(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】ノック式筆記具
(51)【国際特許分類】
B43K 5/17 20060101AFI20240624BHJP
B43K 1/12 20060101ALI20240624BHJP
B43K 8/02 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
B43K5/17
B43K1/12 A
B43K8/02 100
(21)【出願番号】P 2020123622
(22)【出願日】2020-07-20
【審査請求日】2023-06-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【氏名又は名称】馬場 信幸
(72)【発明者】
【氏名】中島 徹
【審査官】中澤 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】実開平02-061687(JP,U)
【文献】実開昭58-072089(JP,U)
【文献】実開昭49-107421(JP,U)
【文献】特表2010-517815(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 5/17
B43K 1/12
B43K 8/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸筒内にリフィールを備え、ペン先が毛細現象によりリフィールに収容されたインク貯蔵部材からのインクを吐出し、軸筒に備えたノック機構によりペン先が軸筒先端から出没自在となるノック式筆記具であって、ペン先が軸筒内に収容状態の際、中心部はペン先が前後摺動可能な貫通孔が形成され、ペン先先端部側近傍外周に少なくともシール部材を備え
ると共に、シール部材は、ペン先先端より前方に、ペン先の押圧により脱落可能な封止部材を備えたことを特徴とするノック式筆記具。
【請求項2】
軸筒内にリフィールを備え、ペン先が毛細現象によりリフィールに収容されたインク貯蔵部材からのインクを吐出し、軸筒に備えたノック機構によりペン先が軸筒先端から出没自在となるノック式筆記具であって、ペン先が軸筒内に収容状態の際、中心部はペン先が前後摺動可能な貫通孔が形成され、ペン先先端部側近傍外周に少なくともシール部材を備え
ると共に、シール部材の後方には、ペン先の外周を囲む揮発抑制部材に螺線溝が形成されていることを特徴とするノック式筆記具。
【請求項3】
軸筒内にリフィールを備え、ペン先が毛細現象によりリフィールに収容されたインク貯蔵部材からのインクを吐出し、軸筒に備えたノック機構によりペン先が軸筒先端から出没自在となるノック式筆記具であって、ペン先が軸筒内に収容状態の際、中心部はペン先が前後摺動可能な貫通孔が形成され、ペン先先端部側近傍外周に少なくともシール部材を備え
ると共に、シール部材内面に螺線溝が形成されていることを特徴とするノック式筆記具。
【請求項4】
軸筒内にリフィールを備え、ペン先が毛細現象によりリフィールに収容されたインク貯蔵部材からのインクを吐出し、軸筒に備えたノック機構によりペン先が軸筒先端から出没自在となるノック式筆記具であって、ペン先が軸筒内に収容状態の際、中心部はペン先が前後摺動可能な貫通孔が形成され、ペン先先端部側近傍外周に少なくともシール部材を備え
ると共に、リフィールのペン先後方には口先部材を設け、口先部材の外周面には螺線溝が形成されていることを特徴とするノック式筆記具。
【請求項5】
軸筒内にリフィールを備え、ペン先が毛細現象によりリフィールに収容されたインク貯蔵部材からのインクを吐出し、軸筒に備えたノック機構によりペン先が軸筒先端から出没自在となるノック式筆記具であって、ペン先が軸筒内に収容状態の際、中心部はペン先が前後摺動可能な貫通孔が形成され、ペン先先端部側近傍外周に少なくともシール部材を備え
ると共に、軸筒にはリフィールの後端面が当接する内面壁が形成され、内面壁表面には溝が形成されていることを特徴とするノック式筆記具。
【請求項6】
軸筒内にリフィールを備え、ペン先が毛細現象によりリフィールに収容されたインク貯蔵部材からのインクを吐出し、軸筒に備えたノック機構によりペン先が軸筒先端から出没自在となるノック式筆記具であって、ペン先が軸筒内に収容状態の際、中心部はペン先が前後摺動可能な貫通孔が形成され、ペン先先端部側近傍外周に少なくともシール部材を備え
ると共に、リフィールのペン先が出没動作によりインク貯蔵部材から離間することを特徴とするノック式筆記具。
【請求項7】
軸筒内にリフィールを備え、ペン先が毛細現象によりリフィールに収容されたインク貯蔵部材からのインクを吐出し、軸筒に備えたノック機構によりペン先が軸筒先端から出没自在となるノック式筆記具であって、ペン先が軸筒内に収容状態の際、中心部はペン先が前後摺動可能な貫通孔が形成され、ペン先先端部側近傍外周に少なくともシール部材を備え
ると共に、軸筒後部には、リフィールを押圧動作により出没可能なノック機構を備え、ノック機構は操作部と回転子からなるカム機構で構成され、回転子は軸筒内面の内圧により開弁する弁部を設けたことを特徴とするノック式筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも、ペン先からのインクの揮発を極力抑制することができるノック式筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ノック式などの筆記具において、ペン先からのインクの揮発を防止することができる乾燥防止構造などを備えたものは数多くのものが知られている。
例えば、1)ノック式の万年筆において、軸筒内に移動自在に挿入した筆記体の頸部に筆記体頸部の外周面に圧接し、且つ首部筒の内壁に圧接すると共に筆記体の移動と共に筆記体の頸部を回転移動するゴム又は軟質合成樹脂よりなる環状パッキングを装着したことを特徴とする万年筆のパッキング装置(例えば、特許文献1参照)、
2)軸筒に出没可能な筆記体を有し、その筆記体の前後動作に連動して前記筆記体の筆記部を密閉するシールフタを有する出没式の筆記具であって、それらシール蓋と筆記体とを糸状部材で連結すると共に、それらシール蓋と糸状部材を一体に成形したものに加え、密閉ユニット〔図示符号:4(面密閉部:図示符号4f)〕によりペン先の乾燥を防ぐことを特徴とする出没式の筆記具(例えば、特許文献2参照)、
3)筆記具の軸筒に設けた操作部材の操作により、ペン先を突出させて筆記できると共に、操作部材の離隔操作により、自動的にペン先を軸筒内に引っ込めることによるペン先の開閉機構に加え、軸筒内にOリング(図示符号17)を設けることによりペン先の乾燥を更に防ぐことができる筆記具(例えば、特許文献3参照)、
4)筆記具本体内に設けられた先端筆記部を収納する空間であるシール室と、該シール室の前方をシールするための一端が回転自在なシール蓋と、収納時の筆記体の空気孔より後方をシール室内でシールするシール手段と、前記シール蓋に一端が連結され他端が前記スプリングにより後退力を受ける連動部材に連結された連結手段とを有し、前記筆記体が前記筆記具本体内を前進後退して前記先端筆記部が前記筆記具本体の前端から出没する乾燥防止機構を有するキャップレス筆記具(例えば、特許文献4参照)などが知られている。
【0003】
しかしながら、上記特許文献1~4の各ノック式の筆記具等は、ペン先をシール蓋等により出没自在にして乾燥防止するシール機構に加え、ペン先側にOリング等を用いたシール手段であり、その構造も複雑でコスト高となったり、デザイン性を損ねる点などに課題があったりし、また、使用開始前までのペン先からのインクの揮発を確実に抑制する機構がなかったりして、ペン先からの乾燥防止を更に向上することができるノック式筆記具が切望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実公昭46-4971号公報(実用新案登録請求の範囲、第1図等)
【文献】特開2003-191683号公報(特許請求の範囲、
図1、
図3)
【文献】国際公開2010/100800号公報(特許請求の範囲、
図1、
図10等)
【文献】特開平1-281999号公報(特許請求の範囲、第1図等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の課題などに鑑み、これを解消しようとするものであり、使用開始前までのペン先からのインクの揮発を確実に抑制できるノック式筆記具の提供、更に、使用開始後であってもペン先からのインクの揮発を極力抑制できる構造を備えたノック式筆記具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記従来の課題等を解決するために鋭意検討した結果、軸筒内にリフィールが収容され、ペン先が毛細現象によりリフィールに収容されたインク貯蔵部材からのインクを吐出し、軸筒に備えたノック機構の操作によりペン先が軸筒先端から出没自在とするノック式筆記具であって、ペン先が軸筒内に収容状態の際、中心部はペン先が前後摺動自在となる貫通孔が形成され、ペン先先端部側近傍外周に特定構造を備えることなどにより、上記目的のノック式筆記具が得られることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0007】
すなわち、本発明のノック式筆記具は、軸筒内にリフィールを備え、ペン先が毛細現象によりリフィールに収容されたインク貯蔵部材からのインクを吐出し、軸筒に備えたノック機構によりペン先が軸筒先端から出没自在となるノック式筆記具であって、ペン先が軸筒内に収容状態の際、中心部はペン先が前後摺動可能な貫通孔が形成され、ペン先先端部側近傍外周に少なくともシール部材を備えたことを特徴とする。
前記シール部材は、ペン先先端より前方に、ペン先の押圧により脱落可能な封止部材を備えていることが好ましい。
前記軸筒後部には、未使用時又は非ノック時に軸筒後部と筆記具外との空気の流通を密封すると共に、ノック時には筆記具外へ空気が流通して、内外圧を一定にし、非ノック時のペン先からのインクの噴出を防止する密封機構が設けられていることが好ましい。
前記シール部材の後方には、ペン先の外周を囲む揮発抑制部材に螺線溝が形成されていることが好ましい。
前記シール部材内面に螺線溝が形成されていることが好ましい。
前記リフィールのペン先後方には口先部材を設け、口先部材の外周面には螺線溝が形成されていることが好ましい。
前記軸筒にはリフィールの後端面が当接する内面壁が形成され、内面壁表面には溝が形成されていることが好ましい。
前記リフィールのペン先が出没動作によりインク貯蔵部材から離間することが好ましい。
前記軸筒後部には、リフィールを押圧動作により出没自在とするノック機構を備え、ノック機構は操作部と回転子からなるカム機構で構成され、回転子は軸筒内面の内圧により開弁する弁部を設けることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、使用開始前までのペン先からのインクの揮発を確実に抑制できるノック式筆記具が提供され、更に、使用開始後であってもペン先からのインクの揮発を極力抑制することができるノック式筆記具が提供される。
本発明の目的及び効果は、特に請求項において指摘される構成要素及び組み合わせを用いることによって認識され且つ得られるものである。上述の一般的な説明及び後述の詳細な説明の両方は、例示的及び説明的なものであり、特許請求の範囲に記載されている本発明を制限するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1実施形態を示すノック式筆記具の使用開始前の状態を示す図面であり、(a)は平面図、(b)正面図、(c)は正面視の縦断面図である。
【
図2】(a)は
図1のノック式筆記具の要部を分断して示す部分拡大縦断面図、(b)はシール部材の部分拡大斜視図、(c)は(b)の部分拡大縦断面図である。
【
図3】本発明の第1実施形態を示すノック式筆記具に用いるペン先を固着したリフィールの一例を示す図面であり、(a)は斜視図、(b)は正面視の縦断面図、(c)は要部の部分拡大縦断面図である。
【
図4】
図3のリフィール内に固着される揮発抑制部材の部品図であり、(a)は斜視図、(b)は平面図、(c)は正面図、(d)は縦断面図である。
【
図5】
図1のノック式筆記具の使用開始後であって非ノック時の状態を示す図面であり、(a)は平面図、(b)正面図、(c)は正面視の縦断面図、(d)はペン先部分の部分拡大縦断面図である。
【
図6】
図1のノック式筆記具をノック等して封止部材を取り除いた後、ペン先を繰り出した状態を示す図面であり、(a)は要部を分断して示す部分拡大縦断面図、(b)はペン先部分の部分拡大斜視図、(c)は(b)の部分拡大縦断面図である。
【
図7】(a)は
図6のノック式筆記具をノックしてペン先を繰り出した後、再びノックしてペン先を軸筒内に戻した状態の要部を分断して示す部分拡大縦断面図、(b)はペン先部分の部分拡大斜視図、(c)は(b)の部分拡大縦断面図である。
【
図8】本発明の第2実施形態を示すノック式筆記具の使用開始前の状態を示す図面であり、(a)は平面図、(b)正面図、(c)は正面視の縦断面図、(d)はペン先部分の部分拡大縦断面図である。
【
図9】本発明の第2実施形態を示すノック式筆記具に用いるシール部材の図面であり、(a)は左側から見た斜視図、(b)は正面図、(c)は右側面図、(d)は正面視の縦断面図である。
【
図10】
図8のノック式筆記具に用いるペン先を固着したリフィールの一例を示す図面であり、(a)は斜視図、(b)は正面視の縦断面図、(c)は要部の部分拡大縦断面図である。
【
図11】本発明の第3実施形態を示すノック式筆記具を示す各図面であり、(a)は正面図、(b)は正面視の縦断面図、(c)は要部を分断して示す部分拡大縦断面図である。
【
図12】
図11のノック式筆記具に用いるペン先を固着したリフィールの一例を示す図面であり、(a)は斜視図、(b)は正面視の縦断面図、(c)はペン先先端部分の拡大斜視図、(d)は要部の部分拡大縦断面図である。
【
図13】
図11のノック式筆記具に用いる軸筒の一例を示す図面であり、(a)は正面図、(b)は右側面図、(c)は縦断面図、(d)は(c)のD-D線拡大断面図である。
【
図14】
図11のノック式筆記具の非ノック時の状態を示す各図面であり、(a)は正面図、(b)は縦断面図、(c)は(b)のX-X線拡大断面図、(d)は(c)の部分拡大縦断面図、(e)は(b)のY-Y線拡大断面図、(f)は(e)の部分拡大縦断面図である。
【
図15】
図11のノック式筆記具のノック時の状態を各図面であり、(a)は正面図、(b)は縦断面図、(c)はシール部材部分の空気流通を断面態様で示す断面図、(d)は蓋部材部分の空気流通を断面態様で示す断面図、(e)は要部を分断して示す部分拡大縦断面図である。
【
図16】本発明の第4実施形態を示すノック式筆記具の使用開始前の状態を示す図面であり、(a)は正面図、(b)は正面視の縦断面図、(c)はペン先部分の部分拡大縦断面図である。
【
図17】
図16のノック式筆記具の筆記時の状態を示す図面であり、(a)は正面図、(b)は正面視の縦断面図、(c)はペン先部分の部分拡大縦断面図である。
【
図18】
図16のノック式筆記具に用いるペン先を固着したリフィールの一例を示す図面であり、(a)は斜視図、(b)は正面視の縦断面図、(c)は要部の部分拡大縦断面図である。
【
図19】
図16のノック機構の回転子の部品図であり、(a)は前方側からみた斜視図、(b)は後方側から見た斜視図、(c)は正面図、(d)は縦断面図である。
【
図20】(a)は
図16のノック式筆記具のペン先が軸筒内に収納された状態(非ノック状態)を示す縦断面図、(b)は非ノック状態において軸筒の内圧が高まった場合の後端側の要部を示す部分縦断面図、(c)はノック状態における後端側の要部を示す部分縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳しく説明する。但し、本発明の技術的範囲は下記で詳述するそれぞれの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ点に留意されたい。
【0011】
図1~
図7は、本発明の第1実施形態等を示すノック式筆記具を示す各図面である。
本第1実施形態のノック式筆記具は、
図1~
図7に示すように、筆記具本体となる軸筒10と、該軸筒10内に備えたインク貯蔵部材18を収容したリフィール20と、ペン先30、シール部材40、ノック機構70とを少なくとも有し、ペン先30が毛細現象によりインク貯蔵部材18からのインクを吐出し、上記ノック機構70によりペン先30が軸筒10先端から出没自在となる構成となっている。
本実施形態では、後述するように、ペン先30先端部側近傍外周に少なくともシール部材40を備えたものであり、ペン先30が軸筒10内に収容状態の際、シール部材40の中心部にはペン先30が前後摺動自在となる貫通孔42が形成される構成となっている。
【0012】
筆記具本体となる軸筒10は、例えば、ポリアセタール系樹脂、ポリエチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリフェニレン系樹脂などの熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂(以下、上記各々の樹脂を単に「各樹脂」という)等で形成されるものであり、先端部方向は先細状となっており、その開口部11にはシール部材40が固着されており、他方の後端側の開口部13にはノック機構70が取り付けられている。
この軸筒10内にはインク貯蔵部材18を収容したリフィール20を備えている。
【0013】
インク貯蔵部材18は、水性インク、油性インク、熱変色性インクなどの筆記具用インクを含浸したものであり、例えば、天然繊維、獣毛繊維、ポリアセタール系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリフェニレン系樹脂などの1種又は2種以上の組み合わせからなる繊維束、フェルト等の繊維束を加工したもの、また、スポンジ、樹脂粒子、焼結体等の多孔体を含むものである。このインク貯蔵部材18は、リフィール20に収容される構成となっている。
【0014】
用いる筆記具用インクの組成は、特に限定されず、筆記具の用途等に応じて、水性インク、油性インク、熱変色性インクなどの好適な配合処方とすることができ、例えば、アンダーラインペン等ではインクに蛍光色素、例えば、ベーシックバイオレット11、ベーシックイエロー40などを用いることができ、また、熱変色性マイクロカプセル顔料などを含有させることができる。
【0015】
より好適には、水と、水溶性有機溶剤と、着色剤と、グリセリルグルコシドとを少なくとも含む筆記具用インクを組成物とすることで、ペン先乾燥の抑制効果に優れ、筆跡の表面が早く乾燥して筆跡を擦っても伸びず、低温環境下においても筆跡がカスレたりすることをさらに防ぐことができる。
【0016】
用いるグリセリルグルコシドとは、グリセリンとグルコースがα結合で縮合したαグリセリルグルコシドと、β結合で縮合したβグリセリルグルコシドであり、マルトオリゴ糖とグリセリンの混合液にα-グルコシダーゼを作用させることで得られる酵素反応生成物であっても、グリセリンとグルコースの縮合反応によって得られる生成物であっても良い。グリセリルグルコシドとしては、αグリセリルグルコシドとβグリセリルグルコシドが挙げられ、αグリセリルグルコシドがより好ましく、αグリセリルグルコシドの具体例としてαGG、αGG-L(以上、JST株式会社製)などが挙げられる。これらのグリセリルグルコシドの添加量はインク組成物全量に対し、0.5質量%以上30.0質量%以下が好ましい。これらのグリセリルグルコシドは、単独、あるいは2種以上混合して使用しても良い。
【0017】
筆記具用インクで用いることができる水としては、水道水、地下水、イオン交換水、純水、超純水などが挙げられ、特に限定されることなく使用できる。
【0018】
筆記具用インクで用いることができる着色剤は、特に制限されることなく染料、顔料が使用できる。
【0019】
染料は、水溶性染料が使用できる。水溶性染料の具体的としては、直接染料、酸性染料、塩基性染料などが挙げられる。これらの染料は、単独、あるいは2種以上混合して使用しても良い。
【0020】
顔料の具体例としては、ファーネストブラック、コンタクトブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラック、黒色酸化鉄、黄色酸化鉄、赤色酸化鉄、群青、紺青、コバルトブルー、チタンイエロー、ターコイズ、モリブデートオレンジ、酸化チタン、金粉、銀粉、銅粉、アルミニウム粉、真鍮粉、錫粉、雲母系顔料、C.I.PIGMENT RED 2、同3、同5、同17、同22、同38、同41、同48:2、同48:3、同49、同50:1、同53:1、同57:1、同58:2、同60、同63:1、同63:2、同64:1、同88、同112、同122、同123、同144、同146、同149、同166、同168、同170、同176、同177、同178、同179、同180、同185、同190、同194、同206、同207、同209、同216、同245、C.I.PIGMENT ORANGE 5、同10、同13、同16、同36、同40、同43、C.I.PIGMENT VIOLET 19、同23、同31、同33、同36、同38、同50、C.I.PIGMENT BLUE 2、同15、同15:1、同15:2、同15:3、同15:4、同15:5、同16、同17、同22、同25、同60、同66、C.I.PIGMENT BROWN 25、同26、C.I.PIGMENT YELLOW 1、同3、同12、同13、同24、同93、同94、同95、同97、同99、同108、同109、同110、同117、同120、同139、同153、同166、同167、同173、C.I.PIGMENT GREEN 7、同10、同36、などが挙げられる。これらの顔料は、単独、あるいは2種以上混合して使用しても良い。また、着色剤として顔料と染料を併用して用いることもできる。
【0021】
着色剤に顔料を用いた場合は、顔料を安定に分散させるために分散剤を使用することもできる。分散剤として、従来一般に用いられている水溶性樹脂もしくは水可溶性樹脂や、アニオン系もしくはノニオン系の界面活性剤などの、顔料の分散剤として用いられるものを用いることができる。これらの水可溶性樹脂および界面活性剤の添加量は顔料10.0重量%に対し、0.05質量%以上20.0質量%以下が好ましい。これらの水可溶性樹脂および界面活性剤は、単独、あるいは2種以上混合して使用しても良い。
【0022】
また、顔料を水性媒体に分散した顔料分散体も用いることができる。顔料分散体としては、無機顔料、有機顔料、蛍光顔料などが使用でき、単独、あるいは2種以上混合して使用しても良い。ただし、着色された樹脂粒子を着色剤として用いる場合は、樹脂粒子が有機溶剤に溶解しないものを用いる。
【0023】
上記で記載された着色剤以外に、色味を調整するために樹脂粒子やワックス粒子、樹脂エマルションのような無色粒子を用いることができる。中でも酸化ポリエチレンワックス粒子を用いることで筆跡の裏移りを同時に抑制することができる。
【0024】
着色剤、無色粒子に限らず、筆記具用インク中の固形分濃度を25質量%以上にすることで筆跡の裏移りを抑制することができるため好ましい。また、酸化ポリエチレンワックス粒子を用いると筆記具インク中の固形分濃度が25質量%以下であっても筆跡の裏移りを抑制でき、酸化ポリエチレンワックス粒子の含有量は、インク組成物全量に対し、0.1質量%以上50.0質量%以下が好ましく、より好ましくは0.5質量%以上23.0質量%以下であり、最も好ましくは1.0質量%以上15.0質量%以下である。
【0025】
筆記具用インクに用いられる水溶性有機溶剤は、水100gに対して10g以上溶解することのできる有機溶剤を示す。これらの水溶性有機溶剤の中でも、筆跡の紙への浸透性とペン先乾燥抑制の観点から、グリコールエーテルや環状構造を持つ水溶性有機溶剤が好ましく、環状構造を持つ水溶性有機溶剤がより好ましい。また、これらの水溶性有機溶剤の中でも、グリコールエーテル及び/または環状構造を持つ水溶性有機溶剤と多価アルコールとを併用することで、グリセリルグルコシドと水溶性有機溶剤との相互作用によって、ペン先乾燥の抑制と筆跡の紙への浸透性が一層向上するため好ましい。これらの水溶性有機溶剤の添加量は、インク組成物全量に対し0.1質量%以上50.0質量%以下が好ましく、5.0質量%以上20.0質量%以下がより好ましい。これらの水溶性有機溶剤は、単独、あるいは2種以上混合して使用しても良い。
【0026】
筆記具用水性インクの粘度は、測定温度25℃、剪断速度76.6s-1において1.0mPa・s以上20.0mPa・s以下が好ましい。また、表面張力は30~60mN/mであることが好ましい。
【0027】
上記成分の他に、必要に応じて、潤滑剤、粘度調整剤、潤滑剤、防腐剤、防黴剤、防錆剤、消泡剤、pH調整剤などの添加剤を併用して用いることができる。これらの、添加剤は、単独、あるいは2種以上混合して使用しても良い。
【0028】
筆記具用水性インクを製造するには、上記の顔料及び/又は顔料分散体と、染料とから選ばれる1種もしくは2種以上の着色剤と、水及び/又は有機溶剤と、分散剤と、をホモミキサー等の分散機にて充分に混合攪拌した後、他の添加剤、例えば粘度調整剤や、pH調整剤、色調調整のための染料、潤滑剤等を混合し、更に均一になるまで溶解、混合することで得られるが、場合によって混合したインクをさらに分散機にて分散したり、得られたインクを濾過や遠心分離機に掛けて粗大粒子や不溶解成分を除いたりすることは何ら差し支えない。
【0029】
リフィール20は、
図3(a)~(c)に示すように、その前方側の小径の筒状部21の収容部21aにペン先30の外周を囲む揮発抑制部材35が嵌合により固着されており、該小径の筒状部21に連設されると共に該筒状部21より拡形の後方側の拡形の筒状部22の収容部22aには上記インク吸蔵体18が収容されている。また、上記小径の筒状部21と拡形の筒状部22間にはペン先30の後方側を保持する保持孔23を有する保持部材24が設けられ、これらの筒状部21、22などを含むリフィールは樹脂等により一体成形することができる。
上記揮発抑制部材35は、
図4(a)~(d)に示すように、円筒状となっており、内部にペン先30を固着する貫通型の固着孔36を有すると共に、外周面上には一方の端部から他方の端部まで螺旋状の螺旋溝37が形成されており、螺旋溝の端部37a,37bは固着孔36の各端部の切り欠き部36a,36bに連設されている。螺旋溝37の溝形状としては、例えば、断面V字状又はU字状が挙げられ、螺旋溝の長さは、インクの揮発をしにくくする点等から、揮発抑制部材35の長手方向(直線上)の長さに対して、2倍以上とすることが好ましい。また、螺旋溝37の溝形状、幅、長さなどを好適な所定の範囲とすることにより、インクの揮発等を高度に抑制することができる。
【0030】
本実施形態のペン先30は、
図3(a)~(c)などに示すように、先端側が筆記部31となり、棒状に成形されたものである。このペン先30は、中央部分は上記揮発抑制部材35の固着孔36に固着されると共に、後方側の後端部32はインク貯蔵部材18内の前方側の中央部に挿着され、インク貯蔵部材18に吸蔵されるインクを効率よく、ペン先30の筆記部31へ毛管力(毛管現象)により誘導(供給)する構成となっている。
このペン先30は、多孔質部材から構成されるものであり、例えば、天然繊維、獣毛繊維、ポリアセタール系樹脂、ポリエチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリフェニレン系樹脂などの1種又は2種以上の組み合わせからなる並行繊維束、フェルト等の繊維束を加工又はこれらの繊維束を樹脂加工した繊維芯、または、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂等の熱可塑性樹脂などのプラスチック粉末などを焼結したポーラス体(焼結芯)、押し出し成形した押出成形芯などからなるものである。
【0031】
好ましいペン先30としては、繊維束芯、繊維芯、焼結芯、フェルト芯、スポンジ芯、無機多孔体芯などが挙げられ、これらの外周を更に樹脂フィルムなどで被覆した被覆繊維芯などであってもよいものである。また、用いるペン先30の気孔率、大きさ、硬度などは、インク種、筆記具の種類等により、変動するものであり、例えば、気孔率では30~60%とすることが好ましい。また、本発明において、「気孔率」は、下記のようにして算出される。まず、既知の質量及び見掛け体積を有する筆記芯を水中に浸し、十分に水を浸み込ませた後、水中から取り出した状態で質量を測定する。測定した質量から、筆記芯に浸み込ませた水の体積が導出される。この水の体積を筆記芯の気孔体積と同一として、下記式から、気孔率が算出される。
気孔率(単位:%)=(水の体積)/(ペン先30の見掛け体積)×100
【0032】
シール部材40は、
図2(a)~(c)等に示すように、軸筒10の先端部の先細状の開口部11に係合、嵌合などにより固着されている。シール部材40は、本体部41の中心部にペン先30が前後摺動自在となる貫通孔42が形成されると共に、ペン先30先端より前方に、少なくともペン先30の押圧又は指等で脱落可能な封止部材43が貫通孔42の先端外周に一体に設けられており、上記貫通孔42の外周には上記開口部11の周状の係合部12に固着するための弾性を有する係合部材44が連設されている。
上記封止部材43は貫通孔42の出口を閉塞するように一体に設けられており、ペン先30の後述するノック操作による押圧又は指等で容易に脱落可能、例えば、連接部43aを薄皮状(極薄状)とし、かつ、脱落前は、この連接部43a、封止部材43を含むシール部材40においてペン先30におけるインクの揮発を防止できる構成となっている。この周状の連接部43aを上記ペン先30の押圧や、指などで切断等することなどにより封止部材43はシール部材40の本体部42から容易に脱落可能となっている。このシール部材40の材質としては、シール性、脱落容易性を充足する点等から、上記各樹脂の他、スチレン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ウレタン系エラストマーなどの熱可塑性エラストマー(以下、上記各々のエラストマーを単に「各熱可塑性エラストマー」という)や、ニトリルブタジエンゴム(NBR)、シリコーンゴム、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、フロロシリコンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、天然ゴム、クロロプレンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴムなどの合成ゴム(以下、上記各々の合成ゴムを「各合成ゴム」という)を好ましく使用することができ、また、シール部材40と軸筒10とを2色成形(例えば、上述の各樹脂と各熱可塑性エラストマーの2色成型)により一体形成してもよいものである。
【0033】
また、本実施形態では、ノック操作により、ペン先30は上記シール部材40の貫通孔42に前後摺動可能となるものであるが、貫通孔42の後端部の周縁42aとペン先30の周縁との間にはインクの蒸発を抑制すると共に、効率的な空気置換を行うため(内外圧一定とするため)の僅かな隙間X、具体的には、隙間Xは0.02~1.0mm、本実施形態では0.05mmの隙間を有している〔
図2(c)参照〕。
上記リフィール20の後端側の開口部20bには、該開口部を密封する蓋部材50が嵌合により取り付けられている。この蓋部材50には、上記開口部20bを密封する嵌合体51を有すると共に、筒状のフランジ部52を有している。
【0034】
本実施形態のノック機構70は、
図2、
図6及び
図7等に示すように、軸筒10の後端開口部13に螺合により取り付けられる内筒60と、該内筒60内に前後方向に移動可能に配置された回転子65と、内筒60内に後端から突出して且つ前後方向に移動可能な操作部であるノック体66とを有するものである。また、
図2(a)に示すように、上記内筒60は、軸筒10の後端開口部13のL字状の当接面13aに密着してシールするフランジ部61と、該フランジ部61の前方側に外周面に螺子部62を有する内筒部63と、フランジ部61の後方側に外筒部64とを有している。また、内筒部63の先端面63aはリフィール20の後端側の開口部20bを密封する蓋部材50のフランジ部52の当接面53と密着してシールする構成となっている。上記端面となる当接面同士のシール性(密封性)を更に向上させるために、上記蓋部材50、内筒60を上記各樹脂の他、上記各熱可塑性エラストマーや、上記各合成ゴムを使用することが好ましい。
【0035】
本実施形態のノック機構70は、リフィール20を押圧動作により出没可能とするものであり、操作部となるノック体66と回転子65と内筒60の内周部に設けた外カム(図示せず)とを有する公知の機構(回転カム機構)を備えている。このノック機構は、リフィール20と共に、軸筒10の前方部の内周面の鉛直方向に所定間隔で設けた保持部材14,14…及び保持段部14a、14a…と、リフィール20の前方側外周に設けた取り付け段部20aとの間に保持されるコイル状のスプリング部材からなる弾性部材71によってリフィール20後方へ付勢されている。ノック操作は、ノック体66を前方に向かって押圧することによって行われる。ノック操作を行うと、ノック体66の移動によって回転子65が前方へ押圧され、回転子65と内筒60の外カム(図示せず)の前端面とが係止し、リフィール20が前方に移動すると共に、リフィール20内の揮発抑制部材35に固着されたペン先30がシール部材40の貫通孔42の出口から出て筆記状態となる(
図6参照)。筆記後等、再びノック操作を行うと、上記係止状態が解け、リフィール20が後方へ移動し、ペン先30が元の位置等に戻ることとなる(
図7等参照)。
更に、本実施形態において、ノック機構70において、
図7(a)に示すように、ストロークTを2.0~15.0mmに設定されていることが好ましい。上記範囲に設定することにより、ノック機構70が効率的になると共に、揮発を抑制することが可能になる。
【0036】
このように構成されるノック式筆記具Aでは、上記ノック操作として、初期ノック操作(初めてノック操作)となる場合には、シール部材40の封止部材43を取外し可能な設計となっている。すなわち、
図1及び
図2に示すように、使用開始前までの軸筒10の先端側からのペン先30によるインクの揮発は封止部材43を含むシール部材40により確実に抑制されている。封止部材43は、上述の如く、ペン先30の押圧(ノック操作による筆記状態と)する際に又は指等で引きちぎること等により脱落可能となるので、簡単に封止状態を解除することが可能であり、この解除により筆記状態とすることができる(
図6参照)。上記初期ノック動作後も軸筒10の先端部分はペン先30のみの露出となるため、ペン先30からのインク揮発量は抑制可能となっている。
【0037】
また、本実施形態では、上記形態と共に、または、独立の実施形態として、前記軸筒10の後部に、未使用時又は非ノック時に軸筒10後部と筆記具外との空気の流通を密封すると共に、ノック時には筆記具外へ空気が流通して、内外圧を一定にし、非ノック時のペン先30からのインクの噴出を防止する密封機構を備えている。すなわち、本実施形態における密封機構は、未使用時には、上記シール部材40の封止部材43によりペン先30からのインクの揮発は抑制されており、また、
図2(a)に示すように、未使用時(非ノック時を含む)には軸筒10の後端部側は、内筒60のフランジ部61と後端開口部13の当接面13aとは密着してシールされると共に、内筒部63の先端面63aと蓋部材50の後端当接面53とは密着してシールされているので、軸筒10の後端部からのインクの揮発も抑制されている。また、上記未使用時又は非ノック時からノック操作を行うと、
図6(c)に示すように、ペン先30とシール部材40の隙間Xから空気を取り込み、
図6(a)に示すように、取り込まれた空気は軸筒10とリフィール20との空間(隙間)、内筒63と回転子65との隙間を通って筆記具外へ排出されて内外圧一定となり、軸筒10内の内圧上昇によるペン先30からインクの噴き出しが防止されることとなる。
【0038】
更に、上記実施形態において、前記シール部材40の後方に、上述及び
図3、
図4に示すように、リフィール20の収容室22に固着したペン先30の外周を囲む揮発抑制部材35の外周に、螺旋状の螺線溝37を形成したものでは、リフィール20内のインク貯蔵部材18からのインクの揮発等は、螺旋状の螺線溝37を通過して行われることとなるので、直線状の隙間(溝)等よりはその長さが長大となり、リフィール20単体からのインクの揮発も抑制できるものとなっている。従って、本実施形態のノック式筆記具では、上記封止部材46を有するシール部材40、揮発抑制部材35の螺旋状の螺線溝37により、使用開始前までのペン先からのインクの揮発を確実に抑制できるノック式筆記具が提供
されることとなる。
【0039】
図8~
図20は、本発明のノック式筆記具の他の各実施形態を示す各図面である。なお、上記第1実施形態の筆記具Aと同様の構成、機能を有する場合は、以下の各実施形態において、各図面等に同一符号を付してその説明を省略する。
図8~
図10は、本第2実施形態のノック式筆記具Bの各図面であり、
図8は使用開始前の状態を示す各図面であり、
図9はノック式筆記具に用いるシール部材の各図面、
図10は、ノック式筆記具に用いるペン先を固着したリフィールの一例を示す各図面である。
本第2実施形態のノック式筆記具Bは、軸筒10の外周の把持部付近に周状に複数の溝部を所定間隔で形成した滑り止め部10aを形成した点、シール部材40に代え、封止部材を有しない構造のシール部材45を軸筒10の開口部11内に嵌合等により固着した点、リフィール20の形状が相違する点、内筒60の外部にクリップ部75を設けた点、後部側の密閉機構が若干相違する点で、上記第1実施形態等のノック式筆記具Aと相違するものである。ノック機構70は、上記第1実施形態のノック式筆記具Aと同様に機能する。
【0040】
このノック式筆記具Bにおいて、シール部材45は、
図9(a)~(d)に示すように、中心部に貫通孔46が形成されており、該貫通孔46の内周状に上述の揮発抑制部材35に形成した螺旋状の溝部と同様の螺旋状の溝部47が形成されており、前方側の外径が小さい小径部45aが軸筒10の開口部11内に嵌合等により固着される構成となっている。
本実施形態のリフィール20は、
図10(a)~(c)に示すように、上述の第1実施形態の揮発抑制部材35を備えず、前方側はペン先30を固定する固定部21bを有する前方固定保持部21cとなる点で上記第1実施形態のリフィールと相違する。
【0041】
このように構成されるノック式筆記具Bでは、上記第1実施形態のノック式筆記具Aと同様に、ペン先30が毛細現象によりインク貯蔵部材18からのインクを吐出し、上記ノック機構70によりペン先30が軸筒10先端から出没自在となる構成となっている。
本実施形態のシール部材45の中心部にはペン先30が前後摺動自在となる貫通孔46が形成されると共に、シール部材45の貫通孔46の内周に、螺旋状の螺線溝47を形成しているので、シール部材45からのインクの揮発等は、螺旋状の螺線溝47を通過して行われることとなるので、直線状の隙間(溝)等よりはその長さが長大となり、インクの揮発が抑制できるものとなっている。また、螺旋溝47の溝形状、幅、長さなどを好適な所定の範囲とすることにより、インクの揮発の抑制と、空気の流通による内外圧を一定にすることを高度に両立することができるものとなる。
従って、本実施形態のノック式筆記具Bでは、上記シール部材45の螺旋状の螺線溝47により、ペン先30からのインクの揮発を確実に抑制できるノック式筆記具が提供されこととなる。
また、本実施形態は、軸筒10の後部側の密閉機構は、未使用時又は非ノック時に、回転子65の当接面65aと内筒部63の先端面63aとが当接することにより密閉され、ノック時にこの当接面が開放されることにより行われるので、上記第1実施形態と同様に、軸筒10の後部には、未使用時又は非ノック時に軸筒10後部と筆記具外との空気の流通を密封すると共に、ノック時には筆記具外へ空気が流通して、内外圧を一定にし、非ノック時のペン先30からのインクの噴出を防止する密封機構が備えており、軸筒10の後端部からのインクの揮発も抑制されると共に、非ノック時からノック操作を行うと、ペン先30とシール部材45の螺旋溝47から空気を取り込み、取り込まれた空気は軸筒10とリフィール20との空間(隙間)、内筒63と回転子65との隙間を通って筆記具外へ排出されて内外圧一定となり、軸筒10内の内圧上昇によるペン先30からインクの噴き出しが防止されることとなる。
【0042】
図11~
図15は、それぞれ、本第3実施形態のノック式筆記具、この実施形態に用いるペン先を固着したリフィール、軸筒、非ノック時及びノック時の状態の一例を示す各図面である。
本第3実施形態のノック式筆記具Cは、
図11~
図15に示すように、リフィール20の先端側に、ペン先30の後方を固着する口先部材25を設け、この口先部材25の前方部外周面に螺線状の溝26を形成している点、シール部材45の内周に螺旋状溝部47を有する貫通孔46に上記ペン先30の先端側を固着した口先部材25が前後摺動自在となる点、また、軸筒10にはリフィール20の後端側に固着した蓋部材50の当接面53が当接する内面壁15が形成され、内面壁15の後方側の内周面には螺旋状の溝16が形成されている点で、上記第2実施形態のノック式筆記具Bと相違するものである。
【0043】
図14及び
図15は、本第3実施形態のノック式筆記具の非ノック時及びノック時の状態を説明する説明図である。本実施形態は、軸筒10の後部側の密閉機構は、
図14(b)に示すように、未使用時又は非ノック時に、蓋部材50の当接面53が軸筒10の内面壁15とが当接することにより密閉され、ノック時にこの当接面が
図15(b)に示すように、蓋部材50の当接面53と軸筒10の内面壁15とが開放されることにより行われるものである。
【0044】
このように構成されるノック式筆記具Cでは、上記第2実施形態のノック式筆記具Bと同様に、ペン先30が毛細現象によりインク貯蔵部材18からのインクを吐出し、上記ノック機構70によりペン先30が軸筒10先端から出没自在となっている。
本実施形態のシール部材45の中心部にはペン先30が前後摺動自在となる貫通孔46が形成されると共に、シール部材45の貫通孔46の内周に、螺旋状の螺線溝47を形成しており、また、口先部材25の先端側にも螺線状の溝26が形成されているので、インクの揮発等は、ペン先30の露出した部分から行われるのみとなるので、インクの揮発が抑制できるものとなっている。また、螺旋溝47、口先部材25の螺線状の溝26の溝形状、幅、長さなどを好適な所定の範囲とすることにより、インクの揮発の抑制と、空気の流通による内外圧を一定にすることを高度に両立することができるものとなる。
従って、本実施形態のノック式筆記具Cでは、上記シール部材45の螺旋状の螺線溝47、口先部材25の螺線状の溝26により、ペン先30からのインクの揮発を確実に抑制できるノック式筆記具が提供されこととなる。
また、本実施形態は、軸筒10の後部側の密閉機構は、未使用時又は非ノック時に、蓋部材50の当接面53が軸筒10の内面壁15とが当接することにより密閉され、ノック時にこの当接面が開放されることにより行われるものであるので、上記第1、第2実施形態と同様に、軸筒10の後部には、未使用時又は非ノック時に軸筒10後部と筆記具外との空気の流通を密封すると共に、ノック時には筆記具外へ空気が流通して、内外圧を一定にし、非ノック時のペン先30からのインクの噴出を防止する密封機構がえており、軸筒10の後端部からのインクの揮発も抑制されると共に、非ノック時からノック操作を行うと、
図15(b)~(e)に示すように、ペン先30とシール部材45の螺旋溝47、口先部材25の螺線状の溝26から空気を取り込み、取り込まれた空気は軸筒10とリフィール20との空間(隙間)、軸筒10と回転子65との隙間を通って筆記具外へ排出されて内外圧一定となり、軸筒10内の内圧上昇によるペン先30からインクの噴き出しが防止されることとなる。
【0045】
図16~
図20は、それぞれ、本第4実施形態のノック式筆記具の使用開始前の状態、筆記時の状態、用いるペン先を固着したリフィールの一例、ノック機構の回転子、並びに、ペン先が軸筒内に収納された状態(非ノック状態)などを示す各図面である。
本第4実施形態のノック式筆記具Dは、前記リフィール20のペン先30が出没動作によりインク貯蔵部材18から離間する構成となる点、前記軸筒10後部には、リフィール20を押圧動作により出没自在となるノック機構を備え、ノック機構は操作部となるノック体と回転子からなるカム機構で構成され、回転子は軸筒内面の内圧により開弁する弁部材を設けた点で、上記第2実施形態の筆記具B等と相違するものである。
【0046】
具体的には、本第4実施形態のノック式筆記具Dは、リフィール20のペン先30が出没動作によりインク貯蔵部材18から離間する構成とするために、リフィール20の小径の筒状部21に、クッション部材を有するペン先30を固着する先端固着部材27が取り付けられている。この先端固着部材27は、
図18(a)~(c)に示すように、リフィール20の小径の筒状部21に嵌合等により固着される本体部27aと、先端にペン先30を固着する固着部27bとを有すると共に、該本体部27aと固着部27bとの間にバネ部から構成されるクッション部材27cを一体に有するものである。また、シール部材48は、中央部に貫通孔49を有し、軸筒10の開口部11内に嵌合等により固着されている。
この実施形態の前記軸筒10後部に設けたリフィール20を押圧動作により出没可能とするノック機構70は、操作部となるノック体66と回転子65などからなるカム機構で構成され、回転子65は軸筒10内面の内圧により開弁する弁部材68が取り付けられている。
【0047】
この回転子65は、
図16、
図17及び
図19に示すように、操作部となるノック体66内に挿入されて芯合わせに使用される小径部65aと、小径部65aの前方に配置された大径部65bとから構成され、大径部65bは小径部65aよりも大きな直径を有し、大径部65bと小径部65aとは筒状となっている。大径部65bの後端面には、操作部となるノック体66のカム部(図示せず)等と相補的な形状のカム部65c、65c…が形成されてカム機構を構成しており、前端面には、蓋部材50と当接する凹状のフランジ部65dを有している。
また、この回転子65の小径部65aの外周面と端部面には、開口部を塞ぐように弁部材68が取り付けられている。この弁部材68は、
図19(a)~(d)に示すように、腕時計状の弁部68aと、弁部68aから離れた輪状部68bと、弁部68aと輪状部68bとを前後方向に繋ぐ連続部68cとが一体形成された弾性体が取り付けられている。この弁部68を回転子65に装着した状態では、小径部65aの後端開口を弁部68aで塞ぎ、小径部65aの周溝内に輪状部68bが嵌り、かつ、縦溝内に連続部65cが嵌って、密着した状態となっている。この弁部材68は、例えば、上述の各合成ゴム、各熱可塑性エラストマー等を用いて成形することができ、また、2色成型により弁部材68を含む回転子65を一体成形することもできる。本実施形態では、回転子65はポリアセタール製であり、弁部材68はスチレン系エラストマーであり、2色成形で成形されたものである。
【0048】
この実施形態におけるノック機構は、操作部となるノック体66を前方に向かって押圧し、ノック体66と共に回転子65を内筒60内において所定位置まで前方に移動させることによって行われる。
図16は、本第4実施形態のノック式筆記具の使用開始前の状態であり、リフィール20の先端側に取り付けたペン先30を固着した先端固着部材27の先端はシール部材48の貫通孔49に挿入されており、ペン先30の後端側はインク貯蔵部材18から離間(分離)しており、インクの供給はなされておらず、ペン先30からのインクの揮発はないものである。この状態からノック操作によって操作部となるノック体66を前方に向かって押圧すると、
図17に示すように、回転子65は所定位置まで前方に移動する。この際、先端固着部材27が前方に移動するが、固着部27bの段部27b1がシール部材48の後端側の外周面48aに当接し移動が阻止されると共に、バネ部から構成されるクッション部材27cがその弾性力により縮径し(縮み)、ペン先30の後端部32はインク貯蔵部材18に挿入され、しかも、ペン先30がシール部材47の貫通孔48の出口から出て、インク貯蔵部材18のインクは毛管力によりペン先30の筆記部31に供給されて筆記状態となる。その後、非筆記状態にするときは、ノック操作(ノック体66を押圧)すると、回転子65等のカム機構によりカム機構の係止が解除され、回転子65が回転し、その後、操作部に加えている力を解放すると、弾性部材71の付勢力によって回転子65がより後方へ移動し、
図16に示すように、ノック式筆記具Dは再び非筆記状態となるものである。
【0049】
本実施形態では、筆記時の際に、ペン先30の後端側32がインク貯蔵部材18に挿入してインクがペン先30の筆記部31に供給されるものであるが、非筆記時は、ペン先30の後端部はインク供給部材18と離間(分離)する構造となるので、シール部材48と相俟って、インク貯蔵部材18からのインクの揮発は確実に抑制されることとなり、また、軸筒10内の内圧が高まった場合も、ペン先30の後端部はインク供給部材18と離間(分離)しているので、インクの噴きだしも生じないものとなる。
【0050】
本実施形態のノック式筆記具Dにおいて、軸筒10内の内圧が高まった場合や、ノックの際の空気取り込みなどを
図20に基づいて更に詳述する。
(a)は
図16のノック式筆記具のペン先が軸筒内に収納された状態(非ノック状態)を示す縦断面図、(b)は非ノック状態において軸筒の内圧が高まった場合の後端側の要部を示す部分縦断面図、(c)はノック状態における後端側の要部を示す部分縦断面図である。
本実施形態のノック式筆記具Dにおける非ノック状態において、軸筒10の内圧が外気温の変動などにより高まった場合、
図20(b)に示すように、空気が回転子65の内部を通過し、弁部材68の弁部68a内面に到達すると、その空気圧により弁部材68の連続部68cが弾性変形で伸びて、弁部68aが開口部から浮いて隙間が生じて開弁し、回転子65外に出た空気は外筒部64とノック体66との隙間から筆記具D外に排出されることとなる。
【0051】
また、本実施形態のノック式筆記具Dにおいてノック操作すると、リフィール20が前方に移動することにより、
図20(c)に示すように、回転子65の当接面65aと内筒部63の先端面63aとが開放されるので、筆記具外の空気がノック体66と内筒60との隙間から入り軸筒10内に取り込まれて内外圧が一定となる。
本実施形態のノック式筆記具Dでは、軸筒10の後端側で空気の取り込みと、軸筒10の内圧が高まった場合にパージする機構を備えたものであり、簡便な構造により効率的に行うことができる。
【0052】
本発明のノック式筆記具は、上記各実施形態などに限定されることなく、本発明の技術思想を変更しない範囲内で更に種々変更することができる。
上記実施形態のノック式筆記具Dにおける回転子65に弁部材68を取り付けた構造を上記第1~第3実施形態の筆記具A~Cの各回転子65に適用して軸筒10内の内圧が高まった場合に後端側から空気をパージしてもよいものである。
【0053】
更にまた、上記各実施形態のノック式筆記具A~Dにおいて、ペン先30を棒状のペン先としてが、砲弾形状であってもよいものである。
また、上記各実施形態では、筆記具用のインク(水性インク、油性インク、熱変色性インク)で説明したが、液状化粧料、液状薬剤、塗布液、修正液などの液状体としてもよいものである。
【実施例】
【0054】
次に、実施例により、本発明を更に詳述するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0055】
〔実施例1〕
下記構成及び
図1~
図7に準拠するペン先を有するノック式筆記具、下記組成の筆記具用インクを使用した。ペン先、筆記具の寸法等は下記に示す大きさ等を使用した。
【0056】
(筆記具の構成)
軸筒10:ポリプロピレン製、長さ127mm、中央部内径9mm;外径11mm
インク貯蔵部材:PET繊維束、気孔率85%、φ6×80mm
リフィール20:ポリプロピレン製、長さ97mm、中央部内径6mm
ペン先30:ポリアセタール製、φ1.0×30mm
揮発抑制部材35:ポリアセタール製、螺旋溝:U字状溝、幅0.3mm、螺旋の数:8(周)
シール部材40:熱可塑性エラストマー製、軸筒10とシール部材40とは2色成形
隙間X:0.05mm、ストロークT:6mm
蓋部材50、内筒60、回転子65、ノック体66は共にポリプロピレン製
弾性部材71:ステンレス製
【0057】
(筆記具用インク組成、インク色:黒色)
筆記具用インクとして、下記組成のインク(合計100質量%)を使用した。
活性剤:メガファック F410(フッ素系アニオン界面活性剤、パーフルオロアルキル基含有カルボン酸塩、DIC株式会社製) 1質量%
防黴剤:ベンゾイソチアゾリン-3-オン 0.2質量%
グリセリルグルコシド水溶液:αGG(高濃度αグリセリルグルコシド水溶液、αグリセリルグルコシド60%水溶液、株式会社JTS製) 3質量%
顔料水分散体:FUJI SP BLACK 8041(黒色顔料水分散体、固形分20%、冨士色素株式会社製) 20質量%
水溶性有機溶剤:グリセリン 5質量%
水溶性有機溶剤:エチレングリコール 5質量%
水(溶媒):イオン交換水 65.8質量%
粘度(25℃):3.6mPa・s(コンプレート型粘度計、TOKIMEC社製、TV-20)
表面張力(25℃):40mN/m(自動表面張力計、協和界面科学社製、DY-300)
【0058】
上記構成となる筆記具用インクを搭載したノック式筆記具Aでは、製造後の
図1及び
図2の状態において、初期ノック操作(初めてノック操作)を行うと、ペン先30がシール部材40の封止部材43を突き破って出た。封止部材43はシール部材40に取れそうな状態で連設していたが、指で摘まんで簡単に取り除くことができることを確認した。
上記シール部材40の封止部材43は、ペン先30の押圧(ノック操作による筆記状態と)する際に及び/又は指等で引きちぎること等により簡単に脱落可能となることを確認し、この脱離により筆記状態とすることができた(
図6参照)。
また、軸筒10の後端側に設けた密封機構により軸筒10の後端部からのインクの揮発などもないことが官能評価により確認した。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明では、少なくとも、使用開始前までのペン先からのインクの揮発を確実に抑制することができるノック式筆記具が得られることとなる。
【符号の説明】
【0060】
10 軸筒
18 インク貯蔵部材
20 リフィール
30 ペン先
35 揮発抑制部材
40 シール部材
43 封止部材
50 蓋部材
60 内筒
65 回転子
66 ノック体
70 ノック機構