(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】能動型騒音制御システム
(51)【国際特許分類】
G10K 11/178 20060101AFI20240624BHJP
【FI】
G10K11/178 140
(21)【出願番号】P 2020115461
(22)【出願日】2020-07-03
【審査請求日】2023-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099748
【氏名又は名称】佐藤 克志
(74)【代理人】
【識別番号】100103171
【氏名又は名称】雨貝 正彦
(74)【代理人】
【識別番号】100105784
【氏名又は名称】橘 和之
(74)【代理人】
【識別番号】100098497
【氏名又は名称】片寄 恭三
(72)【発明者】
【氏名】田地 良輔
(72)【発明者】
【氏名】梶川 嘉延
【審査官】金子 秀彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/106748(WO,A1)
【文献】特開2019-028466(JP,A)
【文献】特開2020-012917(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/178
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
騒音を低減する能動型騒音制御システムであって、
座席に着座したユーザの頭部の位置を検出する頭部検出手段と、
切替制御手段と、
騒音キャンセル音を出力するスピーカと、
エラー信号を検出するマイクと、
相互に異なる複数の騒音キャンセル位置に対応した、当該補助フィルタが対応する騒音キャンセル位置とマイクとの位置の差が補償されるように当該マイクで検出したエラー信号を補正する補正信号を、騒音を表す騒音信号から生成し出力する複数の補助フィルタと、
前記マイクの出力であるエラー信号を、いずれかの前記補助フィルタが出力した補正信号で補正し補正後エラー信号として出力するエラー補正手段と、
前記エラー補正手段が出力する補正後エラー信号を用いた適応動作を行って、前記騒音信号から前記スピーカから出力する騒音キャンセル音を生成する適応フィルタとを有し、
前記切替制御手段は、前記頭部検出手段が検出した頭部の位置に、対応する騒音キャンセル位置が整合する補助フィルタが出力する補正信号を用いた前記エラー信号の補正を、前記エラー補正手段に行わせ、
前記複数の補助フィルタに対応する複数の騒音キャンセル位置は、座席に着座したときに、正立して正面を向いた頭部の位置が左右方向について座席中央の位置に上下前後方向について所定の範囲内の任意の位置となるユーザが、頭部の回旋、側屈により頭部を移動し得る空間内にのみ、所定の間隔で配置した複数の位置であることを特徴とする能動型騒音制御システム。
【請求項2】
騒音を低減する能動型騒音制御システムであって、
座席に着座したユーザの左右の耳の位置を検出する頭部検出手段と、
切替制御手段と、
右耳用騒音制御系統と左耳用騒音制御系統との二つの騒音制御系統とを有し、
各騒音制御系統は、
騒音キャンセル音を出力するスピーカと、
エラー信号を検出するマイクと、
相互に異なる複数の騒音キャンセル位置に対応した、当該補助フィルタが対応する騒音キャンセル位置とマイクとの位置の差が補償されるように当該マイクで検出したエラー信号を補正する補正信号を、騒音を表す騒音信号から生成し出力する複数の補助フィルタと、
前記マイクの出力であるエラー信号を、いずれかの前記補助フィルタが出力した補正信号で補正し補正後エラー信号として出力するエラー補正手段と、
前記右耳用騒音制御系統の前記エラー補正手段が出力する補正後エラー信号と左耳用騒音制御系統の前記エラー補正手段が出力する補正後エラー信号を用いた適応動作を行って、前記騒音信号から前記スピーカから出力する騒音キャンセル音を生成する適応フィルタとを有し、
前記切替制御手段は、前記頭部検出手段が検出した右耳の位置に、対応する騒音キャンセル位置が整合する補助フィルタが出力する補正信号を用いた前記エラー信号の補正を、前記右耳用騒音制御系統の前記エラー補正手段に行わせ、前記頭部検出手段が検出した左耳の位置に、対応する騒音キャンセル位置が整合する補助フィルタが出力する補正信号を用いた前記エラー信号の補正を、前記左耳用騒音制御系統の前記エラー補正手段に行わせ、
前記右耳用騒音制御系統の前記複数の補助フィルタに対応する複数の騒音キャンセル位置は、座席に着座したときに、正立して正面を向いた頭部の位置が左右方向について座席中央の位置に上下前後方向について所定の範囲内の任意の位置となるユーザが、頭部の回旋、側屈により、右耳を移動し得る空間である右耳対象空間の内にのみ、所定の間隔で配置した複数の位置であり、
前記左耳用騒音制御系統の前記複数の補助フィルタに対応する複数の騒音キャンセル位置は、座席に着座したときに、正立して正面を向いた頭部の位置が左右方向について座席中央の位置に上下前後方向について所定の範囲内の任意の位置となるユーザが、頭部の回旋、側屈により、左耳を移動し得る空間である左耳対象空間の内にのみ、所定の間隔で配置した複数の位置であることを特徴とする能動型騒音制御システム。
【請求項3】
請求項2記載の能動型騒音制御システムであって、
前記右耳対象空間は、左右方向について座席中央の位置に上下前後方向について前記所定の範囲内のいずれかの位置にある頭部の右耳の位置にある点を、当該位置にある頭部の回旋軸まわりに、回旋可能角度範囲内の所定の角度範囲回転させた軌跡として得られる線を、当該位置にある頭部の側屈軸のまわりに側屈可能角度範囲内の所定の角度範囲回転させた軌跡として得られる面を、前記所定の範囲内の正立して正面を向いた頭部の上下前後方向の移動に伴って右耳が上下前後方向に移動する範囲内で移動させた軌跡として得られる立体の空間であり、
前記左耳対象空間は、左右方向について座席中央の位置に上下前後方向について前記所定の範囲内のいずれかの位置にある頭部の左耳の位置にある点を、当該位置にある頭部の回旋軸まわりに、回旋可能角度範囲内の所定の角度範囲回転させた軌跡として得られる線を、当該位置にある頭部の側屈軸のまわりに側屈可能角度範囲内の所定の角度範囲回転させた軌跡として得られる面を、前記所定の範囲内の正立して正面を向いた頭部の上下前後方向の移動に伴って左耳が上下前後方向に移動する範囲内で移動させた軌跡として得られる立体の空間であることを特徴とする能動型騒音制御システム。
【請求項4】
請求項1、2または3記載の能動型騒音制御システムであって、
前記所定の間隔は、当該能動型騒音制御システムがキャンセルの対象とする騒音の上限周波数の波長の1/10の距離の間隔であることを特徴とする能動型騒音制御システム。
【請求項5】
請求項1、2、3または4記載の能動型騒音制御システムであって、
前記座席は、自動車の座席であることを特徴とする能動型騒音制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、騒音を打ち消す騒音キャンセル音を放射することにより騒音を低減する能動型騒音制御(ANC;Active Noise Control)の技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
騒音を打ち消す騒音キャンセル音を放射することにより騒音を低減する能動型騒音制御の技術としては、騒音キャンセル位置の近傍に配置したマイクとスピーカと、騒音源の出力信号もしくは当該出力信号を疑似した信号に適応的に設定した伝達関数を施して、スピーカから出力する騒音キャンセル音を生成する適応フィルタとを設け、適応フィルタにおいて、マイクの出力を補助フィルタを用いて補正した信号をエラー信号として伝達関数を適応的に設定する技術が知られている(たとえば特許文献1)。
【0003】
ここで、この技術では、補助フィルタには、予め学習した、騒音源から騒音キャンセル位置までの伝達関数と騒音源からマイクまでの伝達関数の差と、スピーカから騒音キャンセル位置までの伝達関数とスピーカからマイクまでの伝達関数の差を補正する伝達関数が設定されており、このような補助フィルタを用いることにより、マイクの位置と異なる騒音キャンセル位置において、騒音をキャンセルしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した補助フィルタを用いてマイクの位置と異なる騒音キャンセル位置において騒音をキャンセルする技術を用いてユーザに聞こえる騒音をキャンセルする場合、ユーザの変位に伴って、ユーザの頭部が騒音キャンセル位置からずれてしまうと、ユーザに聞こえる騒音を良好にキャンセルできなくなる場合がある。
【0006】
そこで、異なる複数の騒音キャンセル位置について学習した補助フィルタを複数設け、ユーザの頭部の変位に伴って、頭部の位置に、対応する騒音キャンセル位置について伝達関数を学習した補助フィルタに、使用する補助フィルタを切り替えることにより、ユーザの頭部の変位によらずにユーザに聞こえる騒音をキャンセルすることが考えられる。
【0007】
しかし、ユーザの頭部の標準的な位置の周辺の3次元の領域内の全てにおいて騒音を良好にキャンセルできるようにする場合には、騒音キャンセル位置を多数設定することが必要となり、補助フィルタの数が過大となる。
【0008】
そこで、本発明は、比較的簡易な構成において、ユーザの頭部の変位によらずに騒音をキャンセルできる能動型騒音制御システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題達成のために、本発明は、騒音を低減する能動型騒音制御システムに、座席に着座したユーザの頭部の位置を検出する頭部検出手段と、切替制御手段と、騒音キャンセル音を出力するスピーカと、エラー信号を検出するマイクと、相互に異なる複数の騒音キャンセル位置に対応した、当該補助フィルタが対応する騒音キャンセル位置とマイクとの位置の差が補償されるように当該マイクで検出したエラー信号を補正する補正信号を、騒音を表す騒音信号から生成し出力する複数の補助フィルタと、前記マイクの出力であるエラー信号を、いずれかの前記補助フィルタが出力した補正信号で補正し補正後エラー信号として出力するエラー補正手段と、前記エラー補正手段が出力する補正後エラー信号を用いた適応動作を行って、前記騒音信号から前記スピーカから出力する騒音キャンセル音を生成する適応フィルタとを設けたものである。ここで、前記切替制御手段は、前記頭部検出手段が検出した頭部の位置に、対応する騒音キャンセル位置が整合する補助フィルタが出力する補正信号を用いた前記エラー信号の補正を、前記エラー補正手段に行わせる。また、前記複数の補助フィルタに対応する複数の騒音キャンセル位置は、座席に着座したときに、正立して正面を向いた頭部の位置が左右方向について座席中央の位置に上下前後方向について所定の範囲内の任意の位置となるユーザが、頭部の回旋、側屈により頭部を移動し得る空間内にのみ、所定の間隔で配置した複数の位置とする。
【0010】
また、前記課題達成のために、本発明は、騒音を低減する能動型騒音制御システムに、席に着座したユーザの左右の耳の位置を検出する頭部検出手段と、切替制御手段と、右耳用騒音制御系統と左耳用騒音制御系統との二つの騒音制御系統とを備えたものである。ここで、各騒音制御系統は、騒音キャンセル音を出力するスピーカと、エラー信号を検出するマイクと、相互に異なる複数の騒音キャンセル位置に対応した、当該補助フィルタが対応する騒音キャンセル位置とマイクとの位置の差が補償されるように当該マイクで検出したエラー信号を補正する補正信号を、騒音を表す騒音信号から生成し出力する複数の補助フィルタと、前記マイクの出力であるエラー信号を、いずれかの前記補助フィルタが出力した補正信号で補正し補正後エラー信号として出力するエラー補正手段と、前記右耳用騒音制御系統の前記エラー補正手段が出力する補正後エラー信号と左耳用騒音制御系統の前記エラー補正手段が出力する補正後エラー信号を用いた適応動作を行って、前記騒音信号から前記スピーカから出力する騒音キャンセル音を生成する適応フィルタとを備えている。また、前記切替制御手段は、前記頭部検出手段が検出した右耳の位置に、対応する騒音キャンセル位置が整合する補助フィルタが出力する補正信号を用いた前記エラー信号の補正を、前記右耳用騒音制御系統の前記エラー補正手段に行わせ、前記頭部検出手段が検出した左耳の位置に、対応する騒音キャンセル位置が整合する補助フィルタが出力する補正信号を用いた前記エラー信号の補正を、前記左耳用騒音制御系統の前記エラー補正手段に行わせる。そして、前記右耳用騒音制御系統の前記複数の補助フィルタに対応する複数の騒音キャンセル位置は、座席に着座したときに、正立して正面を向いた頭部の位置が左右方向について座席中央の位置に上下前後方向について所定の範囲内の任意の位置となるユーザが、頭部の回旋、側屈により、右耳を移動し得る空間である右耳対象空間の内にのみ、所定の間隔で配置した複数の位置とし、前記左耳用騒音制御系統の前記複数の補助フィルタに対応する複数の騒音キャンセル位置は、座席に着座したときに、正立して正面を向いた頭部の位置が左右方向について座席中央の位置に上下前後方向について所定の範囲内の任意の位置となるユーザが、頭部の回旋、側屈により、左耳を移動し得る空間である左耳対象空間の内にのみ、所定の間隔で配置した複数の位置とする。
【0011】
また、このような能動型騒音制御システムにおいて、前記右耳対象空間を、左右方向について座席中央の位置に上下前後方向について前記所定の範囲内のいずれかの位置にある頭部の右耳の位置にある点を、当該位置にある頭部の回旋軸まわりに、回旋可能角度範囲内の所定の角度範囲回転させた軌跡として得られる線を、当該位置にある頭部の側屈軸のまわりに側屈可能角度範囲内の所定の角度範囲回転させた軌跡として得られる面を、前記所定の範囲内の正立して正面を向いた頭部の上下前後方向の移動に伴って右耳が上下前後方向に移動する範囲内で移動させた軌跡として得られる立体の空間とし、前記左耳対象空間を、左右方向について座席中央の位置に上下前後方向について前記所定の範囲内のいずれかの位置にある頭部の左耳の位置にある点を、当該位置にある頭部の回旋軸まわりに、回旋可能角度範囲内の所定の角度範囲回転させた軌跡として得られる線を、当該位置にある頭部の側屈軸のまわりに側屈可能角度範囲内の所定の角度範囲回転させた軌跡として得られる面を、前記所定の範囲内の正立して正面を向いた頭部の上下前後方向の移動に伴って左耳が上下前後方向に移動する範囲内で移動させた軌跡として得られる立体の空間としてもよい。
【0012】
以上のような能動型騒音制御システムによれば、補助フィルタを設ける騒音キャンセル位置を、ユーザの頭部や耳が位置し得る範囲内の位置に限定することができるので、比較的少ない数の補助フィルタを設けるのみで、ユーザの頭部の変位によらずに騒音をキャンセルできる。
【0013】
ここで、以上のような能動型騒音制御システムにおいて、前記所定の間隔は、当該能動型騒音制御システムがキャンセルの対象とする騒音の上限周波数の波長の1/10の距離の間隔とすることが望ましい。
【0014】
このようにすることにより、騒音キャンセル位置、補助フィルタの数を、おおよそユーザの頭部の変位によらずに騒音を良好にキャンセルできる範囲内において、最小の数とすることができる。
【0015】
また、このような能動型騒音制御システムにおいて、前記座席は、自動車の座席であってよい。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明によれば、比較的簡易な構成において、ユーザの頭部の変位によらずに騒音をキャンセルできる能動型騒音制御システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係る能動型騒音制御システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る能動型騒音制御システムのスピーカとマイクの配置を示す図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る信号処理ブロックの構成を示すブロック図である。
【
図4】本発明の実施形態に係るポイントセットの設定法を示す図である。
【
図5】本発明の実施形態に係るポイントセットの設定法を示す図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る補助フィルタの伝達関数の学習の構成を示すブロック図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る補助フィルタの伝達関数の学習の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1に、本実施形態に係る能動型騒音制御システムの構成を示す。
図示するように能動型騒音制御システム1は、信号処理ブロック11、第1スピーカ12、第1マイク13、第2スピーカ14、第2マイク15、コントローラ16、近赤外線カメラ等によりユーザの頭部の位置や姿勢などの状態を検知するDMS17(Driver Monitoring System17)を備えている。
【0019】
そして、本実施形態に係る能動型騒音制御システム1は、自動車に搭載されるシステムであり、騒音キャンセルの対象とする自動車の座席である騒音キャンセル対象座席に着座したユーザの標準的な右耳の位置を第1キャンセルポイント、ユーザの標準的な左耳の位置を第2キャンセルポイントとして、2つのキャンセルポイントのそれぞれにおいて騒音源の発生する騒音をキャンセルするシステムである。
【0020】
ここで、
図2a1、a2に示すように、第1スピーカ12と第1マイク13は、騒音キャンセル対象座席(図では運転席)のヘッドレストの、当該座席に着座したユーザの右耳の標準的な位置の近傍となる位置に配置し、第2スピーカ14と第2マイク15は、騒音キャンセルの対象とするユーザの座席のヘッドレストの、当該座席に着座したユーザの左耳の標準的な位置の近傍となる位置に配置する。
【0021】
または、
図2b1、b2に示すように、第1スピーカ12を、自動車の車室の天井の、騒音キャンセル対象座席に着座したユーザの右耳の標準的な位置の前上方の位置に配置し、第2スピーカ14を、車室の天井の、騒音キャンセル対象座席に着座したユーザの左耳の標準的な位置の前上方の位置に配置し、第1マイク13を、ユーザの前方の天井の、第1スピーカ12の右側の、第1スピーカ12よりも騒音キャンセル対象座席よりの位置に配置し、第2マイク15をユーザの前方の天井の、第2スピーカ14の左側の、第2スピーカ14よりも騒音キャンセル対象座席よりの位置に配置するようにしてもよい。なお、このように第1スピーカ12、第2スピーカ14を天井に配置する場合、第1スピーカ12、第2スピーカ14としては、超指向性のパラメトリックスピーカを用いるようにしてもよい。
【0022】
図1に戻り、信号処理ブロック11は、それぞれ、騒音源の発生する騒音を表す騒音信号x(n)と、第1マイク13でピックアップした音声信号である第1マイクエラー信号err1(n)と、第2マイク15でピックアップした音声信号である第2マイクエラー信号err2(n)とを用いて、第1キャンセル信号CA1(n)を生成し第1スピーカ12から出力すると共に、第2キャンセル信号CA2(n)を生成し第2スピーカ14から出力する。
【0023】
そして、第1スピーカ12から出力される第1キャンセル信号CA1(n)と第2スピーカ14から出力される第2キャンセル信号CA2(n)によって、第1キャンセルポイントと第2キャンセルポイントにおいて騒音源の発生する騒音がキャンセルされる。
【0024】
次に、
図3に示すように、信号処理ブロック11は、主として、第1キャンセル信号CA1(n)の生成に関わる処理を行う第1系信号処理部111と、主として、第2キャンセル信号CA2(n)の生成に関わる処理を行う第2系信号処理部112とを備えている。
【0025】
そして、第1系信号処理部111は、第1系可変フィルタ1111、第1系適応アルゴリズム実行部1112、予め伝達関数S11^(z)が設定された第1系第1推定フィルタ1113、予め伝達関数S21^(z)が設定された第1系第2推定フィルタ1114、第1系減算器1115、予め伝達関数H1_i(z)が設定されたn個の第1系補助フィルタ1116、n個の第1系補助フィルタ1116の出力のいずれか一つを選択して出力する第1系セレクタ1117を備えている。但し、iは1からnの整数であり、伝達関数H1_i(z)は、i番目の第1系補助フィルタ1116の伝達関数であることを表している。
【0026】
このような第1系信号処理部111の構成において、入力した騒音信号x(n)は、第1系可変フィルタ1111を通って第1キャンセル信号CA1(n)として第1スピーカ12に出力される。
【0027】
また、入力した騒音信号x(n)は各第1系補助フィルタ1116を通って第1系セレクタ1117に送られ、第1系セレクタ1117は、いずれかの第1系補助フィルタ1116の出力を選択して、第1系減算器1115に出力する。第1系減算器1115は第1マイク13でピックアップした第1マイクエラー信号err1(n)から、第1系セレクタ1117の出力を減算し、エラーe1として、第1系適応アルゴリズム実行部1112と、第2系信号処理部112に出力する。
【0028】
次に、第1系可変フィルタ1111と第1系適応アルゴリズム実行部1112と第1系第1推定フィルタ1113と第1系第2推定フィルタ1114はMultiple Error Filtered-X適応フィルタを構成している。第1系第1推定フィルタ1113には、実測等により算定した第1系信号処理部111から第1マイク13までの伝達関数S11(z)の推定伝達特性S11^(z)が予め設定されており、第1系第1推定フィルタ1113は、伝達特性S11^(z)を入力した騒音信号x(n)に畳み込んで、第1系適応アルゴリズム実行部1112に入力する。また、第1系第2推定フィルタ1114には、実測等により算定した第1系信号処理部111から第2マイク15までの伝達関数を表す伝達特性S21(z)の推定伝達特性S21^(z)が予め設定されており、第1系第2推定フィルタ1114は、伝達特性S21^(z)を入力した騒音信号x(n)に畳み込んで、第1系適応アルゴリズム実行部1112に入力する。
【0029】
そして、第1系適応アルゴリズム実行部1112は、第1系第1推定フィルタ1113で伝達関数S11^(z)が畳み込まれた騒音信号x(n)と、第1系第2推定フィルタ1114で伝達関数S21^(z)が畳み込まれた騒音信号x(n)と、第1系減算器1115から出力されるエラーe1と、第2系信号処理部112から出力されるエラーe2を入力として、NLMSなどの適応アルゴリズムを実行し、エラーe1、エラーe2が0となるように第1系可変フィルタ1111の係数を更新し、伝達関数W1(z)を適応させる。
【0030】
第2系信号処理部112も第1系信号処理部111と同様の構成を備えており、第2系信号処理部112は、第2系可変フィルタ1121、第2系適応アルゴリズム実行部1122、予め伝達関数S22^(z)が設定された第2系第1推定フィルタ1123、予め伝達関数S12^(z)が設定された第2系第2推定フィルタ1124、第2系減算器1125、予め伝達関数H2_i(z)が設定されたn個の第2系補助フィルタ1126、n個の第2系補助フィルタ1126の出力のいずれか一つを選択して出力する第2系セレクタ1127を備えている。但し、iは1からnの整数であり、伝達関数H2_i(z)は、i番目の第2系補助フィルタ1126の伝達関数であることを表している。
【0031】
このような第2系信号処理部112の構成において、入力した騒音信号x(n)は、第2系可変フィルタ1121を通って第2キャンセル信号CA2(n)として第2スピーカ14に出力される。
【0032】
また、入力した騒音信号x(n)は各第2系補助フィルタ1126を通って第2系セレクタ1127に送られ、第2系セレクタ1127は、いずれかの第2系補助フィルタ1126の出力を選択して、第2系減算器1125に出力する。第2系減算器1125は第2マイク15でピックアップした第2マイクエラー信号err2(n)から、第2系セレクタ1127の出力を減算し、エラーe2として、第2系適応アルゴリズム実行部1122と、第1系信号処理部111に出力する。
【0033】
次に、第2系可変フィルタ1121と第2系適応アルゴリズム実行部1122と第2系第1推定フィルタ1123と第2系第2推定フィルタ1124はMultiple Error Filtered-X適応フィルタを構成している。第2系第1推定フィルタ1123には、実測等により算定した第2系信号処理部112から第2マイク15までの伝達関数S22(z)の推定伝達特性S22^(z)が予め設定されており、第2系第1推定フィルタ1123は、伝達特性S22^(z)を入力した騒音信号x(n)に畳み込んで、第2系適応アルゴリズム実行部1122に入力する。また、第2系第2推定フィルタ1124には、実測等により算定した第2系信号処理部112から第1マイク13までの伝達関数を表す伝達特性S12(z)の推定伝達特性S12^(z)が予め設定されており、第2系第2推定フィルタ1124は、伝達特性S12^(z)を入力した騒音信号x(n)に畳み込んで、第2系適応アルゴリズム実行部1122に入力する。
【0034】
そして、第2系適応アルゴリズム実行部1122は、第2系第1推定フィルタ1123で伝達関数S22^(z)が畳み込まれた騒音信号x(n)と、第2系第2推定フィルタ1124で伝達関数S12^(z)が畳み込まれた騒音信号x(n)と、第2系減算器1125から出力されるエラーe2と、第1系信号処理部111から出力されるエラーe1を入力として、NLMSなどの適応アルゴリズムを実行し、エラーe1、エラーe2が0となるように第2系可変フィルタ1121の係数を更新し伝達関数W2(z)を適応させる。
【0035】
さて、予め、能動型騒音制御システム1に対して、一つの第1キャンセルポイントと一つの第2キャンセルポイントの対であるポイントセットがn個設定されており、第1系信号処理部111のi番目の第1系補助フィルタ1116は、i番目のポイントセットの第1キャンセルポイントに、第2系信号処理部112i番目の第2系補助フィルタ1126はi番目のポイントセットの第2キャンセルポイントに対応している。
【0036】
また、ユーザの頭部の位置と姿勢の組み合わせを頭部状態として、各ポイントセットは相互に異なる頭部状態に対応して設定されており、第1キャンセルポイントは当該第1キャンセルポイントが属するポイントセットに対応する頭部状態における右耳の位置に相当し、第2キャンセルポイントは当該第2キャンセルポイントが属するポイントセットに対応する頭部状態におけるある左耳の位置に相当する。
【0037】
また、ポイントセットに対応する頭部状態は、次のように定められている。
まず、騒音キャンセル対象座席に着座したユーザの正立して正面を向いた頭部がおおよそ位置し得る前後方向の範囲を、ユーザ毎の着座位置や着座姿勢の相違を考慮して求め、
図4aに示すユーザの頭部の前後方向の存在範囲Yとして設定する。また、騒音キャンセル対象座席に着座したユーザの正立して正面を向いた頭部がおおよそ位置し得る上下方向の範囲を、ユーザ毎の座高や着座姿勢の相違を考慮して求め、
図4bに示すユーザの頭部の上下方向の存在範囲Zとして設定する。但し、頭部の前後方向の位置としては、耳の前後方向の位置を用い、頭部の上下方向の位置は、耳の上下方向の位置を用いる。
【0038】
また、騒音キャンセル対象座席に着座したユーザの頭部がおおよそ上下方向の軸周りに回旋し得る角度範囲を、前方を向いた人体が頭部を自然に回旋し得る範囲を考慮して、
図4cに示す自動車の上下方向の軸周りの角度範囲θとして設定する。また、騒音キャンセル対象座席に着座したユーザの頭部がおおよそ前後方向の軸周りに傾斜し得る角度範囲を、前方を向いた人体が頭部を自然に側屈し得る範囲を考慮して、
図4dに示す頭部の自動車の前後方向の軸周りの角度範囲φとして設定する。
【0039】
そして、左右方向について座席中央の位置であり、前後上下方向について存在範囲Y内かつ存在範囲Z内の任意の位置から、その位置にある正立して正面を向いた頭部を回旋中心軸回りに角度範囲θ内の任意角度頭部を回転し、側屈中心軸回りに角度範囲φ内の任意角度頭部を側屈させた場合に、頭部が取り得る位置と姿勢の組み合わせの範囲を頭部状態範囲として設定し、頭部状態範囲内から、各ポイントセットの各第1キャンセルポイント間の間隔と各第2キャンセルポイント間の間隔が所定距離Lとなるようにポイントセットを設定する頭部状態をできるだけ多く選定する。
【0040】
ここで、第1キャンセルポイント間の間隔や第2キャンセルポイント間の間隔である所定距離Lは、騒音を良好にキャンセルできる空間的範囲であるZoQ(zone of Quiet)が各周波数に対して周波数の波長の1/10の直径の球状の、第1キャンセルポイント/第2キャンセルポイントを中心とする空間となるため、キャンセルする騒音の上限周波数の波長の1/10に設定する。
【0041】
このようにすることにより、第1キャンセルポイント、第2キャンセルポイント、第1系補助フィルタ1116、第2系補助フィルタ1126の数を、おおよそユーザの頭部の変位によらずに騒音を良好にキャンセルできる範囲内において、最小の数とすることができる。
ただし、第1キャンセルポイント間の間隔や第2キャンセルポイント間の間隔である所定距離Lは、キャンセルする騒音の上限周波数の波長の1/10より短い間隔とするようにしてもよい。
【0042】
さて、以上のようなポイントセットの設定は、より具体的には、次のように行うようにしてもよい。
すなわち、まず、左右方向について座席中央の位置であり、前後上下方向について存在範囲Y内かつ存在範囲Z内の位置で正立して正面を向いた頭部を、角度範囲θ内で回旋したときの右耳の軌跡41を
図4cに示すように、角度範囲φ内で側屈したときの右耳の軌跡42を
図4dに示すように求める。
【0043】
そして、
図5aに示す軌跡41を、軌跡42に沿って移動した軌跡として得られる平面を
図5bのように求め、求めた平面上の頭部が旋回も側屈をしていないときの右耳の位置を基準点43に設定する。そして、基準点が存在範囲Y内で前後に移動し存在範囲Z内で上下に移動するように、求めた平面を移動した軌跡として得られる立体を
図5cのように求め、求めた立体を第1キャンセルポイント範囲とする。
【0044】
また、左耳についても同様にして立体を求め第2キャンセルポイント範囲とする。
そして、第1キャンセルポイント範囲の全体をカバーするように、間隔が所定距離Lの複数の第1キャンセルポイントを設定する。ここで、このように設定された各第1キャンセルポイントは、頭部状態範囲内の各々異なる頭部状態における右耳の位置となり、対応する頭部状態は、第1キャンセルポイントの位置から算定することができる。
【0045】
そこで、各第1キャンセルポイントについて、その第1キャンセルポイントと同じ頭部状態に対応する第2キャンセルポイント範囲内のポイントを、その第1キャンセルポイントと同じポイントセットの第2キャンセルポイントに設定する。
【0046】
さて、第1系信号処理部111のn個の第1系補助フィルタ1116に設定されている伝達関数H1_i(z)と、第2系信号処理部112のn個の第2系補助フィルタ1126に設定されている伝達関数H2_i(z)は、予め学習して設定した伝達関数である。
【0047】
以下、n個の第1系補助フィルタ1116の伝達関数H1_i(z)とn個の第2系補助フィルタ1126の伝達関数H2_i(z)の学習について説明する。
まず、第1系補助フィルタ1116の伝達関数H1_i(z)と第2系補助フィルタ1126の伝達関数H2_i(z)の学習は、1からnまでの整数について、当該数をiとして、以下の第1段階の学習処理と第2段階の学習処理を実行することによって行われる。
【0048】
第1段階の学習処理は、
図6に示すように、信号処理ブロック11を第1段階学習処理ブロック4に置き換えた構成において行う。
また、第1段階の学習処理は、i番目のポイントセットの第1キャンセルポイントに配置した第1学習用マイク51、i番目のポイントセットの第2キャンセルポイントに配置した第2学習用マイク52を第1学習処理ブロックに接続して行う。
【0049】
第1学習用マイク51と第2学習用マイク52の配置は、たとえば、騒音キャンセル対象座席にダミー人形を着座させ、i番目のポイントセットの第1キャンセルポイントに右耳が位置し、i番目のポイントセットの第2キャンセルポイントに左耳が位置するようにたダミー人形の位置や姿勢を調整し、ダミー人形の右耳の位置に第1学習用マイク51を設置し、ダミー人形の左耳の位置に第2学習用マイク52を設置すること等により行う。
【0050】
第1段階学習処理ブロック4は、第1系第1段階学習処理部41と第2系第1段階学習処理部42を備えている。
そして、第1系第1段階学習処理部41は、
図3に示した信号処理ブロック11の第1系信号処理部111から、第1系減算器1115、第1系補助フィルタ1116、第1系セレクタ1117を取り除き、第1系第1推定フィルタ1113に代えて、第1系第1段階学習処理部41から第1学習用マイク51までの伝達関数Sv11(z)の推定伝達関数Sv11^(z)を設定した第1系第1学習用推定フィルタ411を設け、第1系第2推定フィルタ1114に代えて、第1系第1段階学習処理部41から第2学習用マイク52までの伝達関数Sv21(z)の推定伝達関数Sv21^(z)を設定した第1系第2学習用推定フィルタ412を設け、第1学習用マイク51の出力と第2学習用マイク52の出力の双方をエラーとして第1系適応アルゴリズム実行部1112に入力した構成を備えている。
【0051】
また、第2系第1段階学習処理部42は、
図3に示した信号処理ブロック11の第2系信号処理部112から、第2系減算器1125、第2系補助フィルタ1126、第2系セレクタ1127を取り除き、第2系第1推定フィルタ1123に代えて、第2系第1段階学習処理部42から第2学習用マイク52までの伝達関数Sv22(z)の推定伝達関数Sv22^(z)を設定した第2系第1学習用推定フィルタ421を設け、第2系第2推定フィルタ1124に代えて、第2系第1段階学習処理部42から第1学習用マイク51までの伝達関数Sv12(z)の推定伝達関数Sv12^(z)を設定した第2系第2学習用推定フィルタ422を設け、第1学習用マイク51の出力と第2学習用マイク52の出力の双方をエラーとして第2系適応アルゴリズム実行部1122に入力した構成を備えている。
【0052】
そして、このような構成において、第1系適応アルゴリズム実行部1112による適応動作によって第1系可変フィルタ1111の伝達関数W1(z)を収束安定させ、第2系適応アルゴリズム実行部1122による適応動作によって第2系可変フィルタ1121の伝達関数W2(z)を収束安定させ、収束安定した伝達関数W1(z)とW2(z)を第1段階の学習処理の結果として得る。
【0053】
次に、第2段階の学習処理では、
図7に示すように、信号処理ブロック11を第2段階学習処理ブロック6に置き換えた構成において行う。
第2段階学習処理ブロック6は、第1系第2段階学習処理部61と第2系第2段階学習処理部62とを備えている。
そして、第1系第2段階学習処理部61は、第1段階の学習処理の結果として得た伝達関数W1(z)を伝達関数として設定した第1系固定フィルタ611と、第1系第2段階学習用可変フィルタ612と、第1系第2段階学習用適応アルゴリズム実行部613と、第1系第2段階学習用減算器614を備えている。
【0054】
また、第2系第2段階学習処理部62は、第1段階の学習処理の結果として得た伝達関数W2(z)を伝達関数として設定した第2系固定フィルタ621と、第2系第2段階学習用可変フィルタ622と、第2系第2段階学習用適応アルゴリズム実行部623と、第2系第2段階学習用減算器624を備えている。
【0055】
第1系第2段階学習処理部61に入力した騒音信号x(n)は、第1系固定フィルタ611を通って第1スピーカ12に出力され、第2系第2段階学習処理部62に入力した騒音信号x(n)は、第1系固定フィルタ611を通って第2スピーカ14に出力される。
【0056】
また、第1系第2段階学習処理部61に入力した騒音信号x(n)は第1系第2段階学習用可変フィルタ612を通って第1系第2段階学習用減算器614に送られ、第1系第2段階学習用減算器614は第1マイク13でピックアップした信号から第1系第2段階学習用可変フィルタ612の出力を減算し、エラーとして、第1系第2段階学習用適応アルゴリズム実行部613と、第2系第2段階学習処理部62の第2系第2段階学習用適応アルゴリズム実行部623に出力する。
【0057】
また、第2系第2段階学習処理部62に入力した騒音信号x(n)は第2系第2段階学習用可変フィルタ622を通って第2系第2段階学習用減算器624に送られ、第2系第2段階学習用減算器624は第2マイク15でピックアップした信号から第2系第2段階学習用可変フィルタ622の出力を減算し、エラーとして、第2系第2段階学習用適応アルゴリズム実行部623と、第1系第2段階学習処理部61の第1系第2段階学習用適応アルゴリズム実行部613に出力する。
【0058】
そして、第1系第2段階学習処理部61の第1系第2段階学習用適応アルゴリズム実行部613は、第1系第2段階学習用減算器614と第2系第2段階学習用減算器624から入力するエラーが0となるように第1系第2段階学習用可変フィルタ612の伝達関数H1_i(z)を更新し、第2系第2段階学習処理部62の第2系第2段階学習用適応アルゴリズム実行部623は、第1系第2段階学習用減算器614と第2系第2段階学習用減算器624から入力するエラーが0となるように第2系第2段階学習用可変フィルタ622の伝達関数H2_i(z)を更新する。
【0059】
そして、このような構成において、第1系第2段階学習用適応アルゴリズム実行部613による適応動作によって第1系第2段階学習用可変フィルタ612の伝達関数H1(z)を収束安定させ、収束安定した伝達関数H1(z)を、信号処理ブロック11の第1系信号処理部111のi番目の第1系補助フィルタ1116の伝達関数H1_i(z)として設定すると共に、第2系第2段階学習用適応アルゴリズム実行部623による適応動作によって第2系第2段階学習用可変フィルタ622の伝達関数H2(z)を収束安定させ、収束安定した伝達関数H2(z)を、信号処理ブロック11の第2系信号処理部112のi番目の第2系補助フィルタ1126の伝達関数H2_i(z)として設定する。
【0060】
次に、能動型騒音制御システム1の実働時に、コントローラ16が行う制御について説明する。
コントローラ16は、DMS17が検出した騒音キャンセル対象座席に着座しているユーザの頭部の位置や姿勢等からユーザの右耳と左耳の位置を算定し、n個のポイントセットの内で、第1キャンセルポイントと第2キャンセルポイントとがユーザの右耳の位置と左耳の位置に最も整合するポイントセットを識別し、識別したポイントセットに対応する第1系補助フィルタ1116の出力を選択して出力するように第1信号処理部の第1系セレクタ1117を制御し、識別したポイントセットに対応する第2系補助フィルタ1126の出力を選択して出力するように第2信号処理部の第2系セレクタ1127を制御する処理を繰り返し行う。なお、第1キャンセルポイントと第2キャンセルポイントとがユーザの右耳の位置と左耳の位置に最も整合するポイントセットは、たとえば、第1キャンセルポイントがユーザの右耳の位置との距離と、第2キャンセルポイントとユーザの左耳の位置との距離との最大値が最小となるポイントセットとして求める。
【0061】
以上、本発明の実施形態について説明した。
ここで、以上の実施形態は、騒音源が一つのみである場合について示したが、以上の実施形態は、信号処理ブロック11の構成を各騒音源の各キャンセルポイントへの伝搬を考慮するように拡張することにより、騒音源が複数存在する場合にも適用可能である。
【0062】
また、以上の実施形態では、右耳と左耳の各々に対してマイクやスピーカや信号処理部を設けた場合について示したが、本実施形態は、頭部に対してマイクやスピーカや信号処理部を設けて、右耳と左耳に聞こえる騒音を、右耳と左耳に共通のマイクとスピーカと信号処理部でまとめてキャンセルする場合にも同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0063】
1…能動型騒音制御システム、4…第1段階学習処理ブロック、6…第2段階学習処理ブロック、11…信号処理ブロック、12…第1スピーカ、13…第1マイク、14…第2スピーカ、15…第2マイク、16…コントローラ、17…DMS、41…第1系第1段階学習処理部、42…第2系第1段階学習処理部、51…第1学習用マイク、52…第2学習用マイク、61…第1系第2段階学習処理部、62…第2系第2段階学習処理部、111…第1系信号処理部、112…第2系信号処理部、411…第1系第1学習用推定フィルタ、412…第1系第2学習用推定フィルタ、421…第2系第1学習用推定フィルタ、422…第2系第2学習用推定フィルタ、611…第1系固定フィルタ、612…第1系第2段階学習用可変フィルタ、613…第1系第2段階学習用適応アルゴリズム実行部、614…第1系第2段階学習用減算器、621…第2系固定フィルタ、622…第2系第2段階学習用可変フィルタ、623…第2系第2段階学習用適応アルゴリズム実行部、624…第2系第2段階学習用減算器、1111…第1系可変フィルタ、1112…第1系適応アルゴリズム実行部、1113…第1系第1推定フィルタ、1114…第1系第2推定フィルタ、1115…第1系減算器、1116…第1系補助フィルタ、1117…第1系セレクタ、1121…第2系可変フィルタ、1122…第2系適応アルゴリズム実行部、1123…第2系第1推定フィルタ、1124…第2系第2推定フィルタ、1125…第2系減算器、1126…第2系補助フィルタ、1127…第2系セレクタ。