(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】紅茶葉の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23F 3/08 20060101AFI20240624BHJP
A23F 3/14 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
A23F3/08
A23F3/14
(21)【出願番号】P 2023046980
(22)【出願日】2023-03-23
【審査請求日】2023-11-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】303044712
【氏名又は名称】三井農林株式会社
(72)【発明者】
【氏名】秋林 健一
(72)【発明者】
【氏名】北條 寛
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特公昭44-001932(JP,B1)
【文献】特開平07-227210(JP,A)
【文献】特開2019-129752(JP,A)
【文献】特開2022-156828(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111513149(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23F 3/08
A23F 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料生茶葉を熱風乾燥機
の装置内に熱風を供給しながら茶葉を運動させることで水分の減少を促す操作によって、対原料生茶葉で45~85
%の質量となるまで萎凋させた茶葉に、対原料生茶葉で10~50%の質量の水を茶葉に加水した後に発酵処理することを特徴とする紅茶葉の製造方法。
【請求項2】
熱風乾燥機が粗揉機、中揉機、葉打ち機から選ばれるいずれか一以上であることを特徴とする請求項1記載の紅茶葉の製造方法。
【請求項3】
前記萎凋させた茶葉を加水前に粉砕および/または加水後に揉捻した後に発酵処理を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の紅茶葉の製造方法。
【請求項4】
生茶葉の80%以上が緑茶品種の茶葉であることを特徴とする請求項1に記載の紅茶葉の製造方法。
【請求項5】
萎凋後の茶葉に発酵茶品種の生茶葉を混合することを特徴とする請求項1に記載の紅茶葉の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紅茶葉の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本国内において、緑茶の消費量・茶葉価格は低下の傾向にあり、収入の低下や生産者の高齢化もあって茶農家離れの原因ともなっている。一方、国産紅茶に関しては近年見直されてきており、国内だけでなく、海外市場での需要も高まりを見せている。このような背景から、紅茶の工業的な生産が検討され始めているが、紅茶の製造技術や設備上の課題から、工業的に紅茶を生産できる茶農家はほとんど出現していない。その原因の一つとして、一般的な茶農家では緑茶の生産をベースとしているため、その製造ラインは紅茶特有の製造工程である「萎凋」や「発酵」を組み入れて生産することが困難となるためである。
【0003】
発酵茶の生産において必要となる「萎凋」の工程に関しては、烏龍茶の製造に緑茶製造設備を活用する検討がなされている。例えば、引用文献1~4には緑茶製造用の粗揉機や中揉機を利用して萎凋を行うことが提案されている。しかしながら、紅茶の製造においては、萎凋した茶葉を揉捻し、発酵させる工程が必要となるが、効果的に発酵を進める手段についてはこれまでに知られていない。特に「やぶきた」のような緑茶用の品種では発酵力が乏しいため、短時間で簡便に発酵を進行させる効果的な手段が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】半発酵による新香味茶製造技術開発に関する研究、三重県農業技術センター研究報告、1992年3月、第20号、p.31-39
【文献】花香を有する新香味緑茶製造のための萎凋処理技術と適性品種、滋賀県農業技術振興センター主要研究成果 平成29年度報告書、2018年4月27日
【文献】半発酵茶特有の花の香りを活かす既存製茶機械を利用した萎凋法とその適性品種、滋賀県農業技術振興センター主要研究成果 平成29年度報告書、2018年4月27日
【文献】新香味茶製造実用化技術の開発、茶業研究報告、1991年、第74号、p.1-9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明者らが実際に萎凋に関する従来技術を適用し、緑茶生産用の粗揉機を利用して得た萎凋葉を発酵工程に供したところ、発酵はあまり進行せず、紅茶らしい香りや色調を持った茶葉とはなりにくい課題を認識した。これは、粗揉機を用いた萎凋では、短時間で茶葉の含水率を低下できる一方で、比較的に高温に晒されることになり、茶葉に存在する酸化発酵酵素がダメージを受けることや、緑茶品種であるやぶきた種ではそもそも発酵力が弱いことが原因であると考えられた。すなわち、本発明の課題は、緑茶製造設備を利用して萎凋させた茶葉の発酵を効率的に進行させる手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた過程で、萎凋後の茶葉に対して加水して、低下させた水分含量を引き上げる操作を行ったところ、その後の発酵の速度が速くなる効果が認められた。また、得られる茶葉は青みのある香りが低減され、熟したフルーツのような香りを有し、穏やかで甘みをともなう渋みを有した紅茶となることを見出した。さらに、萎凋による水分の減少は45~85%以下とし、加水量は対原料生葉で10~50%とすることが特に有効であることを突き止め、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] 原料生茶葉を熱風乾燥機によって、対原料生茶葉で45~85%以下の質量となるまで萎凋させた茶葉に、対原料生茶葉で10~50%の質量の水を茶葉に加水した後に発酵処理することを特徴とする紅茶葉の製造方法。
[2] 熱風乾燥機が粗揉機、中揉機、葉打ち機から選ばれるいずれか一以上であることを特徴とする[1]に記載の紅茶葉の製造方法。
[3] 前記萎凋させた茶葉を加水前に粉砕および/または加水後に揉捻した後に発酵処理を行うことを特徴とする[1]または[2]に記載の紅茶葉の製造方法。
[4] 生茶葉の80%以上が緑茶品種の茶葉であることを特徴とする[1]に記載の紅茶葉の製造方法。
[5] 萎凋後の茶葉に発酵茶品種の生茶葉を混合することを特徴とする[1]に記載の紅茶葉の製造方法。
【0008】
本発明によれば、従来の方法では難しかった紅茶の工業的生産を容易にするものであり、本発明の手段を用いることによって、青みのある香りが低減され、芳醇な花や熟したフルーツのような香りを有し、穏やかで甘みをともなう渋みを有した紅茶を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において、特別な記載がない場合、「%」は質量%を示す。また、「下限値~上限値」の数値範囲は、特に他の意味であることを明記しない限り、「下限値以上、上限値以下」の数値範囲を意味する。
【0010】
本発明は紅茶の製造工程に関するものである。本発明における紅茶とは、発酵茶の一種であり、原料茶葉として、チャノキ(学名:Camellia sinensis)の葉や茎などの摘採物を原料として、少なくとも萎凋および発酵を含む工程を得て製造された乾燥茶葉(荒茶や仕上げ茶)を意味する。紅茶の一般的な製造方法としては、摘採した茶の生葉を静置して茶葉中の水分を減少させることで香りを形成させ(萎凋工程)、この萎凋した茶葉を必要に応じて裁断してから圧力をかけて揉み込み(揉捻工程)、これを一定時間放置して茶葉中の酸化酵素の働きによって発酵させ(発酵工程)、最終的に加熱乾燥(乾燥工程)によって製造される。
【0011】
原料生茶葉は、緑茶品種のほか、烏龍茶、紅茶などの加工用に用いられる発酵茶品種の一般的な品種を用いることができる。発酵茶に分類される紅茶や烏龍茶用に改良された品種は萎凋や発酵の操作によって香りが強く発現するため紅茶の生産に適しているが、本発明においては発酵工程の進行を促進させることができるため、一般的に紅茶の生産には不向きとされる発酵力の弱い緑茶品種を使用する場合に特に有効となる。国産の茶品種としては例えば、べにふうき、べにひかり、べにほまれ、べにふじなどの発酵茶品種のほか、やぶきた、ゆたかみどり、さえみどり、おくみどり、さやまかおりなどの緑茶品種を使用することができる。本発明においては緑茶品種と発酵茶品種を併用することも可能であり、その際は緑茶品種を80%以上とするのが好ましい。原料生茶葉は紅茶葉製造の直前に摘採することが好ましいが、事前に摘採して凍結保存したものを解凍して使用してもよい。
【0012】
本発明においては前記の萎凋工程に熱風乾燥機を利用する。熱風乾燥機としては、直接式または間接式で熱風を機内に供給できるものであればよく、食品の製造用に一般的に使用されている装置を用いることができる。このような装置としては、緑茶の生産に利用される装置である、粗揉機や中揉機、葉打ち機を利用するのが好ましく、これらの一以上を組み合わせて用いてもよい。その他にも食品生産用の回転式乾燥機や棚式乾燥機、流動層乾燥機なども同様に利用することができ、これらを使用する場合でも本発明の範囲に包含される。本来、粗揉機や中揉機は緑茶の製造工程において、熱風などで茶葉に熱を与えながら茶葉を揉むことで、茶葉中の水分を減少させながら緑茶特有の形状に整形するための装置であるが、本発明においてはこれらを萎凋工程に使用することによって、熱風を使用しない自然萎凋では長時間を要するこの工程にかかる時間を短縮することができる。また、緑茶の製造ラインを利用して自動的な紅茶生産を行うことができる利点がある。萎凋工程では茶葉中の水分が減少することで、茶葉中の香気前駆物質である配糖体とこれを分解する配糖体分解酵素との反応が促進され、発酵茶に特有の花や果実の香りのような「萎凋香」が形成される。
【0013】
本発明において、熱風乾燥機を利用した萎凋工程では、装置内に熱風を供給しながら茶葉を運動させることで水分の減少を促す。この際の熱風温度は、茶葉の温度がおよそ30から40℃の範囲を維持するように温度と風量を調整し、例えば初期には100℃前後の熱風を多風量で供給し、水分蒸散量の減少に伴って徐々に風量を落としていくことも好ましい。この操作における茶葉の水分減少量の程度としては摘採後の茶葉の生葉に対して、萎凋後の茶葉が45~85%の質量となるように行う。萎凋後の茶葉の質量は対原料生茶葉で50~80%とするのが好ましく、55~75%がさらに好ましい。45%以下になるまで萎凋してしまうと生じた香りが抜けてしまい、仕上がりの香味が低下する。一方、85%に到達しない場合では萎凋香の形成が不十分となり紅茶らしい香味が得られないことが多い。
【0014】
本発明においては、萎凋後の茶葉を必要に応じて加水前に粉砕(細断を含む)によって茶葉に損傷を与え、発酵工程を進行しやすくするのが好ましい。また、この操作によって後の加水工程で茶葉が給水しやすくなる効果も得られる。この操作では、海外の紅茶産地で一般的に利用されているローターバンやCTC機、またはこれらと同様の加工ができる装置を用いることができる。これら装置を用いて茶葉を細かくした場合では、その後の揉捻工程を省略しても良い。また、この際に萎凋していない茶葉を混合することで、発酵の進行をさらに早めることもでき、その場合には発酵力の高い紅茶品種の茶葉を用いるのが好ましい。
【0015】
本発明においては、前記萎凋工程で水分を減少させた萎凋葉に対して加水する工程を設けることを特徴とする。この工程では、対原料生茶葉で45~85%の質量となった茶葉に対して、対原料生茶葉で10~50%の質量の水を加えて茶葉中に水分を吸収させる。この加水の程度は15~45%がより好ましく、25~40%がさらに好ましい。加水量が10%以下では発酵の進行が鈍くなり、仕上がり後の紅茶に青みのある香りが残ってしまい紅茶らしい水色を得るのが困難となる。一方、50%を超える加水量ではその後の乾燥工程に時間を要し、特有の香りが抜けやすくなり、紅茶らしさに欠けた茶葉になってしまう。また、加水後の茶葉質量は対原料生茶葉で70~100%とするのが好ましく、80~100%とするのがより好ましい。
本工程における加水の方法は茶葉を撹拌しながら水を注ぎ、均一な状態にするのが好ましく、水をスプレー状に吹きかけることで一層均一な状態にしやすくなる。加水する際の水温は20~40℃、好ましくは30~40℃とすると、発酵の進行をより一層促進させることができる。
【0016】
本発明においては加水後の茶葉は、圧力を与えながら揉みこむ工程(揉捻工程)を行うことが好ましい。この工程によって、茶葉の細胞組織を破壊し、より効果的に発酵を進行させることができる。揉捻工程では、緑茶や紅茶などの製造に一般的に利用される揉捻機を用いればよい。茶葉を揉捻する時間は茶葉の状態に応じて5~60分程度行うとよい。
【0017】
次いで、加水工程あるいは揉捻工程を経た茶葉は一定時間の発酵処理を行う(発酵工程)。発酵工程では、茶葉中のポリフェノールと酸化酵素の酸化反応によって紅茶特有の重合ポリフェノールが形成され、これに伴って紅茶特有の香気成分も生成する。本発明において発酵工程の条件は茶葉の状態によって適宜設定すればよいが、好適な温度条件としては20~45℃を例示でき、30~40℃がさらに好ましい。また、好適な発酵時間としては10分~8時間を例示でき、20分~4時間がより好ましく、30分~2時間がさらに好ましい。温度と発酵時間の関係としては、高温では発酵時間を短く、低温では発酵時間を長くするように調整するのが望ましい。発酵工程は発酵茶生産用の発酵器を利用できるほか、通気性のある容器に茶葉を入れて静置する方法や、中揉機やネット型乾燥機などを利用して連続的に行ってもよい。
【0018】
発酵を終えた茶葉は水分値が少なくとも10%以下、好ましくは5%以下となるように乾燥させる(乾燥工程)。乾燥の方法は従来公知の方法を用いればよく、例えば間接式または直接式で熱風を供給する透気型乾燥機や送帯型乾燥機、ネット型乾燥機を用いればよい。その他、凍結乾燥機などの減圧式乾燥機を利用してもよい。一方、乾燥せずにそのまま抽出原料とする場合や、抽出原料用に冷凍保管する場合も本発明の範囲に包含される。
【0019】
本発明の紅茶葉の製造方法は、従来の緑茶葉製造ラインを利用して実施できる利点がある。従来の緑茶の一般的な製造方法は、摘採、蒸熱、粗揉、揉捻、中揉、精揉、乾燥の各工程からなる。本発明においては粗揉機を用いて萎凋工程を行い、中揉機や乾燥機を用いて発酵工程を行い、乾燥機で乾燥工程を行うことができる。蒸熱や精揉などの装置は茶葉を通過させるかバイパスさせれば良い。本発明ではこのようにして従来の緑茶葉製造ラインを利用することができ、自動化されたラインを使用することで省力化し、連続的で効率的な紅茶葉生産が可能である。
【0020】
本発明で得られる紅茶葉は、ティーポットで浸出させる用途の一般的な紅茶葉やティーバック゛のほか、容器詰め紅茶飲料や製菓用の原料など、従来に知られている紅茶葉と同様に様々な用途に利用することができる。
【実施例】
【0021】
以下に本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0022】
本実施例における評価・分析方法を以下に示す。
<香味の官能評価方法>
評価者は香味や異臭についての識別やそれらの濃度識別についてトレーニングされ、日常業務として茶葉の鑑定を担当している専門パネラー6名とした。評価には、各茶葉3.0gを沸騰水180gで3分間抽出した後にコーヒーフィルターでろ過した抽出液を用いた。この抽出液について各パネラーに渋みや香りの特徴や強さを評価させ、評価コメントを回収した。
【0023】
<水色評価方法>
上記の官能評価に用いた抽出液について、測色色差計(型式:ZE-6000、メーカー:日本電色工業)を用いてLabを測定した。発酵の進行を表す水色の赤みの強度としてa値について評価した。
【0024】
<香気成分の分析方法>
フードプロセッサーで粉砕した茶葉100mg及び塩化ナトリウム3.0g、イオン交換水10mLを20mL容のSPMEバイアルに入れ、内部標準物質としてシクロヘプタノール(東京化成工業製)を終濃度500ppbとなるように添加したものを分析試料とした。香気成分を固相マイクロ抽出法(SPME:Solid phase Micro Extraction)により回収し、ガスクロマトグラフ質量分析(GC/MS分析)に供した。GC/MS分析条件は以下の通りである。内部標準物質に対する各香気成分のピークエリアの比率(IS比)をピークエリア値とした。
【0025】
[GC/MS条件]
・GC:TRACE GC ULTRA(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)
・MS:TSQ QUANTUM XLS(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)
・SPMEファイバー:50/30μm Divinylbenzene/Carboxen/Polydimethylsiloxane Stableflex(シグマアルドリッチ社)
・抽出:60℃、30分
・カラム:SUPELCO WAX10 0.25mmI.D.×60m×0.25μm(シグマアルドリッチ社)
・オーブンプログラム:40℃で2分間保持した後、160℃まで3℃/分で昇温し、その後280℃まで10℃/分で昇温
・キャリアーガス:ヘリウム(100kPa、一定圧力)
・インジェクター温度:スプリットレス、240℃
・イオン源温度:200℃
・イオン化:電子イオン化
・イオン化電圧:70eV
・測定モード:スキャン
・評価成分とそのモニタリングイオン
・グリーン系香気成分:(Z)-3-hexen-1-ol):m/z=67、(E)-2-hexen-1-ol:m/z=57
・果実・花系香気成分:linalool:m/z=93、hotrienol:m/z=71、geraniol:m/z=69、nerolidol:m/z=69、linalool oxide(cis and trans-franoid):m/z=93、2-phenylethylalcohol:m/z=91、phenylacetaldehyde:m/z=91
【0026】
<カテキン・茶ポリフェノールの分析方法>
茶葉をフードプロセッサーで粉砕して微粉状とし、この100mgを50ml容のメスフラスコに投入し、80%(容量比)のメタノール水20mLと1N-HCl0.2mLを加えて超音波洗浄機中で60分間抽出し、水で定容した。抽出後、0.45μm径のPTFE製ディスクフィルター(アドバンテック東洋製)でろ過し、以下条件でカテキン類および茶ポリフェノール含量を測定した。
【0027】
[カテキン類の分析方法(HPLC法)]
・標準物質:カテキン類(EGCg、ECg、GCg、Cg、EGC、EC、GC、C、いずれも三井農林の自社調製品)
・装置:Alliance HPLCシステム(ウォーターズ社)
・カラム:Poroshell 120 EC-C18(4.6×100mm、粒子径2.7μm、アジレント社製)
・カラム温度:40℃
・移動相:(A)0.05%リン酸水/アセトニトリル=1000/25(体積比),(B)メタノール
・グラジエント条件:0~1分;(B)0%、1~11分;(B)0~33%、11~11.25分;(B)33~95%、11.25~13.25分;(B)95%、13.25~13.5分;(B)95~0%、13.5~15.5分;(B)0%
・流速:1.5mL/min
・検出:UV230nm(カテキン類)
・注入量:10μL
【0028】
[茶ポリフェノールの測定方法(酒石酸鉄吸光光度法)]
茶ポリフェノールは「日本食品標準成分表2015年版(七訂)分析マニュアル・解説」(文部科学省監修、建帛社、2016年2月)の242~243ページ)に記載の方法で測定した。
【0029】
<試験例1>
静岡県産2番茶期のやぶきた種(緑茶品種、試験例1-1)およびべにふうき種(発酵茶品種、試験例1-2)の原料生茶葉を、実験器具用の熱風乾燥機を用いて庫内温度37℃で萎凋させ、茶葉中の水分を減少させた。一定時間ごとに質量をモニタリングし、対原料生茶葉で50%となった時点で乾燥機から取り出して密封状態で冷凍保管した。この萎凋茶葉を自然解凍した後に、肉挽き機で粉砕し、目開き4mmの篩で篩別し、篩をパスした茶葉を回収した。この茶葉に対して所定量の水(20℃)を加えてから手揉みして水分を均一に馴染ませた。次いで、この加水した茶葉を実験用恒温器を用いて器内温度37℃で所定時間発酵させた。目的の時間経過後、棚型の透気式乾燥機を用いて100℃で水分値が5%以下になるまでおよそ1時間乾燥させた。このようにして得られた茶葉について、上記の評価方法に従い、茶ポリフェノール、カテキン、香気成分、水色、香味(官能評価)を実施した。原料茶葉の品種に「やぶきた」を使用した場合を試験例1-1の結果として表1に、「べにふうき」を使用した場合を試験例1-2の結果として表2に示した。表中においてカテキン、カテキン/ポリフェノール、果実・花系/グリーン系については、加水以外は同条件で実施した各比較例との相対比を算出した結果(相対比)も併せて示した。
【0030】
【0031】
【0032】
表1および表2に示したとおり、加水の操作によって発酵が促進されていることが確認された。具体的には、次のとおりである。まず、加水量に応じてカテキンの含量が減少し、その一方で茶ポリフェノールの含量には大きな変化はなかった。このことは、発酵工程においてポリフェノール酸化酵素が有効に作用し、カテキンが重合して発酵茶に特有の重合ポリフェノールが生じていると認められる。また、水色についても赤みを示すa値の増加が確認されたことからも、発酵茶特有の赤褐色の重合ポリフェノールが生じていることが示唆される。さらに、香気分析の結果からは、グリーン系の青臭みを伴う香り成分が減少した一方で、果実や花を想像させる華やかな香りを有する成分には大きな変化は無く、結果としてこれら2つの系統の香気バランス(表中の果実・花系/グリーン系相対比)は増加の方向に変化し、より紅茶らしい香味が得られる作用が確認された。また、原料生葉の品種に注目すると、緑茶品種である「やぶきた」を使用した試験例1-2の結果では、加水による発効促進の作用が著しく、発酵の指標としたいずれの項目においても顕著な変化が確認された。この結果からは、もともと発酵力の弱い緑茶品の茶葉に本発明の手段が特に有効となることを示すものと解釈される。
これらの結果から、本発明の手段を採用することによって、効果的に発酵を進行させることができることが確認された。
【0033】
原料茶葉として、秋冬番やぶきた種(試験例2)の生茶葉を用いて、緑茶の製造ラインを利用した製造を行った。生葉は棒取機で茎部分を凡そ取り除いたものを使用し、萎凋は緑茶製造用の粗揉機(型式:35K型粗揉機、メーカー:カワサキ機工)を用い、設定温度40℃、25分間の条件で萎凋させた。萎凋後の茶葉はローターバン(型式:HRS GYROVANE-12、メーカー:VIKRAM INDIA)で粉砕した後に、所定量の水(20℃)を加えて均一に混合してから揉捻機(型式:35K型揉捻機、メーカー:カワサキ機工)で10分間揉捻した。揉捻後の茶葉はネット型乾燥機中を通過させながら25℃で30分間発酵させ、乾燥機(型式:自動型乾燥機60K-2型、メーカー:カワサキ機工)を用い、90℃で乾燥させた。このようにして調製した茶葉について、試験例1と同様にして評価した。その結果を表3に示した。
【0034】
【0035】
表3に示したとおり、加水の操作によって発酵が促進されていることが確認された。例えば、加水操作を行った実施例10の茶葉では、加水していない比較例5に比べて、重合ポリフェノールの比率が増加し、水色は赤みが強まった。また、香気分析の結果からは、グリーン系の青臭みをともなう香り成分が減少した一方で、果実や花を想像させる華やかな香りを有する成分には大きな変化は無く、結果としてこれら2つの系統の香気バランス(表中の果実・花系/グリーン系相対比)は増加の方向に変化し、より紅茶らしい香味が得られる作用が確認された。その他、官能評価の結果からは花や果実のような芳醇な香りが感じられ、渋みが弱まり、穏やかで甘みをともなう渋みとなっていることも確認された。これら結果から、緑茶製造ラインを使用した場合においても効率的に紅茶の生産が可能となることが確認された。
【要約】
【課題】熱風乾燥機を用いて萎凋させた茶葉の発酵を効率的に進行させる手段を提供すること。
【解決手段】粗揉機や中揉機のような熱風乾燥機を用いて対原料生葉で45~85%の重量となるまで移調させた茶葉に対し、対原料生茶葉で10~50%の質量の水を加えて混合することによって茶葉に水分を吸収させる工程を具備した紅茶の製造法。この操作の後に発酵処理を行うと発酵の進行が促進され、青臭みが少なく、花や果実の香りが感じられる紅茶を得ることができる。
【選択図】なし