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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】脂質粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/127 20060101AFI20240624BHJP
   A61K 47/20 20060101ALI20240624BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20240624BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20240624BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240624BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20240624BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20240624BHJP
   C07K 14/00 20060101ALN20240624BHJP
   C07K 7/08 20060101ALN20240624BHJP
【FI】
A61K9/127
A61K47/20
A61K47/26
A61K47/10
A61K48/00
A61K31/7088
C12N15/09 Z ZNA
C07K14/00
C07K7/08
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020205995
(22)【出願日】2020-12-11
(65)【公開番号】P2022092968
(43)【公開日】2022-06-23
【審査請求日】2023-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石原 美津子
(72)【発明者】
【氏名】猿渡 さえ子
(72)【発明者】
【氏名】福井 有彩
【審査官】大島 彰公
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-2064778(KR,B1)
【文献】特表2001-519776(JP,A)
【文献】国際公開第2020/039631(WO,A1)
【文献】リポソームの凍結挙動に関する研究(熱工学,内燃機関,動力など),日本機械学会論文集B編,第75巻,第750号,2009年,p.378-385
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/127
A61K 47/20
A61K 47/26
A61K 47/10
A61K 48/00
A61K 31/7088
C12N 15/09
C07K 14/00
C07K 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤を内包する脂質粒子の製造方法であって、
前記薬剤を内包する前記脂質粒子及び水性溶媒を含む溶液を分速1℃以下の速度で冷却することを含
前記冷却は、0.5℃/分を超え、1℃/分以下の冷却速度で冷却する第1冷却と、0.5℃/分以下の冷却速度で冷却する第2冷却とを含み、
前記第1冷却は前記溶液の温度が0℃に達するまで行い、前記第2冷却は前記第1冷却の後連続して行う、脂質粒子の製造方法。
【請求項2】
前記冷却で、前記溶液を少なくとも-30℃まで冷却する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記冷却の直前に、前記溶液に凍結保護剤を添加することを更に含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記凍結保護剤が、ジメチルスルホキシド、糖、グリセロールのいずれかである、請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記冷却の直前の前記溶液中の前記凍結保護剤の含有量が10%(体積比)以下である、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
薬剤を内包する脂質粒子を製造する方法であって、
前記方法は、有機溶媒中に脂質を含む第1溶液と水性溶媒中に前記薬剤を含む第2溶液とを混合した混合液を得ることと、
前記混合液の前記有機溶媒濃度を低下させることで前記脂質を粒子化して前記薬剤を内包した前記脂質粒子を生成することと、
前記脂質粒子の生成により得られた前記脂質粒子を含む溶液を分速1℃以下の速度で冷却することと
を少なくとも含み、
前記冷却は、0.5℃/分を超え、1℃/分以下の冷却速度で冷却する第1冷却と、0.5℃/分以下の冷却速度で冷却する第2冷却とを含み、
前記第1冷却は前記溶液の温度が0℃に達するまで行い、前記第2冷却は前記第1冷却の後連続して行う、脂質粒子の製造方法。
【請求項7】
前記冷却で、前記溶液を少なくとも-30℃まで冷却する、請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記冷却の直前に、前記溶液に凍結保護剤を添加することを更に含む、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記凍結保護剤が、ジメチルスルホキシド、糖、グリセロールのいずれかである、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記冷却の直前の前記溶液中の前記凍結保護剤の含有量が10%(体積比)以下である、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記薬剤は核酸であり、
前記混合の前に前記薬剤を凝縮することを更に含む、請求項6~10の何れか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記脂質粒子の生成後、前記冷却の前に、前記溶液に含まれる前記脂質粒子を濃縮することを更に含む、請求項6~11の何れか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、脂質粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞内に物質を送達する方法として目的の物質を脂質粒子に内包し、細胞に接触させる方法がある。脂質粒子の物質の内包量、内包率及びサイズ等の品質は、物質の細胞への送達効率及び物質による目的達成の効率に影響を与える。そのため、より品質の高い脂質粒子が得られる製造方法が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明が解決しようとする課題は、品質の向上した脂質粒子を得ることができる、脂質粒子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
実施形態の薬剤を内包する脂質粒子の製造方法は、薬剤を内包する脂質粒子を含む溶液を分速1℃以下の冷却速度で冷却することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1図1は、実施形態に係る脂質粒子製造方法の一例を示すフローチャートである。
図2図2は、実施形態に係る脂質粒子の一例を示す断面図である。
図3図3は、実施形態に係る脂質粒子製造方法の手順の一例を示す図である。
図4図4は、実施形態に係る第1冷却工程及び第2冷却工程を含む脂質粒子製造方法の一例を示すフローチャートである。
図5図5は、実施形態に係る冷却工程における時間経過に伴う温度変化の一例を示すグラフである。
図6図6は、実施形態に係る凝縮工程を含む脂質粒子製造方法の一例を示すフローチャートである。
図7図7は、実施形態に係る濃縮工程を含む脂質粒子製造方法の一例を示すフローチャートである。
図8図8は、実施形態に係る脂質粒子製造方法に用いられる流路の一例を示す平面図である。
図9図9は、実施形態に係る脂質粒子品質向上方法の一例を示すフローチャートである。
図10図10は、実施形態に係る第1冷却工程及び第2冷却工程を含む脂質粒子品質向上方法の一例を示すフローチャートである。
図11図11は、例6の実験結果を示す顕微鏡写真及びそのトレース図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
以下、実施形態について、添付の図面を参照して説明する。なお、各実施形態において、実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、その説明を一部省略する場合がある。図面は模式的なものであり、各部の厚さと平面寸法との関係、各部の厚さの比率等は現実のものとは異なる場合がある。
【0007】
実施形態によれば、品質の向上した脂質粒子を得ることができる脂質粒子製造方法が提供される。実施形態の脂質粒子製造方法は、薬剤を内包する脂質粒子を含む溶液を分速1℃以下の速度で冷却する冷却工程を含む。
【0008】
・脂質粒子
まず、実施形態に係る脂質粒子について説明する。図2に示すように、脂質粒子1は脂質分子が配列して形成された脂質膜からなり、中空の略球状である。脂質粒子1の内腔1aに薬剤2が内包されている。脂質粒子1は例えば薬剤2を細胞内に送達するために用いられ得る。脂質粒子1は、細胞に接触させることで例えばエンドサイトーシスによって細胞に取り込まれ、薬剤2を細胞内に放出する。
【0009】
脂質粒子1を構成する脂質膜は、単層の脂質膜又は二重層若しくは三重層等の複数層の脂質である。また、脂質粒子1は脂質膜が更に複数の層状になった多層構造であってもよい。
【0010】
脂質粒子1は、1種類の脂質材料からなってもよいが、好ましくは複数種類の脂質材料からなる。脂質材料は、例えば、下記に例示するベース脂質と、第1の脂質化合物と、第2の脂質化合物のいずれかを少なくとも含むことが好ましい。
【0011】
ベース脂質は、リン脂質又はスフィンゴ脂質、例えば、ジアシルホスファチジルコリン、ジアシルホスファチジルエタノールアミン、セラミド、スフィンゴミエリン、ジヒドロスフィンゴミエリン、ケファリン又はセレブロシド、或いはこれらの組み合わせ等であることが好ましい。ベース脂質は、例えば生体膜の主成分の脂質であってもよく、人工的に合成した脂質であってもよい。
【0012】
例えば、ベース脂質として、
1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)、
1,2-ステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DSPE)、
1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルコリン(DPPC)、
1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルコリン(POPC)、
1,2-ジ-O-オクタデシル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTMA)、
1,2-ジオレオイル-3-ジメチルアンモニウムプロパン(DODAP)、
1,2-ジミリストイル-3-ジメチルアンモニウムプロパン(14:0 DAP)、
1,2-ジパルミトイル-3-ジメチルアンモニウムプロパン(16:0 DAP)、
1,2-ジステアロイル-3-ジメチルアンモニウムプロパン(18:0 DAP)、
N-(4-カルボキシベンジル)-N,N-ジメチル-2,3-ビス(オレオイロキシ)プロパン(DOBAQ)、
1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)、
1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホクロリン(DOPC)、
1,2-ジリノレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホクロリン(DLPC)、
1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-L-セリン(DOPS)、又は
コレステロール、
或いはこれらの何れかの組み合わせ等を用いることが好ましい。
【0013】
特にカチオン性脂質又は中性脂質の脂質を用いること好ましく、その含有量によって脂質粒子1の酸解離定数を調節することができる。カチオン性脂質としてDOTAPを用いることが好ましく、中性脂質としてDOPEを用いることが好ましい。
【0014】
ベース脂質は、脂質材料の全体に対して30%~約80%(モル比)含まれることが好ましい。或いは、100%近くがベース脂質から構成されていてもよい。
【0015】
第1の脂質化合物及び第2の脂質化合物は、生分解性脂質である。第1の脂質化合物はQ-CHRの式で表すことができる。
(式中、
Qは、3級窒素を2つ以上含み、酸素を含まない含窒素脂肪族基であり、
Rは、それぞれ独立に、C12~C24の脂肪族基であり、
少なくとも一つのRは、その主鎖中又は側鎖中に、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-、-O-C(=O)-O-、-S-C(=O)-、-C(=O)-S-、-C(=O)-NH-、及び-NHC(=O)-からなる群から選択される連結基LRを含む)。
【0016】
脂質粒子1が第1の脂質化合物を含む場合、脂質粒子1の表面が非カチオン性となるため、細胞導入における障害が低減され、内包物の導入効率が高まり得る。
【0017】
第1の脂質化合物として、例えば下記式で表される構造を有する脂質を用いれば導入効率がより優れているため好ましい。
【化1-1】

【化1-2】

【化1-3】

【化1-4】
【0018】
特に、式(1-01)の脂質化合物及び/又は式(1-02)の脂質化合物を用いることが好ましい。
【0019】
第2の脂質化合物は、P-[X-W-Y-W’-Z]の式で表すことができる。
(式中、
Pは、1つ以上のエーテル結合を主鎖に含むアルキレンオキシであり、
Xは、それぞれ独立に、三級アミン構造を含む2価連結基であり、
Wは、それぞれ独立に、C~Cアルキレンであり、
Yは、それぞれ独立に、単結合、エーテル結合、カルボン酸エステル結合、チオカルボン酸エステル結合、チオエステル結合、アミド結合、カルバメート結合及び尿素結合からなる群から選ばれる2価連結基であり、
W’は、それぞれ独立に、単結合又はC~Cアルキレンであり、
Zは、それぞれ独立に、脂溶性ビタミン残基、ステロール残基、又はC12~C22脂肪族炭化水素基である)。
【0020】
第2の脂質化合物を含む場合、脂質粒子1への薬剤2の内包量が多くなり得る。
【0021】
例えば、以下の構造を有する第2の脂質化合物を用いれば、薬剤2の内包量がより優れているため好ましい。
【化2-1】

【化2-2】

【化2-3】
【0022】
特に、式(2-01)の化合物を用いることが好ましい。
【0023】
以上に説明した第1及び第2の脂質化合物を含む脂質粒子1を用いた場合、薬剤2の内包量を増加させ、且つ薬剤2の細胞への導入効率を高めることが可能である。かつ導入した細胞の細胞死も低減することができる。
【0024】
第1及び第2の脂質化合物は、脂質材料の全体に対して約20%~約70%(モル比)で含まれることが好ましい。
【0025】
脂質材料は、脂質粒子1同士の凝集を防止する脂質を含むこともまた好ましい。例えば、凝集を防止する脂質は、PEG修飾した脂質、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)ジミリストイルグリセロール(DMG-PEG)、オメガ-アミノ(オリゴエチレングリコール)アルカン酸モノマーから誘導されるポリアミドオリゴマー(米国特許第6,320,017号)又はモノシアロガングリオシド等を更に含むことが好ましい。このような脂質は、脂質粒子1の脂質材料全体に対して約1%~約10%(モル比)で含まれることが好ましい。
【0026】
脂質材料は、毒性を調整するための相対的に毒性の低い脂質;脂質粒子1に配位子を結合させる官能基を有する脂質;ステロール、例えばコレステロール等の内包物の漏出を抑制するための脂質等の脂質を更に含んでもよい。特に、コレステロールを含ませることが好ましい。
【0027】
用いられる脂質の種類及び組成は、目的とする脂質粒子1の酸解離定数(pKa)若しくは脂質粒子1のサイズ、内包物の種類、或いは導入する細胞中での安定性等を考慮して適切に選択される。
【0028】
例えば、脂質粒子1は、式(1-01)若しくは式(1-02)の化合物及び/又は式(2-01)の化合物と、DOPE及び/又はDOTAPと、コレステロールと、DMG-PEGとを含むことが好ましい。
【0029】
薬剤2は、1種類の物質であってもよく、複数の物質を含んでもよい。薬剤2は脂質粒子に内包することができる何れの物質であってもよいが、例えば、薬剤2は活性成分として核酸、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、他の有機化合物又は無機化合物等を含む。核酸の薬剤2は、DNA、RNA及び/又は他のヌクレオチドを含む核酸等であり、例えば特定の遺伝子のmRNA、遺伝子をコードするDNA、遺伝子とプロモーター等の遺伝子を発現するためのその他の配列とを含む遺伝子発現カセットを含むDNA、ベクター等であり得る。薬剤2は、例えば疾患の治療薬又は診断薬等であってもよい。薬剤2は必要に応じて、例えばpH調整剤、浸透圧調整剤及び/又は薬剤活性化剤等の試薬を更に含んでもよい。pH調整剤は、例えば、クエン酸等の有機酸及びその塩等である。浸透圧調整剤は、糖又はアミノ酸等である。薬剤活性化剤は、例えば活性成分の活性を補助する試薬である。
【0030】
・脂質粒子の製造方法
次に実施形態に係る品質の向上した脂質粒子1の製造方法について説明する。本製造方法は、例えば図1に示すように次の工程を含む。
(S1)有機溶媒中に脂質を含む第1溶液と水性溶媒中に薬剤を含む第2溶液とを混合した混合液を得る混合工程、
(S2)混合液の有機溶媒の濃度を低下させることで脂質を粒子化して薬剤を内包した脂質粒子を生成する粒子化工程、及び
(S3)前記粒子化工程で得られた脂質粒子を含む溶液を分速1℃以下の速度で冷却する冷却工程。
【0031】
以下、本製造方法の一例について図3を用いて詳細に説明する。
【0032】
まず第1溶液3と第2溶液4とを用意する。第1溶液3は、有機溶媒5中に脂質6を含む。第2溶液4は、水性溶媒7中に薬剤2を含む。
【0033】
有機溶媒5は、例えば、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール、エーテル、クロロホルム、ベンゼン又はアセトン等である。脂質6は、上で説明した脂質粒子1の材料となる脂質である。有機溶媒5に含まれる脂質6の組成は、脂質粒子1を構成する所望の脂質の組成と同じ比率となるように設定されることが好ましい。有機溶媒5中の脂質6の濃度は、例えば0.1%~0.5%(重量)であることが好ましい。
【0034】
水性溶媒7は、例えば、水、生理食塩水のような食塩水、グリシン水溶液又は緩衝液等である。薬剤2は、上述した何れかのものである。水性溶媒7は、薬剤の種類に応じて適切なものが選択される。水性溶媒7中の薬剤2の濃度は、例えば0.01%~1.0%(重量)であることが好ましい。
【0035】
次に、第1溶液3と第2溶液4とを混合する(混合工程S1)。例えば、第1溶液3と第2溶液4とを等量ずつ混合する。混合工程S1により混合液8が得られる。混合後、混合液8をよく撹拌することが好ましい。
【0036】
次に粒子化工程S2において混合液8の有機溶媒5の濃度を低下させる。例えば、混合液8に水溶液を多量に添加することにより有機溶媒5濃度を相対的に低下させることが好ましい。例えば、混合液8の3倍量の水溶液を混合液8に添加する。水溶液として、第1溶液3に用いられる水性溶媒7と同じものを用いることができる。粒子化工程S2により脂質6が粒子化し、薬剤2を内包する脂質粒子1が生成し得る。その結果、脂質粒子1を含む溶液9が得られる。
【0037】
次に粒子化工程S2で得られた脂質粒子1を含む溶液を冷却する(冷却工程S3)。
【0038】
冷却工程S3は、溶液9に凍結保護剤を添加してから行ってもよい。凍結保護剤は、例えば、ジメチルスルホキシド、グリセロール又は糖の何れかを用いることができる。しかしながら凍結保護剤は糖以外の物質を用いる場合、溶液9の容量や粘度に与える影響が少ない好ましい。冷却直前の溶液9の凍結保護剤の含有量は10%(体積比)以下であることが好ましい。
【0039】
冷却工程S3は、所望の最終温度まで溶液9の溶媒が残存するように湿潤状態で行われ得る。例えば溶液9を密閉可能な容器に収容し、乾燥による溶媒の減少を防止して行うことが好ましい。容器は、例えば凍結保存用のチューブ、バイアル又はマイクロプレート等である。例えば、ザルスタット社又はコーニング社、Nunc社等で販売している容器を用いることができる。しかしながら、容器は凍結に耐えるものであればこれらに限定されるものではない。
【0040】
溶液9は、冷却工程S3の直前、10℃~25℃であることが好ましい。冷却は、分速1℃以下の速度で行われる。冷却終了時の溶液9の温度(最終温度)は少なくとも0℃以下であり、溶液9が凍結するまで冷却が行われることが好ましい。より好ましくは少なくとも-30℃まで冷却される。最終温度は例えば-20℃~-85℃であってもよい。
【0041】
冷却は、例えば冷却速度の調節が可能な冷却装置で行われる。冷却装置として、例えばプログラムフリーザーを用いることができる。例えばネッパジーン社で販売しているプログラムフリーザーを用いることができるが、冷却速度を調節できるものであればこれに限定されるものではない。
【0042】
冷却速度の調節は溶液9の温度を基準として行われ得るが、例えば冷却装置の容器収容庫内の温度又は容器の温度測定しそれを溶液9の温度をみなしてもよい。この温度測定及び冷却速度調節は、冷却装置に備え付けられた温度計により自動的に行うことができる。
【0043】
冷却工程S3は最終温度まで一定の速度で行われてもよいが、分速1℃以下の速度である限りにおいて途中で冷却速度を変更してもよい。冷却速度は、温度が低くなるにつれ遅くすることが好ましい。例えば、冷却工程S3は、図4及び図5に示すように、0.5<v≦1で冷却する第1冷却工程S3-1と、v≦0.5で冷却する第2冷却工程S3-2とを含むことが好ましい。ここで、「v」は冷却速度であり、単位は℃/分である。
【0044】
図5に示すように、第2冷却工程S3-2は、第1冷却工程S3-1の後、連続して行われ得る。第2冷却工程S3-2に移行するときの温度nは、0℃~-10℃の間の何れかの温度であることが好ましく、0℃とすることが好ましい。冷却速度vの変更は一回に限られるものではなく、複数回変更してもよい。
【0045】
冷却工程S3の後、溶液9は、例えば容器に収容したまま、冷凍された状態で又は融解して保管又は運搬することができる。脂質粒子1の使用時には、溶液9は融解した状態、例えば0℃~4℃で用いられ得る。融解の方法及び加温速度は限定されるものではないが、例えば4℃の低温庫で30分静置する方法で融解することが好ましい。ある実施形態においては、冷却工程S3は一度限り行われ、融解した後再冷却することなく製造工程を終了する。
【0046】
以上に説明した製造方法によれば、冷却工程S3で分速1℃以下の穏やかな速度で冷却することにより、品質の向上した脂質粒子1を得ることができる。ここで、品質の向上とは、例えば、薬剤2の脂質粒子1からの漏出の防止、薬剤2の脂質粒子1への内包量の向上、薬剤2を内包する脂質粒子1の割合(内包率)の向上、脂質粒子1同士の凝集の低減及び防止、及び/又は脂質粒子のサイズのばらつきの軽減等を含む。
【0047】
薬剤2の脂質粒子1からの漏出及び薬剤2の脂質粒子1への内包量は、例えば次の方法によって測定することができる。まず溶液9の一部を採取し、薬剤2の種類に応じた定量方法によって薬剤2を定量する。この定量値(A)を脂質粒子外に存在する薬剤量(漏出量)とする。また、溶液9の別の一部を採取し、界面活性剤(例えば、Triton(登録商標)X-100等)等の脂質粒子1を破壊する試薬を添加し、薬剤2の種類に応じた定量方法によって薬剤2を定量する。この定量値(B)を溶液9内の総薬剤量とする。次に、定量値(B)から定量値(A)を差し引くことで、脂質粒子1に内包された薬剤2の量を算出することができる。薬剤2の種類に応じた定量方法は、公知の方法であればよく、例えば薬剤2が核酸である場合は、市販のDNA定量キット又はRNA定量キット等を用いることができる。
【0048】
薬剤2を内包する脂質粒子1の割合(内包率)は、例え次の方法で測定することができる。まず、脂質粒子1内に入り込み薬剤2と結合して信号(例えば、蛍光等の光学的信号が好ましい)を発する試薬を溶液9に添加する。次に、溶液9に光を照射し側方散乱光を発する脂質粒子数を測定し、その数を全脂質粒子数とする。また、信号が観察された脂質粒子数を測定し、その数を薬剤2内包脂質粒子数とする。全脂質粒子数を薬剤2内包脂質粒子数で除することで薬剤2を内包する脂質粒子1の割合(内包率)を得ることができる。薬剤2が核酸である場合、試薬は例えばPicoGreen、SYBRGreen、EvaGreen又はAccuBlue等を用いることができる。脂質粒子数の測定は、ナノ粒子トラッキング解析(NTA)法によって行うことが可能である。例えば、NTA法による解析は、NanoSight(マルバーン)等の市販の計測機器によって行うことが可能である。
【0049】
脂質粒子1の凝集は、例えば、溶液9の白濁率を計測することによって評価することが可能である。例えば、目視で溶液9を観察して白濁が生じていた場合に凝集が起きていると判定することができる。また、溶液9の濁度を分光光度計等で測定してもよい。濁度が高いほど、より凝集が生じていると判断される。凝集は生じていない方が好ましい。
【0050】
脂質粒子1のサイズ及びサイズのばらつきは、例えば、動的光錯乱法を用いた粒子径測定装置、例えば、ゼータサイザー(マルバーン)等、又は電子顕微鏡を用いた観察等によって評価することが可能である。脂質粒子1の平均粒子径は約50nm~約300nmであることが好ましく、約50nm~約200nmであることがより好ましい。
【0051】
実施形態の製造方法によれば、短時間、簡単な操作且つ低コストで品質の向上した脂質粒子が得られる。本方法によれば従来脂質粒子の製造において、品質の向上のために行われていた整粒工程、例えば脂質粒子のサイズを均一化するためのろ過、凝集を解消するため及び粒子径を小さくするための超音波処理、及び薬剤内包率を向上させるための脂質粒子の破壊及び粒子化の繰り返し等を省略することができる。本製造方法によれば全工程にかかる時間が例えば約1.5時間と短く、より早く品質の良好な脂質粒子を得ることができる。
【0052】
本方法で製造した品質を向上した脂質粒子1を薬剤2の細胞への送達に用いることにより、薬剤2の細胞への送達効率が向上する。したがって、薬剤2による所望の効果が得られやすい。例えば薬剤2が細胞のゲノム内に組込まれる遺伝子等である場合、本方法で得られた脂質粒子1を用いることにより、効率よく遺伝子を導入した細胞、例えばゲノム改変細胞を作製することができる。
【0053】
次に本製造方法に含まれ得る更なる工程について説明する。以下の説明において、「混合工程」、「粒子化工程」及び「冷却工程」は、先に説明したものと同様である。
【0054】
薬剤2が核酸である場合、混合工程の前に、核酸凝縮ペプチドを用いて薬剤2を凝縮する凝縮工程を含んでもよい。このような製造方法は図6に示すように、凝縮工程S20と、混合工程S21と、粒子化工程S22と、冷却工程S23とを含む。
【0055】
核酸凝縮ペプチドは、核酸を小さく凝縮することにより、脂質粒子1の粒径をより小さくすることができ、また脂質粒子1内により多くの核酸を内包することができる。その結果、脂質粒子1外に残留する核酸がより低減され得る。
【0056】
好ましい核酸凝縮ペプチドは、例えば、カチオン性のアミノ酸を全体の45%以上含むペプチドである。より好ましい核酸凝縮ペプチドは、一方の端にRRRRRR(第1のアミノ酸配列)を有し、他方の端が配列RQRQR(第2のアミノ酸配列)を有する。第1のアミノ酸配列と第2アミノ酸配列との間には、RRRRRR又はRQRQRからなる中間配列を0個又は1個以上含む。また、第1のアミノ酸配列、第2のアミノ酸配列及び中間配列のうち、隣り合う2つの配列の間に2つ以上の中性アミノ酸を含む。中性アミノ酸は、例えば、G又はYである。他方の端は第2のアミノ酸配列に変えて、RRRRRR(第1のアミノ酸配列)を有してもよい。
【0057】
上記核酸凝縮ペプチドは、好ましくは、以下のアミノ酸配列を有する:
RQRQRYYRQRQRGGRRRRRR (配列番号1)
RQRQRGGRRRRRR (配列番号2)
RRRRRRYYRQRQRGGRRRRRR (配列番号3)。
【0058】
更に、次のようなアミノ酸配列を有する核酸凝縮ペプチドを上記の何れかの核酸凝縮ペプチドと組み合わせて用いることもできる。このペプチドは、上記核酸凝縮ペプチドで凝縮した核酸凝縮体を更に凝縮することができる。
【0059】
GNQSSNFGPMKGGNFGGRSSGPYGGGGQYFAKPRNQGGY
(M9)(配列番号4)
例えば、核酸(薬剤2)を含む溶液に核酸凝縮ペプチドを添加し、撹拌混合することによって凝縮された核酸(薬剤2)を含む第2溶液4を得ることができる。
【0060】
以上の効果を奏することから薬剤2が核酸である場合は核酸凝縮ペプチドを用いることが好ましいが、用いる薬剤2の種類や使用量によっては核酸凝縮ペプチドを用いなくともよい。
【0061】
更なる実施形態によれば、製造方法は、粒子化工程と冷却工程との間に溶液9内の脂質粒子1を濃縮する濃縮工程含んでもよい。このような製造方法は図7に示すように、混合工程S31と、粒子化工程S32と、濃縮工程S33と、冷却工程S34とを含む。
【0062】
濃縮は、例えば溶液9から溶媒の一部及び/又は余った脂質材料と薬剤2とを除去することにより行われる。しかしながら本方法によれば薬剤2の内包率が優れているため薬剤2はほとんど残留することなく、薬剤2を内包しなかった脂質粒子1が崩壊したもの等が除去され得る。濃縮は、例えば限外ろ過することにより行うことができる。限外ろ過には、例えば細孔径2nm~100nmの限外ろ過フィルタを用いることが好ましい。例えばフィルタとしてAmicon(登録商標)Ultra-15(メルク)等を用いることができる。濃縮後の溶液9の脂質粒子1の濃度は1×1013個/mL~5×1013個/mL程度であることが好ましい。
【0063】
濃縮工程S33を行うことにより純度及び濃度の高い脂質粒子溶液9を得ることができる。濃縮後の溶液9の脂質粒子1の濃度は1×1013個/mL~5×1013個/mL程度であることが好ましい。しかしながら濃縮工程は必ずしも行う必要はなく、濃縮前の希溶液9の状態で冷却工程を行うことも可能である。
【0064】
更なる実施形態において、凝縮工程、混合工程、粒子化工程、濃縮工程及び冷却工程は、それぞれ流路を用いて行うことも可能である。図8は流路の一例を示す。図8の(a)は凝縮工程を行うための構成を有する第1流路101を示し、図8の(b)は混合工程を行うための構成を有する第2流路102を示し、図8の(c)は粒子化工程を行うための構成を有する第3流路103を示し、図8の(d)は濃縮工程を行うための構成を有する第4流路104を示し、図8の(e)は冷却工程を行うための構成を有する第5流路105を示す。
【0065】
第1流路101はY字型の流路であり、分岐した一方の流路111の上流の端は、流路111に核酸凝縮ペプチドを含む凝縮剤を注入するための注入口112を備えるか、又は凝縮剤を収容するタンクと連結していてもよい。
【0066】
第1流路101の分岐した他方の流路113の上流の端は、薬剤2を含む溶液を流路113に注入するための注入口114を備えるか、又は薬剤2を含む溶液を収容するタンクと連結していてもよい。
【0067】
流路111に凝縮剤を流し、流路113に薬剤2を含む溶液を流すと、流路111と流路113とが合流する流路115内で凝縮剤と薬剤2を含む溶液とが混合される。混合により、凝縮された薬剤2を含む第2溶液4が得られる。流路115の下流の端は、第2流路102と連結しているか、又は第2溶液4を一度取り出す排出口が設けられていてもよい。
【0068】
凝縮工程を行わない場合、第1流路101を用いなくともよい。
【0069】
第2流路102はY字型の流路であり、分岐した一方の流路121の上流の端は、第1流路101を用いる場合は流路115と連結している。又は予め用意された第2溶液4を収容するタンクと連結していてもよい。
【0070】
第2流路102の分岐した他方の流路122の上流の端は、第1溶液3を流路122に注入するための脂質注入口123を備えるか、又は予め用意された第1溶液3を収容するタンクと連結していてもよい。
【0071】
流路121に第2溶液4を流し、流路122に第1溶液3を流すと、流路121と流路122とが合流する流路124内で第1溶液3と第2溶液4とが混合される。その結果、混合液8が得られる。流路124は例えば蛇行しており、この蛇行部を通過することで2つの溶液がよく撹拌される。流路124の下流の端は、第3流路103と連結されているか、又は混合液8を一度取り出す排出口が設けられていてもよい。
【0072】
第3流路103はY字型の流路であり、分岐した一方の流路131の上流の端は、第2流路102の流路125と連結しているか、又は予め用意された混合液8を収容するタンクと連結していてもよい。
【0073】
第3流路103の分岐した他方の流路132の上流の端は、水溶液を流路132に注入するための注入口133を備えるか、又は水溶液を収容するタンクと連結していてもよい。
【0074】
流路131に混合液8を流し、流路132に水溶液を流すと、流路131と流路132とが合流する流路134内で混合液8に水溶液が混合される。その結果、脂質6が粒子化し、薬剤2が内包された脂質粒子1生成し、脂質粒子1を含む溶液9が得られる。流路135の下流の端は、第4流路104と連結されているか、又は脂質粒子1を含む溶液9を取り出す排出口が設けられていてもよい。
【0075】
第4流路104は、流路141と、流路141の壁面に設けられたフィルタ142とを備える。流路141の上流の端は、第3流路103の流路135と連結しているか、又は予め用意された溶液9を収容するタンクと連結していてもよい。
【0076】
フィルタ142は例えば流路141の一部の壁面に代えて設けられている。フィルタ142として上で説明した何れかの限外ろ過用のフィルタを用いることができる。
【0077】
溶液9を流路141に流すことによって、残留した材料及び余分な溶媒等がフィルタ142を通過して流路141外に排出され、脂質粒子1は流路141内に残り下流へと流れることで溶液9が濃縮される。
【0078】
流路141の下流の端は、第5流路105と連結されているか、又は溶液9を取り出す排出口が設けられていてもよい。
【0079】
濃縮工程を行わない場合は第4流路104を用いなくともよい。
【0080】
第5流路105は、流路151と、流路151の周囲に設けられた温度調節機構152とを備える。流路151の上流の端は、流路134若しくは流路141と連結しているか、又は予め用意された溶液9を収容するタンクと連結していてもよい。
【0081】
温度調節機構152は、冷却工程を行うための所望の冷却速度で流路151内の溶液9を自動的に冷却するように構成され及び制御されている。また、冷却後に融解を行うように構成され及び制御されていてもよい。
【0082】
流路151の下流の端は、冷却後の溶液9を回収するための排出口153を備えるか、又は溶液9を回収するためのタンクと連結されていてもよい。冷却後の溶液9は例えば更なる流路を介して排出口153又はタンクから回収され容器に収容され得る。
【0083】
冷却工程は第5流路105で行わず、粒子化工程又は濃縮工程後に溶液9を容器に回収してその後に行ってもよい。その場合、容器は例えば制御された運搬機構で冷却装置に運搬されて冷却され得る。
【0084】
上記の流路は、例えばマイクロ流路であり、幅100μm~1000μm程であることが好ましい。
【0085】
流路内の液体の流れ、液体の流路内への注入、タンクからの液体の取り出し及び/又は溶液9の容器への収容等は、例えばこれらの操作が自動的に行われるように構成され及び制御されたポンプ又は押し出し機構等により行われ得る。
【0086】
以上に説明した流路を用いることにより、自動で且つ密閉状態で簡単に品質の向上した脂質粒子を製造することができる。加えて、流路内の限られた空間で反応が行われることから成分同士が遭遇しやすく反応が起こりやすいため、より効率よく脂質粒子1を製造することが可能である。また用いられる溶液量が少量でよいことから、材料の節約になる。
【0087】
・脂質粒子の品質を向上する方法
更なる実施形態によれば、脂質粒子の品質を向上する方法が提供される。本方法は、図9に示すように薬剤2を内包する脂質粒子1を含む溶液を分速1℃以下の速度で冷却する冷却工程S41を含む。薬剤2を内包する脂質粒子1を含む溶液は、例えば予め製造されたものであり、上記脂質粒子の製造方法の冷却工程を除く工程を行って得られた溶液9であることが好ましいが、溶液9に更なる改変を加えた溶液、又は上記製造方法とは別の製造方法で得られた溶液等であってもよい。
【0088】
薬剤2を内包する脂質粒子1を含む溶液は、水性溶媒と水性溶媒中に含まれた薬剤2を内包する脂質粒子1を含む。水性溶媒は、例えば水、生理食塩水のような食塩水、グリシン水溶液又は緩衝液等である。溶液は、必要に応じて更なる成分を含んでもよい。
【0089】
冷却工程S41は、上記の冷却工程S3と同様の方法で行うことができ、また冷却工程S3と同様に目的の最終温度までの間に冷却速度を1回又は複数回変更してもよい。冷却工程S41は、例えば図10に示すように0.5<v≦1で冷却する第1冷却工程S41-1と、v≦0.5で冷却する第2冷却工程S41-2とを含むことが好ましい。ここで、「v」は冷却速度であり、vの単位は℃/分である。
【0090】
以上に説明した品質向上方法によれば、冷却工程S41で緩慢冷却を行うことにより、脂質粒子1の品質を向上することができる。ここで、品質の向上とは、例えば、薬剤2の脂質粒子1からの漏出の防止、薬剤2の脂質粒子1への内包量の向上、薬剤2を内包する脂質粒子1の割合(内包率)の向上、脂質粒子1同士の凝集の低減及び防止、及び/又は脂質粒子のサイズのばらつきの軽減等を含む。
【0091】
[例]
以下に、実施形態に係る方法で脂質粒子を製造し、使用した例について説明する。
【0092】
例1:冷却条件が異なる脂質粒子の評価
(混合工程)
FFT10:FFT20:DOPE:DOTAP:コレステロール:DMG-PEG2000=35:70:21:9.4:88.5:9.4(モル比)の比率の6種類の脂質を1.2mlのエタノールに溶解し第1溶液を得た。0.1mg/mlのNanoLuc(登録商標)のmRNA(以下、「nLucmRNA」と称する)を10mMのHEPES(pH7.3)1.2mlに溶解し、第2溶液を得た。両溶液を、マイクロ流路を使って混合し、RNA-脂質混合液を作製した。
【0093】
(粒子化工程)
混合工程で作製したRNA-脂質混合液2.4mlに、7.2mlの10mM HEPES(pH7.3)を添加することで混合液の有機溶媒濃度を相対的に低下させ、nLucmRNAを内包する脂質粒子を生成した。
【0094】
(濃縮工程)
粒子化工程で得られた9.6mlの希脂質粒子混合液を限外ろ過フィルタ(Amicon(登録商標)Ultra-15、メルク)を用いて240μlになるまで濃縮し、脂質粒子混合液とした。
【0095】
(冷却工程)
濃縮工程で作製した脂質粒子混合液を、下記表1に示す4つの条件で冷却した。
【0096】
【表1】
【0097】
24時間後、各脂質粒子混合液を融解し、下記の手順で粒子径とゼータ電位を測定した。精製水(注射用水、大塚製薬)900μlで洗浄した粒子径測定専用キュベットに、精製水890μlと脂質粒子溶液10μlを添加し混合した。この混合物についてゼータサイザー(ゼータサイザーナノZSP、マルバーン)で粒子径測定モードにて粒子径と多分散指数(PdI)を測定した。次に、100%EtOH900μlで2回、精製水900μlで2回洗浄したゼータ電位測定専用キュベットに、粒子径測定した溶液を移し、ゼータ電位測定モードにてゼータ電位を測定した。
【0098】
次に、脂質粒子混合液の内包RNA濃度を下記の手順で測定した。内包RNA濃度の測定は、RNA定量キットであるQuantiFluor(登録商標)RNA System(E3310、プロメガ)を用いて行った。1×TE緩衝液を調整し、そのTE緩衝液を用いて1%のTriton(登録商標)X-100(界面活性剤)とRNA Dye染色液(1×)とを調整した。
【0099】
検量線作成用に、Triton(登録商標)Xを含まない条件(A)と、Triton(登録商標)Xを含む条件(B)の試料を調製した。検量線作成用試料の調整量を以下の表2に示す。
【0100】
【表2】
【0101】
次に、脂質粒子を含む混合液についてTriton(登録商標)Xを含まない条件(A)と、Triton(登録商標)Xを含む条件(B)の試料を調製した。以下の表2及び表3にそれぞれ示す。
【0102】
【表3】
【0103】
次に、検量線用試料及び脂質粒子混合液用の試料のRNAの濃度を測定した。測定は、蛍光を用いた核酸検出装置であるQuantusTMFluorometerを用い、色素の蛍光強度から濃度を算出した。界面活性剤のTriton(登録商標)Xを含まない条件(A)の試料の測定結果から付着核酸量が得られ、Triton(登録商標)Xを含む条件(B)の試料の測定結果から、付着核酸量と内包核酸量との合計、即ち総核酸量が得られた。ここで、付着核酸量とは、脂質粒子外に存在する核酸の量である。検量線用の試料における結果からRNA量と蛍光強度との関係を示す検量線を作成した。検量線と脂質粒子混合液用試料における結果とを比較することにより、脂質粒子混合液の付着核酸量と内包核酸量とを算出した。付着核酸量は条件(A)の値とし、内包核酸量は条件(B)の値から条件(A)の値を引いた値とした。
【0104】
各条件の測定結果を下記表4に示す。
【0105】
【表4】
【0106】
条件1(比較例1)の凍結を行わない条件、および条件2(比較例2)の急速冷却条件では内包された核酸の漏出率がそれぞれ59.8%及び45.4%であった。それに対して条件3(実施例1)および条件4(実施例2)の緩慢冷却条件では漏出率がそれぞれ20.6%及び27.2%であり顕著に抑制された。
【0107】
例2:冷却・融解条件が異なる脂質粒子の評価
例1に示す方法で混合工程~濃縮工程を行って脂質粒子混合液を作製した。
【0108】
その後、下記表5に示す条件で冷却工程を行った後、例1と同じ方法で粒子径、ゼータ電位及びRNA濃度を測定した。
【0109】
【表5】
【0110】
各条件の測定結果を表6に示す。
【0111】
【表6】
【0112】
条件1(比較例3)の凍結を行わない条件では、内包された核酸の漏出率が58%であった。それに対して条件2(実施例3)の緩慢冷却条件では、漏出率が29%であり顕著に抑制された。緩慢冷却を行った場合、実施例4のように再凍結を行っても核酸の漏出率は上がらず、脂質構造の安定性が保持された。
【0113】
例3:冷却工程の有無による脂質粒子のRNA内包脂質粒子率の評価
例1に示す方法で混合工程~濃縮工程を行って脂質粒子混合液を作製した。内包するRNAとしてnLucmRNA又はiCaspase9mRNAを使用した。
【0114】
脂質粒子混合液の一部を、0℃まで1℃/分で冷却し、0℃以下は0.5℃/分で-30℃まで冷却し、-30℃で一晩以上保管した後、氷上で融解し安定化脂質粒子混合液とした。
【0115】
脂質粒子混合液(冷却工程無し)と安定化脂質粒子混合液(冷却工程あり)とからそれぞれ1μl分取し、10mM HEPES(pH7.3)で100倍に希釈し、0.005%(v/v)になるように、QuantiFluor(登録商標)色素を添加し、30分暗所で静置した。同溶液に含まれる粒子数を、NanosightNS300で測定した。同溶液に488nmのレーザー光を照射し、側方散乱光をもつ粒子をトラッキングすることで、粒子個数を計測し、総脂質粒子数とした。同じ溶液に対してレーザー光を照射し蛍光フィルタを通した蛍光を持つ粒子のみをトラッキングすることで、RNAが内包されている粒子個数を測定し、核酸内包脂質粒子数とした。核酸内包脂質粒子数の総脂質粒子における割合を算出し、内包脂質粒子率とした。結果を表7に示す。
【0116】
【表7】
【0117】
内包脂質粒子率は、冷却工程無しの場合iCaspase9(比較例4)で23.3%、nLuc(比較例5)で10.3%であった。対して、冷却工程ありの場合iCaspase9(実施例5)で57.6%、nLuc(実施例6)で62.5%であった。従って、内包RNAの種類に関わらず、冷却工程を含む作製方法で作製した脂質粒子の方が、核酸が内包されている脂質粒子の割合が高くなることが明らかとなった。
【0118】
例4:冷却条件が異なる自殺遺伝子を内包した脂質粒子の殺細胞率の測定
例1に示す方法で混合工程~濃縮工程を行って脂質粒子混合液を作製した。内包するRNAとしてiCaspase9 mRNAを使用した。その後、下記表6に示す条件で冷却工程を行った後、Jurkat細胞へ添加した。
【0119】
【表8】
【0120】
ヒトT細胞性腫瘍細胞Jurkatは、ATCCより購入して使用した。Jurkatは、TexMACS培地で37℃、5%CO雰囲気で培養した。細胞は3、4日ごとに、培養液を新鮮な培地で2.5~5倍に希釈して継代した。
【0121】
細胞培養液からJurkat細胞を遠心で回収し、TexMACSに0.65×10細胞となるように懸濁した。48ウェル培養プレートにウェルあたり細胞懸濁液を150μl、TexMACSを150μl加えて穏やかに混合した後、上記の各条件の脂質粒子(1.0μg/ウェル)を添加して、37℃、5%CO雰囲気で培養した。
【0122】
培養24時間後、10mM CIDを添加し、更に24時間後、7-AADとAnnexin分子とを蛍光抗体によって染色し、蛍光活性化セルソーティング(FACS)で分析した。7-AAD(+)/Annexin(+)細胞を死細胞として、殺細胞率を算出した。結果は表9に示す。
【0123】
【表9】
【0124】
条件1(比較例4)の殺細胞率が90%であったのに対し、条件2(実施例4)では95%であった。したがって、実施形態の冷却方法によれば内包された核酸による効果がより効率よく得られることが分かった。
【0125】
また、この実験において条件1(比較例6)の脂質粒子の内包核酸濃度は193ng/μlであり、条件2(実施例7)では304ng/μlであった。そのため1μgの細胞投与有効成分核酸量を細胞に与えるために細胞に投与した脂質粒子溶液の液量は、条件1(比較例6)において5.2μlであり、条件2(実施例7)において3.2μlであった。したがって、条件2(実施例7)は脂質粒子の投与量を低減できることも明らかとなった。
【0126】
例5.緩慢凍結条件の違いによる融解時の凝集発生の観察
例1に示す方法で混合工程~濃縮工程を行って脂質粒子混合液を作製した。その後、下記表10に示す条件で、冷却工程を行い、融解時の反応液内の白濁(凝集)を目視で確認した。脂質粒子は各条件につき10個のサンプルを作製し、観察を行った。
【0127】
【表10】
【0128】
その結果、条件1(実施例8)では凝集が観察されなかったが、条件2(実施例9)では3つのサンプルで凝集が観察された。したがって、冷却工程は-30℃まで行うことが好ましいことが明らかとなった。
【0129】
例6 冷却工程の条件が異なる脂質粒子の形状観察
例1に示す方法で混合工程~濃縮工程を行って脂質粒子混合液を作製した。内包するRNAとしてiCaspase9mRNAを使用した。その後、表11に示す条件で冷却工程を行った後、低電圧透過型顕微鏡で形状の観察を行った。
【0130】
【表11】
【0131】
各条件で作製した脂質粒子混合液を3μL、銅製グリッドに厚さ約15nmのカーボン膜が張られた支持膜付きグリッド上に滴下した。2分間静置後、キムワイプで余分な溶液を吸い取り、30分間デシケータ内で観察試料を乾燥させた。乾燥した試料を、低電圧の透過型電子顕微鏡(LVEM5、Delong America社、加速電圧は5kV)で観察した。観察で得られた画像及びそのトレース図を図11に示す。透過型電子顕微鏡から得られた条件1(比較例5)の画像を(a)に、そのトレース図を(b)に示す。条件2(実施例7)の画像を(c)に、そのトレース図を(d)に示す。条件1(比較例7)では、粒径が200nmを超える大きなサイズの脂質粒子が多数観察され、脂質粒子の大きさにばらつきがあり、また脂質粒子の外周が不明瞭である。サイズの大きな脂質粒子の生成の一因として脂質粒子同士で凝集や融合が起こったことが考えられる。一方条件2(実施例10)では、脂質粒子の外周が明瞭で脂質粒子構造が安定化しており、脂質粒子の粒子径は200nm未満ほどでより均一である。このことから、実施形態の冷却方法によればサイズが均一化し、脂質粒子の凝集が防止され、品質が向上することが明らかとなった。
【0132】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
以下に、本願出願の当初特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1]
薬剤を内包する脂質粒子の製造方法であって、
前記薬剤を内包する前記脂質粒子を含む溶液を分速1℃以下の速度で冷却することを含む、脂質粒子の製造方法。
[2]
前記冷却で、前記溶液を少なくとも-30℃まで冷却する、[1]の方法。
[3]
前記冷却は、0.5<v≦1で冷却する第1冷却と、v≦0.5で冷却する第2冷却とを含み、前記vは冷却速度であり、単位は℃/分である、[1]又は[2]の方法。
[4]
前記第1冷却は前記溶液の温度が0℃に達するまで行い、前記第2冷却は、前記第1冷却の後連続して行われる、[1]~[3]の何れか一つの方法。
[5]
前記冷却の直前に、前記溶液に凍結保護剤を添加することを更に含む、[1]~[4]の何れか一つの方法。
[6]
前記凍結保護剤が、ジメチルスルホキシド、糖、グリセロールのいずれかである、[5]の方法。
[7]
前記冷却の直前の前記溶液中の前記凍結保護剤の含有量が10%(体積比)以下である、[5]又は[6]の方法。
[8]
薬剤を内包する脂質粒子を製造する方法であって、
前記方法は、有機溶媒中に脂質を含む第1溶液と水性溶媒中に前記薬剤を含む第2溶液とを混合した混合液を得ることと、
前記混合液の前記有機溶媒濃度を低下させることで前記脂質を粒子化して前記薬剤を内包した前記脂質粒子を生成することと、
前記脂質粒子の生成により得られた前記脂質粒子を含む溶液を分速1℃以下の速度で冷却することと
を少なくとも含む脂質粒子の製造方法。
[9]
前記冷却で、前記溶液を少なくとも-30℃まで冷却する、[8]の方法。
[10]
前記冷却は、0.5<v≦1で冷却する第1冷却と、v≦0.5で冷却する第2冷却とを含み、前記vは冷却速度であり、単位は℃/分である、[8]又は[9]の方法。
[11]
前記第1冷却は前記溶液の温度が0℃に達するまで行い、前記第2冷却は、前記第1冷却の後連続して行われる、[8]~[10]の何れか一つの方法。
[12]
前記冷却の直前に、前記溶液に凍結保護剤を添加することを更に含む、[8]~[11]の何れか一つの方法。
[13]
前記凍結保護剤が、ジメチルスルホキシド、糖、グリセロールのいずれかである、[12]の方法。
[14]
前記冷却の直前の前記溶液中の前記凍結保護剤の含有量が10%(体積比)以下である、[12]又は[13]の方法。
[15]
前記薬剤は核酸であり、
前記混合の前に前記薬剤を凝縮することを更に含む、[8]~[14]の何れか一つの方法。
[16]
前記脂質粒子の生成後、前記冷却の前に、前記溶液に含まれる前記脂質粒子を濃縮することを更に含む、[8]~[15]の何れか一つの方法。
【符号の説明】
【0133】
1…脂質粒子、2…薬剤、3…第1溶液、4…第2溶液、5…有機溶媒、
6…脂質、7…水性溶媒、8…混合液、9…溶液、
n…温度、v…冷却速度。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【配列表】
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