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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】糖類低減果実飲料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/02 20060101AFI20240624BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20240624BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20240624BHJP
   A23L 2/56 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
A23L2/02 B
A23L2/00 B
A23L2/00 G
A23L2/52 101
A23L2/56
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2019239788
(22)【出願日】2019-12-27
(65)【公開番号】P2021106547
(43)【公開日】2021-07-29
【審査請求日】2022-07-05
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000253503
【氏名又は名称】キリンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003421
【氏名又は名称】弁理士法人フィールズ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀江 暁
(72)【発明者】
【氏名】西山 千晶
(72)【発明者】
【氏名】若林 英行
【審査官】関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/092768(WO,A1)
【文献】特表2010-520743(JP,A)
【文献】特開2011-167171(JP,A)
【文献】特開2015-192652(JP,A)
【文献】特開2016-116493(JP,A)
【文献】山本 茂ほか,おやつと飲料類の単糖・二糖類含有量,日本栄養士会雑誌,2009年,第52巻, 第4号,第22-25頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクロース濃度がBrix11°換算で1.4g/100mL以下である、柑橘果実果汁を含む果実飲料であって、該飲料のエチルエステル濃度が25~50ppbであり、かつ/または、該飲料のモノテルペン誘導体濃度が600~3000ppbであり、エチルエステルが、ヘキサン酸エチル、3-ヒドロキシヘキサン酸エチル、酪酸エチル、2-メチル酪酸エチル、プロピオン酸エチル、2-メチルプロピオン酸エチル、酢酸エチルおよびチグリン酸エチルからなる群から選択される1種または2種以上であり、モノテルペン誘導体が、α-テルピネオール、酢酸テルピニル、リモネン、γ-テルピネン、α-フェランドレン、α-ピネン、β-ピネン、リナロール、ミルセン、ゲラニオールおよびシトラールからなる群から選択される1種または2種以上である、果実飲料。
【請求項2】
柑橘果実が、オレンジ、グレープフルーツおよびうんしゅうみかんからなる群から選択される1種または2種以上を含む、請求項1に記載の果実飲料。
【請求項3】
飲料の果汁率が30%以上である、請求項1または2に記載の果実飲料。
【請求項4】
果実飲料が、スクロース濃度がBrix11°換算で1.4g/100mL以下であり、かつ、糖類濃度がBrix11°換算で6.0g/100mL以下であるオレンジ果汁飲料、スクロース濃度がBrix9°換算で1.1g/100mL以下であり、かつ、糖類濃度がBrix9°換算で7.4g/100mL以下であるグレープフルーツ果汁飲料およびスクロース濃度がBrix9°換算で1.2g/100mL以下であり、かつ、糖類濃度がBrix9°換算で7.8g/100mL以下であるうんしゅうみかん果汁飲料からなる群から選択される1種以上である、請求項1~のいずれか一項に記載の果実飲料。
【請求項5】
エチルエステルが、酪酸エチル、ヘキサン酸エチルおよび酢酸エチルである、請求項1~のいずれか一項に記載の果実飲料。
【請求項6】
モノテルペン誘導体が、リナロール、α-テルピネオール、シトラールおよびゲラニオールである、請求項1~のいずれか一項に記載の果実飲料。
【請求項7】
スクロース濃度がBrix11°換算で1.4g/100mL以下である、柑橘果実果汁を含む果実飲料の製造方法であって、該飲料のエチルエステル濃度を25~50ppbに調整し、かつ/または、該飲料のモノテルペン誘導体濃度を600~3000ppbに調整することを含んでなり、エチルエステルが、ヘキサン酸エチル、3-ヒドロキシヘキサン酸エチル、酪酸エチル、2-メチル酪酸エチル、プロピオン酸エチル、2-メチルプロピオン酸エチル、酢酸エチルおよびチグリン酸エチルからなる群から選択される1種または2種以上であり、モノテルペン誘導体が、α-テルピネオール、酢酸テルピニル、リモネン、γ-テルピネン、α-フェランドレン、α-ピネン、β-ピネン、リナロール、ミルセン、ゲラニオールおよびシトラールからなる群から選択される1種または2種以上である、製造方法。
【請求項8】
飲料の糖類を低減する工程をさらに含んでなる、請求項に記載の製造方法。
【請求項9】
糖類低減工程が、酵素処理、膜濾過処理、触媒処理および発酵処理からなる群から選択される1種または2種以上の処理により行われる、請求項に記載の製造方法。
【請求項10】
柑橘果実が、オレンジ、グレープフルーツおよびうんしゅうみかんからなる群から選択される1種または2種以上を含む、請求項7~9のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
果実飲料が、スクロース濃度がBrix11°換算で1.4g/100mL以下であり、かつ、糖類濃度がBrix11°換算で6.0g/100mL以下であるオレンジ果汁飲料、スクロース濃度がBrix9°換算で1.1g/100mL以下であり、かつ、糖類濃度がBrix9°換算で7.4g/100mL以下であるグレープフルーツ果汁飲料およびスクロース濃度がBrix9°換算で1.2g/100mL以下であり、かつ、糖類濃度がBrix9°換算で7.8g/100mL以下であるうんしゅうみかん果汁飲料からなる群から選択される1種以上である、請求項7~10のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項12】
エチルエステルが、酪酸エチル、ヘキサン酸エチルおよび酢酸エチルである、請求項7~11のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項13】
モノテルペン誘導体が、リナロール、α-テルピネオール、シトラールおよびゲラニオールである、請求項7~12のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項14】
スクロース濃度がBrix11°換算で1.4g/100mL以下である、柑橘果実果汁を含む果実飲料の香味改善方法であって、該飲料のエチルエステル濃度を25~50ppbに調整し、かつ/または、該飲料のモノテルペン誘導体濃度を600~3000ppbに調整することを含んでなり、エチルエステルが、ヘキサン酸エチル、3-ヒドロキシヘキサン酸エチル、酪酸エチル、2-メチル酪酸エチル、プロピオン酸エチル、2-メチルプロピオン酸エチル、酢酸エチルおよびチグリン酸エチルからなる群から選択される1種または2種以上であり、モノテルペン誘導体が、α-テルピネオール、酢酸テルピニル、リモネン、γ-テルピネン、α-フェランドレン、α-ピネン、β-ピネン、リナロール、ミルセン、ゲラニオールおよびシトラールからなる群から選択される1種または2種以上である、方法。
【請求項15】
果実飲料が、スクロース濃度がBrix11°換算で1.4g/100mL以下であり、かつ、糖類濃度がBrix11°換算で6.0g/100mL以下であるオレンジ果汁飲料、スクロース濃度がBrix9°換算で1.1g/100mL以下であり、かつ、糖類濃度がBrix9°換算で7.4g/100mL以下であるグレープフルーツ果汁飲料およびスクロース濃度がBrix9°換算で1.2g/100mL以下であり、かつ、糖類濃度がBrix9°換算で7.8g/100mL以下であるうんしゅうみかん果汁飲料からなる群から選択される1種以上である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
エチルエステルが、酪酸エチル、ヘキサン酸エチルおよび酢酸エチルである、請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
モノテルペン誘導体が、リナロール、α-テルピネオール、シトラールおよびゲラニオールである、請求項14~16のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖類低減果実飲料およびその製造方法に関する。本発明はまた、糖類低減果実飲料の香味改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の健康志向の高まりに伴って飲食品摂取の際の糖質摂取量の低減が望まれており、糖質摂取量の削減は今後の社会課題ともいわれている。果実飲料は手軽に果実を摂取できるため、健康維持を目的として消費者に広く親しまれているが、これらの飲料には果実由来の糖質が含まれていることから、糖質摂取量の低減の観点からはできる限り糖質含量を低減することが望ましいといえる。
【0003】
果実飲料に関してはこれまでに、果汁を膜処理することにより果汁から単糖や二糖を除去し、低カロリー化する技術(特許文献1および2)や、果汁をフラクトシルトランスフェラーゼ粗酵素剤で処理し低カロリー化する技術(特許文献3)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2010-520743号公報
【文献】国際公開第2006/004106号
【文献】国際公開第2016/092768号
【発明の概要】
【0005】
本発明者らは今般、糖類を低減した果汁は通常の果汁と比較してボリューム感が不足する傾向にあること、糖類を低減した果汁においてエチルエステルおよび/またはモノテルペン誘導体を所定濃度に調整することにより、糖類含有量が低いことに起因するボリューム感の不足を改善できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0006】
本発明は、香味が改善された新規な糖類低減果実飲料と、その製造方法を提供することを目的とする。本発明はまた、糖類低減果実飲料の香味を改善する方法を提供することを目的とする。本発明はさらに、糖類低減果実飲料のボリューム感の不足を改善する方法を提供することを目的とする。
【0007】
本発明によれば以下の発明が提供される。
[1]スクロース濃度がBrix11°換算で1.4g/100mL以下である柑橘果実を含む果実飲料であって、該飲料のエチルエステル濃度が25~50ppbであり、かつ/または、該飲料のモノテルペン誘導体濃度が600~3000ppbである、果実飲料。
[2]糖類低減柑橘果汁を含有する果実飲料であって、該飲料のエチルエステル濃度が25~50ppbであり、かつ/または、該飲料のモノテルペン誘導体濃度が600~3000ppbである、果実飲料。
[3]エチルエステルが、ヘキサン酸エチル、3-ヒドロキシヘキサン酸エチル、酪酸エチル、2-メチル酪酸エチル、プロピオン酸エチル、2-メチルプロピオン酸エチル、酢酸エチルおよびチグリン酸エチルからなる群から選択される1種または2種以上を含む、上記[1]または[2]に記載の果実飲料。
[4]モノテルペン誘導体が、α-テルピネオール、酢酸テルピニル、リモネン、γ―テルピネン、α―フェランドレン、α―ピネン、β―ピネン、リナロール、ミルセン、ゲラニオールおよびシトラールからなる群から選択される1種または2種以上を含む、上記[1]~[3]のいずれかに記載の果実飲料。
[5]柑橘果実が、オレンジ、グレープフルーツおよびうんしゅうみかんからなる群から選択される1種または2種以上を含む、上記[1]~[4]のいずれかに記載の果実飲料。
[6]飲料の果汁率が30%以上である、上記[1]~[5]のいずれかに記載の果実飲料。
[7]スクロース濃度がBrix11°換算で1.4g/100mL以下である、柑橘果実を含む果実飲料の製造方法であって、該飲料のエチルエステル濃度を25~50ppbに調整し、かつ/または、該飲料のモノテルペン誘導体濃度を600~3000ppbに調整することを含んでなる製造方法。
[8]飲料の糖類を低減する工程をさらに含んでなる、上記[7]に記載の製造方法。
[9]糖類低減工程が、酵素処理、膜濾過処理、触媒処理および発酵処理からなる群から選択される1種または2種以上の処理により行われる、上記[8]に記載の製造方法。
[10]柑橘果実が、オレンジ、グレープフルーツおよびうんしゅうみかんからなる群から選択される1種または2種以上を含む、上記[7]~[9]のいずれかに記載の製造方法。
[11]スクロース濃度がBrix11°換算で1.4g/100mL以下である、柑橘果実を含む果実飲料の香味改善方法およびボリューム感の不足を改善する方法であって、該飲料のエチルエステル濃度を25~50ppbに調整し、かつ/または、該飲料のモノテルペン誘導体濃度を600~3000ppbに調整することを含んでなる方法。
上記[1]と上記[2]の飲料を本明細書において「本発明の飲料」ということがある。
【0008】
本発明によれば、糖類低減果実飲料において低下する傾向がある香味を改善することができる。すなわち本発明によれば、低カロリーでありながら通常の果汁と遜色ない香味が実現された糖類低減果実飲料を提供できる点で有利である。
【発明の具体的説明】
【0009】
<<本発明の飲料>>
本発明において「果実飲料」とは、果汁を原料とする飲料を意味し、果実ジュース、果実ミックスジュース、果粒入り果実ジュース、濃縮果汁および果汁入り飲料が挙げられる。本発明の飲料はアルコールを含有しない非アルコール飲料とすることができる。
【0010】
本発明において「果実」としては、例えば、オレンジ、グレープフルーツ、うんしゅうみかん等の柑橘果実や、パイナップル、リンゴ、ブドウ、ピーチ、イチゴ、バナナ、マンゴー、メロン、アプリコットが挙げられ、好ましくはオレンジ、グレープフルーツおよびうんしゅうみかんを使用することができる。
【0011】
本発明において「Brix値」(本明細書中、単に「Brix」ということがある)とは、溶液中に含まれる可溶性固形分(例えば、糖、タンパク質、ペプチド等)の総濃度を表す指標であり、20℃で測定された当該溶液の屈折率を、ICUMSA(国際砂糖分析法統一委員会)の換算表を使用して、純ショ糖溶液の質量/質量%に換算した値である。20℃における屈折率の測定は、アタゴ社製糖度計などの市販の糖用屈折計を使用して行うことができる。
【0012】
本発明において「BrixA°換算」とは、飲料のBrix値がA°となるように調整した飲料における定量値を意味する。例えば、「スクロース濃度がBrix11°換算で1.4g/100mL以下の果実飲料」とは、希釈または濃縮によりBrix値を11°に調整した場合に、スクロース濃度が1.4g/100mL以下となる果実飲料を意味する。
【0013】
本発明において「糖類低減」とは、原料となる果実または果汁と比べて糖類が低減されていることを意味する。なお、糖類の低減は、後述するように、原料果汁の加工処理、すなわち、酵素処理、膜濾過処理、触媒処理および発酵処理等により達成することができる。
【0014】
本発明において「糖類」とは、単糖および二糖の糖質を意味し、例えば、グルコース、フラクトース、ガラクトース、スクロース、マルトースが挙げられる。糖類濃度は、高速液体クロマトグラフィー法(HPLC法)により測定することができる。
【0015】
本発明の飲料は、糖類濃度あるいはスクロース濃度がBrix値換算で所定値以下である糖類低減果実飲料である。
【0016】
本発明の飲料は、スクロース濃度をBrix11°換算で1.4g/100mL以下(例えば、0.1~1.4g/100mL)とすることができ、好ましくは0.8g/100mL以下(例えば、0.3~0.8g/100mL)、より好ましくは0.6g/100mL以下(例えば、0.3~0.6g/100mL)とすることができる。本発明の飲料はまた、糖類濃度をBrix11°換算で6.0g/100mL以下(例えば、4.5~6.0g/100mL)とすることができ、好ましくは5.5g/100mL以下(例えば、5.0~5.5g/100mL)とすることができる。
【0017】
本発明の飲料のうちオレンジ果汁飲料(オレンジジュース)は、スクロース濃度をBrix11°換算で1.4g/100mL以下(例えば、0.1~1.4g/100mL)とすることができ、好ましくは0.8g/100mL以下(例えば、0.3~0.8g/100mL)、より好ましくは0.6g/100mL以下(例えば、0.3~0.6g/100mL)とすることができる。本発明の飲料のうちオレンジ果汁飲料はまた、糖類濃度をBrix11°換算で6.0g/100mL以下(例えば、4.5~6.0g/100mL)とすることができ、好ましくは5.5g/100mL以下(例えば、5.0~5.5g/100mL)とすることができる。
【0018】
本発明の飲料のうちグレープフルーツ果汁飲料(グレープフルーツジュース)は、スクロース濃度をBrix9°換算で1.1g/100mL以下(例えば、0.3~1.1g/100mL)とすることができ、好ましくは0.9g/100mL以下(例えば、0.5~0.9g/100mL)とすることができる。本発明の飲料のうちグレープフルーツ果汁飲料はまた、糖類濃度をBrix9°換算で7.4g/100mL以下(例えば、6.5~7.4g/100mL)とすることができ、好ましくは7.3g/100mL以下(例えば、6.8~7.3g/100mL)とすることができる。
【0019】
本発明の飲料のうちうんしゅうみかん果汁飲料(うんしゅうみかんジュース)は、スクロース濃度をBrix9°換算で1.2g/100mL以下(例えば、0.3~1.2g/100mL)とすることができ、好ましくは0.7g/100mL以下(例えば、0.5~0.7g/100mL)とすることができる。本発明の飲料のうちうんしゅうみかん果汁飲料はまた、糖類濃度をBrix9°換算で7.8g/100mL以下(例えば、6.5~7.8g/100mL)とすることができ、好ましくは7.6g/100mL以下(例えば、7.0~7.6g/100mL)とすることができる。
【0020】
本発明の飲料は、エチルエステルおよびモノテルペン誘導体のいずれかまたは両方をそれぞれ所定の濃度で含むことを特徴とする。本発明の飲料のエチルエステルおよびモノテルペン誘導体の濃度は、本発明の飲料のBrix値に依存せず、定められた濃度範囲内の数値となる。また本発明において、エチルエステルおよびモノテルペン誘導体を香気成分ということがある。
【0021】
本発明の飲料に含まれるエチルエステルは、糖類が低減された果実飲料の香味を改善し、食品として許容されるものであればよく、例えば、ヘキサン酸エチル、3-ヒドロキシヘキサン酸エチル、酪酸エチル、2-メチル酪酸エチル、プロピオン酸エチル、2-メチルプロピオン酸エチル、酢酸エチル、チグリン酸エチルが挙げられ、好ましくは、ヘキサン酸エチル、酪酸エチルが挙げられ、これらのうち1種または2種以上を本発明に使用することができる。
【0022】
本発明の飲料のエチルエステル濃度は、その下限値を25ppb、28ppbまたは30ppbとすることができ、その上限値を50ppb、45ppbまたは40ppbとすることができる。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、上記濃度の範囲は、25~50ppbとすることができ、好ましくは28~45ppbまたは30~40ppbである。
【0023】
本発明の飲料のエチルエステル濃度は、ヘキサン酸エチル、3-ヒドロキシヘキサン酸エチル、酪酸エチル、2-メチル酪酸エチル、プロピオン酸エチル、2-メチルプロピオン酸エチル、酢酸エチルおよびチグリン酸エチルの各濃度の合計値とすることができ、好ましくは、ヘキサン酸エチルおよび酪酸エチルの各濃度の合計値とすることができる。本発明の飲料のエチルエステル濃度はまた、ヘキサン酸エチル、酪酸エチルまたは酢酸エチルの濃度とすることができる。
【0024】
本発明の飲料に含まれるモノテルペン誘導体は、糖類が低減された果実飲料の香味を改善し、食品として許容されるものであればよく、例えば、α-テルピネオール、酢酸テルピニル、リモネン、γ―テルピネン、α―フェランドレン、α―ピネン、β―ピネン、リナロール、ミルセン、ゲラニオール、シトラールが挙げられ、好ましくは、リナロール、α-テルピネオール、シトラール、ゲラニオールが挙げられ、これらのうち1種または2種以上を本発明に使用することができる。
【0025】
本発明の飲料のモノテルペン誘導体濃度は、その下限値を600ppb、750ppbまたは900ppbとすることができ、その上限値を3000ppb、2500ppbまたは2000ppbとすることができる。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、上記濃度の範囲は、600~3000ppbとすることができ、好ましくは750~2500ppbまたは1000~2000ppbである。
【0026】
本発明の飲料のモノテルペン誘導体濃度は、α-テルピネオール、酢酸テルピニル、リモネン、γ―テルピネン、α―フェランドレン、α―ピネン、β―ピネン、リナロール、ミルセン、ゲラニオールおよびシトラールの各濃度の合計値とすることができ、好ましくは、リナロール、α-テルピネオール、シトラール、ゲラニオールの各濃度の合計値とすることができる。本発明の飲料のモノテルペン誘導体濃度はまた、α-テルピネオールまたはシトラールの濃度とすることができる。
【0027】
本発明の飲料がエチルエステルおよびモノテルペン誘導体をそれぞれ所定の濃度で含む場合において、エチルエステルの含有量(ppb)に対するモノテルペン誘導体の含有量(ppb)の比率は、その下限値を10、12、25または50とすることができ、その上限値を150、120または100とすることができる。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、上記比率の範囲は、例えば、10~150(好ましくは12~120または50~100)とすることができる。
【0028】
本発明の好ましい態様によれば、エチルエステルおよび/またはモノテルペン誘導体が配合されてなる果実飲料が提供される。配合されるエチルエステルが特定の1種または2種以上の成分である場合、本発明の飲料のエチルエステル濃度は当該特定の成分の各濃度の合計値(特定の1種の成分の場合にはその成分の濃度)とすることができる。例えば、本発明の飲料が、エチルエステルとしてヘキサン酸エチルおよび酪酸エチルを含む成分を配合してなるものである場合には、本発明の飲料のエチルエステル濃度はヘキサン酸エチルおよび酪酸エチルの各濃度の合計値とすることができる。また、配合されるモノテルペン誘導体が特定の1種または2種以上の成分である場合、本発明の飲料のモノテルペン誘導体濃度は当該特定の成分の各濃度の合計値(特定の1種の成分の場合にはその成分の濃度)とすることができる。例えば、本発明の飲料が、モノテルペン誘導体としてリナロール、α-テルピネオール、シトラールおよびゲラニオールを含む成分を配合してなるものである場合には、本発明の飲料のモノテルペン誘導体はリナロール、α-テルピネオール、シトラールおよびゲラニオールの各濃度の合計値とすることができる。
【0029】
飲料中のエチルエステルとモノテルペン誘導体の濃度は、ガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS)により測定することができる。
【0030】
本発明の飲料は、オリゴ糖を含有していてもよい。本発明において「オリゴ糖」とは、重合度が3~10のオリゴ糖であり、1-ケストース、ニストース、ネオケストースおよびフラクトフラノシルニストース等のフラクトオリゴ糖やガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖が含まれ、好ましくはフラクトオリゴ糖である。本発明の飲料は、オリゴ糖を所定の濃度で含有するものとして特定することができる。飲料中のオリゴ糖濃度は、高速液体クロマトグラフィー法(HPLC法)により測定することができる。
【0031】
本発明の飲料のオリゴ糖濃度は、Brix11°換算で0.1g/100mL以上とすることができ、あるいは、Brix9°換算で0.09g/100mL以上とすることができる。
【0032】
本発明の飲料においてオリゴ糖濃度は、果汁の種別ごとに定めることもできる。例えば、本発明の飲料のうちオレンジ果汁飲料は、オリゴ糖をBrix11°換算で0.7g/100mL以上(例えば、0.7~2.0g/100mL)含有するものとすることができ、好ましくは0.9g/100mL以上(例えば、0.9~1.5g/100mL)含有するものとすることができる。
【0033】
本発明の飲料のうちグレープフルーツ果汁飲料は、オリゴ糖をBrix9°換算で0.1g/100mL以上(例えば、0.1~1.0g/100mL)含有するものとすることができ、好ましくは0.2g/100mL以上(例えば、0.2~0.5g/100mL)含有するものとすることができる。
【0034】
本発明の飲料のうちうんしゅうみかん果汁飲料は、オリゴ糖をBrix9°換算で0.6g/100mL以上(例えば、0.6~2.5g/100mL)含有するものとすることができ、好ましくは0.9g/100mL以上(例えば、0.9~1.2g/100mL)含有するものとすることができる。
【0035】
本発明の飲料に含まれるオリゴ糖であるフラクトオリゴ糖は、本発明の一態様において、酵素処理により果汁に含まれるスクロースをフラクトオリゴ糖へインサイチュ(in situ)変換した生成物である。すなわち、飲料中におけるフラクトオリゴ糖の生成は、後述するように、原料果汁の加工処理工程において、あるいは原料果汁と他の原料との調合工程中またはその後において、酵素処理により達成することができる。従って、本発明の飲料は、フラクトオリゴ糖が原料として添加されていないものとすることができる。
【0036】
本発明の飲料には通常の飲料の処方設計に用いられている飲料用添加剤を配合してもよい。このような添加剤としては、甘味料(高甘味度甘味料を含む)、酸味料、調味料、香辛料、香料、着色料、増粘剤、安定剤、乳化剤、栄養強化剤、pH調整剤、酸化防止剤、保存料などが挙げられる。上記飲料用添加剤は、後述する調合工程において他の原料と混合することができる。
【0037】
本発明の飲料は、前述の通り、所定のエチルエステル濃度および/またはモノテルペン誘導体濃度を満たすことを特徴とするものであるが、これらの濃度を満たす限り、濃縮形態の飲料や希釈形態の飲料を問わず、本発明の範囲内である。すなわち、本発明の飲料は、果汁100%よりも濃いいわゆる濃縮形態の飲料や、果汁100%よりも薄いいわゆる希釈形態の飲料も含むものである。
【0038】
本発明の飲料においてBrix値は、果汁約100%を基準に定めることができ、6~15°Bx(好ましくは7~13°Bx)とすることができる。本発明の飲料のBrix値はまた、果汁の種別ごとに定めることもできる。例えば、本発明の飲料のうちオレンジ果汁飲料のBrix値は、例えば、8~15°Bxとすることができ、好ましくは9~13°Bxである。本発明の飲料のうちグレープフルーツ果汁飲料のBrix値は、例えば、6~13°Bxとすることができ、好ましくは7~11°Bxである。本発明の飲料のうちうんしゅうみかん果汁飲料のBrix値は、例えば、6~13°Bxとすることができ、好ましくは7~11°Bxである。
【0039】
本発明の飲料の果汁率は、特に限定されるものではないが、その下限値(以上または超える)を30%、35%、40%、50%、60%または70%とすることができ、その上限値(以下または下回る)を150%、120%または100%とすることができる。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、上記比率の範囲は、例えば、30~150%(好ましくは40~120%または50~100%)とすることができる。ここで、果汁率とは、飲料全体に対する果実の搾汁(一般に、100%ジュース、ストレート果汁、果汁100%ともいう)の割合をいう。JAS規格(果実飲料の日本農林規格)によれば、表1に示すように、果実の搾汁についての糖用屈折計示度の基準(°Bx)が果実毎に定められ、該基準に基づいて飲料の果汁率を算出することもできる。例えば、JAS規格によるオレンジ果汁の果汁100%のBrix値は11°Bxであり、44°Bxの濃縮オレンジ果汁を飲料中に10質量%配合した場合には、該飲料の果汁率は40%となる。なお、果汁率の算出に当たっては、果実の搾汁に加糖した場合は、加えられた砂糖類および蜂蜜等の糖用屈折系示度を除くものとする。
【0040】
【表1】
【0041】
本発明の飲料は糖類低減を図りつつ、糖類低減により不足する傾向があるボリューム感を改善することができる。すなわち本発明によれば、糖類低減果実飲料において、糖類低減に起因する香味低下を改善することができる。ここで「ボリューム感」とは、飲用時の中盤から後半にかけての香味全体の口腔内への広がりを意味する。
【0042】
<<本発明の飲料の製造方法>>
本発明の飲料は、スクロース等の糖類濃度が低減されている糖類低減果実飲料において、該飲料のエチルエステル濃度を25~50ppbに調整し、かつ/または、該飲料のモノテルペン誘導体濃度を600~3000ppbに調整することにより製造することができる。
【0043】
本発明の製造方法は、果実飲料の糖類を低減する工程(糖類低減工程)をさらに含んでいてもよい。糖類濃度の低減(糖類低減)は、酵素処理、膜濾過処理、触媒処理および発酵処理からなる群から選択される1種または2種以上の処理により行うことができる。糖類低減工程は原料果汁の加工処理工程において実施することができ、あるいは原料果汁と他の原料との調合工程中またはその後において実施することもできる。
【0044】
本発明において酵素処理に用いられる酵素としては、スクロースを基質とする糖転移酵素が挙げられる。本発明の製造方法に用いられるスクロースを基質とする糖転移酵素としては、フラクトシルトランスフェラーゼ、レバンスクラーゼ、デキストランスクラーゼ、イヌロスクラーゼが挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができ、好ましくはフラクトシルトランスフェラーゼである。
【0045】
本発明の製造方法に用いられるフラクトシルトランスフェラーゼは、スクロースからフラクトオリゴ糖を生成させる活性を有する酵素である。本発明においては市販のフラクトシルトランスフェラーゼを用いることができる。本発明においてはまた、フラクトシルトランスフェラーゼを生産する微生物を培養し、培養物から当該酵素を精製あるいは粗精製して得てもよい。
【0046】
本発明においては、ペクチナーゼ活性を実質的に有さないフラクトシルトランスフェラーゼを用いることができる。ここで、「ペクチナーゼ活性を実質的に有さない」とは、果汁を処理した場合に顕著な清澄化作用および/または粘度低下作用を引き起こす活性を有さないことを指し、例えば、オレンジ果汁を用いた酵素処理試験を行った場合に、フラクトオリゴ糖を糖組成比10%以上生成し、かつ、処理後濁度が処理前に対して35%以上維持される場合にペクチナーゼ活性を実質的に有さないとする。
【0047】
本発明の製造方法において、ペクチナーゼ活性を実質的に有さないフラクトシルトランスフェラーゼを酵素処理に用いた場合、製造された飲料はその濁度および/または粘度が高く維持されるという特徴を有する。酵素処理前の果汁の濁度に対する酵素処理後の濁度の比率、すなわち濁度維持率は、35%以上とすることができ、好ましくは50%以上、特に好ましくは70%以上である。
【0048】
本発明においては、フラクトシルトランスフェラーゼは、粗酵素剤の形態のものを用いることができる。ここで「粗酵素剤」とは、食品の工業生産用に販売される酵素剤で一般的に採用される、比較的安価且つ安全な試薬や濾過膜分離等の分離抽出手段により得られる酵素剤を意味し、液体クロマトグラフィー等による分画精製といった高度且つ高コストな分離精製手段を用いて調製された酵素剤は含まない。
【0049】
本発明において、フラクトシルトランスフェラーゼによる酵素処理は、果汁中のスクロース1gあたり1U以上を目安に添加することができ、好ましくは5U/1gスクロース、特に好ましくは10U/1gスクロースである。酵素添加後、25℃で4時間を目安に反応させるが、温度と時間は果汁の種類や酵素添加量にあわせ適宜調整が可能であり、高温での長時間反応は糖の分解を招くことに留意する。ミックスジュースなどのように2種以上の果汁を用いる場合にはそれぞれを酵素処理したのちに混合する場合、それぞれを混合したのちにまとめて酵素処理する場合のいずれの方法も用いることができる。濃縮果汁を処理する場合には、濃縮前、濃縮中、濃縮後のいずれのタイミングで処理しても良い。
【0050】
本発明において、膜濾過処理は、原料果汁に対して実施することができる。使用できる濾過膜としては、例えば、ナノ濾過膜、透析膜、限外濾過膜、逆浸透膜が挙げられ、好ましくはナノ濾過膜である。本発明に使用する濾過膜は、三糖以上の糖質の透過率が単糖および二糖の透過率よりも低い膜を選択することができ、好ましくは、三糖以上の糖質の透過率が単糖および二糖の透過率よりも低く、透過率の差が10%以上ある膜を、より好ましくは、分画分子量が100~1000Da程度の膜を選択することができる。
【0051】
本発明において、糖類の低減は、酵素処理および膜濾過処理のいずれか一方の処理を単独で実施してもよく、あるいは、これらの処理を組み合わせて実施してもよい。酵素処理および膜濾過処理を組み合わせて実施する場合、膜濾過処理は、酵素による酵素処理前の果汁または酵素処理後の果汁に対して実施することができ、あるいは酵素による酵素処理と同時に実施してもよい。
【0052】
本発明の飲料は、飲料のエチルエステル濃度を25~50ppbの範囲内に調整し、かつ/または、飲料のモノテルペン誘導体濃度を600~3000ppbに調整することにより製造することができる。本発明の製造方法において、エチルエステル濃度の調整およびモノテルペン誘導体濃度の調整は、単独で実施しても、両方を同時に実施してもよく、あるいは両方を異なるタイミングで実施してもよく、いずれの調整が先であってもよい。本発明の製造方法において、香気成分濃度の調整は、糖類低減処理前の果汁または糖類低減処理後の果汁に対して実施することができ、あるいは糖類低減処理と同時に実施してもよい。
【0053】
本発明の製造方法に用いられるエチルエステルは、1種単独で使用しても、複数種を組み合わせて使用してもよく、エチルエステルの純品またはエチルエステルを含有する市販の香料を使用してもよい。
【0054】
本発明の製造方法に用いられるモノテルペン誘導体は、1種単独で使用しても、複数種を組み合わせて使用してもよく、モノテルペン誘導体の純品またはモノテルペン誘導体を含有する市販の香料を使用してもよい。
【0055】
エチルエステルの濃度の調整は、例えば、1種または2種以上のエチルエステルおよび/または1種または2種以上のモノテルペン誘導体を糖類低減果実飲料に配合することにより行うことができる。すなわち、本発明の製造方法は、エチルエステルおよび/またはモノテルペン誘導体を糖類低減果実飲料へ添加する工程を含んでいてもよい。
【0056】
エチルエステルの配合は、1種または2種以上の所望の成分をそれぞれ純品で配合しても、当該成分を含有する香料組成物で配合してもよい。エチルエステルの配合に当たっては、糖類低減果実飲料に元々含まれているエチルエステルの濃度を考慮し、所望の濃度となるように添加量を決定することができる。モノテルペン誘導体の配合は、1種または2種以上の所望の成分をそれぞれ純品で配合しても、当該成分を含有する香料組成物で配合してもよい。モノテルペン誘導体の配合に当たっては、糖類低減果実飲料に元々含まれているモノテルペン誘導体の濃度を考慮し、所望の濃度となるように添加量を決定することができる。
【0057】
本発明の製造方法に用いられる原料は、ストレートまたは濃縮物のいずれを用いてもよい。目的とする飲料が低濃度の場合には、水または他の飲用可能な液体と混合した希釈果汁を原料として用いることもできる。また、本発明の製造方法に用いられる原料は、果汁のうち2種以上のミックスジュースとしてもよい。
【0058】
本発明の製造方法において、上記糖類低減処理および香気成分濃度調整以外は、果実飲料について公知の製造手順に従って実施することができる。すなわち、糖類低減処理の前に搾汁工程を実施し、果汁を準備することができる。原料として市販の濃縮液やペースト等を利用する場合には搾汁工程は省略することができる。また、糖類低減処理に付された果汁は調合工程において、添加剤などの他の原料を配合することができる。香気成分濃度の調整は、調合工程において実施してもよく、あるいは調合工程前または調合工程後に実施してもよい。調合工程で得られた調合液は殺菌工程および充填工程を経て容器詰めすることができる。容器詰めされた本発明の飲料は必要に応じて密封工程と冷却工程に付することができる。
【0059】
本発明の別の面によれば、飲料のエチルエステル濃度および/またはモノテルペン誘導体濃度を調整することを含んでなる、糖類低減果実飲料の香味改善方法およびボリューム感の不足を改善する方法が提供される。本発明の香味改善方法およびボリューム感の不足を改善する方法は、本発明の飲料およびその製造方法に関する記載に従って実施することができる。
【実施例
【0060】
以下の例に基づき本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0061】
糖濃度、糖組成、全糖濃度およびBrixの測定
以下の例においてサンプル飲料中の糖濃度(単糖、二糖、フラクトオリゴ糖)の分析は高速液体クロマトグラフィー法(HPLC法)を用いた絶対検量線法に従って行った。具体的には以下のように測定した。
【0062】
サンプル液を水で希釈し、糖が2%程度含まれる溶液とした。遠心上清をフィルター濾過することで夾雑物を除去し、濾液をアセトニトリルと混合し、50%アセトニトリル溶液とした。これを下記条件に従ってHPLC(日本分光社製)で分析することにより糖濃度を算出した。
【0063】
<HPLC分析条件>
カラム:YMC-Pack Polyamine II(YMC社製)
移動相:67%(v/v)アセトニトリル溶液
カラム温度:30℃
流速:1.0mL/分
検出:示差屈折率検出器
【0064】
Brix値は、糖度計(Rx-5000α、アタゴ社製)を用いて測定した。
【0065】
例1:糖類濃度がオレンジ果汁の香味に与える影響
(1) サンプル飲料の調製
オレンジ果汁(65°Bx、Cutrale社)を45°Bxに希釈した。希釈したオレンジ果汁100gを200mL容のビーカーに分注した。次いで、フラクトシルトランスフェラーゼ(アスペルギルス(Aspergillus)属由来、新日本化学工業社製、以下単に「FTase」ということがある)を10U/1gスクロースとなるように添加し、均一になるよう十分に撹拌した後、25℃、4時間、静置させて酵素反応を行った。酵素反応終了後、11°Bxに希釈した後にスチール缶に充填し、80℃、10分間の加熱処理を行うことで酵素を失活させることで糖類低減飲料とした。糖類濃度の調製は、糖類低減飲料と対照飲料を任意の比率で混合することによって行い、11°Bxであり、かつ、表2に示す糖類濃度のサンプル飲料(サンプル番号1~5)を調製した。また、対照飲料として、糖類濃度8.0g/100mL(スクロース濃度4.1g/100mL)の通常のオレンジ果汁(11°Bx)を用いた。
【0066】
(2)糖濃度の測定
上記(1)で調製したサンプル飲料の糖濃度(単糖、二糖、フラクトオリゴ糖)を測定した。糖濃度については、フラクトース、グルコース、スクロース、1-ケストース、ニストースおよびフラクトフラノシルニストースの濃度を測定した(以下、同様)。フラクトース、グルコースおよびスクロースの合計濃度を糖類濃度とし、ネオケストース、1-ケストース、ニストースおよびフラクトフラノシルニストースの合計濃度をフラクトオリゴ糖濃度とした。なお、酵素処理後のサンプル飲料の糖度はいずれも11°Bxであった。
【0067】
(3)官能評価
上記(1)で調製したサンプル飲料(サンプル番号1~5)を官能評価に供した。具体的には、「ボリューム感」について、通常のオレンジ果汁(対照飲料)のスコアを5として、サンプル飲料の相対評価(5点満点)を行った。ここで、「ボリューム感」とは、飲用時の中盤から後半にかけての香味全体の口腔内への広がりをいう。サンプル飲料のボリューム感が対照飲料と比較して差が無い場合は5、対照飲料と比較して違いが分かる場合は4、対照飲料と比較しなくても違いが分かる場合は3、オレンジ果汁として認められる下限の場合は2、オレンジ果汁として認められない場合は1として採点した。官能評価は4名の訓練されたパネラーにより実施し、パネラー4名の平均スコアを算出した。また、総合評価として、平均スコアが1.0以上~2.5未満を×(ボリューム感がオレンジ果汁として受容できない水準)、2.5以上~3.25未満を△(ボリューム感がオレンジ果汁として受容可能な水準)、3.25以上~5.0を〇(ボリューム感がオレンジ果汁として違和感ない水準)と判断した。
【0068】
(4)結果
結果は、表2に示す通りであった。
【表2】
【0069】
表2の結果より、糖類濃度が6.0g/100mL以下(スクロース濃度1.4g/100mL以下)のオレンジ果汁(11°Bx)では、対照飲料である一般的な組成のオレンジ果汁(11°Bx、糖類濃度8.0g/100mL、スクロース濃度4.1g/100mL)と比較して、ボリューム感が減少することが確認された。
【0070】
例2:香気成分が糖類低減オレンジ果汁の香味に与える影響(1)
(1)サンプル飲料の調製
例1(1)と同様にして糖類濃度が6.0g/100mL(スクロース濃度1.4g/100mL)のオレンジ果汁(11°Bx)を調製した。また、上記のオレンジ果汁を希釈して、7°Bx(糖類濃度が3.8g/100mL、スクロース濃度0.9g/100mL)および9°Bx(糖類濃度が4.9g/100mL、スクロース濃度1.1g/100mL)のオレンジ果汁を調製した。次いで、調製した11°Bx、9°Bxおよび7°Bxのオレンジ果汁それぞれに香気成分を添加した。具体的には、主成分の1つとしてα-テルピネオールを約10ppm含有する香料A(小川香料社、以下同様)および主成分の1つとしてヘキサン酸エチルを約15ppm含有する香料B(Givaudan社、以下同様)をそれぞれ表3に示す組み合わせで0.05体積%(v/v)ずつ添加して、サンプル飲料(サンプル番号6~9)を調製した。また、上記のように調製した11°Bxのオレンジ果汁を希釈して7°Bxおよび9°Bxのオレンジ果汁とし、サンプル飲料(サンプル番号10~15)を調製した。
【0071】
(2)官能評価
上記(1)で調製したサンプル飲料(サンプル番号6~15)を官能評価に供した。官能評価は4名の訓練されたパネラーにより、例1(3)に記載の基準および方法に従って実施した。
【0072】
(3)結果
結果は、表3および表4に示す通りであった。
【表3】
【0073】
【表4】
【0074】
表3の結果より、糖類濃度が6.0g/100mL(スクロース濃度1.4g/100mL)のオレンジ果汁にヘキサン酸エチルを含有する香料とα-テルピネオールを含有する香料をいずれか単独であるいは両方を組み合わせて添加したオレンジ果汁(11°Bx)では、糖類低減オレンジ果汁のボリューム感の減少を補うことができることが確認された。表4の結果より、香料を各サンプル飲料のBrixに比例するように添加した7°Bx、9°Bxおよび11°Bxのオレンジ果汁では、7°および9°Bxにおいては、糖類低減オレンジ果汁のボリューム感の減少を補えないことが確認された。一方、上記7°Bx、9°Bxおよび11°Bxのオレンジ果汁に香料を0.05%添加したオレンジ果汁では、Bxにかかわりなく、糖類低減オレンジ果汁のボリューム感の減少を補うことができることが確認された。
【0075】
例3:香気成分が糖類低減オレンジ果汁の香味に与える影響(2)
(1)サンプル飲料の調製
例1(1)と同様にして糖類濃度が6.0g/100mL(スクロース濃度1.4g/100mL)のオレンジ果汁(11°Bx)を調製した。次いで、調製したオレンジ果汁に、α-テルピネオールを含有する香料Aおよびヘキサン酸エチルを含有する香料Bをそれぞれ表5に記載の添加率となるように添加して、サンプル飲料(サンプル番号16~36)を調製した。
【0076】
(2)官能評価
上記(1)で調製したサンプル飲料(サンプル番号16~36)を官能評価に供した。官能評価は4名の訓練されたパネラーにより、例1(3)に記載の基準および方法に従って実施した。
【0077】
(3)香気成分の濃度の測定
上記(1)で調製したサンプル飲料における寄与成分(酪酸エチル、ヘキサン酸エチル、リナロール、α-テルピネオール、シトラールおよびゲラニオール)の濃度(ppb)をGC/MS(機器名:GC-2010 Plus、島津製作所社)により測定した。
【0078】
(4)結果
結果は、表5に示す通りであった。
【表5】
【0079】
表5の結果より、糖類濃度が6.0g/100mLのオレンジ果汁(11°Bx、スクロース濃度1.4g/100mL)に対して、リナロール、α-テルピネオール、シトラールおよびゲラニオールを含有する香料Aを0.02~0.10体積%の添加率で添加すること、ヘキサン酸エチルを含有する香料Bを0.05~0.10体積%の添加率で添加すること、すなわち、総エチルエステル濃度を25~50ppbとすること、および総モノテルペン誘導体濃度を600~3000ppbとすることのいずれか単独または両方を組み合わせることにより、糖類低減オレンジ果汁におけるボリューム感の減少を補うことができることが確認された。なお、香料のGC/MS測定により、香料Aには副成分として一定量の酪酸エチルおよびヘキサン酸エチルが含まれること、香料Bには副成分として一定量のリナロール、α-テルピネオール、シトラールおよびゲラニオールが含まれることが確認された。
【0080】
例4:香気成分が糖類低減オレンジ果汁の香味に与える影響(3)
(1)サンプル飲料の調製
例1(1)と同様にして糖類濃度が6.0g/100mL(スクロース濃度1.4g/100mL)のオレンジ果汁(11°Bx)を調製した。次いで、調製したオレンジ果汁に、各種香気成分の純品を添加した。具体的には、モノテルペン誘導体としてα-テルピネオールおよびシトラール並びにエチルエステルとしてヘキサン酸エチル、酪酸エチルおよび酢酸エチル(いずれも富士フイルム和光純薬社)をそれぞれ表6に示す組み合わせで表6に記載の添加率となるように添加して、サンプル飲料(サンプル番号37~48)を調製した。
【0081】
(2)官能評価
上記(1)で調製したサンプル飲料(サンプル番号37~48)を官能評価に供した。官能評価は4名の訓練されたパネラーにより、例1(3)に記載の基準および方法に従って実施した。
【0082】
(3)結果
結果は、表6に示す通りであった。
【表6】
【0083】
表6の結果より、糖類濃度が6.0g/100mL(スクロース濃度1.4g/100mL)のオレンジ果汁に500ppbのモノテルペン誘導体(α-テルピネオールまたはシトラール)および25ppbのエチルエステル(ヘキサン酸エチル、酪酸エチルまたは酢酸エチル)のいずれか単独でまたは両方を組み合わせて添加したオレンジ果汁(11°Bx)では、糖類低減オレンジ果汁のボリューム感の減少が補うことができることが確認された。よって、モノテルペン誘導体およびエチルエステルはいずれかの単一成分の添加でも糖類低減オレンジ果汁のボリューム感の減少が補うことが示された。なお、表5(サンプル番号16)の結果より、サンプル37の総エチルエステル濃度(ヘキサン酸エチル、酪酸エチルの合計濃度)は11ppb以下、総モノテルペン誘導体濃度(α―テルピネオール、リナロール、ゲラニオール、シトラールの合計濃度)は400~500ppbと推定される。よって25ppbのエチルエステルを添加した試験区の総エチルエステル濃度は25~36ppbであり、500ppbのモノテルペン誘導体を添加した試験区の総モノテルペン誘導体濃度は900~1000ppbであるといえる。
【0084】
例5:糖類濃度がグレープフルーツ果汁およびうんしゅうみかん果汁の香味に与える影響
(1)サンプル飲料の調製
グレープフルーツ市販飲料(9°Bx、キリンビバレッジ社)およびうんしゅうみかん市販飲料(9°Bx、えひめ飲料社)を用いた以外は、例1(1)と同様にして、酵素処理および糖類濃度の調製を行い、9°Bxにおいて表7および表8に示す糖類濃度のサンプル飲料(サンプル番号49~58)を調製した。また、対照飲料として、糖類濃度7.6g/100mL(スクロース濃度1.4g/100mL)の通常のグレープフルーツ市販飲料(9°Bx)および糖類濃度9.6g/100mL(スクロース濃度4.1g/100mL)の通常のうんしゅうみかん市販飲料(9°Bx)を用いた。
【0085】
(2)糖濃度の測定
上記(1)で調製したサンプル飲料の糖濃度の測定は、例1(2)と同様にして行った。なお、酵素処理後のサンプル飲料の糖度はいずれも9°Bxであった。
【0086】
(3)官能評価
上記(1)で調製したサンプル飲料(サンプル番号49~58)を官能評価に供した。官能評価は2名の訓練されたパネラーにより、上記(1)で調製した対照飲料のスコアを5.0とした以外は、例1(3)に記載の基準および方法に従って実施した。
【0087】
(4)結果
結果は、表7および表8に示す通りであった。
【表7】
【0088】
【表8】
【0089】
表7の結果より、糖類濃度が7.4g/100mL以下(スクロース濃度0.9g/100mL以下)のグレープフルーツ果汁(9°Bx)では、対照飲料である一般的な組成のグレープフルーツ果汁(9°Bxにおいて糖類濃度7.6g/100mL、スクロース濃度1.4g/100mL)と比較して、ボリューム感が減少することが確認された。また、表8の結果より、糖類濃度が7.7g/100mL以下(スクロース濃度0.8g/100mL以下)のうんしゅうみかん果汁(9°Bx)では、対照飲料である一般的な組成のうんしゅうみかん果汁(9°Bx、糖類濃度9.6g/100mL、スクロース濃度4.1g/100mL)と比較して、ボリューム感が減少することが確認された。
【0090】
例6:香気成分が糖類低減オレンジ果汁の香味に与える影響
(1)サンプル飲料の調製
例5(1)と同様にして糖類濃度7.3g/100mL(スクロース濃度0.7g/100mL)のグレープフルーツ果汁(9°Bx)および糖類濃度7.7g/100mL(スクロース濃度0.8g/100mL)のうんしゅうみかん果汁(9°Bx)を調製した。次いで、調製したそれぞれの果汁に、香気成分を添加した。具体的には、α-テルピネオールを含有する香料Aおよびヘキサン酸エチルを含有する香料Bをそれぞれ表9および表10に記載の添加率となるように添加して、サンプル飲料(サンプル番号59~70)を調製した。
【0091】
(2)官能評価
上記(1)で調製したサンプル飲料(サンプル番号59~70)を官能評価に供した。官能評価は2名の訓練されたパネラーにより、例5(3)に記載の基準および方法に従って実施した。
【0092】
(3)結果
結果は、表9および表10に示す通りであった。
【表9】
【0093】
【表10】
【0094】
表9の結果より、糖類濃度が7.3g/100mLのグレープフルーツ果汁(9°Bx、スクロース濃度0.7g/100mL)に対して、α-テルピネオールを含有する香料Aを0.02~0.05%の添加率で添加すること、ヘキサン酸エチルを含有する香料Bを0.05%の添加率で添加することのいずれか単独または両方を組み合わせることにより、糖類低減グレープフルーツ果汁においてボリューム感の減少を補うことができることが確認された。また、表10の結果より、糖類濃度が7.7g/100mLのうんしゅうみかん果汁(9°Bx、スクロース濃度0.8g/100mL)に対して、α-テルピネオールを含有する香料Aを0.02~0.05%の添加率で添加すること、ヘキサン酸エチルを含有する香料Bを0.05%の添加率で添加することのいずれか単独または両方を組み合わせることにより、糖類低減うんしゅうみかん果汁においてボリューム感の減少を補うことができることが確認された。