(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】分析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20240624BHJP
G01N 21/71 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
G01N27/62 D
G01N21/71
(21)【出願番号】P 2020210742
(22)【出願日】2020-12-18
【審査請求日】2023-09-11
(73)【特許権者】
【識別番号】593230855
【氏名又は名称】株式会社エス・テイ・ジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】100137752
【氏名又は名称】亀井 岳行
(72)【発明者】
【氏名】中川 孝郎
(72)【発明者】
【氏名】東山 尚光
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-136190(JP,A)
【文献】特開2008-202953(JP,A)
【文献】特開2001-091504(JP,A)
【文献】国際公開第2019/202689(WO,A1)
【文献】米国特許第08742334(US,B2)
【文献】YOKOYAMA et al.,Determinations of Rare Earth Element Abundance and U-Pb Age of Zircons Using Multispot Laser Ablation-Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry,analytical chemistry,Vol.83,2011年,PP.8892-8899
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/60 - G01N 27/70
G01N 1/00 - G01N 1/44
G01N 21/00 - G01N 21/958
G01N 33/00 - G01N 33/98
G01N 30/00 - G01N 30/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体状の試料に、レーザー光を照射してアブレーションして、エアロゾルを発生させるレーザーアブレーション部と、
エアロゾルをイオン化して測定対象物質の分析を行う分析部と、
を備えた分析装置であって、
濃度が未知の測定対象物質が基材に含まれた未知試料と、
濃度が既知の測定対象物質が前記未知試料と同一の基材に含まれた既知試料と、
既知の第1濃度の前記測定対象物質と前記基材とは異なる標準基材とを含む
第1の標準試料から生成された第1のエアロゾルと、
前記第1濃度とは異なる既知の第2濃度の前記測定対象物質
を含む第2の標準試料から生成された第2のエアロゾルと、
に対して、
前記既知試料が前記レーザーアブレーション部でアブレーションされて発生した既知試料エアロゾルと前記第1のエアロゾルとが混合された第1の混合エアロゾルの分析結果と、前記既知試料エアロゾルと前記第2のエアロゾルとが混合された第2の混合エアロゾルの分析結果と、に基づいて、前記基材と前記標準基材とが混合された状態での前記測定対象物質の検量情報を導出し、
前記未知試料が前記レーザーアブレーション部でアブレーションされて発生したエアロゾルと前記第1のエアロゾルとが混合された未知試料エアロゾルの分析結果と、前記検量情報に基づいて、前記未知試料の測定対象物質の濃度を特定する制御部と、
を備えたことを特徴とする分析装置。
【請求項2】
前記第1のエアロゾルは、溶媒中に前記第1濃度の測定対象物質と前記標準基材とが溶解された第1標準液から溶媒を脱離させてエアロゾル化されるとともに、
前記第2のエアロゾルは、溶媒中に前記第2濃度の測定対象物質と前記標準基材とが溶解された第2標準液から溶媒を脱離させてエアロゾル化される
ことを特徴とする請求項1に記載の分析装置。
【請求項3】
前記第1のエアロゾルは、液体状の標準基材中に前記第1濃度の測定対象物質が溶解された第1標準液が噴霧されてエアロゾル化されるとともに、
前記第2のエアロゾルは、液体状の標準基材中に前記第2濃度の測定対象物質が溶解された第2標準液が噴霧されてエアロゾル化される
ことを特徴とする請求項1に記載の分析装置。
【請求項4】
前記既知試料エアロゾルと前記第1の混合エアロゾルとの混合比および合計容量と、前記既知試料エアロゾルと前記第2の混合エアロゾルとの混合比および合計容量と、前記未知試料エアロゾルと前記第1の混合エアロゾルとの混合比および合計容量と、が一致する
ことを特徴とする請求項1ないし
3のいずれかに記載の分析装置。
【請求項5】
固体状の試料に、レーザー光を照射してアブレーションして、エアロゾルを発生させるレーザーアブレーション部と、
エアロゾルをイオン化して測定対象物質の分析を行う分析部と、
を備えた分析装置であって、
濃度が未知の測定対象物質が基材に含まれた未知試料と、
濃度が既知の測定対象物質が前記未知試料と同一の基材に含まれた既知試料と、
既知の第1濃度の前記測定対象物質と前記基材とは異なる標準基材とを含む第1の標準試料から生成された第1のエアロゾルと、
前記第1濃度とは異なる既知の第2濃度の前記測定対象物質
を含む第2の標準試料から生成された第2のエアロゾルと、
に対して、
前記既知試料が前記レーザーアブレーション部でアブレーションされて発生した既知試料エアロゾルと前記第1のエアロゾルとが混合された第1の混合エアロゾルの分析結果と、前記既知試料エアロゾルと前記第2のエアロゾルとが混合された第2の混合エアロゾルの分析結果と、に基づいて、前記基材と前記標準基材とが混合された状態での前記測定対象物質の検量線と、前記基材における前記測定対象物質のアブレーション効率と前記標準基材における前記測定対象物質のアブレーション効率との違いであるアブレーションファクターと、を含む検量情報を導出し、
前記アブレーションファクターに応じて、前記基材からアブレーションされる測定対象物質の量と前記標準基材からアブレーションされる測定対象物質の量が同等となるように、前記未知試料と前記第1の標準試料に照射されるレーザー光を制御し、
前記未知試料からのエアロゾルと前記第1のエアロゾルとが混合された未知試料エアロゾルの分析結果と、前記検量線と、に基づいて、前記未知試料の測定対象物質の濃度を特定する制御部、
を備えたことを特徴とする分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光を試料に照射して、試料の微粒子を放出させて(アブレーションして)試料のエアロゾルを生成して、エアロゾルをイオン化して分析を行う分析装置に関し、特に、試料が固体の場合に好適な分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
試料に含まれる測定対象元素を高周波プラズマによって励起し放出される光、もしくはイオン化し、生成したイオン量を計測することで元素の定性、定量を行う技術として誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)方式の分析技術が知られている。ICP方式の分析手法に関して、以下の特許文献1に記載の技術が公知である。
【0003】
特許文献1には、固体サンプルに対してレーザー光を照射してエアロゾルを生成してICP方式の分析を行う技術が記載されている。特許文献1では、光学系としてガルバノ光学系を使用しており、複数の試料の間でレーザー光を高速で移動させて複数の試料を混合させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開2019/202689号公報(WO-A-2019/202689)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
(従来技術の問題点)
特許文献1に記載の技術では、レーザー光で生成したエアロゾルをイオン化して分析が行われるが、試料に含まれる測定対象物質(元素)について定性分析(含まれているか否かの分析)は可能であるが、定量分析(どの程度の量が含まれているかの分析)は非常に困難であった。
【0006】
試料には、ベースとなる基材が存在し基材中に測定対象物質が含まれているが、分析装置での測定対象物質の発光強度(ICP-OES等)やイオンカウント数(ICP-MS)測定対象物質の量、濃度により、カウント数が変化する。したがって、定量分析を行うには、試料の測定前に、測定対象物質の濃度が既知、且つ、試料と基材が同一の標準物質(スタンダード)と呼ばれるものについて、ICP方式の分析を行っておき、既知濃度におけるカウント数等を予め測定しておく必要がある。
【0007】
ここで、標準物質の基材の種類と試料の基材の種類とが異なると、エアロゾルがイオン化される効率が異なる。また、特許文献1のようなアブレーションを行う構成では、標準物質の基材の種類と試料の基材の種類とが異なると、試料の基材から測定対象物質がアブレーションされる効率と、標準物質の基材から測定対象物質がアブレーションされる効率が異なる。
よって、特許文献1に記載の従来技術において、定量分析を行うには、試料の基材と同一種の標準物質を準備する必要があった。
しかしながら、現在市販の標準物質は基材の種類が限られており、測定したい試料と同一の基材の標準物質が市販されていない場合は標準物質の入手が困難である。よって、試料と同一基材の標準物質が入手できない場合は、定量分析の精度が十分に確保できない問題がある。
【0008】
本発明は、標準試料とは異なる基材を有する試料において、測定対象物質の定量分析を可能にすることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記技術的課題を解決するために、請求項1に記載の発明の分析装置は、
固体状の試料に、レーザー光を照射してアブレーションして、エアロゾルを発生させるレーザーアブレーション部と、
エアロゾルをイオン化して測定対象物質の分析を行う分析部と、
を備えた分析装置であって、
濃度が未知の測定対象物質が基材に含まれた未知試料と、
濃度が既知の測定対象物質が前記未知試料と同一の基材に含まれた既知試料と、
既知の第1濃度の前記測定対象物質と前記基材とは異なる標準基材とを含む第1の標準試料から生成された第1のエアロゾルと、
前記第1濃度とは異なる既知の第2濃度の前記測定対象物質を含む第2の標準試料から生成された第2のエアロゾルと、
に対して、
前記既知試料が前記レーザーアブレーション部でアブレーションされて発生した既知試料エアロゾルと前記第1のエアロゾルとが混合された第1の混合エアロゾルの分析結果と、前記既知試料エアロゾルと前記第2のエアロゾルとが混合された第2の混合エアロゾルの分析結果と、に基づいて、前記基材と前記標準基材とが混合された状態での前記測定対象物質の検量情報を導出し、
前記未知試料が前記レーザーアブレーション部でアブレーションされて発生したエアロゾルと前記第1のエアロゾルとが混合された未知試料エアロゾルの分析結果と、前記検量情報に基づいて、前記未知試料の測定対象物質の濃度を特定する制御部と、
を備えたことを特徴とする。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の分析装置において、
前記第1のエアロゾルは、溶媒中に前記第1濃度の測定対象物質と前記標準基材とが溶解された第1標準液から溶媒を脱離させてエアロゾル化されるとともに、
前記第2のエアロゾルは、溶媒中に前記第2濃度の測定対象物質と前記標準基材とが溶解された第2標準液から溶媒を脱離させてエアロゾル化される
ことを特徴とする。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の分析装置において、
前記第1のエアロゾルは、液体状の標準基材中に前記第1濃度の測定対象物質が溶解された第1標準液が噴霧されてエアロゾル化されるとともに、
前記第2のエアロゾルは、液体状の標準基材中に前記第2濃度の測定対象物質が溶解された第2標準液が噴霧されてエアロゾル化される
ことを特徴とする。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載の分析装置において、
前記既知試料エアロゾルと前記第1の混合エアロゾルとの混合比および合計容量と、前記既知試料エアロゾルと前記第2の混合エアロゾルとの混合比および合計容量と、前記未知試料エアロゾルと前記第1の混合エアロゾルとの混合比および合計容量と、が一致する
ことを特徴とする。
【0015】
前記技術的課題を解決するために、請求項5に記載の発明の分析装置は、
固体状の試料に、レーザー光を照射してアブレーションして、エアロゾルを発生させるレーザーアブレーション部と、
エアロゾルをイオン化して測定対象物質の分析を行う分析部と、
を備えた分析装置であって、
濃度が未知の測定対象物質が基材に含まれた未知試料と、
濃度が既知の測定対象物質が前記未知試料と同一の基材に含まれた既知試料と、
既知の第1濃度の前記測定対象物質と前記基材とは異なる標準基材とを含む第1の標準試料から生成された第1のエアロゾルと、
前記第1濃度とは異なる既知の第2濃度の前記測定対象物質を含む第2の標準試料から生成された第2のエアロゾルと、
に対して、
前記既知試料が前記レーザーアブレーション部でアブレーションされて発生した既知試料エアロゾルと前記第1のエアロゾルとが混合された第1の混合エアロゾルの分析結果と、前記既知試料エアロゾルと前記第2のエアロゾルとが混合された第2の混合エアロゾルの分析結果と、に基づいて、前記基材と前記標準基材とが混合された状態での前記測定対象物質の検量線と、前記基材における前記測定対象物質のアブレーション効率と前記標準基材における前記測定対象物質のアブレーション効率との違いであるアブレーションファクターと、を含む検量情報を導出し、
前記アブレーションファクターに応じて、前記基材からアブレーションされる測定対象物質の量と前記標準基材からアブレーションされる測定対象物質の量が同等となるように、前記未知試料と前記第1の標準試料に照射されるレーザー光を制御し、
前記未知試料からのエアロゾルと前記第1のエアロゾルとが混合された未知試料エアロゾルの分析結果と、前記検量線と、に基づいて、前記未知試料の測定対象物質の濃度を特定する制御部、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1,5に記載の発明によれば、標準試料とは異なる基材を有する試料において、測定対象物質の定量分析を可能にすることができる。
【0017】
請求項2に記載の発明によれば、脱溶媒された標準物質のエアロゾルから検量情報を生成することができる。
請求項3に記載の発明によれば、液体状の標準物質を噴霧したエアロゾルから検量情報を生成することができる。
請求項4に記載の発明によれば、各エアロゾルにおいて基材と標準基材の混合比および合計容量を揃えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は本発明の実施例1の分析装置の全体説明図である。
【
図2】
図2は実施例1のレーザーアブレーション装置の要部説明図である。
【
図3】
図3は実施例1のコンピュータ装置が備えている各機能をブロック図で示した図である。
【
図6】
図6は実験結果の説明図であり、
図6Aはガラス標準試料によるガラス物質中の元素定量結果の一覧表、
図6Bは銅標準試料による銅物質中の元素定量結果の一覧表、
図6Cはガラス標準試料による銅物質中の元素定量結果の一覧表、
図6Dは成分別における対象元素の感度比較の一覧表、
図6Eはエアロゾル混合による対象元素のアブレーションファクターの一覧表、
図6Fはエアロゾル混合による銅物質中の元素定量結果の一覧表である。
【
図7】
図7は従来の測定結果の一例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に図面を参照しながら、本発明の実施の形態の具体例である実施例を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の図面を使用した説明において、理解の容易のために説明に必要な部材以外の図示は適宜省略されている。
【実施例1】
【0020】
図1は本発明の実施例1の分析装置の全体説明図である。
図1において、実施例1の分析装置1は、分析部の一例としての質量分析計2を有する。実施例1の質量分析計2は、誘導結合プラズマ方式の質量分析計(ICP-MS:Inductively Coupled Plasma - Mass Spectrometer)で構成されている。なお、分析部は、ICP-MSに限定されず、例えば、誘導結合プラズマ方式の発光分析計(ICP-OES:Inductively Coupled Plasma - Optical Emission Spectroscopy)やマイクロ波誘導結合プラズマ(MIP)を使用することも可能である。なお、ICP-MSやICP-OESは、従来公知のものを使用可能であり、例えば、特開2013-130492号公報等に記載されており、公知であるため、詳細な説明は省略する。
【0021】
質量分析計2には、接続部の一例としての接続チューブ3の下流端が接続されている。接続チューブ3の上流端には、合流ジョイント4が接続されている。合流ジョイント4には、付加ガス供給部の一例としての付加ガスチューブ6の下流端が接続されている。実施例1では、付加ガスチューブ6には、付加ガス(メイクアップガス)の一例としてのアルゴン(Ar)ガスが供給される。なお、実施例1では、アルゴンガスは、一例として、0.5~1.2L/min程度の流量で供給される。
【0022】
合流ジョイント4には、セル接続部の一例としてセル接続チューブ7の下流端が接続されている。セル接続チューブ7の上流端には、セル11が接続されている。セル11は、内部に試料Sが収容可能に構成されている。
なお、実施例1では、セル11に複数の試料Sが設置可能に構成されている。一例として、濃度が未知の測定対象物質が基材に含まれた未知試料Saや、濃度が既知の測定対象物質が前記未知試料Saと同一の基材に含まれた既知試料Sb、既知の第1濃度の測定対象物質が前記基材とは異なる標準基材に含まれる第1の標準試料S1、前記第1濃度とは異なる既知の第2濃度の前記測定対象物質が前記標準基材に含まれる第2の標準試料S2、等の1つまたは複数が設置可能である。なお、一例として、後述する実験例では、基材として銅(Cu)、標準基材としてガラス(SiO2)、測定対象物質としてMn,Ni,Co,Sb,Au,Pbが使用されているが、具体的な元素や原子、物質(分子、化合物等)は、例示したものに限定されない。
【0023】
セル11には、搬送ガス供給部の一例としての搬送ガスチューブ12が接続されている。実施例1では、搬送ガスチューブ12には、搬送ガス(キャリアガス)の一例としてのヘリウム(He)ガスが供給される。なお、実施例1では、キャリアガスは、一例として、0.2 ~ 1L/min程度の流量で供給される。
【0024】
また、セル11の上方には、レーザーアブレーション部の一例としてのレーザーアブレーション装置21が配置されている。レーザーアブレーション装置21は、セル11の試料Sにレーザー光を照射して、試料Sをアブレーションする。
実施例1の分析装置1は、情報処理装置の一例としてのコンピュータ装置31を有する。コンピュータ装置31は、コンピュータ本体32と、表示部の一例としてのディスプレイ33と、入力部の一例としてのキーボード34およびマウス35を有する。コンピュータ本体32は、レーザーアブレーション装置21の駆動を制御する信号を出力すると共に、質量分析計2から検出結果を受信して、ディスプレイ33に表示可能である。
【0025】
(レーザーアブレーション装置の説明)
図2は実施例1の誘導結合プラズマ分析用のレーザーアブレーション装置の要部説明図である。
図2において、実施例1の誘導結合プラズマ分析用のレーザーアブレーション装置21は、レーザー光源の一例としてのフェムト秒レーザー22を有する。フェムト秒レーザー22は、レーザー光の一例として、パルス幅がフェムト秒オーダーのフェムト秒レーザー光22aを出力する。実施例1のフェムト秒レーザー22は、一例として、パルス幅が230fsのフェムト秒レーザー光22aを出力するが、パルス幅は、例示した数値に限定されず、変更可能である。
実施例1のフェムト秒レーザー22は、内部に図示しないシャッタが配置されており、フェムト秒レーザー光22aを出力する周波数(フェムト秒レーザー光22aが出力される間隔の逆数)を制御可能に構成されている。実施例1では、一例として、周波数を100Hz~1000Hzの間で制御可能である。すなわち、フェムト秒レーザー22からは、1000Hzでフェムト秒レーザー光22aを出力し、1000Hzの場合はシャッタを常時開放状態にしておき、100Hzの場合は、10発の内9発のフェムト秒レーザー光22aをシャッタで遮ることで、100Hzの出力とすることが可能である。
【0026】
フェムト秒レーザー光22aは、光学系の一例としてのガルバノ光学系23に導入される。実施例1のガルバノ光学系23は、第1のミラーの一例としての第1ガルバノミラー24と、第2のミラーの一例としての第2ガルバノミラー25とを有する。第1ガルバノミラー24は、フェムト秒レーザー22からのフェムト秒レーザー光22aを第2ガルバノミラー25に向けて反射し、第2ガルバノミラー25は第1ガルバノミラー24からのフェムト秒レーザー光22aを試料Sに向けて反射する。
第1ガルバノミラー24は、第1のミラー軸24aを中心として回転可能に支持されている。第1のミラー軸24aには、第1の駆動源の一例としての第1ガルバノモータ24bから駆動が伝達される。したがって、第1ガルバノモータ24bからの駆動に応じて、第1ガルバノミラー24は第1のミラー軸24aを中心に回転、傾斜して、フェムト秒レーザー光22aの反射方向を変化させる。
【0027】
第2ガルバノミラー25も、第1ガルバノミラー24と同様に、第2のミラー軸25a、第2の駆動源の一例としての第2ガルバノモータ25bを有し、フェムト秒レーザー光22aの反射方向を変化させる。なお、実施例1では、一例として、第1ガルバノミラー24は、試料Sの表面において、主としてガス流れ方向に沿ったX方向の照射位置を制御し、第2ガルバノミラー25は、主としてガス流れ方向に交差するY方向の照射位置を制御する。したがって、2つのガルバノミラー24,25の制御で、2次元的にフェムト秒レーザー光22aを走査することが可能である。実施例1では、一例として、20cm×20cmの範囲でフェムト秒レーザー光22aを照射可能に構成されている。
第2ガルバノミラー25とセル11との間には、光学部材の一例としてのレンズ26が配置されている。レンズ26は、フェムト秒レーザー光22aの焦点の位置が試料Sの表面となるように、通過するフェムト秒レーザー光22aを集光する。
【0028】
(実施例1の制御部の説明)
図3は実施例1のコンピュータ装置が備えている各機能をブロック図で示した図である。
図3において、制御部の一例としてのコンピュータ本体32は、外部との信号の入出力等を行う入出力インターフェースI/Oを有する。また、コンピュータ本体32は、必要な処理を行うためのプログラムおよび情報等が記憶されたROM:リードオンリーメモリを有する。また、コンピュータ本体32は、必要なデータを一時的に記憶するためのRAM:ランダムアクセスメモリを有する。また、コンピュータ本体32は、ROM等に記憶されたプログラムに応じた処理を行うCPU:中央演算処理装置を有する。よって、コンピュータ本体32は、ROM等に記憶されたプログラムを実行することにより種々の機能を実現することができる。
【0029】
(コンピュータ本体32の機能)
コンピュータ本体32は、キーボード34やマウス35、質量分析計2、その他の図示しないセンサ等の信号出力要素からの入力信号に応じた処理を実行して、ガルバノモータ24b,25bやフェムト秒レーザー22のシャッタ等の各制御要素に制御信号を出力する機能を有している。すなわち、コンピュータ本体32は次の機能を有している。
【0030】
C1:照射制御手段
照射制御手段C1は、第1ガルバノモータの制御手段C1Aと、第2ガルバノモータの制御手段C1Bとを有し、各ガルバノモータ24b,25bを制御して、各ガルバノミラー24,25の反射角を変更して、試料Sの目的の位置にフェムト秒レーザー光22aを照射させる。
【0031】
なお、実施例1の照射制御手段C1は、ガルバノモータ24b,25bは、各ガルバノミラー24,25を作動させる間隔(周期、周波数)である繰り返し周波数を10kHzとして、予め定められた領域の一例としての500μm×500μmの領域に、フェムト秒レーザー光22aのスポット径が10μmで、格子状に6000発(6000か所)のフェムト秒レーザー光22aを照射するように設定されている。なお、実施例1での単位時間は、6000発のフェムト秒レーザー光22aを照射し終える時間=6000発/10kHz=0.6秒となっている。
したがって、実施例1の照射制御手段C1は、試料Sから放出される単位時間当たりの微粒子の数が予め定められた値に達するように、試料の表面に沿って離れた複数の位置に単位時間内にレーザー光を照射させるように制御する。なお、必要な微粒子の数については、質量分析計2で検出される信号強度に反映されるため、信号強度に応じて、分析対象の元素ごとに定めることが可能である。一例として、繰り返し周波数は、信号の強度がノイズによる変動の標準偏差の3倍以上となるように(すなわち微粒子の数が達するように)、繰り返し周波数を設定することが好ましい。
【0032】
また、実施例1の照射制御手段C1は、フェムト秒レーザー光22aが照射される複数の位置において、一方の位置と重複する位置に連続してフェムト秒レーザー光22aが連続して照射されないようにガルバノミラー24,25が制御される。すなわち、同じ位置に連続してフェムト秒レーザー光22aが照射されないように、ガルバノミラー24,25が制御される。
【0033】
C2:第1の混合エアロゾルの分析結果の取得手段
第1の混合エアロゾルの分析結果の取得手段C2は、既知試料Sbからのエアロゾルと第1の標準試料S1からのエアロゾルが混合された第1の混合エアロゾルの分析結果を取得する。すなわち、第1の混合エアロゾルにおける測定対象物質のイオンのカウント数を測定する(取得する)。実施例1では、セル11に既知試料Sbと第1の標準試料S1とが設置された状態で、既知試料Sbと第1の標準試料S1とに、ガルバノ光学系23でレーザー光を予め定められた比率で照射して測定を行う。一例として、(既知試料Sbへのレーザー光の照射回数):(第1の標準試料S1へのレーザー光の照射回数)=1000発:9000発、に設定可能である。
【0034】
C3:第2の混合エアロゾルの分析結果の取得手段
第2の混合エアロゾルの分析結果の取得手段C3は、既知試料Sbからのエアロゾルと第2の標準試料S2からのエアロゾルが混合された第2の混合エアロゾルの分析結果を取得する。すなわち、第2の混合エアロゾルにおける測定対象物質のイオンのカウント数を測定する(取得する)。実施例1では、セル11に既知試料Sbと第2の標準試料S2とが設置された状態で、既知試料Sbと第2の標準試料S2とに、ガルバノ光学系23でレーザー光を予め定められた比率で照射して測定を行う。なお、実施例1では、第2の混合エアロゾルの照射比率は第1の混合エアロゾルの照射比率と同一に設定されている。よって、(既知試料Sbへのレーザー光の照射回数):(第2の標準試料S2へのレーザー光の照射回数)=1000発:9000発、に設定可能である。
【0035】
C4:既知試料の濃度取得手段
既知試料の濃度取得手段C4は、既知試料Sbにおける測定対象物質の濃度を取得する。実施例1の既知試料の濃度取得手段C4は、キーボード34およびマウス35から入力された入力値を、測定対象物質の濃度として取得する。なお、既知試料Sbの測定対象物質の濃度は、分析装置1とは異なる方法(例えば、蛍光X線分析法等)で分析された結果や、認証標準値が付与されていれば認証標準値を使用可能である。
【0036】
図4は実施例1の検量情報の説明図である。
C5:検量情報の導出手段
検量情報の導出手段C5は、第1の混合エアロゾルの分析結果と第2の混合エアロゾルの分析結果と、既知試料の測定対象物質の濃度とに基づいて、検量情報を導出する。
図4において、第1の混合エアロゾルのイオンカウント値がb1、第2の混合エアロゾルのイオンカウント値がb2、既知試料Sbの測定対象物質の濃度がc0、第1の標準試料S1の測定対象物質の濃度がd1、第2の標準試料S2の測定対象物質の濃度がd2とする。したがって、検量線は、以下の式(1)で表される。
y={(b2-b1)/(d2-d1)}・x+b0 …式(1)
ここで、b0は、検量線のy切片である。
【0037】
また、標準試料S1,S2における測定対象物質のアブレーション効率を基準(=「1」)とした場合の、既知試料Sbにおける測定対象物質のアブレーション効率(補正情報、アブレーションファクター)をZとすると、以下の式(2)で表される。
Z={b0/c0}・{(d2-d1)/(b2-b1)} …式(2)
すなわち、標準試料の基材(標準基材)での測定対象物質のアブレーション効率と、既知試料Sbの基材での測定対象物質のアブレーション効率が異なるため、その比をアブレーションファクターZとして導出する。前記検量線およびアブレーションファクターZにより実施例1の検量情報が構成されている。
【0038】
C6:分析結果の導出手段
分析結果の導出手段C6は、未知試料Saのエアロゾルと第1のエアロゾルとが混合された未知試料エアロゾルの分析結果と検量情報とに基づいて、未知試料Saの測定対象物質の濃度Caを導出する(定量分析を行う)。
図4において、未知試料エアロゾルのイオンカウント値がbaである場合、検量線から濃度a3を導出し、濃度a3=Z・Ca+d1から、未知試料Saの測定対象物質の濃度Caを導出する。
なお、実施例1では、未知試料エアロゾルは、セル11に未知試料Saと第1の標準試料S1とを設置して、レーザー光を所定の照射比率でアブレーションして発生させる。また、未知試料エアロゾルの照射比率は、第1の混合エアロゾルおよび第2の混合エアロゾルの照射比率と同一に設定されている。よって、(未知試料Saへのレーザー光の照射回数):(第1の標準試料S1へのレーザー光の照射回数)=1000発:9000発、に設定可能である。
【0039】
C7:分析結果の出力手段
分析結果の出力手段C7は、分析結果の導出手段C6で導出された分析結果をディスプレイ33に表示する。
【0040】
(実施例1の作用)
図5は従来の検量線の説明図である。
前記構成を備えた実施例1の分析装置1では、まず、未知試料Saと同じ基材の既知試料Sbと、基材が異なる標準試料S1,S2とをそれぞれ混合して分析を行って、検量線およびアブレーションファクターZを導出する。次に、未知試料Saと第1の標準試料S1とをアブレーションして混合し、測定結果から検量線とアブレーションファクターZを使用して測定対象物質の濃度Caを導出する。
【0041】
図5において、一般に、検量線を導出するには、測定対象物質の濃度が異なる2種類以上の標準物質が必要である。したがって、濃度が1種類しか市販しない場合や、そもそも標準物質が市販されていない場合には、検量線を導出することが困難である。なお、液体の標準物質の場合は希釈することで複数の濃度の標準物質を作成することは比較的容易であるが、固体の試料の標準物質は液体のように希釈することはそもそもできない。
【0042】
また、濃度が2種類以上の標準物質が存在して検量線を導出できても、測定対象の未知試料Saと基材が異なる場合には、検量線をそのまま使用することはできない。
図5に示すように、基材が異なると、プラズマにおける測定対象物質のイオン化効率が異なり、検量線の傾きが異なる。したがって、得られたカウント値がf1の場合、標準試料から導出された検量線を使用すると濃度はe1と得られるが、真の濃度はe2であり測定誤差が生じる。
また、基材が異なれば、アブレーション時に放出される測定対象物質の量が異なる、すなわち、アブレーション効率が異なる。よって、標準試料S1,S2と試料Sa,Sbに対して、同じ1000発のレーザーを照射しても、基材が異なると、放出される測定対象物質の量が異なる。よって、濃度e1は、イオン化効率だけでなくアブレーション効率の違いにより測定精度が低下する問題があった。
【0043】
これらに対して、実施例1では、第1の混合エアロゾルや第2の混合エアロゾル、未知試料エアロゾルを生成する場合に、試料Sa,Sbの基材と、標準試料S1,S2の標準基材とが混合される。したがって、3つのエアロゾルに基材と標準基材が混合された状態となる。特に、実施例1では、3つのエアロゾルでレーザーの照射比率が揃えられている。よって、各エアロゾルに含まれる基材と標準基材の比率および量も揃っている。すなわち、各エアロゾルにおける基材と標準基材の混合比および合計容量が揃っている。
よって、第1の混合エアロゾルと第2の混合エアロゾルから導出された検量線を使用して、濃度a3を導出可能である。そして、アブレーション効率の違いをアブレーションファクターZとして導出可能であり、未知試料Saの濃度Caを導出することが可能である。
よって、未知試料Saと基材が同一の標準物質が市販されていない場合や、未知試料Saと基材が同一の標準物質が1種類しかない場合でも、定量分析が可能である。したがって、標準試料S1,S2とは異なる基材を有する未知試料Saにおいて、測定対象物質の定量分析が可能である。
【0044】
(実験例)
以下に、本願の効果を確認するための実験を行った。
実験例では、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製のトリプル四重極形ICP-MS iCAP TQに、自作したレーザーアブレーション装置21を装着して実験を行った。実験結果を
図6に示す。
図6は実験結果の説明図であり、
図6Aはガラス標準試料によるガラス物質中の元素定量結果の一覧表、
図6Bは銅標準試料による銅物質中の元素定量結果の一覧表、
図6Cはガラス標準試料による銅物質中の元素定量結果の一覧表、
図6Dは成分別における対象元素の感度比較の一覧表、
図6Eはエアロゾル混合による対象元素のアブレーションファクターの一覧表、
図6Fはエアロゾル混合による銅物質中の元素定量結果の一覧表である。
【0045】
(比較例1)
ガラス成分(NIST610シリーズ)を標準試料として用いてガラス成分(BCR664)を定量した場合、
図6Aに示すように、主成分がSiO2で統一されるため認証値の範囲内で定量できる。
(比較例2)
また、主成分が銅の標準試料を用いて、銅試料を定量した結果は、
図6Bに示すように、認証値の範囲内で定量できる。
【0046】
(比較例3)
ガラス成分(NIST610シリーズ)を標準試料とし、銅試料を定量すると、
図6Cに示すように、認証値よりも高値を示す。これは、ガラス試料よりも銅試料の方が生成するエアロゾル量が多いためであると考えられる。
これは、
図6Dに示すように、各主成分中の対象元素の感度を比較した結果からも推察することができる。したがって、正確な定量結果を得るためには、未知試料と同一素材の標準試料を用いるか、材質間の感度差をエアロゾル生成量の差と仮定しこれをアブレーションファクターZとして補正する必要がある。
検量線法で定量を行う場合、
図6Dに示す感度比に示す通り元素毎に補正値が異なる(Z:2.7~3.7)。これは、ICP内に導入される各材質のマトリクスの違いから元素のイオン化効率が変化していることが原因のひとつと考えられる。つまり、検量線法で正確な定量値を得るためには元素毎にアブレーションファクターZを設定する必要がある。
【0047】
(実験例1)
実験例1では実施例1の手法で、異なる材質(試料Sa,Sbと標準試料S1,S2)から生成するエアロゾルを混合しイオン源のICPに導入する。これにより、ICP内に導入される際の試料マトリクス(測定対象物質以外の元素の組成)を揃えることが可能である。ガラス標準試料と銅試料のエアロゾル混合による結果では、
図6Eに示すように、元素毎のアブレーションファクターZの差が検量線法よりも小さく(Z:2.7~2.9)各元素のアブレーションファクターZの平均値2.8で補正した結果は、
図6Fに示すように認証値範囲内で一致した。
したがって、上記の実験例および比較例により、基材が異なる試料を混合することで精度よく定量分析ができるだけでなく、代表的な一つの元素でアブレーションファクターZを求めるだけで、多元素に適用できることが確認された。また、代表的なガラス標準試料のみで種々の材質の定量が正確に行える。
【0048】
図7は従来の測定結果の一例の説明図である。
なお、比較例3ではアブレーションファクターZがばらつき、実験例1ではアブレーションファクターZがほぼ1つの値となったのは、以下の理由であると考察される。
図7に示すように、基材が単一の場合は、基材の質量数に近い元素は影響を受けて測定値が大きくなりやすい傾向がある。これに対して、実験例1では、2種類の基材が混合されており、影響を受ける元素が分散されやすく、全体としてアブレーションファクターZの値が1つの値に近づいたものと考察される。
【実施例2】
【0049】
次に本発明の実施例2の説明をするが、この実施例2の説明において、前記実施例1の構成要素に対応する構成要素には同一の符号を付して、その詳細な説明は省略する。
この実施例2は下記の点で、前記実施例1と相違しているが、他の点では前記実施例1と同様に構成される。
【0050】
実施例2では、試料Sa,Sbは実施例1と同様に、レーザーアブレーション装置21でアブレーションされるが、標準試料S1,S2の導入方法が異なる。実施例2では、標準試料S1,S2として、測定対象物質や標準基材が溶媒に溶解された液体状の標準試料を使用可能である。そして、標準試料S1,S2を加熱等して、溶媒を蒸発(脱離)させてエアロゾル化し、付加ガスチューブ6から導入するか、セル接続チューブ7に合流するチューブで導入することで、アブレーションされた試料Sa,Sbからのエアロゾルと混合する。
【0051】
(実施例2の作用)
前記構成を備えた実施例2の分析装置1でも、実施例1と同様に、定量分析を行うことが可能である。
【実施例3】
【0052】
次に本発明の実施例3の説明をするが、この実施例3の説明において、前記実施例1の構成要素に対応する構成要素には同一の符号を付して、その詳細な説明は省略する。
この実施例3は下記の点で、前記実施例1と相違しているが、他の点では前記実施例1と同様に構成される。
【0053】
実施例3では、試料Sa,Sbは実施例1と同様に、レーザーアブレーション装置21でアブレーションされるが、標準試料S1,S2の導入方法が異なる。実施例3では、標準試料S1,S2として、測定対象物質が液体状の標準基材に溶解された液体状の標準試料を使用可能である。そして、標準試料S1,S2を噴霧器(ネブライザ)で噴霧してエアロゾル化し、付加ガスチューブ6から導入するか、セル接続チューブ7に合流するチューブで導入することで、アブレーションされた試料Sa,Sbからのエアロゾルと混合する。
【0054】
(実施例3の作用)
前記構成を備えた実施例3の分析装置1でも、実施例1と同様に、定量分析を行うことが可能である。
【実施例4】
【0055】
次に本発明の実施例4の説明をするが、この実施例4の説明において、前記実施例1の構成要素に対応する構成要素には同一の符号を付して、その詳細な説明は省略する。
この実施例4は下記の点で、前記実施例1と相違しているが、他の点では前記実施例1と同様に構成される。
【0056】
実施例4では、アブレーションファクターZを導出する工程は実施例1と同様であるが、未知試料Saをアブレーションする際の工程が異なる。具体的には、各手段C2~C5は実施例1と同様であるが、照射制御手段C1と分析結果の導出手段C6とが実施例1とは異なる。
実施例4の照射制御手段C1′では、未知試料Saと第1の標準試料S1とをアブレーションする際に、フェムト秒レーザー22の出力(パワー)をアブレーションファクターZに応じて、アブレーションされる量が同等になるように制御する。具体的には、第1の標準試料S1に照射されるフェムト秒レーザー光22aの出力を基準(=「1」)とした場合に、未知試料Saに照射されるフェムト秒レーザー光22aの出力を「1/Z」倍となるように制御する。
【0057】
実施例4の分析結果の導出手段C6′では、未知試料Saのエアロゾルと第1のエアロゾルとが混合された未知試料エアロゾルの分析結果と検量情報とに基づいて、未知試料Saの測定対象物質の濃度Caを導出する(定量分析を行う)。実施例4では、未知試料エアロゾルのイオンカウント値がbaである場合、検量線から濃度a3を導出し、濃度a3をそのまま未知試料Saの測定対象物質の濃度Caとして採用する。
【0058】
(実施例4の作用)
前記構成を備えた実施例4の分析装置1では、アブレーション効率(アブレーションファクターZ)に応じて、照射されるフェムト秒レーザー光22aの出力が制御される。したがって、第1の標準試料S1とは基材が異なる未知試料Saでも、結果として、測定対象物質のアブレーション効率が、標準基材の場合と同等となる。よって、実施例1のように検量線から得られた濃度a3からアブレーションファクターZを使用して濃度Caを導出する(補正する)必要がなく、測定対象物質の濃度Caを導出することができる。
【0059】
(変更例)
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内で、種々の変更を行うことが可能である。本発明の変更例(H01)~(H08)を下記に例示する。
(H01)前記実施例において、検量線を作成する場合に、2つの標準試料S1,S2を使用する場合を例示したが、これに限定されない。3つ以上の濃度が異なるエアロゾルの測定結果から検量線を生成することが可能である。
このとき、3つ以上の標準試料を準備することも可能であるが、2つの標準試料から3つ以上の濃度が異なるエアロゾルを生成することも可能である。例えば、既知試料Sbと第1の標準試料S1と第2の標準試料S2をセル11に収容して、既知試料Sbと第1の標準試料S1と第2の標準試料S2とを所定の比率でレーザー光を照射することで実現可能である。例えば、既知試料Sb:第1の標準試料S1:第2の標準試料S2=1000発:4500発:4500発とすることで、第1の濃度d1と第2の濃度d2の中間の濃度(d1+d2)/2を実現可能である。第1の標準試料S1と第2の標準試料S2の比率を変えることで4種類以上の濃度も生成可能である。なお、このとき、混合エアロゾルにおける比率を揃えるために、標準基材と既知試料Sbの基材の比率は保持する必要がある。
【0060】
また、実施例2では、既知試料Sbと第1の標準試料S1と第2の標準試料S2をそれぞれ混合可能なようにチューブを合流可能に構成しておき、脱溶媒された標準試料S1,S2が既知試料Sbのエアロゾルに混合される際に、標準試料S1,S2の混合比率を変えることで3種類以上の濃度を実現可能である。
さらに、実施例3では、既知試料Sbと第1の標準試料S1と第2の標準試料S2をそれぞれ混合可能なようにチューブを合流可能に構成しておき、噴霧される標準試料S1,S2が既知試料Sbのエアロゾルに混合される際に、標準試料S1,S2の混合比率を変えることで3種類以上の濃度を実現可能である。
【0061】
(H02)前記実施例において、ガルバノ光学系23は、2軸制御の構成を例示したが、3軸以上の構成とすることも可能である。
(H03)前記実施例において、例示した具体的な数値や形状については、設計や仕様等に応じて任意に変更可能である。
(H04)前記実施例において、レーザー光源としてフェムト秒レーザー22を使用することが望ましいが、測定対象物等によっては、フェムト秒レーザー以外のレーザーを使用することも可能である。
(H05)前記実施例において、キャリアガスとしてHeガスを使用することが好ましいが、これに限定されない。分析対象の試料の種類や要求される精度等に応じて、例えば、水素ガスやネオンガス、アルゴンガス等に変更可能である。
【0062】
(H06)前記実施例において、単位時間あたりに放出される微粒子(エアロゾル)の数を所定の量以上となるように、実施例1-3では、高速で多点に照射する構成を例示したがこれに限定されない。例えば、ビームスプリッタでレーザー光を分岐させたり、回折光学素子を使用してレーザー光の干渉縞を生成して、ほぼ同時に多点に照射する構成とすることも可能である。他にも、例えば、高速多点照射が可能な別の例としては、回転多面鏡(ポリゴンミラー)を使用することも可能である。また、同時多点照射が可能な別の例としてはLCOS(Liquid Crystal on Silicon)を使用することも可能である。LCOSは、レーザー光を液晶などの素子で変調し、その波面形状を自由に制御する空間位相変調器を有し、レーザー光を2つ以上に分岐することで試料表面に対し、複数の位置にレーザーを照射させる光学系である。
【0063】
(H07)前記実施例において、第2の標準試料における測定対象物質の含有量がゼロでない場合を例示したが、これに限定されない。測定対象物質の含有量がゼロの場合、いわゆるブランクの標準試料を使用することも可能である。
(H08)前記実施例において、試料Sにおける同一の位置に連続してレーザー光を照射しないことが望ましいが、これに限定されない。試料Sの種類によっては、同一の位置に連続してレーザー光を照射することも不可能ではない。
【符号の説明】
【0064】
1…分析装置、
2…分析部、
21…レーザーアブレーション部、
23…光学系、
32…制御部、
S1…第1標準物質、
S2…第2標準物質、
Sa…未知試料、
Sb…既知試料。