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特許7508365高い誘電率を示し、温度に対して安定である誘電体層を含む、有機電界効果トランジスタ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】高い誘電率を示し、温度に対して安定である誘電体層を含む、有機電界効果トランジスタ
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/16 20060101AFI20240624BHJP
   C08L 33/10 20060101ALI20240624BHJP
   H10K 10/40 20230101ALI20240624BHJP
   H10K 85/00 20230101ALI20240624BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
C08L27/16
C08L33/10
H10K10/40
H10K85/00
C08J5/18 CEW
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020507048
(86)(22)【出願日】2018-08-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-10-08
(86)【国際出願番号】 FR2018052029
(87)【国際公開番号】W WO2019030453
(87)【国際公開日】2019-02-14
【審査請求日】2021-06-04
(31)【優先権主張番号】1757604
(32)【優先日】2017-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(73)【特許権者】
【識別番号】514058706
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・ボルドー
(73)【特許権者】
【識別番号】513277212
【氏名又は名称】アンスティチュ ポリテクニーク ドゥ ボルドー
(73)【特許権者】
【識別番号】311016455
【氏名又は名称】サントル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシェ シアンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ドミンゲス・ドス・サントス,ファブリス
(72)【発明者】
【氏名】スレスタン,ティボー
(72)【発明者】
【氏名】トウオー,ダミアン
(72)【発明者】
【氏名】アドジオアヌー,ジョルジュ
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-001744(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0087185(US,A1)
【文献】XIANG-ZHONG CHEN ET AL,Enhanced electrocaloric effect in poly(vinylidene fluoride-trifluoroethylene)-based terpolymer/copolymer blends,APPLIED PHYSICS LETTERS,2012年05月28日,vol100,no.22,222902
【文献】BAOJIN CHU ET AL,Energy storage properties of PVDF terpolymer/PMMA blends,HIGH VOLTAGE,2016年01月12日,vol1,no.4,171-174
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素化電気活性ポリマーのブレンドを含む組成物であって、該ブレンドが、
a)フッ化ビニリデン(VDF)から誘導される単位と、トリフルオロエチレン(TrFE)であるモノマーXから誘導される単位と、第3のモノマーYとを含む、少なくとも1つの式P(VDF-X-Y)のフッ素化ターポリマーであって、前記第3のモノマーYが、1,1-クロロフルオロエチレンであり、前記モノマーYから誘導される単位の割合が、前記ターポリマーの単位全体に対して1~15モル%である、フッ素化ターポリマー
b)フッ化ビニリデンから誘導される単位及びと、トリフルオロエチレンから誘導される単位とを含む少なくとも1つの式P(VDF-TrFE)のコポリマーであって、トリフルオロエチレンから誘導される単位の割合が、フッ化ビニリデン及びトリフルオロエチレンから誘導される単位の合計に対して45モル%を超え、成分b)の割合が、前記組成物中の成分a)及びb)の全重量の30%~50%であるコポリマー
からなる、組成物。
【請求項2】
前記モノマーYから誘導される単位の割合が、前記ターポリマーの単位全体に対して1~12モル%である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
成分b)の重量割合が、前記組成物の全重量の0.1%~50%である、請求項1及び2のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項4】
前記コポリマー中のトリフルオロエチレンから誘導される単位の割合が、フッ化ビニリデン及びトリフルオロエチレンから誘導される単位の合計に対して50モル%を超える、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
2重量%までの添加剤をさらに含み、該添加剤が、(メタ)アクリルポリマーである、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
20℃~80℃の温度範囲にわたって1kHzで測定して30より高い比誘電率εを示す、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記フッ素化電気活性ターポリマーが、リラクサー強誘電体ターポリマーである、請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
溶媒中の溶液中に、請求項1~7のいずれか1項に記載の組成物を含む、フッ素化電気活性ポリマーに基づく配合物。
【請求項9】
前記溶媒が、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン及びシクロペンタノン、テトラヒドロフラン酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル及びプロピレングリコールメチルエーテルアセテートジメチルカーボネートリン酸トリエチル、及びそれらの混合物から選択される、請求項8に記載の配合物。
【請求項10】
請求項8及び9のいずれかに記載の配合物からなるポリマーフィルム。
【請求項11】
0℃~100℃の温度範囲にわたって、+/-10だけ変化する比誘電率を示す、請求項10に記載のフィルム。
【請求項12】
基材と、該基材上に堆積された請求項10及び11のいずれかに記載のフィルムとを含む(光)電子デバイス。
【請求項13】
前記フィルムの両側に電極をさらに含む、請求項12に記載のデバイス。
【請求項14】
半導体素子(3)と、電極(1)と、誘電体層(2)とを備え、該誘電体層が、少なくとも部分的に請求項1~7のいずれか1項に記載の組成物からなることを特徴とする電界効果トランジスタ。
【請求項15】
成分b)の重量割合が、前記組成物の全重量の5%~40%である、請求項1及び2のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項16】
2重量%までの添加剤をさらに含み、該添加剤が、ポリ(メチルメタクリレート)である、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項17】
15℃~70℃の温度範囲にわたって、+/-10だけ変化する比誘電率を示す、請求項10に記載のフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<発明の分野>
本発明はフッ素化電気活性ポリマーのブレンドを含み、それ自体で使用される各ポリマーに対して、動作温度範囲にわたってより大きな安定性を示す誘電率を有する組成物に関する。本発明はまた、前記組成物に基づいて製造された配合物及びフィルムに関する。本発明はまた、電界効果トランジスタに関し、その誘電体層の少なくとも一部は、フッ素化電気活性ポリマーのブレンドから構成される。最後に、本発明は(光)電子デバイスに関し、その少なくとも1つの層又はフィルムは、動作温度範囲にわたって安定であると考えられる誘電率を示す、フッ素化強誘電体ポリマーのブレンドから構成される。
【背景技術】
【0002】
<技術的背景>
電気活性ポリマーは、有機エレクトロニクスのための最も有望な材料の1つである。電気活性ポリマーは、機械的若しくは熱的エネルギーを電気に、又はその逆に変換することができるポリマーである。これらの材料の中には、フッ化ビニリデン(VDF)及びトリフルオロエチレン(TrFE)をベースとするフッ素化コポリマーがある。
【0003】
これらのフッ素化電気活性ポリマー(FEPs)は強誘電体であり、これは、電界を印加することによって反転され得る、自発的な電気分極を示すことを意味する。FEPsは、典型的には、40mC/m~120mC/mの間にある、電界150mV/mの電界下で自発分極を示す。これらのポリマーの中で、P(VDF-TrFE-Y)のタイプ(ここで、Yは、好ましくはクロロトリフルオロエチレン(CTFE)又はクロロフルオロエチレン(CFE)である)のいくつかのターポリマーがリラクサー強誘電体FEPである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
FEPsは、ポリマー材料に対して、比較的高い誘電率(10より高い)を有する。高い誘電率により、これらのポリマーを、電子デバイス、特に有機電子デバイス、より具体的には電界効果トランジスタの製造に使用することができる。具体的には、誘電率の高いポリマーを使用することにより、半導体層を導電性にするためにゲートに印加しなければならない必要な電圧を低減することで、トランジスタの消費電力を低減することが可能になる。
【0005】
FEPの誘電率は温度と共に変化し、キュリー温度(T)と一般に呼ばれる温度で最高になる。従来の強誘電体ポリマーP(VDF-TrFE)では、この極大値が、温度の上昇に伴い強誘電相から常誘電相へ転移する点に対応する。さらに、Tは、電界の周波数とは無関係である。しかしながら、リラクサー強誘電体ポリマーの場合、Tは電界の周波数と共に変化する。誘電率の極大値は、T時に30に達するか、あるいはそれを上回ることさえある。Tは、FEPの組成(VDF/TrFE比及びターモノマーY含有量)に応じて15℃から140℃まで変化する。
【0006】
誘電率の変化は、電気活性デバイスの性能に影響を及ぼす。具体的には、分極及び変形などの多くの特性が、誘電率に直接関係する。一般的に言えば、電気活性デバイスは、温度が制御されていない電子デバイス内に組み込まれる。一定の特性を維持するために、これらの変動を補償することを可能にするシステムを開発しなければならない。これらのシステムはしばしば複雑で高価であり、特定の電子デバイスにおけるFEPsの使用を制限する。電気活性デバイスの開発をさらに進めるためには、より広い温度範囲にわたって高く及び一定の誘電率を保つことが必要である。電気活性デバイスのある特定の場合において、高誘電率誘電体層を含む電界効果トランジスタの開発には、デバイスが正しく動作することを保証するために、温度に対して安定な物性が要求される。
【0007】
文献EP0206926には、異なるキュリー温度を有する強誘電体ポリマーのブレンドが記載されており、これらの混合物は広い温度及び周波数範囲にわたって誘電特性を最適化することを目的としている。10モル%のCTFEを含有するP(VDF-TrFE-CTFE)ターポリマーと、60-40のVDF-TrFEモル組成を有するP(VDF-TrFE)コポリマーとのブレンド(混合物I、図7の曲線18に対応する)により、20~100℃の温度範囲で20~30の比誘電率を示す材料を得ることができ、その最大値は約80℃に位置する。これらの比誘電率値は30未満であり、25の平均値に対して+/-5だけ変化するが、それにもかかわらず、いくつかの用途、特にトランジスタの製造において不十分なままである。
【0008】
したがって、より広い温度範囲にわたって、高く及び一定の比誘電率を示す組成物を開発する必要がある。本発明はまた、広い温度範囲にわたって高い安定した誘電率を示すフッ素化電気活性ポリマーのブレンドからなる誘電体層を有する、電界効果トランジスタを提供することを目的とする。ポリマーのブレンドを最適化することにより、単一のポリマーについて得られる誘電率よりも15℃~120℃の間でより安定な誘電率を得ることが可能になる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明はまず、フッ素化電気活性ポリマーのブレンドを含む組成物であって、該ブレンドが、
a)フッ化ビニリデン(VDF)から誘導される単位と、トリフルオロエチレン(TrFE)、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、フッ化ビニル、1,1-クロロフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロプロペン、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンから選択されるモノマーXから誘導される単位と、第3のモノマーYとを含む、少なくとも1つの式P(VDF-X-Y)のフッ素化ターポリマー、
b)フッ化ビニリデンから誘導される単位と、トリフルオロエチレンから誘導される単位をと含む式P(VDF-TrFE)であって、トリフルオロエチレンから誘導される単位の割合が、フッ化ビニリデン及びトリフルオロエチレンから誘導される単位の合計に対して45モル%を超えるコポリマー、
からなる。
【0010】
様々な実施形態によれば、前記組成物は、必要に応じて、以下の特徴を含む。
【0011】
一実施形態によれば、第3のモノマーは、1-クロロ-1-フルオロエチレン又はクロロトリフルオロエチレンである。
【0012】
一実施形態によれば、モノマーYから誘導される単位の割合は、前記ターポリマーの単位全体に対して1~15モル%、より好ましくは1~12モル%である。
【0013】
一実施形態によれば、フッ素化ターポリマー(成分a)及びフッ素化コポリマー(成分b)は、50:50~99:1、好ましくは55:45~99:1、より好ましくは60:40~95:5の範囲の重量比で存在する。
【0014】
一実施形態によれば、本発明による組成物は2重量%までの添加剤をさらに含み、前記添加剤は、(メタ)アクリルポリマー、特にポリ(メチルメタクリレート)である。
【0015】
本発明はまた、溶媒中の溶液中の上記のフッ素化ポリマーのブレンドに基づいて製造される配合物(又はインク)に関する。
【0016】
本発明の別の主題は、前記配合物に基づいて製造された、ポリマーフィルム又は層である。この層は、それ自体で使用される1つのフッ素化電気活性ポリマーに対して、動作温度範囲にわたってより大きな安定性を示す誘電率を有する。
【0017】
本発明はまた、基材と、基材上に堆積された上記組成物に基づいて調製されたフィルムとを含む(光)電子デバイスに関する。
【0018】
一実施形態によれば、デバイスはフィルムの両側に電極をさらに含み、前記デバイスは、好ましくはアクチュエータである。
【0019】
また、本発明は、半導体素子と、電極と、温度に対して安定な高誘電率を示す誘電体層とを備える有機電界効果トランジスタに関する。特徴的には、誘電体層がフッ素化電気活性ポリマーのブレンドから少なくとも部分的に構成される。
【0020】
一実施形態によれば、フッ素化電気活性ポリマーの前記ブレンドは:
-フッ化ビニリデン(VDF)から誘導される単位と、トリフルオロエチレン(TrFE)、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、フッ化ビニル、1,1-クロロフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロペン(HFP)、3,3,3-トリフルオロプロペン、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンから選択されるモノマーXから誘導される単位と、第3のモノマーYとを含む、少なくとも1つの式P(VDF-X-Y)のフッ素化電気活性ターポリマー、
-フッ化ビニリデンから誘導される単位と、トリフルオロエチレンから誘導される単位とを含む式P(VDF-TrFE)の少なくとも1つのコポリマー、
から構成される。
【0021】
一実施形態によれば、誘電体層は少なくとも部分的に、上述の本発明による組成物から構成される。
【0022】
本発明は、従来技術の欠点を克服することを可能にする。より具体的には、本発明がより広い温度範囲にわたって高く及び一定の誘電率を示す組成物を提供する。これは、フッ素化電気活性ターポリマーと、ターポリマーと相溶性であり、ターポリマーのキュリー温度とは異なるキュリー温度を示すコポリマーとの組み合わせによって達成される。
【0023】
本発明は、有機トランジスタ用の誘電体材料の製造に特に適している。誘電率の温度に対する安定性は、広い温度範囲にわたる使用のための有機トランジスタの性能を改善する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、電界効果トランジスタの概略図を示す。素子1は、3つの電極、すなわちソース、ゲート及びドレインを表す。素子2は、本発明において、高い誘電率を示すフッ素化電気活性ポリマーのブレンドに基づいて製造された、少なくとも1つの層からなる誘電層を表す。素子3は半導体である。
図2図2は、3つのフッ素化電気活性ポリマー、P(VDF-TrFE-CTFE)(一点鎖線)、P(VDF-TrFE-CTFE)(実線)及びP(VDF-TrFE)(破線)について、1kHzで測定した比誘電率(Y軸)の曲線を示すグラフである。ポリマーのVDF/TrFE/Yモル組成は、それぞれ60/30/10、61/35/4及び70/30である。
図3図3は、43/57のモル組成を有するP(VDF-TrFE)フッ素化電気活性ポリマーについて、温度(X軸)(上昇及びその後下降させた)に対する1kHzで測定した比誘電率(Y軸)の曲線を示すグラフである。
図4図4は、4つの組成物について、温度(X軸)(上昇のみを示す)に対する、1kHzで測定した比誘電率(Y軸)の曲線を示すグラフである:(i)黒の破線、6.9モル%のCFEを含有するP(VDF-TrFE-CFE)ターポリマー、(ii)灰色の破線、8.2モル%のCFEを含有するP(VDF-TrFE-CFE)ターポリマー、(iii)灰色の実線、ターポリマー(ii)と、54/46のモル組成を有するP(VDF-TrFE)コポリマーとの70~30重量ブレンド、及び(iv)黒の実線、54/46のモル組成を有するP(VDF-TrFE)コポリマーとの70~30重量ブレンド。
図5図5Aは、6.9モル%のCFEを含有するP(VDF-TrFE-CFE)ターポリマー及び54/46のモル組成を有するP(VDF-TrFE)コポリマーの90-10重量ブレンドについての、温度(X軸)(上昇及び下降させた)及び電界周波数(0.1~1~10~100kHz)に対する、比誘電率(Y軸)の曲線を示すグラフである。図5Bでは、PMMAをさらに含む同じブレンドについての、温度(X軸)及び電界周波数(0.1~1~10~100kHz)に対する比誘電率(Y軸)の曲線を示す。
図6図6は43/57のモル組成を有するP(VDF-TrFE)コポリマーと8.2モル%のCFEを含有するP(VDF-TrFE-CFE)ターポリマーとの50~50重量ブレンドについて、1kHzで測定した比誘電率(Y軸)の温度(X軸)(上昇し、次いで下降させた)曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は以下の説明において、より詳細に、非限定的な方法で説明される。
【0026】
本発明は、まず、フッ素化ターポリマー(成分a)の使用に基づく。「フッ素化された」という用語は、-F基を含むターポリマーを意味すると理解される。
【0027】
好ましくは、フッ素化ターポリマーはリラクサー強誘電体ポリマーである。このような材料は、弱い抗電界(通常10V/μmよりも弱い)、小さな残留分極(通常10mC/mよりも小さい)を有するか、又はそれらをまったく有しておらず、ある温度において最大の誘電率を示し、またその温度は電界の周波数に依存する。
【0028】
式P(VDF-X-Y)のターポリマーは、フッ化ビニリデン(VDF)から誘導される単位と、トリフルオロエチレン(TrFE)、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、フッ化ビニル、1,1-クロロフルオロエチレン(CFE)、ヘキサフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロプロペン、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンより選択されるモノマーXから誘導される単位と、第3モノマーYとを含む。
【0029】
好ましくは、モノマーXはTrFEである。
【0030】
好ましくは、YはCFE(1-クロロ-1-フルオロエチレン)又はCTFE(クロロトリフルオロエチレン)から誘導される単位を表す。
【0031】
あるいは、第3のモノマーは、特にハロゲン化アルケン、特にハロゲン化プロペン又はエチレン選択でき、例えば、テトラフルオロプロペン(特に2,3,3,3-テトラフルオロプロペン)、クロロトリフルオロプロペン(特に2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン)、1-クロロ-2-フルオロエチレン、トリフルオロプロペン(特に3,3,3-トリフルオロプロペン)、ペンタフルオロプロペン(特に1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペン又は1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン)、1-クロロ-2,2-ジフルオロエチレン、1-クロロ-2-フルオロエチレン、1-ブロモ-2,2-ジフルオロエチレン、ブロモトリフルオロエチレン、フルオロエチレン(又はフッ化ビニル)テトラフルオロエチレン及びヘキサフルオロプロペンより選択されてよい。第3のモノマーはまた、一般式R-O-CFCFを有するペルフルオロアルキルビニルエーテルであってよく、Rは、好ましくは、C~Cのアルキル基である。好ましい例は、PPVE(ペルフルオロプロピルビニルエーテル)及びPMVE(ペルフルオロメチルビニルエーテル)である。
【0032】
本発明のターポリマーは、乳化重合、マイクロエマルジョン重合、懸濁重合及び溶液重合などの任意の公知の方法を用いて製造することができる。文献WO2010/116105に記載されている方法の使用が特に好ましい。この方法は、高い分子量及び適切な構造を有するポリマーを得ることを可能にする。
【0033】
一実施形態によれば、ターポリマー中のY単位のモル比は、1%~15%、好ましくは1%~12%の範囲の値を有する。
【0034】
一実施形態によれば、ターポリマー中のVDF単位対TrFE単位のモル比は、85/15~30/70、好ましくは75/25~40/60の値を有する。
【0035】
一実施形態によれば、この特許出願の文脈で「分子量」(Mw)とも呼ばれる、ターポリマーの重量平均分子量は、200,000g/molから1,500,000g/molの範囲であり、望ましくは250,000g/molから1,000,000g/molの範囲であり、さらに特定的には、300,000g/molから700,000g/molの範囲である。
【0036】
後者は、反応器中の温度のようなプロセスの特定のパラメーターを加減することによって、又は移動剤を添加することによって調節することができる。
【0037】
分子量分布は、溶離剤としてジメチルホルムアミド(DMF)を用いたSEC(サイズ排除クロマトグラフィー)によって、気孔率を増加させた3つのカラムのセットを用いて推定することができる。固定相はスチレン-DVBゲルである。検出プロセスは屈折率の測定に基づいており、較正は、ポリスチレン標準を用いて行われる。試料をDMFに0.5g/lで溶解し、0.45μmナイロンフィルターを通して濾過する。
【0038】
分子量はまた、ASTMD1238(ISO1133)に従って5kgの荷重下で230℃でのメルトフローインデックスを測定することによって評価することもできる。
【0039】
さらに、分子量は、標準ISO1628による溶液中の粘度の測定によっても特徴付けることができる。メチルエチルケトン(MEK)は、粘度指数を決定するためのターポリマーに好ましい溶媒である。
【0040】
より一般的には、本発明のターポリマーのモル組成は、種々の手段によって決定することができる。炭素、フッ素及び塩素又は臭素の元素分析のための従来の方法は、2つの独立した未知数(例えば、%VDF及び%TrFE、%Y=100-(%VDF+%TrFE))を有する、2つ又は3つの独立した式の系をもたらし、これは、ポリマーの重量組成を明確に計算することを可能にし、それからモル組成が推定される。
【0041】
また、適当な重水素化溶剤中のポリマー溶液を解析することにより、陽子(H)及びフッ素(19F)の、多核NMR技術を使用することもできる。NMRスペクトルは、多核プローブを備えたFT-NMR分光計で記録する。次いで、1つ又は他の核に従って生成されたスペクトル中、の種々のモノマーによって与えられる特定のシグナルが同定される。従って、例えば、TrFE(CFH=CF)単位は、プロトンNMRにおいて、CFH基(約5ppm)に特徴的な特異的シグナルを与える。同じことが、VDFのCH基(3ppmを中心とする広い未分解ピーク)にも当てはまる。2つのシグナルの相対積分は、2つのモノマーの相対存在量、すなわちVDF/TrFEモル比を与える。
【0042】
プロトンNMR及びフッ素NMRにおいて得られた種々のシグナルの相対積分の組み合わせは方程式の系を生じ、その解は得られた種々のモノマー単位のモル濃度を生じる。
【0043】
最後に、元素分析、例えば塩素又は臭素などのヘテロ原子についての元素分析と、NMR分析とを組み合わせることが可能である。したがって、CTFE又はCFEの含有量は、元素分析による塩素含有量の測定によって決定することができる。
【0044】
したがって、当業者は、様々な方法又は方法の組み合わせを利用して、本発明のターポリマーの組成を、曖昧さなしに、かつ必要な精度で決定することが可能である。
【0045】
次に、本発明は、フッ化ビニリデンから誘導される単位と、トリフルオロエチレンから誘導される単位とを含む、式P(VDF-TrFE)のコポリマー(成分b)の使用に基づき、該コポリマーは、前記ターポリマーと相溶性であり、かつターポリマーのキュリー温度とは異なるキュリー温度を示す。
【0046】
用語「相溶性」は、2つのポリマーのブレンドが単一のガラス転移温度を有する均質相を形成することを意味すると理解される。
【0047】
特徴的には、コポリマー中のトリフルオロエチレンから誘導される単位の割合が、フッ化ビニリデン及びトリフルオロエチレンから誘導される単位の合計に対して、45モル%を超え、好ましくは50モル%を超える。
【0048】
コポリマーのキュリー温度は20℃~80℃の間である。本発明のポリマーのキュリー温度は、示差走査熱量測定又は誘電分光法によって測定することができる。
【0049】
本発明による組成物は、少なくとも1つのフッ素化ターポリマー(成分a)と、45モル%を超えるモル組成のTrFEを有する少なくとも1つのP(VDF-TrFE)コポリマー(成分b)とを含む、フッ素化リラクサー強誘電体ポリマーのブレンドである。
【0050】
本発明による組成物において、成分(b)の重量比は、組成物の全重量の0.1%~50%、の間、好ましくは1%~45%の間、有利には5%~40%の間である。
【0051】
本発明の組成物は、上記のような少なくとも1つのターポリマー(任意選択的にそれらの2つ以上)及び上記のような少なくとも1つのコポリマー(任意選択的にそれらの2つ以上)を含む。
【0052】
本発明の組成物はまた、添加剤を含んでもよく、その役割は誘電率を増加させることである。一実施形態によれば、組成物は2重量%までの添加剤を含み、前記添加剤は、(メタ)アクリルポリマー、特にポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)である。
【0053】
本発明の別の主題は、溶媒中の溶液中に上記の組成物を含む、フッ素化電気活性ポリマーに基づく配合物(又はインク)である。一実施形態によれば、前記溶媒は、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ケトン、特にアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン及びシクロペンタノン、フラン、特にテトラヒドロフラン、エステル、特に酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル及びプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、カーボネート、特にジメチルカーボネート、ホスフェート、特にリン酸トリエチル、ならびにそれらの混合物から選択される。
【0054】
溶媒は、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも80重量%の割合で配合物中に存在してもよい。
【0055】
本発明の配合物は、その種々の化合物を溶媒に溶解することによって製造することができる。フッ素化電気活性ポリマーは同時に、又は逐次に、又は別々に、溶媒に溶解され得、次いで、配合物が混合される。コポリマーの前にターポリマーを溶媒に溶解することが好ましい。
【0056】
本発明は特に、本発明による配合物に基づいて製造され、基材上に堆積されたフィルムを提供する。基材は例えば、ポリ(エチレンテレフタレート)又はポリエチレンナフタレート基材などのポリマー基材、又は濾紙、ガラス、又はシリコン基材であってもよい。
【0057】
好ましくは、フィルムが溶媒又は溶融経路によって堆積され、次いで、乾燥され(溶媒の蒸発)、アニールされて、その結晶化度を増加させる(組成物の融点よりも低く、組成物のキュリー温度よりも高い温度で、1分以上の時間加熱することによって)。
【0058】
有利には、本発明によるフィルムが0℃~100℃、好ましくは10℃~80℃、有利には15℃~70℃の温度範囲にわたって+/-10、好ましくは+/-5、有利には+/-2しか変化しない安定な比誘電率と考えられるものを示す。
【0059】
誘電率は、誘電率に比例する静電容量の計測を可能にする、Sefelec LCR819 LCRメータの手段によって計測することができる。
【0060】
したがって、このフィルムは、その動作のために広範囲の温度にわたって安定した誘電率を必要とする電子デバイスを製造するのに適している。
【0061】
したがって、本発明は、基材と、本発明による少なくとも1つのフィルムとを含む電子デバイスを提供する。「電子デバイス」という用語は、トランジスタ(特に電界効果トランジスタ)、チップ、バッテリ、光電池、発光ダイオード(LEDs)、有機発光ダイオード(OLEDs)、センサ、アクチュエータ、変圧器、触覚デバイス、電気機械マイクロシステム、電気化学デバイス、及び検出器などの、電子回路において1つ又は複数の機能を実行することができる、単一の電子コンポーネント又は1組の電子コンポーネントのいずれかを意味するものと理解される。
【0062】
特定の変形例によれば、電子デバイスはより具体的には光電子デバイス、すなわち、電磁放射を放出、検出、又は制御することができるデバイスである。
【0063】
一実施形態によれば、デバイスは本発明の組成物の少なくとも1つのフィルムと、両側の電極とを含み、したがってアクチュエータを形成する。
【0064】
本発明の別の主題は、(添付の図1を参照して)半導体素子(3)、電極(1)及び誘電体層(2)を含む有機電界効果トランジスタに関する。特徴的には、誘電体層がフッ素化電気活性ポリマーのブレンドから少なくとも部分的に構成される。
【0065】
一実施形態によれば、フッ素化電気活性ポリマーの前記ブレンドは、
-フッ化ビニリデン(VDF)から誘導される単位と、トリフルオロエチレン(TrFE)、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、フッ化ビニル、1,1-クロロフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロプロペン、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンから選択される、モノマーXから誘導される単位と、第3モノマーYとを含む、式P(VDF-X-Y)の少なくとも1つのフッ素化電気活性ターポリマー、及び、
-フッ化ビニリデンから誘導される単位と トリフルオロエチレンから誘導される単位とを含む、式P(VDF-TrFE)の少なくとも1つのコポリマー、
で構成されている。
【0066】
モノマーXは、好ましくはトリフルオロエチレンである。
【0067】
一実施形態によれば、誘電体層は本発明による組成物から少なくとも部分的に構成され、コポリマー(b)中のトリフルオロエチレンから誘導される単位の割合は、フッ化ビニリデン及びトリフルオロエチレンから誘導される単位の合計に対して、45モル%を超え、好ましくは50モル%を超える。
【実施例
【0068】
以下の実施例は、本発明を限定することなく説明する。
【0069】
ブタン-2-オン(メチル-エチル-ケトン、MEK)中7重量%の配合物を、垂直冷却管を上に載せた丸底フラスコ中で、1種以上の電気活性ポリマーを混合し、80℃で16時間加熱することによって製造する。完全に溶解した後、溶液をPTFE製の1μmフィルターを通して濾過する。
【0070】
約250nmのフィルムが上記で調製された配合物から、スピンコーター上で、シリコン基材上に生成する。次に、60℃で5分間乾燥させる。次に、得られたフィルムを115℃で2時間アニールする。金製の上部電極は、真空下での蒸着又はスパッタリングによって堆積される。
【0071】
膜の誘電特性は、インピーダンス分光法によって測定される。
【0072】
研究した種々の組成物を以下の表2に示す。
【0073】
[比較例-図2
図2及び図3は、温度による誘電率の大きな変化を示す。さらに、70/30のモル組成を有するP(VDF-TrFE)コポリマーについては、温度上昇と温度下降との間のヒステリシスは相当大きい。したがって、同じ温度に対して、2つの可能な誘電率値があり、これは電界効果トランジスタでの使用には望ましくない。しかしながら、43/57のモル組成を有するP(VDF-TrFE)コポリマーについては、ヒステリシスは無視できる。
【0074】
いくつかのP(VDF-TrFE)コポリマーについて観察されたヒステリシスは、示差走査熱量測定によっても測定することができ、これにより、加熱時及び冷却時の転移ピークにおけるキュリー温度を測定することが可能になる。表1は、DSCによって測定された、第2の加熱及び第3の冷却における転移ピークにおけるキュリー温度値を含む。43/57のモル組成を有するP(VDF-TrFE)コポリマーについては、ΔTは2℃未満である。
【0075】
SuR.らによる論文、Polymer、2012、53、728-739、DOI、10.1016/j.polymer.2012.01.00151/49のモル組成を有するP(VDF-TrFE)コポリマーについてのこのヒステリシスの存在が確認され、キュリー温度は加熱時に64℃、冷却時に60℃で測定された。
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】
【0078】
[本発明による実施例-図4~6]
ターポリマーは、それ自体で、温度と共に大きく変化する誘電率を示す。しかしながら、誘電率の安定性は、本研究の範囲であるところの、TrFEに富んだコポリマーとのブレンドの場合に観察される(図4及び6)。コポリマーを添加しても、ブレンドはヒステリシスを発現しない。(図5)。誘電率の増加が観察される。この結果は驚くべきことであり、3%又は6%のPMMAの添加が誘電率を低下させる特許WO2017/093145の実施例(比較例C2及びC3)とは異なる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6