(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】断熱構造、断熱構造の形成方法、及び紙容器
(51)【国際特許分類】
B65D 81/38 20060101AFI20240624BHJP
B65D 3/22 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
B65D81/38 R
B65D3/22 B
(21)【出願番号】P 2021094431
(22)【出願日】2021-06-04
【審査請求日】2024-01-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000223193
【氏名又は名称】東罐興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【氏名又は名称】安彦 元
(72)【発明者】
【氏名】浅野 誠
【審査官】宮崎 基樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-173296(JP,A)
【文献】特開2004-237994(JP,A)
【文献】特開2001-206348(JP,A)
【文献】特開2016-000623(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0041864(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 81/38
B65D 3/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙容器本体に直接的又は間接的に複数の凹凸を形成するエンボス加工が施された断熱部位を備えさせる断熱構造であって、
前記断熱部位は、原紙の表面又は裏面の少なくともいずれか一方に水性コート剤が塗布され、前記水性コート剤が乾燥して形成されたコート層を備え、
前記コート層に複数のクラックを有すること
を特徴とする断熱構造。
【請求項2】
前記原紙は、紙を主材料とするブランクシートであること
を特徴とする請求項1に記載の断熱構造。
【請求項3】
前記エンボス加工により形成された前記複数の凹凸は、縦横に連続すること
を特徴とする請求項1又は2に記載の断熱構造。
【請求項4】
前記コート層の厚みは、5~20μmであること
を特徴とする請求項1~3のうち何れか1項に記載の断熱構造。
【請求項5】
前記コート層において、前記クラックの占める面積割合は、単位面積当たり0.2%を超える(ここで、前記単位面積は、1mm
2とする。)こと
を特徴とする請求項1~4のうち何れか1項に記載の断熱構造。
【請求項6】
前記コート層において、前記クラックの占める面積割合は、単位面積当たり0.9%以上である(ここで、前記単位面積は、1mm
2とする。)こと
を特徴とする請求項1~4のうち何れか1項に記載の断熱構造。
【請求項7】
前記コート層において、前記クラックの占める面積割合は、単位面積当たり11.8%以下である(ここで、前記単位面積は、1mm
2とする。)こと
を特徴とする請求項1~6のうち何れか1項に記載の断熱構造。
【請求項8】
請求項1~7のうち何れか1項に記載の断熱構造の形成方法であって、
前記原紙の表面又は裏面に水性コート剤を塗布するにあたり、前の塗布層が乾燥する前に、次の塗布層を塗り重ね、これら複数の塗布層の全体を乾燥させて前記コート層を形成した後、前記コート層が形成された前記原紙に前記エンボス加工を施すこと
を特徴とする断熱構造の形成方法。
【請求項9】
請求項1~7のうち何れか1項に記載の断熱構造を備えていること
を特徴とする紙容器。
【請求項10】
請求項1~7のうち何れか1項に記載の断熱構造を、前記紙容器本体の外側面を覆う断熱用シートに備えていること
を特徴とする断熱用シート。
【請求項11】
前記紙容器本体は、紙コップ本体であり、前記断熱用シートは、前記紙コップ本体の胴部の外周に沿って巻き付けられる断熱用外スリーブであること
を特徴とする請求項10に記載の断熱用シート。
【請求項12】
請求項11に記載の断熱用シートを備えていること
を特徴とする紙コップ。
【請求項13】
請求項9に記載の紙容器における前記紙容器本体は、紙コップ本体であり、その胴部に前記断熱部位を有し、その表面に前記コート層を備えていること
を特徴とする紙コップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙容器本体に直接的又は間接的に複数の凹凸を形成するエンボス加工が施された断熱部位を備えさせる断熱構造、この断熱構造の形成方法、及びこの断熱構造を備えた紙容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、紙容器本体に直接的又は間接的に複数の凹凸を形成するエンボス加工が施された断熱部位を備えさせる断熱構造によって、断熱性を有するようにした紙容器が知られている。
【0003】
例えば、紙容器本体に間接的に断熱部位を備えさせる断熱構造の例として、特許文献1には、紙容器本体の胴部の外周に沿って、エンボス加工が施され、多数の凹凸が形成された断熱用外スリーブを巻き付け、断熱性を有するようにした紙容器としての紙コップが開示されている。
【0004】
この種の紙容器では、ヒートシールタイプの接着目的や、更に断熱性を上げると共に、艶出し等の見栄えの良さによる高級感を持たせ、商品価値を高める目的等で、紙容器本体の断熱部位の表面又は裏面のいずれかを、例えば樹脂製等のフィルムで被覆するラミネート加工が施されることが多々ある。
【0005】
しかしながら、紙容器本体の断熱部位の表面又は裏面のいずれかを樹脂製等のフィルムで被覆するラミネート加工を施すと、断熱部位にエンボス加工を施す前の形状へ戻そうとする被覆されたフィルムの復元力が働くものと考えられる。このため、断熱部位にエンボス加工で形成された複数の凹凸のエンボス高さが低くなってしまい、断熱性や意匠性等が低下してしまうという問題点があることを独自に見出した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、上述した問題点を鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、複数の凹凸のエンボス高さが低くなってしまい、断熱性や意匠性等が低下してしまうという問題点を改善することができる断熱構造、この断熱構造の形成方法、及びこの断熱構造を備えた紙容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上述した課題を解決するために、紙容器本体に直接的又は間接的に複数の凹凸を形成するエンボス加工が施された断熱部位を備えさせる断熱構造であって、前記断熱部位は、原紙の表面又は裏面の少なくともいずれか一方に水性コート剤が塗布され、前記水性コート剤が乾燥して形成されたコート層を備え、前記コート層に複数のクラックを有した、断熱構造を発明した。
【0009】
第1発明に係る断熱構造は、紙容器本体に直接的又は間接的に複数の凹凸を形成するエンボス加工が施された断熱部位を備えさせる断熱構造であって、前記断熱部位は、原紙の表面又は裏面の少なくともいずれか一方に水性コート剤が塗布され、前記水性コート剤が乾燥して形成されたコート層を備え、前記コート層に複数のクラックを有することを特徴とする。
【0010】
第2発明に係る断熱構造は、第1発明において、前記原紙は、紙を主材料とするブランクシートであることを特徴とする。
【0011】
第3発明に係る断熱構造は、第1発明又は第2発明において、前記エンボス加工により形成された前記複数の凹凸は、縦横に連続することを特徴とする。
【0012】
第4発明に係る断熱構造は、第1発明~第3発明の何れかにおいて、前記コート層の厚みは、5~20μmであることを特徴とする。
【0013】
第5発明に係る断熱構造は、第1発明~第4発明の何れかにおいて、前記コート層において、前記クラックの占める面積割合は、単位面積当たり0.2%を超える(ここで、前記単位面積は、1mm2とする。)ことを特徴とする。
【0014】
第6発明に係る断熱構造は、第1発明~第4発明の何れかにおいて、前記コート層において、前記クラックの占める面積割合は、単位面積当たり0.9%以上である(ここで、前記単位面積は、1mm2とする。)ことを特徴とする。
【0015】
第7発明に係る断熱構造は、第1発明~第6発明の何れかにおいて、前記コート層において、前記クラックの占める面積割合は、単位面積当たり11.8%以下である(ここで、前記単位面積は、1mm2とする。)ことを特徴とする。
【0016】
第8発明に係る断熱構造の形成方法は、第1発明~第7発明の何れかに係る断熱構造の形成方法であって、前記原紙の表面又は裏面に水性コート剤を塗布するにあたり、前の塗布層が乾燥する前に、次の塗布層を塗り重ね、これら複数の塗布層の全体を乾燥させて前記コート層を形成した後、前記コート層が形成された前記原紙に前記エンボス加工を施すことを特徴とする。
【0017】
第9発明に係る紙容器は、第1発明~第7発明の何れかに係る断熱構造を備えていることを特徴とする。
【0018】
第10発明に係る断熱用シートは、第1発明~第7発明の何れかに係る断熱構造を、前記紙容器本体の外側面を覆う断熱用シートに備えていることを特徴とする。
【0019】
第11発明に係る断熱用シートは、第10発明において、前記紙容器本体は、紙コップ本体であり、前記断熱用シートは、前記紙コップ本体の胴部の外周に沿って巻き付けられる断熱用外スリーブであることを特徴とする。
【0020】
第12発明に係る紙コップは、第11発明に係る断熱用シートを備えていることを特徴とする。
【0021】
第13発明に係る紙コップは、第9発明に係る紙容器における前記紙容器本体は、紙コップ本体であり、その胴部に前記断熱部位を有し、その表面に前記コート層を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
上述した構成からなる本発明によれば、紙容器本体に直接的又は間接的に複数の凹凸を形成するエンボス加工が施された断熱部位は、原紙の表面又は裏面の少なくともいずれか一方に水性コート剤が塗布され、水性コート剤が乾燥して形成されたコート層に複数のクラックを有している。実験的検証を行った結果、複数の凹凸のエンボス高さを、ラミネート加工等を施さない原紙のままでエンボス加工を施した場合と同程度に確保できることが分かった。これにより、複数の凹凸のエンボス高さが低くなってしまい、断熱性や意匠性等が低下してしまうという問題点を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1(a)は、本発明の実施形態1に係る紙容器としての紙コップを一部破断して示す側面図であり、
図1(b)は、
図1(a)の紙コップの断熱用シートとしての断熱用外スリーブの裏面を部分的に拡大して示す部分拡大図である。
【
図2】
図2(a)~
図2(d)は、本発明の実施形態1に係る断熱構造の形成方法におけるコート層の形成を段階的に示す説明図である。
【
図3】
図3(a)は、本発明の実施形態2に係る紙容器としての紙コップを示す側面図であり、
図3(b)は、
図3(a)の紙コップにおける紙コップ本体の胴部の表面を部分的に拡大して示す部分拡大図である。
【
図4】
図4は、実験的検証1,2に用いられるサンプルを示す模式図である。
【
図5】
図5は、実験的検証1の結果を示す一覧表である。
【
図6】
図6は、実験的検証2の結果を示す一覧表である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を適用して例示した実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0025】
[実施形態1]
先ず、
図1(a)及び
図1(b)を用いて、本発明の実施形態1に係る紙容器としての紙コップ1Aについて説明する。
図1(a)は、本発明の実施形態1に係る紙容器としての紙コップ1Aを一部破断して示す側面図であり、
図1(b)は、
図1(a)の紙コップ1Aの断熱用シートとしての断熱用外スリーブ3の裏面を部分的に拡大して示す部分拡大図である。
【0026】
本発明の実施形態1に係る紙容器としての紙コップ1Aは、
図1(a)に示すように、紙容器本体としての紙コップ本体11と、紙コップ本体11の胴部11aの外周に沿って巻き付けられる断熱用シートとしての断熱用外スリーブ3と、を備えている。
【0027】
紙コップ本体11は、その上縁部にカール部11bを有する有底で筒状の胴部11aからなる。
【0028】
断熱用外スリーブ3は、
図1(a)及び
図1(b)に示すように、原紙としての紙を主材料とするブランクシート3Aと、このブランクシート3Aの裏面に、水性コート剤が塗布され、この水性コート剤が乾燥して形成されたコート層4Aと、を備えている。
【0029】
また、断熱用外スリーブ3のほぼ全面は、エンボス加工により形成された凹部21と凸部22とからなる複数の凹凸20が、縦横に格子状に連続する断熱部位2を備えた断熱構造10Aとされている。
【0030】
なお、この断熱構造10Aにおけるエンボス加工により形成される複数の凹凸20は、縦横に格子状に連続する形状に限定されず、例えば、横縞状や縦縞状に連続する形状等、その他の形状で実施してもよい。
【0031】
この断熱構造10Aを構成するコート層4Aには、
図1(b)に示すように、複数のクラック5を有する。
【0032】
そして、断熱用外スリーブ3は、紙コップ本体11の胴部11aの外周に沿って巻き付けられ、コート層4Aをヒートシールとして加熱することで接着して取り付けられている。
【0033】
ここで、コート層4Aの厚みは、このコート層4Aによるヒートシールタイプの接着目的では、ヒートシール性を考慮すると、最低限5μmは必要であり、20μmを超えると無駄になるので、5~20μmであることが好ましいことが分かったが、その他の範囲で実施してもよい。
【0034】
また、後述の実験的検証1の結果で示すように、コート層4Aにおいて、複数のクラック5の占める面積割合は、単位面積当たり0.2%を超える(ここで、単位面積は、1mm2とする。)ことが好ましい。
【0035】
さらに、後述の実験的検証1の結果で示すように、コート層4Aにおいて、複数のクラック5の占める面積割合は、単位面積当たり0.9%以上である(ここで、前記単位面積は、1mm2とする。)ことがより好ましい。
【0036】
また、後述の実験的検証2の結果で示すように、コート層4Aにおいて、複数のクラック5の占める面積割合は、単位面積当たり11.8%を超える(ここで、前記単位面積は、1mm2とする。)と、コート層4Aの表面が浮いてしまい、見栄え等の品質がやや劣ってしまうケースがあった。そのため、複数のクラック5の占める面積割合は、単位面積当たり11.8%以下である(ここで、前記単位面積は、1mm2とする。)ことが好ましい。
【0037】
しかしながら、特に、更に断熱性を上げると共に、艶出し等の見栄えの良さによる高級感を持たせ、商品価値を高める目的の後述の実施形態2と異なり、ヒートシールタイプの接着目的の場合は、コート層4Aは、ブランクシート3Aの内側に隠れるので、コート層4Aにおいて、複数のクラック5の占める面積割合は、単位面積当たり11.8%を超えて実施してもよい。
【0038】
次に、本発明の実施形態1に係る断熱構造10Aの形成方法について説明する。
【0039】
まず、
図2(a)に示すように、ブランクシート3Aの裏面に水性コート剤を塗布し、第1の塗布層41を塗る。
【0040】
続いて、
図2(b)に示すように、第1の塗布層41が乾燥する前に、水性コート剤を塗布し、第2の塗布層42を塗り重ねる。
【0041】
続いて、
図2(c)に示すように、第2の塗布層42が乾燥する前に、水性コート剤を塗布し、第3の塗布層43を塗り重ねる。
【0042】
そして、
図2(d)に示すように、第3の塗布層43が乾燥する前に、水性コート剤を塗布し、第4の塗布層を塗り重ね、これら複数の塗布層41,42,43,44の全体を乾燥させてコート層4Aを形成する。なお、コート層4Aは、水性コート剤を1回の塗布のみにより単一の塗布層で形成し、必要な厚みを得るようにして実施してもよい。
【0043】
その後、コート層4Aが裏面に形成されたブランクシート3Aに、エンボス加工機を用いて、コート層4Aを形成するのに用いられる水性コート剤の主成分となる樹脂のガラス転移温度以下で、エンボス加工を施すと、断熱構造10Aが形成される。
【0044】
なお、クラック5は、コート層4Aを形成した段階で必ず有している必要はなく、エンボス加工を施した後に有していればよい。
【0045】
また、ブランクシート3Aの表面にも、更に断熱性を上げると共に、艶出し等の見栄えの良さによる高級感を持たせ、商品価値を高める目的で、コート層4A備えさせて実施してもよい(詳細については、後述の実施形態2を参照。)。
【0046】
また、コート層4Aを形成するのに用いられる水性コート剤の主成分となる比較的ガラス転移温度が高い樹脂としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、変性リプロピレン樹脂、変性ポリエチレン樹脂、ポリエチレンイミン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂、ポリオレフィンアイオノマー樹脂、エチレンアクリル酸共重合樹脂、エチレンメタアクリル酸共重合樹脂、エチレンメタクリル酸メチル共重合樹脂、エチレン塩化ビニル共重合樹脂、エチレンメチルアクリレート共重合樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、アクリル酸樹脂、アクリル酸共重合樹脂、スチレンアクリル酸共重合樹脂、メタクリル酸樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、メタクリル酸共重合樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリヒドロキシアルカン酸樹脂、ポリブチレンサクシネート樹脂、ポリアミド樹脂、共重合ナイロン樹脂、ポリスチレン樹脂、スチレンマレイン酸共重合樹脂、フェノール樹脂、ロジン変性フェノール樹脂等がある。
【0047】
その他、例えば、環境を考慮し、生分解性樹脂等を、コート層4Aを形成するのに用いられる水性コート剤の主成分となる樹脂としてもよい。
【0048】
以上説明した本発明の実施形態1によれば、紙容器本体としての紙コップ本体11に間接的に複数の凹凸20を形成するエンボス加工が施された断熱部位2は、原紙としてのブランクシート3Aの裏面に水性コート剤が塗布され、水性コート剤が乾燥して形成されたコート層4Aに複数のクラック5を有している。後述の実験的検証を行った結果、複数の凹凸20のエンボス高さ(凹部21の外側面と凸部22の外側面との間の長さ)を、ラミネート加工等を施さない原紙としてのブランクシート3Aのままでエンボス加工を施した場合と同程度に確保できることが分かった。これにより、複数の凹凸20のエンボス高さが低くなってしまい、断熱性や意匠性等が低下してしまうという問題点を改善することができる。
【0049】
そのうえ、本発明の実施形態1では、コート層4Aを、コールドクルータイプの接着よりも優れるヒートシールタイプの接着に用いているので、紙コップ1Aを大量生産するうえで、稼働率向上や不良率低減等のメリットもある。
【0050】
また、本発明の実施形態1に係る断熱構造10Aの形成方法によれば、ブランクシート3Aの裏面のコート層4Aに複数のクラック5を容易に形成することができることも確認された。しかも、前の塗布層が乾燥する前に、次の塗布層を塗り重ねればよいので、短時間でコート層4Aを形成することができ、効率がよい。
【0051】
[実施形態2]
次に、
図3(a)及び
図3(b)を用いて、本発明の実施形態2に係る紙容器としての紙コップ1Bについて説明する。
図3(a)は、本発明の実施形態2に係る紙容器としての紙コップ1Bを示す側面図であり、
図3(b)は、
図3(a)の紙コップ1Bにおける紙コップ本体11の胴部11aの表面を部分的に拡大して示す部分拡大図である。
【0052】
本発明の実施形態2に係る紙容器としての紙コップ1Bは、上述の実施形態1に係る紙容器としての紙コップ1Aと相違する点は、主に、断熱用シートとしての断熱用外スリーブ3を有しないで、紙容器本体としての紙コップ本体11に直接的に複数の凹凸20を形成するエンボス加工が施された断熱部位2を備えていることなので、その点について主に説明し、同一構成は同一符号を付し、説明を省略する。
【0053】
この紙コップ1Aでは、
図3(a)及び
図3(b)に示すように、紙コップ本体11の胴部11aを構成する原紙としてのブランクシート11Aの表面に、水性コート剤が塗布され、この水性コート剤が乾燥して形成されたコート層4Bを備えている。
【0054】
また、ブランクシート11Aのカール部11bの除くほぼ全面は、エンボス加工により形成された凹部21と凸部22とからなる複数の凹凸20が、縦横に格子状に連続する断熱部位2を備えた断熱構造10Bとされていることが、実施形態1に係る紙容器としての紙コップ1Aと異なる。
【0055】
この実施形態2に係る紙容器としての紙コップ1Bでは、実施形態1に係る紙容器としての紙コップ1Aとは異なり、コート層4Bを、更に断熱性を上げると共に、艶出し等の見栄えの良さによる高級感を持たせ、商品価値を高める目的で形成している。
【0056】
また、更に商品価値を高めるため、ブランクシート11Aとほぼ透明なコート層4Bとの間に印刷層を設けること等もできる。
【0057】
[実施例1]
以下、本発明の効果を確認するために行った実験的検証1の結果について説明をする。
【0058】
この実験的検証1では、比較例1、比較例2、本発明例1、及び本発明例2のサンプルSは、いずれも、厚さ0.239mmの扇形状の原紙としてのブランクシート3Aを用いた(
図4を参照)。
【0059】
比較例1のサンプルSでは、ブランクシート3Aの片面に厚さ10μmの押し出しラミネート加工を施した。
【0060】
比較例2のサンプルSでは、ラミネート加工等を施さないブランクシート3Aのままとした。
【0061】
本発明例1のサンプルSでは、ブランクシート3Aの片面に厚さ10μmのエンボス加工を施す前ではクラック5が無いコート層4Aを形成した。
【0062】
本発明例2のサンプルSでは、ブランクシート3Aの片面に厚さ10μmのエンボス加工を施す前でもクラック5を有するコート層4Aを形成した。
【0063】
そして、比較例1、比較例2、本発明例1、及び本発明例2のサンプルSでは、いずれも、ブランクシート3Aのトップ側(紙コップ1Aの上側に相当)よりもブランクシート3Aのボトム側(紙コップ1Aの下側に相当)の方が、エンボス高さが低くなるようにエンボス加工を施した。
【0064】
ここで、本発明例1のサンプルSは、コート層4Aにおいて、複数のクラック5の占める面積割合は、単位面積当たり0.21%である(ここで、前記単位面積は、1mm2とする。)。
【0065】
また、本発明例2のサンプルSは、コート層4Aにおいて、複数のクラック5の占める面積割合は、単位面積当たり0.9%である(ここで、前記単位面積は、1mm2とする。)。
【0066】
このようにして構成された比較例1、比較例2、本発明例1、及び本発明例2のサンプルSにおけるブランクシート3Aのトップ側及びボトム側の左右、真ん中のそれぞれ3点の測定箇所P1,P2におけるエンボス高さを測定し、それぞれの平均値を算出した。
【0067】
そのうえで、比較例2、本発明例1、及び本発明例2のサンプルSの平均値から比較例1のサンプルSの平均値を引き、それぞれ比較したところ、
図4に示す試験結果を得られた。
【0068】
なお、このエンボス高さの測定には、ミツトヨ社製の測定器(商品名:デジタルハイトゲージ)を用い、直径25mm、重さ39.5gの円盤を置き、高さを0点に設定した。そして、この円盤の下に、比較例1、比較例2、本発明例1、及び本発明例2のサンプルSをそれぞれ敷き、高さを測定し、この高さをエンボス高さとした。
【0069】
また、本発明例1及び本発明例2のサンプルSのコート層4Aを形成する水性コート剤には、アイオノマー(エチレンメタクリル酸共重合物)を主成分となる樹脂とし、固形分濃度35%の三井化学社製の水性コート剤(商品名:ケミパールS300)に希釈溶剤(イソプロピルアルコール)を5%添加したものを使用した。
【0070】
図5に示す試験結果から、比較例1のサンプルSは、押し出しラミネート加工を施していることから、エンボス加工を施した後も、ラミネート層の樹脂成分が弾性領域にあり、復元力が働き、エンボス高さが低くなってしまうものと考えられる。
【0071】
比較例2のサンプルSは、ラミネート加工等を施さない原紙としてのブランクシート3Aのままとしたものにエンボス加工を施しただけなので、理想のエンボス高さとなることが確認された。
【0072】
これに対し、本発明例1及び本発明例2のサンプルSは、そのエンボス高さが、理想となる比較例2のサンプルSと同程度に確保できることが分かった。これは、コート層4Aの樹脂成分が塑性領域にあり、複数のクラック5の発生によって、エンボス高さが維持されるからであると考えられる。
【0073】
また、本発明例1と本発明例2のサンプルSを比較することにより、コート層4Aにおいて、複数のクラック5の占める面積割合は、単位面積当たり0.2%を超える(ここで、単位面積は、1mm2とする。)ことが好ましいことが分かった。さらに、コート層4Aにおいて、複数のクラック5の占める面積割合は、単位面積当たり0.9%以上である(ここで、前記単位面積は、1mm2とする。)ことがより好ましいことが分かった。
【0074】
その理由としては、コート層4Aにおいて、クラック5の占める面積割合が大きい方が、より塑性変形し易くなり、エンボス高さがより維持されるからであると考えられる。
【0075】
[実施例2]
以下、本発明の効果を確認するために行った実験的検証2の結果について説明をする。
【0076】
この実験的検証2では、上記実験的検証1と同様に、比較例3及び本発明例3のサンプルSは、いずれも、厚さ0.239mmの扇形状の原紙としてのブランクシート3Aを用いた(
図4を参照)。
【0077】
比較例3及び本発明例3のサンプルSでは、いずれも、ブランクシート3Aの片面に厚さ10μmのエンボス加工を施す前でもクラック5を有するコート層4Aを形成した。
【0078】
そして、比較例3及び本発明例3のサンプルSでは、いずれも、ブランクシート3Aのトップ側(紙コップ1Aの上側に相当)よりもブランクシート3Aのボトム側(紙コップ1Aの下側に相当)の方が、エンボス高さが低くなるようにエンボス加工を施した。
【0079】
ここで、比較例3のサンプルSは、コート層4Aにおいて、複数のクラック5の占める面積割合は、単位面積当たり11.84%である(ここで、前記単位面積は、1mm2とする。)。
【0080】
また、本発明例3のサンプルSは、コート層4Aにおいて、複数のクラック5の占める面積割合は、単位面積当たり11.8%である(ここで、前記単位面積は、1mm2とする。)。
【0081】
このようにして構成された比較例3及び本発明例3のサンプルSを5つずつそれぞれ用意し、コート層4Aの表面が浮くケースが有るか否かを確認した。
【0082】
図6に試験結果を示したが、比較例3では、5つ中、2つのサンプルSのコート層4Aの表面が浮いてしまった。
【0083】
これに対し、本発明例3のサンプルSでは、5つ中、1つもサンプルSのコート層4Aの表面が浮いてしまうものはなかった。
【0084】
この試験結果から、コート層4Aにおいて、複数のクラック5の占める面積割合は、単位面積当たり11.8%を超えてしまう(ここで、前記単位面積は、1mm2とする。)と、コート層4Aの表面が浮いてしまい、見栄え等の品質がやや劣ってしまい、特に、本発明の実施形態2に係る紙容器としての紙コップ1Bのように、コート層4Bを、更に断熱性を上げると共に、艶出し等の見栄えの良さによる高級感を持たせ、商品価値を高める目的で形成するものには不利であることが確認された。
【0085】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0086】
上記した実施形態では、本発明を、紙コップ1A,1Bのみに適用したが、これに限定されず、例えば、食品や医薬品の紙容器等、その他の紙容器に適用して実施してもよい。
【符号の説明】
【0087】
10A,10B 断熱構造
1A,1B 紙コップ(紙容器)
11 紙コップ本体(紙容器本体)
11a 胴部
11b カール部
11A ブランクシート(原紙)
2 断熱部位
20 凹凸
21 凹部
22 凸部
3 断熱用外スリーブ(断熱用シート)
3A ブランクシート(原紙)
4A,4B コート層
41,42,43,44 塗布層
5 クラック