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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】制振装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/02 20060101AFI20240624BHJP
   F16F 15/04 20060101ALI20240624BHJP
   F16F 15/023 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
F16F15/02 A
F16F15/02 C
F16F15/04 A
F16F15/023
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020211769
(22)【出願日】2020-12-21
(65)【公開番号】P2022098305
(43)【公開日】2022-07-01
【審査請求日】2023-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000152424
【氏名又は名称】株式会社日建設計
(73)【特許権者】
【識別番号】504242342
【氏名又は名称】株式会社免制震ディバイス
(74)【代理人】
【識別番号】100095566
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 友雄
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(72)【発明者】
【氏名】村上 勝英
(72)【発明者】
【氏名】木田 英範
【審査官】大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-152288(JP,A)
【文献】特開2019-124039(JP,A)
【文献】特開2008-115552(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/02
F16F 15/04
F16F 15/023
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加振力が作用する構造体から周辺に伝達される振動を抑制するための制振装置であって、
前記構造体の上側に配置され、前記加振力が作用する浮き床と、
前記構造体と前記浮き床の間に設けられ、当該浮き床を支持する支持ばねと、
回転マスを有し、前記構造体と前記浮き床の間に前記支持ばねと並列に設けられ、前記加振力が作用したときの前記構造体に対する前記浮き床の相対変位を前記回転マスの回転運動に変換することによって、回転慣性質量を発生させるとともに、当該回転慣性質量が変更可能に構成された回転慣性質量ダンパと、
前記加振力の振動数を加振振動数として取得する加振振動数取得手段と、
前記回転慣性質量ダンパの前記回転慣性質量と前記支持ばねのばね定数とによって定まる、前記浮き床から前記構造体への振動の伝達を遮断するための遮断振動数が、前記取得された加振振動数に一致するように、前記回転慣性質量ダンパによる前記回転慣性質量を変更する制御手段と、
前記構造体と前記浮き床の間に設けられ、前記回転慣性質量ダンパの前記回転慣性質量、前記支持ばねの前記ばね定数、及び前記浮き床の質量によって定まる前記浮き床全体の固有振動数に同調する同調質量ダンパと、
を備えることを特徴とする制振装置。
【請求項2】
前記同調質量ダンパは、固有振動数が変更可能に構成されており、
前記制御手段は、前記変更された前記回転慣性質量ダンパによる回転慣性質量に応じて、前記同調質量ダンパの固有振動数を前記浮き床全体の固有振動数に同調するように変更することを特徴とする、請求項1に記載の制振装置。
【請求項3】
前記回転慣性質量ダンパは、
作動流体が充填されるとともに、前記構造体及び前記浮き床の一方に連結されたシリンダと、
当該シリンダ内に軸線方向に摺動自在に設けられ、当該シリンダ内を第1流体室と第2流体室に区画するとともに、前記構造体及び前記浮き床の他方に連結されたピストンと、
当該ピストンをバイパスし、前記第1及び第2流体室に連通するとともに、接続部を介して互いに並列に接続された第1連通路及び第2連通路と、
前記第1連通路に設けられ、当該第1連通路内の作動流体の流動を回転マスの回転運動に変換することによって、回転慣性質量を発生させる歯車モータと、
前記接続部に設けられ、前記第1及び第2流体室の間の連通路を、前記第1連通路及び前記第2連通路の一方に切り替えるための切替弁と、を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の制振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加振力が作用する構造体から周辺に伝達される振動を抑制する制振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の制振装置として、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。この制振装置は、構造物の外基礎に振動可能に設置された浮き基礎と、外基礎と浮き基礎の間に、互いに並列に配置されたばね、粘性ダンパ(ダッシュポット)及び回転慣性質量ダンパを備えている。回転慣性質量ダンパは、例えば、ねじ軸、ボール及びナットを有するボールねじ式のものであり、ねじ軸に回転体が固定されるとともに、ねじ軸は浮き基礎に連結され、ナットは外基礎に連結されている。また、回転慣性質量ダンパによる回転慣性質量とばねのばね定数(剛性)によって定まる固有振動数(遮断振動数)は、浮き基礎に作用する加振振動数に一致するように設定されている。
【0003】
この構成では、浮き基礎に加振力が作用すると、外基礎に対する浮き基礎の相対変位が、回転慣性質量ダンパの回転体の回転運動に変換され、回転慣性質量効果が発揮されることで、浮き基礎が長周期化される。また、回転慣性質量とばね定数によって定まる遮断振動数が浮き基礎への加振振動数に一致することによって、加振振動数における外基礎の反力が低減され、外基礎から地盤を介して周辺に伝達される振動が抑制される。
【0004】
このような制振装置は、例えば、ライブハウスなどにおける縦ノリ振動対策として用いられる。この「縦ノリ」は、コンサート中に多数の観客が楽曲のテンポに合わせてつま先立ちを小刻みに繰り返す動作であり、縦ノリによる振動(以下「縦ノリ振動」という)が建物の周辺に伝達され、振動被害をもたらすことが知られている。制振装置を縦ノリ振動対策として用いる場合には、多数の観客が立つホール床が建物の基礎の上側の浮き床として構成され、基礎と浮き床の間に、ばね、粘性ダンパ及び回転慣性質量ダンパが配置されるとともに、回転慣性質量などによる遮断振動数が、縦ノリによる浮き床への加振振動数に一致するように設定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4936174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した縦ノリは、演奏される楽曲のテンポに合わせて行われるため、縦ノリ振動による加振振動数は、楽曲のテンポに応じて、例えば2.0~3.5Hzの範囲で変化する。これに対し、従来の制振装置では、遮断振動数は、回転慣性質量ダンパの回転慣性質量とばねのばね定数により、所定の固定値に設定されている。このため、コンサート中、演奏楽曲が変わるのに応じて加振振動数が変化した場合、変化した加振振動数に遮断振動数がマッチしなくなるため、縦ノリ振動が十分に遮断されず、基礎の反力を十分に低減できない結果、基礎から地盤を介して周辺に伝達される縦ノリ振動を十分に抑制することができない。
【0007】
また、従来の制振装置では、基礎と浮き床の間に、ばね及び回転慣性質量ダンパと並列に粘性ダンパが設けられている。この粘性ダンパの粘性抵抗は、遮断振動数による縦ノリ振動の遮断時に、回転慣性質量などによる慣性力とばね力がバランスしている状態で、浮き床の動きを制限するように作用する。その結果、基礎の反力が増加し、縦ノリ振動の遮断効果が低下してしまう。
【0008】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、加振振動数の変化に応じて遮断振動数を適切に調整し、それにより、構造体への加振力の伝達を遮断することによって、周辺の振動を十分に抑制することができる制振装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的を達成するために、請求項1に係る発明は、加振力が作用する構造体から周辺に伝達される振動を抑制するための制振装置であって、構造体の上側に配置され、加振力が作用する浮き床と、構造体と浮き床の間に設けられ、浮き床を支持する支持ばねと、回転マスを有し、構造体と浮き床の間に支持ばねと並列に設けられ、加振力が作用したときの構造体に対する浮き床の相対変位を回転マスの回転運動に変換することによって、回転慣性質量を発生させるとともに、回転慣性質量が変更可能に構成された回転慣性質量ダンパと、加振力の振動数を加振振動数として取得する加振振動数取得手段と、回転慣性質量ダンパの回転慣性質量と支持ばねのばね定数とによって定まる、浮き床から構造体への振動の伝達を遮断するための遮断振動数が、取得された加振振動数に一致するように、回転慣性質量ダンパによる回転慣性質量を変更する制御手段と、構造体と浮き床の間に設けられ、回転慣性質量ダンパの回転慣性質量、支持ばねのばね定数、及び浮き床の質量によって定まる浮き床全体の固有振動数に同調する同調質量ダンパと、を備えることを特徴とする。
【0010】
この制振装置では、構造体の上側に浮き床が配置され、構造体と浮き床の間には、支持ばね及び回転慣性質量ダンパが互いに並列に設けられている。また、回転慣性質量ダンパは、回転慣性質量が変更可能に構成されている。浮き床に加振力が作用すると、この加振力が支持ばねで支持されるとともに、構造体に対して浮き床が変位し、その相対変位が回転慣性質量ダンパにおいて回転マスの回転運動に変換されることによって、回転慣性質量が発生する。
【0011】
また、加振力の振動数が加振振動数として取得され、浮き床から構造体への振動の伝達を遮断するための遮断振動数が、取得された加振振動数に一致するように、回転慣性質量ダンパによる回転慣性質量が変更される。これにより、遮断振動数が調整され、加振振動数に一致することによって、回転慣性質量による慣性力と支持ばねのばね力が打ち消し合う。その結果、浮き床から構造体への加振力の伝達を遮断し、周辺の振動を十分に抑制することができる。
【0012】
また、この構成によれば、構造体と浮き床の間に同調質量ダンパが設けられており、この同調質量ダンパは、回転慣性質量ダンパの回転慣性質量、支持ばねのばね定数、及び浮き床の質量によって定まる浮き床全体の有振動数に同調する。この同調により、固有振動数付近における浮き床の制振効果を高めることができる。また、構造体と浮き床の間に粘性ダンパが設けられる前述した従来の装置と異なり、加振力の遮断時に、回転慣性質量による慣性力と支持ばねのばね力が打ち消し合っている状態で、粘性ダンパの粘性抵抗が作用することがないので、加振力の遮断効果を良好に維持することができる。
【0013】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の制振装置において、同調質量ダンパは、固有振動数が変更可能に構成されており、制御手段は、変更された回転慣性質量ダンパによる回転慣性質量に応じて、同調質量ダンパの固有振動数を浮き床全体の固有振動数に同調するように変更することを特徴とする。
【0014】
前述したように、遮断振動数を加振振動数に一致させるために回転慣性質量ダンパの回転慣性質量を変更すると、浮き床全体の固有振動数が変化する。この構成によれば、回転慣性質量が変更された場合、それに応じて同調質量ダンパの固有振動数を変更し、浮き床全体の固有振動数に同調させる。これにより、遮断振動数の調整に伴い、浮き床全体の固有振動数が変化した場合でも、同調質量ダンパによる同調を良好に行うことができ、固有振動数付近における浮き床の制振効果を良好に維持することができる。
【0015】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の制振装置において、回転慣性質量ダンパは、作動流体が充填されるとともに、構造体及び浮き床の一方に連結されたシリンダと、シリンダ内に軸線方向に摺動自在に設けられ、シリンダ内を第1流体室と第2流体室に区画するとともに、構造体及び浮き床の他方に連結されたピストンと、ピストンをバイパスし、第1及び第2流体室に連通するとともに、接続部を介して互いに並列に接続された第1連通路及び第2連通路と、第1連通路に設けられ、第1連通路内の作動流体の流動を回転マスの回転運動に変換することによって、回転慣性質量を発生させる歯車モータと、接続部に設けられ、第1及び第2流体室の間の連通路を、第1連通路及び第2連通路の一方に切り替えるための切替弁と、を有することを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、回転慣性質量ダンパは、作動流体を用いた歯車モータ式のものであり、次のように作動する。浮き床に加振力が作用し、浮き床が構造体に対して変位すると、この相対変位がシリンダ及びピストンに伝達され、ピストンがシリンダ内を移動するのに伴い、第1又は第2流体室内の作動流体がピストンで押し出される。この場合、切替弁により第1及び第2流体室の間の連通路が第1連通路側に切り替えられているときには、作動流体が第1連通路内を流動することで、回転駆動された回転マスの回転慣性モーメントによる回転慣性質量が得られる。一方、連通路が第2連通路側に切り替えられているときには、作動流体が第1連通路内を流動しないことで、回転マスの回転慣性モーメントによる回転慣性質量は得られない。
【0017】
以上のように、この回転慣性質量ダンパは、作動流体を用いた歯車モータ式のものであり、切替弁により作動流体の流路を第1又は第2連通路に切り替えるだけで、回転慣性質量を容易に変更することができる。これにより、例えば従来の装置のように回転慣性質量ダンパとしてボールねじ式のものを用いるとともに、その錘の回転半径を電動モータで変更することで回転慣性質量を変更するような場合と比較して、構成の単純化と低コスト化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1実施形態による制振装置を示す図である。
図2】第1回転慣性質量ダンパを示す断面図である。
図3】第2回転慣性質量ダンパを、電磁弁による第1連通路の連通状態において示す断面図である。
図4】第2回転慣性質量ダンパを、電磁弁による第2連通路の連通状態において示す断面図である。
図5】基礎、浮き床及び制振装置をモデル化して示す図である。
図6】加振された浮き床の(a)変位、速度及び加速度の位相の関係、及び(b)変位と抵抗力の関係を示す図である。
図7】第2回転慣性質量ダンパの電磁弁のON数と遮断振動数との関係を示すテーブルである。
図8】第1実施形態の制御装置を示すブロック図である。
図9図8の制御装置において実行される電磁弁制御処理を示すフローチャートである。
図10】第1実施形態によって得られる浮き床の加振振動数と加速度応答倍率との関係を、遮断振動数が異なる3つの場合について示す図である。
図11】本発明の第2実施形態による制振装置を示す図である。
図12】第2実施形態の制御装置を示すブロック図である。
図13図12の制御装置において実行される電磁弁制御処理を示すフローチャートである。
図14】第2実施形態によって得られる浮き床の加振振動数と加速度応答倍率との関係を、遮断振動数が異なる3つの場合について示す図である。
図15】制振装置が、粘性ダンパを有しない場合、粘性ダンパを有する場合、及び同調質量ダンパを有する場合について、加振振動数に対する加速度応答倍率の特性を比較して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について説明する。実施形態の制振装置は、例えばライブハウスにおける縦ノリ振動対策として設置されたものである。図1の符号Bは、ライブハウスの建物の基礎(スラブ基礎)であり、この基礎Bは、複数の杭Pを介して地盤Gに支持されている。
【0020】
図1に示す第1実施形態の制振装置A1は、基礎Bの上側に配置され、ライブハウスの多数の観客が立つホール床として構成された浮き床Fと、基礎Bと浮き床Fの間に設けられた防振ユニットUを備えている。防振ユニットUは、浮き床Fに作用する縦ノリによる加振力を遮断し、基礎Bから地盤Gに伝達される力を低減することで、縦ノリ振動を抑制するものである。防振ユニットUは、支持ばね2、第1回転慣性質量ダンパ3、及び第2回転慣性質量ダンパ4を備えている。これらの構成要素2~4は、それぞれ所定数、設けられ、互いに並列に配置されている。
【0021】
図示しないが、支持ばね2は、例えば多数の皿ばねを上下方向に積層し、組み立てた皿ばねユニットで構成されており、皿ばねユニット全体として、所定のばね定数(剛性)を有する。
【0022】
図2に示すように、第1回転慣性質量ダンパ3は、作動流体HFを用いる歯車モータ式のものであり、作動流体HFが充填されたシリンダ12と、シリンダ12内に摺動自在に設けられ、シリンダ12内を第1及び第2流体室12a、12bに区画するピストン13と、ピストン13をバイパスし、第1及び第2流体室12a、12bに連通する連通路14と、連通路14に配置された歯車モータ15を備える。作動流体HFは、適度な粘性を有する流体、例えばシリコンオイルで構成されている。
【0023】
歯車モータ15は、例えば外接式のものであり、連通路14に連通するケーシング15a内に収容され、互いに噛み合う入力ギヤ15b及び出力ギヤ15cと、出力ギヤ15cに一体に連結された出力軸15dを有する。出力軸15dには、回転マスとしてのフライホイール16が一体に連結されている。
【0024】
第1回転慣性質量ダンパ3は、シリンダ12に連結された第1取付具FL1と、ピストン13と一体のピストンロッド17に連結された第2取付具FL2とを介して、基礎Bと浮き床Fの間に取り付けられている。
【0025】
以上の構成の第1回転慣性質量ダンパ3では、例えば浮き床Fに縦ノリ振動が発生するのに応じて、浮き床Fが基礎Bに対して変位すると、ピストン13がシリンダ12内を移動するのに伴い、作動流体HFが第1及び第2流体室12a、12bの一方から連通路14に流入し、ケーシング15a内を通り、第1及び第2流体室12a、12bの他方に向かって流動する。
【0026】
このケーシング15a内での作動流体HFの流動を、歯車モータ15の出力ギヤ15cの回転運動に変換し、フライホイール16を回転させることによって、その回転慣性モーメントによる回転慣性質量(以下「第1等価質量」という)md1が得られる。また、連通路14内の作動流体HFの流動による慣性質量(以下「第2等価質量」という)md2が得られる。
【0027】
この場合、第1等価質量md1及び第2等価質量md2は、それぞれ次式(1)(2)で表され、両者md1、md2の和が、第1回転慣性質量ダンパ3の等価質量mdになる(式(3))。
【数1】
【数2】
【数3】
【0028】
また、ピストン13には、軸線方向に貫通する複数の孔が形成されており(2つのみ図示)、これらの孔に、第1リリーフ弁18及び第2リリーフ弁19が設けられている。
【0029】
第1リリーフ弁18は、弁体と、弁体を閉弁側に付勢するばねで構成されており、ピストン13が図2の左方に移動することで、第1流体室12a内の作動流体HFの圧力が上昇し、所定の上限値に達したときに、開弁する。これにより、第1流体室12a内の作動流体HFの圧力が第2流体室12b側に逃がされることによって、上限値以下に制限される。第2リリーフ弁19は、第1リリーフ弁18と同様に構成されており、ピストン13が図2の右方に移動することで、第2流体室12b内の作動流体HFの圧力が上限値に達したときに開弁し、第2流体室12b内の作動流体HFの圧力が第1流体室12a側に逃がされることによって、上限値以下に制限される。
【0030】
次に、図3及び図4を参照しながら、第2回転慣性質量ダンパ4について説明する。第2回転慣性質量ダンパ4は、電磁弁21付きのものであり、図2の第1回転慣性質量ダンパ3に対し、第1及び第2流体室12a、12bに連通する連通路として、互いに並列の第1及び第2連通路14a、14bを有するとともに、両連通路14a、14bを切り替えるための電磁弁21を付加したものである。以下、第1回転慣性質量ダンパ3と同じ第2回転慣性質量ダンパ4の構成要素に対して同じ符号を付し、異なる点を中心として説明を行うものとする。
【0031】
図3に示すように、連通路は、第1及び第2流体室12a、12bにそれぞれ連通する2つの共通部14c、14dと、共通部14c、14dに互いに並列に接続された第1及び第2連通路14a、14bで構成されている。第1連通路14aには、第1回転慣性質量ダンパ3と同様の歯車モータ15が設けられている。一方、第2連通路14bは、歯車モータ15のようなデバイスは設けられず、通路のみの構成になっている。
【0032】
電磁弁21は、第1流体室12a側の共通部14cと第1及び第2連通路14a、14bとの接続部に設けられている。電磁弁21は、スプール式のものであり、スリーブ22と、スリーブ22内に収容されたソレノイド23、プランジャ24、スプール25及び復帰ばね26を有する。
【0033】
スリーブ22は、上下方向に延びており、その内部空間が、上下方向の異なる位置において、上側から順に、第1連通路14a、共通部14c及び第2連通路14bに連通している。プランジャ24は、ソレノイド23が励磁されると、ソレノイド23によって下方に吸引されるように構成されている。スプール25は、プランジャ24と一体で、プランジャ24から下方に延びており、上下に配置され、スリーブ22に内接する第1弁体25a及び第2弁体25bと、両弁体25a、25bをつなぐ弁軸25cで構成されている。電磁弁21のON/OFF(ソレノイド23の励磁/非励磁)は、後述する制御装置31によって制御される。復帰ばね26は、コイルばねで構成され、スリーブ22の底部に配置されており、第2弁体25bを介して、一体のプランジャ24及びスプール25を常時、上方に付勢する。
【0034】
第2回転慣性質量ダンパ4は、第1回転慣性質量ダンパ3と同様、シリンダ12に連結された第1取付具FL1と、ピストンロッド17に連結された第2取付具FL2を介して、基礎Bと浮き床Fの間に取り付けられている。
【0035】
以上の構成の第2回転慣性質量ダンパ4では、浮き床Fに発生した縦ノリ振動などによって、浮き床Fが基礎Bに対して変位すると、第1回転慣性質量ダンパ3と同様、ピストン13がシリンダ12内を移動するのに伴い、第1又は第2流体室12a、12bから作動流体HFが流出する。この状態において、電磁弁21がOFFされ、ソレノイド23が非励磁状態の場合には、プランジャ24と一体のスプール25は、復帰ばね26のばね力によって上方に移動し、図3に示す第1位置に位置する。この第1位置では、スプール25の第1弁体25aが第1連通路14aを開放すると同時に、第2弁体25bが第2連通路14bを閉鎖する。
【0036】
その結果、図3に示すように、第1又は第2流体室12a、12bから流出した作動流体HFは、閉鎖された第2連通路14bには流れず、開放された第1連通路14a内を流動する。したがって、このときの第2回転慣性質量ダンパ4の動作は、基本的に、前述した第1回転慣性質量ダンパ3の場合と同じになり、第1連通路14aにおける作動流体HFの流動がフライホイール16の回転運動に変換されることによって、回転慣性モーメントによる第1等価質量md1(式(1))が得られるとともに、作動流体HFの流動による第2等価質量md2(式(2))が得られる。また、両等価質量md1、md2の和が、第2回転慣性質量ダンパ4の等価質量mdになる(式(3))。
【0037】
一方、上記のように、縦ノリ振動などにより浮き床Fが基礎Bに対して変位し、ピストン13がシリンダ12内を移動することにより、第1又は第2流体室12a、12bから作動流体HFが流出している状態において、電磁弁21がONされている場合には、ソレノイド23の励磁により、プランジャ24と一体のスプール25は、復帰ばね26のばね力に抗して下方に移動し、図4に示す第2位置に位置する。この第2位置では、スプール25の第1弁体25aが第1連通路14aを閉鎖すると同時に、第2弁体25bが第2連通路14bを開放する。
【0038】
その結果、図4に示すように、第1又は第2流体室12a、12bから流出した作動流体HFは、閉鎖された第1連通路14aには流れず、開放された第2連通路14bのみを流動する。このため、第1連通路14a側に設けられたフライホイール16は回転せず、第1等価質量md1は0になり、作動流体HFの流動による第2等価質量md2(式(2))のみが得られる。したがって、第2回転慣性質量ダンパ4の等価質量mdは、極めて小さなmd2(≒0)になる。以上のように、電磁弁21のON/OFFによって、第2回転慣性質量ダンパ4の等価質量mdが変更される。
【0039】
なお、図3及び図4の場合には、作動流体HFが第1連通路14a内と第2連通路14b内を流動することにより、比較的小さい粘性減衰効果が発揮される。特に図4の場合、第2回転慣性質量ダンパ4の質量効果は極めて小さいため(md≒0)、小さな減衰係数を有する粘性ダンパとして機能する。
【0040】
以上の構成から、制振装置A1をモデル化すると、図5に示すように、基礎Bと質量がMである浮き床Fとの間に、(a)支持ばね2から成る、ばね定数がKであるばね要素と、(b)第1及び第2回転慣性質量ダンパ3、4のフライホイール16から成る、慣性質量が可変のm(=Σmd)である慣性接続要素が、互いに並列に接続されたモデルになる。この構成では、浮き床Fに上下方向の加振力が作用すると、支持ばね2のばね力Fkとフライホイール16の慣性力Fmが、加振力に対する抵抗力(反力)として浮き床Fに作用する。
【0041】
この場合において、加振力が調和振動形のときには、図6(a)に示すように、浮き床Fの変位DIS(=u)と加速度ACCが逆位相の関係にあるため、同図(b)に示すように、変位DISに依存する支持ばね2のばね力Fk(=K・u)と、加速度ACCに依存するフライホイール16の慣性力Fm(=-mω2・u)は、互いに逆勾配になる。また、慣性力Fmの勾配の大きさは、浮き床Fへの加振振動数に応じて変化し、ばね力Fkのそれと一致したときに、ばね力Fkと慣性力Fmは打ち消し合い、両者の和が0になることで、基礎Bへの加振力(振動)の伝達が遮断される。このように浮き床Fから基礎Bへの振動の伝達が遮断される振動数を遮断振動数fsという。
【0042】
この遮断振動数fsは、支持ばね2全体のばね定数Kと、第1及び第2回転慣性質量ダンパ3、4全体の等価質量mに基づいて定まり、次式(4)によって算出される。
【数4】
【0043】
したがって、この式(4)と、第2回転慣性質量ダンパ4の等価質量mdが電磁弁21のON/OFFに応じて可変であることから、複数の電磁弁21のON/OFF数によって、遮断振動数fsを変更(調整)することができる。以下、その一例を説明する。
【0044】
例えば、浮き床Fの質量M=1000ton、支持ばね2全体のばね定数K=39478kN/m、第1回転慣性質量ダンパ3の1基当たりの等価質量md=20.5ton、電磁弁21がOFF状態のときの第2回転慣性質量ダンパ4の1基当たりの等価質量md=24ton、第1回転慣性質量ダンパ3の設置数=4、第2回転慣性質量ダンパ4の設置数=7とする。
【0045】
この例において、7基の第2回転慣性質量ダンパ4のすべての電磁弁21がOFFの場合、遮断振動数fsは最小になり、式(4)から、
fs=(1/2π)sqrt(K/m)
=(1/2π)sqrt(39478/(20.5×4+24×7))
=(1/2π)sqrt(39478/250)
=約2.0Hzに設定される。
【0046】
同様に、7基の第2回転慣性質量ダンパ4のうち、2基の電磁弁21がOFFで、5基の電磁弁21がONの場合、遮断振動数fsは中間の値になり、
fs=(1/2π)sqrt(39478/(20.5×4+24×2))
=(1/2π)sqrt(39478/130)
=約2.75Hzに設定される。
【0047】
同様に、7基の第2回転慣性質量ダンパ4のすべての電磁弁21がONの場合、遮断振動数fsは、最大になり、
fs=(1/2π)sqrt(39478/(20.5×4+0))
=(1/2π)sqrt(39478/82)
=約3.5Hzに設定される。
【0048】
以上のように、遮断振動数fsは、第2回転慣性質量ダンパ4の電磁弁21のON数Nonが大きいほど、第1及び第2回転慣性質量ダンパ3、4全体の等価質量mがより小さくなることで、より大きな値に設定される。この例では、電磁弁21のON数Non=0~7に応じた8段階で、縦ノリ振動が発生する振動数域である2.0~3.5Hzの範囲に設定される。以上の電磁弁21のON数Nonと遮断振動数fsとの関係をまとめると、図7のようになる。
【0049】
図1に示すように、制振装置A1はさらに、基礎Bと浮き床Fの間に設けられた複数の同調質量ダンパ5を備えている。同調質量ダンパ5は、浮き床F全体の上下方向の1次固有振動数との同調によって、浮き床Fの制振効果を高めるためのものである。各同調質量ダンパ5は、上端部が浮き床Fに接続されたばね6と、ばね6と並列に配置された減衰器(図示せず)と、ばね6及び減衰器に接続された質量体7を有する。
【0050】
同調質量ダンパ5の諸元(ばね6のばね定数ktmd、減衰器の減衰係数ctmd、及び質量体7の質量mtmd)は、同調質量ダンパ5の固有振動数が浮き床F全体の上下方向の1次固有振動数fn1に同調するように設定されている。
【0051】
この浮き床F全体の1次固有振動数fn1は、浮き床Fの質量Mと、第1及び第2回転慣性質量ダンパ3、4全体の等価質量mとの和と、支持ばね2全体のばね定数Kに基づき、次式(5)によって算出される。このため、1次固有振動数fn1は、遮断振動数fsを調整するために第2回転慣性質量ダンパ4の等価質量mdが変更されると、それに応じて変化する。
【数5】
【0052】
例えば、前述したように、質量M=1000ton、ばね定数K=39478kN/mであり、また、遮断振動数fsが2.75Hzに設定されている場合には、第1及び第2回転慣性質量ダンパ3、4全体の等価質量m=130tonであるので、1次固有振動数fn1は、
fn1=(1/2π)sqrt(K/(M+m))
=(1/2π)sqrt(39478/(1000+130))
=0.94Hzと算出される。
また、1次固有周期Tn1は、Tn1=1/fn1=1.06sになる。
【0053】
一方、遮断振動数fsが2.0Hzに設定されている場合には、等価質量m=250tonであるので、fn1=0.89Hz、Tn1=1.12sになる。また、遮断振動数fsが3.5Hzに設定されている場合には、等価質量m=82tonであるので、fn1=0.96Hz、1次固有周期Tn1=1.04sになる。
【0054】
本実施形態では、同調質量ダンパ5の諸元は、その固有振動数が、複数の遮断振動数fsのうちのfs=2.75Hzに設定されているときの浮き床Fの1次固有振動数fn1(=0.94Hz)に同調するように、設定されている。
【0055】
図8に示すように、第2回転慣性質量ダンパ4の各電磁弁21は、制御装置31に接続されている。制御装置31は、CPU、RAM、ROM及びI/Oインターフェース(いずれも図示せず)などから成るマイクロコンピュータで構成されている。後述するように、制御装置31は、浮き床Fへの加振振動数faに応じて、電磁弁21のON/OFFを制御する。
【0056】
次に、上記構成の制振装置A1の動作について説明する。前述したように、浮き床Fに縦ノリ振動が発生するのに応じて、浮き床Fが基礎Bに対して変位すると、各第1回転慣性質量ダンパ3が作動し、シリンダ12内のピストン13の移動に伴い、フライホイール16の回転慣性モーメントによる第1等価質量md1と、第1連通路14a内の作動流体HFの流動による第2等価質量md2との和から成る等価質量mdが得られる。この第1回転慣性質量ダンパ3の等価質量mdが浮き床Fの質量に付加されることで、浮き床Fの振動が長周期化する。
【0057】
また、この縦ノリ振動の発生中、制御装置31では、図9に示す電磁弁制御処理が実行される。この電磁弁制御処理は、浮き床Fから基礎Bへの振動の伝達を遮断する遮断振動数fsが、縦ノリ振動による浮き床Fへの加振振動数faに一致するように、第2回転慣性質量センサ4の電磁弁21のON数Nonを制御するものであり、所定時間ごとに実行される。
【0058】
本処理では、まずステップ1において、浮き床Fへの加振振動数faを取得する。加振振動数faは、演奏中の楽曲のテンポによって概ね定まる。このため、ライブコンサートの主催者が、演奏予定の楽曲に対して加振振動数faをあらかじめ決定し、コンサートの実際の進行に応じて、加振振動数faを制御装置31に手動で入力することが可能である。制御装置31は、入力された加振振動数faを読み出し、取得する。あるいは、このような手動による入力に代えて、制御装置31において、演奏中の楽曲を受信し、その信号の解析結果から、楽曲のテンポに応じて加振振動数faを自動的に算出・決定するようにしてもよい。またさらに、浮き床Fの一部の箇所に加振力を計測するロードセルを設置し、その信号の解析結果から、加振振動数faを自動的に算出・決定するようにしてもよい。
【0059】
次に、ステップ2において、取得した加振振動数faに応じて、第2回転慣性質量センサ4の電磁弁21のON数Nonを算出する。この算出は、例えば加振振動数fa=遮断振動数fsとし、この遮断振動数fsに応じ、前述した図7のテーブルを検索することによって行われる。なお、ステップ1で取得した加振振動数faが図7の複数の遮断振動数fsのいずれとも一致しない場合には、この加振振動数faに最も近い遮断振動数fsに対応するON数Nonが選択される。
【0060】
次に、ステップ3において、算出されたON数Nonと等しい数の電磁弁21に駆動信号を出力し、これらの電磁弁21をONする。これにより、遮断振動数fsが加振振動数faに一致するように、第1及び第2回転慣性質量ダンパ3、4全体の等価質量mが制御される。その結果、浮き床Fから基礎Bへの縦ノリ振動の伝達が遮断され、周辺への縦ノリ振動の伝達が抑制される。
【0061】
図10は、本実施形態により遮断振動数fsを設定したときに得られる、浮き床Fの加振振動数faと加速度応答倍率Raccとの関係を、(a)fs=2.0Hz、(b)fs=2.75Hz、及び(c)fs=3.5Hzの場合について、前述した従来例とともに示したものである。なお、加速度応答倍率Raccは、浮き床Fの加速度に対する基礎Bの加速度の比として定義され、加振された浮き床Fから基礎Bへの加振力(振動)の伝達度合を表し、この意味において、反力応答倍率(浮き床Fへの加振力に対する基礎Bの反力の比)と同義である。
【0062】
まず、実施形態及び従来例のいずれの場合にも、加速度応答倍率Raccは、加振振動数faが浮き床Fの固有振動数(=約1Hz)付近のときに最大値を示し、加振振動数faが高くなるにつれて減少する。
【0063】
従来例では、回転慣性質量ダンパによる回転慣性質量が一定であるため、加振振動数faにかかわらず、遮断振動数fs’は一定値(=約3Hz)に設定され、加振振動数faと加速度応答倍率Raccとの関係も一定である。このため、実際の加振振動数faが遮断振動数fs’に対してずれた場合、加速度応答倍率Raccは十分に低減されず、縦ノリ振動を十分に遮断することができない。また、加振振動数faが遮断振動数fs’付近のときには、加速度応答倍率Raccがほぼ最小値に低減されるものの、遮断時に粘性ダンパの粘性抵抗が作用するため、加速度応答倍率Raccの谷が浅くなり(図15参照)、やはり縦ノリ振動を十分に遮断できない。
【0064】
これに対し、実施形態では、取得された浮き床Fの実際の加振振動数faに一致するように、遮断振動数fsを設定するとともに、この遮断振動数fsが得られるように、第2回転慣性質量ダンパ4の電磁弁21のON数Nonを制御し、第1及び第2回転慣性質量ダンパ3、4全体の等価質量mを調整する。これにより、図10(a)~(c)に示すように、設定された各遮断振動数fsにおいて、縦ノリ振動が良好に遮断され、加速度応答倍率Raccは最小になる。また、従来例と異なり、遮断時に粘性ダンパの粘性抵抗は作用せず、加速度応答倍率Raccの谷が深い状態に維持されることで(図15参照)、縦ノリ振動を十分に遮断することができる。
【0065】
また、実施形態では、同調質量ダンパ5の固有振動数が浮き床F全体の上下方向の1次固有振動数fn1(=約1Hz)に同調するので、この付近での加速度応答倍率Raccのピークは、従来例における粘性ダンパを付与した場合と同等の小さな値になる(図15参照)。これにより、浮き床F全体の1次固有振動数fn1に対する制振効果を高めることができる。
【0066】
なお、前述したように、本実施形態では、同調質量ダンパ5は、その固有振動数が、遮断振動数fs=2.75Hsのときの浮き床F全体の1次固有振動数fn1に同調するように設定されている。このため、遮断振動数fs=2.75Hsのときには、同調質量ダンパ5による同調が良好に行われる結果、図10(b)に示すように、加速度応答倍率Raccのピークは従来例よりも小さく最小化され、良好な制振効果が得られる。
【0067】
これに対し、遮断振動数fs=2.0Hz又は3.5Hsのときには、同調質量ダンパ5の固有振動数が浮き床F全体の1次固有振動数fn1に対してずれるため、同調質量ダンパ5による同調が良好に行われない結果、同図(a)及び(c)に示すように、加速度応答倍率Raccのピークは、従来例と同等で最小化されず、良好な制振効果は得られない。次に説明する第2実施形態による制振装置A2は、この点を改善するものである。
【0068】
図11に示すように、第2実施形態の制振装置A2は、図1に示した第1実施形態の制振装置A1と比較し、同調質量ダンパ5に代えて、固有振動数が可変である第2同調質量ダンパ35を設けたものである。第2同調質量ダンパ35は、上端部が浮き床Fに接続された複数のばね36と、複数のばね36に並列に配置された減衰器(図示せず)と、複数のばね36及び減衰器に連結され、吊り下げられた質量体37と、浮き床Fと質量体37の間に連結された複数の回転慣性質量ダンパ38を有する。
【0069】
回転慣性質量ダンパ38は、所定数、設けられており(図11には2つのみ図示)、例えば第2回転慣性質量ダンパ4と同様の構成を有する。具体的には、回転慣性質量ダンパ38は、作動流体が充填されたシリンダと、シリンダ内を第1及び第2流体室に区画するピストンと、第1及び第2流体室に連通する互いに並列の第1及び第2連通路と、第1連通路に設けられた歯車モータ及びフライホイール(いずれも図示せず)と、第1及び第2連通路の接続部に設けられ、第1及び第2流体室の間の連通路を第1及び第2連通路の一方に切り替えるための第2電磁弁41(図12参照)を有する。
【0070】
図12に示すように、第2電磁弁41は制御装置31に接続されており、そのON/OFFは、制御装置31によって制御される。また、回転慣性質量ダンパ38のシリンダは浮き床Fに連結され、ピストンロッドは質量体37に連結されている。
【0071】
以上の構成の回転慣性質量ダンパ38では、浮き床Fに縦ノリ振動が発生し、浮き床Fに対して質量体37が変位すると、ピストンがシリンダ内を移動するのに伴い、第1又は第2流体室から作動流体が流出する。
【0072】
この状態において、第2電磁弁41がOFFされていると、第1連通路のみが開放され、作動流体が第1連通路内を流動し、回転マスの回転慣性モーメントによる第1等価質量と、作動流体の流動による第2等価質量が得られ、付加されるため、その分、第2同調質量ダンパ35の固有振動数が低くなる(固有周期が長くなる)。一方、第2電磁弁41がONされていると、第2連通路のみが開放され、作動流体は第1連通路内を流動せず、第2等価質量のみが得られるが、その質量効果は極めて小さいため(≒0)、その分、第2同調質量ダンパ35の固有振動数が高くなる(固有周期が短くなる)。このように、第2電磁弁41のON数Non2が大きいほど、第2同調質量ダンパ35の固有振動数はより高くなる。
【0073】
図13は、縦ノリ振動の発生中、制振装置A2において実行される電磁弁制御処理を示す。本処理は、図12の制御装置31により、所定時間ごとに実行される。本処理では、まずステップ11において、図9の前記ステップ1と同様、浮き床Fの加振振動数faを取得する。
【0074】
次に、ステップ12において、前記ステップ2と同様、加振振動数fa(=遮断振動数fs)に応じ、図7のテーブルを検索することによって、第2回転慣性質量センサ4の電磁弁21のON数Nonを算出する。また、加振振動数fa(=遮断振動数fs)に応じ、所定のテーブルを検索することによって、第2電磁弁41のON数Non2を算出する。図示しないが、このテーブルでは、遮断振動数fsに応じて変化する浮き床F全体の1次固有振動数fn1に、第2同調質量ダンパ35の固有振動数が同調するよう、第2電磁弁41のON数Non2は、遮断振動数fsが高いほど、より大きな値に設定されている。
【0075】
次に、ステップ13において、算出されたON数Nonと等しい数の電磁弁21に駆動信号を出力し、これらの電磁弁21をONする。これにより、遮断振動数fsが加振振動数faに一致するように、第1及び第2回転慣性質量ダンパ3、4全体の等価質量mが制御されることによって、浮き床Fから基礎Bへの縦ノリ振動の伝達が遮断され、周辺への縦ノリ振動の伝達が抑制される。
【0076】
次に、ステップ14において、算出されたON数Non2と等しい数の第2電磁弁41に駆動信号を出力し、これらの第2電磁弁41をONする。これにより、第2同調質量ダンパ35の固有振動数が浮き床F全体の1次固有振動数fn1に同調するように、回転慣性質量ダンパ38の等価質量が制御され、その結果、第2同調質量ダンパ35による同調が良好に行われる。
【0077】
図14は、本実施形態により遮断振動数fsを設定するとともに、第2同調質量ダンパ35の固有振動数を変更したときに得られる、浮き床Fの加振振動数faと加速度応答倍率Raccとの関係を、(a)fs=2.0Hz、(b)fs=2.75Hz、及び(c)fs=3.5Hzの場合について、従来例とともに示したものである。
【0078】
同図において、浮き床F全体の1次固有振動数fn1付近(=約1Hz)に着目すると、遮断振動数fsが(a)~(c)のいずれの場合にも、第2同調質量ダンパ35の固有振動数が1次固有振動数fn1に同調するように変更され、第2同調質量ダンパ35による同調が良好に行われる結果、加速度応答倍率Raccのピークは従来例よりも小さく最小化され、浮き床F全体の1次固有振動数fn1における制振効果が向上することが確認された。
【0079】
なお、本発明は、説明した第1及び第2実施形態(以下、総称する場合には「実施形態」という)に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、第1及び第2回転慣性質量ダンパ3、4として、作動流体によって作動する歯車モータ式のものを用いているが、ベーンモータやピストンモータなどの他の液圧式のものや、ボールねじ式のものを用いてもよい。また、実施形態の歯車モータは外接式のものであるが、内接式でもよく、作動流体Fについては、シリコンオイルに限らず、作動油などの流体でもよいことはもちろんである。
【0080】
また、第1及び第2実施形態の同調質量ダンパ5、35として、質量体とばねを直列に接続したチューンドマスダンパ(TMD)を用いているが、これに代えて、回転慣性質量と粘性体を並列に配置し、柔支持部材を直列に接続した同調粘性マスダンパを用いてもよい。さらに、第1及び第2実施形態では、質量効果を変更できない第1回転慣性質量ダンパ3を併用しているが、この第1回転慣性質量ダンパ3をなくし、すべて第2回転慣性質量ダンパ4の改良型(第2連通路14b側にも歯車モータを設置し、第1連通路14a側のフライホイールよりも小さなフライホイールを設け、回転慣性質量ダンパの等価質量を変更するような構成)に変更し、等価質量を段階的に変更するようにしてもよいことはもちろんである。
【0081】
また、第2回転慣性質量ダンパ4の電磁弁21及び第2実施形態の回転慣性質量ダンパ38の第2電磁弁41はいずれも、複数、設けられ、ON/OFF式で、連通路を第1又は第2連通路に切り替えるタイプのものであり、それらのON数によって、回転慣性質量ダンパの等価質量が段階的に変更される。これらの電磁弁として、第1連通路と第2連通路の流量割合を無段階に変更するタイプのものを採用してもよい。その場合には、例えば単一の電磁弁を用い、回転慣性質量ダンパの等価質量を無段階にきめ細かく制御することが可能になる。
【0082】
また、実施形態は、制振装置A1、A2を、建物の基礎Bのすぐ上の最下層に設置した例であるが、これに限らず、建物の中間層に設置してもよいことは、もちろんである。また、実施形態では、本発明の制振装置を、ライブハウスなどにおける縦ノリ振動の抑制対策に適用するものとして説明したが、本発明は、これに限らず、他の適当な制振対策として、例えば構造体の上に大きな振動を発生する機器が設置されるとともに、その加振振動数が変化するような場合に適用することが可能である。
【0083】
また、実施形態に示した各種のデバイスの構成や数及び配置などは、あくまで例示であり、本発明の趣旨の範囲内で適宜、変更することが可能である。
【符号の説明】
【0084】
A1 第1実施形態の制振装置
A2 第2実施形態の制振装置
2 支持ばね
3 第1回転慣性質量ダンパ(回転慣性質量ダンパ)
4 第2回転慣性質量ダンパ(回転慣性質量ダンパ)
5 同調質量ダンパ
12 シリンダ
12a 第1流体室
12b 第2流体室
13 ピストン
14a 第1連通路
14b 第2連通路
15 歯車モータ
16 フライホイール(回転マス)
21 電磁弁(切替弁)
31 制御装置(加振振動数取得手段、制御手段)
35 第2同調質量ダンパ
41 第2電磁弁
B 基礎(構造体)
F 浮き床
fa 加振振動数
fs 遮断振動数
fn1 浮き床全体の1次固有振動数(浮き床全体の固有振動数)
md1 第1等価質量(回転慣性質量)
m 第1及び第2回転慣性質量ダンパ全体の等価質量(回転慣性質量ダンパの回 転慣性質量)
K 支持ばね全体のばね力(支持ばねのばね力)
HF 作動流体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15