(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】水切り部材、水切り部材の貼り付け方法及び構造物保護シートの施工方法
(51)【国際特許分類】
E01D 19/08 20060101AFI20240624BHJP
E01D 22/00 20060101ALI20240624BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20240624BHJP
E04B 1/64 20060101ALI20240624BHJP
E04F 13/07 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
E01D19/08
E01D22/00 A
E04G23/02 A
E04B1/64 C
E04F13/07 G
(21)【出願番号】P 2020197568
(22)【出願日】2020-11-27
【審査請求日】2023-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000165088
【氏名又は名称】恵和株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】西村 康男
(72)【発明者】
【氏名】池田 幸信
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-105683(JP,A)
【文献】登録実用新案第3009544(JP,U)
【文献】特開平09-013327(JP,A)
【文献】特開2018-168582(JP,A)
【文献】米国特許第04925339(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 19/08
E01D 22/00
E04G 23/02
E04B 1/64
E04F 13/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物側に設けられるポリマーセメント硬化層と、該ポリマーセメント硬化層上に設けられた樹脂層とを少なくとも備える構造物保護シートを用いた水切り部材であって、
前記ポリマーセメント硬化層が内側となるように折り曲げて凸部が連続して線状に成形された水切り部と、
前記水切り部の折り曲げ部の反対側の角部を介して連続し構造物に貼り付けられる貼付部とを有する
ことを特徴とする水切り部材。
【請求項2】
水切り部は、構造物保護シートを折り曲げてポリマーセメント硬化層同士を当接させた二重構造を有する請求項1記載の水切り部材。
【請求項3】
水切り部は、角部から折り曲げ部に向かって厚みが連続的又は断続的に減少する形成を有する請求項1記載の水切り部材。
【請求項4】
水切り部の長さ方向に垂直な断面形状が、前記水切り部の幅方向中央を通る中心線に対して対称である請求項1、2又は3記載の水切り部材。
【請求項5】
接着剤層を介して請求項1、2、3又は4記載の水切り部材の貼付部を構造物の下面、及び/又は、構造物の外壁と基礎との境界に貼り付ける工程を有することを特徴とする水切り部材の貼り付け方法。
【請求項6】
接着剤層を介して請求項1、2、3又は4記載の水切り部材の貼付部を構造物の下面、及び/又は、構造物の外壁と基礎との境界に貼り付ける工程と、
ポリマーセメント硬化層と、該ポリマーセメント硬化層上に設けられた樹脂層とを少なくとも備える他の構造物保護シートを用意し、他の接着剤層を介して前記他の構造物保護シートのポリマーセメント硬化層を前記構造物の表面に貼り付ける工程とを有し、
前記他の構造物保護シートは、前記水切り部材の貼付部の水切り部と反対側の端部と連続した表面を形成するように前記構造物に貼り付けられている
ことを特徴とする構造物保護シートの施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水切り部材、水切り部材の貼り付け方法及び構造物保護シートの施工方法に関する。さらに詳しくは、橋梁の張り出し部や建物の軒下等のコンクリート等の構造物の下面を伝って流れようとする雨水等の水を止めて重力方向に案内し落下させるための水切り部材、該水切り部材を構造物の表面に貼り付ける方法、及び、該水切り部材と他の構造物保護シートとを用いて構造物の表面を被覆する構造物保護シートの施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート構造物の張り出しの下面等には溝状の水切り目地が設けられており、この水切り目地がコンクリート構造物の張り出しの下面まで伝ってくる雨水等の水の流れを断ってコンクリート構造物の壁や基礎を腐食から保護している。
また、コンクリート構造物は、老朽化により補修工事が行われるが補修工事において水切り目地を設けることは難しいため、張り出しの下面等の水が流れる場所に線状に成形された水切り部材を貼り付ける処置が行われていた。なお、水切り目地が設けられていないコンクリート構造物に対しても、水切り部材を貼り付けることでコンクリート構造物の保護が図られていた。
【0003】
このような水切り部材としては従来から様々なものが提案されており、例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)や天然ゴム等の樹脂により構成することが知られているが、より軽量化を図る目的で、例えば、特許文献1には発泡体を線条体に成形し、断面が特定の形状を有する水切り部材が開示されている。
特許文献1に開示の水切り部材は、特定の断面を有することで可撓性を有する発泡体により構成しても雨水の流れに耐え得る強度を備え、発泡体により構成されているので従来の水切り部材と比較して軽量化を図ることができる。
また、より強固に水切り部材をコンクリート構造物に取り付ける方法として、例えば、水切り部材を取り付ける場所に下塗り層を設ける方法や、コンクリート構造物にアンカーを埋め込みボルトを用いて水切り部材を固定する方法等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のような水切り部材は、コンクリート構造物の張り出しの下面等に接着剤層を介して貼り合わされるが、水切り部材を構成する材料と貼り付ける対象の構造物の構成材料とが異なるため、水切り部材の接着性が不十分となることがあった。
また、下塗り層を設ける方法では、下塗り層用の塗液の塗布、乾燥、硬化のための日数がかかるという問題があり、ボルトを用いて水切り部材を固定する方法では、アンカーを埋め込むための穴をコンクリート構造物に設ける必要となり、施工に日数を要するだけでなく、施工前の状態への復帰が困難であった。
また、コンクリート構造物への水切り部材の敷設と併せて表面を保護する保護シートの貼り付けを行う場合、保護シートを貼り付けた後、水切り部材の敷設を行う必要があるため施工に時間がかかるものであった。
更に、従来の水切り部材はコンクリート構造物とは全く異なる材料から構成されているため、貼り付け後の構造物の外観が損なわれるという問題もあった。
【0006】
本発明は上記現状に鑑みてなされたものであり、構造物の表面に対する優れた接着性を有し、迅速な施工と施工前の状態への復帰も容易で貼り付け後の構造物の外観にも優れる水切り部材、該水切り部材の貼り付け方法及び構造物保護シートの施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、コンクリート構造物の張り出しの下面のような水が流れる場所に設ける水切り部材について鋭意検討した結果、水切り部材として構造物の表面保護に使用できる構造物保護シートを折り曲げて構成されたものは、構造物の表面に対する優れた接着性を有するとともに、構造物の外観も優れたものにできることを見出し、本発明を完成するに至った。そして、この技術思想は、水が流れるコンクリート以外の構造物である場合にも応用可能である。
【0008】
(1)本発明に係る水切り部材は、構造物側に設けられるポリマーセメント硬化層と、該ポリマーセメント硬化層上に設けられた樹脂層とを少なくとも備える構造物保護シートを用いた水切り部材であって、前記ポリマーセメント硬化層が内側となるように折り曲げて凸部が連続して線状に成形された水切り部と、前記水切り部の折り曲げ部の反対側の角部を介して連続し構造物に貼り付けられる貼付部とを有することを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、特定の層構成からなる水切り部と貼付部とから構成され、上記貼付部が構造物の表面に貼り付けられるため、構造物に対する接着性を極めて優れたものにできる。
また、本発明に係る水切り部材は、水切り部を有する構造物保護シートでもあるので、コンクリート構造物の表面保護に構造物保護シートを貼り付ける効果の一つである施工の時間短縮という効果を損なうことがない。
また、水切り部材が構造物の表面の保護に用いられる構造物保護シートを折り曲げて成形されているので、水切り部材の形状の自由度が大きく、水切り部材の貼り付けと併せて構造物の表面の保護を行うことで工期の短縮ができ、また、コンクリート構造物の表面にアンカー用の削孔が不要であるので施工前の状態への復帰が容易であり、構造物の表面に一体的な外観で水切り部材と構造物保護シートとが設けられた構成とすることで外観を損なうことがない。
【0010】
本発明に係る水切り部材において、水切り部は、構造物保護シートを折り曲げてポリマーセメント硬化層同士を当接させた二重構造を有するものであってもよい。
【0011】
この発明によれば、構造物保護シートのポリマーセメント硬化層同士を貼り合せることで水切り部を成形できるので一定の形状を維持した本発明に係る水切り部材を容易に得ることができる。
【0012】
本発明に係る水切り部材において、水切り部は、角部から折り曲げ部に向かって厚みが連続的又は断続的に減少する形成を有するものであってもよい。
【0013】
この発明によれば、構造物に流れる水の状況に応じて水切り部の傾斜を調整することで効果的に水切り可能な水切り部とすることができる。
【0014】
本発明に係る水切り部材は、水切り部の長さ方向に垂直な断面形状が、前記水切り部の幅方向中央を通る中心線に対して対称であるものであってもよい。
【0015】
この発明によれば、水切り部材を構造物に貼り付ける際に水切り部の側面のどちら側を水が流れてくる側としても問題なく水切りが可能となる。
【0016】
(2)本発明に係る水切り部材の貼り付け方法は、接着剤層を介して本発明に係る水切り部材の貼付部を構造物の下面、及び/又は、構造物の外壁と基礎との境界に貼り付ける工程を有することを特徴とする。
【0017】
この発明によれば、構造物の張り出しの下面や住宅の外壁と基礎との境界のように雨水等の水が流れることで問題が生じる場所に、本発明に係る水切り部材を貼り付けることができるので、構造物や住宅の基礎等を雨水等の水による腐食から効果的に保護することができる。
【0018】
(3)本発明に係る構造物保護シートの施工方法は、接着剤層を介して本発明に係る水切り部材の貼付部を構造物の下面、及び/又は、構造物の外壁と基礎との境界に貼り付ける工程と、ポリマーセメント硬化層と、該ポリマーセメント硬化層上に設けられた樹脂層とを少なくとも備える他の構造物保護シートを用意し、他の接着剤層を介して前記他の構造物保護シートのポリマーセメント硬化層を前記構造物の表面に貼り付ける工程とを有し、前記他の構造物保護シートは、前記水切り部材の貼付部の水切り部と反対側の端部と連続した表面を形成するように前記構造物に貼り付けられていることを特徴とする。
【0019】
この発明によれば、構造物の張り出しの下面や住宅の外壁と基礎との境界のように雨水等の水が流れることで問題が生じる場所に本発明に係る水切り部材を貼り付けた後、他の構造物保護シートを上記水切り部材の貼付部の水切り部と反対側の端部と連続した表面を形成するように貼り付けるので、構造物に対する優れた接着性とともに水切り部が他の構造物保護シートと一体的に貼り付けられるので外観が極めて優れたものとなる。
また、構造物の水切りが必要な部分にのみ水切り部材を貼り付け、構造物のその他の表面は他の構造物保護シートで被覆する構成とできるので、水切り部材の位置決め及び貼付が容易となるとともに、構造物や住宅の基礎等の表面保護も容易となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、構造物の表面に対する優れた接着性を有し、迅速な施工と施工前の状態への復帰も容易で貼り付け後の構造物の外観にも優れたものにできる水切り部材、該水切り部材を用いた水切り部材の貼り付け方法、及び、構造物保護シートの施工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明に係る水切り部材を貼り付ける構造物の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図2】(A)、(B)は、構造物保護シートの一例を模式的に示す断面構成図である。
【
図3】(a)は、本発明に係る水切り部材の水切り部の一例を模式的に示す斜視図であり、(b)~(d)は、別の構成に係る水切り部を模式的に示す断面図である。
【
図4】(a)~(c)は、本発明に係る水切り部材を構造物に貼り付けた状態を模式的に示す斜視図である。
【
図5】(A)、(B)は、構造物保護シートの一例を示す断面構成図である。
【
図6】構造物保護シートの一例を示す断面構成図である。
【
図7】構造物保護シートのメッシュ層の一例を示す模式図である。
【
図8】構造物保護シートの樹脂層にエンボス処理を施す一例を示す模式図である。
【
図9】構造物保護シートの樹脂層への凹凸形状の形成方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る水切り部材、それを用いた水切り部材の貼り付け方法、及び、構造物保護シートの施工方法について図面を参照しつつ説明する。なお、本発明は、その技術的特徴を有する限り各種の変形が可能であり、以下の説明及び図面の形態に限定されない。
【0023】
[構造物]
本発明に係る水切り部材が貼り付けられる構造物としては、例えば、
図1に示した構造物1のように、張り出し2及び下面2aを備えた構造物が挙げられる。このような構造物1は、張り出し2の下面2aに雨水等の水が伝わると、構造物1の壁面や基礎部分等にまで雨水等の水が浸入して腐食させる恐れがある。
また、例えば、本発明に係る水切り部材が貼り付けられる構造物としては、従来から外壁と基礎との境界に水切りが設けられている住宅も挙げられる。外壁と基礎との境界に水切りが設けられていないと住宅の土台に水が浸入して住宅の基礎を腐食させる恐れがある。
本発明に係る水切り部材は、上述したように水の侵入により腐食等の問題が生じる恐れがある場所に貼り付けられるものであり、上記構造物としては、このような水の侵入により腐食等の問題が生じる恐れがある場所を有するものであれば特に限定されない。
【0024】
[水切り部材]
本発明に係る水切り部材は、構造物保護シート(以下、保護シートともいう)を用いて成形されたものである。
本発明に係る水切り部材は、
図3(a)~(d)に示した水切り部材11のように、保護シートのポリマーセメント硬化層が内側となるように折り曲げて凸部が連続して線状に成形された水切り部17と、水切り部17の折り曲げ部17aの反対側の角部17bを介して連続し構造物に貼り付けられる貼付部18とを有する。
【0025】
水切り部17は、例えば、
図3(a)に示したように構造物保護シートを折り曲げてポリマーセメント硬化層同士を当接させた二重構造を有するものであってもよい。構造物保護シートのポリマーセメント硬化層同士を貼り合せることで水切り部17を成形できるので一定の形状を維持した本発明に係る水切り部材11を容易に得ることができる。
【0026】
また、水切り部17は、例えば、
図3(b)~(d)に示したように、角部17bから折り曲げ部17aに向かって厚みが連続的又は断続的に減少する形成を有するものであってもよい。このような構造の水切り部17は、構造物に流れる水の状況に応じて水切り部17の傾斜を調整することで効果的に水切りが可能となる。
図3(b)に示した水切り部材17は、長さ方向に垂直な断面形状が逆三角形を形成し、角部17bから折り曲げ部17aに向かって厚みが連続的に変化している。
図3(c)に示した水切り部材17は、長さ方向に垂直な断面形状が半オーバル形を形成し、角部17bから折り曲げ部17aに向かって厚みが断続的に変化している。
図3(d)に示した水切り部材17は、長さ方向に垂直な断面形状が逆三角状で、角部17bから折り曲げ部17aにかけて曲線を描いており、角部17bから折り曲げ部17aに向かって厚みが連続的に変化している。
【0027】
本発明に係る水切り部材11は、水切り部17の長さ方向に垂直な断面形状が、前記水切り部の幅方向中央を通る中心線(
図3(a)において中心線A-Aで示す)に対して対称であることが好ましい。水切り部材11を構造物に貼り付ける際に水切り部の側面のどちら側を水が流れてくる側としても問題なく水切りが可能となる。
なお、
図3(b)~(d)に示した水切り部材も水切り部17の長さ方向に垂直な断面形状が、前記水切り部の幅方向中央を通る中心線に対して対称である。
【0028】
貼付部18は、水切り部17の折り曲げ部17aの反対側の角部17bを介して連続して設けられており、構造物の表面に貼り付けられる部材である。
図示しないが、貼付部18の構造物と貼り付けられる側の面(
図3(a)~(d)における上面)は、ポリマーセメント硬化層で構成されている。
図3(a)~(d)において、貼付部18は同一平面上に形成されているが、本発明ではこのような構成に限定されることはなく、貼り付ける対象である構造物の表面の状態に合わせて適宜段差を設けたり角度を設けたりしてもよい。
【0029】
[構造物保護シート]
上述した本発明に係る水切り部材は、ポリマーセメント硬化層と該ポリマーセメント硬化層上に積層された樹脂層とを有する保護シートを用いて成形されたものである。
本発明に係る水切り部材が貼り付けられる構造物は、構造物を保護するために上述した水切り部材が設けられる場所以外の場所に他の保護シートが貼り付けられていてもよく、本発明に係る水切り部材を構成する保護シートと上記他の保護シートとは同じ構成からなることが好ましい。構造物に対する優れた接着性とともに水切り部が他の保護シートと一体的に貼り付けられた構成にできるので外観が極めて優れたものとなる。
【0030】
より具体的には、
図5及び
図6に示すように、保護シート10は、構造物21側に設けられるポリマーセメント硬化層12と、ポリマーセメント硬化層12上に設けられた樹脂層13とを備えている。このポリマーセメント硬化層12と樹脂層13の両層は、それぞれ、単層で形成されてもよいし積層として形成されてもよい。
なお、以下の保護シートの説明は、上述した他の保護シートである場合として説明するが、本発明に係る水切り部材の貼付部にも該当する。
【0031】
保護シート10は、水蒸気透過率が10~50g/m2.dayであることが好ましい。ポリマーセメント硬化層12はセメント成分を含有しているので、一定程度の水蒸気透過率を有することが期待できるが、ポリマーセメント硬化層12上に設けられる樹脂層13は水蒸気透過率が劣る結果になると推測されるところ、保護シート10全体で水蒸気透過率が所定の範囲にあることで、コンクリート等の構造物に貼り付けた後内部の水蒸気を好適に透過させて外部に排出できるため、膨れの発生を好適に防止しやすくなり、更には接着性の低下も防止しやすくなる。水蒸気透過率が所定の範囲にある他のメリットは、蒸気を逃がしやすい構造ゆえ、構造物中の金属(例えば鉄筋)の腐食を抑制できる傾向になる点を挙げることができる。また、雨の日に保護シート10を構造物に施工する場合には、構造物の表面が濡れると共に、構造物自体が水分を含んだ状態での施工となるが、保護シート10が上記水蒸気透過率を有することで、施工後(補強された構造物の製造後)に構造物にしみこんだ水分が外部へと抜けやすくなる。さらに、硬化直後のコンクリートは内部に多くの水分を含むが、このようなコンクリートに対しても保護シート10は好適に使用できる。
上記保護シート10のもう一つの利点は、その水蒸気透過率を制御できるので、例えば構造物のセメントが硬化していないような状態でも当該構造物の表面に貼り付けることができる点にある。すなわち、セメントを成型して硬化させる際に急激に水分が抜けるとセメントがポーラスになって構造物の強度が落ちる傾向となるが、上記保護シート10を硬化前のセメントに貼り付けることで、セメントの硬化時の水分除去のスピード等をコントロールでき、上記ポーラス構造になるのを避けやすくなるメリットもある。
上記水蒸気透過率が10g/m2.day未満であると、上記保護シート10が十分に水蒸気を透過させることができず、構造物に貼り付けた後の膨れ現象等を防止できず接着性が不十分となる可能性がある。50g/m2.dayを超えると、セメントの硬化時の水分除去のスピードが過剰に速くなり、セメントの硬化物がポーラスになる不具合が生じる可能性がある。上記水蒸気透過率の好ましい範囲は20~50g/m2.dayである。
このような水蒸気透過率を有する保護シート10は、例えば、後述するポリマーセメント硬化層12と、所定の水蒸気透過率を有する樹脂を樹脂層13に用いることにより得ることができる。
本発明における水蒸気透過率は、後述する方法で測定することができる。
【0032】
また、保護シート10は、建築用コンクリート基本ブロックに包んだ状態で5%硫酸水溶液に30日間浸漬後の硫酸浸透深さが0.1mm以下であることが好ましい。上記硫酸浸透深さが0.1mmを超えると、保護シート10の耐硫酸性が不十分となり、硫酸に起因した腐食の生じる構造物に対して使用することができないことがある。上記硫酸浸透深さのより好ましい上限は0.01mmである。
なお、上記硫酸浸透深さは、公知の方法で測定することができる。
【0033】
また、保護シート10は、2層以上重ねた状態で使用されてもよい。保護シート10で保護した構造物に対し、更に重ねて保護を行うことができるため、例えば、2枚の保護シートを並べて貼り付けた場合、これらの保護シート同士の境目を覆うように別の保護シートを貼り付けることができる。
上記保護シートは、ポリマーセメント硬化層がセメントと樹脂成分とを含有するものであるため、先に構造物に貼り付けた保護シートの樹脂層に対しても好適な接着性を示す。そのため、重ねた状態で保護シートは好適に使用できる。
【0034】
保護シート10において、JIS K 6781にある引裂荷重試験の項目の記載に従って測定した引裂荷重が3~20であることが好ましい。このような引裂荷重を有することで、保護をした構造物の崩壊や崩落が生じた際に適切に引き裂かれるため連鎖的な崩壊や崩落を防止することができる。また、保護をした構造物の一部のみ撤去する必要が生じた場合等においても任意の場所で引き裂きが可能なため構造物の一部の撤去が可能となる。上記引裂荷重が3N未満であると、構造物の保護自体が難しくなり、20Nを超えると適切なタイミングでの引き裂きが生じない場合がある。上記引裂荷重のより好ましい範囲は5~15Nである。
なお、上記引裂荷重は、公知の方法で測定することができる。
【0035】
保護シート10は、厚さ分布が±100μm以内であることが好ましい。保護シート10の厚さ分布が上記範囲内であることで、熟練した作業者でなくても厚さバラツキの小さい層を構造物21の表面に安定して設けることができる。
構造物21側に設けられたポリマーセメント硬化層12は、構造物21との密着性等に優れ、ポリマーセメント硬化層12上に設けられた樹脂層13は、所定の水蒸気透過率を有するが、防水性、遮塩性、中性化阻止性等に優れた性質を容易に付与できる。
また、保護シート10は工場の生産ラインでの塗工工程と乾燥工程により量産できるので低コスト化、現場での作業工期の削減、構造物の長期保護を実現することができる。その結果、構造物21の表面に貼り合わせる際の工期を削減できるとともに構造物21を長期にわたって保護することができる。
【0036】
(ポリマーセメント硬化層)
ポリマーセメント硬化層12は、
図5に示すように、構造物21側に配置される層である。このポリマーセメント硬化層12は、例えば、
図5(A)に示すように重ね塗りしない単層であってもよいし、
図5(B)に示すように重ね塗りした積層であってもよい。単層とするか積層とするかは、全体厚さ、付与機能(追従性、構造物への接着性等)、工場の製造ライン、生産コスト等を考慮して任意に設定され、例えば製造ラインが短くて単層では所定の厚さにならない場合は、2層以上重ね塗りして形成することができる。なお、例えば2層の重ね塗りは、1層目の層を乾燥した後に2層目の層を形成する。
また、ポリマーセメント硬化層12は、性質の異なるもの同士が積層された構成であってもよい。例えば、樹脂層13側に樹脂成分の割合をより高めた層とすることで、樹脂成分の高い層が樹脂層と接着し、セメント成分の高い層がコンクリート構造物と接着することとなり両者に対する接着性が優れたものとなりやすい。
【0037】
ポリマーセメント硬化層12は、セメント成分を含有する樹脂(樹脂成分)を塗料状にした、この塗料を塗工して得られる。
上記セメント成分としては、各種のセメント、酸化カルシウムからなる成分を含む石灰石類、二酸化ケイ素を含む粘度類等を挙げることができる。なかでもセメントが好ましく、例えば、ポルトランドセメント、アルミナセメント、早強セメント、フライアッシュセメント等を挙げることができる。いずれのセメントを選択するかは、ポリマーセメント硬化層12が備えるべき特性に応じて選択され、例えば、コンクリート構造物21への追従性の程度を考慮して選択される。特に、JIS R5210に規定されるポルトランドセメントを好ましく挙げることができる。また、ポルトランドセメントの施工性もしくは施工後の物性を調整するために、ポルトランドセメントに、更に二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化チタン等が加えられた公知の組成も使用可能である。
【0038】
上記樹脂成分としては、アクリル樹脂、アクリルウレタン樹脂、アクリルシリコン樹脂、フッ素樹脂、柔軟エポキシ樹脂系、ポリブタジエンゴム系、ゴム特性を示すアクリル系樹脂(例えばアクリル酸エステルを主成分に持つ合成ゴム)等を挙げることができる。こうした樹脂成分は、後述の樹脂層13を構成する樹脂成分と同じものであってもよい。
また、上記樹脂成分は熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂のいずれを使用してもよい。ポリマーセメント硬化層12の「硬化」の文言は、樹脂成分を熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂等、硬化して重合する樹脂に限定されるという意味ではなく、最終的な層となった場合に硬化する(層として固まる)ような材料を用いればよいという意味で用いている。
【0039】
上記樹脂成分の含有量としては、使用する材料等に応じて適宜調整されるが、好ましくはセメント成分と樹脂成分との合計量に対して10質量%以上、40重量%以下とする。10重量%未満であると、樹脂層13に対する接着性の低下やポリマーセメント硬化層12を層として維持することが難しくなる傾向となることがあり、40重量%を超えると、コンクリート構造物21に対する接着性が不十分となることがある。上記観点から上記樹脂成分の含有量のより好ましい範囲は15重量%以上、35重量%以下であるが、さらに好ましくは20重量%以上、30重量%以下である。
【0040】
ポリマーセメント硬化層12を形成するための塗料は、セメント成分と樹脂成分とを溶媒で混合した塗工液である。樹脂成分については、エマルションであることが好ましい。例えば、アクリル系エマルションは、アクリル酸エステル等のモノマーを、乳化剤を使用して乳化重合したポリマー微粒子であり、一例としては、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルの一種以上を含有する単量体又は単量体混合物を、界面活性剤を配合した水中で重合してなるアクリル酸系重合物エマルションを好ましく挙げることができる。
上記アクリル系エマルションを構成するアクリル酸エステル等の含有量は特に限定されないが、20~100質量%の範囲内から選択される。また、界面活性剤も必要に応じた量が配合され量も特に限定されないが、エマルジョンとなる程度の界面活性剤が配合される。
【0041】
ポリマーセメント硬化層12は、その塗工液を離型シート又は
図5に示すように離型シート14上に形成された後述する樹脂層13上に塗布し、その後に溶媒(好ましくは水)を乾燥除去することで形成される。例えば、セメント成分とアクリル系エマルションとの混合組成物を塗工液として使用し、ポリマーセメント硬化層12を形成する。なお、上記離型シート上には、ポリマーセメント硬化層12を形成した後に樹脂層を形成してもよいが、
図5に示すように離型シート上に樹脂層13を形成した後にポリマーセメント硬化層12を形成してもよい。本発明においては、例えば、離型シートにエンボス加工又はマット加工(凹凸形状の付与)をした上で、この上に樹脂層13(単層であっても2層以上の複層であってもよい。)、ポリマーセメント硬化層12(単層であっても2層以上の複層であってもよい。)の順番で形成し、樹脂層13に意匠性を付与するという方法を用いて保護シート10を製造してもよい。
【0042】
本発明では強度に優れる性能を付与できることからポリマーセメント硬化層12が後述するメッシュ層を有していてもよい。
メッシュ層を有する場合、例えば、離型シート上に樹脂層13をコーティングし、乾燥後ポリマーセメント用の塗工液を塗工、乾燥前のウエットの状態でメッシュ層を貼り合わせた後乾燥させる。
しかる後メッシュ層を貼り合わせた面に更にポリマーセメント用の塗工液を塗工し、乾燥させることでポリマーセメント硬化層12にメッシュ層が存在する保護シート10を得ることができる。
また、離型シート上に樹脂層13をコーティングし、乾燥後ポリマーセメント用の塗工液を塗工、乾燥前のウエットの状態でメッシュ層を貼り合わせた後、乾燥させるステップを経ずにメッシュ層を貼り合わせた面に更にポリマーセメント用の塗工液を塗工し、しかる後全体を乾燥させることでポリマーセメント硬化層12にメッシュ層が存在する保護シート10を得ることも可能である。
【0043】
ポリマーセメント硬化層12の厚さは特に限定されないが、構造物21の使用形態(道路橋、トンネル、水門等河川施設、下水道管渠、港湾岸壁等の土木構造物等)、経年度合い、形状等によって任意に設定される。具体的なポリマーセメント硬化層12の厚さとしては、例えば0.5mm~1.5mmの範囲とすることができる。一例として1mmの厚さとした場合は、その厚さバラツキは、±100μm以内となることが好ましい。こうした精度の厚さは、現場での塗工では到底実現できないものであり、工場の製造ラインで安定して塗工されることにより実現することができる。なお、1mmより厚い場合でも、厚さバラツキを±100μm以内とすることができる。また、1mmよりも薄い場合は、厚さバラツキをさらに小さくすることができる。
【0044】
このポリマーセメント硬化層12は、セメント成分の存在により、後述の樹脂層13に比べて水蒸気が容易に透過する。このときの水蒸気透過率は、例えば10~50g/m2.day程度である。さらに、セメント成分は、例えばコンクリートを構成するセメント成分との相溶性がよく、コンクリート表面との密着性に優れたものとすることができる。また、このポリマーセメント硬化層12は延伸性を付与できるので、構造物21にひび割れや膨張が生じた場合であっても、コンクリートの変化に追従することができる。
【0045】
(メッシュ層)
メッシュ層は、
図6に示したようにポリマーセメント硬化層12の内部に存在していることが好ましい。メッシュ層16は、ポリマーセメント硬化層12の表面(ポリマーセメント硬化層12と樹脂層13とが接する面又はその反対側の面)に配設されていてもよい。なかでも、メッシュ層16はポリマーセメント硬化層12の内部に埋設されていることが好ましい。メッシュ層16がポリマーセメント硬化層12の内部に埋設されていることで、メッシュ層16とポリマーセメント硬化層12との接触面積が増大し、両者の接着強度が優れたものとしやすくなり、ポリマーセメント硬化層12全体の強度も確保しやすくなる。
【0046】
本発明において、メッシュ層16にポリマーセメント硬化層12を構成する材料(例えばセメント成分又は樹脂成分)が含侵されていることが好ましい。
メッシュ層16にポリマーセメント硬化層12を構成する材料が含侵されている状態とは、メッシュ層16を構成する繊維間にポリマーセメント硬化層12を構成する材料が充填された状態にあることを意味し、このような含侵状態にあることで、メッシュ層16とポリマーセメント硬化層12との接着強度を極めて優れたものとしやすくなる。また、メッシュ層16とポリマーセメント硬化層12の材料との相互作用がより強固となりやすく、保護シート10の強度をより良好にしやすくなる。
【0047】
メッシュ層16は、
図7に示したように、経糸、緯糸の繊維を格子状にした構造が挙げられる。
上記繊維としては、例えば、ポリプロピレン系繊維、ビニロン系繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレン繊維、ナイロン繊維及びアクリル繊維からなる群より選択される少なくとも1種の繊維から構成されたものであることが好ましく、なかでも、ポリプロピレン繊維、ビニロン繊維を好適に使用することができる。
またその形状は、特に限定されず、
図7に示したような二軸組布のほか、例えば、三軸組布等任意のメッシュ層16を用いることができる。
【0048】
メッシュ層16は、線密度0.2本~8.0本/cm、かつ線ピッチ50mm~1.2mmであることが望ましい。
線ピッチが1.2mm未満であると、メッシュ層16の上下のポリマーセメント硬化層12の結合が不十分になり、保護シート10の表面強度が不十分となることがある。また、線ピッチが50mmを超えると、保護シート10の表面強度に悪影響はないが、引張強度が弱くなることがある。
保護シート10において、引張強度と表面強度はトレードオフの関係にあり、本発明に適用するに適したメッシュ層16は、線ピッチ50mm~1.2mmの範囲にあるものである。
【0049】
メッシュ層16は、ポリマーセメント硬化層12の上面側から見たときに、ポリマーセメント硬化層12の全面をカバーする大きさであってもよく、ポリマーセメント硬化層12よりも小さくてもよい。すなわち、メッシュ層16の平面視したときの面積は、ポリマーセメント硬化層16の平面視したときの面積と同じであってもよく、小さくてもよいが、メッシュ層16の平面視面積は、ポリマーセメント硬化層12の平面視面積に対し90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。90%未満であると保護シート10の強度が不十分となることがあり、また、強度のバラツキが生じることもある。なお、メッシュ層16等の平面視面積は、公知の方法で測定できる。
【0050】
(樹脂層)
樹脂層13は、
図5に示すように、構造物21とは反対側に配置されて、表面に現れる層である。この樹脂層13は、例えば、
図5(A)に示すように単層であってもよいし、
図5(B)に示すように少なくとも2層からなる積層であってもよい。単層とするか積層とするかは、全体厚さ、付与機能(防水性、遮塩性、中性化阻止性、水蒸気透過性等)、工場の製造ラインの長さ、生産コスト等を考慮して設定され、例えば製造ラインが短くて単層では所定の厚さにならない場合は、2層以上重ね塗りして形成することができる。なお、重ね塗りは、1層目の層を乾燥した後に2層目の層を塗工する。2層目の層は、その後乾燥される。
【0051】
樹脂層13は、柔軟性を有し、コンクリートに発生したひび割れや亀裂に追従できるとともに、例えば防水性、遮塩性、中性化阻止性及び水蒸気透過性に優れた樹脂層を形成できる塗料を塗工して得られる。樹脂層13を構成する樹脂としては、ゴム特性を示すアクリル系樹脂(例えばアクリル酸エステルを主成分に持つ合成ゴム)、アクリルウレタン樹脂、アクリルシリコン樹脂、フッ素樹脂、柔軟エポキシ樹脂、ポリブタジエンゴム等を挙げることができる。この樹脂材料は、前述したポリマーセメント硬化層12を構成する樹脂成分と同じものにしてもよい。特にゴム等の弾性膜形成成分を含有する樹脂であることが好ましい。
【0052】
これらのうち、ゴム特性を示すアクリル系樹脂は、安全性と塗工性に優れている点で、アクリルゴム系共重合体の水性エマルションからなることが好ましい。なお、エマルション中のアクリルゴム系共重合体の割合は例えば30~70質量%である。アクリルゴム系共重合体エマルションは、例えば界面活性剤の存在下で単量体を乳化重合することにより得られる。界面活性剤は、アニオン系、ノニオン系、カチオン系のいずれもが使用できる。
【0053】
樹脂層13を形成するための塗料は、樹脂組成物と溶媒との混合塗工液を作製し、その塗工液を離型シート14上に塗布し、その後に溶媒を乾燥除去することで、樹脂層13を形成する。溶媒は、水又は水系溶媒であってもよいし、キシレン・ミネラルスピリット等の有機系溶媒であってもよい。後述の実施例では、水系溶媒を用いており、アクリル系ゴム組成物で樹脂層13を作製している。なお、離型シート14上に形成される層の順番は制限されず、例えば、上記のとおり樹脂層13、ポリマーセメント硬化層12の順番であってもよいし、ポリマーセメント硬化層12、樹脂層13の順番であってもよい。もっとも、後述の実施例に示すように、離型シート上に樹脂層13を形成し、その後にポリマーセメント硬化層12を形成することが好ましい。
【0054】
樹脂層13の厚さは、構造物21の使用形態(道路橋、トンネル、水門等河川管理施設、下水道管渠、港湾岸壁等の土木構造物等)、経年度合い、形状等によって任意に設定される。一例としては、50~150μmの範囲内のいずれかの厚さとし、その厚さバラツキは、±50μm以内とすることが好ましい。こうした精度の厚さは、現場での塗工ではとうてい実現できないものであり、工場の製造ラインで安定して実現することができる。
【0055】
この樹脂層13は、高い防水性、遮塩性、中性化阻止性を有するが、水蒸気は透過することが好ましい。このときの水蒸気透過率としては、例えば、10~50g/m2.day程度とすることが望ましい。こうすることにより、保護シート10に高い防水性、遮塩性、中性化阻止性と所定の水蒸気透過性を持たせることができる。さらに、ポリマーセメント硬化層12と同種の樹脂成分で構成されることにより、ポリマーセメント硬化層12との相溶性がよく、密着性に優れたものとすることができる。水蒸気透過性は、JIS Z0208「防湿包装材料の透湿度試験方法」に準拠して測定した。
【0056】
また、樹脂層13は、保護シート10のカラーバリエーションを豊富にできる観点から顔料を含有していてもよい。
また、樹脂層13は、無機物を含有していてもよい。無機物を含有することで樹脂層13に耐擦傷性を付与することができる。上記無機物としては特に限定されず、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア(酸化チタン)、酸化第二鉄等の金属酸化物粒子等従来公知の材料が挙げられる。また、施工後の最表層に特有の意匠性を与えるために、カーボンブラックを含有させてもよい。
【0057】
また、樹脂層13のいずれか一方の面に意匠性が付与されていてもよい。ここで、いずれか一方の面とは、ポリマーセメント硬化層12側の面又はその反対の面をいう。意匠性は凹凸形状を設けるか又は印刷によって付与されていることが好ましい。上記意匠性を付与する処理としては特に限定されず、例えば、樹脂層13の表面に施されたエンボス処理又はマット処理(つや消し処理)、ミラー処理(光沢処理)、または樹脂層13の表面に印刷を行う処理が好適に用いられる。
【0058】
上記エンボス処理は樹脂層13の表面に所望の凹凸形状を付与する処理であり、例えば、
図8に示したようなロール表面に付与すべき凹凸に対応する凹凸が形成されたエンボスロール80に未硬化の樹脂層13’を送り出し、未硬化の樹脂層13’の表面を押し付けてエンボスロール80の凹凸を未硬化の樹脂層13’の表面に転写し、その後未硬化の樹脂層13’を硬化させて樹脂層13とする方法が挙げられる。
上記エンボスロールの凹凸の形状は特に限定されず、所望する意匠に応じで適宜選択すればよい。
なお、エンボス処理のその他の条件等は樹脂フィルムに対するエンボス処理として従来公知の条件を採用できる。
また、上記樹脂層13の表面に凹凸形状を形成する方法としては、エンボス処理に限定はされず、他の方法を用いてもよく、エンボス加工と類似の方法でいわゆるマット加工を行うことも可能である。
例えば、
図9に示したように、離型シート14にディンプル形状(半球状)の凹凸形状を深さ1ミクロン程度に設け、その上に上記未硬化の樹脂層13’を塗布し、その後未硬化の樹脂層13’中の樹脂を硬化させ、さらにポリマーセメント層12を設けた後に離型シート14を剥離すれば、樹脂層13の表面にマット状の意匠が形成された保護シート10を得ることができる。
【0059】
樹脂層13の表面を印刷する方法としては特に限定されず、例えば、溶剤と、バインダー樹脂(ウレタン系、アクリル系、ニトロセルロース系、ゴム系等)と、各種顔料、体質顔料及び添加剤(可塑剤、乾燥剤、安定剤等)とを添加してなるインキにより印刷を行えばよい。
上記印刷する模様等は特に限定されず、構造物に付与する意匠に応じて適宜、文字、絵柄等が選択される。
また、上記インキの印刷方法としては、例えば、オフセット印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、シルクスクリーン印刷、インクジェット印刷などの公知の印刷方法が挙げられる。
なお、樹脂層13に対する密着性向上のため、上記インキを印刷する前に樹脂層13の表面にコロナ処理やオゾン処理等の処理が施されていてもよい。
保護シート10は一例として、離型シートの表面にエンボス状もしくはマット状の凹凸面を設け、その凹凸面に印刷により意匠を形成し、さらに樹脂層、ポリマーセメント層の順に設けることで形成することができる。
また、上記離型シートと凹凸面との界面にアクリルシリコンなどの透明樹脂層を介在させることも好適である。
その場合、構造物を保護した後の最表面にアクリルシリコンなどの樹脂層が存在するため、耐候性の向上に大きく寄与する。
【0060】
上記意匠性の付与は、樹脂層13の少なくとも一方の面に施されていればよく、例えば、樹脂層13の一方のポリマーセメント硬化層12側と反対側の面(保護シート10の表面となる面又は離型シート14と接する樹脂層13の表面)に施されている場合、より好的な意匠性を付与でき、特にエンボス処理等により凹凸形状を付与したときは立体感に優れた意匠性を付与できる。
また、樹脂層13のポリマーセメント硬化層12側の表面に意匠性の付与が施されている場合、付与された意匠が直接外気に接しないため長期間にわたり優れた意匠性を維持でき、また、エンボス処理を行った場合、立体的な意匠を付与しつつ樹脂層13の表面は平坦な構成が得られる。この場合、樹脂層13を透明又は半透明になるように形成してもよい。
更に、上記保護シート10では、樹脂層13のポリマーセメント硬化層12側の表面に印刷層を設け、樹脂層13の反対側の表面にエンボス処理等により凹凸形状を設けた構造も好適である。印刷層による優れた意匠性とエンボス処理の凹凸形状による立体感とを同時に得ることができ、更に上記凹凸形状による防眩性、防音性や防汚性といった機能を付与することもできる。
なお、樹脂層13のポリマーセメント硬化層12側と反対側面に凹凸形状を付与したときは、保護シート10の樹脂層12表面が凹凸を有することとなるが、後述する本発明に係るハンドローラーを用いた密着工程と整形工程とを行うので、所望の表面状態で保護シート10を構造物に貼り付けることができる。
【0061】
更に、樹脂層13は、公知の防汚剤を含有していてもよい。保護シート10は、通常屋外に設置されるコンクリート構造物等の構造物の補修に用いられるため、樹脂層13は汚染されることが多いが、防汚剤を含有することで保護シート10が汚染されることを好適に防止できる。上記防汚剤としては特に限定されず従来公知の材料が挙げられる。
また、樹脂層13は様々な機能を付与できる添加剤を含有していてもよい。このような添加剤としては、例えば、セルロールナノファイバー等が挙げられる。
【0062】
作製された保護シート10は、ポリマーセメント硬化層12と樹脂層13との一方の面に離型シート14を備えてもよい。離型シート14は、例えば、施工現場への際に保護シート10の表面を保護することができ、施工現場では、対象となる構造物21の上(又は下塗り層21又は接着層23を介して)離型シート14を貼り付けたままの保護シート10を接着し、その後離型シート14を剥がすことで、施工現場での作業性が大きく改善される。なお、離型シート14は、保護シート10の生産工程で利用する工程紙や、離型処理を施したPETシートであることが好ましい。
【0063】
離型シート14として使用される工程紙は、製造工程で使用される従来公知のものであれば、その材質等は特に限定されない。例えば、公知の工程紙と同様、ポリプロピレンやポリエチレン等のオレフィン樹脂層やシリコンを含有する層を有するラミネート紙等を好ましく挙げることができる。その厚さも特に限定されないが、製造上及び施工上、取り扱いを阻害する厚さでなければ例えば50~500μm程度の任意の厚さとすることができる。
【0064】
以上説明した保護シート10は、構造物21を長期にわたって保護することができる。特に、保護シート10に構造物21の特性に応じた性能を付与し、構造物21に生じたひび割れや膨張に追従させること、構造物21に水や塩化物イオン等の劣化因子を浸透させないようにすること、構造物中の水分や劣化因子を排出できる透過性を持たせることができる。そして、こうした保護シート10は、工場で製造できるので、特性の安定した高品質のものを量産することができる。その結果、職人の技術に寄らずに施工でき、工期の短縮と労務費の削減を実現できる。
【0065】
[水切り部材の製造方法]
本発明に係る水切り部材は、上述した保護シートをポリマーセメント硬化層が内側となるように折り曲げて凸部が連続して線状に成形することで得ることができる。
水切り部が
図3(a)に示した二重構造を有する形状の場合、例えば、まず、保護シートのポリマーセメント硬化層上で折り曲げ部17aとなる2点を決め、2点の折り曲げ部17aを結ぶ直線上に定規等の薄板を当ててポリマーセメント硬化層が内側となるように保護シートを折り曲げて折り癖を付ける。
次いで、ある程度折り癖が付いたら薄板を外し、必要に応じて後述する接着剤層を介して対向するポリマーセメント硬化層同士を接着して水切り部17を成形する。
なお、保護シートを製造する工場で事前に保護シートの水切り部となる折り癖を付けておき、施工現場において事前に付けた折り癖従って
図3(a)に示したような形状を作製し、必要に応じて接着剤層を介して対向するポリマーセメント硬化層同士を接着して水切り部17を成形してもよい。
【0066】
次に、水切り部17の折り曲げ部17aの反対側に上記薄板を樹脂層側から当てて樹脂層が内側となるように保護シートを折り曲げて一方の角部17bを形成して一方の貼付部18を成形する。
水切り部17の折り曲げ部17aの反対側であって、先に成形した貼付部18と反対側の樹脂層上に再度薄板を当てて樹脂層が内側となるように保護シートを折り曲げて他方の角部17bを形成して貼付部17bを成形し、本発明に係る水切り部材を成形する。
このとき、一方の貼付部18と他方の貼付部18とは同一平面を形成するように成形してもよいが同一平面を形成しないように成形してもよく、貼付対象の構造物の表面状態に応じて適宜調整される。
また、上記一方の角部17bと他方の角部17bとを形成する際に保護シートを折り曲げる角度としては、
図3(a)に示したように90°であってもよく、より鈍角又はより鋭角であってもよく、更に一方の角部17bと他方の角部17bとを形成する際に保護シートを折り曲げる角度は、同じであってもよく異なっていてもよく、貼付対象の構造物の表面状態に応じて適宜調整される。
なお、上述した保護シートの折り曲げは、正確に折り曲げることができるのであれば薄板を用いずに行ってもよく公知の方法で行えばよい。
【0067】
また、水切り部が
図3(b)~(d)に示した角部から折り曲げ部に向かって厚みが連続的又は断続的に減少する形状の場合、例えば、各水切り部の形状となる型を準備し、型の折り曲げ部17aとなる頂点に保護シートのポリマーセメント硬化層を当てて上記型の側面に沿って保護シートを折り曲げる。
次いで、上記保護シートを角部17bに該当する部分で樹脂層側が内側となるように折り曲げて貼付部18を成形する。該貼付部18の成形する際の保護シートの折り曲げ方法としては、上述した二重構造を有する場合と同様の方法が挙げられる
上述した型と保護シートのポリマーセメント硬化層とは後述する接着剤層を介して接着されていることが好ましい。
【0068】
[水切り部材の貼り付け方法]
本発明に係る水切り部材の貼り付け方法は、接着剤層を介して本発明に係る水切り部材の貼付部を構造物の下面、及び/又は、構造物の外壁と基礎との境界に貼り付ける工程を有することを特徴とする。
【0069】
上記構造物は上述したものであり、本発明では、上記構造物の下面、及び/又は、構造物の外壁と基礎との境界に、接着剤層を介して本発明に係る水切り部材の貼付部を貼り付ける。
本発明に係る水切り部材の貼付部の貼り付けの対象となる構造物の材質としては、例えば、コンクリートが挙げられる。
上記コンクリートは、一般的には、セメント系無機物質と骨材と混和剤と水とを少なくとも含有するセメント組成物を打設し、養生して得られる。こうしたコンクリートは、道路橋、トンネル、水門等河川管理施設、下水道管渠、港湾岸壁等の土木構造物として広く使用される。本発明では、コンクリート構造物に水切り部材を適用することで、コンクリートに生じたひび割れや膨張に追従でき、コンクリート内に水や塩化物イオン等の劣化因子を浸透させず、コンクリート中の水分を水蒸気として排出できる、という格別の利点がある。なお、このような効果は、上述した他の保護シートにおいても得ることができる。
【0070】
(接着剤層)
上記接着剤層としては、硬化性樹脂材料を含有することが好ましい。
上記硬化性樹脂材料としては、熱硬化、光硬化その他の方法で硬化して樹脂となるような性質を有する材料であれば特に制限はないが、好ましくは、エポキシ化合物を挙げることができる。この場合、上記接着剤層が硬化することで形成される接着剤硬化層は、エポキシ硬化物となる。エポキシ硬化物は、一般には、2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物を硬化剤により硬化させたものである。以下、エポキシ硬化物を接着剤層に用いる場合を例にとって説明する。
【0071】
上記エポキシ化合物としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族系エポキシ樹脂、フェノール類のジグリシジルエーテル化物、アルコール類のジグリシジルエーテル化物等が挙げられる。
また、上記硬化剤としては、多官能フェノール類、アミン類、ポリアミン類、メルカプタン類、イミダゾール類、酸無水物、含リン化合物等が挙げられる。これらのうち、多官能フェノール類としては、単環二官能フェノールであるヒドロキノン、レゾルシノール、カテコール、多環二官能フェノールであるビスフェノールA、ビスフェノールF、ナフタレンジオール類、ビフェノール類、及び、これらのハロゲン化物、アルキル基置換体等が挙げられる。更に、これらのフェノール類とアルデヒド類との重縮合物であるノボラック、レゾールを用いることができる。アミン類としては、脂肪族又は芳香族の第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン、第四級アンモニウム塩及び脂肪族環状アミン類、グアニジン類、尿素誘導体等が挙げられる。
上記例示のうち、上記接着剤層の材料(硬化性樹脂材料を含む。)としては、エポキシ樹脂系接着剤として、例えば、ビスフェノールA型エポキシ又はビスフェノールF型エポキシの主剤と、ポリアミン類又はメルカプタン類の硬化剤とを用いるもの等が挙げられる。また、上記エポキシ樹脂系接着剤は、上記主剤と硬化剤以外に、例えば、カップリング剤、粘度調整剤及び硬化促進剤等を含んでもよい。このような接着剤層として、例えば、東亞合成社製2液反応硬化形水系エポキシ樹脂エマルション「アロンブルコートP-300」(商品名・なお「アロンブルコート」は東亞合成社の登録商標である。)を用いることができる。
【0072】
上記接着剤層は、一般的には構造物の下塗材として使用される。その塗布は、例えば、下塗材としては溶剤タイプのエポキシ樹脂溶剤溶液、又はエポキシ樹脂エマルション及びその他一般のエマルション、又は粘着剤等を構造物の表面に塗布すればよい。この場合、下塗材は通常の方法で施工することができ、例えば、水切り部材を貼り付けるべき構造物の表面に、刷毛又はローラー等により塗布したり、又はスプレーガン等で吹き付けたりする一般的な方法により塗布し、塗膜を形成させる。なお、上記接着剤層は、上記水切り部材の貼付部のポリマーセメント硬化層側表面に塗布してもよい。
上記接着剤層の厚さは特に限定されないが、好ましくはウエットの状態で50μm以上、300μm以下の範囲内とすることができる。50μm以上とすることで構造物がコンクリート製の場合に接着剤層の材料のコンクリートへのしみ込みを考慮した上で接着剤層の厚さを均一にしやすくなると共に、構造物と本発明に係る水切り部材の貼付部との接着性を確保しやすくなる。上記接着剤層の厚さの上限は特に制限はされないが、塗布のしやすさや接着時の両層のずれを最小化する意味、また材料の使用量の最適化から、300μm以下とすることが好ましい。構造物の下塗り層として設ける接着剤層と上記貼付部との相互の密着を高めるように作用するので、上記接着剤層を上記厚さにすれば、本発明に係る水切り部材は長期間安定して構造物に貼り付けられる。
なお、構造物にひび割れや欠損が生じている場合には、上記接着剤層を塗布する前に、上記ひび割れや欠損を補修した後に上記接着剤層を設けることが好ましい。補修の方法は特に限定されないが、通常セメントモルタルやエポキシ樹脂等が使って補修が行われる。
【0073】
本発明では、上記接着剤層の上に、本発明に係る水切り部材の貼付部のポリマーセメント硬化層が接するように設置する。上記水切り部材の設置は、例えば、構造物上に接着剤層を塗布した後に水切り部材を貼り合わせることで行うことができる。その結果、熟練した作業者でなくとも厚さのバラツキの小さい層で構成された水切り部材を、構造物に設けることができ、工期を削減できるとともに、接着性に優れた水切り部材を設けることができる。なお、上記接着剤層は構造物上でなく、貼り合わせ直前に水切り部材の貼付部のポリマーセメント硬化層表面に塗布することも可能である。
【0074】
本発明では、上記貼付部は、構造物の水切りが必要な部分にのみ貼り付けられるものであってもよく、水切り部が構造物の水切りが必要な部分に配置され、貼付部は構造物の表面で補修すべき部分も覆うように貼りつけられたものであってもよい。
前者の場合、従来の水切り部材と同様の貼り付け方法となり、容易に水切りの必要な部分に水切り部が配置されるよう本発明に係る水切り部材を貼り付けることができる。なお、本発明に係る水切り部材は、ポリマーセメント硬化層を含む層構成であるため、発泡体を用いたもののような従来の水切り部材と比較して、構造物に対する接着性及び外観が優れたものとなる。更に上記樹脂層には意匠性を付与することができるので、より外観を優れたものにすることができる。
後者の場合、水切りの必要な部分に水切り部が配置されるよう本発明に係る水切り部材を貼り付けることはより難しくなるが、構造物に対する接着性及び外観はより優れたものとなる。
【0075】
本発明の特徴の一つは、接着剤を用いることなく、下塗り層として機能する接着剤層を接着層として用いることができる点にある。したがって、本発明においては、接着剤層(未硬化、湿潤状態)の上に直接水切り部材を設置することができ、工程の短縮が図られる。
【0076】
[構造物保護シートの施行方法]
本発明に係る構造物保護シートの施行方法(以下、本発明に係る施行方法ともいう)は、接着剤層を介して本発明に係る水切り部材の貼付部を構造物の下面、及び/又は、構造物の外壁と基礎との境界に貼り付ける工程と、ポリマーセメント硬化層と、該ポリマーセメント硬化層上に設けられた樹脂層とを少なくとも備える他の構造物保護シートを用意し、他の接着剤層を介して前記他の構造物保護シートのポリマーセメント硬化層を前記構造物の表面に貼り付ける工程とを有し、前記他の構造物保護シートは、前記水切り部材の貼付部の水切り部と反対側の端部と連続した表面を形成するように前記構造物に貼り付けられていることを特徴とする。
【0077】
本発明に係る施行方法は、接着剤層を介して本発明に係る水切り部材の貼付部を構造物の下面、及び/又は、構造物の外壁と基礎との境界に貼り付ける工程を有する。
本工程としては、上述した水切り部材の貼付方法と同じ工程が挙げられる。
【0078】
本発明に係る施行方法は、ポリマーセメント硬化層と、該ポリマーセメント硬化層上に設けられた樹脂層とを少なくとも備える他の構造物保護シートを用意し、他の接着剤層を介して前記他の構造物保護シートのポリマーセメント硬化層を前記構造物の表面に貼り付ける工程を有する。
上記他の構造物保護シートとしては、本発明に係る水切り部材を構成する保護シートと同じものが挙げられ、上記他の接着剤層としては、上述した接着剤層と同じものが挙げられる。
上記他の構造物保護シート及び他の接着剤層は、本発明に係る水切り部材で説明した保護シート及び接着剤層と異なっていてもよいが、同じものとすることで構造物に貼り付けた際により一体的な構成となり外観が優れたものとなり、また、構造物に対する接着性も同じとなるので一方のみが剥がれてしまう状態がなくなる。
以下、本発明に係る水切り部材を構成する構造物保護シートと他の構造物保護シートとは区別せずに同じ符号を付して説明し、本発明に係る水切り部材で説明した接着剤層と上記他の接着剤層とは同じものとして説明する。
【0079】
本発明に係る施行方法では、
図4(a)に示したように、他の構造物保護シート10は、本発明に係る水切り部材の貼付部18の水切り部17と反対側の端部と連続した表面を形成するように構造物2に貼り付けられている。
すなわち、本発明に係る水切り部材の貼付部と他の構造物保護シートとの繋ぎ目に隙間が無い面一の状態で張り付けられるので、一体的な構成で外観が極めて優れたものとなる。
なお、本発明に係る施工方法では、
図4(b)に示したように、本発明に係る水切り部材の貼付部18の水切り部と反対側の端部は、他の構造物保護シート10に重なるようにして構造物2に貼り付けられた構成であってもよい。このような構成の場合、本発明に係る水切り部材の貼付部18と他の構造物保護シート10とは厳密には面一の表面を形成しないが、水切り部17の高さに比べて貼付部18や他の構造物保護シート10の厚みは十分に薄いので重なり部分とそれ以外の部分との差は外観に殆ど影響を及ぼさないので面一の状態で貼り付けられているとみなす。また、このような構成であると、水切り部材の貼付部18と他の構造物保護シート10との境界から水が侵入することを好適に防止できるため、構造物2に対する接着性が極めて優れたものとなる。
図4(a)や(b)に示したような水切り部材の施工方法の具体的な方法としては、例えば、他の構造物保護シート10を構造物2の表面に貼り付け、本発明に係る水切り部材を貼り付ける部分の他の構造物保護シート10を切り取り、本発明に係る水切り部材を作製した後、作製した本発明に係る水切り部材の貼付部を他の構造物保護シート10の上記切り取った部分に貼り付ける方法等が挙げられる。
また、
図4(c)に示したように、構造物2の表面に他の構造物保護シート10を貼り付け、該他の構造物保護シート10の表面に本発明に係る水切り部材の貼付部18を貼り付けてもよい。このような方法も、別の態様に係る本発明の一つである。
図4(a)~(c)に示したような状態で構造物2に本発明に係る水切り部材及び他の構造物保護シート10を貼り付ける場合、本発明に係る水切り部材の貼付部18の大きさは特に限定されず、構造物2の大きさ、水切り部17の大きさ及び構造物2の貼り付ける表面形状等を考慮して適宜決定される。
【0080】
本発明に係る施行方法において、他の構造物保護シートを他の接着剤層を介して構造物に貼り付ける方法としては、上述した接着剤を介して本発明に係る水切り部材の貼付部を貼り付ける方法と同じ方法が挙げられる。
【符号の説明】
【0081】
1、21 構造物
2 張り出し
2a 下面
10 構造物保護シート
11 水切り部材
12 ポリマーセメント硬化層
13 樹脂層
13’ 未硬化の樹脂層
14 離型シート
15 接着剤層
16 メッシュ層
17 水切り部
17a 折り曲げ部
17b 角部
18 貼付部
80 エンボスロール