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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】水性樹脂エマルション
(51)【国際特許分類】
   C08F 220/10 20060101AFI20240624BHJP
   C09D 133/04 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
C08F220/10
C09D133/04
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019224681
(22)【出願日】2019-12-12
(65)【公開番号】P2021091833
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】391047558
【氏名又は名称】ヘンケルジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100138885
【弁理士】
【氏名又は名称】福政 充睦
(72)【発明者】
【氏名】吉田 良夫
【審査官】藤原 研司
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-270035(JP,A)
【文献】特開2009-290201(JP,A)
【文献】特開2011-213941(JP,A)
【文献】特開2013-256607(JP,A)
【文献】特開2014-224177(JP,A)
【文献】特開2017-039838(JP,A)
【文献】特開2016-74775(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
C08L
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
界面活性剤の存在下で、最終段以外は(a)重合性不飽和単量体が重合し、最終段は(b)重合性不飽和単量体が重合する、複数種類の重合性不飽和単量体が多段階乳化重合して得られる水性樹脂エマルションであって、
該界面活性剤がアリル基及びポリオキシエチレン基を有する硫酸エステル塩を含み、
水性樹脂エマルションは、(a)重合性不飽和単量体の共重合体と、(b)重合性不飽和単量体の共重合体を含み、
(a)重合性不飽和単量体の共重合体のガラス転移温度は、(b)重合性不飽和単量体の共重合体のガラス転移温度より低く、
(a)重合性不飽和単量体の共重合体のガラス転移温度は、-20~15℃であり、(b)重合性不飽和単量体の共重合体のガラス転移温度は、10~50℃であり、
(a)重合性不飽和単量体及び(b)重合性不飽和単量体が、(メタ)アクリル酸エステルと、アルコキシシリル基及びエチレン性二重結合を有する単量体とを含み、
(a)重合性不飽和単量体は、(a)重合性不飽和単量体100質量部当り、(a2)アルコキシシリル基及びエチレン性二重結合を有する単量体を0.05~1.0質量部含み、
(a)重合性不飽和単量体が、さらに、(a3)カルボキシル基を有する単量体を含み、カルボキシル基を有する単量体は、アクリル酸を含み、
(b)重合性不飽和単量体は、(b)重合性不飽和単量体100質量部当たり、(b2)アルコキシシリル基及びエチレン性二重結合を有する単量体を、0.1~0.4質量部含む、
水性樹脂エマルション。
【請求項2】
(a)重合性不飽和単量体は、(a)重合性不飽和単量体100質量部当たり、(a3)カルボキシル基を有する単量体を、0.5~10.0質量部含む、請求項1に記載の水性樹脂エマルション。
【請求項3】
請求項1または2に記載の水性樹脂エマルションを含む水性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の水性樹脂組成物が塗布された基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多段階乳化重合で得られる水性樹脂エマルション、その水性樹脂エマルションを含む水性樹脂組成物、並びに水性樹脂組成物が塗工された紙及びプラスチック等の基材に関する。
【背景技術】
【0002】
水性樹脂エマルションは、種々の界面活性剤の存在下、重合性不飽和単量体を乳化重合することで製造されている。得られた水性樹脂エマルションは、例えば、塗料、接着剤、及び紙及びプラスチック等のコーティング剤の原料として利用されている。
【0003】
乳化重合では、溶液重合のように有機溶剤を多量に使用することもなく、塊状重合のように徐熱することが困難でないので、環境面及び安全面で優れている。しかしながら、乳化重合のデメリットとして、水性樹脂エマルションに不純物が入り込み易く、エマルションを安定して分散させることが容易ではないので、エマルションの機械的安定性が不十分になりえることを例示できる。
【0004】
特許文献1には、ガラス転移温度の異なる2種類のエマルションが配合された(即ち、ガラス転移温度が異なる2種類の水性樹脂を含む)水系粘着剤が開示されている([請求項1]、実施例の表1~表4参照)。特許文献1の水系粘着剤は、保持力が高いので曲面接着が良好であり、なおかつ、粘着製品をカッター等で二次加工する際、カッターに粘着剤が付着することを防止できる([0141]表3参照)。
【0005】
特許文献2には、重合性単量体を多段階乳化重合して水性樹脂を調製し、この水性樹脂からフロアーポリッシュを製造することが開示されている([0019][0153]~[0156]表5~8参照)。重合性単量体を多段階乳化重合することで、水性樹脂エマルションの耐久性(具体的には、耐水性及び耐ブラックヒールマーク性)が向上する。従って、特許文献2の水性樹脂エマルションはフロアーポリシュの原料として好適なものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-117785号公報
【文献】特開2016-98358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、文献1の水性樹脂エマルションは水系粘着剤の原料として好適であり、文献2の水性樹脂エマルションはフロアーポリシュ用水性樹脂として最適である。しかしながら、水性樹脂エマルションは、上記用途だけではなく、様々な分野で利用される。例えば、水性樹脂エマルションを紙及びフィルム、無機材料等の基材に直接塗工する用途及び、基材上に形成されている樹脂層等をエマルション組成物で覆って保護する用途がある。
【0008】
水性樹脂エマルションを様々な用途で利用することを考慮すると、水性樹脂エマルションには、保持力及び耐水性以外にも、より高いレベルで他の種類の耐久性(例えば耐アルコール性、耐エステル系溶剤性、耐可塑剤性等)に優れることが望まれる。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、耐水性、耐アルコール性、耐エステル系溶剤性、及び耐可塑剤性に優れ、様々な基材への塗工が可能であり、基材上に予め形成された樹脂層をコートして保護することが可能な水性樹脂組成物、その水性樹脂組成物の主成分となる水性樹脂エマルション、その水性樹脂組成物が塗工された基材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上述の課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の界面活性剤の存在下で、特定の重合性不飽和単量体を多段階乳化重合すると、生成された水性樹脂エマルションが耐久性(耐水性、耐アルコール性、耐エステル系溶剤性、耐可塑剤性)に優れたものとなり、この水性樹脂エマルションを含む水性樹脂組成物が様々な基材や層へ塗工可能となり、塗工された基材が耐久性に優れたものとなることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明及び本発明の好ましい態様は、以下のとおりである。

1.界面活性剤の存在下で、最終段以外は(a)重合性不飽和単量体が重合し、最終段は(b)重合性不飽和単量体が重合する、複数種類の重合性不飽和単量体が多段階乳化重合して得られる水性樹脂エマルションであって、
該界面活性剤がアリル基及びポリオキシエチレン基を有する硫酸エステル塩を含み、
水性樹脂エマルションは、(a)重合性不飽和単量体の共重合体と、(b)重合性不飽和単量体の共重合体を含み、
(a)重合性不飽和単量体の共重合体のガラス転移温度は、(b)重合性不飽和単量体の共重合体のガラス転移温度より低く、
(a)重合性不飽和単量体及び(b)重合性不飽和単量体が、(メタ)アクリル酸エステルと、アルコキシシリル基及びエチレン性二重結合を有する単量体とを含み、
(a)重合性不飽和単量体は、(a)重合性不飽和単量体100質量部当り、(a2)アルコキシシリル基及びエチレン性二重結合を有する単量体を0.05~1.0質量部含む、水性樹脂エマルション。

2.(a)重合性不飽和単量体が、さらに、カルボキシル基を有する単量体を含む、1に記載の水性樹脂エマルション。

3.(b)重合性不飽和単量体は、(b)重合性不飽和単量体100質量部当たり、(b2)アルコキシシリル基及びエチレン性二重結合を有する単量体を、0.01~1.0質量部含む、1または2に記載の水性樹脂エマルション。

4.(b)と(a)との質量比((b)/(a))が30/70~70/30である、1~3のいずれかに記載の水性樹脂エマルション。

5.1~4のいずれかに記載の水性樹脂エマルションを含む水性樹脂組成物。

6.5に記載の水性樹脂組成物が塗布された基材。
【発明の効果】
【0012】
本発明の実施形態の水性樹脂エマルションは、界面活性剤の存在下で、複数種類の重合性不飽和単量体が多段階乳化重合して得られた水性樹脂エマルションであって、該界面活性剤がアリル基及びポリオキシエチレン基を有する硫酸エステル塩を含み、該重合性不飽和単量体が(メタ)アクリル酸エステルを含むことによって、耐久性(耐水性、耐アルコール性、耐溶剤性、耐可塑剤性)に著しく優れたものとなる。
本発明の実施形態の水性樹脂エマルションを含む水性樹脂組成物は、種々の基材へ塗工可能となり、基材上に予め形成された形成層を保護することも可能となる。塗工された基材は、高いレベルの種々の耐久性を有し、様々な用途に利用可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態の水性樹脂エマルションは、特定の界面活性剤の存在下で、重合性不飽和単量体が多段階乳化重合することで得られる。
<界面活性剤>
界面活性剤は、水性媒体と単量体混合物とのエマルションを形成させるために使用され、分子内に、水になじみやすい親水基と、油になじみやすい親油(疎水)基を有している。界面活性剤を溶媒に少量溶かした時,その溶液の表面張力が界面活性剤によって大きく低下し、水性媒体中にポリマー固形分(分散質)が均一に分散する。
【0014】
本開示における「界面活性剤」は、アリル基(2-プロペニル基:CH=CH-CH-)及びポリオキシエチレン基((OCHCH)n)を有する硫酸エステル塩を含んでいる。アリル基及びポリオキシエチレン基を有する硫酸エステル塩が存在することによって、本発明の実施形態の水性樹脂エマルションは、耐水性に優れたものとなる。
アリル基及びポリオキシエチレン基を有する硫酸エステル塩としては、アリル基及びポリオキシエチレン基を有する硫酸エステルアンモニウム塩、アリル基及びポリオキシエチレン基を有する硫酸エステルナトリウム塩、アリル基及びポリオキシエチレン基を有する硫酸エステルカリウム塩が挙げられる。
【0015】
具体的には、
ポリオキシエチレン-1-(アリルオキシメチル)アルキルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩、ポリオキシエチレン-1-(アリルオキシメチル)アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム塩、ポリオキシエチレン-1-(アリルオキシメチル)アルキルエーテル硫酸エステルカリウム塩;
α-〔1-〔(アリルオキシ)メチル〕-2-(ノニルフェノキシ)エチル〕-ω-ポリオキシエチレン硫酸エステルアンモニウム塩、α-〔1-〔(アリルオキシ)メチル〕-2-(ノニルフェノキシ)エチル〕-ω-ポリオキシエチレン硫酸エステルナトリウム塩、α-〔1-〔(アリルオキシ)メチル〕-2-(ノニルフェノキシ)エチル〕-ω-ポリオキシエチレン硫酸エステルカリウム塩;
等が挙げられる。これらの硫酸エステル塩は、単独でも複数で用いられても良い。
【0016】
本発明の実施形態のアリル基及びポリオキシエチレン基を有する硫酸エステル塩としては、硫酸エステルアンモニウム塩が好ましい。すなわち、ポリオキシエチレン-1-(アリルオキシメチル)アルキルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩、α-〔1-〔(アリルオキシ)メチル〕-2-(ノニルフェノキシ)エチル〕-ω-ポリオキシエチレン硫酸エステルアンモニウム塩が好ましく、特にポリオキシエチレン-1-(アリルオキシメチル)アルキルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩が最も望ましい。
界面活性剤がアリル基及びポリオキシエチレン基を有する硫酸エステルアンモニウム塩を含むと、水性樹脂エマルションの耐水性がより向上する。
【0017】
アリル基及びポリオキシエチレン基を有する硫酸エステル塩の市販品として、例えば、
ポリオキシエチレン-1-(アリルオキシメチル)アルキルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩である第一工業製薬社製の(「アクアロンKH-10」(商品名):ポリオキシエチレン鎖長10)、(「アクアロンKH-1025」(商品名):アクアロンKH-10の25%水溶液);
α-〔1-〔(アリルオキシ)メチル〕-2-(ノニルフェノキシ)エチル〕-ω-ポリオキシエチレン硫酸エステル塩である旭電化工業社製の「アデカリアソープSR-1025(商品名)」等が挙げられる。
【0018】
<重合性不飽和単量体>
本発明の実施形態において「重合性不飽和単量体」とは、エチレン性二重結合を有するラジカル重合性単量体をいう。
本明細書において「エチレン性二重結合」とは、重合反応(ラジカル重合)し得る炭素原子間二重結合をいう。そのようなエチレン性二重結合を有する官能基として、例えば、ビニル基(CH=CH-)、(メタ)アリル基(CH=CH-CH-及びCH=C(CH)-CH-)、(メタ)アクリロイルオキシ基(CH=CH-COO-及びCH=C(CH)-COO-)、(メタ)アクリロイルオキシアルキル基(CH=CH-COO-R-及びCH=C(CH)-COO-R-)及び-COO-CH=CH-COO-等を例示できる。
【0019】
本発明の実施形態において“重合性不飽和単量体”は(メタ)アクリル酸エステルを含む。
本明細書では、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸とメタクリル酸の双方を示し、アクリル酸及びメタクリル酸の少なくとも1種を含むことを意味する。
「(メタ)アクリル酸エステル」とは(メタ)アクリル酸のエステル、すなわち(メタ)アクリレートをいう。(メタ)アクリレートとは、アクリレート、メタクリレートの双方を示し、アクリレート及びメタクリレートの少なくとも1種を含むことを意味する。
尚、ビニル基と酸素が結合した構造を有するビニルエステル、例えば酢酸ビニル等は、本明細書において、(メタ)アクリレートに含まれない。
【0020】
(メタ)アクリレートの具体例として、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ベヘニル及びドコシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;
2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル等を例示できる。
これらは単独で又は2種以上併せて用いることができる。
【0021】
本発明の実施形態において、(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、より具体的には、メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレートを含むことが好ましく、特にn-ブチルアクリレート及び2-エチルヘキシルアクリレートから選ばれた少なくとも1種を含むことが好ましい。(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステルを含む。
【0022】
これらの単量体を混合して単量体乳化物とし、プレエマルションを調製した後、多段階乳化重合によって最終的に水性樹脂エマルションを調製する場合、プレエマルションや水性樹脂エマルション(最終生成物)のガラス転移温度の制御が容易になり、結果的に、水性樹脂エマルションの耐水性等を向上させることが可能となる。
【0023】
本発明の実施形態において、重合性不飽和単量は、(メタ)アクリル酸エステルの他に、“アルコキシシリル基及びエチレン性二重結合を有する単量体”及び/又は“カルボキシル基を有する単量体”を含むことができる。
アルコキシシリル基及びエチレン性二重結合を有する単量体とは、乳化重合反応によって得られる水性樹脂エマルション樹脂に、アルコキシシリル基を付与することができる化合物をいい、本発明の実施形態の水性樹脂エマルションを得ることができるものであれば特に制限されるものではない。
【0024】
アルコキシシリル基及びエチレン性二重結合を有する単量体は、アルコキシシリル基とエチレン性二重結合を共に有し、アルコキシシリル基とエチレン性二重結合は、例えば、エステル結合、アミド結合及びアルキレン基等の他の官能基を介して結合してよい。
ここで「アルコキシシリル基」とは、加水分解することによってケイ素に結合するヒドロキシル基(Si-OH)を与えるケイ素含有の官能基をいう。「アルコキシシリル基」として、例えば、トリメトキシシル基、トリエトキシシリル基、ジメトキシシリル基、ジメトキシメチルシリル基、ジエトキシシリル基、モノエトキシシリル基、及びモノメトキシシリル基等のアルコキシシルリ基を例示できる。特に、トリメトキシシリル基及びトリエトキシシリル基が好ましい。「エチレン性二重結合」については、上述の通りである。
尚、アルコキシシリル基及びエチレン性二重結合を有する単量体は、上述の(メタ)アクリル酸エステルに含まれない。
【0025】
本発明の実施形態において、重合性不飽和単量体が「アルコキシシリル基及びエチレン性二重結合を有する単量体」を含むと、分散質となる水性樹脂はアルコキシシリル基を含んでなる。本発明の実施形態の水性樹脂エマルションを含む水性樹脂組成物から形成される塗膜を乾燥すると、アルコキシシリル基は脱水縮合反応し、塗膜中で架橋し、水性樹脂の内部又は水性樹脂同士の間に架橋構造を形成することができ、塗膜の耐久性(耐水性、耐アルコール性、耐溶剤性、耐熱可塑性)等の向上に寄与することが可能となる。
【0026】
アルコキシシリル基及びエチレン性二重結合を有する単量体として、下記式(1)で示される化合物を例示できる。
Si(OR)(OR)(OR) (1)
[但し、式(1)において、Rはエチレン性二重結合を有する官能基であり、R、R及びRは、炭素数1~5のアルキル基である。R、R及びRは、相互に同一でも異なってもよい。]
【0027】
のエチレン性二重結合を有する官能基として、例えば、ビニル基、(メタ)アリル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル基、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピル基、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピル基、2-(メタ)アクリロイルオキシブチル基、3-(メタ)アクリロイルオキシブチル基、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルを例示できる。
【0028】
、R及びRの炭素数1~5のアルキル基として、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、及びn-ペンチル基等の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を例示できる。
「アルコキシシリル基を含有しエチレン性二重結合を有する単量体」として、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン及びビニルトリn-ブトキシシランなどのビニルトリアルコキシシランが挙げられる。
【0029】
具体的には、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン及び3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシランが好ましく、特に、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランが好ましい。3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランを用いると、本発明の実施形態の水性樹脂エマルションの耐久性をさらに向上させることができる。
これらのアルコキシシリル基を含有しエチレン性二重結合を有する単量体は、単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0030】
本発明の実施形態では、重合性不飽和単量体が、さらに、“カルボキシル基を有する単量体”を含むことができる。カルボキシル基を有する単量体としては、(メタ)アクリル酸が挙げられる。上述したように、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸及びメタクリル酸の両方を意味する。(メタ)アクリル酸として、アクリル酸を用いることが好ましい。更に、イタコン酸、フマール酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸及びそのモノエステルを例示することができる。
【0031】
本発明の実施形態において、目的とする水性樹脂エマルションが得られる限り、重合性不飽和単量体は、「その他の単量体」を含んでよい。「その他の単量体」とは、(メタ)アクリル酸エステル、アルコキシシリル基及びエチレン性二重結合を有する単量体、(メタ)アクリル酸以外の単量体をいう。
「その他の単量体」の一例を以下に示すが、以下に限定されるものではない。
スチレン及びスチレンスルホン酸等のスチレン系単量体;
イタコン酸、フマール酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸及びそのエステル;及び (メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド等のアクリルアミド。
【0032】
<多段階乳化重合>
本発明の実施形態の水性樹脂エマルションは、界面活性剤の存在下で、最終段以外は(a)重合性不飽和単量体が重合し、最終段は(b)重合性不飽和単量体が重合する、重合性不飽和単量体が多段階乳化重合することで得られる。
本明細書では、重合性不飽和単量体を複数段階(実質2段階)の工程で乳化重合して得ることができる。最終段以外の重合時に用いられる重合性不飽和単量体を(a)とし、最終段の重合時に用いられる重合性不飽和単量体を(b)とする。
多段階乳化重合によって最終的に得られる水性樹脂エマルションは、(a)重合性不飽和単量体が重合して得られる共重合体を含むプレエマルションの存在下で、(b)重合性不飽和単量体を重合させることで得ることができる。
従って、水性樹脂エマルションは、(a)重合性不飽和単量体の共重合体と、(b)重合性不飽和単量体の共重合体を含む。
【0033】
本発明の実施形態において、多段階乳化重合は、アリル基及びポリオキシエチレン基を有する硫酸エステル塩を含む界面活性剤の存在下で行われる。(a)重合性不飽和単量体が(a1)(メタ)アクリル酸エステルを含むことが好ましく 、(a1)に加えて(a2)アルコキシシリル基及びエチレン性二重結合を有する単量体 を更に含むことがより好ましく、(a1)及び(a2)に加えて(a3)カルボキシル基を有する単量体を更に含むことが特に好ましい。(b)重合性不飽和単量体が、(b1)(メタ)アクリル酸エステルを含むことが好ましく、(b1)に加えて(b2)アルコキシシリル基及びエチレン性二重結合を有する単量体を更に含むことがより好ましい。
【0034】
多段階乳化重合で得られた水性樹脂エマルションは、最終段以外で用いられる(a)重合性不飽和単量体に基づく共重合体と、最終段で用いられる(b)重合性不飽和単量体に基づく共重合体の2種類の共重合体を含む。その2種類の共重合体は、多層(コアシェル)構造を示す可能性がある。その2種類の共重合体を含む水性樹脂エマルションは、造膜し易いため、様々な基材へ塗工可能である。さらに、多段階乳化重合によって得られる、その2種類の共重合体を含む水性樹脂エマルションの耐久性(耐アルコール性、耐エステル系溶剤性及び耐可塑剤性)がより向上する。
【0035】
界面活性剤としてアリル基及びポリオキシエチレン基を有する硫酸エステル塩を用いると、本発明の実施形態の水性樹脂エマルションは、耐水性に著しく優れたものとなる。
従って、本発明の実施形態の水性樹脂組成物は、上記水性樹脂エマルションを含むので、塗工性及び耐久性(耐水性、耐アルコール性、耐エステル系溶剤性、及び耐可塑剤性)に優れ、様々な基材に塗工し易く、基材の保護層としても好適である。
尚、(a)重合性不飽和単量体と(b)重合性不飽和単量体は、同一であっても、異なっても良い。
【0036】
本発明の実施形態では、多段階乳化重合に用いられる重合性不飽和単量体は、最終段以外で用いる(a)重合性不飽和単量体と最終段で用いる(b)重合性不飽和単量体とを有し、(b)と(a)との質量比((b)/(a))が30/70~70/30であることが好ましく、特に40/60~60/40であることが好ましい。
(b)と(a)との質量比が上記割合であることによって、本発明の実施形態の水性樹脂組成物は、塗工性と耐久性(耐水性、耐アルコール性、耐エステル系溶剤性、及び耐可塑剤性)のバランスに優れる。
【0037】
本発明の実施形態における多段階乳化重合の工程を具体的に記載する。
先ず、フラスコ等の容器内で、(a)重合性不飽和単量体を調製する。(a)重合性単量体は、(a1)(メタ)アクリル酸エステル 、(a2)アルコキシシリル基及びエチレン性二重結合を有する単量体 及び(a3)カルボキシル基を有する単量体を含むことが好ましい。これらの単量体を均一に混合し、(a)重合性不飽和単量体混合物を調製する。
アリル基及びポリオキシエチレン基を有する硫酸エステル塩に水(若しくは水性媒体)を加えて水溶液とし、この水溶液に上述の(a)重合性不飽和単量体の混合物を添加し、(A)単量体乳化物を調製する。
【0038】
(a)重合性不飽和単量体は、(a)重合性不飽和単量体100質量部当たり、(a1)(メタ)アクリル酸エステルを、85~99質量部含むことがより好ましく 、90~98質量部含むことが特に好ましい。
(a)重合性不飽和単量体は、(a)重合性不飽和単量体100質量部当たり、(a2)アルコキシシリル基及びエチレン性二重結合を有する単量体を、0.05~1.0質量部含むことがより好ましく 、0.4~0.8質量部含むことが特に好ましい。
(a)重合性不飽和単量体は、(a)重合性不飽和単量体100質量部当たり、(a3)カルボキシル基を有する単量体を、0.5~10.0質量部含むことがより好ましく 、2.0~6.0質量部含むことが特に好ましい。
(a)重合性不飽和単量体が上述の組成をとる場合、本発明の実施形態の水性樹脂エマルションを含む水性樹脂組成物から形成される塗膜の耐久性(耐水性、耐アルコール性、耐溶剤性、耐熱可塑性)がバランス良く向上する。
【0039】
(A)単量体乳化物とは別に、別の容器内に(B)単量体乳化物を調製する。(B)単量体乳化物の調製は、上述した(A)単量体乳化物の調製方法と同様の方法を用いて行うことができる。
具体的には、別のフラスコ等の容器内に、(b)重合性不飽和単量体を準備する。(b)重合性不飽和単量体は、(b1)(メタ)アクリル酸エステル及び(b2)アルコキシシリル基及びエチレン性二重結合を有する単量体を含むことが好ましい。これらの単量体を均一に混合し、(b)重合性不飽和単量体の混合物を調製する。
アリル基及びポリオキシエチレン基を有する硫酸エステル塩の水溶液に(b)重合性不飽和単量体の混合物を添加し、(B)単量体乳化物を得る。
【0040】
(b)重合性不飽和単量体は、(b)重合性不飽和単量体100質量部当たり、(b1)(メタ)アクリル酸エステルを、85~99.9質量部含むことがより好ましく 、95~99.9質量部含むことが特に好ましい。
(b)重合性不飽和単量体は、(b)重合性不飽和単量体100質量部当たり、(b2)アルコキシシリル基及びエチレン性二重結合を有する単量体を、0.01~1.0質量部含むことがより好ましく 、0.1~0.4質量部含むことが特に好ましい。
(b)重合性不飽和単量体が上述の組成をとる場合、本発明の実施形態の水性樹脂エマルションを含む水性樹脂組成物から形成される塗膜の耐久性(耐水性、耐アルコール性、耐溶剤性、耐熱可塑性)がバランス良く向上する。
【0041】
次に、撹拌機、温度計等を備えた反応器に、水及びアリル基及びポリオキシエチレン基を有する硫酸エステル塩を仕込み、(A)単量体乳化物の一部と、触媒を添加する。反応器内の温度を適温に保ったまま、(A)単量体乳化物の残りと、触媒をさらに滴化し、プレエマルションを調製する。
このプレエマルションに、(B)単量体乳化物と触媒を滴下して重合することで、最終生成物である水性樹脂エマルションを多段階乳化重合で合成することができる。
【0042】
尚、本明細書おいて「水性媒体」とは、水道水、蒸留水又はイオン交換水等の一般的な水をいうが、水溶性又は水に分散可能な有機溶剤であって、単量体等の本発明に関する樹脂の原料と反応性の乏しい有機溶剤、例えば、アセトン及び酢酸エチル等を含んでもよく、更に水溶性又は水に分散可能な単量体、オリゴマー、プレポリマー及び/ 又は樹脂等を含んでもよく、また後述するように水系の樹脂又は水溶性樹脂を製造する際に通常使用される、乳化剤、重合性乳化剤、重合反応開始剤、鎖延長剤及び/ 又は各種添加剤等を含んでいてもよい。
乳化重合の反応温度、反応時間、単量体の種類及び濃度、攪拌速度、並びに触媒の種類
及び濃度等の重合反応の条件は、本発明の実施形態の水性樹脂エマルションが得られる限り、特に限定されない。
【0043】
「触媒」とは、少量の添加によって重合性不飽和単量体の乳化重合を起こさせることができる化合物であって、水性媒体中で使用することができるものが好ましい。例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、t- チルペルオキシベンゾエート、2,2-アゾビスイソブチトニトリル(AIBN)及び2,2-アゾビス(2-アミジノプロパン)ジヒドロクロリド、及び2,2-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル) 等を例示することができ、特に、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムが好ましい。
【0044】
(a)重合性不飽和単量体の共重合体のガラス転移温度は、(b)重合性不飽和単量体の共重合体のガラス転移温度より低いことが好ましい。
本発明の実施形態では、(a)重合性不飽和単量体の共重合体のガラス転移温度が-20~20℃であることが好ましく、-10~20℃であることがより好ましく、-10~15℃であることが特に好ましい。(a)重合性不飽和単量体の共重合体のガラス転移温度が上記範囲であることによって、本発明の実施形態の水性樹脂エマルションの耐久性、特に耐水性がさらに向上する。
【0045】
本発明の実施形態では、(b)重合性不飽和単量体の共重合体のガラス転移温度が10~50℃であることが好ましく、25~50℃であることがより好ましく、30~50℃であることが特に好ましい。(b)重合性不飽和単量体の共重合体のガラス転移温度が上記範囲であることによって、本発明の実施形態の水性樹脂エマルションの耐久性、特に耐溶剤性がさらに向上する。
【0046】
本明細書では、(a)重合性不飽和単量体の共重合体のガラス転移温度は、(a)重合性不飽和単量体((a1)、(a2)及び(a3)を含む)の各々が単独重合したときに得られる各々のホモポリマーのガラス転移温度(以下「ホモポリマーTg」ともいう)から算出することができる。
ガラス転移温度は、このホモポリマーTgと、(a)重合性不飽和単量体中の(a1)、(a2)及び(a3)の各々の混合比(質量比)を考慮して算出することができる。
【0047】
同様に、(b)重合性不飽和単量体の共重合体のガラス転移温度は、(b)重合性不飽和単量体((b1)及び (b2)を含む)の各々が単独重合したときに得られる各々のホモポリマーのガラス転移温度(以下「ホモポリマーTg」ともいう)から算出される。
尚、(a2)及び(b2)について、本質的に使用量が少量であることもあり、本明細書では、Tgの計算について、考慮しなくてよい。
【0048】
具体的には、重合性不飽和単量体の共重合体(又は樹脂)のTgは、下記式(1)を用いて計算することによって求めることができる。式(1)では、重合性不飽和単量体をモノマーと表現する。
【0049】
式(1):
1/Tg=C/Tg+C/Tg+・・・+C/Tg
[算出式(1)において、Tgは、重合性不飽和単量体(混合物)の共重合体(又は樹脂)の理論Tg、Cは、n番目のモノマーnが重合性不飽和単量体混合物中に含まれる質量割合、Tgは、n番目のモノマーnのホモポリマーTg、nは、共重合体を構成する単量体の数であり、正の整数。]
【0050】
ホモポリマーTgは、文献に記載されている値を用いることができる。そのような文献として、例えば、「POLYMER HANDBOOK」(第4版;John Wiley & Sons,Inc.発行)がある。一例として、POLYMER HANDBOOKに記載されたモノマーのホモポリマーTgを以下に示す。
メチルメタクリレート(「MMA」、Tg=105℃)
n-ブチルアクリレート(「n-BA」、Tg=-54℃)
2-エチルへキシルアクリレート(「2EHA」、Tg=-70℃)
スチレン(「St」、Tg=100℃)
アクリル酸(「AA」、Tg=106℃)
メタクリル酸(「MAA」、Tg=130℃)
n-ブチルメタクリレート(「BMA」、Tg=20℃)
シクロヘキシルメタクリレート(「CHMA」、Tg=83℃)
【0051】
本明細書では、上記各々のモノマーの単独重合で得られる各々のホモポリマーのTgの他に、他のモノマーの単独重合で得られるホモポリマーのガラス転移温度(Tg)も式(1)に適用可能である。
【0052】
本発明の実施形態では、分散質となる水性樹脂エマルションの特性に応じて、水性樹脂エマルションを中和してもよい。ここで「中和」は、通常中和に用いられるアルカリ性物質を加えることで行うことができる。
【0053】
本明細書において「アルカリ性物質」とは、水に溶解することによって7より大きなpHを呈する物質をいい、通常アルカリ性物質の形態は気体、液体及び固体を問わないが、水に溶解性せしめた水溶性の形態のものが取り扱いやすく、また、中和反応を制御し易いので好ましい。このような「アルカリ性物質」として、例えば、アンモニア、ナトリウム及びカリウム等のアルカリ金属、カルシウム及びマグネシウム等のアルカリ金属、カルシウム及びマグネシウム等のアルカリ土類金属等を例示できるが、アンモニア水、ナトリウム水溶液及びカリウム水溶液が好ましい。
アルカリ性物質は、水性樹脂を含む水性媒体のpHが8.0以上となるように加えることが好ましく、pHが8.0~10.0となるように加えることがより好ましく、pH が8.0~9.5となるように加えることが特に好ましい。
【0054】
本発明の実施形態の水性樹脂エマルションは、平均粒子径0.25μm以下の分散質(又は水性樹脂)を含むことが好ましい。
本発明の実施形態では、分散質の平均粒子径が0.05~0.20μmであることが特に好ましい。本明細書中で平均粒子径とは、大塚電子 (株)製の「PARIII 」( L A S E R P A R T I C L E A N A L Y Z E R) を使用し、動的光散乱法により測定し、キュラント法により解析して求めた粒子径をいう。
【0055】
本発明の実施形態の水性樹組成物は、本発明の実施形態の水性樹脂エマルションを含んで成るものであれば、当業者にとって周知である顔料、充填剤、防錆剤、増粘剤、分散剤、消泡剤、防腐剤、成膜助剤等を必要に応じて含有してよい。
顔料とは、通常、顔料とされるものであれば特に限定されることはない。顔料は、通常、有機顔料と無機顔料に分類される。
【0056】
有機顔料として、例えば、ファストエロ、ジアゾエロー、ジアゾオレンジ及びナフトールレッド等の不溶性アゾ顔料、銅フタロシアニン等のフタロシアニン系顔料、ファナールレーキ、タンニンレーキ及びカタノール等の染色レーキ、イソインドリノエローグリーニッシュ及びイソエンドリノエローレディッシュ等のイソインドリノ系顔料、キナクリドン系顔料、ペリレンスーカット及びペリレンマルーン等のペリレン系顔料等を例示できる。
無機顔料として、例えば、カーボンブラック、鉛白、鉛丹、黄鉛、銀朱、群青、酸化コバルト、二酸化チタン、チタニウムイエロー、ストロンチウムクロメート、モリブテン赤、モリブテンホワイト、鉄黒、リトボン、エメラルドグリーン、ギネー緑、コバルト青等を例示できる。
【0057】
充填剤とは、性能向上、コスト低減等の目的で添加される物質をいい、通常充填剤とされるものであれば、特に制限されるものではない。具体的には、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、シリカ、タルク、クレー、アルミナ等を例示できる。
防錆剤とは、素材の腐食を抑制するために加えられる物質をいい、通常、防錆剤とされるものであれば、特に制限されるものではない。例えば、鉛丹、白鉛、亜鉛化鉛、塩基性硫酸白鉛、塩基性クロム酸鉛、鉛酸カルシウム、クロム酸亜鉛、鉛酸シアナミド、亜粉末、ジクロロメート、バリウムクロメート、亜硝酸ソーダ、ジシクロヘキシルアンモニウムニトリル、シクロヘキシルアミンカーボネート、防錆油等を例示できる。
【0058】
増粘剤とは、通常、増粘剤とされるものであれば特に限定されることはない。例えば、アルカリ増粘型の増粘剤として、変性アクリルポリマーを、会合型の増粘剤として、ウレタン変性ポリエーテル及びポリエーテル等を例示できる。アルカリ増粘型の増粘剤として、例えば、ヒドロキシエチルセルロース( ダイセル化学社製のSP600( 商品名) )、サンノプコ(株)製のSNシックナー615 (商品名)、R&H(株)製のA SE60(商品名)、ヘンケルジャパン(株)製のKA10K (商品名) 等を例示できる。また会合型の増粘剤として、例えば、サンノプコ(株)製のSN812(商品名)、R&H(株)製のRM8W(商品名)、ADEKA(株)製のUH752(商品名)等を例示できる。
【0059】
分散剤とは、通常、分散剤とされるものであれば特に限定されることはない。例えば、太平化学産業(株)製のトリポリリン酸カリウム、ローム&ハース社製のプライマール850(商品名)、花王(株)製のデモールEP(商品名)、第一工業製薬(株)製のディスコートN-14(商品名)、(R&H製)のオロタン165A(商品名)、サンノプコ(株)製のSNディスパーサント5020(商品名)を例示できる。
【0060】
消泡剤とは、通常、消泡剤とされるものであれば特に限定されることはない。例えば、疎水性シリカ、金属石鹸系、アマイド系、変性シリコーン系、シリコーンコンパウンド系、ポリエーテル系、エマルション系、粉末系などがある。例えば、疎水性シリカとして、サンノプコ(株)製のノプコS N デフォーマー777(商品名)、サンノプコ(株) 製のSNデフォーマーVL(商品名)、金属石鹸系として、サンノプコ(株)製のノプコNXZ (商品名)、アマイド系消泡剤として、サンノプコ(株)製のノプコ267-A (商品名)、変性シリコーン系消泡剤として、信越化学製のシリコーンKM80(商品名)、シリコーンコンパウンド系消泡剤として、サンノプコ(株)製のSNデフォーマー121N(商品名)、ポリエーテル系消泡剤として、サンノプコ(株)製のSN デフォーマーPC(商品名)、エマルション系消泡剤として、サンノプコ(株)製のノプコKF -99(商品名)、粉末系消泡剤として、サンノプコ(株)製のSNデフォーマー14-HP(商品名)等を例示できる。
【0061】
防腐剤として、例えば、ソージャパン(株)製のACTICIDE LG(商品名) 、ソージャパン(株)製のACTICIDE MBS(商品名)等を例示できる。
成膜助剤とは、通常、成膜助剤とされるものであれば特に限定されることはない。例えば、2,2,4-トリメチルペンタンジオール-1,3-モノイソブタレート(チッソ(株)社製のCS-12(商品名))、2,2,4-トリメチルペンタンジオール-1,3- ジイソブタレート(チッソ(株)社製のCS-16(商品名))、ベンジルアルコール、ブチルグリコール、2-エチルヘキシルグリコ-ル、フェニルプロピレングリコール、ジブチルジグリコール;
ジプロピレングリコールモノn-ブチルエーテル、トリプロピレンモノグリコールn-ブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノn-ブチルエーテル等の多価アルコールモノアルキルエーテルの有機エステル類、3-エトキシプロピオン酸エステル類、酢酸3-メトキシ-3-メチル-ブチル、安息香酸エステル、アジピン酸系ポリエステル等を例示できる。
【0062】
本発明の実施形態の水性樹脂組成物は、種々の基材、例えば、金属、木材、プラスチック及び無機質建材等の一般的な基材に塗工することができ、基材上に形成された樹脂層を覆って保護することも可能である。
例えば、感熱記録媒体の支持体であるプラスチックフィルム上に樹脂を塗布し、樹脂が乾燥して形成された感熱記録層に、本発明の実施形態の水性樹脂組成物を塗布して保護層とすることができる。
【0063】
上述したように、本発明の実施形態の水性樹脂エマルションは、それに含まれる分散質の平均粒子径が0.25μm 以下と小さいので、本発明の実施形態の水性樹脂組成物は、木材に非常によく浸透する。本発明の実施形態の水性樹脂組成物は木材内部に浸透することで、木材表面に多量に残らず、木材外観が良くなり、更に、木材内部へ浸透した水性樹脂組成物が木材の腐敗を内部から防止することができる。
【実施例
【0064】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、これらの実施例は本発明の一態様にすぎず、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0065】
実施例に係る水性エマルションを(A)単量体乳化物および(B)単量体乳化物から調製した。(A)および(B)を製造するための重合性不飽和単量体、界面活性剤、及び各添加剤について以下に記載する。
尚、重合性不飽和単量体のホモポリマーTgは、上述の文献値であり、(a)重合性不飽和単量体の共重合体のTgと(b)重合性不飽和単量体の共重合体のTgは、既出の理論計算式で算出された値である。
【0066】
<重合性不飽和単量体>
メタクリル酸メチル(メチルメタクリレート、以下、「MMA」(富士フィルム和光純薬社製、ホモポリマーのTg=105℃)
アクリル酸2-エチルヘキシル(2-エチルヘキシルアクリレート、以下、「2EHA」(富士フィルム和光純薬社製、ホモポリマーのTg=-70℃)
アクリル酸n-ブチル(n-ブチルアクリレート、以下、「n-BA」という)(富士フィルム和光純薬社製、ホモポリマーのTg=-54℃)
メタクリル酸n-ブチル(n-ブチルメタクリレート、以下、「n-BMA」(富士フィルム和光純薬社製、ホモポリマーのTg=20℃)
メタクリル酸シクロヘキシル(シクロヘキシルメタクリレート、以下、「CHMA」(富士フィルム和光純薬製、ホモポリマーのTg=83℃ )
3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(富士フィルム和光純薬製社製)
アクリル酸(以下、「AA」(富士フィルム和光純薬社製、ホモポリマーのTg=106℃))
スチレン(以下、「St」(富士フィルム和光純薬社製、ホモポリマーのTg=100℃))
【0067】
<界面活性剤>
ポリオキシエチレン-1-(アリルオキシメチル)アルキルエーテル流酸エステルアンモニウム塩(第一工業製薬社製、アクアロンKH10)(以下「S1」ともいう) ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル(花王社製、エマルゲンA-500)(以下「S2」ともいう)
【0068】
<実施例1>
複数の重合性不飽和単量体から単量体乳化物を調製し、その後、単量体乳化物からプレエマルションを調製し、プレエマルションから水性樹脂エマルションを合成した。具体的な工程は以下のとおりである。
【0069】
((A)単量体乳化物の調製)
表1に示されるように、(a1-1)MMA5質量部、(a1-3)BA23質量部、(a1-4)BMA10質量部、(a1-5)CHMA10質量部、(a3)AA2質量部、(a2)3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン0.3質量部を均一に混合し、(a)重合性不飽和単量体溶液(50.3質量部)を調製した。
水14質量部、(S1)ポリオキシエチレン-1-(アリルオキシメチル)アルキルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩0.1質量部が均一に混合された溶液に、上記(a)重合性不飽和単量体溶液を添加し、攪拌機でこれら混合溶液を攪拌して(A)単量体乳化物を得た。
【0070】
((B)単量体乳化物の調製)
(A)単量体乳化物とは別に、(B)単量体乳化物を調製した。具体的な調製を以下に示す。表1に示されるように、(b1-1)MMA16.6質量部、(b1-3)BA13質量部、(b1-4)BMA10質量部、(b1-5)CHMA10質量部、(b2)3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン0.1質量部を均一に混合し、(b)重合性不飽和単量体溶液を調製した。
水14質量部、(S1)ポリオキシエチレン-1-(アリルオキシメチル)アルキルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩0.1質量部が均一に混合された溶液に、上記(b)重合性不飽和単量体溶液を添加し、攪拌機でこれら混合溶液を攪拌して(B)単量体乳化物を得た。
【0071】
(プレエマルションの合成)
攪拌機、コンデンサー及び温度計を備えた反応器に、水78質量部及び(S1)ポリオキシエチレン-1-(アリルオキシメチル)アルキルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩1.25質量部を仕込み、系内を窒素ガスで置換した後、その仕込み液を80℃に加熱した。
その後、その仕込み液に、(A)単量体乳化物((a)重合性不飽和単量体を50.3質量部含み、その(a)重合性不飽和単量体の10.1質量部に相当する部分)、1質量%の過硫酸ナトリウム(以下、「SPS」ともいう)水溶液2質量部を添加した。
さらに10分後、反応器内の温度を80℃に保ったまま、上述の(A)単量体乳化物の残り((a)重合性不飽和単量体40.2質量部に相当する部分)及び重合触媒であるSPSの1%水溶液4質量部を各々同時に2時間かけて滴下し、プレエマルジョン((a)重合性不飽和単量体に基づく水性樹脂エマルション)を得た。
【0072】
(水性樹脂エマルションの合成)
反応器内の温度を80℃に保ち、滴下終了から30分後、上述の(B)単量体乳化物((b)不飽和重合性単量体を49.7質量部含む)、SPSの1%水溶液4質量部を、各々同時に2時間かけて上述のプレエマルションに滴下し、水性樹脂エマルションを得た。
得られた水性樹脂エマルジョンをアンモニア水でpH8.0に調整した。水性樹脂エマルションは、(a)重合性不飽和単量体の共重合体のガラス転移温度が-3.8℃、(b)重合性不飽和単量体の共重合体のガラス転移温度が26.7℃、固形分濃度が45質量%であった。固形分は、105℃のオーブン中で3時間乾燥し、乾燥前の質量に対する残留する部分の質量百分率である。
【0073】
<実施例~実施例4>
単量体乳化物、水性樹脂エマルションの合成についても、原料の単量体を表1に示したように用い、実施例1と同様の方法で合成した。
【0074】
実施例および比較例の水性樹脂エマルションを以下の方法で評価した。
<耐水性>
実施例および比較例で最終的に得られた水性樹脂エマルションを5ミルアプリケーターでガラス板上に塗工し、直ちに105℃乾燥機で乾燥し、樹脂被膜を作製した。
得られた被膜を50℃の温水に浸漬し、24時間後に状態を確認した。評価基準は以下のとおりである。
被膜が透明 ◎ 合格レベル
被膜が薄く白濁しているが、ガラス板上に密着している ○ 合格レベル
被膜が白濁し、またはガラス板上からはがれている × 不合格レベル
【0075】
<耐アルコール性>
実施例および比較例で最終的に得られた水性樹脂エマルションをバーコーターで感熱記録紙(KOKUYO社製、ワープロ用感熱紙 SD STANDARD)上に塗工し、直ちに60℃乾燥機で5分乾燥させ、塗工紙を得た。得られた塗工紙上にイソプロピルアルコールを1滴垂らし、状態を確認した。評価基準は以下のとおりである。
感熱紙に変色がない ◎ 合格レベル
感熱紙が僅かに変色した ○ 合格レベル
感熱紙が黒く変色した × 不合格レベル
【0076】
<耐エステル系溶剤性>
耐アルコール性評価で用いたイソプロピルアルコールを酢酸エチルに変更した他は、耐アルコール性試験に記載した方法と同様の方法を用いて、耐エステル系溶剤性を評価した。評価基準は以下のとおりである。
感熱紙に変色がない ◎ 合格レベル
感熱紙が僅かに変色した ○ 合格レベル
感熱紙が黒く変色した × 不合格レベル
【0077】
<耐可塑剤性>
耐アルコール性評価で用いたイソプロピルアルコールをクエン酸アセチルトリブチルに変更した他は、耐アルコール性試験に記載した方法と同様の方法を用いて、耐可塑剤性を評価した。評価基準は以下のとおりである。
感熱紙に変色がない ◎ 合格レベル
感熱紙が僅かに変色した ○ 合格レベル
感熱紙が黒く変色した場合 × 不合格レベル




































【0078】
【表1】


【0079】
表1に示されるように、実施例の水性樹脂エマルションは、界面活性剤としてアリル基及びポリオキシエチレン基を有する硫酸エステル塩の存在下で、特定の重合性不飽和単量体の多段階乳化重合によって得られたものであり、耐水性、耐アルコール性、耐エステル系溶剤性、耐可塑剤性の全ての性能に優れており、ガラス板にも感熱記録紙にも塗工することができる。
【0080】
比較例1の水性樹脂エマルションでは、界面活性剤としてアリル基及びポリオキシエチレン基を有する硫酸エステル塩を用いず、硫酸エステル塩を有さない界面活性剤(ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル)を使用している。よって、比較例1の水性樹脂エマルションは、耐水性、耐アルコール性、耐エステル系溶剤性、耐可塑剤性の全ての性能が劣っている。
【0081】
比較例2の水性樹脂エマルションでは、界面活性剤としてアリル基及びポリオキシエチレン基を有する硫酸エステル塩を用いてはいるが、多段階乳化重合ではなく、通常の乳化重合(重合ステップが一段)で水性樹脂エマルションを合成している。従って、比較例2の水性樹脂エマルションは、1種類のみの樹脂を含み、耐水性には優れているが、その他の耐久性能(耐アルコール性、耐エステル系溶剤性、及び耐可塑剤性)が劣っている。
【0082】
このように、本願発明の実施形態の水性樹脂エマルションは、耐水性、耐アルコール性、耐エステル系溶剤性、耐可塑剤性に優れており、バランスの良い耐久性を有していることが立証された。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、積層体、木質材料、紙基材、プラスチックフィルム、樹脂層等、様々な分野で利用可能な水性樹脂エマルションを提供できる。
水性樹脂エマルションを含む水性樹脂組成物は、衛生材料、建築材料。積層フィルム、包装、電子材料、感熱記録媒体等を製造するために好適である。