(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】ラミネート用延伸フィルムおよびラミネートフィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 27/32 20060101AFI20240624BHJP
B32B 7/028 20190101ALI20240624BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
B32B27/32 E
B32B7/028
B65D65/40 D
(21)【出願番号】P 2020058897
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2023-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000206473
【氏名又は名称】大倉工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】矢野 智也
(72)【発明者】
【氏名】筒井 淳浩
(72)【発明者】
【氏名】杉原 和則
(72)【発明者】
【氏名】藤原 敦
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-517938(JP,A)
【文献】国際公開第2020/038579(WO,A1)
【文献】特開2006-224427(JP,A)
【文献】特開2002-052669(JP,A)
【文献】特開2019-166810(JP,A)
【文献】特開2004-216565(JP,A)
【文献】特開平07-251490(JP,A)
【文献】特表2017-512693(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0346440(US,A1)
【文献】国際公開第2018/202479(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 7/028
B32B 27/00
B32B 27/32
B65D 65/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
MD方向及びTD方向の熱水収縮率が、共に-10%~10%であるラミネート用延伸フィルムであって、
密度が940~955kg/m
3
のポリエチレ
ンを主成分とする表層と、エチレン-ビニルアルコール共重合体を主成分とするバリア層とを備え、
前記ラミネート用延伸フィルムに占めるエチレンモノマ
ー成分の重合割合が80.0重量%以上99.9重量%以下であり、
前記ラミネート用延伸フィルムに占める前記エチレン-ビニルアルコール共重合体の重量割合が0.1重量%以上10.0重量%以下で
あり、
前記エチレン-ビニルアルコール共重合体に占めるエチレンモノマー成分の重合割合が、30.0重量%以上50.0重量%以下であ
り、
前記表層及び前記バリア層が一体となり一軸あるいは二軸に延伸されていることを特徴とするラミネート用延伸フィルム。
【請求項2】
前記表層と前記バリア層との間に、変性されたポリエチレン系樹脂を主成分とする接着層を備えることを特徴とする請求項
1記載のラミネート用延伸フィルム。
【請求項3】
前記表層、前記接着層、前記バリア層、前記接着層、前記表層を順に備えることを特徴とする請求項
2記載のラミネート用延伸フィルム。
【請求項4】
前記表層上に、ガスバリア性コーティング層を備えることを特徴とする請求項1乃至
3のいずれかに記載のラミネート用延伸フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、他のフィルムと貼り合わせて使用されるラミネート用延伸フィルムと、該延伸フィルムにシーラントフィルムを貼合したラミネートフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
スタンドパウチに用いられるフィルムや、真空断熱材において芯材を包装するフィルム等には様々な機能が求められており、延伸フィルムとシーラントフィルムとを接着剤を介して積層してなるラミネートフィルムが採用されている。
【0003】
特許文献1はシーラント層と補強層とを有する層構成のリサイクル性積層体に関する発明である。特許文献1には、全シーラント層中の該相溶化剤の含有量が5質量%以上、20質量%以下であり、補強層がエチレン-ビニルアルコール共重合体またはポリアミド樹脂を含有し、該補強層の厚みが該リサイクル性積層体の全厚みの、5%以上、20%以下であるリサイクル性積層体が提案されている。
【0004】
特許文献2には、ラミネート用延伸フィルムとしても使用可能な2軸延伸積層フィルムが開示されている。該フィルムは、ポリプロピレン系樹脂を主成分とする組成物からなる表裏層(A)と、接着性樹脂からなる接着層(B)と、エチレン-酢酸ビニル共重合体のケン化物からなるガスバリアー層(C)とが、(A)/(B)/(C)/(B)/(A)の順に積層された少なくとも5層からなる2軸延伸積層フィルム(特許文献2[請求項1])である。該フィルムは、酸素透過度が低く、貫孔強度、耐ピンホール性、及びシール適性にも優れる(特許文献2[0008])。
【0005】
特許文献3は、積層体(ラミネートフィルムに相当)に関する発明で、少なくとも基材とヒートシール層とを備える積層体であって、前記基材および前記ヒートシール層が、同一の材料により構成され、前記基材は延伸処理が施されており、前記同一材料がポリエチレンであることを特徴とする積層体(特許文献3[請求項1])が開示される。また基材がアルミニウム蒸着膜を備えること(特許文献3[請求項4])が開示されている。
【0006】
特許文献4は、ラミネート用延伸フィルムとして使用可能な二軸配向多層ポリマーバリアフィルムに関する発明である。特許文献4には、ポリオレフィンコア層と、前記コア層の少なくとも一方側上の少なくとも1つのエチレンビニルアルコール(EVOH)のバリア表面層とを含む、二軸配向多層ポリマーバリアフィルムであって、前記EVOHのバリア層は1.5μm未満の厚さであり、36モル%以下のエチレン含量を有し、前記フィルムは、24時間、23℃、50%RHで10cm3/m2/1day/1atm未満の酸素透過(OTR)を有する、二軸配向多層ポリマーバリアフィルムが開示されている(特許文献4[請求項1])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2020-11415号公報
【文献】特開2006-1011号公報
【文献】WO2019-189092号公報
【文献】特表2014-531341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のリサイクル積層体は、実施例1~4を見ると、共押出し空冷インフレーション製膜機によって作製されており、延伸処理は施されていない。更に実施例5では、基材層としてPETフィルムを選択し、これと積層してフィルムを作製している。よって、特許文献1のリサイクル積層体は、そのまま包装用フィルムとして使用する、あるいはラミネートフィルムのシーラントフィルムとして使用するフィルムであって、シーラントフィルムと貼り合わせて使用されるラミネート用延伸フィルムとは異なるものである。
特許文献2記載の2軸延伸積層フィルムは、ポリプロピレン、接着性樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体のケン化物等、多様な樹脂から成るため、リサイクル適性に劣る。該フィルムは、使用後、フィルムを溶かして、再度、フィルム状に成形すると、外観の悪いフィルムとなる。これは、ポリプロピレンと、接着性樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体のケン化物等との相溶性の悪さに起因するものと思われる。
【0009】
一方、特許文献3記載の積層体は、基材とヒートシール層とが同一材料(ポリエチレン)からなる為、使用後に溶かして、再度、フィルム状に成形しても、比較的外観が良好である。しかしながら、該フィルムは酸素バリア性に劣るという問題があった。特許文献3では、バリア性を高める方法としてアルミニウム蒸着膜を設ける方法が開示されているが、該方法には高価な設備が必要である。
特許文献4のフィルムは、ポリオレフィンコア層と、エチレンビニルアルコールのバリア表面層とからなる。実施例を見ると、該フィルムは蒸着膜を使用することなく低い酸素透過性を示すが、ポリオレフィンコア層としてポリプロピレンを採用しており、特許文献2と同様に、リサイクル適性に劣る。
【0010】
本発明は、リサイクル適性とガスバリア性の双方に優れるフィルムの提供を課題とする。詳しくは、(1)生産過程において排出されるフィルムロスを、再度、フィルムの原料としてマテリアルリサイクルできるフィルムであって、(2)ガスバリア性に優れ、(3)蒸着設備等がなくても製造できるラミネート用延伸フィルムの提供を課題とする。併せて、該フィルムを用いたラミネートフィルムの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によると、上記課題を解決する為の手段として、MD方向及びTD方向の熱水収縮率が、共に-10%~10%であるラミネート用延伸フィルムであって、ポリエチレン系樹脂を主成分とする表層と、エチレン-ビニルアルコール共重合体を主成分とするバリア層とを備え、ラミネート用延伸フィルムに占めるエチレンモノマー成分の重量割合が80.0重量%以上99.9重量%以下であり、ラミネート用延伸フィルムに占める前記エチレン-ビニルアルコール共重合体の重量割合が0.1重量%以上10.0重量%以下であることを特徴とするラミネート用延伸フィルムが提供される。
また、前記ポリエチレン系樹脂が、密度が940~955kg/m3のポリエチレンであることを特徴とする前記ラミネート用延伸フィルムが提供される。
更に、前記エチレン-ビニルアルコール共重合体に占めるエチレンモノマー成分の重量割合が、30.0重量%以上50.0重量%以下であることを特徴とする前記ラミネート用延伸フィルムが提供される。
【0012】
また、前記表層と前記バリア層との間に、変性されたポリエチレン系樹脂を主成分とする接着層を備えることを特徴とする前記ラミネート用延伸フィルムが提供される。
更に、前記表層、前記接着層、前記バリア層、前記接着層、前記表層を順に備えることを特徴とする前記ラミネート用延伸フィルムが提供される。
更に、前記表層上に、ガスバリア性コーティング層を備えることを特徴とする前記ラミネート用延伸フィルムが提供される。
【0013】
また、前記ラミネート用延伸フィルムとシーラントフィルムとが貼合されたラミネートフィルムであって、前記シーラントフィルムがポリエチレン系樹脂を主成分とすることを特徴とするラミネートフィルムが提供される。
更に、前記シーラントフィルムが低密度ポリエチレン系樹脂及び/又は直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂を主成分とすることを特徴とする前記ラミネートフィルムが提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明のラミネート用延伸フィルムは、ラミネート用延伸フィルムに占めるエチレンモノマー成分の重量割合が80.0重量%以上であり、ラミネート用延伸フィルムに占める前記エチレン-ビニルアルコール共重合体の重量割合が0.1重量%以上10.0重量%以下である為、リサイクル適性とガスバリア性の双方に優れる。また、ラミネート用延伸フィルムに占めるエチレン-ビニルアルコール共重合体の重量割合が5重量%以下であると、ラミネート用延伸フィルムは「モノマテリアル」と認定され得る為、製造工程において発生したフィルムロスや使用後のフィルムをマテリアルリサイクル可能なフィルムとして市場に流通させることができる。
特に、表層を構成する主成分が密度940~955kg/m3のポリエチレンであると、エチレン-ビニルアルコール共重合体の持つバリア性を最大限に発揮させることができる。
更にエチレン-ビニルアルコール共重合体に占めるエチレンモノマー成分の割合が30~50重量%であると、延伸処理におけるフィルムの破断等を防止することができる。
【0015】
また、表層とバリア層との間に、変性されたポリエチレン系樹脂を主成分とする接着層を備えると、リサイクル適性は維持されたまま、表層とバリア層との接着性が高まる。
また表層上にガスバリア性コーティング層を備えるラミネート用延伸フィルムは、特にガスバリア性が良好である。
【0016】
本発明のラミネート用延伸フィルムを、ポリエチレン系樹脂を主成分とするシーラントフィルムと貼り合わせて得られるラミネートフィルムは、リサイクル適性に優れる。
またシーラントフィルムが、低密度ポリエチレン系樹脂及び/又は直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂を主成分とする場合、ラミネートフィルムのヒートシール特性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明のラミネート用延伸フィルムの一実施形態を表す模式的断面図である。
【
図2】本発明のラミネート用延伸フィルムの一実施形態を表す模式的断面図である。
【
図3】本発明のラミネートフィルムの一実施例を表す模式的断面図である。
【
図4】本発明のラミネートフィルムの一実施例を表す模式的断面図である。
【
図5】本発明のラミネートフィルムの一実施例を表す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について詳説するが、本発明はこれに限定されるものではなく、同様の効果を奏する範囲において種々の実施形態をとることができる。また、本明細書において「主成分とする」とは、当該層に占める重量割合が50重量%を超えることを意味する。
【0019】
<ラミネート用延伸フィルム>
本発明のラミネート用延伸フィルムは、延伸処理後、熱処理などにより収縮応力が緩和されたフィルムで、熱により収縮させて使用する「熱収縮性フィルム」とは異なる。具体的には、フィルムのMD方向(長さ方向)の熱水収縮率、TD方向(幅方向)の熱水収縮率が、共に-10%~10%のフィルムである。尚、熱水収縮率は、100℃の熱水に5秒間浸漬させることによる寸法変化を測定して求める値であり、熱水浸漬前のフィルム長さをA、5秒間熱水浸漬後のフィルム長さをBとしたとき、((A-B)/A)×100で求める。
【0020】
通常、フィルムは製造工程において両端がカットされ、一定幅に切り揃えられて出荷される。この時カットされた両端部(以下、「耳ロス」と称す)は、フィルムが単層構成の場合は、原料と混合され、再度、同じフィルムに成形される(以下、「上位還元」と称す)。しかしながらフィルムが多層構成の場合、耳ロスを上位還元すると、フィルムの透明性が低下したり、フィッシュアイとよばれる欠陥を発生させたりする原因になる。そこで、多層構成のフィルムは、透明性を求められないプラスチック成型品の原料としてリサイクルされたり、サーマルリサイクルされたりすることが多い。
【0021】
本発明のラミネート用延伸フィルムは、多層構成ではあるが、該フィルムに占めるエチレンモノマー成分の重量割合が80.0重量%以上である為、上位還元することが可能である。エチレンモノマー成分の重量割合は85.0重量%以上であることが好ましく、特に90.0重量%以上、更には95.0重量%以上であることが好ましい。エチレンモノマー成分の重量割合が80.0重量%未満であると、耳ロスを上位還元して得られるフィルムの透明性が低下する恐れがある。尚、耳ロスの上位還元は、表層、バリア層、接着層のいずれの層に行ってもよいが、ラミネート用延伸フィルムのバリア性を担保するためには、バリア層には行わず、表層及び/又は接着層に行うことが好ましい。
【0022】
本発明のラミネート用延伸フィルムの厚さは特に限定されるものではないが、3~150μm、特に5~70μm、更には10~60μmであることが好ましい。当該延伸フィルムの厚さが3μm未満では、得られるラミネートフィルムの引張強度や弾性率、ガスバリア性等が不十分である。一方、150μmを超えると、得られるラミネートフィルムが固くなりすぎてハンドリング性に欠ける。
【0023】
[表層]
図1は、本発明のラミネート用延伸フィルムの一実施形態を表す模式的断面図である。本発明のラミネート用延伸フィルム10は、表層11とバリア層12とを少なくとも1層ずつ備える。好ましくは、
図1に示すように、バリア層12の両側に表層11を一層ずつ、合計二層備える。
該表層は、高密度ポリエチレン(密度941kg/m
3~)、中密度ポリエチレン(密度925~941kg/m
3)、低密度ポリエチレン(~925kg/m
3)、直鎖状低密度ポリエチレン等のポリエチレン系樹脂を主成分とする。リサイクル適性を考慮すると、エチレンモノマーの単独重合体である高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンを主成分とすることが好ましい。
またバリア層を構成するエチレン-ビニルアルコール共重合体は、相対湿度が高くなると酸素バリア性が低下することが知られている。しかしながら表層として中密度ポリエチレンや高密度ポリエチレンを採用すると、表層から水蒸気が透過することを抑制できる為、バリア層の酸素バリア性の低下を抑えることができる。尚、水蒸気バリア性と成形性の観点から、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンの中でも、密度が940~955kg/m
3のもの、特に密度が945~950kg/m
3のものが好ましい。
【0024】
表層に占めるポリエチレン系樹脂は、表層の樹脂成分の85重量%以上であることが好ましく、特に90重量%以上、更には95重量%以上、99重量%以上であることが好ましい。表層に占めるポリエチレン系樹脂の割合が高い程、ラミネート用延伸フィルムに占めるエチレンモノマー成分の重量割合が高くなるため、該フィルムのリサイクル適性が向上する。
表層の厚さは特に限定されるものではないが1~100μm、特に3~50μm、更には5~20μm程度であることが、成形性、ガスバリア性の観点から好ましい。
【0025】
[バリア層]
バリア層12は、ラミネート用延伸フィルム10に酸素バリア性をもたらす層であり、エチレン-ビニルアルコール共重合体を主成分とする。バリア層に占めるエチレン-ビニルアルコール共重合体の重量割合は、バリア層の樹脂成分の85重量%以上であることが好ましく、特に90重量%以上、更には95重量%以上であることが好ましく、樹脂成分の全てがエチレン-ビニルアルコール共重合体であることが特に好ましい。バリア層におけるエチレン-ビニルアルコール共重合体の重量割合が高い程、該フィルムの酸素バリア性が向上する。
【0026】
本発明のラミネート用延伸フィルムに占めるエチレン-ビニルアルコール共重合体の重量割合は、0.1重量%以上10.0重量%以下である。エチレン-ビニルアルコール共重合体の重量割合が0.1重量%未満ではフィルムに酸素バリア性を付与することができない。逆に該重量割合が10.0重量%を超えると、ラミネート用延伸フィルム10の耳ロスを上位還元して得られるフィルムが、透明性の悪いものとなったり、フィッシュアイ欠陥の多いものとなったりする恐れがある。ラミネート用延伸フィルム10に占めるエチレン-ビニルアルコール共重合体の重量割合は0.5~8.0重量%であることが好ましく、特に1.0~7.0重量%であることが好ましく、中でも2.0~5.0重量%、更には2.5~4.5重量%であることが好ましい。
【0027】
尚、ラミネート用延伸フィルムに占めるエチレン-ビニルアルコール共重合体の重量割合が5重量%未満であると、ラミネート用延伸フィルムが「モノマテリアル」と認定され得る。「モノマテリアル」がプラスチック資源循環に適したフィルムであることは、既に当業者に広く知れ渡っているため、「モノマテリアル」として市場に流通させることができれば、自社だけでなく、他社も安心してマテリアルリサイクルすることができる。
【0028】
バリア層の厚さは、ラミネート用延伸フィルムに占めるエチレン-ビニルアルコール共重合体の重量割合が0.1重量%以上10.0重量%以下となるように、適宜、設計すればよい。しかしながら、バリア層の厚さが0.1μm未満ではバリア性を担保できない恐れがあり、30μmを超えるとラミネート用延伸フィルムの厚さが厚くなり、硬くなる恐れがある。よってバリア層の厚さは0.1μm~30.0μmであることが好ましく、特に1.0~20.0μm、更には2.0~15.0μm、2.5~10.0μmであることが好ましい。
【0029】
エチレン-ビニルアルコール共重合体は、エチレン-酢酸ビニル共重合体をケン化することにより得られる樹脂である。該共重合体に占めるエチレンモノマー成分の重量割合は30.0~50.0重量%であることが好ましく、特に35.0~45.0重量%、更には37.5~42.5重量%であることが好ましい。エチレンモノマー成分の割合が低下し、ビニルアルコール成分の重量割合が高くなるほど、ラミネート用延伸フィルムの酸素バリア性は良好となるが、延伸処理適性が低下する。延伸処理時に、ラミネート用延伸フィルムが破断したり、「樹脂切れ」と呼ばれる、ラミネート用延伸フィルムにバリア層の無い部分ができたりする恐れがある。バリア層の「樹脂切れ」は、エチレン-ビニルアルコール共重合体の中でも「延伸グレード」と呼ばれる樹脂を採用することにより、ある程度は抑制できる。
【0030】
[接着層]
図2もまた、本発明のラミネート用延伸フィルムの一実施形態を表す模式的断面図である。上述した表層とバリア層とは接着性が良好ではない為、
図1に示すラミネート用延伸フィルム10は、表層11とバリア層12との界面で層間剥離する恐れがある。そこで、
図2に示すように、ラミネート用延伸フィルム20が、表層21とバリア層22との間に接着層23を有することが望ましい。接着層23は、ラミネート用延伸フィルム20を溶融する際に、ポリエチレン系樹脂とエチレン-ビニルアルコール共重合体の混ざりを改善する相溶化剤としても機能するため、該延伸フィルム20のリサイクル適性を高める。
表層21とバリア層22との双方と接着性に優れる樹脂であれば、特に限定なく、接着層23として用いることができる。しかしながらラミネート用基材フィルム20のリサイクル適性を高めるためには、エチレンモノマ
ー成分の割合が高い樹脂を接着層23に用いることが望ましい。具体的には、接着層23は変性されたポリエチレン系樹脂を主成分とすることが望ましい。
【0031】
エチレンモノマー成分の重量割合の低下を最小限に留めながら接着性を担保するためには、接着層を成す変性されたポリエチレン系樹脂が、不飽和カルボン酸、その他無水物または誘導体をグラフト重合したポリエチレンであることが望ましい。
ポリエチレン系樹脂にグラフト重合させる不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、フラン酸、クロトン酸、酢酸ビニル、ペンテン酸等の不飽和カルボン酸や、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸等のα,β-不飽和カルボン酸またはこれらの無水物や誘導体等が挙げられる。これらグラフト変性させる官能基含有モノマーの中では、カルボン酸基または酸無水基含有モノマーであるマレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸等のα,β-不飽和カルボン酸またはこれらの無水物が好ましく、特に無水マレイン酸(MAH)が基材との接着強度、樹脂との相溶性、経済性等の観点から好ましく使用される。グラフト重合する該α,β-不飽和カルボン酸又はその誘導体の量は、接着性と成形性の観点から、変性ポリオレフィン樹脂全量に対して0.02~5.0重量%に相当するのが好ましい。
【0032】
[ガスバリア性コーティング層]
図2のラミネート用延伸フィルム20は、一方の表層21上にガスバリア性コーティング層24を備える。当該コーティング層24は、塗工機により塗工液を塗布することにより形成される厚さ0.1~10μm(大部分は1~5μm程度)の層であって、蒸着設備により形成される数nmの蒸着膜とは異なる。当該塗工液は、ラミネート用延伸フィルム20のガスバリア性を高めるものであれば特に限定されず、従来公知の塗工液を採用することができる。以下、無機層状化合物と樹脂とを含む塗工液であって、水、アルコールまたは水-アルコール混合物等の溶媒により希釈される塗工液について詳説する。
【0033】
(無機層状化合物)
無機層状化合物とは、単位結晶層が互いに積み重なって層状構造を形成している無機化合物であり、塗工性や水蒸気バリア性の観点から、無機層状化合物の中でも粘土鉱物を用いることが好ましい。特に液体媒体への膨潤性、劈開性の点からモンモリロナイトを用いることがより好ましいく、劈開性の点からは膨潤性マイカが好ましく用いられる。
無機層状化合物のアスペクト比は、本発明の効果を損なわない限り特に制限されないが、バリア性と外観を両立する観点から80以上2,500以下であることが好ましい。無機層状化合物のアスペクト比が80以上であることにより、バリア層中の迷路効果が向上しガスバリア性が向上する。同様の観点から、アスペクト比は450以上がより好ましい。一方、無機層状化合物のアスペクト比が2,500以下であることにより、塗剤の高粘度化を抑制し、塗工時のレベリング性を高めることができる。そのため、バリア層の厚みムラ、及びそれに伴う外観悪化を軽減することができる。同様の観点から、アスペクト比は1,500以下であることがより好ましい。
なお、無機層状化合物のアスペクト比(Z)は、無機層状化合物の平均粒径Lと、無機層状化合物の単位厚みa(無機層状化合物の単位結晶層の厚みに相当)より、計算式「Z=L/a」により算出することができる。
【0034】
(樹脂)
ガスバリア性コーティング層24に含まれる樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲において適宜選択することができ、また、1種類であっても複数種類を混合したものであってもよい。該樹脂としては、例えばポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、多糖類、ポリアクリル酸およびそのエステル類、ポリメタアクリル酸およびそのエステル類、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、一分子中に2種類以上の官能基を有する樹脂、ポリウレタン系樹脂が挙げられるが、水、アルコールまたは水-アルコール混合物に溶解または分散する樹脂が好ましい。またバリア性を向上させる観点から、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、フッ素系樹脂、アクリル系樹脂、及びポリウレタン系樹脂から選ばれる成分を主成分とすることが好ましく、ポリビニルアルコール系樹脂を主成分とすることがより好ましい。
ポリビニルアルコール系樹脂は、凝集力が高いために水蒸気を遮断する効果が高い。また、ポリビニルアルコール系樹脂は、後述する無機層状化合物との親和性が高いことから、無機層状化合物の分散性が良好である。ポリビニルアルコール系樹脂に無機層状化合物を分散させることにより、水蒸気がガスバリア性コーティング層を通過する際の透過経路を長くすることができる。
【0035】
<ラミネート用延伸フィルムの製造方法>
本発明のラミネート用延伸フィルムは、従来公知の製造方法にて製造することができる。例えば、(1)ポリエチレン系樹脂とエチレン-ビニルアルコール共重合体とを別々の押出機から共押出し、インフレーション共押出法、あるいはTダイ共押出法等により多層フィルムを製造した後、(2)これらを一軸あるいは二軸に延伸すればよい。本発明のラミネート用延伸フィルムは、延伸処理が施されているため、引張強度や弾性率、寸法安定性が高く、また水蒸気や酸素、その他のガス等の透過率が低い。
以下に具体的な延伸フィルムの製法を例示するが、これに限定されるものではない。
1)インフレーション共押法によりチューブ状のフィルムを製膜した後、チューブラー延伸法にて二軸延伸する方法
2)インフレーション共押出法にてチューブ状のフィルムを製膜したのち、これを切り開いてフラットなフィルムにし、ロール延伸法やテンター延伸法等により一軸あるいは二軸に延伸する方法
3)インフレーション共押出法にてチューブ状のフィルムを製膜したのち、これを扁平に折り畳み、ロール延伸法やテンター延伸法等により一軸あるいは二軸に延伸し、両サイドを切断して2枚のフィルムとする方法
4)Tダイ共押出法にてフラットなフィルムを製膜し、これをロール延伸法やテンター延伸法等により一軸あるいは二軸に延伸する方法
【0036】
<ラミネートフィルム>
図3は、本発明のラミネートフィルムの一実施例を表す模式的断面図である。本発明のラミネートフィルム3は、上述したラミネート用延伸フィルム30とシーラントフィルム35とが貼合されてなる。この時、必要に応じ、接着剤36が用いられる。尚、本発明はラミネート用延伸フィルム30とシーラントフィルム35との間に、他のフィルムが積層されることを妨げない。
【0037】
[シーラントフィルム]
本発明のラミネートフィルムでは、シーラントフィルムがポリエチレン系樹脂を主成分とする。シーラントフィルムに占めるポリエチレン系樹脂の重量系樹脂は、シーラントフィルムの85重量%以上であることが好ましく、特に90重量%以上、更には95重量%以上であることが好ましい。シーラントフィルムがポリエチレン系樹脂であると、ラミネート用延伸フィルムだけでなく、シーラントフィルムと貼り合わせた後のラミネートフィルムもリサイクル適性に優れる。具体的には、使用後のラミネートフィルムを、再度、フィルムとしてマテリアルリサイクルすることが可能となる。シーラントフィルムは、ポリエチレン系樹脂の中でも、低密度ポリエチレン及び/又は直鎖状低密度ポリエチレンであることが望ましい。ラミネート用基材フィルムの表層が密度940~955kg/m3のポリエチレンを主成分とする場合、シーラントフィルムが低密度ポリエチレン及び/又は直鎖状低密度ポリエチレンであると、表層の融点とシーラント層の融点との差が大きいため、ヒートシール可能な温度範囲が広くなる。
【0038】
[接着剤]
接着剤36は、従来公知の接着剤を使用することができる。本発明における接着剤は、ドライラミネート用接着剤、アンカーコート剤、プライマー等を包含する。例えば、ポリ酢酸ビニル系接着剤、ポリアクリル酸エステル系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、エチレン共重合体接着剤、セルロース系接着剤、ポリエステル系接着剤、ポリアミド系接着剤、ポリイミド系接着剤、アミノ樹脂系接着剤、フェノール樹脂系接着剤、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、ゴム系接着剤及びシリコーン系接着剤等が挙げられる。
【0039】
<ラミネートフィルムの製造方法>
本発明のラミネートフィルムは、例えば、ラミネート用延伸フィルムの片面にドライラミネート用接着剤を塗布後、接着剤中の溶媒を乾燥除去し、ここにシーラントフィルムを貼り合わせるドライラミネート法により製造することができる。また、ラミネート用延伸フィルムの片面にアンカーコート剤を塗布し、溶媒を乾燥除去した後に、シーラント層用樹脂組成物を溶融押出する押出ラミネート法により製造することができる。また接着剤を用いることなく、ラミネート用延伸フィルム及び/又はシーラントフィルムを熱して、直接貼り合わせる熱ラミネート法により製造することもできる。但し、本発明の製造方法はこれに限定されるものではない。
【0040】
尚、ラミネートフィルムの製造に先立ち、ラミネート用延伸フィルム及び/又はシーラントフィルムの一方に印刷を施すことができる。この場合、印刷の剥がれを防止する為に、印刷面が貼り合わせ面となるように、ラミネート用延伸フィルムとシーラントフィルムとを貼り合わせることが望ましい。また、
図4に示すように、ラミネート用延伸フィルム40の両面にシーラントフィルム45を貼合してもよい。また、ヒートシール適性や水蒸気バリア性を高める目的で、
図5に示すように、シーラントフィルム55の少なくとも一方の面に、密度が940~955kg/m
3のポリエチレンフィルム57を貼合することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明のラミネート用延伸フィルムは、シーラント層と積層することにより、ガスバリア性の高いラミネートフィルムとなる為、外部からの湿気から保護する為の防湿性を必要とする菓子・生活用品・電子部品・医薬品等の包装用途や真空断熱材などの工業用途にも広く用いることができる。
【符号の説明】
【0042】
10、20、30、40、50 ラミネート用延伸フィルム
11、21 表層
12、22 バリア層
23 接着層
24 ガスバリア性コーティング層
3、4、5 ラミネートフィルム
35、45、55 シーラントフィルム
36、56 接着剤
57 ポリエチレンフィルム