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特許7508122センサ素子の製造方法、センサ素子、センサ素子保持体及び蛍光式センサシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】センサ素子の製造方法、センサ素子、センサ素子保持体及び蛍光式センサシステム
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/78 20060101AFI20240624BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20240624BHJP
   G01N 21/80 20060101ALI20240624BHJP
   G01N 21/77 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
G01N21/78 C
G01N21/64 C
G01N21/80
G01N21/77 B
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021536887
(86)(22)【出願日】2020-07-10
(86)【国際出願番号】 JP2020027002
(87)【国際公開番号】W WO2021020072
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2023-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2019138554
(32)【優先日】2019-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591101490
【氏名又は名称】エイブル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100101890
【弁理士】
【氏名又は名称】押野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100098268
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 豊
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(74)【代理人】
【識別番号】100166420
【弁理士】
【氏名又は名称】福川 晋矢
(74)【代理人】
【識別番号】100150865
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 司
(72)【発明者】
【氏名】石川 周太郎
(72)【発明者】
【氏名】祝迫 優
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-116240(JP,A)
【文献】米国特許第04568518(US,A)
【文献】特開昭60-260446(JP,A)
【文献】特開2015-159066(JP,A)
【文献】特表2002-501193(JP,A)
【文献】特開2019-020246(JP,A)
【文献】特表2012-523549(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0214951(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-G01N 21/83
G01N 31/00-G01N 31/22
G09F 3/00-G09F 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の励起光を受光して測定対象物の所望の成分の濃度に対応した蛍光を発するセンサ素子の製造方法であって、
光透過性のガラス維によって構成されたガラス繊維シートを用意する工程と、
前記ガラス繊維シートに、蛍光物質が分散した溶液を付与する工程と、
前記蛍光物質を前記ガラス繊維シートに固定化する工程と、
を含むセンサ素子の製造方法。
【請求項2】
前記蛍光物質を固定化する工程の前に、前記ガラス繊維シートから前記溶液の余剰分を除去する処理を行うことで、前記ガラス繊維シートの表面の凹凸に対応して変動する膜厚を有し、当該変動した膜厚が分散している膜を形成する工程を含む、請求項1に記載のセンサ素子の製造方法。
【請求項3】
前記ガラス繊維シートに前記溶液を付与する工程の前に、前記ガラス繊維シートにヒートクリーニング処理を行う、請求項1又は2に記載のセンサ素子の製造方法。
【請求項4】
前記蛍光物質を前記ガラス繊維シートに固定化した後に、前記ガラス繊維シートの一方の面に光透過性のコーティング膜を形成する工程をさらに含む、請求項1から3の何れかに記載のセンサ素子の製造方法。
【請求項5】
前記ガラス繊維シートは、前記ガラス維の織物である、請求項1から4の何れかに記載のセンサ素子の製造方法。
【請求項6】
所定の励起光を受光して測定対象物の所望の成分の濃度に対応した蛍光を発するセンサ素子であって、
光透過性のガラス維によって構成されたガラス繊維シートと、
前記ガラス繊維シートに固定化された蛍光物質と、
を有するセンサ素子。
【請求項7】
前記ガラス繊維シートにおける前記測定対象物と接触する面とは反対の面を覆う、光透過性のコーティング膜をさらに有する、請求項に記載のセンサ素子。
【請求項8】
前記蛍光物質は、所定の励起光を受光して、前記測定対象物中の酸素、二酸化炭素、又は、水素イオンのいずれかの濃度に対応した蛍光を発光する物質である、請求項又はに記載のセンサ素子。
【請求項9】
請求項からのいずれかに記載のセンサ素子と、
前記センサ素子が取り付けられる光透過性の基材と、
を含むセンサ素子保持体。
【請求項10】
前記センサ素子の周縁部を覆う被覆部をさらに有する、請求項に記載のセンサ素子保持体。
【請求項11】
前記基材が、内部に液体を収納する容器を構成している、請求項又は10に記載のセンサ素子保持体。
【請求項12】
請求項から11のいずれかに記載のセンサ素子保持体と、
前記基材を通して、前記センサ素子に励起光を照射する照射部と、
前記励起光を受けて発生した蛍光を、前記基材を通して受光する受光部と、
を含む蛍光式センサシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサ素子の製造方法、センサ素子、センサ素子保持体及び蛍光式センサシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
物質に光を照射すると、光の吸収と発光が生じる。この発光現象の1つに蛍光があり、蛍光は物質の特性に応じて異なる。これを利用して目的物質の有無や濃度を検知する蛍光式センサが用いられている。
当該蛍光式センサに関する従来技術が特許文献1によって開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-20246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
蛍光式のセンサは、一般的に蛍光物質が含まれている蛍光層が光透過性の基材(平滑なシート状又は板状の部材)上に形成された構成を有する。蛍光層を測定対象に接触させつつ蛍光層に励起光を照射することを考えると、蛍光層が測定対象と接触している面とは反対側から励起光を照射するのが効率的であり、そのために、光透過性の基材上に蛍光層を形成しているものである。
光透過性の基材上に形成する蛍光層は、所定の厚さで均一に形成することが良いとされている。上記のごとく測定対象との接触面の裏面側から励起光を照射するものであるため、蛍光層が厚すぎると測定対象との接触面に十分な励起光を照射することができない。また、必要な蛍光を得るためには、ある程度の厚さの蛍光層が必要である。これらにより、蛍光層の厚さは、所定の範囲内の厚さ(数μ~数十μm)で形成する必要があり、均一な厚さで形成されることが望まれているものである。
このように、所定の範囲内の厚さ(数μ~数十μm)で均一な膜厚の蛍光層を、容易且つ低コストで行うことは困難であった。
【0005】
本発明は、上記の点に鑑み、蛍光式のセンサにおいて、光透過性の基材に蛍光物質を担持させる構成として、従来にはない構成を提供し、また、これによる新たなセンサ素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(構成1)
所定の励起光を受光して測定対象物の所望の成分の濃度に対応した蛍光を発するセンサ素子の製造方法であって、光透過性の繊維状材料によって構成された繊維シートを用意する工程と、前記繊維シートに、蛍光物質が分散した溶液を付与する工程と、前記蛍光物質を前記繊維シートに固定化する工程と、を含むセンサ素子の製造方法。
【0007】
(構成2)
前記蛍光物質を固定化する工程の前に、前記繊維シートから前記溶液の余剰分を除去する処理を行う、構成1に記載のセンサ素子の製造方法。
【0008】
(構成3)
前記繊維シートに前記溶液を付与する工程の前に、前記繊維シートにヒートクリーニング処理を行う、構成1又は2に記載のセンサ素子の製造方法。
【0009】
(構成4)
前記蛍光物質を前記繊維シートに固定化した後に、前記繊維シートの一方の面に光透過性のコーティング膜を形成する工程をさらに含む、構成1から3の何れかに記載のセンサ素子の製造方法。
【0010】
(構成5)
前記繊維シートは、前記繊維状材料の織物である、構成1から4の何れかに記載のセンサ素子の製造方法。
【0011】
(構成6)
前記繊維シートは、ガラス繊維シートである、構成1から5の何れかに記載のセンサ素子の製造方法。
【0012】
(構成7)
所定の励起光を受光して測定対象物の所望の成分の濃度に対応した蛍光を発するセンサ素子であって、光透過性の繊維状材料によって構成された繊維シートと、前記繊維シートに担持された蛍光物質と、を有するセンサ素子。
【0013】
(構成8)
前記繊維シートにおける前記測定対象物と接触する面とは反対の面を覆う、光透過性のコーティング膜をさらに有する、構成7に記載のセンサ素子。
【0014】
(構成9)
前記蛍光物質は、所定の励起光を受光して、前記測定対象物中の酸素、二酸化炭素、又は、水素イオンのいずれかの濃度に対応した蛍光を発光する物質である、構成7又は8に記載のセンサ素子。
【0015】
(構成10)
構成7から9のいずれかに記載のセンサ素子と、前記センサ素子が取り付けられる光透過性の基材と、を含むセンサ素子保持体。
【0016】
(構成11)
前記センサ素子の周縁部を覆う被覆部をさらに有する、構成10に記載のセンサ素子保持体。
【0017】
(構成12)
前記基材が、内部に液体を収納する容器を構成している、構成10又は11に記載のセンサ素子保持体。
【0018】
(構成13)
構成10から12のいずれかに記載のセンサ素子保持体と、前記基材を通して、前記センサ素子に励起光を照射する照射部と、前記励起光を受けて発生した蛍光を、前記透明基板を通して受光する受光部と、を含む蛍光式センサシステム。
【発明の効果】
【0019】
本発明のセンサ素子の製造方法によれば、光透過性の繊維状材料によって構成された繊維シートに蛍光物質が担持されるという従来にはない構成により、その製造を容易且つ低コストで行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係る実施形態のセンサ素子保持体を示す概略図
図2】実施形態1のセンサ素子保持体の製造工程の概略を示すフローチャート
図3】実施形態1のセンサ素子保持体の製造工程の一部を説明する図
図4】実施形態1のセンサ素子を使用した蛍光式センサシステムの構成の概略を示すブロック図
図5】実施形態2のセンサ素子保持体の製造工程の概略を示すフローチャート
図6】実施形態2のセンサ素子保持体の製造工程の一部を説明する図
図7】実施形態2のセンサ素子保持体を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を具体化する際の一形態であって、本発明をその範囲内に限定するものではない。
【0022】
<実施形態1>
図1は、本発明に係る実施形態1のセンサ素子保持体を示す概略断面図である。
センサ素子保持体1は、光透過性の繊維状材料によって構成された繊維シートに蛍光物質が担持されているセンサ素子11が、センサプレート15に接着材14によって固定されたものであり、センサ素子の周縁部を覆う被覆部13、センサ素子の測定対象物と接触する面(以下「反応面」という)を覆うメンブレン16を備えている。
センサ素子11の、反応面の反対側(以下、「裏面側」という)の面には、レジンコート膜12が形成されている。レジンコート膜12、接着材14及びセンサプレート15の何れもが光透過性(少なくとも励起光及び蛍光に対する透過性を有するもの)である。
【0023】
本実施形態におけるセンサ素子11は、ガラス繊維の織物であるガラス繊維シート(厚さ0.2mm)に、蛍光物質が担持されたものである。なお、本発明に適用可能なガラス繊維シートとしては、光の透過性や柔軟性などを考慮して、例えば0.3mm以下、好ましくは0.25mm以下のものを利用することができる。また、強度面を考慮して、0.01mm以上、好ましくは0.05mm以上のものを利用することができる。すなわち、本発明では、ガラス繊維シートを目的に応じて選択することが可能であるが、例えば、厚みが0.05mm以上0.25mm以下のものから選定することができる。0.1mm以上0.20mm以下の範囲であることがより好ましい。
なお、蛍光物質は、所定の励起光を受光して、測定対象物中の所望の成分(酸素、二酸化炭素、又は、水素イオン等)の濃度に対応した蛍光を発光する物質等であればよい。これにより、センサ素子11は、「所定の励起光を受光して測定対象物の所望の成分の濃度に対応した蛍光を発するセンサ素子」である。蛍光物質としては、白金ポリフェリンやHPTSなどを例示することができる。
センサ素子11の裏面側に形成されるレジンコート膜12は、光透過性のコーティング膜であり、センサ素子11の強度を向上するものである。なお、レジンコート膜12は、細胞培養などの目的に応じた種類の材料で構成されていることが好ましい。また、レジンコート膜12は、ガラス繊維シートの厚みよりも薄くなるように構成することが好ましいがこれに限られるものではない。
【0024】
センサプレート15は、センサ素子11を保持する光透過性の基材であり、本実施形態のセンサプレート15はポリカーボネートの板材で形成されたものである。なお、センサ素子保持体1は、板状のセンサプレート15を容器などに貼り付けて利用することも可能であり、センサプレート15そのものを容器として(容器の底面や側面として)利用することも可能である。
被覆部13は、センサ素子11の周縁部を覆うことによって、繊維シートであるセンサ素子11が周縁部からほつれることを防止するものである。本実施形態では、ポリカーボネートで形成されたワッシャー(以下「ポリワッシャー」という)によって構成される。ポリワッシャーはセンサ素子11の周縁部に嵌る額縁状の部材であり、図1に示されるように、センサ素子11の反応面側ではセンサ素子より小さい内周を有する内側フランジ部131を有し、裏面側ではセンサ素子より大きい外周を有する外側フランジ部133を有する。また、内側フランジ部131と外側フランジ部133をつなぐ側面部132を有している。
【0025】
図2は、センサ素子保持体1の製造工程の概略を示すフローチャートである。図2を参照しつつ、センサ素子保持体1の製造方法について説明する。
先ず、ガラス繊維シート(光透過性の繊維状材料によって構成された繊維シート)を用意し、これを所定のサイズにカットする(ステップ201)。
次に、このガラス繊維シートに対するヒートクリーニング処理を行う(ステップ202)。当該処理は、ガラス繊維シートを加熱することによって、ガラス繊維シートから付着物を除去するものである。付着物としてはゴミ等の異物の他、ガラス繊維シートの製造に使用されているバインダーがある。これらの付着物を除去することによって、ガラス繊維シートに対する蛍光層(蛍光物質が含まれている層)の密着性を向上するものである。これにより、蛍光層がはがれることが低減され、センサ素子としての耐久性が向上するものである。また、付着物を除去することによって、光透過性を向上し、センサ素子としての精度を向上するものである。
【0026】
次に、ヒートクリーニングしたガラス繊維シートに、蛍光物質が分散した溶液(以下「蛍光溶液」という)を滴下、塗布する(ステップ203)。ガラス繊維シートをプレート上に載置し、ガラス繊維シートを浸漬する程度の蛍光溶液を滴下するとよい。このような塗布方法とすることにより、蛍光溶液を極めて効率的に使用することができる。
蛍光溶液の滴下後、ガラス繊維シートに付着した余剰な蛍光溶液を除去する(ステップ204)。余剰な蛍光溶液を除去する方法としては、遠心力や空気によって吹き飛ばして除去する方法や、スキージを利用してかき取る方法や、ウエスを利用して拭い取る方法などを例示することができる。なお、本工程では、適切なプロセスを設定することで、ガラス繊維シートに、必要十分な量の蛍光溶液を保持させることが可能になる。例えば、余剰な蛍光溶液を吹き飛ばす場合には、遠心力や風力及び処理時間の調整により、かき取る場合にはスキージの選定により、拭い取る方法ではウエスの選定や押し当てる時間を管理することにより、プロセスの終了条件を適切に設定することができる。本工程は、ガラス繊維シートに保持された蛍光溶液が、他の部材(例えばウエスや載置テーブル、保持部材)に付着しなくなるまで行うことができる。
余剰蛍光溶液を除去したら、焼結処理によって蛍光層をガラス繊維シートに固定化させる(ステップ205)。焼結処理の条件(焼結温度や時間)は、蛍光溶液の種類やガラス繊維シートにあわせて適宜設定することができ、具体的な条件は実験的に求めることができる。なお、本工程は、後述する、シート材Sからセンサ素子を切り出す工程の後に(ガラス繊維シートを個別のセンサ素子状に打ち抜いた後に)行うことも可能である。
【0027】
ここまでの処理によって、センサ素子11(正確には、カットしてセンサ素子11を形成するためのシート材)が形成される。
センサ素子11は、繊維シートに基づいて制作されるものである。繊維シートはその表面積が大きく、また、表面に微細な凹凸を有し空隙なども有している。また、局所的に凹若しくは凸だけが集まることはほぼ無いといえ、凹と凸が平均的に分散した形状を有している。当該凹凸は、繊維シートを構成する繊維の太さやその密度、構成方法(織物や不織布)等によって定まるものであるが、本実施形態で使用しているガラス繊維シートの表面の凹凸(凹凸の高低差)は、概ね数μ~数十μm程度と評価できるものである。
このような繊維シートの表面に塗布され、余剰を除去された蛍光溶液は、上記の凹凸形状に対応した膜として形成される。即ち、数μ~数十μm程度で膜厚が変動し、且つ、当該変動が平均的に分散している膜となり、これを固定化することで形成される蛍光層も、同様の構成を有する層となる。
これをマクロ的にみると、数μ~数十μmの膜厚の複数の蛍光層が形成されているとみなすことができる。例えば、20μmに着目した場合、センサ素子11には、20μmの膜厚の蛍光体が分散して形成されており、これら分散している蛍光体全体で“20μmの蛍光層”として機能し得るものである。
ここまでの説明で明らかなように、センサ素子11は、繊維シートに蛍光物質を担持させる構成とすることにより、上記のような非常に容易且つ低コストな製造方法によって、所望の膜厚を有する(とみなせる)蛍光層を、光透過性の基材に形成することができるものである。
また、繊維シートは、表面に微細な凹凸や空隙なども有しているため、蛍光層の密着性が高くなるという面でも優れている。
【0028】
ステップ205の焼結処理に続くステップ206では、センサ素子11の一方の面にレジンコーティングを行い、レジンコート膜が形成されたシート材をカットすることで、レジンコート膜12を有するセンサ素子11が形成される(ステップ207)。
【0029】
図3(a)は、レジンコーティング処理の説明図である。
レジンコーティングは、剥離基材(例えばフィルムF)上にレジン液Rを塗布し、この上にステップ201~205の工程によって得られたシート材Sを載置する。次に、レジン液Rを硬化させる処理を行ってから、フィルムFからレジンコート膜が形成されたシート材Sを剥がす。剥離基材は、硬化したレジン液Rが剥離しやすい材料を選択することが好ましい。剥離基材の材料としては、例えばシリコン樹脂やフッ素樹脂(PTFEやFEP、PFA、ETFEなど)を利用することができる。剥離基材は、また、フィルム状のものであってもよく、基板状のものであってもよい。レジン液Rは、シート材Sに付着しやすく、かつ、剥離基材(フィルムF)から剥離しやすい性質のものを選定することが好ましい。なお、レジン液Rを硬化させる手段は、選定したレジン液Rに適したいずれかの方法(例えばUV照射による硬化や熱硬化、二液混合による硬化や、湿気による硬化など)を適用することができる。
図3(b)は、レジンコート膜が形成されたシート材Sからセンサ素子11を切り出す工程を示す説明図である。本実施形態では、シート材Sの主材は0.2mmのガラス繊維シートであり、ポンチ打ち等によって簡単に切り出すことができる。
【0030】
センサ素子11の切り出し後、センサ素子11をセンサプレート15に接着材14で接着し(ステップ208)、メンブレン16をかぶせた上から被覆部13となるポリワッシャーを嵌めて、ポリワッシャーをセンサプレート15に溶着する(ステップ209)。
ポリワッシャーのセンサプレート15への溶着は、図3(c)に示されるように、数ヶ所スポット溶着をした上で、外周を全体的に円溶着する。
なお、メンブレン16は、センサ素子11の反応面を覆うことによって、反応面への異物(ゴミ等)の付着防止と、外乱の影響を抑止(“暗幕”として機能)するものであるが、必ずしも必須のものではない。メンブレン16は、測定対象物(例えば培養液)を透過させるものである必要があり、測定対象物の透過量を最適化する構成(ポアサイズやメッシュサイズ等)を有するものを適宜選択するとよい。メンブレン16の材料は、高圧蒸気滅菌、EOGガス滅菌、γ線滅菌に対応していることが望ましく、例えば、PVDFを例示することができる。
【0031】
図4は、センサ素子保持体1を使用した蛍光式センサシステム100の構成の概略を示すブロック図である。
蛍光式センサシステム100は、センサ素子保持体1の裏面側から励起光を照射する照射部2と、励起光を受けて発生した蛍光を受光する受光部3と、照射部2の発光制御を行う発光ドライバ4と、受光部3からの信号をA/D変換するA/D変換部5と、各部の制御及び測定対象物中の所望の成分の濃度の算出などの演算処理を行う制御・演算部6と、検知結果を表示する表示装置若しくは検知結果を外部装置へ送信する送信部である出力部7と、を備える。
なお、蛍光式センサシステム100は、測定対象物に適した構成が選択される。センサ素子11が、測定対象成分の濃度に応じて蛍光の消失時間が変化するものである場合、蛍光式センサシステム100は、蛍光の消失時間を測定し、その値から測定対象成分の濃度を算出するシステムとすることができる。センサ素子11が、対象成分の濃度に応じて蛍光の性質(強度や光量、位相差、周波数など)が変化するものである場合、蛍光式センサシステム100は、蛍光の性質を測定し、その値から測定対象成分の濃度を演算するシステムとすることができる。例えば照射部2は、単波長の励起光を照射するように構成することも、波長の異なる複数の励起光を照射するように構成することも可能である。
【0032】
図4に示す蛍光式センサシステム100は、測定対象物(例えば培養液)のpH(水素イオン濃度)を計測する構成のシステムとして例示している。照射部2は、405nmの光を発する発光素子21と、460nmの光を発する発光素子22を有しており、受光部3はブロードな受光感度(405nm及び460nmの受光感度)を有する受光素子からなる。
制御・演算部6及び発光ドライバ4によって、発光素子21と発光素子22を交互に発光させ、これによってセンサ素子11から得られる蛍光を、受光部3で受光する。センサ素子11が有する蛍光物質は、水素イオン濃度に応じて、405nmの光と460nmの光に対する蛍光の強度比が変化するため、405nmの光と460nmの光に対する蛍光をそれぞれ受光し、その比に基づいてpH値を算出する処理を、制御・演算部6で行うものである。
【0033】
以上のごとく、本実施形態のセンサ素子11及びその製造方法によれば、非常に容易且つ低コストに、所望の膜厚を有する(とみなせる)蛍光層を、光透過性の基材に形成することができる。
また、センサ素子11にレジンコート膜12を形成しているため、センサ素子11の強度が向上される。センサ素子11に歪み等が生じると表面の蛍光層が剥がれやすくなる場合があるが、強度の向上によりこれが抑止され、センサ素子としての耐久性が向上される。
また、センサ素子11の周縁部が被覆部13によって覆われていることによって、繊維シートであるセンサ素子11が周縁部からほつれることが防止されるため、センサ素子としての耐久性に優れる。
【0034】
なお、本実施形態では、pHセンサとしての説明を行ったが、本発明をこれに限るものではなく、上述したごとく、蛍光物質として、酸素、二酸化炭素等の濃度に対応した蛍光を発光する物質等を用いれば、それぞれに対応したセンサとすることができる。
【0035】
<実施形態2>
図5は実施形態2のセンサ素子保持体の製造工程の概略を示すフローチャートであり、図6は実施形態2のセンサ素子保持体の製造工程の一部を説明する図、図7は実施形態2のセンサ素子保持体の構造を示す概略断面図である。
なお、実施形態1と同様の構成については実施形態1と同様の符号を使用し、ここでの説明を省略若しくは簡略化する。
【0036】
図5を参照しつつ、本実施形態のセンサ素子保持体1´の製造方法について説明する。
ステップ201~204は、実施形態1と同様である。これらのステップにて使用されるガラス繊維シートや蛍光物質(溶液)等についても実施形態1と同様である。
【0037】
続くステップ501では、センサ素子11´の切り出しを行う。蛍光溶液が塗布されたガラス繊維シートを、個別のセンサ素子状(本実施形態では円形状)に打ち抜くものである。続いて、当該切り出したセンサ素子11´に対する焼結処理を行う(ステップ205)。当該焼結処理自体は、実施形態1と同様である。
次に、センサ素子11´の一方の面にレジンコーティングを行い、レジンコーティングに用いた基材ごとセンサ素子11´を打ち抜く(ステップ502、503)。
図6(c)は、レジンコーティング処理の説明図である。
本実施形態におけるレジンコーティングは、基材BM上にレジン液Rを塗布し、この上にステップ201~205の工程によって得られたセンサ素子11´を載置する。切り出したセンサ素子11´をレジン液Rに載置する際に、センサ素子11´の一方の面(底面)及び側面がレジン液Rに浸るようにし、センサ素子11´の他方の面(上面)はレジン液Rが付着しないようする。なお、基材BMは、励起光及び蛍光に対する光透過性を有するものであればよく、ここではポリカーボネートの板を用いている。
次に、レジン液Rを硬化させる処理を行ってから、基材BMごとセンサ素子11´を打ち抜くことで、レジンコート膜12´及び基材17を有するセンサ素子11´を得る(図6(d))。基材BMごとセンサ素子11´を打ち抜く際には、センサ素子11´よりも大きな外径の円形にて打ち抜く。
図6(d)の右側には、ステップ503までの工程で得られたセンサ素子11´の平面図及び断面図を示した。上記の工程により、本実施形態のセンサ素子11´には、その一方の面及び側面にレジンコート膜12´が形成され、さらに基材17を有する構成となる。センサ素子11´の側面も覆うレジンコート膜12´は、“センサ素子の周縁部を覆う被覆部”として機能する。
【0038】
最後に、レジンコート膜12´及び基材17を有するセンサ素子11´を、センサプレート15に接着することで(ステップ208)、本実施形態のセンサ素子保持体1´が得られる。センサプレート15への接着は、本実施形態では両面テープ14´によって行われる。両面テープ14´は、励起光及び蛍光に対する光透過性を有するものであればよい。
【0039】
図7はセンサ素子保持体1´の構造を示す概略断面図である。
本実施形態の素子保持体1´は、実施形態1と同様に、繊維シートに蛍光物質が担持された構成を有するセンサ素子11´により、実施形態1と同様の作用効果を奏する。
また、センサ素子11の周縁部が被覆部(レジンコート膜12´)によって覆われていることによって、繊維シートであるセンサ素子11が周縁部からほつれることが防止されるため、センサ素子としての耐久性に優れる。上記説明した製造方法によって、センサ素子11´の一面に形成するコーティング膜と同時に、センサ素子11´の周縁部を覆う被覆部を同時に形成することができるため、製造コストを低減することができる。
また、センサ素子11´が基材17に固定された構成となるため、センサ素子の強度が向上される。センサ素子に歪み等が生じると表面の蛍光層が剥がれやすくなる場合があるが、強度の向上によりこれが抑止され、センサ素子としての耐久性が向上される。
【0040】
各実施形態では、繊維シートとして、ガラス繊維の織物であるガラス繊維シートを例としたが、本発明をこれに限るものではない。繊維状材料としては、励起光及び蛍光に対する光透過性を有するものであればよく、例えばポリカーボネート等の樹脂繊維等であってもよい。また、繊維シートの構成方法としても、織物に限るものではなく、不織布等であってもよい。
【0041】
各実施形態では、センサプレート(光透過性の基材)に、センサ素子を取り付けるものを例としているが、内部に液体を収納する容器の内面にセンサ素子を取り付けるもの(容器が光透過性の基材を構成するもの)であってもよい。
例えば、使い捨てのプラスチック容器(可撓性のバッグや硬質の容器)として形成される培養槽の内面にセンサ素子を取り付けたものとすることができる。センサ素子11やセンサ素子11´は安価に製造することができ、ディスポーザルな培養装置と一体的なものとして製造することができるため、非常に好適である。
【0042】
各実施形態では、繊維シートへの蛍光溶液の塗布方法として、プレート上に載置した繊維シートに蛍光溶液を滴下するものを例としているが、本発明をこれに限るものではなく、繊維シートへの蛍光溶液の付与若しくは塗布方法は任意のものであってよい。
【符号の説明】
【0043】
1...センサ素子保持体
11...センサ素子
12...レジンコート膜(光透過性のコーティング膜)
13...被覆部
14...接着材
15...センサプレート(光透過性の基材)
2...照射部
3...受光部
100...蛍光式センサシステム
図1
図2
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図5
図6
図7