(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】締結具の溶接固定方法、締結具の溶接固定装置、及び締結具の溶接固定構造
(51)【国際特許分類】
B23K 11/14 20060101AFI20240624BHJP
【FI】
B23K11/14 310
(21)【出願番号】P 2021097850
(22)【出願日】2021-06-11
【審査請求日】2023-04-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000241496
【氏名又は名称】豊田鉄工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大井 浩一
【審査官】松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-082890(JP,A)
【文献】特開平05-154665(JP,A)
【文献】特開2004-322182(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接用突起を備えた締結具における溶接用突起を、前記締結具を設置する取付母材の所定の溶接部位にプロジェクション溶接するために、前記取付母材側に配設される第1電極部材と前記締結具側に配設される第2電極部材とにより前記溶接用突起と前記溶接部位間を電気導通させて電流を流しプロジェクション溶接する締結具の溶接固定方法であって、
前記締結具の溶接用突起と前記取付母材の溶接部位とをプロジェクション溶接するに際して、前記取付母材に、溶接後に前記締結具が熱収縮する作用方向と逆方向の予歪を付与して溶接を行う締結具の溶接固定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の締結具の溶接固定方法であって、
前記取付母材への予歪の付与は、前記第1電極部材における前記取付母材側への加圧面の形状を前記取付母材側に向けて凸形状とすることにより付与するようにした締結具の溶接固定方法。
【請求項3】
請求項2に記載の締結具の溶接固定方法であって、
前記第1の電極部材に形成する凸形状は円錐形状のテーパ形状である締結具の溶接固定方法。
【請求項4】
請求項1に記載の締結具の溶接固定方法であって、
前記取付母材への予歪の付与は、前記取付母材の形状を事前に前記締結具に向けた凹形状の湾曲形状に形成しておくとともに、前記第1電極部材における前記取付母材への押圧面形状を平面形状として、当該第1電極部材により当該取付母材を押圧することにより付与するようにした締結具の溶接固定方法。
【請求項5】
溶接用突起を備えた締結具における溶接用突起と、前記締結具を取付ける取付母材の所定の溶接部位とを電気導通させてプロジェクション溶接するために、前記取付母材側に配設される第1電極部材と、前記締結具側に配設される第2電極部材とを備える締結具の溶接装置であって、
前記締結具の溶接用突起と前記取付母材の溶接部位とをプロジェクション溶接するに際して、前記取付母材に、溶接後に前記締結具が熱収縮する作用方向と逆方向の予歪を付与する予歪付与手段が備えられている締結具の溶接固定装置。
【請求項6】
請求項5に記載の締結具の溶接固定装置であって、
前記予歪付与手段は、前記第1電極部材における前記取付母材側への加圧面の形状を前記取付母材側に向けた凸形状とした締結具の溶接固定装置。
【請求項7】
請求項6に記載の締結具の溶接固定装置であって、
前記予歪付与手段における前記第1電極部材に形成する凸形状は、円錐状のテーパ形状である締結具の溶接固定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、締結具の溶接固定方法、締結具の溶接固定装置、及び締結具の溶接固定構造に関する。ボルト、ナット等の締結具をプロジェクション溶接により、取付母材に一体化した場合における、溶接後の遅れ破壊を防止するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の構造部材の組付けにはボルト、ナット等の締結具が用いられる。そして、この締結具は一方の構造部材に一体的に固定されて設置される構成をとることがある。そして、この締結具が固定設置される構造部材である当該締結具を設置する取付母材への一体的固定は、通常、プロジェクション溶接により行われる。プロジェクション溶接は、取付母材の溶接個所にプロジェクション(突起部)を設けて、この突起部分に電流を集中して流し、加熱すると同時に加圧接合する抵抗溶接である。なお、突起部は、通常、締結具側に形成される。
【0003】
上記の締結具のプロジェクション溶接にあっては、溶接後において遅れ破壊が生じる問題があることが知られている。特に、この遅れ破壊は、高強度鋼板への締結具のプロジェクション溶接において顕著である。このため、従来から遅れ破壊を防止するための各種提案がなされている。例えば、下記特許文献1や特許文献2の提案がある。この提案内容は、ナットのプロジェクション溶接における溶接後の遅れ破壊の防止を図るために、従来より改良したナット形状とその溶接方法を提案するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5613521号公報
【文献】特許第5626025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記における提案内容による解決策は、ナット形状とその溶接方法の改良による解決策である。したがって、従来汎用のナットとは異なる新たなナットを設計することになるので、コストや部品種類増加の問題が生じる。
【0006】
なお、本出願人の実験による確認においても、上記提案における、取付母材が、実施例として示されている1450MPaレベルにおける高強度鋼板の場合には、遅れ破壊が確実に防止できる効果が確認された。しかし、高強度鋼板のレベルが実施例レベルよりはるかに高い2000MPaレベルでは、充分な効果の確認は困難であった。
【0007】
而して、本発明は上述した点に鑑みて創案されたものであって、本発明が解決しようとする課題は、締結具の形状に改良を加えることなく、取付母材への締結具のプロジェクション溶接の際に、取付母材に伸長方向の予歪を与えて、溶接後に取付母材が戻る方向と締結具が熱収縮する方向とを同位相とすることにより、取付母材の溶接部位に生じる引張残留応力の緩和を図り、遅れ破壊を防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
先ず、上述した本発明の課題を解決するため、本発明に係る締結具溶接方法は、以下の第1の発明~第4の発明の何れかの手段をとる。
【0009】
本発明の第1の発明は、溶接用突起を備えた締結具における溶接用突起を、前記締結具を設置する取付母材の所定の溶接部位にプロジェクション溶接するために、前記取付母材側に配設される第1電極部材と前記締結具側に配設される第2電極部材とにより前記溶接用突起と前記溶接部位間を電気導通させて電流を流しプロジェクション溶接する締結具の溶接固定方法であって、前記締結具の溶接用突起と前記取付母材の溶接部位とをプロジェクション溶接するに際して、前記取付母材に、溶接後に前記締結具が熱収縮する作用方向と逆方向の予歪を付与して溶接を行う締結具の溶接固定方法である。
【0010】
本発明の第2の発明は、上述した第1の発明の締結具の溶接固定方法であって、前記取付母材への予歪の付与は、前記第1電極部材における前記取付母材側への加圧面の形状を前記取付母材側に向けて凸形状とすることにより付与するようにした締結具の溶接固定方法である。
【0011】
本発明の第3の発明は、上述した第2の発明の締結具の溶接固定方法であって、前記第1の電極部材に形成する凸形状は円錐状のテーパ形状である締結具の溶接固定方法である。
【0012】
本発明の第4の発明は、上述した第1の発明の締結具の溶接固定方法であって、前記取付母材への予歪の付与は、前記取付母材の形状を事前に前記締結具に向けた凹形状の湾曲形状に形成しておくとともに、前記第1電極部材における前記取付母材への押圧面形状を平面形状として、当該第1電極部材により当該取付母材を押圧することにより付与するようにした締結具の溶接固定方法である。
【0013】
次に、上述した本発明の課題を解決するため、本発明に係る締結具の溶接固定構造は、以下の第5の発明の手段をとる。
【0014】
本発明の第5の発明は、溶接用突起を備えた締結具と当該締結具を取り付ける取付母材とを、上述した第1の発明~第4の発明の何れかの締結具の溶接固定方法により溶接固定してなる締結具の溶接固定構造である。
【0015】
次に、上述した本発明の課題を解決するため、本発明に係る締結具の溶接固定装置は、以下の第6の発明~第8の発明の手段をとる。
【0016】
本発明の第6の発明は、溶接用突起を備えた締結具における溶接用突起と、前記締結具を取付ける取付母材の所定の溶接部位とを電気導通させてプロジェクション溶接するために、前記取付母材側に配設される第1電極部材と、前記締結具側に配設される第2電極部材とを備える締結具の溶接固定装置であって、前記締結具の溶接用突起と前記取付母材の溶接部位とをプロジェクション溶接するに際して、前記取付母材に、溶接後に前記締結具が熱収縮する作用方向と逆方向の予歪を付与する予歪付与手段が備えられている締結具の溶接固定装置である。
【0017】
本発明の第7の発明は、上記第6の発明の締結具の溶接固定装置であって、前記予歪付与手段は、前記第1電極部材における前記取付母材側への加圧面の形状を前記取付母材側に向けた凸形状とした締結具の溶接固定装置である。
【0018】
本発明の第8の発明は、上記第7の発明の締結具の溶接固定装置であって、前記予歪付与手段における前記第1電極部材に形成する凸形状は、円錐形状のテーパ形状である締結具の溶接固定装置である。
【発明の効果】
【0019】
上述した本発明の各手段によれば、締結具の形状に改良を加えることなく、取付母材への締結具のプロジェクション溶接の際に、取付母材に伸長方向の予歪を与えて、溶接後に取付母材が戻る方向と締結具が熱収縮する方向とを同位相とすることにより取付母材の溶接部に生じる引張残留応力の緩和を図り、遅れ破壊を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】ナットのプロジェクション溶接技術の基本的構成を示す溶接前の状態を示す断面図である。
【
図4】
図3におけるIV部分の拡大図であり、遅れ破壊が生じた状態を示す断面図である。
【
図5】第1実施形態の溶接前における電極部材による加圧前状態を示す断面図である。
【
図6】第1実施形態の溶接前における電極部材による加圧時状態を示す断面図である。
【
図7】第1実施形態の溶接時の状態を示す断面図である。
【
図8】第1実施形態の溶接後の電極解放状態を示す断面図である。
【
図9】
図8におけるIX部分の拡大図であり、遅れ破壊が防止された状態を示す断面図である。
【
図13】溶接用突起を備えたツバ付ナットを上方から見た図である。
【
図15】溶接用突起を備えた四角ナットを上方から見た図である。
【
図17】溶接用突起を備えた一例のボルトを側面から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、ボルト、ナット等の締結具を取付母材にプロジェクション溶接する溶接技術に関するものである。本実施形態では、主にナットのプロジェクション溶接の場合について説明する。なお、図の説明における左右、上下、前後等の方向表示説明は、特に指定しない限り、当該図における方向を示す。
【0022】
<一般的なプロジェクション溶接>
図1~
図4はナット12の一般的なプロジェクション溶接技術の基本的構成を模式的に示す。
図1は溶接前の状態を示す。
図2は溶接時の状態を示す。
図3は溶接後の状態を示す。
図4は溶接後に従来の問題点である溶接個所に遅れ破壊が生じた状態を示す。本実施形態はこの遅れ破壊を防止する技術である。なお、本実施形態の説明では、締結具10の代表例として、主にナット12の場合について説明するが、ボルト14(
図17、
図18参照)やリベット等の締結具にも適用可能である。
【0023】
図1に示すように、ナット12は当該ナット12が溶接により固定設置される取付母材16に重ね合わされて配設される。
図1ではナット12は上方位置、取付母材16は下方位置に配設されている。そして、重ね合わされて配設されるナット12の下面には、溶接用突起18が形成されている。このナット12に形成される溶接用突起18の各種形態は、後述する(
図13以降)。なお、通常、このナット12が設置される取付母材16は、他の取付構造部材(不図示)に当該ナット12とボルトの締結具により締結されて組付けられる。
【0024】
本実施形態のプロジェクション溶接では、
図1に示すように、ナット12の上方位置に一方の電極部材20が配置され、取付母材16の下方位置に他方の電極部材22が配置される。そして、他方の電極部材22上に取付母材16が載置される。したがって、本実施形態における他方の電極部材22が本発明における第1電極部材に相当し、一方の電極部材20が第2電極部材に相当する。
【0025】
なお、ナット12の溶接用の一方と他方の電極部材20、22には、図示は省略したが、通常、位置決め用のガイドピンが配設されており、一方の電極部材20と他方の電極部材22とを位置合わせしている。
図1において他方の電極部材22の中心部位置に破線で示した孔がガイドピン挿通用の孔25である。また、図示は省略されているが、ガイドピン挿通用の孔は取付母材16及びナット12にも設定されている。これにより、ガイドピンが下から順に、他方の電極部材22、取付母材16、ナット12、一方の電極部材20の4者に跨って配設されて位置決めが行われる。
【0026】
上記に説明した溶接前の
図1の状態から、
図2に示すように、一方の電極部材20が下方移動することにより、溶接時状態となり、重ね合わされて配置されたナット12と取付母材16は、一方の電極部材20と他方の電極部材22とにより加圧挟持された状態となる。この状態において、一方の電極部材20と他方の電極部材22は、ナット12の溶接用突起18を介して電気導通状態となって、電流が流れて、取付母材18にナット12がプロジェクション溶接される。すなわち、溶接用突起18に電流による熱が集中し、取付母材16の溶接部位17が軟化して、ナット12の溶接用突起18と取付母材16の溶接部位17が溶接される。
【0027】
図2に示す溶接の際に、ナット12と取付母材16の溶接部位17は、電流が流れて溶接されることに伴う熱の作用により熱膨張する。すなわち、
図2に示す矢印Y1方向に熱膨張する。
図2において、溶接時状態において電流が流れることにより熱膨張する部位は点々模様で示されている。これによると、ナット12の形成部位全体と、ナット12の溶接用突起18が軟化して溶接される取付母材16の溶接部位17が熱膨張する。
【0028】
図2に示す溶接後、
図3に示すように、一方の電極部材20が上方移動すると、溶接後の状態となる。この溶接後の状態では、溶接されたナット12と取付母材16は、一方の電極部材20と他方の電極部材22から解放された状態となり、冷却される。この冷却において、プロジェクション溶接により熱膨張した部位(
図2で点々模様で示した部位)が、
図3に示す矢印Y2方向に熱収縮する。
【0029】
上記の溶接後の冷却作用による熱収縮において、溶接後の数分後~数時間経過後に、溶接した溶接部位17の個所において溶接の遅れ破壊を生じることがある。この遅れ破壊の状態が、
図4に雷矢印Hで示される。
図4は
図3におけるIV部分を拡大図示したものである。なお、この遅れ破壊は、
図4に示すように、溶接時に熱膨張した部位が、冷却によりY2方向に熱収縮し、相対的に取付母材16に矢印F1方向の作用力が生じることにより、Y2とF1の引張残留応力により生じると考えられる。
【0030】
<本実施形態の基本的考え>
本実施形態は、この遅れ破壊の防止を図るものであり、ナット12等の締結具10の形状に改良を加えることなく対応することを特徴とするものである。そのため、本発明者は、汎用部品であるナット12は従来のものを利用して、部品点数を増加させないで改善を図ることを考えた。その結果、本発明者は、取付母材16へナット12を溶接する際に、取付母材16の溶接部17に伸長方向の予歪を与えて、溶接後に取付母材16が戻る方向とナット12が熱収縮する方向とを同位相とするようにすれば、溶接後の取付母材16の溶接部位17に生じる引張残留応力を緩和することができ、遅れ破壊を防止することができることに着眼した。
【0031】
<第1実施形態>
次に、上記の着眼のもとに創案した第1実施形態を説明する。第1実施形態は、上述した
図1~
図3に示す一般的なプロジェクション溶接技術における他方の電極部材を改良することにより、遅れ破壊を防止するようにしたものである。そのため、以後の説明においては、上述した一般的なプロジェクション溶接技術と同じ構成については、同一符号を付することにより詳細な説明を省略した場合がある。
【0032】
第1実施形態は
図5~
図9に示される。
図5~
図9は上述したプロジェクション溶接技術の基本的構成を模式的に示した
図1~
図4に対応して図示されている。したがって、
図5は溶接前における電極部材による加圧前状態を示す。
図6は溶接前における電極部材による加圧時状態を示す。
図7は溶接時の状態を示す。
図8は溶接後の電極解放状態を示す。
図9は溶接後の遅れ破壊が防止された状態を示し、
図8におけるIX部分を拡大して示す。
【0033】
<溶接前における電極部材による加圧前状態>
図5に示される溶接前における電極部材による加圧前状態では、ナット12側に配置される一方の電極部材(第2電極部材)20と、取付母材16側に配置される他方の電極部材(第1電極部材)22は離反状態にある。そして、この一方の電極部材20と他方の電極部材22との間に、ナット12と取付母材16が設置された状態にある。なお、この状態では、取付母材16は平板状態にある。
【0034】
そして、第1実施形態では、取付母材16側に配置される他方の電極部材22の上面形状が円錐形状に形成されている。すなわち、他方の電極部材22における取付母材16側の加圧面の形状が取付母材16側に向けて凸形状24に形成されており、その凸形状24が円錐形状26のテーパ形状に形成されている。詳細には、ガイドピン挿通孔25が形成される中央部位置の上面は平坦面に形成されており、その両側から円錐形状26のテーパ形状の凸形状24に形成されている。
【0035】
その結果、他方の電極部材22の円錐形状の中心線がナット12の中心線と一致する位置関係として配置される。なお、この第1実施形態における取付母材16の形状は、上述した
図1の場合と同様に平板形状の鋼板である。すなわち、自然状態すなわち自由状態では、平板形状となっている。その他の構成は、上述した
図1に示す構成と同じであるので、詳細説明は省略する。
【0036】
<溶接前の加圧時状態>
図5に示される溶接前における電極部材による加圧前状態から、一方の電極部材20を下降移動させることにより、
図6に示される溶接前における電極部材による加圧時状態となる。この状態では、一方の電極部材20と他方の電極部材22との間にナット12と取付母材16が挟持された状態となる。この状態では、他方の電極部材22の円錐形状26の上面が取付母材16に接触して、この円錐形状26により取付母材16が上向きの円錐状の凸形状に弾性変形させられる。すなわち、ナット12の溶接用突起18と他方の電極部材22の上面形状の円錐形状26により、取付母材16は円錐形状26に沿って曲げ変形される。
【0037】
上述の取付母材16の円錐形状26に沿った曲げ変形により、取付母材16には中心から外方に向けて矢印F2方向に予歪が付与される。この予歪は取付母材16の曲げ変形作用が、曲げ外側(上面側)が伸び、曲げ内側(下面側)が収縮する変形作用により付与される。
【0038】
<溶接時の状態>
図6に示す状態において、一方の電極部材20と他方の電極部材22とを通電させることによりナット12のプロジェクション溶接が行われる。この状態が
図7に示す溶接時の状態である。この状態の通電によってナット12の溶接用突起18が圧潰されて、取付母材16の溶接部位17に接合される。
【0039】
この
図7に示す溶接時の状態では、他方の電極部材22の円錐形状26の上面により弾性変形させられた状態でプロジェクション溶接が行われる。この際、前述したように取付母材16には中心から外方に向けて矢印F2方向に予歪が付与される。この予歪は取付母材16の曲げ変形作用が、曲げ外側(上面側)が伸び、曲げ内側(下面側)が収縮する変形作用により付与される。
【0040】
図7に示す溶接時の状態では、上述した
図2の場合と同様に取付母材16の溶接部位17に対してナット12の溶接用突起18によるプロジェクション溶接が行われる。したがって、ナット12は
図2の示す場合と同様に熱膨張する。このナット12に生じる熱膨張方向が、
図2の場合と同様に矢印Y1で示されている。
【0041】
<溶接後の電極解放状態>
図7に示す溶接時の状態でプロジェクション溶接を行った後、
図8に示すように、一方の電極部材20を上方移動させることにより、一方の電極部材20と他方の電極部材22は離間状態となり、溶接作業が終了する。この状態が
図8に示される溶接後の電極解放状態であり、ナット12と取付母材16との溶接個所が冷却される。この溶接後の電極解放状態では、上述した溶接時の状態において他方の電極部材22の円錐形状により上向き形状に変位させられていた取付母材16の予歪が解除されて、取付母材16は平板形状に戻る。この戻り作用により、取付母材16には戻り方向の作用力F3が生じる。一方、ナット12は冷却されることにより、上述した
図3の場合と同様にY2方向に熱収縮する。
【0042】
<遅れ破壊が防止される作用>
図9は、溶接後の電極解放状態を示す
図8におけるIX部分を拡大して示す。この
図9に示されるように、溶接後の取付母材16に生じる予歪の戻り作用力方向F3と、ナット12の収縮作用方向Y2は同位相となっている。これにより、溶接後における取付母材16の溶接部17に生じる引張残留応力が緩和されて、遅れ破壊が生じるのが防止される。
【0043】
<締結具溶接固定構造>
以上に説明した本実施形態の締結具溶接方法及び溶接具固定装置によれば、溶接用突起18を備えたナット12(締結具)と取付母材16の溶接部位17とをプロジェクション溶接により溶接固定してなる締結具溶接固定構造が得られる。そして、この締結具溶接固定構造によれば、溶接後に遅れ破壊が生じることがない構造部材の組付け構造が得られる。
【0044】
<第2実施形態>
図10は第2実施形態を示す。第2実施形態は上述した第1実施形態と同様に、他方の電極部材(第1電極部材)22の上面形状を凸形状24とするものであるが、当該凸形状24が段形状の凸部形状28となっている形態である。この段形状の凸部形状28によっても、上述した第1実施形態の場合と同様の作用をなして、溶接状態時に取付母材16に予歪を付与することができ、溶接後の遅れ破壊を防止することができる。なお、第2実施形態を示す構成において、上述した第1実施形態と実質的に同じ部分には、同じ符号を付すことにより説明を省略した。以下に説明する各実施形態についても同様である。
【0045】
<第3実施形態>
図11は第3実施形態を示す。第3実施形態は上述した第1実施形態及び第2実施形態と同様に、他方の電極部材(第1電極部材)22の上面形状を凸形状24とするものであるが、当該凸形状24が段形状の凸R形状29となっている形態である。この段形状の凸R形状28によっても、上述した第1実施形態又は第2実施形態と同様の作用をなして、溶接状態時に取付母材16に予歪を付与することができ、溶接後の遅れ破壊を防止することができる。
【0046】
<第4実施形態>
図12は第4実施形態を示す。この第4実施形態は、上述した第1実施形態~第3実施形態では、他方の電極部材(第1電極部材)22の上面形状を凸形状24としていたのを、逆に、取付母材16自身の形状を予め中心から周辺に向けて上方に湾曲した形状とした形態である。すなわち、取付母材16の形状を事前にナット12に向けた凹形状の湾曲形状に形成した形態である。なお、この第4実施形態においては、他方の電極部材22の上面形状は平面形状である。かかる第4実施形態においても、溶接時の状態において、取付母材16に予歪が付与される。その結果、上述した各実施形態の場合と実質的に同様の作用により、溶接後の遅れ破壊を防止することができる。
【0047】
<本実施形態の作用効果>
上述した各実施形態によれば、溶接時に取付母材16に予歪を付与してプロジェクション溶接が行われる。これにより、溶接後におけるナット12の熱収縮方向と、取付母材16に付与した予歪の戻り作用方向が同じ位相方向となり、取付母材16の溶接部位17に生じる引張残留応力の緩和を図ることができる。その結果、溶接の遅れ破壊を防止することができる。なお、本出願人の実験確認によれば、取付母材16の材質が2000MPaレベルの高強度鋼鈑についても、本実施形態によれば、溶接後の遅れ破壊を防止できることが可能であることが確認された。
【0048】
また、上述した各実施形態による溶接後の遅れ破壊の防止策は、溶接用突起18を備えたナット12の締結具10の形状を変更することなく行うものであるので、締結具10の部品点数を増加させることがない。したがって、締結具形状とその溶接方法の改良を必要としなく、溶接後の遅れ破壊の防止策の改善策として実用的価値が大きい改善策である。
【0049】
<締結具10における溶接用突起18の各種例示>
次に、プロジェクション溶接を行うための溶接用突起18を備えた締結具10の各種形態について説明する。締結具10の種類としてはナット12、ボルト14等があり、溶接用突起18を備えたナット12としては、四角ナット、六角パイロットナット、丸ナット、ツバ付六角ナット、T型ナット、袋ナット等がある。以下に、ナット12の代表例として、ツバ付六角ナット30、及び四角ナット38について説明する。
【0050】
<ツバ付六角ナット>
図13及び
図14は、ツバ付六角ナット30を示す。
図13は上方から見た図であり、
図14は下方から見た図である。ツバ付六角ナット30は六角形の柱部32と、円板形状のツバ部34とから成り、中心部に円筒形のネジ孔36が貫通して形成されている。
図14に示されるように、溶接用突起18はツバ部34の裏面に、当該裏面から突設して形成されており、裏面の外周位置の3箇所に等間隔に配置されて形成されている。
【0051】
<四角ナット38>
図15及び
図16は、四角ナット38を示す。
図15は上方から見た図であり、
図16は下方から見た図である。四角ナット38は四角形の柱部40で形成されており、中心部に円筒形のネジ孔42が貫通して形成されている。溶接用突起18は柱部40の裏面側の四隅から外方に向けて、かつ下方に向けて突設して形成されている。
【0052】
<ボルト14>
次に、
図17及び
図18に示される溶接用突起18を備えたボルト14の事例について説明する。
図17は側面図を示し、
図18はボルトの頭部を裏面側から見た図を示す。当該ボルト14は軸部44と頭部46とからなり、軸部44にネジ部48が形成されている。当該ボルト14の溶接用突起18は、頭部46の裏面に形成されており、円周上の3箇所に等間隔に配置されて、突設して形成されている。
【0053】
<その他の実施形態>
以上、本発明の特定の実施形態について説明したが、本発明は、その他各種の形態でも実施できる。
【0054】
例えば、締結具10は上述したナット12やボルト14の形態の他に、取付母材16にプロジェクション溶接できる形態部品であればよい。
【0055】
また、同様に、取付母材16の材質も、高強度鋼鈑の他に、締結具10とプロジェクション溶接できる材質であればよい。
【0056】
<「課題を解決するための手段」に記載した各発明の作用効果>
なお、最後に上述の「課題を解決するための手段」における各発明に対応する上記実施形態の作用効果を付記しておく。
【0057】
先ず、第1の発明の締結具溶接方法によれば、締結具の溶接用突起と取付母材の溶接部位とをプロジェクション溶接するに際して、取付母材に、溶接後に取付母材の溶接部位が収縮する作用方向と逆方向の予歪を付与して溶接を行う。これにより、溶接後における取付母材の変形が戻る方向と締結具の熱収縮が生じる方向とを同位相とすることができる。したがって、溶接個所における締結具による取付母材に対する引張残留応力を緩和することができて、溶接個所に生じる遅れ破壊の防止を図ることができる。
【0058】
次に、第2の発明によれば、溶接に際しての取付母材への予歪の付与は、取付母材側に配設される第1電極部材の加圧面の形状を取付母材側に向けて凸形状とすることにより付与される。これにより、締結具の形状等を変更することなく、確実に取付母材に予歪を付与することができる。
【0059】
次に、第3の発明によれば、前述の取付母材に予歪を付与するための第1の電極部材に形成する凸形状は、円錐状のテーパ形状である。これにより、取付母材への予歪の付与がより確実に行われる。
【0060】
次に、第4の発明の予歪の付与は、取付母材の形状を事前に締結具に向けた凹形状の湾曲形状に形成しておくことにより付与するものである。したがって、この付与方法によれば、溶接装置を変更することなく、取付母材の形状の変更のみで予歪を付与することができる。
【0061】
次に、第5の発明によれば、第1の発明~第4の発明の締結具溶接方法により、取付母材に締結具を確実に溶接固定することができる締結具溶接固定構造を得ることができる。そして、この締結具溶接固定構造によれば、溶接後に遅れ破壊が生じることがない。
【0062】
次に、第6の発明による締結具溶接装置によれば、第1の発明の締結具溶接方法の場合と同様の作用をなして、同様の効果を得ることができる。
【0063】
次に、第7の発明による締結具溶接装置によれば、第2の発明の締結具溶接方法の場合と同様の作用をなして、同様の効果を得ることができる。
【0064】
次に、第8の発明による締結具溶接装置によれば、第3の発明の締結具溶接方法の場合と同様の作用をなして、同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0065】
10 締結具
12 ナット
14 ボルト
16 取付母材
17 溶接部位
18 溶接用突起
20 一方の電極部材(第2電極部材)
22 他方の電極部材(第1電極部材)
24 凸形状
25 ガイドピン挿通用の孔
26 円錐形状
28 凸部形状
29 凸R形状
30 ツバ付六角ナット
32 柱部
34 ツバ部
36 ネジ孔
38 四角ナット
40 柱部
42 ネジ孔
44 軸部
46 頭部
48 ネジ部