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特許7508458アルコール、油および脂肪に対する向上した耐性を有するアクリル組成物
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  • 特許-アルコール、油および脂肪に対する向上した耐性を有するアクリル組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】アルコール、油および脂肪に対する向上した耐性を有するアクリル組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 33/06 20060101AFI20240624BHJP
   C08F 279/06 20060101ALI20240624BHJP
   C08L 25/12 20060101ALI20240624BHJP
   C08L 51/04 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
C08L33/06
C08F279/06
C08L25/12
C08L51/04
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021535793
(86)(22)【出願日】2019-12-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-14
(86)【国際出願番号】 EP2019084562
(87)【国際公開番号】W WO2020126722
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-12-08
(31)【優先権主張番号】18213814.9
(32)【優先日】2018-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】319013746
【氏名又は名称】レーム・ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Roehm GmbH
【住所又は居所原語表記】Deutsche-Telekom-Allee 9, 64295 Darmstadt, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】リューディガー カルロフ
【審査官】宮内 弘剛
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-096639(JP,A)
【文献】特開2015-229717(JP,A)
【文献】特開平02-272050(JP,A)
【文献】特表2001-518950(JP,A)
【文献】米国特許第06689827(US,B1)
【文献】特表2010-529242(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0322932(US,A1)
【文献】米国特許第05489633(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0243728(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
C08K
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー組成物であって、前記ポリマー組成物の重量に基づいて、以下の成分A、BおよびC:
A.アルキル(メタ)アクリレート、芳香族ビニルモノマーおよび不飽和カルボン酸無水物を含む40.0~84.0重量%のコポリマーであって
コポリマーAの重量に基づいて
48.0重量%~90.0重量%のアルキル(メタ)アクリレート、
8.0重量%~35.0重量%の芳香族ビニルモノマーであって、スチレンである前記芳香族ビニルモノマー、および
2.0重量%~17.0重量%の不飽和カルボン酸無水物
のコポリマーであるコポリマーA、
B.芳香族ビニルモノマーおよびシアン化ビニルモノマーを含む4.0~20.0重量%のコポリマーであって、
コポリマーBの重量に基づいて
65.0重量%~85.0重量%の芳香族ビニルモノマー、および
15.0重量%~32.0重量%のシアン化ビニルモノマー
のコポリマーであるコポリマーB、
、ならびに
C.ゴム状相としてブタジエン系コアと、ハード相としてアルキル(メタ)アクリレートおよび任意選択で芳香族ビニルモノマーを含むコポリマーとを含む12.0~40.0重量%の粒子状コア-シェル型グラフトコポリマーであって、
ブタジエン系コアの重量に基づいて少なくとも65.0重量%のポリブタジエンを含む前記ブタジエン系コアと、
前記シェルの重量に基づいて、60.0~100.0重量%のアルキル(メタ)アクリレートと、0.0~40.0重量%の芳香族ビニルモノマーとを含むシェルと
を含む粒子状コア-シェル型グラフトコポリマーC、
を含み、前記成分AおよびBがポリマーマトリックスを形成し、前記粒子状コア-シェル型グラフトコポリマーCが前記ポリマーマトリックス中に分散されており、
前記粒子状コア-シェル型グラフトコポリマーC中の前記シアン化ビニルモノマーの含有量が、前記コア-シェル型グラフトコポリマーCの重量に基づいて5.0重量%以下である、ポリマー組成物。
【請求項2】
前記ポリマー組成物は、前記ポリマー組成物の重量に基づいて、以下の成分A、BおよびC:
A.アルキル(メタ)アクリレート、芳香族ビニルモノマーおよび不飽和カルボン酸無水物を含む54.0~78.0重量%のコポリマー、
B.芳香族ビニルモノマーおよびシアン化ビニルモノマーを含む6.0~10.0重量%のコポリマー、
、ならびに
C.ゴム状相としてブタジエン系コアと、ハード相としてアルキル(メタ)アクリレートおよび任意選択で芳香族ビニルモノマーを含むコポリマーとを含む16.0~36.0重量%の粒子状コア-シェル型グラフトコポリマー、
を含む、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項3】
前記コポリマーAが、
前記コポリマーAの重量に基づいて
63.0~81.0重量%のアルキル(メタ)アクリレート、
12.0~22.0重量%の芳香族ビニルモノマーであって、スチレンである前記芳香族ビニルモノマー、および
7.0~15.0重量%の不飽和カルボン酸無水物
のコポリマーである、請求項1または2記載のポリマー組成物。
【請求項4】
前記コポリマーAの重量平均分子量Mwが、80000~240000g/molである、請求項1から3までのいずれか1項記載のポリマー組成物。
【請求項5】
前記コポリマーBが、前記コポリマーBの重量に基づいて
72.0~80.0重量%の前記芳香族ビニルモノマー、および
20.0~28.0重量%の前記シアン化ビニルモノマー
のコポリマーである、請求項1からまでのいずれか1項記載のポリマー組成物。
【請求項6】
前記芳香族ビニルモノマーがスチレンであり、
前記シアン化ビニルモノマーがアクリロニトリルであり、
前記不飽和カルボン酸無水物がマレイン酸無水物であり、
前記アルキル(メタ)アクリレートが、
前記アルキル(メタ)アクリレートの重量に基づいて
80.0~100.0重量%のメチルメタクリレートと、
メチルメタクリレート以外の0.0~20.0重量%のアルキル(メタ)アクリレートと
を含む、請求項1からまでのいずれか1項記載のポリマー組成物。
【請求項7】
前記粒子状コア-シェル型グラフトコポリマーCが、23℃の水中でDIN ISO 13321(2017)にしたがって決定された40~1000nmの重量平均粒径を有する、請求項1からまでのいずれか1項記載のポリマー組成物。
【請求項8】
前記粒子状コア-シェル型グラフトコポリマーCが、
ブタジエン系コアの重量に基づいて少なくとも75.0重量%のポリブタジエンを含む前記ブタジエン系コアと、
65.0~100.0重量%のアルキル(メタ)アクリレートを含むシェルと、
前記シェルの重量に基づいて0.0~35.0重量%の前記芳香族ビニルモノマーと
を含む、請求項1からまでのいずれか1項記載のポリマー組成物。
【請求項9】
規格ASTM D1003にしたがって3mm射出成形試験片上で23℃にて測定された前記組成物のヘイズが、30%未満である、請求項1からまでのいずれか1項記載のポリマー組成物。
【請求項10】
以下の特性(i)~(iii):
(i)ISO 306-B50による少なくとも100℃のビカー軟化温度、
(ii)ISO 527による少なくとも3.0%の公称破断伸び、および/または
(iii)ISO 527による1500MPa超の弾性率
のうちの1つまたは複数を有する、請求項1からまでのいずれか1項記載のポリマー組成物。
【請求項11】
230℃および5.0kgでISO 1133にしたがって測定された0.5cm/10分超のメルトボリュームフローレートMVRを有する、請求項1から10までのいずれか1項記載のポリマー組成物。
【請求項12】
請求項1から11までのいずれか1項記載のポリマー組成物からの成形品の製造方法であって、前記組成物の射出成形のステップを含む、方法。
【請求項13】
請求項1から11までのいずれか1項記載のポリマー組成物を含む、成形品。
【請求項14】
使い捨て医療診断用デバイス、静注用およびカテーテル用アクセサリー、血液取扱デバイス、胸部ドレナージユニット、呼吸換気デバイス、医療用フィルターハウジング、永続的デバイスハウジング、チューブ、コネクター、フィッティングまたはキュベットである医療用デバイスである、請求項13記載の成形品。
【請求項15】
医療用デバイスにおける請求項1から11までのいずれか1項記載のポリマー組成物の使用であって、前記医療用デバイスは、使い捨ての医療診断用デバイス、静注用およびカテーテル用アクセサリー、血液取扱デバイス、胸部ドレナージユニット、呼吸換気デバイス、医療用フィルターハウジング、永続的デバイスハウジング、チューブ、コネクター、フィッティングまたはキュベットである、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコール、油および脂肪に対する向上した耐性を有する透明なアクリル系ポリマー組成物に関する。特に、本組成物は、使い捨て医療用デバイスの消毒および滅菌に一般に使用される水イソプロパノール混合物に対する優れた耐性を有する。加えて、本組成物は、商業的な消毒剤への長期曝露後でさえ、高い透明性、低ヘイズおよび優れた機械的特性を有する。
【0002】
したがって、本発明の組成物は、静注用およびカテーテル用アクセサリー、血液取扱デバイス、胸部ドレナージユニットまたは呼吸換気デバイスなどの様々な医療用デバイスの製造に非常に適している。
【0003】
背景技術
医療グレードアクリル系ポリマー組成物は、光学的特性と機械的特性との優れたバランスを持ち、電子ビームまたはγ線を使用して滅菌することができ、生物材料と適合する。加えて、そのような組成物は、優れた熱可塑性加工性を有することが多く、射出成形に有利に使用することができる。これは、様々な医療用デバイス用途ならびに医療診断用デバイスにおけるその使用を可能にする。そのような材料の典型的な用途には、とりわけ静注用およびカテーテル用アクセサリー、血液取扱デバイス、胸部ドレナージユニット、呼吸換気デバイスなどが含まれる。
【0004】
市販の耐衝撃性改良医療グレードアクリル系ポリマー組成物は、アルコール、油および脂肪などの材料に対する良好な耐薬品性を既に有するが、アルコールと水の混合物に長期曝露されると濁り、亀裂が入る傾向がある。加えて、そのような長期曝露は、組成物の機械的特性に有害である。この挙動は、医療用デバイス用消毒剤として現在一般に使用されるイソプロパノール-水混合物の存在下で特に問題となる。
【0005】
国際公開第08/148595号には、メチルメタクリレート(MMA)、スチレンおよびマレイン酸無水物のコポリマーならびにスチレン-アクリロニトリルコポリマー(SAN)を含むポリマーブレンドが記載されている。このポリマーブレンドは、ニートのイソプロパノールの存在下で良好な光学的特性および機械的特性ならびに向上した耐応力亀裂性を有する。国際公開第08/148595号は、消毒剤として一般に使用されるイソプロパノール-水混合物の存在下の耐応力亀裂性について言及していない。
【0006】
米国特許第6689827号明細書には、
A)ポリメチルメタクリレート、またはメチルメタクリレートおよびC1-~C8-アルキルアクリレートのコポリマー、ならびにSANコポリマーから形成されたマトリックスと、
B)耐衝撃性改良剤として、0℃未満のガラス転移温度を有し、スチレンとの、または最大12個の炭素原子を有するスチレンとのブタジエンおよび/またはイソプレンのコポリマーから構築されており、30~250nmの範囲内の平均粒子サイズを有するグラフトベースまたはグラフトコアを有し、かつその上にビニル芳香族モノマーおよびアルキルメタクリレートまたはアクリレートから構築されている内部グラフトシェルと、C1-~C8-アルカノールの1種または複数種のメタクリレートから構築されている外部グラフトシェルとをグラフトしたグラフトコポリマーと、
C)c1)少なくとも1種の2,6-二置換フェノールから本質的になる添加剤と
を含む透明な耐衝撃性改良熱可塑性成形組成物が記載されている。
【0007】
国際公開第01/46317号には、
A)90~100重量%のメチルメタクリレートおよび0~10重量%のC1-~C8-アルカノールのアクリル酸エステルの4~80重量%のメチルメタクリレートポリマー、
B)78~88重量%のビニル芳香族モノマーおよび重量で12~22%のアクリロニトリルの5~75重量%のコポリマー、
C)二峰性の粒子サイズ分布を有し、かつ0℃未満のガラス転移温度を有するエラストマーグラフトコアならびにC1-~C8-アルカノールの(メタ)アクリル酸エステルと、任意選択で最大12個のC原子のビニル芳香族モノマーおよび/または架橋モノマーとを含む1つ以上のグラフトエンベロープを含む10~91重量%のグラフトコポリマー、ならびに
D)成分A)、B)およびC)の合計に基づいて0~20重量%の添加剤(A)、B)およびC)の重量百分率は合計100になり、成分C)の屈折率と、成分A)およびB)と、希望するならばD)との混合物の屈折率との間の差は0.01未満である)
の混合物を含む透明な耐衝撃性熱可塑性成形組成物が教示されている。
【0008】
特開平02-272050号公報には、
(A)MMA 40~90重量%、マレイン酸無水物5~20重量%、スチレン5~40重量%およびC1~4-アルキルアクリレート1~15重量%を含むコポリマーと、
(B)シアン化ビニル/芳香族ビニルコポリマーまたはメチルメタクリレート/C1~4-アルキルアクリレートと、
(C)ゴム様ポリマーの上にシアン化ビニルおよび芳香族ビニル化合物をグラフトすることにより製造されたコポリマーと
を含む耐衝撃性ポリマーブレンドが記載されている。
【0009】
特開平02-272050号公報のポリマーブレンドは、高い耐熱性、耐衝撃性および透明性を有し、自動車用途における使用のために主として設計されている。
【0010】
したがって、イソプロパノール-水系消毒剤、油および脂肪に対する改善された長期耐性を有する医療グレードアクリル系ポリマー組成物が長く必要とされてきた。
【0011】
本発明の開示
本発明は、ゴム状相としてブタジエン系コアと、ハード相としてアルキル(メタ)アクリレートおよび任意選択で芳香族ビニルモノマーを含むコポリマーとを含む粒子状コア-シェル型グラフトコポリマーの添加により、イソプロパノール-水系消毒剤、油および脂肪に対するいくつかの医療グレードアクリル系ポリマー組成物の長期耐性ならびにそれらの耐応力亀裂性を著しく向上させることができるという驚くべき知見に基づいている。この文脈において、粒子状コア-シェル型グラフトコポリマー中のシアン化ビニルモノマーの含有量をコア-シェル型グラフトコポリマーの重量に基づいて5.0重量%よりも低く保つことが特に有利であることを示した。
【0012】
したがって、本発明の1つの態様は、ポリマー組成物であって、ポリマー組成物の重量に基づいて、以下の成分A、BおよびC:
A.アルキル(メタ)アクリレート、芳香族ビニルモノマーおよび不飽和カルボン酸無水物を含む40.0~84.0重量%、好ましくは54.0~78.0重量%のコポリマー、
B.芳香族ビニルモノマーおよびシアン化ビニルモノマーを含む4.0~20.0重量%、好ましくは6.0~10.0重量%のコポリマー、ならびに
C.ゴム状相としてブタジエン系コアと、ハード相としてアルキル(メタ)アクリレートおよび任意選択で芳香族ビニルモノマーを含むコポリマーとを含む12.0~40.0重量%、好ましくは16.0~36.0重量%の粒子状コア-シェル型グラフトコポリマー
を含み、成分AおよびBがポリマーマトリックスを形成し、粒子状コア-シェル型グラフトコポリマーCが前記ポリマーマトリックス中に分散されており、
粒子状コア-シェル型グラフトコポリマーC中のシアン化ビニルモノマーの含有量が、コア-シェル型グラフトコポリマーCの重量に基づいて5.0重量%以下、好ましくは2.0重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下である、ポリマー組成物に関する。
【0013】
特に好ましい実施形態において、グラフトコポリマーCはシアン化ビニルモノマーを実質的に含まない。
【0014】
1つの好ましい実施形態において、前記組成物は、スチレン-アクリロニトリルコポリマーおよびポリブタジエン系耐衝撃性改良剤とのMMA、スチレン、マレイン酸無水物コポリマーのブレンドである。この実施形態において、ポリブタジエン耐衝撃性改良剤は、MMAおよびスチレンをグラフトされてよい。
【0015】
得られるポリマー組成物は、比較的単純な方法で製造および加工することができ、複雑な幾何学的形状を有する物品を含む、射出成形を使用する物品の製造に特に適している。
【0016】
したがって、そのさらなる態様において、本発明は、本発明のポリマー組成物からの成形品の製造方法であって、前記組成物の射出成形のステップを含む、方法に関する。
【0017】
本発明のその上さらなる態様は、本発明のポリマー組成物を含む、医学的使用のための成形品に関する。重要なことに、前記ポリマー組成物から製造された物品は、アルコール、アルコール水混合物、油および脂肪に対する優れた耐性を有するだけでなく、以下のいくつかのさらなる有利な特性も示す:
・優れた光学的特性、特に高い透明性および色彩恒常性(それらの視覚的外観は、実質的に温度に依存しない)。
【0018】
・非常に高い耐熱変形性。
【0019】
・顕著な機械的特性、特に高い弾性率および高いビカー軟化温度。
【0020】
最後に、本発明のさらなる態様は、使い捨て医療診断用デバイス、静注用およびカテーテル用アクセサリー、血液取扱デバイス、胸部ドレナージユニット、呼吸換気デバイス、医療用フィルターハウジング、永続的デバイスハウジング、チューブ、コネクター、フィッティングまたはキュベットなどの医療用デバイスにおけるポリマー組成物の使用である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】試験媒体としてイソプロパノール水およびニートのイソプロパノールを用いたECSR試験の結果を示す図である。
図2】試験媒体としてIntralipid(登録商標)を用いたECSR試験の結果を示す図である。
【0022】
発明の詳細な説明
本発明のポリマー組成物は、
アルキル(メタ)アクリレート、芳香族ビニルモノマーおよび不飽和カルボン酸無水物を含むコポリマー(成分A)、
芳香族ビニルモノマーおよびシアン化ビニルモノマーを含むコポリマー(成分B)ならびに粒子状コア-シェル型グラフトコポリマー(成分C)
を含み、成分AおよびBがポリマーマトリックスを形成し、粒子状コア-シェル型グラフトコポリマーCが前記ポリマーマトリックス中に分散されている。
【0023】
成分A、BおよびCは、以下でより詳細に説明される。
【0024】
アクリル系コポリマーA
本発明のポリマー組成物は、アルキル(メタ)アクリレート、芳香族ビニルモノマーおよび不飽和カルボン酸無水物を含む40.0~84.0重量%、好ましくは54.0~78.0重量%のコポリマーを含む。
【0025】
本明細書において用いられる「アルキル(メタ)アクリレート」という用語は、単一のアルキル(メタ)アクリレートを、または異なるアルキル(メタ)アクリレートの混合物として表すことができる。
【0026】
本明細書において用いられる「(メタ)アクリレート」という用語は、メタクリレート、例えばメチルメタクリレート、エチルメタクリレートなどだけでなく、アクリレート、例えばメチルアクリレート、エチルアクリレートなど、ならびにそれらの混合物も指す。
【0027】
本発明において、C~C18-アルキル(メタ)アクリレート、有利にC~C10-アルキル(メタ)アクリレート、特にC~C-アルキル(メタ)アクリレートが特に好ましい。好ましいアルキルメタクリレートは、メチルメタクリレート(MMA)、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、tert.-ブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、ヘプチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、イソオクチルメタクリレートおよびエチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、デシルメタクリレート、ならびにシクロアルキルメタクリレート、例えばシクロヘキシルメタクリレート、イソボルニルメタクリレートまたはエチルシクロヘキシルメタクリレートを包含する。メチルメタクリレートの使用が特に好ましい。好ましいアルキルアクリレートは、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、tert.-ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレートおよびエチルヘキシルアクリレート、ならびにシクロアルキルアクリレート、例えばシクロヘキシルアクリレート、イソボルニルアクリレートまたはエチルシクロヘキシルアクリレートを包含する。
【0028】
特に好ましい実施形態において、アルキル(メタ)アクリレートは、アルキル(メタ)アクリレートの重量に基づいて80.0~100.0重量%、好ましくは90.0~100.0重量%、より好ましくは95.0~100.0重量%のMMAと、MMA以外の0.0~20.0重量%、好ましくは0.0~10.0重量%、より好ましくは0.0~5.0重量%のアルキル(メタ)アクリレートとを含む。MMA以外のアルキル(メタ)アクリレートは、上に挙げた好ましいアルキルメタクリレートおよびアルキルアクリレートの実質的にすべてから選択することができる。例えば、アルキル(メタ)アクリレートは、MMAおよびエチルアクリレートまたはMMAおよびブチルアクリレートもしくはMMAおよびブチルメタクリレートからなってよい。その上さらなる好ましい実施形態において、アルキル(メタ)アクリレートは単にMMAからなる。
【0029】
適した芳香族ビニル化合物の例には、スチレン;o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o,p-ジメチルスチレン、o-エチルスチレン、m-エチルスチレンおよびp-エチルスチレンなどのモノ-またはポリアルキルスチレン;メトキシスチレン、エトキシスチレン、ビニル安息香酸、ビニル安息香酸メチル、ビニルベンジルアセテート、ヒドロキシスチレン、o-クロロスチレン、p-クロロスチレンおよびジビニルベンゼンなどの、官能基を含むスチレン誘導体;3-フェニルプロピレン、4-フェニルブテンおよびα-メチルスチレンが含まれる。これらのうち、スチレンが概ね好ましい。
【0030】
コポリマーA中の不飽和カルボン酸無水物の選択は特に限定されない。前記カルボン酸無水物は、アクリル酸無水物、メタクリル酸無水物、マレイン酸無水物、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸無水物、イタコン酸無水物から有利に選択されてよく、その中でマレイン酸無水物が特に好ましい。
【0031】
本発明者らは、コポリマーAが、
コポリマーAの重量に基づいて
48.0重量%~90.0重量%、好ましくは63.0重量%~81.0重量%のアルキル(メタ)アクリレート、
8.0重量%~35.0重量%、好ましくは12.0重量%~22.0重量%の芳香族ビニルモノマー、および
2.0重量%~17.0重量%、好ましくは7.0重量%~15.0重量%の不飽和カルボン酸無水物
のコポリマーである場合、本発明の組成物が特に有利な環境化学的ストレス耐性および光学的特性を有することをさらに見出した。
【0032】
適したコポリマーAは、例えば、コポリマーAの重量に基づいて
50.0重量%~90.0重量%、好ましくは70.0重量%~80.0重量%のアルキル(メタ)アクリレートと、
10.0重量%~20.0重量%、好ましくは12.0重量%~18.0重量%のスチレンと、
5.0重量%~15.0重量%、好ましくは8.0重量%~12.0重量%のマレイン酸無水物と
を含んでよい。
【0033】
本発明の特に好ましい実施形態において、(メタ)アクリレート系(コ)ポリマーAは、MMA、スチレンおよびマレイン酸無水物のコポリマーである。したがって、そのようなコポリマーAは、例えば、コポリマーAの重量に基づいて
50.0重量%~90.0重量%、好ましくは70.0重量%~80.0重量%のMMAと、
10.0重量%~20.0重量%、好ましくは12.0重量%~18.0重量%のスチレンと、
5.0重量%~15.0重量%、好ましくは8.0重量%~12.0重量%のマレイン酸無水物と
を含んでよい。
【0034】
ポリマー組成物の最適なレオロジー特性を達成するために、コポリマーAの質量平均分子量Mwは、好ましくは80000~240000g/mol、より好ましくは120000~200000g/molに調整される。Mwの決定は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により、例えば検量標準としてPMMAおよび溶離液として0.2vol.-%トリフルオロ酢酸(TFA)を含むテトラヒドロフラン(THF)を使用して、有利に実施することができる。検量標準を使用する代わりに、散乱検出器を使用してもよい(H. F. Mark et al., Encyclopaedia of Polymer Science and Engineering, 2nd. Edition, Vol. 10, page 1 et seq., J. Wiley, 1989参照)。適切なGPCカラムは、当業者により容易に選択することができる。そのようなカラムは、例えば、PSS Standards Service GmbH社(マインツ、独国)からPSS SDVシリーズのカラムとして市販されている。当業者には容易に理解されるように、いくつかのGPCカラムの組合せを使用してもよい。
【0035】
コポリマーAの製造に適した方法は、先行技術においてそれ自体周知である。例えば、西独国特許第1231013号明細書には、1~50重量%のアルキルスチレンおよび99~50重量%のアルキルメタクリレート、ならびにより少量のマレイン酸無水物および/またはメタクリル酸からの塊状重合によるコポリマーの製造方法が開示されている。
【0036】
米国特許第3336267号明細書には、5~95mol%のビニル芳香族物質、5~40mol%の不飽和環状無水物ならびに0~90mol%のアルキル(メタ)アクリレートを含むコポリマーの製造方法が記載されている。ここで、上記のモノマーの混合物は、不活性溶媒と共に連続的に重合され、ポリマーは、重合混合物から連続的に除去される。
【0037】
欧州特許出願公開第264590号明細書には、非重合性有機溶媒の存在下、75~150℃の温度範囲内でメチルメタクリレート、ビニル芳香族物質、マレイン酸無水物および任意選択でより低級のアルキルアクリレートを含むモノマー混合物からの成形コンパウンドの製造方法が開示されている。
【0038】
芳香族ビニルモノマーおよびシアン化ビニルモノマーを含むコポリマーB
上述のアクリル系コポリマーAに加えて、本発明のポリマー組成物は、芳香族ビニルモノマーおよびシアン化ビニルモノマーを含む4.0重量%~20.0重量%、好ましくは6.0重量%~10.0重量%のコポリマー(コポリマーB)をさらに含む。
【0039】
典型的には、コポリマーB中の芳香族ビニルモノマーは、コポリマーA中の芳香族ビニルモノマーのうちの1つと同じである。コポリマーB中の使用に特に適しているビニル芳香族モノマーは、スチレン、α-メチルスチレン、tert.-ブチルスチレン、モノクロロスチレンおよびビニルトルエンであり、スチレンおよびα-メチルスチレンが特に好ましい。芳香族ビニルモノマーは、単独で、またはその混合物として使用されてよい。
【0040】
本発明における使用に適切なシアン化ビニルモノマーの例には、限定することなくアクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、フェニルアクリロニトリル、α-クロロアクリロニトリル、フマロニトリルなどが含まれてよい。これらは、単独で、またはその混合物として使用されてよい。例えば、シアン化ビニルモノマーは、アクリロニトリルおよび/またはメタクリロニトリルを含んでよい。特に好ましい実施形態において、シアン化ビニルモノマーはアクリロニトリルである。
【0041】
本発明者らは、コポリマーBが、コポリマーBの重量に基づいて
55.0重量%~90.0重量%、好ましくは65.0重量%~90.0重量%、より好ましくは68.0重量%~85.0重量%、さらにより好ましくは72.0重量%~80.0重量%の芳香族ビニルモノマー、および
10.0重量%~45.0重量%、好ましくは10.0重量%~35.0重量%、より好ましくは15.0重量%~32.0重量%、さらにより好ましくは20.0重量%~28.0重量%のシアン化ビニルモノマー
のコポリマーであるとき、本発明のポリマー組成物のヘイズが特に低く、本発明のポリマー組成物が特に透明であり、かつ審美的に魅力的であることを驚くべきことに見出した。
【0042】
本発明の特に好ましい実施形態において、
芳香族ビニルモノマーはスチレンであり、
シアン化ビニルモノマーはアクリロニトリルであり、
不飽和カルボン酸無水物はマレイン酸無水物であり、
アルキル(メタ)アクリレートは、アルキル(メタ)アクリレートの重量に基づいて
80.0重量%~100.0重量%、好ましくは90.0重量%~100.0重量%、より好ましくは95.0重量%~100.0重量%のメチルメタクリレートと、
メチルメタクリレート以外の0.0重量%~20.0重量%、好ましくは0.0重量%~10.0重量%、より好ましくは0.0重量%~5.0重量%のアルキル(メタ)アクリレートと
を含む。
【0043】
対応するコポリマーは、スチレン-アクリロニトリル(SAN)樹脂として一般に既知であり、INEOS Styrolution Group GmbH(フランクフルト、独国)またはTrinseo S.A.(ルクセンブルク)などの様々な製造者から市販されている。
【0044】
実質的に任意の分子量のコポリマーBが使用されてよいが、60000g/mol~300000g/mol、好ましくは100000g/mol~250000g/molの重量平均分子量Mwを有するコポリマーBの使用が組成物の機械的特性の点から特に有利であることが判明した。コポリマーBの平均分子量Mwは、上述のようにPMMA標準を用いたGPCにより決定することができる。
【0045】
コポリマーBの製造は、塊状重合、溶液重合、乳化重合またはビーズ重合など、SAN樹脂の製造について記載された実質的に任意の既知の重合法により行うことができる。
【0046】
粒子状コア-シェル型グラフトコポリマー
上述のコポリマーAおよびBに加えて、本発明のポリマー組成物は、12.0重量%~40.0重量%、好ましくは16.0重量%~36.0重量%の粒子状コア-シェル型グラフトコポリマーCをさらに含む。粒子状コア-シェル型グラフトコポリマーは、ゴム状相としてブタジエン系コアと、ハード相としてアルキル(メタ)アクリレートおよび任意選択で芳香族ビニルモノマーを含むコポリマーとを含む。さらに、いくつかの実施形態において、粒子状コア-シェル型グラフトコポリマーは、ゴム状相としてブタジエン系コアと、ハード相としてアルキル(メタ)アクリレート、任意選択で芳香族ビニルモノマーおよび任意選択でシアン化ビニルモノマーを含むコポリマーとを含んでよい。
【0047】
本発明によれば、粒子状コア-シェル型グラフトコポリマーCは、コポリマーAおよびBにより形成されたポリマーマトリックス中に分散されている。
【0048】
いくつかの実施形態において、グラフトコポリマーは、凝集していない別々の粒子の形態でポリマーマトリックス中に均一に分散されてよい。しかし、他の実施形態において、粒子状グラフトコポリマーは凝集体を形成してよく、ここで前記凝集体は、ポリマーマトリックス中に均一に分散されている。
【0049】
粒子状コア-シェル型グラフトコポリマーC中の上記で定義したシアン化ビニルモノマーの含有量が、コア-シェル型グラフトコポリマーCの重量に基づいて5.0重量%以下、好ましくは2.0重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下であることが有利であることをさらに示した。この文脈において「粒子状」は、コア-シェル構造またはコア-シェル-シェル構造を有してよい架橋グラフトコポリマーを意味する。
【0050】
グラフトコポリマーCの文脈において用いられる「アルキル(メタ)アクリレート」および「芳香族ビニルモノマー」という用語は、コポリマーAおよびBの文脈において上述のような同じ意味を有する。
【0051】
本発明において使用されるグラフトコポリマーはそれ自体周知であり、異なる化学組成を有してよい。好ましいグラフトコポリマーは、2層コア-シェル構造を有することができる、乳化重合により得られるポリマー粒子である(例えば、欧州特許出願公開第0113924号明細書、欧州特許出願公開第0522351号明細書、欧州特許出願公開第0465049号明細書および欧州特許出願公開第0683028号明細書参照。40~1000nm、好ましくは50~500nmの重量平均粒径を有するグラフトコポリマーの使用は、優れた光学的特性と高い耐衝撃性の有利な組合せを実現する。平均粒径は、当業者に既知の方法により、例えば室温(23℃)の水中で規格DIN ISO 13321(2017)にしたがって光子相関分光法により決定することができる。例えば、Beckman Coulterから商品名N5 Submicron Particle Size Analyzerで入手できる機器をこの目的のために使用することができる。
【0052】
グラフトコポリマーCがゴム状相としてブタジエン系コアと、ハード相としてアルキル(メタ)アクリレートおよび芳香族ビニルモノマーを含むコポリマーとを含む限り、グラフトコポリマーCの厳密な組成は特に限定されない。それでも、
ブタジエン系コアの重量に基づいて少なくとも65.0重量%、好ましくは少なくとも75.0重量%、より好ましくは少なくとも80.0重量%のポリブタジエンを含むブタジエン系コアと、
60.0重量%~100.0重量%、好ましくは65.0重量%~100.0重量%、より好ましくは70.0重量%~100.0重量%のアルキル(メタ)アクリレートを含むシェルと、
シェルの重量に基づいて0.0重量%~40.0重量%、好ましくは0.0重量%~35.0重量%、より好ましくは0.0重量%~30.0重量%の芳香族ビニルモノマーと
を含む粒子状コア-シェル型グラフトコポリマーCを使用すると、イソプロパノール-水混合物に対する特に高い耐性および耐応力亀裂性が観察された。
【0053】
本発明の1つの好ましい実施形態において、粒子状コア-シェル型グラフトコポリマーCは、約17~22重量部のMMA、約4~7重量部のスチレンおよび0~3重量部のエチルアクリレートをグラフトされたポリブタジエンであり、ここでポリブタジエン対モノマーの重量比はそれぞれ約1:1~約4:1の範囲である。そのようなグラフトコポリマーは、例えば米国特許第4085166号明細書に記載されている。対応する材料は、先行技術において一般に使用される開始剤および分子量調節剤を利用するフリーラジカル重合によるなど、実質的に任意の既知の重合プロセスにより製造することができる。ポリブタジエン対モノマー重量比は上記の範囲内であるべきであり、ポリブタジエンは、開示された濃度で最終組成物中に存在しなければならない。
【0054】
任意選択の添加剤、助剤および/または充填剤
本発明の組成物は任意選択で、例えば、熱安定剤、UV安定剤、UV吸収剤、ガンマ線安定剤、酸化防止剤、特に可溶性もしくは不溶性の染料または着色料など、通例の添加剤、助剤および/または充填剤を含んでもよい。ただし、本発明による組成物の特性が、これらの添加剤によって悪影響を受けないものとする。
【0055】
適したUV吸収剤は、例えば、ヒドロキシル基および/またはアルコキシ基などのその置換基が2位および/または4位に一般に存在するベンゾフェノンの誘導体であり得る。これらには、2-ヒドロキシ-4-n-オクチルオキシベンゾフェノン、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノンが含まれる。
【0056】
特に適したUV吸収剤には、とりわけ一般式(III)
【化1】
【0057】
(式中、R、RおよびRは、Rの意味を有する)
のベンゾトリアゾールが含まれる。
【0058】
本発明における使用に特に適している化合物(III)の例は、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール(Tinuvin(登録商標)Pの名称で市販、BASF SE(ルートヴィヒスハーフェン、独国)から市販)または2-(2’-ヒドロキシ-3’-ドデシル-5’-メチルデシル)ベンゾトリアゾールである。
【0059】
特に好ましいUV吸収剤には、以下のヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール誘導体:
【化2】
【0060】
がさらに含まれる。
【0061】
さらに、添加UV吸収剤としての使用に適切である置換ベンゾトリアゾールには特に
2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、
2-[2-ヒドロキシ-3,5-ジ(アルファ,アルファ-ジメチルベンジル)フェニル]ベンゾトリアゾール、
2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert.-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、
2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert.-アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、
2-(2-ヒドロキシ-5-tert.-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、
2-(2-ヒドロキシ-3-sec-ブチル-5-tert.-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾールおよび
2-(2-ヒドロキシ-5-tert.-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール
が含まれる。
【0062】
等しく使用されてよいUV吸収剤は、エチル-2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリレート、2-エトキシ-2’-エチルシュウ酸ビスアニリド、2-エトキシ-5-tert.-ブチル-2’-エチルシュウ酸ビスアニリドおよび置換安息香酸フェニルである。
【0063】
UV吸収剤は、低分子量化合物としてポリマー組成物中に存在してよい。しかし、マトリックスポリマー分子中のUV吸収基が、例えばベンゾフェノン誘導体もしくはベンゾトリアゾール誘導体のアクリル誘導体、メタクリル誘導体またはアリル誘導体などの重合性UV吸収化合物との共重合後に共有結合されてもよい。
【0064】
当業者には容易に理解されるように、化学的に異なるUV吸収剤の混合物を使用してもよい。
【0065】
ポリマー組成物中のUV吸収剤の総含有量は典型的には、本発明のポリマー組成物の総重量に基づいて0.01重量%~1.0重量%、特に0.01重量%~0.5重量%、特に0.02重量%~0.2重量%の範囲である。
【0066】
適したフリーラジカルスカベンジャー/UV安定剤の例には、とりわけ立体障害アミンが含まれ、これはHALS(ヒンダードアミン光安定剤、Hindered Amine Light Stabiliser)の名称で既知である。それらは、仕上げ剤およびプラスチック、特にポリオレフィンプラスチックにおける老化過程を抑制するために使用することができる(Kunststoffe [Plastics], 74 (1984) 10, pages 620 to 623; Farbe + Lack [Paints + Finishes], 96th year, 9/1990, pages 689 to 693)。HALS化合物中に存在するテトラメチルピペリジン基は、その安定化効果の役目を負う。このクラスの化合物は、非置換でも、ピペリジン窒素上でアルキル基またはアシル基で置換されてもよい。立体障害アミンは、UV領域で吸収しない。立体障害アミンは、生成されたフリーラジカルを捕捉し、これもまたUV吸収剤にはできない。
【0067】
安定化効果を有し、混合物として使用することもできるHALS化合物の例は、
ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、
8-アセチル-3-ドデシル-7,7,9,9-テトラメチル-1,3-8-トリアザスピロ(4,5)デカン-2,5-ジオン、
ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)スクシネート、
ポリ(N-β-ヒドロキシエチル-2,2,6,6-テトラメチル-4-ヒドロキシピペリジンコハク酸エステル)および
ビス(N-メチル-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート
である。
【0068】
フリーラジカルスカベンジャー/UV安定剤は、すべての構成成分の総計に基づいて0.01重量%~1.5重量%の量で、特に0.02重量%~1.0重量%の量で、特に0.02重量%~0.5重量%の量で、本発明による組成物中で使用される。
【0069】
射出成形型への成形材料の可能性のある粘着を低減または完全に防止することができる滑剤および離型剤は射出成形プロセスにとって重要であり、これらを使用してもよい。
【0070】
例えば、C20未満、好ましくはC16~C18の炭素原子を有する飽和脂肪酸からなる群から選択された滑剤、またはC20未満、好ましくはC16~C18の炭素原子を有する飽和脂肪族アルコールの滑剤が助剤として存在してよい。例えば、ステアリン酸、ステアリルアルコール、パルミチン酸、パルミチンアルコール、ラウリン酸、乳酸、グリセロールモノステアレート、ペンタエリスロールおよびステアリン酸とパルミチン酸の工業的混合物。同様に適しているのは、n-ヘキサデカノール、n-オクタデカノールおよびn-ヘキサデカノールとn-オクタデカノールの工業的混合物である。特に好ましい滑剤または離型剤はステアリルアルコールである。
【0071】
滑剤は、ポリマー組成物の重量に基づいて0.35重量%以下、例えば0.05重量%~0.25重量%の量で典型的に使用される。
【0072】
さらに、成形組成物が少なくとも1種の可塑剤を含む場合、成形組成物の耐ひび割れ性および耐薬品性を追加的に改善することができる。可塑剤はそれ自体当業者によく知られており、例えばUllmann’s Encyclopaedia of Industrial Chemistry, 2012, Plasticisers, D. F. Cadoganなどに記載されている。本発明において、可塑剤は通常、100g/mol~200000g/molの分子量および40℃以下の溶融温度を有する。ポリマー化合物が本発明の成形組成物中で可塑剤として使用される場合、そのようなポリマー化合物は、規格ISO 11357-2:2013にしたがって測定されたとき、40℃以下のガラス転移温度Tgを理想的には有するべきである。さらに、可塑剤の存在がポリマー組成物の光学的特性に悪影響を及ぼさないようにするために、可塑剤は成形組成物と混和すべきである。
【0073】
特に適した可塑剤の例には、特に500~15000g/molの分子量を有するポリエチレングリコール、クエン酸トリブチルおよび1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジイソノニルエステル(BASF SE(ルートヴィヒスハーフェン、独国)からHexamoll(登録商標)DINCHの商標名で異性体の混合物として市販)が含まれる。1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジイソノニルエステルは、典型的には異性体の混合物であり、イソノニルアルコール残基の総重量に基づいてn-ノニルアルコール10重量%、メチルオクチルアルコール35~40重量%、ジメチルヘプチルアルコール40~45重量%およびメチルエチルヘキシルアルコール5~10重量%を通常含む。
【0074】
可塑剤は、ポリマー組成物の重量に基づいて0.01重量%~5.0重量%、好ましくは0.05重量%~3.0重量%の量で典型的に使用される。
【0075】
本発明の文脈において、以下で説明する成分c)、c)、c)および/またはc)の添加も特に有用であると判明した。
【0076】
成分c)は、一般式(I)
【化3】
【0077】
(式中、RおよびRは、C~C12-アルキル、例えばメチル、エチル、プロピル、1-メチルエチル、n-ブチル、1-メチルプロピル、2-メチルプロピル、1,1-ジメチルエチル、n-ペンチル、1-メチルブチル、2-メチルブチル、3-メチルブチル、1,2-ジメチルプロピル、1,1-ジメチルプロピル、2,2-ジメチルプロピル、1-エチルプロピル、n-ヘキシル、1-メチルペンチル、2-メチルペンチル、3-メチルペンチル、4-メチルペンチル、1,2-ジメチルブチル、1,3-ジメチルブチル、2,3-ジメチルブチル、1,1-ジメチルブチル、2,2-ジメチルブチル、3,3-ジメチルブチル、1,1,2-トリメチルプロピル、1,2,2-トリメチルプロピル、1-エチルブチル、2-エチルブチル、1-エチル-2-メチルプロピル、n-ヘプチル、1-メチルヘキシル、2-メチルヘキシル、3-メチルヘキシル、4-メチルヘキシル、5-メチルヘキシル、1-エチルペンチル、2-エチルペンチル、1-プロピルブチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシルおよびドデシル、好ましくは1位(α)で分岐したC~C12-アルキル基、特にC~C-アルキル基、例えば1-メチルエチル、1-メチルプロピル、1,1-ジメチルエチル、1-メチルブチル、1,2-ジメチルプロピル、1,1-ジメチルプロピル、1-エチルプロピル、1-メチルペンチル、1,2-ジメチルブチル、1,3-ジメチルブチル、1,1-ジメチルブチル、1,1,2-トリメチルプロピル、1,2,2-トリメチルプロピル、1-エチルブチル、1-エチル-2-メチルプロピル、1-メチルヘキシル、1-エチルペンチルおよび1-プロピルブチルおよび1,1,3,3-テトラメチルブチル、1,1,2,2,5,5-ヘキサメチルヘキシル、
~C-シクロアルキル、例えばシクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチルおよびシクロオクチル、好ましくはシクロヘキシル、
~C10-アリールおよびC~C10-アリール-C~C-アルキル(そのアリール基はC~C-アルキルで最大三置換されてよい)、例えばフェニル、ナフチルまたは2,2-ジメチルベンジルを表し、Rは、水素およびC~C-アルキル、例えばメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチルおよびtert.-ブチル、好ましくは水素およびメチルを表す)
のトリアリールホスファイトを指す。
【0078】
本発明に関して特に重要である化合物(I)の例は、BASF SE(ルートヴィヒスハーフェン、独国)から市販されている市販のトリス(2,4-ジ-tert.-ブチルフェニル)ホスファイト(IRGAFOS(登録商標)168、およびトリス(ノニルフェニル)ホスファイト、好ましくはトリス(2,4-ジ-tert.-ブチルフェニル)ホスファイトである。
【0079】
成分c)は、一般式(IV)
AB(IV)
(式中、kは、1、2または4を表し、kが1である場合、Aは、-COOR、-CONHR
【化4】
【0080】
(RはC~C21-アルキルを表す)を表し、
kが2である場合、Aは、-CONH-(CH-CONH-、
【化5】
【0081】
(式中、pおよびmは、1~10の整数を表す)を表し、kが4である場合、Aは、
【化6】
【0082】
(式中、qは、1~4の整数を表す)を表し、
Bは、
【化7】
【0083】
(式中、RおよびRは、水素、メチルまたはtert.-ブチルを表す)を表す)のフェノールを指す。
【0084】
成分c)の添加は、耐応力亀裂性のさらなる改善につながり得る。
【0085】
本発明に関して特に重要である化合物c)の例は、オクタデシル3-(3,5-ジ-tert.-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート(BASF SE(ルートヴィヒスハーフェン、独国)からIrganox(登録商標)1076として市販)および
【化8】
【0086】
である。
【0087】
さらに、化合物c)としての以下の安定剤の使用は、特に有利であることを示した:
【化9】
【0088】
同じくチオエーテルまたはジ-tert.-ドデシルジスルフィドなどの有機硫化物をこの目的のために有利に使用することができる。
【0089】
【化10】
【0090】
成分c)、c)、c)およびc)は、風化後の耐応力亀裂性の改善に関して相乗効果を達成するために混合物として好ましく使用される。
【0091】
成分c)~c)の好ましい量は、それぞれの場合において、コポリマー成分A、BおよびCの総重量に基づいて0.01重量%~1.0重量%、好ましくは0.01重量%~0.1重量%の範囲内である。成分c)の好ましい量は、典型的にはコポリマー成分A、BおよびCの総重量に基づいて0.01重量%~2.0重量%、好ましくは0.05重量%~1.0重量%の範囲内である。
【0092】
ポリマー組成物の特性
既に上述のように、本発明のポリマー組成物は、一般的な消毒剤、油および脂肪の存在下で優れた耐応力亀裂性を有する。典型的には、ポリマー組成物は、以下で説明する方法にしたがってイソプロパノール水混合物(イソプロパノール70.0重量%、水30.0重量%)を使用して測定された、23℃および歪み1.5%で30分曝露後の少なくとも0.4、好ましくは少なくとも0.5の規格化ESCR係数fを有する。
【0093】
加えて、本発明のポリマー組成物は、優れた透明性および実質的に曇っていない魅力的な外観を有する。特に、規格ASTM D1003(2013)にしたがって3mmの厚さを有する射出成形試験片上で23℃にて測定されたポリマー組成物のヘイズは、30%未満、好ましくは20%未満、より好ましくは15%未満である。
【0094】
さらに、ポリマー組成物は、一般的な消毒剤、油および脂肪の存在下でさえ、その優れた透明性を保持し、これらの条件下でヘイズの増加は特に少ない。典型的には、3mmの厚さを有する試験片をイソプロパノール水混合物(イソプロパノール70.0重量%、水30.0重量%)に23℃で96時間曝露すると、ヘイズの増加は20%以下、好ましくは15%以下になる。
【0095】
さらに、ポリマー組成物は好ましくは、3mmの厚さを有する射出成形試験片上で23℃にて測定された40%~93%の範囲内、特に70%~92%の範囲内のDIN 5033-7(2014)による光透過率TD65を示す。
【0096】
DIN 6167(1980)(光源D65、層厚3mmに対して10°)にしたがって決定できるポリマー組成物の黄色度指数は、3mmの厚さを有する射出成形試験片上で23℃にて測定された好ましくは7未満、好ましくは5未満であるべきである。
【0097】
ISO 306-B50(2014)によるポリマー組成物のビカー軟化温度は、有利には少なくとも100℃、好ましくは少なくとも105℃、より好ましくは少なくとも108℃である。
【0098】
ISO 527(2012)によるポリマー組成物の公称破断伸びは、好ましくは少なくとも3.0%、特に好ましくは3.2%であるべきである。
【0099】
ISO 527(2012)によるポリマー組成物の弾性率は、有利には1500MPa超、好ましくは1800MPa超である。
【0100】
その有利なレオロジー特性のために、本発明のポリマー組成物は、射出成形による医療グレード物品の製造に非常に適している。本発明の組成物は典型的には、230℃および5.0kgでISO 1133(2012)にしたがって測定された0.5cm/10分超、好ましくは0.7cm/10分超、最も好ましくは1.0cm/10分~6.0cm/10分の範囲内のメルトボリュームフローレートMVRを有する。
【0101】
組成物の製造および成形品の製造
本発明の組成物は、粉末、粒子または好ましくはペレットとして存在してよい上述の成分をドライブレンドすることにより製造することができる。
【0102】
本発明の組成物は、ポリマーAの溶融物中に成分BおよびCを同時または連続的に混合することにより製造することもできる。組成物は、溶融状態の個々の成分を溶融および混合することにより、または個々の成分の乾燥プリミックスを溶融することにより製造して、すぐ使用できる成形材料を得ることもできる。これは、例えば一軸または二軸スクリュー押出機内で行うことができる。次いで、得られた押出物を顆粒化することができる。必要に応じて最終使用者により通例の添加剤、助剤および/または充填剤を後で直接混合したり、添加したりすることができる。
【0103】
本発明による組成物は、改善された耐化学薬品性および耐応力亀裂性を有する医学的使用のための成形品を生産するための出発材料として適している。組成物の成形は、それ自体既知の方法により、例えば弾粘性状態を介した加工により、すなわち混練、圧延、カレンダー加工、押出または射出成形、押出および射出成形により行うことができ、特に射出成形が本明細書において特に好ましい。
【0104】
組成物の射出成形は、220℃~260℃の範囲内の温度(溶融温度)および好ましくは60℃~90℃の型温度で、それ自体既知の方法で行うことができる。
【0105】
押出は、好ましくは220℃~260℃の温度で行われる。
【0106】
本発明のさらなる態様は、特に、高い耐薬品性および化学的ストレス亀裂耐性が必要とされる用途向けの、上述のようなポリマー組成物を含む成形品に関する。特に好ましい実施形態において、成形品は、好ましくは使い捨て医療診断用デバイス、静注用およびカテーテル用アクセサリー、血液取扱デバイス、胸部ドレナージユニット、呼吸換気デバイス、医療用フィルターハウジング、永続的デバイスハウジング、チューブ、コネクター、フィッティングまたはキュベットである医療用デバイスである。前記デバイスには、ルアーロック、Yサイト、スパイク、フィッティング、ノズル、保護キャップおよびカバー、血漿分離器、収集および検体容器、針ハブおよびアダプター、カテーテル用アクセサリー、胸部ドレナージユニット、バルブアセンブリ、メーターハウジング、フローコントローラ、フィルターハウジング、ドリップチャンバー、静注用アダプター、ヤンカー、硬質チューブ、診断用キュベット、診断検査パック、診断ローター、光センサビューポート、マイクロ流体デバイス、小線源療法、針ハブ、吸入マウスピースならびにスペーサーが含まれるが、これらに限定されない。
【0107】
前記成形品は、高い耐薬品性、特に耐脂質性が望まれる自動車内装または外装のような用途において有利に使用することもできる。
【0108】
以下の実施例により、本発明の概念を限定することが意図されることなく本発明を詳細に説明する。
【0109】
実施例
GPC測定条件:
溶離液:THF(HPLCグレード)+0.2vol.-% TFA
流量:1ml/分
注入量:100μl
検出:RI HPS
濃度
サンプル溶液:2g/l
標準:PMMA
アクリル系コポリマーA
MMA 75.0重量%、スチレン15.0重量%およびマレイン酸無水物10.0重量%を含むコポリマーAを独国特許出願公開第4440219号明細書に記載された手順にしたがって製造した。
【0110】
製造のために使用された出発材料は以下の通りであった:
メチルメタクリレート74.638g
スチレン15.00g
マレイン酸無水物10.00g
n-ドデシルメルカプタン0.33g
tert.-ブチルペルオキシネオデカノエート0.034g
tert.-ブチルペルオキシイソノナノエート0.01g
出発材料をHostaphan(登録商標)ポリエステルバッグに入れ、水浴中で重合(52℃で12時間、続いて44℃で16時間)し、次いで、調質炉内で調質(110℃で6時間)した。最後に、得られたコポリマーAを、押出機により粉砕および脱気した。
【0111】
得られたコポリマーAは、標準としてPMMAを用いたGPCを使用して測定された150000g/molの分子量Mwを有し、25℃のクロロホルム中で約72ml/gの溶液粘度(ISO 1628-第6部)を有していた。
【0112】
コポリマーB
コポリマーBとして、スチレン76.0重量%およびアクリロニトリル24.0重量%を含むスチレンアクリロニトリルコポリマー(SAN)を使用した。対応する材料は、INEOS Styrolution Group GmbH(フランクフルト、独国)からLuran(登録商標)358 Nの商標名で商業的に入手できる。
【0113】
粒子状コア-シェル型グラフトコポリマーC
コポリマーC1として、MMA-スチレン(MMA 77.0重量%、スチレン23.0重量%)をグラフトされたポリブタジエンを使用した。MMA/スチレンシェル対ポリブタジエンコア重量比は1:3であった。製造は米国特許第4085166号明細書の実施例1に記載されたように行った。
【0114】
ラテックス形のポリブタジエン75重量%をMMA 19.6重量%およびスチレン5.4重量%と混合した。モノマーに基づいてtert.-ブチルヒドロペルオキシド0.07重量%、ナトリウムホルムアルデヒドスルホネート0.6重量%、塩化鉄六水和物27ppmおよびエチレンジアミン四酢酸0.4Na塩127ppmの存在下で酸化還元開始重合によりモノマーMMAおよびスチレンをポリブタジエンコアの上にグラフトした。重合を室温で10時間行った。
【0115】
コポリマーC2として、ポリブタジエン系耐衝撃性改良剤Kane Ace(登録商標)M-711(株式会社カネカ(高砂、日本)から市販)を使用した。Kane Ace(登録商標)M-711は、MMAのグラフト共重合により得ることができる粒子状耐衝撃性改良剤である。
【0116】
コポリマーD(比較例)
比較する目的で、MMA 74.0重量%、スチレン23.0重量%およびエチルアクリレート3.0重量%を含むコポリマーを使用した。コポリマーDは、205000g/molの分子量Mwおよび25℃のクロロホルム中で約83ml/gの溶液粘度(ISO 1628-第6部)を有していた。コポリマーDはコポリマーAと同じ方法で調製した。
【0117】
実施例
実施例1および2ならびに比較例1~3の組成物は表1にまとめられている。
【0118】
個々の成分のドライブレンドからタンブルミキサーによりポリマー組成物を製造し、次いで、Leistritz LSM 30/34二軸スクリュー押出機でコンパウンドした。
【0119】
【表1】
【0120】
比較例2および3(同一のポリマー組成物)は国際公開第08/148595号の教示を示す。
続いて、235℃の型内でペレットをプレス成形することにより、試験片(寸法:80mm×20mm×d、厚さd=4mm、幅20mmおよび長さ80mm)を製造した。
【0121】
水イソプロパノール混合物を用いた亀裂形成(ESCR)の測定
試験前、すべてのサンプルを23℃/相対湿度50%で少なくとも24時間保管した。試験を23℃/相対湿度50%で実施した。
【0122】
Bledzki教授(A. Bledzki, C. Barth, Materialpruefung [Material Testing] 40, 10 (1998))によるESCR試験において、時間に対して一定である外側繊維歪みを3点曲げ構成体により加えた。試験片(寸法80mm×20mm×d、厚さd=4mm)を64mmの間隔Lを有する2つの支持体の上に平らに静置した。
【0123】
具体的な実験装置は、特許出願国際公開第08/148595号の図1および図2により示されている。図1は、ESCR試験における3点曲げ構成体を図示する。図2は、ESCR試験装置(Hottinger Baldwin Messtechnik GmbH(ダルムシュタット、独国)から市販されているHBM S2 100 N;感度2mV/V、図1の構成体は、ここでは上下逆である)を示す。円柱状の支持体および横梁は、10mmの半径を有する。
【0124】
(横梁の反対側の試験片の中央での)所与の外側繊維歪みεにおける必要な撓みsを
ε=6sd/L(1)
にしたがってISO 178(2013)にあるように計算した。
【0125】
撓みsをローレットネジにより調整した。εを1%の値に調整した。外側繊維歪み(T)に近づいた後、第1の緩和現象を待つために2分の保持時間を与えた。T=T=2分において、中央に事前に上から既に置かれた、寸法50×10mmを有する濾紙を媒体(イソプロパノール)で濡らした。外側繊維歪みを維持するために必要であった力F mMを時間Tの関数としてTから測定した。測定の過程において濾紙を媒体で常に湿ったままにした。試験片の破断(力=0)時に、遅くとも30分後に測定を終了した。
【0126】
4つの同一の試験片に対して手順を行い、平均値を計算した。比較のために、媒体なしだが同じ外側繊維歪みに曝した試験片について力F oM曲線も記録した。媒体の影響がないサンプルの場合、測定された力の値がゆっくり減少し、一方、媒体の影響下で試験されたサンプルは、耐性に応じてより速い力の減少を示した。
【0127】
「規格化ESCR係数」としても既知の耐応力亀裂性の時間依存測定値f normは、この実験において外側繊維歪みを維持するために必要な力F mMと媒体の影響がない力F oMの比から得られる:
norm=(F mM・Ft1 oM)/(Ft1 mM・F oM)(2)
ここで、これらの力は、時間tにおいて:f norm=1であるような、tにおけるそれらの値にさらに基づく。3つの曲線が、媒体の影響を伴う各試験片に関する図中の結果である。それぞれの場合における基準は、媒体の影響がない試験片に関する同じ測定値である。1に近い規格化ESCR係数は、良好なESC耐性を特徴付け、時間tにわたってf normにおいて急激に減少する値は、乏しい耐性を特徴付ける。
【0128】
ECSR試験期間は歪み1.5%で30分であった。規格化ESCR係数の時間依存性が図1に示されている。
【0129】
イソプロパノール70.0重量%および水30.0重量%を含む水イソプロパノール混合物を使用して、実施例1および2ならびに比較例1および2の試験片を試験した。加えて、ニートのイソプロパノールを使用して、比較例3の試験片を試験した。
【0130】
試験中、実施例1および2ならびに比較例2の試験片は透明なままであるのに対し、比較例1の試験片は濁っている。
【0131】
230℃の型内で顆粒をプレス成形することにより、試験片を製造した。
【0132】
得られた試験結果は表2に示されている。
【0133】
【表2】
【0134】
比較例2および3では同じポリマー組成物を使用した。比較例3におけるニートのイソプロパノールへの曝露は、より腐食性の高いイソプロパノール/水混合物を使用した比較例2よりも標準化ESCR係数の減少が少なくなる。
【0135】
比較例1のポリマー組成物は、比較例1のポリマー組成物が異なるポリマーマトリックス材料(コポリマーAとBの組合せの代わりにコポリマーD)を含むという点でのみ実施例1のポリマー組成物と異なる。結果として、比較例1のポリマー組成物は、水イソプロパノール混合物を用いたESCR試験において乏しい耐亀裂性を唯一示す。
【0136】
大豆油を用いた亀裂形成(ESCR)の測定
試験液体として、Intralipid(登録商標)20%乳剤(Fresenius Kabi Austria GmbHから市販)を使用した。Intralipid(登録商標)20%は、pH8および約350mosmol/kgの重量オスモル濃度を有し、大豆油20%、卵黄リン脂質1.2%、グリセリン2.25%および水を含む滅菌脂肪乳剤である。
【0137】
実施例1および2ならびに比較例1および2の試験片を試験した。ECSR試験期間は歪み1.5%で24時間であった。規格化ESCR係数の時間依存性が図2に示されている。
【0138】
得られた試験結果は表3にまとめられている。
【0139】
【表3】
【0140】
比較例2において、4つの試験片のうちの1つが20時間後、試験中に破断した。
水イソプロパノール混合物を用いた浸漬試験
医療用途向けのポリマー組成物は、23℃の消毒剤溶液の存在下で長期保管時に、その機械的特性および光学的特性を保持しなければならない。特に、ヘイズまたは亀裂の生成は最小化されるべきである。
【0141】
イソプロパノール70.0重量%および水30.0重量%を含む水イソプロパノール混合物を使用して、実施例1および2ならびに比較例1および2の試験片を試験した。加えて、ニートのイソプロパノールを使用して、比較例3の試験片を試験した。浸漬試験期間は96時間であった。
【0142】
続いて、試験片の目視評価を行った。
【0143】
得られた試験結果は表4に示されている。
【0144】
【表4】
【0145】
表4の結果は、本発明の耐衝撃性改良ポリマー組成物(実施例1および2)が、イソプロパノール/水の存在下で長期保管時に、透明性が高いままで、望まれない黄色の色調が全くなかったことを示す。
【0146】
対照的に、比較例1の耐衝撃性改良サンプルは完全に非透明になった。
【0147】
比較例2および3の非耐衝撃性改良サンプルもまた、浸漬試験中、透明なままであった。
【0148】
しかし、ESCR試験における対応するポリマー組成物の性能は、本発明の実施例1および2ほど良好ではなかった。
図1
図2