(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】ガスケット、それを備えるシリンジ、およびガスケットの製造方法
(51)【国際特許分類】
A61M 5/315 20060101AFI20240624BHJP
【FI】
A61M5/315 512
A61M5/315 510
(21)【出願番号】P 2021524795
(86)(22)【出願日】2020-05-27
(86)【国際出願番号】 JP2020020974
(87)【国際公開番号】W WO2020246343
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2023-04-11
(31)【優先権主張番号】P 2019104030
(32)【優先日】2019-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591109751
【氏名又は名称】有限会社コーキ・エンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100147706
【氏名又は名称】多田 裕司
(72)【発明者】
【氏名】四ツ辻 晃
【審査官】星名 真幸
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-525011(JP,A)
【文献】特開2014-213092(JP,A)
【文献】特開昭54-052889(JP,A)
【文献】特開2016-022269(JP,A)
【文献】特開2014-047828(JP,A)
【文献】実開昭48-008990(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2018/0344940(US,A1)
【文献】特開2019-013537(JP,A)
【文献】特開2001-190667(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/315
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接液部および摺接部を有する一体型のガスケット本体と、
前記ガスケット本体の前記接液部における接液面に取り付けられたPTFEフィルムとを備えており、
前記PTFEフィルムの周端部が前記ガスケット本体の前記摺接部側に湾曲されていることにより、前記PTFEフィルムの
切断面である周端面は外側に向けて露出しないように前記ガスケット本体の前記摺接部側に埋まっていることを特徴とする
ガスケット。
【請求項2】
接液部および前記接液部に続く断面凸状の摺接部を有するガスケット本体と、
前記ガスケット本体の前記接液部における接液面に取り付けられたPTFEフィルムとを備えており、
前記PTFEフィルムの周端部が前記ガスケット本体の前記接液部から前記摺接部の頂部を越えて湾曲されており、前記PTFEフィルムの周端面は前記ガスケット本体の側面に対向面接していることを特徴とする
ガスケット。
【請求項3】
前記PTFEフィルムの周端面は、前記ガスケット本体によって封止されている
請求項1または2に記載のガスケット。
【請求項4】
前記ガスケット本体の前記接液面に取り付けられた前記PTFEフィルムの周端部の伸び率は10%以下である
請求項1から3のいずれか1項に記載のガスケット。
【請求項5】
前記ガスケット本体は、摺動性が付与されたシリコーンゴムで形成されている
請求項1から4のいずれか1項に記載のガスケット。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載のガスケットと、
薬液と、
シリンジバレルと、
ピストンロッドとを備えるシリンジ。
【請求項7】
接液部および摺接部を有するガスケット本体の前記接液部における接液面に対応する成形凹所が形成された金型を用意し、
前記成形凹所に対して前記成形凹所よりも広いPTFEフィルムを配設するとともに、
成形用エラストマーブロックから前記ガスケット本体へ成形中に、前記ガスケット本体の前記接液部に相当する部分で前記PTFEフィルムを前記成形凹所に押圧し、
前記押圧下で前記PTFEフィルムを前記ガスケット本体における前記接液部の側縁に沿って裁断することにより、
前記PTFEフィルムの周端部が前記接液面の周縁を覆うようにして湾曲され、かつ、前記PTFEフィルムの周端面が外側に向けて露出しないように前記ガスケット本体の摺接部側に埋められているとともに、前記周端面が前記ガスケット本体に封止された状態にする
ガスケットの製造方法。
【請求項8】
接液部および前記接液部に続く断面凸状の摺接部を有するガスケット本体の前記接液部における接液面および前記摺接部に対応する成形凹所が形成された金型を用意し、
前記成形凹所に対して前記成形凹所よりも広いPTFEフィルムを配設するとともに、
成形用エラストマーブロックから前記ガスケット本体へ成形中に、前記ガスケット本体の前記接液部および前記摺接部に相当する部分で前記PTFEフィルムを前記成形凹所に押圧し、
前記押圧下で前記PTFEフィルムを前記ガスケット本体における前記摺接部の頂部を越えた位置に沿って型締で裁断することにより、
前記PTFEフィルムの周端部が前記摺接部の周縁を覆うようにして湾曲され、かつ、前記PTFEフィルムの周端面が前記ガスケット本体の側面に対向面接しているとともに、前記周端面が前記ガスケット本体に封止された状態にする
ガスケットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬、医療分野において薬液を人体または動物に投与する際に使用されるシリンジ用のガスケット、それを備えるシリンジ、およびガスケットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従前より、薬液を注入した状態で長期にわたって安全性や密封性が高いガスケットが例えば特許文献1において提案されている。
【0003】
特許文献1に開示されたガスケット1は、
図12に示すように、大略、ピストン区分2とシール区分3とを有するガスケット本体4と、当該ガスケット本体4におけるピストン区分2の表面に積層された不活性フィルム5とを備えている。
【0004】
このように、耐薬品性の高い不活性フィルム5がガスケット本体4のピストン区分2に積層されていることにより、ガスケット1としての耐薬品性を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2004-525011号公報
【文献】特開2013-154264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した従前のガスケット1には問題があった。すなわち、薬液6を封入したシリンジ7にガスケット1をセットした後、ある程度の時間が経過すると、
図13および
図14に示すように、不活性フィルム5の切断面がガスケット1の側面にあるため、不活性フィルム5を介して、薬液6が染み出して漏れるという問題である。
【0007】
この原因として、不活性フィルム5として使用されるPTFEフィルムの表面や内部には微細な独立気泡が多数形成されていることがわかっており(例えば、特許文献2)、PTFEフィルムがガスケット本体4におけるピストン区分2の 表面に貼り付けられる際に大きく引き伸ばされたとき、これら独立気泡同士が互いに並びつながって微細な「通路」(連通孔)ができてしまう。この通路に薬液6(とりわけ、近年多くなった、界面活性剤が含まれている薬液6)が浸透していくことにより、薬液6が染み出して漏れるものと考えられる(
図13および
図14における、漏れ出しルートA)。
【0008】
さらに言えば、特許文献1に開示されているガスケット1の製造手順によれば、ガスケット本体4を成形した後で不活性フィルム5を切断していることから、不活性フィルム5の切断面8はガスケット1の側面に露出することになる。このため、上述した理由で不活性フィルム5内に浸透した薬液6の多くが上述した連通孔を通じてこの切断面8から漏れ出すことになる(
図13および
図14における、漏れ出しルートB)。
【0009】
本発明は、このような従来技術の問題に鑑みて開発されたものである。それゆえに本発明の主たる課題は、例えばプレフィルドシリンジにセットされる等して長期間にわたって薬液と接していたとしても、当該薬液の不所望な漏えいが生じにくいガスケット、それを備えるシリンジ、およびガスケットの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一局面によれば、
接液部および摺接部を有する一体型のガスケット本体と、
前記ガスケット本体の接液部における接液面に取り付けられたPTFEフィルムとを備えており、
前記PTFEフィルムの周端部が前記ガスケット本体の摺接部側に湾曲されていることにより、前記PTFEフィルムの切断面である周端面は外側に向けて露出しないように前記ガスケット本体の摺接部側に埋まっていることを特徴とする
ガスケットが提供される。
【0011】
本発明の他の局面によれば、
接液部および前記接液部に続く断面凸状の摺接部を有するガスケット本体と、
前記ガスケット本体の前記接液部における接液面に取り付けられたPTFEフィルムとを備えており、
前記PTFEフィルムの周端部が前記ガスケット本体の前記接液部から前記摺接部の頂部を越えて湾曲されており、前記PTFEフィルムの周端面は前記ガスケット本体の側面に対向面接していることを特徴とする
ガスケットが提供される。
【0012】
好適には、
前記PTFEフィルムの周端面は、前記ガスケット本体によって封止されている。
【0013】
好適には、
前記ガスケット本体の前記接液面に取り付けられた前記PTFEフィルムの周端部の伸び率は10%以下である。
【0014】
好適には、
前記ガスケット本体は、摺動性が付与されたシリコーンゴムで形成されている。
【0015】
本発明の他の局面によれば、
上述したガスケットと、
薬液と、
シリンジバレルと、
ピストンロッドとを備えるシリンジが提供される。
【0016】
本発明のさらに別の局面によれば、
接液部および摺接部を有するガスケット本体の前記接液部における接液面に対応する成形凹所が形成された金型を用意し、
前記成形凹所に対して前記成形凹所よりも広いPTFEフィルムを配設するとともに、
成形用エラストマーブロックから前記ガスケット本体へ成形中に、前記ガスケット本体の前記接液部に相当する部分で前記PTFEフィルムを前記成形凹所に押圧し、
前記押圧下で前記PTFEフィルムを前記ガスケット本体における前記接液部の側縁に沿って裁断することにより、
前記PTFEフィルムの周端部が前記接液面の周縁を覆うようにして湾曲され、かつ、前記PTFEフィルムの周端面が外側に向けて露出しないように前記ガスケット本体の摺接部側に埋められているとともに、前記周端面が前記ガスケット本体に封止された状態にする
ガスケットの製造方法が提供される。
【0017】
本発明のさらに別の局面によれば、
接液部および前記接液部に続く断面凸状の摺接部を有するガスケット本体の前記接液部における接液面および前記摺接部に対応する成形凹所が形成された金型を用意し、
前記成形凹所に対して前記成形凹所よりも広いPTFEフィルムを配設するとともに、
成形用エラストマーブロックから前記ガスケット本体へ成形中に、前記ガスケット本体の前記接液部および前記摺接部に相当する部分で前記PTFEフィルムを前記成形凹所に押圧し、
前記押圧下で前記PTFEフィルムを前記ガスケット本体における前記摺接部の頂部を越えた位置に沿って型締で裁断することにより、
前記PTFEフィルムの周端部が前記摺接部の周縁を覆うようにして湾曲され、かつ、前記PTFEフィルムの周端面が前記ガスケット本体の側面に対向面接しているとともに、前記周端面が前記ガスケット本体に封止された状態にする
ガスケットの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明のガスケットでは、PTFEフィルムの周端部がガスケット本体の摺接部側に湾曲されており、PTFEフィルムの周端面は外側に向けて露出しないようにガスケット本体の摺接部側に埋まっている。このようにPTFEフィルムの周端面が外側に向けて露出していないので、PTFEフィルム内に浸透した薬液が連通孔を通してこの周端面から漏れ出すことにより、薬液がガスケットから漏れてしまうのを防ぐことができる。さらに、当該周端面がガスケット本体によって封止されていればより高い確率で薬液がガスケットから漏れるのを防ぐことができる。
【0019】
これにより、プレフィルドシリンジにセットされる等して長期間にわたって薬液と接していたとしても、当該薬液の不所望な漏えいが生じにくいガスケット、それを備えるシリンジ、およびガスケットの製造方法を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明が適用されたシリンジ100の実施例を示す断面図である。
【
図2】本発明が適用されたガスケット10の実施例を示す断面図である。
【
図3】本発明が適用されたガスケット本体12の実施例を示す断面図である。
【
図4】ガスケット本体12に対するPTFEフィルム40の取り付け状態を示す、
図2におけるA部分拡大断面図である。
【
図8】ガスケット10の製造方法を示す拡大図である。
【
図9】変形例1に係るガスケット10の実施例を示す断面図である。
【
図10】変形例1に係るガスケット10の製造方法を示す図である。
【
図11】変形例1に係るガスケット10の製造方法を示す拡大図である。
【
図12】従来技術に係るガスケット1を示す断面図である。
【
図13】従来技術に係るガスケット1をシリンジ7にセットした状態を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(ガスケット10およびシリンジ100の構成)
本発明が適用されたガスケット10およびそれを備えるシリンジ100について、図示実施例に沿って説明する。
【0022】
シリンジ100は、
図1に示すように、大略、ガスケット10と、薬液50と、シリンジバレル60と、ピストンロッド70と、トップキャップ80とを備えている。
【0023】
ガスケット10は、
図2に示すように、大略、ガスケット本体12と、PTFEフィルム40とを備えている。
【0024】
ガスケット本体12は、略円柱状に形成されており、
図3に示すように、シリンジバレル60に嵌め込んだときに薬液50に接する先端面(本明細書では、「接液面14」という)を含む接液部16と、この接液部16に続いて形成されており、ガスケット10が嵌め込まれるシリンジバレル60の内面62の径(内径)よりもやや大きい径に形成された摺接部18と、この摺接部18に続いて急激に縮径させた小径部20とを有している。
【0025】
また、ガスケット本体12の後端面22には、ピストンロッド70を装着するための雌ネジ穴24が形成されている。
【0026】
ガスケット本体12の構成材料としては、各種エラストマー(例えば、ブチルゴムやシリコーンゴム)を用いることができる。
【0027】
ただし、ブチルゴム等の加硫成形ゴムを用いた場合には、摺動性の問題により、シリンジバレル60の内面62にシリコーンオイルを塗布する必要があることから、ガスケット本体12の構成材料として摺動性が付与された「シリコーンゴム」を用いるのが好適である。
【0028】
「シリコーンゴム」は、熱硬化性エラストマーであり、例えば、原料として液状、グリス状、あるいは粘土状の「オルガノポリシロキサン」を用いている。「オルガノポリシロキサン」は、分子内にメチル基、ビニル基、フェニル基、トリフルオロプロピル基を組み込んだ材料であり、各々は特殊な特性を要求された場合に使い分けられる。
【0029】
「シリコーンゴム」には複数の種類がある。本実施例では、いずれのものも使用できるが、ここでは一例として、ビニル基が組み込まれた液状又はグリス状の「オルガノポリシロキサン」を用い、これに必要充填物と過酸化物硬化剤とを加えて混練した過酸化物架橋型シリコーンゴムが挙げられる。他の例としては、分子内にビニル基を組み込んだ粘土状のポリシロキサンと、分子端末に反応性水素を組み込んだ粘土状のポリシロキサンを、白金又はロジウム或いは錫等の有機金属化合物を触媒として反応により加熱硬化させた付加反応型シリコーンゴムが挙げられる。
【0030】
摺動性が付与されたシリコーンゴムは、例えば、素材である液状、グリス状、あるいは粘土状のオルガノシロキサンに架橋剤である過酸化物(或いは、上記2種類の粘土状のポリシロキサンに硬化触媒)を加え、所定量のシリコーンオイルを添加してニーダで混練して形成される。さらに混練物の硬さを調整するために、必要に応じて、適量の(例えば25%の)シリカ微粉末が添加される。さらに必要があれば、例えば、所定量の超高分子ポリエチレン微粉末が添加される。
【0031】
この微粉末の微小粒子を形成するポリエチレン樹脂は超高分子である。(例えば、平均分子量が100万~300万或いはそれ以上で700万に達するものもある。)このような超高分子粒子は、透水性がなくしかも殆どののものと接着しない。そして超高分子ポリエチレンはその分子量があまりにも高いために高温でも溶融せず、高圧で成形してもその球状形態を保持している。球状の超高分子ポリエチレンの表面は比較的滑らかであるが、若干の凹凸も認められる。微粉末に含まれる球状の超高分子微粒子の粒径の範囲は10~300μmである。さらに好ましくは20~50μmである。グレードによって異なるが、平均粒径が25μmのものや30μm或いはそれ以外のものが使用される。粒度分布の幅が広い場合、粒径の大きいものの間に粒径の小さいものが入り込んで大きい粒径のものの間の隙間を埋め、細密充填を実現する。そして、細密充填となると、微小粒子は透水性を持たないので、仮に、透水性を有するシリコーンゴム基材やシリコーンオイルを使用したとしても本発明の医療用摺動性シリコーンゴム全体としては非常に低い透水性を示すことになる。
【0032】
シリカ微粉末は硅砂を原料としたパウダーで、その大部分は硅素(SiO2)で構成されている。硬さを調整するために弾性材に添加される。
【0033】
ガスケット本体12の成形方法について例示する。ガスケット本体12が成形できる圧縮金型を適切な温度まで加熱し、金型の間にPTFEフィルム40を入れ、上記の成形材料(シリカ粉末やシリコーンオイル及び必要に応じて添加される超高分子PE粉末が添加されて練り上げられたシリコーンゴム)を充填して手順通りに金型を締めて加熱加圧すると1~10分で熱架橋し、目的のガスケット本体12が得られる。なお、得られたガスケット本体12は、二次熱処理(アニーリング)を実施するのが好ましい。
【0034】
次に、PTFEフィルム40について説明する。
図4に示すように、PTFEフィルム40は、ガスケット本体12の接液部16における接液面14を覆うように配設されており、PTFEフィルム40の周端部42がガスケット本体12の摺接部18側に湾曲されていることにより、PTFEフィルム40の周端面44は外側に向けて露出しないようにガスケット本体の摺接部18側に埋まった状態になっている。
【0035】
本実施例で使用されるPTFEフィルム40は、純PTFEでもよいが、例えば、PTFEの結晶化阻害剤であるポリテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(略称PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体などのフッ素樹脂を1から15質量%混入した変性体を使用することがPTFEフィルム40に弾力性を付与することになってより好ましい。
【0036】
また、本実施例で使用されるPTFEフィルム40は、上記純PTFE又はPTFEの変性体、さらには、HIP処理と呼ばれる熱間等方圧加圧法による独立気泡化したブロック(丸棒材)を切削してシート状にする「スカイブド法」で製造したものであってもよい。
【0037】
PTFEの1次焼結ブロックは、純PTFE粉又はPTFEの変性体の粉を圧縮成形し、これを焼結したものである。この焼結では、粉同士の接触部分は密着しているが、全体として非接触部分にはごく微細な隙間が形成されており、これらが連続して微小な流体を通過させるようになっている。
【0038】
また、PTFEフィルム40の他の製造方法としては、平滑な板材の表面にPTFEのエマルジョンを塗布して膜を作り、これを加熱することでシート状にした「キャスト法」を採用してもよい。
【0039】
図1に戻り、シリンジバレル60は、円筒状の容器で、バレル本体64の先端に図示しない注射針が装着される装着部66が突設されており、バレル本体64の後端に指掛け用の鍔部68が形成されている。シリンジバレル60の材質は、ガラスの他、硬質樹脂(例えば、シクロオレフィン樹脂(COP)、ポリプロピレン(PP)、エチレンノルボルネン共重合体(COC)など)が使用される。本実施例に係るガスケット10は、後述するように、構造的にシリンジバレル60の水密性を高く維持できるので、樹脂製よりも内径寸法精度に劣るガラス製のシリンジバレル60も使用することができる。
【0040】
ピストンロッド70は、先端部に雄ネジ部72が形成されており、後端部に指当て部74が形成された棒状の部材である。このピストンロッド70の雄ネジ部72は、ガスケット10のガスケット本体12に形成された雌ネジ穴24に螺着できる雄ネジが形成されている。なお、ピストンロッド70の材質としては、環状ポリオレフィン、ポリカーボネート、およびポリプロピレンといった樹脂等を使用することができる。
【0041】
トップキャップ80は、円錐台状のキャップ本体82と、このキャップ本体82の天面端部から側方に延びる円盤状のキャップ鍔部84とを備えている。キャップ本体82には、シリンジバレル60の装着部66が嵌め込まれる凹部86が形成されている。また、トップキャップ80は、耐薬液性を有するフィルム(PTFEやPFA)を内周面に積層したエラストマで形成してもよい。エラストマには、加硫ゴムや熱硬化性エラストマ、あるいは、熱可塑性エラストマが含まれる。
【0042】
(ガスケット10の製造手順)
次に、本実施形態に係るガスケット10の製造手順について説明する。最初に、ガスケット10の製造に用いられる金型200について説明する。
【0043】
この金型200は、例えば
図5に示すように、大きく3つのブロック(第1ブロック210、第2ブロック220、および第3ブロック230)に分かれている。第1ブロック210には、ガスケット本体12に形成される雌ネジ穴24に対応する雄ネジ212およびピストン214が形成されている。これら雄ネジ212およびピストン214は、第1ブロック210の第1ブロック本体216の下面にある第1パーティング面218から下方に突出しており、先ず、第1パーティング面218からピストン214が突出形成され、当該ピストン214の下端から雄ネジ212が突出形成されている。
【0044】
第2ブロック220の第2ブロック本体222には、第2ブロック本体222における図中上側の第2上側パーティング面224から図中下側の第2下側パーティング面226にかけて、第2ブロック本体222を貫通するようにして、ガスケット本体12を成形するための成形用エラストマーブロック204が嵌め込まれる成形用エラストマーブロック嵌め込み孔228が形成されている。なお、ガスケット本体12は、その接液部16が図中下方となるようにして成形用エラストマーブロック嵌め込み孔228に嵌め込まれる。
【0045】
また、成形用エラストマーブロック嵌め込み孔228における第2下側パーティング面226側の端部には、第3ブロック230に向かう裁断部229が形成されており、後述するように、この裁断部229と第3ブロック230との間でPTFEフィルム40が裁断されるようになっている。
【0046】
また、第2上側パーティング面224には、第1ブロック210に向かって突接されたバネ227が設けられている。
【0047】
第3ブロック230の第3ブロック本体232における、第2ブロック220の第2下側パーティング面226と接合する第3パーティング面234には、接液部16および摺接部18を有するガスケット本体12の接液部16における接液面14に対応する成形凹所202が形成されている。
【0048】
このような金型200を用意し、成形凹所202に対して当該成形凹所202よりも広いPTFEフィルム40を配設する。これとともに、第2ブロック220の成形用エラストマーブロック嵌め込み孔228に成形用エラストマーブロック204を嵌め込んでおく。
【0049】
なお、予め、PTFEフィルム40におけるガスケット本体12と接する面(図中上面)に「接着性改善処理」を施すことが必要である。一般に、PTFEフィルム40は、難接着性であり、加硫成形ゴムや熱可塑性エラストマー等との接着力が極めて弱いからである。これは、ガスケット本体12の材質が加硫成形ゴムや熱可塑性エラストマー等である場合や上述した「シリコーンゴム」である場合も同じである。
【0050】
「接着性改善処理」として、具体的には、PTFEフィルム40とガスケット本体12との間の接合面にシリカ微粒子層を設ける方法、金属ナトリウムによる化学処理、あるいは、アルゴン雰囲気中でのプラズマ処理等を挙げることができる。さらに、PTFEフィルム40を配設した真空チャンバに、入手の容易な1,2-ブタジエンあるいは1,3-ブタジエンガスと、酸素との混合気体を導入した後、プラズマを用いて当該PTFEフィルム40の表面にブタジエンをプラズマ重合させてもよい。
【0051】
然る後、
図6に示すように、第1ブロック210の第1パーティング面218でバネ227を図中下方に押していくことにより、第2ブロック220の第2下側パーティング面226を第3ブロック230における第3パーティング面234の近傍まで近づけていき、バネ227の反発力によって第2下側パーティング面226に形成された裁断部229が所定の強さでPTFEフィルム40に押し当てられた状態にする。なお、この段階では、PTFEフィルム40は未だ第2下側パーティング面226に形成された裁断部229によって完全には裁断されていない。また、バネ227に代えて、例えば、第2ブロック220に油圧シリンダ等を作用させることにより、第2下側パーティング面226を第3パーティング面234の近傍まで近づけていき、裁断部229が所定の強さでPTFEフィルム40に押し当てられた状態にしてもよい。
【0052】
続いて、
図7に示すように、第1ブロック210の第1パーティング面218を第2ブロック220の第2上側パーティング面224に当接させて、第1ブロック210のピストン214および雄ネジ212でガスケット本体12を図中下方の成形凹所202に向けて高い圧力(例えば、10kPaから数百kPa)で押圧する。これにより、成形用エラストマーブロック204からガスケット本体12へ成形中に、このガスケット本体12における接液部16に相当する部分はPTFEフィルム40を成形凹所202に高い圧力で押圧する。そして、この押圧下で第2ブロック220の第2下側パーティング面226を第3ブロック230における第3パーティング面234にさらに近づけて、第2下側パーティング面226に形成された裁断部229でPTFEフィルム40をガスケット本体12における接液部16の側縁に沿って裁断する。
【0053】
このように成形中のガスケット本体12とPTFEフィルム40とを成形凹所202に対して高い圧力で押圧しつつ、当該PTFEフィルム40をガスケット本体12における接液部16の側縁に沿って裁断することにより、
図8に示すように、自身の弾性によって成形凹所202に沿って膨張しようとするガスケット本体12(成形用エラストマーブロック204)の力(材料流動圧力)と、成形凹所202における側面からの反力とに挟まれたPTFEフィルム40の周端部42が伸ばされるとともにガスケット本体12における接液面14の周縁を覆うようにして摺接部18側に湾曲され、さらに、PTFEフィルム40の周端面(切断面)44が外側に向けて露出しないようにガスケット本体12の摺接部18側に埋め込まれているとともに、周端面44がガスケット本体12に封止された状態になる。
【0054】
また、本実施形態に係るガスケット10の製造方法によれば、ガスケット本体12とPTFEフィルム40との接合と、PTFEフィルム40の裁断を1回の工程で完了させることができる。
【0055】
さらに、ガスケット10の製造の前後において、ガスケット本体12の接液面14に取りつけられたPTFEフィルム40の周端部の伸び率Zは10%以下である。さらに言えば、伸び率Zは5%以下にすることが好適である。本明細書全体を通して「伸び率Z」とは、PTFEフィルム40が取りつけられるガスケット本体12の接液面14の面積X(つまり、ガスケット10の製造工程によって伸ばされた後のPTFEフィルム40の面積X)と、ガスケット本体12に取りつけられる前段階におけるPTFEフィルム40の面積Yとの割合から算出される値であり、以下の式で表すことができる。
((X÷Y)-1)×100=Z
【0056】
最後に、金型200の成形凹所202からガスケット本体12およびPTFEフィルム40を取り出すことにより、ガスケット10の製造が完了する。
【0057】
(ガスケット10の特徴)
(1)
本実施例のガスケット10によれば、PTFEフィルム40の周端部42がガスケット本体12の摺接部18側に湾曲されており、PTFEフィルム40の周端面44は外側に向けて露出しないようにガスケット本体12の摺接部18側に埋まっている。このようにPTFEフィルムの周端面44が外側に向けて露出していないので、周端面44の表面および内部にある連通孔に薬液50が浸透することによってガスケット10から漏れてしまうのを防ぐことができる。
【0058】
これにより、シリンジ100にセットされて長期間にわたって薬液50と接していたとしても、当該薬液50の不所望な漏えいが生じにくいガスケット10を提供することができる。
【0059】
(2)
また、ガスケット本体12を摺動性が付与されたシリコーンゴムで形成することにより、金型200内において高い圧力で押圧されている際にガスケット本体12のシリコーンゴムから染み出したシリコーンがPTFEフィルム40にある微細な独立気泡に浸透することにより、薬液50が当該独立気泡に入り込んで最終的に薬液50の漏れにつがなるのを回避できる。これにより、薬液50が漏れる可能性をより低減できる。
【0060】
もちろん、ガスケット本体12の摺接部18の表面からもシリコーンがごくわずかに染み出すので、シリンジバレル60の内面62に対するガスケット本体12の摺動性を良好に保つことができる。これにより、ガスケット本体12を加硫成形ゴムや熱可塑性エラストマー等を用いた場合のように、シリンジバレル60の内面62にシリコーンオイルを塗布する必要がなくなる。
【0061】
(3)
上述のように、成形中のガスケット本体12とPTFEフィルム40とを成形凹所202に対して高い圧力で押圧しつつ、当該PTFEフィルム40をガスケット本体12における接液部16の側縁に沿って裁断することにより、自身の弾性によって成形凹所202に沿って膨張しようとするガスケット本体12(成形用エラストマーブロック204)の力(材料流動圧力)と、成形凹所202における側面からの反力とに挟まれたPTFEフィルム40の周端部42が伸ばされるとともにガスケット本体12における接液面14の周縁を覆うようにして摺接部18側に湾曲され、さらに、PTFEフィルム40の周端面(切断面)44が外側に向けて露出しないようにガスケット本体12の摺接部18側に埋め込まれているとともに、周端面44がガスケット本体12に封止された状態になる。
【0062】
このとき、PTFEフィルム40の表面や内部に存在する多数の独立気泡は、PTFEフィルム40の周端部42における伸び率が小さく設定されている(10%以下)ことで従来のように独立気泡同士が互いに並びつながって連通孔になる度合いが小さいこと、および、ガスケット10の製造工程において当該周端部42における独立気泡がガスケット本体12と成形凹所202との間で高い圧力によってつぶされることから、当該独立気泡に薬液50が入り込みにくくなり、薬液50が独立気泡に浸透して漏れる可能性をより低減できる。
【0063】
(変形例1)
上述した実施形態に係るガスケット10の形状および製造手順に変えて、以下のようなガスケット10の形状および製造手順としてもよい。
【0064】
変形例1に係るガスケット10を構成するガスケット本体12およびPTFEフィルム40の形状は、
図9に示すようになっている。ガスケット本体12は、略円柱状に形成されており、その側面には断面が略半円状の複数の断面凸状の摺接部18が形成されている。なお、断面凸状の摺接部18は、略半円状に限定されるものではない。また、断面凸状の摺接部は、複数である必要はなく、接液部16に続く最初の摺接部18のみでもよい。
【0065】
これら摺接部18のうち、接液部16の最も近くに形成されているものは、接液部16に続いて形成されている。もちろん、これら摺接部18の頂部は、ガスケット10が嵌め込まれるシリンジバレル60の内面62の径(内径)よりもやや大きい径となるように設定されている。また、互いに隣り合う摺接部18同士の間には、摺接部18における径よりも小径となる小径部19が形成されている。ガスケット本体12の断面を見たとき、この小径部19は略直線状に形成されている。
【0066】
PTFEフィルム40は、上述した実施形態の場合と同様、ガスケット本体12の接液部16における接液面14を覆うように配設されている。また、当該PTFEフィルム40の周端部42は、接液部16に続く最初の摺接部18の頂部を越えて(最初の摺接部18から見て接液部16とは反対側の)当該摺接部18とこれに続く小径部19との境目21に位置している。これにより、PTFEフィルム40の周端面44は境目21においてガスケット本体12の側面(より具体的に言うと摺接部18が終わって小径部19が始まる位置にある面)に対向面接するようになっている。
【0067】
以上により、実施形態に係るガスケット10と同様、PTFEフィルム40の周端面44が外側に向けて露出していないので、PTFEフィルム40内に浸透した薬液50が連通孔を通してこの周端面44から漏れ出すことにより、薬液50がガスケット10から漏れてしまうことを防ぐことができる。
【0068】
次に、変形例1に係るガスケット10の製造手順について説明するが、この製造手順は、基本的に上述した実施形態に係るガスケット10の製造手順と同じであることから、以下では、実施形態に係るガスケット10の製造手順と異なる点について述べて、他の内容については実施形態に係るガスケット10の製造手順の説明を援用する。
【0069】
図10に示すように、第2ブロック220の第2ブロック本体222における成形用エラストマーブロック嵌め込み孔228の内周面には、ガスケット本体12における接液部16に続く最初の摺接部18を除く他の摺接部18に対応する摺接部成形凹所203が形成されている。
【0070】
また、第3ブロック230の第3ブロック本体232における、第2ブロック220の第2下側パーティング面226と接合する第3パーティング面234には、ガスケット本体12における接液部16(接液面14)およびこの接液部16に続く最初の摺接部18に対応する成形凹所202が形成されている。
【0071】
そして、成形中のガスケット本体12とPTFEフィルム40とを成形凹所202に対して高い圧力で押圧しつつ、当該PTFEフィルム40をガスケット本体12における接液部16に続く最初の摺接部18とこれに続く小径部19との境目21で裁断することにより、
図11に示すように、自身の弾性によって成形凹所202に沿って膨張しようとするガスケット本体12の力と、成形凹所202における表面からの反力とに挟まれたPTFEフィルム40の周端部42が伸ばされるとともにガスケット本体12における接液面14および接液部16に続く最初の摺接部18を覆うようにして境目21まで湾曲され、さらに、PTFEフィルム40の周端面(切断面)44が外側に向けて露出しないように、PTFEフィルム40の周端面44は境目21においてガスケット本体12の側面(より具体的に言うと摺接部18が終わって小径部19が始まる位置にある面)に対向面接する。
【0072】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0073】
10…ガスケット、12…ガスケット本体、14…接液面、16…接液部、18…摺接部、19…小径部、20…小径部、21…境目、22…後端面、24…雌ネジ穴
40…PTFEフィルム、42…周端部、44…周端面
50…薬液
60…シリンジバレル、62…(シリンジバレル60の)内面、64…バレル本体、66…装着部、68…鍔部
70…ピストンロッド、72…雄ネジ部、74…指当て部
80…トップキャップ、82…キャップ本体、84…キャップ鍔部、86…凹部
100…シリンジ
200…金型、202…成形凹所、203…摺接部成形凹所、204…成形用エラストマーブロック
210…第1ブロック、212…雄ネジ、214…ピストン、216…第1ブロック本体、218…第1パーティング面
220…第2ブロック、222…第2ブロック本体、224…第2上側パーティング面、226…第2下側パーティング面、227…バネ、228…成形用エラストマーブロック嵌め込み孔、229…裁断部
230…第3ブロック、232…第3ブロック本体、234…第3パーティング面