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特許7508447血糖制御を改善し、炎症性腸疾患を処置するための構造修飾脂肪酸
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】血糖制御を改善し、炎症性腸疾患を処置するための構造修飾脂肪酸
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/202 20060101AFI20240624BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20240624BHJP
   A61P 5/50 20060101ALI20240624BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240624BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240624BHJP
   A61K 31/232 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
A61K31/202
A61P3/10
A61P5/50
A61P43/00 121
A61P43/00 111
A61K45/00
A61K31/232
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2021515298
(86)(22)【出願日】2019-05-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-10-07
(86)【国際出願番号】 IB2019000655
(87)【国際公開番号】W WO2019224602
(87)【国際公開日】2019-11-28
【審査請求日】2022-05-20
(31)【優先権主張番号】20180714
(32)【優先日】2018-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NO
(73)【特許権者】
【識別番号】520456789
【氏名又は名称】ノースシー セラピューティクス ベスローテン フェンノートシャップ
(73)【特許権者】
【識別番号】504453362
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ アーエス
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】フレイザー,ディヴィッド アラン
(72)【発明者】
【氏名】スクジェレット,トーレ
(72)【発明者】
【氏名】シュパン,デトレフ
【審査官】伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-526094(JP,A)
【文献】特表2011-528350(JP,A)
【文献】特表2013-525471(JP,A)
【文献】Journal of Controlled Release,2008年,132,pp.99-104
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における食後高血糖の低減、および/または食後血漿インスリンレベルの増加に使用するための、式(I)
【化1】
(式中、
・Rは、3~6個の二重結合を有するC18~C22アルケニルから選択され;
・RおよびRは、同じかまたは異なっており、水素原子、および直鎖状、分岐鎖状、および/または環状C~Cアルキル基からなる置換基の群から選択され、ただし、RおよびRは、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、またはシクロヘキサンを形成するために結合することができることを条件とし、ならびにRおよびRの両方が水素であることはないことを条件とし;
・Xは、カルボン酸(C(O)OH)、カルボン酸エステル、またはカルボキサミドであり;
・Yは、酸素、または硫黄である)
の化合物、または薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくはそのような塩の溶媒和物を含む医薬組成物であって、1つまたは複数の追加の活性剤と組み合わせて対象に投与されてもよい、医薬組成物。
【請求項2】
の1個の二重結合がオメガ3位にある、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
およびRが、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基イソプロピル基、ブチル基、ならびにペンチル基の群から独立して選択される、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
Yが酸素である、請求項1から3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
Yが硫黄である、請求項1から3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記化合物が式(II)
【化2】
(II)
の化合物である、請求項1から5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
式(I)の化合物が2-(((5Z,8Z,11Z,14Z,17Z)-イコサ-5,8,11,14,17-ペンタエン-1-イル)オキシ)ブタン酸
【化3】
または
2-エチル-2-((5Z,8Z,11Z,14Z,17Z)-イコサ-5,8,11,14,17-ペンタエニルチオ)ブタン酸
【化4】
である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項8】
使用が、食後高血糖を低減するためのものである、請求項1から7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
対象が2型糖尿病を有する、請求項1から8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
食後血漿グルコースレベルが25%低下する、請求項8または9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
食後血漿グルコースレベルが50%低下する、請求項8または9に記載の医薬組成物。
【請求項12】
食後血漿グルコースレベルが食後15分および/または30分で低下する、請求項8から11のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
使用が、食後血漿インスリン濃度を増加させるためのものである、請求項1から12のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記化合物が追加の活性剤と共投与され、追加の活性剤がDPP-4阻害剤である、請求項1から13のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
食後高血糖の低減、および/または食後血漿インスリン濃度の増加に使用するための、式(I)
【化5】
(式中、
・Rは、3~6個の二重結合を有するC18~C22アルケニルから選択され;
・RおよびRは、同じかまたは異なっており、水素原子、および直鎖状、分岐鎖状、および/または環状C~Cアルキル基からなる置換基の群から選択され、ただし、RおよびRは、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、またはシクロヘキサンを形成するために結合することができることを条件とし、ならびにRおよびRの両方が水素であることはないことを条件とし;
・Xは、カルボン酸(C(O)OH)、カルボン酸エステル、またはカルボキサミドであり;
・Yは、酸素、または硫黄である)の化合物を含む医薬組成物であって、
追加の活性剤と共投与される、医薬組成物。
【請求項16】
Yが酸素である、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
Yが硫黄である、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項18】
式(I)の化合物が2-(((5Z,8Z,11Z,14Z,17Z)-イコサ-5,8,11,14,17-ペンタエン-1-イル)オキシ)ブタン酸
【化6】
または
2-エチル-2-((5Z,8Z,11Z,14Z,17Z)-イコサ-5,8,11,14,17-ペンタエニルチオ)ブタン酸
【化7】
である、請求項15から17のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項19】
追加の活性剤がDPP4阻害剤である、請求項15から18のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項20】
使用が食後グルコースレベルを低下させるためのものである、請求項15から19のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項21】
それを必要とする対象において食後高血糖を低減し、かつ/または食後血漿インスリン濃度を増加させるための医薬の製造における、式(I)
【化8】
(式中、
・Rは、3~6個の二重結合を有するC18~C22アルケニルから選択され;
・RおよびRは、同じかまたは異なっており、水素原子、および直鎖状、分岐鎖状、および/または環状C~Cアルキル基からなる置換基の群から選択され、ただし、RおよびRは、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、またはシクロヘキサンを形成するために結合することができることを条件とし、ならびにRおよびRの両方が水素であることはないことを条件とし;
・Xは、カルボン酸(C(O)OH)、カルボン酸エステル、またはカルボキサミドであり;
・Yは、酸素、または硫黄である)
の化合物、または薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくはそのような塩の溶媒和物の使用。
【請求項22】
Yが酸素である、請求項21に記載の使用。
【請求項23】
Yが硫黄である、請求項21に記載の使用。
【請求項24】
式(I)の化合物が2-(((5Z,8Z,11Z,14Z,17Z)-イコサ-5,8,11,14,17-ペンタエン-1-イル)オキシ)ブタン酸
【化9】
または
2-エチル-2-((5Z,8Z,11Z,14Z,17Z)-イコサ-5,8,11,14,17-ペンタエニルチオ)ブタン酸
【化10】
である、請求項21~23のいずれか一項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2018年5月23日出願のノルウェー特許出願第20180714号の優先権の利益を主張している。前述の出願は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、腸管内分泌グルカゴン様ペプチド1(GLP-1)産生の刺激剤として使用するための化合物を提供し、化合物は、単独でまたは1つもしくは複数の追加の治療剤と組み合わせて使用するための、α置換基を有する構造修飾不飽和脂肪酸である。本開示は、基礎および/または食後高血糖の低減および食後血漿インスリンレベルの増加を含む、血糖制御を改善するための化合物を提供する。本開示はまた、クローン病、潰瘍性大腸炎、および非定型的大腸炎などの炎症性腸疾患(IBD)の処置に使用するための化合物を提供する。
【背景技術】
【0003】
Gタンパク質共役型受容体GPR40(遊離脂肪酸受容体[FFAR]-1としても知られる)は、膵臓のβ細胞で高度に発現し、グルコース刺激インスリン分泌(GSIS)を改善することによってリガンド結合に応答する。GPR40は、関連する受容体GPR120/FFAR4とともに、腸内分泌細胞(内分泌機能を有する消化管および膵臓の特殊な細胞)にも発現し、グルカゴン様ペプチド1(GLP-1)などのインクレチンの分泌を増加させることによってリガンド結合に応答する。それによりGLP-1はGSISを刺激し、肝臓のグルコース放出を減少させる。インスリン分泌のグルコース依存性により、GLP-1と受容体GPR40およびGPR120の両方が、2型糖尿病(T2DM)の処置に使用するための優れた安全性プロファイル(低血糖の回避)を備えた治療法を開発するための魅力的なターゲットになる。
【0004】
食後インスリン分泌のメディエーターとしての腸管内分泌GLP-1の発見に先行して、静脈内グルコース送達が経口グルコース負荷と同じインスリン応答を刺激しないということが観察された。減量手術直後の耐糖能の改善(減量前)も、遠位腸の細胞が、食後耐糖能の調節に積極的に関与していることを示唆した。
【0005】
耐糖能を調節する極めて重要な腸由来のインクレチンとしてのGLP-1の同定により、T2DMのための非経口、最近では経口GLP-1療法の急速な発展がもたらされた。しかし、GLP-1は腸から放出されてから数分以内に分解されるため、ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP-4)阻害剤などの、内因性GLP-1分解を阻害する経口化合物、および安定な、依然として大部分が非経口投与される、DPP-4分解に抵抗するGLP-1アナログ(短時間作用型および長時間作用型)は、T2DMを有する患者にとって効果的な治療戦略になっている。最近では、膵臓のβ細胞GSISを直接刺激するように設計されたGPR40アゴニストも臨床開発中である。
【0006】
内因性GLP-1濃度を増加させるための代替的戦略は、GPR40および/またはGPR120を介して、天然リガンド、すなわち遊離脂肪酸を用いて、小腸および大腸の腸管内分泌細胞を標的にすることである。しかし、森下ら、J. Control. Release.、2008年、132(2):99~104頁によって示されているように、インビトロで、腸内分泌細胞からのGLP-1産生を調節しているGPR40とGPR120の両方のリガンドとして長鎖オメガ3(n-3)脂肪酸が同定されているにもかかわらず、長鎖n-3脂肪酸の経口摂取は、臨床的に意義のあるGLP-1濃度の誘導、および/またはヒトの血糖制御の改善に最小限の効果しかない。理論に拘束されるものではないが、これにはいくつかの理由が考えられる。
【0007】
第1に、前述のように、GLP-1は複数の組織においてDPP-4によって急速に不活性化され、その結果、半減期はヒトでは2分未満、げっ歯類ではそれより短くなる。このことが、GLP-1半減期を増加させるためのDDP-4阻害薬の開発を刺激した。
【0008】
第2に、経口脂肪酸は主に上部小腸で吸収されるため、遠位小腸および大腸において高濃度のFFARを標的にすることができない。森下ら、J. Control. Release.、2008年、132(2):99~104頁によって、エイコサペンタエン酸を介した腸のGLP-1産生の刺激は部位特異的であり、結腸投与に依存し、胃または空腸への送達では効果が観察されないことがさらに報告されている。
【0009】
第3に、Christensenら、Physiol Rep.、2015年3(9)によって報告された研究は、FFAR、GPR40が主に、腸内膜の内腔側ではなく、血管側で活性化されることを示している。したがって、GPR40を最適に活性化するには、長鎖脂肪酸を吸収する必要がある。しかし、経口送達された脂肪酸は、吸収後の腸の血管側に遊離酸形態で最小限存在するが、代わりに、FFARに結合して活性化する能力が最小限のトリグリセリドとしてカイロミクロンに組み込まれる。
【0010】
最後に、Tunaruら、Nat Commun.、2018年、9(1):177によって、GPR40結合脂肪酸のヒドロキシル化代謝物は、オートクリンGPR40リガンドとしての親化合物よりもはるかに強力であることが示されている。したがって、我々は、遊離脂肪酸形態の利用性を最大化し、腸細胞における複雑な脂質および分泌前リポタンパク質への組み込みを最小化し、それらの代謝を防止する構造修飾によって、酵素修飾の基質利用性およびより強力なFFARリガンドの生成が増大する可能性があると仮定した。
【0011】
食後インスリン分泌に対するその効果に加えて、研究は、GLP-1が抗炎症効果も発揮することを示唆する。したがって、腸内でGLP-1を誘導することを目的とした処置は、炎症性腸疾患(IBD)に何らかの治療上の利益をもたらす場合がある。
【0012】
炎症性腸疾患(IBD)は慢性の腸の炎症状態であり、粘膜免疫系の不適切かつ持続的な活性化に起因する制御不能な炎症を特徴とする。Uniken Venemaら、J. Pathol. 2017年、241(2):146~158頁;Huangら、Am. J. Transl. Res., 2016年、8(6):2490~2497頁。活性IBDの特質は、炎症性細胞の動員、腸粘膜および粘膜固有層内でのそれらの浸潤および活性化、ならびに炎症誘発性メディエーターの産生の増強である。Fakhouryら、J. Inflamm. Res., 2014, 7:113-120; Xavierら、Nature, 2007, 448(7152):427-434。IBDは、Th2 T細胞応答が顕著である潰瘍性大腸炎と、Th1 T細胞応答が顕著であるクローン病に、大まかに分類することができる。潰瘍性大腸炎は腸に限定されているが、クローン病は結腸と小腸の両方に影響を与える可能性がある。3番目のカテゴリーは、潰瘍性大腸炎とクローン病の両方の特徴を有し、IBD患者の10~15%に発症する非定型的大腸炎である。
【0013】
現在、IBDの治癒はなく、処置モダリティは、症状を緩和し、将来の合併症を予防し、患者の生活の質を改善するために、炎症プロセスの低減に焦点を合わせている。IBDの医薬的処置には、生物学的製剤、免疫抑制剤、免疫調節剤、抗生物質、および対症療法薬を含む5つの主要なカテゴリーの抗炎症薬が含まれる。しかし、これらの処置は多くの場合、重大な副作用を伴い、一部の患者に成功が限られており、副作用が最小限であるかまたはまったくない新規の治療剤の必要性が浮き彫りになっている。Ananthakrishnaら、Inflamm. Bowel Dis.、2017年、23(6):882~893頁。
【0014】
副作用が最小限であるIBDのためのそのような治療剤を開発するための以前の努力は、天然に存在するオメガ3脂肪酸の経口投与の使用を含む。しかし、IBDを処置するためのこれらの努力は不成功であるか、よく言っても決定的なものではない。Lev-Tzionら、Cochrane Database Syst. Rev.、2014年、28(2):CD006320;Cabreら、Br. J. Nutri.、2012年、Suppl 2:S240~252。この失敗は、少なくとも部分的には、上記のように、経口投与されたオメガ3脂肪酸が主に上部小腸で吸収され、したがって下部腸および結腸の脂肪酸受容体に富むセグメントを標的にすることができない場合があるためである。EPAおよびDHAの直接結腸送達は、げっ歯類においてGLP-1分泌を誘導することができるが、このアプローチは、経口投与と比較して患者にとって不便である。重要なことに、オメガ3脂肪酸は、脂肪酸受容体を活性化する代わりに、主に細胞膜に組み込まれるか、または代謝されるため、望ましい効果に必要なオメガ3脂肪酸の用量は、過剰になる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【文献】森下ら、J. Control. Release.、2008年、132(2):99~104頁
【文献】Christensenら、Physiol Rep.、2015年3(9)
【文献】Tunaruら、Nat Commun.、2018年、9(1):177
【文献】Uniken Venemaら、J. Pathol. 2017年、241(2):146~158頁
【文献】Huangら、Am. J. Transl. Res., 2016年、8(6):2490~2497頁
【文献】Fakhouryら、J. Inflamm. Res., 2014, 7:113-120
【文献】Xavierら、Nature, 2007, 448(7152):427-434
【文献】Ananthakrishnaら、Inflamm. Bowel Dis.、2017年、23(6):882~893頁
【文献】Lev-Tzionら、Cochrane Database Syst. Rev.、2014年、28(2):CD006320
【文献】Cabreら、Br. J. Nutri.、2012年、Suppl 2:S240~252
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記に基づいて、腸内分泌GLP-1産生を活性化させるための、および/または血糖制御を改善するための新しい代替方法が必要である。副作用が最小限の、IBDを処置する経口投与治療法もまた、必要とされている。我々は、脂肪酸に対する特定の構造修飾により、腸のGPR40/120に結合して刺激する能力および/またはGLP-1分泌を増加させる能力が改善される可能性があると仮定した。我々は、これらの修飾脂肪酸は、基礎および/もしくは食後グルコースレベルの低下ならびに/または食後インスリン濃度の増加などを通じて血糖制御を改善し、IBDを処置することができると仮定した。
【0017】
本開示は、腸内分泌GLP-1産生の刺激剤として使用するための化合物を提供し、化合物は、単独で、または1つもしくは複数の追加の治療剤と組み合わせて使用するための、α位に置換基を有する不飽和脂肪酸である。理論に拘束されるものではないが、修飾脂肪酸は、回腸および大腸に位置する受容体に到達して活性化する能力、および/またはDPP-4活性を阻害する能力が改善された、GPR40/120のリガンドであってもよい。
【0018】
より具体的には、本発明は、腸内分泌GLP-1産生の増強剤として使用するための化合物であって、GSISを改善し、満腹感を促進し、胃内容排出を遅らせ、グルコース依存性グルカゴン分泌を阻害し、肝臓グルコース産生を低減させる、化合物を提供する。本開示はまた、基礎および/または食後高血糖の低減、および/または食後血漿インスリンレベルの増加を含む、血糖制御の改善に使用するための化合物を提供する。
【0019】
本開示は、クローン病、潰瘍性大腸炎、および非定型的大腸炎などのIBDの処置に使用するための化合物をさらに提供する。本開示は、IBDにおける腸の炎症を低減し、IBDの寛解を誘導し、IBDの寛解を維持し、IBD症状を経験している対象の体重減少を低減し、結腸長の減少を低減し、IBDを有する対象における腸の炎症を低減し、かつ/またはIBDを有する対象における腸の損傷を低減するための化合物を提供する。
【0020】
一態様では、本発明は、それを必要とする対象においてGLP-1のレベルを増加させるための方法であって、対象に薬学的に有効な量の式(I)化合物を投与することを含む、方法を提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、それを必要とする対象において基礎および/または食後高血糖を低減し、かつ/または食後血漿インスリン濃度を増加させるための方法であって、対象に薬学的に有効な量の式(I)の化合物を投与することを含む、方法を提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、それを必要とする対象においてIBDを処置するための方法であって、対象に薬学的に有効な量の式(I)の化合物を投与することを含む、方法を提供する。いくつかの実施形態では、化合物を、任意選択で、1つまたは複数の追加の活性剤と組み合わせて対象に投与する。
【0021】
式(I):
【0022】
【化1】

(式中、
・R1は、3~6個の二重結合を有するC10~C22アルケニルから選択され;
・R2およびR3は、同じかまたは異なっており、水素原子、ヒドロキシ基、アルキル基、ハロゲン原子、アルコキシ基、アシルオキシ基、アシル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルキルチオ基、アルコキシカルボニル基、カルボキシ基、アルキルスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アミノ基、およびアルキルアミノ基からなる置換基の群から選択され、ただし、R2およびR3は、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、またはシクロヘキサンのようなシクロアルカンを形成するために結合することができることを条件とし、ならびにR2およびR3の両方が水素であることはないことを条件とし;
・Xは、カルボン酸またはその誘導体であり、誘導体は、カルボキシレート、例として、カルボン酸エステル;グリセリド;無水物;カルボキサミド;リン脂質;もしくはヒドロキシメチル;またはそのプロドラッグであり;
・Yは、酸素、硫黄、スルホキシド、スルホン、またはCHである)の化合物、
または薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくはそのような塩の溶媒和物、
および、任意選択で、1つまたは複数の追加の活性剤。
【0023】
同等の態様では、本発明は、対象におけるGLP-1産生の増加に使用するための式(I)の化合物を提供し、前記化合物を、任意選択で、1つまたは複数の追加の活性剤と組み合わせて対象に投与する。
【0024】
いくつかの実施形態では、本発明は、対象における基礎または食後高血糖の低減、および/または食後血漿インスリン濃度の増加を含む、血糖制御の改善に使用するための式(I)の化合物を提供し、前記化合物を、任意選択で、1つまたは複数の追加の活性剤と組み合わせて対象に投与する。
【0025】
いくつかの実施形態では、本発明は、対象におけるIBDの処置、IBDにおける腸の炎症の低減、IBDの寛解の誘導、IBDの寛解の維持、IBD症状を経験している対象の体重減少の低減、結腸長の減少の低減、IBDを有する対象における腸の炎症の低減、および/またはIBDを有する対象における腸の損傷の低減に使用するための式(I)の化合物を提供し、前記化合物を、任意選択で、1つまたは複数の追加の活性剤と組み合わせて対象に投与する。
【0026】
より具体的には、使用するための、および、任意選択で、1つまたは複数の追加の活性剤とともに投与するための化合物は、式(II)
【0027】
【化2】

(式中、R2、R3、YおよびXは、式Iと同様に定義される)
によって提供される。
【0028】
本発明は、
i)式(I)の化合物である第1の成分と、
ii)追加の活性剤である第2の成分と、
を含む組み合わせ製品をさらに提供する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】痩せたSprague-Dawley(SPD)ラットにおける曲線下面積(AUC)(0~60分)グルコース刺激活性GLP-1(pg/mL)x分に対する、コーン油+ビヒクル、コーン油+ジペプチジルペプチダーゼ4(DPP4)阻害剤または化合物B+DPP4阻害剤の急性摂取の効果を示す。
図2】痩せたSPDラットにおける24時間での活性GLP-1(pg/mL)に対する、コーン油+ビヒクル、コーン油+DPP4阻害剤、化合物A単独または化合物A+DPP4阻害剤の効果を示す。
図3】痩せたSPDラットにおける24時間での活性GLP-1(pg/mL)に対する、コーン油+ビヒクル、コーン油+DPP4阻害剤、化合物B単独または化合物B+DPP4阻害剤の効果を示す。
図4】痩せたSPDラットにおける24時間での血漿インスリン(pg/mL)に対する、コーン油+ビヒクル、コーン油+DPP4阻害剤、化合物A単独または化合物A+DPP4阻害剤の効果を示す。
図5】痩せたSPDラットにおける24時間での血漿インスリン(pg/mL)に対する、コーン油+ビヒクル、コーン油+DPP4阻害剤、化合物B単独または化合物B+DPP4阻害剤の効果を示す。
図6A】T2DMげっ歯類モデルにおける耐糖能(0~120分)に対する、ピオグリタゾンと比較した2用量の化合物Bによる28日間の処置の効果を示す。
図6B】T2DMげっ歯類モデルにおける耐糖能に対する、ピオグリタゾンと比較した化合物Aによる21日間の処置の効果を示す。
図7】デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘発性大腸炎マウスモデルにおける、未処置と比較した、2用量での化合物Bによる処置の体重に対する効果を示す。
図8】DSS誘発性大腸炎マウスモデルにおける、未処置(ビヒクルのみ)と比較した、2用量での化合物B(L、低用量;H、高用量)による処置の結腸長に対する効果を示す。
図9】DSS誘発性大腸炎マウスモデルにおける、未処置と比較した、2つの異なる用量で化合物Bによる処置を受けたマウスの生存率を示す。
図10】DSS誘発性大腸炎マウスモデルにおける、未処置と比較した、2つの異なる用量で化合物Bによる処置を受けたマウスの腸断面の組織学的スコアを示す。
図11】未処置(図11A~B)、低用量(図11C~D)または高用量(図11E~F)の化合物Bによる処置を受けたDSS誘発性大腸炎マウスからのマウス腸の組織学的断面を、DSSで誘発されなかったマウスのマウス腸の組織学的断面と比較して示す(図11G)。図11A、CおよびEのスケールバーは、は200μmである。図11B、D、F、およびGのスケールバーは、50μmである。
図12】IBDに関連するサイトカインおよびバイオマーカーのパネルの相対的結腸mRNAレベルに対する化合物B処置の効果を示す。試験された遺伝子のパネルは、IL6(図12A)、IL1b(図12B)、S100A8(図12C)、TNFα(図12D)、Reg3g(図12E)、およびIL17a(図12F)を含む。
【発明を実施するための形態】
【0030】
開示された組成物および方法は、本開示の一部を形成する添付の図に関連して取られた以下の詳細な説明を参照することによって、より容易に理解され得る。本明細書で引用される全ての参考文献は、あらゆる目的のために参照により組み込まれる。参照と明細書が矛盾する場合は、本明細書が優先する。
【0031】
本明細書に開示されるのは、腸内分泌GLP-1産生を刺激し得る化合物である。また、本明細書に開示されるのは、基礎および/もしくは食後高血糖を低減し、かつ/または食後血漿インスリン濃度を増加させる化合物である。本明細書でさらに開示されるのは、腸の炎症などの炎症性腸疾患(IBD)の症状を処置および/もしくは緩和し、IBDの寛解を誘導し、IBDの寛解を維持し、IBD症状を経験している対象の体重減少を低減し、IBDを有する対象における結腸長の減少を低減し、IBDを有する対象における腸の炎症を低減し、かつ/またはIBDを有する対象における腸の損傷を低減するための化合物である。これらの化合物は、α位に置換基を含み、好ましくはβ位に組み込まれたヘテロ原子を含むように構造的に修飾された不飽和脂肪酸である。これらの化合物は、単独で、または1つもしくは複数の追加の治療剤と組み合わせて使用してもよい。
【0032】
本開示の特定の態様を、以下にて更に詳細に記載する。本出願で使用され、本明細書で明確にされる用語および定義は、本開示内での意味を表すことを意図している。
【0033】
単数形「a」、「an」および「the」は、文脈上別段の指示がない限り、複数の指示対象を含む。
【0034】
「およそ」および「約」という用語は、参照される数値または値とほぼ同じであることを意味する。本明細書で使用するとき、「およそ」および「約」という用語は、一般に、記載された量、頻度、または値の±5%を包含すると理解されるべきである。
【0035】
「処置する」、「処置すること」、「処置」という用語は、ヒトまたは非ヒト哺乳動物に有益となり得る任意の治療的または予防的用途を含む。ヒト処置と獣医学的処置の両方は、本開示の範囲内にある。処置は、既存の状態に応答するものであっても、予防的、すなわち予防するものであってもよい。
【0036】
本明細書で使用される「投与する」、「投与」、および「投与すること」という用語は、(1)医師もしくはその委任代理人か、により、またはその指示の下で、本開示による化合物または組成物を、提供すること、付与すること、投薬することおよび/または処方すること、ならびに、(2)ヒト患者もしくはヒト自身、または非ヒト哺乳動物により、本開示による化合物または組成物を投入すること、取り込むこと、または消費すること、を指す。
【0037】
「共投与(co-administrationまたはcoadministration)」という用語は、(a)式(I)もしくは(II)の化合物、薬学的に許容される塩、溶媒和物、またはそのような塩の溶媒和物、および(b)追加の治療剤を、調整された様式で、一緒に投与すること、を指す。例えば、共投与は、同時投与、逐次投与、重複投与、間隔投与、連続投与、またはそれらの組み合わせであり得る。投与方法は、化合物および追加の薬剤によって異なる場合があり、共投与としては、任意の投与の様式、例として経口、皮下、舌下、経粘膜、非経口、静脈内、動脈内、腹腔内、頬側、舌下、局所、膣、直腸、眼科、耳、経鼻、吸入、および経皮、またはそれらの組み合わせ投与の様式が挙げられる。非経口投与の例としては、静脈内(IV)投与、動脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、骨内投与、髄腔内投与、またはそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。式(I)または(II)の化合物および追加の治療剤は、独立して、例えば経口または非経口投与することができる。一実施形態では、式(I)または(II)の化合物を経口投与し、追加の治療剤を非経口投与する。非経口投与は、注射または注入を介して実施してもよい。別の実施形態では、式(I)の化合物と、DPP-4阻害剤などの追加の薬剤の両方を、経口投与する。
【0038】
「予防および/または処置」ならびに「治療的および/または予防的処置」という用語は、互換的に使用してもよい。さらに、「処置」または「処置すること」という用語はまた、予防的処置を包含してもよい。典型的には、式(I)または式(II)の化合物は、例えば、IBD;基礎および/または食後高血糖を処置するために、すなわち治療的処置に使用される。しかし、式(I)または式(II)の化合物はまた、例えばIBDの寛解の維持を含む、IBDの予防的処置のために使用してもよい。場合によっては、式(I)または式(II)の化合物を、腸内分泌GLP-1分泌の増強剤として使用してもよく、これによりGSIS、満腹感を促進し、胃内容排出を遅らせ、グルコース依存性グルカゴン分泌を阻害し、GLP-1を介した肝臓のグルコース産生を低減させることも予見される。
【0039】
「薬学的に有効な量」という用語は、所望の薬理学的および/または治療効果を達成するのに十分な量、すなわち、意図された目的に有効な開示された化合物および薬剤の量を意味する。個々の対象/患者のニーズは異なる場合があるが、開示された化合物の有効量の最適範囲の決定は、当業者の範囲内である。一般に、本明細書にて開示する化合物により疾患および/または状態を処置するための投薬レジメンは、対象/患者のタイプ、年齢、体重、性別、食事、および/または病状などの様々な要因に従って決定され得る。「医薬組成物」という用語は、本開示による、医療用途に好適な任意の形態の化合物を意味する。
【0040】
開示の化合物
式(I)および(II)の化合物は、エナンチオマー、ジアステレオマー、またはそれらの混合物を含む、種々の立体異性体の形態で存在し得る。本発明は、式(I)および(II)の化合物のすべての光学異性体ならびにそれらの混合物を包含すると理解されるであろう。したがって、ジアステレオマー、ラセミ体、および/またはエナンチオマーとして存在する式(I)および(II)の化合物は、本開示の範囲内にある。
【0041】
一態様では、本発明は、対象におけるGLP-1産生の増加に使用するための式(I)の化合物を提供し、前記化合物を、任意選択で、1つまたは複数の追加の活性剤と組み合わせて対象に投与する。
【0042】
いくつかの実施形態では、本発明は、対象における基礎または食後高血糖の低減、および/または食後血漿インスリン濃度の増加に使用するための式(I)の化合物を提供し、前記化合物を、任意選択で、1つまたは複数の追加の活性剤と組み合わせて対象に投与する。
【0043】
いくつかの実施形態では、本発明は、対象におけるIBDの処置、IBDの寛解の誘導、IBDの寛解の維持、IBD症状を経験している対象の体重減少の低減、結腸長の減少の低減、IBDを有する対象における腸の炎症の低減、および/またはIBDを有する対象における腸の損傷の低減に使用するための式(I)の化合物を提供し、前記化合物を、任意選択で、1つまたは複数の追加の活性剤と組み合わせて対象に投与する。
【0044】
式(I)
【0045】
【化3】

(式中、
・R1は、3~6個の二重結合を有するC10~C22アルケニルから選択され;
・R2およびR3は、同じかまたは異なっており、水素原子、ヒドロキシ基、アルキル基、ハロゲン原子、アルコキシ基、アシルオキシ基、アシル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルキルチオ基、アルコキシカルボニル基、カルボキシ基、アルキルスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アミノ基、およびアルキルアミノ基からなる置換基の群から選択され、ただし、R2およびR3は、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、またはシクロヘキサンのようなシクロアルカンを形成するために結合することができることを条件とし、ならびにR2およびR3の両方が水素であることはないことを条件とし;
・Xは、カルボン酸またはその誘導体であり、誘導体は、カルボキシレート、例として、カルボン酸エステル;グリセリド;無水物;カルボキサミド;リン脂質;もしくはヒドロキシメチル;またはそのプロドラッグであり;
・Yは、酸素、硫黄、スルホキシド、スルホン、またはCHである)の化合物、
または薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくはそのような塩の溶媒和物。
【0046】
少なくとも一実施形態では、前記化合物を、1つまたは複数の追加の活性剤と共投与する。対象は、動物、典型的には哺乳動物、および好ましくはヒトである。
【0047】
いくつかの実施形態では、Yは酸素である。いくつかの実施形態では、Yは硫黄である。
【0048】
さらに、開示される化合物は、基礎および/もしくは食後高血糖の処置などの高血糖の治療的処置に使用するためのものである。いくつかの実施形態では、これは、GSISの増加および/または肝臓のグルコース放出の減少によるものであり得る。
【0049】
少なくとも一実施形態では、R1は、3~6個の二重結合、例として5または6個の二重結合を有し、好ましくは1個の二重結合がオメガ3位にあるC18~C22アルケニルである。いくつかの実施形態では、R1は、5または6個のメチレン中断二重結合を有し、1番目の二重結合は、オメガ末端から3番目と4番目の炭素の間にある、C18~C22アルケニルである。
【0050】
α置換基R2およびR3は、より好ましくは、水素原子および直鎖状、分岐鎖状、および/または環状C1~C6アルキル基から独立して選択され、ただし、R2およびR3の両方が水素原子であることはできないことを条件とする。一実施形態では、R2およびR3のうちの少なくとも1つは、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基およびイソプロピル基、ブチル基、またはペンチル基である。一実施形態では、R2およびR3の両方がメチル基、エチル基またはn-プロピル基であり、最も好ましくは、R2およびR3の両方がエチル基である。別の実施形態では、R2およびR3の一方は水素基であり、他方のR2またはR3はC1~C3アルキル基である。
【0051】
Xは、好ましくは、カルボン酸もしくはカルボン酸エステル;または薬学的に許容される塩、溶媒和物、そのような塩の溶媒和物、を表す。より好ましくは、Xは、遊離酸の形態で修飾脂肪酸を提供するカルボン酸基である。
【0052】
Yは、好ましくは酸素、硫黄、スルホキシド、またはスルホンであり、最も好ましくは酸素または硫黄である。
【0053】
式(I)の化合物について、より好ましくは、
・R2およびR3は、水素原子または直鎖状、分岐鎖状、および/または環状C1~C6アルキル基から独立して選択され、ただし、R2およびR3の両方が水素原子であることはできないことを条件とし;
・Xは、カルボン酸もしくはカルボン酸エステル;または薬学的に許容される塩、溶媒和物、またはそのような塩の溶媒和物であり;
・Yは酸素または硫黄である。
【0054】
いくつかの実施形態では、式(I)の化合物について、
・R2およびR3は、水素原子または直鎖状、分岐鎖状、および/または環状C1~C6アルキル基から独立して選択され、ただし、R2およびR3の両方が水素原子であることはできないことを条件とし;
・Xは、カルボン酸もしくはカルボン酸エステル;または薬学的に許容される塩、溶媒和物、またはそのような塩の溶媒和物であり;
・Yは硫黄である。
【0055】
いくつかの実施形態では、式(I)の化合物について、
・R2およびR3は、水素原子または直鎖状、分岐鎖状、および/または環状C1~C6アルキル基から独立して選択され、ただし、R2およびR3の両方が水素原子であることはできないことを条件とし;
・Xは、カルボン酸もしくはカルボン酸エステル;または薬学的に許容される塩、溶媒和物、またはそのような塩の溶媒和物であり;
・Yは酸素である。
【0056】
少なくとも一実施形態では、R1は、1番目の二重結合がオメガ3位にあるように5つのメチレン中断二重結合を有するC20アルケニル基(すなわち、C20:5n3鎖)であり、より好ましくは使用のための式(I)の化合物は、GLP-1産生の増加、基礎および/または食後高血糖の低減、食後血漿インスリンレベルの低下、対象におけるIBDの処置、IBDを有する対象における腸の炎症の低減、IBDの寛解の誘導、IBDの寛解の維持、IBD症状を経験している対象における体重減少の低減、IBDを有する対象における結腸長の減少の低減、IBDを有する対象における腸の炎症の低減、および/またはIBDを有する対象における腸の損傷の低減に使用するための、式(II)
【0057】
【化4】

(式中、R2、R3、YおよびXは、式(I)と同様に定義される)、の化合物である。
【0058】
したがって、式(II)は、式(I)の化合物の限定された群を表す。
【0059】
式(II)の化合物について、より好ましくは、
・R2およびR3は、水素原子または直鎖状、分岐鎖状、および/または環状C1~C6アルキル基から独立して選択され、ただし、R2およびR3の両方が水素原子であることはできないことを条件とし;
・Xは、カルボン酸もしくはカルボン酸エステル;または薬学的に許容される塩、溶媒和物、またはそのような塩の溶媒和物であり;
・Yは酸素または硫黄である。
【0060】
いくつかの実施形態では、式(II)の化合物について、
・R2およびR3は、水素原子または直鎖状、分岐鎖状、および/または環状C1~C6アルキル基から独立して選択され、ただし、R2およびR3の両方が水素原子であることはできないことを条件とし;
・Xは、カルボン酸もしくはカルボン酸エステル;または薬学的に許容される塩、溶媒和物、またはそのような塩の溶媒和物であり;
・Yは硫黄である。
【0061】
いくつかの実施形態では、式(II)の化合物について、
・R2およびR3は、水素原子または直鎖状、分岐鎖状、および/または環状C1~C6アルキル基から独立して選択され、ただし、R2およびR3の両方が水素原子であることはできないことを条件とし;
・Xは、カルボン酸もしくはカルボン酸エステル;または薬学的に許容される塩、溶媒和物、またはそのような塩の溶媒和物であり;
・Yは酸素である。
【0062】
R2およびR3が異なる場合、式(I)および式(II)の化合物は、立体異性体の形態で存在することができる。本発明は、式(I)および(II)の化合物のすべての光学異性体ならびにそれらの混合物を包含すると理解されるであろう。
【0063】
式(I)および式(II)の両方の化合物について、少なくとも一実施形態では、R2およびR3は、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、およびペンチル基の群から独立して選択される。いくつかの実施形態では、R2およびR3の両方が水素原子であることはできない。少なくとも一実施形態では、R2およびR3は、水素原子、メチル基、およびエチル基の群から独立して選択される。いくつかの実施形態では、R2およびR3は、水素原子、メチル基、およびエチル基の群から独立して選択され、ただし、R2およびR3の両方が水素原子であることはできないことを条件とする。
【0064】
少なくとも一実施形態では、R2およびR3の一方は水素原子であり、R2およびR3の他方はC1~C3アルキル基から選択される。一実施形態では、R2およびR3の一方は水素原子であり、R2およびR3の他方はメチル基およびエチル基の群から選択され、最も好ましくは、R2およびR3の一方は水素原子であり、他方はエチル基である。
【0065】
別の実施形態では、R2およびR3の両方がC1~C3アルキル基である。一実施形態では、R2およびR3は同じであるかまたは異なっており、それぞれが、メチル基、エチル基、n-プロピル基、またはイソプロピル基から独立して選択される。好ましい実施形態では、R2およびR3の両方が同じであり、一対のメチル基、一対のエチル基、一対のn-プロピル基、または一対のイソプロピル基から選択される。少なくとも1つの好ましい実施形態では、R2およびR3はエチル基である。一実施形態では、R2およびR3の一方はメチル基であり、他方はエチル基である。一実施形態では、R2およびR3の一方はエチル基であり、他方はn-プロピル基である。
【0066】
少なくとも一実施形態では、化合物は、エナンチオマー(RもしくはS)、ジアステレオマー、またはそれらの混合物などの種々の立体異性体の形態で存在する。少なくとも一実施形態では、化合物は、ラセミ形態で存在する。特に、これらの場合、R2およびR3が異なるとき、式(I)および式(II)の化合物は、立体異性体の形態で存在することができる。本発明は、式(I)および式(II)の化合物のすべての光学異性体ならびにそれらの混合物を包含すると理解されるであろう。
【0067】
式(I)による化合物が、少なくとも1つの不斉中心を有する対イオンの塩、または少なくとも1つの不斉中心を有するアルコールのエステルである場合、化合物は、複数の不斉中心を有し得る。それらの状況において、本開示の化合物は、ジアステレオマーとして存在し得る。したがって、少なくとも一実施形態では、本開示の化合物は、少なくとも1つのジアステレオマーとして存在する。
【0068】
少なくとも一実施形態では、Yが酸素である場合、R2およびR3は好ましくは異なり、より好ましくは、R2およびR3の一方はエチルであり、他方は水素である。他の実施形態では、Yが硫黄である場合、R2およびR3は好ましくは同じであり、より好ましくはR2およびR3の両方がエチルである。
【0069】
少なくとも一実施形態では、本開示の使用のための化合物は、2-(((5Z,8Z,11Z,14Z,17Z)-イコサ-5,8,11,14,17-ペンタエン-1-イル)オキシ)ブタン酸(化合物A)である。
【0070】
【化5】
【0071】
少なくとも一実施形態では、本開示の使用のための化合物は、式
【0072】
【化6】

によって表されるそのSおよび/またはR形態で存在する化合物Aである。
【0073】
少なくとも一実施形態では、本開示の使用のための化合物は、2-エチル-2-((5Z,8Z,11Z,14Z,17Z)-イコサ-5,8,11,14,17-ペンタエニルチオ)ブタン酸(化合物B)である。
【0074】
【化7】
【0075】
さらなる態様では、本発明は、第1および第2の成分を含む組み合わせ製品を提供し、第1の成分は、式(I)
【0076】
【化8】

(式中、
・R1は、3~6個の二重結合を有するC10~C22アルケニルから選択され;
・R2およびR3は、同じかまたは異なっており、水素原子、ヒドロキシ基、アルキル基、ハロゲン原子、アルコキシ基、アシルオキシ基、アシル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルキルチオ基、アルコキシカルボニル基、カルボキシ基、アルキルスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アミノ基、およびアルキルアミノ基からなる置換基の群から選択され、ただし、R2およびR3は、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、またはシクロヘキサンのようなシクロアルカンを形成するために結合することができることを条件とし、ならびにR2およびR3の両方が水素であることはないことを条件とし;
・Xは、カルボン酸またはその誘導体であり、誘導体は、カルボキシレート、例として、カルボン酸エステル;グリセリド;無水物;カルボキサミド;リン脂質;もしくはヒドロキシメチル;またはそのプロドラッグであり;
・Yは、酸素、硫黄、スルホキシド、スルホン、およびCHである)
の化合物、または薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくはそのような塩の溶媒和物、であり、
第2の成分は、追加の活性剤である。
【0077】
方法および使用を目的とする第1の態様との関係において説明された実施形態および特徴は、本発明のこの他の態様にも適用される。したがって、組み合わせ製品の第1の成分は、使用するための化合物を目的とする第1の態様で開示された化合物の群から選択される。好ましい態様では、組み合わせ製品は、第1の成分として式(II)の化合物を含む。一実施形態では、組み合わせ製品は、第1の成分として化合物Bを含む。別の実施形態では、組み合わせ製品は、第1の成分として化合物Aを含む。
【0078】
組み合わせ製品の第1の成分、すなわち式(I)または(II)の化合物は、医薬組成物などの薬剤として投与してもよい。現在開示されている組成物は、開示されている少なくとも1つの化合物、および任意選択で少なくとも1つの非活性医薬成分、すなわち賦形剤を含み得る。非活性成分は、活性成分を、可溶化し、懸濁させ、増粘させ、希釈し、乳化し、安定化させ、保存し、保護し、着色し、風味付けし、かつ/または加工して、使用するのに安全な、便利な、かつ/または別様に許容され得る、適切かつ効果的な調製物にすることができる。賦形剤の例としては、溶媒、担体、希釈剤、結合剤、充填剤、甘味料、芳香剤、pH調整剤、粘度調整剤、抗酸化剤、増量剤、保湿剤、崩壊剤、溶液遅延剤、吸収促進剤、湿潤剤、吸収剤、潤滑剤、着色剤、分散剤、および防腐剤、が挙げられるが、これらに限定されない。賦形剤は、2つ以上の役割もしくは機能を有していてもよく、または2つ以上の群に分類されていてもよく;分類は説明のみであり、限定することを意図したものではない。いくつかの実施形態では、例えば、少なくとも1つの賦形剤は、トウモロコシデンプン、ラクトース、グルコース、微結晶性セルロース、ステアリン酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、クエン酸、酒石酸、水、エタノール、グリセロール、ソルビトール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、セチルステアリルアルコール、カルボキシメチルセルロース、および脂肪性物質、例としてハードファット、またはそれらの好適な混合物、から選択され得る。
【0079】
いくつかの実施形態では、組成物は、式(I)の少なくとも1つの化合物、例として式(II)のうちの1つ、および少なくとも1つの薬学的に許容される抗酸化剤、例えば、トコフェロール、例としてアルファ-トコフェロール、ベータ-トコフェロール、ガンマ-トコフェロール、およびデルタ-トコフェロール、またはそれらの混合物、BHA、例として2-tert-ブチル-4-ヒドロキシアニソールおよび3-tert-ブチル-4-ヒドロキシアニソール、またはそれらの混合物、およびBHT(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシトルエン)、またはそれらの混合物、を含む。現在開示されている組成物は、経口投与形態、例えば、錠剤またはゼラチンソフトもしくはハードカプセルで製剤化され得る。剤形は、経口投与に好適な任意の形状、例えば、球形、卵形、楕円形、立方体形状、規則的、および/または不規則形状、であり得る。組成物は、ゼラチンカプセルまたは錠剤の形態であり得る。
【0080】
組み合わせ製品の第2の成分である追加の活性剤は、それが存在する薬剤のタイプに好適なものとして製剤化され、薬剤の投与方法を含むいくつかの要因に依存する。例えば、錠剤として経口摂取することができるいくつかのDPP-4阻害剤が開発されている。好ましい実施形態では、第1の成分および第2の成分の両方が、経口投与用の形態で提供される。
【0081】
式(I)の化合物の好適な1日投与量は、約5mg~約4g、例として、約5mg~約2gの範囲であり得る。例えば、いくつかの実施形態では、日用量は、約10mg~約1.5g、約50mg~約1g、約100mg~約1g、約150mg~約900mg、約50mg~約800mg、約100mg~約800mg、約100mg~約600mg、約150~約550mg、または約200~約500mg、の範囲である。いくつかの実施形態では、日用量は、約200mg~約400mg、約250mg~約350mg、約300~約500mg、約400mg~約600mg、約550mg~約650mg、または約600mg~約800mgの範囲である。
【0082】
いくつかの実施形態では、式(I)の化合物の日用量は、約900mg~約1.6gの範囲である。いくつかの実施形態では、式(I)の化合物の日用量は、約1g~約1.5gの範囲である。
【0083】
いくつかの実施形態では、式(I)の化合物は、600mgの1日投与量で投与される。いくつかの実施形態では、式(I)の化合物は、300mgの1日投与量で投与される。いくつかの実施形態では、式(I)の化合物は、250mgの1日投与量で投与される。好ましくは、式(I)の化合物は、1日あたり300mg、600mg、1g、または1.5gの1日投与量で投与される。
【0084】
少なくとも一実施形態では、日用量は、約200mg~約600mgの範囲である。少なくとも一実施形態では、日用量は、約50mg、約100mg、約200mg、約300mg、約400mg、約500mg、約600mg、約700mg、約800mg、または約900mgである。いくつかの実施形態では、1日投与量は、50mg、100mg、150mg、200mg、250mg、300mg、350mg、400mg、450mg、500mg、550mg、600mg、650mg、700mg、750mg、800mg、850mg、または900mgである。化合物は、例えば、1日1回、2回、または3回投与することができる。少なくとも一実施形態では、式(I)の化合物は、用量あたり約200mg~約800mgの範囲の量で投与される。少なくとも一実施形態では、式(I)の化合物は、1日1回投与される。追加の活性剤の用量は、選択された薬剤のタイプに依存し、特定の薬剤の承認された量に従う必要がある。好ましくは、式(I)の化合物は、300mgまたは600mgの投与量で、1日1回投与される。
【0085】
少なくとも一実施形態では、日用量は、約900mg~1.6gの範囲である。少なくとも一実施形態では、日用量は、約900mg、約950mg、約1000mg、約1050mg、約1100mg、約1150mg、約1200mg、約1250mg、約1300mg、約1350mg、約1400mg、約1450mg、約1500mg、約1550mg、または約1600mgである。
【0086】
少なくとも一実施形態では、式(II)の化合物は、用量あたり約200mg~約800mgの範囲の量で、または約900mg~約1.6gの範囲の量で投与される。少なくとも一実施形態では、式(II)の化合物は、1日1回投与される。いくつかの実施形態では、式(II)の化合物は、1.5gの用量で1日1回投与される。いくつかの実施形態では、式(II)の化合物は、1.25gの用量で1日1回投与される。いくつかの実施形態では、式(II)の化合物は、1gの用量で1日1回投与される。少なくとも一実施形態では、式(II)の化合物は、750mgの用量で1日1回投与される。いくつかの実施形態では、式(II)の化合物は、600mgの用量で1日1回投与される。いくつかの実施形態では、式(II)の化合物は、500mgの用量で1日1回投与される。いくつかの実施形態では、式(II)の化合物は、300mgの用量で1日1回投与される。いくつかの実施形態では、式(II)の化合物は、250mgの用量で1日1回投与される。好ましくは、式(II)の化合物は、300mg、600mg、1g、または1.5gの用量で1日1回投与される。
【0087】
好ましくは、化合物Aは、300mgまたは600mgの用量で1日1回投与される。好ましくは、化合物Bは、1g~1.5gの範囲の用量で1日1回投与される。
【0088】
式(I)および式(II)の化合物は、例えば、PCT出願WO2009/061208、WO2010/008299、WO2010/128401、WO2011/089529、WO2016/156912に記載されているように、および以下の実施例に従って調製することができる。加えて、化合物Aは、例えば、PCT出願WO2014/132135に記載されているように調製することができる。化合物Bは、例えば、WO2010/008299に記載されているように調製することができる。
【0089】
GLP-1の増加
開示された構造修飾脂肪酸は、非修飾長鎖脂肪酸と比較して、GLP-1濃度を増加させる改善された能力を有することが、今では判明している。したがって、より具体的には、本開示は、GSISの増強剤として、および肝臓のグルコース放出の阻害剤として使用するための化合物を提供する。
【0090】
本開示の一態様との関係において説明された実施形態および特徴は、本発明の他の態様にも適用されるという点に留意すべきである。特に、本開示に従ってGLP-1を増加させる方法に適用される実施形態は、すべて本開示による、例として、GLP-1の増加に使用するための化合物、または使用するための、別の薬物と共投与される化合物を含む組成物を目的とした態様、にも適用される。
【0091】
式Iによる、またはより好ましくは式IIによって記載された特定の構造修飾脂肪酸は、腸内分泌GLP-1分泌を刺激する改善された能力を有することが、今では判明している。理論に拘束されるものではないが、構造修飾脂肪酸は、
a)全身吸収を低下させ、それによって遠位小腸および大腸内の腸内分泌L細胞を標的とすること、および/または
b)腸内分泌L細胞と長時間接触させて、それによって腸からのGLP-1の徐放を達成すること、および/または
c)カイロミクロンへの組み込みに抵抗し、それによって腸壁の血管側の/腸内膜に埋め込まれた腸内分泌L細胞へ、より多くの遊離脂肪酸が送達されるのを促進すること、および/または
d)細胞内エステル化により複雑な脂質になることに抵抗し、それによって、オートクリンGPR40/GPR120結合のためのより強力なリガンドを生成するための、CYP450/リポキシゲナーゼ修飾のための基質利用性を高めること、および/または
e)肝臓/腸管DPP-4活性を阻害し、それによってGLP-1分解を減少させること、
によって、この効果を達成し得る。
【0092】
血糖制御の改善
使用のための化合物は、GSISを増加させ、満腹感を促進し、胃内容排出を遅らせ、グルコース依存性グルカゴン分泌を阻害し、および/または肝臓グルコース産生を低減させるための手段を、さらに提供する。
【0093】
さらなる実施形態では、化合物は、上昇した血糖値の治療的処置に使用するためのものである。より具体的には、本発明は、基礎および/または食後高血糖の処置に使用するための式(I)の化合物を提供する。理論に拘束されるものではないが、これはおそらく、食後および基礎GLP-1およびGSISの増加、ならびに/または肝臓のグルコース放出の減少によるものである。
【0094】
いくつかの実施形態では、化合物は、血糖制御の改善、例として、基礎および/または食後高血糖の低減、および/または食後血漿インスリン濃度の増加に使用するためのものである。いくつかの実施形態では、化合物は、基礎血漿インスリン濃度の低下に使用するためのものである。いくつかの実施形態では、化合物は、血中HbA1cの低下および/またはHOMA-IRの低下に使用するためのものである。いくつかの実施形態では、化合物は、T2DMを有する対象の血漿ALTの低下に使用するためのものである。好ましい実施形態では、化合物は、食後高血糖の低減、および/または食後血漿インスリン濃度の増加に使用するためのものである。
【0095】
血糖制御は、血漿グルコースレベルの調節である。血糖制御の改善は、血漿グルコースレベルを低下させることによって、食後血漿インスリンレベルを増加させることによって、および/または細胞インスリン感受性を高めることによって、および/または肝臓のグルコース放出を低減させることによって達成することができる。
【0096】
式(I)の化合物を投与された対象における「基礎高血糖の低減」という用語は、式(I)の化合物を投与されていない対象と比較して、基礎高血糖が低減していることを示す。ヒトにおける基礎高血糖は、食後8時間130mg/dl以上の血漿グルコースレベルとして定義する。式(I)の化合物を投与された対象における「食後高血糖の低減」という用語は、式(I)の化合物を投与されていない対象と比較して、食後高血糖が低減していることを示す。ヒトにおける食後高血糖は、食後1~2時間180mg/dl以上の血漿グルコースレベルとして定義する。どちらの用語でも、高血糖の低減は、血漿グルコースレベルまたは血糖値の低下を表す。
【0097】
式(I)の化合物を投与された対象における「食後血漿インスリン濃度の増加」という用語は、式(I)の化合物を投与されていない対象と比較して、対象の血漿インスリン濃度が食後に増加することを示す。式(I)の化合物を投与された対象における「基礎血漿インスリン濃度の低下」という用語は、式(I)の化合物を投与されていない対象と比較して、対象の基礎血漿インスリン濃度が低下することを示す。「血漿インスリン濃度」という用語は、「血漿インスリンレベル」という用語と互換性がある。
【0098】
式(I)の化合物を投与された対象における「HbA1cレベルの低下」という用語は、式(I)の化合物を投与されていない対象と比較して、対象のHbA1cのレベルが低下することを示す。式(I)の化合物を投与されたT2DMを有する対象における「血漿ALTレベルの低下」という用語は、式(I)の化合物を投与されていないT2DMを有する対象と比較して、対象の血漿ALTレベルが低下することを示す。
【0099】
式(I)の化合物を投与された対象における「HOMA-IRの低下」という用語は、式(I)の化合物を投与されていない対象と比較して、対象のHOMA-IR計算が低下することを示す。HOMA-IRはインスリン抵抗性の評価であり、次の式で計算することができる:空腹時インスリン(マイクロU/L)x空腹時グルコース(nmol/L)/22.5。
【0100】
生物学的実施例1において提供されるように、式(I)の化合物は、式(I)の化合物を投与されなかったラットと比較して、経口グルコース負荷後の最初の60分間の痩せたSPDラットにおける活性GLP-1濃度を増加させた。上記のように、GLP-1はグルコース刺激インスリン分泌(GSIS)を増加させ、その結果、食後血漿インスリンレベルが増加する。生物学的実施例2~5は、式(I)の化合物を投与された痩せたSPDラットでは、式(I)の化合物を投与されなかったラットと比較して、経口グルコース負荷後の24時間GLP-1のレベルおよび血漿インスリンレベルの両方が増加したことを示す。これらのデータは、式(I)の化合物を投与されたラットにおける経口グルコース負荷後の最初の60分間の血漿インスリン濃度が同様に増加することを支持している。
【0101】
生物学的実施例4および5に提供されるように、式(I)の化合物によって、式(I)の化合物を投与されなかったラットと比較して、経口グルコース負荷後24時間の痩せたSPDラットの血漿インスリンレベルが増加する。いくつかの実施形態では、式(I)の化合物によって、式(I)の化合物を投与されなかった対象と比較して、血漿インスリンレベルが25%増加する。いくつかの実施形態では、式(I)の化合物によって、式(I)の化合物ではなく、DPP4阻害剤を投与された対象と比較して、血漿インスリンレベルが25%増加する。いくつかの実施形態では、式(I)の化合物を、DDP4阻害剤と共に投与して、これにより式(I)の化合物を投与されなかった対象と比較して、血漿インスリンレベルが40%増加する。いくつかの実施形態では、式(I)の化合物によって、経口グルコース負荷後24時間血漿インスリンレベルが増加する。
【0102】
生物学的実施例6および14に提供されるように、式(I)の化合物により、式(I)の化合物を投与されなかったマウスと比較して、T2DMのマウスモデルにおける食後グルコースレベルが低下する。いくつかの実施形態では、式(I)の化合物によって、式(I)の化合物を投与されなかったT2DMを有する対象と比較して、T2DMを有する対象における食後15分および30分血漿グルコースレベルが25%低下する。いくつかの実施形態では、式(I)の化合物によって、式(I)の化合物を投与されなかったT2DMを有する対象と比較して、T2DMを有する対象における食後15分および30分血漿グルコースレベルが50%低下する。いくつかの実施形態では、式(I)の化合物によって、ピオグリタゾンを投与されているが式(I)の化合物を投与されていないT2DMを有する対象と比較して、T2DMを有する対象における食後15分および30分血漿グルコースレベルが低下する。いくつかの実施形態では、式(I)の化合物によって、式(I)の化合物を投与されなかったT2DMを有する対象と比較して、T2DMを有する対象における食後15分~90分血漿グルコースレベルが低下する。いくつかの実施形態では、式(I)の化合物によって、式(I)の化合物を投与されなかったT2DMを有する対象と比較して、T2DMを有する対象における食後60分血漿グルコースレベルが50%低下する。
【0103】
生物学的実施例14に記載されるように、式(I)の化合物による長期処置によって、式(I)の化合物を投与されなかったマウスと比較して、T2DMのマウスモデルにおける基礎グルコースレベルが低下する。いくつかの実施形態では、式(I)の化合物によって、式(I)の化合物を投与されなかったT2DMを有する対象と比較して、T2DMを有する対象における基礎血漿グルコースレベルが低下する。いくつかの実施形態では、式(I)の化合物によって、式(I)の化合物を投与されなかったT2DMを有する対象と比較して、T2DMを有する対象における基礎血漿グルコースレベルが25%低下する。いくつかの実施形態では、式(I)の化合物によって、式(I)の化合物を投与されなかったT2DMを有する対象と比較して、T2DMを有する対象における基礎血漿グルコースレベルが30%低下する。いくつかの実施形態では、式(I)の化合物によって、式(I)の化合物を投与されなかったT2DMを有する対象と比較して、T2DMを有する対象における基礎血漿グルコースレベルが35%低下する。いくつかの実施形態では、式(I)の化合物によって、式(I)の化合物を投与されなかったT2DMを有する対象と比較して、T2DMを有する対象における基礎血漿グルコースレベルが40%低下する。いくつかの実施形態では、式(I)の化合物によって、式(I)の化合物を投与されなかったT2DMを有する対象と比較して、T2DMを有する対象における基礎血漿グルコースレベルが45%低下する。いくつかの実施形態では、式(I)の化合物によって、式(I)の化合物を投与されなかったT2DMを有する対象と比較して、T2DMを有する対象における基礎血漿グルコースレベルが50%低下する。
【0104】
生物学的実施例14に記載されるように、式(I)の化合物による長期処置によって、式(I)の化合物を投与されなかったマウスと比較して、T2DMのマウスモデルにおける基礎血漿インスリンレベルが低下する。いくつかの実施形態では、式(I)の化合物によって、式(I)の化合物を投与されなかったT2DMを有する対象と比較して、T2DMを有する対象における基礎血漿インスリンレベルが低下する。いくつかの実施形態では、式(I)の化合物によって、式(I)の化合物を投与されなかったT2DMを有する対象と比較して、T2DMを有する対象における基礎血漿インスリンレベルが50%低下する。いくつかの実施形態では、式(I)の化合物によって、式(I)の化合物を投与されなかったT2DMを有する対象と比較して、T2DMを有する対象における基礎血漿インスリンレベルが60%低下する。いくつかの実施形態では、式(I)の化合物によって、式(I)の化合物を投与されなかったT2DMを有する対象と比較して、T2DMを有する対象における基礎血漿インスリンレベルが70%低下する。
【0105】
生物学的実施例14に記載されるように、式(I)の化合物による長期処置によって、式(I)の化合物を投与されなかったマウスと比較して、T2DMのマウスモデルにおけるHBA1cレベルが低下する。いくつかの実施形態では、式(I)の化合物によって、式(I)の化合物を投与されなかったT2DMを有する対象と比較して、T2DMを有する対象におけるHBA1cレベルが低下する。いくつかの実施形態では、式(I)の化合物によって、式(I)の化合物を投与されなかったT2DMを有する対象と比較して、T2DMを有する対象におけるHBA1cレベルが25%低下する。いくつかの実施形態では、式(I)の化合物によって、式(I)の化合物を投与されなかったT2DMを有する対象と比較して、T2DMを有する対象におけるHBA1cレベルが30%低下する。いくつかの実施形態では、式(I)の化合物によって、式(I)の化合物を投与されなかったT2DMを有する対象と比較して、T2DMを有する対象におけるHBA1cレベルが40%低下する。
【0106】
生物学的実施例14に記載されるように、式(I)の化合物による長期処置によって、式(I)の化合物を投与されなかったマウスと比較して、T2DMのマウスモデルにおけるHOMA-IR値が低下する。いくつかの実施形態では、式(I)の化合物によって、式(I)の化合物を投与されなかったT2DMを有する対象と比較して、T2DMを有する対象におけるHOMA-IR値が低下する。いくつかの実施形態では、式(I)の化合物によって、式(I)の化合物を投与されなかったT2DMを有する対象と比較して、T2DMを有する対象におけるHOMA-IR値が50%低下する。いくつかの実施形態では、式(I)の化合物によって、式(I)の化合物を投与されなかったT2DMを有する対象と比較して、T2DMを有する対象におけるHOMA-IR値が60%低下する。いくつかの実施形態では、式(I)の化合物によって、式(I)の化合物を投与されなかったT2DMを有する対象と比較して、T2DMを有する対象におけるHOMA-IR値が70%低下する。いくつかの実施形態では、式(I)の化合物によって、式(I)の化合物を投与されなかったT2DMを有する対象と比較して、T2DMを有する対象におけるHOMA-IR値が80%低下する。
【0107】
生物学的実施例14に記載されるように、式(I)の化合物による長期処置によって、式(I)の化合物を投与されなかったマウスと比較して、T2DMのマウスモデルにおける血漿アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)レベルが低下する。いくつかの実施形態では、式(I)の化合物によって、式(I)の化合物を投与されなかったT2DMを有する対象と比較して、T2DMを有する対象における血漿ALTレベルが低下する。いくつかの実施形態では、式(I)の化合物によって、式(I)の化合物を投与されなかったT2DMを有する対象と比較して、T2DMを有する対象における血漿ALTレベルが20%低下する。いくつかの実施形態では、式(I)の化合物によって、式(I)の化合物を投与されなかったT2DMを有する対象と比較して、T2DMを有する対象における血漿ALTレベルが25%低下する。いくつかの実施形態では、式(I)の化合物によって、式(I)の化合物を投与されなかったT2DMを有する対象と比較して、T2DMを有する対象における血漿ALTレベルが30%低下する。
【0108】
開示された化合物はまた、記載された適応症のための医薬の製造に使用するのに好適である。例えば、本開示は、基礎および/または食後高血糖を低減し、食後血漿インスリンレベルを増加させるための医薬の製造のための式(I)の化合物の使用を提供する。
【0109】
一実施形態では、本発明の使用のための方法および化合物は、少なくとも2つの異なる活性剤、式(I)または(II)の化合物、および追加の活性剤、好ましくはDPP-4阻害剤それぞれの使用を提供する。少なくとも2つの活性剤は、「組み合わせ製品」と見なすことができ、薬剤は、例えば、別々に梱包されており、最適な意図された効果を達成するために両方の薬剤が必要である。したがって、本発明によれば、式(I)または(II)の化合物は、追加の活性剤と共投与される。いくつかの実施形態では、追加の活性剤は、ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP-4)阻害剤であり、この薬剤および式(I)の化合物は、血漿GLP-1濃度の増加に対して相乗効果を有する。ジペプチジルペプチダーゼ阻害剤の非限定的な例のリストには、シタグリプチン、ビルダグリプチン、サクサグリプチン、リナグリプチン、ゲミグリプチン、アナグリプチン、テネリグリプチン、アログリプチン、トレラグリプチン、オマリグリプチン、エボグリプチン、デュトグリプチン、が含まれる。したがって、開示される方法および使用には、これらまたは類似のDPP-4阻害剤のいずれかの任意の投与が含まれる。
【0110】
急性(0~60分)および長期(24時間)のげっ歯類における血漿GLP-1およびインスリン濃度に対する影響に加えて、全身吸収と比較した、腸保持に対する長鎖脂肪酸への特定の構造修飾の影響の両方を評価するために、一連の実験を実施した。
【0111】
実施例に提供されるように、研究は、DPP-4阻害剤を、α位に置換基を有する不飽和脂肪酸、すなわち、化合物Bなどの式(I)または(II)の化合物と組み合わせることが、血漿GLP-1濃度を増加させるために、いずれかの処置単独よりも優れているという概念を支持している。食後高血糖および上昇した基礎高血糖の両方を、グルコース刺激インスリン分泌の増強および/または肝臓グルコース放出の減少を介して低減させることができるので、これらの発見は、DPP-4阻害剤のみと比較してDPP-4阻害剤と組み合わせた構造修飾脂肪酸(例えば、化合物AまたはB)の優位性を実証している。全体として、データは、DPP-4阻害剤と、酸素/硫黄を含む構造修飾脂肪酸との組み合わせが、食後および基礎GLP-1の増加ならびにインスリン濃度の増加の両方に対して相乗効果を達成する場合があることを示唆している。
【0112】
有効な2型糖尿病(T2DM)薬として経口DPP-4阻害剤が広く使用されているけれども、血漿GLP-1濃度を増加させる能力は、最終的には内因性GLP-1産生に依存している。内因性GLP-1は、主に食物摂取後に発生し、食後晩期および一晩の絶食中に、食物由来の腸GPR40/120リガンドが上部消化管から吸収されるため減少する。DPP-4阻害剤は、GLP-1の半減期を数分から2~4時間に増加させる。したがって、下部腸内のGPR40/120に富む腸内分泌細胞を利用する能力により、総GLP-1産生が増加させるため、および絶食状態にある腸からのGLP-1産生が長期にわたるために、非常に望ましい。したがって、急性グルコース負荷(0~60分GLP-1)に応答してだけでなく、24時間(DPP-4阻害剤によりコーン油によるGLP-1レベルがもはや増加しなくなったとき)でも、化合物Bにより達成された活性GLP-1の新規かつ顕著な増加は、化合物Bが上部腸と下部腸の両方からGLP-1産生を誘導でき、それによってGLP-1レベルの上昇が長期にわたることを示唆している。24時間でのインスリンレベルの上昇と組み合わせて、これは、化合物AもしくはBを単独で、または好ましくはDPP-4阻害剤とともに、のいずれかで使用される可能性があり、急性GLP-1および長期GLP-1の両方を増加させ、それによって食後および基礎血漿グルコースの両方を低減させることができることを示唆している。
【0113】
制御不良の糖尿病患者における糖化ヘモグロビンの主な決定要因は基礎グルコースであり、食後グルコースではないため、血漿GLP-1に対するこの長期の影響は、長期のグルコース上昇に関連する大血管および微小血管合併症の予防的処置にかなりの利益をもたらす可能性がある。注目すべきことに、急性効果は、GLP-1産生を誘導するために必要な経口ボーラスとして典型的に使用されるわずかな用量(75mg/kg)の脂肪で達成された。これらの効果は、天然に存在する長鎖オメガ3脂肪酸が、胃および空腸を介して投与された場合、GLP-1に影響を及ぼさなかったことを示している以前の研究(Morishita Mら、J. Control. Release、2008年、132(2):99~104頁)と比較して、特に驚くべきものである。このことは、GLP-1に対する化合物Bの効果が、下部消化管に到達する能力に関連しているだけではないことを示唆している。全体として、データは、DPP-4阻害剤と最適に組み合わせることができる、グルコース刺激インスリン産生および/または基礎インスリン産生の増強剤として使用するための、腸内分泌GLP-1産生の活性化因子としての式(I)または(II)による構造修飾脂肪酸の使用であって、満腹感を促進し、胃内容排出を遅らせ、グルコース依存性グルカゴン分泌を阻害し、GLP-1を介して肝臓グルコース産生を低減させる、使用を支持している。
【0114】
上記の発見に基づいて、式(I)の、または好ましくは式(II)の化合物は、DPP-4阻害剤とともに最適に共投与され得る。腸内分泌GPR40/GPR120の活性化が望ましい状態を治療的および/または予防的に処置するために、さらなる化合物を投与してもよい。
【0115】
実施例は、α位に置換基を有する構造修飾脂肪酸を、DPP-4阻害剤と組み合わせる可能性を強調している。これらの組み合わせは、DPP-4阻害剤と化合物AおよびBの両方を経口投与でき、それにより、注射部位反応のリスクを打ち消すため、単剤療法と比較して有効性関連のアウトカムを改善する場合があるだけでなく、注射用GLP-1アゴニストと比較して安全性、忍容性、コンプライアンスを改善する場合もある。化合物AとBの両方が、ヒト(化合物A)およびAPOE*3.CETPマウス(化合物AおよびB)におけるアテローム生成脂質を大幅に減少させることが実証されているため、化合物AまたはBのいずれかとDPP-4阻害剤の組み合わせにより、血漿GLP-1濃度を最適化すること、および関連する脂質異常症を処置することの両方が可能になる。このことは、インスリン抵抗性/T2DMおよび高脂血症と罹患率および死亡率の増加との既知の関連を考えると、有利であり得る。
【0116】
いくつかの実施形態では、式(I)の化合物は、追加の活性剤と組み合わせて使用される。いくつかの実施形態では追加の活性剤は、好ましくは、インクレチンを不活性化する酵素の阻害剤であり、したがって、追加の活性剤は、好ましくは、ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP-4)阻害剤である。好ましくは、DPP-4阻害剤は、シタグリプチン、ビルダグリプチン、サクサグリプチン、リナグリプチン、ゲミグリプチン、アナグリプチン、テネリグリプチン、アログリプチン、トレラグリプチン、オマリグリプチン、エボグリプチン、デュトグリプチン、の非限定的な例示的なリストから選択される。一実施形態では、第1および第2の成分は、GLP-1などの血漿インクレチン濃度の増加に対して相乗効果を有する。
【0117】
炎症性腸疾患の処置
本発明はまた、腸内分泌GPR40/GPR120の活性化および/またはGLP-1の刺激が望ましい胃腸障害の処置として使用するための化合物を提供する。このようなGLP-1関連障害としては、腸における炎症、特に、潰瘍性大腸炎(UC)、クローン病、非定型的大腸炎などの炎症性腸疾患が挙げられる。
【0118】
式Iによる、またはより好ましくは式IIによって記載された特定の構造修飾脂肪酸は、炎症性腸疾患(IBD)の症状を処置または緩和し得ることが、今では判明している。一態様では、化合物は、IBDの治療的処置に使用するためのものである。IBDは、腸の慢性免疫調節不全障害の群であり、クローン病(CD)、潰瘍性大腸炎(UC)、および非定型的大腸炎が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、本明細書に開示される化合物は、クローン病の処置に使用するためのものである。いくつかの実施形態では、本明細書に開示される化合物は、潰瘍性大腸炎の処置に使用するためのものである。いくつかの実施形態では、本明細書に開示される化合物は、非定型的大腸炎の処置に使用するためのものである。さらに、これらの化合物は、IBDの治療的、対症的および/または予防的処置に使用するためのものである。
【0119】
いくつかの実施形態では、化合物は、IBDに関連する腸の炎症の低減に使用するためのものである。いくつかの実施形態では、化合物は、IBDの寛解の誘導に使用するためのものである。いくつかの実施形態では、化合物は、IBDの寛解の維持に使用するためのものである。いくつかの実施形態では、化合物は、IBD症状を経験している対象の体重減少の予防に使用するためのものである。いくつかの実施形態では、化合物は、IBDを有する対象における結腸長の減少の低減に使用するためのものである。いくつかの実施形態では、化合物は、IBDを有する対象における腸の損傷の低減に使用するためのものである。
【0120】
式(I)の化合物を投与されたIBDを有する対象における「腸の炎症の低減」という用語は、式(I)の化合物を投与されていないIBDを有する対象と比較して腸の炎症が低減されていることを示す。腸の炎症は、生物学的実施例12に記載されているような組織学的スコアリング、および生物学的実施例12に記載されているような炎症性マーカーの発現によって評価することができる。腸の炎症は、内視鏡的組織学的特徴および3つの形態のIBDに適用可能な臨床検査パラメーターを含む臨床的および臨床的組織学的複合スコアによって評価することもできる。de Jongら、Clin Gastroenterol Hepatol.、2018年、16(5):648~663頁。
【0121】
式(I)の化合物を投与されたIBDを有する対象における「寛解の誘導」という用語は、式(I)の化合物を投与されていないIBDを有する対象と比較して、IBD症状および/または腸の炎症からの寛解が誘導されることを示す。「寛解」という用語は、症状が軽減または欠如している期間と、腸の炎症が欠如している期間の両方を包含する。
【0122】
式(I)の化合物を投与されたIBDを有する対象における「寛解の維持」という用語は、式(I)の化合物を投与されていないIBDを有する対象と比較して、IBD症状および/または腸の炎症の寛解がより長期間維持されることを示す。
【0123】
式(I)の化合物を投与されたIBD症状を有する対象における「体重減少の予防」という用語は、式(I)の化合物を投与されていないIBD症状を有する対象と比較して、体重減少が低減することを示す。体重減少の予防は、減量する体重の低減および初期体重の維持を包含する。
【0124】
式(I)の化合物を投与されたIBDを有する対象における「結腸長の減少の低減」という用語は、式(I)の化合物を投与されていないIBDを有する対象と比較して、結腸長の減少が低減するかまたは軽減されることを示す。
【0125】
本明細書で使用される「腸の損傷」という用語は、腸上皮細胞および/または粘膜表面への損傷を説明する。式(I)の化合物を投与されたIBDを有する対象における「腸の損傷の低減」という用語は、式(I)の化合物を投与されていないIBDを有する対象と比較して、腸上皮および/または粘膜損傷が低減されることを示す。腸上皮および粘膜損傷は、生物学的実施例12に記載されているような組織学的スコアリングによって評価することができる。腸上皮および粘膜損傷を評価するための他の方法としては、例えば、免疫組織化学、FACS分析、PCRおよび腸粘膜のプロテオミクス/ホスホプロテオミクスプロファイリングを使用する免疫学的プロファイリング、およびIBDによる腸の炎症および一般的な炎症の代理血清/血漿または糞便マーカーを使用することが挙げられる。Di Ruscioら、Inflamm Bowel Dis.、2017年、24(1):78~92頁、Iborraら、Gastrointest Endosc Clin N Am.、2016年、26(4):641~655頁。
【0126】
IBDを処置するために天然に存在するオメガ3脂肪酸の経口投与を使用する以前の努力は、成功していない。Lev-Tzionら、Cochrane Database Syst. Rev.、2014年、28(2):CD006320;Cabreら、Br. J. Nutri.、2012年、Suppl 2:S240~252。これは、少なくとも部分的には、これらの化合物が下部小腸、結腸、および大腸に到達する前に大部分が吸収されるためであり得る。対照的に、本発明者らは、驚くべきことに、式(I)の化合物が、経口投与後に遠位小腸および結腸に到達するだけでなく、腸のこれらの領域に蓄積することを見出した。具体的には、生物学的実施例7に提供されているように、ラットにおける研究では、単回経口投与後、化合物Bが4時間から1日まで盲腸に蓄積が認められ、8時間で大腸に蓄積が認められることが見出された。生物学的実施例8に提供されているように、化合物Bは主に糞便を介して排泄され、このことは化合物Bが腸に蓄積することを示唆している。小腸および結腸における式(I)の化合物のこの蓄積は、IBDを処置するためのこれらの化合物の使用を支持する。
【0127】
生物学的実施例9および10に提供されているように、大腸炎が誘発されたマウスは、式(I)の化合物を投与されなかったマウスと比較して、式(I)の化合物で処置された場合、体重減少および結腸長の減少という大腸炎の表現型からの用量依存的な救済を示した。いくつかの実施形態では、式(I)の化合物は、式(I)の化合物を投与されなかったIBDを有する対象と比較して、IBDを有する対象における体重減少の低減に使用するためのものである。いくつかの実施形態では、式(I)の化合物は、式(I)の化合物を投与されなかったIBDを有する対象と比較して、IBDを有する対象における体重を初期体重の10%以内に維持するのに使用するためのものである。いくつかの実施形態では、式(I)の化合物は、式(I)の化合物を投与されなかったIBDを有する対象と比較して、IBDを有する対象における体重を初期体重の5%以内に維持するのに使用するためのものである。いくつかの実施形態では、式(I)の化合物は、式(I)の化合物を投与されなかったIBDを有する対象と比較して、IBDを有する対象における結腸長の減少の低減に使用するためのものである。
【0128】
生物学的実施例12に示されるように、大腸炎が誘発されたマウスは、組織学的スコアリングに基づいて、式(I)の化合物で処置された場合、式(I)の化合物を投与されなかったマウスと比較して、結腸損傷および炎症からの用量依存的救済を示した。さらに、生物学的実施例13に示されるように、大腸炎が誘発されたマウスは、化合物Bで処置された場合、炎症の重要マーカーの結腸発現が減少したことを示した。具体的には、化合物Bは、炎症性サイトカインおよび/またはIBDに関連するバイオマーカーであるIL-6、IL-1b、S100A8、TNFα、およびReg3gの結腸発現を低下させた。Eicheleら、World J. Gastroenterol.、2017年、23(33):6016~6029頁。いくつかの実施形態では、式(I)の化合物は、式(I)の化合物を投与されなかったIBDを有する対象と比較して、IBDを有する対象における腸の炎症の低減に使用するためのものである。いくつかの実施形態では、式(I)の化合物は、式(I)の化合物を投与されなかったIBDを有する対象と比較して、IBDを有する患者における腸の損傷の低減に使用するためのものである。
【0129】
好ましい実施形態では、本開示は、IBDの処置、IBDの寛解の誘導、IBDの寛解の維持、IBDを有する患者における体重減少の低減、IBDを有する患者における結腸長の減少の低減、IBDを有する患者における腸の炎症の低減、および/またはIBDを有する患者における腸の損傷の低減に使用するための、式(I)
【0130】
【化9】

(式中、
・R1は、3~6個の二重結合を有するC10~C22アルケニルから選択され;
R2およびR3は、同じかまたは異なっており、水素原子、ヒドロキシ基、アルキル基、ハロゲン原子、アルコキシ基、アシルオキシ基、アシル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルキルチオ基、アルコキシカルボニル基、カルボキシ基、アルキルスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アミノ基、およびアルキルアミノ基からなる置換基の群から選択され、ただし、R2およびR3は、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、またはシクロヘキサンのようなシクロアルカンを形成するために結合することができることを条件とし、ならびにR2およびR3の両方が水素であることはないことを条件とし;
・Xは、カルボン酸またはその誘導体であり、誘導体は、カルボキシレート、例として、カルボン酸エステル;グリセリド;無水物;カルボキサミド;リン脂質;もしくはヒドロキシメチル;またはそのプロドラッグであり;
・Yは硫黄である)の化合物、
または薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくはそのような塩の溶媒和物、を提供する。
【0131】
好ましい実施形態では、本開示は、IBDの処置、IBDの寛解の誘導、IBDの寛解の維持、IBDを有する患者における体重減少の低減、IBDを有する患者における結腸長の減少の低減、IBDを有する患者における腸の炎症の低減、および/またはIBDを有する患者における腸の損傷の低減に使用するための、
式(I)
(式中、
・R2およびR3は、水素原子または直鎖状、分岐鎖状、および/または環状C1~C6アルキル基から独立して選択され、ただし、R2およびR3の両方が水素原子であることはできないことを条件とし;
・Xは、カルボン酸もしくはカルボン酸エステル;または薬学的に許容される塩、溶媒和物、またはそのような塩の溶媒和物であり;
・Yは硫黄である)の化合物を提供する。
【0132】
より好ましい実施形態では、本開示は、IBDの処置、IBDの寛解の誘導、IBDの寛解の維持、IBDを有する患者における体重減少の低減、IBDを有する患者における結腸長の減少の低減、IBDを有する患者における腸の炎症の低減、および/またはIBDを有する患者における腸の損傷の低減に使用するための、
式(II)
【0133】
【化10】

(式中、
・R2およびR3は、同じかまたは異なっており、水素原子、ヒドロキシ基、アルキル基、ハロゲン原子、アルコキシ基、アシルオキシ基、アシル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルキルチオ基、アルコキシカルボニル基、カルボキシ基、アルキルスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アミノ基、およびアルキルアミノ基からなる置換基の群から選択され、R2およびR3は、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、またはシクロヘキサンのようなシクロアルカンを形成するために結合することができることを条件とし、ならびにR2およびR3の両方が水素であることはないことを条件とし;
・Xは、カルボン酸またはその誘導体であり、誘導体は、カルボキシレート、例として、カルボン酸エステル;グリセリド;無水物;カルボキサミド;リン脂質;もしくはヒドロキシメチル;またはそのプロドラッグであり;
・Yは硫黄である)
の化合物を提供する。
【0134】
特に好ましい実施形態では、本開示は、IBDの処置、IBDの寛解の誘導、IBDの寛解の維持、IBDを有する患者における体重減少の低減、IBDを有する患者における結腸長の減少の低減、IBDを有する患者における腸の炎症の低減、および/またはIBDを有する患者における腸の損傷の低減に使用するための、式(II)
(式中、
・R2およびR3は、水素原子または直鎖状、分岐鎖状、および/または環状C1~C6アルキル基から独立して選択され、ただし、R2およびR3の両方が水素原子であることはできないことを条件とし;
・Xは、カルボン酸もしくはカルボン酸エステル;または薬学的に許容される塩、溶媒和物、またはそのような塩の溶媒和物であり;
・Yは硫黄である)
の化合物を提供する。
【0135】
いくつかの実施形態では、本開示は、IBDの処置、IBDの寛解の誘導、IBDの寛解の維持、IBDを有する患者における体重減少の低減、IBDを有する患者における結腸長の減少の低減、IBDを有する患者における腸の炎症の低減、および/またはIBDを有する患者における腸の損傷の低減に使用するための、
2-エチル-2-((5Z,8Z,11Z,14Z,17Z)-イコサ-5,8,11,14,17-ペンタエニルチオ)ブタン酸:
【0136】
【化11】

を提供する。
【0137】
開示された化合物はまた、記載された適応症のための医薬の製造に使用するのに好適である。例えば、本開示は、潰瘍性大腸炎、クローン病、および非定型的大腸炎などのIBDを処置するための医薬の製造のための式(I)の化合物の使用を提供する。同様に、本開示は、IBDにおける腸の炎症を低減し、IBDの寛解を誘導し、IBDの寛解を維持し、IBD症状を経験している対象の体重減少を低減し、結腸長の減少を低減し、IBDを有する対象における腸の炎症を低減し、かつ/またはIBDを有する対象における腸の損傷を低減するための医薬の製造のための式(I)の化合物の使用を提供する。
【0138】
いくつかの実施形態では、本開示は、IBDを処置し、IBDの寛解を誘導し、IBDの寛解を維持し、IBDを有する患者における体重減少を低減し、IBDを有する患者における結腸長の減少を低減し、IBDを有する患者における腸の炎症を低減し、かつ/またはIBDを有する患者における腸の損傷を低減するための、少なくとも2つの異なる活性剤、式(I)または(II)の化合物、および追加の活性剤の使用を提供する。IBDの症状を処置するために現在使用されている薬物のクラスとしては、コルチコステロイド、アミノサリチル酸塩、免疫抑制剤、小分子、および生物学的製剤が挙げられるが、これらに限定されない。免疫抑制剤免疫抑制剤の非限定的なリストには、アザチオプリン(Azasan(登録商標)、Imuran(登録商標))、メルカプトプリン(Purinethol(登録商標)、Purixan(登録商標))、シクロスポリン(Gengraf(登録商標)、Neoral(登録商標)、Sandimmune(登録商標))、およびメトトレキサート(Trexall(登録商標))が含まれる。生物学的製剤の非限定的なリストには、インフリキシマブ(Remicade(登録商標))、アダリムマブ(Humira(登録商標))、ゴリムマブ(Simponi(登録商標))、ナタリズマブ(Tysabri(登録商標))、ベドリズマブ(Entyvio(登録商標))、およびウステキヌマブ(Stelara(登録商標))が含まれる。アミノサリチル酸塩の非限定的なリストには、メサラミン(Asacol HD(登録商標)、Delzicol(登録商標))、バルサラジド(Colazal(登録商標))およびオルサラジン(Dipentum(登録商標))が含まれる。コルチコステロイドの非限定的なリストには、ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、プレドニゾン、およびブデソニドが含まれる。
【実施例
【0139】
合成実施例
実施例1:tert-ブチル2-((5Z,8Z,11Z,14Z,17Z)-イコサ-5,8,11,14,17-ペンタエン-1-イルオキシ)ブタノエートの調製:
【0140】
【化12】

トルエン(35mL)中の(5Z,8Z,11Z,14Z,17Z)-イコサ-5,8,11,14,17-ペンタエン-1-オール(3.50g、12.1mmol)の溶液に、テトラブチルアンモニウムクロリド(0.55g、1.98mmol)を、窒素下にて室温で加えた。水酸化ナトリウムの水溶液(50%(w/w)、11.7mL)を、室温で激しく撹拌しながら加え、続いて2-ブロモ酪酸t-ブチル(5.41g、24.3mmol)を加えた。得られた混合物を50℃に加熱し、1.5時間(2.70g、12.1mmol)、3.5時間(2.70g、12.1mmol)および4.5時間(2.70g、12.1mmol)後に、追加の2-ブロモ酪酸tブチルを加え、全体で12時間撹拌した。室温まで冷却した後、氷水(25mL)を加え、得られた2つの相を分離した。有機相をNaOH(5%)とブラインとの混合物で洗浄し、乾燥させ(MgSO)、濾過し、濃縮した。残留物を、溶離液としてヘプタンと酢酸エチルとの高極性混合物(increasingly polar mixtures)(100:0->95:5)を使用してシリカゲル上でフラッシュクロマトグラフィーによって精製した。適切な画分の濃縮により、1.87g(収率36%)の表題化合物を油として得た。1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ 0.85-1.10 (m, 6H), 1.35-1.54 (m, 11H), 1.53-1.87 (m, 4H), 1.96-2.26 (m, 4H), 2.70-3.02 (m, 8H), 3.31 (dt, 1H), 3.51-3.67 (m, 2H), 5.10-5.58 (m, 10H).
【0141】
実施例2:2-((5Z,8Z,11Z,14Z,17Z)-イコサ-5,8,11,14,17-ペンタエニルオキシ)ブタン酸(化合物A)の調製:
【0142】
【化13】

tert-ブチル2-((5Z,8Z,11Z,14Z,17Z)-イコサ-5,8,11,14,17-ペンタエン-1-イルオキシ)ブタノエート(19.6g、45.5mmol)を、ジクロロメタン(200mL)中に溶解させて、窒素下に置いた。トリフルオロ酢酸(50mL)を加え、反応混合物を室温で1時間撹拌した。水を加え、水相をジクロロメタンで2回抽出した。合わせた有機抽出物をブラインで洗浄し、乾燥させ(NaSO)、濾過し、濃縮した。残留物を、溶離液としてヘプタン、酢酸エチルおよびギ酸の高極性混合物(90:10:1->80:20:1)を使用してシリカゲル上でフラッシュクロマトグラフィーにかけた。適切な画分の濃縮により、12.1g(収率71%)の表題化合物を油として得た。1H-NMR (300 MHz, CDCl3): δ 0.90-1.00 (m, 6H), 1.50 (m, 2H), 1.70 (m, 2H), 1.80 (m, 2H), 2.10 (m, 4H), 2.80-2.90 (m, 8H), 3.50 (m, 1H), 3.60 (m, 1H), 3.75 (t, 1H), 5.30-5.50 (m, 10H); MS (エレクトロスプレー): 373.2 [M-H]-.
【0143】
実施例3:2-エチル-2-((5Z,8Z,11Z,14Z,17Z)-イコサ-5,8,11,14,17-ペンタエニルチオ)ブタン酸(化合物B)の調製
【0144】
【化14】

NaOEt(EtOH中21重量パーセント、0.37mL、0.98mmol)を、0°Cで保持された乾燥EtOH(7mL)中の2-メルカプト-2-エチル酪酸(0.08g、0.49mmol)の溶液に、不活性雰囲気下にて滴加した。得られた混合物を0℃で30分間撹拌した後、乾燥EtOH(3mL)中の(5Z,8Z,11Z,14Z,17Z)-イコサ-5,8,11,14,17-ペンタエニルメタンスルホネート(0.15g、0.41mmol)の溶液を滴加した。得られた混濁混合物を周囲温度で24時間撹拌し、NH4Cl(飽和)(水溶液)(15mL)に注ぎ、3M HClをpH約2になるまで加えた後、EtOAc(2×20mL)で2回抽出した。合わせた有機抽出物をブライン(10mL)で洗浄し、乾燥させ(MgSO4)、濾過し、減圧下で蒸発させた。残留物を、溶離液としてヘプタン中の10~25パーセント酢酸エチルの勾配を使用してシリカゲル上でフラッシュクロマトグラフィーによって精製した。適切な画分の濃縮により、0.12g(収率70%)の表題化合物を油として得た。1 H-NMR (300 MHz, CDCl3): デルタ 0.88-1.02 (m, 9H), 1.45-1.58 (2xm, 4H), 1.72 (m, 2H), 1.82 (m, 2H) 2.09 (m, 4H), 2.53 (t, 2H), 2.76-2.86 (m, 8H), 5.29-5.39 (m, 10H. MS (エレクトロスプレー): 417.3 [M-H]-.
【0145】
実施例4:(4Z,7Z,10Z,13Z,16Z,19Z)-2,2-ジエチルドコサ-4,7,10,13,16,19-ヘキサエン酸の調製
【0146】
【化15】

工程a)
ブチルリチウム(ヘキサン中38.6mL、0.62mol、1.6M)を、0℃でN下にて乾燥THF(200mL)中のジイソプロピルアミン(9.1mL、0.65mol)の撹拌溶液に滴加した。得られた溶液を0℃で30分間撹拌し、-78℃に冷却した(溶液A)。乾燥THF(100mL)中のエチル(4Z,7Z,10Z,13Z,16Z,19Z)-ドコサ-4,7,10,13,16,19-ヘキサノエート(hexaenoate)(DHA EE、20.0g、0.56mol)の溶液を、溶液Aに滴加し、得られた混合物を-78℃で30分間撹拌した。ヨードエタン(6.8ml、0.84mol)を加え、反応混合物を-10℃に到達させ、次に水に注ぎ、ヘキサンで抽出した(2x)。合わせた有機相を1M HCl(水溶液)で洗浄し、乾燥させ(NaSO)、濾過し、減圧下で蒸発させた。粗生成物を乾燥THF(100mL)中に溶解し、-78℃で溶液Aの新しいバッチに滴加した。ヨードエタン(6.8mL、0.84mol)を加え、反応混合物を周囲温度に到達させた。混合物を一晩撹拌し、水に注ぎ、ヘキサンで抽出した(2x)。合わせた有機相を1M HCl(水溶液)で洗浄し、乾燥させ(NaSO)、濾過し、減圧下で蒸発させた。粗生成物を、乾式フラッシュクロマトグラフィーによってシリカゲル上でヘプタン/EtOAc(99:1、続いて98:2)により溶出して精製し、10.0g(収率43%)の表題化合物を油として得た。1H-NMR (200 MHz; CDCl3) δ 0.83 (t, 6H), 0.94 (t, 3H), 1.28 (t, 3H), 1.63 (q, 4H), 2.10 (m, 2H), 2.34 (d, 2H), 2.8-3.0 (m, 10H), 4.15 (q, 2H), 5.3-5.6 (m, 12H); 13C-NMR (50 MHz; CDCl3) δ 8.9, 14.7, 21.0, 23.1, 25.9, 26.0, 26.2, 27.4, 31.2, 50.1, 60.6, 125.5, 127.4, 128.3, 128.6, 128.9, 130.5, 132.4, 177.1; MS (エレクトロスプレー); 413.3 [M+H], 435.3 [M+Na].
【0147】
工程b)
エチル(4Z,7Z,10Z,13Z,16Z,19Z)-2,2-ジエチルドコサ-4,7,10,13,16,19-ヘキサノエート(hexaenoate)(2.42g、5.87mmol)をDMF(10mL)中に溶解し、チオフェノール(0.63mL、6.17mmol)およびKOH(0.41g、6.17mmol)を加えた。反応混合物を、N下にて100℃で139時間撹拌した。混合物を冷却し、1M HCl(水溶液)を加え、ジエチルエーテルで抽出した(4×)。有機層をプールし、ブラインで洗浄し、MgSO4上で乾燥させ、濃縮した。粗生成物を、フラッシュクロマトグラフィー(ヘプタン:EtOAc 9:1、続いて4:1、次いで7:3)によって精製して、0.48g(収率21%)の表題化合物を油として得た。1H-NMR (200 MHz; CDCl3) δ 0.78 (t, 6H), 0.95 (t, 3H), 1.52-1.68 (m, 4H), 1.98-2.12 (m, 2H), 2.34 (d, 2H), 2.70-2.90 (m, 10H), 3.65 (s, 3H), 5.20-5.50 (m, 12H).
【0148】
生物学的実施例
痩せた雄型SPDラットにおける24時間での経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)中の活性GLP-1濃度に対する化合物Aおよび化合物Bの急性効果の評価
活性GLP-1およびインスリン濃度に対する化合物Aおよび化合物Bの経口投与の急性効果を確立するために、痩せた(約300g)雄型のSprague-Dawley(SPD)ラットを群(n=6~8)に分けて、以下に概説するように、経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)の60分前にジペプチジルペプチダーゼ4(DPP-4)阻害剤の同時投与有りかまたはなしのいずれかで、74および84mg/kg体重の化合物Aまたは化合物Bのそれぞれを摂取させた。コーン油のみ(コーン油+ビヒクル、n=10)またはコーン油とDPP-4阻害剤(「DPP-4i」)(コーン油+(DPP-4i)、n=10)のいずれかを投与された並行群を、対照として含めた。DPP-4阻害剤はリナグリプチンであった。
【0149】
【表1】
【0150】
表1に示すように、活性GLP-1の測定のために、0、15、30および60分経過時点で試料を収集した。74および84mg/kg体重の化合物Aまたは化合物Bのそれぞれの2回目の経口用量を240分経過時点で投与し、自由摂食を開始した。DPP-4阻害剤の2回目の用量は、消灯の480分前に投与した。活性GLP-1およびインスリンの測定のために、24時間経過時点で血液試料を収集した。すべての値は平均値であり、図は平均値(SEM)を示す。
【0151】
生物学的実施例1.痩せたSPDラットにおける曲線下面積(AUC)(0~60分)グルコース刺激活性GLP-1(pg/mL)x分に対する、コーン油+ビヒクル、コーン油+DPP4阻害剤または化合物B+DPP4阻害剤の急性摂取の効果。
DPP4阻害剤と組み合わせると、化合物Bは、コーン油+ビヒクルと比較して活性GLP-1(AUC 0~60分)濃度を有意に(p<0.05)増加させた(>2倍増加)が、コーン油+DPP4阻害剤単独では、コーン油単独と比較して有意な効果はなかった。結果を図1に示す。
【0152】
生物学的実施例2.痩せたSPDラットにおける24時間での活性GLP-1(pg/mL)に対する、コーン油+ビヒクル、コーン油+DPP4阻害剤、化合物A単独または化合物A+DPP4阻害剤の効果。
DPP4阻害剤と組み合わせると、化合物Aは、コーン油+ビヒクルと比較して24時間活性GLP-1濃度を有意に(p<0.05)増加させたが、コーン油+DPP4阻害剤単独では、有意な効果はなかった。結果を図2に示す。
【0153】
生物学的実施例3.痩せたSPDラットにおける24時間での活性GLP-1(pg/mL)に対する、コーン油+ビヒクル、コーン油+DPP4阻害剤、化合物B単独または化合物B+DPP4阻害剤の効果。
DPP4阻害剤と組み合わせると、化合物Bは、コーン油+ビヒクルと比較して活性GLP-1濃度を有意に(p<0.01)増加させたが、コーン油+DPP4阻害剤単独では、コーン油単独と比較して有意な効果はなかった。結果を図3に示す。
【0154】
生物学的実施例4.痩せたSPDラットにおける24時間での血漿インスリン(pg/mL)に対する、コーン油+ビヒクル、コーン油+DPP4阻害剤、化合物A単独または化合物A+DPP4阻害剤の効果。
単独で、またはDPP4阻害剤と組み合わせるかのいずれかで、化合物Aは、コーン油+ビヒクルおよびコーン油+DPP4阻害剤の両方と比較して、インスリン濃度を25%増加させた(有意ではない)。結果を図4に示す。
【0155】
生物学的実施例5.痩せたSPDラットにおける24時間での血漿インスリン(pg/mL)に対する、コーン油+ビヒクル、コーン油+DPP4阻害剤、化合物B単独または化合物B+DPP4阻害剤の効果。
単独で、またはDPP4阻害剤と組み合わせると、化合物Bは、コーン油+ビヒクルおよびコーン油+DPP4阻害剤の両方と比較して、インスリン濃度をそれぞれ25%および40%増加させた(有意ではない)。結果を図5に示す。
【0156】
生物学的実施例6.ob/obマウスにおける耐糖能(0~120分)に対する、ピオグリタゾンと比較した化合物Bまたは化合物Aによる効果。
この研究は、T2DMげっ歯類モデルにおける耐糖能に対する、化合物Bまたは化合物Aによる長期処置の効果を評価するために実施した。
【0157】
化合物Bの効果を評価するために、B6.V-Lepob/Jrjマウス(ob/ob)マウスに、化合物Bを125および250mg/kgの2つの用量のうちの1つで、28日間投与した。8週齢の雄型ob/obマウス(群あたり8匹)を、化合物B(2用量)、ピオグリタゾン(30mg/kg)、またはビヒクルのいずれかで1日1回強制経口投与して処置し、28日後に5時間絶食させ、その後、マウスは2g/kgの経口グルコース負荷を受けた。経口グルコース負荷後、血漿グルコースを複数の時点で測定し、グルコースのAUC(0~120分)を計算した。化合物Bの両方の用量により耐糖能が改善され、250mg/kgの用量は、AUCグルコースの強力かつ非常に有意な(p<0.001)減少を誘導した(図6A)。
【0158】
化合物Aの効果を評価するために、ob/obマウスに、高脂肪食(2%コレステロール、40%脂肪(18%トランス脂肪酸を含む)、20%フルクトースを含む)を5週齢から15週間与えた。マウス(群あたり10匹)に、化合物A(112mg/kg)、ピオグリタゾン(30mg/kg)、またはビヒクルを、1日1回食餌により投与した。21日後、マウスは2g/kgの経口グルコース負荷を受けた。経口グルコース負荷後、血漿グルコースを0~240分の複数の時点で測定した。化合物Aにより、ビヒクルと比較して、グルコース負荷後15分から90分まで耐糖能が有意に改善された(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。化合物Aはまた、AUCグルコースを有意に減少させた(p<0.01)。
【0159】
生物学的実施例7.[14C]-化合物Bを公称用量レベル50mg/kg体重で単回経口投与した後の、雄型アルビノラットの腸セグメントにおける放射能濃度。
この研究は、定量的全身オートラジオグラフィー(QWBA)を使用して、[14C]-化合物Bの単回経口投与後の雄型アルビノラットにおける放射能の腸組織分布を測定するために実施した。[14C]-化合物Bを50mg/kg(約5MBq/kg)で単回経口投与した後のラットにおける組織分布を、投与後168時間までのQWBA分析によって調べた。小腸粘膜におけるピーク濃度は4時間で発生し、盲腸への蓄積は4時間から1日まで、大腸では8時間で認められ、このことは、化合物Bが遠位小腸および結腸に到達する能力を実証する。結果を表2に提供する。
【0160】
【表2】
【0161】
生物学的実施例8.[14C]-化合物Bを公称用量レベル50mg/kg体重で単回経口投与した後の、雄型アルビノラットの排泄物中の放射能の回収。
尿および糞便を介した化合物Bのクリアランスを評価するために、[14C]-化合物Bの単回経口投与の排泄パターンを雄型アルビノラットにおいて測定した。排泄パターンは各動物において類似しており、放射能の定量的回収率が得られた(101%)。経口投与後の放射能の総排泄量は、最初の48時間以内に>95%であった。尿による排泄量は投与量の12%を占めた。経口投与後の糞便中排泄量は86%であり、大量の[14C]-化合物B関連物質が吸収されずに排泄されたことを示唆している。表3には、排泄バランス調査の結果を提供する。
【0162】
【表3】
【0163】
DSS誘発性大腸炎マウスの腸の炎症に対する化合物Bの効果の評価
デキストラン硫酸ナトリウム誘発性(DSS)誘発性大腸炎モデルは、腸の炎症動物モデルの再現可能な化学的誘発として、当技術分野において周知である。例えば、Eicheleら、World J Gastroenterol, 2017年、23(33):6016~6029、Randhawaら、Korean J. Physiol. Pharmacol. (2014) 18:279~288頁、Jurjusら、J. Pharmacol. Toxicol., Methods, 2004年、50:81~92頁、Gaudioら、Dig. Dis. Sci., 1999年、44:1458~1475頁を参照のこと。DSS誘発性大腸炎モデルは、形態学的および症候的にヒトIBDに見られる上皮損傷に類似しており、したがって、腸の炎症の最も広く使用されている実験モデルになっている。Okayasuら、Gastroenterology、1990年、98:694~702頁、Kawadaら、World J. Gastroenterol. 2007年、13:5581~5593頁。DSS誘発性大腸炎モデルは、ヒトの潰瘍性大腸炎に最も類似しているが、クローン病にも多くの類似点を有する。
【0164】
DSSは、水溶性の負に帯電した硫酸化多糖であり、分子量は5~1400kDaの範囲で大きく変動する。マウス大腸炎は、DSS誘発性大腸炎にかかりやすいマウス系統の飲料水に約1%から3%のDSSを投与することからもたらされる。理論に拘束されるものではないが、硫酸化多糖は腸の炎症を直接誘発しない場合もあるが、代わりに結腸上皮への直接的な化学毒素として作用し、上皮細胞の損傷をもたらす場合がある。DSSは腸上皮単層の内膜を破壊し、管腔内細菌および関連する抗原の粘膜への侵入を引き起こし、これにより炎症誘発性腸内容物の基礎組織への播種が可能になると考えられている。滅菌飲料水に添加された約40~50kDaのサイズ範囲のDSSは、腸の粘膜に浸透することが示されている。Perseら、J. Biomed. Biotechnol.、2012年:718617。
【0165】
C56BL/6Jマウスは、DSS誘発性大腸炎にかかりやすい系統である。DSS誘発性大腸炎の処置における化合物Bの有効性および投与量を評価するために、1.5%DSSを飲料水に7日間添加することにより、30匹の9週齢のC56BL/6Jマウスに炎症を誘発させた。マウスには、30重量パーセントの小麦からなる普通食を与えた。マウスを10匹の3つの群に分け、DSS投与の各日について、各群に、(1)1日あたり100μLのコーン油(対照)、(2)1日あたり126mg/kgの化合物B((100μLのコーン油に溶解した)(「化合物B-低」もしくは「化合物B-L」)、または(3)1日あたり252mg/kgの化合物B(100μLのコーン油に溶解した)(「化合物B-高」もしくは「化合物B-H」)のいずれかを強制経口投与した。DSS誘発期間の7日間に続いて、マウスを犠死させ、それらの腸組織を組織病理学的分析および遺伝子発現分析に使用した。
【0166】
生物学的実施例9.
マウスのDSS誘発性大腸炎の処置における化合物Bの有効性を評価するために、マウスの体重を監視した。体重減少は大腸炎の重症度の指標である。図7に示すように、飲料水中の1.5%DSSを与えられたマウスは、進行性の体重減少を示した。対照群と比較して、化合物Bで処置されたマウスは、体重減少の用量依存的低減を示した。対照群と処置群との間の体重減少の差は、化合物B-高群のDSS誘発の6日後に統計的に有意であり、化合物B-高群および化合物B-低群の両方の7日後に統計的に有意であった。
【0167】
生物学的実施例10.
マウスのDSS誘発性大腸炎の処置における化合物Bの有効性を評価するために、試験マウスの結腸長を測定した。結腸長は炎症と逆相関する。図8に示されるように、低用量および高用量の両方の化合物Bで処置されたマウスは、対照と比較して結腸長の有意な増加を示した。
【0168】
生物学的実施例11.
図9に示されるように、化合物Bで処置されたマウスは、対照と比較して、用量依存的な生存率の増加を示した。低用量の化合物Bで処置されたマウスの90%(n=9)および高用量の化合物Bで処置されたマウスの100%(n=10)と比較して、対照群の未処置マウスの50%(n=5)が、大腸炎が誘発されてから7日後に生存していた。対照群の死亡は、敗血症および重度の結腸炎症によるものであった。したがって、化合物Bは、大腸炎マウスの生存率に、統計的に有意な影響を及ぼす。
【0169】
生物学的実施例12.
組織病理学的分析は、ヘマトキシリンおよびエオジン(H&E)染色後のホルマリン固定パラフィン包埋組織の切片において実施した。結腸試料を、Neurathら、J. Exp. Med.、2002年、195:1129~1143頁に記載されているように、大腸炎活性のスコア割り当てについての組織病理学によって分析した。要約すると、結腸の微視的断面における炎症ならびに上皮損傷および粘膜損傷の程度を、0から4まで半定量的に等級分けした。炎症の場合、スコア0=炎症の証拠なし;1=浸潤性単核細胞が散在する低レベルの炎症(1~2つの増殖巣のみ);2=複数の増殖巣を伴う中等度の炎症;3=血管密度の増加および顕著な壁肥厚を伴う高レベルの炎症;ならびに4=貫壁性白血球浸潤および杯細胞の喪失を伴う炎症の最大重症度。損傷の場合、スコア0=上皮損傷なし;1=時折の上皮病変;2=1~2つの潰瘍の増殖巣;および3=広範な潰瘍。小腸切片が、追加の対照として非誘発性(すなわち、DSSなし)動物から採取され、炎症の証拠を示さなかった。図10に示されるように、高用量の化合物Bで処置されたマウスからの試料の組織学的スコアは、未処置のマウスからのものよりも有意に低かった。高用量の化合物Bで処置されたマウスでは、未処置のマウスよりも炎症と上皮および粘膜の損傷の両方が低かった。
【0170】
DSS誘発性マウスの結腸、ならびに非誘発性(すなわち、DSSなし)マウスの結腸の代表的な組織学的断面を図11に示す。DSS誘発性対照マウス(図11AおよびB)では、組織学的断面は、絨毛-陰窩構造の消失、粘膜固有層および粘膜筋板の浮腫および炎症性浸潤/増殖巣、腸上皮細胞の脱落、ならびに保護粘液層の喪失(オレンジ色)を示す。処置されたマウス(図11C~F)において、組織学は、炎症性浸潤および浮腫の用量依存的減弱、ならびに後に絨毛構造および粘液のほぼ正常な形態への再構成を示す。比較すると、高用量の化合物Bで処置された結腸の組織学的断面は、ほぼ完全な救済を示し、形態は、DSSを投与されていないマウスからの結腸の形態に類似している(図11G)。図11A、CおよびEのスケールバーは、は200μmである。図11B、D、F、およびGのスケールバーは、50μmである。
【0171】
生物学的実施例13.
炎症誘発性サイトカインおよびバイオマーカーのレベルに対する化合物Bによる処置の効果を評価するために、小腸および大腸の組織試料(>100mg)から全RNAを抽出した。cDNAを逆転写によって合成し、リアルタイムPCRによって分析した。結果を、ハウスキーピング遺伝子ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)のレベルに正規化した。HPRT発現に対する試験遺伝子の相対的mRNA発現を、Pickertら、J. Exp. Med.、2009年、206:1465~1472頁に記載されている2-ΔΔCt法を使用して計算した。インターロイキン6(IL6)、IL1b、カルグラニュリン-A(S100A8)、および腫瘍壊死因子α(TNFα)は、潰瘍性大腸炎とクローン病の両方を含むIBDのメディエーターとして関与している。IL6、IL1b、およびカルグラニュリン-Aは、炎症性マクロファージにおいて顕著に発現している。IL22依存性の再生膵島由来3ガンマ(Reg3g)は、上皮細胞の炎症に反応して誘発される。IL17は、Th17 Tヘルパー細胞および自然リンパ球3型(ILC3)から分泌される。
【0172】
図12に示すように。IL6、IL1b、S100A8、TNFαおよびReg3gのmRNAレベルは、大腸炎からの救済および炎症の低減と一致して、未処置マウスと比較して、化合物Bで処置されたマウスにおいて用量依存的な減少を示した。化合物B処置に応答したIL17aの発現の変化がないことは、IBDに対する保護と一致している。まとめると、結果は、化合物Bが、大腸炎ならびにクローン病および非定型的大腸炎などの他の炎症性腸疾患に対して臨床的に有益な効果をもたらす場合があることを示している。
【0173】
生物学的実施例14.
T2DMのげっ歯類モデルにおける化合物Aによる長期処置の効果を評価するために、6~8週齢の雄型ob/obマウスに、混合食を介して化合物Aの3つの用量(15mg/kg bw/d;45mg/kg bw/d;135mg/kg bw/d)のうちの1つ、混合食を介してピオグリタゾン(30mg/kg bw/d)、混合食を介してフェノフィブラート(100mg/kg bw/d)を投与するか、またはこれらのマウスを5週間未処置とした(対照)(1群あたり10匹のマウス)。マウスには、標準的な低脂肪(7% w/w脂肪)食を与えた。4週間後、マウスを4時間絶食させ、化合物Aの効果を評価した。化合物Aの効果の評価には、基礎血糖値、基礎血漿インスリンレベル、HbA1cレベル、およびインスリン抵抗性の恒常性モデル評価(HOMA-IR)が含まれていた。HOMA-IRはインスリン抵抗性の評価であり、次の式で計算する:空腹時インスリン(マイクロU/L)x空腹時グルコース(nmol/L)/22.5。135mg/kg用量の化合物Aの効果を、表4に提供する。
【0174】
【表4】
【0175】
5週間後、4時間の絶食後に経口グルコース(2g/kg)耐性試験を実施した。化合物Aは、グルコースレベルの低下において用量依存的な応答を示した。
【0176】
【表5】

図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11
図12