(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】エマルジョン製剤及びその調製方法
(51)【国際特許分類】
A61K 39/00 20060101AFI20240624BHJP
A61K 39/39 20060101ALI20240624BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20240624BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240624BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20240624BHJP
C07K 14/47 20060101ALN20240624BHJP
【FI】
A61K39/00 H ZNA
A61K39/39
A61K9/107
A61P35/00
A61P35/04
C07K14/47
(21)【出願番号】P 2020554980
(86)(22)【出願日】2019-11-01
(86)【国際出願番号】 JP2019043023
(87)【国際公開番号】W WO2020091040
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2022-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2018207779
(32)【優先日】2018-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000207827
【氏名又は名称】大鵬薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土井 祐輔
【審査官】春田 由香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/060235(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/083763(WO,A1)
【文献】MONCADA C et al.,Simple method for the preparation of antigen emulsions for immunization,Journal of Immunological Methods,1993年,Vol.162, No.1,pp.133-140,ISSN 0022-1759
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00-39/44
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
医中誌WEB
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンカーを介して連結された4つのCTLエピトープペプチドを含むCTLエピトープ4連結ペプチドを水相中に含有する、油中水型(w/o)エマルジョン製剤であって、
下記の3種類のCTLエピトープ4連結ペプチド:
RRRR-PEP7-RR-PEP13-RR-PEP8-RR-PEP2(配列番号19)、
PEP5-RR-PEP9-RR-PEP6-RR-PEP4(配列番号25)、及び
PEP15-RR-PEP18-RR-PEP1-RR-PEP10(配列番号33)
[上記
において、
PEP1は配列番号1で表されるCTLエピトープペプチドを示し、
PEP2は配列番号2で表されるCTLエピトープペプチドを示し、
PEP4は配列番号4で表されるCTLエピトープペプチドを示し、
PEP5は配列番号5で表されるCTLエピトープペプチドを示し、
PEP6は配列番号6で表されるCTLエピトープペプチドを示し、
PEP7は配列番号7で表されるCTLエピトープペプチドを示し、
PEP8は配列番号8で表されるCTLエピトープペプチドを示し、
PEP9は配列番号9で表されるCTLエピトープペプチドを示し、
PEP10は配列番号10で表されるCTLエピトープペプチドを示し、
PEP13は配列番号13で表されるCTLエピトープペプチドを示し、
PEP15は配列番号15で表されるCTLエピトープペプチドを示し、そして
PEP18は配列番号18で表されるCTLエピトープペプチドを示す。]
を含有し、CTLエピトープ4連結ペプチドの水相中の濃度が3種類の合計量として3~27mg/mLである、上記製剤。
【請求項2】
3種のCTLエピトープ4連結ペプチドと油性アジュバントとを含有する、請求項1記載の油中水型エマルジョン製剤。
【請求項3】
CTLエピトープ4連結ペプチドを含有する水相と油性アジュバントを含有する油相とを混合して乳化して得られる、請求項1又は2記載の油中水型エマルジョン製剤。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項記載のエマルジョン製剤を調製する方法であって、以下の(i)及び(ii)の工程:
(i)油性アジュバントを含有する油相に、CTLエピトープ4連結ペプチドを含有する水相の一部を注入して混合液を調製する工程、及び
(ii)当該混合液を、シリンジコネクタを介して連結したシリンジ間を往復移動させる工程、
を含み、上記水相の一部が、油性アジュバントを有する油相に対し、1/10~1/2倍量(v/v)であり、上記(i)及び(ii)の工程を反復して、上記油相と上記水相の全量とから構成されるエマルジョン製剤を得ることを特徴とする、上記方法。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項記載の油中水型エマルジョン製剤を調製する装置であって、
第2のシリンジ2と、
該第2のシリンジ2に連結したシリンジコネクタ5と、
該シリンジコネクタ5に連結した三方活栓4と、
該三方活栓4に更に連結した第1のシリンジ1及び第3のシリンジ3と
から構成され、該第1のシリンジ1又は該第2のシリンジ2の内部に充填された油相中に、該第3のシリンジ3の内部に充填された水相を添加して、得られる混合液を該シリンジコネクタ5を介して該第1のシリンジ1及び該第2のシリンジ2の間で往復移動させることによって油中水型エマルジョン製剤を製造することを可能とする、上記装置。
【請求項6】
上記第1、第2及び第3のシリンジの容量がそれぞれ3mL以下である、請求項
5記載の装置。
【請求項7】
上記混合液を通過させる上記シリンジコネクタ5の内径が0.8~1.7mmの範囲である、請求項
5又は6記載の装置。
【請求項8】
リンカーを介して連結された4つのCTLエピトープペプチドを含むCTLエピトープ4連結ペプチドと、油性アジュバントと、請求項
5~7のいずれか1項記載の装置とを含む、請求項1~
3のいずれか1項記載の油中水型エマルジョン製剤の調製用キット。
【請求項9】
腫瘍の治療に使用するための、請求項1~
3のいずれか1項記載の油中水型(w/o)エマルジョン製剤。
【請求項10】
請求項1~
3のいずれか1項記載の油中水型(w/o)エマルジョン製剤を製造するための、CTLエピトープ4連結ペプチド溶液の使用。
【請求項11】
腫瘍の治療に使用される油中水型(w/o)エマルジョン製剤を用時調製するための、請求項
5~7のいずれか1項記載の装置、又は請求項
8記載のキット。
【請求項12】
油中水型(w/o)エマルジョン製剤が、請求項1~
3のいずれか1項記載の製剤である、請求項
5~7のいずれか1項記載の装置、又は請求項
8記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペプチドのエマルジョン製剤及び当該製剤を調製する方法に関する。より具体的には、CTLエピトープペプチドと油性アジュバントとを含有する油中水型(w/o)エマルジョン製剤及びその調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年注目されているがんペプチドワクチン療法は、投与された抗原ペプチドを提示するがん細胞表面の主要組織適合遺伝子複合体(MHC)を、エピトープ特異的細胞傷害性Tリンパ球(CTL)の細胞受容体(TCR)が認識し、CTLががん細胞を傷害することで効果を発揮するものである。ヒトにおけるMHCはヒト白血球抗原(HLA)と呼ばれ、HLAの型は非常に多型性を示すことが知られている。
【0003】
有効ながんペプチドは投与対象のヒトのHLA型によって異なるため、個々のがんペプチドワクチンが対象とするHLA型は限定的であったが、HLA-A2、HLA-A24、HLA-A26若しくはHLA-A3スーパータイプのいずれか1つ又は複数のHLA型にCTL誘導能を示す様々なCTLエピトープペプチドを連結したCTLエピトープ4連結ペプチドが報告されている(特許文献1)。
【0004】
一方、がんペプチドワクチンの効果を高めるためのアジュバントとして油性アジュバントが知られている。油性アジュバントを用いてペプチドを、特にがんペプチドワクチンとして製剤化する場合、油中水型(w/o)エマルジョン製剤とすることが一般的である。エマルジョン製剤の場合には経時的な分離・凝集等の問題が生じることが懸念されるため、用時調製することが好ましく、そのための調製方法及び装置が提案されている(特許文献2及び3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2015/060235号
【文献】国際公開第2007/083763号
【文献】特許第5629882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
国際公開第2015/060235号に開示されたようなCTLエピトープ4連結ペプチドのエマルジョン製剤の調製は、当該公報に記載されているが、これらは1種類のCTLエピトープ4連結ペプチドのエマルジョン製剤の調製に関する内容であり、本発明の3種類のCTLエピトープ4連結ペプチドを含むエマルジョン製剤は開示されていない。そのため、本発明の第1の課題は、3種類のCTLエピトープ4連結ペプチドを安定に含有するw/oエマルジョン製剤を提供することにある。
【0007】
また、本発明の3種類のCTLエピトープ4連結ペプチドを含むエマルジョン製剤を標準的なエマルジョン調製法で調製する場合に、調製に時間がかかる上に失敗することもあり、用時調製を行う病院等の現場での負担は多大なものであるとの課題も知られていなかった。本発明者らは、標準的なエマルジョン調製法を用いて、本発明の3種類のCTLエピトープ4連結ペプチドを含むエマルジョン製剤を調製することにより、前記課題を見出した。従って本発明の第2の課題は、上記w/oエマルジョン製剤を効率的に調製する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、油性アジュバントを含む油相に、CTLエピトープ4連結ペプチドを含有する水相を段階的に混合することにより、短時間でかつ効率的にエマルジョン製剤を調製できることを見出し、それにより、3種類のCTLエピトープ4連結ペプチドを含有する安定なw/oエマルジョン製剤を調製することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、次の〔1〕~〔13〕を提供するものである。
〔1〕 リンカーを介して連結された4つのCTLエピトープペプチドを含むCTLエピトープ4連結ペプチドを水相中に含有する、油中水型(w/o)エマルジョン製剤であって、3種のCTLエピトープ4連結ペプチドを含有する、上記製剤。
〔2〕 3種のCTLエピトープ4連結ペプチドと油性アジュバントとを含有する、上記〔1〕記載の油中水型エマルジョン製剤。
〔3〕 CTLエピトープ4連結ペプチドを含有する水相と油性アジュバントを含有する油相とを混合して乳化して得られる、上記〔1〕又は〔2〕記載の油中水型エマルジョン製剤であって、当該CTLエピトープ4連結ペプチドを含有する水相が、それぞれ下記一般式(I)で表される1種類のペプチドと、(II)で表される1種類のペプチドと、(III)で表される1種類のペプチドとで構成される3種類のCTLエピトープ4連結ペプチド:
A-(L)-B-(L)-C-(L)-PEP2 (I)、
D-(L)-E-(L)-F-(L)-PEP4 (II)及び
G-(L)-H-(L)-I-(L)-PEP10 (III)
(一般式(I)、(II)及び(III)中、
(L)は、リンカーを示し、
PEP2は配列番号2で表されるCTLエピトープペプチドを示し、
PEP4は配列番号4で表されるCTLエピトープペプチドを示し、
PEP10は配列番号10で表されるCTLエピトープペプチドを示し、
A、B、C、D、E、F、G、H及びIは、各々配列番号1で表されるCTLエピトープペプチド(PEP1)、配列番号5で表されるCTLエピトープペプチド(PEP5)、配列番号6で表されるCTLエピトープペプチド(PEP6)、配列番号7で表されるCTLエピトープペプチド(PEP7)、配列番号8で表されるCTLエピトープペプチド(PEP8)、配列番号9で表されるCTLエピトープペプチド(PEP9)、配列番号13で表されるCTLエピトープペプチド(PEP13)、配列番号15で表されるCTLエピトープペプチド(PEP15)及び配列番号18で表されるCTLエピトープペプチド(PEP18)からなる群から相異なって選択され(AがPEP7でありBがPEP8である組み合わせを除く)、
一般式(I)、(II)及び(III)で表されるCTLエピトープ4連結ペプチドは親水性アミノ酸からなるペプチド配列を有していてもよい。)
を含む溶液である、上記エマルジョン製剤。
〔4〕 上記一般式(I)、(II)及び(III)中、(L)はリンカーを示し、A、B及びCは、各々PEP7、PEP8及びPEP13からなる群から相異なって選択され(AがPEP7でありBがPEP8である組み合わせを除く)、D、E及びFは、各々PEP5、PEP6及びPEP9からなる群から相異なって選択され、G、H及びIは、各々PEP1、PEP15及びPEP18からなる群から相異なって選択され、一般式(I)で表されるペプチドは親水性アミノ酸からなるペプチド配列を有していてもよい、上記〔3〕記載のエマルジョン製剤。
〔5〕 上記一般式(I)で表されるペプチドが、以下からなる群:
・PEP7-(L)-PEP13-(L)-PEP8-(L)-PEP2;
・PEP8-(L)-PEP7-(L)-PEP13-(L)-PEP2;
・PEP8-(L)-PEP13-(L)-PEP7-(L)-PEP2;
・PEP13-(L)-PEP7-(L)-PEP8-(L)-PEP2;及び
・PEP13-(L)-PEP8-(L)-PEP7-(L)-PEP2;
から選択され、上記一般式(II)で表されるペプチドが、以下からなる群:
・PEP5-(L)-PEP6-(L)-PEP9-(L)-PEP4;
・PEP5-(L)-PEP9-(L)-PEP6-(L)-PEP4;
・PEP6-(L)-PEP5-(L)-PEP9-(L)-PEP4;
・PEP6-(L)-PEP9-(L)-PEP5-(L)-PEP4;
・PEP9-(L)-PEP5-(L)-PEP6-(L)-PEP4;及び
・PEP9-(L)-PEP6-(L)-PEP5-(L)-PEP4;
から選択され、上記一般式(III)で表されるペプチドが、以下からなる群:
・PEP1-(L)-PEP15-(L)-PEP18-(L)-PEP10;
・PEP1-(L)-PEP18-(L)-PEP15-(L)-PEP10;
・PEP15-(L)-PEP1-(L)-PEP18-(L)-PEP10;
・PEP15-(L)-PEP18-(L)-PEP1-(L)-PEP10;
・PEP18-(L)-PEP1-(L)-PEP15-(L)-PEP10;及び
・PEP18-(L)-PEP15-(L)-PEP1-(L)-PEP10;
から選択され、一般式(I)で表されるペプチドはN末端に親水性アミノ酸からなるペプチド配列を有していてもよい、上記〔3〕又は〔4〕記載のエマルジョン製剤。
〔6〕 上記一般式(I)、(II)及び(III)中、(L)がアルギニンダイマーであって、親水性アミノ酸からなるペプチド配列がアルギニンテトラマーである、上記〔3〕~〔5〕のいずれか記載のエマルジョン製剤。
〔7〕 上記一般式(I)、(II)及び(III)で表される3種類のCTLエピトープ4連結ペプチドが、RRRR-PEP7-RR-PEP13-RR-PEP8-RR-PEP2(配列番号19)、PEP5-RR-PEP9-RR-PEP6-RR-PEP4(配列番号25)、及びPEP15-RR-PEP18-RR-PEP1-RR-PEP10(配列番号33)である、上記〔3〕~〔6〕のいずれか記載のエマルジョン製剤。
〔8〕 上記〔1〕~〔7〕のいずれか記載のエマルジョン製剤を調製する方法であって、以下の(i)及び(ii)の工程:
(i)油性アジュバントを含有する油相に、CTLエピトープ4連結ペプチドを含有する水相の一部を注入して混合液を調製する工程、及び
(ii)当該混合液を、シリンジコネクタを介して連結したシリンジ間を往復移動させる工程、
を含み、上記(i)及び(ii)の工程を反復して、上記油相と上記水相の全量とから構成されるエマルジョン製剤を得ることを特徴とする、上記方法。
〔9〕 上記水相の一部が、油性アジュバントを有する油相に対し、1/10~1/2倍量(v/v)である、上記〔8〕記載の方法。
〔10〕 ペプチドを含有する油中水型エマルジョン製剤を調製する装置であって、
第2のシリンジ2と、
該第2のシリンジ2に連結したシリンジコネクタ5と、
該シリンジコネクタ5に連結した三方活栓4と、
該三方活栓4に更に連結した第1のシリンジ1及び第3のシリンジ3と
から構成され、該第1のシリンジ1又は該第2のシリンジ2の内部に充填された油相中に、該第3のシリンジ3の内部に充填された水相を添加して、得られる混合液を該シリンジコネクタ5を介して該第1のシリンジ1及び該第2のシリンジ2の間で往復移動させることによって油中水型エマルジョン製剤を製造することを可能とする、上記装置。
〔11〕 上記第1、第2及び第3のシリンジの容量がそれぞれ3mL以下である、上記〔10〕記載の装置。
〔12〕 上記混合液を通過させる上記シリンジコネクタ5の内径が0.8~1.7mmの範囲である、上記〔10〕又は〔11〕記載の装置。
〔13〕 リンカーを介して連結された4個のCTLエピトープペプチドを含むCTLエピトープ4連結ペプチドと、油性アジュバントと、上記〔10〕~〔12〕のいずれか記載の装置とを含む、CTLエピトープ4連結ペプチドを含有するw/oエマルジョンの調製用キット。
【0010】
本発明は、以下の態様にも関する。
〔14〕 上記〔1〕~〔7〕のいずれか記載の油中水型(w/o)エマルジョン製剤を患者に投与することを含む、患者における腫瘍の治療方法。
〔15〕 腫瘍の治療に使用するための、上記〔1〕~〔7〕のいずれか記載の油中水型(w/o)エマルジョン製剤。
〔16〕 上記〔1〕~〔7〕のいずれか記載の油中水型(w/o)エマルジョン製剤を製造するための、CTLエピトープ4連結ペプチド溶液の使用。
〔17〕 腫瘍の治療に使用される油中水型(w/o)エマルジョン製剤を用時調製するための、上記〔10〕~〔12〕のいずれか記載の装置、又は上記〔13〕記載のキット。
〔18〕 油中水型(w/o)エマルジョン製剤が、上記〔1〕~〔7〕のいずれか記載の製剤である、上記〔10〕~〔12〕のいずれか記載の装置、又は上記〔13〕記載のキット。
〔19〕 (a)以下の(i)及び(ii)の工程:
(i)油性アジュバントを含有する油相に、CTLエピトープ4連結ペプチドを含有する水相の一部を注入して混合液を調製する工程、及び
(ii)当該混合液を、シリンジコネクタを介して連結したシリンジ間を往復移動させる工程、
を含み、上記(i)及び(ii)の工程を反復して、上記油相と上記水相の全量とから構成される、上記〔1〕~〔7〕のいずれか記載のエマルジョン製剤を調製すること、及び
(b)得られたエマルジョン製剤を腫瘍を有する患者に投与すること
を含む、患者における腫瘍の治療方法。
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2018-207779号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法によれば、CTLエピトープ4連結ペプチドと油性アジュバントを段階的に混合することにより、短時間で効率的に安定なw/oエマルジョン製剤を調製することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明のエマルジョン製剤を調製するために好適に使用できる装置において、第1のシリンジ1、シリンジコネクタ5、及び第2のシリンジ2間での液の移動を可能とし、第3のシリンジ3との液の移動がない状態の装置を模式的に示す。矢印は通液方向を示す。
【
図2】本発明のエマルジョン製剤を調製するために好適に使用できる装置において、第1のシリンジ1及び第3のシリンジ3の間での液の移動を可能とし、第2のシリンジ2及びシリンジコネクタ5との液の移動がない状態の装置を模式的に示す。矢印は通液方向を示す。
【
図3】分割調製法によってエマルジョン製剤を製造した場合の本乳化時のシリンジの往復回数(A:0回;B:10回;C:20回;D:30回;E:60回)と得られるエマルジョンの粒子径の関係を示す。
【
図4】三方活栓を用いたエマルジョン調製法によってエマルジョン製剤を製造した場合の本乳化時のシリンジの往復回数と得られるエマルジョンの粒子径の関係を示す。
【
図5】本発明の方法によって得られるw/oエマルジョン製剤の粒子径の均一性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<油中水型(w/o)エマルジョン製剤>
本発明は、リンカーを介して連結された4つのCTLエピトープペプチドを含むCTLエピトープ4連結ペプチドを水相中に含有する、油中水型(w/o)エマルジョン製剤であって、3種のCTLエピトープ4連結ペプチドを含有する、上記製剤を提供する。より具体的には、リンカーを介して連結された4つのCTLエピトープペプチドを含むCTLエピトープ4連結ペプチドと、油性アジュバントとを含有するw/oエマルジョン製剤であって、3種のCTLエピトープ4連結ペプチドを含有する、上記製剤を提供する。
【0014】
本発明において、CTLエピトープ4連結ペプチドは、同一及び/又は異なる腫瘍抗原分子由来のCTLエピトープペプチドから選ばれる4つのペプチドを、リンカーを介して直鎖状に連結して1分子としたペプチドを意味する。
【0015】
本発明において、上記のエマルジョン製剤は、CTLエピトープ4連結ペプチド溶液と油性アジュバントとを混合し、エマルジョン化して得ることができる。本発明のエマルジョン製剤は、安定したw/oエマルジョン製剤として利用することができることが見出された。
【0016】
腫瘍抗原分子由来のCTLエピトープペプチドとしては、例えば以下のようなものが知られている。
KLVERLGAA(配列番号1、本明細書において「PEP1」と記載する、例えば国際公開第200l/0l1044号);
ASLDSDPWV(配列番号2、本明細書において「PEP2」と記載する、例えば国際公開第2002/010369号);
ALVEFEDVL(配列番号3、本明細書において「PEP3」と記載する、例えば国際公開第2002/010369号);
LLQAEAPRL(配列番号4、本明細書において「PEP4」と記載する、例えば国際公開第2000/12701号);
DYSARWNEI(配列番号5、本明細書において「PEP5」と記載する、例えば特開平11-318455号);
VYDYNCHVDL(配列番号6、本明細書において「PEP6」と記載する、例えば国際公開第2000/12701号);
LYAWEPSFL(配列番号7、本明細書において「PEP7」と記載する、例えば特開2003-000270号);
DYLRSVLEDF(配列番号8、本明細書において「PEP8」と記載する、例えば国際公開第2001/011044号);
QIRPIFSNR(配列番号9、本明細書において「PEP9」と記載する、例えば国際公開第2008/007711号);
ILEQSGEWWK(配列番号10、本明細書において「PEP10」と記載する、例えば国際公開第2009/022652号);
VIQNLERGYR(配列番号11、本明細書において「PEP11」と記載する、例えば国際公開第2009/022652号);
KLKHYGPGWV(配列番号12、本明細書において「PEP12」と記載する、例えば国際公開第1999/067288号);
RLQEWCSVI(配列番号13、本明細書において「PEP13」と記載する、例えば国際公開第2002/010369号);
ILGELREKV(配列番号14、本明細書において「PEP14」と記載する、例えば国際公開第2002/010369号;
DYVREHKDNI(配列番号15、本明細書において「PEP15」と記載する、例えば国際公開第2005/071075号);
HYTNASDGL(配列番号16、本明細書において「PEP16」と記載する、例えば国際公開第2001/011044号);
NYSVRYRPGL(配列番号17、本明細書において「PEP17」と記載する、例えば特開2003-000270号);
RYLTQETNKV(配列番号18、本明細書において「PEP18」と記載する、例えば国際公開第2005/116056号)
【0017】
下記の表1に、CTLエピトープペプチドPEP1~PEP18の由来となるタンパク質の情報を記載する。これらのタンパク質は、腫瘍組織において高発現することが報告されている。
【0018】
【0019】
本発明で好適に使用されるCTLエピトープ4連結ペプチドは、上記CTLエピトープペプチドのうち特定の13種類(配列番号1で表されるペプチド「PEP1」、配列番号2で表されるペプチド「PEP2」、配列番号4で表されるペプチド「PEP4」、配列番号5で表されるペプチド「PEP5」、配列番号6で表されるペプチド「PEP6」、配列番号7で表されるペプチド「PEP7」、配列番号8で表されるペプチド「PEP8」、配列番号9で表されるペプチドを「PEP9」、配列番号10で表されるペプチド「PEP10」、配列番号13で表されるペプチド「PEP13」、配列番号15で表されるペプチド「PEP15」、配列番号17で表されるペプチド「PEP17」及び配列番号18で表されるペプチド「PEP18」)から選択される4種類のCTLエピトープペプチドがリンカーを介して直鎖状に連結したペプチドであり、各CTLエピトープペプチドに特異的なCTLを3つ以上誘導、及び/又は、活性化することができる。なお、CTLエピトープペプチドに特異的な誘導を直接的に評価しなくても、イムノプロテアソームによる切断実験(国際公開第2015/060235号等)により、当該エピトープペプチドに特異的なCTL誘導の有無について判断することができる。
【0020】
本発明において、PEP1、PEP2、PEP4、PEP5、PEP6、PEP7、PEP8、PEP9、PEP10、PEP13、PEP15、PEP17、及びPEP18の各アミノ酸配列において、一又は複数のアミノ酸が置換、挿入、欠失、及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、かつ、元のペプチドと同等又はそれ以上のCTL誘導能及び/又は免疫グロブリン産生誘導能を有するペプチドも、「CTLエピトープペプチド」として使用することができる。ここで「複数」とは2~3個、好ましくは2個である。このようなペプチドとしては、例えば、元のアミノ酸と類似した特性を有するアミノ酸で置換された(すなわち、保存的アミノ酸置換により得られた)ペプチドが挙げられる。
【0021】
「元のペプチドと同等又はそれ以上のCTL誘導能及び/又は免疫グロブリン産生誘導能を有するペプチド」であるか否かは、例えば、国際公開第2015/060235号パンフレットに記載の方法に準じて評価することができる。前記方法を用いて評価する場合、CTL誘導能は、一又は複数のアミノ酸が置換、挿入、欠失、及び/又は付加されたアミノ酸配列を有する試験ペプチドを予め投与したマウス由来の細胞、同系マウス由来の抗原提示細胞及び試験ペプチドを添加したウェルにおけるIFN-γ産生細胞の数を指標とし、得られたΔ値の判定結果(陽性(10≦Δ<100)、中陽性(100≦Δ<200)、強陽性(200≦Δ))が同等又はそれ以上であれば、元のペプチドと同等又はそれ以上のCTL誘導能を有するペプチドであると判断できる。この場合、元のペプチドが「陽性」であり、一又は複数のアミノ酸が置換、挿入、欠失、及び/又は付加されたアミノ酸配列を有するペプチドも「陽性」であれば同等と判断する。また、免疫グロブリン産生誘導能は、試験ペプチドを投与したマウス血清中のCTLエピトープ特異的IgG抗体価を指標とし、得られたIgG抗体価の増加(fold)の測定結果(2<fold<10、10≦fold<100、100≦fold)が同等又はそれ以上であれば、同等又はそれ以上の免疫グロブリン産生誘導能を有するペプチドであると判断できる。この場合、元のペプチドの測定結果が「2<fold<10」の範囲内であり、一又は複数のアミノ酸が置換、挿入、欠失、及び/又は付加されたアミノ酸配列を有するペプチドの測定結果も「2<fold<10」の範囲内であれば同等と判断する。
【0022】
本発明において、リンカーは、CTLエピトープ4連結ペプチドが生体に投与された際に切断され、連結されたCTLエピトープペプチドが個々に分離されることを可能とするものであればよく、例えば、エステル結合、エーテル結合、アミド結合、糖鎖リンカー、ポリエチレングリコールリンカー、アミノ酸リンカーなどが挙げられる。アミノ酸リンカーとして用いられるアミノ酸配列としては、アルギニンダイマー(RR)、アルギニントリマー(RRR)、アルギニンテトラマー(RRRR)、リジンダイマー(KK)、リジントリマー(KKK)、リジンテトラマー(KKKK)、グリシンダイマー(GG)、グリシントリマー(GGG)、グリシンテトラマー(GGGG)、グリシンペンタマー(GGGGG)、グリシンヘキサマー(GGGGGG)、アラニン-アラニン-チロシン(AAY)、イソロイシン-ロイシン-アラニン(ILA)、アルギニン-バリン-リジン-アルギニン(RVKR)等が例示され、好ましくはアルギニンダイマー(RR)又はアルギニントリマー(RRR)であり、より好ましくはアルギニンダイマー(RR)である。エピトープ連結ペプチドにおいて使用されるリンカーは当分野において知られており、当業者であれば適宜選択して使用することができる。
【0023】
本発明で好適に使用されるCTLエピトープ4連結ペプチドは、さらに親水性アミノ酸からなるペプチド配列を有していてもよい。親水性アミノ酸からなるペプチド配列は、CTLエピトープ4連結ペプチドのN末端及び/又はC末端に付加することができ、好ましくはN末端に付加する。親水性アミノ酸からなるペプチド配列は、アルギニン、ヒスチジン、リジン、トレオニン、チロシン、セリン、アスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸、及びグルタミン酸からなる群から選択される1~15個、好ましくは2~10個、さらに好ましくは3~5個の親水性アミノ酸からなるものを選択することができる。例えば、親水性アミノ酸からなるペプチド配列として、アルギニントリマー(RRR)、アルギニンテトラマー(RRRR)、リジントリマー(KKK)、リジンテトラマー(KKKK)、ヒスチジントリマー(HHH)、ヒスチジンテトラマー(HHHH)等が挙げられ、好ましくはアルギニントリマー(RRR)又はアルギニンテトラマー(RRRR)であり、より好ましくはアルギニンテトラマー(RRRR)である。
【0024】
本発明で好適に使用されるCTLエピトープ4連結ペプチドは、配列番号1で表されるペプチド「PEP1」、配列番号2で表されるペプチド「PEP2」、配列番号4で表されるペプチド「PEP4」、配列番号5で表されるペプチド「PEP5」、配列番号6で表されるペプチド「PEP6」、配列番号7で表されるペプチド「PEP7」、配列番号8で表されるペプチド「PEP8」、配列番号9で表されるペプチド「PEP9」、配列番号10で表されるペプチド「PEP10」、配列番号13で表されるペプチド「PEP13」、配列番号15で表されるペプチド「PEP15」、配列番号17で表されるペプチド「PEP17」及び配列番号18で表されるペプチド「PEP18」からなる群より選択される4つのペプチドが、リンカーを介してそれぞれ連結されてなり、親水性アミノ酸からなるペプチド配列を有していてもよい、以下の(1)~(3)より選択されるいずれか一つの特徴を有するペプチドである:
(1)C末端がPEP2である(ただし、N末端にPEP7及びPEP8をN末端側からリンカーを介して隣り合ってこの順で含むものを除く);
(2)C末端がPEP4である;
(3)C末端がPEP10である。
【0025】
本発明で好適に使用されるCTLエピトープ4連結ペプチドとして、好ましくは配列番号1で表されるペプチド「PEP1」、配列番号2で表されるペプチド「PEP2」、配列番号4で表されるペプチド「PEP4」、配列番号5で表されるペプチド「PEP5」、配列番号6で表されるペプチド「PEP6」、配列番号7で表されるペプチド「PEP7」、配列番号8で表されるペプチド「PEP8」、配列番号9で表されるペプチド「PEP9」、配列番号10で表されるペプチド「PEP10」、配列番号13で表されるペプチド「PEP13」、配列番号15で表されるペプチド「PEP15」、配列番号17で表されるペプチド「PEP17」及び配列番号18で表されるペプチド「PEP18」からなる群より選択される重複しない4つのペプチドが、リンカーを介してそれぞれ連結されてなり、親水性アミノ酸からなるペプチド配列を有していてもよい、以下の(1)~(3)より選択されるいずれか一つの特徴を有するペプチドである:
(1)PEP1、PEP7、PEP8及びPEP13から選択される3つのCTLエピトープペプチドを含みC末端がPEP2である(ただし、N末端にPEP7及びPEP8をN末端側からリンカーを介して隣り合ってこの順で含むものを除く);
(2)PEP5、PEP6及びPEP9の3つのCTLエピトープペプチドを含みC末端がPEP4である;
(3)PEP1、PEP13、PEP15、PEP17及びPEP18から選択される3つのCTLエピトープペプチドを含みC末端がPEP10である。
【0026】
本発明で好適に使用されるCTLエピトープ4連結ペプチドとして、より好ましくは以下より選択される配列を含み、親水性アミノ酸からなるペプチド配列を有していてもよいペプチドである:
・PEP1-(L)-PEP7-(L)-PEP8-(L)-PEP2;
・PEP1-(L)-PEP8-(L)-PEP7-(L)-PEP2;
・PEP7-(L)-PEP1-(L)-PEP8-(L)-PEP2;
・PEP8-(L)-PEP1-(L)-PEP7-(L)-PEP2;
・PEP8-(L)-PEP7-(L)-PEP1-(L)-PEP2;
・PEP7-(L)-PEP13-(L)-PEP8-(L)-PEP2;
・PEP8-(L)-PEP7-(L)-PEP13-(L)-PEP2;
・PEP8-(L)-PEP13-(L)-PEP7-(L)-PEP2;
・PEP13-(L)-PEP7-(L)-PEP8-(L)-PEP2;
・PEP13-(L)-PEP8-(L)-PEP7-(L)-PEP2;
・PEP5-(L)-PEP6-(L)-PEP9-(L)-PEP4;
・PEP5-(L)-PEP9-(L)-PEP6-(L)-PEP4;
・PEP6-(L)-PEP5-(L)-PEP9-(L)-PEP4;
・PEP6-(L)-PEP9-(L)-PEP5-(L)-PEP4;
・PEP9-(L)-PEP5-(L)-PEP6-(L)-PEP4;
・PEP9-(L)-PEP6-(L)-PEP5-(L)-PEP4;
・PEP13-(L)-PEP15-(L)-PEP18-(L)-PEP10;
・PEP13-(L)-PEP18-(L)-PEP15-(L)-PEP10;
・PEP15-(L)-PEP13-(L)-PEP18-(L)-PEP10;
・PEP15-(L)-PEP18-(L)-PEP13-(L)-PEP10;
・PEP18-(L)-PEP13-(L)-PEP15-(L)-PEP10;
・PEP18-(L)-PEP15-(L)-PEP13-(L)-PEP10;
・PEP1-(L)-PEP15-(L)-PEP18-(L)-PEP10;
・PEP1-(L)-PEP18-(L)-PEP15-(L)-PEP10;
・PEP15-(L)-PEP1-(L)-PEP18-(L)-PEP10;
・PEP15-(L)-PEP18-(L)-PEP1-(L)-PEP10;
・PEP18-(L)-PEP1-(L)-PEP15-(L)-PEP10;
・PEP18-(L)-PEP15-(L)-PEP1-(L)-PEP10;
・PEP13-(L)-PEP15-(L)-PEP17-(L)-PEP10;
・PEP13-(L)-PEP17-(L)-PEP15-(L)-PEP10;
・PEP15-(L)-PEP13-(L)-PEP17-(L)-PEP10;
・PEP15-(L)-PEP17-(L)-PEP13-(L)-PEP10;
・PEP17-(L)-PEP13-(L)-PEP15-(L)-PEP10;
・PEP17-(L)-PEP15-(L)-PEP13-(L)-PEP10;
(式中「(L)」はリンカーを示す)。
【0027】
本発明で好適に使用されるCTLエピトープ4連結ペプチドとして、より好ましくは上記配列中「L」で表されるリンカーがアミノ酸リンカーであり、親水性アミノ酸からなるペプチド配列を有していてもよいペプチドである。
【0028】
本発明で好適に使用されるCTLエピトープ4連結ペプチドとして、より好ましくは上記配列中「L」で表されるリンカーがアルギニンを2個又は3個連結したアルギニンダイマー又はアルギニントリマーであり、親水性アミノ酸からなるペプチド配列を有していてもよいペプチドである。
【0029】
本発明で好適に使用されるCTLエピトープ4連結ペプチドとして、より好ましくは上記配列中「L」で表されるリンカーがアルギニンを2個又は3個連結したアルギニンダイマー又はアルギニントリマーであり、N末端に親水性アミノ酸としてアルギニンを3個連結したアルギニントリマー又はアルギニンを4個連結したアルギニンテトラマーからなるペプチド配列を有していてもよいペプチドである。
【0030】
なお、本発明で好適に使用されるCTLエピトープ4連結ペプチドは、例えば、国際公開第2015/060235号パンフレットに記載の方法に準じて合成することができる。
【0031】
本発明において、エマルジョン製剤の調製のために使用するCTLエピトープ4連結ペプチド溶液は、3種類のCTLエピトープ4連結ペプチドを含む溶液である。
【0032】
本発明において、3種類のCTLエピトープ4連結ペプチドをエマルジョン製剤に含める場合、3種類のCTLエピトープ4連結ペプチドは、それぞれ下記一般式(I)で表される1種類のペプチドと、(II)で表される1種類のペプチドと、(III)で表される1種類のペプチド:
A-(L)-B-(L)-C-(L)-PEP2 (I)
D-(L)-E-(L)-F-(L)-PEP4 (II)
G-(L)-H-(L)-I-(L)-PEP10 (III)
とから構成され、(L)はリンカーを示し、A、B、C、D、E、F、G、H及びIは、各々PEP1、PEP5、PEP6、PEP7、PEP8、PEP9、PEP13、PEP15及びPEP18からなる群から相異なって選択され(AがPEP7でありBがPEP8である組み合わせを除く)、親水性アミノ酸からなるペプチド配列を有していてもよい、CTLエピトープ4連結ペプチドであることが好ましい。
【0033】
本発明において、好適に使用される3種類のCTLエピトープ4連結ペプチドは、より好ましくは、上記一般式(I)で表される1種類のペプチドと、上記一般式(II)で表される1種類のペプチドと、上記一般式(III)で表される1種類のペプチドとから構成され、(L)はリンカーを示し、上記一般式(I)で表されるペプチドは、以下からなる群:
・PEP7-(L)-PEP13-(L)-PEP8-(L)-PEP2;
・PEP8-(L)-PEP7-(L)-PEP13-(L)-PEP2;
・PEP8-(L)-PEP13-(L)-PEP7-(L)-PEP2;
・PEP13-(L)-PEP7-(L)-PEP8-(L)-PEP2;及び
・PEP13-(L)-PEP8-(L)-PEP7-(L)-PEP2;
から選択され、上記一般式(II)で表されるペプチドは、以下からなる群:
・PEP5-(L)-PEP6-(L)-PEP9-(L)-PEP4;
・PEP5-(L)-PEP9-(L)-PEP6-(L)-PEP4;
・PEP6-(L)-PEP5-(L)-PEP9-(L)-PEP4;
・PEP6-(L)-PEP9-(L)-PEP5-(L)-PEP4;
・PEP9-(L)-PEP5-(L)-PEP6-(L)-PEP4;及び
・PEP9-(L)-PEP6-(L)-PEP5-(L)-PEP4;
から選択され、上記一般式(III)で表されるペプチドは、以下からなる群:
・PEP1-(L)-PEP15-(L)-PEP18-(L)-PEP10;
・PEP1-(L)-PEP18-(L)-PEP15-(L)-PEP10;
・PEP15-(L)-PEP1-(L)-PEP18-(L)-PEP10;
・PEP15-(L)-PEP18-(L)-PEP1-(L)-PEP10;
・PEP18-(L)-PEP1-(L)-PEP15-(L)-PEP10;及び
・PEP18-(L)-PEP15-(L)-PEP1-(L)-PEP10;
から選択される。なお、一般式(I)で表されるペプチドは親水性アミノ酸からなるペプチド配列をN末端及び/又はC末端に有していてもよい、CTLエピトープ4連結ペプチドである。
【0034】
本発明において好適に使用される3種類のCTLエピトープ4連結ペプチドは、より好ましくは、上記一般式(I)で表される1種類のペプチドと、上記一般式(II)で表される1種類のペプチドと、上記一般式(III)で表される1種類のペプチドとから構成され、(L)はリンカーを示し、上記一般式(I)で表されるペプチドは、以下からなる群:
・PEP7-(L)-PEP13-(L)-PEP8-(L)-PEP2;
・PEP8-(L)-PEP7-(L)-PEP13-(L)-PEP2;
・PEP8-(L)-PEP13-(L)-PEP7-(L)-PEP2;
・PEP13-(L)-PEP7-(L)-PEP8-(L)-PEP2;及び
・PEP13-(L)-PEP8-(L)-PEP7-(L)-PEP2;
から選択され、上記一般式(II)で表されるペプチドは、以下からなる群:
・PEP5-(L)-PEP6-(L)-PEP9-(L)-PEP4;
・PEP5-(L)-PEP9-(L)-PEP6-(L)-PEP4;
・PEP6-(L)-PEP5-(L)-PEP9-(L)-PEP4;
・PEP6-(L)-PEP9-(L)-PEP5-(L)-PEP4;
・PEP9-(L)-PEP5-(L)-PEP6-(L)-PEP4;及び
・PEP9-(L)-PEP6-(L)-PEP5-(L)-PEP4;
から選択され、上記一般式(III)で表されるペプチドは、以下からなる群:
・PEP1-(L)-PEP15-(L)-PEP18-(L)-PEP10;
・PEP1-(L)-PEP18-(L)-PEP15-(L)-PEP10;
・PEP15-(L)-PEP1-(L)-PEP18-(L)-PEP10;
・PEP15-(L)-PEP18-(L)-PEP1-(L)-PEP10;
・PEP18-(L)-PEP1-(L)-PEP15-(L)-PEP10;及び
・PEP18-(L)-PEP15-(L)-PEP1-(L)-PEP10;
から選択され、一般式(I)で表されるペプチドが親水性アミノ酸からなるペプチド配列としてN末端にアルギニントリマー又はアルギニンテトラマーを有する、CTLエピトープ4連結ペプチドの組合せである。
【0035】
本発明において好適に使用される3種類のCTLエピトープ4連結ペプチドは、より好ましくは、RRRR-PEP7-(L)-PEP13-(L)-PEP8-(L)-PEP2、PEP5-(L)-PEP9-(L)-PEP6-(L)-PEP4、及びPEP15-(L)-PEP18-(L)-PEP1-(L)-PEP10であり、(L)はリンカーを示す、CTLエピトープ4連結ペプチドの組合せである。
【0036】
本発明において好適に使用される3種類のCTLエピトープ4連結ペプチドは、最も好ましくは、RRRR-PEP7-RR-PEP13-RR-PEP8-RR-PEP2(配列番号19)、PEP5-RR-PEP9-RR-PEP6-RR-PEP4(配列番号25)、及びPEP15-RR-PEP18-RR-PEP1-RR-PEP10(配列番号33)である、CTLエピトープ4連結ペプチドの組合せである。
【0037】
本発明の態様の1つにおいて、3種類のCTLエピトープ4連結ペプチドは、下記一般式(I’):
A-RR-B-RR-C-RR-PEP2 (I’)
で表される1種類のペプチドと、下記一般式(II’):
D-RR-E-RR-F-RR-PEP4 (II’)
で表される1種類のペプチドと、下記一般式(III’):
G-RR-H-RR-I-RR-PEP10 (III’)
で表される1種類のペプチドとから構成され、RRはアルギニンダイマーを示し、A、B、C、D、E、F、G、H及びIは、各々PEP1、PEP5、PEP6、PEP7、PEP8、PEP9、PEP13、PEP15及びPEP18からなる群から相異なって選択され(AがPEP7でありBがPEP8である組み合わせを除く)、一般式(I’)、(II’)及び(III’)で表されるCTLエピトープ4連結ペプチドのいずれか1つがN末端にアルギニンテトラマーを有する、CTLエピトープ4連結ペプチドの組合せである。
【0038】
本発明において好適に使用される3種類のCTLエピトープ4連結ペプチドとして、より好ましくは、上記一般式(I’)で表される1種類のペプチドと、上記一般式(II’)で表される1種類のペプチドと、上記一般式(III’)で表される1種類のペプチドとから構成され、上記一般式(I’)で表されるペプチドは、以下からなる群:
・RRRR-PEP7-RR-PEP13-RR-PEP8-RR-PEP2(配列番号19);
・RRRR-PEP8-RR-PEP7-RR-PEP13-RR-PEP2(配列番号20);
・RRRR-PEP8-RR-PEP13-RR-PEP7-RR-PEP2(配列番号21);
・RRRR-PEP13-RR-PEP7-RR-PEP8-RR-PEP2(配列番号22);及び
・RRRR-PEP13-RR-PEP8-RR-PEP7-RR-PEP2(配列番号23);
から選択され、上記一般式(II’)で表されるペプチドは、以下からなる群:
・PEP5-RR-PEP6-RR-PEP9-RR-PEP4(配列番号24);
・PEP5-RR-PEP9-RR-PEP6-RR-PEP4(配列番号25);
・PEP6-RR-PEP5-RR-PEP9-RR-PEP4(配列番号26);
・PEP6-RR-PEP9-RR-PEP5-RR-PEP4(配列番号27);
・PEP9-RR-PEP5-RR-PEP6-RR-PEP4(配列番号28);及び・PEP9-RR-PEP6-RR-PEP5-RR-PEP4(配列番号29);
から選択され、上記一般式(III’)で表されるペプチドは、以下からなる群:
・PEP1-RR-PEP15-RR-PEP18-RR-PEP10(配列番号30);
・PEP1-RR-PEP18-RR-PEP15-RR-PEP10(配列番号31);
・PEP15-RR-PEP1-RR-PEP18-RR-PEP10(配列番号32);
・PEP15-RR-PEP18-RR-PEP1-RR-PEP10(配列番号33);
・PEP18-RR-PEP1-RR-PEP15-RR-PEP10(配列番号34);及び
・PEP18-RR-PEP15-RR-PEP1-RR-PEP10(配列番号35);
から選択され、RRはアルギニンダイマー、RRRRはアルギニンテトラマーを示す、CTLエピトープ4連結ペプチドの組合せである。
【0039】
本発明において、CTLエピトープ4連結ペプチドを含有する水相としては、凍結乾燥した3種類のCTLエピトープ4連結ペプチドを溶解液で溶解した溶液を用いることができる。CTLエピトープ4連結ペプチドを凍結乾燥する際は、添加剤としてトレハロース等を含んでいてよい。そのため、CTLエピトープ4連結ペプチドを含有する水相としては、添加剤としてトレハロース等を含むものであっても良い。上記溶解液は、注射剤用の溶解液を用いることができ、例えば、注射用水や生理食塩水が挙げられ、特に注射用水が好ましい。また、CTLエピトープ4連結ペプチドの水相中の濃度は、3種類の合計量として3~27mg/mLが好ましく、6~18mg/mLがより好ましく、7~12mg/mLがより好ましく、9mg/mLがより好ましい。
【0040】
また、本発明のエピトープ4連結ペプチドを水相中に含有する、油中水型(w/o)エマルジョン製剤は、CTLエピトープ4連結ペプチドを3種類の合計量として用量当たり3~27mg含有することが好ましく、6~18mg含有することがより好ましく、7~12mg含有することがより好ましく、9mg含有することがより好ましい。
【0041】
本発明のエピトープ4連結ペプチドを水相中に含有する、油中水型(w/o)エマルジョン製剤の粒子径は、平均粒子径が1~3μmであることが好ましい。より好適には、平均粒子径が1~3μmであって、粒子径1~3μmの範囲に、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは99%以上のエマルジョン製剤が存在することが好ましい。
【0042】
本発明のエピトープ4連結ペプチドを水相中に含有する、油中水型(w/o)エマルジョン製剤の粘度は、特に限定するものではないが、200~400mPa・Sが好ましい。
【0043】
本発明において、油性アジュバントは、水相と混合して乳化した時にw/oエマルジョンを形成し、エマルジョンの形態で投与可能な、免疫応答を促進する油性の免疫アジュバントであれば特に限定されない。油性アジュバントとしては、油性成分のみからなるアジュバント単独のものと、油性成分に加えて界面活性剤を含有するものとが含まれる。本発明において好適に使用される油性アジュバントとしては、例えば流動パラフィン、ラノリン、スクワレン、不完全フロイントアジュバント、完全フロイントアジュバント、NH2(Cancer Sci.,101(10):2110-2114,2010)、Montanide ISA 720 VG、Montanide ISA 51 VG等が挙げられる。本発明において、特に好ましい油性アジュバントはMontanide ISA 51 VGであり、これは例えばSEPPIC社から入手することができる。
【0044】
油性アジュバントは、単独でエマルジョン調製のための油相として使用することもでき、また他の油性成分及び/又は界面活性剤との混合物の状態で油相とすることもできる。例えば上記のMontanide ISA 51 VGは、単独でw/oエマルジョン製剤の調製のための油相として使用し得る。
【0045】
w/oエマルジョンを調製することで、水相に溶解した抗原を長期に渡って投与部位に滞留させることが可能であり、また、抗原が油相に保護されることで酵素的分解から保護することもできる。また、抗原が一定以上の粒子サイズの水滴中に内封されることで,抗原単体より免疫細胞による貪食を受けやすく免疫原性を高めることが可能である。このような性質はo/wエマルジョンではなしえない特性であり、本発明の形態のがんワクチンにおいてはw/oエマルジョンを調製することが極めて重要となる。
【0046】
本発明において、エマルジョン製剤を調製する際のCTLエピトープ4連結ペプチドを含有する水相に対する油性アジュバントを含有する油相の量は、0.5~2倍量(v/v)が好ましく、等量がより好ましい。
【0047】
<w/oエマルジョンの調製方法>
本発明はまた、上記の本発明のエマルジョン製剤を調製する方法であって、以下の(i)及び(ii)の工程:
(i)油性アジュバントを含有する油相に、CTLエピトープ4連結ペプチドを含有する水相の一部を注入して混合液を調製する工程、及び
(ii)当該混合液を、シリンジコネクタを介して連結したシリンジ間を往復移動させる工程、
を含み、上記(i)及び(ii)の工程を反復して、上記油相と上記水相の全量とから構成されるエマルジョン製剤を得ることを特徴とする、上記方法を提供する。
【0048】
本発明における「一部」とは、油性アジュバントを有する油相に対し、1/10~1/2倍量(v/v)が好ましく、1/10~2/5倍量(v/v)がより好ましく、1/10~1/5倍量(v/v)がさらに好ましく、1/5倍量(v/v)が最も好ましい。例えば、油性アジュバントの量が1mLの場合、「CTLエピトープ4連結ペプチドを含有する水相」の「一部」は、0.1~0.4mLが好ましく、0.1~0.2mLがより好ましく、0.2mLが最も好ましい。
【0049】
尚、本明細書において、「本乳化」は、それぞれ全量の油相と水相を混合した後に行う乳化作業を示し、「プレ乳化」は全量の油相に対し、分割して水相を混合する毎に行う乳化作業を示す。なお、全量の油相に対し、分割して水相を混合する最後の操作の後の乳化は、それぞれ全量の油相と水相が混合された状態のため、「本乳化」となる。
【0050】
本発明のエマルジョン製剤は、例えば国際公開第2007/083763号に記載された方法を利用して製造することができる。しかしながら、従来知られていた標準的なエマルジョン調製法では、プレ乳化はシリンジを振とうさせる方法でしか実施できないため、より好ましくは、本発明のエマルジョン製剤は、下記に記載する本発明の装置を用い、本発明の方法によって調製することが最も好ましい。
【0051】
具体的には、本発明のエマルジョン製剤は、油性アジュバントを含有する油相とCTLエピトープ4連結ペプチドを含有する水相との混合液を、例えば内径が0.8~1.7mmの範囲の狭い流路を有するシリンジコネクタを介して連結した2本のシリンジ間を往復移動させることによって乳化すること(プレ乳化及び本乳化)で調製することができる。このようなシリンジコネクタとして、例えばGPシリンジコネクタ(ニプロ)が知られている。
【0052】
本発明において、プレ乳化及び本乳化の際に、油性アジュバントを含有する油相とCTLエピトープ4連結ペプチドを含有する水相との混合液を、シリンジコネクタを介して連結したシリンジ間を往復移動させる回数は、例えば10往復以上、20往復以上、30往復以上、40往復以上、50往復以上、又は60往復とすることができる。プレ乳化時の往復回数は、作業効率の観点から10~20往復が好ましく、10回がより好ましい。また、本乳化時の往復回数は、好ましくは10~20往復である。
【0053】
本発明において、CTLエピトープ4連結ペプチドを含有するw/oエマルジョン製剤を調製する方法としては、以下の工程:
(i)油性アジュバントを含有する油相に、CTLエピトープ4連結ペプチドを含有する水相の一部を注入して混合液を調製する工程、及び
(ii)当該混合液を、シリンジコネクタを介して連結したシリンジ間を往復移動させる工程、
を含む。
【0054】
例えば、上記の方法は、以下の(i)及び(ii)の工程:
(i)油性アジュバントを含有する油相に、CTLエピトープ4連結ペプチドを含有する水相の一部を注入して混合液を調製する工程、及び
(ii)当該混合液を、シリンジコネクタを介して連結したシリンジ間を往復移動させる工程、
を含み、上記(i)及び(ii)の工程を反復して、上記油相と上記水相の全量とから構成されるエマルジョン製剤を得ることを特徴とする、上記方法である。
【0055】
この場合、上記水相の一部は、油性アジュバントを有する油相に対し、好ましくは1/10~1/2倍量(v/v)であり、より好ましくは1/10~2/5倍量(v/v)であり、さらに好ましくは1/10~1/5倍量(v/v)であり、最も好ましくは1/5倍量(v/v)であり得る。
【0056】
また、上記(i)及び(ii)の工程を2回~10回反復するものであり、好ましくは3~7回反復するものであり、より好ましくは5回反復するものであり得る。
【0057】
また、CTLエピトープ4連結ペプチドを含有するw/oエマルジョン製剤を調製する方法は、好ましくは以下の(i)及び(ii)の工程を含む方法である。
(i)油性アジュバントを含有する油相に、CTLエピトープ4連結ペプチドを含有する水相を、油相に対して1/5倍量(v/v)ずつ段階的に合計5回注入し、混合液を調製する工程、及び
(ii)上記の注入毎に当該混合液を、シリンジコネクタを介して連結したシリンジ間を往復移動させる工程。
【0058】
CTLエピトープ4連結ペプチドを含有するw/oエマルジョン製剤を調製する方法は、より好ましくは以下の(i)~(iii)の工程を含む方法である。
(i)油性アジュバントを含有する油相に、CTLエピトープ4連結ペプチドを含有する水相を、油相に対して1/5倍量(v/v)注入し、混合液を調製する工程、
(ii)上記の注入後に当該混合液を、シリンジコネクタを介して連結したシリンジ間を10回以上往復移動させる工程、
(iii)上記(i)及び(ii)の工程をさらに4回繰り返す工程、及び
(iv)当該混合液を、シリンジコネクタを介して連結したシリンジ間を10回以上往復移動させる工程。
【0059】
CTLエピトープ4連結ペプチドを含有するw/oエマルジョン製剤を調製する方法は、より好ましくは以下の(i)~(iii)の工程を含む方法である。
(i)Montanide ISA 51 VGに、CTLエピトープ4連結ペプチド溶液をMontanide ISA 51 VGに対して1/5倍量(v/v)注入し、混合液を調製する工程、
(ii)注入後に当該混合液を、シリンジコネクタを介して連結したシリンジ間を10回以上往復移動させる工程、
(iii)上記(i)及び(ii)の工程をさらに4回繰り返す工程、及び
(iv)当該混合液を、シリンジコネクタを介して連結したシリンジ間を10回以上往復移動させる工程。
【0060】
上記のCTLエピトープ4連結ペプチドのエマルジョン製剤を調製する方法は、さらにドロップテストにより得られたエマルジョンの型を確認する工程を含むのが好ましい。本発明において、ドロップテストは、得られたエマルジョンの1滴を水面上に滴下し、エマルジョンの分散の有無を確認するテストである。当該ドロップテストにおいて、エマルジョンがすぐに水に分散しない場合は「water in oil(w/o)エマルジョン」、すぐに水に分散する場合は「oil in water(o/w)エマルジョン」と判断することができる。本発明においてはw/oエマルジョンを得ることが必要である。
【0061】
<装置>
本発明において、CTLエピトープ4連結ペプチドのエマルジョン製剤を調製するために好適に使用し得る装置は、例えば三方活栓に2本のシリンジと1つのシリンジコネクタを連結し、三方活栓に連結したシリンジコネクタにシリンジを連結した装置である。
【0062】
上記の通り、エマルジョン製剤は、用時調製されるものであり、また投与量が少ないため、大量生産には適さず、従って注射用シリンジ等の容量が数mLのシリンジを使用して調製することが好適である。このようなエマルジョン製剤の調製のために、従来、2本のシリンジがコネクタを介して連結された装置を使用する方法が知られていた(国際公開第2007/083763号;特許第5629882号)。
【0063】
本発明のエマルジョン製剤は、上記従来の装置を使用して調製することも可能である。しかしながら、従来の装置では、プレ乳化はシリンジを振ることでしか行えないため、振り方や振る力によってその結果は変わりやすい。従って、プレ乳化として十分に振れたかどうかを時間で管理することは難しく、さらにプレ乳化状態が十分であるか否かの判断は調製者の主観に委ねられていた。そのため、調製者間で差が生じること、また同一調製者であっても調製毎に差が生じることが問題となることを見出した。
【0064】
また、従来の装置を使用した場合、調製に時間がかかり、安定なw/oエマルジョンの調製に失敗することもあったため、用時調製を行う病院等の現場の負担が多大であり、改良が望まれることを見出した。
上記の問題点を解決するために、本発明者等は、エマルジョン製剤の用時調製のために連結された2本のシリンジに、三方活栓を用いて第3のシリンジを連結することで、上記の本発明の方法を簡便に実現できることを見出した。
【0065】
本発明の方法において好適に使用できる装置は、
図1に示すように、第1のシリンジ1と、第2のシリンジ2とがシリンジコネクタ5を介して連結され、更に三方活栓4を介して第3のシリンジ3が連結された構成を有するものである。
【0066】
すなわち、本発明は、ペプチドを含有するw/oエマルジョン製剤を調製する装置であって、
第2のシリンジ2と、
該第2のシリンジ2に連結したシリンジコネクタ5と、
該シリンジコネクタに連結した三方活栓4と、
該三方活栓4に更に連結した第1のシリンジ1及び第3のシリンジ3と
から構成され、該第1のシリンジ1又は該第2のシリンジ2の内部に充填された油相中に、該第3のシリンジ3の内部に充填された水相を添加して、得られる混合液を該シリンジコネクタ5を介して該第1のシリンジ1及び該第2のシリンジ2の間で往復移動させることによってw/oエマルジョン製剤を製造することを可能とする、上記装置を提供する。
【0067】
上記第1、第2及び第3のシリンジの容量は、特に限定するものではないが、例えばそれぞれ3mL以下のものとすることが、調製時の簡便な操作のために好適である。上記の通り、本発明のw/oエマルジョン製剤は、用時調製することが一般的であるため、投与前に調製すべき量は少なく、大量生産の必要性は低い。
また、上記本発明の装置において、上記混合液を通過させる上記シリンジコネクタ5の内径は0.8~1.7mmの範囲であることが好適である。
【0068】
このような装置を用いた調製方法では、
(1)従来のエマルジョン調製法では、プレ乳化はシリンジを振る操作により行っていたため、調製間で水相と油相の混合状態にばらつきが生じやすかったが、本乳化時だけでなく、プレ乳化時にも内径の細いシリンジコネクタを通すことで剪断力が働き、調製間で水相と油相の混合状態のばらつきが小さくなる、
(2)三方活栓を導入し流路の切り替えを可能にすることで、水相の溶液を分割して油相に押し込むことで、オイルリッチな条件を実現すると共に、シリンジプランジャーの往復移動によるプレ乳化が可能となる、
との効果を得ることができる。
【0069】
上記本発明の装置で用いるシリンジ筒部内部の断面積(
図1及び2における破線B部分)は、好ましくはシリンジコネクタ内流路の断面積(
図1及び2における破線A部分)の2~150倍であり、より好ましくは2~50倍である。シリンジ筒部内部の断面積がシリンジコネクタ内流路の断面積の2倍未満であると、上述した効果が十分に発揮されない場合があり、一方、150倍を超えるとシリンジや装置等にかかる負担が大きくなり過ぎるおそれがある。
【0070】
より具体的には、シリンジの筒部内部の断面積は50~500mm2程度とすればよく、シリンジコネクタ内流路の断面積は0.5~30mm2程度とすればよい。なお、シリンジ筒部やシリンジコネクタの断面の形状は特に制限されないが、負担が局所的にかかることを防ぐために円形や楕円形、或いは多角形である略円形が好ましく、円形が特に好ましい。また、当該規定における断面積は、シリンジの筒部内部の断面積と、シリンジコネクタ内に形成されている流路のうち最も細い部分の断面積とする。
【0071】
本発明で用いるシリンジコネクタは、端部においてシリンジと密着させる必要があるため、
図1及び2に示すように、シリンジコネクタ端部6は中央部の流路から円錐状に断面積が広くなる構成としても良い。
【0072】
シリンジコネクタの流路の断面形状を円形にする場合には、当該流路の内径を0.8~1.7mmとすることが好ましく、0.9mm~1.5mmがより好ましい。なお、当該流路の太さが均一でない場合は、流路の内径とは、最も細い部分における内径をいうものとする。また、シリンジコネクタの流路の長さは、10~15mmが好ましい。このようなシリンジコネクタとして、例えばGPシリンジコネクタ(ニプロ)が挙げられる。
【0073】
上記の装置は、例えばエマルジョン製剤の投与前に医療関係者の手によって操作することが可能である。あるいはまた、上記の装置は、特許第5629882号等に開示されている当分野における技術を利用して、第1、第2及び第3のシリンジを固定する機構と、第1、第2及び第3のシリンジのプランジャーをそれぞれ押圧するための第1、第2及び第3の押圧機構と、これらの押圧機構を制御する機構とを備えるように構成された、自動化された装置とすることもできる。
【0074】
また、本発明は、別の態様として、リンカーを介して連結された4つのCTLエピトープペプチドを含むCTLエピトープ4連結ペプチドと、油性アジュバントと、上記の装置とを含む、CTLエピトープ4連結ペプチドを含有するw/oエマルジョンの調製用キットを提供することができる。
【0075】
本発明のエマルジョン製剤を投与する患者において治療の対象となる腫瘍は、抗腫瘍効果の増強効果を奏する範囲であれば特に制限されないが、好ましくはCTLエピトープ4連結ペプチドが抗腫瘍効果を発揮する腫瘍であり、より好ましくはLck、WHSC2、SART2、SART3、MRP3、UBE2V、EGFR、又はPTHrP陽性の悪性腫瘍である。
【0076】
本発明のエマルジョン製剤を用いた治療の対象となる腫瘍としては、具体的には、脳腫瘍、頭頚部癌、消化器癌(食道癌、胃癌、十二指腸癌、肝臓癌、胆道癌(胆嚢・胆管癌など)、膵臓癌、小腸癌、大腸癌(結腸直腸癌、結腸癌、直腸癌など)、消化管間質腫瘍など)、肺癌(非小細胞肺癌、小細胞肺癌)、乳癌、卵巣癌、子宮癌(子宮頚癌、子宮体癌など)、腎癌、尿路上皮癌(膀胱癌、腎盂癌、尿管癌)、前立腺癌、皮膚癌、原発不明癌等が挙げられる。なお、ここで癌には、原発巣のみならず、他の臓器(肝臓など)に転移した癌をも含む。このうち、抗腫瘍効果の観点から、頭頸部癌、消化器癌、肺癌、腎癌、尿路上皮癌、皮膚癌が好ましく、消化器癌、肺癌、尿路上皮癌、皮膚癌がより好ましく、肺癌、尿路上皮癌が特に好ましい。また、本発明の抗腫瘍剤は、腫瘍を外科的に摘出した後に再発防止のために行われる術後補助化学療法に用いるものであっても、腫瘍を外科的に摘出するために事前行われる術前補助化学療法であってもよい。
【0077】
また、本発明において、CTLエピトープ4連結ペプチドを含有するw/oエマルジョン製剤は、有効成分としてのCTLエピトープ4連結ペプチドに加えて、必要に応じて薬学的担体を配合することが可能であり、注射剤として投与することができる。
【0078】
薬学的担体としては、通常の薬剤に汎用される各種のもの、例えば、賦形剤、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、pH調節剤、緩衝剤、安定化剤、無痛化剤等が挙げられる。また、必要に応じて防腐剤、抗酸化剤、着色剤、矯味・矯臭剤等の製剤添加物を用いることもできる。
【0079】
賦形剤としては、乳糖、白糖、D-マンニトール、トレハロース等が挙げられる。
【0080】
溶剤としては、水、プロピレングリコール、生理食塩液等が挙げられる。
【0081】
溶解補助剤としては、ポリエチレングリコール、エタノール、α-シクロデキストリン、マクロゴール400、ポリソルベート80等が挙げられる。
【0082】
懸濁化剤としては、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等が挙げられる。
【0083】
等張化剤としては、塩化ナトリウム、グリセリン、塩化カリウム等が挙げられる。
【0084】
pH調節剤としては、クエン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、塩酸等が挙げられる。
【0085】
緩衝剤としては、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等が挙げられる。
【0086】
抗酸化剤としては、亜硫酸ナトリウム、アスコルビン酸、天然ビタミンE、メチオニン等が挙げられる。
【0087】
本発明のエマルジョン製剤は、注射として、好ましくは静脈内注射として投与される。投与単位形態中に配合されるべきCTLエピトープ4連結ペプチドの量は、CTLエピトープ4連結ペプチド1種あたり1~9mgが好ましく、2~4.5mgがより好ましく、3mgが最も好ましい。
【0088】
上記投与形態を有するCTLエピトープ4連結ペプチド1種あたりの1日あたりの投与量は、患者の症状、体重、年齢、性別等によって異なり一概には決定できないが、1~27mg/bodyが好ましく、2~12mg/bodyがより好ましく、3~9mg/bodyがより好ましく、これを1日1回又は2~3回程度に分けて投与するのが好ましい。
【0089】
本発明のCTLエピトープ4連結ペプチドの投与スケジュールは、癌種や病期等に応じて適宜選択しうる。
当該投与スケジュールは、1週間に1回投与する工程を3回(1日目、8日目、15日目に1日1回)繰り返す計21日間を1サイクルとした投与スケジュールが好ましい。また、3サイクル目以降は、1日目に投与し20日間の休薬を行う(3週間に1回投与する方法)計21日間を1サイクルとした投与スケジュールが好ましい。
【実施例】
【0090】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、下記の実施例は特定の構成の装置を使用して行ったものであり、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0091】
なお、以下の実施例において、特段の記載が無い場合、CTLエピトープ4連結ペプチド溶液は、CTLエピトープ4連結ペプチドとして配列番号19、配列番号25及び配列番号33からなる3種のペプチドをそれぞれ3mg/mLで含有する溶液である。
【0092】
[実施例1 プレ乳化における水相と油相の混合時における分割回数の検討]
GPシリンジコネクタ(内径:1.0mm、流路の長さ:15mm、ニプロ株式会社)を用いてw/oエマルジョンを調製した。調製は、GPシリンジコネクタの取扱説明書に記載された標準的なエマルジョン調製法を用いた。
【0093】
具体的には、CTLエピトープ4連結ペプチド溶液及びMontanide ISA 51 VG(SEPPIC)をそれぞれ1mLずつ充填したシリンジ(Injekt Syringe 2 mL Luer Lock,B Braun)を準備し、空気が混入しないようにGPシリンジコネクタで接続して調製操作を行った。CTLエピトープ4連結ペプチド溶液(水相)の全量(分割無し)をMontanide ISA 51 VG(油相)側のシリンジに押し込み、シリンジを激しく振って(5~10分程度)プレ乳化した。プレ乳化の終点は、液中に明瞭な水滴・油滴を認めず、均一な白濁液になった時点とした。
【0094】
その後、本乳化として、シリンジのプランジャーを交互に押して60往復することでw/oエマルジョンを調製した。エマルジョンの調製は5回行い、ドロップテストによりw/oエマルジョンが得られた割合を判定した。調製したエマルジョンが、容易に水に分散しない場合は「w/oエマルジョン」が得られ、容易に水に分散した場合は「o/wエマルジョン」が得られたと判定した。
【0095】
その結果、表2に示すように、標準的なエマルジョン調製法において、CTLエピトープ4連結ペプチド溶液のw/oエマルジョンが得られた割合は0%であり、標準的なエマルジョン調製法では、CTLエピトープ4連結ペプチド溶液のw/oエマルジョンの調製は著しく困難であることを見出した。
【0096】
上記課題を解決するために、CTLエピトープ4連結ペプチド溶液(水相)とMontanide ISA 51 VG(油相)とを混合する際に、水相を分割して混合する方法(分割調製法)を検討した。具体的には、上記の標準的なエマルジョン調製法において、CTLエピトープ4連結ペプチド溶液(水相)を3分割又は5分割してMontanide ISA 51 VG(油相)側のシリンジに押し込み、シリンジを激しく振ってプレ乳化した。プレ乳化の終点は、液中に明瞭な水滴・油滴を認めず、均一な白濁液になった時点とした(プレ乳化1回あたりのシリンジを激しく振る時間は、5~10分程度)。
【0097】
その後、本乳化として、シリンジのプランジャーを交互に押して60往復することでw/oエマルジョンを調製した。エマルジョンの調製は5回行い、ドロップテストによりw/oエマルジョンが得られた割合を判定した。
【0098】
【0099】
表2に示すように、プレ乳化時にCTLエピトープ4連結ペプチド溶液(水相)を3分割して調製することにより、分割無しの場合に比べ、w/oエマルジョンが得られた割合が向上し、5分割して調製することにより、w/oエマルジョンが得られる割合が著しく向上した。w/oエマルジョンを得るためには水相の分割回数を増やして油相に注入する、すなわちオイルリッチな条件で調製するのが望ましいことが示された。
【0100】
[実施例2 CTLエピトープ4連結ペプチド溶液の分割注入によるエマルジョン調製]
上記実施例1で得られた5分割してCTLエピトープ4連結ペプチド溶液を油相に注入する方法において、エマルジョンの調製者及び実施回数を増やし、w/oエマルジョンが得られた割合を検討した。また、プレ乳化時の調製間での差を低減するために、シリンジを激しく振ってプレ乳化する操作をYS-8D(ヤヨイ)を用いて行った。その結果、表3に示すように、調製者を増やし手動でプレ乳化を行った場合、74%の割合でw/oエマルジョンが得られ、機械でプレ乳化を行った場合、63%の割合でw/oエマルジョンが得られた。エマルジョンの調製者及び実施回数を増やした際に一定の割合でw/oエマルジョンが得られない原因としては、プレ乳化時のシリンジを激しく振る操作は、「均一な白濁液になって時点」を終点としており、その判断は調製者の主観に委ねられているため、得られたエマルジョンは調製者の振り方や振る力にばらつきが生じることが一因であると考えられた。
【0101】
【0102】
[実施例3 三方活栓を用いたエマルジョン調製法]
実施例1に示した通り、プレ乳化はオイルリッチな条件で調製するのが望ましいことが示された。標準的なエマルジョン調製法や分割調製法では、オイルリッチな状況を作り出したとしても、プレ乳化はシリンジを振ることでしか行えないため、先に述べたように振り方や振る力によってその結果は変わりやすい。また、分割調製法において、機械を用いて自動でプレ乳化を行った場合においてもw/oエマルジョンが得られた割合は60%程度であり、さらなる改善を行うことが望ましいことが確認できた。
上記の問題点を解決し、w/oエマルジョンが得られる割合を向上させるために、三方活栓を用いたエマルジョン調製法を考案した。
【0103】
三方活栓を用いたエマルジョン調製法は、空の第1のシリンジ1、Montanide ISA 51 VGを1mL充填した第2のシリンジ2、及びCTLエピトープ4連結ペプチド溶液を1mL充填した第3のシリンジ3(いずれもInjekt Syringe 2 mL Luer Lock,B Braunを使用)を準備し、
図1に示すように、三方活栓4(TS-TR2K,テルモ)の水平方向に空の第1のシリンジ1を接続し、同じく水平方向に、シリンジコネクタ5(GPシリンジコネクタ,ニプロ株式会社)を介してMontanide ISA 51 VGを充填した第2のシリンジ2を直接接続し、第2のシリンジ2のMontanide ISA 51 VGを第1のシリンジ1に移動させ、垂直方向にCTLエピトープ4連結ペプチド溶液を充填した第3のシリンジ3を接続した装置を用いた。
【0104】
プレ乳化は、三方活栓4のコックを
図2のように操作して、第1のシリンジ1及び第3のシリンジ3間で液体の移動が可能となる状態にし、第3のシリンジ3に充填されたCTLエピトープ4連結ペプチド溶液0.2mLを、Montanide ISA 51 VGが充填されている第1のシリンジ1内に押し込んだ。
【0105】
次いで、コックを
図1の状態となるように操作して、第1のシリンジ1及び第2のシリンジ2の間で液体の移動が可能となる状態にし、第1のシリンジ1及び第2のシリンジ2のプランジャーを交互に押し込んで、0.2mLのCTLエピトープ4連結ペプチド溶液と1mLのMontanide ISA 51 VGの混合液を、シリンジコネクタ5を介して第1のシリンジ1と第2のシリンジ2との間を水平方向に往復移動させる操作を行った(プレ乳化)。プレ乳化のために混合液のシリンジ間の往復移動は20往復とした。
【0106】
上記の操作を、第3のシリンジ3からCTLエピトープ4連結ペプチド溶液0.2mLずつを追加して第1のシリンジ1内に押し込み、更に3回繰り返した。第3のシリンジ3からCTLエピトープ4連結ペプチド溶液0.2mLずつを追加して第1のシリンジ1内に押し込む5回目の操作の後は、CTLエピトープ4連結ペプチド溶液と1mLのMontanide ISA 51 VGの混合液を、シリンジコネクタ5を介して第1のシリンジ1と第2のシリンジ2との間を水平方向に往復移動させる操作を60往復行った(本乳化)。w/oエマルジョンの調製成否は、ドロップテストにより判断した。得られたエマルジョンは、ドロップテストによってw/oエマルジョンであることが確認できた。
【0107】
[実施例4 プレ乳化時のシリンジ往復回数の検討]
三方活栓を用いたエマルジョン調製法のさらなる最適化のために、まずはプレ乳化の混合回数を検討した。三方活栓を用いたエマルジョン調製法は、実施例3と同様の装置を用いて、プレ乳化時のシリンジを往復させる回数以外は、実施例3と同様の方法で実施した。
【0108】
上記の方法において、プレ乳化1回当たりのシリンジを往復させる回数を10、15又は20往復でエマルジョン調製を行った。
【0109】
プレ乳化時のシリンジを往復させる回数が10~20往復の範囲において、エマルジョンは容易に水に分散せず、w/oエマルジョンが得られた。以上の結果から、標準的なエマルジョン調製法において、シリンジを激しく振ることにより行っていたプレ乳化に比べ、三方活栓を用いて、プレ乳化時にシリンジを往復させることにより作業効率が改善することが確認できた。
【0110】
[実施例5 本乳化時のシリンジ往復回数の検討]
実施例4において、プレ乳化を10往復する条件において、本乳化時のシリンジを往復させる回数を検討した。すなわち、本乳化時のシリンジを往復させる回数を10、20又は30往復で検討した。また、比較のために、分割調製法(実施例1において、プレ乳化時の分割回数を5分割の条件で実施)における本乳化時のシリンジを往復させる回数の検討も行った。
w/oエマルジョンの調製可否は、ドロップテストを行うことにより判断した。また、それぞれの混合回数にて調製したエマルジョンの粒子径を、湿式・乾式粒度分布測定装置(レーザ回折散乱法)LS 13 320(ベックマン・コールター株式会社)で測定した。
【0111】
測定条件を以下に示す。
使用モジュール:ユニバーサルリキッドモジュール(湿式粒度分布測定)
分散媒:Mineral Oil Light White
分散媒屈折率:1.45
超音波分散:無し
測定試料調製法:エマルジョン1滴を10mLのMineral oil Light White中に一次分散させた。
【0112】
三方活栓を用いたエマルジョン調製法において、本乳化時にシリンジを往復させる回数に関わらず、容易に水に分散することなく、w/oエマルジョンが得られた。また、分割調製法では、本乳化時のシリンジを往復させる回数を60往復行った方法のみドロップテストを行い、w/oエマルジョンが得られたことを確認した。
【0113】
得られたエマルジョンの粒子径は、
図3に示すように、分割調製法では、本乳化時のシリンジを往復させる回数が20往復以下の場合、粒子径にばらつきが見られたのに対し、シリンジを往復させる回数が30往復以上で粒子径が均一かつ同程度になることを確認した。一方、
図4に示すように、三方活栓を用いたエマルジョン調製法では、10往復以上で粒子径が均一かつ同程度となった。
【0114】
[実施例6 三方活栓を用いたエマルジョン調製法における再現性検討]
実施例5の三方活栓を用いたエマルジョン調製法において、本乳化時のシリンジの往復回数を20往復に設定した条件で、エマルジョン調製を行い、得られたエマルジョンの粒子径及び粘性を測定し、調製間における再現性を検討した。
【0115】
粒子径の測定法は実施例5と同様の方法で実施し、粘度の測定は以下の条件で実施した。
使用機器:E型粘度計(東京計器)
Cone:1°34’
サンプル量:約1mL
測定温度:30℃
回転数:10rpm
【0116】
図5に示すように、3回の実施において得られたエマルジョンの粒子径は、均一かつ同程度であり、粒子径は1~3μmの範囲内であった。また、表4に示すように、3回の実施において得られたエマルジョンの粘度も大きなばらつきは見られなかった。
【0117】
【0118】
[実施例7 三方活栓を用いたエマルジョン調製法]
実施例6の条件において、エマルジョンの調製者及び調製回数を増やし、w/oエマルジョンが得られた割合を検討した。その結果、表5に示すように98%の割合でw/oエマルジョンが得られた。
【0119】
【0120】
以上の結果より、標準的なエマルジョン調製法では、本発明の3種類のCTLエピトープ4連結ペプチドを含むw/oエマルジョン製剤を得ることが著しく困難であったのに対し、CTLエピトープ4連結ペプチド溶液(水相)と油性アジュバントを含有する油相を混合する際に、水相を分割して注入すること(分割調製法)により、w/oエマルジョンを得られることが示された。さらに、三方活栓を用いたエマルジョン調製法により、より高い割合でw/oエマルジョンが得られ、さらに標準的なエマルジョン調製法や分割調製法に比べ、少ない労力かつ短時間でw/oエマルジョンが得られることが示された。
【符号の説明】
【0121】
1 第1のシリンジ
2 第2のシリンジ
3 第3のシリンジ
4 三方活栓
5 シリンジコネクタ
6 シリンジコネクタ端部
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
【配列表】