(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】キャビテーション装置及びキャビテーション処理方法
(51)【国際特許分類】
B23P 17/00 20060101AFI20240624BHJP
【FI】
B23P17/00 A
(21)【出願番号】P 2020219169
(22)【出願日】2020-12-28
【審査請求日】2023-05-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000132161
【氏名又は名称】株式会社スギノマシン
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル・アイピー東京
(72)【発明者】
【氏名】上坂 洋雄
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 章
(72)【発明者】
【氏名】徳道 世一
(72)【発明者】
【氏名】澤越 純
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-157470(JP,A)
【文献】特開2019-158146(JP,A)
【文献】特開2010-214477(JP,A)
【文献】特開2001-334658(JP,A)
【文献】特開2000-121786(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0091232(US,A1)
【文献】Danlos, A., 外4名,"Study of the cavitating instability on a grooved Venturi profile",J. Fluids Eng.,米国,ASME,2014年10月,p.1-20,http://arxiv.org/abs/1212.4243
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23P 5/00-17/00
B26F 1/00-3/16
B24C 1/00-11/00
B01J 14/00-19/32
C23C 24/00-30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビテーション流体を噴射するノズルと、
前記キャビテーション流体の流れ方向を変える方向切換部であって、前記キャビテーション流体の流れ方向を誘導するとともに、前記キャビテーション流体に内在するキャビテーション気泡の拡散を抑制する
凹溝又は円弧溝の溝部を有する方向切換部と、
ワークを配置するワーク固定部と、
を有し、
前記溝部の溝幅および溝高さは、
前記ノズルから噴射された直後の前記キャビテーション流体の直径よりも大きい、
キャビテーション処理装置。
【請求項2】
キャビテーション流体を噴射するノズルと、
前記キャビテーション流体の流れ方向を変える方向切換部であって、前記キャビテーション流体の流れ方向を誘導するとともに、前記キャビテーション流体に内在するキャビテーション気泡の拡散を抑制する溝部を有する方向切換部と、
ワークを配置するワーク固定部と、
を有し、
前記方向切換部は、前記キャビテーション気泡の前記ワークまでの衝突距離を調整する
衝突距離調整部を有する、
キャビテーション処理装置。
【請求項3】
キャビテーション流体を噴射するノズルと、
前記キャビテーション流体の流れ方向を変える方向切換部であって、前記キャビテーション流体の流れ方向を誘導するとともに、前記キャビテーション流体に内在するキャビテーション気泡の拡散を抑制する溝部を有する方向切換部と、
ワークを配置するワーク固定部と、
前記ワーク固定部の角度を調整する角度調整部と、
を有する、キャビテーション処理装置。
【請求項4】
キャビテーション流体を噴射するノズルと、
前記キャビテーション流体の流れ方向を変える方向切換部であって、前記キャビテーション流体の流れ方向を誘導するとともに、前記キャビテーション流体に内在するキャビテーション気泡の拡散を抑制する溝部を有する方向切換部と、
ワークを配置するワーク固定部と、
前記方向切換部の下部に配置され、前記方向切換部の高さを調整する昇降部と、
を有する、キャビテーション処理装置。
【請求項5】
キャビテーション流体を噴射するノズルと、
前記キャビテーション流体の流れ方向を変える方向切換部であって、前記キャビテーション流体の流れ方向を誘導するとともに、前記キャビテーション流体に内在するキャビテーション気泡の拡散を抑制する溝部を有する方向切換部と、
ワークを配置するワーク固定部と、
前記方向切換部で切り換えられた前記キャビテーション流体の流れ方向を更に変える2次方向切換部と、
を有する、キャビテーション処理装置。
【請求項6】
キャビテーション流体を噴射するノズルと、
前記キャビテーション流体の流れ方向を変える方向切換部であって、前記キャビテーション流体の流れ方向を誘導するとともに、前記キャビテーション流体に内在するキャビテーション気泡の拡散を抑制する溝部を有する方向切換部と、
ワークを配置するワーク固定部と、
を有し、
前記ワーク固定部は、前記ワークを回転させる回転機構を有する、
キャビテーション処理装置。
【請求項7】
液体を貯留するタンクであって、少なくとも前記ノズルと、前記方向切換部と、前記ワーク固定部とを貯留した液体中に配置するタンクを更に有する、
請求項1~
6のいずれかに記載のキャビテーション処理装置。
【請求項8】
前記キャビテーション気泡の量を調整する制御装置を更に有する、
請求項1~
7のいずれかに記載のキャビテーション処理装置。
【請求項9】
キャビテーション流体をノズルから噴射し、
前記ノズルから噴射された前記キャビテーション流体の流れ方向を誘導するとともに、
前記ノズルから噴射された直後の前記キャビテーション流体の直径よりも大きい溝幅および溝高さを有する
凹溝又は円弧溝の溝部により前記キャビテーション流体に内在するキャビテーション気泡の拡散を抑制し、
前記溝部で誘導された前記キャビテーション気泡をワークに衝突させる、
キャビテーション処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部品の表面にキャビテーション処理をするための装置及びキャビテーション処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、航空機部品等の高機能部品に対して、キャビテーション処理をすることによって、各種部品の表面に圧縮残留応力を付加することや、ディンプル形状を形成させることで、摩擦を緩和するとともに潤滑油の保持等が行われる。キャビテーション処理は、表面処理、ピーニング、洗浄、剥離、切断、バリ取り等の総称である。
【0003】
しかし、液体(例えば、水)を利用したキャビテーションは、原理的に解明されていないことも多く、キャビテーションを安定的に制御するための方法の確立や装置化は容易ではない。
【0004】
例えば、部品の内面を表面処理するためのシステムであって、内部に部品が位置付け可能なタンク、タンク内の流体であって、部品がタンク内に位置付けられたときに、部品を沈めることができる流体、流体内に沈められたノズルであって、第1の方向に向けられたキャビテーション流体の流れを生成するノズル、及び流体内に沈められた偏向ツールであって、キャビテーション流体の流れを、第1の方向から第2の方向に再方向付けする偏向面を有し、第1の方向が部品の内面から離れ、第2の方向が部品の内面に向かう偏向ツールを有する、システムが開示されている。(例えば、特開2020-157470号公報、以下、「特許文献1」参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のように、偏向ツールを利用して、キャビテーション流体の流れ方向を変えることによって、複雑形状のワーク内部にキャビテーション処理をすることができる。しかし、キャビテーション処理対象となるワークの狙った位置に確実にキャビテーションを与えるためには、改良の余地がある。
【0006】
例えば、キャビテーション流体を直接ワークに衝突させた場合や、単にキャビテーション流体の流れ方向を変えて直接ワークに衝突させた場合、ワークの狙った位置ではなく、狙った位置の周囲にキャビテーション処理がされてしまうことがある。
【0007】
また、液中においてノズルから噴射されたキャビテーション流体は、キャビテーション気泡を内在している。キャビテーション気泡は、一時的に液中に滞留することが知られている。キャビテーション気泡が分散した状態でキャビテーション流体をワークに衝突させても、ワークの狙った位置に最適なキャビテーション効果(残留応力等)を与えることができない。すなわち、キャビテーション気泡が分散した状態でキャビテーション流体をワークに衝突させても、ワークの狙った位置に最適なキャビテーション効果を与えるために、処理回数が多くなり、長い時間を要する。
【0008】
本発明は、適切な処理位置に最適なキャビテーション効果(残留応力等)を与えるキャビテーション処理装置及びキャビテーション処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のキャビテーション処理装置は、
キャビテーション流体を噴射するノズルと、
前記キャビテーション流体の流れ方向を変える方向切換部であって、前記キャビテーション流体の流れ方向を誘導するとともに、前記キャビテーション流体に内在するキャビテーション気泡の拡散を抑制する溝部を有する方向切換部と、
ワークを配置するワーク固定部と、
を有する。
【0010】
本発明のキャビテーション処理方法は、
キャビテーション流体(C1)をノズル(2)から噴射し、
前記ノズル(2)から噴射された前記キャビテーション流体(C1)の流れ方向を誘導するとともに、前記キャビテーション流体(C1)に内在するキャビテーション気泡(C2)を溝部(5)での拡散を抑制し、
前記溝部(5)で誘導された前記キャビテーション気泡(C2)をワーク(W)に衝突させる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のキャビテーション処理装置及びキャビテーション処理方法によれば、適切な処理位置に最適なキャビテーション効果(残留応力等)を与えられる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態のキャビテーション処理装置を示す側面図
【
図2】平常時の第1実施形態のキャビテーション処理装置を示す斜視図
【
図3】衝突距離調整部で調整した状態の第1実施形態のキャビテーション処理装置を示す斜視図
【
図5】(a)は、三角形状の溝部を示す図であり、(b)は、円弧形状の溝部を示す図である。
【
図8】第2実施形態のキャビテーション処理装置を示す斜視図
【
図9】第3実施形態のキャビテーション処理装置を示す斜視図
【
図11】比較例1と実施例1の残留応力の測定結果を示す図
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
本実施形態のキャビテーション処理装置1は、原子力分野等で利用される高機能部材や、一般的な金属部材等の表面に対して、キャビテーション処理を行う。キャビテーション処理装置1は、
図1および
図2に示すように、ノズル2と、方向切換部3と、ワーク固定部6と、角度調整部7と、を有する。ノズル2は、キャビテーション流体C1を噴射する。方向切換部3は、キャビテーション流体C1の流れ方向を変える。ワーク固定部6は、方向切換部3から供給されるキャビテーション流体C1の流れ方向にワークWを配置する。角度調整部7は、ワーク固定部6の角度を調整する。方向切換部3は、溝部5を有する。溝部5は、キャビテーション流体C1の流れ方向を誘導するとともに、キャビテーション流体C1を構成するキャビテーション気泡C2の拡散を抑制する。
【0014】
ノズル2は、高圧流体供給源(不図示)から供給されるキャビテーション流体C1を噴射する。
ノズル2から噴射されるキャビテーション流体C1が方向切換部3の表面に衝突することで、キャビテーション流体C1の流れ方向が切り換わる。方向切換部3は、キャビテーション流体C1の流れ方向を一次的に受ける。そのため、方向切換部3の表面がキャビテーションで壊食、損傷することを避けるために、方向切換部3の表面は、強度の高い材質が望ましい。
【0015】
溝部5は、キャビテーション流体C1の流れ方向を誘導するとともに、キャビテーション流体C1を構成するキャビテーション気泡C2の拡散を抑制する形状である。
図4に示すように、キャビテーション流体C1が方向切換部3の表面に配置される溝部5に衝突することで、キャビテーション流体C1の流れ方向が切り換わる。
【0016】
溝部5の形状は、凹凸形状が望ましい。溝部5が凹凸形状であることにより、凹形状の箇所にキャビテーション気泡C2が入り込みやすくなり、キャビテーション気泡C2が拡散しにくい状態を作りやすく、キャビテーション効果(残留応力等)が向上する。さらに、キャビテーション気泡C2が拡散しにくい状態が作りやすいため、従来よりも短い時間でワークWのキャビテーション処理を行える。
【0017】
なお、溝部5の形状、幅、深さ、個数等は、限定されるものではなく、キャビテーション流体C1の流路として機能する形状であればよい。例えば、
図5(a)で示す三角形状や、
図5(b)で示す円弧形状等を適宜選択できる。
【0018】
溝部5は、ワークWまでキャビテーション流体C1を誘導する流路である。直線形状の流路の場合は、ワークWに対してダイレクトにキャビテーション流体C1を衝突させることができる。
【0019】
溝部5に単数の凹溝や円弧溝を形成した場合は、比較的溝幅を広くすることでキャビテーション流体C1を1つの流れとしてワークWに衝突させることができ、局部的により高いキャビテーション効果が得られる。
具体的には、
図4に示すように、溝部5は、溝幅W1、溝高さH1を有する。溝幅W1と溝高さH1をキャビテーション流体の直径WCよりも大きくすることによって、キャビテーション気泡C2の拡散が抑制される。
【0020】
溝部5に複数の凹溝や円弧溝を並列に形成した場合は、キャビテーション流体C1を複数の流れとしてワークWに衝突させることができ、広い幅に対してより高いキャビテーション効果が得られる。
具体的には、
図6に示すように、方向切換部3に複数の溝部5を形成する。ノズル2から噴射されたキャビテーション流体C1は、複数の溝部5に分岐し、分岐したキャビテーション流体C1の流れ方向は、各溝部5に誘導される。この場合、各溝部5を流れるキャビテーション流体C1の直径WCは、直径WC2~8で分岐するとともに、溝高さH1以下でワークWに衝突する。
【0021】
その他、直線形状の複数の流路をワークWに近い箇所で合流させる形状にする場合は、ワークWに対するキャビテーション処理の幅は狭くなるが、キャビテーション気泡C2の量が増えるため、より高いキャビテーション効果が得られる。
【0022】
また、溝部5は、ワークWまでキャビテーション流体C1を誘導する流路であるが、キャビテーション流体C1をより誘導しやすくするためには、ノズル2を傾斜させることが望ましい。ノズル2の傾斜角度は、0~180°の範囲で調整する。ノズル2を傾斜させることによって、溝部5に対してキャビテーション効果が付与されることが抑制される。
【0023】
また、ノズル2を傾斜させる方法以外にも、
図7で示すように、溝部5が傾斜部5aを有することで、キャビテーション流体C1がワークWの方向だけに流れるようにできる。
【0024】
方向切換部3には、
図2および
図3に示すように、衝突距離調整部8が配置される。衝突距離調整部8は、キャビテーション流体C1のワークWまでの衝突距離を調整する。衝突距離調整部8は、方向切換部3の前後左右方向の幅や長さを調整する。
図2は、キャビテーション処理装置1の通常時における衝突距離調整部8を示す。
図3は、衝突距離調整部用スイッチ8aで調整することによって、衝突距離調整部8の幅を狭くした状態のキャビテーション処理装置1を示す。具体的な衝突距離調整部8の内部構造としては、スライド機構やシリンダ機構を有する。また、衝突距離調整部用スイッチ8aは、手動式、自動式どちらでもよい。衝突距離調整部8は、キャビテーションの処理条件に応じて、衝突距離を調整する。その他、方向切換部3をユニット構造として、複数の方向切換部3を配置してもよい。衝突距離調整部8によって、最適な量のキャビテーション気泡C2(の集合体)をワークWに衝突させ、キャビテーション処理を行える。
【0025】
ワーク固定部6は、ワークWを固定する。ワーク固定部6は、例えば、ワークWの端部を複数のボルト等の締結具で固定するものや、ワークWの一部を挟み込んで固定するものである。
【0026】
角度調整部7は、ワークWの傾斜角度を調整する。角度調整部7は、ワーク固定部6と連結する。角度調整部7は、例えば、ワーク固定部6の下部に連結する。角度調整部7は、角度調整部用スイッチ7aで調整することによって、0~180°、より好ましくは45~135°の角度で位置決めを行う。具体的な角度調整部7の内部構造としては、スライド機構やシリンダ機構を有する。また、角度調整部用スイッチ7aは、手動式、自動式どちらでもよい。
【0027】
方向切換部3の下部に、昇降部9を配置してもよい。昇降部9は、昇降部用調整スイッチ9aで調整することによって、昇降用支持部9bが伸縮し、方向切換部3の高さを調整する。具体的には、昇降部9は、スライド機構やシリンダ機構を有する。昇降部9は、キャビテーションの処理条件に応じて、方向切換部3の高さを調整する。昇降部9によって、上下方向のワークWの狙った位置に対してキャビテーション気泡C2をワークに衝突させ、キャビテーション処理を行える。
【0028】
方向切換部3で切り換えられたキャビテーション流体C1の流れ方向を、さらに変える2次方向切換部4を有してもよい。2次方向切換部4は、例えば、ワーク固定部6に固定される。2次方向切換部4は、方向切換部3と同様、溝部を有してもよい。その場合、2次方向切換部4の溝部が、キャビテーション流体C1の流れ方向を面内で変えてもよい。
方向切換部3と2次方向切換部4の2段階でキャビテーション流体C1の流れ方向を調整することによって、キャビテーション流体C1の速度が最適となる。また、複雑な構成のワークWに対してキャビテーション処理できるとともに、ワークWの狙った位置や衝突力の調整等のバリエーションが増える。
【0029】
キャビテーション気泡C2の量を調整することのできる制御装置12を有してもよい。例えば、液中内において、キャビテーション気泡C2は、温度変化による影響を受ける。制御装置12は、例えば、市販の温度調整装置である。最適な温度は、40~50℃であるが、液中内の環境やワークに対して求めるキャビテーション効果に応じて、制御装置12は、温度を調整する。
【0030】
ワーク固定部6は、
図8および
図9に示すように、ワークWを支持または回転させる回転機構10を有してもよい。回転機構10は、例えば、ワークWの中心に挿入し固定できる軸対称形状(例えば、円筒、丸棒等)の回転軸を有し、駆動源(不図示)の駆動に伴って回転軸を回転する。回転機構10により、例えば、ワークWが円筒形の場合にキャビテーションの処理位置を順次変えられる。これにより、ワークWを都度固定する必要がなくなり、作業時間を短縮できる。
図8に示すように、回転機構10の回転軸のみでワークWを固定する方法だけでなく、
図9に示すように、回転機構10の回転軸の先端に支持部11を配置し、ワークWの両端を支持した状態でキャビテーション処理を行なってもよい。
【0031】
また、回転機構10の回転軸は、ワーク固定部6またはワークWに対する位置を調整する構成としてもよい。例えば、回転機構10の回転軸を、ワーク固定部6の下流側(方向切換部3側)に配置することで、溝部5で流れ方向が誘導されたキャビテーション流体C1が短い距離でワークWに衝突する。また、回転機構10の回転軸を、ワーク固定部6の上流側(方向切換部3から離れる側)に配置することで、溝部5で流れ方向が誘導されたキャビテーション流体C1が長い距離でワークWに衝突する。こうした回転機構10の回転軸の位置は、ノズル2から方向切換部3および溝部5の距離との関係性によって、適宜選択する。
【0032】
次に、本実施形態のキャビテーション処理工程について説明する。
【0033】
(第1実施形態:1段階の方向切換)
最初にワークWの固定作業とキャビテーション処理の条件出しを行う。まずは、方向切換部3の長さや高さを衝突距離調整部8、昇降部9で調整し、ワークWをワーク固定部6に固定する。次に、角度調整部7の角度を0~180°、より好ましくは45~135°のうち最適な条件を設定し、固定する。
なお、この固定作業の前または後で、タンクT内を液体(例えば、水)で満たす。キャビテーション処理を液中で行うことによって、キャビテーション気泡C2(の集合体)を安定的に溝部5に囲い入れることに繋がる。そのため、最適な量のキャビテーション気泡C2をワークWに衝突させ、最適なキャビテーション効果が得られる。
【0034】
次に、高圧水供給源(不図示)を起動し、ノズル2の位置を固定し、ノズル2からキャビテーション流体C1を方向切換部3に向けて噴射する。噴射されたキャビテーション流体C1は、方向切換部3の溝部5に衝突し、減速される。溝部5の凹みにキャビテーション流体C1が入り込んで、ワークWに向かって進行し、衝突することで、キャビテーション処理が行われる。
【0035】
なお、キャビテーション流体C1は減速した状態で、濃度の高いキャビテーション気泡がワークWに衝突する。そのため、キャビテーション流体C1の速度が速すぎてキャビテーション処理対象ではない箇所にキャビテーション処理が行われるのを抑制し、ワークWの狙った位置にキャビテーション処理を行える。
【0036】
(第2実施形態:2段階の方向切換)
最初にワークWの固定作業とキャビテーション処理の条件出しを行う。まずは、
図8に示すように、方向切換部3や2次方向切換部4の長さや高さを、衝突距離調整部8や昇降部9で調整し、ワークWをワーク固定部6に固定する。次に、角度調整部7の角度を0~180°、より好ましくは45~135°のうち最適な条件を設定し、固定する。なお、この固定作業の前または後で、タンクT内を液体(例えば、水)で満たす。
【0037】
次に、高圧水供給源(不図示)を起動し、ノズル2の位置を固定し、ノズル2からキャビテーション流体C1を方向切換部3に向けて噴射する。噴射されたキャビテーション流体C1は、方向切換部3の溝部5に衝突し、減速される。溝部5の凹みにキャビテーション流体C1が入り込んで、2次方向切換部4に衝突し、さらに減速される。キャビテーション流体C1が2次方向切換部4の表面に沿ってワークWに向かって進行し、衝突することで、キャビテーション処理が行われる。
【0038】
なお、キャビテーション流体C1は減速した状態で、濃度の高いキャビテーション気泡(の集合体)がワークWに衝突する。そのため、キャビテーション流体C1の速度が速すぎてキャビテーション処理対象ではない箇所にキャビテーション処理が行われるのを抑制し、ワークWの狙った位置にキャビテーション処理を行える。
【0039】
次に、実施形態のキャビテーション処理装置1を利用した場合のキャビテーション効果の検証テストについて、説明する。
【0040】
(検証テスト1)
キャビテーション処理装置1を利用しないテスト(比較例1)と、キャビテーション処理装置1を利用するテスト(実施例1)の2種類を行った。
【0041】
比較例1では、キャビテーション処理装置1を利用せず、高圧水供給源(不図示)から供給される40MPaのキャビテーション流体C1を、ノズル(本実施形態のノズル2と同様)から検証用のワークW(アルミ板)に対してダイレクトに15秒間衝突させた。
実施例1では、キャビテーション処理装置1を利用して、ノズル2の位置を固定し、高圧水供給源(不図示)から供給される40MPaのキャビテーション流体C1をノズル2から方向切換部3に向けて噴射した。キャビテーション流体C1を方向切換部3の溝部5を通過させて、検証用のワークW(アルミ板)に15秒間衝突させた。
【0042】
図10Aは、比較例1の検証テスト1の結果である。
図10Bは、実施例1の検証テスト1の結果である。比較例1と実施例1を比較すると、実施例1の方が打痕の量が多い。これは、キャビテーション流体C1内のキャビテーション気泡C2(の集合体)が拡散されない状態が保たれたことによって、最適なキャビテーション効果が与えられたためと推測できる。
【0043】
(検証テスト2)
検証テスト1だけでは表面上(見た目上)の効果しか判断できない。検証テスト2では、市販の残留応力測定装置を利用して、比較例1と実施例1の検証テストを施したそれぞれのワークWに付与された残留応力を計測した。
【0044】
図11は、検証テスト2の結果を示す。縦軸が残留応力で、横軸がワークW表面からの深さを示す。なお、縦軸の残留応力は、数値がプラス方向に大きくなるにつれて引っ張り作用が働き、数値がマイナス方向に大きくなるにつれて圧縮作用が働く。未処理を◇、比較例1を□、実施例1を〇でプロットした。比較例1と実施例1を比較すると、実施例1の方が深くまで圧縮応力が残留している。
【0045】
検証テスト1と検証テスト2の結果より、実施例1の方が大きなキャビテーション効果が得られている。
【0046】
以上、本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0047】
1 キャビテーション処理装置
2 ノズル
3 方向切換部
4 2次方向切換部
5 溝部
5a 傾斜部
6 ワーク固定部
7 角度調整部
7a 角度調整部用スイッチ
8 衝突距離調整部
8a 衝突距離調整部用スイッチ
9 昇降部
9a 昇降部用スイッチ
9b 昇降用支持部
10 回転機構
11 支持部
12 制御装置
C1 キャビテーション流体
C2 キャビテーション気泡
W ワーク
T タンク
W1 溝幅
H1 溝高さ
WC キャビテーション流体の直径