(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】グルタチオンを含む植物の葉に施用するための組成物
(51)【国際特許分類】
A01N 37/46 20060101AFI20240624BHJP
A01P 21/00 20060101ALI20240624BHJP
A01N 25/30 20060101ALI20240624BHJP
A01N 25/00 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
A01N37/46
A01P21/00
A01N25/30
A01N25/00 102
(21)【出願番号】P 2021511522
(86)(22)【出願日】2020-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2020013221
(87)【国際公開番号】W WO2020203522
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-02-13
(31)【優先権主張番号】P 2019066050
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅田 隆之
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 豊輝
(72)【発明者】
【氏名】上北 健
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103651366(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107439591(CN,A)
【文献】特開2002-104894(JP,A)
【文献】国際公開第2008/072602(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N,A01P
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
MEDLINE(STN)
EMBASE(STN)
BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルタチオンと、HLB値が8以上かつ17以下の非イオン性界面活性剤とを含む、植物の葉に施用するための組成物
であって、
前記非イオン性界面活性剤が、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル及びポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステルから選択される1以上である、組成物。
【請求項2】
前記グルタチオンが酸化型グルタチオンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
HLB値が8以上かつ17以下の非イオン性界面活性剤を含む、植物の葉へのグルタチオンの吸収の促進剤
であって、
前記非イオン性界面活性剤が、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル及びポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステルから選択される1以上である、促進剤。
【請求項4】
グルタチオンを、HLB値が8以上かつ17以下の非イオン性界面活性剤とともに、植物の葉に施用することを含む、植物の葉へのグルタチオンの吸収を促進する方法
であって、
前記非イオン性界面活性剤が、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル及びポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステルから選択される1以上である、方法。
【請求項5】
グルタチオンを、HLB値が8以上かつ17以下の非イオン性界面活性剤とともに、植物の葉に施用すること、及び
施用後の前記植物を生育させること
を含む植物の栽培方法
であって、
前記非イオン性界面活性剤が、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル及びポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステルから選択される1以上である、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルタチオンを含む植物の葉に施用するための組成物、植物の葉へのグルタチオンの吸収の促進剤、植物の葉へのグルタチオンの吸収を促進する方法、及び、植物の栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グルタチオンは、L-システイン、L-グルタミン酸、グリシンの3つのアミノ酸から成るペプチドで、人体だけでなく、他の動物や植物、微生物など多くの生体内に存在し、活性酸素の消去作用、解毒作用、アミノ酸代謝など、生体にとって重要な化合物である。
【0003】
グルタチオンは生体内で、L-システイン残基のチオール基が還元されたSHの形態である還元型グルタチオン(N-(N-γ-L-グルタミル-L-システイニル)グリシン、以下「GSH」と称することがある)と、2分子のGSHのL-システイン残基のチオール基が酸化されグルタチオン2分子間でジスルフィド結合を形成した形態である酸化型グルタチオン(以下「GSSG」と称することがある)とのいずれかの形態で存在する。
グルタチオンは肥料、医薬品、化粧品などの分野で有用であることが知られている。
【0004】
特許文献1には、GSSGが植物の種子又は花の数を増加させる作用や、脇芽又は分げつの数を増加させる等、収穫指数を向上させる植物生長調整剤の有効成分として有用であると開示されている。
【0005】
特許文献2には、GSSGを葉へ施用することによって植物の生長を促進する方法において、更に肥料成分を葉に施用することを組み合わせた場合に、GSSGと肥料成分とが相乗的に作用し、植物生長促進効果が顕著に高まることが開示されている。
【0006】
一方、特許文献3には、無機カルシウム塩の植物への施用を促進するために、HLB10以上で、疎水基として炭素数12~18の炭化水素基を有し、且つ付加モル数が8~40のポリオキシエチレン基を有する親水性の非イオン界面活性剤と、無機カルシウム塩からなる肥料成分を必須成分として含有することを特徴とする肥料組成物が開示されている。
【0007】
肥料成分の植物の葉面からの吸収性は、肥料成分により大きく異なることが知られており、非特許文献1には、無機塩の葉面からの吸収性は比較的高いのに対して、アミノ酸の葉面からの吸収性は低いことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開WO2008/072602
【文献】国際公開WO2017/006869
【文献】特開2002-104894号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】関東東海北陸農業研究成果情報,pp.192~193(3巻),2001年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献2に記載の通りGSSGを植物の葉へ施用することで植物の生長を促進することができる。一方で、非特許文献1に記載の通りアミノ酸の植物葉面からの吸収速度は無機塩と比較して顕著に低いことが知られている。特許文献3には、所定のHLB値を有する非イオン界面活性剤と組み合わせることで無機カルシウム塩の植物への吸収を促進することが記載されているが、アミノ酸からなるペプチドの葉への吸収を促進するための手段は一切記載されていない。
【0011】
グルタチオンの植物の葉での吸収を高めることができれば、グルタチオンによる植物の生長促進作用を高めることができるとともに、グルタチオンの施用量を低減することが可能になるためコストダウンにもつながる。本発明の一以上の実施形態は、グルタチオンの植物の葉での吸収を促進することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本明細書では、上記課題を解決する手段として以下の手段を開示する。
(1)グルタチオンと、HLB値が8以上かつ17以下の非イオン性界面活性剤とを含む、植物の葉に施用するための組成物。
(2)前記グルタチオンが酸化型グルタチオンである、(1)に記載の組成物。
(3)前記非イオン性界面活性剤が、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル及びポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステルから選択される1以上である、(1)又は(2)に記載の組成物。
(4)HLB値が8以上かつ17以下の非イオン性界面活性剤を含む、植物の葉へのグルタチオンの吸収の促進剤。
(5)グルタチオンを、HLB値が8以上かつ17以下の非イオン性界面活性剤とともに、植物の葉に施用することを含む、植物の葉へのグルタチオンの吸収を促進する方法。
(6)施用後の前記植物を生育させ、前記グルタチオンを葉に吸収させることを含む、(5)に記載の方法。
(7)グルタチオンを、HLB値が8以上かつ17以下の非イオン性界面活性剤とともに、植物の葉に施用すること、及び
施用後の前記植物を生育させること
を含む植物の栽培方法。
(8)植物の葉へのグルタチオンの吸収を促進するための、HLB値が8以上かつ17以下の非イオン性界面活性剤の使用。
(9)植物の葉へのグルタチオンの吸収の促進剤の製造のための、HLB値が8以上かつ17以下の非イオン性界面活性剤の使用。
(10)グルタチオンを含む植物の葉に施用するための組成物の製造のための、HLB値が8以上かつ17以下の非イオン性界面活性剤の使用。
【0013】
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2019-066050号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0014】
グルタチオンを、HLB値が8以上かつ17以下の非イオン性界面活性剤とともに、植物の葉に施用することにより、グルタチオンの葉への吸収を促進することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<グルタチオン>
グルタチオンは、還元型グルタチオン(GSH、N-(N-γ-L-グルタミル-L-システイニル)グリシン)であってもよいし、GSHの2分子がジスルフィド結合を介して結合してなる酸化型グルタチオン(GSSG)であってもよいが、GSSGであることが好ましい。
【0016】
グルタチオン(GSSG又はGSH)は、他の物質と結合しておらずイオン化していないフリー体、グルタチオンと酸又は塩基とで形成される塩、これらの水和物、これらの混合物等の、各種形態のグルタチオンを包含し得る。
【0017】
グルタチオンとしてGSSGを用いる場合、GSSGとGSHとの混合物として用いてもよいが、GSSGの含有量がGSHの含有量よりも相対的に多いことが好ましい。より好ましくは、GSSGとGSHとの総質量(全てフリー体として換算した質量)に対してGSSGの総質量(フリー体として換算した質量)は、合計で70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上、更に好ましくは98質量%以上、最も好ましくは100質量%である。
【0018】
GSSGの塩としてはアンモニウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、ナトリウム塩、リチウム塩等の肥料として許容される1種以上の塩であれば特に限定されないが、好ましくはアンモニウム塩、カルシウム塩及びマグネシウム塩から選択される1種以上の塩である。GSSG塩としてはGSSGの1アンモニウム塩、GSSGの0.5カルシウム塩又は1カルシウム塩、GSSGの0.5マグネシウム塩又は1マグネシウム塩等が例示できる。
【0019】
<非イオン性界面活性剤>
本発明の一以上の実施形態は、HLB値が8以上かつ17以下の非イオン性界面活性剤とともにグルタチオンを植物の葉に施用することにより、グルタチオンの葉への吸収が顕著に促進されるという知見に基づく。
非イオン性界面活性剤のHLB値が15以上17以下であるとき、グルタチオンの葉への吸収が特に顕著に促進されるため好ましい。
【0020】
HLB値が8以上かつ17以下の非イオン性界面活性剤の種類は特に限定されず、複数種の組合せであってもよい。非イオン性界面活性剤としてはポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル及びポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステルから選択される1種又は2種以上の組み合せがより好ましく、ポリオキシエチレンアルキルエーテル及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルから選択される1種又は2種以上の組み合せが特に好ましい。
【0021】
ポリオキシエチレンアルキルエーテルとしてはポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルが例示できる。
【0022】
ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとしてはポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレントリステアレート、ポリオキシエチレントリイソステアレートが例示できる。
【0023】
ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステルとしてはテトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビットが例示できる。
【0024】
<植物>
本発明の一以上の実施形態でグルタチオンを所定の非イオン性界面活性剤とともに葉面に施用する対象植物は特に限定されず双子葉植物、単子葉植物等の種々の植物である。
【0025】
双子葉植物としては、例えばアサガオ属植物、ヒルガオ属植物、サツマイモ属植物、ネナシカズラ属植物、ナデシコ属植物、ハコベ属植物、タカネツメクサ属植物、ミミナグサ属植物、ツメクサ属植物、ノミノツヅリ属植物、オオヤマフスマ属植物、ワチガイソウ属植物、ハマハコベ属植物、オオツメクサ属植物、シオツメクサ属植物、マンテマ属植物、センノウ属植物、フシグロ属植物、ナデシコ科植物、モクマモウ科植物、ドクダミ科植物、コショウ科植物、センリョウ科植物、ヤナギ科植物、ヤマモモ科植物、クルミ科植物、カバノキ科植物、ブナ科植物、ニレ科植物、クワ科植物、イラクサ科植物、カワゴケソウ科植物、ヤマモガシ科植物、ボロボロノキ科植物、ビャクダン科植物、ヤドリギ科植物、ウマノスズクサ科植物、ヤッコソウ科植物、ツチトリモチ科植物、タデ科植物、アカザ科植物、ヒユ科植物、オシロイバナ科植物、ヤマトグサ科植物、ヤマゴボウ科植物、ツルナ科植物、スベリヒユ科植物、モクレン科植物、ヤマグルマ科植物、カツラ科植物、スイレン科植物、マツモ科植物、キンポウゲ科植物、アケビ科植物、メギ科植物、ツヅラフジ科植物、ロウバイ科植物、クスノキ科植物、ケシ科植物、フウチョウソウ科植物、アブラナ科植物、モウセンゴケ科植物、ウツボカズラ科植物、ベンケイソウ科植物、ユキノシタ科植物、トベラ科植物、マンサク科植物、スズカケノキ科植物、バラ科植物、マメ科植物、カタバミ科植物、フウロソウ科植物、アマ科植物、ハマビシ科植物、ミカン科植物、ニガキ科植物、センダン科植物、ヒメハギ科植物、トウダイグサ科植物、アワゴケ科植物、ツゲ科植物、ガンコウラン科植物、ドクウツギ科植物、ウルシ科植物、モチノキ科植物、ニシキギ科植物、ミツバウツギ科植物、クロタキカズラ科植物、カエデ科植物、トチノキ科植物、ムクロジ科植物、アワブキ科植物、ツリフネソウ科植物、クロウメモドキ科植物、ブドウ科植物、ホルトノキ科植物、シナノキ科植物、アオイ科植物、アオギリ科植物、サルナシ科植物、ツバキ科植物、オトギリソウ科植物、ミゾハコベ科植物、ギョリュウ科植物、スミレ科植物、イイギリ科植物、キブシ科植物、トケイソウ科植物、シュウカイドウ科植物、サボテン科植物、ジンチョウゲ科植物、グミ科植物、ミソハギ科植物、ザクロ科植物、ヒルギ科植物、ウリノキ科植物、ノボタン科植物、ヒシ科植物、アカバナ科植物、アリノトウグサ科植物、スギナモ科植物、ウコギ科植物、セリ科植物、ミズキ科植物、イワウメ科植物、リョウブ科植物、イチヤクソウ科植物、ツツジ科植物、ヤブコウジ科植物、サクラソウ科植物、イソマツ科植物、カキノキ科植、ハイノキ科植物、エゴノキ科植物、モクセイ科植物、フジウツギ科植物、リンドウ科植物、キョウチクトウ科植物、ガガイモ科植物、ハナシノブ科植物、ムラサキ科植物、クマツヅラ科植物、シソ科植物、ナス科植物、ゴマノハグサ科植物、ノウゼンカズラ科植物、ゴマ科植物、ハマウツボ科植物、イワタバコ科植物、タヌキモ科植物、キツネノマゴ科植物、ハマジンチョウ科植物、ハエドクソウ科植物、オオバコ科植物、アカネ科植物、スイカズラ科植物、レンプクソウ科植物、オミナエシ科植物、マツムシソウ科植物、ウリ科植物、キキョウ科植物、キク科植物等に施用することができる。双子葉植物としては特に、ナス科植物、アブラナ科植物、ヒユ科植物又はセリ科植物が好ましい。ナス科植物としては特にナス属植物、例えばジャガイモが好ましい。アブラナ科植物としては特にアブラナ属植物、例えばコマツナが好ましい。ヒユ科植物としては特にフダンソウ属植物、例えばテンサイが好ましい。セリ科植物としては特にニンジン属植物、例えばニンジンが好ましい。
【0026】
単子葉植物としては例えばウキクサ属植物、アオウキクサ属植物、カトレア属植物、シンビジウム属植物、デンドロビューム属植物、ファレノプシス属植物、バンダ属植物、パフィオペディラム属植物、ラン科植物、ガマ科植物、ミクリ科植物、ヒルムシロ科植物、イバラモ科植物、ホロムイソウ科植物、オモダカ科植物、トチカガミ科植物、ホンゴウソウ科植物、イネ科植物、カヤツリグサ科植物、ヤシ科植物、サトイモ科植物、ホシグサ科植物、ツユクサ科植物、ミズアオイ科植物、イグサ科植物、ビャクブ科植物、ユリ科植物、ヒガンバナ科植物、ヤマノイモ科植物、アヤメ科植物、バショウ科植物、ショウガ科植物、カンナ科植物、ヒナノシャクジョウ科植物等に施用することができる。単子葉植物としては特に、ヒガンバナ科植物又はイネ科植物が好ましい。ヒガンバナ科植物としては特にネギ属植物、例えばタマネギが好ましい。イネ科植物としては特にサトウキビ属植物又はトウモロコシ属植物、例えばサトウキビ又はトウモロコシが好ましい。
対象となる植物は野生型の植物には限定されず、変異体や形質転換体等であってもよい。
【0027】
対象となる植物としては、農業上有用な植物、具体的にはジャガイモ、コマツナ、テンサイ、タマネギ、ニンジン、サトウキビ、トウモロコシ等が特に好ましい。本発明の一以上の実施形態は、ジャガイモのなかでも、葉の表面組織が厚い品種のジャガイモに対しても有効である。葉の表面組織が厚い品種のジャガイモとしては、中生~晩生品種のジャガイモが挙げられ、具体的にはニシユタカ、コナフブキ、トヨシロ、スノーデン、農林1号、ホッカイコガネ、さやか、きたひめ、紅丸、ラセットバーバンクが挙げられる。
【0028】
<グルタチオン及び非イオン性界面活性剤の植物の葉への施用>
本発明の一以上の実施形態は、グルタチオンを、HLB値が8以上かつ17以下の非イオン性界面活性剤とともに、植物の葉に施用することを含む、植物の葉へのグルタチオンの吸収を促進する方法に関する。
【0029】
前記方法は、更に、施用後の前記植物を生育させ、前記グルタチオンを葉に吸収させることを含むことが好ましい。
【0030】
前記一以上の実施形態は、グルタチオンを、HLB値が8以上かつ17以下の非イオン性界面活性剤とともに、植物の葉に施用したときにグルタチオンの葉への吸収を顕著に促進することができるという予想外の効果に基づくものである。
【0031】
ここでグルタチオンとHLB値が8以上かつ17以下の非イオン性界面活性剤とは、同時に又は連続して施用されてもよいし、別々の時点で葉に施用されてもよい。また、グルタチオンとHLB値が8以上かつ17以下の非イオン性界面活性剤とは一体の組成物中に含有された状態で施用されてもよいし、それぞれが物理的に分離した組成物に含有された状態で、同時に、連続して、又は異なる時間に施用されてもよい。各成分を含む組成物の構成については後述する通りである。本発明の一以上の実施形態に係る方法に使用するグルタチオンとHLB値が8以上かつ17以下の非イオン性界面活性剤とは、後述する本発明の一以上の実施形態に係る組成物の形態で準備されたものであってもよいし、各々独立して準備されたものであってもよい。ただし、後述する本発明の一以上の実施形態に係る組成物の形態のグルタチオン及びHLB値が8以上かつ17以下の非イオン性界面活性剤を本発明の一以上の実施形態に係る方法に用いると操作が簡便であり好ましい。HLB値が8以上かつ17以下の非イオン性界面活性剤が複数の化合物を含む場合も同様に、各化合物は同時に又は連続して施用されてもよいし、少なくとも一部の化合物が別々の時点で葉に施用されてもよい。複数のHLB値が8以上かつ17以下の非イオン性界面活性剤は一体の組成物中に含有された状態で施用されてもよいし、該複数の成分のうち1つまたは2つ以上を各々が含む、物理的に分離した2以上の組成物に含有された状態で、同時に、連続して、又は異なる時間に施用されてもよい。
【0032】
グルタチオンとHLB値が8以上かつ17以下の非イオン性界面活性剤の葉への施用は、各成分が水及び/又は水溶性溶媒に溶解又は分散した、好ましくは溶解した液体の状態で葉面に付着させて施用する方法や、各成分を含む粉末等の固形物を葉面に付着させて施用する方法等により行うことができる。前記水溶性溶媒としては、エタノール、メタノール等のアルコールが使用できる。前記液体を葉面に供給する方法としては噴霧、塗布等の方法が使用できる。
【0033】
葉に施用されるグルタチオンとHLB値が8以上かつ17以下の非イオン性界面活性剤との割合は特に限定されず、適宜調整することができる。例えば、グルタチオン100質量部(本明細書では特に明示しない限り、グルタチオンの質量及び質量部として、全てフリー体のグルタチオンとして換算した質量及び質量部を用いる。以下同様である)に対して、HLB値が8以上かつ17以下の非イオン性界面活性剤を合計で、例えば1質量部以上、好ましくは10質量部以上、好ましくは25質量部以上、好ましくは50質量部以上、好ましくは75質量部以上、好ましくは100質量部以上、好ましくは125質量部以上用いることができ、例えば1000質量部以下、好ましくは800質量部以下、好ましくは400質量部以下、好ましくは200質量部以下であることができ、より好ましくは25質量部以上1000質量部以下、より好ましくは100質量部以上1000質量部以下であることができる。ここで挙げた量比は、一度に(同時に又は連続して)施用される分量中の量比とは限らず、植物に施用される各成分の通算の量に関しての比であるが、同時に又は連続して施用される各成分の量比が前記範囲内にあることがより好ましい。
【0034】
グルタチオンとHLB値が8以上かつ17以下の非イオン性界面活性剤の葉への施用量は特に限定されず、植物の生長を促進するように適宜調節することができる。グルタチオンの植物体1個体あたりの施用量としては、通常は0.01mg以上、例えば0.1mg以上であることができ、上限は特に限定されないが通常は100mg以下、例えば30mg以下であることができる。
【0035】
グルタチオンと組み合わせて植物に施用する界面活性剤として、HLB値が8以上かつ17以下の非イオン性界面活性剤に加えて、他の界面活性剤が含まれていてもよい。他の界面活性剤としては、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤並びにHLB値が8未満又は17よりも大きい非イオン性界面活性剤から選択される1種以上が挙げられる。
【0036】
各成分の葉への施用時期は特に限定されないが、好ましくは栄養生長期(葉、根の生長時期)、または、生殖成長期(着蕾時、開花時、結実時)である。また、施用回数は限定されず、一回であってもよいし、複数回、時期を分割して施用してもよい。
【0037】
<植物の葉の施用のための組成物>
本発明の一以上の実施形態は、グルタチオンとHLB値が8以上かつ17以下の非イオン性界面活性剤とを含有する、植物の葉に施用するための組成物に関する。
本発明の別の一以上の実施形態は、グルタチオンを含む、植物の葉に施用するための組成物の製造のための、HLB値が8以上かつ17以下の非イオン性界面活性剤の使用に関する。
【0038】
本発明の一以上の実施形態に係る組成物の形態は特に限定されないが、例えば、対象植物の葉面に直接噴霧又は塗布できる液状物;水、水溶性溶媒(メタノール、エタノール等)、これらのうち2種以上の混合溶媒等の溶媒により希釈してから施用される液状物;水、水溶性溶媒(メタノール、エタノール等)、これらのうち2種以上の混合溶媒等の溶媒により溶解又は分散してから施用される粉末、顆粒等の固形物;対象植物の葉面に直接散布される粉末(粉剤)等の固形物;クレー、タルク、土壌等の固形物により希釈してから施用される粉末(粉剤)等の固形物のような任意の形態であることができ、保存安定性を考慮すると固形物の形態が好ましい。
【0039】
本発明の一以上の実施形態に係る組成物が液状物である場合、グルタチオン及びHLB値が8以上かつ17以下の非イオン性界面活性剤以外に、水、メタノール、エタノール等の水溶性溶媒等の溶媒、分散安定化剤(カルボキシメチルセルロース、その塩等)、増粘剤、酸化防止剤、他の界面活性剤(具体例は上記の通り)等の成分を含むことができる。
【0040】
本発明の一以上の実施形態に係る組成物が固形物である場合、グルタチオン及びHLB値が8以上かつ17以下の非イオン性界面活性剤以外に、分散安定化剤(カルボキシメチルセルロース、その塩、等)、賦形剤(乳糖等)、崩壊剤、増粘剤、酸化防止剤、他の界面活性剤(具体例は上記の通り)等の成分を含むことができる。
本発明の一以上の実施形態に係る組成物中の、グルタチオンとHLB値が8以上かつ17以下の非イオン性界面活性剤との配合割合は、上述した施用時の両者の割合と同様に設定することができる。
【0041】
本発明の一以上の実施形態に係る組成物の製造方法は特に限定されず、各成分を混合したり、固形状組成物であれば必要に応じて粉砕、造粒、乾燥等の操作をして、液体状組成物であれば必要に応じて撹拌、乳化分散等の操作をして製造することができる。
【0042】
<植物の葉へのグルタチオンの吸収の促進剤>
本発明の別の一以上の実施形態は、HLB値が8以上かつ17以下の非イオン性界面活性剤を含む、植物の葉へのグルタチオンの吸収の促進剤に関する。
本発明の別の一以上の実施形態はまた、植物の葉へのグルタチオンの吸収を促進するための、HLB値が8以上かつ17以下の非イオン性界面活性剤の使用に関する。
本発明の別の一以上の実施形態はまた、植物の葉へのグルタチオンの吸収の促進剤の製造のための、HLB値が8以上かつ17以下の非イオン性界面活性剤の使用に関する。
非イオン性界面活性剤の好ましい範囲は既述の通りである。
【0043】
<植物の栽培方法>
本発明の別の一以上の実施形態は、
グルタチオンを、HLB値が8以上かつ17以下の非イオン性界面活性剤とともに、植物の葉に施用すること、及び
施用後の前記植物を生育させること
を含む植物の栽培方法に関する。
この実施形態によれば、グルタチオンが効率的に植物の葉に吸収されて植物の生育が促進されるため、高収率又は低コストで植物を栽培することができる。
グルタチオン及び非イオン性界面活性剤の植物の葉への施用については上記の通りである。
施用後の植物の生育は、植物の種類に応じて適宜行うことができる。
【実施例】
【0044】
<実験1>
ガラス室中で栽培したコマツナ(春のセンバツ)を使用した。栽培したコマツナのほぼ同程度の大きさの葉上に、酸化型グルタチオン(GSSG)を0.75g/L含み、かつ、ポリソルベート80(Tween80)(HLB=15)を含まない(0g/L)或いは0.2g/L又は1g/L含む水溶液をそれぞれ20μLずつ滴下した。このとき、滴下されたポリソルベート80は、GSSG100質量部に対してそれぞれ0質量部、27質量部、又は、133質量部であった。水溶液を滴下してから24時間生育後に葉を切り取り15mL遠心チューブに入れ、蒸留水5mLを加え、葉表面を洗浄した。洗浄液中のGSSG量を測定した。並行して、葉面に滴下後の各水溶液の残りを、前記水溶液を滴下したコマツナの葉と同一条件下(同じ温度、光条件下)で24時間保存したのちGSSG量を測定し、各水溶液20μLあたりの24時間後のGSSG量を求めた。洗浄液中のGSSG量と、各水溶液の24時間後のGSSG量とをもとに、下記の式より、葉中に吸収されたGSSG量の割合である吸収率を求めた。試験は各5反復行いその平均を算出した。
吸収率(%)=100×[1-(24時間後の葉面洗浄液中のGSSG量)/(滴下水溶液20μL中の24時間後のGSSG量)]
【0045】
上記で求めた吸収率を、GSSGを0.75g/L含み、かつ、ポリソルベート80を含まない水溶液を用いた場合の吸収率を1とした相対値で表した。結果を次表に示す。
【0046】
【0047】
<実験2>
ガラス室中で栽培したジャガイモ(ニシユタカ)を使用した。栽培したジャガイモのほぼ同程度の大きさの葉上に、酸化型グルタチオン(GSSG)を15%含む肥料(カネカ製)を5g/L含み、かつ、下記の表に示す各種界面活性剤を1g/L含む水溶液をそれぞれ20マイクロリットルずつ滴下した。このとき、滴下された界面活性剤は、GSSG100質量部に対して133質量部であった。コントロール試験として、GSSGを15%含む肥料(カネカ製)を5g/L含み、かつ、界面活性剤を含まない水溶液を同様に葉面に滴下した。水溶液を滴下してから24時間生育後に葉を切り取り、15mL遠心チューブに入れ、蒸留水5mLを加えて、葉表面を洗浄した。洗浄液中のGSSG量から実験1と同じ手順で葉中に吸収されたGSSG量を吸収率として求めた。試験は各5反復行いその平均を算出した。
【0048】
界面活性剤を用いた各試験でのGSSGの吸収率が、コントロール試験でのGSSGの吸収率よりも高く、かつ、コントロール試験でのGSSGの吸収率に対しT検定で有意差(p<0.01)がある場合に「++」とした。界面活性剤を用いた各試験でのGSSGの吸収率が、コントロール試験でのGSSGの吸収率よりも高く、かつ、コントロール試験でのGSSGの吸収率に対しT検定で有意差(p<0.05)がある場合(ただし「++」としたp<0.01の場合を除く)に「+」とした。界面活性剤を用いた各試験でのGSSGの吸収率が、コントロール試験でのGSSGの吸収率に対しT検定で有意差がない場合に「-」とした。
結果を次表に示す。
【0049】
【0050】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。