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特許7508119キヌアの栽培方法及びキヌア種子の生産方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】キヌアの栽培方法及びキヌア種子の生産方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 22/20 20180101AFI20240624BHJP
【FI】
A01G22/20
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021165599
(22)【出願日】2021-10-07
(65)【公開番号】P2023056313
(43)【公開日】2023-04-19
【審査請求日】2023-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】392019857
【氏名又は名称】株式会社アクトリー
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(74)【代理人】
【識別番号】100222324
【弁理士】
【氏名又は名称】西野 千明
(72)【発明者】
【氏名】水越 裕治
(72)【発明者】
【氏名】田中 孝二郎
(72)【発明者】
【氏名】笹嶋 由佳
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-90417(JP,A)
【文献】人工海水処理が塩生植物キヌア塩嚢内イオン組成に及ぼす影響,日本土壌肥料学会講演要旨予稿集,第64集,2018年08月29日,セッションID:P4-1-16
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 22/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キヌアの幼苗以降に育成する育成期において、海水原液を1日に数回灌水し育成することを特徴とするキヌアの栽培方法。
【請求項2】
前記キヌアの幼苗を鉢に定植し育成することを特徴とする請求項1に記載のキヌアの栽培方法。
【請求項3】
前記キヌアの幼苗を鉢に定植し、土壌で育成することを特徴とする請求項1に記載のキヌアの栽培方法。
【請求項4】
キヌアの幼苗以降に育成する育成期において、海水原液を1日に数回灌水し育成することで、草丈を低く抑えながら育成することを特徴とするキヌアの栽培方法。
【請求項5】
請求項1~のいずれかに記載の方法により栽培されたキヌアからキヌア種子を得ることを特徴とするキヌア種子の生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キヌアの栽培方法及びキヌア種子の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、世界各地で洪水災害が発生し、海水による農業への被害が深刻化している。
特許文献1には、植物体の根の少なくとも一部に耐塩性付与剤を接触させる耐塩性付与工程を有する植物体の製造方法が開示されている。
特許文献2、3には、植物の耐塩性を高める方法として、遺伝子組換え技術を用いて、塩耐性機構に関与する遺伝子を導入する方法が開示されている。
【0003】
キヌアは、ヒユ科アカザ属の植物であり、その種子が食料となり、栄養価に優れることで近年世界的に注目されている。
特許文献4に、植物体のPERK13の機能を阻害することで植物体の耐塩性を向上する方法が開示されているが、この植物のひとつとしてキヌアが挙げられている。
本発明者らは、このような耐塩性向上を図らずとも海水を用いて既存のキヌア品種を栽培可能で、安定してキヌア種子を生産可能な方法を見出した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-162141号公報
【文献】国際公開第2006/053246号
【文献】国際公開第2006/079045号
【文献】特開2018-186834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、安定的にキヌアの栽培、キヌア種子の収穫が可能な、キヌアの栽培方法及びキヌア種子の生産方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るキヌアの栽培方法は、海水を用いてキヌアを育成することを特徴とする。
本発明において、前記海水は原液又は5倍以下の希釈液であることが好ましい。
ここで、原液又は5倍以下の希釈液とは、海水を希釈しない原液のほかに、海水を2倍、3倍等に希釈した海水希釈液であってもよく、その希釈率が5倍以下であることをいう。
本発明者らは、海水を用いてキヌアを育成することによって、倒伏しやすく、茎枝がもろくて折れやすいキヌアの栽培が容易になり、海水濃度が高いほどキヌアの草丈が低くなることを見出した。
キヌアは、その草丈が低くなることで、風などの影響を受けにくくなる。
また、海水の塩分により病害虫防除が可能で、農薬の使用抑制も可能である。
本発明において、前記海水を1日に数回灌水し、前記キヌアを土壌で育成することが好ましい。
本発明は、原液の海水を希釈せずに灌水することが可能で、水耕栽培のように専用施設や電気の使用を必須とせず、その栽培が容易である。
キヌアの栽培が容易であれば、緑化にも貢献しやすい。
本発明に係るキヌア種子の生産方法は、上記記載の栽培方法により栽培されたキヌアからキヌア種子を得ることを特徴とする。
このように収穫されたキヌア種子は、高タンパク質で、水道水を用いて栽培されたキヌア種子よりもさらに栄養価に優れる。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、将来危惧される深刻な水不足に対しても有効なキヌアの栽培方法であり、栄養価に優れるキヌア種子を安定的に収穫可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】各キヌア品種を各灌水液で育成した際の、草丈高さを示す。
図2】水道水で育成した場合を基準とし、基準に対する草丈高さの割合を示す。
図3】各キヌア品種を各灌水液で育成した際の、1株あたりの収穫量を示す。
図4】各キヌア品種を各灌水液で育成した際の、千粒重量を示す。
図5】収穫した種子のうち、A株について成分分析した結果を示す。
図6】分析方法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係るキヌアの栽培方法及びキヌア種子の生産方法について、以下の実施例を用いて説明するが、本発明は本実施例に限定されるわけではない。
本実施例は、出芽させたキヌアの幼苗を鉢内に定植し、温度等を調整可能なハウス内で灌水液を1日に数回灌水して土壌育成した例であるが、露地での地植えによる育成であってもよく、雨水等により海水の濃度が希釈されることを許容するものである。
また、灌水はスプリンクラーを用いた方法や、点滴灌漑等であってもよい。
【0010】
本実施例のハウス栽培において、ハウスは上部に遮光カーテンと側部に側窓を備える。
遮光カーテンは熱線反射型で、32℃以上では閉じたが、草丈が伸びることでキヌアが接触する場合には常時開いておいた。
側窓は、7時~19時においては22℃以上で開口し、19時~7時においては20℃以上で開口した。
ハウス栽培する場合には、遮光カーテンは27℃以上で閉じ、25℃以下では開度が100%であることが好ましく、側窓は季節ごとに開口する温度や開度割合を調整することが好ましい。
露地栽培の場合には、播種時期で調整することが好ましい。
例えば、北陸地方の場合には、2~3月頃に播種して梅雨前に収穫し、さらに9月頃に播種して11月頃に収穫するのがより好ましいが、これに限定されるわけではない。
【0011】
本実施例においては、キヌア品種として、Sea-levelタイプから2株(本明細書においては以下、A株、B株という)と、複数のタイプが混合したミックスから2株(以下、C株、D株という)を選択した。
ここで、タイプとは、Altiplanoタイプ、Valleyタイプ、Salarタイプ、Sea-levelタイプの4種類をいい、ミックスとは、上記4種類のうち複数のタイプが混ざっていることをいう。
なお、Altiplanoタイプは主にボリビア・ペルーの国境付近の海抜4,000m地帯で、Valleyタイプは主にペルー中部丘陵地で、Salarタイプは主にボリビア中部のウユニ塩湖付近の塩分を多く含む土壌で栽培され、Sea-levelタイプは主にチリ中南部の低地で栽培されている。
【0012】
本実施例においては、セルトレイで発芽させた上記キヌア品種の幼苗を、主な原料が赤玉土、微粒、バーク堆肥、鹿沼土(小、中)、軽石砂、小粒、ココピート、ピートモス、化成肥料、有機肥料である培養土(培養土14L、株式会社コメリ製)を入れた10号鉢内に植え付け、育成した。
発芽条件は、1日に12~16時間LED(Light Emitting Diode)照明を照射し、給水には水道水を用いた。
また、幼苗とは、出芽後から10日程度の植物体をいう。
育成期間中は、灌水液として海水原液、海水2倍希釈液、海水3倍希釈液及び比較例である水道水のいずれかを選択し、1日に3回灌水した。
海水原液は電気伝導度を45,000μS/cmに、海水2倍希釈液は電気伝導度を22,500μS/cmに、海水3倍希釈液は電気伝導度を15,000μS/cmに調整したものである。
なお、本実施例においては人工海水の素を使用し、上記のように海水の電気伝導度を調整したが、上記調整は必須ではない。
本実施例においては、鉢を静置したプール容器に深さ5~8cm程度となるように上記灌水液を給水し、約30分後に灌水液を排水することで、1回の灌水とした。
具体的には、毎日6時、10時、17時から自動灌水したが、灌水方法や灌水回数、灌水の時間帯に限定はない。
育成期間は、鉢内に幼苗を植え付けた日を育成1日目とし、種子が脱粒する前とした。
本実施例においては、育成期間は2020年8月24日から2020年11月17日である。
種子の収穫は、植物体の根元を切断後に乾燥し、手で脱穀した。
【0013】
図1に、本実施例により育成した植物体の草丈高さを示す。
ここで、草丈高さとは、種子収穫直前(具体的には育成約85日目)の植物体に対して、その土壌表面から頂上点までの長さを、巻き尺を用いて測定したものをいう。
図2には、水道水で育成した場合を基準として、基準に対する草丈高さの割合を示す。
図1、2に示すように、各キヌア品種に対し、それぞれ海水原液を灌水した場合に最も草丈が短く、海水の希釈倍率が上昇すると基準に近づくことが明らかとなった。
この結果から、高濃度の海水で育成したキヌアの草丈は低くなるため、例えば露地栽培した際に風などの影響を受けづらく、安定した収穫が可能と推定される。
【0014】
図3に、本実施例により育成した植物体1株あたりから収穫可能であった種子の収穫量を示す。
収穫量については、品種や灌水液による差が認められた。
B株の場合は、海水が高濃度であるほど収穫量は減少したが、A株、C株及びD株の場合には、海水3倍希釈液で育成した場合に最も収穫量が増大した。
なお、本結果はハウス栽培によるものであり、露地栽培した際には風等の影響を受けるため、水道水で育成した植物体からの種子収穫量は減少するものと推定される。
図4に、本実施例の方法により収穫した種子の千粒重量を示す。
こちらについても、品種や灌水液による差が認められた。
B株及びD株の場合には、海水2倍希釈液で育成した場合に最も千粒重量が増大した。
なお、海水原液で育成すると、A株の場合は種子が小さく薄かったが、C株及びD株の場合には種子が大きかった。
【0015】
図5に、収穫した種子のうち、A株についての成分分析結果を示す。
分析方法は、図6に示すとおりである。
図5に示すように、水道水で育成した場合に比べて、海水原液や海水2倍希釈液で育成した場合には、種子中のタンパク質含有量が高く、海水が高濃度であるほど食塩相当量やナトリウム含有量が高かった。
また、海水原液で育成した場合には、水道水で育成した種子に比べてカリウム含有量が大幅に低かった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6