(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】波浪計測装置
(51)【国際特許分類】
G01C 13/00 20060101AFI20240624BHJP
【FI】
G01C13/00 W
(21)【出願番号】P 2020120654
(22)【出願日】2020-07-14
【審査請求日】2023-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】595153941
【氏名又は名称】株式会社宇津木計器
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】笹 健児
(72)【発明者】
【氏名】田中 良和
(72)【発明者】
【氏名】織田 博行
(72)【発明者】
【氏名】黄 鎮川
(72)【発明者】
【氏名】宇津木 洋三
(72)【発明者】
【氏名】小竿 誠
【審査官】櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-021029(JP,A)
【文献】実開昭63-093513(JP,U)
【文献】国際公開第2017/086482(WO,A1)
【文献】特開2011-213191(JP,A)
【文献】特開2007-171146(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 13/00
G01W 1/08
B63B 22/00
B63B 35/00
B63B 39/14
B63B 79/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水上移動体の互いに異なる複数の位置にそれぞれ設置され、喫水を計測する複数の喫水計測手段と、
前記水上移動体の動揺を計測する動揺計測手段と、
前記複数の喫水計測手段により計測された喫水データ及び前記動揺計測手段により計測された動揺データに基づいて、前記複数の位置の絶対水位変動の時系列データを演算する絶対水位変動演算手段と、
前記複数の位置の前記絶対水位変動の時系列データに基づいて、
自己回帰モデルを用いて、クロススペクトル解析をするクロススペクトル解析手段と、
前記クロススペクトル解析手段による解析結果に基づいて、波高、波向又は周期のうち少なくとも1つを含む波浪情報を計測する波浪計測手段と
を備えることを特徴とする波浪計測装置。
【請求項2】
前記複数の位置は、前記水上移動体の水面に平行な面の中心に対して、推進方向に前後に設置され、前記推進方向の垂直方向に左右に設けられたこと
を特徴とする請求項1に記載の波浪計測装置。
【請求項3】
水上移動体の互いに異なる複数の位置にそれぞれ設置された複数の喫水計により喫水を計測し、
前記水上移動体の動揺を計測し、
前記複数の喫水計により計測した喫水データ及び計測した動揺データに基づいて、前記複数の位置の絶対水位変動の時系列データを演算し、
前記複数の位置の前記絶対水位変動の時系列データに基づいて、
自己回帰モデルを用いて、クロススペクトル解析をし、
前記クロススペクトル解析による解析結果に基づいて、波高、波向又は周期のうち少なくとも1つを含む波浪情報を計測すること
を含むことを特徴とする波浪計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波浪を計測する波浪計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、船の航行中に、波浪を計測することが要望されている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】高石、外3名、「船載式波浪情報提供システムの開発に関する研究」、社団法人日本船舶海洋工学会、2002年、2002巻、192号、p.171-180
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、航行中は、船体が傾く等の理由により、波浪を計測することは容易ではなく、計測精度を出すのが困難である。
【0005】
本発明の実施形態の目的は、水上移動体の航行中に、波浪を容易に計測する波浪計測装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の観点に従った波浪計測装置は、水上移動体の互いに異なる複数の位置にそれぞれ設置され、喫水を計測する複数の喫水計測手段と、前記水上移動体の動揺を計測する動揺計測手段と、前記複数の喫水計測手段により計測された喫水データ及び前記動揺計測手段により計測された動揺データに基づいて、前記複数の位置の絶対水位変動の時系列データを演算する絶対水位変動演算手段と、前記複数の位置の前記絶対水位変動の時系列データに基づいて、クロススペクトル解析をするクロススペクトル解析手段と、前記クロススペクトル解析手段による解析結果に基づいて、波高、波向又は周期のうち少なくとも1つを含む波浪情報を計測する波浪計測手段とを備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明の実施形態によれば、水上移動体の航行中に、波浪を容易に計測する波浪計測装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係る波浪計測装置の構成を示す構成図。
【
図2】本実施形態に係る計器の実装状態を示す船の概略図。
【
図3】本実施形態に係る波浪計測部による波浪の計測方法の手順を示すフロー図。
【
図4】本実施形態に係る計器類による計測データを示す波形図。
【
図5】本実施形態に係る上下加速度データを示す波形図。
【
図6】本実施形態に係る上下変位データを示す波形図。
【
図7】本実施形態に係る絶対水位変動データを示す波形図。
【
図8】本実施形態に係るスペクトル解析データを示す波形図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(実施形態)
図1は、本発明の実施形態に係る波浪計測装置1の構成を示す構成図である。
図2は、本実施形態に係る計器11~15の実装状態を示す船10の概略図である。なお、図面における同一部分には同一符号を付して、重複する説明を適宜省略する。
【0010】
波浪計測装置1は、船10に設置され、コンピュータを用いて構成される。なお、船10は、水上を移動する水上移動体であれば、どのようなものでもよい。例えば、移動を主な目的としない設備又は人工島のようなものでもよい。ここでは、水上移動体は、主に船として説明する。
【0011】
波浪計測装置1は、4つの喫水計11,12,13,14、動揺計測計15、波浪計測部2、及び、表示器3を備える。なお、波浪計測装置1を構成する機器類は、波浪計測装置1に関係なく設けられる船舶機器等を兼用してもよいし、GPS(global positioning system)等の船外の機器又は設備を利用してもよい。
【0012】
喫水計11,12,13,14は、船10に実装される。喫水計11~14は、各設置位置の喫水(船底から水面までの高さ)を計測する。喫水計11~14は、計測した喫水に関するデータ(喫水データ)を波浪計測部2に送信する。
【0013】
喫水計11は、船10の船首部分に設けられる。喫水計12は、船10の長手方向の中央部分の左舷側に設けられる。喫水計13は、船10の長手方向の中央部分の右舷側に設けられる。喫水計14は、船10の船尾部分に設けられる。即ち、喫水計11,14は、船10の船体上面(水面に平行な面)の中心Oに対して、長手方向(船10の推進方向)に前後にそれぞれ設けられ、喫水計12,13は、中心Oに対して、幅方向(船10の推進方向に垂直方向)に左右にそれぞれ設けられる。
【0014】
ここでは、4つの喫水計11~14を用いた構成について説明するが、4つ以上であれば、いくつの喫水計11~14を用いてもよい。喫水計11~14の配置は、ここで説明した位置に限らず、各喫水計11~14による喫水データが互いに異なるような位置に配置されれば、どのように配置されてもよい。
【0015】
動揺計測計15は、船10に実装される。動揺計測計15は、前後揺(サージ)、左右揺(スウェイ)、上下揺(ヒーブ)、横揺(ロール)、縦揺(ピッチ)、及び、船首揺(ヨー)を計測する。動揺計測計15は、計測した動揺に関するデータ(動揺データ)を波浪計測部2に送信する。例えば、動揺データは、加速度、角速度及び傾斜角である。
【0016】
なお、動揺計測計15は、どのような方式で計測してもよいし、複数の機器で構成されてもよい。また、動揺計測計15は、横揺、縦揺及び上下加速度を計測すれば、その他の動揺は、計測しなくてもよい。さらに、動揺計測計15は、波浪計測装置1で使用する目的以外の計測をしてもよい。例えば、動揺計測計15で計測されたデータは、船10の姿勢を監視又は制御する目的に使用されてもよい。
【0017】
波浪計測部2は、喫水計11~14から受信した各設置位置の喫水データ、及び、動揺計測計15から受信した動揺データに基づいて、波浪に関する情報(波浪情報)を得る(計測する)。例えば、波浪情報は、波高、波向及び周期である。波浪計測部2は、計測した波浪情報を表示器3に表示するための情報に変換して、表示器3に送信する。なお、波浪情報は、波高、波向又は周期のうち少なくとも1つを含めば、その他の要素は、演算しなくてもよいし、表示しなくてもよい。
【0018】
表示器3は、波浪計測部2から受信した波浪情報を表示する。船員等の操作者は、表示器3を見ることで、波浪情報を把握することができる。なお、表示器3は、船10の外部に設けてもよい。これにより、船外の者でも、波浪情報を把握することができる。例えば、世界の主要航路を航行する各船10での計測データを集計及び分析して、世界規模の波浪情報を表示するマップを作成してもよい。
【0019】
図3は、本実施形態に係る波浪計測部2による波浪の計測方法の手順を示すフロー図である。
波浪計測部2は、喫水計11~14により計測された各設置位置の喫水データから平均喫水を除して相対水位変動を演算する(ステップST1)。
【0020】
波浪計測部2は、動揺計測計15により計測された動揺データに基づいて、演算した相対水位変動を補正することで、絶対水位変動を演算する(ステップST2)。
【0021】
具体的に、絶対水位の演算方法について説明する。
動揺計測計15の設置位置における横揺角速度、縦揺角速度及び上下加速度に基づいて、喫水計11~14の設置位置の上下加速度を演算する。喫水計11~14の設置位置の上下加速度は、動揺計測計15の設置位置の上下加速度、縦揺角の角加速度、及び、横揺角の角加速度を用いて、次式により求める。
【0022】
【0023】
無限インパルス応答(IIR, Infinite Impulse Response)ディジタルフィルタによる積分法により、次式を用いて、上下加速度を2回積分することで上下変位を求める。
【0024】
【0025】
これにより、相対水位変動から上下変位を引くことで、喫水計11~14の設置位置の絶対水位変動が求まる。
【0026】
波浪計測部2は、4つの喫水計11~14の設置位置の絶対水位変動に基づいて、絶対水位変動の時系列データをクロススペクトル解析する(ステップST3)。例えば、波浪計測部2は、片振幅である絶対水位でデータ解析を行い、その周波数(スペクトル)解析の結果を2倍することにより、両振幅である絶対波高に換算する。なお、波浪計測部2は、絶対波高でデータ解析を行ってもよい。
【0027】
波浪計測部2は、この解析結果に基づいて、波浪情報である波高、波向及び周期を演算する(ステップST4)。
【0028】
次に、喫水計11~14及び動揺計測計15による計測結果に基づいて、喫水計11~14の設置位置の絶対水位を解析して、波浪情報を求める方法を説明する。
【0029】
ここでは、統計的時系列モデルの一つである多次元自己回帰モデルを用いて、絶対水位変動の時系列データをクロススペクトル解析する。これにより、変数間の振幅/位相特性(クロススペクトル)に関する情報が推定される。ここで、変数とは、4つの喫水計11~14の設置位置で推定された絶対水位である。
【0030】
クロススペクトルは、自分と自分の関係を表すオート成分(オートパワースペクトル)と、自分と他の変数との関係を表すクロス成分(クロススペクトル)からなる。クロススペクトルは、複素数になる。スペクトルのオート成分は、その周波数におけるパワー(振幅の2乗)を示す実数であり、虚数部分はゼロである。したがって、これは着目している変数自身の振幅特性を表すことになる。一方、スペクトルのクロス成分は、その周波数での変数間の相関の強さを示す。複素数ということは、複素平面上に1つのベクトルが書けることになるため、実数軸からの角度即ち位相を知ることができる。したがって、クロス成分は、着目している変数間の位相関係を表すことになる。
【0031】
波高、波向及び波周期は、以下のように推定する。ここでは、クロススペクトル解析は、多変量自己回帰モデル解析法を用いる。
計測位置の2地点間の絶対水位のクロススペクトルは、相互相関関数を用いて、次式により求める。
【0032】
【0033】
【0034】
これらを用いて、2地点間の絶対水位の位相差は、次式により求める。
【0035】
【0036】
波向は、3点の絶対水位のパワースペクトルの和の卓越周波数での位相差を用いて、次式により求める。
【0037】
【0038】
代表周期は、次式により求める。有義波高に関しては、3点の絶対水位のパワースペクトルを平均し、その平方根を4倍することにより求める。
【0039】
【0040】
なお、周波数解析は、ここで説明するものに限らない。FFT(高速フーリエ変換)法でもよいし、相関関数を用いるブラックマン-チューキー(Blackman-Tukey)法でもよいし、ブルク(Burg)の最大エントロピー法でもよい。ここで、相関関数を使う方法では、モデルの次数を決める必要があるが、上述の方法では、情報量規準でモデル次数を客観的に決めることができる。
【0041】
図4から
図8を参照して、船10に実装された喫水計11~14及び動揺計測計15を含む計器類による計測データDG1を解析し、波浪情報を得るまでを説明する。
【0042】
図4に示すように、船10の計器類による計測データDG1を得る。波形W11~W19の横軸は時間(秒)である。波形W11は針路(度)、波形W12は対地速力(ノット)、波形W13はロール角速度(度/秒)、波形W14はピッチ角速度(度/秒)、波形W15は上下加速度(m^2/秒)、波形W16は船首の喫水計11による喫水データ(m)、波形W17は中央左舷の喫水計12による喫水データ(m)、波形W18は中央右舷の喫水計13による喫水データ(m)、波形W19は船尾の喫水計14による喫水データ(m)をそれぞれ示す。なお、針路及び対地速力は、参考データであり、計測しなくてもよい。
【0043】
図5に示すように、計測データDG1から喫水計11~14の設置位置における上下加速度データDG2を得る。波形W21~W24は、横軸を時間(秒)、縦軸を加速度(m^2/秒)にしている。波形W21は船首、波形W22は中央左舷、波形W23は中央右舷、波形W24は船尾の加速度データをそれぞれ示す。
【0044】
図6に示すように、上下加速度データDG2から上下変位データDG3を得る。波形W31~W34は、横軸を時間(秒)、縦軸を変位(m)にしている。波形W31は船首、波形W32は中央左舷、波形W33は中央右舷、波形W34は船尾の上下変位データをそれぞれ示す。
【0045】
図7に示すように、上下変位データDG3から絶対水位変動データDG4を得る。波形W41~W44は、横軸を時間(秒)、縦軸を水位(m)にしている。波形W41は船首、波形W42は中央左舷、波形W43は中央右舷、波形W44は船尾の絶対水位変動データをそれぞれ示す。
【0046】
図8に示すように、絶対水位変動データDG4からスペクトル解析データDG5を得る。スペクトル解析データDG5において、2つの波形データのうち一方の喫水計11~14の設置位置は、上から順に、1行目は船首、2行目は中央左舷、3行目は中央右舷、4行目は船尾をそれぞれ示し、もう一方の喫水計11~14の設置位置は、左から順に、1列目は船首、2列目は中央左舷、3列目は中央右舷、4列目は船尾をそれぞれ示す。したがって、解析データDG5の右下がりの対角線に位置する波形は、オートパワースペクトルを表し、それ以外の波形は、クロススペクトルを表す。
【0047】
スペクトル解析データDG5の各波形において、横軸は周波数(Hz)、縦軸はスペクトル密度(m^2・秒)、実線はスペクトル実部、破線はスペクトル虚部をそれぞれ示す。
【0048】
スペクトル解析データDG5から推定される波浪情報は、有義波高が0.66m、波向(船首から時計回りを正)が127.3度、平均波周期が7.0秒である。
【0049】
本実施形態によれば、喫水計11~14及び動揺計測計15による計測結果に基づいて、水位変動の時系列データをクロススペクトル解析することにより、波高、波向及び周期を含む波浪情報を得ることができる。これにより、船員は、船10の航行中に、波浪情報を把握することができる。
【0050】
また、波浪計測装置1を構成する喫水計11~14及び動揺計測計15は、既存の機器類を用いることができるため、波浪計測装置1以外の用途と兼用することで、船10の設備コストを抑制することができる。また、喫水計11~14又は動揺計測計15のうち少なくとも1つでも設けられている水上移動体(船)であれば、既存の機器類を利用することで、波浪計測装置1を実装する改造コストを抑制することができる。
【0051】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、構成要素を削除、付加又は変更等をしてもよい。また、複数の実施形態について構成要素を組合せ又は交換等をすることで、新たな実施形態としてもよい。このような実施形態が上述した実施形態と直接的に異なるものであっても、本発明と同様の趣旨のものは、本発明の実施形態として説明したものとして、その説明を省略している。
【符号の説明】
【0052】
1…波浪計測装置、2…波浪計測部、3…表示器、11,12,13,14…喫水計、15…動揺計測計。