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特許7508238ロボットシステム、制御方法、ロボット、作業台、台車、制御プログラム、記録媒体、および物品の製造方法。
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】ロボットシステム、制御方法、ロボット、作業台、台車、制御プログラム、記録媒体、および物品の製造方法。
(51)【国際特許分類】
   B25J 9/22 20060101AFI20240624BHJP
【FI】
B25J9/22 Z
【請求項の数】 33
(21)【出願番号】P 2020033513
(22)【出願日】2020-02-28
(65)【公開番号】P2021133479
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】弁理士法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 禎
【審査官】杉山 悟史
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-205206(JP,A)
【文献】特開2012-125849(JP,A)
【文献】特開2014-144490(JP,A)
【文献】特開平09-044226(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00 ~ 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ロボットと第2ロボットとを備えたロボットシステムにおいて、
前記第2ロボットの動作を制御する制御部を備え、
前記制御部が、
前記第1ロボットを用いて取得した、前記第2ロボットが実施する作業に対応する軌道に関する第1軌道情報と、
前記第2ロボットの前記第1ロボットに対する差分情報と、を取得し、
前記第1軌道情報と前記差分情報とに基づき、前記第2ロボットを制御するための第2軌道情報を取得し、
前記第1軌道情報に基づく前記第1ロボットの第1位置と、前記第1位置に対応する、前記第2軌道情報に基づく前記第2ロボットの第2位置と、を比較し、比較した結果が所定条件を満たさない場合は、比較した結果に基づき、前記第2軌道情報を補正し、補正した前記第2軌道情報に基づき前記作業を実施するように前記第2ロボットを制御
前記所定条件は、前記第1位置と前記第2位置との差分の許容範囲を含む、
ことを特徴とするロボットシステム。
【請求項2】
請求項1に記載のロボットシステムにおいて、
前記第1ロボットは前記第2ロボットに対応する形態のマスターロボットであり、
前記マスターロボットを用いて、前記第2ロボットが実施する作業を設定し、
前記第1軌道情報は、前記マスターロボットの関節の角度の時系列データである、
ことを特徴とするロボットシステム。
【請求項3】
請求項1に記載のロボットシステムにおいて、
前記第1ロボットは、コンピュータシミュレーションにより仮想環境で動作する、前記第2ロボットに対応する形態の仮想マスターロボットであり、
前記仮想マスターロボットを用いて、前記第2ロボットが実施する作業を設定し、
前記第1軌道情報は、前記仮想マスターロボットの関節の角度の時系列データである、
ことを特徴とするロボットシステム。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のロボットシステムにおいて、
前記差分情報は、前記第2ロボットの前記第1ロボットに対する個体差情報である、
ことを特徴とするロボットシステム。
【請求項5】
請求項4に記載のロボットシステムにおいて、
前記個体差情報は、前記第2ロボットと前記第1ロボットとの機械的な機構における差に関する情報である、
ことを特徴とするロボットシステム。
【請求項6】
請求項4または5に記載のロボットシステムにおいて、
前記個体差情報は、前記第2ロボットと前記第1ロボットとにおける、リンクパラメータの差、エンドエフェクタの長さの差、リンクまたはエンドエフェクタの重量の差、リンクまたは関節の剛性値の差、先端にかかる重量の差、の少なくとも1つである、
ことを特徴とするロボットシステム。
【請求項7】
請求項6に記載のロボットシステムにおいて、
前記リンクパラメータは、リンク長、リンクのねじれ角度、リンク間距離、リンク間角度、の少なくとも1つである、
ことを特徴とするロボットシステム。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載のロボットシステムにおいて、
前記第1位置は前記第1ロボットの所定部位における位置であり、前記第2位置は前記第2ロボットの所定部位における位置であ
ことを特徴とするロボットシステム。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載のロボットシステムにおいて、
前記所定条件は、前記許容範囲と、前記第2位置を取得する場合の収束計算の切り返し回数と、を含む、
ことを特徴とするロボットシステム。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載のロボットシステムにおいて、
作業台と台車をさらに備え、
前記第2ロボットは、前記台車に配置され、前記作業台にて作業を行う、
ことを特徴とするロボットシステム。
【請求項11】
請求項10に記載のロボットシステムにおいて、
前記制御部が、
前記第2ロボットに異常が発生し、異常が発生した前記第2ロボットを前記作業台から移動させることができない場合、異常が発生した前記第2ロボットの手動による修理または交換をユーザに促す通知を行う、
ことを特徴とするロボットシステム。
【請求項12】
請求項11に記載のロボットシステムにおいて、
前記制御部が、前記通知を、音声、表示、電子メール、メッセージテキスト、の少なくとも1つを用いて実行する、
ことを特徴とするロボットシステム。
【請求項13】
請求項10から12のいずれか1項に記載のロボットシステムにおいて、
前記第1軌道情報は、前記作業台において前記第2ロボットが実施する作業に対応している、
ことを特徴とするロボットシステム。
【請求項14】
請求項10から13のいずれか1項に記載のロボットシステムにおいて、
前記作業台と前記台車とはカップリング機構により、前記作業台と前記台車との相対的な位置関係が位置決めされる、
ことを特徴とするロボットシステム。
【請求項15】
請求項10から14のいずれか1項に記載のロボットシステムにおいて、
前記作業台と前記台車とは、コネクタを介して電気的に接続される、
ことを特徴とするロボットシステム。
【請求項16】
請求項10から15のいずれか1項に記載のロボットシステムにおいて、
前記第2ロボットは前記台車によりが自走することができ、前記第2ロボットが移動して前記作業台に配置される、
ことを特徴とするロボットシステム。
【請求項17】
請求項10から16のいずれか1項に記載のロボットシステムにおいて、
前記第1軌道情報が格納された第1格納部が前記作業台に配置され、
前記差分情報が格納された第2格納部は前記第2ロボットまたは前記台車に配置されている、
ことを特徴とするロボットシステム。
【請求項18】
請求項10から17のいずれか1項に記載のロボットシステムにおいて、
前記制御部は、前記作業台または前記第2ロボットまたは前記台車に配置されている、
ことを特徴とするロボットシステム。
【請求項19】
請求項10から18のいずれか1項に記載のロボットシステムにおいて、
前記制御部は、前記第2ロボットに異常が発生した場合、前記第2ロボットとは別の第2ロボットを前記作業台に配置させる、
ことを特徴とするロボットシステム。
【請求項20】
請求項1から19のいずれか1項に記載のロボットシステムにおいて、
前記第2ロボットに、前記第2ロボットに対応する前記差分情報を特定可能な識別情報が付与され、前記制御部が前記識別情報を介して前記差分情報を取得する、
ことを特徴とするロボットシステム。
【請求項21】
請求項20に記載のロボットシステムにおいて、
前記識別情報は、コードが記録されたタグまたはステッカである、
ことを特徴とするロボットシステム。
【請求項22】
請求項21に記載のロボットシステムにおいて、
前記コードは、文字列情報またはバーコードである、
ことを特徴とするロボットシステム。
【請求項23】
請求項1から22のいずれか1項に記載のロボットシステムにおいて、
前記制御部は、
比較した結果が前記所定条件を満たす場合は、取得した前記第2軌道情報を補正せずに、前記作業を実施するように前記第2ロボットの動作を制御する、
ことを特徴とするロボットシステム。
【請求項24】
請求項1から23のいずれか1項に記載のロボットシステムを用いて物品の製造を行うことを特徴とする物品の製造方法。
【請求項25】
第1ロボットと第2ロボットとを備えたロボットシステムの制御方法において、
前記ロボットシステムは、前記第2ロボットの動作を制御する制御部を備え、
前記制御部が、
前記第1ロボットを用いて取得した、前記第2ロボットが実施する作業に対応する軌道に関する第1軌道情報と、
前記第2ロボットの前記第1ロボットに対する差分情報を取得し、
前記第1軌道情報と前記差分情報とに基づき、前記第2ロボットを制御するための第2軌道情報を取得し、
前記第1軌道情報に基づく前記第1ロボットの第1位置と、前記第1位置に対応する、前記第2軌道情報に基づく前記第2ロボットの第2位置と、を比較し、比較した結果が所定条件を満たさない場合は、比較した結果に基づき、前記第2軌道情報を補正し、補正した前記第2軌道情報に基づき前記作業を実施するように前記第2ロボットを制御
前記所定条件は、前記第1位置と前記第2位置との差分の許容範囲を含む、
ことを特徴とする制御方法。
【請求項26】
ロボットであって、
基準ロボットを用いて取得された、前記ロボットが実施する作業に対応する軌道に関する第1軌道情報と、
前記基準ロボットに対する前記ロボットの差分情報と、を取得し、
前記第1軌道情報と前記差分情報とに基づき、前記ロボットを制御するための第2軌道情報を取得し、
前記第1軌道情報に基づく前記基準ロボットの第1位置と、前記第1位置に対応する、前記第2軌道情報に基づく前記ロボットの第2位置と、を比較し、比較した結果が所定条件を満たさない場合は、比較した結果に基づき、前記第2軌道情報を補正し、補正した前記第2軌道情報に基づき前記作業を実施するように前記ロボットを制御
前記所定条件は、前記第1位置と前記第2位置との差分の許容範囲を含む、
ことを特徴とするロボット。
【請求項27】
ロボットの制御方法であって、
基準ロボットを用いて取得された、前記ロボットが実施する作業に対応する軌道に関する第1軌道情報と、
前記基準ロボットに対する前記ロボットの差分情報と、を取得し、
前記第1軌道情報と前記差分情報とに基づき、前記ロボットを制御するための第2軌道情報を取得し、
前記第1軌道情報に基づく前記基準ロボットの第1位置と、前記第1位置に対応する、前記第2軌道情報に基づく前記ロボットの第2位置と、を比較し、比較した結果が所定条件を満たさない場合は、比較した結果に基づき、前記第2軌道情報を補正し、補正した前記第2軌道情報に基づき前記作業を実施するように前記ロボットを制御
前記所定条件は、前記第1位置と前記第2位置との差分の許容範囲を含む、
ことを特徴とする制御方法。
【請求項28】
ロボットが作業を行う作業台であって、
基準ロボットを用いて取得された、前記ロボットが実施する作業に対応する軌道に関する第1軌道情報と、
前記基準ロボットに対する前記ロボットの差分情報と、を取得し、
前記第1軌道情報と前記差分情報とに基づき、前記ロボットを制御するための第2軌道情報を取得し、
前記第1軌道情報に基づく前記基準ロボットの第1位置と、前記第1位置に対応する、前記第2軌道情報に基づく前記ロボットの第2位置と、を比較し、比較した結果が所定条件を満たさない場合は、比較した結果に基づき、前記第2軌道情報を補正し、補正した前記第2軌道情報に基づき前記作業を実施するように前記ロボットを制御
前記所定条件は、前記第1位置と前記第2位置との差分の許容範囲を含む、
ことを特徴とする作業台。
【請求項29】
ロボットが作業を行う作業台の制御方法であって、
基準ロボットを用いて取得された、前記ロボットが実施する作業に対応する軌道に関する第1軌道情報と、
前記基準ロボットに対する前記ロボットの差分情報と、を取得し、
前記第1軌道情報と前記差分情報とに基づき、前記ロボットを制御するための第2軌道情報を取得し、
前記第1軌道情報に基づく前記基準ロボットの第1位置と、前記第1位置に対応する、前記第2軌道情報に基づく前記ロボットの第2位置と、を比較し、比較した結果が所定条件を満たさない場合は、比較した結果に基づき、前記第2軌道情報を補正し、補正した前記第2軌道情報に基づき前記作業を実施するように前記ロボットを制御
前記所定条件は、前記第1位置と前記第2位置との差分の許容範囲を含む、
ことを特徴とする制御方法。
【請求項30】
ロボットが配置された台車であって、
基準ロボットを用いて取得された、前記ロボットが実施する作業に対応する軌道に関する第1軌道情報と、
前記基準ロボットに対する前記ロボットの差分情報と、を取得し、
前記第1軌道情報と前記差分情報とに基づき、前記ロボットを制御するための第2軌道情報を取得し、
前記第1軌道情報に基づく前記基準ロボットの第1位置と、前記第1位置に対応する、前記第2軌道情報に基づく前記ロボットの第2位置と、を比較し、比較した結果が所定条件を満たさない場合は、比較した結果に基づき、前記第2軌道情報を補正し、補正した前記第2軌道情報に基づき前記作業を実施するように前記ロボットを制御
前記所定条件は、前記第1位置と前記第2位置との差分の許容範囲を含む、
ことを特徴とする台車。
【請求項31】
ロボットが作業を行う台車の制御方法であって、
基準ロボットを用いて取得された、前記ロボットが実施する作業に対応する軌道に関する第1軌道情報と、
前記基準ロボットに対する前記ロボットの差分情報と、を取得し、
前記第1軌道情報と前記差分情報とに基づき、前記ロボットを制御するための第2軌道情報を取得し、
前記第1軌道情報に基づく前記基準ロボットの第1位置と、前記第1位置に対応する、前記第2軌道情報に基づく前記ロボットの第2位置と、を比較し、比較した結果が所定条件を満たさない場合は、比較した結果に基づき、前記第2軌道情報を補正し、補正した前記第2軌道情報に基づき前記作業を実施するように前記ロボットを制御
前記所定条件は、前記第1位置と前記第2位置との差分の許容範囲を含む、
ことを特徴とする制御方法。
【請求項32】
請求項25または請求項27または請求項29または請求項31のいずれか1項に記載の制御方法をコンピュータに実行させる制御プログラム。
【請求項33】
請求項32に記載の制御プログラムを格納したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットシステム、制御方法、ロボット、作業台、台車、制御プログラム、記録媒体、および物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の物品の製造現場では多品種少量生産に対応するためセル生産方式が普及しつつある。自動セル生産では複数の作業を柔軟にこなすためロボットが使われている。ロボットを用いて自動で組立作業を行う形態として、ロボットが一つ以上の作業のためにセルを構成する作業台に配置され、セル内で所定のユニットを組み立てるとともにセル間で順次ワークを受け渡して組付け作業を実施するものがある。このような生産形態では、ロボットが作業不能となった場合の措置として種々の手法が用いられる。例えば、セルの生産が止まって下流のセルに影響があるため複数のロボットに作業内容の教示を行っておく手法はその1つである。また、特許文献1に示されるように隣接するロボットから通信によりワーク上の教示データすなわち作用点を取得して、代替するロボットのロボット座標へ変換を行い故障したロボットが実施していた作業を代替する手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-44226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の構成では、溶接や塗装などのロボット作業が想定されており、隣接するロボットのいずれかが通信によりワーク上にある基準点を教示データとして取得し、代替ロボットの動作を再計算してロボット作業を実施する。特許文献1の構成において、「基準点」とは、ワーク上に位置する溶接スポットや塗装スポットの位置に相当する。ここで、例えば、元のロボットと代替ロボットが異なるモデルであったりすれば、もし何らの制約を設けなければ、同じ作用点にアクセスする時の元のロボットの動きと代替ロボットの動作は全く異なるものとなる。また、元のロボットと代替ロボットが同じモデルであっても、両者には個体差があり、完全に同じ動きで同じ作用点にアクセスするよう動作できるとは限らない。
【0005】
従って、高精度部品の挿入動作などのように、精度が重視される作業では、特許文献1のように最終的な作用点のみの教示では代替が不可能な場合が考えられる。その場合、結局、代替ロボットごとに複雑な教示作業による軌道教示が必要になる。また、ロボット軌道の制約などによっては、機種差や個体差のある代替ロボットでは可動域などの関係で実際には実行できない作業が生じることも考えられる。
【0006】
ロボットの故障などの障害に対処するには、複数台のロボットをバックアップ機として用意しておけば、速やかに故障機の代替やラインの組み換えが可能となる可能性がある。また、その場合、ロボットが可動式(自走式)の構成であれば、より速やかに故障機代替、ラインの組み換えなどが行える可能性がある。
【0007】
しかしながら、バックアップの代替機を用意しておくにしても、ロボットの機種差や個体差を考慮すると、上記の従来構成では代替機で手間のかかる教示作業が必要になる。一般に、ロボットの教示作業はティーチング・プレイバック方式で行われるため、バックアップロボットの台数分、生産を止めての作業台ごとに教示作業を行わなければならない。もし、多品種少量生産のためラインの組み換え等を考慮して複数のセルに対応させ、また、バックアップのために複数のロボットを用意する場合、(ロボットの台数×作業の種類)の数だけ教示作業が必要となり、その作業工数が膨大になる可能性がある。
【0008】
本発明の課題は、複数の作業用ロボットを生産ラインに迅速かつ容易に投入できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一つの態様は、第1ロボットと第2ロボットとを備えたロボットシステムにおいて、前記第2ロボットの動作を制御する制御部を備え、前記制御部が、前記第1ロボットを用いて取得した、前記第2ロボットが実施する作業に対応する軌道に関する第1軌道情報と、前記第2ロボットの前記第1ロボットに対する差分情報と、を取得し、前記第1軌道情報と前記差分情報とに基づき、前記第2ロボットを制御するための第2軌道情報を取得し、前記第1軌道情報に基づく前記第1ロボットの第1位置と、前記第1位置に対応する、前記第2軌道情報に基づく前記第2ロボットの第2位置と、を比較し、比較した結果が所定条件を満たさない場合は、比較した結果に基づき、前記第2軌道情報を補正し、補正した前記第2軌道情報に基づき前記作業を実施するように前記第2ロボットを制御前記所定条件は、前記第1位置と前記第2位置との差分の許容範囲を含む、ことを特徴とするロボットシステムである。
【発明の効果】
【0010】
上記構成によれば、例えばバックアップ用に配置した作業用ロボットを生産ラインに迅速かつ容易に投入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態におけるロボットシステムの構成を示した説明図である。
図2】(a)、(b)は本発明の実施形態における作業用ロボットの組み換え例を示した説明図である。
図3】本発明の実施形態のロボットシステムで用いられる作業用ロボットの詳細構成を示した説明図である。
図4】本発明の実施形態のロボットシステムで用いられる作業台の詳細構成を示した説明図である。
図5】本発明の実施形態のロボットシステムにおいて、故障の生じた作業用ロボットで実行される制御の流れを示したフローチャート図である。
図6】本発明の実施形態のロボットシステムにおいて、代替投入される作業用ロボットで実行される制御の流れを示したフローチャート図である。
図7】本発明の実施形態のロボットシステムにおいて、代替投入される作業用ロボットで実行される制御の流れを示したフローチャート図である。
図8】本発明の実施形態のロボットシステムにおいて、システム制御装置で実行される制御の流れを示したフローチャート図である。
図9】本発明の実施形態のロボットシステムにおいて実施可能な補正計算の一例を示したフローチャート図である。
図10】本発明の異なる実施形態のロボットシステムの構成例を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して本発明を実施するための形態につき説明する。なお、以下に示す構成はあくまでも一例であり、例えば細部の構成については本発明の趣旨を逸脱しない範囲において当業者が適宜変更することができる。また、本実施形態で取り上げる数値は参考数値の例示に過ぎない。なお、以下では、参照符号として、例えば「作業台2-1、2-2」のように、「-n」のサフィックスを持つものを用いることがある。また、例えば「作業台2-1、2-2」の例で言えば、これらの部材の全体、共通する概念的な構成などについては、「作業台2」のように「-n」のサフィックスなしの参照符号により言及することがある。
【0013】
<実施形態1>
図1は本発明を採用したロボットシステムの全体構成を示している。このロボットシステムによって、ワークに対する組立てないし加工作業を行い、ワークから物品を製造することができる。このロボットシステムは、同一形態の多関節ロボットとして構成された4つの作業用ロボット1-1~1-4を含む。また、このロボットシステムは、部品供給具3-1~3-4およびワーク保持具5-1~5-4を台上に配した4つの作業台2-1~2-4、を含む。さらに、本実施形態のロボットシステムは、作業用ロボット1-1~1-4と同一形態の3つの代替用のロボット1-5~1-7を含む。また、このロボットシステムは、無線および有線の通信装置を備えロボットおよび作業台の稼働管理を行うシステム制御装置7、および作業用ロボットと同一形態の作業教示用のマスターロボット6を備える。
【0014】
例えば、図1のロボットシステムでは、作業台2-1~2-3により、ワークであるサブユニット4-1~4-3へ複数の部品を組み付ける作業を行い、作業台2-4ではサブユニット4-1~4-3を結合して完成させる作業が行われる。作業台2-1~2-4には、対応する作業用ロボット1-1~1-4が配置されている。
【0015】
作業用ロボット1-1~1-7は、好ましくは同一形態同一性能になるように設計されていて互いに作業を代替可能となっているものとする。これらの作業用ロボットは無線通信によりシステム制御装置7と接続されている。例えば、作業用ロボット1-4が故障した場合には、手動またはシステム制御装置7からの指令により1-5~1-7のいずれかの作業用ロボットが作業台2-4の作業位置へ移動して、作業用ロボット1-4の作業を代替する。また、図2のように作業台を増減させることにより柔軟なセル構成をとることが可能である。
【0016】
図2(a)は作業台2-1~2-3と作業台2-4の間にバッファ機能を持つ作業台およびサブユニット搬送用のロボット1-5を配置し、作業時間の揺らぎに対して柔軟な構成としたものである。また、図2(b)の構成は作業時間のかかる作業台2-1、および作業台2-4を増やして生産能力の向上を図ったものである。
【0017】
作業台2の各々で実施される作業内容はマスターロボット6を用いて、ティーチング・プレイバック方式で教示される。そして、作業台上で実施される作業内容で必要なロボット軌道を生成するための軌道制御データ(教示データ)は、例えばマスターロボットの関節角度の時系列データの形式で表現される。この各作業台ごとの軌道制御データは、当該の作業台にそれぞれ記憶させる。例えば、この軌道制御データは、ECU26(図4)に内蔵されるロボットコントローラの記憶部(例えばROM、EEPROM)などに格納しておく。このECU26に内蔵されるロボットコントローラは、その作業台2に配置された作業用ロボット1のロボット動作を制御する。
【0018】
また、マスターロボット6に関しては、実験や実測などの手法によって、予めロボットのメカモデルが求められているものとする。ここでいうメカモデルとは、リンクパラメータ、エンドエフェクタの長さ、リンクやエンドエフェクタなどロボット各部の重量、リンクおよび関節部の剛性値、並びにロボットアームの先端部に掛かる荷重のデータである。また、リンクパラメータとはリンク長、リンクのねじれ角度、リンク間距離およびリンク間角度のデータである。
【0019】
また、各作業用ロボットについても、実験や実測などの手法によって、予め上記のリンクパラメータを含むメカモデルが求められている。このリンクパラメータの各々のパラメータないしはメカモデル全体の、マスターロボット6との差異は、そのロボットの個体差情報として作業用ロボット1の記憶素子14(図3)に記憶させておく。
【0020】
図3は作業用ロボット1の概略図である。この作業用ロボット1は、カップリング機構8とともにXY方向に自律移動が可能な自走式の台車、自律移動台車18に搭載されている。このような構成により、作業用ロボット1は自律的に移動できる自走式ロボットとして機能する。カップリング機構8は、作業台2との接続部に含まれ、作業台2と接続された時に、作業台2と、作業用ロボット1との相対位置をメカ的に位置出しするための機構である。本実施形態では、カップリング機構8は、例えば作業用ロボット1のXYZ方向の支持位置をフリーに決定できるよう、円錐状の突起9が設けられている。
【0021】
作業用ロボット1を搭載した自律移動台車18を移動させ、作業台2側の嵌合穴に突起9を嵌合することによってメカ的に位置合せが行われる。これにより、作業用ロボット1を作業台2に対して所定の相対位置関係で位置決め、接続固定することができる。
【0022】
上記のような構成により、作業用ロボット1が交換された時でも各作業台とロボットの相対位置関係を再現することができる。図3において、作業台2側にあるロボットコントローラ(ロボット制御部)との間で送受信される制御信号は電気コネクタ10を介して伝送される。また、電気コネクタ10を介して、作業用ロボット1の記憶素子14の内容、特に個体差情報が作業台2のECU26のロボットコントローラへ送信される。なお、作業用ロボット1と作業台2の間の通信経路は、必ずしも上記のような電気コネクタを介した有線接続である必要はなく、無線接続による構成であってもよい。
【0023】
作業用ロボット1の記憶素子14には前述のマスターロボットとの差異、即ち個体差情報を記憶させておく。この個体差情報を用いて、ロボットコントローラの記憶部に記憶させた教示点(軌道制御情報)を補正することができる。作業用ロボット1の記憶素子14としては、ROM、EEPROM、フラッシュメモリなどを用いることができる。
【0024】
作業用ロボット1の個体差情報それ自体は、必ずしもその作業用ロボット1の記憶素子14に記憶させておかなくてもよい。例えば、作業用ロボット1にはそのロボットの個体差情報を特定可能な識別情報を付与し、作業台2のECU26のロボットコントローラは、その識別情報により特定される個体差情報を別の場所から取得するような構成でもよい。作業用ロボット1の個体差情報を特定可能な識別情報を付与する方式としては、例えば、印刷されたコード(文字列情報やバーコードなど)として個体差情報を記録したタグやステッカなどを作業用ロボット1に貼付するような構成が考えられる。このようなタグやステッカの個体差情報は、作業台2に配置したカメラなどにより読み取ることができる。また、上記のような識別情報を用いる構成では、作業用ロボット1の個体差情報は、任意の記憶部に格納されていてよい。例えば、作業用ロボット1の個体差情報は、そのロボットを使用する可能性のあるロボットコントローラ側の記憶部、システム制御装置7など、作業台2のECU26からアクセス可能な記憶部であれば任意の記憶部になどに格納しておくことができる。
【0025】
作業用ロボット1の駆動電力、および記憶素子14に必要な電源は、作業台2のロボットコントローラから供給されるものとする。ただし、後述する自律移動台車18のバッテリ容量に余裕がある場合は台車からロボット1の駆動電力、および記憶素子14に必要な電源を供給してもよい。
【0026】
なお、本実施形態では、特定の作業台と接続された作業用ロボット1を制御するロボットコントローラは、その作業台2のECU26の一部として配置されるものとしている。このように、特定の作業台における作業内容に相当する軌道制御情報を保持するロボットコントローラが当該の作業台に配置される構成は至極、理にかなった構成と言える。しかしながら、本発明は、システム構成や設計に係る事情に応じて、特定の作業台と接続された作業用ロボット1を制御するロボットコントローラをその作業台2のECU26とは別の場所に配置することを妨げるものではない。即ち、特定の作業台と接続された作業用ロボット1を制御するロボットコントローラの配置位置や配置形態は任意である。
【0027】
また、マスター(基準)ロボットを用いて生成した軌道制御情報の保持位置も、必ずしも作業台2のECU26の一部として配置されたロボットコントローラの記憶素子(第1の記憶部)である必要はない。例えば、この軌道制御情報は、システム制御装置7のROM、EEPROM、RAMなどのその作業が実行される作業台を特定できる識別情報と紐付けの上、記憶部に記憶されていても良い。さらに、各作業用ロボット1が、自機の基準ロボット(マスターロボット)との個体差情報を保持する記憶素子14(第2の記憶部)を有する構成も至極、理にかなった構成と言える。しかしながら、この個体差情報の保持位置も、必ずしもそのロボットそれ自体である必要はない。自走式のある作業用ロボット1がある作業台2に取り付いた時に、その作業用ロボット1に固有の個体差情報を特定する手段さえ設けられているのであれば、個体差情報の記憶位置も必ずしも上記の第2の記憶部である必要はない。このような作業用ロボット1に固有の個体差情報を特定する手段の一例は、例えば上記のバーコードを用いた構成である。
【0028】
図3の自律移動台車18はECU11、センサ13、通信アンテナ15、バッテリ17、モータ22を含む。自律移動車は無線IF16および通信アンテナ15を介して、無線でシステム制御装置7と接続されている。システム制御装置7からの派遣指令で指定の作業台の作業位置へ自動で移動する。その際センサ13で経路を読み取ってECU11に含まれるCPU12でモータドライバ21を制御しモータ22を駆動することにより移動を行う。これらの制御を行う制御プログラムはROM19に格納しておくことができる。また、本発明に係る制御手順を記述した制御プログラムは、可搬形態の光ディスクやフラッシュメモリに格納しておき、これらのコンピュータ読み取り可能な記録媒体を介してロボットシステムにインストールし、また、更新することができる。
【0029】
さらに、自律移動台車18にはRAM20が設置されており、このRAM20は、CPU12のワークエリアとして利用される他、センサ13から得られる検出情報、CPU12の演算結果などを一時的に保持するために用いられる。
【0030】
次に、作業台2について説明する。図4は作業台2の構成を詳細に示している。図4において、部品供給具3で部品を供給し、ワーク保持具5に位置決め保持されたワーク4に工具28などを使用してロボットが組付けを行う作業を想定している。マスターロボットにより教示されたロボットの軌道情報はECU26に記憶させておく。また、作業用ロボット1を駆動するためのロボットコントローラもECU26に内蔵させておくことができる。このロボットコントローラにより、ロボットインターフェース23-1、23-2または23-3を介して作業用ロボット1の動作を制御することができる。外部IFの1つとしては電源ケーブル27があり、この電源ケーブル27を介してECU26に電力が供給される。また、外部IFの他の1つとしては、システム制御装置7と接続するための有線ないし無線の通信ネットワークが考えられる。システム制御装置7は、ロボットおよび作業台の稼働管理を行うもので、例えばPLCやシーケンサのような機器により構成される。
【0031】
図4において、23はロボットインターフェースでメカカップリング24と電気コネクタ25からなる。メカカップリング24は円錐状の穴とロック機構を備え、ロボット側の突起9と嵌合してロック機構で固定することにより、再現性良くロボット1と作業台2の相対位置を再現できる。教示作業時に使用するマスターロボット6と各々の作業用ロボット1-1~1-7はロボット座標に対して位置出しされた同一のメカカップリングを持ち、作業台側のメカカップリングと嵌合することにより交換した時の位置再現性が保証される。作業台2には、メカカップリング24として、任意の数のメカカップリング24-1、24-2、24-3…を配置しておくことができる。
【0032】
電気コネクタ25にはロボットの各関節軸のモータを駆動するための駆動端子、ロボットからの関節角度信号などを受信するセンサ端子、ロボット側に設置され記憶素子からの情報を受信するための通信端子などを配置することができる。これらの端子を用いて、ロボットが配置されたときに結合してロボットの個体差情報を受信してECU26に記録されているロボットの軌跡制御情報を補正し、その結果得られる軌道データを用いて作業用ロボット1を動作させる制御を行う。
【0033】
なお、ロボットインターフェース23は必要に応じて複数設置することが可能であり、例えば作業台の垂直面すべてに設置してもよい。この場合、作業台との位置関係が固定であれば必ずしも作業台上に配置されている必要はない。例えば、ボットインターフェース23は、ロボットを設置する床面に配置されていてもよい。
【0034】
次に故障などの理由によって、作業用ロボット1のいずれかを交換する際のシーケンスについて説明する。図5図8図1のロボット生産システムで、例えばロボット1-1が故障した場合に、作業用ロボット1-1、作業用ロボット1-5、作業台2-1、システム制御装置7で行われる制御手順を示している。図示した制御手順は、例えばこれらの装置のCPUのような制御装置の制御プログラムとして記述することができる。
【0035】
また、以下では、図5図8のフローチャート中のステップ番号を主に括弧書きの形式で参照する。また、図5図8中のアルファベットを付したステップは、他の図の同じアルファベットを付したステップとのインタラクション、主に通信動作が行なわれていることを示す。その場合、同じアルファベットによって、その通信動作で送受信されている信号を参照することがある。
【0036】
いずれかの作業用ロボットが故障した場合、図7において、ロボットコントローラが内蔵された作業台2-1が故障を検知することができる(S1)。このロボットコントローラは、可能であればアームの退避など故障処理(S2)を行い、システム制御装置7へ故障信号Aを送信する(S3)。この故障信号Aにはロボット再配置、およびロボット交換(代替)が可能かの情報が含まれる。故障信号Aを送信した後、作業台2-1は配置指令の受信待ち(S4)となる。
【0037】
図8において、システム制御装置7は故障信号Aを受信(S5)すると、受信信号から再配置可能か読み取り(S6)、可能な場合は故障した作業用ロボット1-1に対して退避指令Bを出す(S7)。なお、再配置不可の場合は警告を出力し、例えば作業者に手動による修理、交換作業を促す(S8)。
【0038】
図5において、作業用ロボット1-1は、退避指令Bを受信する(S9)と、自走可能か判断する(S10)。なおロボットの駆動系と自律走行の駆動系は別系統なので、これらが同時に故障するケースは稀であると考えられる。ここで作業用ロボット1-1が自走可能であれば退避ステーションまで退避を行い(S11)、システム制御装置7に退避完了信号Cを送信する(S12)。また作業用ロボット1-1が自走不可能な状態であった場合は、要交換の警告を発生する(S13)。この場合は、手動で故障ロボット1-1を取り除き、例えばシステム制御装置7の操作パネル(不図示)などからリセット操作を行い、退避完了信号Cを出力(S14)させることにより生産を再開することが可能である。
【0039】
図8において、システム制御装置7が退避完了信号Cを受信(S15)すると、待機している作業用ロボット1-5に配置指令信号Dを送信(S16)し、ロボットの再配置および製造再開が可能になるまで準備待ち状態(S17)となる。配置指令には配置先の作業台2-1および台の結合位置の情報などを含めることができる。なお、一定時間、退避完了信号Cが返送されなかった場合には、システム制御装置7は警告を出力してトラブルの発生を作業者、管理者などに通知する(S8)。この種の警告は、例えば音声や表示出力による他、電子メールやメッセージテキストの送信などによって行うようにしてもよい。
【0040】
バックアップの作業用ロボット1-5~1-7は、図6に示すように、正常時は配置指令受信待ち(S18)となっている。例えば、システム制御装置7から配置指令信号Dを受信すると、作業用ロボット1-5は配置先の作業台2-1へ移動し(S19)、結合作業(S20)を実施する。
【0041】
この結合作業は、作業用ロボット1-5の突起9と作業台2-1のメカカップリング24による上述した位置合わせ動作により行われる。また、これと同時に、電気コネクタ25を介して、作業用ロボット1-5と作業台2-1との電気的な接続が成立する(図6:S20、S21)。一方、作業台2-1では、図7に示すように、配置指令待ち(S4)で配置指令信号Dを受信すると結合準備(S21a)を行う。この結合準備(S21a)では、作業台2-1は、例えば、ロボットインターフェース23上のメカカップリング24でメカ的なロック機構を解除し、また、電気コネクタの誤動作を防ぐため、通電を遮断する、といった処理を行う。この結合準備の後、結合動作(S20)が行われ、作業用ロボット1-5と作業台2-1が機械的および電気的に接続される。
【0042】
その後、結合チェック(S22)が行われ、作業用ロボット1-5と作業台2-1の接続が完了すると、新しく配置された作業用ロボット1-5から作業台2-1のECU26のロボットコントローラに対して補正データEが送信される(図6:S23)。作業台2-1は、この補正データEを受信(図7:S24)し、ECU26に内蔵されたロボットコントローラが補正データEと、ロボットコントローラが記憶する軌道制御情報と、を用いて軌道情報の補正演算を行う(S25)。この補正計算の詳細については後述する。補正計算が終了すると作業台はシステム制御装置7へ補正完了信号Fを通知し(S26)、再開指令待ち状態(S27)となる。
【0043】
図8において、システム制御装置7が、補正完了信号Fを受信すると準備が完了したと判断して製造再開信号Gを作業台2-1および関連する各作業台へ送信する(S28)。ここでいう関連する作業台とは、作業台2-1の上流および下流に位置し、作業を一時停止している作業台である。これらの作業台では、例えばワークのバッファや作業位置が満杯となっている状態である。作業台2-1および関連する各作業台は製造再開信号Gを受信(図7:S27)すると、通常の製造作業を再開する(図7:S29)。
【0044】
ここで、補正計算(図7:S25)について説明しておく。図9はこの補正計算S25の流れの一例であり、ある教示データに含まれるある1つ関節角Θ6を補正する方法を示している。実際には教示された関節角は複数点あるので図9の計算を教示点の数だけ繰り返すことになる。
【0045】
図9のS25-1では、マスターロボットの関節角の教示データΘ6およびリンクパラメータ等のメカモデルMP6から手先座標T6を求める。このステップはマスターロボット6の教示時にあらかじめ計算しておいても良い。S25-2ではマスターロボットの関節角の教示データΘ6および代替ロボット1-5のリンクパラメータなどのメカモデルMP1-5から仮の手先座標T1-5を求める。
【0046】
S25-3では、教示した手先座標T6と仮の手先座標T1-5の差異δTを求める。S25-4では求めたδTが許容範囲内か判定する。ここで、δTが許容範囲内であり、OKの場合は補正を終了する。初回で終了した場合は補正量0となり補正後の関節角Θ1-5=Θ6となる。NGの場合はS25-7へ進む。
【0047】
S25-5では、代替するロボットのメカモデルMP1-5から関節角Θ6付近でのヤコビ行列Jを求める。このヤコビ行列Jは、関節の速度と手先の速度の関係を表現した行列で、手先の速度行列をδT、関節の速度行列をδΘとするとδT=J・δΘの関係がある。S25-6ではヤコビ行列Jの逆行列J-1を求める。
【0048】
S25-7では、S25-5で求めたδTおよびS25-6で求めたJ-1より仮の補正量δΘを求める。S25-8ではS25-7で求めたδΘおよび現在の関節角Θ1-5(初回はΘ6となる。)から仮の補正後の関節角Θ1-5を求める。S25-9では、メカモデルMP1-5と、Θ1-5から、新しい手先座標T1-5を計算し、S25-3に復帰する。そして、再び、S25-3で偏差δTを計算し、S25-4で精度が許容範囲内か計算する。ここで偏差δTが許容範囲内であれば、収束計算を終了して補正後の教示データとしてその時点における関節角度Θ1-5を採用する。一方、δTが許容値に達してないときにはS25-7に進み、S25-8、S25-9と進んで新しいT1-5を求め、S25-4で精度を評価する処理を、δTが許容内になるまで繰り返す。最終的に許容範囲内になったときの関節角の値Θ1-5が、代替ロボット1-5の個体差情報を用いて補正した後の教示値となる。なお、許容範囲と併用して収束計算の切り返し回数を決めてδTが最小となる補正量δΘおよび補正後の教示値Θ1-5を求める演算を行ってもよい。図9に示した演算を各関節角につき実施し、また、教示点全体の補正を教示点の数だけ行い、作業台2-1のECU26のロボットコントローラに格納することにより補正計算(S25)が終了する。
【0049】
本実施形態によれば、汎用ロボットに対して作業台ごとのティーチング・プレイバックによる教示作業が不要になる。例えば作業の種類がn、汎用ロボットの数がNとし、汎用ロボットはすべての作業を実施可能とする。従来の形態では教示作業は(nxN)回必要であったのが、教示作業n回で済むため大幅に作業手数を減らすことができる。本実施形態ではロボットごとに個体差情報、例えばメカモデルを求める作業(以下校正作業と表記することがある)が必要である。しかし、作業用ロボットに実行させる作業の教示については、その内容にかかわらず各ロボットに原則1回のみ実施するだけで済み、また、別のラインに流用する際にも、再教示作業は必要ない。
【0050】
<実施形態2>
以上の実施形態1では、物理的に存在する現実のマスターロボットを用いて、軌道制御情報として教示データを作成することを考えた。このマスターロボットは、作業用ロボットに対するメートル原器のような存在である。そして、好ましくは作業台のECU26のロボットコントローラの記憶部に保持させる軌道制御情報(教示点データ、教示情報)を教示するためのみに用い、その他の期間は、例えば恒温、恒湿環境のような管理された環境で保存する。物理マスターロボットを用いる場合には、上記のような配慮が必要である、と考えられる。しかし、以下で説明するように、コンピュータシミュレーションによる仮想環境で動作する仮想マスターロボットVRをマスターの軌道制御情報の教示に用いることにより、マスターロボットや軌道制御情報の取り扱いが容易になる可能性がある。
【0051】
図10は、上記実施形態の図1と同等の形式により本実施形態のロボットシステムの構成を示している。図10において、29は仮想マスターロボットVR、作業台および治具類の物理的なデータM1~M4などにより構成された仮想環境を実現するコンピュータ(ないしその仮想環境それ自体)に相当する。仮想マスターロボットVRは、リンクパラメータなどを含むメカモデルデータVMによって表現される。その他の作業台と作業用ロボットのハードウエア構成は実施形態のものと同じである。
【0052】
仮想マスターロボットVRおよび作業台2-1、2-2、2-3、または2-4のうち教示する作業台が、コンピュータ29上で3次元アニメーション表示され、教示時にはユーザ入力に応じてアームおよび治具を自在に動かすことができる。ユーザは特定点で現在の関節座標を教示データとして記録するようにコンピュータに指示を与える。そして、すべての教示点を入力後、コンピュータシミュレータ上ではユーザの設定した教示点に基づき干渉チェックを行うなどして、補間点を追加して軌道を生成する。このようにして生成された作業軌道は各々、該当する作業台2の記憶部(例えばECU26に内蔵されるロボットコントローラの記憶部)にダウンロードされ、記録される。
【0053】
また、各作業用ロボット1-1~1-7については、予め仮想マスターロボットVRと同様のリンクパラメータなどのメカモデルデータが求められており、実施形態1と同様に各ロボット1-1~1-7の記憶素子14に記録されているものとする。
【0054】
以上のような構成においても、作業用ロボット1が作業台2に接続されると、その作業用ロボット1と仮想マスターロボットVRとの差異データ(個体差情報)、すなわちリンクパラメータなどのメカモデルデータが作業台2にロードされる。そして、例えばECU26に内蔵されるロボットコントローラは、仮想マスターロボットVRとの差異データ(個体差情報)と、軌道制御情報と、を用いて実施形態1と同様に、仮想マスターロボットVRで教示された軌道を補正することができる。
【0055】
本実施形態によれば、マスターロボットが仮想ロボットであるためロボットを製造、保守する(例えば恒温、恒湿環境などで保存する)コストが不要であるといったメリットがある。また、多種類のマスターロボット/作業用ロボットを登録することも容易であり、作業台に応じてマスターロボット/作業用ロボットを使い分けることが可能であり、ロボットシステムを構成し、運用するコストを大きく削減できる可能性がある。
【0056】
なお、上記本実施形態1、2では、マスター(基準)ロボット、作業用ロボットは同一モデル、同一形態の機種であるものとして説明した。しかしながら、本発明の構成および制御手順は、必ずしもこれらのロボットが同一モデル、同一形態の機種であることを必須としない。上述の構成では、マスター(基準)ロボットと作業用ロボットとの個体差情報を用いて教示点データのような軌道制御情報を補正、生成する。このような構成であれば、関節形態やリンク長さなどの形態、モデルの異なるマスター(基準)ロボットおよび作業用ロボットが用いられる場合でも実施が可能である。また、上述した種々の実施形態では、軌道制御情報を作業台2が有する記憶部に格納し、個体差情報を各作業用ロボット1の記憶部に格納する場合を例にとり説明した。しかしながら、各情報に識別情報を付与させることで、軌道制御情報と個体差情報とを作業用ロボット1の記憶部に格納しても構わないし、軌道制御情報と個体差情報とを作業台2の記憶部に格納しても構わない。即ち、これら軌道制御情報と個体差情報とを記憶する第1、第2の記憶部の配置される場所は、本発明を限定するものではなく、上記の例と異なる位置であって構わない。
【0057】
本発明は上述の実施例の1以上の機能を実現するプログラムをネットワーク又は記憶媒体を介してシステムまたは装置に供給し、そのシステムまたは装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサーがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0058】
また、上述の種々の実施形態の構成および制御は、「ロボット装置」のような名称を有さない装置により構成されたシステムにも適用できる可能性がある。例えば、上述の実施形態の構成および制御は、制御装置の記憶装置の情報に基づき、伸縮、屈伸、上下移動、左右移動もしくは旋回の動作、またはこれらの複合動作を自動的に行える種々の機械に適用することができる。
【符号の説明】
【0059】
1…作業用ロボット、2…作業台、3…部品供給具、4…ワーク、5…ワーク保持具、6…マスターロボット、7…システム制御装置、8…カップリング機構、11、26…ECU、13…センサ、15…通信アンテナ、17…バッテリ、22…モータ、23…ロボットインターフェース、27…電源ケーブル、28…工具、29…コンピュータ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10