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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】五環式化合物の塩およびそれらの結晶
(51)【国際特許分類】
   C07D 495/22 20060101AFI20240624BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240624BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240624BHJP
   A61K 31/551 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
C07D495/22 CSP
A61P25/00
A61P43/00 105
A61K31/551
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021504108
(86)(22)【出願日】2020-03-03
(86)【国際出願番号】 JP2020008889
(87)【国際公開番号】W WO2020179781
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2023-02-17
(31)【優先権主張番号】P 2019039349
(32)【優先日】2019-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】506137147
【氏名又は名称】エーザイ・アール・アンド・ディー・マネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100126653
【弁理士】
【氏名又は名称】木元 克輔
(72)【発明者】
【氏名】吉田 賢史
(72)【発明者】
【氏名】大橋 芳章
(72)【発明者】
【氏名】星川 環
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 信明
(72)【発明者】
【氏名】櫛田 郁雄
【審査官】伊佐地 公美
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-118621(JP,A)
【文献】特開昭54-024896(JP,A)
【文献】国際公開第2004/033666(WO,A2)
【文献】HEMDAN, M. M. et al.,Chemical and Pharmaceutical Bulletin,2015年,Vol. 63,pp. 450-456
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A61P
A61K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)で表される5,10-ジメチル-5,6,9,10,11,12-ヘキサヒドロピリド[4’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピリミド[1,2-a]チエノ[3,2-f][1,4]ジアゼピン-4,13-ジオンの一塩酸塩または一臭化水素酸塩。
【化1】
【請求項2】
CuKαをX線源とする粉末X線回折において、回折角度(2θ±0.2°)9.0°、11.1°および23.6°に回折ピークを有する、式(I)で表される5,10-ジメチル-5,6,9,10,11,12-ヘキサヒドロピリド[4’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピリミド[1,2-a]チエノ[3,2-f][1,4]ジアゼピン-4,13-ジオンの結晶。
【化2】
【請求項3】
CuKαをX線源とする粉末X線回折において、回折角度(2θ±0.2°)11.6°、20.8°および25.7°に回折ピークを有する、式(I)で表される5,10-ジメチル-5,6,9,10,11,12-ヘキサヒドロピリド[4’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピリミド[1,2-a]チエノ[3,2-f][1,4]ジアゼピン-4,13-ジオンの一塩酸塩のA型結晶。
【化3】
【請求項4】
CuKαをX線源とする粉末X線回折において、回折角度(2θ±0.2°)9.7°、10.1°および17.9°に回折ピークを有する、式(I)で表される5,10-ジメチル-5,6,9,10,11,12-ヘキサヒドロピリド[4’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピリミド[1,2-a]チエノ[3,2-f][1,4]ジアゼピン-4,13-ジオンの一塩酸塩のB型結晶。
【化4】
【請求項5】
CuKαをX線源とする粉末X線回折において、回折角度(2θ±0.2°)6.0°、7.7°および16.9°に回折ピークを有する、式(I)で表される5,10-ジメチル-5,6,9,10,11,12-ヘキサヒドロピリド[4’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピリミド[1,2-a]チエノ[3,2-f][1,4]ジアゼピン-4,13-ジオンの一塩酸塩のC型結晶。
【化5】
【請求項6】
CuKαをX線源とする粉末X線回折において、回折角度(2θ±0.2°)6.6°、14.6°および26.4°に回折ピークを有する、式(I)で表される5,10-ジメチル-5,6,9,10,11,12-ヘキサヒドロピリド[4’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピリミド[1,2-a]チエノ[3,2-f][1,4]ジアゼピン-4,13-ジオンの一塩酸塩のD型結晶。
【化6】
【請求項7】
CuKαをX線源とする粉末X線回折において、回折角度(2θ±0.2°)6.4°、11.3°および27.3°に回折ピークを有する、式(I)で表される5,10-ジメチル-5,6,9,10,11,12-ヘキサヒドロピリド[4’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピリミド[1,2-a]チエノ[3,2-f][1,4]ジアゼピン-4,13-ジオンの一塩酸塩のE型結晶。
【化7】
【請求項8】
CuKαをX線源とする粉末X線回折において、回折角度(2θ±0.2°)7.3°、9.3°および10.7°に回折ピークを有する、式(I)で表される5,10-ジメチル-5,6,9,10,11,12-ヘキサヒドロピリド[4’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピリミド[1,2-a]チエノ[3,2-f][1,4]ジアゼピン-4,13-ジオンの一塩酸塩のF型結晶。
【化8】
【請求項9】
CuKαをX線源とする粉末X線回折において、回折角度(2θ±0.2°)7.8°、24.5°および25.2°に回折ピークを有する、式(I)で表される5,10-ジメチル-5,6,9,10,11,12-ヘキサヒドロピリド[4’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピリミド[1,2-a]チエノ[3,2-f][1,4]ジアゼピン-4,13-ジオンの一臭化水素酸塩の結晶。
【化9】
【請求項10】
ラマン分光測定において、587cm-1、1428cm-1および1493cm-1にラマンシフトピーク(±2cm-1)を有する、式(I)で表される5,10-ジメチル-5,6,9,10,11,12-ヘキサヒドロピリド[4’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピリミド[1,2-a]チエノ[3,2-f][1,4]ジアゼピン-4,13-ジオンの一塩酸塩のA型結晶。
【化10】
【請求項11】
ラマン分光測定において、587cm-1、763cm-1、1428cm-1、1493cm-1および1688cm-1にラマンシフトピーク(±2cm-1)を有する、式(I)で表される5,10-ジメチル-5,6,9,10,11,12-ヘキサヒドロピリド[4’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピリミド[1,2-a]チエノ[3,2-f][1,4]ジアゼピン-4,13-ジオンの一塩酸塩のA型結晶。
【化11】
【請求項12】
ラマン分光測定において、409cm-1、587cm-1、763cm-1、976cm-1、1428cm-1、1493cm-1および1688cm-1にラマンシフトピーク(±2cm-1)を有する、式(I)で表される5,10-ジメチル-5,6,9,10,11,12-ヘキサヒドロピリド[4’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピリミド[1,2-a]チエノ[3,2-f][1,4]ジアゼピン-4,13-ジオンの一塩酸塩のA型結晶。
【化12】
【請求項13】
グリシンを外部基準(176.03ppm)とする13C固体NMRスペクトルにおいて、ケミカルシフト(δ±0.5ppm)164.0ppm,129.6ppmおよび36.5ppmにピークを有する、5,10-ジメチル-5,6,9,10,11,12-ヘキサヒドロピリド[4’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピリミド[1,2-a]チエノ[3,2-f][1,4]ジアゼピン-4,13-ジオンの一塩酸塩のA型結晶。
【化13】
【請求項14】
請求項1記載の塩または請求項2~13のいずれか一項に記載の結晶を含有する医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コリン作動性神経細胞賦活作用および/または神経保護作用を有する、五環式化合物の薬剤学的に許容される塩ならびに五環式化合物およびその薬剤学的に許容される塩の結晶に関する。本発明はまた、上記塩または結晶を有効成分として含有する医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アセチルコリンを伝達物質として放出するコリン作動性神経細胞は、前脳では前脳基底部のマイネルト基底核や中隔核から海馬、偏桃体、そして大脳皮質へ広く投射し、記憶・学習や認知・注意の調節を担っている(非特許文献1)。また、脳幹の脚橋被蓋核と背外側被蓋核のコリン作動性神経細胞は線条体、側坐核、黒質や視床へ投射し、動機付けや覚醒状態の調節に関与すると考えられている(非特許文献2-4)。
【0003】
特に、前脳基底部のコリン作動性神経細胞の役割については、多くの障害モデル動物等を用いた解析により明らかとなってきた。中でも、コリン作動性神経細胞の機能障害と記憶学習の低下が相関することが障害モデル動物において示され(非特許文献5-7)、コリンエステラーゼ阻害剤によりアセチルコリン量を増加させコリン作動性神経細胞の機能を上げることにより認知機能が改善されることが示されてきた(非特許文献8-12)。
【0004】
コリン作動性神経細胞の脱落を示す動物モデルにおいて、Nerve Growth Factor(NGF)による神経保護作用を示すことが報告されている(非特許文献13-15)。
【0005】
特にアルツハイマー型認知症(AD)では、コリン作動性神経細胞の脱落は発症初期より見られ、ADの病理学的特徴の一つでもある。ADではアミロイドβの沈着による老人斑蓄積と,タウの凝集による神経原繊維変化も病理学的特徴に持ち、特に神経原繊維変化は病態の進行に伴い増大し、神経細胞死を引き起こすことが知られている。AD発症初期からマイネルト基底核や経嗅内野皮質おいて神経原繊維変化が見られ、中でも、マイネルト基底核に存在するコリン作動性神経細胞は早期よりタウの蓄積により脱落し、その脱落と認知機能スコアの低下は相関することが報告されている(非特許文献16-17)。同様に、家族性前頭側頭葉認知症から発見されたP301S変異を持つタウ遺伝子を発現させた遺伝子改変マウス(Human tau P301Sトランスジェニックマウス)では、AD同様にタウの過剰リン酸化および異常蓄積が起きる。その結果、ADの病理学的特徴である神経原繊維変化が起き(非特許文献18)、シナプス障害,神経変性および神経細胞脱落による認知機能障害を引き起こす。これらの結果から、Human tau P301SトランスジェニックマウスはAD様モデル動物としても広く用いられており(非特許文献19-22)、Human tau P301SトランスジェニックマウスにおいてAD様病理学的変化を抑制することで、アルツハイマー型認知症の認知機能低下の改善および病態進行抑制の効果が期待できる。
【0006】
また、複数の遺伝子改変マウスや障害モデル動物を用いた解析からコリン作動性神経細胞の脱落の原因の一つとして、軸索輸送障害が示唆されている(非特許文献23-25)。中でも、海馬采脳弓切断モデルは、中隔野から海馬に投射するコリン作動性神経細胞の軸索を障害し、生存や機能に関わる分子の逆行性輸送を障害させることで細胞脱落を引き起こす(非特許文献26-28)。この逆行性輸送の障害は遺伝子改変マウスにおいても見られ(非特許文献23、24)、海馬采脳弓切断によるコリン作動性神経細胞の脱落は病態の一つの側面を反映している。そのため、この障害モデルにおいてコリン作動性神経細胞の脱落を抑制・改善することで、アルツハイマー型認知症の認知機能低下の改善および病態進行抑制の効果が期待できる。
【0007】
レビー小体型認知症(DLB; Dementia with Lewy bodies)、パーキンソン病(PD; Parkinson disease)はαシヌクレインを主成分とする異常な封入体(レビー小体)が神経細胞内に出現し、神経細胞の変性・脱落をきたす進行性の神経変性疾患である。レビー小体が大脳皮質に多く分布すると認知機能障害などを発症し、脳幹に多く分布するとパーキンソニズムを発症する。その他、幻視、幻覚、妄想、うつ症状などの精神症状、睡眠障害、自律神経症状が見られる。パーキンソニズム発症前あるいは発症1年以内に認知症を生じた場合はレビー小体型認知症と診断されるが、パーキンソニズムが認知症発症の1年以上前から存在する場合は認知症を伴うパーキンソン病(PDD; Parkinson disease with dementia)と診断される。このように、認知機能障害やパーキンソニズムの時間的な出現順序や程度の違いによって、レビー小体型認知症、認知症を伴うパーキンソン病、パーキンソン病という異なる診断名となるが、病理学的には同一疾患とみなされ、これらはまとめてレビー小体病(LBD; Lewy body disease)と呼ばれる。レビー小体型認知症、認知症を伴うパーキンソン病においては、アルツハイマー病同様にアセチルコリン作動性神経の起始核であるマイネルト基底核の神経細胞が変性、脱落しており、海馬や皮質において重度のコリン作動性神経細胞障害が見られることが報告されている(非特許文献29-31)。また、コリン作動性神経細胞障害の進行と認知機能低下は相関し(非特許文献29)、コリンエステラーゼ阻害剤により認知機能が改善されることが示されてきた。これらから、コリン作動性神経細胞の機能を改善することにより認知機能が改善されることが示され、複数の障害モデルにおいてコリン作動性神経細胞の脱落を抑制・改善することは、アルツハイマー型認知症同様にレビー小体型認知症、認知症を伴うパーキンソン病の認知機能低下の改善および病態進行抑制の効果が期待できる。
【0008】
したがって、これらの知見より、臨床においてもコリン作動性神経細胞の機能賦活化および/または神経保護を達成することで、コリン作動性神経細胞の機能低下によって起こる認知機能低下の改善が期待できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Everitt BJ et al. “Central cholinergic systems and cognition.” Annu. Rev. Psychol. 48 (1997) 649-684.
【文献】Gulledge AT. et al. “Cholinergic inhibition of neocortical pyramidal neurons.” J. Neurosci. 25 (2005) 10308-20.
【文献】Daniel Dautan D. et al. “A major external source of cholinergic innervation of the striatum and nucleus accumbens originates in the brainstem.” J. Neurosci. 34 (2014) 4509-18.
【文献】M Steriade M. et al. “Neuronal activities in brain-stem cholinergic nuclei related to tonic activation processes in thalamocortical systems.” J. Neurosci. 10 (1990) 2541-59.
【文献】Fischer W. et al. “Progressive decline in spatial learning and integrity of forebrain cholinergic neurons in rats during aging.” Neurobiol. Aging 13 (1992) 9-23.
【文献】Leanza G.et al. “Selective lesioning of the basal forebrain cholinergic system by intraventricular 192 IgG-saporin: behavioural, biochemical and stereological studies in the rat.” Eur. J. Neurosci. 7 (1995) 329-43.
【文献】Leanza G. et al. “Selective immunolesioning of the basal forebrain cholinergic system disrupts short-term memory in rats.”Eur. J. Neurosci. 8 (1996) 1535-44.
【文献】Ogura H. et al. “Donepezil, a centrally acting acetylcholinesterase inhibitor, alleviates learning deficits in hypocholinergic models in rats.” Methods Find Exp. Clin. Pharmacol. 22 (2000) 89-95.
【文献】Spowart-Manning L. et al. “Spatial discrimination deficits by excitotoxic lesions in the Morris water escape task.”Behav. Brain Res. 156 (2005) 269-76.
【文献】Bruce AP. et al. “Choline acetyltransferase activity and cognitive domain score of Alzheimer’s patients.” Neurobiol. Aging. 21 (2000) 11-17.
【文献】Rogers SL. et al. “The efficacy and safety of donepezil in patients with Alzheimer's disease: results of a US Multicentre, Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled Trial.The Donepezil Study Group.” Dementia 7 (1996) 293-303.
【文献】Mori E. et al. “Donepezil for dementia with Lewy bodies: a randomized, placebo-controlled trial.” Ann. Neurol. 72 (2012) 41-52.
【文献】Mufson EJ. et al. “Human cholinergic basal forebrain: chemoanatomy and neurologic dysfunction.” J. Chem. Neuroanat. 26 (2003) 233-242.
【文献】Mufson EJ. et al. “Cholinergic system during the progression of Alzheimer’s disease: therapeutic implication.” Expert. Rev. Neurother. 8 (2008) 1703-1718.
【文献】Schliebs R. et al. “The significance of the cholinergic system in the brain during aging and in Alzheimer’s disease.” J. Neural. Transm 113 (2006) 1625-1644.
【文献】Vana L et al. “Progression of tau pathology in cholinergic Basal forebrain neurons in mild cognitive impairment and Alzheimer's disease.” Am. J. Pathol. 179 (2011) 2533-2550.
【文献】Gomez-Isla T et al. “Neuronal loss correlates with but exceeds neurofibrillary tangles in Alzheimer's disease.” Ann. Neurol. 41 (1997) 17-24.
【文献】Lee VM et al. “Neurodegenerative tauopathies.” Annu. Rev. Neurosci. 24 (2001) 1121-1159.
【文献】Allen B et al. “Abundant tau filaments and nonapoptotic neurodegeneration in transgenic mice expressing human P301S tau protein.” J. Neurosci. 22 (2002) 9340-9351.
【文献】Xu H et al. “Memory deficits correlate with tau and spine pathology in P301S MAPT transgenic mice.” Neuropathol. Appl. Neurobiol. 40 (2014) 833-43.
【文献】Yoshiyama Y et al. “Synapse loss and microglial activation precede tangles in a P301S tauopathy mouse model.” Neuron 53 (2007) 337-351.
【文献】Hoffmann NA et al. “Impaired plasticity of cortical dendritic spines in P301S tau transgenic mice.” Acta Neuropathol Commun. 1 (2013) 82.
【文献】Salehi A et al. “Increased App Expression in a Mouse Model of Down’s Syndrome Disrupts NGF Transport and Causes Cholinergic Neuron Degeneration” Neuron 51 (2006) 29-42.
【文献】Onishi T et al. “Early-onset cognitive deficits and axonal transport dysfunction inP301S mutant tau transgenic mice” Neuroscience Research 80 (2014) 76-85.
【文献】Xu W et al. “Amyloid precursor protein-mediated endocytic pathway disruption induces axonal dysfunction and neurodegeneration” J. Clin. Invest. 126 (2016) 1815-33.
【文献】Lapchak PA et al. “Effect of recombinant human nerve growth factor on presynaptic cholinergic function in rat hippocampal slices following partial septohippocampal lesions: measures of [3H]acetylcholine synthesis, [3H]acetylcholine release and choline acetyltransferase activity” Neuroscience 42 (1991) 639-49.
【文献】Gilmor ML et al. “Coordinate expression of the vesicular acetylcholine transporter and choline acetyltransferase following septohippocampal pathway lesions” J. Neurochem. 71 (1998) 2411-20.
【文献】Gu H et al. “Recombinant human NGF-loaded microspheres promote survival of basal forebrain cholinergic neurons and improve memory impairments of spatial learning in the rat model of Alzheimer's disease with fimbria-fornix lesion” Neurosci. Lett. 453 (2009) 204-9.
【文献】Shimada, H. et al., "Mapping of brain acetylcholinesterase alterations in Lewy body disease by PET" Neurology, vol.73, pp. 273-278, 2009.
【文献】Tiraboschi, P. et al., "Cholinergic dysfunction in diseases with Lewy bodies" Neurology 54 (2000) 407-411.
【文献】Perry, E. K. et. al., "Neocortical cholinergic activities differentiate Lewy body dementia from classical Alzheimer’s disease", NeuroReport, vol.5, pp.747-749 (1994).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
下記式(I)で表わされる化合物(5,10-ジメチル-5,6,9,10,11,12-ヘキサヒドロピリド[4’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピリミド[1,2-a]チエノ[3,2-f][1,4]ジアゼピン-4,13-ジオン、以下「化合物(I)」ともいう。)が、コリン作動性神経細胞賦活作用および/または神経保護作用を有することを、本発明者らは見出した。したがって、化合物(I)は、コリン作動性神経細胞の機能低下によって起こる認知機能低下の改善剤としての利用可能性を有している。
【化1】
【0011】
一般に、医薬品として用いられる化合物およびその塩ならびにそれらの結晶の物性は、薬物のバイオアベイラビリティー、原薬の純度、製剤の処方などに大きな影響を与える。したがって、本発明の目的は、医薬品の原薬としての利用可能性を有する化合物(I)の薬剤学的に許容される塩およびそれらの結晶を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、化合物(I)について、上記事情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、化合物(I)の塩およびそれらの結晶を見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明は以下の<1>から<35>に関する。
<1>式(I)で表される5,10-ジメチル-5,6,9,10,11,12-ヘキサヒドロピリド[4’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピリミド[1,2-a]チエノ[3,2-f][1,4]ジアゼピン-4,13-ジオンの一塩酸塩または一臭化水素酸塩。
【化2】
<2>5,10-ジメチル-5,6,9,10,11,12-ヘキサヒドロピリド[4’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピリミド[1,2-a]チエノ[3,2-f][1,4]ジアゼピン-4,13-ジオンまたは5,10-ジメチル-5,6,9,10,11,12-ヘキサヒドロピリド[4’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピリミド[1,2-a]チエノ[3,2-f][1,4]ジアゼピン-4,13-ジオンの一塩酸塩もしくは一臭化水素酸塩の結晶。
<3>CuKαをX線源とする粉末X線回折において、回折角度(2θ±0.2°)9.0°、11.1°および23.6°に回折ピークを有する、5,10-ジメチル-5,6,9,10,11,12-ヘキサヒドロピリド[4’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピリミド[1,2-a]チエノ[3,2-f][1,4]ジアゼピン-4,13-ジオンの結晶。
<3.1>CuKαをX線源とする粉末X線回折において、回折角度(2θ±0.2°)9.0°、11.1°、14.5°、18.1°、20.0°、21.9°、23.6°、24.4°、24.9°および28.5°に回折ピークを有する、5,10-ジメチル-5,6,9,10,11,12-ヘキサヒドロピリド[4’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピリミド[1,2-a]チエノ[3,2-f][1,4]ジアゼピン-4,13-ジオンの結晶。
<3.2>CuKαをX線源とする粉末X線回折において、図1の粉末X線回折パターンを有する5,10-ジメチル-5,6,9,10,11,12-ヘキサヒドロピリド[4’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピリミド[1,2-a]チエノ[3,2-f][1,4]ジアゼピン-4,13-ジオンの結晶。
<4>CuKαをX線源とする粉末X線回折において、回折角度(2θ±0.2°)11.6°、20.8°および25.7°に回折ピークを有する、5,10-ジメチル-5,6,9,10,11,12-ヘキサヒドロピリド[4’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピリミド[1,2-a]チエノ[3,2-f][1,4]ジアゼピン-4,13-ジオン一塩酸塩のA型結晶。
<4.1>CuKαをX線源とする粉末X線回折において、回折角度(2θ±0.2°)6.1°、7.8°、11.6°、16.2°、19.9°、20.8°、25.2°、25.7°、26.9°および29.9°に回折ピークを有する、5,10-ジメチル-5,6,9,10,11,12-ヘキサヒドロピリド[4’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピリミド[1,2-a]チエノ[3,2-f][1,4]ジアゼピン-4,13-ジオン一塩酸塩のA型結晶。
<4.2>CuKαをX線源とする粉末X線回折において、図2の粉末X線回折パターンを有する5,10-ジメチル-5,6,9,10,11,12-ヘキサヒドロピリド[4’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピリミド[1,2-a]チエノ[3,2-f][1,4]ジアゼピン-4,13-ジオン一塩酸塩のA型結晶。
<4.3>グリシンを外部基準(176.03ppm)とする13C固体NMRスペクトルにおいて、ケミカルシフト(δ±0.5ppm)164.0ppm,129.6ppmおよび36.5ppmにピークを有する、5,10-ジメチル-5,6,9,10,11,12-ヘキサヒドロピリド[4’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピリミド[1,2-a]チエノ[3,2-f][1,4]ジアゼピン-4,13-ジオン一塩酸塩のA型結晶。
<5>CuKαをX線源とする粉末X線回折において、回折角度(2θ±0.2°)9.7°、10.1°および17.9°に回折ピークを有する、5,10-ジメチル-5,6,9,10,11,12-ヘキサヒドロピリド[4’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピリミド[1,2-a]チエノ[3,2-f][1,4]ジアゼピン-4,13-ジオン一塩酸塩のB型結晶。
<5.1>CuKαをX線源とする粉末X線回折において、回折角度(2θ±0.2°)6.3°、9.7°、10.1°、17.9°、19.0°、19.4°、23.4°、26.3°、27.3°および32.0°に回折ピークを有する、5,10-ジメチル-5,6,9,10,11,12-ヘキサヒドロピリド[4’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピリミド[1,2-a]チエノ[3,2-f][1,4]ジアゼピン-4,13-ジオン一塩酸塩のB型結晶。
<5.2>CuKαをX線源とする粉末X線回折において、図3の粉末X線回折パターンを有する5,10-ジメチル-5,6,9,10,11,12-ヘキサヒドロピリド[4’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピリミド[1,2-a]チエノ[3,2-f][1,4]ジアゼピン-4,13-ジオン一塩酸塩のB型結晶。
<5.3>グリシンを外部基準(176.03ppm)とする13C固体NMRスペクトルにおいて、ケミカルシフト(δ±0.5ppm)160.1ppm,133.4ppmおよび130.7ppmにピークを有する、5,10-ジメチル-5,6,9,10,11,12-ヘキサヒドロピリド[4’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピリミド[1,2-a]チエノ[3,2-f][1,4]ジアゼピン-4,13-ジオン一塩酸塩のB型結晶。
<6>CuKαをX線源とする粉末X線回折において、回折角度(2θ±0.2°)6.0°、7.7°および16.9°に回折ピークを有する、5,10-ジメチル-5,6,9,10,11,12-ヘキサヒドロピリド[4’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピリミド[1,2-a]チエノ[3,2-f][1,4]ジアゼピン-4,13-ジオン一塩酸塩のC型結晶。
<6.1>CuKαをX線源とする粉末X線回折において、回折角度(2θ±0.2°)6.0°、7.7°、9.7°、11.4°、15.8°、16.9°、18.1°、23.2°、25.4°および27.6°に回折ピークを有する、5,10-ジメチル-5,6,9,10,11,12-ヘキサヒドロピリド[4’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピリミド[1,2-a]チエノ[3,2-f][1,4]ジアゼピン-4,13-ジオン一塩酸塩のC型結晶。
<6.2>CuKαをX線源とする粉末X線回折において、図4の粉末X線回折パターンを有する5,10-ジメチル-5,6,9,10,11,12-ヘキサヒドロピリド[4’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピリミド[1,2-a]チエノ[3,2-f][1,4]ジアゼピン-4,13-ジオン一塩酸塩のC型結晶。
<6.3>グリシンを外部基準(176.03ppm)とする13C固体NMRスペクトルにおいて、ケミカルシフト(δ±0.5ppm)159.6ppm,127.6ppmおよび38.9ppmにピークを有する、5,10-ジメチル-5,6,9,10,11,12-ヘキサヒドロピリド[4’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピリミド[1,2-a]チエノ[3,2-f][1,4]ジアゼピン-4,13-ジオン一塩酸塩のC型結晶。
<7>CuKαをX線源とする粉末X線回折において、回折角度(2θ±0.2°)6.6°、14.6°および26.4°に回折ピークを有する、5,10-ジメチル-5,6,9,10,11,12-ヘキサヒドロピリド[4’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピリミド[1,2-a]チエノ[3,2-f][1,4]ジアゼピン-4,13-ジオン一塩酸塩のD型結晶。
<7.1>CuKαをX線源とする粉末X線回折において、回折角度(2θ±0.2°)6.6°、14.6°、16.1°、20.5°、21.0°、23.0°、24.5°、26.4°、28.0°および32.5°に回折ピークを有する、5,10-ジメチル-5,6,9,10,11,12-ヘキサヒドロピリド[4’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピリミド[1,2-a]チエノ[3,2-f][1,4]ジアゼピン-4,13-ジオン一塩酸塩のD型結晶。
<7.2>CuKαをX線源とする粉末X線回折において、図5の粉末X線回折パターンを有する5,10-ジメチル-5,6,9,10,11,12-ヘキサヒドロピリド[4’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピリミド[1,2-a]チエノ[3,2-f][1,4]ジアゼピン-4,13-ジオン一塩酸塩のD型結晶。
<8>CuKαをX線源とする粉末X線回折において、回折角度(2θ±0.2°)6.4°、11.3°および27.3°に回折ピークを有する、5,10-ジメチル-5,6,9,10,11,12-ヘキサヒドロピリド[4’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピリミド[1,2-a]チエノ[3,2-f][1,4]ジアゼピン-4,13-ジオン一塩酸塩のE型結晶。
<8.1>CuKαをX線源とする粉末X線回折において、回折角度(2θ±0.2°)6.4°、11.3°、15.7°、18.0°、19.2°、22.8°、24.6°、25.4°、26.0°および27.3°に回折ピークを有する、5,10-ジメチル-5,6,9,10,11,12-ヘキサヒドロピリド[4’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピリミド[1,2-a]チエノ[3,2-f][1,4]ジアゼピン-4,13-ジオン一塩酸塩のE型結晶。
<8.2>CuKαをX線源とする粉末X線回折において、図6の粉末X線回折パターンを有する化合物(I)一塩酸塩のE型結晶。
<9>CuKαをX線源とする粉末X線回折において、回折角度(2θ±0.2°)7.3°、9.3°および10.7°に回折ピークを有する、5,10-ジメチル-5,6,9,10,11,12-ヘキサヒドロピリド[4’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピリミド[1,2-a]チエノ[3,2-f][1,4]ジアゼピン-4,13-ジオン一塩酸塩のF型結晶。
<9.1>CuKαをX線源とする粉末X線回折において、回折角度(2θ±0.2°)5.9°、7.3°、9.3°、10.7°、13.8°、15.6°、16.4°、18.7°、25.1°および26.8°に回折ピークを有する、5,10-ジメチル-5,6,9,10,11,12-ヘキサヒドロピリド[4’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピリミド[1,2-a]チエノ[3,2-f][1,4]ジアゼピン-4,13-ジオン一塩酸塩のF型結晶。
<9.2>CuKαをX線源とする粉末X線回折において、図7の粉末X線回折パターンを有する5,10-ジメチル-5,6,9,10,11,12-ヘキサヒドロピリド[4’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピリミド[1,2-a]チエノ[3,2-f][1,4]ジアゼピン-4,13-ジオン一塩酸塩のF型結晶。
<10>CuKαをX線源とする粉末X線回折において、回折角度(2θ±0.2°)7.8°、24.5°および25.2°に回折ピークを有する5,10-ジメチル-5,6,9,10,11,12-ヘキサヒドロピリド[4’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピリミド[1,2-a]チエノ[3,2-f][1,4]ジアゼピン-4,13-ジオン一臭化水素酸塩の結晶。
<10.1>CuKαをX線源とする粉末X線回折において、回折角度(2θ±0.2°)6.0°、7.8°、10.0°、11.7°、17.8°、20.8°、23.5°、24.5°、25.2°および27.3°に回折ピークを有する、5,10-ジメチル-5,6,9,10,11,12-ヘキサヒドロピリド[4’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピリミド[1,2-a]チエノ[3,2-f][1,4]ジアゼピン-4,13-ジオン一臭化水素酸塩の結晶。
<10.2>CuKαをX線源とする粉末X線回折において、図8の粉末X線回折パターンを有する5,10-ジメチル-5,6,9,10,11,12-ヘキサヒドロピリド[4’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピリミド[1,2-a]チエノ[3,2-f][1,4]ジアゼピン-4,13-ジオン一臭化水素酸塩の結晶。
<11>ラマン分光測定において、587cm-1にラマンシフトピーク(±2cm-1)を有する、5,10-ジメチル-5,6,9,10,11,12-ヘキサヒドロピリド[4’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピリミド[1,2-a]チエノ[3,2-f][1,4]ジアゼピン-4,13-ジオンの一塩酸塩のA型結晶。
<12>ラマン分光測定において、587cm-1、1428cm-1および1493cm-1にラマンシフトピーク(±2cm-1)を有する、5,10-ジメチル-5,6,9,10,11,12-ヘキサヒドロピリド[4’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピリミド[1,2-a]チエノ[3,2-f][1,4]ジアゼピン-4,13-ジオンの一塩酸塩のA型結晶。
<13>ラマン分光測定において、587cm-1、763cm-1、1428cm-1、1493cm-1および1688cm-1にラマンシフトピーク(±2cm-1)を有する、5,10-ジメチル-5,6,9,10,11,12-ヘキサヒドロピリド[4’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピリミド[1,2-a]チエノ[3,2-f][1,4]ジアゼピン-4,13-ジオンの一塩酸塩のA型結晶。
<14>ラマン分光測定において、409cm-1、587cm-1、763cm-1、976cm-1、1428cm-1、1493cm-1および1688cm-1にラマンシフトピーク(±2cm-1)を有する、5,10-ジメチル-5,6,9,10,11,12-ヘキサヒドロピリド[4’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピリミド[1,2-a]チエノ[3,2-f][1,4]ジアゼピン-4,13-ジオンの一塩酸塩のA型結晶。
<15>ラマン分光測定において、図19のスペクトルを有する、5,10-ジメチル-5,6,9,10,11,12-ヘキサヒドロピリド[4’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピリミド[1,2-a]チエノ[3,2-f][1,4]ジアゼピン-4,13-ジオンの一塩酸塩のA型結晶。
<16><1>記載の塩または<2>~<15>のいずれか一項に記載の結晶を含有する医薬組成物。
<17>コリン作動性神経細胞賦活剤である<16>記載の医薬組成物。
<18>コリン作動性神経細胞保護剤である<16>記載の医薬組成物。
<19>認知機能障害の治療のための<16>記載の医薬組成物。
<20><1>記載の塩または<2>~<15>のいずれか一項に記載の結晶を含有する、認知機能障害の治療剤。
<21><1>記載の塩または<2>~<15>のいずれか一項に記載の結晶を患者に投与する、認知機能障害の治療方法。
<22>認知機能障害の治療に使用される、<1>記載の塩または<2>~<15>のいずれか一項に記載の結晶。
<23>認知機能障害の治療剤を製造するための、<1>記載の塩または<2>~<15>のいずれか一項に記載の結晶の使用。
<24><1>記載の塩または<2>~<15>のいずれか一項に記載の結晶を含有する、アルツハイマー病治療剤。
<25><1>記載の塩または<2>~<15>のいずれか一項に記載の結晶を患者に投与する、アルツハイマー病の治療方法。
<26>アルツハイマー病の治療に使用される、<1>記載の塩または<2>~<15>のいずれか一項に記載の結晶。
<27>アルツハイマー病の治療剤を製造するための、<1>記載の塩または<2>~<15>のいずれか一項に記載の結晶の使用。
<28><1>記載の塩または<2>~<15>のいずれか一項に記載の結晶を含有する、レビー小体型認知症治療剤。
<29><1>記載の塩または<2>~<15>のいずれか一項に記載の結晶を患者に投与する、レビー小体型認知症の治療方法。
<30>レビー小体型認知症の治療に使用される、<1>記載の塩または<2>~<15>のいずれか一項に記載の結晶。
<31>レビー小体型認知症の治療剤を製造するための、<1>記載の塩または<2>~<15>のいずれか一項に記載の結晶の使用。
<32><1>記載の塩または<2>~<15>のいずれか一項に記載の結晶を含有する、認知症を伴うパーキンソン病治療剤。
<33><1>記載の塩または<2>~<15>のいずれか一項に記載の結晶を患者に投与する、認知症を伴うパーキンソン病の治療方法。
<34>認知症を伴うパーキンソン病の治療に使用される、<1>記載の塩または<2>~<15>のいずれか一項に記載の結晶。
<35>認知症を伴うパーキンソン病の治療剤を製造するための、<1>記載の塩または<2>~<15>のいずれか一項に記載の結晶の使用。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、医薬品の原薬としての利用可能性が期待される、良好な物性を有する化合物(I)の塩およびそれらの結晶を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、実施例1で得られた化合物(I)の結晶の粉末X線回折パターンである。横軸は回折角(2θ)、縦軸はピーク強度を示す。
図2図2は、実施例2で得られた化合物(I)一塩酸塩のA型結晶の粉末X線回折パターンである。横軸は回折角(2θ)、縦軸はピーク強度を示す。
図3図3は、実施例4で得られた化合物(I)一塩酸塩のB型結晶の粉末X線回折パターンである。横軸は回折角(2θ)、縦軸はピーク強度を示す。
図4図4は、実施例3で得られた化合物(I)一塩酸塩のC型結晶の粉末X線回折パターンである。横軸は回折角(2θ)、縦軸はピーク強度を示す。
図5図5は、実施例5で得られた化合物(I)一塩酸塩のD型結晶の粉末X線回折パターンである。横軸は回折角(2θ)、縦軸はピーク強度を示す。
図6図6は、実施例6で得られた化合物(I)一塩酸塩のE型結晶の粉末X線回折パターンである。横軸は回折角(2θ)、縦軸はピーク強度を示す。
図7図7は、実施例7で得られた化合物(I)一塩酸塩のF型結晶の粉末X線回折パターンである。横軸は回折角(2θ)、縦軸はピーク強度を示す。
図8図8は、実施例8で得られた化合物(I)一臭化水素酸塩の結晶の粉末X線回折パターンである。横軸は回折角(2θ)、縦軸はピーク強度を示す。
図9図9は実施例2で得られた化合物(I)一塩酸塩のA型結晶の13C固体NMRスペクトルである。横軸は化学シフト(δ)、縦軸はピーク強度を示す。
図10図10は実施例4で得られた化合物(I)一塩酸塩のB型結晶の13C固体NMRスペクトルである。横軸は化学シフト(δ)、縦軸はピーク強度を示す。
図11図11は実施例3で得られた化合物(I)一塩酸塩のC型結晶の13C固体NMRスペクトルである。横軸は化学シフト(δ)、縦軸はピーク強度を示す。
図12図12は、実施例2で得られた化合物(I)一塩酸塩のA型結晶の熱分析TG-DTAチャートである。横軸は温度、左縦軸はTGの重量変化、右縦軸はDTAの熱流量を示す。
図13図13は、実施例4で得られた化合物(I)一塩酸塩のB型結晶の熱分析TG-DTAチャートである。横軸は温度、左縦軸はTGの重量変化、右縦軸はDTAの熱流量を示す。
図14図14は、実施例3で得られた化合物(I)一塩酸塩のC型結晶の熱分析TG-DTAチャートである。横軸は温度、左縦軸はTGの重量変化、右縦軸はDTAの熱流量を示す。
図15図15は、実施例5で得られた化合物(I)一塩酸塩のD型結晶の熱分析TG-DTAチャートである。横軸は温度、左縦軸はTGの重量変化、右縦軸はDTAの熱流量を示す。
図16図16は、実施例6で得られた化合物(I)一塩酸塩のE型結晶の熱分析TG-DTAチャートである。横軸は温度、左縦軸はTGの重量変化、右縦軸はDTAの熱流量を示す。
図17図17は、実施例7で得られた化合物(I)一塩酸塩のF型結晶の熱分析TG-DTAチャートである。横軸は温度、左縦軸はTGの重量変化、右縦軸はDTAの熱流量を示す。
図18図18は、実施例8で得られた化合物(I)一臭化水素酸塩の結晶の熱分析TG-DTAチャートである。横軸は温度、左縦軸はTGの重量変化、右縦軸はDTAの熱流量を示す。
図19図19は、実施例2で得られた化合物(I)一塩酸塩のA型結晶のラマンスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の化合物(I)の塩およびそれらの結晶およびその製造方法について詳細に説明する。
【0017】
本明細書において、「塩」とは、塩基性成分である化合物(I)と、化合物(I)に対して特定の当量数の酸とからなる化学物質を意味する。
【0018】
本明細書において使用する「塩」としては、例えば、無機酸との塩、有機酸との塩、酸性アミノ酸との塩等が挙げられ、中でも薬剤学的に許容される塩が好ましい。
【0019】
無機酸との塩の例としては、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等との塩が挙げられ、有機酸との塩の例としては、例えば酢酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、乳酸、ステアリン酸、安息香酸等の有機カルボン酸との塩、メタンスルホン酸(メシル酸)、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸(トシル酸)等の有機スルホン酸との塩が挙げられ、中でも、塩酸、臭化水素酸、リン酸が好ましい。
【0020】
酸性アミノ酸との塩の例としては、例えばアスパラギン酸、グルタミン酸等との塩が挙げられる。
【0021】
本発明の塩は、無水物または、水和物もしくは溶媒和物でもよい。本明細書において、水和物または溶媒和物とは、化合物(I)またはその塩と、水分子または溶媒分子とがそれぞれ一緒になって形成する固体をいい、その固体は結晶であってもよく、溶媒和物の溶媒としては、例えば、アセトン、2-ブタノン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル系溶媒;1,2-ジメトキシエタン、t-ブチルメチルエーテルのようなエーテル系溶媒;メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒が挙げられる。化合物(I)またはその塩に対する水分子または溶媒分子の数は特に限定されず、例えば、1分子または2分子であってもよい。
【0022】
本明細書において「結晶」とは、化合物(I)またはその塩の無水物または水和物の結晶を意味する。
【0023】
本明細書において、好ましい化合物(I)ならびに化合物(I)の塩酸塩および臭化水素酸塩の結晶としては、
粉末X線回折において、回折角度(2θ±0.2°)9.0°、11.1°および23.6°に回折ピークを有する、化合物(I)の結晶;
粉末X線回折において、回折角度(2θ±0.2°)9.0°、11.1°、14.5°、18.1°、20.0°、21.9°、23.6°、24.4°、24.9°および28.5°に回折ピークを有する、化合物(I)の結晶;
粉末X線回折において、回折角度(2θ±0.2°)11.6°、20.8°および25.7°に回折ピークを有する、化合物(I)一塩酸塩のA型結晶;
粉末X線回折において、回折角度(2θ±0.2°)6.1°、7.8°、11.6°、16.2°、19.9°、20.8°、25.2°、25.7°、26.9°および29.9°に回折ピークを有する、化合物(I)一塩酸塩のA型結晶;
13C固体NMRスペクトルにおいて、化学シフト(δ±0.5ppm)164.0ppm、129.6ppmおよび36.5ppmにピークを有する、化合物(I)一塩酸塩のA型結晶;
ラマン分光測定において、587cm-1にラマンシフトピーク(±2cm-1)を有する、化合物(I)一塩酸塩のA型結晶;
ラマン分光測定において、587cm-1、1428cm-1および1493cm-1にラマンシフトピーク(±2cm-1)を有する、化合物(I)一塩酸塩のA型結晶;
ラマン分光測定において、587cm-1、763cm-1、1428cm-1、1493cm-1および1688cm-1にラマンシフトピーク(±2cm-1)を有する、化合物(I)一塩酸塩のA型結晶;
ラマン分光測定において、409cm-1、587cm-1、763cm-1、976cm-1、1428cm-1、1493cm-1および1688cm-1にラマンシフトピーク(±2cm-1)を有する、化合物(I)一塩酸塩のA型結晶;
ラマン分光測定において、実質的に図19に示すスペクトルを有する、化合物(I)一塩酸塩のA型結晶;
粉末X線回折において、回折角度(2θ±0.2°)9.7°、10.1°および17.9°に回折ピークを有する、化合物(I)一塩酸塩のB型結晶;
粉末X線回折において、回折角度(2θ±0.2°)6.3°、9.7°、10.1°、17.9°、19.0°、19.4°、23.4°、26.3°、27.3°および32.0°に回折ピークを有する、化合物(I)一塩酸塩のB型結晶;
13C固体NMRスペクトルにおいて、化学シフト(δ±0.5ppm)160.1ppm、133.4ppmおよび130.7ppmにピークを有する、化合物(I)一塩酸塩のB型結晶;
粉末X線回折において、回折角度(2θ±0.2°)6.0°、7.7°および16.9°に回折ピークを有する、化合物(I)一塩酸塩のC型結晶;
粉末X線回折において、回折角度(2θ±0.2°)6.0°、7.7°、9.7°、11.4°、15.8°、16.9°、18.1°、23.2°、25.4°および27.6°に回折ピークを有する、化合物(I)一塩酸塩のC型結晶;
13C固体NMRスペクトルにおいて、化学シフト(δ±0.5ppm)159.6ppm、127.6ppmおよび38.9ppmにピークを有する、化合物(I)一塩酸塩のC型結晶;
粉末X線回折において、回折角度(2θ±0.2°)6.6°、14.6°および26.4°に回折ピークを有する、化合物(I)一塩酸塩のD型結晶;
粉末X線回折において、回折角度(2θ±0.2°)6.6°、14.6°、16.1°、20.5°、21.0°、23.0°、24.5°、26.4°、28.0°および32.5°に回折ピークを有する、化合物(I)一塩酸塩のD型結晶;
粉末X線回折において、回折角度(2θ±0.2°)6.4°、11.3°および27.3°に回折ピークを有する、化合物(I)一塩酸塩のE型結晶;
粉末X線回折において、回折角度(2θ±0.2°)6.4°、11.3°、15.7°、18.0°、19.2°、22,8°、24.6°、25.4°、26.0°および27.3°に回折ピークを有する、化合物(I)一塩酸塩のE型結晶;
粉末X線回折において、回折角度(2θ±0.2°)7.3°、9.3°および10.7°に回折ピークを有する、化合物(I)一塩酸塩のF型結晶;
粉末X線回折において、回折角度(2θ±0.2°)5.9°、7.3°、9.3°、10.7°、13.8°、15.6°、16.4°、18.7°、25.1°および26.8°に回折ピークを有する、化合物(I)一塩酸塩のF型結晶;
粉末X線回折において、回折角度(2θ±0.2°)7.8°、24.5°および25.2°に回折ピークを有する、化合物(I)一臭化水素酸塩の結晶;
粉末X線回折において、回折角度(2θ±0.2°)6.0°、7.8°、10.0°、11.7°、17.8°、20.8°、23.5°、24.5°、25.2°および27.3°に回折ピークを有する、化合物(I)一臭化水素酸塩の結晶などを挙げることができる。
【0024】
上記記載の粉末X線回折における回折ピーク、13C固体NMRスペクトルにおける化学シフトおよびラマン分光測定におけるラマンシフトピークは、化合物(I)の結晶、化合物(I)一塩酸塩のA~F型結晶および化合物(I)一臭化水素酸塩の結晶にそれぞれ特有なものであり、当該結晶に特徴的なピークである。
【0025】
一般に、粉末X線回折における回折角度(2θ)は±0.2°の範囲内で誤差が生じ得るため、上記の回折角度の値は±0.2°程度の範囲内の数値も含むものとして理解される必要がある。したがって、特定の化合物またはその塩において、粉末X線回折におけるピークの回折角度が完全に一致する結晶だけでなく、ピークの回折角度が±0.2°程度の誤差で一致する結晶も同一であり、本発明に含まれる。
【0026】
本明細書において、例えば、「回折角度(2θ±0.2°)9.0°に回折ピークを有する」とは、「回折角度(2θ)8.8°~9.2°に回折ピークを有する」ということを意味し、その他の回折角度の場合も同様である。
【0027】
また、一般に、粉末X線回折における回折角度(2θ)のピーク強度または半値幅は、結晶形が同一であっても、測定条件の違いや測定試料として用いる粉末結晶の各粒子の大きさや形状のばらつきにより、測定ごとに異なり、必ずしも一定のピーク強度または半値幅が常に示されるとは限らない。そのため、粉末X線回折パターンの比較において、同じ回折角度(2θ)で、そのピーク強度または半値幅に違いがあっても、その違いは、異なる結晶形に由来することを意味するものではない。したがって、本発明の特定の結晶に特徴的な回折ピークに対して、そのような違いを有する粉末X線回折パターンの当該結晶は、本発明の結晶と同一の結晶形であることを意味する。また、本明細書において「図1の粉末X線回折パターンを有する」とは、特徴的な回折ピークを有する粉末X線回折パターンが、図1で表される粉末X線回折パターンに±0.2°の誤差範囲内で一致する場合だけでなく、特徴的な回折角度が±0.2°の誤差範囲内で一致するもののピーク強度または半値幅が異なる粉末X線回折パターンの場合であっても、図1で表される粉末X線回折パターンを示す結晶はすべて、本発明の結晶と同一の結晶であることを意味する。
【0028】
本明細書において、「化学シフト(δ±0.5ppm)164.0ppm、129.6ppmおよび36.5ppm」とは、「通常の測定条件または本明細書と実質的に同一の条件にて13C固体NMRスペクトル測定を行い、それぞれ、化学シフト(δ±0.5ppm)164.0ppm、129.6ppmおよび36.5ppmと実質的に同等なピークを有すること」を意味する。
【0029】
「実質的に同等なピークを有する」か否かの判断に際して、一般に、13C固体NMRスペクトルにおける化学シフトδは、±0.5ppmの範囲内で誤差が生じ得るため、上記の化学シフトの値は、±0.5ppm程度の範囲内の数値も含むものとして理解される必要がある。したがって、13C固体NMRスペクトルにおける化学シフトが完全に一致する結晶だけでなく、化学シフトが±0.5ppm程度の誤差で一致する結晶も本発明に含まれる。それ故に、本明細書において、例えば「化学シフト(δ±0.5ppm)164.0ppmにピークを有する」とは、化学シフト(δ)163.5ppm~164.5ppmの範囲にピークを有することを意味し、その他の13C固体NMRスペクトルにおける化学シフトの場合も同様である。
【0030】
一般に、ラマン分光測定におけるラマンシフトピーク(cm-1)は±2cm-1の範囲内で誤差が生じ得るため、上記のピークの値は±2cm-1程度の範囲内の数値も含むものとして理解される必要がある。したがって、特定の化合物またはその塩において、ラマン分光測定におけるラマンシフトピークが完全に一致する結晶だけでなく、ラマンシフトピークが±2cm-1程度の誤差で一致する結晶も同一であり、本発明に含まれる。
【0031】
本明細書において、例えば、「ラマン分光測定において、587cm-1にラマンシフトピーク(±2cm-1)を有する」とは、「ラマン分光測定において、585cm-1~589cm-1にラマンシフトピークを有する」ということを意味し、その他のラマンシフトの場合も同様である。
【0032】
また、一般に、ラマン分光測定におけるラマンシフトのピーク強度または半値幅は、結晶形が同一であっても、測定条件の違いや測定試料として用いる粉末結晶の各粒子の大きさや形状のばらつきにより、測定ごとに異なり、必ずしも一定のピーク強度または半値幅が常に示されるとは限らない。そのため、ラマン分光測定の比較において、同じラマンシフトピーク(cm-1)で、そのピーク強度または半値幅に違いがあっても、その違いは、異なる結晶形に由来することを意味するものではない。したがって、本発明の特定の結晶に特徴的なラマンシフトピークに対して、そのような違いを有するラマンスペクトルの当該結晶は、本発明の結晶と同一の結晶形であることを意味する。また、本明細書において「ラマン分光測定において、図19のスペクトルを有する」とは、特徴的なラマンシフトピーク(cm-1)を有するラマンスペクトルが、図19で表されるラマンスペクトルに±2cm-1の誤差範囲内で一致する場合だけでなく、特徴的なラマンシフトピークが±2cm-1の誤差範囲内で一致するもののピーク強度または半値幅が異なるラマンスペクトルの場合であっても、図19で表されるラマンスペクトルを示す結晶はすべて、本発明の結晶と同一の結晶であることを意味する。
【0033】
以下に、本発明の一実施形態である化合物(I)の塩、結晶等の製造方法について説明する。
【0034】
化合物(I)の製造方法
化合物(I)は、当業者に周知な方法により製造されたものであってもよい。例えば、化合物(I)は、後述する参考例に記載の方法で合成することができる。
【0035】
化合物(I)の塩の製造方法
本発明に係る化合物(I)の塩は、通常の塩を製造する方法により得ることができる。具体的には、例えば、化合物(I)を溶媒に、必要に応じて加温して、懸濁または溶解させ、次いで、得られる懸濁液または溶液に、酸を加え、室温下あるいは冷却しながら数分から数日間、撹拌または放置することにより、製造することができる。これらの製造方法により、化合物(I)の塩を、結晶または非晶質として得ることができる。また、非晶質は、これらの製造方法に、必要に応じて、さらに凍結乾燥等の操作を行うことにより得ることもできる。ここで使用する溶媒としては、例えばエタノール、1-プロパノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒;アセトニトリル;アセトン、2-ブタノン等のケトン系溶媒;酢酸エチル等のエステル系溶媒;ヘキサン、ヘプタン等の飽和炭化水素系溶媒;t-ブチルメチルエーテル等のエーテル系溶媒または水を挙げることができる。これらの溶媒は単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0036】
化合物(I)またはその塩の結晶の製造方法
化合物(I)またはその塩の結晶は、上述の化合物(I)の製造方法、またはその塩の製造方法により製造することができ、または、化合物(I)またはその塩を、溶媒中で加熱溶解し、攪拌下冷却して晶析することにより、製造することもできる。
【0037】
晶析に使用する化合物(I)またはその塩は、どのような形態であってもよく、溶媒和物もしくは水和物または無水物でもよく、非晶質でも結晶質(複数の結晶多形からなるものを含む)でもよく、これらの混合物でもよい。
【0038】
晶析に使用する溶媒は、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、1-プロパノール等のアルコール系溶媒;アセトニトリル;N,N-ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒;酢酸エチル等のエステル系溶媒;ヘキサン、ヘプタン等の飽和炭化水素系溶媒;アセトン、2-ブタノン等のケトン系溶媒;t-ブチルメチルエーテル等のエーテル系溶媒または水を挙げることができる。また、これらの溶媒は単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0039】
溶媒の使用量は、化合物(I)またはその塩が加熱により溶解する量または懸濁液が撹拌可能となる量を下限とし、結晶の収量が著しく低下しない量を上限として適宜選択することができる。
【0040】
晶析において、種結晶(所望の化合物(I)またはその塩の結晶など)を加えても、加えなくてもよい。種結晶を加える温度は、特に限定されないが、好ましくは0~80℃である。
【0041】
化合物(I)またはその塩を加熱して溶解する場合の温度は、溶媒に応じて化合物(I)またはその塩が溶解する温度を適宜選択すればよいが、好ましくは50℃から再結晶溶媒が還流を開始する温度の範囲であり、より好ましくは55~80℃である。
【0042】
晶析時の冷却は、急冷すると態様の異なる結晶(多形)を含むものを与えうるので、結晶の品質や粒度等への影響を考慮して適宜冷却速度を調整して実施することが望ましく、好ましくは、例えば5~40℃/時間の速度での冷却である。より好ましくは、例えば5~25℃/時間の速度での冷却である。
【0043】
また、最終的な晶析温度は、結晶の収量と品質等から適宜選択することができるが、好ましくは-25~30℃である。
【0044】
晶析した結晶を通常の濾過操作で分離し、必要に応じてろ別した結晶を溶媒で洗浄し、さらにこれを乾燥して、目的の結晶を得ることができる。結晶の洗浄に使用する溶媒には、晶析溶媒と同様のものを使用できる。好ましくは、例えば、エタノール、アセトン、2-ブタノン、酢酸エチル、ジエチルエーテル、t-ブチルメチルエーテル、ヘキサン等を挙げることができる。また、これらの溶媒は単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0045】
濾過操作で分離した結晶は、適宜、大気下または窒素気流下に放置することにより、または加熱によって乾燥することができる。
【0046】
乾燥時間は、残留溶媒が所定の量を下回るまでの時間を製造量、乾燥装置、乾燥温度等に応じて適宜選択すればよい。また、乾燥は通風下でも減圧下でも行うことができる。減圧度は、製造量、乾燥装置、乾燥温度等に応じて適宜選択すればよい。得られた結晶は、乾燥後、必要に応じて大気中に放置することもできる。
【0047】
以上に説明した製造方法によって得られる化合物(I)および化合物(I)の塩の結晶は、後述の薬理試験例における活性データに示されているように、コリン作動性神経細胞賦活作用および/または神経保護作用を有し、コリン作動性神経細胞の機能低下によって起こる認知機能低下の改善剤としての利用可能性を有している。
【0048】
[医薬組成物]
本発明の他の実施形態は、化合物(I)の結晶および薬剤学的に許容される添加物を含有する医薬組成物である。医薬組成物は、薬剤学的に許容される添加物を化合物(I)の結晶と混和することにより製造することができる。本発明に係る医薬組成物は例えば第十七改正日本薬局方の製剤総則に記載の方法など既知の方法に従って製造することができる。
本実施形態に係る医薬組成物は、その剤形に応じて適切に患者に投与することができる。
【0049】
本発明に係る化合物(I)の投与量は、症状の程度、年齢、性別、体重、投与形態・塩の種類、疾患の具体的な種類等に応じて異なるが、通常、成人の場合は1日あたり経口投与で約30μg~10g、好ましくは100μg~5g、さらに好ましくは100μg~1gを、注射投与で約30μg~1g、好ましくは100μg~500mg、さらに好ましくは100μg~300mgをそれぞれ1回または数回に分けて投与する。
【実施例
【0050】
本発明の化合物(I)の結晶は、例えば、以下の実施例に記載した方法により製造することができ、また、当該化合物が奏する効果は、以下の試験例に記載した方法により確認することができる。ただし、これらは例示的なものであって、本発明は、如何なる場合も以下の具体例に制限されるものではなく、また本発明の範囲を逸脱しない範囲で変化させてもよい。
【0051】
以下の実施例において製造された結晶の粉末X線結晶回折は、得られた結晶を、粉末X線回折装置の試料台に載せ、下記のいずれかの条件で測定した。
(透過法条件)
X線源:CuKα
電圧:45kV
電流:40mA
光学系:集束ミラー
ソーラースリット:0.02°
検出器:X’Celerator(半導体検出器)
スキャン範囲:5°~35°
ステップサイズ:0.017°
スキャンステップ時間:600sec
サンプルホルダー:カプトン膜
(反射法条件)
X線源:CuKα
電圧:50kV
電流:300mA
スリット:発散スリット0.5mm、散乱スリット開放、受光スリット開放
検出器:シンチレーションカウンター
スキャン速度:5°/min
サンプリング間隔:0.02°
スキャン範囲:5°~35°
サンプルホルダー:アルミニウム製ホルダー
【0052】
熱分析は試料をアルミニウム製試料パンに精密に秤取し、以下の条件で測定した。
(測定条件)
雰囲気:100mL/min窒素ガス気流下
対照:空のアルミニウム製試料パン
昇温速度:10℃/min
サンプリング間隔:1sec
測定温度範囲:室温~320℃
【0053】
結晶の13C固体NMRスペクトルは試料管に固体試料を約300mg内封し、以下の条件で測定した。
(測定条件)
使用装置:Avance400MHz(BRUKER社製)7mm-CPMASプローブ(BRUKER社製)
測定核:13C(共鳴周波数 100.6248425MHz)
測定温度:室温
パルスモード:CPTOSS測定
回転数:5000Hz
パルス繰り返し時間:3sec
コンタクトタイム:1msec
積算回数:5120回
基準物質:グリシン(外部基準:176.03ppm)
【0054】
結晶のラマンスペクトルは試料を顕微ラマン分光装置の試料台に置き、以下の測定条件で測定した。
(測定条件)
使用装置:RENISHAWラマンマイクロスコープinVia Reflex
レーザー波長:785nm
回折格子:1200lines/mm
対物レンズ:50倍
走査様式:連続
露光時間:5秒
積算回数:5回
測定範囲:400~1800cm-1(ラマンシフト)
誤差:±2cm-1
【0055】
文献名等が記載されている化合物は、その文献等に従って製造したことを示す。
【0056】
また、本明細書に使用される略号は当業者に周知の慣用的な略号である。本明細書においては下記の略号を使用する。
DMSO:ジメチルスルホキシド
IPA:イソプロパノール
n-:ノルマル
TEA:トリエチルアミン
THF:テトラヒドロフラン
H-NMR:プロトン核磁気共鳴スペクトルメトリー
MS:マススペクトルメトリー
【0057】
以下の実施例および参考例中の「室温」は通常約10℃から約35℃を示す。%は特記しない限り重量パーセントを示す。
【0058】
プロトン核磁気共鳴スペクトルの化学シフトは、テトラメチルシランに対するδ単位(ppm)で記録され、カップリング定数はヘルツ(Hz)で記録されている。分裂パターンの略号は以下の通りである。
s:シングレット、d:ダブレット、t:トリプレット、q:カルテット、m:マルチプレット、br.s:ブロードシングレット。
【0059】
参考例においてマイクロウェーブ反応装置を用いた反応は、Biotage社製initiatorTMまたはinitiator+TMを用いた。
【0060】
クロマトグラフィーに関して、シリカゲルは、Merck社製Silica Gel60(70-230mesh ASTM)または富士シリシア化学社製PSQ60Bを用いるか、プレパックカラム{カラム:YAMAZEN社製 Hi-FlashTM Column(Silicagel)、サイズ:S(16×60mm)、M(20×75mm)、L(26×100mm)、2L(26×150mm)、3L(46×130mm)のいずれか、またはBiotage社製BiotageTMSNAP Ultra Silica Cartridge、サイズ:10g、25g、50gのいずれか}を用いた。
NHシリカゲルは、富士シリシア化学(株)製CHROMATOREX NH-DM2035を用いるか、プレパックカラム{カラム:YAMAZEN社製 Hi-FlashTM Column(Amino)、サイズ:S(16×60mm)、M(20×75mm)、L(26×100mm)、2L(26×150mm)、3L(46×130mm)のいずれか、もしくは和光純薬工業社製 プレセップTM(ルアーロック)NH2(HC)、サイズ:タイプM(14g/25mL)、タイプL(34g/70mL)、タイプ2L(50g/100mL)、タイプ3L(110g/200mL)のいずれか}を用いた。
中性アルミナはAluminium oxide 90 active neutral,70-230mesh,Merck,E6NXXを用いた。
【0061】
以下に示す化合物の命名は、一般的に用いられる試薬を除き、「E-ノートブック」バージョン12(パーキンエルマー社)で表示されたものを用いた。
【0062】
参考例1
5,10-ジメチル-5,6,9,10,11,12-ヘキサヒドロピリド[4’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピリミド[1,2-a]チエノ[3,2-f][1,4]ジアゼピン-4,13-ジオン(以下化合物(I)という。)の合成
【0063】
【化3】
(1)エチル 2-アミノ-6-メチル-4,5,6,7-テトラヒドロチエノ[2,3-c]ピリジン-3-カルボキシレートの合成
1-メチル-4-ピペリドン(CAS No.1445-73-4)(51.5mL,442mmol)、エチルシアノアセテート(CAS No.105-56-6)(47.2mL,442mmol)、硫黄(CAS No.7704-34-9)(14.2g,442mmol)およびエタノール(800mL)の混合物に室温でTEA(61.6mL,442mmol)を加えた。反応混合物を40℃で15時間撹拌した後、減圧下濃縮した。残渣をカラムクロマトグラフィー(NHシリカゲル、酢酸エチル)で精製した。得られた濃縮残渣を酢酸エチルでトリチュレーションした。沈殿物をろ取し、酢酸エチルで洗浄し、そして減圧下に乾燥して、標記化合物(58.4g)を得た。
H-NMR(400MHz,CDCl)δ(ppm):1.33(t,J=7.0Hz,3H),2.44(s,3H),2.62-2.70(m,2H),2.79-2.88(m,2H),3.37(t,J=2.0Hz,2H),4.26(q,J=7.3Hz,2H),5.97(br.s,2H).
MS(ESI)m/z:241[M+H]
【0064】
(2)4-メチル-3,4-ジヒドロ-1H-チエノ[2,3-e][1,4]ジアゼピン-2,5-ジオンの合成
サルコシン(790mg,8.87mmol)の水(12mL)溶液へ、1H,2H,4H-チエノ[2,3-d][1,3]オキサジン-2,4-ジオン(CAS No.103979-54-0)(600mg,3.55mmol)を加えた。反応混合物を1.5時間加熱還流した。反応混合物を室温まで冷却した。反応混合物へクロロホルムを加え、有機層を分離した。水層をクロロホルム(2回)、酢酸エチル(3回)で抽出した。合わせた有機層を無水硫酸ナトリウム上で乾燥し、ろ過し、ろ液を減圧下に濃縮した。得られた固体を乾燥し、標記化合物(430mg)を得た。
H-NMR(400MHz,CDCl)δ(ppm):3.23(s,3H),3.99(s,2H),6.90(d,J=5.9Hz,1H),7.29(d,J=5.7Hz,1H),8.39(br.s,1H).
MS(ESI)m/z:197[M+H]
【0065】
(3)化合物(I)の合成
工程(2)で得た4-メチル-3,4-ジヒドロ-1H-チエノ[2,3-e][1,4]ジアゼピン-2,5-ジオン(1.00g,5.10mmol)、工程(1)で得たエチル 2-アミノ-6-メチル-4,5,6,7-テトラヒドロチエノ[2,3-c]ピリジン-3-カルボキシレート(1.84g,7.64mmol),および1,4-ジオキサン(30mL)の混合物へ、オキシ塩化リン(1.43mL,15.3mmol)を室温で加えた。反応混合物を室温で5分攪拌し、90℃で2時間撹拌した。室温まで冷却した反応混合物に、ナトリウム エトキシド(20%エタノール溶液、21.7mL,56.1mmol)を5分かけて加えた。反応混合物を室温で1.5時間攪拌した。反応混合物に酢酸エチル、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、そして水を順次加え、有機層を分離した。水層を酢酸エチルで抽出した。合せた有機層を無水硫酸マグネシウム上で乾燥し、ろ過し、ろ液を減圧下に濃縮した。残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、20%-50%メタノール/酢酸エチル)で精製した。得られた固体をエタノールでトリチュレーションし、沈殿物をろ取した。得られた固体をエタノールで洗浄し、減圧下に乾燥して標記化合物(712mg)を得た。
H-NMR(400MHz,CDCl)δ(ppm):2.52(s,3H),2.71-2.87(m,2H),3.05-3.30(m,5H),3.59-3.75(m,2H),4.23(d,J=14.8Hz,1H),4.57(d,J=14.8Hz,1H),7.35(d,J=6.2Hz,1H),7.39(d,J=5.9Hz,1H).
MS(ESI)m/z:373[M+H]
【0066】
実施例1
化合物(I)の結晶の調製
0.3M塩酸1.5Lに化合物(I)152.08gを加え、この溶液に酢酸エチル450mlを加えて5分間攪拌した。水層を分離し、酢酸エチル450mlで洗い、不溶物をろ去した。ろ液に20℃水浴中1N水酸化ナトリウム水溶液100mlを加え15分攪拌した。この混合物中に1N水酸化ナトリウム水溶液350mlを加え、生じた懸濁液を2時間30分攪拌した。生じた結晶をろ取し、水300ml、450ml、300ml、エタノール300ml、350mlおよび300mlで順次洗浄し、減圧下乾燥して標記結晶141.7gを得た。
粉末X線回折ピーク(反射法、2θ±0.2°):9.0°、11.1°、14.5°、18.1°、20.0°、21.9°、23.6°、24.4°、24.9°、28.5°
上記方法により得られた化合物(I)結晶の粉末X線回折パターンを図1に示す。
【0067】
実施例2
化合物(I)一塩酸塩のA型結晶の調製
化合物(I) 101mgをねじ口試験管に添加した。1.5M 塩酸0.2mLを加え溶解した。IPA 1.8mLを添加し、超音波照射後、スターラーを用いて40℃で一日攪拌した。室温にてさらに1時間攪拌後、フィルター(0.2μm)を用いて試料をろ取し、0.5 mLのIPA/水(9/1,v/v)でリンスし、窒素気流下で通風乾燥した。70℃で約1時間乾燥させ、標記結晶を得た(103mg)。
粉末X線回折ピーク(透過法、2θ±0.2°):6.1°、7.8°、11.6°、16.2°、19.9°、20.8°、25.2°、25.7°、26.9°、29.9°
13C-NMR(100MHz、solid state)δ(ppm):164.0,162.5,160.5,153.9,151.6,150.7,133.6,131.1,129.6,128.4、126.9,125.2,123.7,121.3,120.3、119.5,53.7,52.0,50.9,44.7,36.5,22.6
ラマンシフトピーク(cm-1):409、587、763、976、1428、1493、1688
上記方法により得られた化合物(I)一塩酸塩のA型結晶の粉末X線回折パターンを図2に、13C-固体NMRスペクトルを図9に、熱分析TG-DTAチャートを図12に、ラマンスペクトルを図19に、それぞれ示す。
【0068】
実施例3
化合物(I)一塩酸塩のC型結晶の調製
化合物(I) 1020mgをねじ口試験管に添加した。1.5当量の塩酸(353μL)を20mLのメタノールに溶解し、これを試料に加えた。スターラーを用いて室温にて2日間攪拌した。フィルター(0.2μm)を用いて試料をろ取した。得られた固体を約2時間減圧乾燥後、70℃で1時間乾燥させ、標記結晶を得た(1048mg)。
粉末X線回折ピーク(透過法、2θ±0.2°):6.0°、7.7°、9.7°、11.4°、15.8°、16.9°、18.1°、23.2°、25.4°、27.6°
13C-NMR(100MHz、solid state)δ(ppm):162.5,160.5,159.6,153.8,151.1,134.1,131.6,128.4,127.6,125.6,120.0,54.0,52.6,50.9,44.3,43.5,38.9,32.3,22.4
上記方法により得られた化合物(I)一塩酸塩のC型結晶の粉末X線回折パターンを図4に、13C-固体NMRスペクトルを図11に、熱分析TG-DTAチャートを図14に示す。
【0069】
実施例4
化合物(I)一塩酸塩のB型結晶の調製
実施例3で得られる塩酸塩結晶 303mgを白金製るつぼに加え、160℃で15分加熱し、標記結晶を得た(293mg)。
粉末X線回折ピーク(透過法、2θ±0.2°):6.3°、9.7°、10.1°、17.9°、19.0°、19.4°、23.4°、26.3°、27.3°、32.0°
13C-NMR(100MHz、solid state)δ(ppm):162.0,160.1,153.8,151.1,133.4,130.7,128.3,126.9,125.6,120.3,51.2,43.6,32.3,22.3
上記方法により得られた化合物(I)一塩酸塩のB型結晶の粉末X線回折パターンを図3に、13C-固体NMRスペクトルを図10に、熱分析TG-DTAチャートを図13に示す。
【0070】
実施例5
化合物(I)一塩酸塩のD型結晶の調製
実施例2,3でそれぞれ得られる塩酸塩結晶の混合物 227mgおよびエタノール8mLをねじ口試験管に添加した。スターラーを用いて65℃にて攪拌した。約1時間後、超音波照射し、同温度で一日攪拌した。フィルター(0.2μm)を用いて試料をろ取し、標記結晶を得た(203mg)。
粉末X線回折ピーク(透過法、2θ±0.2°):6.6°、14.6°、16.1°、20.5°、21.0°、23.0°、24.5°、26.4°、28.0°、32.5°
上記方法により得られた化合物(I)一塩酸塩のD型結晶の粉末X線回折パターンを図5に、熱分析TG-DTAチャートを図15に示す。
【0071】
実施例6
化合物(I)一塩酸塩のE型結晶の調製
実施例2で得られる塩酸塩結晶108mgおよびアセトニトリル5mLをねじ口試験管に添加した。スターラーを用いて60℃にて一日攪拌し、フィルター(0.2μm)を用いて試料をろ取した。得られた固体およびアセトニトリル5mLを再度ねじ口試験管に添加し、スターラーを用いて60℃にて一日攪拌した。フィルター(0.2μm)を用いて窒素気流下にてろ取し、標記結晶を得た(89.7mg)。
粉末X線回折ピーク(透過法、2θ±0.2°):6.4°、11.3°、15.7°、18.0°、19.2°、22.8°、24.6°、25.4°、26.0°、27.3°
上記方法により得られた化合物(I)一塩酸塩のE型結晶の粉末X線回折パターンを図6に、熱分析TG-DTAチャートを図16に示す。
【0072】
実施例7
化合物(I)一塩酸塩のF型結晶の調製
実施例2で得られる塩酸塩結晶101mgおよびエタノール5mLをねじ口試験管に添加した。スターラーを用いて60℃にて一日攪拌した。フィルター(0.2μm)を用いて試料をろ取した。得られた固体およびエタノール5mLを再度ねじ口試験管に添加し、スターラーを用いて60℃にて4時間攪拌した。フィルター(0.2μm)を用いてろ取し、標記結晶を得た(75.0mg)。
粉末X線回折ピーク(透過法、2θ±0.2°):5.9°、7.3°、9.3°、10.7°、13.8°、15.6°、16.4°、18.7°、25.1°、26.8°
上記方法により得られた化合物(I)一塩酸塩のF型結晶の粉末X線回折パターンを図7に、熱分析TG-DTAチャートを図17に示す。
【0073】
実施例8
化合物(I)一臭化水素酸塩の結晶の調製
化合物(I)933mgをねじ口試験管に添加した。20mLのメタノールに1.5当量(434μL)の臭化水素酸を溶解し、これを試料に添加した。スターラーを用いて、室温にて3日間攪拌した。フィルター(0.2μm)を用いて試料をろ取し、60℃で1時間乾燥させて標記結晶を得た(1111mg)。
粉末X線回折ピーク(透過法、2θ±0.2°):6.0°、7.8°、10.0°、11.7°、17.8°、20.8°、23.5°、24.5°、25.2°、27.3°
上記方法により得られた化合物(I)一臭化水素酸塩の粉末X線回折パターンを図8に、熱分析TG-DTAチャートを図18に示す。
【0074】
<薬理試験例>
ラット胎仔脳由来神経細胞培養系におけるNGF存在下Acetylcholine(ACh)放出量の測定
(1)ラット初代神経細胞培養
胎生18日齢のSprague-Dawley系(SD)ラット(日本チャールズリバー社)より中隔野を単離し培養に供した。具体的には、イソフルラン麻酔下、妊娠ラットより無菌的に胎仔を摘出した。胎仔より脳を摘出し、氷冷L-15 medium(11415-064、Thermo Fisher Scientific)に浸した。その摘出脳から、実体顕微鏡下で中隔野を採取した。採取した中隔野を、0.25% trypsin(15050-065、Thermo Fisher Scientific)および0.01% DNase(D5025-150KU,Sigma)を含有した酵素溶液中、37℃下30分間の酵素処理することにより、細胞を分散させた。この際、酵素反応は非働化済みウマ血清(26050-088、Thermo Fisher Scientific)を加えることで停止させた。この酵素処理溶液を1000rpmにて3分間遠心分離し、上清を除いた。得られた細胞塊に培地を10mL加えた。培地にはDulbecco‘s Modified Eagle’s Medium(044-29765、WAKO)にN2サプリメント(17502-048、Thermo Fisher Scientific)と1mM Sodium pyruvate(11360-070、Thermo Fisher Scientific)およびPenicilin streptmycin(15140-1221、Thermo Fisher Scientific)を用いた。培地が加えられた細胞塊を、緩やかなピペッティング操作により細胞を再分散後、再度1000rpmにて3分間遠心分離し、上清を除いた。得られた細胞塊に培地を10mL加え、この細胞分散液を40μmナイロンメッシュ(Cell Strainer)でろ過し、細胞塊を除くことにより神経細胞懸濁液を得た。この神経細胞懸濁液を培地にて希釈し、10%非働化済みウシ血清(26140-079、Thermo Fisher Scientific)と10%非働化済みウマ血清を加えた。その後、予めpoly-D-lysineにてコーティングされた96well培養器(354461、CORNING)に初期培養密度が1.4×10cells/cmになるように100μL/wellにて播種した。播種した細胞は5%CO-95%air下、37℃インキュベータ中にて二日培養した後、培地全量を新鮮な培地120μLと交換し、引き続き5日間培養した。
(2)化合物添加
培養7日目に薬物添加を以下の通りに行った。試験化合物のDMSO溶液を培地にて最終濃度の10倍になるように希釈した。NGF(450-01、PEPRO TECH,INC.)を0.3ng/mLに調製した。これらの2つの溶液をそれぞれ15μL/well添加し、よく混和した。最終DMSO濃度は0.1%以下とした。また、対照群にはDMSOおよびNGFのみを添加した。
(3)ACh放出量測定
薬物添加1日後に、以下の方法でHPLCにてACh放出量を測定した。培地回収後のwellに温めたバッファーを100μL/well加え、直ぐにバッファーを除いた。その後、10μM choline、10μM physostigmineと6mM KClを加えたバッファーを120μL/well加えた。バッファーは、125mM NaCl、25mM 4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid、1.2mM KHPO、1.2mM MgSO、2.2mM CaCl(2HO)、10mM Glucoseに滅菌水にて調製し、溶液の最終pHを7.4にした。バッファーを加えた96well培養器を5%CO-95%air下、37℃インキュベータ中にて40分間インキュベートした後、80μLを回収した。回収したバッファーに内部標準液IPHC(5×10-7M)を6μL加え、HPLC測定用チューブにバッファーを移し、HPLC測定に供した。結果は、対照群のバッファー中ACh濃度に対する百分率(% of control)にて化合物の作用を示し、対照群のバッファー中ACh濃度に対して20%の上昇を示した参考例1の化合物濃度は0.1μMであった。
【0075】
ラット中隔野におけるcholine acetyltransferase(ChAT)mRNA発現量の測定
(1)化合物投与
本試験では体重約250-350gのSD雄性ラット(日本チャールズリバー社)を使用した。試験化合物は0.01N塩酸に溶解し、経口投与した。
(2)サンプリング
試験化合物投与24時間目に、ペントバルビタール麻酔下で脳組織を摘出した。氷冷下で中隔野を分画し、液体窒素で凍結後-80℃にて保管した。
(3)ChAT mRNA発現量の測定
RNA精製にはRNeasy(登録商標) Plus Mini Kit(#74136:QIAGEN社)を使用した。RNA精製はキットの添付文書に記載の方法にて実施した。RNA精製後、total RNA濃度はQIAxpert Instrument(QIAGEN社)で測定した。cDNAはSuperScript(登録商標) VILOTM cDNA Synthesis Kit(#11754:Thermo Fisher Scientific)を使用して調製した。cDNAの調製はキットの添付文書に記載の方法で実施した。調製したcDNAをRNase free waterで4倍希釈し、希釈したcDNA溶液をサンプルとした。Taqman(登録商標) Universal PCR Master Mix(#4304437:Thermo Fisher Scientific)、Taqman(登録商標) Gene Expression Assays,INVENTORIED(#4331182:Thermo Fisher Scientific)、RNase free waterおよびcDNA溶液をそれぞれ10μL、1μL、4μLおよび5μlずつ混和し、測定サンプル溶液とした。Quantitative polymerase chain reaction(qPCR)はABI PRISM(登録商標) 7900HT(Thermo Fisher Scientific)を使用し、蛍光プローブ法で実施した。解析はSDS2.4(Thermo Fisher Scientific)で実施した。結果は媒体投与群のChAT mRNA発現量に対しての参考例1の化合物投与群のChAT mRNA発現量の増加量を百分率で算出すると10mg/kgで56.4%であった。
【0076】
ラットCerebrospinal fluid(CSF)におけるAcetylcholine(ACh)量の測定
(1)背景
脳内とCerebrospinal fluid(CSF)中の神経伝達物質の増減は相関することが齧歯類の研究から明らかとなり、その相関はヒトにおいても同様に捉えられることが明らかとなっている(Lowe S et al. Psychopharmacology 219 (2012) 959-70.)。そこで、試験化合物による脳内のアセチルコリン量変化を検出するために、CSF中アセチルコリン量変化を評価した。
(2)化合物投与
本試験では体重約150-250gのFischer344系雄性ラット(日本チャールズリバー社)を使用した。試験化合物は1日1回、3日間、10mg/kg経口投与した。媒体は0.01N塩酸を使用した。
(3)サンプリング
媒体および試験化合物の最終投与24時間後に、ペントバルビタール麻酔下で大槽からAChE阻害剤入りのチューブにCSFを採取した。採取したCSFを3500xg、4℃で10分間遠心し、上清を回収した。回収した上清を液体窒素で凍結後、-80℃にて保管した。
(4)LCMSを用いたACh測定
内標準物質としてCSF 10μLに最終濃度0.34nmol/L acetylcholine-d9 chloride(ACh-d9)を50μL加えた。ピペッティングにて混和後、1200xg、4℃で10分間遠心した。上清を回収し,LC/MS法(NexeraX2(MS)、TSQ Altis(HPLC))により、AChはprecursor ion m/z 146.050、product ion m/z 87.071を(内標のACh-d9はprecursor ion m/z 155.088、product ion m/z 87.000)を検出した。結果は、媒体投与群のCSF中ACh濃度に対しての参考例1の化合物投与群のCSF中ACh濃度増加を百分率(% of control)で算出すると156.8%であった。
【0077】
Human tau P301Sトランスジェニックマウスにおける評価
(1)化合物投与
本試験では4ヶ月齢から7ヶ月齢までの約3ヶ月間、Human tau P301S transgenicマウスに1日1回,試験化合物を経口投与した。媒体は0.01N塩酸を使用した。
(2)サンプリング
投与開始日に投与開始時群(4ヶ月齢)、最終投与翌日に媒体投与群および試験化合物投与群にペントバルビタール(50mg/kg,ip)で麻酔後,PBSで経心的に灌流した。灌流後,内側中隔野を含む前脳を採取し,4%パラホルムアルデヒドで固定した。
(3)脳冠状凍結切片作製
採取した内側中隔野を含む前脳を4%パラホルムアルデヒドで一晩浸漬、振とうした後、7.5%スクロース溶液に置換した。翌日に7.5%スクロース溶液に置換し一晩浸漬、振とう後、15%スクロース溶液に置換しさらに一晩浸漬、振とうした。浸漬液を30%スクロース溶液に置換し一晩浸漬、振とう後、内側中隔野を含む前脳のサンプルから滑走式ミクロトーム(Leica,SM2000R)を用いて30μmの厚さの脳冠状凍結切片を作製した。
(4)Choline acetyltransferase(ChAT)陽性細胞数の免疫組織学的定量
作製した脳冠状凍結切片を用いて,一次抗体としてChAT抗体(SantaCruz,SC-20672)を使用し,DAB染色(DAB PEROXIDASE SUBSTRATE KIT(Vector,SK-4100))を行った。オールインワン蛍光顕微鏡(キーエンス,BZ-X710)でThe mouse Brain in stereotaxic coordinates(COMPACT THIRD EDITION, Keith B.J. Franklin & Geroge Paxinos)に示される内側中隔野を含む切片画像を撮影し、BZ解析ソフト(キーエンス)によりその内側中隔野の主軸沿いに存在するChAT陽性細胞数の計測を行った。結果は投与開始時群(4ヶ月齢)のChAT陽性細胞数を100%としたときの媒体投与群と試験化合物投与群のChAT陽性細胞数を百分率で示した。結果は平均値±標準誤差で表した。投与開始時群と媒体投与群間の差(有意差あり:*)および媒体投与群と試験化合物群の差(有意差あり:#)はそれぞれ対応のないt検定で解析した。p<0.05を統計学的有意差として判断した。統計解析はGraphPad Prism version 7.02を用いて行った。結果を表1に示す。
【0078】
【表1】
【0079】
ラット海馬采脳弓切断モデルを用いたコリン作動性神経細胞に対する神経細胞保護および改善効果
(1)ラット海馬采-脳弓切断モデルの作製
本試験では体重約250-350gのSprague-Dawley系雄性ラット(日本チャールズリバー社)を使用した。ラットをミダゾラム2mg/kg皮下投与、塩酸メデトミジン0.15mg/kg皮下投与、酒石酸ブトルファノール2.5mg/kg皮下投与の三種を混合して麻酔し、脳定位固定装置(株式会社ナリシゲ)に固定した。頭蓋を露出し、Bregmaより2mm後方の正中線から右側頭蓋骨を横幅5mmにドリルで穴をあけた。4mm幅のカミソリをBregmaより深さ5.5mmに刺入し、海馬采-脳弓を切断した。止血後、頭皮を縫合し、手術後ラットをケージにもどし麻酔から回復させた。Bregmaより2mm後方の正中線から右側頭蓋骨を横幅5mmにドリルで穴をあけ、カミソリを刺入しない群を偽手術群とした。
(2)化合物投与
手術5日後から9日間(実施例1:10mg/kg)、または7日後から14日間(実施例3:3mg/kg)、1日1回、試験化合物を経口投与した。媒体は0.01N塩酸を使用し、偽手術群も化合物同様に1日1回、媒体を経口投与した。
(3)サンプリング
ペントバルビタール麻酔下で氷冷PBSで経心的に灌流した。灌流後,内側中隔野を含む前脳を採取し,4%パラホルムアルデヒドに一晩浸漬、振とうした。翌日に7.5%スクロース溶液に置換し一晩浸漬、振とう後、15%スクロース溶液に置換しさらに一晩浸漬、振とうした。浸漬液を30%スクロース溶液に置換し一晩浸漬、振とう後、内側中隔野を含む前脳のサンプルから滑走式ミクロトーム(Leica,SM2000R)を用いて30μmの厚さの脳冠状凍結切片を作製した。
(4)Choline acetyltransferase(ChAT)陽性細胞数およびvesicular acetylcholine transporter〈VAChT〉の免疫組織学的定量
作製した脳冠状凍結切片を用いて,一次抗体としてChAT抗体(SantaCruz,SC-20672)またはVAChT抗体(Merck Millipore,ABN100)を使用し,DAB染色(DAB PEROXIDASE SUBSTRATE KIT(Vector,SK-4100))を行った。オールインワン蛍光顕微鏡(キーエンス,BZ-X710)でThe Rat Brain in stereotaxic coordinates (COMPACT THIRD EDITION, GEORGE PAXINOS & CHARLES WATSON)に示される内側中隔野または海馬を含む切片画像を撮影し、BZ解析ソフト(キーエンス)により内側中隔野のChAT陽性細胞数または海馬VAChTの光学密度(Optical density,OD)の計測を行った。結果は、偽手術群の内側中隔野ChAT陽性細胞数または海馬VAChTのODを100%としたときの媒体投与群と試験化合物投与群のChAT陽性細胞数または海馬VAChTのODを百分率で示した。結果は平均値±標準誤差で表した。媒体投与群と試験化合物群の差(有意差あり:#)はそれぞれ対応のないt検定で解析した。p<0.05を統計学的有意差として判断した。統計解析はGraphPad Prism version 7.02を用いて行った。結果を表2、表3に示す。
【0080】
【表2】
【0081】
【表3】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19