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特許7508276移動体用樹脂複合構造材及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】移動体用樹脂複合構造材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/06 20060101AFI20240624BHJP
   B29C 70/46 20060101ALI20240624BHJP
   D21H 11/18 20060101ALI20240624BHJP
   D21H 17/25 20060101ALI20240624BHJP
   B29B 11/16 20060101ALI20240624BHJP
   B29K 105/12 20060101ALN20240624BHJP
【FI】
B29C70/06
B29C70/46
D21H11/18
D21H17/25
B29B11/16
B29K105:12
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020095866
(22)【出願日】2020-06-02
(65)【公開番号】P2021187091
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000116404
【氏名又は名称】阿波製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104949
【弁理士】
【氏名又は名称】豊栖 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100074354
【弁理士】
【氏名又は名称】豊栖 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100214145
【弁理士】
【氏名又は名称】藤原 尚恵
(72)【発明者】
【氏名】手塚 祥貴
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 歩美
(72)【発明者】
【氏名】西川 諒平
【審査官】今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-095831(JP,A)
【文献】特開2015-017184(JP,A)
【文献】特開平07-165950(JP,A)
【文献】特開2020-059932(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/06
B29C 70/46
D21H 11/18
D21H 17/25
B29B 11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然繊維よりなる微細化されていないセルロース繊維と、
微細化された繊維状の微細繊維状セルロースと
を用いたシート状原紙と、
前記シート状原紙に含浸されたマトリックス樹脂と、
を備え、
引張弾性率が3GPa以上30GPa以下であり、
前記シート状原紙に含まれる前記セルロース繊維が、前記微細繊維状セルロースよりも多い移動体用樹脂複合構造材。
【請求項2】
請求項1に記載の移動体用樹脂複合構造材であって、
前記セルロース繊維が、未叩解の繊維である移動体用樹脂複合構造材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の移動体用樹脂複合構造材であって、
前記シート状原紙の透気抵抗度が、5sec/100ml以下である移動体用樹脂複合構造材。
【請求項4】
請求項1~のいずれか一項に記載の移動体用樹脂複合構造材であって、
前記マトリックス樹脂が、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂のいずれかの熱硬化性樹脂である移動体用樹脂複合構造材。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載の移動体用樹脂複合構造材であって、
前記マトリックス樹脂が、スチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルファイド樹脂、ポリアセタール樹脂、アクリル系樹脂、塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂及びポリオレフィン系樹脂のいずれかの熱可塑性樹脂である移動体用樹脂複合構造材。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項に記載の移動体用樹脂複合構造材であって、
前記シート状原紙が、湿熱接着性バインダ繊維を含まない移動体用樹脂複合構造材。
【請求項7】
天然繊維よりなる微細化されていないセルロース繊維と、
微細化された繊維状の微細繊維状セルロースと
を用いたシート状原紙と、
前記シート状原紙に含浸されたマトリックス樹脂と、
を備える移動体用樹脂複合構造材であって、
引張弾性率が3GPa以上30GPa以下であり、
前記シート状原紙が、湿熱接着性バインダ繊維を含んでなる移動体用樹脂複合構造材。
【請求項8】
請求項に記載の移動体用樹脂複合構造材であって、
前記湿熱接着性バインダ繊維が、熱と水分に反応して自己接着又は他の繊維に接着可能な熱可塑性繊維である移動体用樹脂複合構造材。
【請求項9】
請求項又はに記載の移動体用樹脂複合構造材であって、
前記湿熱接着性バインダ繊維が、ポリビニル系繊維、セルロース系繊維、又は変性ビニル系共重合体からなる繊維のいずれかである移動体用樹脂複合構造材。
【請求項10】
請求項1~のいずれか一項に記載の移動体用樹脂複合構造材であって、
前記シート状原紙が、単層である移動体用樹脂複合構造材。
【請求項11】
請求項1~のいずれか一項に記載の移動体用樹脂複合構造材であって、
前記シート状原紙が、複数層積層されてなる移動体用樹脂複合構造材。
【請求項12】
天然繊維よりなる微細化されていないセルロース繊維と、
微細化された繊維状の微細繊維状セルロースと
を用いたシート状原紙と、
前記シート状原紙に含浸されたマトリックス樹脂と、
を備える移動体用樹脂複合構造材であって、
引張弾性率が3GPa以上30GPa以下であり、
前記シート状原紙が、複数層積層されており、
前記シート状原紙同士の間に介在された、前記シート状原紙よりも坪量/厚さの式で計算される見掛け密度の低い第二シート材を備えてなる移動体用樹脂複合構造材。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の移動体用樹脂複合構造材であって、
前記微細繊維状セルロースを、3%以上15%未満含んでなる移動体用樹脂複合構造材。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の移動体用樹脂複合構造材であって、
前記セルロース繊維が、スラリー状態で重量平均繊維長が2mm以上7mm未満である移動体用樹脂複合構造材。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか一項に記載の移動体用樹脂複合構造材であって、
前記微細繊維状セルロースが、スラリー状態で平均繊維径が0.004μm以上0.500μm未満である移動体用樹脂複合構造材。
【請求項16】
移動体用樹脂複合構造材の製造方法であって、
湿式抄紙法により作製された、セルロース繊維、及び微細繊維状セルロースを含むシート状原紙を準備する工程と、
前記シート状原紙に、マトリックスとなるマトリックス樹脂を含浸させる工程と、
前記樹脂含浸したシート状原紙を、単層又は複数層を積層させたものを熱圧成形する工程と、
を含み、
前記シート状原紙を準備する工程が、前記セルロース繊維、微細繊維状セルロースに加えて、湿熱接着性バインダ繊維を含む移動体用樹脂複合構造材の製造方法。
【請求項17】
請求項16に記載の移動体用樹脂複合構造材の製造方法であって、
前記熱圧成形工程が、成形用の型を閉じて、樹脂に圧力を印加して充填する工程を含む移動体用樹脂複合構造材の製造方法。
【請求項18】
移動体用樹脂複合構造材の製造方法であって、
湿式抄紙法により作製された、セルロース繊維、及び微細繊維状セルロースを含むシート状原紙を準備する工程と、
前記シート状原紙に、マトリックスとなるマトリックス樹脂を含浸させる工程と、
前記樹脂含浸したシート状原紙を、単層又は複数層を積層させたものを熱圧成形する工程と、
を含み、
前記樹脂含浸したシート状原紙を熱圧成形する工程が、
前記シート状原紙を複数層、前記シート状原紙同士の間に該シート状原紙よりも見掛け密度の低い第二シート材を介在させて積層したものに対して熱圧成形する工程である移動体用樹脂複合構造材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、移動体用樹脂複合構造材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車や電車、航空機などの移動体の軽量化の観点から、樹脂材料を繊維で補強したFRPが注目されている。近年では、ライフサイクルアセスメント(LCA)の意識の高まりから、強化繊維としてセルロースを積極的に使用することが望まれている。セルロースはパルプ等に含まれており、このようなセルロースを用いた繊維強化樹脂シートは、CO2排出量の削減を図り環境に優しい材質として、利用分野の拡大が期待されている。例えばNEDOや環境省の進めるプロジェクトNCV(ナノセルロースビークル)等でも研究が進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許4306373号公報
【文献】特開2004-143401号公報
【文献】特許6639203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなセルロースを用いた繊維強化樹脂シート、例えばセルロース強化プラスチックは、セルロース繊維基材に樹脂を含浸して作製される。このセルロース強化プラスチックの作製には、均一性の観点から、高度に叩解したパルプ紙が用いられることが多かった。
【0005】
しかしながら、高叩解パルプ紙は原紙作製時の濾水性が悪く、さらに樹脂の含浸速度が遅いため生産性が悪いという問題があった。すなわち、繊維の間にエポキシ樹脂などのマトリックス樹脂を含浸させて補強する構成となっているものの、高叩解したパルプは緻密であるため、溶融させた樹脂を含浸させても樹脂が入り込む隙間が殆どなく、樹脂を殆ど吸わないため、浸透圧を高めたり、時間がかかるという問題があった。
【0006】
本発明は、このような背景に鑑みてなされたものであり、その目的の一は、生産性を高めた移動体用樹脂複合構造材及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0007】
本発明の第1の形態に係る移動体用樹脂複合構造材によれば、天然繊維よりなる微細化されていないセルロース繊維と、微細化された繊維状の微細繊維状セルロースとを用いたシート状原紙と、前記シート状原紙に含浸されたマトリックス樹脂とを備え、引張弾性率が3GPa以上30GPa以下であり、前記シート状原紙に含まれる前記セルロース繊維が、前記微細繊維状セルロースよりも多い。上記構成により、大判で安定的に製造することができるため、生産性に優れるという利点が得られる。
【0008】
また、第2の形態に係る移動体用樹脂複合構造材によれば、上記構成に加えて、前記セルロース繊維が、未叩解の繊維である。
【0010】
さらにの形態に係る移動体用樹脂複合構造材によれば、上記いずれかの構成に加えて、前記シート状原紙の透気抵抗度が、5sec/100ml以下である。上記構成により、シート状原紙の樹脂含浸性が優れることから、弾性率の高い移動体用樹脂複合構造材を得ることが可能となる。
【0011】
さらにまた、の形態に係る移動体用樹脂複合構造材によれば、上記いずれかの構成に加えて、前記シート状原紙に対し、前記マトリックス樹脂の含浸前の状態で、20cm×25mmの大きさに切り出した先端を、未硬化の液状である前記マトリックス樹脂に、液面下20mm±2mm浸漬した状態で10分間放置したときの、液面から前記未硬化のマトリックス樹脂液が上昇する高さが、マニラ麻100%のシートよりも10%以上高い。上記構成により、マトリックス樹脂を含浸し易くしたシート状原紙を用いて、緻密で弾性率に優れた移動体用樹脂複合構造材を実現できる利点が得られる。
【0012】
さらにまた、第の形態に係る移動体用樹脂複合構造材によれば、上記いずれかの構成に加えて、前記マトリックス樹脂が、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂のいずれかの熱硬化性樹脂である。
【0013】
さらにまた、第の形態に係る移動体用樹脂複合構造材によれば、上記いずれかの構成に加えて、前記マトリックス樹脂が、スチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルファイド樹脂、ポリアセタール樹脂、アクリル系樹脂、塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂及びポリオレフィン系樹脂のいずれかの熱可塑性樹脂である。
【0014】
さらにまた、第の形態に係る移動体用樹脂複合構造材によれば、上記いずれかの構成に加えて、前記シート状原紙が、湿熱接着性バインダ繊維を含まない移動体用樹脂複合構造材である。
【0015】
さらにまた、第の形態に係る移動体用樹脂複合構造材によれば、天然繊維よりなる微細化されていないセルロース繊維と、微細化された繊維状の微細繊維状セルロースとを用いたシート状原紙と、前記シート状原紙に含浸されたマトリックス樹脂と、を備える移動体用樹脂複合構造材であって、引張弾性率が3GPa以上30GPa以下であり、前記シート状原紙が、湿熱接着性バインダ繊維を含んでいる。
【0016】
さらにまた、第の形態に係る移動体用樹脂複合構造材によれば、上記いずれかの構成に加えて、前記湿熱接着性バインダ繊維が、熱と水分に反応して自己接着又は他の繊維に接着可能な熱可塑性繊維である。
【0017】
さらにまた、第の形態に係る移動体用樹脂複合構造材によれば、上記いずれかの構成に加えて、前記湿熱接着性バインダ繊維が、ポリビニル系繊維、セルロース系繊維、又は変性ビニル系共重合体からなる繊維のいずれかである。
【0018】
さらにまた、第10の形態に係る移動体用樹脂複合構造材によれば、上記いずれかの構成に加えて、前記シート状原紙が、単層である。
【0019】
さらにまた、第11の形態に係る移動体用樹脂複合構造材によれば、上記いずれかの構成に加えて、前記シート状原紙が、複数層積層されている。
【0020】
さらにまた、第12の形態に係る移動体用樹脂複合構造材によれば、天然繊維よりなる微細化されていないセルロース繊維と、微細化された繊維状の微細繊維状セルロースとを用いたシート状原紙と、前記シート状原紙に含浸されたマトリックス樹脂と、を備える移動体用樹脂複合構造材であって、引張弾性率が3GPa以上30GPa以下であり、前記シート状原紙が、複数層積層されており、前記シート状原紙同士の間に介在された、前記シート状原紙よりも坪量/厚さの式で計算される見掛け密度の低い第二シート材を備えている。上記構成により、低密な第二シート材を付加することで、シート状原紙の樹脂浸透を妨げることなく樹脂含浸を行うことが可能となる。
【0021】
さらにまた、第13の形態に係る移動体用樹脂複合構造材によれば、上記いずれかの構成に加えて、前記微細繊維状セルロースを、3%以上15%未満含んでいる。
【0022】
さらにまた、第14の形態に係る移動体用樹脂複合構造材によれば、上記いずれかの構成に加えて、前記セルロース繊維が、スラリー状態で重量平均繊維長が2mm以上7mm未満である。
【0023】
さらにまた、第15の形態に係る移動体用樹脂複合構造材によれば、上記いずれかの構成に加えて、前記微細繊維状セルロースが、スラリー状態で平均繊維径が0.004μm以上0.500μm未満である。
【0024】
さらにまた、第16の形態に係る移動体用樹脂複合構造材の製造方法によれば、湿式抄紙法により作製された、セルロース繊維、及び微細繊維状セルロースを含むシート状原紙を準備する工程と、前記シート状原紙に、マトリックスとなるマトリックス樹脂を含浸させる工程と、前記樹脂含浸したシート状原紙を、単層又は複数層を積層させたものを熱圧成形する工程とを含み、前記シート状原紙を準備する工程が、前記セルロース繊維、微細繊維状セルロースに加えて、湿熱接着性バインダ繊維を含む。これにより、高弾性率及び環境への負荷が小さい移動体用樹脂複合構造材が得られる。
【0025】
さらにまた、第17の形態に係る移動体用樹脂複合構造材の製造方法によれば、上記いずれかに加えて、前記熱圧成形工程が、成形用の型を閉じて、樹脂に圧力を印加して充填する工程を含む。これにより、弾性が向上される。従来の移動体用樹脂複合構造材の製造方法では、圧力を印加しても繊維間に入り込まず、気泡として残ってしまい、ボイドが発生して、強度が不均一となってしまうという問題があったところ、この方法であればマトリックス樹脂が繊維間に入り込んで、高弾性且つ部材全体で均一な移動体用樹脂複合構造材を得ることができ、生産性に優れるという利点が得られる。
【0027】
さらにまた、第18の形態に係る移動体用樹脂複合構造材の製造方法によれば、湿式抄紙法により作製された、セルロース繊維、及び微細繊維状セルロースを含むシート状原紙を準備する工程と、前記シート状原紙に、マトリックスとなるマトリックス樹脂を含浸させる工程と、前記樹脂含浸したシート状原紙を、単層又は複数層を積層させたものを熱圧成形する工程と、を含み、前記樹脂含浸したシート状原紙を熱圧成形する工程が、前記シート状原紙を複数層、前記シート状原紙同士の間に該シート状原紙よりも見掛け密度の低い第二シート材を介在させて積層したものに対して熱圧成形する工程である。これにより、低密な第二シート材を付加することで、シート状原紙の樹脂浸透を妨げることなく樹脂含浸を行うことが可能となる。
【0028】
さらにまた、の形態に係る移動体用樹脂複合構造材の製造方法によれば、上記いずれかに加えて、前記準備されたシート状原紙が、前記マトリックス樹脂の含浸前の状態で、20cm×25mmの大きさに切り出した先端を、未硬化の液状である前記マトリックス樹脂に、液面下20mm±2mm浸漬した状態で10分間放置したときの、液面から前記未硬化のマトリックス樹脂液が上昇する高さが、マニラ麻100%のシートよりも10%以上高い。これにより、マトリックス樹脂を含浸し易くしたシート状原紙を用いて、緻密で弾性率に優れた移動体用樹脂複合構造材を実現できる利点が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】第二シート材を挿入し、3層にした構造材の断面図である。
図2図2A図2Bは、樹脂浸透性試験の様子を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態を説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するための移動体用樹脂複合構造材及びその製造方法を例示するものであって、本発明は移動体用樹脂複合構造材及びその製造方法を以下のものに特定しない。また、本明細書は特許請求の範囲に示される部材を、実施の形態の部材に特定するものでは決してない。特に実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、以下の説明において、同一の名称については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。さらに、本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよいし、逆に一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。
【0031】
車や電車、航空機などの移動体を構成する構造材として、軽量化の観点から、樹脂材料を繊維で補強したFRP(Fiber Reinforced Plastic)が注目されている。このような構造材としては、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)や炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が知られている。しかしながら、これらの構造材では、ライフサイクル全体でのCO2排出量が高いことから、環境への負荷が大きいという問題があった。
【0032】
近年では、ライフサイクルアセスメント(LCA)の意識の高まりから、強化繊維としてセルロースを積極的に使用することが望まれている。セルロースはパルプ等に含まれており、このようなセルロースを用いた繊維強化樹脂シートは、CO2排出量の削減を図り環境に優しい繊維強化構造材原料として、利用分野の拡大が期待されている。
【0033】
このようなセルロース繊維強化構造材を、車両や電車、航空機、船舶などの移動体の材質に適用することも検討されている。セルロース繊維強化構造材を移動体に適用する例として、例えば車両のボディに適用する場合、運転中の車両のがたつき等を抑制するため、構造材の弾性率を重視する傾向がある。セルロース繊維の弾性率は繊維種の中でも比較的に高く、軽量化や環境負荷低減の観点と併せても、車両への適用は今後不可欠になってくると考えられる。
【0034】
セルロース繊維を使用した構造材の開発においては、セルロース繊維フィラーを分散させた樹脂を射出成型することで得られる構造材が提案されている。しかしながら、粘度の高い樹脂中にフィラーを高分散させることが難しく、目標とする弾性率が得られないという問題があった。また粘度の高い樹脂では、自動車のボンネットのような大判部品を製造することも困難であった。
【0035】
このような問題を解決するために、セルロース繊維又は微細繊維状セルロースを用いた基材シートに対して樹脂含浸し、熱成形を行うことで、高い弾性率を部材全体に均一に発現しつつ、なおかつ環境低負荷な移動体用樹脂複合構造材を作製できると考えられる。
【0036】
このようなセルロースを用いた繊維強化樹脂シート、例えばセルロース強化プラスチックは、セルロース繊維基材に樹脂を含浸して作製される。このセルロース強化プラスチックの作製には、均一性を上げる観点から、高度に叩解したパルプ紙が用いられることが多かった。
【0037】
しかしながら、高叩解パルプ紙は原紙作製時の濾水性が悪く、さらに樹脂の含浸速度が遅いため、生産性が悪いという問題があった。また微細繊維状セルロースを用いた場合、高叩解パルプよりも弾性率を上げることが可能であるものの、現状の微細繊維状セルロースは固形分が低いため、単価が高い。また湿式抄紙法にてシートを作製するには脱水工程で大きなエネルギーを消費することや濾水性が悪化してシート形成が困難であること、加えて抄紙できたとしても高叩解パルプよりも含浸速度が遅くなるという問題もあった。
【0038】
これに対し、シートとして厚膜にしながらも樹脂含浸性に優れ、かつシート強度(弾性率)を向上させたセルロース繊維層を含むシートが提案されている(特許文献3)。このセルロース繊維層を含むシートは、再生セルロース繊維を50重量%以上含むセルロース繊維層を少なくとも一層含む単層又は3層以下の複数層から構成される。
【0039】
しかしながら、このシートは再生セルロースを叩解しているため、個体間の品質のばらつきが大きく、均質なシートを得難いという問題があった。またシートの各個体においても、再生セルロースを叩解した微細繊維の比率が多いため、微細繊維が均一に分散され難い結果、面方向や厚さ方向においてシート強度の均一性に劣るという問題もあった。
【0040】
このような背景から、本願発明者らは均一な強度を発揮できるようにした移動体用樹脂複合構造材及びその製造方法の実現を検討した。
[実施形態1]
【0041】
実施形態1に係る移動体用樹脂複合構造材は、自動車やカート、ドローン、飛行機、船舶、電車などの移動体用の素材として利用できる。このような移動体用の樹脂材料としては、強度向上に加え、耐振動性や耐衝撃性の向上も求められる。一例として第二シート材を挿入し、3層にした構造材の断面図を図1に示す。この図に示す構造材100は第二シート材である芯材1をシート状原紙11の間に挿入した後にこの積層物に対し、マトリックス樹脂14で含浸している。シート状原紙11は樹脂含浸性が良好であることから、層間での樹脂浸透阻害を起こすことがないため、樹脂含浸後にシート基材11と芯材1が一体となった構造材料を作製可能になる。また芯材1やシート状原紙11の使用する枚数や積層順は任意で変更してもよい。
【0042】
また中間に不織布等の低密シートを挟んだ3~5層等の複数層の積層構造としてもよい。
【0043】
このような移動体用樹脂複合構造材は、マトリックス樹脂の含浸性に優れ、成形し易い。さらに樹脂含浸性に優れ、引張強度や曲げ強度、弾性率などの点でも優れる。以下、詳述する。
【0044】
実施形態1に係る移動体用樹脂複合構造材は、シート状原紙にマトリックス樹脂を含浸させたものである。シート状原紙は、セルロース繊維と、微細繊維状セルロースを湿式抄紙して得られる。
(セルロース繊維)
【0045】
天然繊維よりなるセルロース繊維は、微細化されていない繊維とすることが好ましい。例えば、未叩解の繊維とする。また、細く長い植物繊維が好ましい。植物繊維としては、麻、こうぞ、三又、コットンリンター、ケナフ、竹、藁、針葉樹材等が利用できる。これらを用いることで、引張強度が非常に強い移動体用樹脂複合構造材が得られる。好ましくは、マニラ麻、及び/又は針葉樹材を用いる。
【0046】
またセルロース繊維として、未叩解又は軽微な叩解を行ったパルプが好適に利用できる。本明細書では、軽微な叩解を行ったパルプも含めて未叩解パルプと呼ぶ。このようなパルプを未叩解のままシート化することで、シート状原紙が緻密になることを回避して樹脂を含浸させ易くしている。
【0047】
セルロース繊維として用いるパルプは、化学パルプ、機械パルプ、古紙パルプ、非木材パルプ、塩素フリーパルプ等が利用できる。化学パルプは、広葉樹又は針葉樹のクラフトパルプ等が挙げられる。機械パルプは、砕木パルプ、リファイナーグランドパルプ、ケミサーモメカニカルパルプ等が挙げられる。古紙パルプは、脱墨パルプ等が挙げられる。塩素フリーパルプは、ECFパルプ、TCFパルプ等が挙げられる。
【0048】
セルロース繊維の重量平均繊維長は、スラリー状態で2mm以上7mm未満が好ましく、3mm以上7mm未満がさらに好ましい。加えてセルロース繊維の平均繊維径は5μm~50μmとすることが好ましい。
【0049】
またシート状原紙におけるセルロース繊維の含有量は、40重量%~98重量%とすることが好ましく、60重量%~98重量%とすることがさらに好ましい。
(微細繊維状セルロース)
【0050】
微細繊維状セルロースは、微細化された繊維状のセルロースである。このような微細繊維状セルロースは、セルロース繊維を解繊及び/又は微細化することで得られる。また微細繊維状セルロースは、繊維径が0.1μm以下の、いわゆるセルロースナノファイバー(CNF)と呼ばれる材質を含むことができる。微細繊維状セルロースは、スラリー状態で長さが3μm以上、平均繊維径が0.004μm~0.500μmのセルロースで構成される微細有機繊維である。
【0051】
シート状原紙における微細繊維状セルロースの含有量は、1重量%乃至20重量%とすることが好ましい。好ましくは、3重量%以上15重量%未満とする。
【0052】
またシート状原紙に含まれるセルロース繊維が、微細繊維状セルロースよりも多いことが好ましい。これにより、セルロース繊維より高価な微細繊維状セルロースの使用量を最低限にすることでコストダウンにつながり、実機抄造時の濾水性が良好になることからシート状原紙の生産安定性を高められる。また必要に応じてシート状原紙の寸法や厚みを自由に変更できるため、最終成形物の寸法や厚みを自由に調節し易くできる。
【0053】
シート状原紙の透気抵抗度は、5sec/100ml以下とすることが好ましい。これにより、シート状原紙の樹脂含浸性が優れることから、弾性率の高い移動体用樹脂複合構造材を得ることが可能となる。
【0054】
シート状原紙の厚さは、20μm~1mmとすることが好ましい。
【0055】
シート状原紙は、単層とすることができる。これにより、薄膜で高弾性の移動体用樹脂複合構造材が得られる。
【0056】
一方で、シート状原紙を複数層積層して、移動体用樹脂複合構造材を構成してもよい。この場合は、シート状原紙同士を直接積層する他、シート状原紙同士の間に第二シート材を介在させてもよい。第二シート材は、シート状原紙よりも見掛け密度を低くする。これにより、低密な第二シート材を付加することで、シート状原紙の樹脂浸透を妨げることなくマトリックス樹脂の含浸を行うことが可能となる。
【0057】
また、複数枚のシート状原紙と第二シート材を積層することにあたり、その積層順は任意とすることができる。シート状原紙と低密な第二シート材とを任意の順番で積層させてから、マトリックス樹脂を含浸して移動体用樹脂複合構造材を作製してもよい。
(マトリックス樹脂)
【0058】
このようにして得られたシート状原紙に、マトリックス樹脂を含浸させて移動体用樹脂複合構造材を得る。このマトリックス樹脂には、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を利用できる。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂等を利用できる。また熱可塑性樹脂としては、スチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルファイド樹脂、ポリアセタール樹脂、アクリル系樹脂、塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂及びポリオレフィン系樹脂等が利用できる。また、移動体用樹脂複合構造材におけるセルロース繊維の含有量を、20重量%乃至70重量%としてもよい。
【0059】
このようにして得られた移動体用樹脂複合構造材は、引張弾性率が3GPa以上30GPa以下である。これにより、大判で安定的に製造することができるため、生産性に優れるという利点が得られる。
(湿熱接着性バインダ繊維)
【0060】
さらに移動体用樹脂複合構造材は、シート状原紙に湿熱接着性バインダ繊維を含むことができる。湿熱接着性バインダ繊維は、熱と水分に反応して自己接着又は他の繊維に接着可能な繊維である。ここでは、熱水で軟化させて接着材として機能させている。熱水で軟化する湿熱接着性バインダ繊維は、熱可塑性繊維とすることが好ましい。このような湿熱接着性バインダ繊維には、ポリビニル系繊維、セルロース系繊維、又は変性ビニル系共重合体からなる繊維のいずれかが利用できる。
【0061】
またシート状原紙における湿熱接着性バインダ繊維の含有量は、1重量%~20重量%とすることが好ましい。
【0062】
このようなセルロース繊維と、湿熱接着性バインダ繊維と、微細繊維状セルロースを湿式抄紙してシート状原紙を得ることができる。この湿式抄紙法でシート化する工程において、微細繊維状セルロースでもって保水性を高めることで、プレスにより密度を高めつつも湿紙中の水分が微細繊維状セルロースで保持されるため、湿熱接着性バインダ繊維による強度向上効果が高くなる。
(シート状原紙の製造方法)
【0063】
ここで、シート状原紙の製造方法について説明する。まずセルロース繊維として、離解させた未叩解パルプを準備し、均一に分散させる。これに湿熱接着性バインダ繊維と、微細繊維状セルロースとを加え、湿式抄紙法で抄紙する。
【0064】
従来の方法で抄紙工程において乾燥前の湿紙をプレスする際、通常の未叩解パルプであればプレス時に水分が奪われる結果、湿度が不足し、湿度で反応すべき湿熱接着性バインダ繊維の軟化が不十分となるおそれがあった。
【0065】
これに対して実施形態に係るシート状原紙では、セルロース繊維に、微細繊維状セルロースを加えている。この微細繊維状セルロースが保水性を有するため、プレス時にも湿度が供給されて、湿熱接着性バインダ繊維が軟化して接着力を発揮できるようになる。
【0066】
このようなプレス工程を経て高密化した上で、湿紙を乾燥させる。上述の通り未叩解パルプでは保水性が低く、プレス工程で必要以上に脱水されて湿紙の水分が低くなる結果、湿熱接着性バインダ繊維の接着力が不十分になり、樹脂含浸加工強度が十分に得られない。これに対して、少量の微細繊維状セルロース繊維を添加することで湿紙の保水性を高め、均一かつ高通気性のシート状原紙を得ることができる。
【0067】
このように微細繊維状セルロースは、強度向上の目的よりも保水性を発揮させるために機能させている。このようにしてセルロース繊維同士を湿熱接着性バインダ繊維で効果的に接着させて、シート状原紙が得られる。
【0068】
一方で、シート状原紙に、湿熱接着性バインダ繊維を含めないこともできる。湿熱接着性バインダ繊維を含めないことで、セルロース繊維と微細繊維状セルロースとを湿式抄紙し易くなり、抄紙工程を簡素化でき、生産性が向上される。バインダがなくとも、セルロース繊維と微細繊維状セルロースとは、繊維同士の交絡点で水素結合する。
【0069】
この場合の移動体用樹脂複合構造材の製造方法は、湿式抄紙法により作製された、セルロース繊維、及び微細繊維状セルロースを含むシート状原紙を準備する工程と、シート状原紙に、マトリックスとなるマトリックス樹脂を含浸させる工程と、樹脂含浸したシート状原紙を、単層又は複数層を積層させたものを熱圧成形する工程とを含む。これにより、高弾性率及び環境への負荷が小さい移動体用樹脂複合構造材が得られる。
【0070】
熱圧成形工程は、成形用の型を閉じて、樹脂に圧力を印加して充填する工程を含んでもよい。これにより、弾性が向上される。従来の移動体用樹脂複合構造材の製造方法では、圧力を印加しても繊維間に入り込まず、気泡として残ってしまい、ボイドが発生して、強度が不均一となってしまうという問題があった。これに対して上記方法であれば、マトリックス樹脂が繊維間に入り込んで、弾性の高い保水性の優れた移動体用樹脂複合構造材を得ることができ、生産性に優れるという利点が得られる。
【0071】
また湿式抄紙法でシート化する工程において、定着剤、凝結剤、又は凝集剤を添加してもよい。これにより、微細繊維状セルロースの歩留りを向上させることができる。
【0072】
さらにシート状原紙の坪量は、5g/m2~100g/m2、見掛け密度は0.3g/cm3~0.7g/cm3、引張強度は10N/15mm以上、透気抵抗度は5sec/100ml以下とすることが好ましい。なお、透気抵抗度は樹脂含浸性を示す指標である。また引張強度は工程強度を示す指標である。さらにまた、樹脂含浸性についてシート状原紙の透気抵抗度が3sec/100ml以下であれば良く、更に、1.5sec/100ml以下であれば優れる。さらにまたシート状原紙の引張強度について、10N/15mm以上であれば樹脂含浸工程強度を満たすことができ、更に20N/15mm以上であれば更に優れる。
【0073】
またシート状原紙に樹脂を含浸して移動体用樹脂複合構造材を形成する工程において、シート状原紙を所定形状にて配置し、型枠又はフィルムで密閉した上で、樹脂を含浸させることが好ましい。さらにシート状原紙に樹脂を含浸及び/又は塗工させて繊維強化樹脂成形前駆体を得ることもできる。さらにまた、この繊維強化樹脂成形前駆体を所定形状に配置し、型枠又はフィルムで密閉して成形してもよい。加えて、得られた移動体用樹脂複合構造材を複数枚積層して、繊維強化樹脂成形体を形成することもできる。
【0074】
このようにして、従来困難であったセルロース繊維を用いたシート状原紙に樹脂を含浸させることが可能となる。すなわち、緻密になって樹脂を含浸できなくなる問題を、未叩解のセルロース繊維を用いて、且つ保水性を有する微細繊維状セルロースを含有させることで、湿潤性を高めて湿熱接着性バインダ繊維を反応させることが可能となる。この結果、セルロース繊維の中に樹脂を隙間なく配置して補強させ、移動体用樹脂複合構造材全体の強度と信頼性を高めることができる。以下、詳述する。
【0075】
車や電車、航空機などの移動体の軽量化の観点から、樹脂材料を繊維で補強したFRPが注目されている。近年では、ライフサイクルアセスメント(LCA)の意識の高まりから、強化繊維としてセルロースを積極的に使用することが望まれている。このようなセルロース繊維をシート状に均一に配置するには、叩解処理をする必要がある。すなわち、セルロース繊維基材に樹脂を含浸して作製するセルロース強化プラスチック等の移動体用樹脂複合構造材は、従来、均一性の観点から高度に叩解したパルプ紙が用いられることが多かった。
【0076】
しかしながら、高度に叩解処理を行うと濾水性が悪くなって原紙生産性が悪くなり、更には繊維長が短くなるうえに隠蔽性が上がるため樹脂の浸透性が悪化し、全体としての生産性が悪くなるという問題があった。
【0077】
そこで本発明者らは、このような問題を解決するために、鋭意研究の結果、本発明を成すに至った。すなわち本発明の実施形態に係る移動体用樹脂複合構造材は、セルロース繊維として、未叩解パルプを用いた。そしてこのようなセルロース繊維と、湿熱接着性バインダ繊維とを混抄するにあたり、微細繊維状セルロースを少量添加して保水性を高めている。これによって水分が湿熱接着性バインダ繊維に与えられて接着力が向上される。また適度な透過性を与えたことにより、従来のように樹脂の含浸速度が遅くなることもなく、原紙及び樹脂含浸加工の生産性に優れた移動体用樹脂複合構造材が得られる。
【0078】
さらに、本実施形態に係る移動体用樹脂複合構造材によれば、引張強度及び曲げ強度を高めることができる。本発明者らの行った試験によれば、引張強度は、最大で繊維強化していないエポキシ樹脂の1.4倍であった。さらに縦横強度比を均等にできる効果も得られる。樹脂含浸前のシート状原紙では、縦横強度比が2:1程度であったところ、樹脂含浸後の移動体用樹脂複合構造材の状態では、1:1となっており、縦横いずれの方向にも強い均等な移動体用樹脂複合構造材を得ることができた。
(実施例1)
【0079】
次に、試作した実施例と比較例について、表1に示すと共に、それぞれについて以下説明する。まず実施例1として、シート状原紙を作製した。ここでは、天然繊維よりなる微細化されていないセルロース繊維として針葉樹クラフトパルプを80%用いた。また微細化された繊維状の微細繊維状セルロースとして、CNF、具体的にはダイセルファインケム社製セリッシュを10%、さらに湿熱接着性バインダ繊維として、ポリビニルアルコール(PVA)繊維、具体的にはクラレ社製VPBを10%加え、水に分散して抄紙スラリーを得た。これに定着剤としてポリアクリルアミド、ポリアミドポリアミンエピクロロヒドリン、及び硫酸アルミニウムを繊維重量に対しそれぞれ2%、2%、1%添加して、湿式抄紙法によりシート状原紙を得た。
【0080】
また、得られたシート状原紙の樹脂浸透性試験として、繊維製品の吸水性試験(JIS L 1907:2010)を参照して、図2A図2Bのようにして行った。すなわち、図2Aに示すように、シート状原紙を20cm×25mmの大きさに切り出したCNFペーパー15を準備し、未硬化の液状の熱可塑性エポキシ樹脂をメチルエチルケトンで2倍に希釈した溶液を蓄えた容器に、その先端を液面下20mm±2mm浸漬した状態で10分間放置する。そして図2Bに示すように、10分後に液面から樹脂液が上昇した高さを測定する。ここでは、比較例1としてマニラ麻100%で作製したシート状原紙を基準として、比較例との上昇度合いについては以下の数1で計算した。
【0081】
【数1】
【0082】
この結果、実施例1に係るシート状原紙では、比較例1に対して33%高くなった。このことは、マニラ麻100%とした比較例1に対して、実施例1に係る移動体用樹脂複合構造材では樹脂の含浸性が33%改善されたことを示唆している。
(樹脂含浸)
【0083】
さらに、このシート状原紙に対して樹脂を含浸させて移動体用樹脂複合構造材を作成した。樹脂は熱可塑性エポキシ樹脂を用いた。また含浸方法としては樹脂含浸マイヤーバーコートにて含浸した。加えて樹脂濃度に関しては有機溶媒を用いて希釈せずに原液(固形分濃度85%)のまま使用した。シートに付ける樹脂量は、後述する熱成形まで完了した段階で、全体の40~60重量%となるよう調整した。また樹脂含浸後は防爆乾燥器で80℃、5分の条件で樹脂中の溶媒を除去した。
(熱成形プレス)
【0084】
上記で溶媒を除去した樹脂複合構造材に対し、160℃、9.5MPaの条件で5分間熱成形プレスを実施した。5分間プレスした後は圧力をかけたまま90℃になるまで温度を下げてからサンプルを取り出した。取り出した後は引張強度とその際のサンプル伸びを測定し、それらの値から引張弾性率を算出した。
(重量平均繊維長の測定)
【0085】
セルロース繊維の重量平均繊維長の測定は、Metso Automation社製のkajaani FS300を用いた。繊維を水中に分散させ、濃度0.001%のスラリーにした状態のもので測定を行った。前記針葉樹クラフトパルプの重量平均繊維長を測定したところ、3.1mmであった。
(実施例2)
【0086】
セルロース繊維として重量平均繊維長が4.6mmである未叩解マニラ麻パルプ40%、及び針葉樹クラフトパルプ40%を用いた他は、実施例1と同様にしてシート状原紙の作成、及び樹脂含浸を行い移動体用樹脂複合構造材を得た。
(実施例3)
【0087】
セルロース繊維として未叩解マニラ麻パルプ80%を用いた他は、実施例1と同様にしてシート状原紙の作成、及び樹脂含浸を行い移動体用樹脂複合構造材を得た。
(実施例4)
【0088】
セルロース繊維として未叩解マニラ麻パルプ40%、及び繊度0.6dtex、重量平均繊維長4mmのレーヨン繊維40%を用いた他は、実施例1と同様にしてシート状原紙の作成、及び樹脂含浸を行い移動体用樹脂複合構造材を得た。
(実施例5)
【0089】
セルロース繊維として未叩解マニラ麻パルプ90%、微細繊維状セルロースとしてセリッシュ10%を用いて、湿熱接着性バインダ繊維は使用しなかった他は、実施例1と同様にしてシート状原紙の作成、及び樹脂含浸を行い移動体用樹脂複合構造材を得た。
【0090】
【表1】
【0091】
(比較例1)
叩解度が30°SRとなるよう叩解処理したマニラ麻パルプ100%を用いて、微細繊維状セルロース及び湿熱接着性バインダ繊維を使用せず、定着剤も添加しなかった他は、実施例1と同様にしてシート状原紙の作成、及び樹脂含浸を行い移動体用樹脂複合構造材を得た。
【0092】
このシート状原紙の樹脂含浸性は悪く、均一な複合体を作製することができなかった。さらに熱圧成型後の引張弾性率は実施例1~5と比較して低いものとなった。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の移動体用樹脂複合構造材及びその製造方法は、自動車や鉄道、船舶、航空機等の外装や、構造材として好適に利用できる。
【符号の説明】
【0094】
100…構造材
1…芯材
11…シート状原紙
14…マトリックス樹脂
15…CNFペーパー
図1
図2