(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】希少糖含有組成物の製造方法および希少糖含有組成物
(51)【国際特許分類】
C12P 19/02 20060101AFI20240624BHJP
A23L 33/125 20160101ALI20240624BHJP
A23L 33/20 20160101ALI20240624BHJP
C12P 1/00 20060101ALI20240624BHJP
A23L 27/00 20160101ALI20240624BHJP
A23L 27/30 20160101ALI20240624BHJP
C07H 3/02 20060101ALI20240624BHJP
A61K 31/7004 20060101ALI20240624BHJP
A61K 8/60 20060101ALI20240624BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20240624BHJP
A61Q 11/00 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
C12P19/02
A23L33/125
A23L33/20
C12P1/00 Z
A23L27/00 F
A23L27/30 Z
C07H3/02
A61K31/7004
A61K8/60
A61K47/26
A61Q11/00
(21)【出願番号】P 2021083669
(22)【出願日】2021-05-18
(62)【分割の表示】P 2020555595の分割
【原出願日】2019-11-07
【審査請求日】2022-10-03
(31)【優先権主張番号】P 2018210408
(32)【優先日】2018-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304028346
【氏名又は名称】国立大学法人 香川大学
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100159178
【氏名又は名称】榛葉 貴宏
(74)【代理人】
【識別番号】100206689
【氏名又は名称】鈴木 恵理子
(72)【発明者】
【氏名】秋光 和也
(72)【発明者】
【氏名】何森 健
(72)【発明者】
【氏名】高岡 晴造
(72)【発明者】
【氏名】吉原 明秀
(72)【発明者】
【氏名】加藤 志郎
(72)【発明者】
【氏名】望月 進
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106480125(CN,A)
【文献】国際公開第2008/142860(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/152819(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/168018(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 19/02
A23L 33/125
A23L 33/20
C12P 1/00
A23L 27/00
A23L 27/30
C07H 3/02
A61K 31/7004
A61K 8/60
A61K 47/26
A61Q 11/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料としてD-フラクトースを用い、目的生産物である希少糖D-プシコース、D-グルコース、およびD-フラクトースのみからなる甘味料組成物を製造する方法であって、
前記目的生産物が含む希少糖D-プシコースおよびD-グルコースが原料D-フラクトースからの変換生産物であり、D-フラクトースが未変換の原料D-フラクトースであり、それぞれの目的とする含有量について、D-グルコース、D-フラクトースおよびD-プシコースの合計100重量部に対して、希少糖D-プシコースは、目的とする希少糖D-プシコースの機能性を発揮する含有量10~20重量部に、D-フラクトースは、中性脂肪の蓄積などへと悪い影響が出ない程度の量であって、その甘いという利点を引き出す、D-プシコースの弱点である甘味度を補い、希少糖D-プシコースおよびD-グルコースとともに砂糖と同じ味質の甘味料となる含有量35~45重量部に、D-グルコースは、原料から希少糖D-プシコースおよびD-フラクトースの含有量を差し引いた含有量35~45重量部になるように、それぞれ目標とする含有量を定め、
第一段階で、原料D-フラクトースにケトース3-エピメラーゼを作用させて、D-フラクトースをD-プシコースに変換するD-フラクトースと希少糖D-プシコース間の平衡反応により目的物が含む希少糖D-プシコースを生成してD-フラクトース及び希少糖D-プシコースの混合物とし、希少糖D-プシコースの含有量を目的物が目的とする含有量10~20重量部になるように調整し、
第二段階で、第一段階のD-フラクトース及び希少糖D-プシコースの混合物に対して、D-プシコースに作用しないD-キシロースイソメラーゼを作用させて、第一段階で未変換のD-フラクトースのみをD-グルコースへ変換するD-フラクトースとD-グルコース間の平衡反応により、目的生産物が含むD-グルコースを生成してD-グルコース、D-フラクトース及び希少糖D-プシコースの混合物とし、D-フラクトースの含有量およびD-グルコースの含有量をそれぞれ目的物が目的とする含有量のD-フラクトースの含有量35~45重量部およびD-グルコースの含有量35~45重量部になるように調整し、砂糖と同じ味質の希少糖含有組成物である理論上は副生産物を生産することなく希少糖D-プシコース、D-グルコースおよびD-フラクトースのみからなる100%目的生産物を生成させ、当該目的生産物を疑似移動クロマトグラフィーによる分離操作を経ていない生産物として回収することを特徴とする方法。
【請求項2】
原料D-フラクトースからの変換生産物である希少糖D-プシコースおよびD-グルコース、および未変換のD-フラクトースのみからなる甘味料組成物であって、
D-グルコース、D-フラクトースおよびD-プシコースの合計100重量部に対して、
希少糖D-プシコースが、甘味料組成物にD-プシコースの機能性を付与することのできる含有量10~20重量部の原料D-フラクトースのケトース3-エピメラーゼ作用による変換生産物であり、
D-グルコースが、ケトース3-エピメラーゼ作用による原料D-フラクトースのD-キシロースイソメラーゼ作用による変換生産物であって、その含有量が原料から希少糖D-プシコースおよびD-フラクトースの含有量を差し引いた含有量35~45重量部であり、
D-フラクトースが、変換しないで残った未変換の原料D-フラクトースであって、その含有量が中性脂肪の蓄積などへと悪い影響が出ない程度の量であって、その甘いという利点を引き出す、D-プシコースの弱点である甘味度を補い、希少糖D-プシコースおよびD-グルコースとともに砂糖と同じ味質の甘味料となる含有量35~45重量部である組成の、
D-プシコースの機能性をもった砂糖と同じ味質の甘味料組成物であって、その組成物は、原料となるD-フラクトースからの理論上は副生産物を生産することなく100%目的生産物として得られた希少糖D-プシコース、D-グルコースおよびD-フラクトースのみからなる生産物であって、かつ、固定化酵素反応カラムを通過した液糖そのものであり、疑似移動クロマトグラフィーによる分離操作を経ていない生産物である、甘味料組成物。
【請求項3】
シロップ状または結晶質状である、請求項2に記載のD-プシコースの機能性をもった砂糖と同じ味質の甘味料組成物。
【請求項4】
D-プシコースの機能性をもった砂糖と同じ味質の甘味料組成物を含む製品を製造するための添加剤組成物である、請求項2または3に記載のD-プシコースの機能性をもった砂糖と同じ味質の甘味料組成物。
【請求項5】
請求項2ないし4のいずれかに記載のD-プシコースの機能性をもった砂糖と同じ味質の甘味料組成物を含有することを特徴とする食品。
【請求項6】
請求項2ないし4のいずれかに記載のD-プシコースの機能性をもった砂糖と同じ味質の甘味料組成物を含有することを特徴とする医薬品もしくは医薬部外品。
【請求項7】
請求項2ないし4のいずれかに記載のD-プシコースの機能性をもった砂糖と同じ味質の甘味料組成物を含有することを特徴とする口腔用組成物。
【請求項8】
請求項2ないし4のいずれかに記載のD-プシコースの機能性をもった砂糖と同じ味質の甘味料組成物を含有することを特徴とする化粧品。
【請求項9】
請求項2ないし4のいずれかに記載のD-プシコースの機能性をもった砂糖と同じ味質の甘味料組成物を含有することを特徴とする低カロリー甘味剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原料をD-フラクトースを用い、酵素反応を2つとし、それぞれの酵素反応を直列に二つ組み合わせることで、製造工程中に分離操作等で失われることはなく、原理的には原料の全て100%が生産物として得ることが可能な糖含有組成物の製造方法、および生産物である砂糖と同じ味質の希少糖含有組成物とその用途に関する。
ここで、本発明で使用する酵素ケトース3-エピメラーゼおよびキシロースイソメラーゼについて定義する。
(1)イソメラーゼ
イソメラーゼは「化学式は変化しない反応」を触媒する。ヘキソースに作用するイソメラーゼは「化学式C6H12O6は変化しない反応」を触媒する。たとえばアルドースイソメラーゼは「分子内での水素の移動」を触媒し、C1とC2間の酸化還元反応を進める。
(2)エピメラーゼ
エピメラーゼは単糖の場合、Cに結合した‐OHの位置を反対側に移動させる酵素であり、「化学式C6H12O6は変化しない反応」を触媒する。従ってイソメラーゼに属する酵素である。
(3)まとめ
イソメラーゼがエピメラーゼよりも上位に存在する。すなわち、酵素「イソメラーゼ」とは、この業界で良く知られており、例えばケトース3-エピメラーゼ、キシロースイソメラーゼ、グルコースイソメラーゼが挙げられる。ただし、グルコースイソメラーゼは科学的正式名称ではない。酵素の名称としてグルコースイソメラーゼは国際生化学分子生物学連合で登録されているEC番号には入れられていない。これは「科学的な酵素の名称」ではない。D-キシロースイソメラーセが科学的名称でグルコースイソメラーゼは商業名として一般に使用されているのみである。理由はD-キシロースイソメラーゼが構造類似のグルコースに作用するのを「人間が利用しているのみ」であり、自然界ではグルコースをフラクトースにして利用することはない。
エピメラーゼはイソメラーゼの中に含まれる。従って、(a)「D-グルコースをD-フラクトースに異性化する酵素」、(b)「D-フラクトースをD-プシコースに異性化する酵素」と表現することができる。
上記の(a)「D-グルコースをD-フラクトースに異性化する酵素」について、この中には、例えばある微生物のL-ラムノースイソメラーゼがD-グルコースに作用し、D-フラクトースに変換するものがあったとしてもそのL-ラムノースイソメラーゼも含まれる。あらゆる微生物、植物、動物等の生物が持つタンパク質がD-グルコースをD-フラクトースに変換するものも全てが含まれる。
また、(b)「D-フラクトースをD-プシコースに異性化する酵素」について、これにはあらゆる生物の生産するタンパク質がD-フラクトースをD-プシコースへ変換する場合においてもこれに含まれる。
従って、EC番号に「EC.5.-(異性化酵素)」に属する全ての酵素を含む。たとえ新たに発見された酵素、他の異性化酵素に分類されているものがこれらの反応を触媒し得る作用をわずかでも持っていると、それを含むことを意味する。本発明で使用する『イソメラーゼ』という名称は、広い酵素群を含むものとして使用している。
【背景技術】
【0002】
従来の技術は、純粋な希少糖D-アルロース(D-プシコース)をケトース3-エピメラーゼ(例えば、D-アルロース3-エピメラーゼ)を用いてD-フラクトースを原料として生産している。希少糖D-プシコースはD-フラクトースにエピメラーゼを作用し、D-フラクトースとD-プシコースの混合物を作り、それを分離精製することで粉末結晶のD-プシコースを作ることができる。このD-プシコースはそれ自身で甘味料、医薬品等の用途があり、世界中で大量生産され販売が始まっている。このD-プシコースはエネルギーゼロで各種機能性があることから、特に甘味料としての販売が先行している。
また、異性化糖を原料とし、化学反応を用いて希少糖を含有するシロップ、レアシュガースィ-ト(RSS)も生産されている(特許文献5参照)。
【0003】
D-プシコースの甘味料としての甘味は、砂糖と比較すると約7割であり、甘味度を砂糖に近づける必要がある。
特許文献1に、従来の甘味料としての果糖ブドウ糖液糖の甘味質ともに砂糖とは異なっている問題点を解決して、砂糖の甘味度および味質に非常に近い甘味料にすることを目的とするもので、D-フラクトース、D-グルコースおよびD-プシコースよりなる砂糖とほぼ同様の甘味度および味質を有する甘味料であって、かつ、異性化糖の肥満効果を抑制するための甘味料であり、D-グルコースおよびD-プシコースの合計100重量部に対して、D-プシコースが9重量部以上であり、D-フラクトース、D-グルコースおよびD-プシコースの合計100重量部に対して、D-フラクトースが34~55重量部であり、およびD-フラクトース、D-グルコースおよびD-プシコースの合計100重量部に対して、D-グルコースおよびD-プシコースの合計が66~45重量部である甘味料が開発されている。
上記甘味料のD-プシコースを含む甘味料でありながら低コストでも作ることができる製造方法は、いわゆる異性化糖を原料とする、(1)連続プラントを用いた方法、(2)混合酵素を用いた方法、(3)高D-プシコース含有の糖液を調製する方法が示されている。
(1)連続プラントを用いた方法
まず、果糖ブドウ糖液糖を作成し、次いで、ケトース3-エピメラーゼを作用させる。果糖ブドウ糖液糖は、デンプンを原料に、固定化したもしくはバッチによるアルファアミラーゼ、グルコアミラーゼ、グルコースイソメラーゼなどの酵素を用いて製造する。次いで、生成した異性化糖液を連続的にエピメラーゼに作用させ、D-グルコースおよびD-フラクトースおよびD-プシコースの混合糖液を生成する。実施例によると、得られる糖液は、およそD-グルコース58重量部、D-フラクトース34重量部、D-プシコース8重量部とからなる。D-プシコースの量が約8%と比較的低い生産物である。
(2)混合酵素を用いた方法
上記ブドウ糖液糖にグルコースイソメラーゼ+ケトース3-エピメラーゼを作用させる。イソメラーゼおよびエピメラーゼが含まれる固定化酵素を適当なカラムに充填し分解ブドウ糖液糖を連続的に流入させ、反応液を分取する。
実施例によると、得られる糖液は、反応時間2時間でおよそD-グルコース41重量部、D-フラクトース48重量部、D-プシコース11重量部とからなる。反応時間を1時間とするとD-グルコース43重量部、D-フラクトース48重量部、D-プシコース9重量部となる。
(3)高D-プシコース含有の糖液を調製する方法
ブドウ糖液糖に、固定化グルコースイソメラーゼおよびD-タガトース3-エピメラーゼの混合酵素を加えて反応させた。実施例によると、得られる糖液は、反応時間4時間でD-グルコース54重量部、D-フラクトース36重量部、D-プシコース10重量部となり、反応時間20時間でD-グルコース41重量部、D-フラクトース42重量部、D-プシコース17重量部とからなる。
【0004】
また、特許文献2に記載された、主成分として含有するD-プシコースと、糖アルコールおよび/または高甘味度甘味料からなる味質の改良されたD-プシコース含有低カロリー甘味料のように、高甘味度甘味料の添加やその他の甘味料の添加で機能をそのままで甘味度を改善する努力が行われている。
【0005】
これらの希少糖含有組成物の工業的大量製造には克服するべき問題点が多い。
例えば、希少糖D-プシコースは、D-フラクトースにD-ケトヘキソース3-エピメラーゼ(特許文献3)を作用させるとD-フラクトースから収率20~25%で生成する。また、D-プシコース3-エピメラーゼ(非特許文献1)を使用した場合は、40%の収率でD-プシコースが生成し、ホウ酸を併用した場合には62%のD-プシコースが生成するとの報告がある。精製D-フラクトースの製造を行ってからD-プシコースの製造を行う場合、別々の工程で行うため、原料、輸送、反応コストやプラント運営コストなどの制約を受け、現実的にD-プシコースの工業的大量製造は困難を極める。
【0006】
D-グルコースとD-フラクトースとの比率が58:42程度である異性化糖があるが、異性化糖(42%high-fructose corn syrup、HFCS)は、D-グルコースからイソメラーゼを使用してD-フラクトースに転換する過程において、D-グルコースとD-フラクトースとの平衡状態における比率が58:42程度で各成分を分離することなく製造過程において得られたその組成のまま甘味料として現在も使用される製品である。この生産物は甘味度の高いD-フラクトースの濃度が低いことから、D-フラクトースを分離して生産物へ添加する過程を経てHFCSとしている。このように各成分を分離することなく製造過程において得られたその組成のまま甘味料として使用することはない。
以下詳細に記載するが、デンプンから異性化糖を生成するには、3回の酵素反応と精製、濃縮が必要である。
(1)液化:デンプンに水と加水分解酵素であるα-アミラーゼを加え、95℃程度に加熱する。これにより高分子のデンプンはある程度小さく分解される。
(2)糖化:液化終了後に55℃程度まで冷却し、グルコアミラーゼを加える。この反応で、糖はさらに細かく分解され、ブドウ糖になる。
(3)異性化:60℃で異性化酵素のグルコースイソメラーゼを加え、約半分のブドウ糖を果糖に変化させる。異性化糖の名称はこの反応(ブドウ糖が果糖に異性化する反応)に由来している。
(4)精製・濃縮:異性化後、液糖をろ過機やイオン交換装置で精製し、水分を蒸発させて濃縮することにより、果糖分42%のブドウ糖果糖液糖が得られる。さらに、クロマトグラフィーによって果糖純度を高めることにより、果糖分90-95%の高果糖液糖を作ることができる。これを果糖分42%のブドウ糖果糖液糖とブレンドすることで果糖分55%の果糖ブドウ糖液などが作られる。
特許文献1に記載された砂糖とほぼ同様の甘味度および味質を有する甘味料が異性化糖の肥満効果を抑制するという機能を有することからも市場の入り口に立つべき時期にあり、その発明においても目的とされたD-プシコースを含む甘味料でありながら低コストでも作ることができる製造方法を踏まえた、さらなる低コスト等の製造方法の改良、大量生産技術の開発への取り組みが急務である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許5639759号公報
【文献】特許4942001号公報
【文献】特開平6-125776号公報
【文献】特許5922880号公報
【文献】特許第5715046号公報
【文献】特許第5997693号公報
【文献】特開2017-36276号公報
【文献】特許第4009720号公報
【文献】特開2007-91696号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】The 3rd Symposium of International Society of Rare Sugars
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、D-プシコースの優れた機能性を保ちつつ、甘味料としての改善すべき点を考慮した希少糖含有組成物を提供することを目的とする。
異性化糖が肥満などの元凶と言われるのは、D-フラクトース(果糖)が中性脂肪の蓄積などへと悪い影響を示すことからである。一方、D-フラクトースは甘くて美味しいという利点がある。D-フラクトースを欠点が出ない程度の量に調整し、D-フラクトースが甘いという利点を引き出す組成に調整すること、D-プシコースの弱点である甘味度を補うこと、D-プシコースの機能性を持った新たな甘味料を作り出すことが求められる。
【0010】
高甘味度甘味料の添加や他の甘味料を添加する方法で、D-プシコースの甘味度を改善する方法が通常であるところ、本発明は、原料と酵素反応2つとし、巧みにそれぞれの反応を二つ組み合わせることで、何かを添加することがない簡便な方法で希少糖含有組成物を製造する方法を提供することを目的とする。
【0011】
新たな設備投資的なコストはかからず、エピメラーゼ、イソメラーゼをそれぞれ適した条件で反応することで完成すること、連続あるいは個別の反応を自由に使って製造が可能であること、を特徴とする製造方法を提供することを目的とする。
【0012】
また、砂糖と同じ味質の甘味度はD-フラクトース含有量で改善することができ、製造コスト削減は従来の製造ラインに適切な形で接続することで可能となり、D-プシコースの機能は十分に保つというこれまでにないシステム構築をすることで完成した製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意研究を重ねてきた。その中で、ある一定のD-グルコース、D-フラクトース、D-プシコース比からなる、希少糖含有組成物が、甘味度、甘味質が砂糖と同一で、その上肥満等の生活習慣病の予防効果を持つ甘味料となり得ること、その希少糖含有組成物を従来の製造ラインを適切な形で接続することで副反応生成物を含まない純粋な形態で製造できること、特別な精製工程を付加させる必要がないことを発見し、本発明を完成するに至った。
【0014】
用いる酵素の活性、固定化酵素カラムの流速を調整することで、目的とする組成に近い生産物を得られる方法として完成した。
【0015】
本発明は、下記の(1)のD-プシコースの機能性をもった砂糖と同じ味質の甘味料組成物を製造する方法を要旨としている。
(1)原料としてD-フラクトースを用い、目的生産物である希少糖D-プシコース、D-グルコース、およびD-フラクトースのみからなる甘味料組成物を製造する方法であって、
前記目的生産物が含む希少糖D-プシコースおよびD-グルコースが原料D-フラクトースからの変換生産物であり、D-フラクトースが未変換の原料D-フラクトースであり、それぞれの目的とする含有量について、D-グルコース、D-フラクトースおよびD-プシコースの合計100重量部に対して、希少糖D-プシコースは、目的とする希少糖D-プシコースの機能性を発揮する含有量10~20重量部に、D-フラクトースは、中性脂肪の蓄積などへと悪い影響が出ない程度の量であって、その甘いという利点を引き出す、D-プシコースの弱点である甘味度を補い、希少糖D-プシコースおよびD-グルコースとともに砂糖と同じ味質の甘味料となる含有量35~45重量部に、D-グルコースは、原料から希少糖D-プシコースおよびD-フラクトースの含有量を差し引いた含有量35~45重量部になるように、それぞれ目標とする含有量を定め、
第一段階で、原料D-フラクトースにケトース3-エピメラーゼを作用させて、D-フラクトースをD-プシコースに変換するD-フラクトースと希少糖D-プシコース間の平衡反応により目的物が含む希少糖D-プシコースを生成してD-フラクトース及び希少糖D-プシコースの混合物とし、希少糖D-プシコースの含有量を目的物が目的とする含有量10~20重量部になるように調整し、
第二段階で、第一段階のD-フラクトース及び希少糖D-プシコースの混合物に対して、D-プシコースに作用しないD-キシロースイソメラーゼを作用させて、第一段階で未変換のD-フラクトースのみをD-グルコースへ変換するD-フラクトースとD-グルコース間の平衡反応により、目的生産物が含むD-グルコースを生成してD-グルコース、D-フラクトース及び希少糖D-プシコースの混合物とし、D-フラクトースの含有量およびD-グルコースの含有量をそれぞれ目的物が目的とする含有量のD-フラクトースの含有量35~45重量部およびD-グルコースの含有量35~45重量部になるように調整し、砂糖と同じ味質の希少糖含有組成物である理論上は副生産物を生産することなく希少糖D-プシコース、D-グルコースおよびD-フラクトースのみからなる100%目的生産物を生成させ、当該目的生産物を疑似移動クロマトグラフィーによる分離操作を経ていない生産物として回収することを特徴とする方法。
【0016】
また、本発明は、下記の(2)ないし(3)のD-プシコースの機能性をもった砂糖と同じ味質の甘味料組成物および下記の(4)ないし(9)の該組成物の用途を要旨としている。
(2)原料D-フラクトースからの変換生産物である希少糖D-プシコースおよびD-グルコース、および未変換のD-フラクトースのみからなる甘味料組成物であって、
D-グルコース、D-フラクトースおよびD-プシコースの合計100重量部に対して、
希少糖D-プシコースが、甘味料組成物にD-プシコースの機能性を付与することのできる含有量10~20重量部の原料D-フラクトースのケトース3-エピメラーゼ作用による変換生産物であり、
D-グルコースが、ケトース3-エピメラーゼ作用による原料D-フラクトースのD-キシロースイソメラーゼ作用による変換生産物であって、その含有量が原料から希少糖D-プシコースおよびD-フラクトースの含有量を差し引いた含有量35~45重量部であり、
D-フラクトースが、変換しないで残った未変換の原料D-フラクトースであって、その含有量が中性脂肪の蓄積などへと悪い影響が出ない程度の量であって、その甘いという利点を引き出す、D-プシコースの弱点である甘味度を補い、希少糖D-プシコースおよびD-グルコースとともに砂糖と同じ味質の甘味料となる含有量35~45重量部である組成の、
D-プシコースの機能性をもった砂糖と同じ味質の甘味料組成物であって、その組成物は、原料となるD-フラクトースからの理論上は副生産物を生産することなく100%目的生産物として得られた希少糖D-プシコース、D-グルコースおよびD-フラクトースのみからなる生産物であって、かつ、固定化酵素反応カラムを通過した液糖そのものであり、疑似移動クロマトグラフィーによる分離操作を経ていない生産物である、甘味料組成物。
(3)シロップ状または結晶質状である、上記(2)に記載のD-プシコースの機能性をもった砂糖と同じ味質の甘味料組成物。
(4)D-プシコースの機能性をもった砂糖と同じ味質の甘味料組成物を含む製品を製造するための添加剤組成物である、上記(2)または(3)に記載のD-プシコースの機能性をもった砂糖と同じ味質の甘味料組成物。
(5)上記(2)ないし(4)のいずれかに記載のD-プシコースの機能性をもった砂糖と同じ味質の甘味料組成物を含有することを特徴とする食品。
(6)上記(2)ないし(4)のいずれかに記載のD-プシコースの機能性をもった砂糖と同じ味質の甘味料組成物を含有することを特徴とする医薬品もしくは医薬部外品。
(7)上記(2)ないし(4)のいずれかに記載のD-プシコースの機能性をもった砂糖と同じ味質の甘味料組成物を含有することを特徴とする口腔用組成物。
(8)上記(2)ないし(4)のいずれかに記載のD-プシコースの機能性をもった砂糖と同じ味質の甘味料組成物を含有することを特徴とする化粧品。
(9)上記(2)ないし(4)のいずれかに記載のD-プシコースの機能性をもった砂糖と同じ味質の甘味料組成物を含有することを特徴とする低カロリー甘味剤。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、D-プシコースの優れた機能性を保ちつつ、甘味料としての改善すべき点を考慮した希少糖含有組成物を提供することができる。D-フラクトース(果糖)は甘くて美味しいという利点があるが、中性脂肪の蓄積などへと悪い影響を示す欠点から、それを含む異性化糖が肥満などの元凶と言われる所以である。D-フラクトースを欠点が出ない程度の量に調整し、D-フラクトースが甘いという利点を引き出す組成に調整され、D-プシコースの弱点である甘味度を補い、かつ、D-プシコースの機能性を持った新たな甘味料を作り出すことができる。本発明の、砂糖と同じ味質の希少糖含有組成物は、D-グルコース、D-フラクトースおよびD-プシコースの新たな組成の組成物であるから、食品、飲料、特に機能性食品(肥満予防など)はもとより、医薬品、化粧品、飼料、農薬(植物成長調整剤、植物病害抵抗性増幅剤など)、工業用の用途に用いることができる。
【0018】
本発明により、原料と酵素反応2つとし、巧みにそれぞれの反応を二つ組み合わせることで、何かを添加することがない簡便な方法で希少糖含有組成物を製造する方法を提供することができる。新たな設備投資的なコストはかからず、エピメラーゼ、イソメラーゼをそれぞれ適した条件で反応することで完成すること、連続あるいは個別の反応を自由に使って製造が可能であること、を特徴とする製造方法を提供することができる。
【0019】
従来の糖質甘味料、例えばHFCSやD-プシコースなどを生産する場合は、酵素反応が平衡反応であるため目的とする甘味料を生産する場合に、疑似移動クロマトグラフィーによる分離操作が必須となる。本発明においては、この分離操作を行わずに原料となるD-フラクトースの全てを理論的には収率100%で生産物へ変換できる。
【0020】
また、砂糖と同じ甘味度はD-フラクトース含有量で改善することができ、製造コスト削減は従来の製造ラインに適切な形で接続することで可能となり、D-プシコースの機能は十分に保たれているというこれまでにないシステム構築することで完成した製造方法を提供することができる。
【0021】
分離操作を省くことで、分離による濃度の低下が殆ど無く、濃縮操作を省くことができ、酵素反応の生産物の脱イオン操作および濃縮のみで生産物が得られ大幅なコスト削減が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の新規希少糖含有組成物製造工程を示す図面である。
【
図2】本発明の新規希少糖含有組成物を高速液体クロマトグラフ(HPCL)により分析した結果を示す。
【
図3】砂糖様味質をもつ新規甘味料(特許文献1)の製法と本発明の製造方法を対比して示す。
【
図4】本発明の目的生産物の甘味料としての味質を説明する図面である。
【
図5】本発明の新規希少糖含有組成物の性質を説明するために市販のRSS(特許文献4)、砂糖様味質をもつ新規甘味料(特許文献1)、単なる添加法と比較して示した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明は、原料D-フラクトースにケトース3-エピメラーゼを作用させてD-フラクトースと希少糖D-プシコースの混合物を製造し、その混合物にD-プシコースに作用しないD-キシロースイソメラーゼを作用させてD-フラクトースをD-グルコースへ変換することで、目的とする新たな組成の希少糖D-プシコース、D-グルコースおよびD-フラクトースの組成物を製造する方法、および得られた砂糖と同じ味質の希少糖含有組成物とその用途に関する。
まず、製造方法から説明する。
[製造方法]
原料としてD-フラクトースを用い希少糖含有組成物を製造する方法であって、第一段階で、ケトース3-エピメラーゼでD-フラクトースをD-プシコースとの混合物とし、第二段階でD-プシコースに作用しないD-キシロースイソメラーゼを用いたD-フラクトースをD-グルコースへ変換することで、D-グルコース、D-フラクトースおよびD-プシコースの新たな組成の目的生産物を得ることを特徴とする方法である。
本発明の製造方法をさらに詳細に説明する。
(1)原料としてD-フラクトースを用いること。
従来、D-プシコースを作る場合も、原料としてD-フラクトースを用いる。RSSは異性化糖であるが、原料はD-フラクトースである。本発明はD-グルコース、D-フラクトース、およびD-プシコースの混合物を製造するための原料としてD-フラクトースを用いることを特徴としている。
(2)第一段階の第一反応で、原料にケトース3-エピメラーゼを作用させて希少糖D-プシコースを製造すること。第一反応で、D-フラクトースと希少糖D-プシコースの混合物を得る。D-フラクトースと希少糖D-プシコースの混合物が、D-フラクトースおよび希少糖D-プシコースの平衡混合物である、または目的とする濃度に調整されたD-フラクトース及び希少糖D-プシコースの混合物である。平衡まで反応をさせないことで、D-プシコースの組成を変更することができる。
(3)第二段階が、第一段階の生産物にイソメラーゼを作用させること。
D-キシロースイソメラーゼはD-プシコースに作用しないので、第一段階の生産物の中で、D-フラクトースのみをD-グルコースへと変換し、D-グルコース、D-フラクトースおよびD-プシコースの混合物を得る。新たな組成の目的生産物を製造する。
4)第二段階の目的生産物が砂糖と同じ味質の希少糖含有組成物であること。
D-フラクトースを中性脂肪の蓄積などへと悪い影響が出ない程度の量に調整し、D-フラクトースが甘いという利点を引き出す組成に調整され、D-プシコースの弱点である甘味度を補い、かつ、D-プシコースの機能性を持った新たな甘味料を作り出す。この生産物の甘味度はこれまでの実績に基づき計算値として表現することで、砂糖と同じ味質の甘味料であると評価することができる。
【0024】
本発明の製造方法の概要を
図1に示す。
原料であるD-フラクトースを二つのバイオリアクター(固定化エピメラーゼカラム[反応1]、固定化イソメラーゼカラム[反応2])を通過することで反応は順次進行し、D-グルコース、D-フラクトースおよびD-プシコースの新たな組成の目的生産物が得られる。
【0025】
[反応1]
固定化エピメラーゼカラムの反応を説明する。
原料であるフラクトースはエピメラーゼと反応し、フラクトース:プシコース=約4:1の混合物が反応1のカラムからでて来る。
[反応2]
反応1からの反応生産混合物すなわち、D-フラクトース:D-プシコース=約4:1の混合物が反応2の固定化イソメラーゼカラムへ導入される。反応2での反応であるイソメラーゼは、反応1から導入されるD-フラクトースとD-プシコースのD-フラクトースには作用するがD-プシコースには作用しない。
[反応1、2の生産物]
固定化イソメラーゼカラムの反応を説明する。
反応1でD-フラクトースがD-プシコースへ変換され、D-フラクトースとD-プシコースの混合物が生産される。必要に応じ、平衡に達するまで反応させることができる。それが反応2のカラムへ導入され、反応2でイソメラーゼがD-フラクトースのみに反応しD-グルコース、D-フラクトース、およびD-プシコースの混合物が生産される。必要に応じ、平衡に達するまで反応させることができる。平衡に達すると、その結果として、D-グルコース:D-フラクトース:D-プシコースが約44:36:20の希少糖含有組成物が得られる。この組成比の希少糖含有組成物は新規の組成物である。すなわち、得られる希少糖含有組成物は、甘くて美味しいD-フラクトースをその欠点(中性脂肪の蓄積などへと悪い影響)が出ない程度の量に調整するが、D-プシコースの弱点である甘味度を補うには十分な量で、しかもD-プシコースの機能性を持った量のD-プシコースを含有する砂糖と同じ味質の希少糖含有組成物(甘味料)である。
【0026】
[製造方法の特徴及び利点]
[特徴1]
エピメラーゼとイソメラーゼを、それぞれ固定化反応カラムを分離して反応できるため、目的の反応を適切な条件で進行させることが容易である。
[特徴2]
二つの酵素はそれぞれに適正な反応条件で進行させることが可能であり、活性の低下などが起こった場合に個別に交換するなどで、簡易に対応することが可能である。
[特徴3]
二つの酵素反応を別々に行うことで、目的とする糖のみを反応させることが可能である。二つの特異性に応じて巧みにコントロールすることで、目的物を砂糖の甘味度に近似できることが大きな特徴である。D-フラクトースが甘すぎない量ではあるが、D-プシコースの弱点である甘味度を補うには十分な量で、かつ、D-プシコースの機能性を持ったD-グルコース、D-フラクトース、およびD-プシコースの甘味のバランスが砂糖に近似する甘味料を作り出している。
[利点1]
この新規希少糖含有組成物を生産するのに必要な製造機器は、D-プシコースをD-フラクトースから作る製造機に、一般に異性化糖を製造する場合に用いられているイソメラーゼカラムをそのまま接続するのみでよい。そのため非常に安価に製造が可能である。
[利点2]
新規希少糖含有組成物の組成は、エピメラーゼ、イソメラーゼの酵素反応を調整することで、一定にすることも変化させることも容易である。
[利点3]
製造工程に分離過程がないことによって、製造工程をシンプルにすることができる。このことでコスト削減は著しいばかりでなく製造工程の管理が容易である。
[利点4]
製造工程中に原料や生産物が製造中に、分離操作等で失われることはなく、原理的には原料の全て100%が生産物として得ることが可能である。
[利点5]
二つの酵素活性の調整、あるいは反応カラムを通過する速度を調整することで、生産物の組成比を変更することも可能である。
【0027】
[イソメラーゼ]
本発明のD-グルコース、D-フラクトースおよびD-プシコースの新たな組成の目的生産物を製造するに際し用いられる、ケトヘキソース3-エピメラーゼは、D-フラクトースをD-プシコースへ異性化する酵素であれば、酵素の起源や分類名称が何であってもよい〔例えば特許文献1のシュードモナス属に属する細菌、特許文献6のアルスロバクター グロビホルミス(Arthrobacter globiformis)M30株(国際寄託番号NITE BP-1111)から得ることのできるD-ケトヘキソース3-エピメラーゼおよび非特許文献1〕。
D-キシロースイソメラーゼはD-グルコースをD-フラクトースに異性化する能力がある酵素であれば、酵素の起源や名称に制限はない(例えば特許文献1および4)。
これらの酵素は、精製酵素を使っても良いし、該酵素を生産微生物でも良い。本発明においては、精製酵素または、該酵素生産微生物は、精製酵素または、該酵素生産微生物を固定化した固定化酵素、固定化微生物として用いられる。
【0028】
[酵素の固定化]
酵素はイオン交換樹脂などの適切な基材に固定化して用いることがもっとも実用的である。全体の製造工程は、バッチ式または連続式のいずれの方式でも適用することができる。連続式の場合、原料D-フラクトースのエピ化反応工程と反応生成物D-フラクトースとD-プシコースの混合物を異性化する工程を一連の工程で行い、さらに、D-タガトース3-エピメラーゼとグルコースイソメラーゼをそれぞれ固定化して行われる。このように、D-フラクトースを原料としたエピ化反応工程とその反応生成物の異性化工程を一連の工程で行い、更に、用いる酵素を固定化して個別に製造に用いた製造法はこれまでになく、新規な製造法といえる。
酵素によるエピ化および酵素による異性化は、酵素を固定化しての利用が可能であり、種々の固定化方法によって安定で利用しやすい固定化酵素を得ることができる。固定化酵素を用いることで、連続的に大量のエピ化および異性化反応を行うことが可能である。たとえば、それぞれ1000U/湿重量樹脂(g)の活性を有する固定化酵素を使用して行われる。菌体細胞を破壊するかして得られた破壊細胞の溶液から粗酵素液として採取し、カラム充填したイオン交換樹脂に対し、該粗酵素液を低温(4℃)下で通液させ、イオン交換樹脂に粗酵素タンパク質を結合させ、精製水を通液させて洗浄し、固定化酵素を得ることができる。商業的生産に完全に満足できる安定性(活性維持)の点で連続生産に耐えられる固定化系が得られた。得られた固定化酵素を用いて連続的で大量の異性化反応(エピ化反応)を行うことができる。
【0029】
[平衡状態の組成物のまま甘味料として使用することについての考察]
希少糖D-プシコースは、D-フラクトースにD-ケトヘキソース3-エピメラーゼ(特許文献3)を作用させるとD-フラクトースから収率20~25%で生成する。特許文献3に記載の方法においては、D-プシコースを生産することを目的としているので、D-フラクトースから出発した、その反応後の平衡状態の組成物は、D-プシコースを分離するためのものであった。その平衡状態の組成物として取得したわけではなく、その組成物はD-プシコース分離用中間組成物であった。
【0030】
平衡状態の組成物を甘味料として利用するには、精製して液糖のまま、あるいは結晶状態あるいは固体状態の糖質としてか等々、越さなくてはならない問題が多くある。
従来の糖質甘味料、例えばHFCSやD-プシコースなどを生産する場合は、酵素反応が平衡反応であるため目的とする甘味料を生産する場合に、疑似移動クロマトグラフィーによる分離操作が必須となる。本発明においては、この分離操作を行わずに原料となるD-フラクトースの全てを理論的には収率100%で生産物を生産できる。また、本発明の組成物はD-グルコース、D-フラクトースおよびD-プシコースの新たな組成の組成物であるから、主にD-グルコース、D-フラクトースなどを含有する液糖から、簡便な方法により結晶状態あるいは固体状態の糖質を生成せしめる特許文献4に記載された技術が適用可能である。
平衡状態の組成物を甘味料として利用する技術に異性化糖がある。異性化糖を工業的に得るには、異性化酵素であるグルコースイソメラーゼをブドウ糖液に添加して60℃程度で反応させることによりブドウ糖の一部を果糖に変化させたのち、水分を蒸散させて濃縮し、クロマトグラフィーによる分離精製をおこなうなどして果糖純度を高め、果糖濃度が50%未満のブドウ糖果糖液糖、果糖濃度が50%以上90%未満の果糖ブドウ糖液糖、果糖濃度が90%以上の高果糖液糖などを製造することを行う。ブドウ糖(D-グルコース)と果糖(D-フラクトース)の混合糖液である異性化糖は、結晶化が非常に難しいことから、液体の状態で利用されている。これは、一般に、複数の糖が存在する液糖を結晶状態にすることが極めて困難であり、液体の状態で利用するほかないからである。
そのような状況下、特許文献4に記載された希少糖含有異性化糖は、D-グルコースとD-フラクトースのほかに、D-プシコースやD-アロースなどの複数の希少糖を含むので、「純粋な単一物は結晶化し易く、不純物を含むものは結晶化し難い」ということからしても、非常に結晶し難い組成物であることは明白である。これら異性化糖の問題を解決するものであり、主にD-グルコース、D-フラクトースなどを含有する液糖、例えば、異性化糖から、簡便な方法により結晶状態あるいは固体状態の糖質を生成せしめるという、これまで困難であるとされてきた複数の糖からなる固形状糖質、すなわち複合体結晶糖質および/またはD-フラクトースがD-グルコース1水和物結晶の集合体に取り込まれている粒状結晶、ならびにその製造方法を提供し、異性化糖の用途を拡大することを可能とするものである。すなわち、特許文献4に記載された発明は、当業界において常識とされていた技術事項をブレイクスルーする画期的なものである。当該方法によって得られた希少糖含有異性化糖は、甘味剤、抗肥満剤、摂食抑制剤、インスリン抵抗性改善剤、低カロリー甘味料としての利用が試みられており、機能性をもった糖質として、注目を浴びつつある。
本発明の組成物はD-グルコース、D-フラクトースおよびD-プシコースの新たな組成の組成物であるから、特許文献4に記載されたこの技術が利用可能である。
【0031】
[従来法との組成比の比較]
本発明の製造方法の一態様では、D-グルコース:D-フラクトース:D-プシコースが約44:36:20の希少糖含有組成物が得られる。
一方、特許文献1に記載の甘味料の製造は、(1)連続プラントを用いた方法で得られる糖液は、一般通常的に使用される、D-フラクトース42重量部およびグルコース58重量部を構成糖とする異性化糖にケトヘキソース3-エピメラーゼとしてタガトース3-エピメラーゼを作用させるとD-グルコース:D-フラクトース:D-プシコースが58:34:8の希少糖含有組成物が得られる。(2)混合酵素を用いた方法で得られる糖液は、グルコースイソメラーゼとタガトース3-エピメラーゼの混合酵素をD-グルコースに作用させると、反応時間2時間でD-グルコース:D-フラクトース:D-プシコースが41:48:11の、反応時間1時間でD-グルコース:D-フラクトース:D-プシコースが43:48:9の希少糖含有組成物が得られる。(3)高D-プシコース含有の糖液を調製する方法で得られる糖液は、反応時間4時間でD-グルコース:D-フラクトース:D-プシコースが54:36:10の、反応時間20時間でD-グルコース:D-フラクトース:D-プシコースが41:42:17の、希少糖含有組成物が得られる。
特許文献1に記載の方法では、どちらの希少糖含有組成物も従来の果糖ブドウ糖液糖に比べ、甘味度、甘味質に砂糖に近づくことがわかっている。また、これらの希少糖含有組成物に、果糖、D-グルコースをさらに添加することにより、甘味度や味質を調整することができることが記載されている。
本発明の製造方法の一態様で得られた、D-グルコース:D-フラクトース:D-プシコースが約44:36:20の希少糖含有組成物は計算上の甘味度1.05であり、特許文献1に記載の方法で得られたいずれの希少糖含有組成物と比べても、甘味度において砂糖により近づいていることがわかる。
【0032】
このようにして得られた新規甘味料は、好みにより、ショ糖、糖アルコール、アスパルテームやステビアなどの甘味料と併用することもできる。またボディ感の付与などのため、甘味度が低い水溶性食物繊維(ポリデキストロース、イヌリンや難消化性デキストリンなど)を適宜加えても良い。
【0033】
本発明の甘味料において、D-グルコース:D-フラクトース:D-プシコースが約44:36:20の希少糖含有組成物である態様を包含するが、甘味度および甘味質を生かして用いる場合は、その含量は、特に制限されない。目的とする機能の度合い、使用態様、使用量等により適宜調整することができる。
【0034】
本発明の砂糖と同じ味質の新規甘味料は、D-プシコースを含有するもので、肥満予防効果を有する。また、生活習慣病予防ということで、他の有効成分と併用混合して用いることもできる。
【0035】
[用途]
本発明の、希少糖D-プシコース、D-グルコースおよびD-フラクトースの合計100重量部に対して、希少糖プシコースが10~20重量部、好のましくは15~20重量部、D-グルコースおよびD-フラクトースが90~80重量部、好のましくは85~80重量部である、砂糖と同じ味質の希少糖含有組成物は、D-グルコース、D-フラクトースおよびD-プシコースの新たな組成の組成物であるから、特許文献4に記載された用途に用いられる。
本発明の組成物は、原料となるD-フラクトースの生産物であって、かつ、疑似移動クロマトグラフィーによる分離操作を経ていない生産物であることを特徴としている。また、原料となるD-フラクトースの生産物であって、かつ、固定化酵素反応カラムを通過した液糖そのものであることを特徴としており、D-グルコース、D-フラクトースおよびD-プシコースの新たな組成の組成物であるから、やはり特許文献4に記載された用途に用いられる。ブドウ糖・果糖・D-プシコースとも、すべて食品(認可認証の面で)であり、食品の混合物だから極めて安全で扱いやすい。D-プシコース(D-アルロース)は食品素材に微量に存在し、安全性が高く、大量生産技術が開発された今日、コスト面でも利用価値は高いものである。なお急性経口毒性試験では5,000mg/kg以上であることがすでに知られている。
【0036】
D-プシコース(D-アルロース)を含む糖組成物の用途としては、食品、飲料、特に機能性食品(肥満予防など)、医薬品、化粧品、飼料、農薬(植物成長調整剤、植物病害抵抗性増幅剤など)、工業用とが例示される。砂糖と同じ味質の甘味料は、食品、保健用食品、患者用食品、食品素材、保健用食品素材、患者用食品素材、食品添加物、保健用食品添加物、患者用食品添加物、飲料、保健用飲料、患者用飲料、飲料水、保健用飲料水、患者用飲料水、薬剤、製剤原料、飼料、患畜および/または患獣用飼料になど甘味を必要とするものすべてに使用することができる。
【0037】
本発明の砂糖と同じ味質の甘味料を食品に利用する場合、そのままの形態、水などに希釈した形態、オイルなどに懸濁した形態、乳液状形態食、または食品業界で一般的に使用される担体を添加した形態などのものを調製してもよい。飲料の形態は、非アルコール飲料またはアルコール飲料である。非アルコール飲料としては、例えば、炭酸系飲料、果汁飲料、ネクター飲料などの非炭酸系飲料、清涼飲料、スポーツ飲料、茶、コーヒー、ココアなど、また、アルコール飲料の形態ではビール、発泡酒、第3ビール、清酒、梅酒、ワイン、シャンパン、リキュール、酎ハイ、薬用酒などの形態を挙げることができる。
本発明の希少糖含有組成物の、前記糖質代謝異常および/または脂質代謝異常改善を目的とした食品素材あるいは食品添加物としての使用形態としては、錠剤、カプセル剤、飲料などに溶解させる粉末あるいは顆粒などの固形剤、ゼリーなどの半固形体、飲料水などの液体、希釈して用いる高濃度溶液などがある。
さらに、本発明の希少糖含有組成物を適宜食品に添加して糖質代謝異常および/または脂質代謝異常改善などを目的とした保健食または病人食とすることができる。任意的成分として、通常食品に添加されるビタミン類、炭水化物、色素、香料など適宜配合することができる。食品は液状または固形の任意の形態で食することができる。ゼラチンなどで外包してカプセル化した軟カプセル剤として食することができる。カプセルは、例えば、原料ゼラチンに水を加えて溶解し、これに可塑剤(グリセリン、D- ソルビトールなど)を加えることにより調製したゼラチン皮膜でつくられる。
【0038】
本発明の希少糖含有組成物は甘味料として、砂糖と同様な用途で用いることができる。また、調理やお茶、コーヒー、調味料(みりんなど)などにも使用できる。
【0039】
飲食物としては、具体的には以下のものを例示することができる。洋菓子類(プリン、ゼリー、グミキャンディー、キャンディー、ドロップ、キャラメル、チューインガム、チョコレート、ペストリー、バタークリーム、カスタードグリーム、シュークリーム、ホットケーキ、パン、ポテトチップス、フライドポテト、ポップコーン、クラッカー、パイ、スポンジケーキ、カステラ、ワッフル、ケーキ、ドーナツ、ビスケット、クッキー、せんべい、おかき、おこし、まんじゅう、あめなど)、乾燥麺製品(マカロニ、パスタ)、卵製品(マヨネーズ、生クリーム)、飲料(機能性飲料、乳酸飲料、乳酸菌飲料、濃厚乳性飲料、果汁飲料、無果汁飲料、果肉飲料、透明炭酸飲料、果汁入り炭酸飲料、果実着色炭酸飲料)、嗜好品(緑茶、紅茶、インスタントコーヒー、ココア、缶入りコーヒードリンク)、乳製品(アイスクリーム、ヨーグルト、コーヒー用ミルク、バター、バターソース、チーズ、発酵乳、加工乳)、ペースト類(マーマレード、ジャム、フラワーペースト、ピーナッツペースト、フルーツペースト、果実のシロップ漬け)、畜肉製品(ハム、ソーセージ、ベーコン、ドライソーセージ、ビーフジャーキー、ラード)、魚介類製品(魚肉ハム、魚肉ソーセージ、蒲鉾、ちくわ、ハンペン、魚の干物、鰹節、鯖節、煮干し、うに、いかの塩辛、スルメ、魚のみりん干し、貝の干物、鮭などの燻製品)、佃煮類(小魚、貝類、山菜、茸、昆布)、カレー類(即席カレー、レトルトカレー、缶詰カレー)、調味料剤(みそ、粉末みそ、醤油、粉末醤油、もろみ、魚醤、ソース、ケチャップ、オイスターソース、固形ブイヨン、焼き肉のたれ、カレールー、シチューの素、スープの素、だしの素、ペースト、インスタントスープ、ふりかけ、ドレッシング、サラダ油)、揚げ製品(油揚げ、油揚げ菓子、即席ラーメン)、豆乳、マーガリン、ショートニングなどを挙げることができる。
【0040】
上記飲食物は、組成物を常法に従って、一般食品の原料と配合することにより、加工製造することができる。上記飲食物への組成物の配合量は食品の形態により異なり特に限定されるものではないが、通常は0 . 1~ 5 0重量% が好ましい。
【0041】
上記飲食物は、機能性食品、栄養補助食品或いは健康食品類としても用いることができる。その形態は、特に限定されるものではなく、例えば、食品の製造例としては、アミノ酸バランスのとれた栄養価の高い乳蛋白質、大豆蛋白質、卵アルブミンなどの蛋白質、これらの分解物、卵白のオリゴペプチド、大豆加水分解物などの他、アミノ酸単体の混合物などを、常法に従って使用することができる。また、ソフトカプセル、タブレットなどの形態で利用することもできる。
【0042】
栄養補助食品或いは機能性食品の例としては、糖類、脂肪、微量元素、ビタミン類、乳化剤、香料などが配合された流動食、半消化態栄養食、成分栄養食、ドリンク剤、カプセル剤、経腸栄養剤などの加工形態を挙げることができる。上記各種食品には、例えば、スポーツドリンク、栄養ドリンクなどの飲食物は、栄養バランス、風味を良くするために、更にアミノ酸、ビタミン類、ミネラル類などの栄養的添加物や甘味料、香辛料、香料、色素などを配合することもできる。
【0043】
機能性食品は、特定の疾病などを予防(肥満予防)する健康食品、予防医薬品の分野の利用に適している。特定の疾病を予防する健康食品においては、必須成分である希少糖D-プシコース(D-アルロース)を含む糖組成物の他に、任意的成分として、通常食品に添加されるビタミン類、炭水化物、色素、香料など適宜配合することができる。食品は液状または固形の任意の形態で食することができる。ゼラチンなどで外包してカプセル化した軟カプセル剤として食することができる。カプセルは、例えば、原料ゼラチンに水を加えて溶解し、これに可塑剤(グリセリン、D-ソルビトールなど)を加えることにより調製したゼラチン皮膜でつくられる。
【0044】
食品添加物として用いられる場合、その形態は適宜選択することができ、例えば、本発明に係る希少糖D-プシコース(D-アルロース)を含む糖組成物をそのまま食品として調製したもの、他の食品に添加したもの、あるいは、カプセル、錠剤等、食品または健康食品に通常用いられる任意の形態を挙げることができる。また、食品中に配合して摂取あるいは投与する場合には、適宜、賦形剤、増量剤、結合剤、増粘剤、乳化剤、着色料、香料、食品添加物、調味料などと混合し、用途に応じて、粉末、顆粒、錠剤等の形に成形することができる。さらには、食品原料中に混合して食品を調製し、機能性食品として製品化することによって摂取することができる。
【0045】
本発明の組成物は、家畜、家禽、ペット類の飼料用に応用することができる。例えば、ドライドッグフード、ドライキャットフード、ウェットドッグフード、ウェットキャットフード、セミモイストドックフード、養鶏用飼料、牛、豚などの家畜用飼料に配合することができる。飼料自体は、常法に従って調製することができる。
これらの治療剤および予防剤は、ヒト以外の動物、例えば、牛、馬、豚、羊などの家畜用哺乳類、鶏、ウズラ、ダチョウなどの家禽類、は虫類、鳥類或いは小型哺乳類などのペット類、養殖魚類などにも用いることができる。
本発明の甘味料の甘味を生かしつつ、生理作用の発現を意図した糖質代謝異常および/または脂質代謝異常改善効果、肥満改善効果を目的とした薬剤は、これらを単独で用いるほか、一般的賦形剤、安定剤、保存剤、結合剤、崩壊剤などの適当な添加剤を配合し、液剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、散布剤、スプレー剤等の適当な剤型を選んで製剤し、経口的、経鼻的に投与することができる。
【0046】
経口投与、経鼻投与に適した医薬用の有機又は無機の固体、半固体又は液体の担体、溶解剤もしくは希釈剤を、本発明の組成物を薬剤として調製するために用いることができる。水、ゼラチン、乳糖、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、タルク、動・植物油、ベンジルアルコール、ガム、ポリアルキレングリコール、石油樹脂、ヤシ油、ラノリン、又は医薬に用いられる他のキャリアー(担体)は全て、本発明の組成物を含む薬剤の担体として用いることができる。また、安定剤、湿潤剤、乳化剤や、浸透圧を変えたり、配合剤の適切なp Hを維持するための塩類を補助薬剤として適宜用いることができる。
【0047】
医薬組成物として用いられる場合、その製剤化には公知の方法を用いることができる。また、投与形態は適宜選択することができ、そのような投与形態としては、例えば、経口投与製剤として調製する場合は、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、コーティング剤、液剤、懸濁剤などの形態を挙げることができ、非経口投与製剤にする場合には、注射剤、点滴剤、座薬などの形態を挙げることができる。また、その投与量は、医薬組成物の製剤形態、投与方法、使用目的およびこれに適用される投与対象の年齢、体重、症状によって適宜設定することができる。薬剤においては、有効成分である希少糖D-プシコース(D-アルロース)を含む糖組成物はそれ自体のみならずそれの薬剤として許容される塩として使用される。該薬剤は、D-プシコース(D-アルロース)を含む糖組成物を単独で製剤として用いることができるほか、製薬上使用できる担体もしくは希釈剤を加えた製剤組成物に加工したものを用いることもできる。このような製剤または薬剤組成物は、上記のとおり、経口または非経口の経路で投与することができる。例えば、経口投与用の固体または流体(ゲルおよび液体)の製剤または薬剤組成物は、タブレット、カプセル、錠剤、丸剤、粉末、顆粒もしくはゲル調製品の形態をとる。製剤または薬剤組成物の正確な投与量は、その目的とする使用形態および処置時間により変化するため、担当の医師または獣医が適当であると考える量になる。服用および投与用量は製剤形態によって適宜調整できる。錠剤などの経口固形製剤、経口液剤などとして1日服用量を1回ないし数回に分けて服用してもよい。また、例えばシロップやトローチ、チュアブル錠などで幼児頓服して、局所で作用させるとともに内服による全身性作用をも発揮させる製剤形態では1日服用量の1/2~1/10を1回量として配合し服用すればよく、この場合全服用量が1日量に満たなくてもよい。
逆に、製剤形態からみて無理な服用容量とならなければ1日服用量に相当する量を1回分として配合してもよい。製剤の調製にあたっては、通常使用される充填剤、増量剤、結合剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤、コーティング剤、徐放化剤など、希釈剤や賦形剤を用いることができる。この他、必要に応じて溶解補助剤、緩衝剤、保存剤、可溶化剤、等張化剤、乳化剤、懸濁化剤、分散剤、増粘剤、ゲル化剤、硬化剤、吸収剤、粘着剤、弾性剤、可塑剤、吸着剤、香料、着色剤、矯味剤、抗酸化剤、保湿剤、遮光剤、光沢剤、帯電防止剤などを使用することができる。
【0048】
本発明は、希少糖D-プシコース(D-アルロース)の皮膚保湿、皮膚抗酸化および皮膚抗老化作用を利用する皮膚外用剤、すなわち治療薬、皮膚外用剤、化粧料等が知られている(特許文献7)肌荒れ、荒れ性に対して改善・予防効果を有する皮膚外用剤を提供することができる。本発明の皮膚外用剤には、希少糖D-プシコース(D-アルロースを含む糖組成物を必須成分とし、それ以外に、通常化粧品や医薬品等の皮膚外用剤に用いられる成分、例えば水性成分、油性成分、粉末成分、アルコール類、保湿剤、増粘剤、紫外線吸収剤、美白剤、防腐剤、酸化防止剤、界面活性剤、香料、色剤、各種皮膚栄養剤等を必要に応じて適宜配合することができる。その他、エデト酸二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、グルコン酸等の金属封鎖剤、カフェイン、タンニン、ベラバミル、甘草抽出物、グラブリジン、カリンの果実の熱水抽出物、各種生薬、酢酸トコフェロール、グリチルリチン酸、トラネキサム酸およびその誘導体またはその塩等の薬剤、ビタミンC、アスコルビン酸リン酸マグネシウム、アスコルビン酸クルコシド、アルブチン、コウジ酸、D-グルコース、D-フルクトース、トレハロース等の糖類なども適宜配合することができる。すなわち、希少糖D-プシコース(D-アルロース)を含む糖組成物に、例えば、植物油などの油脂類、ラノリンやミツロウなどのロウ類、炭化水素類、脂肪酸、高級アルコール類、エステル類、各種界面活性剤、色素、香料、ビタミン類、植物や動物の抽出成分、紫外線吸収剤、抗酸化剤、防腐剤、殺菌剤などの、通常の皮膚外用剤の原料として使用されているものを適宜配合し、皮膚外用剤を製造することができる。また、抗炎症性の皮膚外用剤原料であるグリチルレチン酸などの甘草抽出成分、塩酸ジフェンヒドラミン、アズレン、dl-α-トコフェロールおよびその誘導体、ビタミンB2、ビタミンB6などとともに用いることができる。皮膚外用剤は、例えば軟膏、クリーム、乳液、ローション、パック、浴用剤等、従来の皮膚外用剤に用いられる形態であればいずれでもよく、剤型は特に問わない。すなわち、皮膚外用剤として用いられる場合、その剤型は適宜選択することができ、例えば、溶液系、可溶化系、乳化系、粉末分散系、水-油二層系、水-油-粉末三層系、ジェル、ミスト、スプレー、ムース、ロールオン、スティックなどの他、不織布などのシートに含浸ないし塗布した製剤などを挙げることができる。
【0049】
農薬の使用量を飛躍的に減少させる可能性のある、植物に対して病害抵抗性を増幅する作用の物質を提供することを目的として、本発明者らの別のグループは、希少糖による植物病害抵抗性増幅剤の発明がすでに登録されている(特許文献8)が、その後研究開発が飛躍的に進んでおり、複数の特許が存在する。
【0050】
また、歯磨きなどに添加し、甘味料として使用できる。
さらに、化粧品等の製剤化に、可溶性フィルムが使用されるようになってきている。例えば、香料等を保持させたフレーバーフィルム等として気分転換、口臭予防等を目的として、可食性の可溶性フィルムが使用されている。食品、医薬品等の包装材として、又食品、医薬品等の有効成分を保持する担体として、優れた溶解性とフィルム特性を示し、これらの用途に好適に用いることができる可溶性フィルムが提案されており(特許文献9)、このようにして、本発明の砂糖の甘味度および味質を有する甘味料を医薬品もしくは医薬部外品、化粧品に適応することができる。
【0051】
食品、飲料または化粧品、あるいは飼料における配合量は特に制限されないがD-プシコース(D-アルロース)0.01~10重量%程度が好ましい。医薬品の場合、カプセルや粉末、錠剤などとして経口投与することができ、水に溶けることから経口投与以外に静脈注射、筋肉注射などの投与方法を採用することが可能である。投与量は例えば糖尿病の症状の度合いや体重、年齢、性別などにより異なるものであり、使用に際して適当な量を症状に応じて決めることが望ましい。医薬品における配合量は特に制限はされないが、体重1kgあたり、経口投与の場合D-プシコース(D-アルロース)0.01~2,000mg、静脈注射投与の場合0.01~1,000mg、筋肉注射投与の場合0.01~1,000mg程度が好ましい。
【0052】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は実施例によってなんら限定されるものではない。
【実施例1】
【0053】
通常、イソメラーゼを用いた希少糖の生産には、(1)微生物の培養と酵素の大量生産、(2)酵素反応による希少糖への変換、(3)平衡反応の場合は生産物の希少糖と原料(果糖等)との分離、(4)希少糖の濃縮の4つの工程があり、必要に応じ、(5)希少糖の結晶化の5つ目の工程が付加される。これらの工程を効率よく実施し、希少糖を大量に生産する。 本実施例で予備実験の一例を示す。 予備実験の生産方法は、上記(3)の希少糖と原料(果糖等)との分離は行わないことを特徴とする。 すなわち、
図1に示すように、原料のD-フラクトースにケトース3-エピメラーゼを作用させてD-フラクトースからD-プシコースへ変換させる反応1の通常のD-フラクトースからD-プシコースを作る工程で、D-プシコースを分離することなくそのまま、反応2のD-キシロースイソメラーゼ反応を行った。この時に経時的にカラムから溶出してくる反応液をサンプリングして、HPLC(検出器;RI、カラム;三菱化成 MCI GEL CK 08EC、移動相;水、流速; 0.4ml/min)にて分析した(この分析条件は、以降の実験例でも同様である)。HPLC分析結果を
図2に示す。反応2の生産物である糖液は、およそD-グルコース43重量部、D-フラクトース37重量部、D-プシコース20重量部とからなることが判明した。
本発明の製造方法で得られた希少糖含有組成物が甘味度において砂糖により近づいていることについて以下に詳述する。
【0054】
図3の左側に示す製造工程は、特許文献1に記載の砂糖の甘味度および味質を有する甘味料を製造するための工程である。D-グルコース:D-フラクトース:D-プシコースの比が50:40:10の混合糖組成物が得られたことが示されている。
一方、
図3の右側には、
図2の本発明の新規希少糖含有組成物製造工程(上記予備実験の製造工程)であり、二つの製造工程を対比して示した。
図3の右側に示す製造工程で製造された予備実験の生産物は、D-グルコース:D-フラクトース:D-プシコースの比が44.4:30.6:20の混合糖組成物である。
【0055】
上記二種類の混合糖組成物の甘味度および甘味質について説明する。
図4の左側には、甘味曲線を示す図面が示されている。この図面は、特許文献1の
図2を引用した図面である。図中、AAは甘味度、BBは時間、CCはD-グルコース+D-フラクトース、DDは砂糖、EEはD-フラクトース+D-グルコース+D-プシコース、FFはD-プシコースである。CCは、異性化糖(フラクトース55重量部+グルコース45重量部)を用いている。
D-グルコースは砂糖の甘味度の70%程度、D-フラクトースは砂糖の甘味度の170%程度である。D-フラクトースが甘くて美味しい糖といわれる所以である。異性化糖における甘味度および甘味質は、D-フラクトースとD-グルコースの含有比率により異なる。一般的に単一成分の甘味料に比較して、混合糖は甘味のピーク幅が広がり丸い甘味特性を示すことが知られている。特許文献1の実施例2の官能試験結果(表1参照)から、グルコース:プシコースの比が、9:1程度で砂糖に近い甘味度および甘味質が得られることがわかっている。また、砂糖の甘味度および/または味質に近い組み合わせは、フラクトース30重量部から80重量部の範囲においてD-グルコースおよびD-プシコースを(70重量部から20重量部)の範囲で含む混合糖であることを明らかにしている。
【0056】
異性化糖は、低温下において甘味度が増すという特性から清涼飲料や冷菓などに多く使われる。また、果糖には果物(特に柑橘系)の香りを引き立てる効果もあるため、果物の缶詰や飲料に使われる。異性化糖を構成するD-フラクトース(果糖)の摂取量において、ここ20~30年の肥満者と生活習慣病の羅患者増加との関連について注目されている。単糖類の果糖は腸管からの吸収速度が遅いにも関わらず、肝臓での代謝速度が速いと考えられている。これまで果糖の摂りすぎは中性脂肪の合成・分泌を促進させ、肥満や高脂血症などの原因になると信じられている。また、高果糖食を摂取した実験動物のラットにおいても果糖はインスリンの反応を阻害し、尿酸レベルの上昇をさせ、高コレステロール血症、高血圧など、メタボリックシンドロームの出現を高めている。異性化糖が肥満などの元凶と言われるのは、D-フラクトース(果糖)が中性脂肪の蓄積などへと悪い影響を示すことからである。果糖の摂りすぎはもちろん健康によくないが、一方、果糖はブドウ糖と違って、血糖値を安定させ、体に負担をかけないと考えられている。また適切な摂取量の果糖は脂肪の利用を高め肝臓グリコーゲンの分解を抑制して、運動の持久力を高めることも知られている。果糖をどの程度摂取すれば体に害を与えず、健康に役立つことができるか、果糖の適切な摂取量を目指して、甘味料としての異性化糖の改善が求められる。本発明は、果糖の適切な摂取量を、D-アルロース(D-プシコース)の機能性に着眼して、異性化糖の改善を目指してD-フラクトース(果糖)の適切な摂取量を実現することができた。D-フラクトースを欠点が出ない程度の量に調整し、D-フラクトースが甘いという利点を引き出す組成に調整すること、D-プシコースの弱点である甘味度を補うこと、D-プシコースの機能性を持った新たな甘味料を作り出すことができた。
【0057】
本発明のD-グルコース:D-フラクトース:D-プシコースの比が44.4:30.6:20の混合糖組成物は、フラクトース30.6重量部は上記フラクトース30重量部から80重量部の範囲(特許文献1)における下限に近い数値であり、甘くて美味しいD-フラクトースをその欠点(中性脂肪の蓄積などへと悪い影響)が出ない程度の量に調整するが、D-プシコースの弱点である甘味度を補うには十分な量である。
また、D-グルコースおよびD-プシコース64.4重量部は上記D-グルコースおよびD-プシコース70重量部から20重量部の範囲(特許文献1)における上限に近い数値であり、D-プシコースの機能性を持った量のD-プシコースを含有し、かつ、D-グルコース、D-フラクトース、およびD-プシコースの甘味のバランスが砂糖に近似する甘味料を作り出している。
また、D-プシコースは、きれの良い清涼感のある味質を呈するが、甘味を遅く感じる特性がある。D-プシコースは砂糖の甘味度の70%程度であり、単独で甘味料として用いる場合には、甘味度および甘味質共に砂糖とは異なっている。
これらのことから、D-プシコースが加わることによって、
図4の甘味曲線は、異性化糖(フラクトース55重量部+グルコース45重量部)の曲線CCから混合糖曲線(フラクトース+グルコース+プシコース)EEのように変化し、砂糖DDの味質に近づいたことが見て取れる。
図4の右側には、上部に、D-グルコース:D-フラクトース:D-プシコースの比が50:40:10の混合組成物の甘味度が、下部に、実施例1の予備実験の生産物のD-グルコース:D-フラクトース:D-プシコースの比が44.4:30.6:20の甘味度が計算されている。実施例1で調製した、D-グルコース、D-フラクトース、D-プシコースの混合組成物が限りなく砂糖に近い味を示すことが明らかとなった。
【0058】
本発明の原料としてD-フラクトースを用い砂糖と同じ味質の希少糖含有組成物を製造する方法(予備実験)の特徴(比較項目:製品の内容、汚染度の目安、反応速度の調節、クロマト分画機の要・不要、固定化酵素の交換)について、特許文献5に記載の製造方法、特許文献1に記載の製造方法、および単なる添加法と対比して
図5を示して説明する。
図5の、「新規甘味料」、「RSS」、「砂糖様甘味料」、「単なる添加法」は以下のとおりの希少糖含有甘味組成物である。
1.新規甘味料:本発明の原料としてD-フラクトースを用い砂糖と同じ味質の希少糖含有組成物を製造する方法
2.RSS:「レアシュガースウィート」(松谷化学工業株式会社製)、特許文献5に記載の製造方法で製造された希少糖シロップ(商品名:レアシュガースウィート)。D-プシコース0.5~17質量%、D-アロース0.2~10質量%及びその他希少糖が含まれた希少糖含有糖組成物。3.砂糖様甘味料:特許文献1に記載の製造方法で製造された砂糖様味質をもつ新規甘味料。4.単なる添加法:D-グルコース、D-フラクトース、D-プシコース単品の混合物。単品の製造には精製(結晶化など)の問題を克服しなければならない。
【実施例2】
【0059】
第二反応のD-キシロースイソメラーゼの活性(酵素量)を変化させることで、D-グルコース:D-フラクトース:D-プシコースの比率を目的に合わせて変化できることを示す。
本発明は、生産物の組成が一定ではなく目的に応じた組成を得ることが可能であることも大きな特徴である。反応条件を変化させ、各種の組成の生産物を得られることを確認した。両酵素の酵素活性(固定化酵素の量)あるいは固定化酵素カラムを通過する速度を変化することで組成の異なる生産物の生産が可能である。本実施例は酵素量を変化させることでの可能性を示したものである。
【0060】
以下に第二反応のD-キシロースイソメラーゼの活性(酵素量)を変化させ、生産物の組成を測定することで本発明の特徴を検討した。
【0061】
まず、D-フラクトースにケトース3-エピメラーゼを作用させて、D-フラクトースとD-プシコースの平衡混合物を生産した。
【0062】
Arthrobacter globiformis M30を無機塩培地に2%D-プシコースを添加して培養し、得られた菌体を50mM濃度のMg2SO4溶液(菌体重量と同量)に懸濁し、酵素を抽出、高速遠心分離機にて上澄み液(酵素液D-アルロース3-エピメラーゼ[DAE]粗酵素液)を得た。
アルスロバクター グロビホルミス(Arthrobacter
globiformis)M30株は、日本国独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センター(日本国千葉県木更津市東かずさ鎌足2-5-8)に受託番号 NITE BP-1111として国際寄託されている(特許文献6)。
得られた酵素液にイオン交換樹脂(アニオン樹脂)を入れ、5℃にて40時間撹拌し固定化酵素を得た。得られたDAE固定化酵素を100ml固定化反応カラムに充填した。
DAE固定化酵素カラムに50%濃度のD-フラクトース溶液に20mMのMg2SO4を添加し、0.5MのNaOH溶液にてpH7.5に調整した溶液を100ml/時間の流量で通液した。通液後溶液をHPLCにて分析するとD-フラクトース79%:D-プシコース20%であった。
【0063】
得られたD-フラクトースとD-プシコースの混合物を用いて、第二の反応であるD-キシロースイソメラーゼの固定化酵素量を変えた場合の生産物の組成を検討した。
[生産1]
市販のD-キシロース―イソメラーゼ固定化酵素(ノボ社製)80mlを150mlのMg2SO4溶液100mlに分散し、十分に水和させてから100ml固定化反応カラムに充填した。ついでD-キシロースイソメラーゼ固定化酵素カラムに、DAE固定化酵素反応後溶液を100ml/時間の流量で通液した。
【0064】
D-キシロースイソメラーゼ80mlのカラムを用いた場合の通液後の反応溶液をHPLCにて分析するとD-グルコース40%:D-フラクトース39%:D-プシコース20%であった。
[生産2]
同様にDAE反応後液(D-フラクトース79%:D-プシコース20%)をD-キシロースイソメラーゼ固定化酵素カラム50mlに100ml/時間の流量で通液した。
【0065】
D-キシロースイソメラーゼ固定化酵素カラム50mlに通液後の溶液をHPLCにて分析するとD-グルコース25%:D-フラクトース54%:D-プシコース20%であった。
[生産3]
同様にDAE反応後液(D-フラクトース79%:D-プシコース20%)をD-キシロースイソメラーゼ固定化酵素カラム20mlに100ml/時間の流量で通液した。
【0066】
D-キシロースイソメラーゼ固定化酵素カラム20mlに通液後の溶液をHPLCにて分析するとD-グルコース18%:D-フラクトース61%:D-プシコース20%であった。
【実施例3】
【0067】
第一の反応のケトース3-エピメラーゼの酵素量を変えることで、D-グルコース:D-フラクトース:D-プシコースの比率を目的に合わせて変化できることを示す。
第一の反応であるケトース3-エピメラーゼの酵素量を変えることで生産される、D-フラクトースおよびD-プシコースの生産物を基質として用いた検討を行った。
【0068】
実験方法は、実施例2で得たケトース3-エピメラーゼを用いて、酵素量を50mlから20mlと減少し、D-フラクトースとD-プシコースの組成の異なる混合液を得た。これを第二のD-キシロースイソメラーゼ反応に用いる酵素量を変化する実験を行った。
【0069】
DAE固定化酵素を20ml固定化反応カラムに充填して50%濃度のD-フラクトース溶液に20mMのMg2SO4を添加し、0.5MのNaOH溶液にてpH7.5に調整した溶液を100ml/時間の流量で通液した。通液後溶液をHPLCにて分析するとD-フラクトース85%:D-プシコース15%であった。これを反応基質として以後の実験に用いた。
【0070】
以下、このD-フラクトース85%:D-プシコース15%を用いて、第二の反応であるD-キシロースイソメラーゼの活性(酵素量)を変化することでの、生産物の組成を測定した。実験は実施例2のD-キシロースイソメラーゼの量を変化する実験と同様である。
[生産1]
固定化D-キシロースイソメラーゼ100mlに上記D-フラクトース85%:D-プシコース15%を100ml/時間の流量で通液した。通液後溶液をHPLCにて分析するとD-グルコース43%:D-フラクトース41%:D-プシコース15%であった。
[生産2]
固定化D-キシロースイソメラーゼ50mlに上記D-フラクトース85%:D-プシコース15%を100ml/時間の流量で通液した。通液後溶液をHPLCにて分析するとD-グルコース27%:D-フラクトース51%:D-プシコース15%であった。
[生産3]
固定化D-キシロースイソメラーゼ20mlに上記D-フラクトース85%:D-プシコース15%を100ml/時間の流量で通液した。通液後溶液をHPLCにて分析するとD-グルコース19%:D-フラクトース59%:D-プシコース15%であった。
【0071】
以上の実施例2,実施例3の結果は、用いる酵素D-キシロースイソメラーゼ、ケトース3-エピメラーゼの酵素量を変化することで、生産物であるD-グルコース:D-フラクトース:D-プシコースの比を目的に応じて変化できることを示している。
【0072】
酵素量の変化で可能であることは、カラムを通過させる流速を変化させることでも同様の目的物を得ることが可能であることを示している。
【0073】
これらの結果は、D-フラクトース:D-プシコースの比率は、99:1~80:20までが制御できる。また、D-グルコース:D-フラクトースの比率は 1:99~41:49まで制御できる。第一の反応で全体のD-プシコースの比率を、D-フルコースとD-フラクトースの比率を第二の反応により制御できることを示している。
【0074】
例えば甘い生産物を得るためには、D-フラクトースが多い条件を用いればよく、D-プシコースの機能性を発揮するにはD-プシコースの量を最高の比率にすることができる。このように、新たな甘味料の製造法として、可能性が広がる技術開発である。
【0075】
酵素量の変化で可能であることは、カラムを通過させる流速を変化させることでも同様の目的物を得ることが可能であることを示している。
これらの結果は、D-フラクトース:D-プシコースの比率は、99:1~80:20までが制御できる。また、D-グルコース:D-フラクトースの比率は 1:99~41:49まで制御できる。第一の反応で全体のD-プシコースの比率を、D-グルコースとD-フラクトースの比率を第二の反応により制御できることを示している。
例えば甘い生産物を得るためには、D-フラクトースが多い条件を用いればよく、D-プシコースの機能性を発揮するにはD-プシコースの量を最高の比率にすることができる。このように、新たな甘味料の製造法として、可能性が広がる技術開発である。
【0076】
以上まとめると、本発明は、下記の(1)ないし(13)の希少糖含有組成物を製造する方法を特徴としている。
(1)原料としてD-フラクトースを用い希少糖含有組成物を製造する方法であって、第一段階で、ケトース3-エピメラーゼでD-フラクトースをD-プシコースとの混合物とし、第二段階でD-プシコースに作用しないD-キシロースイソメラーゼを用いたD-フラクトースをD-グルコースへ変換することで、D-グルコース、D-フラクトースおよびD-プシコースの新たな組成の目的生産物を得ることを特徴とする方法。
(2)第一段階の生産物がD-フラクトース及び希少糖D-プシコースの混合物である、上記(1)に記載の方法。
(3)第一段階の生産物がD-フラクトース及び希少糖D-プシコースの平衡混合物である、上記(1)に記載の方法。
(4)第一段階の生産物が目的とする濃度に調整されたD-フラクトース及び希少糖D-プシコースの混合物である、上記(1)に記載の方法。
(5)第二段階が、第一段階の生産物にD-キシロースイソメラーゼを連続または個別に作用させる、上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の方法。
(6)第二段階の目的生産物が、希少糖D-プシコース、D-グルコースおよびD-フラクトースの合計100重量部に対して、希少糖D-プシコースが10~20重量部、D-グルコースおよびD-フラクトースが90~80重量部の組成物である、上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の方法。
(7)第二段階の目的生産物が、希少糖D-プシコース、D-グルコースおよびD-フラクトースの合計100重量部に対して、希少糖D-プシコースが15~20重量部、D-グルコースおよびD-フラクトースが85~80重量部の組成物である、上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の方法。
(8)第二段階の目的生産物が、砂糖と同じ味質の希少糖含有組成物である、上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の方法。
(9)用いるケトース3エピメラーゼおよびD-キシロースイソメラーゼの酵素活性を調整することで、目的生産物の組成を目的のものにすることを特徴とする上記(1)ないし(8)のいずれかに記載の方法。
(10)第一段階の反応および第二段階の反応が、それぞれ基質溶液を固定化酵素カラムの中を通過させて行う反応であって、かつ、基質の流速を調整することで、目的生産物の組成を目的のものにすることを特徴とする上記(1)ないし(9)のいずれかに記載の方法。
(11)原料であるD-フラクトースを基質として固定化酵素反応を用い、理論上は副生産物を生産することなく100%目的生産物として得ることを特徴とする、請求項1ないし10のいずれかに記載の方法。
(12)目的生産物が、製造工程中に疑似移動クロマトグラフィーによる分離操作で失われることはないことを特徴とする、上記(1)ないし(11)のいずれかに記載の方法。
(13)第二段階の目的生産物が固定化酵素カラムを通過した液糖そのものから、結晶状態あるいは固体状態の糖質を生成させることを特徴とする、上記(1)ないし(12)のいずれかに記載の方法。
【0077】
また、本発明は、下記の(14)ないし(19)の砂糖と同じ味質の希少糖含有組成物および下記の(20)ないし(29)の該組成物の用途を特徴としている。
(14)希少糖D-プシコース、D-グルコースおよびD-フラクトースの合計100重量部に対して、希少糖プシコースが10~20重量部、D-グルコースおよびD-フラクトースが90~80重量部である、砂糖と同じ味質の希少糖含有組成物。
(15)希少糖D-プシコース、D-グルコースおよびD-フラクトースの合計100重量部に対して、希少糖プシコースが15~20重量部、D-グルコースおよびD-フラクトースが85~80重量部である、砂糖と同じ味質の希少糖含有組成物。
(16)原料となるD-フラクトースの生産物であって、かつ、疑似移動クロマトグラフィーによる分離操作を経ていない生産物である、上記(14)または(15)に記載の砂糖と同じ味質の希少糖含有組成物。
(17)原料となるD-フラクトースの生産物であって、かつ、固定化酵素反応カラムを通過した液糖そのものである、上記(14)、(15)または(16)に記載の砂糖と同じ味質の希少糖含有組成物。
(18)砂糖と同じ味質の甘味料である、上記(14)ないし(17)のいずれかに記載の砂糖と同じ味質の希少糖含有組成物。
(19)シロップ状または結晶質状である、上記(14)ないし(18)のいずれかに記載の砂糖と同じ味質の希少糖含有組成物。
(20)上記(14)ないし(19)のいずれかに記載の砂糖と同じ味質の希少糖含有組成物を含有することを特徴とする砂糖様甘味料。
(21)上記(14)ないし(19)のいずれかに記載の砂糖と同じ味質の希少糖含有組成物を含有することを特徴とする食品。
(22)上記(14)ないし(19)のいずれかに記載の砂糖と同じ味質の希少糖含有組成物を含有することを特徴とする医薬品もしくは医薬部外品。
(23)上記(14)ないし(19)のいずれかに記載の砂糖と同じ味質の希少糖含有組成物を含有することを特徴とする口腔用組成物。
(24)上記(14)ないし(19)のいずれかに記載の砂糖と同じ味質の希少糖含有組成物を含有することを特徴とする化粧品。
(25)上記(14)ないし(19)のいずれかに記載の砂糖と同じ味質の希少糖含有組成物を含有することを特徴とする抗肥満剤。
(26)上記(14)ないし(19)のいずれかに記載の砂糖と同じ味質の希少糖含有組成物を含有することを特徴とする摂食抑制剤。
(27)上記(14)ないし(19)のいずれかに記載の砂糖と同じ味質の希少糖含有組成物を含有することを特徴とするインスリン抵抗性の改善剤。
(28)上記(14)ないし(19)のいずれかに記載の砂糖と同じ味質の希少糖含有組成物を含有することを特徴とする低カロリー甘味剤。
(29)上記(14)ないし(19)のいずれかに記載の砂糖と同じ味質の希少糖含有組成物を含有することを特徴とする砂糖様甘味剤。
【産業上の利用可能性】
【0078】
食品業界等で広く使われても肥満などの生活習慣病の原因とならない砂糖とほぼ同様の甘味度および味質を有する甘味料を低コストで大量生産することが期待される。大量生産の成功により、D-プシコース(D-アルロース)を含む糖組成物の用途が、食品、飲料、特に機能性食品(肥満予防など)、医薬品、化粧品、飼料、農薬(植物成長調整剤、植物病害抵抗性増幅剤など)、工業用として拡大することが期待される。