(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
F16J 15/3204 20160101AFI20240624BHJP
F16J 15/18 20060101ALI20240624BHJP
F16J 15/324 20160101ALI20240624BHJP
【FI】
F16J15/3204 201
F16J15/18 C
F16J15/324
(21)【出願番号】P 2020142443
(22)【出願日】2020-08-26
【審査請求日】2023-07-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000167196
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクトシーリングテクノ
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杢保 優
【審査官】久米 伸一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-103301(JP,A)
【文献】特開2010-270909(JP,A)
【文献】実開平03-086249(JP,U)
【文献】特開2020-076433(JP,A)
【文献】特開2008-025788(JP,A)
【文献】実開昭53-120669(JP,U)
【文献】実開昭50-155455(JP,U)
【文献】国際公開第2008/018765(WO,A1)
【文献】独国実用新案第202016001814(DE,U1)
【文献】中国特許出願公開第111237467(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/18
F16J 15/3204
F16J 15/324
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対回転する軸と固定部材との間の環状空間に設けられ、軸方向一方の液体又は半固体からなる潤滑剤が軸方向他方に漏れるのを防ぐ密封装置であって、
前記固定部材の内周面に取り付けられる環状の本体部と、
前記本体部のうち径方向内方の部分から軸方向一方に延びて設けられ、前記軸の外周面に滑り接触する環状のリップと、
径方向内方に延びて設けられ、前記潤滑剤を前記固定部材側から前記軸側へ案内する案内部と、
を備え、
前記案内部のうち前記リップよりも軸方向一方に位置する部分は、前記本体部を軸方向一方から覆い、
前記案内部の軸方向一方の端面に、前記相対回転に伴って周方向に流れるエアに押される前記潤滑剤を、径方向内方に導く突起部又は溝部が設けられて
おり、
前記案内部は、
前記リップの径方向外方に設けられ、前記リップから径方向外方に飛散する前記潤滑剤を受けることが可能となる底壁部と、
前記底壁部のうち軸方向一方の部分から径方向内方に延びて設けられ前記底壁部によって受けられる前記潤滑剤が軸方向一方に流出するのを阻止する堰部と、を有し、
前記端面は、前記堰部の軸方向一方に形成されており、
前記堰部の内周面に、前記相対回転に伴って周方向に流れるエアに押される前記潤滑剤を、軸方向他方に導く第二突起部又は第二溝部が設けられている、
密封装置。
【請求項2】
前記端面は、径方向の途中に折れ曲がり部を有する、
請求項
1に記載の密封装置。
【請求項3】
前記折れ曲がり部は、周方向に延びる周溝、又は周方向に延びる凸部であり、
前記突起部又は前記溝部は、前記周溝又は前記凸部にも設けられている、
請求項
2に記載の密封装置。
【請求項4】
前記端面は、径方向外方に向かうにつれて軸方向一方に延びるテーパ形状を有する、
請求項1から請求項
3のいずれか1項に記載の密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転する軸とその軸を支持するハウジングの一部との間に設けられ、オイル等の液体が外に漏れるのを防ぐために、密封装置が用いられる。密封装置は、例えば、ハウジング側に取り付けられる固定部と、その固定部から延び弾性変形が可能であるリップとを有する。特許文献1に、前記のような密封装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
密封装置のリップは、回転する軸の外周面に滑り接触するリップ先端部を有する。リップ先端部が過度に摩耗すると、密封の対象となる液体の漏れが発生する。特に軸が高速で回転する場合、リップ先端部が異常摩耗することがある。
【0005】
リップ先端部の摩耗の原因は次のとおりであると推測される。すなわち、密封の対象となる液体が例えば油である場合、リップ先端部と軸との間にその油による油膜が形成され、潤滑性が確保される。しかし、軸の回転により油膜を形成する油が飛散すると、潤滑性が低下し、異常摩耗が発生する。特に軸が高速回転すると、その現象が顕著に発生することが考えられる。なお、密封の対象は、グリースのような半固体(半流動体)の場合もある。
【0006】
そこで、本開示は、密封する対象であって潤滑性確保のために用いることが可能となる液体又は半固体によって、リップ先端部の潤滑性を高めることが可能となる新たな技術的手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本開示に係る密封装置は、相対回転する軸と固定部材との間の環状空間に設けられ、軸方向一方の液体又は半固体からなる潤滑剤が軸方向他方に漏れるのを防ぐ密封装置であって、前記固定部材の内周面に取り付けられる環状の本体部と、前記本体部のうち径方向内方の部分から軸方向一方に延びて設けられ、前記軸の外周面に滑り接触する環状のリップと、径方向内方に延びて設けられ、前記潤滑剤を前記固定部材側から前記軸側へ案内する案内部と、を備え、前記案内部のうち前記リップよりも軸方向一方に位置する部分は、前記本体部を軸方向一方から覆い、前記案内部の軸方向一方の端面に、前記相対回転に伴って周方向に流れるエアに押される前記潤滑剤を、径方向内方に導く突起部又は溝部が設けられている、密封装置である。
【0008】
前記端面の突起部又は溝部は、軸及び固定部材の相対回転に伴って周方向に流れるエアに押される潤滑剤を径方向内方に導く。径方向内方に導かれた潤滑剤は、さらにエアの流れにより径方向内方へ飛散する等してリップに付着することができる。これにより、リップの潤滑性を高めることができる。
【0009】
(2)好ましくは、前記案内部は、前記リップの径方向外方に設けられ、前記リップから径方向外方に飛散する前記潤滑剤を受けることが可能となる底壁部と、前記底壁部のうち軸方向一方の部分から径方向内方に延びて設けられ前記底壁部によって受けられる前記潤滑剤が軸方向一方に流出するのを阻止する堰部と、を有し、前記端面は、前記堰部の軸方向一方に形成されている。
【0010】
このように構成することで、案内部は、リップの径方向外方に潤滑剤を溜めることができる。溜められた潤滑剤は、軸の相対回転に伴うエア等によりリップ側へ跳ね上げられることで、リップの潤滑に寄与することができる。
【0011】
(3)好ましくは、前記堰部の内周面に、前記相対回転に伴って周方向に流れるエアに押される前記潤滑剤を、軸方向他方に導く第二突起部又は第二溝部が設けられている。このように構成することで、前記端面に沿って径方向内方に導かれた潤滑剤を、さらに案内部よりも軸方向他方(すなわち、リップ側)に導くことができる。
【0012】
(4)好ましくは、前記端面は、径方向の途中に折れ曲がり部を有する。端面に付着している潤滑剤は、折れ曲がり部により分断されることで、潤滑剤のひとかたまりあたりの重量が軽くなり、潤滑剤を移動させるために必要な力が弱くなる。この結果、より弱いエアで潤滑剤を移動させることが可能となり、より効率的に潤滑剤を径方向内方に導き、リップの潤滑性をより高めることができる。
【0013】
(5)好ましくは、前記折れ曲がり部は、周方向に延びる周溝、又は周方向に延びる凸部であり、前記突起部又は前記溝部は、前記周溝又は前記凸部にも設けられている。このように構成することで、折れ曲がり部により径方向に分断された潤滑剤は、周方向にエアに押されることで周溝等に設けられている突起部等に沿って移動することができる。この結果、潤滑剤は、折れ曲がり部を構成する周溝等を乗り越えることができ、潤滑剤を径方向内方に導くことができる。
【0014】
(6)好ましくは、前記端面は、径方向外方に向かうにつれて軸方向一方に延びるテーパ形状を有する。軸の相対回転に伴って流れるエアは、周方向一方に流れる成分と、径方向外方に流れる成分とを有する。前記端面は、テーパ形状を有するため、径方向外方に向かうエアを受ける面積(受風面積)をより大きくすることができる。このため、前記端面に付着している潤滑剤は、より多くのエアを受けることで、効率的に移動することができる。
【発明の効果】
【0015】
本開示の発明によれば、リップの潤滑性を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】
図1の矢印IIに示す方向から見た軸及び密封装置を示す説明図である。
【
図3】実施形態に係る密封装置の一部を示す断面斜視図である。
【
図4】実施形態に係る突起部の形状を示す説明図である。
【
図5】変形例に係る溝部の形状を示す説明図である。
【
図7】
図6の矢印VIIに示す方向から見た軸及び密封装置の一部を示す説明図である。
【
図8】変形例に係る密封装置を示す断面斜視図である。
【
図10】変形例に係る密封装置を示す説明図である。
【
図11】変形例に係る密封装置を示す説明図である。
【
図12】変形例に係る密封装置を示す説明図である。
【
図13】変形例に係る密封装置を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
〔全体構成について〕
図1は、本実施形態に係る密封装置1の説明図である。
図1は、軸7を側面から見た状態を示し、密封装置1を断面図として示している。
図1において断面として示す部分には、ハッチングを付す。
図1に示す密封装置1の断面は、軸7の中心線C1を含む面における断面である。
【0018】
軸7は、円柱形状を有し、ハウジングの一部である固定部材8において図外の軸受等によって回転可能に支持されている。軸7は、固定部材8に対し、中心線C1回りに回転する。軸7は、中心線C1を水平面に沿わせた姿勢で設けられている。軸7の外周面7aと固定部材8の内周面8aとの間には、環状空間が形成されている。環状空間は、軸方向一方の内部空間S1と、軸方向他方の外部空間S2とを有する。
【0019】
ここで、中心線C1が延びる方向を「軸方向」と称する。軸方向のうち密封装置1により密封される内部側(密封側)を軸方向一方と称し、内部側とは反対側の外部側(大気側)を軸方向他方と称する。また、軸方向と直交する方向を「径方向」と称する。径方向のうち中心線C1に向かう方向を径方向内方と称し、中心線C1から離れる方向を径方向外方と称する。また、中心線C1回りに回転する方向を「周方向」と称する。
【0020】
密封装置1は、環状空間に設けられ、内部空間S1の液体又は半固体(半流動体)からなる潤滑剤L1が外部空間S2へ漏れるのを防ぐ。換言すれば、密封装置1は、内部空間S1と外部空間S2とを区画している。軸7の中心線C1と密封装置1の中心線とは一致する。密封装置1は、例えば、モータ、変速機等に用いられるが、他の機器にも適用可能である。
【0021】
潤滑剤L1は、前記ハウジング内に設けられている他の部分(例えば、密封装置1よりも軸方向一方の部分)を潤滑するために用いられる。また、潤滑剤L1は、当該他の部分から密封装置1に飛来することで、密封装置1を潤滑するためにも用いられる。つまり、密封装置1は、潤滑剤L1が軸方向一方から供給される環境で用いられる。潤滑剤L1は、例えば液体のオイルであってもよいし、半固体のグリースであってもよい。また、潤滑剤L1は、グリースの基油であってもよい。
【0022】
〔密封装置1について〕
密封装置1は、断面略L字型の環状の芯金20と、当該芯金20に固定されているシール部材10と、環状のガータばね16と、案内部30と、を備える。芯金20は、例えば冷間圧延用鋼板(SPCC)等の金属により形成されている。芯金20は、円筒状の円筒部21と、円筒部21の軸方向他方側の部分から径方向内方に延びる円環状のフランジ部22とを有する。円筒部21は、その軸心が軸7の中心線C1と一致するように配置されている。
【0023】
〔シール部材10について〕
シール部材10は、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、アクリルゴム(ACM)、フッ素ゴム等のゴムを基材とする環状の弾性部材である。シール部材10は、加硫接着により芯金20に固定されている。シール部材10は、環状の本体部11と、環状の第一リップ12(主リップ)と、環状の第二リップ13(補助リップ)とを有する。本実施形態に係るシール部材10では、本体部11、第一リップ12及び第二リップ13は一体的に形成されているが、それぞれ別体として形成されてもよい。
【0024】
本体部11は、外周部11aと、側面部11bと、内周部11cとを有する。外周部11aは、軸方向に延び、円筒部21を径方向外方から覆う円筒状の領域である。外周部11aはさらに、円筒部21の軸方向一方の端部21aを軸方向一方から覆っている。外周部11aは、固定部材8の内周面8aに所定の締め代をもって接触することで、固定部材8の内周面8aに固定されている。これにより、本体部11は固定部材8の内周面8aに取付けられている。側面部11bは、径方向に延び、フランジ部22を軸方向他方から覆う円環状の領域である。内周部11cは、フランジ部22の径方向内方の端部22aを含む領域を軸方向一方から覆う円環状の領域である。本実施形態に係る本体部11では、外周部11a、側面部11b及び内周部11cは一体的に形成されているが、それぞれ別体として形成されてもよい。
【0025】
第一リップ12は、本体部11(具体的には、内周部11c)の径方向内方から軸方向一方に延びて設けられている。第一リップ12は、後述のガータばね16により径方向内方へ付勢されることで、相対回転する軸7の外周面7aに滑り接触する。第一リップ12は、第一リップ先端部12aと、リップ内周面12bと、内側面12c1と、外側面12c2と、周溝15と、を有する。
【0026】
周溝15は、第一リップ12の径方向外方に形成され、周方向に延びる溝領域である。周溝15には、ガータばね16が装着されている。ガータばね16は、コイルばねの両端を連結したばね部材である。ガータばね16が第一リップ12を径方向内方へ締め付けることにより、第一リップ12は軸7の外周面7aに所定の締め代をもって接触している。これにより、第一リップ12は、内部空間S1内の潤滑剤等の流体が外部空間S2側へ漏れるのを防止している。
【0027】
第一リップ12は、ガータばね16により弾性変形される前の自由状態において、断面形状が径方向内方に向かうにつれて細くなる(軸方向の幅寸法が小さくなる)略V字形状を有する。第一リップ先端部12aは、第一リップ12の径方向内方の先端部分(最小径部)であり、略V字形状の頂点部分に位置する。第一リップ12のうち第一リップ先端部12aを含む領域が、相対回転する軸7の外周面7aに滑り接触する。
【0028】
リップ内周面12bは、第一リップ先端部12aの軸方向他方に設けられ、軸方向他方に向かうにつれて内径が大きくなるように傾斜している領域である。リップ内周面12bの軸方向他方は、第二リップ13と接続している。内側面12c1は、第一リップ先端部12aの軸方向一方に設けられ、軸方向一方に向かうにつれて内径が大きくなるように傾斜している領域(テーパ面)である。内側面12c1は、例えば、第一リップ12を成型した後、第一リップ12の一部の角が斜めに切除されることで形成される。このため、内側面12c1は、カット面とも称される。
【0029】
外側面12c2は、内側面12c1の径方向外方と隣接する領域である。本実施形態の外側面12c2は、径方向に沿って設けられている。すなわち、外側面12c2を径方向内方に延長した仮想面は、中心線C1と直交する。例えば、内側面12c1が角の切除により形成される場合、外側面12c2は切除されずに残る角の一部として形成される。外側面12c2は、その形状から、ノーズ面とも称される。内側面12c1と外側面12c2との境界部12cは、周方向に延びる環状となる。
【0030】
図2は、
図1の矢印IIに示す方向(軸方向一方から軸方向他方に向かう方向)から見た軸7及び密封装置1を示す説明図(平面図)である。本実施形態に係る軸7は、矢印R1に示す方向(軸方向一方から見て、時計回り)に回転する。以下、矢印R1の方向を回転方向R1と称する。回転方向R1は、周方向一方とも称する。内側面12c1及び外側面12c2には、所定方向に延びる複数の突起部53が設けられている。
【0031】
複数の突起部53は、それぞれ内側面12c1及び外側面12c2の表面から軸方向一方に突出している突条部分である。複数の突起部53は、中心線C1を通過する径方向の仮想直線J1に対して傾斜する方向に延びている。より具体的に説明すると、複数の突起部53は、軸7の回転方向R1の前方に向かうにつれて、径方向内方に延びるように傾斜している。複数の突起部53は、外側面12c2の径方向外方の端部から、外側面12c2の径方向内方の端部(すなわち、境界部12c)を経由して、内側面12c1の径方向途中まで設けられている。複数の突起部53を含む内側面12c1及び外側面12c2の表面形状は、例えば金型の転写により形成される。
【0032】
図1を参照する。第二リップ13は、本体部11(具体的には内周部11c)の径方向内方から軸方向他方に延びて設けられている。第二リップ13は、軸7の外周面7aに滑り接触する又は隙間を有して対向する第二リップ先端部13aを有する。第一リップ12のリップ内周面12bと、第二リップ13のうち第二リップ先端部13aよりも軸方向一方の領域と、軸7の外周面7aとにより、空間部14が形成されている。空間部14には、軸7の外周面7aに対する第一リップ12及び第二リップ13の摩擦抵抗を低減させるために、潤滑剤が充填されている。
【0033】
〔案内部30について〕
案内部30は、軸方向一方から密封装置1に飛来する潤滑剤L1を固定部材8側から軸7側へ案内する機能と、潤滑剤L1を溜める機能とを有する。案内部30は、径方向内方に延びて設けられている。また、案内部30のうち第一リップ12よりも軸方向一方に位置する部分(後述の堰部41)は、軸方向一方から本体部11を覆っている。本実施形態に係る案内部30は、金属製(例えば、鋼)であるが、ゴム製又は樹脂製であってもよいし、これらの材料の組み合わせによって形成されてもよい。案内部30は、堰部41と、底壁部42とを有する。
【0034】
底壁部42は、第一リップ12の径方向外方に設けられている部分である。底壁部42は、中心線C1を中心とし、軸方向に延びる円筒形状を有する。底壁部42は、径方向内方の内周面42aと、径方向外方の外周面42bとを有する。底壁部42は、外周面42bを円筒部21の内周面に当接させている状態で、円筒部21に嵌合されている。これにより、案内部30は、芯金20に固定されている。
【0035】
底壁部42の内周面42aのうち軸方向他方の領域は、第一リップ12と径方向に対向している。また、底壁部42の内周面42aのうち軸方向一方の領域は、第一リップ12の外側面12c2(すなわち、第一リップ12の軸方向一方の端部)よりも軸方向一方に位置し、軸7の外周面7aと直接対向している。すなわち、第一リップ12の外側面12c2を径方向外方に延長した仮想平面は、底壁部42の内周面42aと交わる。このような位置関係により、底壁部42の内周面42aは、第一リップ12から径方向外方に飛散する潤滑剤L1を受けることが可能となる。
【0036】
堰部41は、底壁部42のうち軸方向一方の部分から径方向内方に延びて設けられている。堰部41は、中心線C1を中心とし、径方向に延びる円環形状を有する。堰部41は、軸方向一方の端面41aと、径方向内方の内周面41bとを有する。堰部41の内周面41bは、底壁部42の内周面42aよりも径方向内方に位置し、境界部12cよりも径方向外方に位置する。本実施形態に係る内周面41bは、外側面12c2の径方向外方の端部よりもわずかに径方向外方に位置する。このため、堰部41は、底壁部42によって受けられる潤滑剤L1が軸方向一方に流出するのを阻止することができる。
【0037】
また、底壁部42の軸方向他方は、芯金20のフランジ部22と、本体部11の側面部11b及び内周部11cとにより閉塞されている。このため、芯金20及び本体部11は、底壁部42によって受けられる潤滑剤L1が軸方向他方に流出するのを阻止することができる。
【0038】
内部空間S1のうち、案内部30と、芯金20と、本体部11の内周部11cと、第一リップ12とにより囲まれている空間を、「貯留空間S3」と称する。貯留空間S3は、潤滑剤L1が貯留される領域となる。軸7の回転等によりかき上げられ、軸方向一方から密封装置1へ飛来する潤滑剤L1の一部は、貯留空間S3に貯められる。
【0039】
図2を参照する。堰部41の端面41aには、所定方向に延びる複数の突起部51が設けられている。複数の突起部51は、それぞれ堰部41の端面41aから軸方向一方に突出している突条部分である。複数の突起部51は、中心線C1を通過する径方向の仮想直線J1に対して傾斜する方向に延びている。より具体的に説明すると、複数の突起部51は、軸7の回転方向R1の前方に向かうにつれて、径方向内方に延びるように傾斜している。
【0040】
複数の突起部51は、端面41aを径方向にわたって設けられている。すなわち、複数の突起部51は、端面41aの径方向外方の端部から端面41aの径方向内方の端部まで設けられている。
【0041】
図3は、密封装置1の一部を示す断面斜視図である。堰部41の内周面41bには、所定方向に延びる複数の突起部52が設けられている。複数の突起部52は、それぞれ堰部41の内周面41bから径方向内方に突出している突条部分である。複数の突起部52は、仮想直線J1に対して傾斜する方向に延びている。より具体的に説明すると、複数の突起部52は、軸7の回転方向R1の前方に向かうにつれて、軸方向他方に延びるように傾斜している。複数の突起部52は、内周面41bを軸方向にわたって設けられている。すなわち、複数の突起部52は、内周面41bの軸方向一方の端部から内周面41bの軸方向他方の端部まで設けられている。また、複数の突起部52は、軸方向一方において、それぞれ突起部51と接続している。
【0042】
複数の突起部51、52は、例えば堰部41を構成する金属の表面のうち突起部51、52以外の部分を研削することで形成される。
【0043】
〔潤滑剤を導く機能について〕
図3を参照して、突起部51、52、53の機能を説明する。密封装置1が取り付けられている前記ハウジング内の潤滑剤L1は、例えば、軸7の回転やその周囲のギア等の部材が回転することによって、かき上げられる。このかき上げによって、潤滑剤L1が軸方向一方から密封装置1側へ飛来する。飛来した潤滑剤L1の油滴L2は、堰部41の端面41aに付着したり、第一リップ12の内側面12c1及び外側面12c2に付着したり、貯留空間S3に直接流入したりする。
【0044】
軸7が回転すると、第一リップ先端部12aが軸7の外周面7aと摺接する。このため、第一リップ先端部12aがなめらかに外周面7aと接触するように、第一リップ先端部12aへ潤滑剤L1を供給する必要がある。そこで、本実施形態では、突起部51、52、53と、軸7の回転に伴うエアとにより、飛来した潤滑剤L1を固定部材8側(径方向外方)から軸7側(径方向内方)へ送ることで、第一リップ先端部12aへ潤滑剤L1を供給する。
【0045】
図3では、流れのイメージを説明するために、外側面12c2及び端面41a上に潤滑剤L1の油滴L2が付着している状態を例に挙げて説明する。なお、潤滑剤L1が油滴L2のように独立した滴状とならず、膜状に付着している場合でも、膜状の潤滑剤L1は油滴L2の場合と同様に移動する。
【0046】
油滴L2が径方向外方から径方向内方へ送られる様子を説明する。はじめに、油滴L2は、軸方向一方側から密封装置1へ飛来し、端面41aに付着する。ここで、軸7が回転している状態において、軸7の周囲のエアは、軸7の回転に伴って軸7の回転方向R1と同方向に流れる。端面41aに油滴L2が付着している状態で軸7が回転すると、端面41a上の油滴L2は、回転方向R1に沿って流れるエアにより押される。これにより、油滴L2は、端面41aに対して回転方向R1に移動する。
【0047】
端面41a上で回転方向R1に流れる油滴L2は、突起部51に引っかかり(すなわち、突起部51により捕捉され)、突起部51に沿って径方向内方に移動する(移動経路AR1)。すなわち、複数の突起部51は、端面41aに付着し、軸7の回転に伴って周方向一方に流れるエアに押される油滴L2(潤滑剤L1)を、径方向内方へ導く機能を有する。
【0048】
端面41aを突起部51に沿って径方向内方に移動した油滴L2は、内周面41bに到達する。そして、油滴L2は、内周面41bの突起部52に沿って軸方向他方に移動し、内周面41bの軸方向他方の端部から貯留空間S3に導かれる(移動経路AR2)。すなわち、複数の突起部52は、内周面41bに付着し、軸7の回転に伴って周方向一方に流れるエアに押される油滴L2(潤滑剤L1)を、軸方向他方へ導く機能を有する。
【0049】
貯留空間S3には、案内部30から案内された油滴L2と、軸方向一方から直接飛来した潤滑剤L1と、第一リップ12及び軸7の外周面7aから遠心力等により飛散した潤滑剤L1が貯留されている。そして、第一リップ12及び軸7の外周面7aから遠心力等により飛散した潤滑剤L1やエアは、貯留空間S3に貯留されている潤滑剤L1を跳ね上げる。跳ね上げられた潤滑剤L1の一部は、油滴L2となって外側面12c2に到達する(移動経路AR3)。
【0050】
外側面12c2上に付着した油滴L2は、エアにより押されることで、回転方向R1に移動する。そして、外側面12c2上を回転方向R1に流れる油滴L2は、突起部53に引っかかり(すなわち、突起部53により捕捉され)、突起部53に沿って径方向内方に移動する(移動経路AR4)。換言すれば、複数の突起部53は、外側面12c2に付着し、軸7の回転に伴って周方向一方に流れるエアに押される油滴L2(潤滑剤L1)を、径方向内方へ導く機能を有する。外側面12c2を突起部53に沿って径方向内方に移動した油滴L2は、境界部12cに到達する。
【0051】
ここで、外側面12c2と軸7とは非接触であるものの、互いに近接しているため、境界部12cやその近傍まで油滴L2が導かれれば、表面張力や第一リップ12の振動等により、油滴L2は内側面12c1や軸7の外周面7aを通って第一リップ先端部12aに供給される(移動経路AR5)。特に、突起部53に捕捉された油滴L2は、さらに回転方向R1の後方からエアに押されて突起部53に到達する油滴L2と合流することで、サイズが大きくなる。このため、油滴L2が表面張力等により外側面12c2から軸7の外周面7aへ到達すると、潤滑剤L1が軸7の外周面7aを軸方向に濡れ広がることで、第一リップ先端部12aに供給される。
【0052】
また、軸7が回転していない状態においても、突起部51、52、53に捕捉された油滴L2は、毛細管現象により突起部51、52、53がそれぞれ延びる方向に沿って流れる(浸透する)。このように、突起部51、52、53によれば、端面41a、内周面41b及び外側面12c2に付着している油滴L2(潤滑剤L1)が第一リップ先端部12a側に供給されやすくなり、第一リップ先端部12aの潤滑性を高めることができる。
【0053】
なお、本実施形態では複数の突起部51、52、53が形成されているが、突起部51、52、53はそれぞれ1本であってもよい。例えば、突起部51、53は、回転方向R1の前方に向かうにつれて径方向内方に延びる長尺な渦巻き形状を有していてもよい。また、突起部52は、回転方向R1の前方に向かうにつれて軸方向他方に延びる長尺な渦巻き形状を有していてもよい。また、本実施形態に係る突起部51、52、53は仮想直線J1に対して傾斜する方向に延びる直線として説明しているが、突起部51、52、53は、当該傾斜する方向に延びる曲線であってもよい。
【0054】
また、本実施形態に係る内側面12c1のうち第一リップ先端部12a側に突起部53は設けられていない。このように構成することで、突起部53が軸7の外周面7aに摺接することを防止することができ、突起部53が削れて第一リップ12にダメージが生じることを抑制することができる。なお、突起部53は、外側面12c2のみに設けられ、内側面12c1に設けられていない構成であってもよい。この場合、突起部53の径方向内方の端部は、境界部12c上に位置してもよいし、境界部12cよりも径方向外方に位置していてもよい。このように構成する場合であっても、突起部53は潤滑剤L1を径方向内方に導く機能を有する。
【0055】
〔突起部の形状〕
図4は、突起部51の形状を示す説明図である。他の突起部52、53の形状は、突起部51の形状と同様であるため、説明を省略する。突起部51は、端面41aから軸方向一方に突出していればよいが、好ましくは、エアの流れる回転方向R1(周方向一方)と交差する立面51aを有する。なお、立面51aは、回転方向R1に対して平行な面以外であればよく、回転方向R1に対して直角に交差する面であってもよいし、直角以外の角度で交差する面であってもよい。
【0056】
立面51aと、立面51aに隣接する端面41aとの成す角度(劣角)θは、90度であってもよいが、90度未満であるのが好ましい。角度θを90度未満とすることで、突起部51によって捕捉された油滴L2が、突起部51を回転方向R1に乗り越え難くなり、突起部51が延びる方向に沿って導かれやすくなる。突起部51の断面形状は、三角形状であってもよいし、三角形状以外の形状であってもよい。例えば、突起部51の断面形状の少なくとも一部に円弧形状が含まれていてもよい。
【0057】
〔変形例〕
以上、本発明の実施形態を説明した。しかしながら、本発明の実施に関してはこれに限られず、種々の変形を行うことができる。以下、本発明の実施形態に係る変形例について、説明する。なお、以下の説明において、実施形態から変更のない部分については同じ符号を付し、説明を省略する。
【0058】
〔突起部の変形例〕
上記の実施形態では、突起部51、52、53により、潤滑剤L1を第一リップ先端部12aへ導く。しかしながら、突起部51に代えて、端面41aの表面から軸方向他方に窪んだ溝部54が設けられていてもよい。この場合、エアに押されて回転方向R1に移動する油滴L2は、溝部54に引っかかり、溝部54に沿って径方向内方に導かれる。また、軸7が回転していない状態においても、突起部51と同様に毛細管現象により油滴L2は溝部54を沿って径方向内方に移動する。突起部52、53についても同様に、溝部に代えられてもよい。
【0059】
図5は、変形例に係る溝部54の形状を示す説明図である。溝部54は、端面41aから軸方向他方に窪んでいればよいが、好ましくは、エアの流れる回転方向R1と交差する壁面54aを有する。なお、壁面54aは、回転方向R1に対して平行な面以外であればよく、回転方向R1に対して直角に交差する面であってもよいし、直角以外の角度で交差する面であってもよい。
【0060】
壁面54aと、壁面54aに隣接する端面41aとの成す角度(劣角)θは、90度であってもよいが、90度未満であるのが好ましい。角度θが90度未満であることで、溝部54によって捕捉された油滴L2が、溝部54を離脱し難くなり、溝部54が延びる方向に沿って径方向内方へ導かれやすくなる。溝部54の断面形状は、三角形状であってもよいし、三角形状以外であってもよい。溝部54の断面形状の少なくとも一部に円弧形状が含まれていてもよい。
【0061】
〔案内部の変形例〕
以下、案内部30の変形例(案内部31~37)について、説明する。以下に説明する案内部31~37は、後述する堰部の形状が上記の実施形態に係る案内部30と異なる。しかしながら、変形例に係る案内部31~37は、軸方向一方の端面のいずれにも回転方向R1(周方向一方)に流れるエアに押される潤滑剤L1を径方向内方に導く突起部が設けられている点で、共通する。
【0062】
〔案内部の変形例1〕
図6は、変形例に係る密封装置1aを示す説明図である。
図6に示す密封装置1aの断面は、
図1と同じく、軸7の中心線C1を含む面における断面である。密封装置1aは、芯金20と、シール部材10と、ガータばね16と、案内部31と、を備える。案内部31は、堰部41と、底壁部42と、第二堰部43とを有する。
【0063】
第二堰部43は、堰部41の端面41aに加硫接着により設けられるゴム製(又は樹脂製)の部材である。第二堰部43は、軸方向一方の端面43aと、径方向内方の内周面43bとを有する。内周面43bは、堰部41の内周面41bと径方向の位置が同じである(すなわち、段差なく接続している)。端面43aには、2本の周溝43c1、43c2が周方向に沿って設けられている。周溝43c1、43c2は、それぞれ軸方向他方に窪んでいる溝である。周溝43c1、43c2により、端面43aは径方向において3つの面に分断される。これら3つの面を、径方向内方から順に、第一端面43a1、第二端面43a2、第三端面43a3と称する。
【0064】
図7は、
図6の矢印VIIに示す方向(軸方向一方から軸方向他方に向かう方向)から見た軸7及び密封装置1aの一部を示す説明図(平面図)である。第二堰部43の端面43aには、突起部51が設けられている。突起部51は、第一端面43a1、第二端面43a2及び第三端面43a3に設けられている。また、突起部51は、周溝43c1、43c2にも設けられている。また、
図6に示すように、第二堰部43の内周面43b及び堰部41の内周面41bには、突起部52が設けられている。第二堰部43の表面形状(周溝43c1、43c2、突起部51、52)は、金型によるゴム材(又は樹脂材)への転写成形により形成される。
【0065】
突起部51は、回転方向R1に流れるエアに押される潤滑剤L1の油滴L2(又は潤滑剤L1の油膜)を径方向内方に導く(移動経路AR1)。突起部52は、回転方向R1に流れるエアに押される潤滑剤L1の油滴L2(又は潤滑剤L1の油膜)を軸方向他方に導く。
【0066】
ここで、突起部51により潤滑剤L1を効率よく径方向内方に導くことができれば、より効率的に第一リップ12を潤滑することができる。回転方向R1に流れるエアの風速が同じ場合には、より多量の潤滑剤L1がエアの流れに沿って端面43a上を回転方向R1に移動する方が効率が良い。また、同じ量の潤滑剤L1が回転方向R1に移動する場合には、回転方向R1に流れるエアの風速がより低い方が効率が良い。すなわち、効率E1は、エアの風速WS1が低く、移動する潤滑剤L1の体積VL1が多いほど高くなる(E1=VL1/WS1)。
【0067】
効率E1をより高くするために、端面43a上の潤滑剤L1を分断(細分化)し、潤滑剤L1の1つの塊(油滴L2又は油膜)あたりの重量を軽くする手法が挙げられる。潤滑剤L1の油滴L2又は油膜の重量が軽くなれば、移動に必要な力が弱くなるため、より弱いエアで潤滑剤L1を移動させることができる。
【0068】
本変形例では、端面43aに付着する潤滑剤L1の油滴L2(又は油膜)が、周溝43c1、43c2により径方向に分断(3分割)されている。このため、1つの油滴L2あたりの重量が、上記の実施形態に係る端面41aに付着する油滴L2よりも軽くなり、油滴L2はより弱い力で周方向に移動することができる。この結果、突起部51により潤滑剤L1を効率よく径方向内方に導くことができ、より効率的に第一リップ12を潤滑することができる。
【0069】
さらに、本変形例では、周溝43c1、43c2内にも突起部51が設けられている。このため、周溝43c1、43c2により径方向に分断された潤滑剤L1は、回転方向R1に流れるエアに押されることで周溝43c1、43c2に設けられている突起部51に沿って移動することができる。この結果、潤滑剤L1は、周溝43c1、43c2を径方向内方に越えることができ、潤滑剤L1を径方向内方に導くことができる。
【0070】
本変形例において、端面43aには2本の周溝43c1、43c2が設けられているが、端面43aの周溝の本数はこれに限られない。端面43aの周溝は、1本であってもよいし、3本以上であってもよい。すなわち、潤滑剤L1の径方向の分割数は、2分割であってもよいし、4分割以上であってもよい。また、端面43aの周溝は、周方向の全周にわたって設けられてもよいし、周方向に断続的に設けられてもよい。本変形例において、周溝43c1、43c2は、ゴム製の第二堰部43に転写成形により設けられているが、第二堰部43を設けず、堰部41に金属加工により周溝が設けられてもよい。
【0071】
〔案内部の変形例2〕
図8は、変形例に係る密封装置1bを示す断面斜視図である。密封装置1bは、芯金20と、シール部材10と、ガータばね16と、案内部32と、を備える。案内部32は、堰部44と、底壁部42とを有する。堰部44は、軸方向一方の端面44aと、径方向内方の内周面44bとを有する。端面44aには突起部51が設けられ、内周面44bには突起部52が設けられている。
【0072】
上記の案内部31では、効率E1をより高くするために、端面43a上の潤滑剤L1を周溝43c1、43c2により分断し、1つの油滴L2あたりの重量を軽くしている。これに対し、本変形例に係る案内部32は、端面44aの形状を、より効率的にエアを受ける形状とすることで、効率E1をより高くする。
【0073】
端面44aは、径方向外方に向かうにつれて軸方向一方に延びるテーパ形状を有する。端面44aの径方向の傾きは一定であり、端面44aの軸方向に対する角度θ1は、例えば70度である。なお、角度θ1は、0度より大きく、90度未満の値をとることができ、例えば30度又は45度であってもよい。また、径方向外方に向かうにつれて、端面44aの傾きが大きくなってもよい。すなわち、端面44aは平面形状であってもよいし、軸方向他方に凹む曲面形状であってもよい。
【0074】
軸7の回転に伴って流れるエアは、
図8の矢印R1に示すように、周方向一方に流れる成分と、径方向外方に流れる成分とを有する。端面44aは、上記のテーパ形状のため、径方向外方に向かうエアを受ける面積が、端面41aよりも大きい(受風面積が大きい)。このため、端面44a上に付着している潤滑剤L1は、より多くのエアを受けることで、効率的に移動する。
【0075】
特に、潤滑剤L1の油滴L2は、移動を開始する際に、より大きい力を必要とする。本変形例に係る端面44aは、エアの径方向外方に向かう成分をテーパ形状により受けることで、油滴L2を径方向により大きい力で押すことができるので、端面44a上に静止している油滴L2の移動をより効率的に開始させることができる。そして、エアの周方向一方に向かう成分により油滴L2は周方向一方に流れ、やがて突起部51に捕捉されて径方向内方に導かれる。このため、エアの径方向外方に向かう成分により油滴L2が径方向外方へ多少移動するとしても、最終的には油滴L2を径方向内方に導くことができる。
【0076】
なお、端面44aは、周方向一方に向かうエアを受ける面積を大きくするために、端面44aの周方向の一部領域に、周方向一方に向かうにつれて軸方向一方に傾くテーパ形状が形成されていてもよい。また、端面44aは、周方向一方及び径方向外方に向かうにつれて軸方向一方に傾くテーパ形状を有していてもよい。
【0077】
〔案内部の変形例3〕
図9は、変形例に係る密封装置1cを示す説明図である。
図9に示す密封装置1cの断面は、
図1と同じく、軸7の中心線C1を含む面における断面である。密封装置1cは、芯金20と、シール部材10と、ガータばね16と、案内部33と、を備える。案内部33は、堰部45と、底壁部42とを有する。堰部45は、軸方向一方の端面45aと、径方向内方の内周面45bとを有する。端面45aには突起部51が設けられ、内周面45bには突起部52が設けられている。
【0078】
上記の案内部31は、
図6に示すように潤滑剤L1を分断するための周溝43c1、43c2を有し、上記の案内部32は、
図8に示すようにエアの受風面積を大きくするためのテーパ形状を有する。本変形例に係る案内部33は、潤滑剤L1を分断するための周溝と、エアの受風面積を大きくするためのテーパ形状との両方を有する。
【0079】
より具体的には、堰部45の端面45aには、3本の周溝45c1、45c2、45c3が周方向に沿って設けられている。周溝45c1、45c2、45c3により、端面45aは径方向において4つの面に分断される。これら4つの面を、径方向内方から順に、第一端面45a1、第二端面45a2、第三端面45a3、第四端面45a4と称する。本変形例に係る案内部33によれば、周溝45c1、45c2、45c3により潤滑剤L1が分断されることで、潤滑剤L1を押すために必要な力を少なくすることができる。
【0080】
第一端面45a1、第二端面45a2、第三端面45a3及び第四端面45a4は、いずれも、径方向外方に向かうにつれて軸方向一方に延びるテーパ形状を有する。第一端面45a1、第二端面45a2、第三端面45a3及び第四端面45a4の径方向の傾きは、いずれも等しく、一定値である。第四端面45a4の軸方向に対する角度θ2は、例えば45度である。なお、端面45aの径方向の傾きは、径方向外方に向かうにつれて大きくなってもよい。例えば、第一端面45a1の傾きよりも、第二端面45a2の傾きのほうが大きくなっていてもよい。
【0081】
第二端面45a2の少なくとも一部は、第一端面45a1よりも軸方向一方に位置する。同様に、第三端面45a3及び第四端面45a4は、それぞれ第二端面45a2及び第三端面45a3よりも軸方向一方に位置する。すなわち、第二~第四端面45a2~45a4は、自身よりも径方向内方に位置する第一~第三端面45a1~45a3よりも軸方向一方に位置する領域をそれぞれ有する。このように構成することで、第一端面45a1、第二端面45a2、第三端面45a3及び第四端面45a4のいずれもが、エアの径方向外方に向かう成分を受けることができるため、端面45aに付着している潤滑剤L1をより効率的に移動させることができる。
【0082】
また、第二端面45a2は、第一端面45a1を径方向外方に延長した仮想平面P1よりも径方向外方及び軸方向他方に位置する。同様に、第三端面45a3及び第四端面45a4は、第二端面45a2及び第三端面45a3をそれぞれ径方向外方に延長した仮想平面よりも径方向外方及び軸方向他方に位置する。このように構成することで、堰部45の軸方向の長さを短くすることができ、案内部33をよりコンパクトにすることができる。
【0083】
〔案内部の変形例4〕
図10は、変形例に係る密封装置1dを示す説明図である。
図10に示す密封装置1dの断面は、
図1と同じく、軸7の中心線C1を含む面における断面である。密封装置1dは、芯金20と、シール部材10と、ガータばね16と、案内部34と、を備える。案内部34は、堰部46と、底壁部42とを有する。堰部46は、軸方向一方の端面46aと、径方向内方の内周面46bとを有する。端面46aには突起部51が設けられ、内周面46bには突起部52が設けられている。
【0084】
端面46aは、径方向の途中で折れ曲がることで、内側面46a1と、外側面46a2とを形成している。外側面46a2は、内側面46a1よりも径方向外方に位置し、径方向に平行な方向に延びる面である。内側面46a1は、外側面46a2の径方向内方の端部と、内周面46bの軸方向一方の端部とを接続する面である。内側面46a1は、径方向内方に向かうにつれて、軸方向他方に延びるテーパ形状を有する。内側面46a1と外側面46a2との境界を「折れ曲がり部46c」と称する。
【0085】
折れ曲がり部46cは、周方向に延びている。折れ曲がり部46cの角度θ3、すなわち内側面46a1と外側面46a2との角度(劣角)は、90度よりも大きく、かつ180度未満であり、例えば120度である。折れ曲がり部46cは、端面46aの径方向の角度を異ならせることで、端面46aに付着する潤滑剤L1を内側面46a1側の油滴L2と、外側面46a2側の油滴L2とに(すなわち、径方向に)分断することができる。潤滑剤L1が端面46aにおいて分断(細分化)されることで、1つの油滴L2を押すために必要な力を小さくすることができ、より効率的に潤滑剤L1を回転方向R1に移動させることができる。
【0086】
ここで、上記の案内部31(
図6)では、軸方向他方に窪んでいる周溝43c1、43c2により、端面43aに付着している潤滑剤L1を径方向に分断する。潤滑剤L1の分断は、より具体的に観察すると、周溝43c1、43c2により、端面43aの径方向の途中で折れ曲がる部分(折れ曲がり部)が生じ、当該部分により、端面43aに付着する潤滑剤L1が径方向に分離されることに起因する。すなわち、周溝43c1、43c2は、径方向に角度を異ならせることで端面43aに付着する潤滑剤L1を径方向に分断する折れ曲がり部を含む。
【0087】
〔案内部の変形例5〕
図11は、変形例に係る密封装置1eを示す説明図である。
図11に示す密封装置1eの断面は、
図1と同じく、軸7の中心線C1を含む面における断面である。密封装置1eは、芯金20と、シール部材10と、ガータばね16と、案内部35と、を備える。案内部35は、堰部47と、底壁部42とを有する。堰部47は、軸方向一方の端面47aと、径方向内方の内周面47bとを有する。端面47aには突起部51(図示省略)が設けられ、内周面47bには突起部52が設けられている。
【0088】
上記の実施形態に係る内周面41bは、外側面12c2の径方向外方の端部よりもわずかに径方向外方に位置する。これに対し、本変形例に係る内周面47bは、径方向において、境界部12cと同じ位置に位置する。すなわち、外側面12c2の径方向外方の端部よりも径方向内方に位置する。このように構成することで、貯留空間S3に貯められている潤滑剤L1が軸方向一方に流出するのをより確実に阻止しつつ、端面47aに付着している潤滑剤L1を突起部51に沿って径方向内方へ導くことができる。
【0089】
また、内周面41bは境界部12cと同じ位置に位置するため、内周面41bと軸7とは径方向に離れている。このため、内周面41bの突起部52に沿って軸方向他方に導かれた潤滑剤L1の少なくとも一部は、軸7ではなく、第一リップ12の内側面12c1若しくは外側面12c2、又は貯留空間S3に貯められている潤滑剤L1に供給される。
【0090】
特に、内周面41bは外側面12c2の径方向外方の端部よりも径方向内方に位置するため、内周面41bの潤滑剤L1は第一リップ12の内側面12c1若しくは外側面12c2へ導かれやすくなる。すなわち、
図3に示す移動経路AR3を省略することができ、第一リップ12への潤滑剤L1の供給効率や、供給速度を高めることができる。
【0091】
〔案内部の変形例6〕
図12は、変形例に係る密封装置1fを示す説明図である。
図12に示す密封装置1fの断面は、
図1と同じく、軸7の中心線C1を含む面における断面である。密封装置1fは、芯金20と、シール部材10と、ガータばね16と、案内部36と、を備える。案内部36は、堰部41と、底壁部42と、第二堰部48とを有する。
【0092】
第二堰部48は、堰部41の端面41aに加硫接着により設けられるゴム製(又は樹脂製)の部材である。第二堰部48は、軸方向一方の端面48aと、径方向内方の内周面48bとを有する。内周面48bは、堰部41の内周面41bと径方向の位置が同じである(すなわち、段差なく接続している)。端面48aには突起部51が設けられ、内周面48b及び内周面41bには突起部52が設けられている。
【0093】
端面49aには、2本の凸部48c1、48c2が周方向に沿って設けられている。凸部48c1、48c2は、それぞれ軸方向一方に突出している領域である。凸部48c1、48c2にも、突起部51が設けられている。凸部48c1、48c2により、端面48aは径方向において3つの面に分断される。これら3つの面を、径方向内方から順に、第一端面48a1、第二端面48a2、第三端面48a3と称する。
【0094】
上記の案内部31(
図6)では、周溝43c1、43c2により端面43aの潤滑剤L1を径方向に分断する。これに対し、本変形例に係る案内部36では、凸部48c1、48c2により、端面48aの潤滑剤L1を径方向に分断する。すなわち、凸部48c1、48c2は、径方向に角度を異ならせることで端面48aに付着する潤滑剤L1を径方向に分断する折れ曲がり部を含む。これにより、潤滑剤L1を押すために必要な力を少なくすることができる。
【0095】
〔案内部の変形例7〕
図13は、変形例に係る密封装置1gを示す説明図である。
図13に示す密封装置1gの断面は、
図1と同じく、軸7の中心線C1を含む面における断面である。密封装置1gは、芯金20と、シール部材10と、ガータばね16と、案内部37と、を備える。案内部37は、堰部41と、底壁部42と、第二堰部49とを有する。
【0096】
第二堰部49は、堰部41の端面41aに加硫接着により設けられるゴム製(又は樹脂製)の部材である。第二堰部49は、軸方向一方の端面49aと、径方向内方の内周面49bとを有する。内周面49bは、堰部41の内周面41bと径方向の位置が同じである(すなわち、段差なく接続している)。端面49aには突起部51が設けられ、内周面49b及び内周面41bには突起部52が設けられている。
【0097】
端面49aは、工場の屋根のようなノコギリ形状を有する。ノコギリ形状の長辺にあたる部分を、径方向内方から順に、第一端面49a1、第二端面49a2、第三端面49a3と称する。第一端面49a1、第二端面49a2及び第三端面49a3は、それぞれ径方向外方に向かうにつれて軸方向一方に延びるテーパ形状を有し、各端面49a1~49a3の軸方向に対する角度θ4は、例えば70度である。また、第一端面49a1、第二端面49a2及び第三端面49a3の径方向外方の端部(ノコギリ形状の頂点にあたる部分)の軸方向の位置は、それぞれ等しい。このため、第一端面49a1に対し、第二端面49a2及び第三端面49a3は軸方向に重複する位置にある。このように構成することで、端面49aは、端面41aと比べ径方向外方に向かうエアを受ける面積を大きくしつつ、案内部37の軸方向の長さをより短くすることができる。
【0098】
また、第一端面49a1及び第二端面49a2の径方向外方の端部を、それぞれ折れ曲がり部49c1、49c2と称する。案内部37は、折れ曲がり部49c1、49c2により潤滑剤L1を径方向に分断することができるため、潤滑剤L1を押すために必要な力を少なくすることができる。
【0099】
〔その他の変形例〕
上記の実施形態において、第一リップ12の外側面12c2、堰部41の端面41a及び内周面41bの少なくとも一部の表面形状は、表面粗さが他の面(例えば、内側面12c1)よりも粗い梨地形状であってもよい。梨地形状は、例えば、金型の転写(シボ加工)により形成されてもよいし、ブラスト処理などにより機械的に形成されてもよいし、薬液処理などにより化学的に形成されてもよい。外側面12c2、端面41a及び内周面41bの少なくとも一部に梨地形状が含まれることで、これらの面に潤滑剤L1が付着しやすくなる。
【0100】
上記の実施形態では、堰部41と底壁部42は単一部材として設けられている。しかしながら、堰部41と底壁部42はそれぞれ別部材として設けられてもよい。また、案内部30において底壁部42は必須の構成ではない。底壁部42を省略し、堰部41のみを有する構成であってもよい。この場合、堰部41は芯金20の円筒部21に固定されてもよいし、本体部11に固定されてもよいし、固定部材8の内周面8aに固定されてもよい。
【0101】
上記の実施形態では、案内部30と芯金20及びシール部材10は別部材である。しかしながら、案内部30と芯金20が単一部材として形成されてもよい。この場合、案内部30の底壁部42と、芯金20の円筒部21とが、単一の金属部材として一体化されていてもよい。また、案内部30とシール部材10が単一部材として形成されてもよい。この場合、案内部30の堰部41及び底壁部42の少なくとも一方と、シール部材10の本体部11の外周部11aとが、単一のゴム部材(又は樹脂部材)として一体化されていてもよい。
【0102】
上記の実施形態において、底壁部42の内周面42aは、断面において、中心線C1に平行な直線形状を有する。しかしながら、内周面42aの断面形状はこれに限られず、例えば、堰部41に近づくにつれて径方向外方に延びる断面形状を有していてもよい。このように構成することで、貯留空間S3のうち第一リップ12よりも軸方向一方に貯留される潤滑剤L1の量を多くすることができ、
図3に示す移動経路AR3において、より多くの潤滑剤L1を第一リップ12へ跳ね上げることができる。
【0103】
上記の実施形態において、案内部30は、本体部11の全周にわたって設けられている環状の部材である。しかしながら、案内部30は、本体部11の周方向の一部に設けられる扇型環形状の部材であってもよい。この場合、好ましくは、案内部30、芯金20及びシール部材10により貯留空間S3を形成し、貯留空間S3に貯められている潤滑剤L1を重力方向下方及び水平方向(軸方向)から保持するために、中心線C1に対し重力方向下方に設けられる。
【0104】
上記の実施形態では、軸7が回転することで、周方向に流れるエアが発生する。しかしながら、軸7が固定され、固定部材8が回転するように構成されてもよい。すなわち、軸7は固定部材8に対して相対回転すればよい。
【0105】
上記の案内部の変形例1~7では、堰部の端面に突起部51が設けられている例を説明している。しかしながら、突起部51に代えて、溝部54が設けられていてもよい。また、堰部の端面に突起部51と溝部54の両方が設けられていてもよい。
【0106】
〔その他〕
今回開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の権利範囲は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0107】
1、1a、1b、1c、1d、1e、1f、1g:密封装置
10:シール部材 11:本体部 11a:外周部
11b:側面部 11c:内周部 12:第一リップ(リップ)
12a:第一リップ先端部 12b:リップ内周面 12c1:内側面
12c2:外側面 12c:境界部 13:第二リップ
13a:第二リップ先端部 15:周溝 14:空間部
16:ガータばね 20:芯金 21:円筒部
22:フランジ部
30、31、32、33、34、35、36、37:案内部
41、44、45、46、47:堰部
41a、43a、44a、45a、46a、47a、48a、49a:端面
41b、43b、44b、45b、46b、47b、48b、49b:内周面
42:底壁部 42a:内周面 42b:外周面
43、48、49:第二堰部
43a1、45a1、48a1、49a1:第一端面
43a2、45a2、48a2、49a2:第二端面
43a3、45a3、48a3、49a3:第三端面
43c1、43c2、45c1、45c2、45c3:周溝
45a4:第四端面 46a1:内側面 46a2:外側面
46c、49c1、49c2:折れ曲がり部 48c1、48c2:凸部
51:突起部 51a:立面 52:突起部
53:突起部 54:溝部 54a:壁面
7:軸 7a:外周面 8:固定部材
8a:内周面 C1:中心線 L1:潤滑剤
L2:油滴 R1:回転方向 J1:仮想直線
P1:仮想平面 S1:内部空間 S2:外部空間
S3:貯留空間 AR1、AR2、AR3、AR4:移動経路