IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本化学工業株式会社の特許一覧

特許7508217InP量子ドット前駆体の製造方法及びInP系量子ドットの製造方法
<>
  • 特許-InP量子ドット前駆体の製造方法及びInP系量子ドットの製造方法 図1
  • 特許-InP量子ドット前駆体の製造方法及びInP系量子ドットの製造方法 図2
  • 特許-InP量子ドット前駆体の製造方法及びInP系量子ドットの製造方法 図3
  • 特許-InP量子ドット前駆体の製造方法及びInP系量子ドットの製造方法 図4
  • 特許-InP量子ドット前駆体の製造方法及びInP系量子ドットの製造方法 図5
  • 特許-InP量子ドット前駆体の製造方法及びInP系量子ドットの製造方法 図6
  • 特許-InP量子ドット前駆体の製造方法及びInP系量子ドットの製造方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】InP量子ドット前駆体の製造方法及びInP系量子ドットの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 25/08 20060101AFI20240624BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20240624BHJP
   C09K 11/70 20060101ALI20240624BHJP
   C09K 11/75 20060101ALI20240624BHJP
   C09K 11/74 20060101ALI20240624BHJP
   C09K 11/71 20060101ALI20240624BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20240624BHJP
【FI】
C01B25/08 A
C09K11/08 B ZNM
C09K11/70
C09K11/75
C09K11/74
C09K11/71
C09K11/08 G
B82Y40/00
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019221374
(22)【出願日】2019-12-06
(65)【公開番号】P2020176043
(43)【公開日】2020-10-29
【審査請求日】2022-10-07
(31)【優先権主張番号】P 2019078007
(32)【優先日】2019-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000230593
【氏名又は名称】日本化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中對 一博
(72)【発明者】
【氏名】續石 大気
(72)【発明者】
【氏名】坂上 知
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/061869(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/082116(WO,A1)
【文献】Andrew RITCHHART et al.,“Templated Growth of InP Nanocrystals with a Polytwistane Structure”,Angewandte Chemie International Edition,2018年01月05日,Vol. 57,No. 7,p.1908-1912,DOI: 10.1002/anie.201711539
【文献】Dylan C. GARY et al.,“Two-Step Nucleation and Growth of InP Quantum Dots via Magic-Sized Cluster Intermediates”,Chemistry of Materials,2015年01月30日,Vol. 27,No. 4,pp.1432-1441,DOI: 10.1021/acs.chemmater.5b00286
【文献】NING Jiajia and Banin Uri,Magic size InP and InAs clusters: synthesis, characterization and shell growth,Chemical Communications,2017年,vol.53,pp.2626-2629, Supporting Information
【文献】藤井 陸、山村 昌敬、杉本 泰、藤井 稔,単分散シリコン量子ドットの開発と発光特性,2018年 第79回 応用物理学会秋季学術講演会[講演予稿集] ,公益社団法人応用物理学会,2018年,19A-221-1(全1頁)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 25/08
C09K 11/08,11/70ー11/75
B82Y 40/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン源とインジウム源からInP量子ドット前駆体を製造する方法であって、
前記InP量子ドット前駆体が、発光ピークの半値全幅が51nm未満であるInP量子ドットを得ることができるものであり、
前記リン源として、
下記一般式(1)で表されるシリルホスフィン化合物の含有量が99.0モル%以上であり、
下記式(2)で表される化合物の含有量が0.05モル%以上0.3モル%以下であり、
下記式(3)で表される化合物の含有量が0.1モル%以下であり、
下記式(4)で表される化合物の含有量が0.05モル%以上0.5モル%以下であり、
下記式(5)で表される化合物の含有量が0.05モル%以下であり、
下記式(6)で表される化合物の含有量が0.05モル%以下であり、
下記式(7)で表される化合物の含有量が0.05モル%以上0.2モル%以下である組成物を用いる、InP量子ドット前駆体の製造方法。
【化1】
(Rはそれぞれ独立に、炭素原子数1以上5以下のアルキル基又は炭素原子数6以上10以下のアリール基である。)
【化2】
(Rは式(1)と同じである。)
【化3】
(Rは式(1)と同じである。)
【化4】
(Rは式(1)と同じである。)
【化5】
(Rは式(1)と同じである。)
【化6】
(Rは式(1)と同じである。)
【化7】
(Rは式(1)と同じである。)
【請求項2】
前記インジウム源として、酢酸インジウム、ラウリル酸インジウム、ミリスチン酸インジウム、パルミチン酸インジウム、ステアリン酸インジウム及びオレイン酸インジウムからなる群より選ばれる少なくとも一つを用いる請求項1に記載のInP量子ドット前駆体の製造方法。
【請求項3】
リン源とインジウム源との反応を20℃以上150℃以下の温度で行う請求項1又は2に記載のInP量子ドット前駆体の製造方法。
【請求項4】
リン源とインジウム源との反応を、有機溶媒中で行う請求項1~3の何れか一項に記載のInP量子ドット前駆体の製造方法。
【請求項5】
リン源とインジウム源との反応を、トリアルキルホスフィンの存在下で行う請求項1~4の何れか一項に記載のInP量子ドット前駆体の製造方法。
【請求項6】
請求項1~5の何れか一項に記載の製造方法で得られたInP量子ドット前駆体を、200℃以上350℃以下の温度で加熱してInP量子ドットを得るInP系量子ドットの製造方法。
【請求項7】
請求項1~5の何れか一項に記載の製造方法で得られたInP量子ドット前駆体を、リン源とインジウム源以外の元素源M(Mは、Be、Mg、Ca、Mn、Cu、Zn、Cd、B、Al、Ga、N、As、Sb及びBiの群から選ばれる少なくとも一種)を含む化合物とともに200℃以上350℃以下の温度で加熱して、InとPとMの複合量子ドットを得るInP系量子ドットの製造方法。
【請求項8】
さらに、請求項6又は7に記載の製造方法で得られた量子ドットを亜鉛含有化合物又はハロゲン含有化合物により表面処理するInP系量子ドットの製造方法。
【請求項9】
前記量子ドットをカルボン酸亜鉛により表面処理する請求項8に記載のInP系量子ドットの製造方法。
【請求項10】
請求項6~9の何れか一項に記載の製造方法で得られた量子ドットをコアとし、このコアにInP以外の被覆化合物を被覆させてコアシェル構造の量子ドットを得るInP系量子ドットの製造方法。
【請求項11】
さらに、請求項10に記載の製造方法で得られたコアシェル構造の量子ドットを亜鉛含有化合物又はハロゲン含有化合物により表面処理するInP系量子ドットの製造方法。
【請求項12】
前記量子ドットをカルボン酸亜鉛により表面処理する請求項11に記載のInP系量子ドットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、InP量子ドット前駆体の製造方法、及び該InP量子ドット前駆体を用いたInP系量子ドットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、発光材料として量子ドットの開発が進んでいる。代表的な量子ドットとして、優れた発光特性などからCdSe、CdTe、CdS等のカドミウム系量子ドットの開発が進められている。しかし、カドミウムの毒性及び環境負荷が高いことからカドミウムフリーの量子ドットの開発が期待されている。
【0003】
カドミウムフリーの量子ドットの一つとしてInP(インジウムリン)系量子ドットが挙げられる。InP系量子ドットの製造においては、そのリン源としてホスフィン、アミノホスフィン化合物、シリルホスフィン化合物等が原料として用いられることが多い。これらのうち、シリルホスフィン化合物として、トリス(トリメチルシリル)ホスフィン等の三級ホスフィンを用いる方法が提案されている(例えば特許文献1~3)。
【0004】
特許文献1~3に記載されている方法は、ナノ粒子であるInP量子ドットを直接得るための方法であるが、InP量子ドットをさらに細分化した特定の極少数な構成原子数を有するInP量子ドット前駆体からInP量子ドットを得る方法も提案されている(例えば非特許文献1~3)。このInP量子ドット前駆体は、構成原子数によっては、非特許文献1~3に記載のとおりマジックサイズクラスターとも呼ばれ、これを含む液中で優れた安定性を示すことから、粒径分布の狭い量子ドットを得やすい利点がある。マジックサイズクラスターをはじめとするInP量子ドット前駆体は、これに加熱等の単純な処理を施すだけで量子ドットが得られるので、量子ドットの原料として利便性が高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-26472号公報
【文献】特開2015-209524号公報
【文献】特開2016-517454号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Two-Step Nucleation and Growth of InP Quantum Dots via Magic-Sized Cluster Intermediates, Chemistry of Materials (2015), 27(4), 1432-1441
【文献】Templated Growth of InP Nanocrystals with a Polytwistane Structure, Angewandte Chemie, International Edition (2018), 57(7), 1908-1912
【文献】Magic size InP and InAs clusters: synthesis, characterization and shell growth, Chemical Communications (Cambridge, United Kingdom) (2017), 53(17), 2626-2629
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の三級シリルホスフィン化合物を用いてIn及びPからなるマジックサイズクラスターをはじめとしたInP量子ドット前駆体を製造し、当該InP量子ドット前駆体を経てInP系量子ドットを製造する場合、得られるInP系量子ドットの粒径分布が広くなり、発光ピークの半値全幅(Full Width at Half Maximum、以下FWHMともいう)が大きくなってしまう課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、上記InP量子ドット前駆体の製造に用いるシリルホスフィン化合物中の不純物成分のうち、特定の成分の量を低減することにより、得られるInP系量子ドットの粒径分布を狭くして、発光ピークの半値全幅が小さいInP系量子ドットが得られることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0009】
すなわち本発明は、リン源とインジウム源からInP量子ドット前駆体を製造する方法であって、前記リン源として、下記式(2)で表される化合物の含有量が0.3モル%以下である下記式(1)で表されるシリルホスフィン化合物を用いるInP量子ドット前駆体の製造方法を提供するものである。
【0010】
【化1】
(Rはそれぞれ独立に、炭素原子数1以上5以下のアルキル基又は炭素原子数6以上10以下のアリール基である。)
【0011】
【化2】
(Rは式(1)と同じである。)
【0012】
また本発明は、上記製造方法により得られたInP量子ドット前駆体を、必要に応じて他の元素源を含む化合物とともに200℃以上350℃以下の温度で加熱して量子ドットを得るInP系量子ドットの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、粒子形成に優れたInP系量子ドットが得られるInP量子ドット前駆体の製造方法及びInP系量子ドットの製造方法を提供でき、粒径分布の幅の狭い高品質なInP系量子ドットを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1(a)は、製造例2において原料として用いた酢酸インジウムのIRスペクトルであり、図1(b)は、製造例2の第1工程の生成物である酢酸インジウムのIRスペクトルである。
図2図2は、製造例2の第2工程の生成物であるミリスチン酸インジウムのIRスペクトルである。
図3図3は、製造例3の生成物であるミリスチン酸インジウムのIRスペクトルである。
図4図4は、実施例1で得られたInP量子ドット前駆体を含む液のUV-VISスペクトルである。
図5図5は、実施例1で得られたInP量子ドットを含む液のUV-VISスペクトルである。
図6図6は、実施例3で得られたInP量子ドット前駆体を含む液のUV-VISスペクトルである。
図7図7は、実施例3で得られたInP量子ドットを含む液のUV-VISスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のインジウムリン(InP)量子ドット前駆体の製造方法の好ましい実施形態を説明する。
【0016】
(InP量子ドット前駆体)
InP量子ドット前駆体は、数nmから数十nmの粒径を有するナノ粒子であるInP量子ドット(quantum dots)を細分化したクラスターであり、溶媒中で優れた安定性を示す特定の構成原子数、例えば数個から数百の原子数からなるものである。InP量子ドット前駆体は、数十から数百の原子数からなるマジックサイズクラスターであってもよく、それよりも原子数の小さなものであってもよい。上記の通りInP量子ドット前駆体は、溶媒中で優れた安定性を示すことができるため、これを用いることで粒径分布の狭いInP系量子ドットを得やすい利点がある。本明細書においてInP量子ドット前駆体におけるInPとはIn及びPを含むことを意味し、In及びPがモル比1:1であることまでを要しない。InP量子ドット前駆体は通常In及びPからなるものであるが、その最外殻に位置するIn又はP原子に、原料であるリン源又はインジウム源に由来する配位子が結合していてもよい。そのような配位子としては、例えばインジウム源が有機カルボン酸のインジウム塩である場合の有機カルボン酸残基、添加物として用いるアルキルホスフィン等が挙げられる。
【0017】
反応液中にInP量子ドット前駆体が生成していることは、例えば紫外線-可視光吸収スペクトル(UV-VISスペクトル)を測定することにより確認できる。In源及びP源を反応させた反応液において、InP量子ドット前駆体が形成されている場合、UV-VISスペクトルにおいて300nm以上460nm以下の範囲にピーク又はショルダーが観測される。ショルダーはピークほど明確に尖端形状を有していないが、明らかに変曲点を有するものをいう。ショルダーが観察される場合、300nm以上460nm以下、特に310nm以上420nm以下の範囲に一つ、又は二つ以上の変曲点を有することが好ましい。UV-VISスペクトルは、0℃以上40℃以下で測定されることが好ましい。サンプル液は、反応液をヘキサン等の溶媒で希釈して調整する。測定時におけるサンプル液中のIn量及びP量は、サンプル液100gに対して、リン原子及びインジウム原子でそれぞれ0.01mmol以上1mmol以下の範囲であることが好ましく、0.02mmol以上0.3mmol以下の範囲であることがより好ましい。反応液の溶媒としては、インジウム源及びリン源との反応に好適に使用できる溶媒として後述するものが挙げられる。後述するように、溶媒中のInP量子ドット前駆体を200℃以上350℃以下に加熱することでInP量子ドットに成長すると、通常、反応液のUV-VISスペクトルは450nm以上550nm以下の範囲にピークが観察されるが、加熱する前の反応液は450nm以上550nm以下の範囲にピークが観察されない。
【0018】
また、反応液中にInP量子ドット前駆体が生成していることは、UV-VISスペクトルに替えて、例えば反応液が黄緑色~黄色になっていることでも確認できる。この色の確認は目視によるものでよい。例えば、InPマジックサイズクラスターを含む反応液は黄色であり、In及びPからなり、マジックサイズクラスターよりも原子数が少ない前駆体を含む反応液は黄緑色であることが一般的である。
【0019】
溶媒中のInP量子ドット前駆体の安定性は熱力学的であり、InP量子ドット前駆体は加熱に反応する特性を有する。例えば、上記好ましい溶媒中のInP量子ドット前駆体は、好ましくは200℃以上350℃以下、更に好ましくは240℃以上330℃以下に加熱した場合、InP量子ドットに成長しうる。このことは、加熱後の反応液をUV-VISスペクトルの測定に供すると、長波長側へピークシフトが観察されることから確認できる。例えばIn及びP以外に量子ドットを構成する他の元素を添加せずに溶媒中のInP量子ドット前駆体を好ましくは200℃以上350℃以下、更に好ましくは240℃以上330℃以下に加熱した場合、UV-VISスペクトルにおいて、450nm以上550nm以下の範囲にピークが観察される。InP量子ドットにおけるInPとはIn及びPを含有することを意味し、In及びPのモル比が1:1であることまでを要しない。InP量子ドット前駆体を好ましくは200℃以上350℃以下、更に好ましくは240℃以上330℃以下に加熱して得られたInP量子ドットを含む液のUV-VISスペクトルは、300nm以上800nm以下の範囲のうち、最もピーク高さの高い吸収ピークが450nm以上550nm以下の範囲に観察されることが好ましい。
なお、InP量子ドット前駆体を好ましくは200℃以上350℃以下、更に好ましくは240℃以上330℃以下において、In及びP以外に量子ドットを構成する他の元素を添加せずに加熱して得られたInP量子ドットを含む液のUV-VISスペクトルには、通常、300nm以上460nm以下の範囲にピークが観測されない。
【0020】
また、反応液中にInP量子ドットが生成していることは、例えば反応液が橙色~赤色になっていることでも確認できる。この色の確認は目視によるものでよい。
【0021】
上記のInP量子ドット前駆体を加熱した後の反応液のUV-VISスペクトルや反応液の色の記載は、典型的には、In及びP以外に量子ドットを構成する他の元素を添加せずに加熱した場合を指す。しかしながら、後述するように、本発明はInP量子ドット前駆体にそのような化合物を添加して加熱する場合を何ら排除するものではない。
本明細書においては、In及びP以外の他の構成元素を含まない量子ドット、In及びP以外の他の構成元素を含む量子ドット、並びにこれらの量子ドットをコア材料とし、これを被覆化合物で被覆したコアシェル構造を有する量子ドットを総称して「InP系量子ドット」という。
【0022】
(リン源)
本発明の製造方法では、インジウム源とリン源とを反応させてInP量子ドット前駆体を得るところ、このリン源として下記式(1)で表されるシリルホスフィン化合物を用いる。リン源として用いるシリルホスフィン化合物は3級、つまり、リン原子に3つのシリル基が結合した化合物である。
【0023】
【化3】
(Rはそれぞれ独立に、炭素原子数1以上5以下のアルキル基又は炭素原子数6以上10以下のアリール基である。)
【0024】
Rで表される炭素原子数1以上5以下のアルキル基としては、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基が好ましく挙げられ、具体的にはメチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、iso-ブチル基、n-アミル基、iso-アミル基、tert-アミル基等が挙げられる。
【0025】
Rで表される炭素原子数6以上10以下のアリール基としては、フェニル基、トリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、iso-プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、sec-ブチルフェニル基、tert-ブチルフェニル基、iso-ブチルフェニル基、メチルエチルフェニル基、トリメチルフェニル基等が挙げられる。
【0026】
これらのアルキル基及びアリール基は1又は2以上の置換基を有していてもよく、アルキル基の置換基としては、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、アミノ基等が挙げられ、アリール基の置換基としては、炭素原子数1以上5以下のアルキル基、炭素原子数1以上5以下のアルコキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、アミノ基等が挙げられる。アリール基がアルキル基やアルコキシ基で置換されていた場合、アリール基の炭素原子数に、これらアルキル基やアルコキシ基の炭素原子数を含めることとする。
【0027】
式(1)における複数のRは同一であっても異なっていてもよい(後述する式(I)及び式(2)~(7)の各式においても同様)。また、式(1)に3つ存在するシリル基(-SiR3)も、同一であってもよく、異なっていてもよい。式(1)で表されるシリル
ホスフィン化合物としては、Rが炭素原子数1以上4以下のアルキル基又は無置換若しくは炭素原子数1以上4以下のアルキル基に置換されたフェニル基であるものが、合成反応時のリン源としてインジウム源などの他の分子との反応性に優れる点から好ましく、とりわけトリメチルシリル基が好ましい。
【0028】
リン源として用いる式(1)のシリルホスフィン化合物は、式(2)の化合物の含量が少ないものである。本発明者は、式(1)のシリルホスフィン化合物を原料として得られるInP量子ドット前駆体から得られるInP量子ドットの粒度分布をより狭くできる方法を鋭意検討したところ、シリルホスフィン化合物の製造過程で生じるビス(トリメチルシリル)ホスフィン等の不純物の影響により、粒子形成が首尾よく進まない課題が存在することを知見した。そして、この不純物の含量を低下させることで、得られるInP量子ドットの半値全幅を狭くできることを見出した。本発明で用いる式(1)のシリルホスフィン化合物において、下記式(2)で表される化合物の含有量は0.3モル%以下であり、0.25モル%以下であることが更に好ましく、0.2モル%以下であることが特に好ましい。
【0029】
【化4】
(Rは式(1)と同じである。)
【0030】
更に、リン源として用いる式(1)のシリルホスフィン化合物は、不純物によるInP量子ドット前駆体形成への悪影響を効果的に低減し、InP系量子ドットの半値全幅を一層狭いものとする観点から、他の不純物も少ないことが好ましい。
例えば式(1)のシリルホスフィン化合物は、下記式(3)で表される化合物の含有量が0.1モル%以下であることが好ましく、0.08モル%以下であることがより好ましく、0.05モル%以下であることが特に好ましい。
【0031】
【化5】
(Rは式(1)と同じである。)
【0032】
式(1)のシリルホスフィン化合物は、不純物によるInP量子ドット前駆体形成への悪影響を効果的に低減し、InP系量子ドットの半値全幅を一層狭いものとする観点から、下記式(4)で表されるシリルエーテル化合物の含有量が0.50モル%以下であることが好ましく、0.30モル%以下であることがより好ましく、0.15モル%以下であることが更に好ましい。
【0033】
【化6】
(Rは式(1)と同じである。)
【0034】
式(1)のシリルホスフィン化合物は、不純物によるInP量子ドット前駆体形成への悪影響を効果的に低減し、InP量子系ドットの半値全幅を一層狭いものとする観点から、下記式(5)で表される化合物の含有量が0.50モル%以下であることが好ましく、0.30モル%以下であることがより好ましく、0.15モル%以下であることが一層好ましく、0.05モル%以下であることが特に好ましい。
【0035】
【化7】
(Rは式(1)と同じである。)
【0036】
式(1)のシリルホスフィン化合物は、不純物によるInP量子ドット前駆体形成への悪影響を効果的に低減し、InP系量子ドットの半値全幅を一層狭いものとする観点から、式(6)で表される化合物の含有量が0.30モル%以下であることが好ましく、0.15モル%以下であることがより好ましく、0.05モル%以下であることが特に好ましい。
【0037】
【化8】
(Rは式(1)と同じである。)
【0038】
式(1)のシリルホスフィン化合物は、不純物によるInP量子ドット前駆体形成への悪影響を効果的に低減し、InP系量子ドットの半値全幅を一層狭いものとする観点から、式(7)で表される化合物の含有量が1.0モル%以下であることが好ましく、0.5モル%以下であることがより好ましく、0.2モル%以下であることが特に好ましい。
【0039】
【化9】
(Rは式(1)と同じである。)
【0040】
式(2)で表される化合物に加え、式(3)~(7)で表される化合物のいずれか1種又は2種以上若しくはすべてが上記上限以下であるシリルホスフィン化合物は、特にInP量子ドット前駆体の合成に用いられた場合に、一層クラスター形成が良好となり、得られる量子ドットの粒子分布が狭いものとなる。上記で挙げた式(2)~(7)で表される化合物の好ましい含有量は、式(1)で表される化合物に対する割合である。
【0041】
式(2)で表される化合物の含有量を前記の上限以下とするためには、後述する式(1)で表される化合物の好適な製造方法を採用し、当該製造方法においてシリル化剤とホスフィンとの量比を調整すればよい。式(2)で表される化合物の含有量は、31P-NMRによる分析により例えば後述する実施例に記載の方法にて測定することができる。
【0042】
式(3)で表される化合物を前記の上限以下とするためには、後述する式(1)で表される化合物の好適な製造方法を採用し、当該製造方法においてシリル化剤とホスフィンとの量比を調整すればよい。式(3)で表される化合物の含有量は、31P-NMRによる分析により例えば後述する実施例に記載の方法にて測定することができる。
【0043】
式(4)で表される化合物を前記の上限以下とするためには、後述する式(1)で表される化合物の好適な製造方法を採用すればよい。式(4)で表される化合物の含有量は、ガスクロマトグラフィーによる分析により例えば後述する実施例に記載の方法にて測定することができる。
【0044】
式(5)で表される化合物を前記の上限以下とするためには、後述する式(1)の化合物の好適な製造方法を採用し、当該製造方法において第一工程ないし第三工程を不活性雰囲気下にて行えばよい。式(5)で表される化合物の含有量は、31P-NMRによる分析により例えば後述する実施例に記載の方法にて測定することができる。
【0045】
式(6)で表される化合物を前記の上限以下とするためには、後述する式(1)の化合物の好適な製造方法を採用し、当該製造方法において第一工程ないし第三工程を不活性雰囲気下にて行えばよい。式(6)で表される化合物の含有量は、31P-NMRによる分析により例えば後述する実施例に記載の方法にて測定することができる。
【0046】
式(7)で表される化合物を前記の上限以下とするためには、後述する式(1)の化合物の好適な製造方法を採用し、その際に高沸点成分を分離すればよい。式(7)で表される化合物の含有量は、31P-NMRによる分析により例えば後述する実施例に記載の方法にて測定することができる。
【0047】
上述した式(2)~(7)で表される化合物量は、シリルホスフィン化合物が粉末等の固形状として存在している場合にも、溶媒中に分散して存在している場合にも当てはまる。つまり、前者の場合、上記で挙げた式(2)~(7)で表される化合物の好ましいモル比は、シリルホスフィン化合物からなる粉末等の固体中における、式(2)~(7)で表される化合物の式(1)の化合物に対するモル比を意味する。後者の場合、上記の好ましいモル比は、シリルホスフィン化合物が分散している分散液における、式(2)~(7)で表される化合物の式(1)の化合物に対するモル比を意味する。
【0048】
本発明で用いる式(1)で表される化合物の純度は99.0モル%以上であることが好ましく、99.3モル%以上であることがより好ましく、99.5モル%以上であることが特に好ましい。式(1)で表される化合物の純度は、31P-NMRによる分析により例えば後述する実施例に記載の方法にて測定することができる。
【0049】
(式(1)の化合物の好適な製造方法)
上記のように式(2)~(7)で表される化合物の含量が少ない式(1)のシリルホスフィン化合物の入手方法としては、下記の好適な製造方法を採用することが挙げられる。以下本製造方法を詳述する。
比誘電率が4以下である溶媒と、塩基性化合物と、シリル化剤と、ホスフィンとを混合してシリルホスフィン化合物を含む溶液を得る第一工程、シリルホスフィン化合物を含む溶液から溶媒を除去してシリルホスフィン化合物の濃縮液を得る第二工程、及び、シリルホスフィン化合物の濃縮液を蒸留することによりシリルホスフィン化合物を得る第三工程、を有するシリルホスフィン化合物の製造方法。
【0050】
シリル化剤としては、式(I)で挙げる化合物が好ましく挙げられる。
【化10】
(Rは式(1)と同じであり、Xはフルオロスルホン酸基、フルオロアルカンスルホン酸基、アルカンスルホン酸基及び過塩素酸基から選ばれる少なくとも1種である。)
【0051】
シリル化剤が式(I)で表される化合物である場合における式(1)の化合物を製造する反応の一例を下記の反応式として示す。シリル化剤は混合溶液に導入するホスフィンに対する割合が3倍モル超、更には3.01倍モル以上、特に3.05倍モル以上であることがより好ましい。混合溶液中のシリル化剤は、余剰のシリル化剤の残留量を低減して純度を高める点や、製造コスト低減の点から混合溶液に導入するホスフィンに対して6倍モル以下であることが好ましく、4倍モル以下であることが特に好ましく、3.5倍モル以下であることが最も好ましい。
【0052】
【化11】
(前記式中、R及びXは式(I)と同じであり、BAは1価の塩基である。)
【0053】
溶媒は、比誘電率が4以下のものを用いると、式(1)のシリルホスフィン化合物の加水分解を抑制して(2)~(4)の式で表される不純物の生成を抑制できるため好ましい。
比誘電率とは、その物質の誘電率の真空の誘電率に対する比をいう。一般に溶媒の極性が大きくなるに従い比誘電率は大きくなる。本実施態様における溶媒の比誘電率として"
化学便覧 基礎編 改訂5版"(社団法人日本化学会編、平成16年2月20日出版、II
-620~II-622頁)記載の値を用いることができる。
【0054】
比誘電率が4以下の溶媒は有機溶媒であり、炭化水素が好ましく挙げられ、特に塩素原子非含有の炭化水素が好ましく、とりわけハロゲン原子非含有の炭化水素が好ましい。溶媒の具体例としては非環式若しくは環式の脂肪族炭化水素化合物、及び、芳香族炭化水素化合物が挙げられる。非環式脂肪族炭化水素化合物としては、炭素原子数5以上10以下のものが好ましく挙げられ、例えばペンタン(比誘電率1.8371)、n-ヘキサン(比誘電率1.8865)、n-ヘプタン(比誘電率1.9209)、n-オクタン(比誘電率1.948)、n-ノナン(比誘電率1.9722)、n-デカン(比誘電率1.9853)が特に好ましいものとして挙げられる。また環式脂肪族炭化水素化合物としては、炭素原子数5以上8以下のものが好ましく挙げられ、例えばシクロヘキサン(比誘電率2.0243)、シクロペンタン(比誘電率1.9687)が特に好ましいものとして挙げられる。芳香族炭化水素化合物としては炭素原子数6以上10以下のものが好ましく挙げられ、ベンゼン(比誘電率2.2825)、トルエン(比誘電率2.379)及びp-キシレン(比誘電率2.2735)が特に好ましいものとして挙げられる。
【0055】
塩基性化合物は水に溶けたときに水酸化物イオンを与える狭義の塩基のみならず、プロトンを受け取る物質や電子対を与える物質などの広義の塩基も包含する。塩基性化合物は特に、アミン類であることがホスフィンとの副反応を抑制できる点で好ましい。
【0056】
第二工程における溶媒の除去方法としては、式(1)で表されるシリルホスフィン化合物を含む溶液を、目的とする該シリルホスフィン化合物がほとんど残留する条件下に減圧下に加熱して溶媒を蒸発させる方法が挙げられる。この処理は例えばロータリーエバポレーター等、溶媒を除去するための任意の蒸留器で行うことができる。第二工程において式(1)で表されるシリルホスフィン化合物を含む溶液を減圧下に加熱する際の液温は、効率的に溶媒除去する観点及び、シリルホスフィン化合物の分解や変質を防止する観点から、最高液温が20℃以上140℃以下であることが好ましく、25℃以上90℃以下であることがより好ましい。同様の観点から、減圧時の圧力(最低圧力)は、絶対圧基準で2kPa以上20kPa以下が好ましく、5kPa以上10kPa以下がより好ましい。濃縮は不活性雰囲気下で行われることが好ましい。
【0057】
次いで、第二工程で得られた濃縮液を蒸留する第三工程を行う。蒸留の条件は、式(1)で表されるシリルホスフィン化合物が気化する条件であり、蒸留温度(塔頂温度)が50℃以上であることが、目的化合物の分離性に優れる点で好ましい。蒸留温度は150℃以下であることが、目的化合物の分解抑制や品質維持の点で好ましい。これらの点から、蒸留温度は、50℃以上150℃以下であることが好ましく、70℃以上120℃以下であることがより好ましい。
【0058】
蒸留の際の圧力は絶対圧基準で0.01kPa以上であることが効率よく純度の高い目的化合物が回収できる点で好ましい。また蒸留の際の圧力は絶対圧基準で5kPa以下であることが、式(1)で表されるシリルホスフィン化合物の分解や変質を抑制でき、該シリルホスフィン化合物を高純度及び高収率で得やすい観点で好ましい。これらの点から、蒸留の際の圧力は0.01kPa以上5kPa以下が好ましく、0.1kPa以上4kPa以下がより好ましい。蒸留は不活性雰囲気下で行われることが好ましい。
【0059】
初留分は溶媒、塩基性化合物、シリル化剤、又は各成分の微量の分解物等が含まれるため、これを除去することで、純度を向上させることができる。
【0060】
以上の工程により、目的とする式(1)で表されるシリルホスフィン化合物が得られる。得られるシリルホスフィン化合物は酸素、水分等との接触を極力排除した環境下、液体もしくは固体状で保管されるか、或いは、適切な溶媒に分散された分散液状として保管される。分散液には溶液も含まれる。
【0061】
式(1)で表されるシリルホスフィン化合物を分散させる溶媒は、有機溶媒であり、特に非極性溶媒であることが、水の混入を防止して、該シリルホスフィン化合物の分解を防止する点から好ましい。例えば、非極性溶媒としては、飽和脂肪族炭化水素、不飽和脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素化合物、トリアルキルホスフィン等が挙げられる。飽和脂肪族炭化水素としては、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、n-ノナン、n-デカン、n-ドデカン、n-ヘキサデカン、n-オクタデカンが挙げられる。不飽和脂肪族炭化水素としては、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン等が挙げられる。芳香族炭化水素としてはベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン等が挙げられる。トリアルキルホスフィンとしては、トリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリデシルホスフィン、トリヘキシルホスフィン、トリオクチルホスフィン、トリドデシルホスフィン、トリドデシルホスフィン等が挙げられる。式(1)で表されるシリルホスフィン化合物を分散させる有機溶媒は沸点が高いことが、自然発火性を有するシリルホスフィン化合物を安定に保管及び運搬等の取り扱いができるため好ましい。有機溶媒の好ましい沸点は、50℃以上であり、より好ましくは60℃以上である。有機溶媒の沸点の上限としては、270℃以下(絶対圧0.1kPa)であることが、これを原料として製造される有機合成品や量子ドットの物性への影響の観点から好ましい。
【0062】
溶媒は、式(1)で表されるシリルホスフィン化合物を分散させる前に十分に脱水しておくことが、水と反応することによるシリルホスフィン化合物の分解及びそれによる不純物の生成を防止するために好ましい。当該溶媒中の水分量は、質量基準で20ppm以下であることが好ましく、10ppm以下であることが好ましい。水分量は後述する実施例に記載の方法にて測定できる。このような条件とするために、例えば、溶媒は、減圧下又は真空条件下で加熱しながら、脱気及び脱水した後に、窒素ガス雰囲気下、式(1)で表されるシリルホスフィン化合物と混合するとともに気密な容器に充填する。これらの処理により、不純物を十分に低減された式(1)で表されるシリルホスフィン化合物の分散液を容易に得ることができる。式(1)で表されるシリルホスフィン化合物の分散液中、該シリルホスフィン化合物の割合は、3質量%以上50質量%以下が好ましく、8質量%以上30質量%以下がより好ましい。
【0063】
上記製造方法によれば、特定溶媒を用い、特定の工程を経ることにより、各種不純物量が低減した高純度の3級シリルホスフィン化合物を得ることができる。
なお、上記製造方法を採用せずに、式(2)の化合物量が上記上限以下に低減した式(1)のシリルホスフィン化合物を入手してもよい。
【0064】
(インジウム源)
本発明のInP量子ドット前駆体の製造方法では、上記式(1)で表されるシリルホスフィン化合物を含むリン源とインジウム源とを反応させるものである。前記インジウム源としては、採用する化学合成法に合わせて種々のものを用いることができる。InP量子ドット前駆体を得やすい観点や入手容易性、得られるInP系量子ドットの粒径分布制御の観点から、有機カルボン酸インジウムが好適に挙げられる。例えば、酢酸インジウム、ギ酸インジウム、プロピオン酸インジウム、酪酸インジウム、吉草酸インジウム、カプロン酸インジウム、エナント酸インジウム、カプリル酸インジウム、ペラルゴン酸インジウム、カプリン酸インジウム、ラウリン酸インジウム、ミリスチン酸インジウム、パルミチン酸インジウム、マルガリン酸インジウム、ステアリン酸インジウム、オレイン酸インジウム、2-エチルヘキサン酸インジウムなどの飽和脂肪族インジウムカルボキシレート;オレイン酸インジウム、リノール酸インジウムなどの不飽和インジウムカルボキシレートなどを好適に用いることができる。特に入手容易性、粒径分布制御の観点から、酢酸インジウム、ラウリル酸インジウム、ミリスチン酸インジウム、パルミチン酸インジウム、ステアリン酸インジウム、オレイン酸インジウムからなる群より選ばれる少なくとも一種を用いることが好ましい。特に好ましくは炭素原子数12以上18以下の高級カルボン酸のインジウム塩が好ましい。
【0065】
本発明で用いるインジウム源として、カルボン酸インジウムを用いる場合、当該カルボン酸インジウムは、水酸基を含まないことが、上記の通り特定の不純物が少ないリン源を用いることと併せて相乗的に高い品質のInP量子ドット前駆体が得られる点で好ましい。インジウム源が水酸基を含まないとは、水酸基を含有するカルボン酸インジウムを実質的に非含有であることを指す。カルボン酸インジウムが水酸基を含まないことは、具体的には、IRスペクトルの測定により確認する。カルボン酸インジウムはそのIRスペクトルにおいて1600cm-1付近に水酸基に由来する吸収ピークが観察されないことが好ましい。1600cm-1付近とは、具体的には1500cm-1以上1700cm-1以下を指すことが好ましく、1550cm-1以上1650cm-1以下を指すことがより好ましい。
【0066】
(カルボン酸インジウムの好適な製造方法)
以下水酸基を有しないカルボン酸インジウムの製造方法の例として、高級カルボン酸のインジウム塩の好適な製造方法を下記に詳述する。
本製造方法は以下の2工程に大別される。
・第1工程
下記の式(A)
In(RCOO)3-x(OH) (A)
(式中、Rは水素原子又は炭素原子数1以上5以下の直鎖又は分岐鎖の脂肪族基であり、xは0超3未満の数である。)
で表される水酸基含有カルボン酸インジウムと、
下記の式(B)
R’COOH (B)
(式中、R’は水素原子又は炭素原子数1以上5以下の直鎖又は分岐鎖の脂肪族基であり、該脂肪族基中の水素原子は、その少なくとも1つがハロゲン原子で置換されていてもよい。)で表される低級カルボン酸とを反応させて生成物を得る工程。
・第2工程
第1工程で得られた前記生成物と、炭素原子数12以上の高級カルボン酸とを反応させる工程。
以下、各工程について詳細に説明する。
【0067】
第1工程において用いられるIn(RCOO)3-x(OH)で表される水酸基含有カルボン酸インジウムにおいて、Rは水素原子、炭素原子数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖の脂肪族基を表す。炭素原子数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖の脂肪族基としては、飽和又は不飽和の脂肪族基を用いることができる。例えばRとして、水素原子又は炭素原子数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖の飽和脂肪族基を用いることができる。具体的にはギ酸、酢酸、プロピオン酸、イソ酪酸、酪酸、イソ吉草酸、吉草酸又はカプロン酸から誘導される基を用いることができる。
【0068】
式(A)で表される水酸基含有カルボン酸インジウムは、In(RCOO)(式中、Rの定義は前記と同じである。)で表されるカルボン酸インジウムの劣化によって生成するものである。In(RCOO)の劣化は、この化合物を常温、大気下の通常の雰囲気に置いておくことでも起こるが、冷暗室等の保管に適した環境下でも経時的に起こる。劣化の程度は、In(RCOO)におけるRCOO基がOH基に置換される程度で評価できる。すなわち式(A)におけるxの値に基づきIn(RCOO)の劣化の程度を評価できる。xの値は0超3未満の任意の値をとり、xの数が大きいほどIn(RCOO)の劣化が進行していることを意味する。また劣化の程度は、カルボン酸インジウムのIRスペクトルを測定し、1500cm-1以上1700cm-1以下の範囲に水酸基に由来する吸収ピークが観察されるか否かによっても確認できる。
【0069】
第1工程においては、In(RCOO)3-x(OH)で表される水酸基含有カルボン酸インジウムと、R’COOHで表される低級カルボン酸とを反応させる。本発明において「低級カルボン酸」とは、炭素原子数が5以下である飽和又は不飽和のカルボン酸を意味する。「低級カルボン酸」はR’COOHで表される一価のカルボン酸のことであり、R’COOHの塩やエステルなどの各種誘導体は、低級カルボン酸に包含されない。R’は水素原子又は炭素原子数1以上5以下の直鎖又は分岐鎖の脂肪族基である。R’が炭素原子数1以上5以下の直鎖又は分岐鎖の脂肪族基である場合、該脂肪族基としては、飽和又は不飽和の脂肪族基を用いることができる。例えばR’として、水素原子又は炭素原子数1以上5以下の直鎖又は分岐鎖の飽和脂肪族基を用いることができる。具体的にはギ酸、酢酸、プロピオン酸、イソ酪酸、酪酸、イソ吉草酸、吉草酸又はカプロン酸から誘導される基を用いることができる。
【0070】
R’が脂肪族基である場合、該脂肪族基中の水素原子は、その少なくとも1つがハロゲン原子で置換されていてもよい。ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素を用いることができる。R’中に1種類のみのハロゲン原子が存在していてもよく、2種類以上のハロゲン原子が存在していてもよい。ハロゲン原子は電子吸引性を有することから、R’中の水素原子がハロゲン原子で置換されていることによって、式(B)で表される低級カルボン酸の酸性が高まる。その結果、式(B)で表される低級カルボン酸と、式(A)で表される水酸基含有カルボン酸インジウムとの反応が促進される。この利点を一層顕著なものとする観点から、R’における脂肪族基中の水素原子のうちの少なくとも一つがフッ素で置換されていることが好ましく、該脂肪族基中のすべての水素原子がフッ素で置換されていることがより好ましい。
【0071】
また、このような酸性の高まった低級カルボン酸を、反応促進を目的として、触媒的に微量に添加してもよい。ハロゲン原子で置換された低級カルボン酸を触媒的に添加する場合には、その添加量は、水酸基含有カルボン酸インジウム中の水酸基1モルに対して0.01モル以上10モル以下とすることが好ましく。0.05モル以上5モル以下とすることが更に好ましく、0.1モル以上1モル以下とすることが一層好ましい。
【0072】
第1工程においては、In(RCOO)3-x(OH)で表される水酸基含有カルボン酸インジウムと同じRCOO基を有する低級カルボン酸を用いることが好ましい。In(RCOO)3-x(OH)と同じRCOOを有する低級カルボン酸とは、例えば水酸基含有カルボン酸インジウムがIn(CHCOO)3-x(OH)で表される場合、低級カルボン酸としてCHCOOHを用いるという意味である。式(A)で表される水酸基含有カルボン酸インジウムと同じRCOOを有する低級カルボン酸とを反応させることには、第1工程での品質確認が容易となる、後述する第2工程での低級カルボン酸と高級カルボン酸の置換反応の進捗確認が容易となる等の利点がある。
【0073】
第1工程においては、In(RCOO)3-x(OH)で表される水酸基含有カルボン酸インジウムと同じRCOO基(ただし、Rにおける水素原子の少なくとも1つがハロゲン原子で置換されている。)を有する低級カルボン酸を用いることも好ましい。ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素を用いることができる。R中に1種類のみのハロゲン原子が存在していてもよく、2種類以上のハロゲン原子が存在していてもよい。R中の水素原子がハロゲン原子で置換されていることの利点は上述したとおりである。式(B)で表される低級カルボン酸と、式(A)で表される水酸基含有カルボン酸インジウムとの反応を促進させる観点から、R中の水素原子のうちの少なくとも一つがフッ素で置換されていることが好ましく、R中のすべての水素原子がフッ素で置換されていることが好ましい。
【0074】
水酸基含有カルボン酸インジウムと低級カルボン酸との反応は、水酸基含有カルボン酸インジウムに対して等量以上の低級カルボン酸を存在させた条件下に行うことが好ましい。このような条件下に反応を行うことで、水酸基含有カルボン酸インジウムにおける水酸基と、低級カルボン酸におけるR’COO基との置換反応が進行しやすくなり、カルボン酸インジウムであるIn(RCOO)3-x(R’COO)が首尾よく生成する。この利点を一層顕著なものとする観点から、低級カルボン酸の量は、水酸基含有カルボン酸インジウム中の水酸基1モルに対して1モル以上3000モル以下とすることが好ましく、1モル以上1000モル以下とすることが更に好ましく、1モル以上500モル以下とすることが一層好ましい。低級カルボン酸の量は、実際に添加する低級カルボン酸の量と、後述する酸無水物を用いる場合には、該酸無水物と水との反応によって生成する低級カルボン酸の量との総和である。
【0075】
水酸基含有カルボン酸インジウムと低級カルボン酸とを反応させるときには、水酸基含有カルボン酸インジウム中に低級カルボン酸を一括で又は逐次で添加してもよく、逆に低級カルボン酸中に水酸基含有カルボン酸インジウムを一括で又は逐次で添加してもよい。あるいは両者を同時に一括で又は逐次で添加してもよい。どのような添加形態を採用する場合であっても、反応は室温、すなわち非加熱下で行うか、又は加熱下に行うことができる。加熱下で反応を行う場合、反応温度は、使用する低級カルボン酸にもよるが、反応効率を高める観点から、30℃以上200℃以下とすることが好ましく、50℃以上150℃以下とすることが更に好ましく、80℃以上120℃以下とすることが一層好ましい。このときの反応時間は、十分な収率を得る観点から、5分以上600分以下とすることが好ましく、15分以上300分以下とすることが更に好ましく、30分以上180分以下とすることが一層好ましい。加熱下で反応を行う場合には、還流させながら反応を行うことが、高い収率を得る観点から好ましい。
【0076】
水酸基含有カルボン酸インジウムと低級カルボン酸との反応を首尾よく進める観点から、反応は、非プロトン性有機溶媒中で、又は求核性が低いプロトン性有機溶媒中で行ってもよい。プロトン性有機溶媒としては、例えばニトロメタン等が挙げられる。非プロトン性有機溶媒としては、例えばアセトン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、トルエン、キシレン、ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、クロロベンゼン等が挙げられる。
【0077】
第1工程における水酸基含有カルボン酸インジウムと低級カルボン酸との反応は以下の式にしたがって進行する。
In(RCOO)3-x(OH)+nR’COOH⇔In(RCOO)3-y(R’COO)+xH
(式中、xは前記と同じである。yは0超3以下の数である。nはx以上の数である。)
この反応式から明らかなとおり、水酸基含有カルボン酸インジウムと低級カルボン酸とが反応すると水が副生する。水の存在は、第1工程での目的物であるIn(RCOO)3-y(R’COO)の純度に影響を及ぼす可能性がある。したがって、副生物である水を反応系から除去することが有利である。この観点から、水酸基含有カルボン酸インジウムと低級カルボン酸とを反応させる場合には、脱水剤を共存させておくことが好ましい。脱水剤としては、特に酸無水物(一価のカルボン酸の無水物)を用いることが、副生する水との反応によって酸無水物から低級カルボン酸が生成し、生成した低級カルボン酸が水酸基含有カルボン酸インジウムと反応できることに起因して、第1工程での目的物であるIn(RCOO)3-y(R’COO)の純度を高める観点から好ましい。脱水剤として用いる酸無水物は(R”CO)Oで表される構造を有する。R”は水素原子又は炭素原子数1以上5以下の直鎖又は分岐鎖の脂肪族基を表す。R”はR及び/又はR’と同じであってもよく、あるいは異なっていてもよい。つまり、低級カルボン酸と同種又は異種のカルボン酸の無水物を脱水剤として用いることができる。第1工程での目的物であるIn(RCOO)3-y(R’COO)の純度を一層高める観点からは、R”はR’と同じであることが有利であり、R”はR及びR’と同じであることが有利である。つまり、水酸基含有カルボン酸インジウムがIn(RCOO)3-x(OH)で表される場合、低級カルボン酸は、水酸基含有カルボン酸インジウムと同じRCOO基を有し、且つ酸無水物は、水酸基含有カルボン酸インジウムと同じRCO基を有することが好ましい。
【0078】
脱水剤として用いる酸無水物の量は、水酸基含有カルボン酸インジウムと低級カルボン酸との反応で副生する水を除去可能な量であればよい。具体的には、1モルの水酸基含有カルボン酸インジウムの水酸基1モルに対して、好ましくは0.1モル以上100モル以下、更に好ましくは1モル以上50モル以下、一層好ましくは1モル以上20モル以下、の酸無水物を反応系に加える。
【0079】
第1工程によって、In(RCOO)3-y(R’COO)を含む生成物が得られる。次いで、この生成物を高級カルボン酸と反応させる第2工程を行う。第1工程の生成物と高級カルボン酸とを反応させるときには、第1工程の生成物中に高級カルボン酸を一括で又は逐次で添加してもよく、逆に高級カルボン酸中に第1工程の生成物を一括で又は逐次で添加してもよい。あるいは両者を同時に一括で又は逐次で添加してもよい。
【0080】
第2工程においては、高級カルボン酸を反応物として用いることに加えて溶媒としても用いることが有利である。この観点から、第1工程の生成物に含まれるIn(RCOO)3-y(R’COO)に対して過剰量の高級カルボン酸を存在させた条件下に反応を行うことが好ましい。このような条件下に反応を行うことで、In(RCOO)3-y(R’COO)におけるRCOO基及びR’COO基と高級カルボン酸との交換反応を円滑に進行させることが可能となる。この利点を一層顕著なものとする観点から、高級カルボン酸の量は、1モルのIn(RCOO)3-y(R’COO)に対して3モル以上100モル以下とすることが好ましく、3モル以上50モル以下とすることが更に好ましく、4モル以上30モル以下とすることが一層好ましい。
【0081】
反応は室温、すなわち非加熱下で行うか、又は加熱下に行うことができる。加熱下で反応を行う場合、反応温度は、高級カルボン酸の沸点に応じて適切に設定することが望ましく、一般的には20℃以上300℃以下とすることが好ましく、50℃以上250℃以下とすることが更に好ましく、80℃以上200℃以下とすることが一層好ましい。このときの反応時間は、十分な収率を得る観点から、10分以上900分以下とすることが好ましく、30分以上600分以下とすることが更に好ましく、60分以上300分以下とすることが一層好ましい。
【0082】
また、第2工程における反応を首尾よく進める観点から、反応は、非プロトン性有機溶媒中で、又は求核性が低いプロトン性有機溶媒中で行ってもよい。プロトン性有機溶媒としては、例えばニトロメタン等が挙げられる。非プロトン性有機溶媒としては、例えばアセトン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、トルエン、キシレン、ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、クロロベンゼン等が挙げられる。
【0083】
第2工程で用いる高級カルボン酸は炭素原子数12以上のものである。高級カルボン酸としては一価カルボン酸又は多価カルボン酸を用いることができる。本製造方法の目的物であるカルボン酸インジウムを量子ドットの原料として用いる場合には、高級カルボン酸として一価カルボン酸を用いることが有利である。
【0084】
一価の高級カルボン酸はRCOOHで表される。式中Rは炭素原子数11以上、好ましくは炭素原子数11以上19以下の直鎖又は分岐鎖の脂肪族基を表す。この脂肪族基としては、飽和又は不飽和の脂肪族基を用いることができる。つまり、高級カルボン酸として、炭素原子数12以上、好ましくは炭素原子数12以上20以下である直鎖の飽和又は不飽和カルボン酸を用いることができる。
【0085】
本製造方法の目的物であるカルボン酸インジウムを量子ドットの原料として用いる場合には、Rとして、炭素原子数11以上、特に炭素原子数11以上19以下の直鎖又は分岐鎖の飽和脂肪族基を用いることが好ましい。具体的には、ラウリン酸トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ノナデシル酸、アラキジン酸又はオレイン酸を用いることが好ましい。これらの高級カルボン酸は一種を単独で用いることができ、あるいは二種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0086】
第2工程における反応は以下の式にしたがって進行する。
In(RCOO)3-y(R’COO)+3RCOOH→
In(RCOO)+(3-y)RCOOH+yR’COOH
この式から明らかなとおり、反応によってRCOOH及びR’COOH、すなわち低級カルボン酸が生成する。したがって、反応系から低級カルボン酸を除去すれば反応が一層促進され、In(RCOO)の収率が高まる。低級カルボン酸は低沸点の化合物であることが知られているから、反応系から低級カルボン酸を除去するためには、反応系を減圧状態にすることが有利である。こうすることで低級カルボン酸が気化しやすくなり、反応系から容易に除去可能となる。この観点から、第2工程における反応系の圧力を0.1Pa以上10kPa以下、特に0.5Pa以上5kPa以下、とりわけ1Pa以上1kPa以下とすることが好ましい。
【0087】
第2工程の反応が終了したら、貧溶媒であるアセトン等を反応系に添加して、目的とする生成物である高級カルボン酸のインジウム塩であるIn(RCOO)を沈殿させる。この沈殿物を濾別し、有機溶媒でリパルプ洗浄し、乾燥させることで、水酸基を含有しない高純度のカルボン酸インジウムが得られる。
【0088】
(リン源とインジウム源との反応)
本発明の製造方法は、式(2)の不純物が少ない式(1)で表されるシリルホスフィン化合物とインジウム源とを混合して、20℃以上150℃以下の温度で反応させるものであることが好ましい。化学合成法としては、例えば、ゾルゲル法(コロイド法)、ホットソープ法、逆ミセル法、ソルボサーマル法、分子プレカーサ法、水熱合成法、又は、フラックス法等が挙げられる。
【0089】
反応時におけるリン源及びインジウム源の混合モル比は、首尾よくInP量子ドット前駆体を得る点から、P:Inが1:0.5以上10以下であることが好ましく、1:1以上5以下であることがより好ましい。
【0090】
リン源とインジウム源との反応は、有機溶媒中で行うことが反応性、安定性の観点から好ましい。有機溶媒としては、リン源、インジウム源等の安定性の点から非極性溶媒が挙げられ、反応性、安定性の点で脂肪族炭化水素、不飽和脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、トリアルキルホスフィン、トリアルキルホスフィンオキシド等の溶媒が好ましく挙げられる。脂肪族炭化水素としては、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、n-ノナン、n-デカン、n-ドデカン、n-ヘキサデカン、n-オクタデカンが挙げられる。不飽和脂肪族炭化水素としては、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン等が挙げられる。芳香族炭化水素としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン等が挙げられる。トリアルキルホスフィンとしては、トリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリデシルホスフィン、トリヘキシルホスフィン、トリオクチルホスフィン、トリドデシルホスフィン等が挙げられる。トリアルキルホスフィンオキシドとしては、トリエチルホスフィンオキシド、トリブチルホスフィンオキシド、トリデシルホスフィンオキシド、トリヘキシルホスフィンオキシド、トリオクチルホスフィンオキシド、トリドデシルホスフィンオキシド等が挙げられる。
【0091】
溶媒は、使用前に脱水しておくことが、水と反応することによるシリルホスフィン化合物の分解及びそれによる不純物の生成を防止するために好ましい。当該溶媒中の水分量は、質量基準で20ppm以下であることが好ましい。水分量は後述する実施例に記載の方法にて測定できる。また溶媒は使用前に脱気し、酸素を除去しておくことも好ましい。脱気は反応器内の不活性雰囲気への置換等の任意の方法にて可能である。
【0092】
リン源及びインジウム源を混合した反応液におけるリン源、インジウム源の各濃度は、例えば反応液100gに対して、リン原子基準のリン源の濃度、及び、インジウム原子基準のインジウム源の濃度がそれぞれ0.1mmol以上10mmol以下の範囲であることが、反応性や安定性の点で好ましく、0.1mmol以上3mmol以下の範囲であることがより好ましい。
【0093】
リン源及びインジウム源を混合する方法としては、リン源及びインジウム源をそれぞれ有機溶媒に溶解させ、リン源を有機溶媒に溶解させた溶液と、インジウム源を有機溶媒に溶解させた溶液とを混合することが、InP量子ドット前駆体を生成しやすい点で好ましい。リン源を溶解させる溶媒と、インジウム源を溶解させる溶媒は、同じものを用いてもよく、異なっていてもよい。
【0094】
この場合、リン源を有機溶媒に溶解させた溶液におけるリン源のリン原子基準の濃度は20mmol/L以上2000mmol/L以下の範囲であることが、反応性や安定性の点で好ましく、80mmol/L以上750mmol/L以下の範囲であることがより好ましい。またンジウム源を有機溶媒に溶解させた溶液におけるインジウム原子基準の濃度は0.1mmol/L以上20mmol/L以下の範囲であることが、反応性や安定性の点で好ましく、0.2mmol/L以上10mmol/L以下の範囲であることがより好ましい。
【0095】
リン源及びインジウム源を含む反応液には、配位子となり得る添加剤を加えることが、得られるInP量子ドット前駆体及びInP系量子ドットの品質が改善する点で好ましい。発明者は、配位子となり得る添加剤がInに配位するか或いは反応場の極性を変化させることが、InP量子ドット前駆体及びInP系量子ドットの品質に影響するものと考えている。そのような添加剤としてはホスフィン誘導体、アミン誘導体、ホスホン酸等が挙げられる。
【0096】
前記ホスフィン誘導体としては、1級以上3級以下のアルキルホスフィンであることが好ましく、分子中のアルキル基が炭素原子数2以上18以下の直鎖状のものが好ましく挙げられる。分子中のアルキル基は同一であっても異なっていてもよい。アルキル基が炭素原子数2以上18以下の直鎖状であるアルキルホスフィンとしては、具体的には、モノエチルホスフィン、モノブチルホスフィン、モノデシルホスフィン、モノヘキシルホスフィン、モノオクチルホスフィン、モノドデシルホスフィン、モノヘキサデシルホスフィン、ジエチルホスフィン、ジブチルホスフィン、ジデシルホスフィン、ジヘキシルホスフィン、ジオクチルホスフィン、ジドデシルホスフィン、ジヘキサデシルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリデシルホスフィン、トリヘキシルホスフィン、トリオクチルホスフィン、トリドデシルホスフィン、トリヘキサデシルホスフィンが挙げられる。中でも、得られるInP量子ドット前駆体及び量子ドットの品質向上の点で、分子中のアルキル基の炭素原子数が4以上12以下のものが特に好ましく、トリアルキルホスフィンであるものが好ましく、トリオクチルホスフィンが最も好ましい。
【0097】
前記アミン誘導体としては、1級以上3級以下のアルキルアミンであることが好ましく、分子中のアルキル基が炭素原子数2以上18以下の直鎖状のものが好ましく挙げられる。分子中のアルキル基は同一であっても異なっていてもよい。アルキル基が炭素原子数2以上18以下の直鎖状であるアルキルアミンとしては、具体的には、モノエチルアミン、モノブチルアミン、モノデシルアミン、モノヘキシルアミン、モノオクチルアミン、モノドデシルアミン、モノヘキサデシルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、ジデシルアミン、ジヘキシルアミン、ジオクチルアミン、ジドデシルアミン、ジヘキサデシルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリデシルアミン、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリドデシルアミン、トリヘキサデシルアミンが挙げられる。また、前記ホスホン酸としては、分子中のアルキル基が炭素原子数2以上18以下の直鎖状のアルキル基を有するモノアルキルホスホン酸であることが好ましい。
【0098】
リン源及びインジウム源を含む反応液における配位子となり得る添加剤の添加量は、1モルのInに対し、0.2モル以上であることが、配位子となり得る添加剤を添加することによる、InP量子ドット前駆体及びInP量子ドットの品質向上効果を高める点で好ましい。配位子となり得る添加剤の添加量は、1モルのInに対し、20モル以下であることが、品質向上効果の点で好ましい。これらの点から、配位子となり得る添加剤の添加量は、1モルのInに対し、0.5モル以上15モル以下であることがより好ましい。
【0099】
配位子となり得る添加剤の反応液への添加のタイミングは、配位子となり得る添加剤をインジウム源と混合させて混合液とし、この混合液をリン源と混合してもよいし、配位子となり得る添加剤をリン源と混合させて混合液とし、この混合液をインジウム源と混合してもよいし、配位子となり得る添加剤をリン源及びインジウム源の混合液と混合させてもよい。
【0100】
リン源を有機溶媒に溶解させた溶液と、インジウム源を有機溶媒に溶解させた溶液とは、混合前に後述する好ましい反応温度又はそれよりも低温又は高温に予備的に加熱してもよく、混合後に、後述する好ましい反応温度に加熱してもよい。予備的な加熱温度として、反応温度の±10℃以内であり且つ20℃以上の温度であることが反応性、安定性の観点から好ましく、反応温度の±5℃以内であり且つ30℃以上の温度であることがより好ましい。
【0101】
反応性、安定性の観点からリン源とインジウム源との反応温度は、20℃以上150℃以下が好ましく、40℃以上120℃以下がより好ましい。反応性、安定性の観点から前記反応温度における反応時間は0.5分以上180分以下が好ましく、1分以上80分以下がより好ましい。
以上の工程により、InP量子ドット前駆体を含む反応液が得られる。
【0102】
(InP系量子ドットの製造方法)
次いで、上記で得られたInP量子ドット前駆体を使用したInP系量子ドットの製造方法について説明する。InP系量子ドットは、In及びPを含有し、量子閉じ込め効果(quantum confinement effect)を有する半導体ナノ粒子を指す。量子閉じ込め効果とは、物質の大きさがボーア半径程度となると、その中の電子が自由に運動できなくなり、このような状態においては電子のエネルギーが任意でなく特定の値しか取り得なくなることである。量子ドット(半導体ナノ粒子)の粒径は、一般的に数nm~数十nmの範囲にある。ただし上記量子ドットの説明に該当するもののうち、量子ドット前駆体に該当するものは本明細書において、量子ドットの範疇に含めない。本発明者らは、本発明のInP量子ドット前駆体をInP系量子ドット合成に用いることにより、粒径分布の幅の狭い高品質なInP系量子ドットが得られることを知見し、本製造方法を見出した。
【0103】
上記で得られた本発明のInP量子ドット前駆体を含む反応液は、反応終了後、好ましくは20℃以上150℃以下、より好ましくは40℃以上120℃以下の温度であるが、この温度を維持したまま、或いは室温まで冷却したものを用いることができる。
【0104】
前記のInP量子ドット前駆体を含む反応液を、粒径制御の観点から好ましくは200℃以上350℃以下、更に好ましくは240℃以上330℃以下の温度で加熱することにより、InP系量子ドットを得ることができる。加熱の際の昇温速度は1℃/分以上50℃/分以下であることが時間効率及び粒径制御の点で好ましく、2℃/分以上40℃/分以下であることがより好ましい。また、粒径制御の観点から、当該温度における加熱時間は0.5分以上180分以下が好ましく、1分以上60分以下がより好ましい。
【0105】
本発明の製造方法により製造されるInP系量子ドットは、InとPに加えて、リンとインジウム以外の元素Mを有する複合化合物からなる量子ドット(InとPとMの複合量子ドットともいう)であってもよい。元素Mとしては、Be、Mg、Ca、Mn、Cu、Zn、Cd、B、Al、Ga、N、As、Sb、Biの群から選ばれる少なくとも一種であることが、量子収率向上の観点から好ましい。元素Mを含むInP系量子ドットの代表例としては、例えば、InGaP、InZnP、InAlP、InGaAlP、InNP、InAsP、InPSb、InPBi等が挙げられる。元素Mを含むInP系量子ドットを得るためには、InP量子ドット前駆体を含む液を加熱する際に元素Mを含む化合物を反応液へ添加すればよい。元素Mを含む化合物とは、元素MがBe、Mg、Ca、Mn、Cu、Zn、Cd、B、Al、Gaにおいては、元素Mの塩化物、臭化物、ヨウ化物の形態、炭素原子数12以上18以下の高級カルボン酸塩の形態であり、高級カルボン酸塩の形態である場合、反応に用いるカルボン酸インジウムのカルボン酸と同じでも良いし、異なっていても良い。元素MがN、As、Sb、Biにおいては、元素Mに3つのシリル基又はアミノ基が結合した形態の化合物を好適に用いることができる。
【0106】
本発明の製造方法により製造されるInP系量子ドットは、粒径分布の幅の狭い高品質なInP系量子ドットであるが、量子収率を高める目的で、表面処理剤等でInP量子ドットの表面を処理してもよい。InP系量子ドットの表面を表面処理することにより、InP量子ドット表面の欠陥等が保護され、量子収率の向上が図れる。好適な表面処理剤としては、金属カルボン酸塩、金属カルバミン酸塩、金属チオカルボン酸塩、金属ハロゲン化物、金属アセチルアセトナート塩及びこれらの水和物等の金属含有化合物、ハロゲン化アルカノイル化合物、第4級アンモニウム化合物のハロゲン化物、第4級ホスホニウム化合物のハロゲン化物、ハロゲン化アリール化合物及びハロゲン化第3級炭化水素化合物等のハロゲン含有化合物、カルボン酸、カルバミン酸、チオカルボン酸、ホスホン酸及びスルホン酸等の有機酸等が挙げられる。これらのうち、より量子収率の向上が図れる観点から、金属カルボン酸塩又は金属カルバミン酸塩であることが好ましい。
【0107】
前記金属カルボン酸塩は、無置換又はハロゲン原子等に置換されていてもよい直鎖状、分岐鎖状又は環状で飽和又は不飽和結合を含む炭素原子数1以上24以下のアルキル基を有していてもよく、分子中に複数のカルボン酸を有していてもよい。また、金属カルボン酸塩の金属としては、Li、Na、K、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Sc、Y、Ti、Zr、V、Nb、Cr、Mo、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ag、Zn、Cd、Hg、B、Al、Ga、In、Tl、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、La、Ce、Sm等を挙げることができる。これらのうち、金属カルボン酸塩の金属は、InP量子ドット表面の欠陥をより保護できる観点から、Zn、Cd、Al及びGaであることが好ましく、Znであることがより好ましい。このような金属カルボン酸塩としては、酢酸亜鉛、トリフルオロ酢酸亜鉛、ミリスチン酸亜鉛、オレイン酸亜鉛及び安息香酸亜鉛等が挙げられる。
【0108】
前記金属カルバミン酸塩としては、InP系量子ドット表面の欠陥をより保護できる観点から、前記した金属のうちZn、Cd、Al及びGaであることが好ましく、Znであることがより好ましい。具体的には、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛及びN-エチル-N-フェニルジチオカルバミン酸亜鉛等が挙げられる。
【0109】
InP系量子ドットを表面処理する方法としては、例えば、上記したInP系量子ドットを含む反応液に表面処理剤を加えることで行うことができる。InP系量子ドットを含む反応液に表面処理剤を加えるときの温度は、粒径制御や量子収率向上の観点から、好ましくは20℃以上350℃以下、更に好ましくは50℃以上300℃以下であり、処理時間は、好ましくは1分以上600分以下、更に好ましくは5分以上240分以下である。また、表面処理剤の添加量は、表面処理剤の種類にもよるが、InP系量子ドットを含む反応液に対して、0.01g/L以上1000g/L以下が好ましく、0.1g/L以上100g/L以下がより好ましい。
【0110】
前記表面処理剤の添加方法としては、反応液に表面処理剤を直接添加する方法、表面処理剤を溶媒に溶解又は分散した状態で反応液に添加する方法が挙げられる。表面処理剤を溶媒に溶解又は分散した状態で反応液に添加する方法で添加する場合の溶媒としては、アセトニトリル、プロピオニトリル、イソバレロニトリル、ベンゾニトリル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン、アセトフェノン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メタノール、エタノール、イソプロパノール、シクロヘキサノール、フェノール、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸フェニル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジエチルエーテル、t-ブチルメチルエーテル、シクロヘキシルメチルエーテル、アニソール、ジフェニルエーテル、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、1-デセン、1-オクタデセン、トリエチルアミン、トリn-オクチルアミン及び水等を使用することができる。
【0111】
InP系量子ドットは、InP量子ドット材料を核(コア)とし、当該コアを被覆化合物で覆ったコアシェル構造を有していてもよい。コアの表面に、コアに比して広いバンドギャップをもつ第二の無機材料(シェル層)を成長させることにより、コア表面の欠陥等が保護され、電荷の再結合による無幅射失活が抑制され、量子収率を向上させることができる。好適な被覆化合物としては、ZnS、ZnSe、ZnSeS、ZnTe、ZnSeTe、ZnTeS、ZnO、ZnOS、ZnSeO、ZnTeO、GaP、GaNが挙げられる。ここでいうInP量子ドット材料とは、In及びPからなるか、或いはIn及びPに加えて含まれる元素Mからなる量子ドットを指す。
【0112】
InP系量子ドットを、InP量子ドット材料をコアとし、これを被覆化合物で被覆するコアシェル構造とする場合、被覆の形成方法としては、上記のInP量子ドット材料を含む反応液と、被覆化合物原料とを混合し、200℃以上330℃以下の温度にて反応させる方法が挙げられる。この際、予めInP量子ドット材料を含む反応液を、150℃以上350℃以下、好ましくは200℃以上330℃以下に加熱しておくことが好ましい。或いは、被覆化合物原料の一部(例えば、Zn等の金属源等)を同様の温度に加熱して、これを他の被覆化合物原料の添加前にInP量子ドット材料を含む反応液に添加混合した後に150℃以上350℃以下、好ましくは200℃以上330℃以下に加温しておき、残りの被覆化合物原料を添加して反応させてもよい。なお、Zn等の金属源を、InP量子ドット材料を含む反応液と混合するタイミングは、他の被覆化合物原料の添加前に限定されず、添加後であってもよい。
【0113】
被覆化合物原料としては、Zn等の金属の場合は、その有機カルボン酸塩、特に炭素原子数12以上18以下の長鎖脂肪酸塩を用いることが粒径制御や粒径分布制御、量子収率向上の点で好ましい。また、硫黄源としては、ドデカンチオール等の炭素原子数8以上18以下の直鎖状又は分岐鎖状の長鎖アルカンチオールやトリオクチルホスフィンスルフィド等の炭素原子数4以上12以下のトリアルキルホスフィンスルフィド化合物が好ましく挙げられる。セレン源としてはトリオクチルホスフィンセレニド等の炭素原子数4以上12以下のトリアルキルホスフィンセレニド化合物が好ましく挙げられる。テルル源としてはトリオクチルホスフィンテルリド等の炭素原子数4以上12以下のトリアルキルホスフィンテルリド化合物が好ましく挙げられる。これらの被覆化合物原料は、そのままInP量子ドット材料を含む反応液に混合してもよく、予め溶媒に溶解してからInP量子ドット材料を含む反応液と混合してもよい。予め溶媒に溶解してから混合する場合、この溶媒としては、InP量子ドット前駆体の製造におけるリン源、インジウム源の反応に用いる溶媒として上記で挙げたものと同様のものを用いることができる。被覆化合物原料を溶解させる溶媒と、InP量子ドット材料を含む反応液中の溶媒は、同じものを用いてもよく、異なっていてもよい。
【0114】
被覆化合物原料の使用量は、例えば、被覆化合物として亜鉛等の金属を用いる場合、InP量子ドット材料を含む反応液中のインジウム1molに対して0.5mol以上50mol以下が好ましく、1mol以上10mol以下がより好ましい。硫黄源やセレン源としては、上記の金属量に対応する量を使用することが好ましい。
【0115】
InP量子ドット材料をコアとし、これを被覆化合物で被覆してシェル層を有するコアシェル型の量子ドットとした場合、量子収率を高める目的で、表面処理剤等でコアシェル型の量子ドットの表面を処理してもよい。コアシェル型の量子ドットの表面を表面処理することにより、シェル層表面の欠陥等が保護され、量子収率の向上が図れる。好適な表面処理剤としては、金属カルボン酸塩、金属カルバミン酸塩、金属チオカルボン酸塩、金属ハロゲン化物、金属アセチルアセトナート塩及びこれらの水和物等の金属含有化合物、ハロゲン化アルカノイル化合物、第4級アンモニウム化合物のハロゲン化物、第4級ホスホニウム化合物のハロゲン化物、ハロゲン化アリール化合物及びハロゲン化第3級炭化水素化合物等のハロゲン含有化合物等が挙げられる。これらのうち、より量子収率の向上が図れる観点から、金属カルボン酸塩又は金属カルバミン酸塩であることが好ましい。
【0116】
前記金属カルボン酸塩は、無置換又はハロゲン原子等に置換されていてもよい直鎖状、分岐鎖状又は環状で飽和又は不飽和結合を含む炭素原子数1以上24以下のアルキル基を有していてもよく、分子中に複数のカルボン酸を有していてもよい。また、金属カルボン酸塩の金属としては、Li、Na、K、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Sc、Y、Ti、Zr、V、Nb、Cr、Mo、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ag、Zn、Cd、Hg、B、Al、Ga、In、Tl、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、La、Ce、Sm等を挙げることができる。これらのうち、金属カルボン酸塩の金属は、InP量子ドット表面の欠陥をより保護できる観点から、Zn、Cd、Al及びGaであることが好ましく、Znであることがより好ましい。このような金属カルボン酸塩としては、酢酸亜鉛、トリフルオロ酢酸亜鉛、ミリスチン酸亜鉛、オレイン酸亜鉛及び安息香酸亜鉛等が挙げられる。
【0117】
前記金属カルバミン酸塩としては、InP系量子ドット表面の欠陥をより保護できる観点から、前記した金属のうちZn、Cd、Al及びGaであることが好ましく、Znであることがより好ましい。具体的には、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛及びN-エチル-N-フェニルジチオカルバミン酸亜鉛等が挙げられる。
【0118】
シェル層を表面処理する方法としては、例えば、コアシェル型の量子ドットを含む反応液に表面処理剤を加えることで行うことができる。コアシェル型の量子ドットを含む反応液に表面処理剤を加えるときの温度は、粒径制御や量子収率向上の観点から、好ましくは20℃以上350℃以下、更に好ましくは50℃以上300℃以下であり、処理時間は、好ましくは1分以上600分以下、更に好ましくは5分以上240分以下である。また、表面処理剤の添加量は、表面処理剤の種類にもよるが、コアシェル型の量子ドットを含む反応液に対して、0.01g/L以上1000g/L以下が好ましく、0.1g/L以上100g/L以下がより好ましい。
【0119】
前記表面処理剤の添加方法としては、反応液に表面処理剤を直接添加する方法、表面処理剤を溶媒に溶解又は分散した状態で反応液に添加する方法が挙げられる。表面処理剤を溶媒に溶解又は分散した状態で反応液に添加する方法で添加する場合の溶媒としては、アセトニトリル、プロピオニトリル、イソバレロニトリル、ベンゾニトリル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン、アセトフェノン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メタノール、エタノール、イソプロパノール、シクロヘキサノール、フェノール、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸フェニル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジエチルエーテル、t-ブチルメチルエーテル、シクロヘキシルメチルエーテル、アニソール、ジフェニルエーテル、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、1-デセン、1-オクタデセン、トリエチルアミン、トリn-オクチルアミン及び水等を使用することができる。
【0120】
以上の方法で得られたInP系量子ドットは、式(2)で表される化合物などの含有量が十分に低減されているInP量子ドット前駆体を用いることで、粒径分布の幅の狭い高品質なものであり、単電子トランジスタ、セキュリティインク、量子テレポーテーション、レーザー、太陽電池、量子コンピュータ、バイオマーカー、発光ダイオード、ディスプレイ用バックライト、カラーフィルターに好適に用いることができる。
【実施例
【0121】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。下記の各実施例及び比較例では、溶媒の水分量は質量基準で水分量20ppm以下とした。以下において、溶媒の水分量はカールフィッシャー水分計(京都電子製MKC610)を用いて測定した。
【0122】
(製造例1:式(1)で表されるシリルホスフィン化合物の製造)
反応容器に脱気及び脱水済みのトルエン(質量基準で水分量20ppm以下)189.8kgを仕込んだのち、トリエチルアミン82kgとトリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリル149.5kgを仕込み、反応容器内を窒素置換した後、液温を30℃に調整した。ホスフィンガスを反応容器内に3時間かけて7.4kg仕込み、液温を35℃に調整した後、4時間の熟成を行った。得られた反応溶液424.9kgは二層に分離しており、上層を用いるために12時間静置後、下層を分液した。上層は、低沸分を取り除くために濃縮缶により、減圧下、最終的な圧力が絶対圧基準で6.3KPa、液温が70℃となるまで濃縮して60.1kgの濃縮液を得た。得られた濃縮液を0.5kPaの減圧下、塔頂温度85℃で蒸留し、初留分を除去後、本留分を49.3kg回収し、回収物を得た。濃縮及び蒸留は不活性雰囲気下で行った。
下記条件の31P-NMRによる分析により、回収物(液体)がトリス(トリメチルシリル)ホスフィン(TMSP)であることを確認し、その純度、前記式(2)、(3)、(5)、(6)及び(7)のそれぞれで表される化合物(いずれもRはメチル)の含量を測定した。結果を下記表1に示す。
また下記条件のガスクロマトグラフィー分析によりトリス(トリメチルシリル)ホスフィン中の式(4)で表される化合物(Rはメチル)の含量を測定した。結果を下記表1に示す。
【0123】
31P-NMRの測定条件:
測定する試料を重ベンゼンに20質量%となるように溶解した。得られた溶液を、日本電子株式会社製JNM-ECA500で下記条件にて測定した。
観測周波数:202.4MHz、パルス:45度、捕捉時間:5秒、積算回数:256回、測定温度:22℃、標準物質:85質量%リン酸
式(1)、式(2)、(3)、(5)、(6)及び(7)のそれぞれで表される化合物に由来するピーク面積を求めた。式(1)、(2)、(3)、(5)、(6)及び(7)の化合物の量は、検出したピーク総面積を100%として、それに対するピークの比率を計算する面積百分率法により求めた。
【0124】
ガスクロマトグラフィーの測定条件:
測定試料を不活性ガス雰囲気下でセプタムキャップ付きの容器に小分けし、シリンジで測定試料0.2μLをガスクロマトグラフィー(株式会社島津製作所製、「GC-2010」)に打ち込み、下記条件にて測定した。
・カラム:Agilent J&W社製、「DB1」(内径0.25mm、長さ30m)
・インジェクション温度:250℃、ディテクタ温度:300℃
・検出器:FID、キャリアガス:He(100kPa圧)
・スプリット比:1:100
・昇温条件:50℃×3分間維持→昇温速度10℃/分で200℃まで昇温→昇温速度50℃/分で300℃まで昇温→300℃×10分間維持
式(4)の化合物の量は、検出したピーク総面積を100%として、それに対するピークの比率を計算する面積百分率法により求めた。
【0125】
(比較製造例1)
反応容器に脱気及び脱水済みのジエチルエーテル(質量基準で水分量10ppm以下)156.9gを仕込んだのち、トリエチルアミン82gとトリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリル149.5gを仕込み、反応容器内を窒素置換した後、液温を30℃に調整した。
ホスフィンガスを反応容器内に3時間かけて7.4g仕込み、液温を35℃に調整した後、4時間の熟成を行った。
得られた反応溶液424.9gは二層に分離しており、上層を用いるために12時間静置後、下層を分液した。上層は、低沸分を取り除くために濃縮缶により、減圧下、最終的な圧力が2.2kPa、液温が70℃となるまで濃縮して59.1gの濃縮液を得た。
得られた濃縮液を0.5kPaの減圧下、塔頂温度85℃で蒸留し、初留分を除去後、本留分を49.9g回収した。濃縮及び蒸留は不活性雰囲気下で行った。
前記条件の31P-NMRによる分析により、回収物におけるトリス(トリメチルシリル)ホスフィンの純度を測定した。結果を表1に示す。また製造例1と同様に式(2)~(7)の化合物の含量を測定した。結果を表1に示す。
【0126】
【表1】
【0127】
〔製造例2:ミリスチン酸インジウムの製造〕
<第1工程>
モデル水酸基含有カルボン酸インジウムとして、劣化した酢酸インジウムを用いた。具体的には、密閉容器入りの市販の試薬用の酢酸インジウムについて当該密閉容器を開封した後に、蓋を閉めた状態で冷暗所に100日程度設置したものを用いた。この劣化酢酸インジウムは、ICP発光分析装置(株式会社島津製作所製)で分析した結果、In(CHCOO)2.8(OH)0.2で表される水酸基含有酢酸インジウムからなるものであった。前記の劣化酢酸インジウム5gと、160gの酢酸と、9gの無水酢酸とをフラスコに入れ、120℃で1.5時間にわたり還流しながら加熱した。反応終了後、窒素雰囲気、室温下に反応生成物を濾別した後、脱水ヘキサン(関東化学株式会社製)でリパルプ洗浄し、更に減圧乾燥に付した。原料として用いた劣化酢酸インジウム、及び反応生成物である酢酸インジウムのIRスペクトルを図1(a)及び図1(b)に示す。図1(a)では、水酸基含有酢酸インジウムの水酸基に由来する吸収(同図中、矢印で示す吸収、1600cm-1付近)が観察されるのに対して、図1(b)では当該吸収が観察されないことが判る。したがって、第1工程を行うことによって、原料として用いた劣化酢酸インジウム中の水酸基含有酢酸インジウムから水酸基が除去されたことが確認された。
【0128】
<第2工程>
第1工程で得られた5.1gの酢酸インジウムと、30gのミリスチン酸とをフラスコに入れ、110℃で3時間、続いて150℃で1時間にわたり減圧下に加熱した。反応系の圧力は30Pa以下に設定した。反応終了後、反応系に脱水アセトン(関東化学株式会社製)を加え、反応生成物であるミリスチン酸インジウムを沈殿させた。次いで窒素雰囲気下に反応生成物を濾別した後、脱水アセトン(関東化学株式会社製)で2回リパルプ洗浄し、続けて脱水アセトン(関東化学株式会社製)でリンス洗浄1回を行い、更に減圧乾燥に付した。このようにして、目的とするミリスチン酸インジウムを得た。このミリスチン酸インジウムのIRスペクトルを図2に示す。同図に示す結果から明らかなとおり、ミリスチン酸インジウムには、水酸基に由来する吸収ピーク(1600cm-1付近)が観察されず、水酸基を含んでいないことが確認された。
【0129】
〔製造例3:ミリスチン酸インジウムの製造〕
製造例2で用いた劣化酢酸インジウムを、製造例2における第1工程に付すことなく、同製造例における第2工程に付した。このようにして得られたミリスチン酸インジウムのIRスペクトルを図3に示す。同図に示す結果から明らかなとおり、ミリスチン酸インジウムには、水酸基に由来する吸収ピーク(同図中、矢印で示す吸収ピーク、1600cm-1付近)が観察され、水酸基を含んでいることが確認された。
【0130】
以下、各実施例及び比較例において、量子ドット前駆体の合成並びに量子ドットの合成は、いずれも窒素ガス雰囲気下で行った。
(実施例1)
((1)InP量子ドット前駆体の合成)
製造例2で得られたミリスチン酸インジウム2.7mmol(2.15g)を、1-オクタデセン106.9gに加えて、減圧下、撹拌しながら120℃に加熱して90分間脱気した。脱気後、60℃まで冷却してミリスチン酸インジウムの1-オクタデセン溶液を得た。これとは別に、製造例1で得られたトリス(トリメチルシリル)ホスフィン(TMSP)1.5mmol(0.38g)を、トリオクチルホスフィン3.38gに加えてTMSPのトリオクチルホスフィン溶液を得た。前記のミリスチン酸インジウムの1-オクタデセン溶液を60℃に保温しながら前記のTMSPのトリオクチルホスフィン溶液を加えて、撹拌しながら100℃まで10分間で昇温後、当該温度を60分間保持して、InPマジックサイズクラスターを含む黄色の液を得た。得られたInP量子ドット前駆体を含む液のUV-VISスペクトルを以下の方法で測定した。得られたスペクトルを図4に示す。
【0131】
(UV-VISスペクトル)
紫外可視分光度計(日立ハイテクノロジーズ製、UV-2910)にて、測定波長300nm以上800nm以下のUV-VISスペクトルを室温で測定した。サンプル液は、その100g中におけるリン原子及びインジウム原子の量がそれぞれ、0.02mmol以上0.3mmol以下の範囲となるように各試料をヘキサンで希釈した。
【0132】
((2)InP量子ドットの合成)
上記(1)で得られたInP量子ドット前駆体を含む液の内1/2量を、脱気脱水した後280℃まで昇温した1-オクタデセン8.9gへ一度に加えた。反応液を300℃まで2分で昇温後、同温度で2分間保持して、InP量子ドットを含む赤色の液を得た。得られたInP量子ドットを含む液のUV-VISスペクトルを測定した。得られたスペクトルを図5に示す。
【0133】
((3)InP/ZnSeS量子ドットの合成)
ミリスチン酸亜鉛1.6mmolを、1-オクタデセン6.7gに加えて減圧下、撹拌しながら120℃に加熱して90分間脱気して、ミリスチン酸亜鉛の1-オクタデセン溶液を得た。これとは別に、上記(2)で得られたInP量子ドットを含む液を120℃に加熱した。得られたミリスチン酸亜鉛の1-オクタデセン溶液を、120℃に加熱したInP量子ドットを含む液に加え、そのまま減圧下、撹拌しながら120℃で15分間撹拌した。反応液を加熱して210℃にてトリオクチルホスフィン6.0mmolを加え、210℃のまま10分間撹拌した。更に加熱して300℃にてトリオクチルホスフィンセレニド0.24mmolとトリオクチルホスフィンスルフィド1.0mmolを加えて、撹拌しながら300℃で30分間保持した。室温まで冷却後、遠心分離により不純物を除去して、上澄み液にコアがInP、シェルがZnSe及びZnSとなるInP/ZnSeS量子ドットの1-オクタデセン分散液を得た。この分散液にアセトンを加えて撹拌後、遠心分離によりInP/ZnSeS量子ドットを沈殿物として回収した。回収したInP/ZnSeS量子ドットを、ヘキサンに懸濁して精製InP/ZnSeS量子ドットのヘキサン分散液を得た。得られたInP/ZnSeS量子ドットの極大蛍光波長、FWHM値及び量子収率を以下の方法で測定した。その結果を表2に示す。
【0134】
(極大蛍光波長、FWHM値)
分光蛍光光度計((株)日立ハイテクサイエンス製、F-7000)にて、励起波長450nm、測定波長400nm以上800nm以下の測定条件で、得られたヘキサン分散液を測定した。
【0135】
(量子収率)
絶対PL量子収率測定装置(浜松ホトニクス(株)製、C11347-01)にて、励起波長450nm、測定波長300nm以上950nm以下の測定条件で、得られたヘキサン分散液を測定した。
【0136】
(実施例2)
インジウム源として、製造例3で得られたミリスチン酸インジウムを用いたこと以外は、実施例1と同じ方法でInP/ZnSeS量子ドットを得た。なお、実施例2においても、InP量子ドット前駆体を含む液のUV-VISスペクトルは、300nm以上460nm以下の範囲にショルダーが観察され、且つ、InP量子ドット前駆体を含む液を300℃に加熱してなる液のUV-VISスペクトルは、450nm以上550nm以下の範囲にピークが観察された。
得られたInP/ZnSeS量子ドットの極大蛍光波長、FWHM値及び量子収率を測定した。その結果を表2に示す。
【0137】
(実施例3)
((1)InP量子ドット前駆体の合成)
製造例2で得られたミリスチン酸インジウム1.8mmol(1.43g)を、1-オクタデセン18.0gに加えて、減圧下、撹拌しながら120℃に加熱して90分間脱気した。脱気後、65℃まで冷却してミリスチン酸インジウムの1-オクタデセン溶液を得た。これとは別に、製造例1で得られたトリス(トリメチルシリル)ホスフィン(TMSP)1.0mmol(0.25g)を、トリオクチルホスフィン2.25gに加えてTMSPのトリオクチルホスフィン溶液を得た。前記のミリスチン酸インジウムの1-オクタデセン溶液を65℃に保温しながら前記のTMSPのトリオクチルホスフィン溶液を加えた。当該温度を30分間保持して、InP量子ドット前駆体を含む黄緑色の液を得た。得られたスペクトルを図6に示す。
【0138】
((2)InP量子ドットの合成)
量子ドット前駆体として上記(1)で得られたInP量子ドット前駆体を用いた以外は実施例1と同じ方法でInP量子ドットを含む赤色の液を得た。得られたInP量子ドットを含む液のUV-VISスペクトルを測定した。得られたスペクトルを図7に示す。
【0139】
((3)InP/ZnSeS量子ドットの合成)
コアとなる量子ドットとして上記(2)で得られたInP量子ドットを用いた以外は実施例1と同じ方法でInP/ZnSeS量子ドットのヘキサン分散液を得た。得られたInP/ZnSeS量子ドットの極大蛍光波長、FWHM値及び量子収率を測定した。その結果を表2に示す。
【0140】
(実施例4)
(InP量子ドットの表面処理)
InP量子ドットを得るところまでは実施例1と同じ方法で行った。得られたInP量子ドットを含む液に無水酢酸亜鉛(シグマアルドリッチ社製)を3g/Lの濃度で加えて、230℃で190分間の表面処理を行い、表面処理済みのInP量子ドットを含む液を得た。
【0141】
(InP/ZnSeS量子ドットの合成)
ミリスチン酸亜鉛1.6mmolを、1-オクタデセン6.7gに加えて減圧下、撹拌しながら120℃に加熱して90分間脱気して、ミリスチン酸亜鉛の1-オクタデセン溶液を得た。これとは別に、上記で得られた表面処理済みのInP量子ドットを含む液を120℃に加熱した。得られたミリスチン酸亜鉛の1-オクタデセン溶液を、120℃に加熱した表面処理済みのInP量子ドットを含む液に加え、そのまま減圧下、撹拌しながら120℃で15分間撹拌した。反応液を加熱して210℃にてトリオクチルホスフィン6.0mmolを加え、210℃のまま10分間撹拌した。更に加熱して300℃にてトリオクチルホスフィンセレニド0.24mmolとトリオクチルホスフィンスルフィド1.0mmolを加えて、撹拌しながら300℃で30分間保持した。室温まで冷却後、遠心分離により不純物を除去して、上澄み液にコアがInP、シェルがZnSe及びZnSとなるInP/ZnSeS量子ドットの1-オクタデセン分散液を得た。この分散液にアセトンを加えて撹拌後、遠心分離によりInP/ZnSeS量子ドットを沈殿物として回収した。回収したInP/ZnSeS量子ドットを、ヘキサンに懸濁して精製InP/ZnSeS量子ドットのヘキサン分散液を得た。得られたInP/ZnSeS量子ドットの極大蛍光波長、FWHM値及び量子収率を測定した。その結果を表2に示す。
【0142】
(実施例5)
表面処理済みのInP量子ドットを含む液を得るところまでは実施例4と同じ方法で行った。
【0143】
(InP/ZnSeS量子ドットの合成)
ミリスチン酸亜鉛1.6mmolを、1-オクタデセン6.7gに加えて減圧下、撹拌しながら120℃に加熱して90分間脱気して、ミリスチン酸亜鉛の1-オクタデセン溶液を得た。これとは別に、上記で得られた表面処理済みのInP量子ドットを含む液を120℃に加熱した。得られたミリスチン酸亜鉛の1-オクタデセン溶液を、180℃に加熱した表面処理済みのInP量子ドットを含む液に加え、反応液を加熱して撹拌しながら210℃で15分間撹拌した。そのまま210℃にてトリオクチルホスフィン6.0mmolを加え、210℃のまま10分間撹拌した。更に加熱して320℃にてトリオクチルホスフィンセレニド0.24mmolとトリオクチルホスフィンスルフィド1.0mmolを加えて、撹拌しながら320℃で25分間保持してInP/ZnSeS量子ドットを含む液を得た。
(InP/ZnSeS量子ドットの表面処理)
得られたInP/ZnSeS量子ドットを含む液に無水酢酸亜鉛を3g/Lの濃度で加えて230℃で90分の表面処理を行い、60g/Lの濃度でトルエンに溶解させた1-ドデカンチオールをリガンドとして加え、230℃のまま60分間撹拌して表面処理済みのInP/ZnSeS量子ドットを含む液を得た。室温まで冷却後、遠心分離により不純物を除去して、上澄み液に表面処理済みのInP/ZnSeS量子ドットの1-オクタデセン分散液を得た。この分散液にアセトンを加えて撹拌し、遠心分離によりInP/ZnSeS量子ドットを沈殿物として回収した。回収したInP/ZnSeS量子ドットを、ヘキサンに懸濁して精製InP/ZnSeS量子ドットのヘキサン分散液を得た。得られたInP/ZnSeS量子ドットの極大蛍光波長、FWHM値及び量子収率を測定した。その結果を表2に示す。
【0144】
(比較例1)
リン源として、比較製造例1で得られたTMSPを用いたこと以外は、実施例1と同じ方法でInP/ZnSeS量子ドットを得、得られたInP/ZnSeS量子ドットの極大蛍光波長、FWHM値及び量子収率を測定した。その結果を表2に示す。
【0145】
(比較例2)
リン源として、比較製造例1で得られたTMSPを用い、インジウム源として製造例3で得られたミリスチン酸インジウムを用いたこと以外は、実施例1と同じ方法でInP/ZnSeS量子ドットを得、得られたInP/ZnSeS量子ドットの極大蛍光波長、FWHM値及び量子収率を測定した。その結果を表2に示す。
【0146】
(比較例3)
リン源として、比較製造例1で得られたTMSPを用いたこと以外は、実施例3と同じ方法でInP/ZnSeS量子ドットを得、得られたInP/ZnSeS量子ドットの極大蛍光波長、FWHM値及び量子収率を測定した。その結果を表2に示す。
【0147】
【表2】
【0148】
表2に示すように、実施例1~3で得られた量子ドットは、比較例1~3で得られた量子ドットに比してFWHM値が小さい。このことから、量子ドット前駆体の製造において特定の不純物が少ないTMSPを用いることで、粒径分布の幅の狭い高品質なInP系量子ドットが得られることが判る。特に、特定の不純物の量が特定値以下であるTMSPを用いた実施例1及び2を比べると、水酸基に由来する吸収ピークが観察されないミリスチン酸インジウムを用いることによるFWHM値は2nmも低減した。これに対し、特定の不純物の量が本発明の上限超であるTMSPを用いた比較例1と2を比べると、水酸基に由来する吸収ピークが観察されないミリスチン酸インジウムを用いることによるFWHM値の低減効果は1nmにとどまった。このことから、本発明においては特定の不純物の量が特定量以下のシリルホスフィン化合物と、水酸基に由来する吸収ピークが観察されないカルボン酸インジウムを用いることにより、相乗的に粒径分布の幅を狭めることができることが判る。また表面処理を行った実施例4及び実施例5では量子収率の向上が認められたことが判る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7