(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】系統断面生成装置、系統断面生成方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
H02J 3/00 20060101AFI20240624BHJP
H02J 3/24 20060101ALI20240624BHJP
H02J 3/46 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
H02J3/00 170
H02J3/24
H02J3/46
(21)【出願番号】P 2020156453
(22)【出願日】2020-09-17
【審査請求日】2023-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山嵜 朋秀
(72)【発明者】
【氏名】木村 操
(72)【発明者】
【氏名】田能村 顕一
(72)【発明者】
【氏名】星野 友祐
【審査官】佐藤 匡
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/020933(WO,A1)
【文献】特開2019-030065(JP,A)
【文献】特開2018-057119(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/00
H02J 3/24
H02J 3/46
G06Q 50/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の発電機と複数の分散型電源を有する電力系統で発生する事故ケースに対して、事故の結果生ずる不安定現象に相関のある系統状態量を選択して安定化評価指標として決定する安定化評価指標決定部と、
前記不安定現象が所定基準よりも過酷となるような系統断面を生成する過酷出力パターン決定部を有し、
前記過酷出力パターン決定部は、
前記安定化評価指標決定部で決定した前記安定化評価指標
、および、前記分散型電源の出力と前記安定化評価指標の非線形関係に基づき前記所定基準よりも過酷な系統断面を生成する過酷状態決定部と、
前記系統断面における複数の前記分散型電源の出力の合計値の変動によって生じる需給インバランス量に基づいて複数の前記発電機に出力配分する需給インバランス補正部と、を有する系統断面生成装置。
【請求項2】
前記過酷状態決定部は、前記安定化評価指標決定部で選択した系統状態量の最大化もしくは最小化を目的関数として、前記分散型電源の
発電有効電
力を変数に含む最適潮流計算を解く、請求項1に記載の系統断面生成装置。
【請求項3】
前記需給インバランス補正部は、前記分散型電源の
発電有効電
力と前記発電機の
発電有効電
力の合計値と、負荷有効電力との間に需給インバランスが生じた場合において、予め設定されたルールに従って需給インバランス量に基づいて前記発電機に出力配分する、請求項1に記載の系統断面生成装置。
【請求項4】
複数の発電機と複数の分散型電源を有する電力系統で発生する事故ケースに対して、事故の結果生ずる不安定現象に相関のある系統状態量を選択して安定化評価指標として決定する安定化評価指標決定ステップと、
前記不安定現象が所定基準よりも過酷となるような系統断面を生成する過酷出力パターン決定ステップを有し、
前記過酷出力パターン決定ステップは、
前記安定化評価指標決定ステップで決定した前記安定化評価指標
、および、前記分散型電源の出力と前記安定化評価指標の非線形関係に基づき前記所定基準よりも過酷な系統断面を生成する過酷状態決定ステップと、
前記系統断面における複数の前記分散型電源の出力の合計値の変動によって生じる需給インバランス量に基づいて複数の前記発電機に出力配分する需給インバランス補正ステップと、を有する系統断面生成方法。
【請求項5】
コンピュータに、
複数の発電機と複数の分散型電源を有する電力系統で発生する事故ケースに対して、事故の結果生ずる不安定現象に相関のある系統状態量を選択して安定化評価指標として決定する安定化評価指標決定ステップと、
前記不安定現象が所定基準よりも過酷となるような系統断面を生成する過酷出力パターン決定ステップを有し、
前記過酷出力パターン決定ステップは、
前記安定化評価指標決定ステップで決定した前記安定化評価指標
、および、前記分散型電源の出力と前記安定化評価指標の非線形関係に基づき前記所定基準よりも過酷な系統断面を生成する過酷状態決定ステップと、
前記系統断面における複数の前記分散型電源の出力の合計値の変動によって生じる需給インバランス量に基づいて複数の前記発電機に出力配分する需給インバランス補正ステップと、
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、系統断面生成装置、系統断面生成方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電力系統(以下、単に「系統」とも称する。)において、再生可能エネルギー発電機(再エネ発電機)を含む分散型電源の割合は年々増加している。ここで、分散型電源とは、大規模な発電機(火力発電機、水力発電機、原子力発電機等)以外で電力系統に接続可能な電源およびそれに準ずるものを指し、例えば、再エネ発電機(太陽光発電機、風力発電機等)、蓄電池、EV(Electric Vehicle)、DR(Demand Response)によって得られる電力等を含む。
【0003】
系統運用者は、分散型電源の出力計測値、出力推定値、出力予測値の情報に基づき、系統事故発生後も系統の安定性を保持できるような平常時の予防制御(発電機の出力計画変更、調相制御など)の検討や系統事故発生後に実施する緊急制御の検討を行う。
【0004】
一方、分散型電源のうち、太陽光発電機や風力発電機などの再エネ発電機は、天候変化による急峻な出力変動が生ずる特徴があり、制御内容を検討した時点の出力計測値、出力推定値、出力予測値と実需給断面の出力値の間には差異が生じる。
【0005】
系統事故発生時に過渡安定度の維持不能(発電機の脱調)、送電線・変圧器の過負荷、電圧異常などの不安定現象が発生した場合には広域停電が発生しうるため、いかなる分散型電源の出力変動が発生した場合においても系統の安定性を維持できるようにする必要がある。そこで、分散型電源の様々な出力変動パターンのうち、系統事故発生時の不安定現象が過酷な系統断面を想定し、予防制御や緊急制御を検討することが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の背景に対して、特許文献1では、再エネ発電機の出力変化に対する基幹系統発電機の安定性指標の変化を表す感度係数を計算し、感度係数が所定の値以上の場合は再エネ発電機の出力を最大値に設定し、所定の値以下の場合は最小値に設定することにより、過渡安定度が過酷な潮流条件を抽出する。ここで、系統全体の再エネ出力の合計値が変動した場合には調整力対象の発電機の出力値が何らかのルールに従って調整されるが、特許文献1の方法ではこれを模擬することができない。
【0008】
また、特許文献1では感度係数に基づき、各再エネ発電機を最大出力、最小出力のいずれに設定するかを離散的に決定する。一方、系統構成が複雑な条件において、再エネ出力が最大、最小以外を取るパターンが最も過酷な系統断面である場合、特許文献1の方法では最も過酷な系統断面を選択することができない。
【0009】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、想定される分散型電源の多くの出力変動パターンの中で系統安定性が過酷となるような系統断面を決定することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の課題を解決するために、実施形態の系統断面生成装置は、複数の発電機と複数の分散型電源を有する電力系統で発生する事故ケースに対して、事故の結果生ずる不安定現象に相関のある系統状態量を選択して安定化評価指標として決定する安定化評価指標決定部と、前記不安定現象が所定基準よりも過酷となるような系統断面を生成する過酷出力パターン決定部を有する。前記過酷出力パターン決定部は、前記安定化評価指標決定部で決定した前記安定化評価指標に基づき前記所定基準よりも過酷な系統断面を生成する過酷状態決定部と、前記系統断面における複数の前記分散型電源の出力の合計値の変動によって生じる需給インバランス量に基づいて複数の前記発電機に出力配分する需給インバランス補正部と、を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施形態の系統断面生成装置の全体構成等を示す図である。
【
図2】
図2は、想定事故ケース情報の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、分散型電源出力情報の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、分散型電源設備情報の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、発電出力情報の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、発電設備情報の一例を示す図である。
【
図8】
図8は、系統電圧制約情報の一例を示す図である。
【
図9】
図9は、系統構成情報の一例を示す図である。
【
図11】
図11は、インバランス調整情報の一例を示す図である。
【
図12】
図12は、系統断面生成装置の全体の処理を示すフローチャートである。
【
図13】
図13は、安定化評価指標決定部の処理を示すフローチャートである。
【
図14】
図14は、分散型電源出力合計値が変化した場合における最適潮流計算の解に対する目的関数値の関係を表すイメージ図である。
【
図15】
図15は、過酷出力パターン決定部の処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態の系統断面生成装置、系統断面生成方法、およびプログラムについて説明する。
【0013】
[実施形態の全体構成]
図1は、実施形態の系統断面生成装置1の全体構成等を示す図である。電力系統2には、例えば、発電機21(21A(G1)、21B(G2)、21C(G3)、21D(G4)、21E(G5))と、分散型電源22(22A、22B、22C、22D、22E)と、負荷23(23A、23B)と、系統状態情報収集装置24(24A、24B、24C、24D、24E、24F)と、が接続される。
【0014】
発電機21は、火力発電機、水力発電機、原子力発電機などの大規模電源である。分散型電源22は、大規模な発電機(火力発電機、水力発電機、原子力発電機等)以外で電力系統2に接続可能な電源およびそれに準ずるものを指し、例えば、再エネ発電機(太陽光発電機、風力発電機等)、蓄電池、EV、DRによって得られる電力等を含む。
【0015】
負荷23は、ビル、工場、一般家庭などの複数の需要家により構成される。なお、負荷23のうちその変動周期が所定値より短い需要や変動幅が所定値より大きい需要については、分散型電源22に含めても良い。
【0016】
系統状態情報収集装置24は、開閉器の開放・投入状態や、発電機21の並解列状態など、電力系統2の構成に関する情報を系統断面生成装置1に送信する。系統断面生成装置1は、想定した系統不安定現象が所定基準よりも過酷になるような発電機21の出力と分散型電源22の出力を決定し、系統断面を生成する。なお、「所定基準よりも過酷」の一例として、以下では、主に最も過酷な場合について説明するが、これに限定されない。また、以下では「所定基準よりも過酷」を単に「過酷」とも称する。
【0017】
系統断面生成装置1は、一以上のプロセッサを含む。系統断面生成装置1は、単体のコンピュータ装置であってもよいし、二以上に分散化されたコンピュータ装置であってもよい。系統断面生成装置1は、処理部11、記憶部12、入力部13、出力部14を有する。
【0018】
入力部13は、例えば、各種キー、ボタン、ダイヤルスイッチ、マウス、タッチパネルなどのうち一部または全部を含む。また、入力部13は、外部装置と電気的に接続される接続部であってもよい。
【0019】
出力部14は、外部装置と電気的に接続される接続部であってもよいし、LCD(Liquid Crystal Display)や有機EL(Electro-luminescence)表示装置などであっても良い。
【0020】
記憶部12は、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、SSD(Solid State Drive)などのフラッシュメモリ、HDD(Hard Disk Drive)などである。処理部11における各機能部(各部11A~11F)は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することで実現される。また、これらの各機能部のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)等のハードウェア(回路部;circuitryを含む。)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。
【0021】
処理部11のうち、データ管理部11Aは、入力部13から入力された情報を記憶部12に記録する。入力部13にはキーボードやタッチパネルなどのI/O機器を接続してもよいし、あるいは、別のシステムからの情報を入力部13に入力(伝送)してもよい。処理部11のうち、系統状態情報収集部11Fは、電力系統2の系統状態情報収集装置24を介して電力系統2に関する情報を収集し、記憶部12に保存する。
【0022】
図2は、想定事故ケース情報12Aの一例を示す図である。各想定ケースについて、事故箇所と事故様相と対象不安定現象の各情報を保存する。
【0023】
図3は、分散型電源出力情報12Bの一例を示す図である。
図1の分散型電源22A(DP1)、22B(DP2)、22C(DP3)をエリア1、分散型電源22D(DP4)、22E(DP5)をエリア2と定義した場合において、各エリアにおける分散型電源の出力の想定値を保存する。分散型電源出力情報12Bは、複数パターンの出力値を保存しておくことができる。分散型電源出力情報12Bは、例えば、パターン1として予測情報の下限値、パターン2として予測情報の期待値、パターン3として予測情報の上限値を含み、それらはデータ管理部11Aと入力部13を介して入力される。あるいは、分散型電源出力情報12Bは、系統状態情報収集部11Fと系統状態情報収集装置24を介して収集した計測値をパターン2として保存し、パターン1として過去の統計に基づく出力変動幅下限値、パターン3として過去の統計に基づく出力変動幅上限値を記憶しても良い。
【0024】
図4は分散型電源設備情報12Cの一例を示す図である。分散型電源設備情報12Cは、各分散型電源について、最低出力と最大出力と所属するエリアの各情報を保存する。最小出力は単純に0と設定しても良いし、過去の実績の最小値を設定しても良い。また、最大出力は単純に分散型電源の定格出力としても良いし、過去の実績の最大値を設定しても良い。分散型電源設備情報12Cは、データ管理部11Aと入力部13を介して入力される。
【0025】
図5は負荷情報12Dの一例を示す図である。負荷情報12Dは、各負荷23の有効電力と無効電力の各情報を保存する。負荷情報12Dとしては、データ管理部11Aと入力部13を介して需要計画情報を入力しても良いし、系統状態情報収集部11Fと系統状態情報収集装置24を介して収集した計測値を保存しても良い。
【0026】
図6は発電出力情報12Eの一例を示す図である。発電出力情報12Eは、各発電機21の出力と電圧の各情報を保存する。発電出力情報12Eとしては、データ管理部11Aと入力部13を介して発電計画情報を入力しても良いし、系統状態情報収集部11Fと系統状態情報収集装置24を介して収集した計測値を保存しても良い。
【0027】
図7は発電設備情報12Fの一例を示す図である。発電設備情報12Fは、各発電機21の有効電力出力の最小値と最大値、無効電力出力の最小値と最大値、上げ出力変化速度、下げ出力変化速度の各情報を保存する。発電設備情報12Fは、データ管理部11Aと入力部13を介して入力される。
【0028】
図8は系統電圧制約情報12Gの一例を示す図である。系統電圧制約情報12Gは、系統上の母線の電圧の最小値、最大値の各情報を保存する。系統電圧制約情報12Gは、データ管理部11Aと入力部13を介して入力される。
【0029】
図9は系統構成情報12Hの一例を示す図である。系統構成情報12Hは、開閉器の開放・投入状態や、発電機21の並解列状態など、電力系統2の構成に関する各情報を保存する。系統構成情報12Hは、データ管理部11Aと入力部13を介して入力されても良いし、系統状態情報収集部11Fと系統状態情報収集装置24を介して収集した計測値を保存しても良い。
【0030】
図10は系統諸元情報12Iの一例を示す図である。系統諸元情報12Iは、電力系統2における送電線や変圧器のインピーダンス、対地静電容量、タップ比の各情報を保存する。系統諸元情報12Iのうち、インピーダンスおよび対地静電容量はデータ管理部11Aと入力部13を介して入力され、タップ比は系統状態情報収集部11Fと系統状態情報収集装置24を介して収集した計測値を保存する。
【0031】
図11はインバランス調整情報12Jの一例を示す図である。インバランス調整情報12Jは、各発電機21について、調整力の種類と、単位電力量の調整に応じて生じる調整単価の上げ、下げそれぞれについての各情報を保存する。調整力の種類とは、発電機21の応答速度に応じて瞬動予備力用、周波数調整用、経済負荷配分用などに分類した情報である。
【0032】
処理部11のうち、安定化評価指標決定部11Bは、想定事故ケース情報12Aに保存した対象不安定現象に相関のある系統状態量を選択し、安定化評価指標として決定する。
【0033】
処理部11のうち過酷出力パターン決定部11Cは過酷状態決定部11Dと需給インバランス補正部11Eを含む。過酷状態決定部11Dは最適潮流計算に基づき、想定事故ケース情報12A(
図2)に保存した対象不安定現象が過酷となるような分散型電源22の出力パターンを生成する。得られた分散型電源22の出力パターンと、負荷情報12D(
図5)と、発電出力情報12E(
図6)と、系統構成情報12H(
図9)と、系統諸元情報12I(
図10)を組み合わせることで対象不安定現象が過酷となるような系統断面を生成することができる。需給インバランス補正部11Eは、系統断面における複数の分散型電源22の出力の合計値の変動によって生じる需給インバランスが生じた場合に、インバランス調整情報12J(
図11)に基づき、発電機21にインバランス分を出力配分する。
【0034】
[実施形態の作用]
次に、実施形態の系統断面生成装置1の作用(処理)について説明する。
図12は処理部11の作用を表すフローチャートである。処理部11は、S1で想定事故ケース数を初期化する(p=1)。安定化評価指標決定部11BはS2において対象不安定現象に相関のある系統状態量を安定化評価指標として決定する。過酷出力パターン決定部11CはS3において、対象不安定現象が過酷となるような系統断面を生成(過酷出力パターンを決定)する。処理部11は、S4において、pが想定事故ケース数Pmaxに至った場合には処理を終了し、それ以外の場合にはS5においてpをインクリメント(1加算)してS2に戻る。
【0035】
図13は
図12のS2における処理の詳細である。S21において、安定化評価指標決定部11Bは、分散型電源出力情報12B(
図3)、負荷情報12D(
図4)、発電出力情報12E(
図6)、系統構成情報12H(
図9)、系統諸元情報12I(
図10)を用いて系統データを生成する。分散型電源出力情報12B(
図3)については任意のパターンを選択する。S22において、安定化評価指標決定部11Bは、S21で生成した系統データを用いて、現在の想定事故ケース情報12A(
図2)を模擬した過渡安定度計算を実行する。
【0036】
S23において、安定化評価指標決定部11Bは、S22の過渡安定度計算結果に基づき、不安定現象に相関のある系統状態量を安定化評価指標として決定する。例えば、過渡安定度を対象とする場合には、最初に脱調した発電機21の内部相差角とする方法や、脱調傾向の発電機21の内部相差角について、その慣性加重平均を選ぶ方法が考えられる。脱調の有無の判定は、例えば過渡安定度計算の結果、内部相差角が180deg.を超過する発電機21とする方法などが考えられる。
【0037】
また、系統状態量を安定化評価指標として決定する際に、過負荷を対象とする場合には、対象送電線や変圧器の有効電力潮流を選択する方法が考えられる。また、電圧異常(電圧低下、電圧上昇、電圧安定性低下など)を対象とする場合には任意の時刻において、最も電圧値が低い母線や、最も電圧値が高い母線を選択する方法が考えられる。なお、実施形態においては、不安定現象に相関のある系統状態量を日々の運用(計算)で都度計算する例を示したが、想定事故ケースごとに予め解析に基づき事前に決定しておいても良い。
【0038】
次に、
図12におけるS3の作用を説明する。過酷状態決定部11Dは、S2で決定した系統状態量の最大化もしくは最小化を目的関数とするような最適潮流計算を実行する。式(1)は対象の不安定現象を過渡安定度の維持不能とした場合において、最初に脱調した発電機の内部相差角(位相基準は全発電機の内部相差角の慣性加重平均)を不安定現象に相関のある系統状態量とした場合における目的関数の例である。
【0039】
ここで、n
gは発電機21の数、θ
aはS2で決定した対象発電機の内部相差角、θ
iは発電機iの内部相差角、M
iは発電機iの慣性定数を表す。式(1)の例では、目的関数値が大きいほど発電機21が加速しやすく、目的関数を最大化すれば過酷な系統断面を生成することができる。式(1)は目的関数を最大化する例であるが、例えば対象の不安定現象を電圧低下とする場合において、系統状態量を特定の母線の電圧値とする場合には、電圧値が低いほど不安定であり、この場合は目的関数を最小化する。
【数1】
【0040】
最適潮流計算の変数は、母線iの発電有効電力p
i
G、母線iの発電無効電力q
i
G、母線iの電圧の大きさv
i、母線iの位相角θ
iである。制約条件のうち、潮流方程式の有効電力成分に関する等式制約を式(2)に示す。ここでp
i
Lは母線iの負荷有効電力であり、負荷情報12D(
図5)から読み込む。G
ikはアドミタンス行列のi、k成分のコンダクタンス成分、B
ikはアドミタンス行列のi、k成分のサセプタンス成分である。アドミタンス行列は系統構成情報12H(
図9)と系統諸元情報12I(
図10)の情報を用いて計算することができる。n
bは母線の数である。
【数2】
【0041】
制約条件のうち、潮流方程式の無効電力成分に関する等式制約を式(3)に示す。ここで、q
i
Lは母線iの負荷無効電力であり、負荷情報12D(
図5)から読み込む。
【数3】
【0042】
制約条件のうち、各母線の電圧上下限値に関する不等式制約を式(4)に示す。ここで、v
i
minは母線iの電圧の下限値、v
i
maxは母線iの電圧の上限値であり、系統電圧制約情報12G(
図8)から読み込む。なお、発電機ノードについては、v
i
min=v
i
maxに設定し、その設定値は発電出力情報12E(
図6)から読み込む。
【数4】
【0043】
制約条件のうち、発電機21と分散型電源22の有効電力出力の上下限値に関する不等式制約を式(5)に示す。p
i
G、minは母線iの発電有効電力の下限値、p
i
G、maxは母線iの発電有効電力の上限値であり、分散型電源22については、分散型電源設備情報12C(
図4)から設定値を読み込む。発電機21についてはp
i
G、min=p
i
G、maxに設定し、その設定値は発電出力情報12E(
図6)から読み込む。ここで、gは発電機21と分散型電源22が設置されている母線番号の集合である。
【数5】
【0044】
制約条件のうち、発電機21と分散型電源22の無効電力出力の上下限値に関する不等式制約を式(6)に示す。q
i
G、minは母線iの発電無効電力出力の下限値、q
i
G、maxは母線iの発電無効電力出力の上限値であり、発電機21については発電設備情報12F(
図7)から設定値を読み込む。分散型電源22については、無効電力を出力しない電源である場合にはq
i
G、min=q
i
G、max=0と設定し、無効電力を出力する電源であれば、その上下限値を設定する。
【数6】
【0045】
制約条件のうち、エリアごとの分散型電源22の出力合計値の上下限値に関する不等式制約を以下に示す。p
a
area、minはエリアaの再エネ出力合計の最小値、p
a
area、maxはエリアaの再エネ出力合計の最大値であり、その設定値は分散型電源出力情報12Bから読み込む。S
aはエリアaに属する分散型電源の母線番号の集合、Aはエリアの集合である。
【数7】
【0046】
以上に示す定式化された情報に基づく最適化問題は数理最適化ソルバーなどを用いて解くことができる。なお、上記の定式化は一例であり、例えば潮流方程式を表す式(2)、式(3)を線形近似するなどしても良い。
【0047】
式(5)において発電機21の有効電力出力を一定値に指定しており、さらに潮流方程式を表す式(2)、式(3)の作用によって、分散型電源22の有効電力出力の合計値は概ね一定の条件で、その出力分布が目的関数に応じて変化する。つまり、分散型電源22の有効電力出力の合計値が変化するようなパターンを得られない。分散型電源22の有効電力出力の合計値が変化した場合には需給インバランスが発生するが、現実の運用においては調整力対象の発電機21に対し、所定のルール(経済負荷配分、負荷周波数制御など)に基づき調整指令が送られるか、あるいは自端での制御(ガバナフリー運転)がなされる。
【0048】
需給インバランス補正部11Eは、これを模擬する機能を有し、分散型電源22の有効電力出力の合計値が変化するようなパターンも含めた中での過酷な系統断面を生成する。一例として、過渡安定度を対象とした場合に、
図1の電力系統2においてG1、G2、G3からG4、G5向きに有効電力潮流が流れる条件で全ての発電機21の内部相差角の慣性加重平均基準のG1の内部相差角を最大化する状況を想定する。
【0049】
図14は再エネ出力合計値を様々に変化させた場合における、最適潮流計算の解の関係を表すイメージ図である。G1に近いエリア1の分散型電源22が最大出力、エリア2の分散型電源22が最小出力の付近(点P2)である場合において、目的関数は最大となる。いくつか変曲点があるが、これは、分散型電源22の出力分布だけでなく、調整力対象の発電機21の出力分布に応じて関数値が非線形に変化することを表す。
【0050】
目的関数が最大となる点を探索する方法としては、
図14の関数を定式化できれば最適潮流計算に組み込めば良い。一方、調整力対象の発電機21の出力指令ルールが複雑で定式化が困難である場合には、
図15に示されるようなアルゴリズムによって近似的に最大値を探索することができる。
【0051】
処理部11は、S31において反復回数を初期化する(i=1)。S32において分散型電源22の出力合計値の上限U・下限Bを境界に設定する。S33において、S32で設定した境界を上界、下界とする領域をK-1分割する点を生成する。Kは任意の値を設定することができる。
【0052】
S34において、需給インバランス補正部11Eの作用により、K-1分割した各点で需給インバランス量に基づいて調整力対象の発電機21に出力配分する。需給インバランス量に基づいて調整力対象の発電機21に出力配分する際には、インバランス調整情報12J(
図11)の情報を参照する。配分方法のルールは任意に設定することができるが、一例としては、例えば経済負荷配分用の発電機21に対しては調整単価の安い順に配分し、周波数調整用、瞬動予備力用の発電機21に対しては容量比で案分する。
【0053】
また、配分に際しては、発電設備情報12F(
図7)の有効電力出力の最小値・最大値や出力変化速度制約も考慮することができる。S35で過酷状態決定部11Dにおいて最適潮流計算を実行する。S36においてiがImaxに達した場合は(Yes)、S39においてこれまでの目的関数最大の点を解とする。S36においてiがImaxに達していない場合は(No)、S37でiをインクリメント(1加算)し、S38で目的関数値の上位2点を新たな境界としてS33に戻る。Imaxは任意の値を設定することができる。このようにして、目的関数が最大となる点を探索することができる。
【0054】
[実施形態の効果]
このようにして、本実施形態の系統断面生成装置1によれば、改善すべき不安定現象が過酷となるような分散型電源22の出力パターンを得ることができ、これを用いて予防制御を実行したり、緊急制御のテーブルを策定したりすることで、出力変動に対してロバストな制御量を得ることができる。また、過酷状態決定部11Dの効果により、最適潮流計算を用いることで、複雑な系統構成においても連続的な無数の再エネ出力パターンの中から、過酷な再エネ出力パターンを決定することができる。さらに、需給インバランス補正部11Eの効果により、調整力対象の発電機21の運用方法を反映した条件で最も過酷な再エネ出力パターンを決定することができる。
【0055】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0056】
また、本実施形態の系統断面生成装置1で実行されるプログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD(Compact Disc)-ROM(Read Only Memory)、フレキシブルディスク(FD)、CD-R(Recordable)、DVD(Digital Versatile Disk)等のコンピュータ装置で読み取り可能な記録媒体に記録して提供することができる。また、当該プログラムを、インターネット等のネットワーク経由で提供または配布するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0057】
1 系統断面生成装置
2 電力系統
11 処理部
11A データ管理部
11B 安定化評価指標決定部
11C 過酷出力パターン決定部
11D 過酷状態決定部
11E 需給インバランス補正部
11F 系統状態情報収集部
12 記憶部
13 入力部
14 出力部
21 発電機
22 分散型電源
23 負荷
24 系統状態情報収集装置