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特許7508249研磨パッド、その製造方法、及び研磨加工物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】研磨パッド、その製造方法、及び研磨加工物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 37/24 20120101AFI20240624BHJP
   B24B 37/22 20120101ALI20240624BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20240624BHJP
   D04H 1/498 20120101ALI20240624BHJP
【FI】
B24B37/24 E
B24B37/22
H01L21/304 622F
D04H1/498
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020058389
(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公開番号】P2021154448
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000005359
【氏名又は名称】富士紡ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】柏田 太志
(72)【発明者】
【氏名】徳重 伸
(72)【発明者】
【氏名】高木 正孝
【審査官】マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-066749(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0214323(US,A1)
【文献】特開2019-201177(JP,A)
【文献】特開2007-254942(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 37/24
B24B 37/22
H01L 21/304
D04H 1/498
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材に含浸した樹脂と、を有する研磨層を備え、
該研磨層は、被研磨物を研磨する研磨面と、定盤に直接又は間接的に固定される定盤面と、を有し、
前記基材は、平均単繊維直径が100nm以上500nm以下であるナノ繊維を主に含む不織布Aと、平均単繊維直径が1.0μm以上50μm以下であるマイクロ繊維を主に含む不織布Bと、を有し、かつ、前記不織布Aと前記不織布Bとが交絡されたものであり、
前記不織布Aと、前記不織布Bとは、前記研磨面から前記定盤面に向かって、この順に位置するように配置され
前記基材は、前記不織布Aと、前記不織布Bと、の間に、接着部を有しない
研磨パッド。
【請求項2】
前記ナノ繊維は、ポリアミド系繊維を含む、請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項3】
前記マイクロ繊維は、芳香族ポリエステル系繊維を含む、請求項1又は2に記載の研磨パッド。
【請求項4】
前記不織布Aと、前記不織布Bとは、ニードルパンチ又は水流交絡により交絡されている、請求項1~のいずれか1項に記載の研磨パッド。
【請求項5】
前記不織布Aは、前記ナノ繊維からなる繊維束を有し、
前記繊維束の平均直径が、10μm以上200μm以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の研磨パッド。
【請求項6】
前記研磨層の平均厚さが、0.5mm以上4.0mm以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の研磨パッド。
【請求項7】
前記基材における、前記不織布Aの平均厚さTAに対する、前記不織布Bの平均厚さTBの比(TB/TA)が、1.5以上4.0以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の研磨パッド。
【請求項8】
平均単繊維直径が100nm以上500nm以下であるナノ繊維を主に含む不織布Aと、平均単繊維直径が1.0μm以上50μm以下であるマイクロ繊維を主に含む不織布Bとを、交絡させることにより、前記不織布Aと前記不織布Bとの間に接着部を有しない基材を得る工程と、
前記基材に対して樹脂を含む樹脂溶液を含浸させ、湿式凝固を行うことにより、樹脂含浸基材を得る工程と、
を有する、研磨パッドの製造方法。
【請求項9】
前記基材を得る工程は、前記不織布Aと、前記不織布Bとを、ニードルパンチ又は水流交絡により、交絡させる工程を含む、請求項記載の研磨パッドの製造方法。
【請求項10】
研磨スラリーの存在下、請求項1~のいずれか1項に記載の研磨パッドを用いて、被研磨物を研磨する研磨工程を有する、研磨加工物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨パッド、その製造方法、及び研磨加工物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、レンズ、平行平面板、及び反射ミラーのような光学材料、並びにハードディスク用基板、シリコンウェハ、及び液晶ガラスのような高精度に良好な端部形状及び/又は平坦性が要求される材料には、研磨パッドを用いた研磨加工が行われる。
【0003】
従来、そのような研磨加工には、研磨パッドとして、マイクロ繊維を含む不織布にポリウレタン等の樹脂を含浸させた研磨パッドが用いられている。また、研磨物の平坦化やスクラッチ減少を目的として、ナノ繊維を含む不織布を用いた研磨パッドも開発されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、平均断面積が0.01~30μm2の範囲である極細単繊維から構成される繊維束から形成された繊維絡合体と、高分子弾性体とを含有し、高分子弾性体の一部が前記繊維束の内部に存在して、極細単繊維を集束しており、少なくとも一表面に、600本/mm2以上の極細単繊維が存在し、50℃の温水で飽和膨潤させたときの吸水率が5~45質量%であり、50℃の温水で飽和膨潤したときの50℃における貯蔵弾性率が100~800MPaであることを特徴とする研磨パッドが開示されている。特許文献1には、上記のような研磨パッドは、スクラッチの発生、及び研磨レートの低下を抑制しながら、高い平坦性が得られる研磨を実現できることが開示されている。
【0005】
他方、マイクロ繊維を含む不織布と、ナノ繊維を含む不織布とを接着層により接着した基材を用いた研磨パッドも開発されている。例えば、特許文献2には、極細繊維を表面に有する研磨布であって、極細繊維層、接着層、補強層の三層構造からなり、接着層が面方向に非連続な構造を有することを特徴とする研磨布が開示されている。特許文献2には、上記のような研磨布は、研磨加工時の加工安定性、および研磨布製造時の工程通過性に優れることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5415700号公報
【文献】特開2009-066749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らが、上記特許文献1及び特許文献2に記載のものを始めとする従来の研磨パッドを詳細に検討したところ、従来の研磨パッドは、研磨平坦性、スクラッチ発生の抑制、及び製品寿命のいずれかが不十分であることがわかった。
【0008】
例えば、特許文献1に開示されるようなナノ繊維を含む不織布を用いた研磨パッドは、ナノ繊維が非常に軟らかいことに起因して、研磨パッドのへたりが発生しやすく、その製品寿命が短いことがわかった。また、特許文献2に開示されるようなマイクロ繊維を含む不織布と、ナノ繊維を含む不織布とを接着層により接着した基材を用いた研磨パッドは、そのような接着層が存在することに起因して、得られる被研磨物の平坦性が不十分であることがわかった。また、そのような研磨パッドは、そのような接着層の存在に起因して、スラリーの透過性が低下し、スラリーによる研磨パッドの目詰まりが発生しやすくなり、その結果製品寿命が短くなることもわかった。
【0009】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、得られる被研磨物に良好な平坦性を付与し、スクラッチの発生を抑制し、かつ、製品寿命が長い研磨パッド、その製造方法、及び研磨加工物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を進めた結果、ナノ繊維を主に含む不織布とマイクロ繊維を主に含む不織布とが交絡された基材と、該基材に含浸した樹脂とを有する研磨層を備える研磨パッドが、得られる被研磨物に良好な平坦性を付与し、スクラッチの発生を抑制し、かつ、製品寿命が長いことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
基材と、該基材に含浸した樹脂と、を有する研磨層を備え、
該研磨層は、被研磨物を研磨する研磨面と、定盤に直接又は間接的に固定される定盤面と、を有し、
前記基材は、平均単繊維直径が100nm以上500nm以下であるナノ繊維を主に含む不織布Aと、平均単繊維直径が1.0μm以上50μm以下であるマイクロ繊維を主に含む不織布Bと、を有し、かつ、前記不織布Aと前記不織布Bとが交絡されたものであり、
前記不織布Aと、前記不織布Bとは、前記研磨面から前記定盤面に向かって、この順に位置するように配置されている、
研磨パッド。
[2]
前記ナノ繊維は、ポリアミド系繊維を含む、[1]記載の研磨パッド。
[3]
前記マイクロ繊維は、芳香族ポリエステル系繊維を含む、[1]又は[2]に記載の研磨パッド。
[4]
前記基材は、前記不織布Aと、前記不織布Bと、の間に、接着部を有しない、[1]~[3]のいずれか1つに記載の研磨パッド。
[5]
前記不織布Aと、前記不織布Bとは、ニードルパンチ又は水流交絡により交絡されている、[1]~[4]のいずれか1つに記載の研磨パッド。
[6]
前記不織布Aは、前記ナノ繊維からなる繊維束を有し、
前記繊維束の平均直径が、10μm以上200μm以下である、[1]~[5]のいずれか1つに記載の研磨パッド。
[7]
前記研磨層の平均厚さが、0.5mm以上4.0mm以下である、[1]~[6]のいずれか1つに記載の研磨パッド。
[8]
前記基材における、前記不織布Aの平均厚さTAに対する、前記不織布Bの平均厚さTBの比(TB/TA)が、1.5以上4.0以下である、[1]~[7]のいずれか1つに記載の研磨パッド。
[9]
平均単繊維直径が100nm以上500nm以下であるナノ繊維を主に含む不織布Aと、平均単繊維直径が1.0μm以上50μm以下であるマイクロ繊維を主に含む不織布Bとを、交絡させることにより、基材を得る工程と、
前記基材に対して樹脂を含む樹脂溶液を含浸させ、湿式凝固を行うことにより、樹脂含浸基材を得る工程と、
を有する、研磨パッドの製造方法。
[10]
前記基材を得る工程は、前記不織布Aと、前記不織布Bとを、ニードルパンチ又は水流交絡により、交絡させる工程を含む、[9]記載の研磨パッドの製造方法。
[11]
研磨スラリーの存在下、[1]~[8]のいずれか1つに記載の研磨パッドを用いて、被研磨物を研磨する研磨工程を有する、研磨加工物の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、得られる被研磨物に良好な平坦性を付与し、スクラッチの発生を抑制し、かつ、製品寿命が長い研磨パッド、その製造方法、及び研磨加工物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0014】
[研磨パッド]
本実施形態の研磨パッドは、基材と、該基材に含浸した樹脂と、を有する研磨層を備え、該研磨層は、被研磨物を研磨する研磨面と、定盤に直接又は間接的に固定される定盤面と、を有し、上記基材は、平均単繊維直径が100nm以上500nm以下であるナノ繊維を主に含む不織布Aと、平均単繊維直径が1.0μm以上50μm以下であるマイクロ繊維を主に含む不織布Bと、を有し、かつ、上記不織布Aと上記不織布Bとが交絡されたものであり、上記不織布Aと、上記不織布Bとは、上記研磨面から上記定盤面に向かって、この順に位置するように配置されている。
【0015】
(研磨層)
本実施形態の研磨層は、基材と、該基材に含浸した樹脂とを有する。上記基材は、ナノ繊維を主に含む不織布Aと、マイクロ繊維を主に含む不織布Bと、を有し、かつ、不織布Aと不織布Bとが交絡されたものであり、不織布Aと、不織布Bとは、研磨面から定盤面に向かって、この順に位置するように配置されている。このようにナノ繊維を主に含む不織布Aが研磨面側に配置されることにより、研磨時の研磨面における研磨圧力が応力分散されやすくなり、その結果、得られる被研磨物の平坦性がより向上し、端部形状が良化し、かつ、スクラッチの発生が抑制される。更に、ナノ繊維を主に含む不織布Aは研磨層のスラリー保持力の向上にも寄与し、研磨レートがより向上する。また、ナノ繊維よりも剛性の高いマイクロ繊維を主に含む不織布Bが定盤面側に配置されることにより、研磨パッドが被研磨物に過度に追従することを抑制することができ、得られる被研磨物の平坦性がより向上し、端部形状がより良化する。また、ナノ繊維よりも剛性の高いマイクロ繊維を主に含む不織布Bが定盤面側に配置されることにより、本実施形態の研磨パッドは、ナノ繊維を主に含む不織布のみを用いた研磨パッドよりもへたりが生じにくく、製品寿命が長くなる。更に、不織布Aと不織布Bとが、それぞれの不織布に含まれる繊維の交絡により接合されているため、基材中に接着層を必要とせず、接着層に起因したスラリーの目詰まりが生じにくい。これにより本実施形態の研磨パッドの製品寿命は長くなる。
【0016】
なお、本実施形態において「被研磨物の平坦性がより向上する」とは、被研磨物の研磨された表面が全体としてより平坦であることを意味する。これは、グローバル平坦性が良好であるということもできる。また、「端部形状が良化する」とは、被研磨物の研磨された表面のうち、その表面の端部がより平坦であることを意味する。これは例えば、被研磨物の外周に生じる、ダレ形状(「ロールオフ」ともいう。)やハネ形状(「スキージャンプ形状」ともいう。)が抑制されていることを意味する。
【0017】
本実施形態の研磨層において、本発明の効果をより有効かつ確実に奏する観点から、基材は、好ましくは不織布Aと不織布Bとの間に接着部を有しない。基材がそのような接着部を有する場合、接着部では研磨層の他の部分と比較して接着部を構成する接着剤の硬化物が当然に多くなり、接着部付近でスラリーが滞在しやすくなる。その結果、研磨層のスラリー透過性が低下する。一方、基材が、不織布Aと不織布Bとの間に接着部を有しない場合、上記のスラリーの滞在が抑制され、研磨層のスラリー透過性が一層良好なものとなり、スラリーの目詰まりに起因する研磨パッドの劣化を一層防ぐことができる。これにより研磨パッドの製品寿命は一層長くなる傾向にある。
【0018】
また、基材が接着部を有する場合、そのような接着部が存在することに起因して、研磨面内の荷重にばらつきが生じ、得られる被研磨物の平坦性が悪化する傾向にある。一方、基材が、不織布Aと不織布Bとの間に接着部を有しない場合、得られる被研磨物の平坦性が一層向上する。
【0019】
また、「接着部」とは、接着剤の硬化物を含有し、かつ、2以上の部材を接着している部分のことを意味し、例えば、接着剤の硬化物、及び接着剤を有する接着シートが挙げられる。例えば、不織布A又は不織布Bのいずれか一方の表面に接着剤を塗布し、その接着剤を塗布した表面に他方の不織布を密着させた後に接着剤を硬化させることで、接着剤の硬化物を介して不織布Aと不織布Bとを接合した場合、その接着剤の硬化物は「接着部」に相当する。一方、例えば、不織布Aと不織布Bとを繊維の交絡により接合した基材に樹脂を含浸した場合、基材は「接着部」を有しない。上記接着剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリアミド系、ポリエステル系、エチレン-酢酸ビニル系、アクリル系、オレフィン系、エポキシ系、シアノアクリレート系、及びシリコーン系の接着剤が挙げられる。
【0020】
本実施形態の研磨層の平均厚さTは、特に限定されないが、好ましくは0.5mm以上4.0mm以下であり、より好ましくは0.6mm以上2.0mm以下であり、更に好ましくは0.7mm以上1.5mm以下である。上記平均厚さTが上記の範囲にあることにより、研磨層は、一層良好なクッション性を備える。その結果、得られる被研磨物の平坦性が一層向上し、端部形状が一層良化する傾向にある。
【0021】
(基材)
本実施形態の基材は、平均単繊維直径が100nm以上500nm以下であるナノ繊維を主に含む不織布Aと、平均単繊維直径が1.0μm以上50μm以下であるマイクロ繊維を主に含む不織布Bと、を有し、かつ、不織布Aと不織布Bとが交絡されているものである。
【0022】
不織布Aは、上記ナノ繊維を主に含むものであれば特に限定されないが、不織布A全体に対して、上記ナノ繊維を50質量%を超えて含むものであり、好ましくは60質量%以上含むものであり、より好ましくは上記ナノ繊維を80質量%以上含むものであり、更に好ましくは上記ナノ繊維を90質量%以上含むものであり、特に好ましくは上記ナノ繊維からなるものである。不織布Aが、上記範囲で上記ナノ繊維を含むことにより、研磨時の研磨面における研磨圧力が一層応力分散される。その結果、得られる被研磨物の平坦性が一層向上し、端部形状が一層良化しかつ、一層スクラッチの発生が抑制される。また、不織布Aは上記マイクロ繊維を含んでいてもよい。なお、不織布がナノ繊維を「主に」含むとは、不織布が不織布全体に対して、50質量%を超えてナノ繊維を含むことを意味する。
【0023】
不織布Bは、上記マイクロ繊維を主に含むものであれば特に限定されないが、不織布B全体に対して、上記マイクロ繊維を50質量%を超えて含むものであり、好ましくは60質量%以上含むものであり、より好ましくは上記マイクロ繊維を80質量%以上含むものであり、更に好ましくは上記マイクロ繊維を90質量%以上含むものであり、特に好ましくは上記マイクロ繊維からなるものである。不織布Bが、上記範囲で上記マイクロ繊維を含むことにより、不織布Bの剛性が一層向上し、研磨パッドの製品寿命が一層向上する。また、研磨パッドが被研磨物に過度に追従することを抑制することができるため、得られる被研磨物の平坦性が一層向上し、端部形状が一層良化する。また、不織布Bは上記ナノ繊維を含んでいてもよい。なお、不織布がマイクロ繊維を「主に」含むとは、不織布が不織布全体に対して、50質量%を超えてマイクロ繊維を含むことを意味する。
【0024】
本実施形態の基材における不織布A及び不織布Bの種類としては、特に限定されないが、例えば、スパンボンド法により製造されたものであってもよく、メルトブローン法により製造されたものであってもよく、乾式法又は湿式法により製造されたものであってもよい。
【0025】
本実施形態の基材において、不織布Aと不織布Bとの交絡形態は、特に限定されないが、例えば、ニードルパンチにより交絡されたものであってもよく、水流交絡により交絡されたものであってもよく、加熱蒸気により交絡されたものであってもよい。本実施形態の基材は、好ましくは不織布Aと不織布Bとがニードルパンチにより交絡されたものである。不織布Aと不織布Bとがニードルパンチにより交絡された基材は、繊維同士が過度に交絡されないため、一層柔軟であり、得られる被研磨物の平坦性が一層向上し、スクラッチの発生を一層抑制することができる傾向にある。
【0026】
なお、不織布と他の不織布とが「交絡されている」とは、上記不織布を構成する繊維と、上記他の不織布を構成する繊維とが、少なくとも部分的に絡み合うことにより、上記不織布と上記他の不織布とが接合されていることを意味する。
【0027】
本実施形態の基材は、後述する方法を用いて、海島繊維を主に含む不織布A’と、不織布Bとが交絡された後、不織布A’に含まれる海島繊維が脱海されナノ繊維となることにより得られる、不織布Aと不織布Bとが交絡された基材であってもよい。
【0028】
なお、本実施形態の基材としては、不織布Aと不織布Bとが、ケミカルボンド法、又はサーマルボンド法により接着されたものは好ましくない。不織布Aと不織布Bとが、ケミカルボンド法、又はサーマルボンド法により接着された基材は、その接着箇所等においてスラリーの透過性に劣り、研磨パッドの目詰まりが生じやすくなる傾向にある。
【0029】
本実施形態の基材の平均厚さは、特に限定されないが、好ましくは0.5mm以上4.0mm以下であり、より好ましくは0.6mm以上2.0mm以下であり、更に好ましくは0.7mm以上1.5mm以下である。基材の平均厚さが上記の範囲にあることにより、研磨層は、一層良好なクッション性を備える。その結果、得られる被研磨物の平坦性が一層向上し、端部形状が一層良化する傾向にある。
【0030】
本実施形態の基材において、不織布Aの平均厚さTAに対する不織布Bの平均厚さTBの比(TB/TA)は、特に限定されないが、好ましくは1.5以上4.0以下であり、より好ましくは1.8以上3.5以下であり、更に好ましくは2.0以上3.0以下である。上記厚さの比(TB/TA)が上記の範囲にあることにより、研磨パッドは、研磨面の軟性と研磨層の剛性とのバランスに一層優れるようになる。その結果、得られる被研磨物の平坦性が一層向上し、端部形状が一層良化し、スクラッチの発生が一層抑制され、かつ、研磨パッドの製品寿命が一層長くなる傾向にある。
【0031】
なお、上記TA及びTBは、以下のようにして測定することができる。すなわち、本実施形態の基材を、基材の厚さ方向と平行に切断し、露出した基材の断面を光学顕微鏡、又は走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察することにより測定する。より詳細には、基材を、例えば、カッターを用いて切断し、露出した基材の断面を、例えば、10~500倍の倍率で走査型電子顕微鏡により観察する。得られたSEM像について、目視又は画像解析ソフトを用いて、不織布Aと不織布Bとの界面を決定し、該界面からの厚さを計測することで上記TA及びTBを求めることができる。
【0032】
なお、不織布Aと不織布Bとが交絡されていることにより、不織布Aと不織布Bとの界面が不明確である場合は、以下のようにして界面を決定する。すなわち、不織布Aと、不織布Bと、不織布Aであるか不織布Bであるか不明確な領域とが存在する場合、該不明確な領域の中間点、すなわち、上記不明確な領域内において不織布Aからの距離と不織布Bからの距離とが等しくなる点を、不織布Aと不織布Bとの界面とする。
【0033】
本実施形態の基材において、上記TAは特に限定されないが、好ましくは100μm以上2000μm以下であり、より好ましくは100μm以上1500μm以下であり、更に好ましくは200μm以上600μm以下である。上記TAが上記の範囲にあることにより、研磨時の研磨面における研磨圧力が一層応力分散される。その結果、得られる被研磨物の平坦性が一層向上し、端部形状が一層良化し、かつ、スクラッチの発生が一層抑制される傾向にある。本実施形態の基材において、上記TBは特に限定されないが、好ましくは400μm以上3000μm以下であり、より好ましくは500μm以上2000μm以下であり、更に好ましくは600μm以上1000μm以下である。上記TBが上記の範囲にあることにより、研磨層の剛性が一層向上し、一層へたりが生じにくく、研磨パッドの製品寿命が一層長くなる傾向にある。
【0034】
本実施形態の基材における不織布Aは、平均単繊維直径が100nm以上500nm以下であるナノ繊維を主に含む。上記ナノ繊維の平均単繊維直径は、好ましくは120nm以上400nm以下であり、より好ましくは130nm以上300nm以下である。ナノ繊維の平均単繊維直径が上記の範囲にあることにより、研磨時の研磨面における研磨圧力が一層応力分散される。その結果、得られる被研磨物の平坦性が一層向上し、端部形状が一層良化し、かつ、スクラッチの発生が一層抑制される。なお、平均単繊維直径は、走査型電子顕微鏡(SEM)により測定することができる。詳細には、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0035】
不織布Aは、ナノ繊維をいかなる態様により含んでいてもよく、例えば、単繊維がバラバラに分散したもの、単繊維が部分的に結合しているもの、複数の単繊維が凝集した集合体(例えば、束状のもの)などの態様により含んでいてもよい。不織布Aの剛性が一層向上する観点から、不織布Aは、複数のナノ単繊維が凝集した繊維束を含むことが好ましい。繊維の曲げ弾性は繊維直径の4乗に比例するため、不織布Aがナノ繊維の繊維束を含むことで、不織布Aの剛性が一層向上し、研磨パッドの製品寿命が一層長くなる。
【0036】
不織布Aがナノ繊維の繊維束を含む場合、繊維束の平均直径は、好ましくは10μm以上200μm以下であり、より好ましくは20μm以上150μm以下であり、更に好ましくは30μm以上100μm以下、更により好ましくは40μm以上80μm以下である。ナノ繊維の繊維束の平均直径が上記の範囲にあることにより、不織布Aの剛性が一層向上し、研磨パッドの製品寿命が一層長くなる傾向にある。また、ナノ繊維の繊維束の平均直径が上記の範囲にあることにより、研磨時の研磨面における研磨圧力が一層応力分散される。その結果、得られる被研磨物の平坦性が一層向上し、端部形状が一層良化し、かつ、スクラッチの発生が一層抑制される傾向にある。なお、ナノ繊維の繊維束の平均直径は、走査型電子顕微鏡(SEM)により測定することができる。詳細には、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0037】
ナノ繊維(単繊維)の繊維長は特に限定されないが、例えば、1.0cm以上10.0cm以下であってもよく、1.5cm以上8.0cm以下であってもよく、2.0cm以上6.0cm以下であってもよい。また、ナノ繊維(単繊維)の断面形状は、特に限定されないが、例えば、円形であってもよく、楕円形であってもよい。なお、ナノ繊維(単繊維)の繊維長は、従来公知の方法により測定すればよい。
【0038】
本実施形態の基材において、不織布Aに含まれるナノ繊維は、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、イソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート、スルホイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、及びポリヘキサメチレンテレフタレートのうちの1種以上を含む芳香族ポリエステル系繊維;ポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、及びポリヒドロキシブチレート-ポリヒドロキシバリレート共重合体のうちの1種以上を含む脂肪族ポリエステル系繊維;ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド10、ポリアミド11、ポリアミド12、及びポリアミド6-12のうちの1種以上を含むポリアミド系繊維;ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン、及び塩素系ポリオレフィンのうちの1種以上を含むポリオレフィン系繊維;エチレン単位を25~70モル%含有する変性ポリビニルアルコールを含む変性ポリビニルアルコール系繊維;並びに、ポリウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、及びポリエステル系エラストマーのようなエラストマーを含むエラストマー系繊維が挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、不織布Aに含まれるナノ繊維は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、イソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート、スルホイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、及びポリヘキサメチレンテレフタレートのような芳香族ポリエステル;ポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、及びポリヒドロキシブチレート-ポリヒドロキシバリレート共重合体のような脂肪族ポリエステル;ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド10、ポリアミド11、ポリアミド12、及びポリアミド6-12のようなポリアミド;ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン、及び塩素系ポリオレフィンのようなポリオレフィン;エチレン単位を25~70モル%含有する変性ポリビニルアルコールのような変性ポリビニルアルコール;並びに、ポリウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、及びポリエステル系エラストマーのようなエラストマーからなる群より選択される1種を海成分として含み、かつ、上記群より選択される海成分とは異なる1種を島成分として含む海島繊維から脱海して得られる繊維であってもよい。上記海島繊維から脱海して得られる繊維には、海(マトリックス)成分が一部残存していてもよい。
【0039】
本実施形態の基材において、不織布Aは、好ましくはポリアミド系ナノ繊維又はポリアミドを島成分として含むナノ繊維を主に含み、より好ましくはポリアミド系ナノ繊維を主に含む。ポリアミドは柔軟性及び耐薬品性に優れるため、不織布Aが上記態様であると、得られる被研磨物の平坦性が一層向上し、端部形状が一層良化し、かつ、スクラッチの発生が一層抑制され、また、研磨パッドの製品寿命が一層長くなる傾向にある。
【0040】
平均単繊維直径が100nm以上500nm以下であるナノ繊維としては、市販のものを用いてもよく、公知の常法によって製造したものを用いてもよい。平均単繊維直径が100nm以上500nm以下であるナノ繊維は、例えば、以下のようにして製造することができる。すなわち、溶剤に対する溶解性の異なる2種以上のポリマーを、易溶解性ポリマーを海(マトリックス)成分、難溶解性ポリマーを島(ドメイン)成分として溶融し、ポリマーアロイ溶融体を得る。これを紡糸した後、冷却固化して繊維化し、必要に応じて延伸・熱処理を施しポリマーアロイ繊維を得る。その後、易溶解性ポリマーを溶剤で除去(脱海)することでナノ繊維を得ることができる。
【0041】
上記のような製造方法においては、ナノ繊維の前駆体であるポリマーアロイ繊維における島成分のサイズによりナノ繊維の単繊維直径がほぼ決定される。したがって、ポリマーアロイ繊維中の島成分と海成分との配合比や、ポリマーアロイ繊維の延伸度合いを調整することにより、ナノ繊維の平均単繊維直径を制御することができる。また、易溶解性ポリマーの溶剤除去工程において、溶剤浸漬時間及び溶剤温度のような処理条件を調整することで、海成分の一部のみが除去された、海島構造のナノ繊維(海島繊維)を製造することもできる。
【0042】
本実施形態の基材における不織布Bは、平均単繊維直径が1.0μm以上50μm以下であるマイクロ繊維を主に含む。上記マイクロ繊維の平均単繊維直径は、好ましくは3.0μm以上40μm以下であり、より好ましくは5.0μm以上30μm以下である。マイクロ繊維の平均単繊維直径が上記の範囲にあることにより、不織布Bの剛性が一層向上し、研磨パッドの製品寿命が一層向上する。
【0043】
マイクロ繊維の繊維長は特に限定されないが、例えば、1.0cm以上10.0cm以下であってもよく、1.5cm以上8.0cm以下であってもよく、2.0cm以上6.0cm以下であってもよい。また、マイクロ繊維の断面形状は特に限定されないが、例えば、円形であってもよく、楕円形であってもよい。
【0044】
本実施形態の基材において、不織布Bに含まれるマイクロ繊維は、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、イソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート、スルホイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、及びポリヘキサメチレンテレフタレートのうちの1種以上を含む芳香族ポリエステル系繊維;ポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、及びポリヒドロキシブチレート-ポリヒドロキシバリレート共重合体のうちの1種以上を含む脂肪族ポリエステル系繊維;ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド10、ポリアミド11、ポリアミド12、及びポリアミド6-12のうちの1種以上を含むポリアミド系繊維;ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン、及び塩素系ポリオレフィンのうちの1種以上を含むポリオレフィン系繊維;エチレン単位を25~70モル%含有する変性ポリビニルアルコールを含む変性ポリビニルアルコール系繊維;並びに、ポリウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、及びポリエステル系エラストマーのようなエラストマーを含むエラストマー系繊維が挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
本実施形態の基材において、不織布Bは、好ましくは芳香族ポリエステル系マイクロ繊維を主に含み、より好ましくはポリエチレンテレフタレート系マイクロ繊維を主に含む。芳香族ポリエステルは剛性に優れるため、不織布Bが上記態様であると、研磨パッドの製品寿命が一層長くなる傾向にある。
【0046】
平均単繊維直径が1.0μm以上50μm以下であるマイクロ繊維としては、市販のものを用いてもよく、公知の常法によって製造したものを用いてもよい。
【0047】
本実施形態の基材としては、市販のものを用いてもよく、公知の常法によって製造したものを用いてもよい。
【0048】
本実施形態の基材は、例えば、以下の製造方法により得ることができる。すなわち、平均単繊維直径が100nm以上500nm以下であるナノ繊維を主に含む不織布Aと、平均単繊維直径が1.0μm以上50μm以下であるマイクロ繊維を主に含む不織布Bとを、交絡させることにより、基材を製造することができる。
【0049】
より詳細には、まず、平均単繊維直径が100nm以上500nm以下であるナノ繊維、及び平均単繊維直径が1.0μm以上50μm以下であるマイクロ繊維を、上記の製造方法若しくは公知の方法によって製造するか、又は市販のものを入手する。次に、上記ナノ繊維と、任意選択的に1種以上の上記ナノ繊維以外の繊維とを、上記ナノ繊維が繊維全体に対して、50質量%超、好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、特に好ましくは100質量%の割合になるように配合することで、フリースAを得る。また、上記マイクロ繊維と、任意選択的に1種以上の上記マイクロ繊維以外の繊維とを、上記マイクロ繊維が繊維全体に対して、50質量%超、好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、特に好ましくは100質量%の割合になるように配合することで、フリースBを得る。
【0050】
次いで、フリースA及びフリースBをそれぞれ単独で交絡させることで、それぞれ不織布A及び不織布Bを得た後に、不織布Aと不織布Bとを更に交絡させることで基材を得てもよい。あるいは、フリースAとフリースBとを一度に交絡させることで、不織布A及び不織布Bを形成すると共に、不織布Aと不織布Bとが交絡された基材を得てもよい。
【0051】
上記交絡の方法は特に限定されないが、例えば、ニードルパンチ法、水流交絡法、及びスチームジェット法が挙げられる。上記交絡の方法としては、ニードルパンチ法が好ましい。ニードルパンチ法を用いることで、繊維同士が過度に交絡されないため、一層柔軟な基材が得られ、得られる被研磨物の平坦性が一層向上し、スクラッチの発生を一層抑制することができる傾向にある。また、ニードルパンチ法は、繊維同士の交絡の度合いの調整が特に容易であり、基材を所望の硬度及び厚さにすることが特に容易である。
【0052】
あるいは、本実施形態の基材は、以下の別の製造方法により製造してもよい。まず、上記ナノ繊維の製造方法において例示した方法と同様の方法で、易溶解性ポリマーを海(マトリックス)成分、難溶解性ポリマーを島(ドメイン)成分として含有するポリマーアロイ繊維(以下、「ナノ繊維前駆体」ともいう。)であって、島成分の平均単繊維直径が100nm以上500nm以下である繊維を得る。
【0053】
次に、上記ナノ繊維前駆体と、任意選択的に、1種以上の上記ナノ繊維前駆体以外の繊維であって易溶解性ポリマーではない繊維とを、上記ナノ繊維前駆体の島成分が繊維全体に対して、50質量%超、好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、特に好ましくは100質量%の割合になるように配合することで、フリースA’を得る。また、平均単繊維直径が1.0μm以上50μm以下であるマイクロ繊維であって易溶解性ポリマーではない繊維と、任意選択的に、1種以上の上記マイクロ繊維以外の繊維であって易溶解性ポリマーではない繊維とを、上記マイクロ繊維が繊維全体に対して、50質量%超、好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、特に好ましくは100質量%の割合になるように配合することで、フリースBを得る。
【0054】
次いで、上記基材の製造方法と同様の方法を用いて、上記ナノ繊維前駆体を主に含む不織布A’と、上記マイクロ繊維を主に含む不織布Bとが交絡された基材を得る。この基材を易溶解性ポリマーが溶解し得る溶剤に浸漬することで、易溶解性ポリマーを除去(脱海)して、平均単繊維直径が100nm以上500nm以下であるナノ繊維を主に含む不織布Aと、平均単繊維直径が1.0μm以上50μm以下であるマイクロ繊維を主に含む不織布Bとが交絡された基材を得ることができる。
【0055】
(樹脂)
本実施形態の研磨層は、樹脂を含有する。そのため、研磨層は、耐薬品性、弾性、及び応力分散性のような種々の特性を得ることができる。その結果、得られる被研磨物の平坦性が一層向上し、端部形状が一層良化し、スクラッチの発生が抑制され、かつ、研磨パッドの製品寿命が長くなる傾向にある。本実施形態の研磨層が含有する樹脂としては、研磨パッドに備えられ得るものであれば特に限定されず、種々公知のものを用いることができる。そのような樹脂としては、例えば、湿式含浸により不織布に含浸できる樹脂、及び乾式含浸により不織布に含浸できる樹脂が挙げられる。本実施形態の研磨層が含有する樹脂としては、1種の樹脂を単独で、又は2種以上の樹脂を用いることができる。
【0056】
湿式含浸により不織布に含浸できる樹脂(以下、「湿式樹脂」ともいう。)としては、特に限定されないが、例えば、ポリウレタン、及びポリウレタンポリウレアのようなポリウレタン系樹脂、ポリアクリレート、及びポリアクリロニトリルのようなアクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、及びポリフッ化ビニリデンのようなビニル系樹脂、ポリサルホン、及びポリエーテルサルホンのようなポリサルホン系樹脂、アセチル化セルロース、及びブチリル化セルロースのようなアシル化セルロース系樹脂、ポリアミド系樹脂、並びにポリスチレン系樹脂が挙げられる。ポリウレタン樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、及びポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が挙げられる。
【0057】
乾式含浸により不織布に含浸できる樹脂(以下、「乾式樹脂」ともいう。)としては、特に限定されないが、例えば、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、硬化剤であるアミン化合物及び/又は多価アルコール化合物と、それらを溶解可能な溶媒とを含む溶液から得られるポリウレタン系樹脂が挙げられる。ここで、ウレタンプレポリマーとしては、特に限定されないが、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネートとヘキサントリオールとの付加物、2,4-トリレンジイソシアネートとプレンツカテコールとの付加物、トリレンジイソシアネートとヘキサントリオールとの付加物、トリレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンとの付加物、キシリレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンとの付加物、ヘキサメチレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンとの付加物、及びイソシアヌル酸とヘキサメチレンジイソシアネートとの付加物が挙げられる。また、硬化剤のうちアミン化合物としては、特に限定されないが、例えば、3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4-メチル-2,6-ビス(メチルチオ)-1,3-ベンゼンジアミン、2-メチル-4,6-ビス(メチルチオ)-1,3-ベンゼンジアミン、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス[3-(イソプロピルアミノ)-4-ヒドロキシフェニル]プロパン、2,2-ビス[3-(1-メチルプロピルアミノ)-4-ヒドロキシフェニル]プロパン、2,2-ビス[3-(1-メチルペンチルアミノ)-4-ヒドロキシフェニル]プロパン、2,2-ビス(3,5-ジアミノ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,6-ジアミノ-4-メチルフェノール、トリメチルエチレンビス-4-アミノベンゾネート、及びポリテトラメチレンオキサイド-di-p-アミノベンゾネートが挙げられる。硬化剤のうち多価アルコール化合物としては、特に限定されないが、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、3-メチル-1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、2,3-ジメチルトリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、3-メチル-4,3-ペンタンジオール、3-メチル-4,5-ペンタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、1,4-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、トリメチロールメタンが挙げられる。これらのウレタンプレポリマー及び硬化剤は、それぞれ、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。溶媒としては、特に限定されないが、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、及びN,N-ジメチルアセトアミドが挙げられる。
【0058】
本実施形態の研磨層が有する樹脂は、本発明の効果をより有効かつ確実に奏する観点から、好ましくはポリウレタン樹脂である。
【0059】
(弾性率)
本実施形態の研磨パッドの弾性率は、好ましくは0.15GPa以上0.60GPa以下であり、より好ましくは0.20GPa以上0.55GPa以下であり、更に好ましくは0.25GPa以上0.50GPa以下である。特に、弾性率が0.15GPa以上であると、研磨レートが一層向上する傾向にある。また、弾性率が0.60GPa以下であると、スクラッチの発生を一層抑制し、また、得られる被研磨物の平坦性が一層向上する傾向にある。
【0060】
なお、弾性率は、実施例に記載の方法により測定すればよい。また、弾性率は基材における不織布Aの平均厚さTAに対する不織布Bの平均厚さTBの比(TB/TA)や基材に含浸させる樹脂の種類及び含浸量を適宜調整することにより、制御することができる。例えば、上記比(TB/TA)を大きくすると、研磨パッドの弾性率は小さくなる傾向にある。
【0061】
本実施形態の研磨パッドを製造する方法は、上述した本実施形態の研磨パッドの構成が得られる方法である限り、特に限定されるものではない。研磨パッドを製造する方法としては、例えば、以下に記載する研磨パッドの製造方法を用いることができる。
【0062】
[研磨パッドの製造方法]
本実施形態の研磨パッドの製造方法は、平均単繊維直径が100nm以上500nm以下であるナノ繊維を主に含む不織布Aと、平均単繊維直径が1.0μm以上50μm以下であるマイクロ繊維を主に含む不織布Bとを、交絡させることにより、基材を得る工程と、上記基材に対して樹脂を含む樹脂溶液を含浸させ、湿式凝固を行うことにより、樹脂含浸基材を得る工程と、を有する。
【0063】
本実施形態の研磨パッドの製造方法は、上記の構成を有することにより、研磨時の研磨面における研磨圧力が応力分散される研磨パッドを得ることができる。その結果、製造された研磨パッドによれば、得られる被研磨物の平坦性が一層向上し、端部形状が一層良化し、かつ、スクラッチの発生が抑制される。更に、研磨層のスラリー保持力が向上し、研磨レートの高い研磨パッドを得ることができる。また、製品寿命が長い研磨パッドを得ることができる。更に、不織布Aと不織布Bとが、それぞれの不織布に含まれる繊維の交絡により接合されているため、基材中に接着層を必要とせず、接着層に起因したスラリーの目詰まりが生じにくい研磨パッドを得ることができる。以下、各工程について説明する。
【0064】
(基材製造工程)
本実施形態の研磨パッドの製造方法における基材の製造工程は、平均単繊維直径が100nm以上500nm以下であるナノ繊維を主に含む不織布Aと、平均単繊維直径が1.0μm以上50μm以下であるマイクロ繊維を主に含む不織布Bとを、交絡させることにより基材を得る工程である。その詳細及び好ましい条件は、上記した基材の製造方法と同様である。
【0065】
なお、上記基材の製造方法において詳述したように、基材製造工程では、不織布Aと不織布Bとを交絡させることで基材を得てもよく、あるいは、海島繊維を主に含む不織布A’と、不織布Bとを交絡した後、不織布A’に含まれる海島繊維を脱海しナノ繊維とすることにより、不織布Aと不織布Bとが交絡された基材を得てもよい。
【0066】
(樹脂含浸工程)
本実施形態の研磨パッドの製造方法における樹脂の含浸工程は、上記基材に対して樹脂を含む樹脂溶液を含浸させ、湿式凝固を行うことにより、樹脂含浸基材を得る工程である。湿式凝固とは、樹脂溶液を、樹脂に対して貧溶媒である凝固液に常温で浸漬することで樹脂を凝固再生させる方法である。本実施形態のように不織布を含む基材に樹脂溶液を含浸させた上で湿式凝固を用いる場合、凝固液中では、不織布の繊維に付着している樹脂溶液の表面において樹脂溶液の溶媒と凝固液との置換が進行するため、樹脂は繊維の表面に凝固再生される。
【0067】
上記樹脂含浸工程は、例えば、以下のようにすればよい。まず、上記した湿式樹脂と、該湿式樹脂を溶解可能であって後述する凝固液に混和する溶媒と、必要に応じて研磨層に配合するその他の添加剤とを混合し、更に必要に応じて減圧下で脱泡して樹脂溶液を調製する。上記の溶媒としては、特に限定されないが、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)、メチルエチルケトン(MEK)、及びジメチルスルホキシドが挙げられる。本発明の効果をより有効かつ確実に奏する観点から、湿式樹脂としては、好ましくはポリウレタン樹脂が用いられる。
【0068】
基材の全体に亘って樹脂を含浸する観点、及び、樹脂の含浸量を十分に確保する観点から、上記樹脂溶液のB型回転粘度計を用いて測定した20℃における粘度は、好ましくは8000cp以下であり、より好ましくは100cp以上5000cp以下であり、更に好ましくは400cp以上3000cp以下である。そのような粘度の数値範囲にある樹脂溶液を得る観点から、例えば、ポリウレタン樹脂を、樹脂溶液の全体に対して5質量%以上25質量%以下の範囲、より好ましくは8質量%以上15質量%以下の範囲で溶媒に溶解させてもよい。樹脂溶液の粘性は、用いる樹脂の種類及び分子量にも依存するため、これらを総合的に考慮し、樹脂の選定、濃度設定等を行うことが好ましい。
【0069】
次に、基材を十分に樹脂溶液に浸漬した後、1対のローラ間で加圧可能なマングルローラを用いて、基材から樹脂溶液を絞り落とすことで、基材に付着している樹脂溶液の量を所望の量に調整し、かつ、基材に樹脂溶液を均一又は略均一に含浸させる。次いで、樹脂溶液を含浸した基材を、上記樹脂に対する貧溶媒、例えば水、を主成分とする凝固液中に浸漬することにより、湿式樹脂を凝固再生させる。凝固液中には、樹脂の再生速度を制御するために、樹脂溶液中の溶媒以外の極性溶媒等の有機溶媒を添加してもよい。また、凝固液の温度は、樹脂を凝固できる温度であれば特に限定されないが、例えば、15℃以上60℃以下であってもよい。
【0070】
(成形工程)
本実施形態の研磨パッドの製造方法は、上記樹脂含浸工程の後、好ましくは、得られた樹脂含浸基材を洗浄及び乾燥する工程を有する。そのような洗浄及び乾燥工程は、例えば、以下のとおりである。まず、樹脂含浸基材を水等の洗浄液中で洗浄し、樹脂含浸基材中に残存するDMF等の溶媒を除去する。洗浄後、樹脂含浸基材を洗浄液から引き上げ、マングルローラ等を用いて余分な洗浄液を絞り落とす。その後、樹脂含浸基材を、100℃以上150℃以下の乾燥機中で乾燥させる。
【0071】
得られた樹脂含浸基材は、そのまま研磨層として用いてもよいし、必要に応じて、樹脂含浸基材に更にスライス又はバフ等の加工を施すことにより、表層のスキン層を除去し、かつ、所定の厚さにしたものを研磨層として用いてもよい。
【0072】
本実施形態の研磨パッドの製造方法は、必要に応じて、研磨層の表面及び/又は裏面にドレス処理(研削処理)を施すドレス工程を有していてもよい。ドレス処理(研削処理)の方法としては、特に限定されず、公知の方法により研削することができる。具体的には、ダイヤモンドドレッサーによる研削が挙げられる。
【0073】
本実施形態の研磨パッドの製造方法は、好ましくは、上記のようにして得られた研磨層の定盤面に両面テープを貼り付ける工程と、所定形状、好ましくは円板状に切り出す工程を有する。そのような工程を有することで、当技術分野において通常用いられている態様の研磨パッドを得ることができる。両面テープとしては、特に限定されないが、当技術分野において公知の両面テープの中から任意に選択して用いることができる。
【0074】
本実施形態の研磨パッドの製造方法は、更に必要に応じて、研磨面に、溝加工、エンボス加工、及び/又は穴加工(パンチング加工)を施す加工工程を有していてもよい。溝加工及びエンボス加工の形状としては、特に限定されないが、例えば、格子型、同心円型、及び放射型のような形状が挙げられる。
【0075】
[研磨加工物の製造方法]
本実施形態の研磨加工物の製造方法は、研磨スラリーの存在下、上記の研磨パッドを用いて、被研磨物を研磨し、研磨加工物を得る研磨工程を有する。研磨工程は、一次研磨(粗研磨)であってもよく、仕上げ研磨であってもよく、それら両方の研磨を兼ねるものであってもよい。
【0076】
本実施形態の研磨加工物の製造方法においては、研磨スラリーの供給と共に、保持定盤で被研磨物を研磨パッド側に押圧しながら、保持定盤と研磨用定盤とを相対的に回転させることで、被研磨物の加工面が研磨パッドで化学機械研磨により研磨加工される。保持定盤と研磨用定盤は、互いに異なる回転速度で同方向に回転してもよく、異方向に回転してもよい。また、被研磨物は、研磨加工中に、枠部の内側で移動(自転)しながら研磨加工されてもよい。
【0077】
研磨スラリーは、被研磨物や研磨条件等に応じて、水、過酸化水素に代表される酸化剤などの化学成分、添加剤、砥粒(研磨粒子;例えば、SiC、SiO2、Al23、CeO2)等を含んでいてもよい。
【0078】
また、被研磨物としては、特に限定されないが、例えば、レンズ、平行平面板、及び反射ミラーのような光学材料、並びにハードディスク用基板、シリコンウェハ、及び液晶ガラスのような高精度に良好な端部形状及び/又は平坦性が要求される材料が挙げられる。このなかでも、本実施形態の研磨加工物の製造方法は、シリコンウェハの製造方法として好適に用いることができる。
【実施例
【0079】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0080】
(基材の構成の確認)
本実施例において、研磨パッドに用いられる基材の構成の確認は、以下のようにして行った。すなわち、基材を、基材の厚さ方向と平行に切断し、露出した基材の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察した。より詳細には、カッターを用いて基材を切断し、露出した基材の断面を、30倍~100倍の倍率で走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した。得られたSEM像について、目視又は画像解析ソフトを用いて、基材の構成を確認した。
【0081】
次いで、基材を構成する不織布のそれぞれについて、100倍~10000倍の倍率で走査型電子顕微鏡を用いて観察し、それぞれの不織布に含まれる各種繊維の平均単繊維直径を測定した。より詳細には、所定の倍率によるSEM観察で得られたSEM像について、画像解析ソフトを用いて同一SEM像内のお互いに隣接する30本ずつの繊維の群を無作為に10箇所抽出し、計300本の単繊維直径を測定した。それらの数平均値を算出することで、平均単繊維直径を求めた。100倍、500倍、1000倍、5000倍、及び10000倍の倍率でSEM観察を行い、同一SEM像内に300本以上の繊維が確認された場合、上記の作業を行い、平均単繊維直径を求めた。
【0082】
更に、上記観察により、平均単繊維直径が100nm以上500nm以下であるナノ繊維が、繊維束を形成していることを確認した場合は、その繊維束についても平均直径を測定した。具体的には、同一SEM像内に300本以上の繊維束が確認できる倍率でSEM観察を行い、上記平均単繊維直径の測定と同様の方法で繊維束の平均直径を求めた。
【0083】
[実施例1]
基材として、ナノ繊維(ポリアミド6(ナイロン6)繊維)からなる不織布A1と、マイクロ繊維(ポリエチレンテレフタレート繊維)からなる不織布B1とが交絡されている基材を準備した。基材の構成を確認したところ、不織布A1は、平均単繊維直径が200nmであり、繊維束の平均直径が50μmであるナノ繊維からなり、不織布B1は、平均単繊維直径が20μmであるマイクロ繊維からなるものであった。また、不織布A1の厚さは280μm、不織布B1の厚さは760μmであった。なお、当該基材は、不織布A1と不織布B1とがニードルパンチにより交絡されたものであった。
【0084】
100%樹脂モジュラス12MPaのポリウレタン樹脂(DIC社製、製品名「クリスボン」)55質量部、及び溶媒N,N-ジメチルホルムアミド45質量部を混合することにより、樹脂溶液を調製した。上記の基材を室温の上記樹脂溶液に浸漬させた後、1対のローラ間を加圧可能なマングルローラを用いて基材に樹脂溶液を略均一に含浸させた。次いで、室温の水からなる凝固液中に浸漬することにより、樹脂を凝固再生させて樹脂含浸基材を得た。その後、樹脂含浸基材を凝固液から取り出し、更に水からなる洗浄液に浸漬して洗浄した後、乾燥させた。乾燥後、樹脂含浸基材の両面にバフ処理を施すことにより表面のスキン層を除去し、研磨層を得た。
【0085】
[比較例1]
平均単繊維直径200nmのポリアミド6(ナイロン6)繊維からなる不織布X1のみからなる基材を用い、かつ、バフ処理量を変えたこと以外は、実施例1と同様にして研磨層を得た。
【0086】
[比較例2]
繊度が2dtexのポリエチレンテレフタレート繊維からなる不織布X2のみからなる基材を用いたこと以外は、実施例1と同様にして研磨層を得た。
【0087】
[弾性率]
研磨層の一部を直径30mmの円形状に切り出したものを試験片として、微小強度評価装置(株式会社島津製作所社製、製品名「マイクロオートグラフMTS-I」)に設置した。続いて、室温にて試験速度0.5mm/分で圧縮試験を行った。この際、100gf~300gfの範囲の複数の試験力における歪みをそれぞれ測定した。得られた各結果から最小二乗法により直線近似した際の係数を求めることで、弾性率(ヤング率)を算出した。
【0088】
[面品位確認試験]
研磨層の定盤面にアクリル系接着剤を有する両面テープを貼り付け、研磨装置に両面テープを介して研磨層を設置した。シリコンウェハを被研磨物として、下記条件にて研磨加工を施した。
(研磨条件)
研磨機 :不二越機械工業株式会社製、製品名「MCP-150X」
定盤回転数 :40rpm
トップリング回転数:41rpm
研磨圧力 :100gf/cm2
研磨剤温度 :25℃
研磨剤吐出量 :100mL/min
研磨剤 :フジミインコーポレーテッド社製、製品名「GLANZOX 1306」(原液:水=1:20)
被研磨物 :シリコンウェハ(470mm×370mm×1.1mm)
研磨時間 :20分
パッドブレーク :100gf/cm2 30分
サンプル数 :各例につき12枚
【0089】
(スクラッチ)
研磨試験後の被研磨物6枚の表面を対象として、ウェハ表面検査装置(KLAテンコール社製、製品名「Surfscan SP1DLS」)を用いて被研磨物の研磨面の面品位を評価した。具体的には、ウェハ表面検査装置(KLAテンコール社製、製品名「Surfscan SP1DLS」)の高感度測定モードにて被研磨物の研磨面を測定し、その表面におけるスクラッチの有無を調べ、下記評価基準により評価した。
(評価基準)
○:スクラッチの発生が認められた被研磨物が無い場合
×:スクラッチの発生が認められた被研磨物が1枚以上ある場合
【0090】
(平坦性)
上記研磨加工を施した合計12枚の被研磨物について、ウェハ平坦度測定装置(株式会社コベルコ科研社製、製品名「LSW3020」)を用いて、以下のようにして平坦性を評価した。まず、上記研磨試験前の被研磨物のGBIR(以下、「GBIR0」という。)と、上記研磨試験後の被研磨物のGBIRとを測定し、その差をそれぞれ求めた。そして、12枚の被研磨物について、上記GBIRの差の絶対値(以下、「ΔGBIR」という。)の研磨試験前のGBIR(GBIR0)に対する比(ΔGBIR/GBIR0)の平均を算出した。得られた比(ΔGBIR/GBIR0)の平均値に基づいて、以下の評価基準で平坦性を評価した。比(ΔGBIR/GBIR0)が小さいほど、得られた被研磨物の平坦性が高いことを意味する。なお、GBIRはEE(Edge Exclusion)2mmの条件で測定した。結果を表1に示す。
(評価基準)
A:比(ΔGBIR/GBIR0)が8.5%以下である。
B:比(ΔGBIR/GBIR0)が8.5%を超え11.5%以下である。
C:比(ΔGBIR/GBIR0)が11.5%を超える。
【0091】
(端部形状)
上記研磨加工を施した合計12枚の被研磨物について、ウェハ平坦度測定装置(株式会社コベルコ科研社製、製品名「LSW3020」)を用いて、以下のようにして端部形状を評価した。まず、上記研磨試験前の被研磨物のESFQR(以下、「ESFQR0」という。)と、上記研磨試験後の被研磨物のESFQRとを測定し、その差をそれぞれ求めた。そして、12枚の被研磨物について、上記ESFQRの差の絶対値(以下、「ΔESFQR」という。)の研磨試験前のESFQR(ESFQR0)に対する比(ΔESFQR/ESFQR0)の平均を算出した。得られた比(ΔESFQR/ESFQR0)の平均値に基づいて、以下の評価基準で端部形状を評価した。比(ΔESFQR/ESFQR0)が小さいほど、得られた被研磨物の端部形状が良好であることを意味する。なお、ESFQRはEE(Edge Exclusion)1mm(角度5°、長さ10mm)の条件で測定を行った。結果を表1に示す。
(評価基準)
A:比(ΔESFQR/ESFQR0)が17.5%以下である。
B:比(ΔESFQR/ESFQR0)が17.5%を超え22.5%以下である。
C:比(ΔESFQR/ESFQR0)が22.5%を超える。
【0092】
(研磨レート)
上記研磨加工の研磨レートを以下のようにして算出した。すなわち、研磨加工前後の被研磨物の重量の差(研磨量)を測定し、その研磨量を、被研磨物の比重及び研磨時間で割った値を研磨レートとした。結果を表1に示す。
【0093】
[製品寿命]
(研磨パッドの目詰まり)
上記研磨加工後の研磨パッドについて、以下のようにして研磨パッドの目詰まりを評価することで、研磨パッドの製品寿命を評価した。すなわち、上記研磨加工後の研磨パッドを目視により確認し、スラリーの目詰まりに起因する研磨パッドのグレージングが発生していなかった場合「○」、グレージングが発生していた場合「×」と判定した。結果を表1に示す。
【0094】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の研磨パッドは、レンズ、平行平面板、及び反射ミラーのような光学材料、並びにハードディスク用基板、シリコンウェハ、及び液晶ガラスのような高精度に良好な端部形状及び/又は平坦性が要求される材料の研磨に用いられ、特に、シリコンウェハの研磨に好適に用いられる研磨パッドとして、産業上の利用可能性を有する。