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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】油揚げ製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 11/45 20210101AFI20240624BHJP
【FI】
A23L11/45 108Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020155469
(22)【出願日】2020-09-16
(65)【公開番号】P2022049324
(43)【公開日】2022-03-29
【審査請求日】2023-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】592015802
【氏名又は名称】赤穂化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】江崎 穂
(72)【発明者】
【氏名】小野 敬義
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-108700(JP,A)
【文献】特開2002-223718(JP,A)
【文献】特開2020-68744(JP,A)
【文献】特開2018-14897(JP,A)
【文献】特開2007-312723(JP,A)
【文献】特開2014-113095(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形分濃度8重量%以上15重量%以下の豆乳に、微細な空気を存在させる分散工程、
タンパク質架橋酵素を加えて、ゆと分離させずに凝固する凝固工程、
得られた凝固物を、脱水工程を経ずに揚げる揚げ工程、
を有することを特徴とする油揚げ製造方法。
【請求項2】
前記凝固工程において、澱粉を加えて凝固することを特徴とする請求項1に記載の油揚げ製造方法。
【請求項3】
前記凝固工程において、風味原料、調味料のいずれか、または両方を加えた豆乳を凝固することを特徴とする請求項1または2に記載の油揚げ製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油揚げの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
油揚げは、豆乳に凝固剤を加えてタンパク質を凝固させ、この凝固物を型箱に流し入れ、圧搾して水を切ったものを生地とし、この生地を低温の油で揚げて膨張させた後、高温の油で揚げて水分を蒸発させて製造される。
油揚げ製造用の豆乳は、水に浸漬した大豆を水と共に磨砕して得た呉を加熱し、加熱工程直後に水を加えたものを用いる。水は、低温の油で揚げる際に生地の膨張に必要な溶存酸素を供給するために加えられる。油揚げ製造用の豆乳は、水が加えられるために固形分濃度が3~5重量%と低い。固形分濃度が低い豆乳から製造される油揚げは、豆乳中の水溶性の糖類や有機酸などの味に寄与する成分の濃度が低く、さらに、圧搾時に大量の水分とともに味に寄与する成分が取り除かれる。そのため、固形分濃度が低い豆乳から製造された豆腐生地は、味や風味に乏しく、この生地を揚げた油揚げも味気ないものとなる。
【0003】
出願人は、特許文献1において、高濃度の豆乳を用いた油揚げの製造方法を提案している。特許文献1に記載の方法により、従来の油揚げと比較して、原料である大豆の味や甘みを感じることのできる、味や風味が豊かな油揚げを製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-108700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、味や風味が豊かで、食感の滑らかな油揚げの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意研究した結果、絹ごし豆腐、木綿豆腐などの製造に用いる固形分濃度が8重量%以上15重量%以下である高濃度豆乳をそのまま用いて味や風味が豊かな油揚げを製造できること、また、空気を存在させた豆乳にタンパク質架橋酵素を加えて凝固することにより、得られた凝固物を脱水せずにそのまま揚げても、表面の皮が破れることなく揚げることができ、水分量の多い滑らかな食感の油揚げを製造できること、さらに、澱粉を加えて凝固させることにより口溶けの良い食感が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
本発明の具体的な構成は以下の通りである。
1.固形分濃度8重量%以上15重量%以下の豆乳に、微細な空気を存在させる分散工程、
タンパク質架橋酵素を加えて、ゆと分離させずに凝固する凝固工程、
得られた凝固物を、脱水工程を経ずに揚げる揚げ工程、
を有することを特徴とする油揚げ製造方法。
2.前記凝固工程において、澱粉を加えて凝固することを特徴とする1.に記載の油揚げ製造方法。
3.前記凝固工程において、風味原料、調味料のいずれか、または両方を加えた豆乳を凝固することを特徴とする1.または2.のいずれかに記載の油揚げ製造方法。
【発明の効果】
【0008】
固形分濃度が8重量%以上15重量%以上である高濃度豆乳をそのまま用い、ゆ(凝固時に分離する水分や油分、以下「ゆ」と表す)と分離させずに凝固させることにより、大豆の風味が「ゆ」に移行しないため、風味豊かな油揚げを製造することができる。本発明で使用する凝固物は、空気が分散し、かつ、タンパク質架橋酵素により強固に結着しているため、脱水工程を経ずに水分量が多いまま揚げても、適度に伸び、皮が破れにくい。そして、この凝固物を揚げて得られる油揚げは水分量が多いため、滑らかな食感を有する。さらに、豆乳に澱粉を添加することにより、口溶けの良い油揚げを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
「分散工程」
本発明の油揚げの製造方法に使用する豆乳は、特に限定するものではなく、常法による豆乳を使用する。常法による豆乳とは、水に充分に浸漬した大豆を水と共に磨砕し、得られた呉汁を沸騰させた後、オカラを分離した豆乳のことをいう。また、本発明の油揚げの製造方法は、固形分濃度が8重量%以上15重量%以下の豆乳を使用する。固形分濃度が高いほど、風味豊かな油揚げが製造できるため、固形分濃度が10重量%以上15重量%以下であることがより好ましい。ここで、固形分の値は、豆乳を105℃の定温乾燥機で恒量になるまで乾燥し、その残渣重量(乾燥豆乳固形分量)を豆乳重量で除した値に100を乗じて求めた値である。
【0010】
豆乳には凝固工程より前に微細な空気が存在することが必要である。空気が存在しない場合は、生地(豆腐)が膨張せず油揚げを得ることはできない。
豆乳に空気を存在させる方法としては、豆乳を凝固する型枠へ移送するポンプより手前の配管から空気を注入し、豆乳を移送すると同時に豆乳に空気を分散させる方法が一般的である。その他に、注入した空気を高速撹拌により分散する装置やマイクロバブルなどの発生原理により存在させることも可能である。
豆乳に含まれる空気の気泡の粒径は、200μm以上500μm以下であることが好ましい。本発明の製造方法で使用する豆乳は、固形分濃度が高く粘度が大きいため、気泡の粒径が大きくともその浮上速度は遅く、豆乳内に気泡を含ませたまま凝固することができる。
【0011】
「凝固工程」
豆乳には、タンパク質架橋酵素を加える。
タンパク質架橋酵素は、豆乳中のタンパク質を架橋するものであり、食品添加用等として市販されているものを特に制限することなく使用することができる。タンパク質架橋酵素を加えることにより強固に結着した凝固物が得ることができ、得られた凝固物を水分量の多いままで揚げても、皮が破裂することを防止することができる。タンパク質架橋酵素の添加量は、その目的を達成できる範囲内であれば特に制限されないが、例えば、味の素株式会社製酵素製剤(製品名:アクティバ スーパーカード)を使用する場合には、その添加量は0.1重量%以上程度である。タンパク質架橋酵素の添加量が少ないと、揚げる際に皮が破れてしまう場合がある。タンパク質架橋酵素の添加量が多い場合は、酵素が活性化して作用する時間を短くすることで、酵素の添加量が少ない場合と同様の結果が得られるが、高コストとなってしまう。また、タンパク質架橋酵素が作用しすぎると、のばし(低温での揚げ)の際の伸びが小さくなってしまう。そのため、例えば、味の素株式会社製酵素製剤(製品名:アクティバ スーパーカード)を使用する場合には、その添加量は、0.4重量%以下程度であることが好ましい。
【0012】
タンパク質架橋酵素を添加することにより水分量の多い油揚げとなるため滑らかな食感が得られるが、さらに、凝固工程において澱粉を添加することにより、よりソフトで滑らかで、口溶けの良い食感を付与することができる。澱粉は、保水性を付与するものであり、揚げた後の離水が防止されるとともに、タンパク質架橋酵素の働きを緩和し油揚げの食感が滑らかで口溶けの良いものとなる。澱粉の種類は特に制限されないが、凝固の際に粘度が高くなることを防止するために、糊化温度が70℃以上であることが好ましい。澱粉の添加量は、その目的を達成できる範囲内であれば特に制限されないが、例えば、0.5重量%以上3重量%以下であることが好ましく、1重量%以上2重量%以下であることがより好ましい。澱粉の添加量が少ないと、澱粉を添加する効果が不十分となる場合があり、一方、澱粉の添加量が多いと、揚げる際の水蒸気の発生が抑制され、油揚げの膨張が小さくなる場合がある。
また、本発明において、豆乳に風味原料、調味料等を加えることにより、様々な風味を有する油揚げや味の濃い油揚げを製造することができる。これらは、1種または2種以上を混合して使用することができる。
【0013】
凝固工程における豆乳温度は、タンパク質架橋酵素が活性を示す温度であることが必要であり、通常、40℃以上70℃以下の範囲内であり、45℃以上65℃以下であることが好ましい。
凝固剤は、粗製海水塩化マグネシウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、グルコノデルタラクトン、クエン酸、グルコン酸、乳酸、酢酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、油脂及び/又はグリセリン脂肪酸エステル等を含む乳化型凝固剤から選ばれた1種又は2種以上含むものを使用することができる。味の面から粗製海水塩化マグネシウム、塩化マグネシウムを主成分とするものが好ましい。凝固剤は、従来の油揚げ用生地の製造時に使用される添加量で使用できる。
【0014】
本発明の製造方法は、固形分濃度が高い豆乳を用いることにより、保水性を有する豆腐状の凝固物が得られ、凝固時に「ゆ」が分離しない。本発明の製造方法は、「ゆ」が分離しないため、大豆の味や風味が凝固物に留まり、この凝固物を生地とすることにより、風味豊かな油揚げを製造することができる。
凝固物は、必要に応じて、取り扱い可能な硬さとなるまで熟成させる。熟成時間は、凝固条件により異なるが、およそ20分~60分程度である。
【0015】
「揚げ工程」
本発明の製造方法では、保水性を有する豆腐状の凝固物から生地が製造されるため、得られる凝固物の水分量は92~85重量%程度である。得られた凝固物は、タンパク質架橋酵素により強固に結着しているため、脱水工程を経ずに水分量が高いまま揚げても、表面の皮が破れず、油揚げを製造することができる。
得られた生地を、110℃~120℃の低温(のばし)、150℃~200℃の高温(からし)の順序で揚げることにより、油揚げが得られる。
【実施例
【0016】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
常法により、大豆(富山県産エンレイ)を水で洗浄、浸漬した後、磨砕機により、少量の水を加えながら磨砕し、呉汁を得た。この呉汁に消泡剤(花王株式会社製、製品名:クレトンパワー)を添加した後、蒸気を用いて100℃まで加熱し、達温後、圧搾脱水し、温度65℃、固形分濃度12重量%の豆乳を得た。
この豆乳と空気を高速撹拌できる分散機で分散後、タンパク質架橋酵素製剤(味の素株式会社製、製品名:アクティバ スーパーカード)0.4重量%を水に溶いて加え、さらに、凝固剤を加え凝固物を得た。凝固時に「ゆ」は分離しなかった。凝固剤には、塩化マグネシウム(赤穂化成株式会社製、製品名:ソフトウエハー)の30重量%水溶液を使用し、豆乳に対して塩化マグネシウムとして、0.33重量%となるように添加した。空気は、豆乳流量30kg/分に対して300ml/分の流量で供給した。この凝固物を60分間熟成して、油揚げ用の生地(豆腐)とした。得られた生地(豆腐)の水分量は約87重量%であった。
油揚げ用生地(豆腐)を、120℃の油で揚げ膨化(のばし)させた後、155℃の油で10分間揚げ(からし)、油揚げを得た。
【0017】
[実施例2]
実施例1で使用した豆乳を用い、この豆乳と空気を高速撹拌できる分散機で分散後、タンパク質架橋酵素製剤(味の素株式会社製、製品名:アクティバ スーパーカード)0.4重量%と、澱粉(松谷化学工業株式会社製、製品名:松谷ゆうがお)2重量%を水に溶いて加えた後、凝固剤を加え凝固物を得た。凝固時に「ゆ」は分離しなかった。凝固剤には、塩化マグネシウム(赤穂化成株式会社製、製品名:ソフトウエハー)の30重量%水溶液を使用し、豆乳に対して塩化マグネシウムとして、0.33重量%となるように添加した。空気は、豆乳流量30kg/分に対して300ml/分の流量で供給した。この凝固物を60分間熟成して、油揚げ用の生地(豆腐)とした。得られた生地(豆腐)の水分量は約86重量%であった。
実施例1と同様にして揚げ、油揚げを得た。
【0018】
[比較例1]
常法により、大豆(富山県産エンレイ)を水で洗浄、浸漬した後、磨砕機により、適量の水を加えながら磨砕し、呉汁を得た。この呉汁に消泡剤(花王株式会社製、製品名:クレトンパワー)を添加した後、蒸気を用いて100℃まで加熱し、達温後、圧搾脱水し、温度75℃、固形分濃度3重量%の豆乳を得た。実施例1と比較すると、加えた水の量が多いため、固形分濃度が低くなった。
この豆乳と空気を高速撹拌できる分散機で分散後、凝固剤を加え凝固物を得た。凝固剤には、塩化マグネシウム(赤穂化成株式会社製、製品名:ソフトウエハー)の30重量%水溶液を使用し、豆乳に対して塩化マグネシウムとして、0.33重量%となるように添加した。空気は、豆乳流量30kg/分に対して300ml/分の流量で供給した。得られた凝固物は浮いており、その下に分離した「ゆ」が見られた。得られた凝固物を20分間熟成後、型箱に入れ、プレス機により圧搾脱水し、平板状の油揚げ用生地を得た。得られた生地の水分量は約70重量%であった。
実施例1と同様にして揚げ、油揚げを得た。
【0019】
[比較例2]
タンパク質架橋酵素製剤(味の素株式会社製、製品名:アクティバ スーパーカード)を添加しない以外は実施例1と同様にして、生地(豆腐)を作製した。凝固時に「ゆ」は分離しなかった。得られた生地(豆腐)の水分量は約87重量%であった。
実施例1と同様にして揚げ、油揚げを得た。
[比較例3]
豆乳に空気を加えない以外は実施例2と同様にして、生地(豆腐)を作製した。凝固時に「ゆ」は分離しなかった。得られた生地(豆腐)の水分量は約87重量%であった。
実施例1と同様にして揚げ、油揚げを得た。
【0020】
・結果
得られた油揚げを105℃の定温乾燥機で恒量になるまで乾燥し、下記式に基づいて、油あげの水分量を算出した。なお、比較例2、3については、下記で示すように揚げる際に破裂したため、水分量を求めていない。
(式) 水分量(重量%)=(乾燥前重量-乾燥後重量)/乾燥前重量×100
【0021】
実施例1で得られた油揚げは、破れることなく揚げることができ、煎った大豆のような香ばしい風味と甘みが感じられた。また、油揚げの水分量は60%と高く、滑らかな食感であった。
実施例2で得られた油揚げは、破れることなく揚げることができ、実施例1と同様に煎った大豆のような香ばしい風味と甘みが感じられた。また、油揚げの水分量は66%と高く、実施例1で得られた油揚げよりも口溶けが良く、滑らかな食感であった。
【0022】
比較例1で得られた油揚げは、破れることなく揚げることができたが、凝固時に「ゆ」が分離しているため、大豆の風味、甘みは感じられなかった。また、油揚げの水分量は52%と低く、パサパサとした食感であった。
比較例2で得られた油揚げは、タンパク質架橋酵素を含まないため、低温で若干は伸びるものの強度がないために裂け、高温の油では破裂した。そのため、油揚げとして満足するものは得られなかった。
比較例3で得られた油揚げは、全く伸びず大きな穴が開き、高温の油では比較例2同様に破裂し、油揚げは得られなかった。
本発明の製造方法により、味や風味が豊かで、食感の滑らかな油揚げを得ることができた。