(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】ドローンを用いた荷重取扱装置
(51)【国際特許分類】
B64D 9/00 20060101AFI20240624BHJP
B64C 13/20 20060101ALI20240624BHJP
B64C 27/08 20230101ALI20240624BHJP
B64C 39/02 20060101ALI20240624BHJP
B64U 10/13 20230101ALI20240624BHJP
B66F 19/00 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
B64D9/00
B64C13/20 Z
B64C27/08
B64C39/02
B64U10/13
B66F19/00 D
(21)【出願番号】P 2021140008
(22)【出願日】2021-08-30
【審査請求日】2023-05-29
(73)【特許権者】
【識別番号】501178950
【氏名又は名称】元田技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100208731
【氏名又は名称】真々田 忠博
(74)【代理人】
【識別番号】100092679
【氏名又は名称】樋口 盛之助
(72)【発明者】
【氏名】元田 公之
【審査官】大宮 功次
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-177793(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0276140(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0244377(US,A1)
【文献】特開2018-034284(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64D 9/00
B64C 13/20
B64C 27/08
B64C 39/02
B64U 10/13
B66F 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドローンとその下部に接続されたアームから構成され、
前記アームは
ドローンの中心からずれた部分に接続されており、下部に前記ドローンの飛行状態を制御する操作部を有し、下端に荷重を保持する負荷部を有するドローンを用いた荷重取扱装置。
【請求項2】
前記負荷部で保持した荷重を前記ドローンで持ち上げて所定高さに保持し、
前記ドローンによる持ち上げで実現した疑似無重力状態を利用して、
前記荷重を取扱う、
請求項1に記載のドローンを用いた荷重取扱装置。
【請求項3】
前記操作部は前記アームから切り離され、無線によりドローンの飛行状態を制御する請求項1又は2に記載のドローンを用いた荷重取扱装置。
【請求項4】
前記操作部は、荷重の持上げ、取扱のための空中保持、及び所定箇所への運搬の各操作において、前記荷重の重量の大きさに応じて、前記ドローンの出力を調整する制御装置を備えることを特徴とする請求項1~3に記載のドローンを用いた荷重取扱装置。
【請求項5】
前記ドローンが、メインローターの他に、回転制御をおこなうための補助ローターとして、ピッチング制御をおこなうバランス制御ローターを備える請求項1~4に記載のドローンを用いた荷重取扱装置。
【請求項6】
前記ドローンが、更に、ローリング制御をおこなう姿勢制御ローター、ヨーイング制御をおこなうアンチトルクローターを備える請求項1~5に記載のドローンを用いた荷重取扱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドローン及びその下部に接続したアームから構成される荷重取扱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本件の出願人及び発明者らは、長年にわたり、バランサー型の荷重取扱装置について、精力的に研究開発を続け、その成果をもとに製造販売をおこなっている。
図1は、出願人が製造販売する荷重取扱装置の概要を示すものである。
これは、第一アーム11、第二アーム12及び連結リンク13により構成される関節型アーム機構の先端側に、水平旋回するアーム14、15を接続し、その水平旋回アーム14、15の下端に荷重を保持するフック等を備えた負荷部16を設けた荷重取扱装置において、負荷部16を有する水平旋回アーム14、15の回転軸(支柱)Pに回転駆動力を与える駆動源18を設け、負荷部16を駆動源18の出力を利用して水平面内で無慣性の水平移動をさせるようにしたバランサー形の荷重取扱装置である(特許文献1~3)。
【0003】
上記の荷重取扱装置では、駆動源18及びこれを作動制御する操作部17を設けているので、側面から見て逆L字状をなす水平旋アーム14、15の下端に設けた負荷部16に支持された荷重を、所望の高さに疑似無重力状態で保持すると共に、無慣性で水平移動させることができる。
このため、簡易な構造のクレーン状関節型補力装置として、コンテナ移載、工作機械へのローディング、エンジン組立て等の様々な作業現場において広く活用されるに至っている。
【0004】
しかし、この種のバランサー型荷重取扱装置における固有の問題点として、従来から次の課題が認識されていた。
まず、水平旋回するアームを支えるために、支柱Pを床面あるいは天井面に固定することが必須である。このため、上記荷重取扱装置は常に所定の箇所に固定されることになり、任意に移動させることはできない。
また、負荷部に支持された荷重を移動させることができる範囲が、アームの延伸可能範囲に限定されてしまう。具体的には、
図1の破線で囲まれた領域が負荷部の可動範囲である。このため、荷重取扱装置の用途は設置当初に想定した特定用途に限定されてしまい、一旦設置されれば他の用途に転用することは困難である。
【0005】
一方、ドローンを用いて各種作業をおこなうことは従来から様々な方面で試みられており、ドローンを利用して荷重を取扱うことに関連した技術も散見されている。
特許文献4には、台車の台座裏面にプロペラ複数機を有するドローンユニットを装着し、台座部のプロペラに対応する部分に開口部が設けたドローン台車が記載されている。このドローン台車により、重い荷物の運搬をおこなう作業者の負担を軽減することができるとされている。
また、特許文献5には、引上げ機構とドローンをワイヤで連結した物品移動システムが記載されており、ワイヤを巻き取ることで物品を保持したドローンを引き上げ、所定位置に移動させることが記載されている。
【0006】
しかし、これらの物品の運搬方法では、物品を空輸するためにドローンを用いるか、あるいは、積載した物品の重量を軽減するためにドローンが使われるものであった。このため、ドローンの出力は、物品を空輸して持ち運べる程度に十分大きいか、積載した物品の荷重を軽減できる程度に小さければよく、荷重の重量の大きさに対応して出力を調整する必要はなかった。
すなわち、物品を取り扱うにあたり、物品の重量に応じて出力を調整し、物品を所定の高さに疑似無重力状態で保持することを意図してドローンを使うことは考えられていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2005-170563号公報
【文献】特許第4546747号公報
【文献】特許第4669801号公報
【文献】特許第6376580号公報
【文献】特開2019-18757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記した従来のバランサー型荷重取扱装置が有していた課題を解決し、優れた特性を有する荷重取扱装置を提供することを目的とするものである。すなわち、支柱を床面や天井面に固定することは必要なく、また、可動範囲の制限を受けることなく荷重を取り扱うことができる荷重取扱装置を提供すること、を解決すべき課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るドローンを用いた荷重取扱装置は、ドローンとその下部に接続されたアームから構成され、前記アームは、下部に前記ドローンの飛行状態を制御する操作部を有し、下端に荷重を保持する負荷部を有する装置である。その使用にあたっては、前記負荷部で保持した荷重を前記ドローンで持ち上げて所定高さに保持し、前記ドローンによる持ち上げで実現した疑似無重力状態を利用して、前記荷重に対して必要な作業をおこなう。
また、前記操作部は前記アームから切り離され、無線によりドローンの飛行状態を制御することができる。また、前記操作部は、荷重の持上げ、取扱のための空中保持、及び所定箇所への運搬の各操作において、前記荷重の重量の大きさに応じて、前記ドローンの出力を調整する制御装置を備える。
また、前記ドローンは、メインローターの他に、回転制御をおこなうための補助ローターとして、ピッチング制御をおこなうバランス制御ローターを備えることが好ましく、更に、ローリング制御をおこなう姿勢制御ローター、ヨーイング制御をおこなうアンチトルクローターを備えることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の荷重取扱装置によれば、アーム下端に設けた負荷部に支持させた荷重をドローンにより持ち上げて所定の高さに保持する。そうすると、持ち上げた荷重について疑似無重力状態を形成できるので、当該装置のオペレーター(作業員)が、荷重取扱装置近傍の三次元空間の任意の位置に、任意の経路で荷重を移動させ、エンジンの組立、工作機械へのローディング等の任意の取扱処理をおこなうことができる。
また、本発明の荷重取扱装置は、上記した工場で各種作業に使用する他、多様な用途に使用することができる。例えば、自然災害現場における初期救助活動において、負傷者の移送や障害物の撤去等の作業に有用に活用することができる。
【0011】
特に、従来のバランサー型荷重取扱装置において必要であった、支柱を床面や天井面に固定する必要はなくすことができる。また、その可動範囲もアームの延伸可能範囲に限定されることはない。
したがって、従来のバランサー型荷重取扱装置を用いて作業する場合に比較して、作業内容の自由度を格段に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は従来のバランサー型荷重取扱装置の概要を示す図である。
【
図2】
図2は本発明のAタイプの荷重取扱装置の概要を示すもので、(a)が側面図であり、(b)が上方から見た平面図である。
【
図3】
図3は、Bタイプの荷重取扱装置の概要を示し、同じく(a)が側面図であり(b)が平面図である。
【
図4】
図4は、Cタイプの荷重取扱装置の概要を示し、同じく(a)が側面図であり(b)が平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では、本発明のドローンを用いた荷重取扱装置について、具体的な実施の形態を説明する。
【0014】
(ドローン)
本発明の荷重取扱装置においては、以下の3種のドローンのいずれかを使用することが好ましい。なお、以下で説明する、ヨーイング、ピッチング、及びローリングは、ドローンの回転を回転軸の観点から区別した呼び名である。ヨーイングは上下軸周りの回転、ピッチングは左右軸周りの回転、及びローリングは前後軸周りの回転を意味する。
【0015】
図2に示すタイプの荷重取扱装置(Aタイプ)は、最も単純なタイプのドローンを使用するもので、ドローンのフレームFに接続された複数機(4機)のメインローター1を備え、アーム2はドローンの重心部分に接続されてドローンの中心に荷重がかかるタイプである。アーム2は、下部に前記ドローンの飛行状態を制御する操作部3を有し、下端に荷重を保持する負荷部4を有する。
【0016】
図3に示すタイプの荷重取扱装置(Bタイプ)が使用するドローンは、フレームFに接続された複数機(4機)のメインローター1を備え、これがローリング制御、ヨーイング制御及びピッチング制御をおこない、ピッチング制御を補助的におこなうバランス制御ローター5を備える。
また、
図4に示すタイプの荷重取扱装置(Cタイプ)が使用するドローンは、フレームFに接続された単軸のメインローター1に対し、回転制御をおこなう補助ローターとして、ローリング制御をおこなう姿勢制御ローター6、ヨーイング制御をおこなうアンチトルクローター7、及びピッチング制御をおこなうバランス制御ローター5を備える。
【0017】
それぞれのタイプの荷重取扱装置は、次の特徴を有する。
まず、Aタイプの荷重取扱装置で使用するドローンは、荷重がドローンの中心にかかるため、ロール制御が容易である。しかし、作業員はドローンの真下で荷重取扱装置を操作するため、ドローンの風圧をすべて受けてしまうという特徴がある。
【0018】
Bタイプ、及びCタイプの荷重取扱装置で使用するドローンは、荷重を保持する負荷部4を有するアーム2が、ドローンの中心からずれた部分に接続されているので、作業員はドローンの風圧を殆ど受けない。しかし、ドローンが回転する可能性が高まるために、ドローンの回転を抑えるための制御をおこなうことが必要になる。具体的には、仮想定比槓桿(天秤棒)の一端に支持させる荷重の重量を、メインローター部分を支点にして釣り合わせるため、その他端に下向きの揚力を発生させ、ピッチング制御をおこなうバランス制御ローター5を備えることが必要となる。
従来技術で紹介した荷重取扱装置においては、バランサーとして、水平旋回アーム14、15下端の負荷部16で保持した荷重の重量を、バランスウエイトやモーター等により釣り合わせて荷重を取扱っていた。本発明のB及びCタイプの荷重取扱装置は、従来技術のバランサーと力学的に同様の機構で荷重を取扱うものであるといえる。
【0019】
また、
図4のCタイプの荷重取扱装置で使用するドローンは、メインローター1がシングルローターであるため、ヘリコプターの制御に近い制御が必要になる。
すなわち、メインローター1では操作時の上昇・下降と未操作時のホバーリング制御をおこない、姿勢制御ローター6では、他の制御とは連動することなくロール方向の姿勢制御をおこなう。
また、バランス制御ローター5では、持ち上げる荷重の重量変化により発生するピッチ方向の回転制御をおこなう。なお、
図3、4ではバランス制御ローター5は、下向きのローターとして描かれているが、上向きのローターとしてブレードもしくは回転を逆にしたものでもよいことは当然のことである。
さらに、アンチトルクローター7は、メインローターが単軸であることに起因して発生する反作用のトルクを抑えるため、ヨーイングを制御する機能を有する。
【0020】
(ドローンの出力制御)
本発明の荷重取扱装置は、負荷部において荷重を所定高さに持ち上げた時点で、ドローンの出力を荷重の重量と釣り合うように調整し、荷重に対して疑似無重力状態を達成させる必要がある。さもなければ、ドローンは荷重を保持したまま飛び去ってしまうか、あるいは、荷重の重量を単に軽減するのみで荷重を持ち上げることはできない。
そこで、本発明の荷重取扱装置は、この疑似無重力状態を実現するため、荷重の重量に応じてドローンの出力を調整することに特徴がある。具体的には、荷重の持ち上げ、所定の取扱をするための荷重の空中保持、及び、所定場所への配置の各段階の操作において、適切な出力となるよう制御する制御機構を有する。
【0021】
(操作部)
本発明のドローンを用いた荷重取扱装置における操作部は、アームに固定されてもよいが、操作性を考慮すれば、アームから切り離して無線で操作できるように設定してもよい。
【0022】
(操作方法)
本発明の荷重取扱装置を用いて荷重を持ち上げた後に、荷重を疑似無重力状態においた段階で、持ち上げた荷重に対して種々の取扱をすることができる。例えば、当該装置のオペレーター(作業員)が、本発明の架空取扱装置のアームを把持して移動することにより、保持した荷重を近傍の任意の位置に移動することができる。また、荷重が無重力状態にある間に、荷重に対して任意の取扱、例えば、工作機械へのローディングやエンジンの組立をおこなうことができる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明のドローンを用いた荷重取扱装置においては、従来のバランサー型荷重取扱装置と同様の用途に使用することができる。各種製造工場において、コンテナ移載、工作機械へのローディング作業、あるいはエンジン組立て作業等に使用することができる。
また、動力源としてドローンを採用したので、その利便性は格段に向上し、工場での使用を超越して様々な場面で重量の重い物質を取扱う作業に使用することが期待できる。例えば、自然災害時の初期救助活動において有益に活用することが期待できる。
【符号の説明】
【0024】
F ドローンのフレーム
1 メインローター
2 アーム
3 操作部
4 負荷部
5 バランス制御ローター
6 姿勢制御ローター
7 アンチトルクローター
11 第一アーム
12 第二アーム
13 連結リング
14,15 水平旋回するアーム
16 負荷部
17 操作部
18 駆動源
P 支柱