(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】画像読取装置及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
H04N 1/00 20060101AFI20240624BHJP
G03G 21/16 20060101ALI20240624BHJP
G03B 27/62 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
H04N1/00 519
G03G21/16 133
G03B27/62
(21)【出願番号】P 2020095017
(22)【出願日】2020-05-29
【審査請求日】2023-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】大竹 潤
【審査官】花田 尚樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-036371(JP,A)
【文献】特開2001-281771(JP,A)
【文献】特開2008-067190(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N 1/00
G03G 13/00
15/00
21/16 -21/18
G03B 27/58 -27/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体に画像を形成する画像形成手段と、
前記画像形成手段の上部に設けられ、前記画像形成手段に対して回動することで開閉可能であり、載置台に載置されたシートの画像を読み取る読取手段と、
前記読取手段の上部に設けられ、前記読取手段に対して回動することで開閉可能であり、前記読取手段に対して閉じることで前記載置台に載置されたシートを押さえる押圧手段と、
前記押圧手段を前記読取手段に対して開く方向に付勢する付勢手段と、
前記読取手段が前記画像形成手段に対して閉じた閉じ位置から、前記読取手段が前記画像形成手段に対して第1の角度だけ回動して開いた規制位置まで回動することを許容し、前記読取手段が前記画像形成手段に対して前記第1の角度を超えて回動することを規制する規制手段と、
を備え、
前記規制手段は、第1部分が前記画像形成手段に固定され、第2部分が前記読取手段に固定された線状部材であり、
前記押圧手段が前記読取手段に対して閉じた状態において、前記閉じ位置と前記規制位置との間のいずれの位置に前記読取手段が位置しても、前記押圧手段は前記付勢手段による力のみでは前記読取手段に対して開かないことを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記読取手段の前記画像形成手段に対する回動の角度であって、前記付勢手段による力のみによって前記押圧手段が前記読取手段に対して開く最小角度である第2の角度より、前記第1の角度は小さいことを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記押圧手段が前記読取手段に対して閉じた状態において、前記読取手段が前記閉じ位置から開く方向に回動することに伴って、前記押圧手段の自重による前記押圧手段が閉じる方向へのトルクが小さくなるように、前記押圧手段及び前記読取手段は配置され、
前記第2の角度は、前記押圧手段の自重による前記押圧手段が閉じる方向へのトルクの大きさと、前記付勢手段による前記押圧手段が開く方向へのトルクの大きさが等しくなる角度であることを特徴とする請求項2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記第1部分は、前記線状部材の一方側の端部である第1端部であり、
前記第1端部は、前記画像形成手段の第1固定部に固定されており、
前記第2部分は、前記線状部材の前記第1端部とは反対側の端部である第2端部であり、
前記第2端部は、前記読取手段の第2固定部に固定されており、
前記読取手段が前記規制位置にあるときの前記第1固定部と前記第2固定部との距離は、前記線状部材の長さと略同一であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記読取手段は、第1軸線を中心として回動し、
前記押圧手段は、前記第1軸線に垂直な方向に延びる第2軸線を中心に回動することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記押圧手段は、
シートが載置される第1載置部と、
前記第1
載置部に積載されたシートを前記読取手段に搬送する搬送部と、
前記搬送部により搬送されたシートが排出される第2載置部と、
を有するシート搬送装置であり、
前記読取手段は、前記搬送部により搬送されるシートの画像を読み取ることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項7】
前記押圧手段を前記読取手段に対して回動自在に支持するヒンジ部を備え、
前記ヒンジ部は、前記付勢手段と、前記押圧手段が前記読取手段に対して回動するための回動軸と、を有していることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項8】
前記読取手段が前記画像形成手段に対して開いた状態を保持する保持手段を有することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項9】
前記保持手段は、棒状部材であり、
前記画像形成
手段は、前記棒状部材の一端を回動可能に支持する支持部を有し、
前記読取手段は、前記棒状部材の前記一端とは反対側に位置する他端と係合する係合部を有することを特徴とする請求項8に記載の画像形成装置。
【請求項10】
前記線状部材は、前記棒状部材よりも長いことを特徴とする請求項9に記載の画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートから画像情報を読み取る画像読取装置、及び、シートに画像を形成する画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、複写機やファクシミリ等の画像形成装置においては、原稿画像を光学的に読み取る画像読取装置を備えたものがある。このような画像読取装置としては、ピックアップローラにより積載トレイから分離部に原稿を送り込み、分離部で原稿を捌いて1枚ずつ搬送する構成の自動原稿搬送装置(ADF)を有するものがある。
【0003】
ADFは、原稿台ガラスや画像読取ユニット等を有する画像読取装置本体(以下、スキャナ部という)の上面に、スキャナ部に対して上方に開閉可能に支持されている。ADFは種々のローラやモータ等の部品を多数内蔵しているため、数kgから数10kgの重さとなっている。高重量のADFの開閉操作は容易でないことから、画像読取装置においては、ヒンジ等の開閉機構によりADFの開閉を補助するように構成するのが一般的である。
【0004】
さらに、画像形成装置本体に収容される画像形成部のメンテナンスのため、スキャナ部は画像形成装置本体の上部に対して開閉可能に設けられる場合がある。スキャナ部とADFが同方向に開く構成であれば、ADFを開いた状態でスキャナ部を開くと、画像形成装置本体に対してADFが大きく開くため、画像形成装置の周囲に大きなスペースを必要とする。
【0005】
特許文献1には、画像形成装置本体の上部にスキャナ部及びADFを備える構成において、下側に位置するスキャナ部を開いても、その上側に位置するADFが大きく開くことを防止する構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のスキャナ部とADFがそれぞれ回動することで開閉可能である構成において、スキャナ部が閉じられた状態では、ADFの自重によるトルクがADFの開閉補助のための開閉機構によるトルクより大きい。そのため、ADFは安定して閉じられた状態となっている。しかし、スキャナ部がある角度まで開かれた状態では、ADFの自重によるトルクがADFの開閉補助のための開閉機構によるトルクより小さくなる場合がある。このとき、スキャナ部を大きく回動させることによって、ユーザが意図せずにADFが開いてしまうという課題があった。そのため、スキャナ部が必要以上に回動することを規制する必要がある。
【0008】
このとき、スキャナ部が回動を規制される位置がユーザから認識しにくい場合、ユーザが必要以上にスキャナ部を回動させようとしてしまう虞がある。
【0009】
そこで本発明は、スキャナ部を開いた状態において、ユーザが意図せずにADFが開いてしまうことを抑えることが可能であり、スキャナ部の回動が規制される位置が認識しやすい画像読取装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明に係る画像形成装置は、記録媒体に画像を形成する画像形成手段前記画像形成手段の上部に設けられ、前記画像形成手段に対して回動することで開閉可能であり、載置台に載置されたシートの画像を読み取る読取手段と、前記読取手段の上部に設けられ、前記読取手段に対して回動することで開閉可能であり、前記読取手段に対して閉じることで前記載置台に載置されたシートを押さえる押圧手段と、前記押圧手段を前記読取手段に対して開く方向に付勢する付勢手段と、前記読取手段が前記画像形成手段に対して閉じた閉じ位置から、前記読取手段が前記画像形成手段に対して第1の角度だけ回動して開いた規制位置まで回動することを許容し、前記読取手段が前記画像形成手段に対して前記第1の角度を超えて回動することを規制する規制手段と、を備え、前記規制手段は、第1部分が前記画像形成手段に固定され、第2部分が前記読取手段に固定された線状部材であり、前記押圧手段が前記読取手段に対して閉じた状態において、前記閉じ位置と前記規制位置との間のいずれの位置に前記読取手段が位置しても、前記押圧手段は前記付勢手段による力のみでは前記読取手段に対して開かないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、読取手段を開いた状態において、ユーザが意図せずに押圧手段が開いてしまうことを抑えることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図3】ADFが開いた状態の画像読取装置を示す概略図。
【
図4】画像読取装置に設けられたヒンジ部の断面図。
【
図5】ADF開閉時のヒンジ回動軸周りのトルク線図。
【
図6】スキャナ部が開いた状態のプリンタを示す概略図。
【
図7】ADFの自重トルクとヒンジトルクとの関係を示す、(a)はスキャナ部が閉じた状態の図、(b)は本スキャナ部が開いた状態の図。
【
図8】スキャナ部が開いた状態のADF自重トルク線図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための例示的な形態について、図面を参照しながら説明する。
【0014】
[第1の実施形態]
(プリンタ101の構成)
まず、本実施形態の画像形成装置であるプリンタ101の概略構成について
図1を参照しながら説明する。
図1は本実施形態に係るプリンタ101の概略構成を示す断面図である。プリンタ101は、
図1に示すように、画像形成手段であるプリンタ本体101Aと、画像読取装置103と、を備えている。プリンタ本体101Aの上方に配置された画像読取装置103は、スキャナ部30(読取手段)とADF1(シート搬送装置)とを備え、原稿Dを光学的に走査して画像情報を読み取る。「ADF」は自動原稿給送装置(Auto Document Feeder)を表す。原稿Dとは、用紙及び封筒等の紙、オーバーヘッドプロジェクタ用シート等のプラスチックフィルム、布などのシートである。画像読取装置103によって電気信号に変換された画像情報は、プリンタ本体101Aに設けられた制御部132へと転送される。
【0015】
プリンタ本体101Aは、記録媒体であるシートPに画像を形成する画像形成部133と、画像形成部133にシートPを給送するシート給送部134と、を有している。シート給送部134は、互いに異なるサイズのシートを収納可能なシート収納部137a、137b、137c、137dを備えている。各シート収納部に収納されたシートは、ピックアップローラ112によって繰り出され、フィードローラ113a及びリタードローラ113bによって1枚ずつ分離されて、対応する搬送ローラ対131へと受け渡される。そして、シートPは、シート搬送路に沿って配置された複数の搬送ローラ対131に順に受け渡されることで、レジストレーションローラ対136へと搬送される。
【0016】
なお、ユーザによって手差しトレイ137eに載置されたシートPは、給送ローラ138によってプリンタ本体101Aの内部に給送され、レジストレーションローラ対136へと搬送される。レジストレーションローラ対136は、シートPの先端を停止させて斜行を補正する。さらにレジストレーションローラ対136は、画像形成部133によるトナー像の形成プロセスである作像動作の進行に合わせてシートPの搬送を再開する。
【0017】
シートPに画像を形成する画像形成部133は、感光体である感光ドラム121を備えた電子写真方式の画像形成ユニットである。感光ドラム121は、シートPの搬送方向に沿って回転可能であり、感光ドラム121の周囲には帯電器118、露光装置123、現像器124、転写帯電器125、分離帯電器126、及びクリーナ127が配置されている。帯電器118は感光ドラム121の表面を一様に帯電させる。露光装置123は画像読取装置103等から入力される画像情報に基づいて感光ドラム121を露光し、ドラム上に静電潜像を形成する。
【0018】
現像器124は、トナーを含む現像剤を収容しており、感光ドラム121に帯電したトナーを供給することで静電潜像をトナー像に現像する。感光ドラム121に担持されたトナー像は、転写帯電器125が形成するバイアス電界により、レジストレーションローラ対136から搬送されるシートPに転写される。トナー像を転写されたシートPは、分離帯電器126が形成するバイアス電界によって感光ドラム121から離間し、定着前搬送部128によって定着部129へ向けて搬送される。なお、シートPに転写されずに感光ドラム121に残留した転写残トナー等の付着物はクリーナ127によって除去され、感光ドラム121は次の作像動作に備える。
【0019】
定着部129に搬送されたシートPは、ローラ対に挟持されて搬送されながら、トナー像の加圧及び加熱を含む定着処理を受ける。これによってトナーが溶融し、その後固着することにより、シートPに画像が定着する。画像出力が完了している場合、定着画像が得られたシートPは、排出ローラ対116を介して、プリンタ本体101Aの外方に突出した排出トレイ130に排出される。両面印刷においてシートPの裏面に画像を形成する場合、定着部129を通過したシートPは、反転部139によって表面と裏面とを入れ替えられ、両面搬送部140によってレジストレーションローラ対136へと搬送される。そして、画像形成部133によって再び画像を形成されたシートPは、排出トレイ130に排出される。
【0020】
上記のプリンタ本体101Aは画像形成手段の一例であり、例えばインクジェット方式の画像形成ユニットやオフセット印刷方式の印刷機構を画像形成手段として用いても良い。また、本実施形態において画像形成手段として1つの筐体に画像形成部およびシート収納部が入っているプリンタ101Aを例示したが、本発明はこれに限るものではない。例えば、画像形成部、シート収納部がそれぞれ別の筐体に入っており、それぞれの筐体のシート搬送路が接続されている構成のプリンタにおいても本発明は適用可能である。この場合、シートの給送から排出までの工程を行うプリンタ全体を画像形成手段とする。
【0021】
(画像読取装置の構成)
次に、
図1から
図5を参照して、画像読取装置103の構成を説明する。
図1に示すように、スキャナ部30はプリンタ本体101Aの上部に設けられ、ADF1はスキャナ部30の上部に設けられている。ADF1は、原稿給送トレイ2(第1載置部)に載置された原稿Dを搬送部4によって原稿排出トレイ3(第2載置部)に向けて搬送する。スキャナ部30は、プリンタ本体101Aに対して回動することで開閉可能であるように支持されている。また、ADF1は、スキャナ部30に対して回動することで開閉可能であるように支持されている。
【0022】
図2はプリンタ本体101Aの上部に配置されたスキャナ部30の概略構成を示す図である。
図2に示すように、スキャナ部30は、外装部材を兼ねるフレーム30aを有している。フレーム30aの上面には原稿台ガラス31及びプラテンガラス31aが配置されている。原稿台ガラス31は本実施形態の載置台である。フレーム30aの内部には、スキャナユニット50が保持されている。スキャナユニット50は、モータによって駆動される不図示のワイヤ又はベルトによって、原稿台ガラス31に対して平行(
図2に示す矢印の方向)に移動可能に構成されている。
【0023】
画像読取装置103は、「流し読みモード」と「固定読みモード」の二つのモードで原稿Dの画像を読み取る。流し読みモードはADF1により原稿Dを搬送しながら原稿の画像を走査するモードであり、固定読みモードは原稿台ガラス31に載置された原稿Dを走査するモードである。
【0024】
流し読みモードは、原稿給送トレイ2に載置された原稿Dを装置が検出した場合、又はプリンタ本体101Aの操作パネル等によってユーザが明示的に指示した場合に選択される。流し読みモードの場合には、スキャナユニット50がプラテンガラス31aの下方にある状態で、ADF1が原稿給送トレイ2に載置された原稿Dを搬送部4によって1枚ずつ給送する。そして、スキャナユニット50は搬送部4により搬送される原稿Dから画像情報を読み取る。スキャナユニット50により画像を読み取られた原稿Dは、原稿排出トレイ3に排出される。即ち、流し読みモードでは、位置が固定されたスキャナユニット50に対して原稿Dが副走査方向に搬送されることで原稿Dが走査される。ここで、本実施形態における副走査方向とは、スキャナユニット50が備える複数の受光素子が配列された方向である主走査方向に垂直な方向である。
【0025】
一方、固定読みモードは、原稿台ガラス31に載置された原稿Dを装置が検出した場合、又はプリンタ本体101Aの操作パネル等によってユーザが明示的に指示した場合に選択される。固定読みモードの場合には、ユーザは、まずADF1を開いて原稿台ガラス31に原稿Dを載置し、ADF1を閉じることで原稿Dを原稿台ガラス31に位置決めする。つまり、本実施形態においてADF1は、原稿台ガラス31に載置された原稿Dを押さえる押圧手段である。そして、スキャナユニット50が、原稿台ガラス31に沿って移動しながら、原稿台ガラス31に載置された原稿Dから画像情報を読み取る。即ち、固定読みモードでは、位置が固定された原稿に対してスキャナユニット50が副走査方向に移動しながら原稿Dを走査する。
【0026】
なお、スキャナユニット50は、流し読みモード又は固定読みモードの一方のみを実行可能な画像読取装置に搭載しても良い。また、ADF1の内部にスキャナユニット50を追加で配置して、ADF1が搬送する原稿の両面から2つのスキャナユニットによって画像情報を読み取るようにしても良い。この場合、スキャナ部30が原稿Dの第1面の画像を読み取り、ADF1が原稿Dの第1面とは反対側の第2面の画像を読み取る。
【0027】
図3は、ADF1がスキャナ部30に対して開いた状態を示す、画像読取装置103の斜視図である。
図3において、スキャナ部30の回動中心である第1軸線A及びADF1の回動中心である第2軸線Bは破線で表されている。
図3に示すように、ADF1は、装置手前側が持ち上がるようにして第2軸線Bを中心に回動する。ADF1の回動中心である第2軸線Bは、スキャナ部30の回動中心である第1軸線Aに対して垂直な方向に延びている。つまり、スキャナ部30とADF1はそれぞれ異なる方向に回動する。固定読みモードの場合は、ユーザはADF1を上方に回動させ、原稿台ガラス31上に原稿Dを載置する。スキャナ部30の奥側端部にはヒンジ部40が設けられており、このヒンジ部40により、ADF1はスキャナ部30に対して回動自在に支持される。
【0028】
図4は、ヒンジ部40の概略構成を示す断面図である。
図4に示すように、ヒンジ部40は、ヒンジ回動軸41を有し、ADF1はスキャナ部30に対して、ヒンジ回動軸41を中心として回動する。また、ヒンジ部40は、その内部に付勢手段であるヒンジバネA42及びヒンジバネB43を有している。このヒンジバネA42及びヒンジバネB43は、ADF1をスキャナ部30に対して開く方向に回動させるヒンジトルクを発生させる。ここで、ヒンジバネA42及びヒンジバネB43のバネ力や、その組み合わせにより、ユーザがADF1をスキャナ部30に対して開く際の操作性に影響を及ぼすヒンジトルクの調整が可能である。
【0029】
図5は、スキャナ部30がプリンタ本体101Aに対して閉じた状態(スキャナ部30の開閉角φが0度の状態)における、ADF1の開閉角θとADF1の自重によるトルク及びヒンジ部40によるトルクの関係を示す図である。
図5において、実線はADFの自重によるトルク、破線はヒンジ部40によるヒンジトルクを表している。本実施形態におけるヒンジ調整例では、ADF1の開閉角θが20°未満の範囲においては、ADF1の自重によるADF1が閉じる方向のトルクの方が、ヒンジトルクより大きくなるように調整されている。このため、ADF1の開閉角θが20°未満の場合にはADF1は自重で閉じる。ADF1が閉じた状態の時(ADF1の開閉角θが0°)、ADF1の自重トルクが約2800N・cmであるのに対して、ヒンジトルクが約2000N・cmである。そのため、ADF1の自重トルクがヒンジトルクに勝り、ADF1は安定して閉じられている。
【0030】
一方で、開閉角θが20°以上の範囲においては、ADF1の自重トルクはヒンジトルクより小さくなる。しかしながら、ADF1の自重トルクと、開閉角θが20°以上となった際に発生するヒンジ部40内部の摩擦による負荷トルク(不図示)との総和が、ヒンジトルクと釣り合うようにヒンジ部40は調整されている。このため、ADF1はその開閉角θを維持して静止することが可能であり、その際に外力による支えは不要である。従って、ユーザは、固定読みのために原稿台ガラス31上に原稿Dを載置する際に、開閉角θが20°以上になるようADF1を開放した場合、ADF1から手を放して原稿Dを載置することが可能である。
【0031】
(スキャナ部30の回動)
次に、
図6から
図8を参照して、スキャナ部30の回動構成を説明する。スキャナ部30がプリンタ本体101Aに対して開いた状態を
図6に示す。
図6においても
図3と同様に、スキャナ部30の回動中心である第1軸線Aは破線で表されている。さらに、
図6においてスキャナ部30のワイヤ36(後述する
図10参照)は省略している。
図6に示すように、スキャナ部30はプリンタ本体101Aに対して、手前側から見て装置左側が持ち上がるように第1軸線Aを中心に回動する。スキャナ部30を開閉可能にする目的は、画像形成部133のメンテナンス性向上である。スキャナ部30を開放することで、プリンタ本体天板150の取り外しが可能となり、プリンタ本体天板150直下に配置されている画像形成部133へのアクセスが容易となる。
【0032】
また、メンテナンス時にスキャナ部30を開いた状態で保持するための保持手段である支持ロッド170がプリンタ本体101Aに設けられている。支持ロッド170は、その一端をプリンタ本体101Aに設けられるロッド支持部180により回動可能に支持される。そして、スキャナ部30がプリンタ本体101Aに対して開いた際には、支持ロッド170を立ち上げ、その他端をスキャナ部30に設けられたロッド係合部33に係合させる。これにより、スキャナ部30を開いた状態で保持することが可能となる。また、スキャナ部30がプリンタ本体101Aに対して閉じられた状態の時、支持ロッド170は水平に倒れた状態でスキャナ部30とプリンタ本体101Aの間に保持されている。
【0033】
図7は、スキャナ部30がプリンタ本体101Aに対して閉じた状態の時のADF1の自重によるトルクをG、ADF1を上方に回動させるヒンジトルクをTとして示した図である。ここで、
図7(a)はスキャナ部30がプリンタ本体101Aに対して閉じた状態を示し、
図7(b)はスキャナ部30がプリンタ部本体101Aに対して開閉角φで開いている状態を示している。ただし、
図7においては、分かりやすくするために第2軸線Bまわりのトルクを表す矢印の向きは、トルクを生じさせる力の向きと同様に示している。
図7(a)に示すように、スキャナ部30がプリンタ部101Aに対して閉じた状態の時、ヒンジトルクTに対抗するトルクはADF1の自重によるトルクの全成分であるGとなる。
【0034】
しかし、
図7(b)に示すように、スキャナ部30がプリンタ本体101Aに対して開閉角φで開いている時は、ヒンジトルクTに対抗するトルク(以下、対抗トルクと呼ぶ)は、ADF1に働く重力の分力によるトルクであるGcosφとなる。そのため、スキャナ部30の開閉角φが大きくなるにつれて、対抗トルクGcosφは小さくなる。一方で、ADF1を開く方向に回動させるヒンジトルクTは、スキャナ部30の開閉状態により変化しない。
【0035】
ADF1がスキャナ部30に対して閉じた状態における、スキャナ部30の開閉角φに対応する対抗トルクGcosφを
図8に示す。
図8に示すように、スキャナ部30の開閉角φが大きくなるにつれて、対抗トルクGcosφは小さくなるが、ヒンジトルクTは一定の値である。ADF1の開閉角θが0°、スキャナ部30の開閉角φが30°である時、ヒンジトルクが約2000N・cmであるのに対して、ADF1の自重による対抗トルクは約2400N・cmである。この場合、ADF1の自重による対抗トルクがヒンジトルクより大きいため、ADF1は閉じた状態で安定する。つまり、スキャナ部30がプリンタ本体101Aに対して30°開いた状態では、ヒンジ部40のヒンジバネA42及びヒンジバネB43による力のみでADF1が開いてしまうことはない。同様に、スキャナ部30の開閉角φが44.4°以下の範囲(
図8に示す矢印の範囲)においては、ヒンジバネA42及びヒンジバネB43による力のみでADF1は開かない。
【0036】
本実施形態において、スキャナ部30は後述する規制手段によりプリンタ本体101Aに対して30°(第1の角度)を超えて回動することができないように構成されている。しかし、仮に規制手段がない構成の場合、スキャナ部30がプリンタ本体101Aに対して44.4°(第2の角度)以上回動して開くことによって、ヒンジトルクがADF1の自重による対抗トルクを上回る。この時、ADF1はヒンジバネA42及びヒンジバネB43による力のみによってスキャナ部30に対して開いてしまう。例えば、ADF1の開閉角θが0°、スキャナ部30の開閉角φが50°である時、ヒンジトルクが約2000N・cmであるのに対して、ADF1の自重による対抗トルクは約1800N・cmである。この場合、ADF1の自重による対抗トルクがヒンジトルクを下回るため、ADF1はスキャナ部30に対して開く。これは、ユーザが意図せずとも発生するため、勝手に開いたADF1が周囲物と衝突する等、不慮の事象が発生するリスクとなる。これを防止するため、本実施形態ではスキャナ部30の規制手段により回動規制を行う。
【0037】
(スキャナ部30の回動規制)
次に、
図9を参照して、スキャナ部30の回動規制構成を説明する。
図9は、本実施形態におけるスキャナ部30がプリンタ本体101Aに対して開いた状態を示す図である。スキャナ部30の回動規制を行う規制手段の第1の実施例としてプリンタ101は線状部材であるワイヤ36を備えている。
【0038】
図9に示すように、スキャナ部30とプリンタ本体101Aはワイヤ36で連結されている。ワイヤ36は両端部に、貫通穴を有する固定部材36a、36bを有している。ワイヤ36の固定部材36aを有する一方側の端部(第1部分)は、貫通穴を介して固定部材36aがねじ止めされることによって、プリンタ本体101Aの第1固定部37に固定されている。同様に、ワイヤ36の固定部材36bを有する端部(第2部分)は、スキャナ部30の第2固定部38に固定されている。また、スキャナ部30がプリンタ本体101Aに対して第1の角度まで回動したとき、第1固定部37と第2固定部38との間の距離はワイヤ36の長さと略同一である。これにより、スキャナ部30が第1の角度(本実施形態では30°)を超えて回動するとき、ワイヤ36がスキャナ部30を閉まる方向に引っ張ることで、スキャナ部30が第1の角度以上に回動しないようにする。さらに、支持ロッド170を立ち上げ、スキャナ部30に設けられたロッド係合部33に係合させるために、スキャナ部30は支持ロッド170の長さよりも大きく開く必要がある。そのため、ワイヤ36の長さは支持ロッド170の長さよりも長い。
【0039】
上記のように、仮に規制手段であるワイヤ36がない構成の場合、スキャナ部30が約44.4°以上に回動すると、ADF1の自重による対抗トルクがヒンジトルクを下回るため、ADF1が開いてしまう。しかし、本実施形態ではスキャナ部30はワイヤ36が回動を規制することにより、プリンタ本体101Aに対して30°以上は回動しない構成となっている。スキャナ部30が閉じた位置(閉じ位置)と30°回動した位置(規制位置)との間のいずれの位置にある場合でも、ADF1はヒンジバネA42及びヒンジバネB43による力のみによって開かない。そのため、ADF1が勝手に開くことを防止できる。また、規制手段であるワイヤ36が視認性の高い位置に固定されているため、スキャナ部30の回動が規制される位置が認識しやすい。これにより、ユーザがスキャナ部を回動させる際に、必要以上に回動させようとすることを防ぐことができる。
【0040】
本実施形態において、ワイヤ36がスキャナ部30の回動を規制する所定の第1の角度は30°としているが、本発明はこれに限らない。この第1の角度は、ADF1が付勢手段による力のみによって開く最小角度である第2の角度(本実施形態では44.4°)より小さい角度であればよい。つまり、第1の角度は、
図8に示すスキャナ部の回動規制をなす所定の角度の設定範囲(
図8に示す矢印の範囲)内の角度であればよい。また、この第2の角度はヒンジトルクとADF1の自重による対抗トルクの大きさが等しくなるときの角度である。そのため、本実施形態において第2の角度は44.4°としているが、付勢手段であるヒンジバネA42及びヒンジバネB43のバネ力や、その組み合わせにより、第2の角度は任意に調整することが可能である。
【0041】
スキャナ部30を開いてプリンタ本体101Aのメンテナンスを行う場合、スキャナ部30ができるだけ大きく開いている方が作業は容易である。即ち、スキャナ部30の回動規制をなす所定の第1の角度は、ADF1がヒンジトルクにより勝手に開くことのない角度の範囲(スキャナ部30の開閉角φが44.4°未満)で、可能な限り大きくすることが望ましい。
【0042】
本実施形態において、ワイヤ36のプリンタ本体101A及びスキャナ部30に固定されている第1部分及び第2部分はワイヤ36の両端部である。しかし、第1部分及び第2部分はワイヤ36の両端部でなくても良く、スキャナ部30の回動が規制される第1の角度を調整するために、ワイヤ36の端部以外の場所を固定しても良い。この構成の場合、ワイヤ36の回動規制に寄与する部分の長さを調節することができる調節機構を第1部分又は第2部分に設けることができる。
【0043】
以上、スキャナ部30の回動規制を行う規制手段の第1の実施例としてワイヤ36を挙げた。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、スキャナ部30が所定の第1角度を超えて回動する時にスキャナ部30を引っ張ることで、スキャナ部30の回動を規制する線状部材を備えていれば良い。ここで、線状部材とは、ワイヤ36のような紐状の部材や剛性のある棒状部材を含む。例えば、ワイヤ36の代わりに剛性のある棒状部材を用いた場合、スキャナ部30の回動に伴って棒状部材を導くガイド部材もしくはレール部材を設ける構成が望ましい。また、既述した支持ロッド170に、上記の回動規制の機能を持たせる構成も可能である。
【0044】
[第2の実施形態]
本実施形態においては、
図10を参照して、スキャナ部30の回動規制を行う規制手段の別の一例について説明する。第1の実施形態では、スキャナ部30の回動規制を行う規制手段として線状部材であるワイヤ36を備えた構成を示した。それに対して、本実施形態ではスキャナ部30の回動規制を行う規制手段として、
図10に示す当接部34aを用いる。
【0045】
図10は、スキャナ部30のプリンタ本体101Aに対する回動が、当接部34aにより規制されている状態を示す図である。また、
図10ではスキャナ部30の回動に関する部分を拡大図として示している。スキャナ部30の右側面には回動支持軸32を備えた側面ステイ34が取り付けられ、プリンタ本体101Aには回動支持部160が設けられる。
図10に示すように、この回動支持軸32及び回動支持部160は、装置の手前側と奥側の2か所に設けられている。スキャナ部30は回動支持軸32を介して回動支持部160に支持されており、回動支持軸32周りに回動可能である。また、回動支持軸32の浮き上がりを抑えるために軸押さえ部35が回動支持部160に取り付けられる。
【0046】
スキャナ部30の回動規制を行う規制手段の第2の実施例として、側面ステイ34は当接部34aを備える。
図10に示すように、当接部34aは、装置手前側の回動支持軸32と装置奥側の回動支持軸32との間に設けられている。スキャナ部30が所定の第1の角度(本実施形態では30°)まで回動した時、当接部34aがプリンタ本体101Aに突き当たることで、スキャナ部30は第1の角度以上に回動することができない。即ち、当接部34aはスキャナ部30がプリンタ本体101Aに対して閉じた閉じ位置から、第1の角度だけ回動した規制位置まで回動することを許容する一方で、第1の角度を超えて回動することを規制する。
【0047】
[実施形態まとめ]
以上説明したように、第1の実施形態及び第2の実施形態によれば、スキャナ部がプリンタ本体に対して開いた時における、ユーザが意図せずにADFが開いてしまうことの発生を抑えることができる。なお、本発明は上述した実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能である。スキャナ部が所定の第1の角度まで回動した時に、それ以上の回動をできないようにする働きをもつ部材を備えれば、同様の効果を得ることができる。ここで、所定の第1の角度は、ADF1が勝手に開くことを防止可能、かつ、画像形成装置のメンテナンス性を阻害しない角度であり、ADF重量、ヒンジトルク調整、画像形成装置のメンテナンス性等を鑑みて設定される。
【符号の説明】
【0048】
1 ADF
30 スキャナ部
31 原稿台ガラス
34a 当接部
36 ワイヤ
40 ヒンジ部
42 ヒンジバネA
43 ヒンジバネB
50 スキャナユニット
101 プリンタ
101A プリンタ本体
103 画像読取装置
133 画像形成部