらに好ましくは直鎖状または分岐鎖状C1-4アルキル基、なかでも直鎖状または分岐鎖状C1-3アルキル基、特にメチル基が好ましい。
【0051】
好ましいR3aおよびR3bとしては、水素原子である。なお、R3aおよびR3bの種類は互いに異なっていてもよいが、同一が好ましい。
【0052】
4aおよびR4bで表されるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-10アルキル基などが挙げられる。
【0053】
4aおよびR4bで表されるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。
【0054】
好ましいR4aおよびR4bとしては、水素原子である。なお、R4aおよびR4bの種類は互いに異なっていてもよいが、同一が好ましい。
【0055】
2つのアクリロイル骨格含有基の置換位置は特に制限されないが、好ましくは2,7位である。
【0056】
前記式(1)で表される代表的なフルオレン化合物としては、R3aおよびR3bが水素原子またはメチル基であり、R4aおよびR4bが水素原子であるフルオレン化合物などが挙げられ、例えば、2,7-ビス[(メタ)アクリロイル]フルオレンなどのビス[(メタ)アクリロイル]フルオレン;9,9-ジメチル-2,7-ビス[(メタ)アクリロイル]フルオレンなどの9,9-ジアルキル-ビス[(メタ)アクリロイル]フルオレンなどが挙げられ、好ましくは2,7-ビス(アクリロイル)フルオレン、2,7-ビス(メタクリロイル)フルオレンなどの2,7-ビス[(メタ)アクリロイル]フルオレン;9,9-ジメチル-2,7-ビス(アクリロイル)フルオレン、9,9-ジメチル-2,7-ビス(メタクリロイル)フルオレンなどの9,9-ジC1-4アルキル-2,7-ビス[(メタ)アクリロイル]フルオレンが挙げられる。
【0057】
[式(1)で表されるフルオレン化合物の製造方法]
前記式(1)で表されるフルオレン化合物の製造方法は特に制限されないが、代表的には下記反応工程により調製できる。
【0058】
【化5】
【0059】
(式中、X1aおよびX1bは、それぞれ独立して脱離基を示し、X2aおよびX2bは、それぞれ独立してハロゲン原子を示し、
、k、R2aおよびR2b、m1およびm2、R3aおよびR3b、R4aおよびR4bならびに実線と破線との二重線は、それぞれ好ましい態様を含めて前記式(1)に同じ)。
【0060】
(式(2)で表される化合物の調製)
前記式(2)で表される化合物(単に、前駆体ともいう)は、前記式(3)で表される化合物と、前記式(4a)および(4b)で表される化合物とをフリーデル・クラフツ アシル化反応させることにより合成できる。
【0061】
前記式(3)で表される代表的な化合物としては、例えば、9H-フルオレン、9,9-ジメチルフルオレンなどのフルオレン類が挙げられる。
【0062】
前記式(4a)および(4b)[ならびに式(2)]において、X1aおよびX1bで表される脱離基としては、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、カーボネート基[-O-C(=O)-O-RX1]、カルバメート基[-O-C(=O)-N(RX1]、スルホ基[-SOH](またはスルホキシル基)などが挙げられる。なお、カーボネート基およびカルバメート基におけるRX1は、それぞれ独立して水素原子または炭化水素基を示す。
【0063】
ハロゲン原子としては、例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。
【0064】
アリールオキシ基としては、例えば、フェノキシ基などのC6-10アリールオキシ基などが挙げられる。
【0065】
アシルオキシ基としては、アセチルオキシ基などのC2-10アシルオキシ基などが挙げられる。
【0066】
カーボネート基[-O-C(=O)-O-RX1]およびカルバメート基[-O-C(=O)-N(RX1]において、RX1で表される炭化水素基としては、例えば、前記式(1)の項でRとして例示されたアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、およびこれらの炭化水素基を2種以上組み合わせた基と同様の基が挙げられる。
【0067】
カーボネート基[-O-C(=O)-O-RX1]としては、例えば、メトキシカルボニルオキシ基などのC1-10アルコキシカルボニルオキシ基などが挙げられる。
【0068】
カルバメート基[-O-C(=O)-N(RX1]としては、例えば、カルバモイルオキシ基;N-メチルカルバモイルオキシ基、N,N-ジメチルカルバモイルオキシ基などの(モノまたはジ)アルキル-カルバモイルオキシ基などが挙げられる。
【0069】
好ましいX1aおよびX1bとしてはハロゲン原子、アリールオキシ基、アシルオキシ基、カーボネート基、カルバメート基、スルホ基が挙げられ、さらに好ましくはハロゲン原子であり、特に塩素原子である。X1aおよびX1bの種類は互いに異なっていてもよいが、同一が好ましい。
【0070】
また、前記式(4a)および(4b)において、X2aおよびX2bで表されるハロゲン原子としては、例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられ、好ましくは塩素原子である。X2aおよびX2bの種類は互いに異なっていてもよいが、同一が好ましい。
【0071】
前記式(4a)および(4b)で表される代表的な化合物としては、例えば、R3aおよびR3bが水素原子またはメチル基であり、R4aおよびR4bが水素原子である化合物などが挙げられ、具体的には、3-クロロプロピオニルクロリドなどの3-ハロプロピオニルハライドなどが挙げられる。前記式(4a)および(4b)で表される化合物は、同一化合物であるのが好ましい。
【0072】
前記式(4a)および(4b)で表される化合物の合計使用割合は、前記式(3)で表される化合物1モルに対して、例えば2~10モル、好ましくは2.2~5モル、さらに好ましくは2.3~3モルである。
【0073】
フリーデル・クラフツ アシル化反応は、ルイス酸の存在下で反応させる。ルイス酸としては、例えば、塩化アルミニウム、臭化アルミニウムなどのハロゲン化アルミニウム、塩化鉄(III)などのハロゲン化鉄(III)、塩化亜鉛などのハロゲン化亜鉛、塩化スズ(II)などのハロゲン化スズ(II)、三フッ化ホウ素またはその錯体、具体的には、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体などの三フッ化ホウ素エーテル錯体などが挙げられる。
【0074】
これらのルイス酸は単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。好ましいルイス酸は、塩化アルミニウムなどのハロゲン化アルミニウムである。ルイス酸の使用割合は、前記式(3)で表される化合物1モルに対して、例えば2~10モル、好ましくは2.2~5モル、さらに好ましくは2.3~3モルである。
【0075】
フリーデル・クラフツ アシル化反応は、溶媒の存在下または非存在下で行ってもよい。溶媒としては、反応に不活性な溶媒であればよく、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタンなどのハロゲン化アルカン、ニトロベンゼンなどが挙げられる。これらの溶媒のうち、ジクロロメタンが好ましい。溶媒の使用割合は、特に制限されず、前記式(3)、(4a)および(4b)で表される化合物、ならびにルイス酸の総量100質量部に対して、例えば10~1000質量部程度であってもよい。
【0076】
反応は、不活性ガス雰囲気下、例えば、窒素ガス;ヘリウム、アルゴンなどの希ガスなどの雰囲気下で行ってもよい。反応温度は、例えば-20~50℃、好ましくは-10~30℃である。反応時間は特に制限されず、例えば1~48時間程度であってもよく、好ましくは12~24時間である。反応終了後、クエンチング(クエンチ処理)してもよく、例えば、氷水と濃塩酸との混合物などを添加してクエンチしてもよい。
【0077】
反応終了後、必要に応じて、反応混合物を、慣用の分離精製方法、例えば、洗浄、抽出、ろ過、脱水、濃縮、デカンテーション、再結晶、再沈殿、クロマトグラフィー、これらを組み合わせた方法などにより分離精製してもよい。
【0078】
このようにして得られる前記式(2)で表される代表的な化合物(前駆体)としては、例えば、2,7-ビス(3-クロロプロパノイル)フルオレンなどの2,7-ビス(3-ハロプロパノイル)フルオレン;9,9-ジメチル-2,7-ビス(3-クロロプロパノイル)フルオレンなどの9,9-ジアルキル-2,7-ビス(3-ハロプロパノイル)フルオレンなどが挙げられる。
【0079】
(式(1)で表される化合物の調製)
前記式(1)で表されるフルオレン化合物は、前記式(2)で表される化合物(前駆体)を脱離反応させることにより合成できる。脱離反応としては、E1cb反応であるのが好ましい。E1cb反応は、塩基の存在下で反応させる。塩基としては、例えば、無機塩基、有機塩基に大別できる。
【0080】
無機塩基としては、例えば、金属水酸化物、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウムなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物など;金属炭酸塩、具体的には、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウムなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属の炭酸塩など;金属炭酸水素塩、具体的には、炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属の炭酸水素塩などが挙げられる。
【0081】
有機塩基としては、例えば、アミン類、具体的には、トリエチルアミンなどのトリアルキルアミン、ベンジルジメチルアミンなどの芳香族第3級アミン、ピリジン、N-メチルモルホリンなどの複素環式アミンなどが挙げられる。
【0082】
これらの塩基は、単独でまたは2種以上組み合わせてもよい。これらの塩基のうち、アミン類、例えば、トリエチルアミンなどのトリアルキルアミンなどがよく利用される。塩基の使用割合は、例えば、前記式(2)で表される化合物(前駆体)1モルに対して、例えば、1~10モル、好ましくは3~7モル、さらに好ましくは4~6モルである。
【0083】
E1cb反応は、溶媒の存在下または非存在下で行ってもよい。溶媒としては、反応に不活性な溶媒であればよく、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタンなどのハロゲン化アルカンなどが挙げられる。これらの溶媒のうち、クロロホルムが好ましい。溶媒の使用割合は、特に制限されず、前記式(2)で表される化合物(前駆体)100質量部に対して、例えば、50~5000質量部程度であってもよい。
【0084】
反応は、不活性ガス雰囲気下、例えば、窒素ガス;ヘリウム、アルゴンなどの希ガスなどの雰囲気下で行ってもよい。反応温度は、例えば0~50℃、好ましくは10~40℃、さらに好ましくは20~35℃である。反応時間は特に制限されず、例えば1~48時間程度であってもよく、好ましくは12~36時間である。
【0085】
反応終了後、必要に応じて、反応混合物を、慣用の分離精製方法、例えば、洗浄、抽出、ろ過、脱水、濃縮、デカンテーション、再結晶、再沈殿、クロマトグラフィー、これらを組み合わせた方法などにより分離精製してもよい。
【0086】
なお、得られた前記式(1)で表される化合物の保存安定性を向上するために、重合禁止剤を添加してもよく、重合禁止剤の存在化で調製(反応)してもよい。重合禁止剤としては、例えば、ベンゾキノン;ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル(MEHQ)、t-ブチルヒドロキノン、p-ベンゾキノンなどのヒドロキノン類;p-t-ブチルカテコール、2-メトキシフェノールなどのカテコール類;N,N-ジエチルヒドロキシルアミンなどのアミン類;1,1-ジフェニル-2-ピクリルヒドラジル;トリ-p-ニトロフェニルメチル;フェノチアジンなどが挙げられる。重合禁止剤は、単独でまたは2種以上組み合わせてもよい。重合禁止剤の割合は、前記式(1)で表される化合物の100質量部に対して、例えば0.001~10質量部程度であってもよく、通常、前記式(1)で表される化合物に対して500ppm程度であってもよい。
【0087】
[式(1)で表されるフルオレン化合物を重合成分として含む樹脂]
前記式(1)で表される化合物は(メタ)アクリロイル基などの2つのアクリロイル骨格を有しているため、アクリロイル骨格の不飽和結合を用いて、重合成分(モノマー)または架橋剤などとして利用し、樹脂(重合体)を形成してもよい。
【0088】
樹脂は、重合成分または架橋剤として前記式(1)で表されるフルオレン化合物を少なくとも含んでいればよい。樹脂は、例えば、前記式(1)で表される化合物を加熱して硬化(または単独重合)した硬化物(または硬化フィルム)などの硬化性樹脂(または前記式(1)で表されるフルオレン化合物を含む硬化性組成物を硬化した硬化物)であってもよく、熱可塑性樹脂であってもよい。これらの樹脂のうち、熱可塑性樹脂が好ましい。
【0089】
熱可塑性樹脂としては、例えば、前記式(1)で表されるフルオレン化合物を少なくとも含むジエン成分と、ジチオール成分とを含む重合成分をチオール-エン反応により重合(または重付加)した重合体などが挙げられる。このような重合体は、前記式(1)で表されるフルオレン化合物に由来する下記式(1P)で表される構成単位と、ジチオール成分に由来する下記式(5)で表される構成単位(ジチオール単位)とを含んでいる。
【0090】
【化6】
【0091】
(式中、R、k、R2aおよびR2b、m1およびm2、R3aおよびR3b、R4aおよびR4bならびに実線と破線とで表される二重線は、それぞれ好ましい態様を含めて前記式(1)に同じ)。
【0092】
【化7】
【0093】
(式中、Rdtは、ジチオール成分の残基を示す)。
【0094】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、ジチオール成分(またはジチオール)の残基とは、ジチオール成分の2つのチオール基を除いた部分を意味する。
【0095】
また、ジエン単位(ジエン成分に由来する構成単位)とジチオール単位とは、通常、化学構造中に交互にあらわれることが多い。
【0096】
(ジエン成分)
重合成分としてのジエン成分は、前記式(1)で表されるフルオレン化合物を少なくとも含んでいる。前記式(1)で表されるフルオレン化合物は、単独でまたは2種以上組み合わせてもよい。
【0097】
ジエン成分は、必要に応じて、前記式(1)で表されるフルオレン化合物とは異なる他のジエン成分を含んでいてもよい。他のジエン成分としては、例えば、ジアリルエーテル類、ジアリルスルフィド類、ジアリルエステル類、ジアリルカーボネート類、ビスアリルフェノール類、ジアリルアミン類、ジアリル尿素類、ジアリルイソシアヌレート類、ジアリルシラン類、アルカジエン類などが挙げられる。
【0098】
ジアリルエーテル類としては、例えば、ジアリルエーテル;エチレングリコールジアリルエーテル、ジエチレングリコールジアリルエーテル、ポリエチレングリコールジアリルエーテル、プロピレングリコールジアリルエーテル、ブチレングリコールジアリルエーテル、ヘキサンジオールジアリルエーテルなどの(ポリ)アルキレングリコールジアリルエーテル;グリセリンジアリルエーテル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、ペンタエリスリトールジアリルエーテルなどのポリヒドロキシアルカンのジアリルエーテル;ビフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールSなどのビまたはビスフェノール類(またはそのアルキレンオキシド付加体(アルキレンカーボネート付加体またはハロアルカノール付加体))のジアリルエーテル;水添ビスフェノールAのジアリルエーテルなどの前記ビまたはビスフェノール類(またはそのアルキレンオキシド付加体)のジアリルエーテルの水添物;イソソルビドジアリルエーテルなどの複素環骨格を有するジアリルエーテル;これらのジアリルエーテル化合物の少なくとも1つのアリル基をメタリル基に置き換えた化合物などが挙げられる。
【0099】
ジアリルスルフィド類としては、例えば、ジアリルスルフィド;ジアリルスルフィドの少なくとも1つのアリル基をメタリル基に置き換えた化合物などが挙げられる。
【0100】
ジアリルエステル類としては、例えば、コハク酸ジアリル、グルタル酸ジアリル、アジピン酸ジアリル、ドデカン二酸ジアリル、リンゴ酸ジアリルなどの飽和脂肪族ジカルボン酸ジアリル;1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル、4-メチル-1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル、5-メチル-1,4-シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル、5-クロロ-1,4-シクロヘキサンジカルボン酸ジアリルなどのシクロアルカンジカルボン酸ジアリル;2,6-デカリンジカルボン酸ジアリル、1,3-アダマンタンジカルボン酸ジアリル、トリシクロデカンジメタノールジカルボン酸ジアリルなどの飽和ビまたはトリシクロアルカンジカルボン酸ジアリル;フタル酸ジアリルエステル、イソフタル酸ジアリル、テレフタル酸ジアリル、メチルテレフタル酸ジアリル、テトラクロルフタル酸ジアリル、1,4-ナフタレンジカルボン酸ジアリル、1,5-ナフタレンジカルボン酸ジアリル、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジアリル、2,7-ナフタレンジカルボン酸ジアリル、m,m’-ビフェニルジカルボン酸ジアリル、p,p’-ビフェニルジカルボン酸ジアリルなどのアレーンジカルボン酸ジアリル;ビス(4-カルボキシフェニル)エーテルのジアリルエステルなどのビス(カルボキシアリール)エーテルのジアリルエステル;ビス(4-カルボキシフェニル)ケトンのジアリルエステルなどのビス(カルボキシアリール)ケトンのジアリルエステル;ビス(4-カルボキシフェニル)スルホンのジアリルエステルなどのビス(カルボキシアリール)スルホンのジアリルエステル;これらのジアリルエステル化合物の少なくとも1つのアリル基をメタリル基に置き換えた化合物などが挙げられる。
【0101】
ジアリルカーボネート類としては、例えば、ジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)などの(ポリ)アルキレングリコールビス(アリルカーボネート);これらのジアリルカーボネート化合物の少なくとも1つのアリル基をメタリル基に置き換えた化合物などが挙げられる。
【0102】
ビスアリルフェノール類としては、例えば、2,2’-ビス(3-アリル-4-ヒドロキシフェニル)プロパンなどのビス(アリル-ヒドロキシアリール)アルカン、マグノロール、ホオノキオールなどのビ(アリル-ヒドロキシアリール);これらのビスアリルフェノール化合物の少なくとも1つのアリル基をメタリル基に置き換えた化合物などが挙げられる。
【0103】
ジアリルアミン類としては、例えば、ジアリルアミン;ジアリルメチルアミンなどのジアリルアルキルアミン;これらのジアリルアミン化合物の少なくとも1つのアリル基をメタリル基に置き換えた化合物などが挙げられる。
【0104】
ジアリル尿素類としては、例えば、1,3-ジアリル尿素;ジアリル尿素化合物の少なくとも1つのアリル基をメタリル基に置き換えた化合物などが挙げられる。
【0105】
ジアリルイソシアヌレート類としては、例えば、ジアリルイソシアヌレート;ジアリル-プロピルイソシアヌレートなどのジアリル-アルキルイソシアヌレート;ジアリルグリシジルイソシアヌレート;これらのジアリルイソシアヌレート化合物の少なくとも1つのアリル基をメタリル基に置き換えた化合物などが挙げられる。
【0106】
ジアリルシラン類としては、例えば、ジアリルジメチルシランなどのジアリルジアルキルシラン、ジアリルジフェニルシランなどのジアリルジアリールシラン;これらのジアリルシラン化合物の少なくとも1つのアリル基をメタリル基に置き換えた化合物などが挙げられる。
【0107】
アルカジエン類としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、ビアリル(または1,5-ヘキサジエン);これらのジアリルエーテル化合物の少なくとも1つのアリル基をメタリル基に置き換えた化合物などが挙げられる。
【0108】
他のジエン成分は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0109】
ジエン成分に由来するジエン単位は、前記式(1P)で表される構成単位を少なくとも含んでいればよい。前記式(1P)で表されるジエン単位の割合は、ジエン単位全体に対して、例えば10モル%以上、好ましい範囲としては、以下段階的に、30モル%以上、50モル%以上、60モル%以上、70モル%以上、80モル%以上、90モル%以上、95モル%以上であり、実質的に100モル%であるのがさらに好ましい。
【0110】
(ジチオール成分)
ジチオール成分としては、化学構造中に2つのチオール基(またはメルカプト基)を有する化合物であればよく、例えば、脂肪族ジチオール化合物、芳香族ジチオール化合物などが挙げられる。
【0111】
脂肪族ジチオール化合物としては、例えば、アルカンジチオール(またはジメルカプトアルカン)、ポリアルカンジチオール(またはポリチオキシアルキレンジチオール)、ジメルカプト(ポリ)オキサアルカン、シクロアルカンジチオール、ジメルカプトアルキルチアン類、脂肪族ポリオールとメルカプト脂肪酸とのジエステルなどが挙げられる。
【0112】
アルカンジチオール(またはジメルカプトアルカン)としては、例えば、メタンジチオール、1,2-エタンジチオール、1,1-ジルカプトエタン、1,2-プロパンジチオール、1,3-プロパンジチオール、1,1-ジルカプトプロパン、2,2-ジメルカプトプロパン、1,4-ブタンジチオール、1,1-ジメルカプトブタン、2,2-ジメチルプロパン-1,3-ジチオール、1,1-ジメルカプト-2-メチルプロパン、1,6-ヘキサンジチオール、1,8-オクタンジチオール、1,10-デカンジチオールなどのC1-20アルカンジチオールなどが挙げられる。
【0113】
ポリアルカンジチオール(またはポリチオキシアルキレンジチオール)としては、例えば、ビス(2-メルカプトエチル)スルフィド、1,2-ビス(2-メルカプトエチルチオ)エタンなどのポリC2-10アルカンジチオールなどが挙げられる。
【0114】
ジメルカプト(ポリ)オキサアルカンとしては、例えば、1,5-ジメルカプト-3-オキサペンタン、1,8-ジメルカプト-3,6-ジオキサオクタン[または3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオール]、3,4-ジメトキシブタン-1,2-ジチオールなどのジメルカプトモノないしテトラオキサC2-20アルカンなどが挙げられる。
【0115】
シクロアルカンジチオールとしては、例えば、1,4-ジメルカプトシクロヘキサン、1,3-ジメルカプトシクロヘキサン、1,2-ジメルカプトシクロヘキサンなどのC5-8シクロアルカンジチオールなどが挙げられる。
【0116】
ジメルカプトアルキルチアン類としては、例えば、2,5-ビス(メルカプトメチル)-1-チアン、2,5-ビス(2-メルカプトエチル)-1-チアンなどのビス(メルカプトC1-4アルキル)チアン;2,5-ビス(メルカプトメチル)-1,4-ジチアン、2,5-ビス(2-メルカプトエチル)-1,4-ジチアンなどのビス(メルカプトC1-4アルキル)ジチアンなどが挙げられる。
【0117】
脂肪族ポリオールとメルカプト脂肪酸とのジエステルにおいて、脂肪族ポリオールとしては、例えば、(ポリ)アルカンジオール、具体的には、エチレングリコールなどの(ポリ)C2-10アルカンジオールなどが挙げられ;メルカプト脂肪酸としては、例えば、メルカプトアルカン酸、具体的には、メルカプト酢酸、3-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプト酪酸、4-メルカプト酪酸などのメルカプトC2-10アルカン酸などが挙げられる。代表的な脂肪族ポリオールとメルカプト脂肪酸とのジエステルとしては、例えば、アルカンジオールジ(メルカプトアルカノエート)、具体的には、エチレングリコールビス(2-メルカプトアセテート)、エチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)[またはエチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオナート)]、1,4-ブタンジオールビス(2-メルカプトアセテート)、1,4-ブタンジオールビス(3-メルカプトプロピオネート)、1,6-ヘキサンジオールビス(3-メルカプトプロピオネート)、1,4-ビス(3-メルカプトブチリルオキシ)ブタンなどの(ポリ)C2-10アルカンジオールジ(メルカプトC2-10アルカノエート)などが挙げられる。
【0118】
芳香族ジチオール化合物としては、例えば、ジメルカプトアレーン、ビス(メルカプトアルキル)アレーン、ビス(メルカプトアリール)アルカン、ビス(メルカプトアルキルアリール)アルカン、ビス(メルカプトアリール)エーテル、ビス(メルカプトアルキルアリール)エーテル、ビス(メルカプトアリール)スルフィド、ビス(メルカプトアルキルアリール)スルフィド、ヘテロ環式芳香族ジチオール化合物などが挙げられる。
【0119】
ジメルカプトアレーンとしては、例えば、1,2-ジメルカプトベンゼン、1,3-ジメルカプトベンゼン、1,4-ジメルカプトベンゼン、1,5-ジメルカプトナフタレン、4,4’-ジメルカプトビフェニルなどのジメルカプトC6-12アレーンなどが挙げられる。
【0120】
ビス(メルカプトアルキル)アレーンとしては、例えば、1,4-ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,3-ビス(メルカプトメチル)ベンゼンなどのビス(メルカプトC1-4アルキル)C6-12アレーンなどが挙げられる。
【0121】
ビス(メルカプトアリール)アルカンとしては、例えば、2,2-ビス(4-メルカプトフェニル)プロパンなどのビス(メルカプトC6-10アリール)C1-10アルカンなどが挙げられる。
【0122】
ビス(メルカプトアルキルアリール)アルカンとしては、例えば、2,2-ビス[4-(メルカプトメチル)フェニル]プロパンなどのビス[(メルカプトC1-4アルキル)C6-10アリール]C1-10アルカンなどが挙げられる。
【0123】
ビス(メルカプトアリール)エーテルとしては、例えば、ビス(4-メルカプトフェニル)エーテルなどのビス(メルカプトC6-10アリール)エーテルなどが挙げられる。
【0124】
ビス(メルカプトアルキルアリール)エーテルとしては、例えば、ビス[4-(メルカプトメチル)フェニル]エーテルなどのビス[(メルカプトC1-4アルキル)C6-10アリール]エーテルなどが挙げられる。
【0125】
ビス(メルカプトアリール)スルフィドとしては、例えば、ビス(4-メルカプトフェニル)スルフィド[または4,4’-チオビスベンゼンチオール]などのビス(メルカプトC6-10アリール)スルフィドなどが挙げられる。
【0126】
ビス(メルカプトアルキルアリール)スルフィドとしては、例えば、ビス[4-(メルカプトメチル)フェニル]スルフィドなどのビス[(メルカプトC1-4アルキル)C6-10アリール]スルフィドなどが挙げられる。
【0127】
芳香族ヘテロ環式ジチオール化合物としては、例えば、3,4-チオフェンジチオールなどのチオフェンジチオールなどが挙げられる。
【0128】
これらのジチオール成分は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。これらのジチオール成分のうち、好ましい脂肪族ジチオール成分としては、アルカンジチオール、ジメルカプト(ポリ)オキサアルカン、脂肪族ポリオールとメルカプト脂肪酸とのジエステルが挙げられ、好ましい芳香族ジチオール成分としては、ビス(メルカプトアリール)スルフィドが挙げられる。なかでも、耐熱性に優れる点から、アルカンジチオール、ビス(メルカプトアリール)スルフィドが好ましい。
【0129】
好ましいアルカンジチオールとしては、以下段階的に、C2-18アルカンジチオール、C4-16アルカンジチオール、C6-14アルカンジチオール、C8-12アルカンジチオールであり、特に1,10-デカンジチオールなどのC9-11アルカンジチオールが好ましい。このような炭素数のアルカンジチオールであると、チオール化合物由来の臭い(チオール臭)を有効に抑制できる。
【0130】
好ましいビス(メルカプトアリール)スルフィドとしては、ビス(メルカプトC6-10アリール)スルフィドが挙げられ、さらに好ましくはビス(4-メルカプトフェニル)スルフィドなどのビス(メルカプトフェニル)スルフィドである。また、ビス(メルカプトアリール)スルフィドなどの芳香族ジチオール成分では、耐溶剤性がより一層優れる場合が多いようである。
【0131】
脂肪族ジチオール成分に由来する脂肪族ジチオール単位の割合は、ジチオール単位全体に対して、例えば10モル%以上、好ましい範囲としては、以下段階的に、30モル%以上、50モル%以上、60モル%以上、70モル%以上、80モル%以上、90モル%以上、95モル%以上であり、実質的に100モル%であるのがさらに好ましい。
【0132】
また、アルカンジチオール成分に由来するアルカンジチオール単位の割合は、脂肪族ジチオール単位全体に対して、例えば10モル%以上、好ましい範囲としては、以下段階的に、30モル%以上、50モル%以上、60モル%以上、70モル%以上、80モル%以上、90モル%以上、95モル%以上であり、実質的に100モル%であるのがさらに好ましい。
【0133】
芳香族ジチオール成分に由来する芳香族ジチオール単位の割合は、ジチオール単位全体に対して、例えば10モル%以上、好ましい範囲としては、以下段階的に、30モル%以上、50モル%以上、60モル%以上、70モル%以上、80モル%以上、90モル%以上、95モル%以上であり、実質的に100モル%であるのがさらに好ましい。
【0134】
また、ビス(メルカプトアリール)スルフィド成分に由来するビス(メルカプトアリール)スルフィド単位の割合は、芳香族ジチオール単位全体に対して、例えば10モル%以上、好ましい範囲としては、以下段階的に、30モル%以上、50モル%以上、60モル%以上、70モル%以上、80モル%以上、90モル%以上、95モル%以上であり、実質的に100モル%であるのがさらに好ましい。
【0135】
(式(1)で表されるフルオレン化合物を重合成分として含む樹脂の製造方法)
式(1)で表されるフルオレン化合物を重合成分として含む樹脂の製造方法は特に制限されないが、樹脂が前述の熱可塑性樹脂である場合、通常、式(1)で表されるフルオレン化合物を含むジエン成分と、ジチオール成分とをチオール-エン反応させることにより重合できる。なお、必要であれば、前述した式(1)で表されるフルオレン化合物を調製する反応(E1cb反応)と、前記チオール-エン反応とを一括して行ってもよい。
【0136】
ジエン成分とジチオール成分との使用割合は、等モル程度であってもよく、例えば、前者/後者(モル比)=0.8/1~1.2/1程度であってもよく、好ましくは0.9/1~1.1/1、さらに好ましくは0.95/1~1.05/1である。
【0137】
チオール-エン反応は、塩基性触媒または求核性触媒の存在下で反応させる。塩基性触媒としては、例えば、アルキルアミン類、複素環式アミン類などのアミン類が挙げられる。アルキルアミン類としては、例えば、n-プロピルアミン、n-ブチルアミンなどのアルキルアミン、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミンなどのジアルキルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミンなどのトリアルキルアミン(または3級アルキルアミン)などが挙げられる。複素環式アミン類としては、例えば、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセンなどの複素環式3級アミンなどが挙げられる。好ましい塩基性触媒としては、トリアルキルアミン、複素環式3級アミンなどの3級アミン類が挙げられ、より好ましくはトリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミンなどのトリC2-4アルキルアミン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセンであり、さらに好ましくはトリエチルアミンである。
【0138】
求核性触媒としては、例えば、3級ホスフィン類、橋頭部が窒素原子である渡環型(または架橋環式)3級アミン類などが挙げられる。3級ホスフィン類としては、例えば、トリ-n-ブチルホスフィンなどのトリアルキルホスフィン、トリフェニルホスフィンなどのトリアリールホスフィンなどが挙げられる。前記渡環型3級アミン類としては、例えば、1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン(またはキヌクリジン)、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(またはトリエチレンジアミン)などの二環式3級アミンが挙げられる。好ましい求核性触媒としては、トリ-n-ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィンなどの3級ホスフィン類が挙げられ、より好ましくはトリアルキルホスフィンであり、さらに好ましくはトリ-n-ブチルホスフィンである。
【0139】
これらの触媒は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。触媒の割合は、重合成分の総量100モルに対して0.1~50モル、好ましくは0.5~20モル、より好ましくは1~10モル、さらに好ましくは4~10モルである。
【0140】
また、チオール-エン反応は、上記の触媒に代えて、ラジカル開始剤を用いて実施することもできる。ラジカル開始剤としては、熱重合開始剤(熱ラジカル発生剤)であってもよく、光重合開始剤(光ラジカル発生剤)であってもよい。
【0141】
熱重合開始剤としては、例えば、有機過酸化物、アゾ化合物などが挙げられる。有機過酸化物としては、例えば、ジ-t-ブチルパーオキシドなどのジアルキルパーオキシド類;ラウロイルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシドなどのジアシルパーオキシド類;t-ブチルハイドロパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド、過酢酸t-ブチルなどの過酸(または過酸エステル)類;ケトンパーオキシド類;パーオキシカーボネート類;パーオキシケタール類が挙げられる。アゾ化合物としては、例えば、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)などのアゾニトリル化合物、アゾアミド化合物、アゾアミジン化合物が挙げられる。これらの熱重合開始剤は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。
【0142】
光重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン類、具体的には、ベンゾイン、ベンゾインエチルエーテルなどのベンゾインアルキルエーテル類など;アセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オンなどのアセトフェノン類;2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノアミノプロパノン-1などのアミノアセトフェノン類;アントラキノン、2-メチルアントラキノンなどのアントラキノン類;2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2-クロロチオキサントンなどのチオキサントン類;アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタールなどのケタール類;ベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類;キサントン類などが挙げられる。これらの光重合開始剤は、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0143】
ラジカル開始剤(熱および/または光重合開始剤)の割合は、重合成分の総量100質量部に対して0.1~15質量部、好ましくは0.5~10質量部、より好ましくは1~8質量部、さらに好ましくは2~5質量部である。
【0144】
また、光重合開始剤は、光増感剤と組み合わせてもよい。光増感剤として代表的には、第3級アミン類、例えば、トリアルキルアミン;トリエタノールアミンなどのトリアルカノールアミン;ジアルキルアミノ安息香酸アルキルエステル、具体的には、p-(ジメチルアミノ)安息香酸エチルなどのN,N-ジメチルアミノ安息香酸エチルや、p-(ジメチルアミノ)安息香酸アミルなどのN,N-ジメチルアミノ安息香酸アミルなど;4,4-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノンなどのビス(ジアルキルアミノ)ベンゾフェノン;4-(ジメチルアミノ)ベンゾフェノンなどのジアルキルアミノベンゾフェノンなどの慣用の光増感剤が挙げられる。これらの光増感剤は、単独でまたは2種以上組み合わせてもよい。
【0145】
光増感剤の割合は、前記重合開始剤100質量部に対して、1~200質量部、好ましくは5~150質量部、さらに好ましくは10~100質量部である。
【0146】
チオール-エン反応は、溶媒の存在下または非存在下で行ってもよい。溶媒としては、反応に不活性な溶媒であればよく、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタンなどのハロゲン化アルカンなどが挙げられる。これらの溶媒のうち、クロロホルムが好ましい。溶媒の使用割合は、特に制限されず、重合成分の総量(ジエン成分およびジチオール成分の総量)100質量部に対して、例えば50~5000質量部程度であってもよい。
【0147】
反応は、不活性ガス雰囲気下、例えば、窒素ガス;ヘリウム、アルゴンなどの希ガスなどの雰囲気下で行ってもよい。反応温度は、例えば0~50℃、好ましくは10~40℃、さらに好ましくは20~35℃である。反応時間は特に制限されず、例えば1~48時間程度であってもよく、好ましくは12~36時間である。
【0148】
反応終了後、必要に応じて、反応混合物を、慣用の分離精製方法、例えば、洗浄、抽出、ろ過、脱水、濃縮、デカンテーション、再沈殿、クロマトグラフィー、これらを組み合わせた方法などにより分離精製してもよい。
【0149】
(式(1)で表されるフルオレン化合物を重合成分として含む樹脂の特性)
前述のようにして得られた前記式(1)で表されるフルオレン化合物を重合成分として含む樹脂は、高い耐熱性を示す。そのため、樹脂の10%質量減少温度は、例えば、200~400℃程度であってもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、250~380℃、270~360℃、280~350℃、290~340℃、300~330℃、310~320℃である。また、樹脂のガラス転移温度Tgは、例えば、100~200℃程度であってもよく、好ましくは110~150℃である。
【0150】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、10%質量減少温度およびガラス転移温度Tgは、後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【0151】
また、樹脂は耐溶剤性にも優れており、慣用の有機溶媒、例えば、テトラヒドロフランなどのエーテル類に対しても容易には溶解しない。特に、ジチオール単位としてビス(メルカプトアリール)スルフィドなどの芳香族ジチオール単位を含むと、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素類に対しても容易に溶解せず、耐溶剤性が高いようである。
【0152】
さらに、樹脂は屈折率および透明性が高く、光学特性にも優れている。特に、ジチオール単位として芳香族ジチオール単位を含むとより屈折率を向上し易い。
【実施例
【0153】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例における各評価方法は以下のとおりである。
【0154】
[評価方法]
(NMRスペクトル)
核磁気共鳴(NMR)装置(ブルカー(株)製「AVANCE NEO」)を用いて25℃で測定した。測定溶媒は、重クロロホルムを用い、化学シフト値はテトラメチルシラン(TMS)および溶媒の信号で較正した。
【0155】
(分子量)
ポリマーの分子量(数平均分子量Mn)および分子量分散度D(Mw/Mn)は、EXTREMAクロマトグラフ(日本分光)に40℃に加熱したサイズ排除カラム「HK-404L」(昭和電工(株)製)を2本直列に装填し、溶出液としてテトラヒドロフラン(高速液体クロマトグラフ用、安定剤あり、和光純薬工業製)を0.6mL/分で流して、紫外吸収分光計「UV-4070」(254nmで検出、日本分光製)および示差屈折率計(RI-4035,日本分光製)で検出したクロマトグラムを、標準ポリスチレン(東ソー製、TSKゲルオリゴマーキット、Mn:1.03×10、3.89×10、1.82×10、3.68×10、1.63×10、5.32×10、3.03×10、8.73×10)による三次曲線で較正して評価した。
【0156】
(ガラス転移温度Tgおよび分解温度)
熱重量示差走査熱量分析装置(TG-DTA、リガク(株)製、「Rigaku 示差熱天秤Thermo plus EVO2 試料観察TG-DTA)を用いて、窒素気流下、昇温速度10℃/分で室温から500℃に昇温し、ガラス転移温度Tgおよび10%重量分解温度(10%質量減少温度またはTd10)を測定した。
【0157】
[実施例1]2,7-ビス(3-クロロプロパノイル)フルオレンの合成
【0158】
【化8】
【0159】
氷浴中で塩化アルミニウム(8.00g)にジクロロメタン(40mL)を加え、そこに3-クロロプロピオニルクロリド(7.69g)を10秒に1滴のペースで滴下し、その後、ジクロロメタン(25mL)に式(3-1)で表されるフルオレン(3.38g)を溶解させて調製した溶液を2秒に1滴のペースで滴下した。滴下終了後、1時間氷浴中で反応させ、その後は氷浴を取り払い室温で20時間反応させた。
【0160】
氷水(500g)に濃塩酸(7mL)を加えて調製した試薬に反応混合溶液を流し込みクエンチングを行った。このとき、白い沈殿が生じたため、セライトろ過により沈殿を分離した。ろ液を分液し、目的物が溶解している有機層を得た。また、水層に対してジクロロメタン(20mL×2)を加え、分液により目的物の抽出を行った。
【0161】
分液によって得られた有機層の溶媒を留去して、白っぽい黄土色をした固体を得た。固体を真空乾燥した後、再結晶により精製し、2,7-ビス(3-クロロプロパノイル)フルオレンの無色結晶を得た。なお、再結晶では、得られた固体をヘキサン/トルエン/イソプロパノール混合溶媒(10mL/85mL/3mL)に溶解し、還流しながら加熱し固体を完全に溶解させ、その後、徐冷して結晶を析出させた。収量および収率は、それぞれ1.29g、18.3%であった。
【0162】
得られた式(2-1)で表される2,7-ビス(3-クロロプロパノイル)フルオレンのH-NMRスペクトルデータを図1および以下に示す。
【0163】
H-NMR(400MHz,CDCl,25℃):δ8.19(s,2H,1位および8位),8.05(d,J=7.9Hz,2H,3位および6位),7.93(d,J=7.9Hz,2H,4位および5位),4.04(s,2H,9位),3.97(t,J=7.1Hz,4H,CHCl),3.53(t,J=7.1Hz,4H,C(O)CH)ppm。
【0164】
[実施例2]2,7-ジアクリロイルフルオレンの合成
【0165】
【化9】
【0166】
式(2-1)で表される2,7-ビス(3-クロロプロパノイル)フルオレン(1.26g)をクロロホルム(20mL)に溶かした溶液に、室温条件下で溶液を撹拌しながら、トリエチルアミン(2.5mL)を7mL/hのペースで滴下し、滴下後室温で21時間反応させた。
【0167】
その後、反応溶液を1M塩酸(20mL×2)、蒸留水(20mL×2)、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(20mL×2)、およびブライン(brine)(20mL×1)で洗浄した。溶媒を留去し、常温で真空乾燥を行って黄土色の固体として式(1-1)で表される2,7-ジアクリロイルフルオレンを得た。収量および収率は、それぞれ0.48g、45%であった。また、2,7-ビス(3-クロロプロパノイル)フルオレンの転化率は97.5%であった。
【0168】
得られた2,7-ジアクリロイルフルオレンのH-NMRスペクトルデータを図2および以下に示す。
【0169】
H-NMR(400MHz,CDCl,25℃):δ8.18(s,2H,1位および8位),8.03(d,J=8.0Hz,2H,3位および6位),7.92(d,J=8.0Hz,2H,4位および5位),7.24(dd,J=17.0Hz,J=10.5Hz,2H,-CH=),6.49(dd,J=17.0Hz,J=1.6Hz,2H,CH=),5.96(dd,J=10.5Hz,J=1.6Hz,2H,CH=),4.03(s,2H,9位)ppm。
【0170】
[実施例3]2,7-ジアクリロイルフルオレンと1,10-デカンジチオールとの重付加
【0171】
【化10】
【0172】
式(1-1)で表される2,7-ジアクリロイルフルオレン(0.147g、0.510mmol)をクロロホルム(3.0mL)に溶かし、室温で溶液を撹拌させながらトリブチルフォスフィン(12.3μL、4.86×10-2mmol)、1,10-デカンジチオール(109μL、0.500mmol)を加えて22時間反応させ、黄土色の懸濁液を得た。
【0173】
懸濁液の溶媒を留去して得られた固体にクロロホルム(15mL)を加えて振り混ぜ、その溶液をヘキサン(20mL)に滴下し再沈澱を行った。このとき解けなかった固体はクロロホルムで洗いこみながらヘキサン中に滴下した。得られた2,7-ビス(アクリロイル)フルオレンと1,10-デカンジチオールとの重合体の収量および収率は、それぞれ0.107g、42.8%であった。
【0174】
得られた重合体のH-NMRスペクトルデータを図3および以下に示す。
【0175】
H-NMR(400MHz,CDCl,25℃):δ8.18(s,2H,1位および8位),8.05-8.03(m,2H,3位および6位),7.92-7.90(m,2H,4位および5位),4.03(br,2H,9位),3.33(t,J=6.8Hz,4H,C(O)CH),2.95(t,J=6.8Hz,4H,SCH),2.58(t,J=6.8Hz,4H,SCH),1.57(br,4H,CH),1.40-1.32(m,4H,CH),1.27(br,8H)ppm。
【0176】
得られた重合体は、テトラヒドロフラン(THF)にほとんど溶解せず、耐溶剤性に優れていた。可溶部をサイズ排除クロマトグラフィーで分析したところ、数平均分子量Mnは1600、分子量分散度D(Mw/Mn)は1.72であった。得られた重合体の10%質量減少温度は315℃であった。
【0177】
[実施例4]2,7-ジアクリロイルフルオレンと3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオールとの重付加
【0178】
【化11】
【0179】
2,7-ジ(アクリロイル)フルオレンを0.151g(0.550mmol)、1,10-デカンジチオールを3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオール(89.5μL、0.550mmol)に変更した以外は実施例3と同様の操作により重合体を得た。得られた重合体の収量は0.193g、収率は76.9%であった。
【0180】
得られた重合体のH-NMRスペクトルデータを図4および以下に示す。
【0181】
H-NMR(400MHz,CDCl,25℃):δ8.14―7.81(m,6H,芳香環),3.98-3.59(m,2H,9位),3.69(t,J=6.3Hz,4H,SCH CH O),3.64(s,4H,OCH),2.97(t,J=6.94Hz,4H,CHCO),2.78(t,J=6.3Hz,4H,SCH)。
【0182】
得られた重合体は、テトラヒドロフラン(THF)にほとんど溶解せず、耐溶剤性に優れていた。可溶部をサイズ排除クロマトグラフィーで分析したところ、数平均分子量Mnは1300、分子量分散度D(Mw/Mn)は2.67であった。得られた重合体の10%質量減少温度は270℃であった。
【0183】
[実施例5]2,7-ジアクリロイルフルオレンと4,4’-チオビスベンゼンチオールとの重付加
【0184】
【化12】
【0185】
2,7-ジ(アクリロイル)フルオレンを0.151g(0.550mmol)、1,10-デカンジチオールを4,4’-チオビスベンゼンチオール(0.138g、0.550mmol)に変更した以外は実施例3と同様の操作により重合体を得た。得られた重合体の収量は0.167g、収率は57.9%であった。
【0186】
得られた重合体はクロロホルムやテトラヒドロフランには溶解せず、耐溶剤性に優れていた。そのため、H-NMRスペクトルや分子量の評価はできなかった。得られた重合体のガラス転移温度Tgは120.5℃、10%質量減少温度は316℃であった。
【0187】
[実施例6]2,7-ジアクリロイルフルオレンとエチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオナート)との重付加
【0188】
【化13】
【0189】
2,7-ジ(アクリロイル)フルオレンを0.151g(0.550mmol)、1,10-デカンジチオールをエチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオナート)(0.131g、0.550mmol)に変更した以外は実施例3と同様の操作により重合体を得た。得られた重合体の収量は0.214g、収率は75.9%であった。
【0190】
得られた重合体のH-NMRスペクトルデータを図5および以下に示す。
【0191】
H-NMR(400MHz,CDCl,25℃):δ8.10―7.82(m,6H,芳香環),4.32(s,4H,COOCH),3.92(m,2H,9位),3.30(t,J=7.2Hz,4H,ArCOCH),2.95(t,J=7.2Hz,4H,SCH),2.87(t,J=7.4Hz,4H,SCH),2.70(t,J=7.4Hz,4H,CHCOO)
【0192】
得られた重合体は、テトラヒドロフラン(THF)に完全には溶解せず、耐溶剤性に優れていた。得られた重合体の10%質量減少温度は243.5℃であった。
【0193】
[実施例7]2,7-ビス(3-クロロプロパノイル)-9,9-ジメチルフルオレンの合成
【0194】
【化14】
【0195】
氷浴中で塩化アルミニウム(48.4g)にジクロロメタン(75mL)を加え、そこに3-クロロプロピオニルクロリド(45.8g)のジクロロメタン(113mL)溶液を加え、その後、ジクロロメタン(75mL)に式(3-2)で表される9,9-ジメチルフルオレン(29.9g)を溶解させて調製した溶液を滴下した。滴下終了後、40分間氷浴中で反応させ、その後は氷浴を取り払い室温で16.5時間反応させた。反応後、実施例1のクエンチング以降の操作と同様にして式(2-2)で表される2,7-ビス(3-クロロプロパノイル)-9,9-ジメチルフルオレンを調製した。
【0196】
得られた式(2-2)で表される2,7-ビス(3-クロロプロパノイル)-9,9-ジメチルフルオレンのH-NMRスペクトルデータを図6および以下に示す。
【0197】
H-NMR(400MHz,CDCl,25℃):δ8.08(s,2H,1位および8位),8.10-7.99(m,2H,3位および6位),7.88-7.86(m,2H,4位および5位),3.97(t,J=6.8Hz,4H,CHCl),3.54(t,J=6.8Hz,4H,C(O)CH),1.55(s,6H,CH)ppm。
【0198】
[実施例8]2,7-ジアクリロイル-9,9-ジメチルフルオレンの合成
【0199】
【化15】
【0200】
2,7-ビス(3-クロロプロパノイル)フルオレンを2,7-ジアクリロイル-9,9-ジメチルフルオレン1.91g、トリエチルアミンを3.4mL、クロロホルムを25mLとした以外は、実施例2と同様に行い、2,7-ジ(アクリロイル)-9,9-ジメチルフルオレン1.43g、収率97.3gを白色固体として得た。
【0201】
得られた2,7-ジ(アクリロイル)-9,9-ジメチルフルオレンのH-NMRスペクトルデータを図7および以下に示す。
【0202】
H-NMR(400MHz,CDCl,25℃):δ8.08(d,J=1.5Hz,2H,1位および8位),7.99(dd,J=7.9Hz,J=1.5Hz,2H,3位および6位),7.87(d,J=7.9Hz,2H,4位および5位),7.24(dd,J=17.0Hz,J=10.5Hz,2H,-CH=),6.48(dd,J=17.0Hz,J=1.7Hz,2H,CH=),5.98(dd,J=10.5Hz,J=1.7Hz,2H,CH=),1.57(s,6H,CH)ppm。
【産業上の利用可能性】
【0203】
本発明のアクリロイル骨格を有する新規なフルオレン化合物は、高い耐熱性を示す樹脂を形成できるため、耐熱性部材などに利用できる。
【0204】
また、前記フルオレン化合物は、複数のアクリロイル骨格を有するため、硬化性組成物または架橋剤などとして用い、高い耐熱性を示す硬化物を形成することもできる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7