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  • 特許-エアフィルタ用濾材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】エアフィルタ用濾材
(51)【国際特許分類】
   B01D 39/20 20060101AFI20240624BHJP
   D21H 13/40 20060101ALI20240624BHJP
   D04H 1/4218 20120101ALI20240624BHJP
【FI】
B01D39/20 B
D21H13/40
D04H1/4218
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021021825
(22)【出願日】2021-02-15
(65)【公開番号】P2022124201
(43)【公開日】2022-08-25
【審査請求日】2023-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000241810
【氏名又は名称】北越コーポレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(72)【発明者】
【氏名】目黒 栄子
(72)【発明者】
【氏名】三國 智葉
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-177331(JP,A)
【文献】特開昭62-004418(JP,A)
【文献】特開平03-101804(JP,A)
【文献】特開平06-285314(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0224594(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D39/00-39/20
D04H1/00-18/04
D21H11/00-27/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維を主体とする湿式不織布からなるエアフィルタ用濾材において、
FN1は数1により定義され、
FN2は数2~数5により定義され、
FN1を基準とするFN2の割合であるFN1/FN2が2.50以上であり、且つ、
前記濾材の密度が0.17~0.20g/cmの範囲にあり、
前記濾材中に含まれる前記ガラス繊維のうち、5.5μm未満の平均繊維径を有するガラスウール繊維が、1.0μm未満の平均繊維径を有する極細のガラスウール繊維と2.0μm以上5.5μm未満の平均繊維径を有する太径のガラスウール繊維とを含み、
前記エアフィルタ用濾材の坪量は、84.6~100.4g/m の範囲であることを特徴とするエアフィルタ用濾材。
【数1】
ここで、
: i番目の階級の繊維の繊維径[μm]
: i番目の階級の繊維の配合比率[質量%]
【数2】
ここで、
total : 濾材全体の比表面積より計算した濾材全体の平均繊維径[μm]
【数3】
ここで、
total : 各繊維の比表面積より計算した濾材全体の比表面積[m/g]
【数4】
ここで、
: i番目の繊維の繊維径より計算した比表面積[m/g]
【数5】
ここで、
ρ : ガラスの密度 2.49[g/cm
ただし、数1及び数5のdは数8によって定義され、数1及び数4のxは数9によって定義される。
【数8】
【数9】
ここで、
: i番目の階級の繊維の本数
ただし、数8のおよび数9のxは、以下の方法により決定される。まず、CD方向(濾材ロールの幅方向)に沿って切断した濾材断面の電子顕微鏡等の画像を撮影し、繊維径の測定を行う。その時の倍率については特に限定はしないが、3000倍以上が望ましく、同じ濾材中に使用されている全繊維の繊維径は同じ倍率で撮影する。前記の濾材断面の画像で確認できるガラス繊維の断面が楕円の場合はその短径を繊維径とする。前記の濾材断面の厚さ方向において、濾材の表面から裏面まで厚さ全体にわたるように必要に応じて複数枚の電子顕微鏡写真を撮影し、これら1組の写真を最低単位として各繊維の繊維径を測定する。繊維径の測定点数は400点以上とし、全測定点数が400点未満の場合は、厚さ全体にわたる複数組の写真より測定する。前記の方法により計測した繊維径を0μmから0.1μm刻みで階級分けして、1番目の階級を0μm以上~0.1μm未満、2番目の階級を0.1μm以上~0.2μm未満、最後のn番目の階級を0.1(n-1)μm以上~0.1nμm未満とする。ここで、i番目の階級の繊維径は、数8の式により計算される各階級の中央値とする。次に、電子顕微鏡写真より各階級の繊維の本数を計数し、i番目の階級の繊維の本数をNとして、i番目の階級の繊維の配合比率xを数9の式により計算する。
【請求項2】
前記濾材中に含まれるガラス繊維は、ガラスウール繊維及びチョップドガラス繊維を含み、前記ガラスウール繊維は、各々が異なる平均繊維径を有する少なくとも2種のガラスウール繊維を含むことを特徴とする請求項1に記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項3】
前記濾材中に含まれる全ガラス繊維のうち、5.5μm未満の平均繊維径を有するガラスウール繊維の比率が60~95質量%であり、5.5μm以上の平均繊維径を有するチョップドガラス繊維の配合比率が5~40質量%であることを特徴とする請求項1又は2に記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項4】
前記濾材は、副資材としてバインダー及び撥水剤を含有することを特徴とする請求項1~のいずれか一つに記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項5】
前記濾材中に含まれる全ガラス繊維中の前記太径のガラスウール繊維の配合比率は、少なくとも70%であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載のエアフィルタ用濾材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、気体、特に空気中のダストを濾過するための除塵エアフィルタ用濾材に関し、特に、低い圧力損失及び高い捕集効率を有するとともに、高いダスト保持容量を有することを特徴とするエアフィルタ用濾材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境の変化や個人レベルでの住室内住環境に対する関心の高まりと共に、オフィスや居住空間の空気の清浄化が求められている。空気中の浮遊塵を除去する方法としては、除塵エアフィルタを用いる方法が一般的であり、種々の除塵エアフィルタ用濾材が存在している。それらのうち、大きいものはビルや工場等のシステム空調に使用され、小さいものは空気清浄機やエアコン等で広く使用されている。除塵エアフィルタ用濾材には、コスト及び環境負荷を低減する観点から、少ないエネルギー消費でダストを除去できる低い圧力損失と高い捕集効率を合わせ持つ濾材が求められているとともに、メンテナンスと濾材自体の両方のコストを低減できる、高寿命すなわち高いダスト保持容量を有する濾材が強く求められている
【0003】
ダスト保持容量を上昇させるために、上流側に粗い層、下流側に緻密な層を配して密度勾配を有した、少なくとも2層以上の層を合わせ持つエアフィルタ用濾材が提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。又、別の方法として、発泡性粒子を破裂させた破片で繊維を接着する方法が提案されている(例えば、特許文献2を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-139739号公報
【文献】特開2006-7209号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Journal of Power Sources,Volume 78,Issue 1-2,p.42-45,1999
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記の通り、エアフィルタ用濾材のダスト保持容量を上昇させる方法として、特許文献1の技術が提案されているが、この方法では製造の手間やコストがかかる問題とともに、濾材が厚くなるためにプリーツ加工フィルタユニットにおいて折込み山数が制限されて濾材面積が小さくなり、フィルタユニットの圧力損失が高くなる問題がある。又、特許文献2の技術も提案されているが、この方法では発泡性粒子の作る空隙が大きすぎるために、濾材の均一性及び捕集効率を低くする問題がある。
【0007】
エアフィルタ用濾材には、低い圧力損失、高い捕集効率及び高いダスト保持容量を合わせ持つことが求められているが、従来の技術ではこれらの特性の全てを合わせ持つ濾材を得ることができなかった。したがって、本発明の課題は、低い圧力損失及び高い捕集効率を有するとともに、高いダスト保持容量を有するエアフィルタ用濾材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、本発明のエアフィルタ用濾材における適切なガラス繊維の配合比率を記述するために、ガラス繊維の繊維径と該繊維から形成されたシートを通過する圧力損失の関係性を示すFiber Number(以下、FNと略す)を用いることで上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明に係るエアフィルタ用濾材は、ガラス繊維を主体とする湿式不織布からなるエアフィルタ用濾材において、FN1は数1により定義され、FN2は数2~数5により定義され、FN1を基準とするFN2の割合であるFN1/FN2が2.50以上であり、且つ、前記濾材の密度が0.17~0.20g/cmの範囲にあり、前記濾材中に含まれる前記ガラス繊維のうち、5.5μm未満の平均繊維径を有するガラスウール繊維が、1.0μm未満の平均繊維径を有する極細のガラスウール繊維と2.0μm以上5.5μm未満の平均繊維径を有する太径のガラスウール繊維とを含み、前記エアフィルタ用濾材の坪量は、84.6~100.4g/m の範囲であることを特徴とする。濾材中に含まれるガラス繊維のうち、5.5μm未満の平均繊維径を有するガラスウール繊維が、1.0μm未満の平均繊維径を有する極細のガラスウール繊維と2.0μm以上5.5μm未満の平均繊維径を有する太径のガラスウール繊維とを含むことで、濾材の均一性が良好となる。
【0009】
【数1】
ここで、
: i番目の階級の繊維の繊維径[μm]
: i番目の階級の繊維の配合比率[質量%]
【0010】
【数2】
ここで、
total : 濾材全体の比表面積より計算した濾材全体の平均繊維径[μm]
【0011】
【数3】
ここで、
total : 各繊維の比表面積より計算した濾材全体の比表面積[m/g]
【0012】
【数4】
ここで、
: i番目の繊維の繊維径より計算した比表面積[m/g]
【0013】
【数5】
ここで、
ρ : ガラスの密度 2.49[g/cm
【0014】
ただし、数1及び数5のdは数8によって定義され、数1及び数4のxは数9によって定義される。
【0015】
【数8】
【0016】
【数9】
ここで、
: i番目の階級の繊維の本数
【0017】
ただし、数8のおよび数9のxは、以下の方法により決定される。まず、CD方向(濾材ロールの幅方向)に沿って切断した濾材断面の電子顕微鏡等の画像を撮影し、繊維径の測定を行う。その時の倍率については特に限定はしないが、3000倍以上が望ましく、同じ濾材中に使用されている全繊維の繊維径は同じ倍率で撮影する。前記の濾材断面の画像で確認できるガラス繊維の断面が楕円の場合はその短径を繊維径とする。前記の濾材断面の厚さ方向において、濾材の表面から裏面まで厚さ全体にわたるように必要に応じて複数枚の電子顕微鏡写真を撮影し、これら1組の写真を最低単位として各繊維の繊維径を測定する。繊維径の測定点数は400点以上とし、全測定点数が400点未満の場合は、厚さ全体にわたる複数組の写真より測定する。前記の方法により計測した繊維径を0μmから0.1μm刻みで階級分けして、1番目の階級を0μm以上~0.1μm未満、2番目の階級を0.1μm以上~0.2μm未満、最後のn番目の階級を0.1(n-1)μm以上~0.1nμm未満とする。ここで、i番目の階級の繊維径は、数8の式により計算される各階級の中央値とする。次に、電子顕微鏡写真より各階級の繊維の本数を計数し、i番目の階級の繊維の本数をNとして、i番目の階級の繊維の配合比率xを数9の式により計算する。
【0018】
本発明に係るエアフィルタ用濾材では、前記濾材中に含まれるガラス繊維は、ガラスウール繊維及びチョップドガラス繊維を含み、前記ガラスウール繊維は、各々が異なる平均繊維径を有する少なくとも2種のガラスウール繊維を含むことが好ましい。濾材の強度及び剛度が付与され、FN1/FN2と濾材の密度の調整が行いやすい。
【0019】
本発明に係るエアフィルタ用濾材では、前記濾材中に含まれる全ガラス繊維のうち、5.5μm未満の平均繊維径を有するガラスウール繊維の比率が60~95質量%であり、5.5μm以上の平均繊維径を有するチョップドガラス繊維の配合比率が5~40質量%であることが好ましい。必要とする捕集効率と濾材の強度及び剛度と濾材のダスト保持容量とのバランスが良好となる。
【0021】
本発明に係るエアフィルタ用濾材では、前記濾材は、副資材としてバインダー及び撥水剤を含有することが好ましい。濾材の強度及び剛度を高め、撥水性を持たせることができる。本発明に係るエアフィルタ用濾材では、前記濾材中に含まれる全ガラス繊維中の前記太径のガラスウール繊維の配合比率は、少なくとも70%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本開示の効果は、低い圧力損失及び高い捕集効率を有するとともに、高いダスト保持容量を有するエアフィルタ用濾材が得られることである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施例及び比較例における圧力損失とダスト保持容量の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以降、本発明について実施形態を示して詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
【0025】
本発明者らは、本実施形態のエアフィルタ用濾材における適切なガラス繊維の配合比率を記述するために、ガラス繊維の繊維径と該繊維から形成されたシートを通過する圧力損失の関係性を示すFiber Numberを用いた。FNは、0.0167m/秒の気流負荷時における90g/mのシートを通過する圧力損失[Pa]の10分の1の値として定義され、数6に示した経験式により表される(例えば、非特許文献1を参照)。
【0026】
【数6】
ここで、
d : ガラス繊維の繊維径[μm]
【0027】
FNを、各々が異なる繊維径を有する複数のガラス繊維を含む濾材に適用する場合には、以下の2つの計算方法が考えられる。
(1)各繊維のFNを個別に計算した後、各繊維のFNに該繊維の配合比率を乗じて積算する(以下、FN1と称する)。
(2)濾材全体の平均繊維径からFNを計算する(以下、FN2と称する)。
ここで、FN1は、実際に作製した濾材の圧力損失に近い値となるが、FN2は、太径繊維の濾材全体の圧力損失に対する寄与が、濾材全体の平均繊維径に及ぼす寄与に比べて小さいために、実際の圧力損失よりも小さくなる。FN2の値は、各繊維の繊維径の差が大きい場合及び/又は太径繊維の相対的な配合比率が高い場合において、より小さくなる。なお、ここでいうFN1は数1により定義され、FN2は数2~数5の式により定義される。
【0028】
本発明者らは、FN1/FN2の比率が2.50以上となるように、濾材中のガラス繊維の繊維径及び配合比率を調整することにより、濾材のダスト保持容量が高くなることを見出した。これはすなわち、濾材中に含まれる繊維の繊維径の差が大きい及び/又は太径繊維の相対的な配合比率が高いことを意味する。詳細な機構は明らかではないが、太径繊維が形成する粗い繊維ネットワーク構造が、ダスト保持容量に寄与しているものと推定される。FN1/FN2の比率が2.60以上であることがより好ましく、2.70以上であることがさらに好ましい。FN1/FN2の比率の上限は、特に制限はないが、3.50であることが好ましい。
【0029】
本実施形態における濾材の密度は、0.17~0.20g/cmの範囲であり、より好ましくは0.17~0.19g/cmである。濾材の密度が0.20g/cmを超えると、高いダスト保持量を得るために必要な濾材中の空隙の大きさが十分でなくなる。0.17g/cm未満であると濾材の均一性が低くなり、捕集効率が低くなるおそれがある。
【0030】
本実施形態のエアフィルタ用濾材は、ガラスウール繊維とチョップドガラス繊維を含む。ここで言うガラスウール繊維は、火焔延伸法又はロータリー法により延伸されて製造される、繊維径がある程度の分布幅を有する不定形で不連続なウール状のガラス繊維である。繊維径の範囲は一般的に約0.2~約10μmであり、ある程度の分布幅を有することから繊維径の値は一般的に平均繊維径として表される。平均繊維径の値によってガラスウールの繊維のグレードが異なっている。一方で、チョップドガラス繊維は、所定の直径を有する口金から紡糸された連続したガラス繊維を所定の繊維長に切断した定形で直線状のガラス繊維であり、繊維径の範囲は一般的に約4~約30μm、繊維長の範囲は一般的に約1.5~約25mmである。本実施形態の濾材において、繊維径が細く不定形のガラスウール繊維は、捕集効率を高くするとともに濾材中の空隙を保持する効果を有する。繊維径が太く直線状のチョップドガラス繊維は、フィルタユニットの加工時及び使用時に必要とされる強度及び剛度を付与する効果を有するが、一方で、濾材の製造中にウェブ平面方向に配向した状態で堆積しやすいため、チョップドガラス繊維の配合比率が高いと、濾材の密度を高くする。
【0031】
本実施形態に使用する5.5μm未満の平均繊維径を有するガラスウール繊維とは、1.0μm未満の平均繊維径を有する極細のガラスウール繊維と2.0μm以上5.5μm未満の平均繊維径を有する細いガラスウール繊維との両方を含むことが好ましく、0.3μm以上1.0μm未満の平均繊維径を有する極細のガラスウール繊維と2.0μm以上5.5μm未満の平均繊維径を有する細いガラスウール繊維との両方を含むことがより好ましく、0.3μm以上0.7μm未満の平均繊維径を有する極細のガラスウール繊維と3.0μm以上5.5μm未満の平均繊維径を有する細いガラスウール繊維との両方を含むことがさらに好ましく、0.3μm以上0.6μm未満の平均繊維径を有する極細のガラスウール繊維と3.0μm以上5.5μm未満の平均繊維径を有する細いガラスウール繊維との両方を含むことが最も好ましい。配合するガラスウール繊維の平均繊維径の差が大きい方が比率FN1/FN2が大きくなるが、ガラスウール繊維の平均繊維径の差が大きくなりすぎる、言い換えれば極細のガラスウール繊維が細くなりすぎると所定の圧力損失とするための該繊維の配合比率が低くなりすぎて濾材の均一性を損なう。
【0032】
濾材中のガラスウール繊維の配合比率は60~95質量%であることが好ましく、より好ましくは70~90質量%である。配合比率が60質量%未満と低すぎると、必要とする捕集効率が得られなくなる場合がある。配合比率が95質量%超と高すぎると、チョップドガラス繊維の配合比率が相対的に低くなり必要とする強度及び剛度が得られなくなる場合がある。
【0033】
本実施形態に使用するチョップドガラス繊維の平均繊維径は、5.5μm以上であることが好ましく、より好ましくは5.5~11μm、更に好ましくは6~9μmの範囲である。繊維径が5.5μm未満と細すぎると、強度及び剛度に対する効果が十分でなくなる。繊維径が太すぎると、フィルタユニットのプリーツ加工において割れを生じるので、チョップドガラス繊維の平均繊維径の上限は例えば13μmである。又、チョップドガラス繊維の繊維長は3~10mmが好ましい。繊維長が3mm未満と短すぎると、強度及び剛度に対する効果が十分でなくなる場合がある。繊維長が10mm超と長すぎると、湿式抄紙工程において水中に分散してスラリーを形成させる際の分散性が悪くなり濾材の均一性を損なう場合がある。
【0034】
濾材中のチョップドガラス繊維の配合比率は5~40質量%であることが好ましく、より好ましくは10~30質量%である。配合比率が5質量%未満と低すぎると、必要とする強度及び剛度が得られなくなる場合がある。配合比率が40質量%超と高すぎると、濾材の密度が高くなりダスト保持容量を低くするとともに、ガラスウール繊維の配合比率が相対的に低くなり必要とする捕集効率が得られなくなる場合がある。
【0035】
本実施形態のエアフィルタ用濾材は、ガラスウール繊維が、各々が異なる平均繊維径を有するガラスウール繊維を2種類以上含むことが好ましい。これは、本実施形態の濾材を設計する際に、先ず用途に応じて必要とされる強度及び剛度に合わせてチョップドガラス繊維の配合比率を固定し、その後で2種類以上からなるガラスウール繊維の平均繊維径及び/又は配合比率を変化させることで、FN1/FN2の比率を調整することが好ましいためである。ガラスウール繊維とチョップドガラス繊維が各々1種類のみの場合、各繊維の配合比率を変化させた時に複数の物性が同時に影響を受けるためバランスを取りにくい場合がある。
【0036】
本実施形態のエアフィルタ用濾材を設計するにあたり、ガラスウール繊維の平均繊維径は、製造元の公称値を用いることができるが、この他にも、電子顕微鏡等を用いて実測した値や、BET法により測定した比表面積の値より数7の式より計算した値を用いることもできる。
【0037】
【数7】
ここで、
d : 繊維径[μm]
S : 繊維の比表面積[m/g]
ρ : ガラスの密度 2.49[g/cm
【0038】
本実施形態において定義されたFN1/FN2の計算に用いるdおよびxは、以下の方法により決定される。まず、CD方向(濾材ロールの幅方向)に沿って切断した濾材断面の電子顕微鏡等の画像を撮影し、繊維径の測定を行う。その時の倍率については特に限定はしないが、3000倍以上が望ましく、同じ濾材中に使用されている全繊維の繊維径は同じ倍率で撮影する。前記の濾材断面の画像で確認できるガラス繊維の断面が楕円の場合はその短径を繊維径とする。前記の濾材断面の厚さ方向において、濾材の表面から裏面まで厚さ全体にわたるように必要に応じて複数枚の電子顕微鏡写真を撮影し、これら1組の写真を最低単位として各繊維の繊維径を測定する。繊維径の測定点数は400点以上とし、全測定点数が400点未満の場合は、厚さ全体にわたる複数組の写真より測定する。前記の方法により計測した繊維径を0μmから0.1μm刻みで階級分けして、1番目の階級を0μm以上~0.1μm未満、2番目の階級を0.1μm以上~0.2μm未満、最後のn番目の階級を0.1(n-1)μm以上~0.1nμm未満とする。ここで、i番目の階級の繊維径は、数8の式により計算される各階級の中央値とする。次に、電子顕微鏡写真より各階級の繊維の本数を計数し、i番目の階級の繊維の本数をNとして、i番目の階級の繊維の配合比率xを数9の式により計算する。
【0039】
【数8】
ここで、
: i番目の階級の繊維の繊維径[μm]
【0040】
【数9】
ここで、
: i番目の階級の繊維の配合比率[質量%]
: i番目の階級の繊維の本数
【0041】
本実施形態のエアフィルタ用濾材の坪量は、10~100g/mの範囲であることが好ましく、より好ましくは50~90g/mである。坪量が10g/m未満と低すぎると、濾材の強度及び剛度が不足して、フィルタユニットの加工時又は使用時に裂けや割れを発生したり、通風時に変形して圧力損失の上昇を引き起こしたりする場合がある。坪量が100g/m超と高すぎると、フィルタユニット中の濾材面積が小さくなり、圧力損失が高くなる場合がある。なお、坪量は求められる規格により適宜変更されうる。
【0042】
圧力損失は小さい方が好ましいが、一般に圧力損失が小さいとPAO透過率が上昇するため、求められるPAO透過率に応じて圧力損失も適宜変更される。
【0043】
本実施形態においては、エアフィルタ用濾材に必要とされる物性を持たせるために、ガラス繊維以外の副資材を含有させることができる。このような副資材としては、強度及び剛度を持たせるためのバインダー及び撥水性を持たせるための撥水剤等が挙げられる。これらの副資材は、本発明の効果を阻害しない範囲で資材の種類及びその含有率を適宜選択できる。バインダーとしては、バインダー繊維及び非繊維状のバインダー樹脂を用いることができ、主にはバインダー樹脂が用いられる。バインダー樹脂としては、例えば、ポリアクリル酸エステル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレンブタジエン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂等が用いられる。撥水剤としては、例えば、フルオロアルキル樹脂、シリコーン樹脂、パラフィンワックス等が用いられる。これらの副資材は、ガラス繊維とともに水中に分散されるか、又は湿式抄紙された湿潤状態のシートに対して水性分散液の状態で含浸することにより付与される。バインダーと撥水剤との固形分質量比は100/0~80/20であることが好ましい。また、バインダー及び撥水剤の濾材中の含有率は2.0~10.0質量%であることが好ましい。
【0044】
本実施形態において、濾材はガラス繊維を主体とする湿式不織布からなるが、濾材中の全繊維分におけるガラス繊維の割合は50質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、100質量%であることがさらに好ましい。
【0045】
本実施形態のエアフィルタ用濾材の製造方法は湿式抄紙法である。ここでは、ガラス繊維及び必要に応じて副資材を水中で分散して原料スラリーを得て、これを湿式抄紙によりシート化して湿潤状態のシートを得て、ここに必要に応じて副資材を含浸することにより付与し、その後乾燥して、目的とするエアフィルタ用濾材を得る。
【0046】
次に、実施例及び比較例によって本発明を更に詳しく説明する。ただし、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。また、例中の「部」、「%」は、特に断らない限りそれぞれ固形分換算での「質量部」、「質量%」を示す。
【実施例
【0047】
ガラスウール繊維とチョップドガラス繊維を表1~表4に示した配合比率で混合し、パルパーにおいてpH3.0の硫酸酸性の水を用いて、スラリー濃度0.5質量%で離解した後、得られたスラリーを手抄装置において抄紙して湿紙を得た。次に、アクリル樹脂バインダー(商品名:ボンコートAN-155-E、製造元:DIC(株))及びフッ素系撥水剤(商品名:NKガードS-07、製造元:日華化学(株))を固形分比率95/5となる様に混合した含浸液を湿紙に含浸することで付与して、130℃のロータリードライヤーにおいて乾燥して、各実施例及び比較例のエアフィルタ用濾材を得た。尚、含浸液の固形分濃度は、濾材中の含浸成分の含有率が6質量%となる様に調整した。
【0048】
本実施例において用いたガラスウール繊維B-04-F、B-06-F、B-08-F、B-15-F、B-26-R、B-39-R、B-50-R及びチョップドガラス繊維EC6-6SPは、全てUnifrax社製であり、これらの繊維の平均繊維径の値は、製造元の公称値を用いた。
【0049】
実施例及び比較例における繊維配合比率及び物性測定結果を、表1~表8に示した。表5において、実施例14は、参考例14に変更された。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
【表3】
【0053】
【表4】
【0054】
【表5】
【0055】
【表6】
【0056】
【表7】
【0057】
【表8】
【0058】
実施例及び比較例において得られたエアフィルタ用濾材の評価は、以下に示す方法を用いて行った。
【0059】
(1)圧力損失[Pa]
有効面積100cmのエアフィルタ用濾材に5.3cm/秒で通風した時の差圧を微差圧計で測定した。
【0060】
(2)PAO透過率[%]
ラスキンノズルで発生させた多分散ポリアルファオレフィン(以下、PAOと略す)粒子を含む空気を、有効面積0.01mのエアフィルタ用濾材に、面風速5.3cm/秒で通風した時の濾材の上流及び下流におけるPAO粒子の個数を、レーザーパーティクルカウンターKC-18(リオン社製)を使用して測定し、下流個数/上流個数×100の式より透過率を計算した。尚、対象粒子径は0.3~0.4μmとした。
【0061】
(3)PF値
PF値は、圧力損失とPAO透過率の測定値より、数10の式より求めた。PF値が高いほど、低い圧力損失で高い捕集効率(すなわち低い透過率)を有する濾材であることを意味する。
【0062】
【数10】
【0063】
(4)坪量[g/m
JIS P 8124:2011にしたがって測定した。
【0064】
(5)厚さ[mm]
JIS P 8118;1998にしたがって測定した。なお、測定圧力は50kPaとした。
【0065】
(6)密度[g/cm
JIS P 8118;1998にしたがって測定した。
【0066】
(7)ダスト保持容量[g/m
ダスト保持容量は、エアロゾルジェネレーターRBG-1000(PALAS社製)で発生させた試験ダストを含む空気を、荷電粒子中和装置CD2000(PALAS社製)を用いて試験ダストの電荷を中和した後、有効面積0.01mのエアフィルタ用濾材に、面風速10cm/秒で通風し続け、10cm/秒における圧力損失が250Paに到達した時に濾材に付着した粒子の質量をダスト付着前後の濾材の質量の差より求め、これを有効面積で除してダスト保持容量を求めた。なお、試験ダストにはJIS11種関東ローム層粉体を用い、試験ダストの発生濃度は14.5mg/mとした。
【0067】
表1及び表2に示した実施例1~6及び比較例1~4は、坪量が約85g/mで、圧力損失が約40Paとなるように、チョップドガラス繊維の配合比率を30質量%一定として、ガラスウール繊維の繊維径及び配合比率を変化させた。全ての実施例及び比較例において、濾材の密度は0.20g/cmよりも低かったが、FN1/FN2が2.50以上である実施例は、ダスト保持容量が9g/m以上であるのに対して、FN1/FN2が2.50未満である比較例は、ダスト保持容量が8.00g/m未満であり、実施例に比べて低かった。
【0068】
表3及び表4に示した実施例2、5、7~13及び比較例5、6は、坪量が約85g/mで圧力損失が約40Paとなるように、チョップドガラス繊維とガラスウール繊維の配合比率を変化させた。全ての実施例及び比較例において、FN1/FN2は2.50以上であったが、濾材の密度が0.20g/cm未満である実施例は、ダスト保持容量が9g/m以上であるのに対して、濾材の密度が0.20g/cmを超えている比較例は、ダスト保持容量が8.15g/m未満であり、実施例に比べて低かった。
【0069】
表5に示した実施例14及び比較例7は、坪量が約30g/mで、圧力損失が約40Paとなるように、各々の坪量においてガラスウール繊維の繊維径及び配合比率を変化させた。また、表6に示した実施例15及び比較例8は、坪量が約100g/mで、圧力損失が約40Paとなるように、各々の坪量においてガラスウール繊維の繊維径及び配合比率を変化させた。実施例14と比較例7、又は実施例15と比較例8を比較すると、FN1/FN2が2.50以上で且つ濾材の密度が0.20g/cm以下である実施例は、比較例に比べてダスト保持容量が高かった。
【0070】
表7に示した実施例16及び比較例9は、坪量が約85g/mで、圧力損失が約25Paとなるようにガラスウール繊維の平均繊維径及びガラスウール繊維とチョップドガラス繊維の配合比率を変化させた。また、表8に示した実施例17~19及び比較例10は、坪量が約85g/mで、圧力損失が約75Paとなるようにガラスウール繊維の平均繊維径及びガラスウール繊維とチョップドガラス繊維の配合比率を変化させた。実施例16と比較例9、又は実施例17~19と比較例9を比較すると、FN1/FN2が2.50以上で且つ濾材の密度が0.20g/cm以下である実施例は、比較例に比べてダスト保持容量が高かった。
【0071】
実施例及び比較例における圧力損失とダスト保持容量の関係を図1に示す。
【0072】
図1に示す通り、同じ坪量で比較した場合、FN1/FN2が2.50以上で且つ濾材の密度が0.20g/cm以下である実施例は、比較例に比べてダスト保持容量が高かった。
【0073】
更に、全ての実施例において、PF値は12以上であり、低い圧力損失と低い透過率、すなわち高い捕集効率を合わせ持つ濾材を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、気体、特には空気中のダストを濾過するための除塵エアフィルタ用濾材に関して、低い圧力損失及び高い捕集効率を有するとともに、高いダスト保持容量すなわち高寿命を有することから、ビル又は工場等のシステム空調、空気清浄機、エアコン等に利用可能である。

図1