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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】操舵制御装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20240624BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20240624BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20240624BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20240624BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20240624BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D101:00
B62D113:00
B62D119:00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020207051
(22)【出願日】2020-12-14
(65)【公開番号】P2022053436
(43)【公開日】2022-04-05
【審査請求日】2023-08-14
(31)【優先権主張番号】P 2020159591
(32)【優先日】2020-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】並河 勲
(72)【発明者】
【氏名】松田 哲
(72)【発明者】
【氏名】飯田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】工藤 佳夫
(72)【発明者】
【氏名】山下 正治
(72)【発明者】
【氏名】柴田 憲治
【審査官】菅 和幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-149540(JP,A)
【文献】特開平10-217998(JP,A)
【文献】特開2019-199172(JP,A)
【文献】特開2019-206268(JP,A)
【文献】特開2004-291877(JP,A)
【文献】特開2006-151391(JP,A)
【文献】特開2004-034834(JP,A)
【文献】特開2020-083059(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第19804821(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 5/04
B62D 101/00
B62D 113/00
B62D 119/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイールに連結される操舵部と前記操舵部に入力される操舵に応じて転舵軸が動作することで転舵輪を転舵させる転舵部との間の動力伝達路が分離した構造を有する操舵装置を制御対象とする操舵制御装置であって、
前記操舵装置は、前記ステアリングホイールの回転量に対する前記転舵輪の回転量の比である舵角比を変化させる機能を有するものであり、
前記操舵部に入力される操舵に抗する力である操舵反力が発生するように前記操舵部に設けられた操舵側モータの作動を少なくとも制御する制御部を備え、
前記制御部は、前記操舵反力となる前記操舵側モータのモータトルクの目標値となる目標反力トルクを演算する目標反力トルク演算部を有し、
前記目標反力トルク演算部は、前記目標反力トルクに反映される、前記転舵輪を所定の方向へ転舵させる操舵を規制するための偏差軸力を演算する偏差軸力演算部を含み、
前記偏差軸力演算部は、前記ステアリングホイールの回転量を示す値として設定される操舵角と前記転舵輪の回転量を示す値として設定される転舵角とのうちいずれか一方の角度を基準角とし、前記操舵角と前記転舵角とのうちいずれか他方を前記舵角比に応じて換算した角度を換算角として、前記基準角と前記換算角との偏差に基づいて前記偏差軸力を演算するように構成されており、
前記制御部には、理想的な車両の旋回挙動に対する実際の車両の旋回挙動の差を示す情報として設定される旋回状態量が入力されており、
前記偏差軸力演算部は、前記旋回状態量に基づき補償された前記転舵角を用いて前記偏差を演算するように構成されている操舵制御装置。
【請求項2】
ステアリングホイールに連結される操舵部と前記操舵部に入力される操舵に応じて転舵軸が動作することで転舵輪を転舵させる転舵部との間の動力伝達路が分離した構造を有する操舵装置を制御対象とする操舵制御装置であって、
前記操舵装置は、前記ステアリングホイールの回転量に対する前記転舵輪の回転量の比である舵角比を変化させる機能を有するものであり、
前記操舵部に入力される操舵に抗する力である操舵反力が発生するように前記操舵部に設けられた操舵側モータの作動を少なくとも制御する制御部を備え、
前記制御部は、前記操舵反力となる前記操舵側モータのモータトルクの目標値となる目標反力トルクを演算する目標反力トルク演算部を有し、
前記目標反力トルク演算部は、前記目標反力トルクに反映される、前記転舵輪を所定の方向へ転舵させる操舵を規制するための偏差軸力を演算する偏差軸力演算部を含み、
前記偏差軸力演算部は、前記ステアリングホイールの回転量を示す値として設定される操舵角と前記転舵輪の回転量を示す値として設定される転舵角とのうちいずれか一方の角度を基準角とし、前記操舵角と前記転舵角とのうちいずれか他方を前記舵角比に応じて換算した角度を換算角として、前記基準角と前記換算角との偏差に基づいて前記偏差軸力を演算するように構成されており、
前記偏差軸力演算部は、前記偏差に基づき得られる第1偏差軸力成分と、当該第1偏差軸力成分とは異なる特性を有するように前記偏差に基づき得られる第2偏差軸力成分とを含む複数の偏差軸力成分を演算する偏差軸力成分演算部を含み、
前記偏差軸力成分演算部は、前記転舵部に設けられた転舵側モータの作動を制限しない状況であるか当該作動を制限する状況であるかに応じて前記第1偏差軸力成分と前記第2偏差軸力成分とのいずれかの偏差軸力成分を前記偏差軸力に加味するように構成されている操舵制御装置。
【請求項3】
ステアリングホイールに連結される操舵部と前記操舵部に入力される操舵に応じて転舵軸が動作することで転舵輪を転舵させる転舵部との間の動力伝達路が分離した構造を有する操舵装置を制御対象とする操舵制御装置であって、
前記操舵装置は、前記ステアリングホイールの回転量に対する前記転舵輪の回転量の比である舵角比を変化させる機能を有するものであり、
前記操舵部に入力される操舵に抗する力である操舵反力が発生するように前記操舵部に設けられた操舵側モータの作動を少なくとも制御する制御部を備え、
前記制御部は、前記操舵反力となる前記操舵側モータのモータトルクの目標値となる目標反力トルクを演算する目標反力トルク演算部を有し、
前記目標反力トルク演算部は、前記目標反力トルクに反映される、前記転舵輪を所定の方向へ転舵させる操舵を規制するための偏差軸力を演算する偏差軸力演算部を含み、
前記偏差軸力演算部は、前記ステアリングホイールの回転量を示す値として設定される操舵角と前記転舵輪の回転量を示す値として設定される転舵角とのうちいずれか一方の角度を基準角とし、前記操舵角と前記転舵角とのうちいずれか他方を前記舵角比に応じて換算した角度を換算角として、前記基準角と前記換算角との偏差に基づいて前記偏差軸力を演算するように構成されており、
前記偏差軸力演算部は、前記偏差に基づき得られる第1偏差軸力成分と、当該第1偏差軸力成分とは異なる特性を有するように前記偏差に基づき得られる第2偏差軸力成分とを含む複数の偏差軸力成分を所定配分比率で合算する偏差軸力成分演算部を含み、
前記偏差軸力成分演算部は、前記転舵部に設けられた転舵側モータの作動を制限しない状況であるか当該作動を制限する状況であるかに応じて前記配分比率を変更するとともに、前記配分比率で合算した前記偏差軸力成分を前記偏差軸力に加味するように構成されている操舵制御装置。
【請求項4】
前記偏差軸力演算部は、
前記基準角と前記換算角との偏差に基づいて偏差軸力成分を演算する偏差軸力成分演算部と、
前記偏差軸力の変化を調整するべく、前記基準角または前記換算角の変化量である角速度に基づいて軸力粘性成分を演算する軸力粘性成分演算部とを含み、
前記偏差軸力は、前記偏差軸力成分に対して、前記軸力粘性成分を反映させることで得られるように構成されている請求項1~3のいずれか一項に記載の操舵制御装置。
【請求項5】
前記偏差軸力成分演算部は、前記転舵側モータの作動を制限しない状況であるか当該作動を制限する状況であるかが切り替わることに起因して前記第1偏差軸力成分と前記第2偏差軸力成分とのいずれを前記偏差軸力に加味するか切り替える際、当該切り替え前後の前記第1偏差軸力成分と前記第2偏差軸力成分との差を徐々に小さくする機能を有するように構成されている請求項に記載の操舵制御装置。
【請求項6】
前記偏差軸力成分演算部は、前記転舵側モータの作動を制限しない状況であるか当該作動を制限する状況であるかが切り替わることに起因して前記配分比率を変更する際、当該配分比率を徐々に変化させる機能を有するように構成されている請求項に記載の操舵制御装置。
【請求項7】
前記偏差軸力成分演算部は、前記偏差の絶対値が偏差閾値以上である場合、前記偏差の絶対値が前記偏差閾値未満である場合と比べて、前記偏差に対する前記偏差軸力成分の勾配を大きく設定するように構成されており、
前記偏差軸力成分演算部は、前記転舵側モータの作動を制限する状況では、前記転舵側モータの作動を制限しない状況と比べて、前記偏差閾値の絶対値を小さく設定するように構成されている請求項2、3、5または6のいずれか一項に記載の操舵制御装置。
【請求項8】
前記目標反力トルク演算部は、操舵角限界を超える側の方向への操舵を規制するためのエンド軸力を演算するエンド軸力演算部を含み、
前記目標反力トルク演算部は、前記偏差軸力と前記エンド軸力とを個別に演算する機能を有するように構成されている請求項1~のいずれか一項に記載の操舵制御装置。
【請求項9】
前記目標反力トルク演算部は、前記偏差軸力と前記エンド軸力とを含む複数の軸力のうちの絶対値が最も大きい軸力を選択する軸力選択部を有し、
前記目標反力トルク演算部は、前記軸力選択部により選択された前記軸力を反映させることで前記目標反力トルクを得るように構成されている請求項に記載の操舵制御装置。
【請求項10】
前記制御部は、前記操舵側モータの駆動制御を通じて前記操舵反力を発生させる反力制御を実行する操舵側制御部と、前記転舵部に設けられた転舵側モータの駆動制御を通じて前記転舵輪を転舵させる転舵制御を実行する転舵側制御部とを備え、
前記転舵側制御部は、車両の走行速度を示す情報として設定される車速値に基づいて、前記舵角比を変化させるように制御する舵角比可変制御部と、前記転舵角を前記舵角比に応じて前記操舵角に換算した転舵換算角を演算する舵角換算部とを含み、
前記基準角は、前記操舵角であり、
前記換算角は、前記転舵換算角である請求項1~のいずれか一項に記載の操舵制御装置。
【請求項11】
前記制御部は、前記操舵側モータの駆動制御を通じて前記操舵反力を発生させる反力制御を実行する操舵側制御部と、前記転舵部に設けられた転舵側モータの駆動制御を通じて前記転舵輪を転舵させる転舵制御を実行する転舵側制御部とを備え、
前記転舵側制御部は、車両の走行速度を示す情報として設定される車速値に基づいて、前記舵角比を変化させるように制御するべく、前記操舵角を前記舵角比に応じて換算した角度から得られる、前記転舵制御を実行するための目標転舵角を演算する舵角比可変制御部を含み、
前記基準角は、前記転舵角であり、
前記換算角は、前記目標転舵角または前記操舵角を前記舵角比に応じて換算した角度である請求項1~9のいずれか一項に記載の操舵制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、操舵装置の一種として、運転者により操舵される操舵部と運転者の操舵に応じて転舵輪を転舵させる転舵部との間の動力伝達路が分離されたステアバイワイヤ式の操舵装置がある。同形式の操舵装置では、転舵輪が受ける路面反力等の路面情報が機械的にはステアリングホイールに伝達されない。そこで、同形式の操舵装置を制御対象とする操舵制御装置には、ステアリングホイールに対して路面情報を考慮した操舵反力をするように操舵部に設けられた操舵側アクチュエータを制御することで、路面情報を運転者に伝えるように制御するものがある。
【0003】
例えば、特許文献1の操舵制御装置では、操舵反力を決定する際には転舵部に設けられた転舵軸に作用する軸力を考慮し、当該考慮する軸力の一つとして転舵輪が縁石等の障害物に当たった状況になる場合に当該状況を運転者に伝える障害物当ての軸力を用いている。この場合、操舵制御装置は、転舵輪が障害物に当たった状況になる場合に、障害物当ての軸力を大きくすることによって、当該障害物側の一方向へ運転者によって更に操舵が行われるのを制限するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-127217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
操舵制御装置では、操舵反力を決定するために考慮する軸力として、上記障害物当ての軸力以外にも、様々な種類の軸力を考慮することがある。この点、転舵輪が障害物に当たった状況を運転者に伝えるための軸力は、転舵輪が障害物に当たった状況に着目して設定される。一方、他の種類の軸力は、転舵輪が障害物に当たった状況とは異なる転舵輪の状況に着目して設定しなければならない。このため、様々な種類の軸力を考慮して操舵反力を決定する際には、着目するべき状況ごとに個別に軸力を都度設定しなければならないことから、操舵反力を決定するために考慮する軸力の設定が複雑になるおそれがあった。
【0006】
本発明の目的は、操舵反力を決定するために考慮する軸力の設定が複雑になることを抑えられる操舵制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する操舵制御装置は、ステアリングホイールに連結される操舵部と前記操舵部に入力される操舵に応じて転舵軸が動作することで転舵輪を転舵させる転舵部との間の動力伝達路が分離した構造を有する操舵装置を制御対象とする操舵制御装置であって、前記操舵装置は、前記ステアリングホイールの回転量に対する前記転舵輪の回転量の比である舵角比を変化させる機能を有するものであり、前記操舵部に入力される操舵に抗する力である操舵反力が発生するように前記操舵部に設けられた操舵側モータの作動を少なくとも制御する制御部を備え、前記制御部は、前記操舵反力となる前記操舵側モータのモータトルクの目標値となる目標反力トルクを演算する目標反力トルク演算部を有し、前記目標反力トルク演算部は、前記目標反力トルクに反映される、前記転舵輪を所定の方向へ転舵させる操舵を規制するための偏差軸力を演算する偏差軸力演算部を含み、前記偏差軸力演算部は、前記ステアリングホイールの回転量を示す値として設定される操舵角と前記転舵輪の回転量を示す値として設定される転舵角とのうちいずれか一方の角度を基準角とし、前記操舵角と前記転舵角とのうちいずれか他方を前記舵角比に応じて換算した角度を換算角として、前記基準角と前記換算角との偏差に基づいて前記偏差軸力を演算するように構成されている。
【0008】
上記構成では、基準角と換算角との偏差に基づいて偏差軸力を演算するようにしている。この場合、舵角比が変化することを考慮して、基準角と換算角との偏差の演算にあたっては、操舵角と転舵角とのうちいずれか一方を舵角比に応じて換算する構成を採用している。これにより、基準角と換算角との偏差は、操舵角と転舵角との間の関係にずれが生じた場合、その時の舵角比も考慮したずれとして演算することができるようになる。そして、基準角と換算角との偏差に基づく偏差軸力を設定すれば、複数種類の軸力を纏めて考慮することができることから、軸力を発生させるべき状況ごとに個別に軸力を都度設定する必要がなくなる。したがって、操舵反力を決定するために考慮する軸力の設定が複雑になることを抑えることができる。
【0009】
上記操舵制御装置において、前記偏差軸力演算部は、前記基準角と前記換算角との偏差に基づいて偏差軸力成分を演算する偏差軸力成分演算部と、前記偏差軸力の変化を調整するべく、前記基準角または前記換算角の変化量である角速度に基づいて軸力粘性成分を演算する軸力粘性成分演算部とを含み、前記偏差軸力は、前記偏差軸力成分に対して、前記軸力粘性成分を反映させることで得られるように構成されていることが好ましい。
【0010】
上記構成によれば、例えば、角速度が大きいほど偏差軸力成分の変化量を小さくするように軸力粘性成分を演算する場合には、偏差軸力が急変することを抑えることができるようになる。この場合、転舵輪が障害物に当たったときの転舵輪の弾性感や、転舵輪が転舵するときの粘性感や、転舵輪からステアリングホイールまでの機械的構成の剛性感を再現する等、操舵反力を運転者に伝えるなかで、転舵輪で実際に起こっている状況をより正確に伝えることができる。
【0011】
上記操舵制御装置において、前記制御部には、理想的な車両の旋回挙動に対する実際の車両の旋回挙動の差を示す情報として設定される旋回状態量が入力されており、前記偏差軸力演算部は、前記旋回状態量に基づき補償された前記転舵角を用いて前記偏差を演算するように構成されていることが好ましい。
【0012】
上記構成によれば、旋回中の走行状態における理想的な車両の旋回挙動に対して実際の車両の旋回挙動がずれる状況が考えられるところ、当該状況を操舵反力として運転者にどのようにして伝えるのか調整することができるようになる。
【0013】
上記操舵制御装置において、前記偏差軸力演算部は、前記偏差に基づき得られる第1偏差軸力成分と、当該第1偏差軸力成分とは異なる特性を有するように前記偏差に基づき得られる第2偏差軸力成分とを含む複数の偏差軸力成分を演算する偏差軸力成分演算部を含み、前記偏差軸力成分演算部は、前記転舵部に設けられた転舵側モータの作動を制限しない状況であるか当該作動を制限する状況であるかに応じて前記第1偏差軸力成分と前記第2偏差軸力成分とのいずれかの偏差軸力成分を前記偏差軸力に加味するように構成されていることが好ましい。
【0014】
上記構成によれば、転舵側モータの作動を制限する状況であるか否かの間で、転舵角の追従性が変化することに起因して、基準角と換算角との間の偏差の大小の現れ方が変化することが考えられる。この場合、上記制限する状況であるか否かに応じて第1偏差軸力成分と第2偏差軸力成分とのいずれの偏差軸力成分を偏差軸力に加味するか切り替えるようにしている。これにより、転舵側モータの作動を制限する状況であるか否かに応じて適切な偏差軸力を演算することができる。
【0015】
上記操舵制御装置において、前記偏差軸力成分演算部は、前記転舵側モータの作動を制限しない状況であるか当該作動を制限する状況であるかが切り替わることに起因して前記第1偏差軸力成分と前記第2偏差軸力成分とのいずれを前記偏差軸力に加味するか切り替える際、当該切り替え前後の前記第1偏差軸力成分と前記第2偏差軸力成分との差を徐々に小さくする機能を有するように構成されていることが好ましい。
【0016】
上記構成によれば、転舵側モータの作動を制限する状況であるか否かが切り替わることに起因して第1偏差軸力成分と第2偏差軸力成分とのいずれを偏差軸力に加味するか切り替える際、切り替え前後で第1偏差軸力成分と第2偏差軸力成分との間に差が存在したとしても、当該差を徐々に小さくすることができる。これにより、転舵側モータの作動を制限しない状況であるか否かの間で、偏差軸力の急変が抑えられる。
【0017】
上記操舵制御装置において、前記偏差軸力演算部は、前記偏差に基づき得られる第1偏差軸力成分と、当該第1偏差軸力成分とは異なる特性を有するように前記偏差に基づき得られる第2偏差軸力成分とを含む複数の偏差軸力成分を所定配分比率で合算する偏差軸力成分演算部を含み、前記偏差軸力成分演算部は、前記転舵部に設けられた転舵側モータの作動を制限しない状況であるか当該作動を制限する状況であるかに応じて前記配分比率を変更するとともに、前記配分比率で合算した前記偏差軸力成分を前記偏差軸力に加味するように構成されていることが好ましい。
【0018】
上記構成によれば、転舵側モータの作動を制限する状況であるか否かの間で、転舵角の追従性が変化することに起因して、基準角と換算角との間の偏差の大小の現れ方が変化することが考えられるところ、上記制限する状況であるか否かに応じて第1偏差軸力成分と第2偏差軸力成分との配分比率を変更するようにしている。これにより、転舵側モータの作動を制限する状況であるか否かに応じて適切な偏差軸力を演算することができる。
【0019】
上記操舵制御装置において、前記偏差軸力成分演算部は、前記転舵側モータの作動を制限しない状況であるか当該作動を制限する状況であるかが切り替わることに起因して前記配分比率を変更する際、当該配分比率を徐々に変化させる機能を有するように構成されていることが好ましい。
【0020】
上記構成によれば、転舵側モータの作動を制限する状況であるか否かが切り替わることに起因して配分比率を変更する際、当該変更を徐々に反映させることができる。これにより、転舵側モータの作動を制限しない状況であるか否かの間で、偏差軸力の急変が抑えられる。
【0021】
上記操舵制御装置において、前記偏差軸力成分演算部は、前記偏差の絶対値が偏差閾値以上である場合、前記偏差の絶対値が前記偏差閾値未満である場合と比べて、前記偏差に対する前記偏差軸力成分の勾配を大きく設定するように構成されており、前記偏差軸力成分演算部は、前記転舵側モータの作動を制限する状況では、前記転舵側モータの作動を制限しない状況と比べて、前記偏差閾値の絶対値を小さく設定するように構成されていることが好ましい。
【0022】
上記構成によれば、転舵側モータの作動を制限する状況では、転舵角の追従性が低下することに起因して、基準角と換算角との間の偏差が大きくなる状況が考えられるところ、偏差が大きくなることを抑えられる。
【0023】
ここで、ステアリングホイールの操舵限界、すなわち転舵輪の転舵限界でステアリングホイールの操舵を規制する状況を考慮すると、偏差軸力では、転舵輪が転舵できない状況で実際にステアリングホイールが操舵限界側を超えて、基準角と換算角との間に偏差が生じなければステアリングホイールの操舵を規制することはできない。
【0024】
そこで、上記操舵制御装置において、前記目標反力トルク演算部は、操舵角限界を超える側の方向への操舵を規制するためのエンド軸力を演算するエンド軸力演算部を含み、前記目標反力トルク演算部は、前記偏差軸力と前記エンド軸力とを個別に演算する機能を有するように構成されていることが好ましい。
【0025】
上記構成によれば、操舵角が操舵角限界を超える状況になる場合には、偏差軸力とは別にエンド軸力を設定することで、ステアリングホイールが操舵角限界を超える側の方向への操舵を規制することができるようになる。これにより、例えば、ステアリングホイールが操舵角限界に達している場合には、基準角と換算角との間に偏差が生じていない状況であっても、ステアリングホイールの操舵を規制することができる。
【0026】
上記操舵制御装置において、前記目標反力トルク演算部は、前記偏差軸力と前記エンド軸力とを含む複数の軸力のうちの絶対値が最も大きい軸力を選択する軸力選択部を有し、前記目標反力トルク演算部は、前記軸力選択部により選択された前記軸力を反映させることで前記目標反力トルクを得るように構成されているものであることが好ましい。
【0027】
上記構成によれば、偏差軸力とエンド軸力とを含む複数の軸力が同時に操舵反力を発生させるべき値として演算される状況があるところ、当該状況であっても実際に目標反力トルクに対して反映される軸力としては絶対値が最も大きい軸力のただ一つである。したがって、偏差軸力とエンド軸力とを含む複数の軸力が同時に操舵反力を発生させるべき値として演算される状況であっても、操舵反力が過剰に大きくなることを抑制することができる。
【0028】
上記操舵制御装置において、前記制御部は、前記操舵側モータの駆動制御を通じて前記操舵反力を発生させる反力制御を実行する操舵側制御部と、前記転舵部に設けられた転舵側モータの駆動制御を通じて前記転舵輪を転舵させる転舵制御を実行する転舵側制御部とを備え、前記転舵側制御部は、車両の走行速度を示す情報として設定される車速値に基づいて、前記舵角比を変化させるように制御する舵角比可変制御部と、前記転舵角を前記舵角比に応じて前記操舵角に換算した転舵換算角を演算する舵角換算部とを含み、前記基準角は、前記操舵角であり、前記換算角は、前記転舵換算角であることが好ましい。
【0029】
上記構成によれば、舵角比可変制御部が設けられている転舵側制御部が舵角換算部を有するようにしている。この場合、舵角比を用いて換算する機能については転舵側制御部に集約することができ、制御部を設計するうえで設計しやすい構成を実現することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の操舵制御装置によれば、操舵反力の設定を簡素にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】第1実施形態において、ステアバイワイヤ式の操舵装置の概略構成を示す図。
図2】第1実施形態において、操舵制御装置の機能を示すブロック図。
図3】第1実施形態において、軸力演算部の機能を示すブロック図。
図4】第1実施形態において、配分軸力演算部の機能を示すブロック図。
図5】第1実施形態において、偏差軸力演算部の機能を示すブロック図。
図6】第2実施形態において、偏差軸力演算部の機能を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
<第1実施形態>
操舵制御装置の第1実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、操舵制御装置1の制御対象となる車両の操舵装置2は、ステアバイワイヤ式の操舵装置として構成されている。操舵装置2は、ステアリングホイール3を介して運転者により操舵される操舵部4と、運転者により操舵部4に入力される操舵に応じて転舵輪5を転舵させる転舵部6とを備えている。
【0033】
操舵部4は、ステアリングホイール3が固定されるステアリング軸11と、運転者の操舵に抗する力である操舵反力をステアリング軸11を介してステアリングホイール3に付与する操舵アクチュエータ12とを備えている。操舵アクチュエータ12は、駆動源となる操舵側モータ13と、操舵側モータ13の回転を減速してステアリング軸11に伝達する操舵側減速機構14とを有している。本実施形態の操舵側モータ13には、例えば三相のブラシレスモータが採用されている。
【0034】
転舵部6は、第1ピニオン軸21と、第1ピニオン軸21に連結された転舵軸としてのラック軸22とを備えている。第1ピニオン軸21とラック軸22とは、所定の交差角をもって配置されている。第1ピニオン軸21に形成されたピニオン歯21aとラック軸22に形成された第1ラック歯22aとを噛み合わせることにより第1ラックアンドピニオン機構23が構成されている。ラック軸22の両端には、タイロッド24が連結されている。タイロッド24の先端は、それぞれ左右の転舵輪5が組み付けられた図示しないナックルに連結されている。
【0035】
転舵部6は、ラック軸22に転舵輪5を転舵させる転舵力を付与する転舵アクチュエータ31を備えている。転舵アクチュエータ31は、第2ピニオン軸32を介してラック軸22に転舵力を付与する。転舵アクチュエータ31は、駆動源となる転舵側モータ33と、転舵側モータ33の回転を減速して第2ピニオン軸32に伝達する転舵側減速機構34とを備えている。第2ピニオン軸32とラック軸22とは、所定の交差角をもって配置されている。第2ピニオン軸32に形成された第2ピニオン歯32aとラック軸22に形成された第2ラック歯22bとを噛み合わせることにより第2ラックアンドピニオン機構35が構成されている。
【0036】
このように構成された操舵装置2では、運転者によるステアリング操作に応じて転舵アクチュエータ31により第2ピニオン軸32が回転駆動され、この回転が第2ラックアンドピニオン機構35によりラック軸22の軸方向移動に変換されることで、転舵輪5の転舵角が変更される。このとき、操舵アクチュエータ12からは、運転者の操舵に抗する操舵反力として、運転者による操舵方向と反対方向へ向けて作用する力がステアリングホイール3に付与される。
【0037】
ちなみに、第1ピニオン軸21を設ける理由は、第1ピニオン軸21と共にラック軸22を図示しないハウジングの内部に支持するためである。すなわち、操舵装置2に設けられる図示しない支持機構によって、ラック軸22は、その軸方向に沿って移動可能に支持されるとともに、第1ピニオン軸21及び第2ピニオン軸32へ向けて押圧される。これにより、ラック軸22はハウジングの内部に支持される。ただし、第1ピニオン軸21を使用せずにラック軸22をハウジングに支持する他の支持機構を設けてもよい。
【0038】
操舵装置2の電気的構成について説明する。
操舵制御装置1は、操舵側モータ13及び転舵側モータ33に接続されている。操舵制御装置1は、操舵側モータ13及び転舵側モータ33の作動を制御する。操舵制御装置1は、図示しない中央処理装置やメモリを備えている。操舵制御装置1は、所定の演算周期毎にメモリに記憶されたプログラムをCPUが実行することによって、各種制御を実行する。
【0039】
操舵制御装置1には、ステアリング軸11に付与された操舵トルクThを検出するトルクセンサ41が接続されている。トルクセンサ41は、ステアリング軸11における操舵側減速機構14との連結部分よりもステアリングホイール3側に設けられている。トルクセンサ41は、ステアリング軸11の途中に設けられたトーションバーの捩れに基づいて操舵トルクThを検出する。操舵制御装置1には、操舵側回転角センサ42及び転舵側回転角センサ43が接続されている。
【0040】
操舵側回転角センサ42は、操舵側モータ13の操舵側回転角θaを360度の範囲内の相対角で検出する。操舵側回転角θaは、操舵角θsの演算に使用される。操舵側モータ13と、ステアリング軸11とは、操舵側減速機構14を介して連動する。このため、操舵側モータ13の操舵側回転角θaと、ステアリング軸11の回転角、ひいてはステアリングホイール3の回転角、すなわち回転量を示す情報として設定される操舵角θsとの間には相関がある。したがって、操舵側モータ13の操舵側回転角θaに基づき操舵角θsを演算することができる。
【0041】
転舵側回転角センサ43は、転舵側モータ33の転舵側回転角θbを相対角で検出する。転舵側回転角θbは、ピニオン角θpの演算に使用される。転舵側モータ33と、第2ピニオン軸32とは、転舵側減速機構34を介して連動する。このため、転舵側モータ33の転舵側回転角θbと、第2ピニオン軸32の実際の回転角であるピニオン角θpとの間には相関がある。したがって、転舵側モータ33の転舵側回転角θbに基づきピニオン角θpを演算することができる。また、第2ピニオン軸32は、ラック軸22に噛合されている。このため、ピニオン角θpとラック軸22の移動量との間にも相関関係がある。すなわち、ピニオン角θpは、転舵輪5の転舵角を反映する値である。なお、操舵トルクTh、操舵側回転角θa、転舵側回転角θbは、右側に操舵した場合に正の値、左側に操舵した場合に負の値とする。
【0042】
操舵制御装置1には、車速センサ44が接続されている。車速センサ44は、車両の走行速度を示す情報として設定される車速値Vを検出する。
操舵制御装置1には、上位制御装置45が接続されている。上位制御装置45は、操舵制御装置1とは別の制御装置として、操舵装置2が搭載された車両に搭載されている。上位制御装置45は、その時々の車両の状態に基づき最適な制御方法を求め、その求められる制御方法に応じて各種の車載制御装置に対して個別の制御を指令する。本実施形態の上位制御装置45は、旋回中の走行状態における理想的な車両の旋回挙動に対する実際の車両の旋回挙動の差を示す情報として設定される旋回状態量として角度で定義されるドリフト状態量θxを生成する。上位制御装置45には、例えば、ヨーレートセンサが接続されており、当該ヨーレートセンサを通じて検出された実際のヨーレートと、旋回中の車速値V等の走行状態に基づき理想的であると推定演算された推定ヨーレートとの偏差に基づき、角度の次元を有する値としてドリフト状態量θxが演算される。こうして得られたドリフト状態量θxは、操舵制御装置1に出力される。
【0043】
操舵制御装置1は、操舵側モータ13の駆動制御を通じて操舵トルクThに応じて操舵反力を発生させる反力制御を実行する。また、操舵制御装置1は、転舵側モータ33の駆動制御を通じて転舵輪5を操舵状態に応じて転舵させる転舵制御を実行する。
【0044】
操舵制御装置1の機能について説明する。
操舵制御装置1は、図示しない中央処理装置(CPU)やメモリを備えており、所定の演算周期ごとにメモリに記憶されたプログラムをCPUが実行する。これにより、各種の処理が実行される。
【0045】
図2に、操舵制御装置1が実行する処理の一部を示す。図2に示す処理は、メモリに記憶されたプログラムをCPUが実行することで実現される処理の一部を、実現される処理の種類毎に記載したものである。
【0046】
図2に示すように、操舵制御装置1は、反力制御を実行する操舵側制御部50と、転舵制御を実行する転舵側制御部60とを備えている。
操舵側制御部50は、操舵側電流センサ54を有している。操舵側電流センサ54は、操舵側制御部50と操舵側モータ13の各相のモータコイルとの間の接続線に設けられている。操舵側電流センサ54は、当該接続線を流れる操舵側モータ13の各相の電流値から得られる操舵側実電流値Iaを検出する。操舵側電流センサ54は、操舵側モータ13に対応して設けられる図示しないインバータにおいて、スイッチング素子のそれぞれのソース側に接続されたシャント抵抗の電圧降下を電流として取得する。なお、図2では、説明の便宜上、各相の接続線及び各相の電流センサをそれぞれ1つに纏めて図示している。
【0047】
転舵側制御部60は、転舵側電流センサ67を有している。転舵側電流センサ67は、転舵側制御部60と転舵側モータ33の各相のモータコイルとの間の接続線に設けられている。転舵側電流センサ67は、当該接続線を流れる転舵側モータ33の各相の電流値から得られる転舵側実電流値Ibを検出する。転舵側電流センサ67は、転舵側モータ33に対応して設けられる図示しないインバータにおいて、スイッチング素子のそれぞれのソース側に接続されたシャント抵抗の電圧降下を電流として取得する。なお、図2では、説明の便宜上、各相の接続線及び各相の電流センサをそれぞれ1つに纏めて図示している。
【0048】
操舵側制御部50の機能について説明する。
操舵側制御部50には、操舵トルクTh、車速値V、操舵側回転角θa、転舵側実電流値Ib、後述の目標ピニオン角θp*、後述の転舵換算角θp_s、及び後述のコード信号Smが入力される。操舵側制御部50は、操舵トルクTh、車速値V、操舵側回転角θa、転舵側実電流値Ib、転舵換算角θp_s、及びコード信号Smに基づいて、操舵側モータ13に対する給電を制御する。なお、転舵換算角θp_sは、転舵側回転角θbに基づき演算される。
【0049】
操舵側制御部50は、操舵角演算部51と、目標反力トルク演算部52と、通電制御部53とを有している。
操舵角演算部51には、操舵側回転角θaが入力される。操舵角演算部51は、操舵側回転角θaを、例えば、車両が直進しているときのステアリングホイール3の位置であるステアリング中立位置からの操舵側モータ13の回転数をカウントすることにより、360度を超える範囲を含む積算角に換算する。操舵角演算部51は、換算して得られた積算角に操舵側減速機構14の回転速度比に基づき換算係数を乗算することで、操舵角θsを演算する。なお、操舵角θsは、ステアリング中立位置よりも、例えば右側の角度である場合に正、左側の角度である場合に負とする。
【0050】
目標反力トルク演算部52には、操舵トルクTh、車速値V、操舵角θs、転舵側実電流値Ib、後述の目標ピニオン角θp*、後述の転舵換算角θp_s、及び後述のコード信号Smが入力される。目標反力トルク演算部52は、操舵トルクTh、車速値V、操舵角θs、転舵側実電流値Ib、目標ピニオン角θp*、転舵換算角θp_s、及びコード信号Smに基づいて、操舵側モータ13を通じて発生させるべきステアリングホイール3の操舵反力の目標となる反力制御量としての目標反力トルクTs*を演算する。
【0051】
具体的には、目標反力トルク演算部52は、操舵力演算部55と、軸力演算部56とを有している。
操舵力演算部55には、操舵トルクTh、及び車速値Vが入力される。操舵力演算部55は、操舵トルクTh、及び車速値Vに基づいて操舵力Tb*を演算する。操舵力Tb*は、運転者の操舵方向と同一方向に作用する。操舵力演算部55は、操舵トルクThの絶対値が大きいほど、また車速値Vが遅いほど、より大きな絶対値の操舵力Tb*を演算する。操舵力Tb*は、トルクの次元(N・m)の値として演算される。こうして得られた操舵力Tb*は減算器57に出力される。
【0052】
軸力演算部56には、車速値V、操舵角θs、転舵側実電流値Ib、後述の目標ピニオン角θp*、後述の転舵換算角θp_s、及び後述のコード信号Smが入力される。軸力演算部56は、車速値V、操舵角θs、転舵側実電流値Ib、後述の目標ピニオン角θp*、後述の転舵換算角θp_s、及び後述のコード信号Smに基づいて、転舵輪5を通じてラック軸22に作用する軸力Fを演算する。軸力Fは、トルクの次元(N・m)の値として演算される。軸力Fは、運転者の操舵方向とは反対方向に作用する。減算器57にて、操舵力Tb*から軸力Fが差し引かれることで、目標反力トルクTs*が演算される。こうして得られた目標反力トルクTs*は、通電制御部53に出力される。
【0053】
通電制御部53には、目標反力トルクTs*、操舵側回転角θa、及び操舵側実電流値Iaが入力される。通電制御部53は、目標反力トルクTs*に基づいて、操舵側モータ13に対する電流指令値Ia*を演算する。通電制御部53は、電流指令値Ia*と、操舵側実電流値Iaを操舵側回転角θaに基づき変換して得られるdq座標上の電流値との偏差を求め、当該偏差を無くすように操舵側モータ13に対する給電を制御する。操舵側モータ13は、目標反力トルクTs*に応じたトルクを発生する。これにより、運転者に対して適度な手応え感を与えることができる。
【0054】
転舵側制御部60の機能について説明する。
転舵側制御部60は、ピニオン角演算部61と、舵角比可変制御部62と、ピニオン角フィードバック制御部(図2中「ピニオン角F/B制御部」)63と、通電制御部64と、舵角換算部65と、コード信号生成部66とを有している。
【0055】
ピニオン角演算部61には、転舵側回転角θbが入力される。ピニオン角演算部61は、転舵側回転角θbを、例えば、車両が直進しているときのラック軸22の位置であるラック中立位置からの転舵側モータ33の回転数をカウントすることにより、360度を超える範囲を含む積算角に換算する。ピニオン角演算部61は、換算して得られた積算角に転舵側減速機構34の回転速度比に基づく換算係数を乗算することで、第2ピニオン軸32の実際の回転角であるピニオン角θpを演算する。なお、ピニオン角θpは、ラック中立位置よりも、例えば右側の角度である場合に正、左側の角度である場合に負とする。こうして得られたピニオン角θpは、ピニオン角フィードバック制御部63に出力される。また、減算器68にて、ピニオン角θpからドリフト状態量θxが差し引かれることで補償後ピニオン角θp´が演算される。こうして得られた補償後ピニオン角θp´は、舵角換算部65に出力される。
【0056】
舵角比可変制御部62には、車速値V、及び操舵角θsが入力される。舵角比可変制御部62は、操舵角θsに調整量を加算することによって目標ピニオン角θp*を演算する。舵角比可変制御部62は、操舵角θsに対する目標ピニオン角θp*の比率である舵角比を可変するための調整量を、車速値Vに応じて可変させる。例えば、車速値Vが遅い場合に速い場合よりも、操舵角θsの変化に対する目標ピニオン角θp*の変化を大きくするように、調整量を可変させる。操舵角θsと、目標ピニオン角θp*との間には、相関関係がある。また、ピニオン角θpは、目標ピニオン角θp*に基づいて制御される。このため、操舵角θsと、ピニオン角θpとの間にも相関関係がある。
【0057】
ピニオン角フィードバック制御部63には、目標ピニオン角θp*、及びピニオン角θpが入力される。ピニオン角フィードバック制御部63は、ピニオン角θpを目標ピニオン角θp*に追従させるべくピニオン角θpのフィードバック制御として比例項及び微分項を用いたPD制御を実行する。すなわち、ピニオン角フィードバック制御部63は、目標ピニオン角θp*とピニオン角θpとの偏差を求め、当該偏差を無くすように、転舵力の目標となる目標制御量としての転舵力指令値T*を演算する。
【0058】
通電制御部64には、転舵力指令値T*、転舵側回転角θb、及び転舵側実電流値Ibが入力される。通電制御部64は、転舵力指令値T*に基づき転舵側モータ33に対する電流指令値Ib*を演算する。そして、通電制御部64は、電流指令値Ib*と、転舵側実電流値Ibを転舵側回転角θbに基づき変換して得られるdq座標上の電流値との偏差を求め、当該偏差を無くすように転舵側モータ33に対する給電を制御する。これにより、転舵側モータ33は、転舵力指令値T*に応じた角度だけ回転する。
【0059】
舵角換算部65には、車速値V、及び補償後ピニオン角θp´が入力される。舵角換算部65は、補償後ピニオン角θp´に調整量Δθ´を加算することによって転舵換算角θp_sを演算する。舵角換算部65は、調整量Δθ´を、舵角比可変制御部62が定義する演算規則に対して入力及び出力の関係を逆とした演算規則となるように、車速値Vに応じて可変させる。つまり、舵角比可変制御部62が、例えば、車速値Vが遅い場合に速い場合よりも、操舵角θsの変化に対する目標ピニオン角θp*の変化を大きくするのであれば、舵角換算部65は、車速値Vが遅い場合に速い場合よりも、補償後ピニオン角θp´の変化に対する転舵換算角θp_sの変化を小さくするように、調整量Δθ´を可変させる。これにより、舵角換算部65は、転舵角の指標の値として表されている補償後ピニオン角θp´を舵角比に応じて操舵角の指標の値として表されるように換算した転舵換算角θp_sを演算する。特許請求の範囲に記載した換算角は、転舵換算角θp_sに相当する。こうして得られた転舵換算角θp_sは、軸力演算部56に出力される。
【0060】
コード信号生成部66には、図示しない温度センサ等の検出結果が入力される。温度センサは、例えば、転舵側モータ33のモータコイルやインバータの温度を検出する。この場合、コード信号生成部66は、上記温度センサで検出される温度と複数の温度閾値との比較を通じて転舵側モータ33の状態として発熱状態を判定する。転舵側モータ33の発熱状態には、転舵側モータ33の作動を制限する必要性が低い方から順に、例えば、通常の発熱状態、軽度の過熱状態、中程度の過熱状態、および重度の過熱状態が含まれる。そして、通常の発熱状態は、転舵側モータ33の作動が制限されないことを示す。一方、軽度の過熱状態、中程度の過熱状態、および重度の過熱状態は、転舵側モータ33の作動が制限されることを示す。
【0061】
また、コード信号生成部66には、図示しない電圧センサ等の検出結果が入力される。電圧センサは、例えば、バッテリ等の直流電源の電圧を検出する。この場合、コード信号生成部66は、上記電圧センサで検出される電圧と複数の電圧閾値との比較を通じて直流電源の電圧の状態を判定する。直流電源の電圧状態には、転舵側モータ33の作動を制限する必要性が低い方向から順に、例えば、通常の電圧状態、軽度の電圧低下状態、中程度の電圧低下状態、および重度の電圧低下状態が含まれる。そして、通常の電圧状態は、転舵側モータ33の作動が制限されないことを示す。一方、軽度の電圧低下状態、中程度の電圧低下状態、および重度の電圧低下状態は、転舵側モータ33の作動が制限されることを示す。
【0062】
コード信号生成部66は、コード信号Smを生成する際に、次の処理を実行する。すなわち、コード信号生成部66は、操舵制御装置1の記憶部に格納されたコード表に従って操舵装置2の状態をコード化する。コード化とは、操舵装置2の状態を記号としてのコードで表現する処理をいう。操舵装置2の状態には、転舵側モータ33の発熱状態および直流電源の電圧状態が含まれる。操舵装置2の状態とコードとの対応関係の一例は、次の通りである。
【0063】
・コード「0」……転舵側モータ33の作動が制限されない通常状態
・コード「1A」…転舵側モータ33の軽度の過熱状態
・コード「1B」…転舵側モータ33の中程度の過熱状態
・コード「1C」…転舵側モータ33の重度の過熱状態
・コード「2A」…直流電源の軽度の電圧低下状態
・コード「2B」…直流電源の中程度の電圧低下状態
・コード「2C」…直流電源の重度の電圧低下状態
コード信号生成部66は、操舵装置2の状態に対応したコードを示すコード信号Smを生成する。こうして得られたコード信号Smは、軸力演算部56に出力される。
【0064】
本実施形態では、操舵装置2の状態を示す信号であるコード信号Smを転舵側制御部60が操舵側制御部50へ出力することで、操舵装置2の状態、特に転舵側モータ33の状態を操舵側制御部50に対して把握させることができる。ここで、転舵側モータ33の状態を操舵側制御部50に対して把握させることの実現のみを考えるのであれば、転舵側モータ33の温度や直流電源の電圧等の各種情報を転舵側制御部60がそれぞれ操舵側制御部50へ出力することでも実現できる。この点、本実施形態では、転舵側モータ33の温度や直流電源の電圧等の各種情報を転舵側制御部60がそれぞれ操舵側制御部50へ出力する場合と比べて、出力しなければいけない情報量を減らすことができ、操舵側制御部50と転舵側制御部60との間の通信負荷を低減できる点で有利である。
【0065】
なお、温度閾値は、例えば、モータコイルやインバータが過熱状態に近付きつつあると考えられる温度として実験的に求められる範囲の値が設定されている。また、電圧閾値は、例えば、直流電源が十分に電力の供給をできなくなる状態に近づきつつあると考えられる電圧として実験的に求められる範囲の値が設定されている。転舵側制御部60は、通常の発熱状態および電圧状態以外の状態において、転舵側モータ33の作動を制限するべく、当該転舵側モータ33に対する給電を制限する保護モードでの制御を実行する。一方、転舵側制御部60は、通常の発熱状態および電圧状態において、転舵側モータ33の作動を制限しないで、当該転舵側モータ33に対する給電を制限しない通常モードでの制御を実行する。
【0066】
ここで、軸力演算部56の機能についてさらに詳しく説明する。
図3に示すように、軸力演算部56は、配分軸力演算部71と、エンド軸力演算部72と、偏差軸力演算部73と、軸力選択部74とを有している。
【0067】
配分軸力演算部71は、ラック軸22に作用する軸力に応じた配分軸力Fdを演算する。配分軸力Fdは、転舵輪5を通じてラック軸22に作用する軸力が好適に反映されるように、後述の角度軸力Fr及び電流軸力Fiをそれぞれの配分比率で配分して得られるラック軸22に作用する軸力を推定した演算上の軸力に相当する。こうして得られた配分軸力Fdは、加算器75に出力される。
【0068】
エンド軸力演算部72は、ステアリングホイール3の操舵限界、すなわち転舵輪5の転舵限界に達する状況になる場合に当該状況を運転者に伝えるエンド軸力Fieを演算する。エンド軸力Fieは、操舵角θsの絶対値が操舵限界に対応する操舵角限界に近付く場合に、当該操舵角限界を超える側への更なるステアリングホイール3の操舵を規制するべく、当該操舵に対して抗する力に相当する。こうして得られたエンド軸力Fieは、軸力選択部74に出力される。
【0069】
偏差軸力演算部73は、ステアリングホイール3の操舵状態と、転舵輪5の転舵状態との間の舵角比を考慮した関係にずれが生じる状況になる場合に当該状況を運転者に伝える偏差軸力Fvを演算する。ステアリングホイール3の操舵状態と、転舵輪5の転舵状態との間の舵角比を考慮した関係にずれが生じる場合としては以下の状況が挙げられる。例えば、転舵輪5が縁石等の障害物に当たって、転舵輪5を当該障害物側の一方向へ転舵させることができないにもかかわらず、操舵部4と転舵部6との間の動力伝達路が分離されているために、転舵輪5の停止位置に対応するステアリングホイール3の停止位置を超えて当該一方向へ操舵される状況が挙げられる。他にも、過熱保護のために転舵側モータ33の作動が制限される結果、ピニオン角θpが目標ピニオン角θp*に追従し難くなるために、操舵角θsと転舵角との間の相関が崩れる状況が挙げられる。偏差軸力Fvは、転舵輪5が縁石等の障害物に当たった場合に、ステアリングホイール3の更なる操舵を規制するため、当該操舵に対して抗する力に相当する。また、過熱保護のため転舵側モータ33の作動が制限される場合、ピニオン角θpの目標ピニオン角θp*への追従性を確保するためにステアリングホイール3の操舵を規制するべく、当該操舵に対して抗する力に相当する。こうして得られた偏差軸力Fvは、軸力選択部74に出力される。
【0070】
軸力選択部74には、エンド軸力Fie、及び偏差軸力Fvが入力される。軸力選択部74は、エンド軸力Fie、及び偏差軸力Fvのうちの絶対値が最も大きい軸力を選択し、当該選択した軸力を選択軸力Fslとして演算する。加算器75にて、選択軸力Fslが配分軸力Fdに加算されることで、軸力Fが演算される。こうして得られた軸力Fは、減算器57に出力される。減算器57にて、操舵力Tb*から配分軸力Fdが差し引かれることで目標反力トルクTs*が演算される。こうして得られた目標反力トルクTs*は、通電制御部53に出力される。
【0071】
つぎに、配分軸力演算部71の機能について詳しく説明する。
図4に示すように、配分軸力演算部71は、角度軸力演算部81と、電流軸力演算部82と、配分比演算部83とを有している。
【0072】
角度軸力演算部81には、目標ピニオン角θp*、及び車速値Vが入力される。角度軸力演算部81は、目標ピニオン角θp*、及び車速値Vに基づいて角度軸力Frを演算する。角度軸力Frは、任意に設定する車両のモデルにより規定される軸力の理想値である。角度軸力Frは、路面情報が反映されない軸力として演算される。路面情報とは、車両の横方向への挙動に影響を与えない微小な凹凸や車両の横方向への挙動に影響を与える段差等の情報である。具体的には、角度軸力演算部81は、目標ピニオン角θp*の絶対値が大きくなるほど、角度軸力Frの絶対値が大きくなるように演算する。また、角度軸力演算部81は、車速値Vが速くなるにつれて角度軸力Frの絶対値が大きくなるように演算する。角度軸力Frは、トルクの次元(N・m)の値として演算される。こうして得られた角度軸力Frは、乗算器84に出力される。
【0073】
電流軸力演算部82には、転舵側実電流値Ibが入力される。電流軸力演算部82は、転舵側実電流値Ibに基づいて電流軸力Fiを演算する。電流軸力Fiは、転舵輪5を転舵させるべく動作するラック軸22に実際に作用する軸力、すなわちラック軸22に実際に伝達される軸力の推定値である。電流軸力Fiは、上記路面情報が反映される軸力として演算される。具体的には、電流軸力演算部82は、転舵側モータ33によってラック軸22に加えられるトルクと、転舵輪5を通じてラック軸22に加えられる力に応じたトルクとが釣り合うとして、転舵側実電流値Ibの絶対値が大きくなるほど、電流軸力Fiの絶対値が大きくなるように演算する。電流軸力Fiは、トルクの次元(N・m)の値として演算される。こうして得られた電流軸力Fiは、乗算器85に出力される。
【0074】
配分比演算部83には、車速値Vが入力される。配分比演算部83は、車速値Vに基づいて、配分ゲインDiを演算する。配分ゲインDiは、角度軸力Frと、電流軸力Fiとを配分して軸力Fを得る際の電流軸力Fiの配分比率である。具体的には、配分比演算部83は、車速値Vと、配分ゲインDiとの関係を定めた配分ゲインマップを備えており、車速値Vを入力として、配分ゲインDiをマップ演算する。
【0075】
配分ゲインDiは、車速値Vが停車を含む低車速の場合に「1(100%)」となる。この場合、低車速では、軸力Fに対して電流軸力Fiのみが配分されること、すなわち角度軸力Frが配分されないことを示す。また、配分ゲインDiは、車速値Vが、例えば、時速60キロ以上等の高車速の場合に「ゼロ値(0%)」となる。この場合、高車速では、軸力Fに対して角度軸力Frのみが配分されること、すなわち電流軸力Fiが配分されてないことを示す。つまり、本実施形態の配分比率は、角度軸力Fr及び電流軸力Fiのいずれかしか軸力Fに配分しないゼロ値の概念を含む。
【0076】
こうして得られた配分ゲインDiは、電流軸力演算部82で得られた電流軸力Fiに乗算して乗算器85を通じて得られる最終的な電流軸力Fimとして加算器88に出力される。また、減算器86にて、記憶部87に記憶された「1」から配分ゲインDiが差し引かれることで配分ゲインDrが演算される。こうして得られた配分ゲインDrは、乗算器84に出力される。配分ゲインDrは、角度軸力Frと、電流軸力Fiとを配分して軸力Fを得る際の角度軸力Frの配分比率である。つまり、配分ゲインDrは、配分ゲインDiとの和が「1(100%)」となるように値が演算される。なお、記憶部87は、図示しないメモリの所定の記憶領域のことである。
【0077】
こうして得られた配分ゲインDrは、角度軸力演算部81で得られた角度軸力Frに乗算して乗算器84を通じて得られる最終的な角度軸力Frmとして加算器88に出力される。また、こうして得られた角度軸力Frmは、電流軸力Fimに加算して加算器88を通じて得られる配分軸力Fdとして加算器75に出力される。
【0078】
エンド軸力演算部72の機能について詳しく説明する。
図3に示すように、エンド軸力演算部72には、目標ピニオン角θp*が入力される。エンド軸力演算部72は、目標ピニオン角θp*に基づいてエンド軸力Fieを演算する。具体的には、エンド軸力演算部72は、目標ピニオン角θp*と、エンド軸力Fieとの関係を定めたエンド軸力マップを備えており、目標ピニオン角θp*を入力として、エンド軸力Fieをマップ演算する。エンド軸力演算部72は、目標ピニオン角θp*の絶対値が閾値角度θie以下である場合、エンド軸力Fieを「0」として演算する。エンド軸力演算部72は、目標ピニオン角θp*の絶対値が閾値角度θieよりも大きい場合、絶対値が「0」よりも大きなエンド軸力Fieを演算する。エンド軸力Fieは、目標ピニオン角θp*の絶対値が閾値角度θieを超えてある程度大きくなると、人の手ではそれ以上のステアリングホイール3の操舵ができないほどに大きな絶対値となるように設定されている。こうして得られたエンド軸力Fieは、軸力選択部74に出力される。
【0079】
つぎに、偏差軸力演算部73の機能について詳しく説明する。
図5に示すように、偏差軸力演算部73は、軸力基礎成分演算部101と、軸力粘性成分演算部102と、徐変処理部103と、上限ガード処理部104と、符号処理部105とを有している。
【0080】
軸力基礎成分演算部101には、操舵角θsから転舵換算角θp_sを差し引いて減算器106を通じて得られる偏差Δθ、及びコード信号Smが入力される。軸力基礎成分演算部101は、偏差Δθ、及びコード信号Smに基づいて、軸力基礎成分FΔθを演算する。具体的には、軸力基礎成分演算部101は、偏差Δθの絶対値と、軸力基礎成分FΔθとの関係を定めた軸力基礎成分マップを備えており、偏差Δθを入力として、軸力基礎成分FΔθをマップ演算する。特許請求の範囲に記載した基準角は、操舵角θsに相当する。
【0081】
本実施形態では、軸力基礎成分演算部101は、軸力基礎成分マップとして2種類のマップを備えている。軸力基礎成分演算部101は、コード信号Smに基づいて、2種類のマップのうちいずれか一方を用いて軸力基礎成分FΔθを演算する。軸力基礎成分演算部101は、転舵側モータ33の作動が制限されない通常状態であるコード「0」を示す、すなわち通常モードを実行する旨示すコード信号Smが入力された場合、図5中、二点鎖線で示す通常モード用の軸力基礎成分マップを用いたマップ演算を実施する。図5中、二点鎖線で示す通常モード用の軸力基礎成分マップは、偏差Δθの絶対値が第1偏差閾値Δθ1以上に達すると、偏差Δθの絶対値が第1偏差閾値Δθ1未満の場合と比べて、偏差Δθに対する軸力基礎成分FΔθの勾配が大きくなるように設定されている。つまり、軸力基礎成分演算部101は、通常モードを実行する旨示すコード信号Smが入力されると、偏差Δθの絶対値が第1偏差閾値Δθ1未満の場合、軸力基礎成分FΔθを「0」として演算するとともに、偏差Δθの絶対値が第1偏差閾値Δθ1以上に達すると、絶対値が「0」よりも大きな軸力基礎成分FΔθを演算する。通常モード用の軸力基礎成分マップを通じて得られる軸力基礎成分FΔθは、第1偏差軸力成分に相当する。
【0082】
軸力基礎成分演算部101は、転舵側モータ33の作動が制限される通常状態以外の状態であるコード「0」以外を示す、すなわち保護モードを実行する旨示すコード信号Smが入力されると、図5中、実線で示す保護モード用の軸力基礎成分マップを用いたマップ演算を実施する。図5中、実線で示す保護モード用の軸力基礎成分マップは、偏差Δθの絶対値が第2偏差閾値Δθ2以上に達すると、偏差Δθの絶対値が第2偏差閾値Δθ2未満の場合と比べて、偏差Δθに対する軸力基礎成分FΔθの勾配が大きくなるように設定されている。つまり、軸力基礎成分演算部101は、保護モードを実行する旨示すコード信号Smが入力されると、偏差Δθの絶対値が第2偏差閾値Δθ2未満の場合、軸力基礎成分FΔθを「0」として演算するとともに、偏差Δθの絶対値が第2偏差閾値Δθ2以上に達すると、絶対値が「0」よりも大きな軸力基礎成分FΔθを演算する。保護モード用の軸力基礎成分マップを通じて得られる軸力基礎成分FΔθは、第2偏差軸力成分に相当する。こうして得られた軸力基礎成分FΔθは、徐変処理部103に出力される。
【0083】
本実施形態において、第2偏差閾値Δθ2は、第1偏差閾値Δθ1よりも小さい値として設定されている。すなわち、通常モードを実行する状況でマップ演算に用いる軸力基礎成分マップは、保護モードを実行する状況でマップ演算に用いるマップを、偏差Δθが大きくなる方向に平行移動した形状をなしている。これにより、通常モードを実行する状況でマップ演算に用いる軸力基礎成分マップでは、保護モードを実行する状況でマップ演算に用いる軸力基礎成分マップよりも、偏差Δθの不感帯が大きく設定されている。つまり、通常モードを実行する状況では、保護モードを実行する状況と比べて、偏差Δθに対する軸力基礎成分FΔθの勾配が大きくなる状況が偏差Δθがより大きくなる状況で現れるように構成されている。これは、通常モードにおいて、微小な偏差Δθに応じて偏差軸力Fvを演算してしまうと、運転者のステアリング操作の妨げになるおそれがあるためである。
【0084】
特に、この実施形態では、ピニオン角フィードバック制御部63としてPD制御を採用しており積分項がないので、PID制御と比べると、目標ピニオン角θp*とピニオン角θpとの微小な偏差が残る可能性がある。目標ピニオン角θp*とピニオン角θpとの微小な偏差が残ると、これに起因して微小な偏差Δθが生じる可能性がある。このため、仮に、保護モードと通常モードとで不感帯を同じ大きさに設定してしまうと、通常モードにおいて偏差Δθが小さい段階で偏差軸力Fvが頻繁に生じる可能性が考えられる。この結果、通常モードにおいて運転者のステアリング操作が妨げられるおそれがある。しかしながら、本実施形態のように、通常モードのときの不感帯は保護モードのときの不感帯よりも大きく設定されることによって、通常モードであっても偏差Δθが小さい段階で偏差軸力Fvが生じる頻度を抑えられ、通常モードにおいて運転者が偏差軸力Fvによりステアリング操作を妨げられる状況を抑えられる。
【0085】
徐変処理部103には、軸力基礎成分FΔθ、及びコード信号Smが入力される。徐変処理部103は、コード信号Smが示す内容がコード「0」とコード「0」以外との間、すなわち通常モードと保護モードとの間で切り替わった場合、軸力基礎成分FΔθに対して、時間に対する徐変処理を実行する。具体的には、徐変処理部103は、モードが通常モードと保護モードとの間で切り替わった場合、切り替え前に演算された軸力基礎成分FΔθから切り替え後の軸力基礎成分FΔθの偏差を取得し、当該偏差分をオフセット量として演算する。この場合、徐変処理部103は、切り替え後の軸力基礎成分FΔθを切り替え前の軸力基礎成分FΔθ側にオフセット量だけずらすことにより、処理後軸力基礎成分FΔθ´を演算する。そして、徐変処理部103は、オフセット量を徐々に小さくしていずれ切り替え後の軸力基礎成分FΔθが本来の切り替え後の値となるように変化させる徐変処理を実行する。これにより、モードが通常モードと保護モードとの間で切り替わった場合であっても、処理後軸力基礎成分FΔθ´が急変することが抑えられている。なお、徐変処理部103は、コード信号Smが示す内容が通常モードと保護モードとの間で切り替わらない間、上記オフセット量が存在していなければ、軸力基礎成分FΔθを処理後軸力基礎成分FΔθ´として演算する。本実施形態において、軸力基礎成分演算部101と、徐変処理部103とは、偏差軸力成分演算部に相当する。また、本実施形態において、処理後軸力基礎成分FΔθ´は、偏差軸力成分に相当する。こうして得られた処理後軸力基礎成分FΔθ´は、加算器107に出力される。
【0086】
軸力粘性成分演算部102には、操舵角θsを微分して微分器108を通じて得られる操舵角速度ωsが入力される。操舵角速度ωsは、操舵角θsの変化量を示す情報として設定される。具体的には、軸力粘性成分演算部102は、操舵角速度ωsの絶対値と、軸力粘性成分Fωとの関係を定めた軸力粘性成分マップを備えており、操舵角速度ωsの絶対値を入力として、軸力粘性成分Fωをマップ演算する。特許請求の範囲に記載した角速度は、操舵角速度ωsに相当する。
【0087】
軸力粘性成分演算部102は、操舵角速度ωsの絶対値が大きい場合、操舵角速度ωsの絶対値が小さい場合よりも、絶対値が大きな軸力粘性成分Fωを演算する。軸力粘性成分Fωは、操舵角速度ωsが大きくなるほど大きな絶対値となるように設定されている。軸力粘性成分Fωは、軸力基礎成分FΔθの急変を抑えるために機能する。すなわち、軸力粘性成分Fωは、軸力基礎成分FΔθを用いて演算される偏差軸力Fvの立ち上がりを緩やかにするために機能する。これにより、転舵輪5が障害物に当たったときのタイヤの弾性感や、転舵輪5が転舵するときのタイヤの粘性感や、転舵輪5からステアリングホイール3までの機械的構成の剛性感を再現するようにしている。なお、軸力粘性成分演算部102は、偏差Δθが偏差閾値未満である場合、すなわち軸力基礎成分FΔθが「0」である場合には、演算された軸力粘性成分Fωを軸力基礎成分FΔθに反映しないように軸力粘性成分Fωを「0」として出力する。
【0088】
加算器107にて、軸力粘性成分Fωが処理後軸力基礎成分FΔθ´に加算されることで合算軸力Ftが演算される。こうして得られた合算軸力Ftは、上限ガード処理部104に出力される。上限ガード処理部104には、車速値V、合算軸力Ft、及び記憶部109に記憶された最大値Flimが入力される。記憶部109は、図示しないメモリの所定の記憶領域のことである。最大値Flimは、車速値Vが、例えば、上記高車速の場合において、ステアリングホイール3の操舵に影響を与えないなかで、合算軸力Ftとして最大限確保することのできる指標として実験的に求められる範囲の値が設定されている。
【0089】
上限ガード処理部104は、車速値Vが、例えば、上記低車速であることを示す車速閾値未満である場合、合算軸力Ftをガード後合算軸力Ft´として出力する。また、上限ガード処理部104は、車速値Vが、例えば、上記高車速であることを示す車速閾値以上である場合、合算軸力Ftに対する上限ガード処理を実行する。上限ガード処理部104は、上限ガード処理を実行するなかで合算軸力Ftが最大値Flim未満である場合、合算軸力Ftをガード後合算軸力Ft´として出力する。また、上限ガード処理部104は、上限ガード処理を実行するなかで合算軸力Ftが最大値Flim以上である場合、最大値Flimをガード後合算軸力Ft´として出力する。こうして得られたガード後合算軸力Ft´は、乗算器110に出力される。
【0090】
符号処理部105には、転舵側実電流値Ibが入力される。符号処理部105は、転舵側実電流値Ibに基づいて、ガード後合算軸力Ft´の符号を設定する。すなわち、符号処理部105は、転舵側実電流値Ibがゼロ値を含む正値の場合に「+1」を出力し、転舵側実電流値Ibが負値の場合に「-1」を出力する。こうして得られた「1」又は「-1」の値は、ガード後合算軸力Ft´に乗算して乗算器110を通じて得られる偏差軸力Fvとして軸力選択部74に出力される。
【0091】
第1実施形態の作用を説明する。
転舵輪5の状況は、転舵部6の情報として得られるピニオン角θpに反映される。例えば、転舵輪5が障害物に当たった状況において、ピニオン角θpは、転舵輪5が障害物に当たったときのピニオン角θpから当該障害物側へ変化することができなくなる。一方、ステアリングホイール3の状況は、操舵部4の情報として得られる操舵角θsに反映される。例えば、転舵輪5が障害物に当たった状況において、操舵角θsは、転舵輪5が障害物に当たった状況を運転者に伝えるための軸力が操舵反力として付与されなければ、転舵輪5が障害物に当たったときの操舵角θsから当該障害物側へさらに変化することができる。このため、操舵角θsとピニオン角θpとの間の関係にはずれが生じることがある。本発明者らは、転舵輪5が障害物に当たった状況を運転者に伝えるための軸力が設定される場合や、転舵輪5が障害物に当たった状況とは異なる転舵輪5の状況に着目した他の種類の軸力が設定される場合、何らかの理由により操舵角θsとピニオン角θpとの間の関係にずれが生じることは共通している点に着目することにした。つまり、本発明者らは、何らかの理由により操舵角θsとピニオン角θpとの間の関係にずれが生じる状況で、当該ずれが大きくならない又は解消するように操舵反力を決定すれば、複数種類の軸力を纏めて考慮することができることを発見した。
【0092】
具体的には、本実施形態では、操舵角θsと転舵換算角θp_sとの偏差Δθに基づいて偏差軸力Fvを演算するようにしている。この場合、舵角比が変化することを前提とすると、操舵角θsとピニオン角θpとが一対一で対応しなくなることを考慮して、操舵角θsと転舵換算角θp_sとの偏差Δθの演算にあたっては、ピニオン角θpを舵角比に応じて操舵角θsに換算する構成を採用している。これにより、操舵角θsと転舵換算角θp_sとの偏差Δθは、操舵角θsとピニオン角θpとの間の関係にずれが生じた場合、その時の舵角比も考慮したずれとして演算することができるようになる。そして、操舵角θsと転舵換算角θp_sとの偏差Δθに基づき軸力基礎成分FΔθ、すなわち偏差軸力Fvを設定すれば、複数種類の軸力を纏めて考慮することができることから、軸力を発生させるべき状況ごとに個別に軸力を都度設定する必要がなくなる。
【0093】
第1実施形態の効果を説明する。
(1-1)例えば、転舵輪5が縁石等の障害物に当たった状況、過熱保護のために転舵側モータ33の出力が制限された状況等、軸力を発生させるべき状況ごとに個別に軸力を都度設定する必要がなくなることから、操舵反力を決定するために考慮する軸力の設定が複雑になることを抑えることができる。
【0094】
(1-2)操舵角速度ωsの絶対値が大きいほど軸力基礎成分FΔθの変化量を小さくするように軸力粘性成分Fωを演算することから、偏差軸力Fvが急変することを抑えることができるようになる。この場合、転舵輪5が障害物にあたったときのタイヤの弾性感や、転舵輪5が転舵するときのタイヤの粘性感や、転舵輪5からステアリングホイール3までの機械的構成の剛性感を再現する等、操舵反力を運転者に伝えるなかで、転舵輪5で実際に起こっている状況をより正確に伝えることができる。なお、転舵輪5からステアリングホイール3までの機械的構成の剛性感については、操舵部4と転舵部6との間の動力伝達路が連結されている場合の剛性感を再現するようにしてもよい。この場合、操舵反力を運転者に伝えるなかで、操舵装置2が操舵部4と転舵部6との間が機械的に常時接続した操舵装置である場合と同様の転舵輪5の剛性感を再現できる。また、運転者がステアリングホイール3から手を放した場合や、ステアリングホイール3を保持する力を小さくした場合に生じる、ステアリングホイール3の中立位置への戻りを緩やかにすることができる。
【0095】
(1-3)実際の車両の旋回挙動が、旋回中の走行状態における理想的な車両の旋回挙動に対してずれる状況が考えられる。実際の車両の旋回挙動としては、アンダーステア状態であるときやオーバーステア状態であるときが挙げられる。そこで、本実施形態によれば、偏差軸力演算部73は、ドリフト状態量θxに基づいて補償された補償後ピニオン角θp´を用いて偏差Δθを演算するようにしている。これにより、例えば、オーバーステア状態では、転舵輪5の状況に対してピニオン角θpが若干小さい状況として運転者に伝えるように操舵反力を決定したりする等、操舵反力の伝え方の調整の幅を広げることができる。
【0096】
(1-4)転舵側モータ33の作動を制限する状況であるか否かの間で、ピニオン角θpの追従性が変化することに起因して、操舵角θsと転舵換算角θp_sとの間の偏差Δθの大小の現れ方が変化することが考えられる。この場合に、転舵側モータ33の作動を制限する状況であるか否かに応じて、通常モード用の軸力基礎成分マップを通じて得られる軸力基礎成分FΔθと、保護モード用の軸力基礎成分マップを通じて得られる軸力基礎成分FΔθとのいずれの軸力基礎成分を偏差軸力Fvに加味するかを切り替えるようにしている。これにより、転舵側モータ33の作動を制限する状況であるか否かに応じて適切な偏差軸力Fvを演算することができる。
【0097】
(1-5)転舵側モータ33の作動を制限する状況であるか否かが切り替わることに起因して、軸力基礎成分を演算する軸力基礎成分マップを切り替える際、切り替え前後で差が存在したとしても、当該差を徐々に小さくすることができる。これにより、転舵側モータ33の作動を制限しない状況であるか否かの間で、偏差軸力Fvの急変が抑えられる。
【0098】
(1-6)保護モードを実行する状況では、ピニオン角θpの追従性が低下することに起因して、操舵角θsと転舵換算角θp_sとの間の偏差Δθが大きくなり難くするように、当該偏差Δθが小さいうちに対処することができるようになる。
【0099】
(1-7)通常モードを実行する状況では、保護モードを実行する状況と比べて、偏差Δθに対する軸力基礎成分FΔθの勾配が大きくなる状況が偏差Δθがある程度大きくならないと現れず、偏差Δθの不感帯が大きくなるように構成されている。これにより、通常モードを実行する状況では、微小な偏差Δθに応じて偏差軸力Fvが演算されることになり、運転者のステアリング操作が妨げられることを抑えることができる。
【0100】
(1-8)エンド軸力演算部72は、目標ピニオン角θp*が閾値角度θieを超える状況になる場合に、操舵角θsが操舵角限界を超える状況になるとして、目標ピニオン角θp*に基づいてエンド軸力Fieを演算している。操舵角θsが操舵角限界を超える状況になる場合には、偏差軸力Fvとは別にエンド軸力Fieを設定することで、ステアリングホイール3が操舵角限界を超える側の一方向へ転舵輪5を転舵させる操舵を規制することができるようになる。これにより、例えば、ステアリングホイール3が操舵角限界に達している場合には、操舵角θsと転舵換算角θp_sとの間の偏差Δθの大きさに関係なく、ステアリングホイール3の操舵を規制することができる。
【0101】
(1-9)偏差軸力Fvとエンド軸力Fieとが同時に操舵反力を発生させるべき値として演算される状況があるところ、当該状況であっても実際に目標反力トルクTs*に対して反映される軸力としては絶対値が最も大きい軸力のただ一つである。したがって、偏差軸力Fvとエンド軸力Fieとが同時に操舵反力を発生させるべき値として演算される状況であっても、操舵反力が過剰に大きくなることを抑制することができる。
【0102】
(1-10)舵角比可変制御部62が設けられている転舵側制御部60が舵角換算部65を有するようにしている。この場合、舵角比を用いて換算する機能については転舵側制御部60に集約することができ、各制御部を設計するうえで設計しやすい構成を実現することができる。
【0103】
(1-11)車両が、例えば、上記高車速で走行している場合に、偏差軸力Fvが大きくなり過ぎると、ステアリングホイール3の操舵に影響を与えるおそれがある。本実施形態によれば、上限ガード処理部104は、車速値Vが車速閾値以上である、例えば、上記高車速で走行している場合、合算軸力Ftが最大値Flim以上であるとき、合算軸力Ftを最大値Flimでガードするようにしている。これにより、車両が、例えば、上記高車速で走行している場合に、偏差軸力Fvがステアリングホイール3の操舵に影響を与えることが抑えられる。
【0104】
(1-12)偏差Δθに対する偏差軸力Fvの関係を設定するだけでよいことから、当該関係を個別に軸力を都度設定する場合と比べて、操舵制御装置1のROM等の記憶容量が大きくなることを抑えることができる。
【0105】
<第2実施形態>
操舵制御装置の第2実施形態を図面に従って説明する。なお、ここでは、第1実施形態との違いを中心に説明する。また、第1実施形態と同一の構成については、同一の符号を付す等して、その重複する説明を省略する。
【0106】
図6に示すように、本実施形態の偏差軸力演算部73は、上記第1実施形態の軸力基礎成分演算部101及び徐変処理部103に代わる構成として、第1偏差軸力成分演算部111と、第2偏差軸力成分演算部112と、配分比演算部113とを有している。
【0107】
第1偏差軸力成分演算部111には、操舵角θsから転舵換算角θp_sを差し引いて減算器106を通じて得られる偏差Δθが入力される。第1偏差軸力成分演算部111は、偏差Δθに基づいて、第1偏差軸力成分FΔθ1を演算する。なお、第1偏差軸力成分演算部111は、図5中、二点鎖線で示す通常モード用の軸力基礎成分マップと同様の傾向を示すマップを備えており、偏差Δθを入力として、第1偏差軸力成分FΔθ1をマップ演算する。こうして得られた第1偏差軸力成分FΔθ1は、乗算器114に出力される。
【0108】
第2偏差軸力成分演算部112には、操舵角θsから転舵換算角θp_sを差し引いて減算器106を通じて得られる偏差Δθが入力される。第2偏差軸力成分演算部112は、偏差Δθに基づいて、第2偏差軸力成分FΔθ2を演算する。なお、第2偏差軸力成分演算部112は、図5中、実線で示す保護モード用の軸力基礎成分マップと同様の傾向を示すマップを備えており、偏差Δθを入力として、第2偏差軸力成分FΔθ2をマップ演算する。こうして得られた第2偏差軸力成分FΔθ2は、乗算器115に出力される。
【0109】
配分比演算部113には、コード信号Smが入力される。配分比演算部113は、コード信号Smに基づいて、第1配分ゲインD1を演算する。第1配分ゲインD1は、第1偏差軸力成分FΔθ1と、第2偏差軸力成分FΔθ2とを配分して後述の所定配分比率で合算した偏差軸力成分FΔθmを得る際の第1偏差軸力成分FΔθ1の配分比率である。
【0110】
こうして得られた第1配分ゲインD1は、第1偏差軸力成分演算部111で得られた第1偏差軸力成分FΔθ1に乗算して乗算器114を通じて得られる最終的な第1偏差軸力成分FΔθ1mとして加算器116に出力される。また、減算器117にて、記憶部118に記憶された「1」から第1配分ゲインD1が差し引かれることで第2配分ゲインD2が演算される。こうして得られた第2配分ゲインD2は、乗算器115に出力される。第2配分ゲインD2は、第1偏差軸力成分FΔθ1と、第2偏差軸力成分FΔθ2とを配分して後述の所定配分比率で合算した偏差軸力成分FΔθmを得る際の第2偏差軸力成分FΔθ2の配分比率である。第2配分ゲインD2は、第1配分ゲインD1との和が「1(100%)」となるように値が演算される。第1配分ゲインD1と、第2配分ゲインD2との配分比率は、転舵側モータ33の作動を制限する状況や製品仕様等によって適宜の値に設定される。なお、記憶部118は、図示しないメモリの所定の記憶領域のことである。
【0111】
こうして得られた第2配分ゲインD2は、第2偏差軸力成分演算部112で得られた第2偏差軸力成分FΔθ2に乗算して乗算器115を通じて得られる最終的な第2偏差軸力成分FΔθ2mとして加算器116に出力される。また、こうして得られた第2偏差軸力成分FΔθ2mは、第1偏差軸力成分FΔθ1mに加算して加算器116を通じて得られる所定配分比率で合算した偏差軸力成分FΔθmとして加算器107に出力される。
【0112】
本実施形態において、第1偏差軸力成分演算部111と、第2偏差軸力成分演算部112と、配分比演算部113と、乗算器114,115と、加算器116と、減算器117と、記憶部118とは、偏差軸力成分演算部に相当する。
【0113】
つぎに、配分比演算部113について詳しく説明する。第1配分ゲインD1と、第2配分ゲインD2との配分比率の具体的な設定例は、次の通りである。
配分比演算部113は、コード「0」を示すコード信号Smが入力された場合、すなわち転舵側モータ33の作動が制限されない通常状態である場合、各配分ゲインD1,D2がつぎの関係式(1)で表される配分比率となるように、配分ゲインD1を演算する。
【0114】
D1:D2=1(100%):0(0%) …(1)
この場合、第1配分ゲインD1は「1(100%)」に設定され、第2配分ゲインD2は「ゼロ値(0%)」に設定される。このため、コード「0」を示すコード信号Smが入力された場合では、偏差軸力Fvに対して第1偏差軸力成分FΔθ1と第2偏差軸力成分FΔθ2とのうちの第1偏差軸力成分FΔθ1のみが加味されること、すなわち第2偏差軸力成分FΔθ2が加味されないことを示す。つまり、本実施形態の配分比率は、第1偏差軸力成分FΔθ1及び第2偏差軸力成分FΔθ2のいずれかしか偏差軸力Fvに加味しないゼロ値の概念を含む。
【0115】
配分比演算部113は、コード信号Smが示す過熱状態が「軽度」、「中程度」、「重度」の順に推移するほど、すなわち転舵側モータ33が過熱状態であるほど、第1配分ゲインD1を小さい値に設定する。この場合、第2配分ゲインD2は、コード信号Smが示す過熱状態が「軽度」、「中程度」、「重度」の順に推移するほど、大きい値に設定される。
【0116】
配分比演算部113は、コード「1A」を示すコード信号Smが入力された場合、すなわち転舵側モータ33が軽度の過熱状態である場合、各配分ゲインD1,D2がつぎの関係式(2)で表される配分比率となるように、配分ゲインD1を演算する。
【0117】
D1:D2=0.8(80%):0.2(20%) …(2)
配分比演算部113は、コード「1B」を示すコード信号Smが入力された場合、すなわち転舵側モータ33が中程度の過熱状態である場合、各配分ゲインD1,D2がつぎの関係式(3)で表される配分比率となるように、配分ゲインD1を演算する。
【0118】
D1:D2=0.2(20%):0.8(80%) …(3)
配分比演算部113は、コード「1C」を示すコード信号Smが入力された場合、すなわち転舵側モータ33が重度の過熱状態である場合、各配分ゲインD1,D2がつぎの関係式(4)で表される配分比率となるように、配分ゲインD1を演算する。
【0119】
D1:D2=0(0%):1(100%) …(4)
配分比演算部113は、コード信号Smが示す直流電源の電圧低下状態が「軽度」、「中程度」、「重度」の順に推移するほど、第1配分ゲインD1を小さい値に設定するようにしてもよい。この場合、配分比演算部113は、コード「2A」を示すコード信号Smが入力された場合には、コード「1A」を示すコード信号Smが入力された場合と同様の配分比率となるように、配分ゲインD1を演算する。また、配分比演算部113は、コード「2B」を示すコード信号Smが入力された場合には、コード「1B」を示すコード信号Smが入力された場合と同様の配分比率となるように、配分ゲインD1を演算する。配分比演算部113は、コード「2C」を示すコード信号Smが入力された場合には、コード「1C」を示すコード信号Smが入力された場合と同様の配分比率となるように、配分ゲインD1を演算する。
【0120】
配分比演算部113は、配分ゲインD1を変更する場合、当該配分ゲインD1を徐々に変化させる機能を有している。配分比演算部113は、配分ゲインD1を変更する場合、当該配分ゲインD1に対して、時間に対する徐変処理を実行する。具体的には、配分比演算部113は、コードが切り替わった場合、切り替わり前の値から切り替え後の値となるように配分ゲインD1を経過時間に対して徐々に変化させる。配分ゲインD1を徐々に変化させる手法としては、例えば、上記第1実施形態の徐変処理部103と同様の手法を用いてもよい。この場合、配分比演算部113は、コードが切り替わった場合、切り替わり前に演算された配分ゲインD1から切り替え後の配分ゲインD1の偏差を取得し、当該偏差分をオフセット量として演算する。また、配分比演算部113は、切り替え後の配分ゲインD1を切り替え前の配分ゲインD1側にオフセット量だけずらすことにより、処理後の配分ゲインD1を演算する。そして、配分比演算部113は、オフセット量を時間に対して徐々に小さくしていずれ切り替え後の配分ゲインD1が本来の切り替え後の値となるように変化させる。
【0121】
本実施形態によれば、第1実施形態に準じた作用及び効果を奏する。さらに本実施形態によれば、以下の効果を奏する。
(2-1)転舵側モータ33の作動を制限する状況であるか否かに応じて、第1偏差軸力成分FΔθ1と第2偏差軸力成分FΔθ2との配分比率を変更するようにしている。これにより、転舵側モータ33の作動を制限する状況であるか否かに応じて適切な偏差軸力Fvを演算することができる。
【0122】
(2-2)転舵側モータ33の作動を制限する状況であるか否かが切り替わることに起因して、配分比率を変更する際、当該変更を徐々に反映させることができる。これにより、転舵側モータ33の作動を制限しない状況であるか否かの間で、偏差軸力Fvの急変が抑えられる。
【0123】
上記各実施形態は次のように変更してもよい。また、以下の他の実施形態は、技術的に矛盾しない範囲において、互いに組み合わせることができる。
・上記各実施形態において、舵角換算部65は、操舵側制御部50の機能として設定してもよい。また、舵角比可変制御部62は、操舵側制御部50の機能として舵角換算部65の機能と合わせて設定してもよい。この場合、上記第1実施形態の効果(1-10)に準じた効果を奏することができる。
【0124】
・上記各実施形態において、軸力選択部74は削除してもよい。この場合、例えば、軸力Fは、配分軸力演算部71により演算された配分軸力Fdと、エンド軸力演算部72により演算されたエンド軸力Fieと、偏差軸力演算部73により演算された偏差軸力Fvとを加算して加算器75を通じて得ることができる。
【0125】
・上記各実施形態において、軸力演算部56は、配分軸力演算部71や、エンド軸力演算部72や、偏差軸力演算部73以外に、転舵輪5の状況を伝えるための追加軸力を演算する機能を有していてもよい。この場合、軸力選択部74は、エンド軸力Fie、偏差軸力Fv、及び追加軸力のうちの絶対値が最も大きい軸力を選択し、当該選択した軸力を選択軸力Fslとして演算する。
【0126】
・上記各実施形態において、上位制御装置45は、旋回状態量として角度での次元を有する値としてドリフト状態量θxを生成したが、これに限らず、例えば、旋回状態量としてトルクの次元を有するドリフト状態量を生成してもよい。この場合、トルクの次元を有するドリフト状態量は、角度の次元を有する値に変換された後、減算器68にて、ピニオン角θpから差し引かれて得られる補償後ピニオン角θp´として舵角換算部65に出力されるようにする。
【0127】
・上記各実施形態において、ドリフト状態量θxを演算する機能は、操舵制御装置1、すなわち操舵側制御部50又は転舵側制御部60の機能として設定してもよい。
・上記各実施形態において、操舵制御装置1には、上位制御装置45により生成されたドリフト状態量θxが入力されなくてもよい。この場合、転舵側制御部60では、減算器68を削除することができる。つまり、舵角換算部65では、ピニオン角演算部61により演算されたピニオン角θpが入力され、当該ピニオン角θpが転舵換算角θp_sの演算に用いられることになる。
【0128】
・上記第1実施形態において、コード信号生成部66は、各種のセンサの検出結果を通じて転舵側モータ33等の転舵部6の構成の機械的な異常を検出するようにしてもよい。この場合、コード信号生成部66は、例えば転舵側モータ33に機械的な異常がある旨判定される場合、保護モードを実行する旨示すコード信号Smを生成する。
【0129】
・上記各実施形態において、ピニオン角フィードバック制御部63は、ピニオン角θpのフィードバック制御として比例項、積分項、及び微分項を用いたPID制御を実行するようにしてもよい。この場合でも操舵角θsに基づき演算される目標ピニオン角θp*に対してピニオン角θpを追従させるなかで現れる微小な偏差Δθに反応して偏差軸力Fvを演算してしまうと、運転者のステアリング操作の妨げにしかならないということは、上記各実施形態と同様である。
【0130】
・上記第1実施形態において、偏差軸力演算部73では、徐変処理部103を削除してもよい。この場合、通常モードと保護モードとの間でのモードの切り替えに関係なく、軸力基礎成分演算部101により演算された軸力基礎成分FΔθは、加算器107に出力される。
【0131】
・上記各実施形態において、軸力演算部56は、軸力Fとして、少なくとも偏差軸力Fvを演算すればよい。この場合、エンド軸力演算部72は、削除してもよい。
・上記各実施形態において、軸力粘性成分演算部102は、操舵角速度ωs以外のパラメータを加味して軸力粘性成分Fωを演算してもよい。例えば、軸力粘性成分演算部102は、車速値Vを加味して軸力粘性成分Fωを演算してもよい。この場合、例えば、軸力粘性成分演算部102は、車速値Vに対する傾向が異なる複数のマップを備え、車速値Vに応じて選択されたマップを参照することにより軸力粘性成分Fωを演算するようにしてもよい。
【0132】
・上記各実施形態において、軸力粘性成分演算部102は、軸力粘性成分Fωを演算する際、操舵角速度ωsの代わりに、ピニオン角θpの変化量であるピニオン角速度を用いるようにしてもよい。その他、軸力粘性成分Fωの演算にあたっては、目標ピニオン角θp*の変化量である目標ピニオン角速度を用いるようにしてもよい。また、軸力粘性成分Fωの演算にあたっては、換算角である転舵換算角θp_sの変化量である転舵換算角速度を用いるようにしてもよい。本変形例において、特許請求の範囲に記載した角速度は、ピニオン角速度や目標ピニオン角速度や転舵換算角速度に相当する。なお、本変形例を採用する場合には、軸力粘性成分Fωに関する情報を転舵側制御部60で演算し、当該情報を操舵側制御部50に送信するようにしてもよい。
【0133】
・上記各実施形態において、軸力粘性成分演算部102は、偏差Δθが偏差閾値未満である場合に、軸力粘性成分Fωを軸力基礎成分FΔθに反映するようにしてもよい。
・上記各実施形態において、偏差軸力演算部73では、軸力粘性成分演算部102を削除してもよい。この場合、偏差軸力演算部73では、加算器107を削除することができる。つまり、徐変処理部103により演算された処理後軸力基礎成分FΔθ´は、上限ガード処理部104に出力される。
【0134】
・上記第1実施形態において、軸力基礎成分演算部101は、軸力基礎成分マップとして、1種類のマップ、3種類以上のマップを備えるようにしてもよい。軸力基礎成分演算部101は、軸力基礎成分マップとして3種類以上のマップを備える場合、例えばコード「0」に対応するマップ、コード「1A」,「1B」,「2A」,「2B」に対応するマップ、コード「1C」,「2C」に対応するマップというように、コードの示す状態に応じたマップを用いて軸力基礎成分FΔθを演算するようにしてもよい。
【0135】
・上記第2実施形態において、偏差軸力演算部73は、偏差軸力成分演算部を3つ以上備えるようにしてもよい。この場合、偏差軸力演算部73は、例えばコード「0」に対応する配分ゲイン、コード「1A」,「1B」,「2A」,「2B」に対応する配分ゲイン、コード「1C」,「2C」に対応する配分ゲインというように、コードの示す状態に応じた配分ゲインを用いて3つ以上の偏差軸力成分を所定配分比率で合算するようにしてもよい。
【0136】
・上記第2実施形態において、第1配分ゲインD1と第2配分ゲインD2との和は、「1(100%)」を超えていてもよい。これは、上述した変形例のように、偏差軸力演算部73で3つ以上の配分ゲインが演算される場合についても同様であり、3つ以上の配分ゲインの和は、「1(100%)」を超えていてもよい。
【0137】
・上記第1実施形態において、軸力基礎成分演算部101は、軸力基礎成分FΔθを演算する際、基準角を操舵角θsとし、換算角を転舵換算角θp_sとしたこれらの偏差Δθを用いたが、これに限らない。例えば、偏差Δθの演算にあたっては、基準角を目標ピニオン角θp*とし、換算角を転舵換算角θp_sとしたこれらの偏差を用いるようにしてもよい。その他、偏差Δθの演算にあたっては、基準角を舵角比に応じてピニオン角θpの指標の値として表されるように操舵角θsを換算した値とし、換算角をピニオン角θpとしたこれらの偏差を用いるようにしてもよい。また、偏差Δθの演算にあたっては、基準角をピニオン角θpとし、換算角を目標ピニオン角θp*としたこれらの偏差を用いるようにしてもよい。この場合、転舵側制御部60では、舵角換算部65を削除することができる。これは、上記第2実施形態についても同様である。
【0138】
・上記各実施形態において、偏差軸力演算部73は、転舵側制御部60の機能として設定してもよい。また、偏差軸力演算部73だけでなく、軸力演算部56自体を転舵側制御部60の機能として設定してもよい。この場合、転舵側制御部60に設けられた軸力演算部56により演算された軸力Fは、操舵側制御部50の目標反力トルク演算部52に出力される。
【0139】
・上記各実施形態において、コード信号生成部66は、操舵側制御部50の機能として設定してもよい。この場合、転舵側制御部60により検出された温度センサや電圧センサ等の検出結果は、操舵側制御部50に設けられたコード信号生成部に出力される。
【0140】
・上記第2実施形態において、配分比演算部113は、コード信号Smに基づいて、第1配分ゲインD1と第2配分ゲインD2とを演算するようにしてもよい。この場合、減算器117と、記憶部118とを削除することができる。このように、偏差軸力成分演算部は、少なくとも、第1偏差軸力成分演算部111と、第2偏差軸力成分演算部112と、配分比演算部113とを含んでいればよく、それ以外の構成は適宜変更可能である。
【0141】
・上記第1実施形態では、各軸力基礎成分マップの間で、例えば保護モード用の軸力基礎成分マップでの偏差Δθに対する軸力基礎成分FΔθの勾配を大きくする等、当該勾配を異なるように設定してもよい。この場合、各軸力基礎成分マップの間で、第1偏差閾値Δθ1と第2偏差閾値Δθ2とを同値に設定し、偏差Δθの不感帯を同程度に設定してもよい。これは、上記第2実施形態の各偏差軸力成分マップについても同様に適用することができる。
【0142】
・上記第2実施形態において、配分比演算部113は、配分ゲインD1を徐々に変化させる機能を削除してもよい。この場合、コードの切り替えに関係なく、配分比演算部113により演算された第1配分ゲインD1は、乗算器114及び減算器117に出力される。
【0143】
・上記第1実施形態では、転舵側モータ33の作動を制限すべき複数の状況が重なって発生することが考えられる。例えば、転舵側モータ33の発熱状態の観点から転舵側モータ33の作動を制限すべき状況と、直流電源の電圧状態の観点から転舵側モータ33の作動を制限すべき状況とが重なって発生することが考えられる。これに対処するべく、コードに優先順位を設定してもよく、例えば、直流電源の電圧状態を示すコードよりも、転舵側モータ33の発熱状態を示すコードが優先して反映されるようにしてもよい。これは、第2実施形態についても同様である。
【0144】
・上記第1実施形態において、軽度の過熱状態や軽度の電圧低下状態では、転舵側モータ33の作動が制限されないようにしてもよい。すなわち、転舵側モータ33の作動を制限する通常モードや保護モードとする状態の割り振りは、適宜変更可能である。これは、第2実施形態についても同様である。
【0145】
・上記各実施形態において、角度軸力演算部81は、角度軸力Frを演算する際、目標ピニオン角θp*を少なくとも用いていればよく、車速値Vを用いなくてもよいし、他の要素を組み合わせて用いるようにしてもよい。なお、角度軸力演算部81は、目標ピニオン角θp*の代わりに、ピニオン角θpを用いるようにしてもよい。これは、ピニオン角θpを用いることが目標ピニオン角θp*を用いることと同等の概念であるからである。
【0146】
・上記各実施形態において、電流軸力演算部82は、電流軸力Fiを演算する際、転舵側実電流値Ibを少なくとも用いていればよく、車速値V等の他の要素を組み合わせて用いるようにしてもよい。なお、電流軸力演算部82は、転舵側実電流値Ibの代わりに、転舵側実電流値Ibを転舵側回転角θbに基づき変換して得られるdq座標上の電流値との偏差を無くすようにするために得られる電流指令値を用いるようにしてもよい。これは、上記電流指令値を用いることが転舵側実電流値Ibを用いることと同等の概念であるからである。
【0147】
・上記各実施形態において、配分比演算部83は、配分ゲインDiを演算する際、車速値Vに代えて又は加えて、ピニオン角θpや、目標ピニオン角θp*や、操舵角θsや、ピニオン角θpを微分して得られる転舵速度等の他の要素を用いるようにしてもよい。
【0148】
・上記各実施形態において、配分軸力演算部71では、角度軸力演算部81又は電流軸力演算部82を削除してもよい。この場合、配分比演算部83は、削除してもよい。そして、角度軸力演算部81で演算された角度軸力Fr又は電流軸力演算部82で演算された電流軸力Fiは、加算器75に出力される。
【0149】
・上記各実施形態において、エンド軸力演算部72は、エンド軸力Fieを演算する際、車速値V等の他の要素を組み合わせて用いるようにしてもよい。なお、エンド軸力演算部72は、目標ピニオン角θp*の代わりに、ピニオン角θpを用いるようにしてもよい。これは、ピニオン角θpを用いることが目標ピニオン角θp*を用いることと同等の概念であるからである。
【0150】
・上記各実施形態において、操舵力演算部55では、操舵力Tb*を演算する際、ステアリングホイール3の動作に関わる状態変数を少なくとも用いていればよく、車速値Vを用いなくてもよいし、他の要素を組み合わせて用いるようにしてもよい。ステアリングホイール3の動作に関わる状態変数としては、上記実施形態で例示した操舵トルクThの代わりに、操舵角θsを用いたり他の要素を用いたりしてもよい。
【0151】
・上記各実施形態において、転舵側制御部60は、操舵側制御部50の機能として付加してもよい。
・上記各実施形態において、転舵側モータ33は、例えば、ラック軸22の同軸上に転舵側モータ33を配置するものや、ボールねじ機構を用いたベルト式減速機を介してラック軸22に連結するものを採用してもよい。
【0152】
・上記各実施形態において、操舵制御装置1は、1)コンピュータプログラム(ソフトウェア)に従って動作する1つ以上のプロセッサ、2)各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する特定用途向け集積回路(ASIC)等の1つ以上の専用のハードウェア回路、あるいは、3)それらの組み合わせ、を含む処理回路によって構成することができる。プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROM等のメモリを含み、メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリすなわち非一時的なコンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。
【0153】
・上記各実施形態は、操舵装置2を、操舵部4と転舵部6との間が機械的に常時分離したリンクレスの構造としたが、これに限らず、図1に二点鎖線で示すように、クラッチ25により操舵部4と転舵部6との間が機械的に分離可能な構造としてもよい。
【符号の説明】
【0154】
1…操舵制御装置
2…操舵装置
3…ステアリングホイール
4…操舵部
5…転舵輪
6…転舵部
13…操舵側モータ
50…操舵側制御部
52…目標反力トルク演算部
72…エンド軸力演算部
73…偏差軸力演算部
74…軸力選択部
101…軸力基礎成分演算部
102…軸力粘性成分演算部
111,112…第1、第2偏差軸力成分演算部
Fv…偏差軸力
図1
図2
図3
図4
図5
図6