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特許7508286検体中の検出対象を検出又は定量する方法、複合粒子、および試薬
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】検体中の検出対象を検出又は定量する方法、複合粒子、および試薬
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20240624BHJP
   G01N 33/553 20060101ALI20240624BHJP
   G01N 33/545 20060101ALI20240624BHJP
   G01N 33/551 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
G01N33/543 525U
G01N33/553
G01N33/545
G01N33/551
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020107149
(22)【出願日】2020-06-22
(65)【公開番号】P2021004881
(43)【公開日】2021-01-14
【審査請求日】2023-04-28
(31)【優先権主張番号】P 2019117556
(32)【優先日】2019-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉田 悟
(72)【発明者】
【氏名】田原 博寿
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-292395(JP,A)
【文献】特開昭53-024015(JP,A)
【文献】国際公開第2018/194152(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0364222(US,A1)
【文献】Hong-Ren Jiang et al,Active Motion of Janus Particle by Self-thermophoresis in Defocused Laser Beam,Physical review letters,2010年
【文献】Qifan Zhang et al,Emulsion Agglutination Assay for the Detection of Protein-Protein Interactions: An Optical Sensor for Zika Virus,ACS Sensors,2019年01月09日,4(1),180-184
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体中の検出対象を検出又は定量する方法であって、
物性が互いに異なる第1領域と第2領域の2つの領域を表面に有している担体粒子と、前記担体粒子に担持されかつ前記検出対象に対して親和性を有する親和性物質とを各々が含む複数の複合粒子、および
前記検体
を含む反応混合液に、前記第1領域が吸収可能なレーザー光を照射することで前記複合粒子と前記検出対象との結合を促進することと、
前記レーザー光を照射した後、前記反応混合液に測定光を照射し、透過光強度または散乱光強度を測定し、前記測定の結果に基づいて前記検出対象を検出又は定量することと
を含む方法。
【請求項2】
前記2つの領域は、熱伝導率が互いに異なる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記2つの領域は、金属からなる第1領域と非金属からなる第2領域の2つの領域である請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記金属が金、銀、銅、または鉄である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記非金属が無機物またはポリマーである請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記レーザー光がパルスレーザー光である請求項1~5の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記レーザー光が赤外パルスレーザー光である請求項1~5の何れか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記親和性物質が抗原または抗体である請求項1~の何れか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、検体中の検出対象を検出又は定量する方法、複合粒子、および試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、検体中の検出対象を検出する方法として、ラテックス凝集法が行われてきた。ラテックス凝集法とは、例えば、生体試料等の検体中における抗原を検出する場合、検体と、抗原に特異的に結合する抗体もしくはそのフラグメントを担持させたラテックスとを混合して、ラテックスの凝集の程度を測定することにより、抗原を検出又は定量する方法である。
【0003】
このラテックス凝集法によれば、検体に含まれる抗原が複数のラテックス結合抗体を架橋させ、ラテックスの凝集を促す。しかし、抗原が微量の場合、その架橋が起こりにくいため、ラテックスが十分に凝集せず、凝集しても検出感度以下となって検出できない。このため、微量の抗原を迅速に検出することが困難であった。
【0004】
一方、球形のシリカ粒子またはポリスチレン粒子の半球面に金をコーティングして、非対称粒子(ヤヌス粒子ともいう)を作製し、非対称粒子を水に入れ、赤外レーザーのビームを照射すると、非対称粒子が、金をコーティングした面を後ろにして推進運動することが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特公昭58-ll575号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】H. Jiang et al., Active Motion of a Janus Particle by Self-Thermophoresis in a Defocused Laser Beam, Phys. Rev. Lett. 105, 268302 (2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発明が解決しようとする課題は、検出対象に対して親和性を有する親和性物質と検出対象との反応を促進させ、これにより、検体中の検出対象を迅速に検出又は定量することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態によれば、検体中の検出対象を検出又は定量する方法であって、
物性が互いに異なる2以上の領域を表面に有している担体粒子と、前記担体粒子に担持されかつ前記検出対象に対して親和性を有する親和性物質とを各々が含む複数の複合粒子、および
前記検体
を含む反応混合液に、前記2以上の領域の少なくとも1つが吸収可能な光を照射して、前記複合粒子と前記検出対象との結合を促進することと、
前記光を照射した前記反応混合液に対する測定を行うことにより、前記検出対象を検出又は定量することと
を含む方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、複合粒子の一例を模式的に示す図である。
図2図2は、反応混合液中の様子の一例を模式的に示す図である。
図3図3は、反応曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明するが、以下の説明は本発明を説明することを目的とし、本発明を限定することを意図していない。
【0011】
1.検体中の検出対象を検出又は定量する方法
検体中の検出対象を検出又は定量する方法は、
物性が互いに異なる2以上の領域を表面に有している担体粒子と、前記担体粒子に担持されかつ前記検出対象に対して親和性を有する親和性物質とを各々が含む複数の複合粒子、および
前記検体
を含む反応混合液に、前記2以上の領域の少なくとも1つが吸収可能な光を照射して、前記複合粒子と前記検出対象との結合を促進することと、
前記光を照射した前記反応混合液に対する測定を行うことにより、前記検出対象を検出又は定量することと
を含む。
【0012】
この方法は、ラテックス凝集法の原理を利用する。すなわち、この方法では、検体中に検出対象が存在する場合、親和性物質と検出対象との反応により、親和性物質を担持した担体粒子が凝集する。この凝集物を検出又は定量することにより、検出対象を検出又は定量することができる。この方法では、担体粒子として、物性が互いに異なる2以上の領域を表面に有している粒子を使用し、かかる粒子に光を照射して、ブラウン運動よりも大きい運動を引き起こす。その結果、親和性物質と検出対象との反応を促進することができる。
【0013】
1-1.反応混合液
反応混合液に含まれる「検体」および「複合粒子」について、以下で順に説明する。
【0014】
「検体」
検体は、任意の生体試料であり、例えば、体液または排泄物の抽出液であり、具体的には、血液、血清、血漿、尿、リンパ液、喀痰、糞便の抽出液等が挙げられる。
【0015】
検体中に含まれる検出対象は、臨床診断に利用される物質が挙げられ、具体的には、体液、尿、喀痰、糞便中等に含まれる、ヒトイムノグロブリンG、ヒトイムノグロブリンM、ヒトイムノグロブリンA、ヒトイムノグロブリンE、ヒトアルブミン、ヒトフィブリノーゲン(フィブリン及びそれらの分解産物)、α-フェトプロテイン(AFP)、C反応性タンパク質(CRP)、ミオグロビン、ガン胎児性抗原、肝炎ウイルス抗原、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)、ヒト胎盤性ラクトーゲン(HPL)、HIVウイルス抗原、アレルゲン、細菌毒素、細菌抗原、酵素、ホルモン(例えば、ヒト甲状腺刺激ホルモン(TSH)、インスリン等)、核酸、PCR等により増幅された核酸、サイトカイン、薬剤等が挙げられる。
【0016】
「複合粒子」
複合粒子は、
物性が互いに異なる2以上の領域を表面に有している担体粒子と、
担体粒子に担持されかつ検出対象に対して親和性を有する親和性物質と
を含む。
【0017】
(親和性物質)
複合粒子に含まれる親和性物質は、好ましくは、検出対象に対して特異的に結合する物質である。親和性物質は、具体的には、核酸、タンパク質、脂質、糖などが挙げられる。親和性物質は、例えば、抗原または抗体である。親和性物質は、検出対象が抗原である場合、抗体とすることができる。抗体は、いかなるタイプの免疫グロブリン分子であってもよく、Fab等の抗原結合部位を有する免疫グロブリン分子断片であってもよい。また、抗体は、モノクローナル抗体でもポリクローナル抗体でもよいが、抗原の異なる抗原決定基を認識するモノクローナル抗体であることが好ましい。あるいは、親和性物質は、検出対象が抗体である場合、この抗体が認識する抗原決定基を有する抗原とすることができる。
【0018】
(担体粒子)
親和性物質を担持させるための担体粒子は、物性が互いに異なる2以上の領域を表面に有している。物性が互いに異なる2以上の領域を表面に有している粒子は、「非対称粒子」または「ヤヌス粒子」または「パッチ粒子」とも呼ばれ、公知である。
【0019】
「物性が互いに異なる2以上の領域」は、例えば2~5の領域、好ましくは2~3の領域、より好ましくは2つの領域である。本明細書において「物性が互いに異なる領域」の数は、隣り合った領域において物性が互いに異なる領域の数を指す。
【0020】
物性が互いに異なる2以上の領域を表面に有している担体粒子は、光照射されると、2以上の領域において放出される熱量が物性の違いによって異なるため、担体粒子の周りに存在する分散媒に局所的な温度勾配が生じる。その結果、担体粒子は、温度が高い分散媒側から温度が低い分散媒側に向かって、熱泳動現象により推進する。
【0021】
かかる担体粒子に親和性物質を担持させ、得られた複合粒子をラテックス凝集法で使用すると、複合粒子も、担体粒子と同じ挙動を示すことができる。すなわち、複合粒子は、光照射されると、複合粒子の周りに存在する分散媒に局所的な温度勾配が生じ、複合粒子は熱泳動現象により推進運動をする。その結果、複合粒子は、検出対象と接触する機会が増え、親和性物質と検出対象との結合反応を促進することができる。
【0022】
「物性が互いに異なる2以上の領域」は、物性の違いが大きいほど、分散媒に大きな温度勾配を生じさせることができ、その結果、複合粒子の推進力を高めることができる。したがって、物性は、好ましくは熱伝導率である。すなわち、担体粒子は、熱伝導率が互いに異なる2以上の領域を表面に有していることが好ましい。2以上の領域における熱伝導率の差は、好ましくは50[W/m・K]以上、より好ましくは100[W/m・K]以上、更に好ましくは150[W/m・K]以上、更に好ましくは200[W/m・K]以上である。2以上の領域における熱伝導率の差の上限は、特に限定されないが、例えば500[W/m・K]である。本明細書において熱伝導率は、20℃における熱伝導率を指す。担体粒子が、物性が互いに異なる3以上の領域を表面に有している場合、「熱伝導率の差」は、最大値と最小値との差をいう。
【0023】
具体的な態様において、担体粒子の2以上の領域の1以上は、金属または炭素からなり、2以上の領域の残りは、非金属からなる。
【0024】
一つの態様において、担体粒子の2以上の領域の1以上は、金属からなり、2以上の領域の残りは、非金属からなる。この態様において、金属および非金属は、物性が互いに異なり、担体粒子の周りに存在する分散媒に局所的な温度勾配を生じさせることができれば、任意の組み合わせを選択することができる。金属は、例えば、金、銀、銅、鉄、合金などが挙げられ、合金は、黄銅などの銅合金、ニッケル合金などが挙げられる。非金属は、例えば、無機物またはポリマーであり、具体的には、ポリスチレン、シリカ、発泡ポリスチレンなどが挙げられる。好ましい態様において、担体粒子の2以上の領域の1以上は、金、銀、銅、または鉄からなり、2以上の領域の残りは、非金属からなる。
【0025】
別の態様において、担体粒子の2以上の領域の1以上は、炭素からなり、2以上の領域の残りは、非金属からなる。この態様において、炭素および非金属は、物性が互いに異なり、担体粒子の周りに存在する分散媒に局所的な温度勾配を生じさせることができれば、任意の組み合わせを選択することができる。炭素は、例えば、ナノ炭素材料であり、具体的には、カーボンナノチューブ、フラーレン、グラフェンなどが挙げられる。ナノ炭素材料は、熱伝導率が高いことが知られている。非金属は、例えば、無機物またはポリマーであり、具体的には、ポリスチレン、シリカ、発泡ポリスチレンなどが挙げられる。なお、非金属からなる領域は、炭素からなる領域の炭素材料とは異なる熱伝導率を有する炭素の同素体であってもよく、非金属に炭素も包含される。
【0026】
典型的には、担体粒子の2以上の領域は、2つの領域である。すなわち、担体粒子は、典型的には、物性が互いに異なる2つの領域を表面に有している。より典型的には、担体粒子は、熱伝導率が互いに異なる2つの領域を表面に有している。
【0027】
担体粒子が、物性が互いに異なる2つの領域を表面に有している場合、具体的な態様において、2つの領域のうち1つは、金属または炭素からなり、もう1つは、非金属からなる。ここで「金属」、「炭素」、「非金属」は、上記で説明したとおりである。この態様において、金属または炭素からなる領域の表面積は、非金属からなる領域の表面積よりやや小さいことが好ましい。具体的には、金属または炭素からなる領域の表面積は、担体粒子の全表面積を1とした場合、0.35~0.45であることが好ましい。金属または炭素からなる領域の表面積を、担体粒子の全表面積の1/2ではなく、非金属からなる領域の表面積よりやや小さくすると、担体粒子の推進力を高めることができる。
【0028】
担体粒子は、任意の形状を有していてもよく、例えば、球状またはロッド形状、好ましくは球状を有している。球状は、真球であってよいし、回転楕円体であってもよい。ロッド形状は、高さ方向に伸びたロッド形状であってもよいし、扁平なロッド形状であってもよい。担体粒子は、例えば20~800nm、好ましくは100~400nmの平均粒径を有する。
【0029】
任意の形状を有する担体粒子の「平均粒径」は、以下のとおり定義される。走査電子顕微鏡(SEM)を用いて、担体粒子のSEM像を撮影する。次いで、各SEM像に写っている粒子の中から、全体が見えている粒子を無作為に50個選択し、選択した各粒子の面積を求める。これら面積と等しい面積を有している円の直径をそれぞれ算出し、更に、これら直径の算術平均を求める。この算術平均(平均円相当径)を「平均粒径」とする。
【0030】
上述のとおり、物性が互いに異なる2以上の領域を表面に有している担体粒子は、公知である。したがって、かかる担体粒子は、公知技術に従って調製することができる。例えば、担体粒子は、原料粒子の表面の一部に、原料粒子とは物性が異なる材料をコーティングすることにより調製することができる。コーティングは、例えば、真空蒸着などの蒸着により行うことができる。コーティングの厚さは、例えば20~30nmとすることができる。
【0031】
例えば、原料粒子として球状の非金属粒子を用いて、非金属粒子の一部の領域に金属または炭素のコーティングを施して、非金属からなる領域と金属または炭素からなる領域の2つの領域を表面に有している担体粒子を調製することができる。あるいは、原料粒子として球状の金属粒子または球状の炭素粒子を用いて、金属粒子または炭素粒子の一部の領域に非金属のコーティングを施して、金属または炭素からなる領域と非金属からなる領域の2つの領域を表面に有している担体粒子を調製してもよい。
【0032】
ここで「原料粒子」は、凝集法で一般に使用される担体粒子を使用することができる。原料粒子は、例えば、セルロース粒子、多孔質ガラス粒子、シリカゲル粒子、ジビニルベンゼンにより随意的に架橋されている低架橋度及び高架橋度ポリスチレン粒子、グラフト化コポリマー粒子、ポリアクリルアミド粒子、ラテックス粒子、N,N-ビス-アクリロイル・エチレン・ジアミンにより随意的に架橋されているジメチルアクリルアミド粒子、及び疎水性ポリマーにより被覆されているガラス粒子等が挙げられる。あるいは、原料粒子は、アルカンチオレート誘導した金、ポリアミド、アクリルコポリマー、ナイロン、デキストラン、ポリアクロレイン等を含む粒子であってもよい。
【0033】
原料粒子は、好ましくはラテックス粒子である。ラテックス粒子は、ラテックス凝集法で使用される担体粒子をいう。ラテックス粒子は、公知のものを使用することができ、例えば、ポリスチレン系ラテックス粒子が挙げられる。ポリスチレン系ラテックス粒子の例として、スチレンとグリシジルメタクリレートとの共重合体から構成される粒子が挙げられる。
【0034】
(複合粒子の具体例)
複合粒子の一例を図1に示す。図1に示される複合粒子10は、検体中の抗原を検出又は定量するために使用される複合粒子である。複合粒子10は、
非金属からなる領域11aと金属からなる領域11bとを表面に有している球状の担体粒子11と、
担体粒子11に担持されかつ検出対象(すなわち抗原)に対して親和性を有する親和性物質(すなわち抗体)12と
から構成される。
【0035】
この例において「金属」および「非金属」は、上記で説明したとおりである。また、金属からなる領域11bの表面積は、担体粒子11の全表面積を1とした場合、例えば0.35~0.45である。このように、金属からなる領域11bの表面積を、非金属からなる領域11aの表面積よりやや小さくすると、複合粒子10の推進力を高めることができる。
【0036】
図1に示される複合粒子は、分散媒中で光照射されると、金属からなる領域11bの周りに存在する分散媒が、非金属からなる領域11aの周りに存在する分散媒より高温になるため、複合粒子の周りに存在する分散媒に効率良く温度勾配を生じさせることができる。
【0037】
図1に示される担体粒子は、分散媒中に分散させた際に、担体粒子が互いに金属領域側で引き寄せられ集合することがある。このような自己集合を避けるため、担体粒子の金属領域を有機ポリマーで表面修飾してもよい。有機ポリマーは、例えば、疎水性を有する有機ポリマーであり、具体的には、ポリエチレングリコール、グリシジルメタクリレートが挙げられる。
【0038】
複合粒子が、図1に示される複合粒子に限定されないことはいうまでもなく、担体粒子および親和性物質は、それぞれ、上記で説明した種々のバリエーションをとることができる。例えば、図1に示される金属からなる領域11bの中に、領域11aを構成する非金属と同じ非金属からなる1つの領域が存在することにより、担体粒子が3つの領域を表面に有していてもよい。あるいは、図1に示される金属からなる領域11bの中に、領域11bを構成する第1金属とは物性が異なる第2金属からなる1つの領域が存在することにより、担体粒子が3つの領域を表面に有していてもよい。
【0039】
(複合粒子の調製)
複合粒子は、担体粒子に親和性物質を担持させることにより調製することができる。担体粒子への親和性物質の担持は、ラテックス凝集法でラテックス粒子に親和性物質を担持させるのと同じ方法により行うことができる。例えば、親和性物質が抗体又は抗原である場合、物理吸着法、化学結合法等の常法を用いて、親和性物質を担体粒子に担持させることができる。あるいは、互いに親和性を有する物質(例えば、アビジン及びビオチン、グルタチオン及びグルタチオンSトランスフェラーゼ)を介して、親和性物質を担体粒子に担持させてもよい。
【0040】
親和性物質は、担体粒子の表面に均一に担持させてもよいし、担体粒子の特定の領域に選択的に担持させてもよい。親和性物質の選択的な担持は、担体粒子の特定の領域のみに予め官能基を結合させ、この官能基を介して親和性物質を担持させることにより行うことができる。
【0041】
親和性物質を選択的に担持させる場合、担体粒子が光照射により推進する先頭側の領域に、親和性物質を担持させることが好ましい。具体的には、熱伝導率が最も低い領域に親和性物質を担持させることが好ましい。図1に示される複合粒子10の場合、非金属からなる領域11aに親和性物質を担持させることが好ましい。
【0042】
親和性物質を、担体粒子の推進方向の先頭側の領域(図1では、非金属からなる領域11a)に選択的に親和性物質を担持させると、以下の利点を有する。
親和性物質は、担体粒子の推進方向の先頭側の領域に担持されているため、検出対象と接触する機会が増え、検出対象との結合反応を促進することができる。
【0043】
また、担体粒子の推進方向の先頭側の領域は、担体粒子の推進方向の後尾側の領域と比較して、光照射により高温にならないため、担体粒子の推進方向の先頭側の領域に選択的に親和性物質を担持させると、親和性物質の熱変性を防止することができる。
【0044】
更に、担体粒子の推進方向の先頭側の領域に選択的に親和性物質を担持させると、担体粒子の推進方向の後尾側の領域に親和性物質が存在しないため、担体粒子の推進方向の後尾側の領域から分散媒への熱伝導を妨げることなく、分散媒に効率良く温度勾配を生じさせることができる。
【0045】
「反応混合液」
反応混合液は、複合粒子および検体に加えて、緩衝液を液体成分として含むことができる。反応混合液の総量は、特に制限されないが、微量の検出対象を検出又は定量する場合には、例えば50~3000μL、好ましくは100~400μLとすることができる。
【0046】
反応混合液は、緩衝液と、複合粒子と、検体とを容器中で混合することにより調製することができる。例えば、反応混合液は、緩衝液と検体とを混合し、得られた中間混合液に複合粒子の分散液を添加することにより調製してもよい。
【0047】
1-2.光照射
この方法では、反応混合液に、担体粒子の表面に存在する2以上の領域の少なくとも1つが吸収可能な光を照射して、複合粒子と検出対象との結合を促進する。
【0048】
光は、担体粒子の表面に存在する2以上の領域の少なくとも1つが吸収可能な光であれば特に限定されない。光は、担体粒子の表面全体が吸収可能な光であってもよい。光は、複数波長の混在する光でもよいが、レーザー光が好ましい。光は、好ましくは赤外光、より好ましくは赤外レーザー光である。光は、例えば、Nd:YAGレーザー光(1064nm)である。
【0049】
レーザーの出力は、例えば、20~50mWである。レーザーの出力を変化させることにより、複合粒子の推進速度をコントロールすることができる。
【0050】
光は、連続的に照射してもよいし、照射と非照射とを繰り返すことにより間歇的に照射してもよい。また、光は、連続光またはパルス光の何れを照射しても、反応混合液中に存在する複合粒子の推進運動を引き起こすことができる。パルス光の場合、肉眼で点滅が認識できる程度の長周期のパルス光を採用してもよい。
【0051】
光源から反応容器までの距離は、例えば5mmとすることができる。反応容器の材質は、例えば、ガラス、ポリカーボネート、ポリスチレンとすることができる。
【0052】
光は、反応混合液の全体に照射してもよい。あるいは、光は、反応混合液中に存在する少なくとも一部の複合粒子の推進運動を引き起こして、反応混合液の液体部分の流動を引き起こすことができれば、反応混合液の一部に照射してもよい。例えば、レーザー光のビーム径は、光の進行方向に対して垂直な容器壁面の幅、約7mmに対して、1~3mmとすることができる。光は、1つの抗原を用いて反応混合液の1箇所に照射してもよいし、複数の光源を用いて反応混合液の複数箇所に照射してもよい。
【0053】
反応混合液に対する光のトータル照射時間は、例えば、検体との反応時間に対応する2~60分間である。
【0054】
担体粒子は、それ自体公知であり、物性が互いに異なる2以上の領域を表面に有しているため、光の照射の仕方で液体中の担体粒子の動きを制御できることも知られている。例えば、担体粒子は、特定の光照射の仕方により、液体中で分散させたり集合させたりできることが知られている。したがって、公知技術に従って、複合粒子を反応混合液中で分散させたり集合させたりして複合粒子の動きを制御し、これにより、複合粒子と検出対象との反応効率を高めてもよい。
【0055】
光照射を行った際の反応混合液中の様子の一例を図2に模式的に示す。図2において、検出対象20は、抗原であり、複合粒子10は、図1に示される複合粒子であり、担体粒子11と、担体粒子11に担持されかつ検出対象20に特異的に結合する抗体12とから構成される。
【0056】
検出対象20と複合粒子10とを含む反応混合液に光を照射すると、複合粒子10の周りに存在する分散媒(反応混合液の緩衝液)に局所的な温度勾配が生じる。具体的には、金属からなる領域11bが、非金属からなる領域11aと比べて、熱伝導率が高く、放熱し易いため、金属からなる領域11b付近の分散媒が、非金属からなる領域11a付近の分散媒より高温になる。この温度勾配のため、複合粒子10は、領域11b側から領域11a側に向かって、熱泳動現象により推進する。
【0057】
複合粒子10の推進運動により、検出対象20と、担体粒子11に担持された抗体12との結合反応は促進され、複合粒子10の凝集反応も促進される。複合粒子10と検出対象20との結合反応および凝集反応により、複合体(凝集物)30が形成される。複合粒子10は、複合体(凝集物)30の形態になると、複合体の質量が大きいため推進運動をすることはできない。
【0058】
1-3.検出または定量
検出対象の検出または定量は、複合粒子と検出対象とから構成される複合体(凝集物)の有無を判定することにより行うことができる。
【0059】
複合体の有無の判定は、例えば目視又は濁度測定で行うことができる。濁度は、例えば、測光装置により測定された透過光強度に基づく吸光度、又は測光装置により測定された散乱光強度に基づく散乱光量から算出される。濁度が高ければ複合体が凝集されており、検出物質の存在が示唆される。ここで、使用する光の波長は、担体粒子等の粒径等に応じ所望の検出感度が得られるよう適宜設定されてよい。光の波長は、従来汎用の装置を利用できる点で、近紫外から近赤外の範囲内(例えば、340~800nm)であることが好ましい。
【0060】
目視又は濁度測定は、一定の時点で断続的に行ってもよいし、経時的に連続して行ってもよい。また、ある時点における濁度測定値と、他の時点における濁度測定値との差に基づいて判定を行ってもよい。
【0061】
尚、検出又は定量方法における「濁度測定」には、濁度を直接的に測定することのみならず、濁度を反映するパラメータを測定することも包含される。かかるパラメータとしては、複数時点での濁度測定値の差異、分離された凝集物量、分離後の非凝集物の濁度等が挙げられる。
【0062】
検出対象の定量は、上記複合体に基づく濁度を測定し、検出対象の量と濁度との相関式に基づいて、検体中の検出対象の量を算出することにより行うことができる。
【0063】
検出対象の量と濁度との相関式は、予め作成しておく。この相関式を構成する検出対象の量と濁度との測定は、データが多い程に信頼性の高い相関式が得られる。そこでデータは、2以上の検出対象の量に関するものであればよく、3点以上の検出対象の量に関するものであることが好ましい。
【0064】
ここで、検出対象の量と濁度との相関式は、検出対象の量と濁度との直接的な相関を示す式のみならず、検出対象の量と濁度を反映するパラメータとの相関式であってもよい。
【0065】
濁度測定値を、作成した相関式に代入することによって、検体中の検出対象の量を算出できる。
【0066】
1-4.効果
上記方法によれば、複合粒子が推進運動をするため、検出対象と接触する機会が増大し、親和性物質と検出対象との結合反応を促進することができる。その結果、検体中の検出対象を迅速に検出又は定量することができる。
【0067】
従って、上記方法によれば、検出対象がごく微量であっても、検出精度を高めることができる。また、結合、凝集等の時間の短縮を図ることができる。更に、非常に狭い反応場であっても親和性物質と検出対象との結合を促進することができるので、従来のセル、ウェル等のみならず、例えば、マイクロ化学プロセス、マイクロ流路、マイクロリアクター等における反応等にも利用することができる。
【0068】
また、上記方法では、低エネルギーの光の照射により複合粒子が推進運動をし、これにより複合粒子が検出対象と接触する機会を増大させることができる。上記方法は、低エネルギーの光の照射により複合粒子が推進運動をすることができるため、複合粒子の周辺環境でキャビテーション(すなわち、液体の流れの中で圧力差により短時間に泡の発生と消滅が起きる物理現象)が起こらず、その結果、検体に対するダメージや反応生成物の分解を抑えることができる。
【0069】
1-5.好ましい実施形態
上記方法の好ましい実施形態を以下にまとめて示す。
[1]検体中の検出対象を検出又は定量する方法であって、
物性が互いに異なる2以上の領域を表面に有している担体粒子と、前記担体粒子に担持されかつ前記検出対象に対して親和性を有する親和性物質とを各々が含む複数の複合粒子、および
前記検体
を含む反応混合液に、前記2以上の領域の少なくとも1つが吸収可能な光を照射して、前記複合粒子と前記検出対象との結合を促進することと、
前記光を照射した前記反応混合液に対する測定を行うことにより、前記検出対象を検出又は定量することと
を含む方法。
[2]前記2以上の領域は、熱伝導率が互いに異なる[1]に記載の方法。
[3]前記2以上の領域の1以上は金属または炭素からなり、前記2以上の領域の残りは非金属からなる[1]または[2]に記載の方法。
[4]前記金属が金、銀、銅、または鉄である[3]に記載の方法。
[5]前記非金属が無機物またはポリマーである[3]または[4]に記載の方法。
[6]前記光が赤外光、好ましくは赤外レーザー光である[1]~[5]の何れか1に記載の方法。
[7]前記親和性物質が抗原または抗体である[1]~[6]の何れか1に記載の方法。
[8]前記2以上の領域が2つの領域である[1]~[7]の何れか1に記載の方法。
【0070】
2.複合粒子および試薬
別の側面によれば、検体中の検出対象を検出又は定量するために使用される複合粒子であって、
物性が互いに異なる2以上の領域を表面に有している担体粒子と、
前記担体粒子に担持されかつ前記検出対象に対して親和性を有する親和性物質と
を含む複合粒子が提供される。
【0071】
かかる複合粒子は、上述の「複合粒子」の欄の説明を参照することができる。複合粒子は、検体中の検出対象を検出又は定量する上記方法で使用することができる。
【0072】
また、別の側面によれば、検体中の検出対象を検出又は定量するための反応混合液を調製するための試薬であって、
各々が上記複合粒子である複数の分散粒子と、
前記複数の分散粒子が分散した分散媒と
を含む試薬が提供される。分散媒は、例えば、反応混合液を構成する緩衝液である。
【0073】
かかる試薬は、上述の「複合粒子」の欄で述べた複合粒子と、反応混合液を構成する緩衝液とを含む。試薬は、検体中の検出対象を検出又は定量するための反応混合液を調製するために使用することができる。具体的には、試薬は、検体と混合して反応混合液を調製することができる。
【実施例
【0074】
CRP(C反応性蛋白)を定量する方法を以下のとおり実施した。本実施例では、C反応性蛋白キットとして市販されている体外診断用医薬品 CRP オート「TBA」(キヤノンメディカルシステムズ株式会社)を利用した。
【0075】
・抗体結合粒子
例1(コントロール)では、キットに含まれるReagent 2(すなわち、抗ヒトCRPポリクローナル抗体結合ラテックス粒子の浮遊液)を使用した。
例2では、まずヤヌス粒子を下記のとおり作製し、得られたヤヌス粒子に抗ヒトCRPポリクローナル抗体(anti-CRP polyAb)を物理的に吸着させ、BSAでポストコートすることにより、抗ヒトCRPポリクローナル抗体結合ヤヌス粒子を調製した。この粒子を例1(コントロール)の粒子と同濃度で含む浮遊液を例2で使用した。
・測定対象
CRP標準液「TBA」Latex用(CRP濃度:2mg/dL、4mg/dL、8mg/dL)
【0076】
1.ヤヌス粒子の作製
[1-1.母粒子1の作製]
2gのスチレン(St:キシダ化学工業株式会社)と1.8gのグリシジルメタクリレート(GMA:東京化成工業株式会社)、0.04gのジビニルベンゼン(DVB:キシダ化学工業株式会社)、110gのイオン交換水を、300mlの4つ口フラスコに秤量して混合液1を調製した。
【0077】
混合液1を70℃に昇温した後に同温度に保持し、さらに、50ml/分の流量で窒素バブリングすることにより、前記4つ口フラスコ内を脱酸素した。
【0078】
0.06gのV-50(富士フイルム和光純薬株式会社)を10gのイオン交換水に、30mlナスフラスコに秤量して溶解液1を調製した。
【0079】
脱酸素した前記4つ口フラスコ内に溶解液1を投入することにより、混合液1と溶解液1の混合液2を調製した。混合液2を70℃に保持したまま200rpmで撹拌することで、ソープフリー乳化重合を開始させた。
【0080】
重合開始から2時間後、前記4つ口フラスコ内に0.3gのGMAを投入することにより、混合液3を調製した。混合液3を、さらに22時間、70℃に保持したまま200rpmで撹拌することで、StとGMAの共重合体粒子(以下、母粒子1と表現する)の分散液1を得た。
【0081】
分散液1をイオン交換水にて遠心精製した後、終濃度10.0wt%に調整して分散液2を得た。分散液2を、この状態で、遮光条件下、4℃にて保管した。
【0082】
母粒子1の水中粒径を動的光散乱法にて評価したところ、その重量平均粒径は200nmであった。
【0083】
[1-2.ヤヌス粒子の作製]
[工程1:シリコンウェハー上に母粒子1の単層粒子膜1を形成する工程]
重量平均粒径が5nmのシリカ粒子と、母粒子1とをイオン交換水中に共分散し、シリカ粒子濃度が1.84vol%、母粒子濃度が4.60vol%である混合液4を調製した。
【0084】
スピンコートにより、洗浄したシリコンウェハー(洗浄条件:120℃、10分間のオゾンアッシング)上に混合液4を塗布し、前記シリコンウェハー上に母粒子の単層粒子膜1を形成した。スピンコート条件は下記の通りとした。混合液4を前記シリコンウェハー上に滴下した後、1800 rpmで30秒間回転し、さらに続けて2000 rpmで30秒間回転した。
【0085】
単層粒子膜1を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、母粒子1の一部がシリカ粒子マトリクスから露出している様子が観察された。
【0086】
[工程2:単層粒子膜1の露出部分を改質する工程]
800mgのメルカプトこはく酸(富士フイルム和光純薬株式会社)と4.28mlの3-メルカプト-1,2-プロパンジオール(富士フイルム和光純薬株式会社)、500gのイオン交換水を、2000mlビーカーに秤量し、さらに所定量のトリエチルアミン(キシダ化学株式会社)を投入してpH10の溶解液2を調製した。
【0087】
単層粒子膜1を溶解液2に浸漬し、70℃に昇温した状態で18時間保持した。これにより、単層粒子膜1を構成する母粒子1の露出部分のGMA由来エポキシ基と、メルカプトこはく酸、及び、3-メルカプト-1,2-プロパンジオールとを化学反応(改質)して、単層粒子膜2を得た。
【0088】
500gのイオン交換水を遮光した2000mlビーカーに秤量し、ここに単層粒子膜2を浸漬し、この状態で、単層粒子膜2を保管した。
【0089】
[工程3:単層粒子膜2の改質部分をさらに改質する工程]
500mlの塩化鉄(II)水溶液を2000mlビーカーに秤量し、ここに単層粒子膜2を浸漬し、この状態で2時間、室温にて静置した。これにより、単層粒子膜2の改質部分に鉄イオンを吸蔵させて、単層粒子膜3を得た。
【0090】
0.1NaOH水溶液を用いてpH9に調整したアルカリ水溶液を2000mlビーカーに秤量し、ここにイオン交換水を用いて洗浄した単層粒子膜3を浸漬した。これにより、前記吸蔵された鉄イオンをマグネタイトに化学変換して、単層粒子膜4を得た。なお、前記マグネタイトは、単層粒子膜3のメルカプトこはく酸由来カルボキシル基と配位結合して、酸化物ナノ粒子の性状を有する。
【0091】
500gのイオン交換水を遮光した2000mlビーカーに秤量し、ここに単層粒子膜4を浸漬し、この状態で、単層粒子膜4を保管した。
【0092】
[工程4:母粒子2を得る工程]
単層粒子膜4をフッ酸溶液に浸漬し、シリカ粒子マトリクスを除去して、単層粒子膜5を得た。さらに、単層粒子膜5をイオン交換水に浸漬し、超音波を30分間照射することにより、単層粒子膜5をシリコンウェハーから剥離、分散し、母粒子2を得た。
【0093】
母粒子2をイオン交換水にて遠心精製して分散液3を得た。分散液3を、遮光条件下、4℃にて保管した。
工程1から工程4までを繰り返し、下記工程5に必要な母粒子2の分量を確保した。
【0094】
[工程5:ヤヌス粒子を得る工程]
2.5wt%の母粒子2の水分散液と、0.03gのイオン交換水と、0.4mgのメルカプトこはく酸(富士フイルム和光純薬株式会社)と、0.002mlの3-メルカプト-1,2-プロパンジオール(富士フイルム和光純薬株式会社)を、2mlマイクロチューブに秤量し、混合液5を調製した。
【0095】
混合液5に所定量のトリエチルアミン(キシダ化学株式会社)を加えてpH10に調整した後、前記マイクロチューブを70℃のインキュベーター中で18時間、振とうしながら保持した。これにより、母粒子2のGMA由来の残存エポキシ基と、メルカプトこはく酸、及び、3-メルカプト-1,2-プロパンジオールとを化学反応(改質)して、ヤヌス粒子を得た。得られたヤヌス粒子は、鉄の金属領域と、スチレンとグリシジルメタクリレートの共重合体の非金属領域とを表面に有している。
【0096】
ヤヌス粒子をイオン交換水にて遠心精製した後、終濃度1.0wt%に調整して分散液4を得た。分散液4を、この状態で、遮光条件下、4℃にて保管した。
【0097】
2.吸光度の測定
[2-1.測定装置]
ディスクリート式臨床化学自動分析装置 TBA-120FR(キヤノンメディカルシステムズ株式会社)
【0098】
[2-2.アッセイパラメーター]
Sample(2 mg/dL、4 mg/dL、または8 mg/dLのCRP標準液);3.0μL
Reagent 1(緩衝液);150μL
Reagent 2(抗ヒトCRPポリクローナル抗体結合ラテックス粒子の浮遊液、または抗ヒトCRPポリクローナル抗体結合ヤヌス粒子の浮遊液);150μL
測光波長(572nm) 反応曲線取得
【0099】
[2-3.試験プロトコール]
例1(ラテックス粒子およびピエゾ攪拌)
サンプル分注プローブにより、Sample(2 mg/dLのCRP標準液、4 mg/dLのCRP標準液、または8 mg/dLのCRP標準液の何れか)を反応容器(ガラス管)へ分注した。Sampleが分注された反応容器へ第1試薬分注プローブによりReagent 1(緩衝液、以下R1という)を分注し、攪拌ユニットに設けられたピエゾ攪拌子により攪拌した。攪拌ユニットによる攪拌から所定時間経過後、第2試薬分注プローブにより、SampleとR1の中間混合液を収容する反応容器へReagent 2(抗ヒトCRPポリクローナル抗体結合ラテックス粒子の浮遊液、以下R2という)を分注し、攪拌ユニットにより攪拌した。
【0100】
攪拌ユニットによる攪拌後、Sample、R1、およびR2からなる反応混合液が収容される反応容器へ、測光ユニットに設けられた光源から光を照射し、反応容器を透過した光を光検出器で検出した。検出は、9分間にわたって30秒毎に行った。検出した透過光の強度に基づき、吸光度を算出し、検出開始時点の吸光度に対する変化量を算出した。
【0101】
結果を図3に示す。図3において、曲線C1が、2 mg/dLのCRP標準液を使用した場合の結果を表し、曲線C3が、4 mg/dLのCRP標準液を使用した場合の結果を表し、曲線C5が、8 mg/dLのCRP標準液を使用した場合の結果を表す。
【0102】
例2(ヤヌス粒子および光照射)
サンプル分注プローブにより、Sample(2 mg/dLのCRP標準液、4 mg/dLのCRP標準液、または8 mg/dLのCRP標準液の何れか)を反応容器(ガラス管)へ分注した。Sampleが分注された反応容器へ第1試薬分注プローブによりReagent 1(緩衝液、以下R1という)を分注し、得られた中間混合液を攪拌ユニットにより攪拌しなかった。R1を分注してから所定時間経過後、第2試薬分注プローブにより、中間混合液を収容する反応容器へReagent 2(抗ヒトCRPポリクローナル抗体結合ヤヌス粒子の浮遊液、以下R2という)を分注し、得られた反応混合液を攪拌ユニットにより攪拌せず、反応容器の測光ポイントよりも下の領域にパルスレーザー光(YAGレーザー、パルスエネルギー:50~400mJ、波長:1064nm、ビーム径:2 mm、光源から反応容器までの距離:5 mm)を9分間照射した。
【0103】
Sample、R1、およびR2からなる反応混合液が収容される反応容器へ、測光ユニットに設けられた光源から光を照射し、反応容器を透過した光を光検出器で検出した。検出は、パルスレーザー光の照射期間(9分間)にわたって30秒毎に行った。但し、検出時は、パルスレーザー光の照射は停止した。検出した透過光の強度に基づき、吸光度を算出し、検出開始時点の吸光度に対する変化量を算出した。
【0104】
結果を図3に示す。図3において、曲線C2が、2 mg/dLのCRP標準液を使用した場合の結果を表し、曲線C4が、4 mg/dLのCRP標準液を使用した場合の結果を表し、曲線C6が、8 mg/dLのCRP標準液を使用した場合の結果を表す。
【0105】
[2-4.結果]
図3に示すとおり、CRP濃度が2 mg/dL、4 mg/dL、8 mg/dLのいずれの場合においても、担体粒子としてヤヌス粒子を使用し光照射を行った場合、担体粒子としてラテックス粒子を使用しピエゾ攪拌を行った場合と比べて、明らかな反応促進効果が認められた。
【符号の説明】
【0106】
10…複合粒子、11…担体粒子、11a…非金属からなる領域、11b…金属からなる領域、12…親和性物質、20…検出対象、30…複合体
図1
図2
図3