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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】電気めっき用Bi-Sb合金めっき液
(51)【国際特許分類】
   C25D 3/54 20060101AFI20240624BHJP
   C25D 7/10 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
C25D3/54
C25D7/10
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019071475
(22)【出願日】2019-04-03
(65)【公開番号】P2020169360
(43)【公開日】2020-10-15
【審査請求日】2022-02-21
【審判番号】
【審判請求日】2023-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】591021028
【氏名又は名称】奥野製薬工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 保紀
(72)【発明者】
【氏名】田村 隆一
【合議体】
【審判長】井上 猛
【審判官】土屋 知久
【審判官】相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】特表3-503068(JP,A)
【文献】特開2017-53032(JP,A)
【文献】特開2001-11687(JP,A)
【文献】特開昭63-14887(JP,A)
【文献】特開2001-20955(JP,A)
【文献】特開2013-204809(JP,A)
【文献】特開2008-248348(JP,A)
【文献】特開2019-26923(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105220187(CN,A)
【文献】特開2018-177972(JP,A)
【文献】木村祐介、ビスマスおよびビスマス合金めっき皮膜の物性、表面技術、日本、一般社団法人表面技術協会、平成30年3月1日、2018年3月号第69巻3号、p.108-111
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D3/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気めっき用めっき液であって、
メタンスルホン酸、有機酸、非イオン界面活性剤、ビスマス、及びアンチモンを含有し、
前記有機酸は、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、グルコン酸、グリコール酸、乳酸、及びヒドロキシイソ酪酸からなる群から選ばれる少なくとも1種のヒドロキシカルボン酸であり、
前記非イオン界面活性剤は、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックポリマー、アルコールエトキシレート、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンモノステアレート、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド、ポリオキシエチレンラウリルアミン、多価アルコールエステル、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、及びポリオキシエチレン-牛脂アルキルアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の非イオン性界面活性剤である、
エンジンの軸受部品への電気めっき用めっき液。
【請求項2】
前記ビスマス及び前記アンチモンは、水溶性イオンとして存在する、請求項1に記載の電気めっき用めっき液。
【請求項3】
前記ビスマスの供給源は、酸化ビスマス、硫酸ビスマス、及び塩化ビスマスからなる群から選ばれる少なくとも1種のビスマス化合物である、請求項1又は2に記載の電気めっき用めっき液。
【請求項4】
前記ビスマスは、ビスマスとして、0.1g/L~100g/L含む、請求項1~3のいずれかに記載の電気めっき用めっき液。
【請求項5】
前記アンチモンの供給源は、三酸化二アンチモン、吐酒石、アンチモン酸ナトリウム、及び塩化アンチモンからなる群から選ばれる少なくとも1種のアンチモン化合物である、請求項1~4のいずれかに記載の電気めっき用めっき液。
【請求項6】
前記アンチモンは、アンチモンとして、0.1g/L~50g/L含む、請求項1~5のいずれかに記載の電気めっき用めっき液。
【請求項7】
めっき液は、酸性である、請求項1~6のいずれかに記載の電気めっき用めっき液。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の電気めっき用めっき液を用いて、被めっき物に電気めっきを行う方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気めっき用Bi-Sb合金めっき液に関する。
【背景技術】
【0002】
ビスマスは、毒性の強い鉛の代替として、使用されることが多い金属である。ビスマスは、産業上、エンジン部品の軸受のオーバーレイ、電子部品の接合材料等に使用されている。
【0003】
アンチモンは、産業上、ブレーキの減摩剤(ハビットメタル)、プラスチックの難燃助剤等の添加剤として使用されている。アンチモンは、鉛フリー高融点はんだの成分としても期待される金属である。
【0004】
ビスマスを含む錫合金はんだめっき液や及びアンチモンを含む錫合金はんだめっき液が報告されている。アンチモンを含むめっき液(特許文献1)やビスマスの単金属めっき液も報告されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5142571号
【文献】特許第6294421号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、水溶液からの金属析出還元によって、めっき皮膜(Bi-Sb合金めっき皮膜)を得るための、電気めっき用めっき液及びこれを用いた電気めっき方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記した課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、驚くべきことに、キレート剤、非イオン界面活性剤、ビスマス、及びアンチモンを含有する電気めっき用めっき液を用いることにより、水溶液からの金属析出還元によって、優れためっき皮膜(Bi-Sb合金めっき皮膜)を得ることができることを見出した。
【0008】
即ち、本発明は、以下の項に記載の電気めっき用めっき液及びこれを用いた電気めっき方法を包含する。
【0009】
項1.
メタンスルホン酸、有機酸、非イオン界面活性剤、ビスマス、及びアンチモンを含有する電気めっき用めっき液。
【0010】
項2.
前記ビスマス及び前記アンチモンは、水溶性イオンとして存在する、前記項1に記載の電気めっき用めっき液。
【0011】
項3.
前記有機酸は、ヒドロキシカルボン酸である、前記項1又は2に記載の電気めっき用めっき液。
【0012】
項4.
前記ヒドロキシカルボン酸は、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、グルコン酸、グリコール酸、乳酸、及びヒドロキシイソ酪酸からなる群から選ばれる少なくとも1種のヒドロキシカルボン酸である、前記項3に記載の電気めっき用めっき液。前記ヒドロキシカルボン酸は、より好ましくは、グリコール酸、乳酸、及びヒドロキシイソ酪酸からなる群から選ばれる少なくとも1種のヒドロキシカルボン酸である。
【0013】
項5.
前記ビスマスの供給源は、酸化ビスマス、硫酸ビスマス、及び塩化ビスマスからなる群から選ばれる少なくとも1種のビスマス化合物である、前記項1~4のいずれかに記載の電気めっき用めっき液。
【0014】
項6.
前記ビスマスは、ビスマスとして、0.1g/L~100g/L含む、前記項1~5のいずれかに記載の電気めっき用めっき液。前記ビスマスは、ビスマスとして、より好ましくは、5g/L~50g/L含む。
【0015】
項7.
前記アンチモンの供給源は、三酸化二アンチモン、吐酒石、アンチモン酸ナトリウム、及び塩化アンチモンからなる群から選ばれる少なくとも1種のアンチモン化合物である、前記項1~6のいずれかに記載の電気めっき用めっき液。
【0016】
項8.
前記アンチモンは、アンチモンとして、0.1g/L~50g/L含む、前記項1~7のいずれかに記載の電気めっき用めっき液。前記アンチモンは、アンチモンとして、より好ましくは、0.5g/L~20g/L含む。
【0017】
項9.
めっき液は、酸性である、前記項1~8のいずれかに記載の電気めっき用めっき液。めっき液は、より好ましくは、pH3以下であり、更に好ましくは、pH1以下である。
【0018】
項10.
エンジンの軸受部品への電気めっき用である、前記項1~9のいずれかに記載の電気めっき用めっき液。
【0019】
項11.
前記項1~10のいずれかに記載の電気めっき用めっき液を用いて、被めっき物に電気めっきを行う方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、水溶液からの金属析出還元によって、めっき皮膜(Bi-Sb合金めっき皮膜)を得るための、電気めっき用めっき液及びこれを用いた電気めっき方法を提供することができる。
【0021】
本発明の電気めっき用めっき液は、浴安定性に優れている。
【0022】
本発明の電気めっき用めっき液は、皮膜形態に優れた皮膜を形成することができる。
【0023】
本発明の電気めっき用めっき液を用いて、例えばエンジンの軸受部品へ電気めっきを行うことで、動摩擦係数の点で優れた皮膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0025】
本発明は、ビスマス-アンチモン(Bi-Sb)合金めっきを安定的に得ることが可能な浴組成を提供し、優れたBi-Sb合金めっき皮膜を得る方法を提供する。本発明は、産業上、エンジンの軸受部品、錫と積層して使用する鉛フリーはんだとしての用途展開を期待するものである。
【0026】
1.電気めっき用めっき液
本発明の電気めっき用めっき液は、メタンスルホン酸、有機酸、非イオン界面活性剤、ビスマス、及びアンチモンを含有する。本発明の電気めっき用めっき液を用いることで、水溶液からの金属析出還元によってBi-Sb合金めっき皮膜を良好に得ることができる。本発明の電気めっき用めっき液では、メタンスルホン酸及び有機酸の両方を必須成分とし、これら両成分を含有することで、ビスマス及びアンチモンが水溶性イオンとして存在することを可能とする。
【0027】
メタンスルホン酸
本発明の電気めっき用めっき液は、メタンスルホン酸を含有する。本発明の電気めっき用めっき液では、メタンスルホン酸はキレート剤として機能する。本発明の電気めっき用めっき液では、メタンスルホン酸は、ビスマスの溶解性を高めることができ、めっき液中にビスマスが水溶性イオンとして存在するために必要であり、好ましく用いる。
【0028】
本発明の電気めっき用めっき液では、メタンスルホン酸濃度は10g/L~250g/Lであることが好ましい。本発明の電気めっき用めっき液では、メタンスルホン酸濃度が10g/L以上であることで、ビスマスを水溶性イオンとして安定して存在させることができる。本発明の電気めっき用めっき液では、メタンスルホン酸濃度が250g/L以下であることで、めっき皮膜の析出効率は良く、目的とする膜厚を得る為の電気量及び時間は経済的に有利である。
【0029】
有機酸
本発明の電気めっき用めっき液は、有機酸を含有する。本発明の電気めっき用めっき液では、有機酸はキレート剤として機能する。
【0030】
本発明の電気めっき用めっき液では、有機酸として、ヒドロキシカルボン酸を使用することが好ましい。本発明の電気めっき用めっき液では、有機酸(ヒドロキシカルボン酸)は、アンチモンの溶解性を高めることができ、めっき液中にアンチモンが水溶性イオンとして存在するために必要であり、好ましく用いる。
【0031】
本発明の電気めっき用めっき液では、ヒドロキシカルボン酸として、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、グルコン酸、グリコール酸、乳酸、及びヒドロキシイソ酪酸からなる群から選ばれる少なくとも1種のヒドロキシカルボン酸を使用することが好ましく、グリコール酸、乳酸、及びヒドロキシイソ酪酸からなる群から選ばれる少なくとも1種のヒドロキシカルボン酸を使用することがより好ましい。
【0032】
本発明の電気めっき用めっき液では、有機酸濃度は1g/L~100g/Lであることが好ましい。本発明の電気めっき用めっき液では、有機酸濃度が1g/L以上であることで、アンチモンを水溶性イオンとして安定して存在させることができる。本発明の電気めっき用めっき液では、有機酸濃度が100g/L以下であることで、特に、ヒドロキシ多価カルボン酸を使用した場合であっても、メタンスルホン酸とビスマスの水溶性に影響を及ぼすことが無く、ビスマス化合物の沈殿を抑えることができる。本発明の電気めっき用めっき液では、有機酸として、ヒドロキシモノカルボン酸である、グリコール酸、乳酸、ヒドロキシイソ酪酸等を使用することが好ましい。
【0033】
本発明の電気めっき用めっき液では、キレート剤として、メタンスルホン酸とヒドロキシカルボン酸とを適度な濃度で使用することで、ビスマス及びアンチモンは、安定して、水溶性イオンとして存在することができる。
【0034】
非イオン界面活性剤
本発明の電気めっき用めっき液は、非イオン界面活性剤を含有する。
【0035】
本発明の電気めっき用めっき液では、界面活性剤の中でも、非イオン性界面活性剤を用いることが好ましい。本発明の電気めっき用めっき液では、非イオン性界面活性剤として、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックポリマー、アルコールエトキシレート、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンモノステアレート、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド、ポリオキシエチレンラウリルアミン、多価アルコールエステル、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル又はポリオキシエチレン-牛脂アルキルアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の非イオン性界面活性剤を使用することが好ましい。
【0036】
本発明の電気めっき用めっき液では、非イオン性界面活性剤は、めっき析出性を改善することができる。本発明の電気めっき用めっき液では、非イオン性界面活性剤が含まれることで、めっき皮膜のデンドライト状析出を抑制して、良好に金属めっき皮膜を得ることができる。
【0037】
本発明の電気めっき用めっき液では、非イオン界面活性剤濃度は1g/L~50g/Lであることが好ましい。本発明の電気めっき用めっき液では、非イオン界面活性剤濃度が1g/L以上であることで、めっき析出性を改善することができ、めっき皮膜のデンドライト状析出を抑制して、良好に金属めっき皮膜を得ることができる。本発明の電気めっき用めっき液では、非イオン界面活性剤濃度が50g/L以下であることで、成膜速度に影響を及ぼすことなく、良好に金属めっき皮膜を得ることができる。
【0038】
本発明の電気めっき用めっき液では、非イオン性界面活性剤に加えて、めっき皮膜のレベリング性を改善することやめっき皮膜の光沢性を改善する目的で、両性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、サッカリン等の硫黄化合物、等を添加しても良い。
【0039】
ビスマス
本発明の電気めっき用めっき液は、ビスマスを含有する。
【0040】
本発明の電気めっき用めっき液では、ビスマスは、水溶性イオンとして存在することが好ましい。
【0041】
本発明の電気めっき用めっき液では、ビスマスの供給源は、特に限定することはないが、酸化ビスマス、水酸化ビスマス、硫酸ビスマス、及び塩化ビスマスからなる群から選ばれる少なくとも1種のビスマス化合物であることが好ましい。また、金属ビスマスの陽極電解によりビスマスを供給(補給)しても良い。
【0042】
本発明の電気めっき用めっき液では、ビスマスは、ビスマス(Bi)として、0.1g/L~100g/L含むことが好ましく、5g/L~50g/L含むことがより好ましい。本発明の電気めっき用めっき液では、ビスマスは、ビスマス(Bi)として、0.1g/L以上であることで、水溶液からの金属析出還元によって、良好にめっき皮膜(Bi-Sb合金めっき皮膜)を得ることができる。本発明の電気めっき用めっき液では、ビスマスは、ビスマス(Bi)として、100g/L以下であることで、水溶液からの金属析出還元によって、良好にめっき皮膜(Bi-Sb合金めっき皮膜)を得ることができる。
【0043】
アンチモン
本発明の電気めっき用めっき液は、アンチモンを含有する。
【0044】
本発明の電気めっき用めっき液では、アンチモンは、水溶性イオンとして存在することが好ましい。
【0045】
本発明の電気めっき用めっき液では、アンチモンの供給源は、特に限定することはないが、三酸化二アンチモン、吐酒石、アンチモン酸ナトリウム、及び塩化アンチモンからなる群から選ばれる少なくとも1種のアンチモン化合物であることが好ましい。また、金属アンチモンの陽極電解によりアンチモンを供給(補給)しても良い。
【0046】
本発明の電気めっき用めっき液では、アンチモンは、アンチモン(Sb)として、0.1g/L~50g/L含むことが好ましく、0.1g/L~30g/L含むことがより好ましく、0.5g/L~20g/L含むことが更に好ましい。本発明の電気めっき用めっき液では、アンチモンは、アンチモン(Sb)として、0.1g/L以上であることで、水溶液からの金属析出還元によって、良好にめっき皮膜(Bi-Sb合金めっき皮膜)を得ることができる。本発明の電気めっき用めっき液では、アンチモンは、アンチモン(Sb)として、50g/L以下であることで、水溶液からの金属析出還元によって、良好にめっき皮膜(Bi-Sb合金めっき皮膜)を得ることができる。
【0047】
めっき液の酸性度
本発明の電気めっき用めっき液は、酸性であることが好ましく、pH1以下であることがより好ましい。
【0048】
本発明の電気めっき用めっき液は、好ましくは酸性であること、より好ましくはpH1以下であることで、めっき皮膜の析出効率(電流効率)が良く、良好に目的とする膜厚を得ることができ、電気量と時間との点で経済的に有利である。本発明の電気めっき用めっき液は、より好ましくはpH1以下であることで、pHが高くなく、水酸化物の生成を抑制し、めっき液は良好な安定性を示す。
【0049】
2.電気めっき
本発明の電気めっき用めっき液を用いて、被めっき物に電気めっきを行うことができる。
【0050】
めっき温度
本発明の電気めっき用めっき液を用いて、電気めっきを行う際に、好ましいめっき温度は10℃~60℃である。本発明の電気めっき用めっき液を用いて、電気めっきを行う際に、めっき温度を10℃以上にすることで、より均一なめっき皮膜が得ることができる。本発明の電気めっき用めっき液を用いて、電気めっきを行う際に、めっき温度を60℃以下にすることで、鉄、銅、真鍮等の下地金属を侵食せず、めっき皮膜の密着性及び外観を向上させることができる。
【0051】
めっきの電流密度
本発明の電気めっき用めっき液を用いて、電気めっきを行う際に、好ましい電流密度は0.1A/dm2~20A/dm2である。本発明の電気めっき用めっき液を用いて、電気めっきを行う際に、電流密度を0.1A/dm2以上にすることで、めっき速度が良く、目的とする膜厚を得るのに時間がかからず、経済的に有利である。本発明の電気めっき用めっき液を用いて、電気めっきを行う際に、電流密度を20A/dm2以下にすることで、析出効率が良く、経済的に有利である。
【0052】
めっき皮膜のアンチモン含有量
本発明の電気めっき用めっき液では、めっき液中のビスマス濃度とアンチモン濃度とを変化させることで、皮膜組成を制御することが可能である。本発明の電気めっき用めっき液では、得られるめっき皮膜のアンチモン含有量は、好ましくは0.5質量%~90質量%である。本発明では、得られるめっき皮膜のアンチモン含有量は、0.5質量%~90質量%であることで、水溶液からの金属析出還元によって、良好にめっき皮膜(Bi-Sb合金めっき皮膜)を得ることができる。本発明では、得られるめっき皮膜のアンチモン含有量は、特に、0.5質量%以上であることでめっき皮膜の摺動性が向上し、90質量%以下であることで均一な外観を得ることができる。
【0053】
本発明において、めっき皮膜に含まれるアンチモン含有率(質量%)は、エネルギー分散型X線分析(Energy dispersive X-ray spectrometry、EDX)により測定した値である。
【0054】
3.電気めっき用めっき液の用途
本発明の電気めっき用めっき液は、エンジンの軸受部品への電気めっき用であることが好ましい。
【0055】
本発明の電気めっき用めっき液は、これを用いた電気めっき方法により、水溶液からの金属析出還元によって、良好にめっき皮膜(Bi-Sb合金めっき皮膜)を得ることができる。本発明の電気めっき用めっき液は、浴安定性に優れていること、皮膜形態に優れた皮膜を形成すること等の効果を発揮する。
【0056】
本発明の電気めっき用めっき液を用いて、例えばエンジンの軸受部品へ電気めっきを行うことで、動摩擦係数の点で優れた皮膜を形成することができる。
【0057】
本発明の電気めっき用めっき液を用いて形成しためっき皮膜は、摺動性に優れており、優れた摺動部材となる。本発明の電気めっき用めっき液は、ガソリン及びディーゼルエンジン等のエンジン用の軸受の製造に、好ましく使用することができる。本発明の電気めっき用めっき液は、具体的には、軸受のオーバーレイ層上に、めっき皮膜(Bi-Sb合金めっき皮膜)を形成する為に、好ましく使用することができる。
【実施例
【0058】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0059】
本発明は下記の例に限定されるものではない。
【0060】
1.電気めっき用めっき液の浴安定性
電気めっき用めっき液を、表1に記載の組成に従って調製した。
【0061】
評価1:建浴直後に沈殿が発生した。
【0062】
評価2:建浴後1週間以内に、沈殿が発生した。
【0063】
評価3:建浴後1週間以上経っても、沈殿は発生しなかった。
【0064】
評価3が良好な結果である。
【0065】
2.めっき皮膜の形態
電気めっき用めっき液を用いて、電気めっきを実施し、めっき皮膜を形成した。
【0066】
めっき条件
陰極:真鍮板
温度:20℃
電流密度:2A/dm2
めっき時間:5分
【0067】
評価1:めっき液に沈殿が発生した為、めっきは未実施である。
【0068】
評価2:めっき皮膜は、デンドライト状の外観であった。
【0069】
評価3:めっき皮膜は、半光沢の均一な外観であった。
【0070】
評価3が良好な結果である。
【0071】
3.めっき皮膜中のアンチモン含有率
形成しためっき皮膜中のアンチモン含有率(質量%)を、エネルギー分散型X線分析(Energy dispersive X-ray spectrometry、EDX)により測定し、皮膜組成を分析した。
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】
【0074】
【表3】
【0075】
本発明の電気めっき用めっき液は、これを用いた電気めっき方法により、水溶液からの金属析出還元によって、良好にめっき皮膜(Bi-Sb合金めっき皮膜)を得ることができると評価できた。
【0076】
本発明の電気めっき用めっき液は、浴安定性に優れていると評価できた。
【0077】
本発明の電気めっき用めっき液を用いると、皮膜形態に優れた皮膜を形成することができると評価できた。
【0078】
4.めっき皮膜の応用(摺動性)
本発明の電気めっき用めっき液は、エンジンの軸受部品への電気めっき用であることが好ましい。本発明の電気めっき用めっき液を用いて、真鍮板(被めっき物)に電気めっきを行い、皮膜を形成した。
【0079】
動摩擦係数
試験片は、エリクセン槽を用いて、真鍮板上に、電流密度:2A/dm2、めっき時間:10分で、めっき条件で電気めっきを実施し、皮膜を形成した(実施例)。
【0080】
試験片の摺動性を、トライボギア(荷重変動型摩擦磨耗試験機)を用いて、荷重100gf(0.98N)の条件で、動摩擦係数を評価した。
【0081】
【0082】
比較例5は、アンチモンを含まず、動摩擦係数が高く、摺動性の点で、エンジン部品の軸受のオーバーレイ等には不向きな皮膜と考えられる。
【0083】
本発明の電気めっき用めっき液を用いると、動摩擦係数が低く、優れた摺動性を示す皮膜を形成することができ、例えばエンジンの軸受部品へ電気めっきを行うに際し、適切であると評価できた。
【0084】
5.産業上の有用性
本発明の電気めっき用めっき液を用いて形成しためっき皮膜は、優れた摺動部材となる。本発明の電気めっき用めっき液は、産業上、ガソリン及びディーゼルエンジン等のエンジン部品の軸受のオーバーレイ、電子部品の接合材料、ブレーキの減摩剤(ハビットメタル)等に好ましく使用することができる。本発明の電気めっき用めっき液は、具体的には、軸受のオーバーレイ層上に、ビスマス-アンチモン(Bi-Sb)合金のめっき皮膜(Bi-Sb合金めっき皮膜)を形成する為に、好ましく使用することができる。