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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】燃料電池用電極触媒、及び燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20240624BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20240624BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20240624BHJP
   H01M 4/96 20060101ALI20240624BHJP
   H01M 8/02 20160101ALI20240624BHJP
   H01M 8/14 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
H01M4/86 B
H01M4/86 M
H01M4/90 M
H01M4/90 X
H01M4/90 Z
H01M4/92
H01M4/96 B
H01M4/96 M
H01M8/02
H01M8/14
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022541592
(86)(22)【出願日】2021-08-04
(86)【国際出願番号】 JP2021028967
(87)【国際公開番号】W WO2022030552
(87)【国際公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-01-13
(31)【優先権主張番号】P 2020133350
(32)【優先日】2020-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】金村 聖志
(72)【発明者】
【氏名】棟方 裕一
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-131098(JP,A)
【文献】特表2017-514269(JP,A)
【文献】特開昭60-220563(JP,A)
【文献】特開2011-238496(JP,A)
【文献】特表平11-503262(JP,A)
【文献】特開2014-188496(JP,A)
【文献】国際公開第2014/087894(WO,A1)
【文献】特開2007-059235(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86
H01M 4/96
H01M 4/90
H01M 4/92
H01M 8/02
H01M 8/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素ドープされたグラフェンと、前記窒素ドープされたグラフェン上に担持された金属および金属化合物の少なくとも一方と、を具備し、
100℃以上の温度で動作する燃料電池用である、燃料電池用電極触媒。
【請求項2】
前記窒素ドープされたグラフェンの窒素のドープ量が前記窒素ドープされたグラフェンの表面の炭素に対して原子比で4atom%以上である、請求項に記載の燃料電池用電極触媒。
【請求項3】
前記金属および金属化合物の少なくとも一方の担持量が、1質量%~40質量%である、請求項1又は2に記載の燃料電池用電極触媒。
【請求項4】
前記金属が、白金、パラジウム及び鉄からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~のいずれか1項に記載の燃料電池用電極触媒。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載の燃料電池用電極触媒を備えた100℃以上で動作する、燃料電池。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載の燃料電池用電極触媒を備え、CO濃度が10ppm以上の燃料ガスを許容可能に構成される、燃料電池。
【請求項7】
電解質としてイオン液体を備える、請求項5又は6に記載の燃料電池。
【請求項8】
前記イオン液体が、trifluromethanesulfonic acidとN,N-diethylmethylamineとの等モル混合物であるdema-TfOである、請求項に記載の燃料電池。
【請求項9】
前記電解質がさらにリン酸を含む、請求項7又は8に記載の燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用電極触媒及びそれを用いてなる燃料電池に関する。
本願は、2020年8月5日に、日本に出願された特願2020-133350号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来、家庭用や自動車用に用いられている燃料電池の作動温度は、室温から80℃程度に限定されている。燃料電池は、より高い温度で作動させることで発電効率が向上し、燃料ガス中のCO濃度の許容範囲も大きくなる。燃料電池用触媒としては、一般に、白金及び白金合金の微粒子が炭素粒子上に担持されたものが用いられている。このような燃料電池用触媒は、温度の上昇と共に劣化が早まり、触媒活性が大きく低下する。したがって、100℃以上の高温で作動する燃料電池は、未だ実用化されていない。燃料電池用触媒における温度の上昇に伴う共に触媒活性の低下は、酸素極と燃料極とに共通する課題である。前記課題は、白金及び白金合金の微粒子の溶解による劣化に起因するものである。溶解した白金類は、再度析出する。しかしながら、再度析出した白金及び白金合金の微粒子は、表面積が減少し、触媒活性が低下する。また、高温で作動させないとしても、規定の燃料電池性能を長期間維持するためには、電極触媒にある程度過剰の白金を用いる必要がある。このような過剰の白金が燃料電池の価格が高くなる要因となっている。また、酸素極については、上記炭素粒子自体が酸化され、電極としての特性が低下するという課題もある。
【0003】
そこで、このような課題を解消すべく、種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、白金を使用せずに良好な特性を有する燃料電池用カソード触媒を提供することが提案されている。具体的には、特許文献1には、ハードテンプレート法により作製される窒素ドープメソポーラスカーボンを、プロトン交換膜燃料電池などのカソード触媒として使用することが提案されている。
【0004】
また、特許文献2には、電荷キャリア移動度が非常に高いグラフェンとして、下記の工程(a)、工程(b)、工程(c)、工程(d)及び工程(e)を有する方法で得られるグラフェン膜が提案されている。工程(a)基板を準備する工程。工程(b)上記基板の表面上に金属層をエピタキシャル成長させる工程。工程(c)必要に応じて、エピタキシャル成長させた金属層上に金属を成長させることにより、工程(b)で得られた金属層の厚さを大きくする工程。工程(d)工程(b)又は必要に応じて実施した工程(c)で得られた金属層を上記基板から剥離する工程。工程(e)工程(d)で剥離されるまでは上記基板と接触していた工程(d)で得られた金属層の表面の少なくとも一部にグラフェンを積層する工程。
【0005】
また、特許文献3には、ピリジン型窒素をドープまたはピリジン型窒素含有分子を付着した炭素材料からなる酸素還元触媒が提案されている。この酸素還元触媒は、高い二酸化炭素吸蔵機能と酸素還元反応に対する高い触媒性能とを有し、白金を代替する。具体的には、この酸素還元触媒は、二酸化炭素吸蔵材料としての機能を有する。この酸素還元触媒は、炭素材料と、そのエッジ部にドープされたピリジン型窒素または炭素材料に吸着されたピリジン型窒素含有分子とを有し、ピリジン型窒素の含有率が、0.04at%以上10.00at%以下である。
【0006】
更に、特許文献4には、アノードと、カソードと、非貴金属触媒と、電解質とを含む、燃料電池が提案されている。非貴金属触媒は、カソードと接触している。電解質は、非貴金属触媒と接触しているプロトン性イオン液体を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】再表2014/087894号公報
【文献】特表2016-520032号公報
【文献】特開2017-127863号公報
【文献】特表2019-530139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
燃料電池では、より高い温度で安定に動作すること、エネルギー変換効率を向上すること、及び燃料ガスのCO濃度許容値を高めることが求められている。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、白金等の貴金属の使用量を低減しつつ、高い酸素還元活性、CO耐性及び酸化耐性を実現する燃料電池用電極触媒、及びそれを用いた燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解消すべく鋭意検討した結果、特定の導電性担体上に金属及び金属化合物の少なくとも一方を担持した場合に、100℃以上で燃料電池触媒反応を安定に行うことができることを知見し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の態様を有する。
[1]導電性担体と、前記導電性担体上に担持された金属および金属化合物の少なくとも一方と、を具備し、100℃以上の温度で動作する燃料電池用である、燃料電池用電極触媒。
[2]前記導電性担体が、グラフェン及び異種元素ドープグラフェンの少なくとも一方である、[1]に記載の燃料電池用電極触媒。
[3]前記異種元素ドープグラフェンが窒素ドープされており、窒素のドープ量が前記異種元素ドープグラフェンの表面の炭素に対して原子比で4atom%以上であり、好ましくは4atom%以上10atom%以下であり、より好ましくは6atom%以上10atom%以下である、[2]に記載の燃料電池用電極触媒。
[4]前記金属および金属化合物の少なくとも一方の担持量が、1質量%~40質量%であり、前記金属が白金の場合には、好ましくは1.5質量%~5質量%である、[1]~[3]のいずれかに記載の燃料電池用電極触媒。
[5]前記金属が、白金、パラジウム及び鉄からなる群より選択される少なくとも1種である、[1]~[4]のいずれかに記載の燃料電池用電極触媒。
[6][1]~[5]のいずれかに記載の燃料電池用電極触媒を備えた100℃以上で動作する、燃料電池。
[7][1]~[5]のいずれかに記載の燃料電池用電極触媒を備え、CO濃度が10ppm以上の燃料ガスを許容可能に構成される、燃料電池。
[8]電解質としてイオン液体を備える、[6]又は[7]に記載の燃料電池。
[9]前記イオン液体が、trifluromethanesulfonic acidとN,N-diethylmethylamineとの等モル混合物であるdema-TfOである、[8]に記載の燃料電池。
[10]前記電解質がさらにリン酸を含む、[8]又は[9]に記載の燃料電池。
【発明の効果】
【0011】
本発明の燃料電池用電極触媒によれば、白金等の貴金属の使用量を低減しつつ、高い酸素還元活性、CO耐性及び酸化耐性を実現することができる。
また、本発明の燃料電池は、白金等の貴金属の使用量を低減しつつ、高い酸素還元活性、CO耐性及び酸化耐性を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に用いられる窒素ドープグラフェンを模式的に示すとともに、製造例で得られたドープ量を示す説明図である。
図2A】実施例1で得られた触媒の粒子径分布を示すグラフである。
図2B】実施例1で得られた触媒の透過型電子顕微鏡写真である。
図2C】実施例1で得られた触媒の透過型電子顕微鏡写真である。
図2D】実施例1で得られた触媒の透過型電子顕微鏡写真である。
図2E】実施例1で得られた触媒の透過型電子顕微鏡写真である。
図2F】実施例1で得られた触媒を構成する各元素の電子顕微鏡写真である。
図3A】実施例2で得られた触媒の粒子径分布を示すグラフである。
図3B】実施例2で得られた触媒の透過型電子顕微鏡写真である。
図3C】実施例2で得られた触媒の透過型電子顕微鏡写真である。
図3D】実施例2で得られた触媒の透過型電子顕微鏡写真である。
図3E】実施例2で得られた触媒を構成する各元素の電子顕微鏡写真である。
図4A】実施例3で得られた触媒の粒子径分布を示すグラフである。
図4B】実施例3で得られた触媒の透過型電子顕微鏡写真である。
図4C】実施例3で得られた触媒の透過型電子顕微鏡写真である。
図4D】実施例3で得られた触媒の透過型電子顕微鏡写真である。
図4E】実施例3で得られた触媒を構成する各元素の電子顕微鏡写真である。
図5A】試験例1において、120℃におけるプロトン性イオン液体dema-TfO中の実施例1-1で得られた白金担持窒素ドープグラフェンの酸素還元反応活性を示すグラフである。
図5B】試験例1において、120℃におけるプロトン性イオン液体dema-TfO中の実施例1-2で得られた白金担持窒素ドープグラフェンの酸素還元反応活性を示すグラフである。
図5C】試験例1において、120℃におけるプロトン性イオン液体dema-TfO中の実施例1-3で得られた白金担持窒素ドープグラフェンの酸素還元反応活性を示すグラフである。
図5D】試験例1において、120℃におけるプロトン性イオン液体dema-TfO中の実施例1-4で得られた白金担持窒素ドープグラフェンの酸素還元反応活性を示すグラフである。
図5E】試験例1において、120℃におけるプロトン性イオン液体dema-TfO中の比較品の白金担持カーボン触媒の酸素還元反応活性を示すグラフである。
図6】白金担持窒素ドープグラフェン又は市販のPt/C触媒において、単位面積あたりの酸素還元電流密度の窒素ドープ量毎の比較を示すグラフである。
図7A】実施例1-4の触媒の触媒活性を示すチャートであり、触媒単位面積あたりの活性を示す。
図7B】実施例1-4の触媒の触媒活性を示すチャートであり、単位白金質量あたりの触媒活性を示す。
図8A】120℃におけるプロトン性イオン液体dema-TfO中のPd-NG触媒(実施例2)の酸素還元反応活性を示すチャートである。
図8B】120℃におけるプロトン性イオン液体dema-TfO中のFe-NG触媒(実施例3)の酸素還元反応活性を示すチャートである。
図9A】耐久性試験前のPt/C触媒(比較品)の透過型電子顕微鏡写真である。
図9B】耐久性試験後のPt/C触媒(比較品)の透過型電子顕微鏡写真である。
図10】耐久性試験前後のPt/C触媒のラマン分光測定結果を示すチャートである。
図11A】耐久性試験後の触媒の透過型電子顕微鏡写真であり、実施例1-4で得られた触媒の写真である。
図11B】耐久性試験後の触媒の透過型電子顕微鏡写真であり、実施例1-4で得られた触媒の写真である。
図11C】耐久性試験後の触媒の透過型電子顕微鏡写真であり、実施例1-4で得られた触媒の写真である。
図11D】耐久性試験後の触媒の透過型電子顕微鏡写真であり、実施例2-4で得られた触媒の写真である。
図11E】耐久性試験後の触媒の透過型電子顕微鏡写真であり、実施例2-4で得られた触媒の写真である。
図11F】耐久性試験後の触媒の透過型電子顕微鏡写真であり、実施例2-4で得られた触媒の写真である。
図11G】耐久性試験後の触媒の透過型電子顕微鏡写真であり、実施例3-4で得られた触媒の写真である。
図11H】耐久性試験後の触媒の透過型電子顕微鏡写真であり、実施例3-4で得られた触媒の写真である。
図11I】耐久性試験後の触媒の透過型電子顕微鏡写真であり、実施例3-4で得られた触媒の写真である。
図12A】耐久性試験前の実施例1-4、実施例2-4及び実施例3-4で得られた触媒及びPt/C触媒のラマン分光測定結果を示すチャートである。
図12B】耐久性試験後の実施例1-4、実施例2-4及び実施例3-4で得られた触媒及びPt/C触媒のラマン分光測定結果を示すチャートである。
図13A】試験例5において、dema-TfO/PA混合電解質中の白金担持窒素ドープグラフェンの酸素還元反応活性を示すグラフであり、モル比でdema-TfO:PAが1:2の場合を示す。
図13B】試験例5において、dema-TfO/PA混合電解質中の白金担持窒素ドープグラフェンの酸素還元反応活性を示すグラフであり、モル比でdema-TfO:PAが1:1の場合を示す。
図13C】試験例5において、dema-TfO/PA混合電解質中の白金担持窒素ドープグラフェンの酸素還元反応活性を示すグラフであり、モル比でdema-TfO:PAが2:1の場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の一実施形態に係る燃料電池用電極触媒(以下、単に「触媒」という場合もある。)は、導電性担体と、前記導電性担体上に担持された金属及び金属化合物の少なくとも一方と、を具備してなる。本発明の一実施形態に係る触媒は、100℃以上の温度で動作する燃料電池用である。
以下、本発明の一実施形態に係る触媒について、更に詳細に説明する。
【0014】
<導電性担体>
本発明の一実施形態に係る燃料電池用電極触媒に用いられる上記導電性担体としては、グラフェン及び異種元素ドープグラフェンの少なくとも一方を好ましく用いることができる。
上記グラフェンは、市販のものを特に制限なく用いることができる。上記グラフェンとしては、例えば、単相グラフェン膜、酸化グラフェン、還元型酸化グラフェン等を用いることができる。異種元素をドープさせるためには、酸化グラフェンを好ましく用いることができる。
【0015】
上記異種元素ドープグラフェンは、炭素以外の元素(異種元素)がドープされてなるグラフェンである。グラフェンにドープされる上記異種元素としては、例えば、窒素、酸素、ホウ素、リン、硫黄等を用いることができる。これらの異種元素のなかでも、窒素が特に好ましい。
【0016】
ここで、上記異種元素のドープ量は、ドープ前のグラフェン表面に存在する炭素量に対して原子比で2.5atom%(原子100のうち2.5原子が置換されていることを意味する)以上であるのが好ましく、4atom%以上であるのがさらに好ましく、6atom%以上であるのが最も好ましい。上記異種元素のドープ量の上限は10atom%であるのが好ましい。上記異種元素のドープ量が上記下限未満であると、触媒活性が不十分である。上記異種元素のドープ量が10atom%を超えると、グラフェン構造が維持されない場合が生じる。
なお、この異種元素ドープグラフェンにおいて、窒素原子およびその他のドープ元素はグラフェンの炭素を置換した状態で存在している。
また、上記導電性担体としては、異種元素ドープグラフェンを用いることが好ましいが、上記導電性担体全体としての異種元素のドープ量が上記範囲内であれば、ドープされていないグラフェンが含まれていても良い。この場合のドープされていないグラフェンの量は、上記導電性担体全体の量の5wt%以下であることが好ましい。
【0017】
<金属、金属化合物>
上記導電性担体に担持される上記金属としては、例えば、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、オスニウム(Os)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、ニオブ(Nb)等を挙げることができる。中でも上記金属としては、白金、パラジウム及び鉄からなる群より選択される少なくとも1種を好ましく用いることができる。
また、上記金属化合物としては、上記金属を少なくとも1種含む化合物であり、例えば、合金化合物、酸化物、窒化物、酸窒化物、炭化物、リン化物、フッ化物、ポルフィリン化合物、フタロシアニン化合物等を挙げることができる。
【0018】
上記導電性担体に担持される金属又は金属化合物の粒子形状は、半球状あるいは球状であるのが好ましい。
また、上記導電性担体に担持された上記金属又は上記金属化合物の平均粒子径は、2nm~20nmであるのが好ましく、2nm~10nmであるのが更に好ましい。なお、平均粒子径の測定方法は実施例の欄において説明する。
上記金属又は上記金属化合物の担持量は、金属又は金属化合物の種類に応じて変動するが、最終に得られる本発明の一実施形態に係る触媒中1質量%(wt%)~40質量%(wt%)であるのが好ましい。また、例えば、金属が白金の場合には、1.5wt%~5wt%であるのがより好ましい。また、金属又は金属化合物の担持位置は異種元素ドープグラフェン中の異種元素近傍(例えば、窒素ドープグラフェンであればドープされた窒素元素の近傍)が好ましい。
【0019】
<製造方法>
本発明の一実施形態に係る触媒の製造方法を説明する。
まず、例えば、導電性担体として異種元素ドープグラフェンを得る。
酸化グラフェンに尿素など窒素付与のための異種元素導入剤を導入した後、異種元素導入剤を導入した酸化グラフェンを乾燥させる。その後、500℃~1000℃で0.5時間~5時間、異種元素導入剤を導入した酸化グラフェンの加熱処理を行い、異種元素ドープグラフェンを得る。
【0020】
ついで、得られた異種元素ドープグラフェンを、水などの溶媒中に分散させ、異種元素ドープグラフェンの分散液を調製する。前記分散液に、金属又は金属化合物を導入するための金属導入剤を添加して、十分に分散させる。その後、金属導入剤の分散状態を保ちながら、前記分散液を50℃~300℃で1時間~15時間加熱する。これにより、本発明の一実施形態に係る触媒を得ることができる。
また、異種元素ドープグラフェンに担持させる金属によっては、次のように加熱処理を行うこともできる。金属導入剤を添加した前記分散液を乾燥させて粉末とする。その後、不活性ガス中、500℃~1000℃で0.5~5時間、前記粉末の加熱処理を行う。
【0021】
<電極の構造(触媒の用い方、他の成分)>
本発明の一実施形態に係る触媒は、燃料電池の電極用触媒として使用することができる。本発明の一実施形態に係る触媒は、電解質としてイオン液体を用いた燃料電池用であることが好ましい。また、本発明の一実施形態に係る触媒は、100℃以上の温度で動作する燃料電池用であることが好ましい。燃料電池については後述する。
【0022】
また、本発明の一実施形態に係る触媒は、燃料電池の電極であれば、どの電極にも使用可能である。本発明の一実施形態に係る触媒は、カソード電極用の触媒として特に有用である。
【0023】
本発明の一実施形態に係る触媒は、次のようにして使用に供することができる。水などの分散媒中に燃料電池用電極触媒を分散し、電極インクを調製する。得られた電極インクをグラッシーカーボン電極などの通常燃料電池に用いられる電極に塗工し、乾燥させる。燃料電池用電極触媒の使用量は、使用する触媒全体における担持されている金属又は金属化合物における金属量で0.3mgcm-2以下であるのが好ましく、0.1mgcm-2以下であるのがより好ましい。
そして、本発明の一実施形態に係る触媒は、上記電極インクを電極に塗工して形成された膜に含まれる。本発明の一実施形態に係る触媒を有する電極は、通常の燃料電池の電極と同様に使用することができる。
【0024】
本発明の一実施形態に係る触媒は、100℃以上で燃料電池触媒反応を安定に行うことができる。その結果、燃料電池のエネルギー変換効率と燃料ガスのCO濃度許容値を向上できるとともに、白金等の貴金属の使用量を低減することができる。また、本発明の一実施形態に係る触媒は、上述のように構成されているため、イオン液体を電解質に用いた場合に特に有用である。しかも、本発明の一実施形態に係る触媒は、上述のように少ない金属含有量で十分に高い触媒活性を発揮することができる。また、本発明の一実施形態に係る触媒は、耐久性も高く、長期間の使用でも高い触媒活性を保持することができる。
【0025】
<燃料電池>
本発明の一実施形態に係る燃料電池は、上述の本発明の一実施形態に係る燃料電池用電極触媒を備える。本発明の一実施形態に係る燃料電池は、上述のように本発明の一実施形態に係る触媒を有する電極を具備する以外は、通常の燃料電池と同様に構成することが可能である。本発明の一実施形態に係る燃料電池は、好ましくは100℃以上で動作する燃料電池である。本発明の一実施形態に係る燃料電池は、CO濃度が10ppm以上の燃料ガスを許容可能に構成される燃料電池である。このような高温、高CO濃度で作動させる燃料電池としては、リン酸形燃料電池が該当する。通常、このような高温、高CO濃度で燃料電池を作動させると触媒の劣化が顕著になる。そのため、従来、このような高温、高CO濃度で作動させる燃料電池としては、リン酸形燃料電池のみが提案されていた。
【0026】
本発明においては、上述の構成の本発明の一実施形態に係る触媒を用いることにより、上述の高温高CO濃度でも、触媒の劣化が抑えられ、長期的に安定して動作する燃料電池とすることができる。なお、「100℃以上の温度で動作する」という意味は、100℃以上の温度となっても良好に動作するという意味であって、100℃以下では動作しないという意味ではない。すなわち、従来の触媒では100℃以上の温度条件下又はCO濃度が10ppm以上の燃料ガスとなる燃料電池においては、良好な触媒活性を示すことができなかった。しかし、本発明の一実施形態に係る触媒を用いた場合には、燃料電池は、100℃未満の条件下又はCO濃度が10ppm未満の燃料ガス条件下においても十分な触媒活性を示す。また、本発明の一実施形態に係る触媒を用いた場合には、燃料電池は、100℃以上の条件下又はCO濃度が10ppm以上の燃料ガス条件下においても良好な触媒活性を示す。
【0027】
また、本発明の一実施形態に係る燃料電池においては、上述の本発明の一実施形態に係る燃料電池用電極触媒を用いたカソード電極を有する他は、通常の燃料電池と同様に構成することが可能である。本発明の一実施形態に係る燃料電池においては、電解質にイオン液体を用いるのが好ましい。
【0028】
イオン液体としては、例えば、trifluromethanesulfonic acidとN,N-diethylmethylamineとを等モル混合して得られるdema-TfO、pentafluoromethanesulfonic acidとN,N-diethylmethylamineとを等モル混合して得られるdema-PfO、heptafluoromethanesulfonic acidとN,N-diethylmethylamineとを等モル混合して得られるdema-HfO、あるいはbis(fluorosulfonyl)amideとN,N-diethylmethylamineとを等モル混合して得られるdema-FSI、dema-bis(trifluoromethylsulfonyl)amideとN,N-diethylmethylamineとを等モル混合して得られるdema-TFSI、bis(pentafluoroethanesulfonyl)amideとN,N-diethylmethylamineとを等モル混合して得られるdema-BETI等を挙げることができる。
【0029】
イオン液体としては、更に1-ethyl-3-methylimidazolium methanesulfonate(EMIm-MsO)、1-butyl-3-methylimidazolium methanesulfonate(BMIm-MsO)、1-hexyl-3-methylimidazolium methanesulfonate(HMIm-MsO)、1-ethyl-3-methylimidazolium trifluromethanesulfonate(EMIm-TfO)、1-butyl-3-methylimidazolium trifluromethanesulfonate(BMIm-TfO)、1-hexyl-3-methylimidazolium trifluromethanesulfonate(HMIm-TfO)、1-ethyl-3-methylimidazolium pentafluromethanesulfonate(EMIm-PfO)、1-butyl-3-methylimidazolium pentafluromethanesulfonate(BMIm-PfO)、1-hexyl-3-methylimidazolium pentaluromethanesulfonate(HMIm-PfO)、1-ethyl-3-methylimidazolium heptafluromethanesulfonate(EMIm-HfO)、1-butyl-3-methylimidazolium heptafluromethanesulfonate(BMIm-HfO)、1-hexyl-3-methylimidazolium heptaluromethanesulfonate(HMIm-HfO)などの非プロトン性イオン液体にリン酸を添加したイオン液体等を用いることができる。ここで、非プロトン性イオン液体とリン酸の混合比は、モル比で、10:1~1:10であることが好ましく、5:1~1:5であることがより好ましく、2:1~1:2であることが特に好ましい。
【0030】
本発明の一実施形態に係る燃料電池は、上述の本発明の一実施形態に係る触媒を備えるため、コストパフォーマンスに優れ、白金等の貴金属の使用量を低減しつつ、高い触媒活性を有すると共に、耐久性に優れる。
【実施例
【0031】
以下、実施例および比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらになんら制限されるものではない。
【0032】
〔製造例1〕
(種々の窒素ドープ量を有する窒素ドープグラフェンの合成)
10mLの超純水に尿素(和光純薬社製)0g~1.6gを溶解した水溶液を得た。その水溶液に、濃度4mgmL-1の酸化グラフェン水分散液(Sigma Aldrich社製)10mLを添加し、60℃で1日攪拌して溶液を蒸発乾固し、粉末を得た。得られた粉末をアルミナボートへ載せて、アルゴン雰囲気下900℃の条件で1時間熱処理を行い、窒素ドープグラフェン(NG)を得た。
【0033】
X線光電子分光分析法(XPS)により、得られた窒素ドープグラフェンの窒素のドープ量を確認した。その結果、窒素ドープ量が2.9atom%,4.0atom%,6.5atom%および7.0atom%の4種類の窒素ドープグラフェンが得られていることが確認された。得られた窒素ドープグラフェンを模式的に図1に示す。図1に示すように、窒素ドープグラフェン1は、グラフェン2に窒素10がドープされている。
X線光電子分光分析法(XPS)の使用装置及び測定条件は以下の通りである。
島津製作所社製のX線光電子分光分析装置Kratos AXIS-NOVA(商品名)を用い、窒素ドープグラフェンの組成を分析した。その際、炭素の1s結合エネルギーを284.6eVとして補正を行った。Casa Software社のフィッティングソフトウェアCASAXPSを用いてXPSスペクトルの詳細な成分解析を行い、炭素:窒素:酸素の元素比を確認した。
【0034】
〔実施例1〕
(還元法で各窒素ドープグラフェン上に白金を担持した(白金担持量2.6wt%)白金担持窒素ドープグラフェンの合成)
製造例1で得られた4種の窒素ドープグラフェンのそれぞれの上に白金を担持させた(白金担持量2.6wt%)。超音波攪拌を15分間行うことで、10mgの窒素ドープグラフェンを10mLの超純水へそれぞれ分散させて、分散液を得た。この分散液へ20mLのエチレングリコール(和光純薬社製)と10mgのヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物(Sigma Aldrich社製)を添加し、超音波攪拌を30分間行った。この混合物を130℃に加熱したオイルバスへ入れて、3時間マグネティックスターラーで攪拌した。その後、固形分を超純水とエタノールで良く洗浄し、60℃で12時間乾燥を行い、窒素ドープ量が異なる4種類の白金担持窒素ドープグラフェン(Pt-NG)を得た。窒素ドープ量が2.9atom%のPt-NGを実施例1-1、窒素ドープ量が4.0atom%のPt-NGを実施例1-2、窒素ドープ量が6.5atom%のPt-NGを実施例1-3、窒素ドープ量が7.0atom%のPt-NGを実施例1-4とする。
【0035】
得られた実施例1-4のPt-NGについて、透過型電子顕微鏡(JEOL社製,JEM-ARM200F)を用いて窒素ドープグラフェン上の白金粒子の担持状態を観察した。Pt-NG上の白金粒子の粒子径分布を示すグラフを図2Aに示す。Pt-NGの透過型電子顕微鏡写真を図2B図2Eに示す。図2Bから図2Eへと順に透過型電子顕微鏡写真を拡大して示す。Pt-NGを構成する各元素の電子顕微鏡写真を図2Fに示す。図2Aに示すように、数nmの大きさの白金粒子(平均粒子径3.3nm)が窒素ドープグラフェン上に均一に担持されていることが分かる。
なお、平均粒子径は以下のようにして求めた。透過型電子顕微鏡観察で確認された白金粒子300個についてそれぞれ直径を計測し、その平均値を求め平均粒子径とした。
【0036】
〔実施例2〕
(還元法で窒素ドープグラフェン上にパラジウムを担持した(パラジウム担持量は、仕込んだパラジウム全量が担持されたと仮定して24.6wt%)パラジウム担持窒素ドープグラフェンの合成)
還元法で得られた窒素ドープ量が7.0atom%の窒素ドープグラフェン上にパラジウムを担持した。超音波攪拌を15分間行うことで、10mgの窒素ドープグラフェンを10mLの超純水へ分散させて、分散液を得た。この分散液へ20mLのエチレングリコール(和光純薬社製)と10mgのテトラクロロパラジウム(II)酸カリウム(Sigma Aldrich社製)を添加し、超音波攪拌を30分間行った。この混合物を130℃に加熱したオイルバスへ入れて、3時間マグネティックスターラーで攪拌した。その後、固形分を超純水とエタノールで良く洗浄し、60℃で12時間乾燥を行い、パラジウム担持窒素ドープグラフェン(Pd-NG)を得た。
【0037】
得られたPd-NGについて、透過型電子顕微鏡(JEOL社製,商品名「JEM-ARM200F」)を用いて窒素ドープグラフェン上のパラジウム粒子の担持状態を実施例1と同様に観察した。Pd-NG上のパラジウム粒子の粒子径分布を示すグラフを図3Aに示す。Pd-NGの透過型電子顕微鏡写真を図3B図3Dに示す。Pd-NGを構成する各元素の電子顕微鏡写真を図3Eに示す。図3Aに示す結果から明らかなように、数nmの大きさのパラジウム粒子(平均粒子径3.6nm)が窒素ドープグラフェン上に均一に担持されていることが分かる。
【0038】
〔実施例3〕
(還元法で窒素ドープグラフェン上に鉄を担持した(鉄担持量は、仕込んだ鉄全量が担持されたと仮定して36.5wt%)鉄担持窒素ドープグラフェンの合成)
還元法で得られた窒素ドープ量が7.0atom%の窒素ドープグラフェン上に鉄を担持した。超音波攪拌を30分間行うことで、50mgの窒素ドープグラフェンを15mLの超純水へ分散させて、分散液を得た。この分散液へ100mgの酢酸鉄(II)(Sigma Aldrich社製)を添加し、終夜攪拌した。その後、2gの尿素(和光純薬社製)を添加し、60℃で攪拌しながら乾燥させ、粉末を得た。得られた粉末をアルミナボートへ載せて、アルゴン雰囲気下900℃の条件で1時間熱処理を行い、アルゴンガスを流しながら冷却した。その後、粉末に0.5moldm-3の硫酸水溶液を添加し、80℃で8時間攪拌した。これを濾過して超純水で洗浄後、再びアルゴン雰囲気下900℃の条件で1時間熱処理を行い、鉄担持窒素ドープグラフェン(Fe-NG)を得た。
【0039】
得られたFe-NGについて、透過型電子顕微鏡(JEOL社製,商品名「JEM-ARM200F」)を用いて窒素ドープグラフェン上の鉄粒子の担持状態を実施例1と同様に観察した。Fe-NG上の鉄粒子の粒子径分布を示すグラフを図4Aに示す。Fe-NGの透過型電子顕微鏡写真を図4B図4Dに示す。Fe-NGを構成する各元素の電子顕微鏡写真を図4Eに示す。図4Aに示す結果から明らかなように、数nmの大きさの鉄粒子(平均粒子径15nm)が窒素ドープグラフェン上に均一に担持されていることが分かる。
【0040】
〔製造例4〕
(電解液の調製)
プロトン性イオン液体(電解液)として、Trifluromethanesulfonic acid(以下「TfO」という。東京化成社製)とN,N-diethylmethylamine(以下「dema」という。東京化成社製)を等モル混合して得たdema-TfOを、次のようにして調製した。
14.5gのdemaを氷浴内に設置された100mLの超純水へ攪拌しながら添加した後、25.0gのTfOをゆっくりと加え水溶液を得た。ついで、ロータリーエバポレーターを用いて、この水溶液をある程度脱水した後、この水溶液を100℃で48時間、真空乾燥することにより、dema-TfOを得た。
dema-TfOを電気化学測定に使用する際には、窒素雰囲気下あるいは酸素飽和溶解下となるように、事前に窒素あるいは酸素ガスで、dema-TfOに対して十分にバブリングを行った。
【0041】
〔試験例1〕
(電気化学特性(酸素還元触媒能)の評価)
電気化学アナライザー(BAS Inc.製,商品名「ALS-660A」)を用いて各触媒の電気化学活性を評価した。
評価に際して、直径5mmのグラッシーカーボン電極上に各触媒を担持したものを作用極(電極)として用いた。対極には白金メッシュ電極を用い、参照極には可逆水素電極(RHE)を用いた。粒子径0.05μmのアルミナ粒子による表面研磨とその後10分間の超純水中での超音波洗浄を、グラッシーカーボン電極の前処理として行った。
触媒の担持は、超純水とナフィオン分散液(市販品,Sigma Aldrich社製)を9:1(質量比)の比率で含む混合液1mLに実施例1~実施例3で得られた各触媒1mgを添加して20分間の超音波分散を行い、電極インクを得た。この電極インク10μLをグラッシーカーボン電極上へ滴下し、乾燥させることにより、試験用の作用極(電極)を得た。
得られた電極、電解液を用いて試験用の燃料電池を作製した。
また、市販の白金担持カーボン触媒(Pt/C,Pt担持量37.5wt%)を用いた以外は上述と同様にして電極インクを得た。この電極インクを、グラッシーカーボン電極上に滴下し、乾燥させることにより、比較品としての電極を得た。この電極(比較品)を用い、上述と同様にして、燃料電池を作製した。
【0042】
電極電位を規定の範囲で掃引し、そのときに得られる電流値から触媒活性を評価した。また、反応種の拡散の影響を低減して触媒活性を詳しく評価するために、各触媒を堆積したグラッシーカーボン電極を1600rpmの速度で回転させ、電気化学試験を行った。これらの試験では、電極電位の掃引速度を5mVs-1とした。
また、各触媒の劣化耐久試験を、燃料電池実用化推進協議会(JFCC)で規定されている手法により実施した。電位掃引速度を0.5Vs-1、電位掃引範囲を1.0Vvs.RHE~1.5Vvs.RHEとし、サイクリックボルタンメトリー法により2000サイクルの電位掃引を行った。
試験溶液として室温(25℃)の0.5moldm-3硫酸水溶液および120℃のイオン液体dema-TfOの2種類を用いた。劣化耐久試験の第1サイクルおよび第2000サイクル終了後に電極回転速度を1600rpmに設定して、5mVs-1の速度で電位を掃引し、得られた酸素還元電流から触媒活性(酸素還元反応活性)を評価した。
プロトン性イオン液体dema-TfO中における各白金担持窒素ドープグラフェンの酸素還元反応活性について、図5A図5Eに示す。
【0043】
図5A図5Eに示す結果から明らかなように、いずれの触媒においても電位を負に掃引することで酸素還元反応に伴う還元電流が認められた。窒素ドープ量が増加すると酸素還元反応がより貴な電位から進行することが認められた。窒素ドープ量が4.0atom%を超える触媒では、いずれも約1.0Vvs.RHEから酸素還元反応の進行が認められた。本結果より、白金担持窒素ドープグラフェンにおいて、4.0atom%以上の窒素ドープ量が好適であることが分かる。実施例1-1~実施例1-4の白金担持窒素ドープグラフェンの酸素還元反応の開始電位は、市販のPt/C触媒(Pt担持量37.5wt%)に比べて貴である。また、実施例1-1~実施例1-4の白金担持窒素ドープグラフェンは、市販のPt/C触媒に比べて優れた酸素還元触媒能を有している。
【0044】
白金担持窒素ドープグラフェン又は市販のPt/C触媒において、単位面積あたりの酸素還元電流密度の窒素ドープ量毎の比較を図6に示す。図6に示すように、窒素ドープ量の増加に伴って、単位面積あたりの酸素還元電流密度の増加が認められた。この結果は、窒素ドープ量の増加に伴い、触媒活性サイトが増加していることを示唆している。また、それぞれの白金担持窒素ドープグラフェンの酸素還元電流密度は、市販のPt/C触媒に比べて大きい。耐久性試験後も、それぞれの白金担持窒素ドープグラフェンの酸素還元電流密度は、市販のPt/C触媒に比べて大きい。一方、Pt/C触媒は、耐久性試験後に酸素還元電流が大きく減少した。例えば、0.1Vvs.RHEにおける電流値は1.18mAcm-2から約半分の0.52mAcm-2へ低下した。
【0045】
〔試験例2〕
(単位量あたりの触媒活性の比較)
上記製造例4で得られた各電解液中における窒素ドープ量が7.0atom%のPt-NG触媒(実施例1-4)の触媒活性を図7に示す。図7Aは、実施例1-4の触媒の触媒活性を示すチャートであり、触媒単位面積あたりの活性を示す。図7Bは、実施例1-4の触媒の触媒活性を示すチャートであり、単位白金質量あたりの触媒活性を示す。
図7A図7Bに示す結果から、Pt-NG触媒のPt担持量は誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析から求められ、その値は2.6wt%であった。これにより単位量あたりのPt-NG触媒の触媒活性は、Pt/C触媒より優れていることが分かる。白金質量当たりの触媒活性が高いことは、燃料電池の白金使用量を低減できることを意味しており、Pt-NG触媒の優位性を顕著に表している。また、電解液を硫酸水溶液からプロトン性イオン液体dema-TfOに置き換えた場合、従来のPt/C触媒では触媒活性が低下するが、Pt-NG触媒では逆に触媒活性が増加する傾向が認められた。このことは、100℃以上の高温域で作動する燃料電池用電極触媒としては、Pt-NG触媒がより適していることを示している。
【0046】
〔試験例3〕
(プロトン性イオン液体dema-TfO中におけるパラジウム担持窒素ドープグラフェン(Pd-NG)触媒および鉄担持窒素ドープグラフェン(Fe-NG)触媒の酸素還元反応活性)
120℃におけるプロトン性イオン液体dema-TfO中のPd-NG触媒の酸素還元反応活性を図8Aに示す。120℃におけるプロトン性イオン液体dema-TfO中のFe-NG触媒の酸素還元反応活性を図8Bに示す。Pd-NG触媒は、耐久性試験後も触媒活性を維持した。Fe-NG触媒は、その触媒活性が半分程度に低下した。実施例1~実施例3で得られた各触媒(全て窒素ドープ量は7atom%)について、耐久性試験前後の酸素還元開始電位および0.1Vvs.RHEにおける電流密度を測定した。劣化耐久試験の第1サイクルおよび第2000サイクル終了後に電極回転速度を1600rpmに設定して、5mVs-1の速度で電位を掃引し、得られた酸素還元電流から触媒活性を評価した。結果を表1に示す。
【0047】
【表1】
各触媒の耐久性試験前後の酸素還元開始電位および0.1Vvs.RHEにおける電流密度
【0048】
〔試験例4〕
(劣化耐久試験に伴う触媒構造の変化)
耐久性試験前のPt/C触媒の透過型電子顕微鏡写真を図9Aに示す。耐久性試験後のPt/C触媒の透過型電子顕微鏡写真を図9Bに示す。
図9A図9Bに示す結果から、耐久性試験前にカーボン担体上に担持されたPt粒子(図9Aに示す黒いスポット)が、耐久試験後(図9Bに示す)には認められなかった。すなわち、耐久性試験によって、Pt/C触媒において、一般的に知られているPt粒子の溶出が起こっていることが分かる。
【0049】
また、ラマン分光測定から、耐久性試験前後のPt/C触媒のカーボン担体の状態を調べた。結果を図10に示す。図10に示す結果から、耐久性試験前後において、カーボン担体自体も構造が変化していることが分かった。また、図10に示す結果から、耐久試験後の試料では、カーボン担体の構造に起因するピークが消失し、構造規則性が失われていることが分かる。
【0050】
窒素ドープグラフェンを担体に用いた、実施例1-4、実施例2-4及び実施例3-4で得られた各触媒の耐久試験後の透過型電子顕微鏡写真を図11A図11Iに示す。図11A図11Iに示す結果から、図2B図2Fおよび図4B図4Eに示す耐久試験前の構造がほぼ維持されていることが分かる。
また、ラマン分光測定から、担体である窒素ドープグラフェンの状態を調べた。結果を図12Aおよび図12Bに示す。図12Aおよび図12Bに示す結果から明らかなように、耐久性試験前後において、担体である窒素ドープグラフェンの構造変化も殆どなかった。
【0051】
〔試験例5〕
(プロトン性イオン液体dema-TfO/PA混合電解質中における白金担持窒素ドープグラフェン(Pt-NG)触媒の酸素還元反応活性)
プロトン性イオン液体dema-TfOを製造例4に従い調製した。得られたdema-TfOへ、リン酸(PA,純度:99.999%,Sigma Aldrich社製)を添加し、60℃で加熱しながら混合することで均一な混合電解質を調製した。なお、モル比でdema-TfO:PAが2:1、1:1および1:2となるように混合比率を変えて、3種類の混合電解質を調製した。
試験例1に従い、調製したdema-TfO/PA混合電解質中で実施例1-4の白金担持窒素ドープグラフェンの酸素還元反応活性を評価した。モル比でdema-TfO:PAが1:2の場合、dema-TfO/PA混合電解質中における白金担持窒素ドープグラフェンの酸素還元反応活性を図13Aに示す。モル比でdema-TfO:PAが1:1の場合、dema-TfO/PA混合電解質中における白金担持窒素ドープグラフェンの酸素還元反応活性を図13Bに示す。モル比でdema-TfO:PAが2:1の場合、dema-TfO/PA混合電解質中における白金担持窒素ドープグラフェンの酸素還元反応活性を図13Cに示す。
【0052】
図13A図13Cに示す結果から、プロトン性イオン液体として、dema-TfO/PA混合電解質を用いることより、Pt-NG触媒の耐久性がさらに向上することが分かる。すなわち、dema-TfO/PA混合電解質を用いた場合、耐久性試験後の酸素還元電流の減少がdema-TfOを単独で用いた場合に比べて大幅に抑制されることが分かる。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図10
図11A
図11B
図11C
図11D
図11E
図11F
図11G
図11H
図11I
図12A
図12B
図13A
図13B
図13C